(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149487
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】ホスファターゼ動員による受容体の阻害
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C07K14/47
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024104366
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2021514945の分割
【原出願日】2019-05-16
(31)【優先権主張番号】62/673,049
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516231051
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ケナン クリストファー ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】リカルド エー.フェルナンデス
(57)【要約】
【課題】細胞表面受容体のシグナル伝達を活性調節する。
【解決手段】膜ホスファターゼを目的の受容体の近傍に特異的に動員することにより細胞表面受容体のシグナル伝達を活性調節するための組成物と方法が開示される。ホスファターゼ動員による受容体阻害(RIPR)と名付けたこの新規方法論は、リン酸化機構を介してシグナル伝達する受容体によるシグナルを減少および抑制するための新規アプローチを表す。より具体的には、本開示は、細胞表面受容体に特異的に結合しかつホスファターゼ活性の動員を介して受容体のシグナル伝達を拮抗作用する新規多価プロテイン結合分子を提供する。そのような分子を作製するのに有用な組成物と方法、並びに細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害に関連した疾患の治療方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価ポリペプチドであって、
1つ以上の受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列;および
リン酸化機構を通してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列
を含み、ここで前記第一のポリペプチドモジュールが前記第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている、多価ポリペプチド。
【請求項2】
前記第一のポリペプチドモジュールが、ポリペプチドリンカー配列を介して前記第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される、請求項1に記載の多価ポリペプチド。
【請求項3】
前記第一と第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンドまたは抗原結合部分のアミノ酸配列を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項4】
前記抗原結合部分が抗原結合断片(Fab)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、およびVHHドメイン、ダイアボディ、またはそのいずれかの機能的フラグメントから成る群より選択される、請求項3に記載の多価ポリペプチド。
【請求項5】
前記抗原結合部分が重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む、請求項3~4のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項6】
前記タンパク質結合リガンドが、サイトカイン、増殖因子、RPTPのまたは細胞表面受容体の受容体細胞外ドメイン(ECD)、またはそのいずれかの機能的フラグメントである、請求項3に記載の多価ポリペプチド。
【請求項7】
前記1つ以上のRPTPがCD45またはその機能的変異体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項8】
前記1つ以上の細胞表面受容体が免疫チェックポイント受容体、サイトカイン受容体または増殖因子受容体を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項9】
前記1つ以上の細胞表面受容体が阻害性チェックポイント受容体および刺激性チェックポイント受容体から成る群より選択された免疫チェックポイント受容体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項10】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGITおよびVISTAから成る群より選択された阻害性チェックポイント受容体、またはそのいずれかの機能性変異体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項11】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOSおよびCD137から成る群より選択された刺激性チェックポイント受容体、またはそのいずれかの機能的変異体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項12】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、ITAMモチーフ、ITSMモチーフ、ITIMモチーフ、またはリン酸化基質として働く関連の細胞内モチーフから選択された特定のチロシンベースのモチーフを通してシグナル伝達を媒介する、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項13】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、DAP10、DAP12、SIRPa、CD3、CD28、CD4、CD8、CD200、CD200R、ICOS、KIR、FcR、BCR、CD5、CD2、G6B、LIRs、CD7およびBTNs、またはそのいずれかの機能的変異体から成る群より選択される、請求項12に記載の多価ポリペプチド。
【請求項14】
前記1つ以上の細胞表面受容体がサイトカイン受容体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項15】
前記1つ以上のサイトカイン受容体が、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、ケモカイン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体(EpoR)、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLPR)、トロンボポエチン受容体 (TpoR)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF) 受容体、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) 受容体から成る群より選択される、請求項14に記載の多価ポリペプチド。
【請求項16】
前記1つ以上の細胞表面受容体が増殖因子受容体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項17】
前記増殖因子受容体が、ErbB-1、ErbB-2 (HER2)、ErbB-3、ErbB-4およびc-Kit (CD117)から成る群より選択された、幹細胞増殖因子受容体(SCFR)または上皮増殖因子受容体(EGFR)である、請求項16に記載の多価ポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチドリンカー配列が約1~約100アミノ酸残基を含む、請求項2~17のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項19】
前記ポリペプチドリンカーが少なくとも1つのグリシン残基を含む、請求項2~18のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項20】
前記ポリペプチドリンカーがグリシン-セリンリンカーを含む、請求項2~18のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項21】
前記抗原結合部分の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に置かれた1つ以上の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に連結される、請求項5~20のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項22】
前記介在アミノ酸残基が約1~約100アミノ酸残基を含む、請求項21に記載の多価ポリペプチド。
【請求項23】
前記介在アミノ酸残基が少なくとも1つのグリシン残基を含む、請求項21~22のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項24】
前記介在アミノ酸残基がグリシン-セリンリンカーを含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項25】
N末端からC末端方向で:
a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;
b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB;
c) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;および
d) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインD
を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項26】
シグナルペプチドのアミノ酸配列を更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項27】
配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54から成る群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を更に含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド。
【請求項28】
1つ以上の受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に特異的な第一のポリペプチドモジュール、および
リン酸化機構を通してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体に特異的な第二のポリペプチドモジュール
を含み、ここで第一のポリペプチドモジュールが第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている、多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項29】
前記第一のポリペプチドモジュールが、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される、請求項28に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項30】
前記第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンドまたは抗原結合部分のアミノ酸配列を含む、請求項28~29のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項31】
前記抗原結合部分が、抗原結合フラグメント(Fab)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(sdAb)、VNARドメイン、およびVHHドメイン、またはそれらの機能性フラグメントから成る群より選択される、請求項30に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項32】
前記抗原結合部分が重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む、請求項30~31のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項33】
前記タンパク質結合リガンドが、サイトカイン、増殖因子、細胞表面受容体の受容体細胞外ドメイン(ECD)、またはそのいずれかの機能的フラグメントである、請求項30に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項34】
前記1つ以上のRPTPがCD45またはその機能的変異体を含む、請求項28~33のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項35】
前記1つ以上の細胞表面受容体が免疫チェックポイント受容体、サイトカイン受容体または増殖因子受容体を含む、請求項28~34のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項36】
前記1つ以上の細胞表面受容体が阻害性チェックポイント受容体および刺激性チェックポイント受容体から成る群より選択された免疫チェックポイント受容体を含む、請求項28~35のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項37】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGITおよびVISTAから成る群より選択された阻害性チェックポイント受容体、またはそのいずれかの機能性変異体を含む、請求項28~35のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項38】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOSおよびCD137から成る群より選択された刺激性チェックポイント受容体、またはそのいずれかの機能的変異体を含む、請求項28~37のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項39】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、ITAMモチーフ、ITSMモチーフ、ITIMモチーフ、またはリン酸化基質として働く関連の細胞内モチーフから選択された特定のチロシンベースのモチーフを通してシグナル伝達を媒介する、請求項39のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項40】
前記1つ以上の細胞表面受容体が、DAP10、DAP12、SIRPa、CD3、CD28、CD4、CD8、CD200、CD200R、ICOS、KIR、FcR、BCR、CD5、CD2、G6B、LIRs、CD7およびBTNs、またはそのいずれかの機能的変異体から成る群より選択される、請求項39に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項41】
前記1つ以上の細胞表面受容体がサイトカイン受容体を含む、請求項28~35のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項42】
前記1つ以上のサイトカイン受容体が、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、ケモカイン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体(EpoR)、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLPR)、トロンボポエチン受容体 (TpoR)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF) 受容体、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) 受容体から成る群より選択される、請求項41に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項43】
前記1つ以上の細胞表面受容体が増殖因子受容体を含む、請求項28~35のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項44】
前記増殖因子受容体がErbB-1、ErbB-2 (HER2)、ErbB-3、ErbB-4およびc-Kit (CD117)から成る群より選択された、幹細胞増殖因子受容体(SCFR)または上皮増殖因子受容体(EGFR)である、請求項43に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項45】
前記ポリペプチドリンカー配列が1~100アミノ酸残基を含む、請求項28~44のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項46】
前記ポリペプチドリンカーが少なくとも1つのグリシン残基を含む、請求項29~45のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項47】
前記ポリペプチドリンカーがグリシン-セリンリンカーを含む、請求項29~46のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項48】
前記抗原結合部分の重鎖可変領域と軽鎖可変領域が、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に置かれた1つ以上の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に連結される、請求項32~47のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項49】
前記介在アミノ酸残基が約1~約100アミノ酸残基を含む、請求項48に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項50】
前記介在アミノ酸残基が少なくとも1つのグリシン残基を含む、請求項48~49のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項51】
前記介在アミノ酸残基がグリシン-セリンリンカーを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項52】
N末端からC末端方向で:
a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;
b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB;
c) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;および
d) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインD
を含む、請求項28~51のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項53】
シグナルペプチドのアミノ酸配列を更に含む、請求項28~52のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項54】
配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54から成る群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を更に含む、請求項28~53のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント。
【請求項55】
請求項1~27のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;または
請求項28~54のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント
および薬学的に許容される賦形剤
を含む、医薬組成物。
【請求項56】
組み換え核酸分子であって、
a) 請求項1~27のいずれか一項に記載の多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;または
b) 請求項28~54のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能性フラグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組み換え核酸分子。
【請求項57】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、3、5、9、11、13、15、19、21、23、25、27および53から成る群より選択されたヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項56に記載の組み換え核酸分子。
【請求項58】
請求項56~57のいずれか一項に記載の組み換え核酸分子を含む、発現カセットまたはベクター。
【請求項59】
請求項56~57のいずれか一項に記載の組み換え核酸分子を含む組み換え細胞。
【請求項60】
請求項59に記載の1つ以上の組み換え細胞と培地とを含む細胞培養物。
【請求項61】
ポリペプチドまたは多価抗体の産生方法であって、
請求項59に記載の1つ以上の組み換え細胞を提供し;そして
前記細胞が組み換え核酸分子によりコードされる多価ポリペプチドまたは多価抗体を産生するように、前記1つ以上の組み換え細胞を培地中で培養する
ことを含む方法。
【請求項62】
被験者においてリン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達を活性調節する方法であって、
a) 請求項1~27のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;または
b) 請求項28~54のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント
の有効量を含む第一の治療法を、前記被験者に施すことを含む方法。
【請求項63】
治療を必要とする被験者における疾患の治療方法であって、該方法は
a) 請求項1~27のいずれか一項に記載の多価ポリペプチド;または
b) 請求項28~54のいずれか一項に記載の多価抗体またはその機能的フラグメント
の有効量を含む第一の治療法を、前記被験者に施すことを含む方法。
【請求項64】
投与される多価ポリペプチドまたは多価抗体が、前記受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)活性を細胞表面受容体の空間的近傍に動員しそして細胞表面受容体のリン酸化レベルを減少させる、請求項62~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与が、被験者における免疫チェックポイント受容体の活性の低下をもたらす、請求項62~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与が、被験者におけるT細胞活性の増強をもたらす、請求項62~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与が、被験者におけるT細胞活性の抑制をもたらす、請求項62~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記被験者が哺乳動物である、請求項62~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記哺乳動物がヒトである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記被験者が、細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害に関連した疾患を有するかまたは有する疑いがある、請求項62~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記疾患が癌または慢性感染症である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
更に第二の治療法を被験者に施すことを含む、請求項62~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記第二の治療法が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法から成る群より選択される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記第一の治療法と第二の治療法が随伴して施行される、請求項72~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記第一の治療法が第二の治療法と同時に施される、請求項72~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記第一の治療法と第二の治療法が連続的に施される、請求項72~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記第一の治療法が第二の治療法の前に施される、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記第一の治療法が第二の治療法の後に施される、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記第一の治療法が第二の治療法の前および/または後に施される、請求項72~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記第一の治療法と第二の治療法が循環的に施される、請求項72~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記第一の治療薬と第二の治療法が単一製剤において一緒に施される、請求項72~73のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔連邦政府により支援を受けたR&Dに関する陳述〕
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)による認可番号CA 177684の下で政府支援を受けて行われた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
〔関連出願への相互参照〕
【0002】
本願は、2018年5月17日出願の米国仮特許出願第62/673,049号に対する優先権を主張する。上記出願は、参照により、全ての図面を含むその全内容が、明白に本明細書中に組み込まれる。
〔配列表の包含〕
【0003】
添付の配列表中の内容は、本出願中に参考により組み込まれる。078430-504001WO_Sequence Listing.txtというファイル名の配列表のテキストファイルは、2019年5月8日に作成され、そのサイズは102 KBである。
〔分野〕
【0004】
本開示は一般に、免疫治療薬の分野に関し、詳しくは、細胞表面受容体に特異的に結合しかつホスファターゼ活性の動員を通した受容体シグナル伝達を拮抗作用する、多価タンパク質結合分子に関する。本開示は、そのような分子の生産に有用な組成物と方法、並びに細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害に関連する疾患の治療方法も提供する。
【背景技術】
【0005】
〔発明の背景〕
疾患または健康状態の治療のための治療用タンパク質を含む医薬組成物の使用は、多数の製薬会社やバイオテクノロジー関連企業における中心的戦略である。例えば、癌免疫療法では、癌細胞の増殖を防ぐかまたは癌細胞を死滅させるために、宿主の免疫系のT細胞を活性化する薬剤の開発が、現存の治療標準を補完する有望な治療アプローチとして浮上してきた。そのような免疫療法アプローチの例としては、癌細胞を死滅させる免疫系を活性調節するのに使用される抗体の開発がある。例えば、ある受容体の特定活性の拮抗作用には、例えば、受容体の細胞外ドメイン(ECD)に向けられたアンタゴニスト抗体の使用を通してECD間へのリガンド結合をブロックする(遮断する)ことによるものである。このシナリオでは、遮断分子(例えばアンタゴニスト抗体)は、受容体ECDへの結合を目当てに天然リガンドと競争することにより機能を果たす。このアプローチの例示としては、切除不能なまたは転移性メラノーマおよび転移性非小細胞肺癌のような疾患を治療するために米国(US)とヨーロッパ共同体(EU)で承認されている、免疫受容体PD-1またはそのリガンドPD-L1のECDに特異的な多数の遮断抗体が挙げられる。別の例では、CTLA-4のような免疫抑制タンパク質を阻害するための努力の結果、ECDに結合しかつ天然リガンドへのその結合をブロックすることにより機能を果たす抗CTLA-4遮断抗体の市販品の開発および臨床評価に至った。しかしながら、それらの遮断抗体は、多数の患者で効果が無く、受容体の基本的な細胞内シグナル伝達活性(静止細胞内シグナル伝達活性とも称される)、例えばPD-1およびリン酸化機構を通してシグナル伝達する他の受容体を除去することはできないと報告されている。このような基本的シグナル伝達活性を排除できないことで、しばしばECDリガンド遮断戦略の有効性が制限される。よって、静止シグナル伝達とリガンド活性化シグナル伝達の両方を減少させるまたは除去するであろう、ECDリガンド遮断機構とは異なる代替的機構により、そのような受容体の細胞内シグナル伝達を直接低減するまたは除去する新規方法が必要とされている。例えば、免疫チェックポイント受容体に関して、チェックポイント阻害の完全な除去により、T細胞活性の完全な増幅を可能にすることが望ましい。更に、リン酸化機構を介してシグナル伝達し、それに対するリガンドの阻害が限定された有効性を示す、サイトカイン受容体などの他の受容体のシグナル伝達を阻害するための新規アプローチが必要とされている。
【0006】
従って、癌および他の免疫疾患の免疫療法のための現存の標準治療(SOC)を補完する、抗体または他の剤による受容体-リガンド間の直接阻害以外の代替的アプローチに対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、例えば種々の疾患、例えば細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達の阻害と関連する疾患を治療するのに用いられる、多価ポリペプチド、多価抗体などの免疫治療薬、およびそれを含む医薬組成物に関する。下記により詳細に記載するように、本開示は、例えば多価の剤を使った直接連結(ライゲーション)を通して着目のシグナル伝達受容体の空間的近傍(proximity)に膜ホスファターゼを特異的に動員することにより、細胞表面受容体シグナル伝達を調節するための組成物と方法を提供する。この新規方法論を、「ホスファターゼ動員による受容体阻害」(RIPR)と呼ぶことにする。より具体的には、本開示は、細胞表面受容体に特異的に結合し、それによりホスファターゼ活性の動員を通して受容体のシグナル伝達を完全にもしくは部分的に拮抗作用する、新規キメラタンパク質結合分子を提供する。幾つかの特定の実施形態では、開示されるキメラタンパク質結合分子は多価抗体である。本開示は、そのような化合物を作製するのに有用な組成物と方法、並びに細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害に関連した疾患の治療方法も提供する。
【0008】
一態様では、(i) 1つ以上の受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列、および(ii) リン酸化機構を通してシグナル伝達する1以上の細胞表面受容体に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列を含み、ここで前記第一のポリペプチドモジュールが前記第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている、多価ポリペプチドが開示される。
【0009】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的例の実施形態は、次の特徴のうちの1つを含み得る。幾つかの実施形態では、第一のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される。幾つかの実施形態では、第一と第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つが、タンパク質結合リガンドまたは抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドはサイトカイン、増殖因子、細胞表面受容体のまたはRPTPの受容体細胞外ドメイン(ECD)、またはそれらのいずれかの機能的変異体である。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、抗原結合断片(Fab)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、およびVHHドメイン、ダイアボディ、またはその機能的フラグメントから成る群より選択され得る。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、1つ以上のRPTPは、CD45ホスファターゼまたはその機能的変異体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、免疫チェックポイント受容体、サイトカイン受容体、または増殖因子受容体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、阻害性チェックポイント受容体および刺激性チェックポイント受容体から成る群より選択された免疫チェックポイント受容体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGIT、VISTA、ぞれのいずれかの機能性変異体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOS、CD137およびそのいずれかの機能的変異体から成る群より選択された刺激性チェックポイント受容体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、ITAMモチーフ、ITSMモチーフ、ITIMモチーフ、またはリン酸化基質として働く関連の細胞内モチーフから選択された特定のチロシンベースのモチーフを通してシグナル伝達を媒介する。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、DAP10、DAP12、SIRPa、CD3、CD28、CD4、CD8、CD200、CD200R、ICOS、KIR、FcR、BCR、CD5、CD2、G6B、LIRs、CD7、BTNs、およびそのいずれかの機能的変異体から成る群より選択される。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、サイトカイン受容体を含む。幾つかの実施形態では、サイトカイン受容体は、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、ケモカイン受容体、増殖ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体(EpoR)、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLPR)、トロンボポエチン受容体 (TpoR)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF) 受容体、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) 受容体から成る群より選択される。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は増殖因子受容体を含む。幾つかの実施形態では、増殖因子受容体は、EGF受容体ファミリー(ErbBファミリー)、インスリン受容体ファミリー、PDGF受容体ファミリー、VEGF受容体ファミリー、FGF受容体ファミリー、CCK受容体ファミリー、NGF受容体ファミリー、HGF受容体ファミリー、Eph受容体ファミリー、AXL受容体ファミリー、TIE受容体ファミリー、RYK受容体ファミリー、DDR受容体ファミリー、RET受容体ファミリー、ROS受容体ファミリー、LTK受容体ファミリー、ROR受容体ファミリー、およびMuSK受容体ファミリーから成る群より選択されたTRKファミリーに属するチロシン受容体キナーゼ(TRK)である。幾つかの実施形態では、増殖因子受容体は、ErbB-1、ErbB-2 (HER2)、ErbB-3、ErbB-4およびc-Kit (CD117)から成る群より選択された幹細胞増殖因子受容体(SCFR)または上皮増殖因子受容体(EGFR)である。
【0011】
幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカー配列は、1~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは少なくとも1つのグリシン残基を含む。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーはグリシン-セリンリンカーを含む。幾つかの実施形態では、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に置かれる1つ以上の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に連結される。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基は、1~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基は少なくとも1つのグリシン残基を含む。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基はグリシン-セリンリンカーを含む。
【0012】
本明細書に開示される幾つかの実施形態は、N末端からC末端方向で、(a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;(b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB;(c) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;および(d) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインDを含む、多価ポリペプチドに関する。幾つかの実施形態では、本開示のこの態様による多価ポリペプチドは、シグナルペプチドのアミノ酸配列を更に含む。幾つかの実施形態では、本開示のこの態様による多価ポリペプチドには、配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54から成る群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列が含まれる。
【0013】
一態様では、本開示の幾つかの実施形態は多価抗体またはその機能的フラグメントに関し、それは(i) 1つ以上の受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に特異的な第一のポリペプチドモジュール、および(ii) リン酸化機構を通してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体に特異的な第二のポリペプチドモジュールを含み、ここで第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。
【0014】
本開示の多価ポリペプチドの非限定的例の実施形態は、次の特徴の1つを含むことができる。幾つかの実施形態では、第一のポリペプチドモジュールは、ポリペプチドリンカー配列を介して第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結される。幾つかの実施形態では、第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンドまたは抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、抗原結合フラグメント(Fab)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(sdAb)、VNARドメイン、およびVHHドメイン、またはそれらの機能性フラグメントから成る群より選択される。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む。
【0015】
幾つかの実施形態では、1つ以上のRPTPは、CD45またはその機能性変異体を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体には、免疫チェックポイント受容体、サイトカイン受容体、または増殖因子受容体が含まれる。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体には、阻害性チェックポイント受容体および刺激性チェックポイント受容体から成る群より選択された免疫チェックポイント受容体が含まれる。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体には、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGIT、VISTAおよびその任意の機能性変異体から成る群より選択された阻害性チェックポイント受容体が含まれる。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体には、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOS、 CD137、およびその任意の機的変異体から成る群より選択された刺激性チェックポイント受容体が含まれる。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、ITAMモチーフ、ITSMモチーフ、ITIMモチーフ、またはリン酸化基質として働く関連の細胞内モチーフから選択された特異的チロシンベースのモチーフを通してシグナル伝達を媒介する。幾つかの実施形態では、1つ以上の細胞表面受容体は、DAP10、DAP12、SIRPa、 CD3、CD28、CD4、CD8、CD200、CD200R、ICOS、KIR、FcR、BCR、CD5、CD2、G6B、LIR、CD7、BTNおよびその任意の機能性変異体から成る群より選択される。他の幾つかの実施形態では、細胞表面受容体はサイトカイン受容体である。幾つかの実施形態では、サイトカイン受容体は、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、ケモカイン受容体、成長ホルモン受容体、エリストポイエチン受容体(EpoR)、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLPR)、トロンボポエチン受容体(TpoR)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)受容体、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体から成る群より選択される。更に幾つかの別の実施形態では、細胞表面受容体は、増殖因子受容体である。幾つかの実施形態では、増殖因子受容体は、EGF受容体ファミリー(ErbBファミリー)、インスリン受容体ファミリー、PDGFファミリー、VEGF受容体ファミリー、FGF受容体ファミリー、CCK受容体ファミリー、NGF受容体ファミリー、HGF受容体ファミリー、Eph受容体ファミリー、AXL受容体ファミリー、TIE受容体ファミリー、RYK受容体ファミリー、DDR受容体ファミリー、RET受容体ファミリー。ROS受容体ファミリー、LTK受容体ファミリー、ROR受容体ファミリーおよびMuSK受容体ファミリーから成る群より選択されたTRKファミリーに属する、チロシン受容体キナーゼ(TRK)である。幾つかの実施形態では、成長因子受容体は、ErbB-1、ErbB-2 (HER2)、 ErbB-3、ErbB-4およびc-Kit (CD117)から成る群より選択された、幹細胞増殖因子受容体(SCFR)または表皮増殖因子受容体(EGFR)である。
【0016】
本開示の幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカー配列は1~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは少なくとも1つのグリシン残基を含む。幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーはグリシン-セリンリンカーを含む。
【0017】
幾つかの実施形態では、抗原結合部分の重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間に置かれた1つ以上の介在アミノ酸残基によって互いに作動可能に連結される。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基は1~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基は少なくとも1つのグリシン残基を含む。幾つかの実施形態では、介在アミノ酸残基はグリシン-セリンリンカーを含む。
【0018】
本明細書に開示される幾つかの実施形態は、N末端からC末端方向において、(a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;(b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB;(c) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;(d) RPTPのエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインDを含む多価抗体に関する。幾つかの実施形態において、本開示のこの態様にかかる多価抗体は、シグナルペプチドのアミノ酸配列を更に含む。幾つかの実施形態では、この態様による多価抗体は、配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54から成る群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、(i) 本明細書に開示される多価ポリペプチド;または(ii) 本明細書に開示される多価抗体、および薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物に関する。
【0020】
別の態様では、本明細書に開示の幾つかの実施形態は、組み換え核酸分子に関し、その核酸分子は、(i) 本開示の多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;または(ii) 本開示の多価抗体またはその機能性フラグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態では、前記ヌクレオチド配列は、配列番号1、3、5、9、11、13、15、19、21、23、25、27および53から成る群より選択されたヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。幾つかの関連実施形態では、本開示は更に、本開示の組み換え核酸分子を含む発現カセットまたはベクターを提供する。
【0021】
別の実施形態では、本開示の幾つかの実施形態は、本開示の核酸分子を含む組み換え細胞に関する。この態様による組み換え細胞は、(i) 本開示の多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列;または(ii) 本開示の多価抗体もしくはその機能性フラグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む。幾つかの実施形態では、前記ヌクレオチド配列は、配列番号1、3、5、9、11、13、15、19、21、23、25、27および53から成る群より選択されたヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。別の関連の態様では、本明細書に開示の幾つかの実施形態は、本開示の1以上の組み換え細胞を含む細胞培養物に関する。
【0022】
別の態様では、(i) 本開示の多価ポリペプチド、または(ii) 本開示の多価抗体を含む、ポリペプチドまたは多価抗体の産生方法の実施形態が開示される。幾つかの実施形態では、この態様による方法はインビトロ(in vitro)、インビボ(in vivo)またはエクスビボ(ex vivo)で実施される。
【0023】
別の態様では、被験者においてリン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達を活性調節(モジュレートする)ための方法が開示され、該方法は、該被験者に(i) 本開示の多価ポリペプチド、または(ii) 本開示の多価抗体、の有効量を含む第一の治療を施すことを含む。
【0024】
更に別の態様では、治療を必要する被験者における疾患の治療方法の実施形態が開示され、該方法は、被験者に(i) 本開示の多価ポリペプチド、または(ii) 本開示の多価抗体、の有効量を含む第一の治療を施すことを含む。
【0025】
本開示の方法の実施形態の非限定的例の実施形態は、次の特徴の1つ以上を含むことができる。いくつかの実施形態では、投与される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、細胞表面受容体の空間的近傍に受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)活性を動員し、そして細胞表面受容体のリン酸化レベルを低下させる。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与は、被験者において免疫チェックポイント受容体の活性を減少させる。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与は、被験者においてT細胞活性の増強を与える。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与は被験者においてT細胞活性の抑制を与える。幾つかの実施形態において、被験者は哺乳動物である。幾つかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。幾つかの実施形態において、被験者は、細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害に関連した疾患を有するかまたは有する疑いがある。幾つかの特定の実施形態では、疾患は癌または慢性感染症である。
【0026】
幾つかの実施形態では、開示される治療法は更に、第二の治療法を被験者に施すことを含む。第二の治療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法から成る群より選択される。幾つかの実施形態では、第一の治療法と第二の治療法は随伴して施行される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は第二の治療法と同時に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法と第二の治療法は、連続的に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は第二の治療法の前に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は第二の治療法の後に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は第二の治療法の前および/または後に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法と第二の治療法は循環的に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療薬と第二の治療法は単一製剤において一緒に施される。
【0027】
本明細書に記載の態様と実施形態の各々は、その実施形態または態様の範囲から明白にまたは明確に除外されない限り、一緒に使用することができる。
【0028】
上記要約は例示的のみであり、いかなる形でも限定されることを意図しない。本明細書中に記載の例示的実施形態と特徴に加えて、本開示の更なる態様、実施形態、目的および特徴は、図面並びに詳細な説明と特許請求の範囲から十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1A~1Bは、本開示の幾つかの実施形態に従って、RIPR法を通した局所的ホスファターゼ動員による細胞表面受容体シグナル伝達の活性調節(モジュレーション)の非限定的例を図式的に説明する。細胞膜にある活性型キナーゼは、受容体のリン酸化の基準の低レベルを誘導する(
図1A-左側のパネル)。同族のリガンドへの結合は、受容体リン酸化を増加させかつシグナル伝達を開始させる(
図1A-右側のパネル)。図示される通り、目的の受容体の空間的近傍にホスファターゼを動員する二重特異性ポリペプチドは、基底のリン酸化とリガンド誘発性リン酸化の双方を減少させる(
図1B、その基底状態とリガンド活性化状態の両方で受容体細胞内ドメインからリン酸基を酵素的に「削り取る(shaving)」ことによる)。RIPR分子の受容体結合モジュールは、天然リガンドと競合的または非競合的のいずれであってもよく、それは分泌されるかまたは膜に結合されることができる。
【0030】
【
図2】
図2は、本開示の幾つかの実施形態に従った、局所CD45動員によるPD-1表面受容体シグナル伝達の活性調節に本RIPR法を適用することの非限定例を図式的に説明する。PD-1発現は、Lckのような膜結合型キナーゼによる細胞内モチーフの低い基底のリン酸化によりT細胞活性を減少させる(
図2-上;左側のパネル)。PD-L1に結合すると、PD-1リン酸化が増大し、それがT細胞活性を更に減少させる(
図2-上;右側のパネル)。「チェックポイント阻害剤」であるPD-1遮断抗体は、受容体/リガンド相互作用を付与し、それによってPD-L1誘発性リン酸化を減少させる。描写されるように、目的の受容体の空間的近傍にCD45ホスファターゼを動員する二重特異性ダイアボディは、基底のリン酸化並びにPD-L1誘発性リン酸化の両方を減少させ(
図2下、左側パネル)、受容体の細胞倍シグナル伝達モチーフからリン酸基を除去する(
図2下、右側パネル)。
【0031】
【
図3】
図3A~3Cは、二重特異性ダイアボディが、CD45(
図3A)、PD-1(
図3B)またはその両分子(
図3C)によりトランスフェクトされたHEK293細胞に結合することを示すために実施した実験の結果をグラフにより要約する。
【0032】
【
図4】
図4A~4Bは、PD-1発現が、PD-1リガンドの欠損下であっても、T細胞活性化を減少させることを示すために実施した実験の結果をグラフにより要約する。これらの実験では、PD-1を発現するJurkat T細胞を、2μg/mLのOKT3により一晩活性化した。
図4A: CD25とCD69アップレギュレーションは、PD-1を発現する細胞では低かった。
図4B:CRISPR/Cas9 PD-1 ターゲッティング(標的指向)ガイドRNAにより処理した細胞におけるPD-1発現の減少は、OKT3で活性化するとより高レベルのCD69発現をもたらした。
【0033】
【
図5】
図5A~5Bは、HEK293細胞でのLcKおよびCD45によるPD-1リン酸化の再構成を示すために実施した実験の結果を要約する。PD-1は野生型HEK293細胞中ではリン酸化されなかった(レーン1)。しかしながら、LcKが存在する時にPD-1は容易にリン酸化された(レーン2)。CD45の共発現(レーン3)は、総リン酸化を減少させた。CD45-PD1二重特異性ダイアボディ(Db)と共にインキュベーションすると、PD-1リン酸化に更なる減少が観察された(レーン4)。大幅に減少したホスファターゼ活性を有するCD45変異体(C856S)変異は、発現時(レーン5)にも、CD45-PD1二重特異性ダイアボディと共にインキュベーションした後の動員時(Db;レーン6)にも、PD-1リン酸化に影響を与えなかった。
【0034】
【
図6】
図6A~6Bは、HEK293細胞でのリンパ球特異的プロテインチロシンキナーゼLcKおよび/またはCD45とのインキュベーションによる、多重受容体リン酸化の再構成を示すために行った実験の結果を要約する。
【0035】
【
図7】
図7A~7Fは、CD45-PD1二重特異性ダイアボディによるT細胞の処理が、OKT3およびペプチド-MHC刺激に反応してT細胞活性化を増加させることを示すために行った実験の結果を要約する。PD-1を発現するJurkat T細胞を、ニボルマブ抗体(白い四角)またはCD45-PD1(Nivo)ダイアボディ(黒丸)の存在下で、OKT3(2μg/mL;黒いひし形)により一晩刺激した。CD45-PD1は、活性化マーカーCD69(
図7A)とCD25(
図7B~7C)の発現、並びにIL-2サイトカイン分泌(
図7D)を増加させた。
図7E~7Fでは、適切なTCRおよびPD-1を形質導入したSKW-3 T細胞を、アゴニストペプチド-MHC±PD-L1(PD-L1-、黒いひし形;PD-L1+、白丸)およびニボルマブ抗体(白い四角)またはCD45-PD1(Nivo)ダイアボディ(黒丸)を提示している細胞と共にインキュベートした。CD45-PD1ダイアボディとのインキュベーションは、PD-L1が欠損している時に達成されるものと同様なレベルに、IL-2サイトカイン分泌を増加させた。
【0036】
【
図8】
図8A~8Bは、CD45-PD1ダイアボディが活性化末梢血単核細胞(PBMC)の増殖を増強することを示すために行った実験の結果を要約する。
図8A:新たに単離されたPBMCをCFSEで標識し、OKT3+ニボルマブまたはCD45-PD1ダイアボディと共に4日間インキュベートした。CD45-PD1は、ニボルマブ抗体よりも高レベルでT細胞増殖を促進した。
図8B:OKT3単独でまたはOKT3とニボルマブまたはCD45-PD1(Nivo)(0.5μM)と共に処理した細胞について、T細胞の増殖率(%)の定量。
【0037】
【
図9】
図9A~9Fは、二重特異性ダイアボディCD45-PD1が、アゴニストペプチドに応答してCD4+およびCD8+ T細胞活性化を増強できることを示すために、活性化PBMCを用いて実施した別の実験の結果を要約する。CD45-PD1(Nivo)およびCD45-PD1(Pembro)の両方が、CD69(
図9A)およびCD25(
図9B)の上昇した発現レベル、並びにIFNγ(
図9D)およびサイトカインIL-2(
図9C)の分泌によって示されるように、T細胞活性化を増強できることが観察された。ニボルマブ、ペンブロリズマブ、CD45-PD1(Nivo)またはCD45-PD1(Pembro)と共にインキュベートした時、PD1 MFIにより指摘されるように、抗PD1で蛍光標識した抗体(クローン29F.1A12;PD-1/PD-L1遮断抗体(ブロッキング抗体))での染色が減少した。その一方で、単独でのまたは抗CD45二重特異性ダイアボディと組み合わせたアゴニストペプチドとのインキュベーションは、前記染色に影響を与えなかった(
図9E)。CD45-PD1(Nivo)またはCD45-PD1(Pembro)での処理によるCD69の発現レベルの上昇が、CD4+およびCD8+ T細胞の両方に観察された(
図9F)。
【0038】
【
図10】
図10A~10Cは、RIPR-PD1がPD-1/PD-L1相互作用の阻害に厳密には依存しないこと示すために、活性化PBMCを用いて実施した別の実験の結果を要約する。PD-1への結合に非遮断scFvを使った時、二重特異性ダイアボディCD45-PD1(Cl19)(クローン19、Cl19)が、上昇したCD69発現レベルにより(
図10A)並びにIFNγの分泌により(
図10B)示される通り、アゴニストペプチドに応答してT細胞活性化を増強できることが観察された。二重特異性ダイアボディCD45-PD1(Cl19)とのインキュベーションが、蛍光標識された抗PD1抗体(クローン29F.1A12; PD-1/PD-L1遮断抗体)で細胞を染色した後に、PD1 MFIの部分的減少を引き起こしたのに対し、ニボルマブまたはペンブロリズマブとのインキュベーションは、PD-1 MFIの強力な減少を引き起こすことができた(
図10C)。
【0039】
【
図11】
図11A~11Cは、第二世代CD45-PD1(VHH)二重特異性結合モジュール でのT細胞の処理が、ムロモナブ(Muromonab)-CD3(登録商標)(OKT3)に応答してT細胞活性化を増加することを示すために行った実験の結果を要約する。これらの実験では、二重特異性ダイアボディCD45-PD1(Nivo)とCD45-PD1(VHH)が、活性化マーカーCD69(
図11A)およびCD25(
図11B)の発現を増加させ、CD69+/CD25+ 細胞のより高い画分(割合)をもたらした(
図11C)。
【0040】
【
図12】
図12A~12Bは、抗マウスCD45(VHH)-PD1F2二重特異性結合モジュールによるマウスT細胞の処理が、抗マウスCD3(2C11)に応答してT細胞活性化を増加させることを示すために行った実験の結果を要約する。これらの実験では、二重特異性ダイアボディCD45(VHH)-PD1F2が、活性化マーカーCD69(
図12A)およびCD25(
図12B)の発現を増加させた。
【0041】
【
図13】
図13A~13Bは、抗マウスCD45(VHH)-PD1(F2)二重特異性結合モジュールによるマウスTCRトランスジェニック(Pmel-1)CD8+ T細胞の処理が、gp100 ペプチドに応答してT活性化を増加させることを示すために行った実験の結果を要約する。これらの実験では、二重特異性CD45(VHH)-PD1F2結合分子が活性化マーカーCD69(
図13A)とCD25(
図13B)の発現を増加させた。
【0042】
【
図14】
図14A~14Bは、抗マウスCD45(VHH)-CTLA4二重特異性結合モジュール(mRIPR-CTLA4と称する)でのマウスT細胞の処理が、抗マウスCD3(2C11)に応答してT細胞活性化を増加させることを示すために行った実験の結果を要約する。これらの実験では、二重特異性CD45(VHH)-CTLA4結合分子でのT細胞の処理が、2C11抗体およびCD45(VHH)-CTLA4との24時間(
図14A)および48時間(
図14B)のインキュベーション後に、CD4+およびCD8+ T細胞の両方でCD69とCD25レベルが上昇する細胞の画分を増加させた。
【0043】
【
図15】
図15A~15Bは、抗マウスCD3(2C11)に応答したT細胞活性化のマーカー、例えばCD25およびCD44の発現を減少させることを証明する実験の結果を要約する。これらの実験では、抗マウスCD45(VHH)-CD28二重特異性ポリペプチドが、2C11抗体およびmRIPR-CD28との48時間インキュベーション後に、CD4+(
図15A)およびCD8+(
図15B)の両方について、活性化マーカーCD25およびCD44の発現を減少させた。
【0044】
【
図16】
図16A~16Cは、本開示の幾つかの実施形態に従った二重特異性タンパク質結合分子の別の非限定例を図式的に描写する。この場合、図面は、IL-2に連結したCD45結合モジュールから成るRIPRの一例を示す。IL-2は、そのIL-2R-βおよびγ-c受容体のリン酸化を誘導する。CD45を動員する結合モジュールへのIL-2の結合は、IL-2受容体上のチロシン残基からリン酸基を除去し、それがシグナル伝達の減少を引き起こす。別のサイトカインおよび増殖因子受容体によりシグナル伝達を減弱させるために同様なRIPRデザインが期待される(
図16A)。ホスファターゼCD45および細胞表面受容体IL-2Rに結合することができる多価ポリペプチドは、YT+細胞表面を蛍光標識する(
図16B)。IL-2受容体へのCD45の動員は、STAT5のリン酸化を減少させる(pSTAT5、
図16C)。
【0045】
【
図17】
図17A~17Bは、、本開示の幾つかの実施形態に従う三重特異性RIPRデザインを特徴づけるために行った実験の結果を要約する。これらの実験では、抗マウス三重特異性CD45-PD1-CTLA4をデザインし、抗マウスPD1 scFvに融合した抗マウスCD45 VHHを用いて作製し、更に抗マウスCTLA-4 VHHに融合せしめた。生じた三重特異性RIPR分子は二重RIPR(dRIPR)-PD1/CTLA4と命名された。このdRIPR-PD1/CTLA4分子は配列表の配列番号28中に記載される。
図17A:サイズ排除クロマトグラフィー後のタンパク質純度(AKTA FPLC、GE Healthcare社製、Superdex 200 Increase型; 280 nmでの吸光度が示される)。
図17B:非還元型SDS-PAGE電気泳動に続き標準的なクーマシー染色により、タンパク質純度と完全性を確認した。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示は一般に、分子生物学、免疫学および医学の分野に関し、それには目的の受容体の空間的近傍に膜ホスファターゼを特異的に動員することによりシグナル伝達する細胞表面受容体をモジュレートするための組成物および、RIPRと名付けられた新規方法が含まれる。受容体シグナル伝達を阻害するためのこの方法は、ECDリガンド阻害への代替的アプローチを表し、よって一般に受容体アンタゴニズム(拮抗作用)のための新規パラダイムを表す。より具体的には、本開示は、細胞表面受容体に特異的に結合し、かつホスファターゼ活性の動員を通して受容体のシグナル伝達に完全にまたは部分的に拮抗作用する、新規キメラタンパク質結合分子を提供する。幾つかの実施形態では、ホスファターゼの動員は物理的結合(ライゲーション)によって達成される。本開示の幾つかの実施形態では、キメラタンパク質結合分子は、受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドフラグメントと、リン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体に結合することができる第二のポリペプチドフラグメントとを含む、多価ポリペプチド(例えば二価または三価)である。本開示は、そのような多価(例えば二重特異性)タンパク質結合分子を生産するのに有用な組成物と方法、並びに、細胞表面受容体により媒介されるシグナル伝達の阻害と関連がある疾患の治療方法にも関する。
【0047】
下記により詳細に記載する通り、本開示は、特に、各々が少なくとも2つの細胞のターゲット:リン酸化機構を通してシグナル伝達する受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)および細胞表面受容体に対して結合親和性を示す、遺伝子操作された多価ポリペプチドを提供する。任意の特定の理論に縛られることなく、その多価ポリペプチドは、細胞表面受容体の空間的近傍に、RPTPによりコードされるホスファターゼ活性を動員し、続いてそのリン酸化を減少させると考えられる。また、その多価分子は、細胞表面受容体の細胞内ドメインとホスファターゼとが十分に密接した近傍(近位)になるように、その結果ホスファターゼが細胞表面受容体の細胞内ドメイン(または会合したリン酸化された分子)を脱リン酸化し、それによって細胞表面受容体の活性を減少させるように、細胞表面受容体の細胞外ドメインと膜貫通ホスファターゼの細胞外ドメインに結合することによりリン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体の活性調節(モジュレーション)を促進すると考えられる。チェックポイント受容体の場合、およびRPTPがCD45である場合、チェックポイント受容体の細胞外ドメインに結合するモジュールを、受容体プロテインチロシンホスファターゼCD45の細胞外ドメインに結合するモジュールに連結させることが、T細胞シグナル伝達の増強をもたらす。いずれかの特定の理論に縛られることなく、「免疫チェックポイント」受容体の活性を減少させることがT細胞活性を高めると期待され、癌や慢性感染症といった広範囲の疾患のための治療法として有用であると考えられる。この新規アプローチは、受容体細胞内ドメインの脱リン酸化によって細胞の受容体機能を調節するリガンドブロッキングを通して細胞受容体機能を調節する現在の伝統的な方策を回避する。
【0048】
細胞表面受容体を活性調節するための現在の臨床的オプションでは、受容体-リガンド相互作用が細胞の表面で起こるのをブロックするECD遮断抗体に限定されることは認識されている。例えば、PD-1のような抑制性受容体の場合、高親和性抗体との細胞外PD-1/PD-L1相互作用をブロックすることは、現在まで、PD-1シグナル伝達を減少させるための唯一利用可能な手段であった。しかしながら、抗体によるブロッキングは、PD-1リン酸化に直接作用せず、そして重要なことには、PD-1の基底の強直性のリン酸化を逆転させない。下記により詳細に記載する通り、本発明者らは、PD-L1の不在下であっても、PD-1がT細胞活性化をほぼ50%減少させることを示した。特定の理論に縛られることなく、現存の遮断抗体(ブロッキング抗体)は、高レベルのT細胞活性化マーカーCD69およびCD25により、並びに高レベルのIFNγおよびIL-2サイトカイン放出により判断される通り、完全なT細胞活性を回復させるためにPD-1基底シグナル伝達を完全に排除することはできないと思われる。本開示の幾つかの実施形態において記載されるように、新たに遺伝子操作された多価抗体は、ホスファターゼを直接動員してPD-1を脱リン酸化することにより、この課題に対処する。よって、本開示は、CD45動員が、PD-1リガンド(例えばPD-L1)の存在下または非存在下に関係なく、PD-1により誘導される疲弊した(exhausted)表現型を排除することができることを示す。従って、目的の受容体へのホスファターゼ(特にCD45)の動員は、着目の細胞表面受容体の活性をモジュレートする新規方法を表す。
【0049】
本明細書に開示されるアプローチは、幾つかの欠点を提示する。目的の標的(ターゲット)に向かってホスファターゼ活性を動員する概念は、非常にモジュール式で多目的であり、理論的には様々な受容体を標的とするために容易に改変することができる。例えば、標的のホスファターゼは、目的の細胞で発現される表面ホスファターゼの群から選択することができる(Alonso他、2004; Neel & Tonks, 1997)。加えて、チロシンリン酸化を介してシグナル伝達する多数の受容体も、同様な方法で標的とすることができる。適当な受容体の非限定例としては、増殖因子受容体、サイトカイン受容体、および他のチェックポイント阻害剤が挙げられる。更に、受容体阻害の程度は、多価ポリペプチド(以後、「RIPR分子」とも称される)内の結合モジュールの配向性と空間的近傍を変化させることによって、完全阻害から部分阻害まで、調整することができる。
一般的な実験手順
【0050】
本開示の実施は、特に断らない限り、当業者に既知である分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、および免疫学の常用技術を使用する。そのような技術は文献中に説明されている。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第四版(Sambrook他、2012)およびMolecular Cloning: A Laboratory Manual、第三版 (Sambrook & Russel, 2001)(本明細書中、この2つは合わせて「Sambrook」と称される);Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel他編、1987、2014年までの増補版を含む); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis他編、1994); Beaucage 他編、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, John Wiley & Sons, Inc., New York, 2000, (2014年までの増補版を含む), Gene Transfer and. Expression in Mammalian Cells (Makrides編、Elsevier Sciences B.V., Amsterdam, 2003)、およびCurrent Protocols in Immunology (Horgan K & S. Shaw (1994) (2014年までの増補版を含む)。適当であれば、市販のキットや試薬の使用を含む手順は、通常、製造業者が決めたプロトコルおよび/またはパラメータに従って実施される。
定義
【0051】
異なって定義されない限り、本明細書中で使用する全ての技術用語、表記法および他の技術用語または用語法は、本開示が属する当業者により一般に解釈される意味を有することを目的としている。幾つかの場合、一般に解釈される意味をもつ用語は、明確性および/または即時参照のために本明細書中で定義され、本明細書中へのそのような定義の包含は、必ずしも当業界で一般に理解されるものを超える実質的な相違を表すと見なされるべきではない。本明細書中に記載され参照される技術や手順の多くは、当業者による常用の方法論を用いて十分に理解され一般的に使用される。
【0052】
単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに異なって示さない限り、複数形も包含する。例えば、「細胞(a cell)」は、その混合物を含む1つまたは複数の細胞を含む。「Aおよび/またはB」は、本明細書中では次の選択肢:「A」、「B」、「AまたはB」、および「AおよびB」の全てを含むように用いられる。
【0053】
本明細書中で用いる時の用語「約」は、およその通常の意味を有する。概算の程度が文脈から明らかでない場合、「約」は、与えられた数値の±10%内であるか、または全ての場合与えられた数値を包含して、最も近い有効数字にまるめられる。範囲が与えられる場合、それらは境界の値を含む。
【0054】
本明細書中で用いる場合、用語「投与」および「投与する」とは、限定されないが、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、筋肉内および局所投与またはそれらの組み合わせを含む投与経路による、生物活性組成物または製剤の送達を指す。この用語は、医療専門家によりおよび自己投与により投与することを包含するが、それに限定されない。
【0055】
本明細書中で用いる場合、用語「抗体」は、別の分子の特定の空間的および極性の構造に特異的に結合し、それによりそれを補完するものとして定義される、タンパク質の1クラスを指す。抗体という用語は、IgG2モノクローナル抗体のような全長モノクローナル抗体(mAb)を含み、免疫グロブリンFc領域を含む。抗体という用語は、多価抗体、ダイアボディ、一本鎖抗体、一本鎖可変フラグメント(scFv)、および抗体フラグメント、例えばFab、F(ab')2、およびFvも包含する。抗体が多価抗体である場合、多価抗体は多数の異なる形式であることができる。抗体はモノクローナルまたはポリクローナル抗体であることができ、そして当業界で周知である技術、例えば宿主および血清の収集物の免疫処置により(ポリクローナル)、あるいは連続ハイブリッド細胞系を調製しそして分泌されたタンパク質を採取することにより(モノクローナル)、あるいは天然抗体の特異的結合に必要なアミノ酸配列を少なくともコードするヌクレオチド配列またはその突然変異形をクローニングしそして発現させることにより、調製することができる。そのようなものとして、抗体は完全な免疫グロブリンまたはその断片を包含し、免疫グロブリンには様々なクラスとアイソタイプ、例えばIgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3、IgM等が含まれる。そのフラグメントには、Fab、Fv および F(ab′)2, Fab′等が含まれ得る。加えて、免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの凝集体、ポリマーおよびコンジュゲート(複合体)は、特定の標的に対する結合親和性が維持される限り、適宜使用することができる。
【0056】
用語「癌」または「腫瘍」は本明細書中で互換的に用いられる。これらの用語は、癌を引き起こす細胞に典型的な特徴、例えば制御不能な増殖、不死化、転移能力、迅速な増殖および繁殖率、並びに幾つかの特徴的な形態学的特徴を指す。癌細胞はしばしば腫瘍の形であるが、そのような細胞は動物被験者の中でのみ存在することができ、または非腫瘍原性癌細胞、例えば白血病細胞であることができる。これらの用語には、固形腫瘍、軟組織腫瘍、または転移性病変が含まれる。本明細書中で用いる場合、用語「癌」には、前がん、並びに悪性癌が含まれる。幾つかの実施形態では、癌は固形腫瘍、軟組織腫瘍、または転移性病変である。
【0057】
本明細書中で用いる場合、用語「キメラ」ポリペプチドは、互いに作動可能に連結されている少なくとも2つのアミノ酸配列を含み、それらは本来天然には連結されていない、ポリペプチドを指す。アミノ酸配列は、キメラポリペプチド中に一緒に統合される別個のタンパク質中に存在してよく、またはそれらは通常同じタンパク質中に存在するか、またはそれらはキメラポリペプチド中に新規配置で置かれてよい、キメラポリペプチドは、例えば、ペプチド領域が所望の関係でコードされるポリヌクレオチドを化学合成により、またはそれを創製しそして翻訳することにより、構築することができる。
【0058】
本明細書中で用いる場合の用語「細胞」、「細胞培養物」、「細胞系」、「組み換え宿主細胞」、「受容体細胞」および「宿主細胞」は、転移の回数に関係なく、初代対象細胞およびその任意子孫を含む。全ての子孫が親細胞と正確に同じであるわけではないことを理解されたい(意図的なもしくは故意でない突然変異または環境の差により);しかしながら、子孫が最初に形質転換された細胞のものと同じ機能性を保持する限り、そのような改変子孫はそれらの用語に含まれる。
【0059】
本明細書中で用いる場合、「構成物」という用語は、任意の起源から誘導され、ゲノムへの組み込みまたは自律的複製を行うことができる、発現カセット、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律的に複製するポリヌクレオチド分子、ファージ、または直鎖状もしくは環状、一本鎖もしくは二本鎖のDNAまたはRNAポリヌクレオチド分子、例えば1つ以上の核酸配列が機能的に作動可能な方法で連結されている、例えば作動可能に連結されている核酸分子といった、任意の組み換え核酸分子を意味するものである。
【0060】
本開示の主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体の用語「有効量」、「治療上有効な量」または「薬学的に有効な量」は通常、組成物が不在の場合に比較して特定の目的を果たす(例えば、それが投与される対象に対して、疾患を治療する、シグナル伝達経路を減弱させる、または疾患もしくは状態の1つ以上の症状を軽減する)のに十分な組成物の量を指す。「有効量」の一例は、疾患の1つ以上の症状の治療、予防または軽減に寄与するのに十分な量であり、それは「治療上有効な量」とも称することができる。症状の「軽減」とは、その症状の重症度もしくは頻度を減少させること、またはその症状の排除を意味する。「治療上有効な量」を含む組成物の正確な量は、治療の目的に依存し、そして既知の技術を使って当業者により確定することができるであろう(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (第1-3巻, 1992); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999); Pickar, Dosage Calculations (1999); および Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版, 2003, Gennaro編、Lippincott, Williams & Wilkinsを参照)。
【0061】
本明細書中で用いる場合、「その機能的フラグメント」または「その機能的変異体」という用語は、そのフラグメントまたは変異体が誘導される野生型分子に共通した質的生物学的活性を有する分子を指す。例えば、抗体の機能的フラグメントまたは機能的変異体が誘導される抗体と同じエピトープに結合する本質的に同じ能力を保持しているものである。例えば、細胞表面受容体のエピトープに結合することができる抗体は、N末端および/またはC末端の所で先端が短縮されてよく、本明細書中に与えられる例示的なアッセイをはじめとする当業者に既知のアッセイを使って、そのエピトープ結合活性の保持を評価することができる。酵素活性を有するポリペプチドを参照する場合(例えば受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)のような酵素)、用語「機能的変異体」とは、酵素をコードするポリペプチド配列に対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%同一であるポリペプチド配列を有する酵素を指す。「機能的変異体」酵素は、該酵素にとって保存されたと見なされるアミノ酸残基を保持しているが、異なるアミノ酸に置換されたアミノ酸残基または異なるアミノ酸のものである分かった非保存アミノ酸残基を有してもよく、または1つ以上のアミノ酸が挿入もしくは欠失していてもよいが、しかし、本明細書に記載の酵素に比較した時に、酵素活性に影響を与えないかまたは重要でない作用を有する。「機能的変異体」酵素は、本明細書に記載の酵素(例えばRPTP)の生物学的アッセイと同一または本質的に同一である酵素活性を有する。当業者は、「機能的変異体」酵素が天然に見つけることができ、すなわち、天然に存在するかまたはその操作された変異体であることができることを十分理解するだろう。
【0062】
本明細書中で用いる場合、「作動可能に連結された」という用語は、2以上の要素、例えばポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の物理的または機能的結合であって、それらを意図する様式で操作できるようにする物理的または機能的結合を意味する。例えば、目的のポリヌクレオチドと調節配列(例えばプロモーター)との間の作動可能な結合は、目的のポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的結合である。この意味では、用語「作動可能に連結された」とは、調節領域が着目のコード配列の転写または翻訳に効果的であるように転写されることができる、調節領域とコード配列の配置を指す。本明細書に開示される幾つかの実施形態では、用語「作動可能に連結された」とは、調節配列が該ポリペプチドをコードするmRNA、該ポリペプチド、および/または機能的RNAの発現または細胞内局在化を指令または制御するように、調節配列がポリペプチドまたは機能的RNAをコードする配列に関して適当な位置に置かれている立体配置を指す。よって、プロモーターは、それが核酸配列の転写を媒介できるならば、核酸配列と作動可能な連結状態にある。作動可能に連結された要素は、連続または不連続であることができる。加えて、ポリペプチドの文脈では、「作動可能に連結された」とは、ポリペプチドの記載の活性を提供するためにアミノ酸配列(例えば異なるセグメント、モジュールまたはドメイン)間の物理的結合(例えば直接または間接結合)を指す。本開示では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の様々なセグメント、モジュール、またはドメインは、細胞内でその多価ポリペプチドまたは多価抗体の正確な折り畳み、プロセシング、ターゲティング、発現、結合および他の機能的性質を保持するように作動可能に連結することができる。特に断らない限り、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の種々のモジュール、ドメインおよびセグメントは、互いに作動可能に連結される。本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の作動可能に連結されたモジュール、ドメインおよびセグメントは、連続であっても不連続であってもよい(例えばリンカーを介して互いに連結されてよい)。
【0063】
2以上の核酸またはタンパク質の文脈での「同一性%」という用語は、BLASTもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを使い、下記に記載のデフォルトパラメータを用いて、または手動の整列と外観検査により測定した時に、同一である2以上の配列もしくは部分配列、または同一であるヌクレオチドもしくはアミノ酸の特定の百分率(例えば、比較窓または指定の領域に渡り最大一致について比較し整列させた時の、特定領域に渡る約60%の配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより高い同一性)を有する2以上の配列もしくは部分配列を指す。例えば、NCBIウエブサイトncbi.nlm.nih.gov/BLASTを参照のこと。次いでそのような配列は、「実質的に同一」であると称される。この定義は、試験配列の相補体も指し、またはそれに適用することができる。この定義には、欠失および/または付加を有する配列、並びに置換を有するものも含まれる。配列同一性は、典型的には、長さが少なくとも約20アミノ酸またはヌクレオチドである領域に渡って存在し、または長さが10~100アミノ酸もしくはヌクレオチドである領域に渡って、または特定の配列の全長に渡って存在する。
【0064】
必要であれば、配列同一性は、公開された技術と汎用性のコンピュータープログラム、例えばGCSプログラムパッケージ(Devereux他、Nucleic Acids Res. 12:387, 1984), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul他、J. Molecular Biol. 215:403, 1990)を使って計算することができる。配列同一性は、ウィスコンシン州バイオテクノロジーセンター大学の遺伝子コンピューターグループの配列解析ソフトウェアパッケージ(the Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group at the University of Wisconsin Biotechnology Center (1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)などの配列解析ソフトウェアを使って、そのデフォルトパラメータを用いて測定することができる。
【0065】
本明細書中で用いる場合の「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、被験者への目的の化合物の投与のための薬学的に許容される担体(キャリア)、添加剤または希釈剤を提供する任意の適当な物質を指す。そのようなものとして、「薬学的に許容される賦形剤」は、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される添加剤および薬学的に許容される担体と称される物質を包含することができる。本明細書中で用いる場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、限定されないが、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤など、医薬品の投与と適合性のものを包含する。補足的な活性化合物(例えば抗生物質)を組成物中に含めることもできる。
【0066】
本明細書中で用いる場合の「組み換え」または「遺伝子操作された」核酸分子またはポリペプチドは、ヒトの介入を通して変更されている核酸分子またはポリペプチドを指す。非限定例として、cDNAは、in virtoポリメラーゼ連鎖反応によって作成された任意の核酸分子である組み換えDNA分子、あるいはそれにリンカーが付着されているかまたはベクター中、例えばクローニングベクターまたは発現ベクター中に組み込まれている組み換えDNA分子である。非限定例として、組み換え核酸分子は、1) 例えば化学技術もしくは酵素技術を使って〔例えば、核酸化学合成の使用により、または複製、重合化、エキソヌクレアーゼ消化、エンドヌクレアーゼ消化、連結、逆転写、転写、塩基の修飾(メチル化を含む)、または核酸分子の組み換え(相同組み換えと部位特異的組み換えを含む)のための酵素の使用により〕、in vitroで合成または修飾されているもの;2) 天然には結合されていない連結されたヌクレオチド配列を含むもの;3) それが天然に存在する核酸分子配列に関して1つ以上のヌクレオチドを欠くように分子クローニング技術を用いて遺伝子操作されているもの;および/または4) それが天然に存在する核酸配列に関して1つ以上の配列変更または再配列を有するように分子クローニング技術を使って操作されているものであることができる。非限定例として、cDNAは組み換えDNA分子であり、in vitroポリメラーゼ反応によって作成された任意の核酸分子であるかまたはそれにリンカーが付着されているか、またはクローニングベクターや発現ベクターのようなベクター中に組み込まれている、任意の核酸分子である。組み換え核酸と組み換えタンパク質の別の非限定例は、本明細書に開示の多価ポリペプチドまたは二重特異性抗原結合ポリペプチドである。
【0067】
「シグナルペプチド」または「シグナル配列」は、ポリペプチドの末端(例えばそのN末端)に作動可能に連結されると、真核宿主細胞中での小胞体(ER)中へのその配列のトランスロケーションを指令する、アミノ酸配列により構成されたターゲティング(標的指向)配列である。
【0068】
本明細書中で用いる場合、「被験者」または「個体」とは、ヒト(例えばヒト被験者)および非ヒト動物などの動物を包含する。幾つかの実施形態では、「被験者」または「個体」は、医師のケアを受けている患者である。よって、被験者は、着目の疾患(例えばがん)および/または疾患の1つ以上の症状を有するかまたは有する疑いのあるヒト患者または個体であることができる。被験者は、診断の時点でまたはそれ以降に、着目の状態のリスクを有すると診断される個体であることもできる。「非ヒト動物」という用語には、全ての脊椎動物、例えば哺乳類、例えばげっ歯類、例えばマウス、および非哺乳類、例えば非ヒト霊長類、例えばヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類等が含まれる。
【0069】
本明細書中で用いる場合。「形質転換」および「トランスフェクション」は、外来核酸(例えばDNA)を宿主細胞中に導入するための様々な当該技術分野で承認されている技術、例えばリン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、粒子銃、またはエレクトロポレーションを指す。
【0070】
用語「ベクター」は、本明細書中では、別の核酸分子を移行させるまたは輸送することのできる核酸分子または配列を指すために用いられる。移行される核酸分子は、通常、ベクター核酸分子に連結され、例えばその中に挿入される。一般に、ベクターは適当な調節要素と会合させると、複製することができる。用語「ベクター」には、クローニングベクターと発現ベクター、並びにウイルスベクターおよび組み込み型ベクターが含まれる。「発現ベクター」は、それによりDNA配列やフラグメントをin vitroおよび/またはin vivoで発現させることができる調節領域を含むベクターである。ベクターは、細胞中で自己複製を指令する配列を含んでよく、または宿主細胞DNA中への組み込みを可能にするのに十分な配列を含んでよい。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えばDNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌性人工染色体、およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損性レトロウイルスおよびレンチウイルスを含む。幾つかの実施形態では、ベクターは、遺伝子送達ベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターは、遺伝子を細胞中に移行するための遺伝子送達ビヒクルとして用いられる。
【0071】
本明細書中で用いる場合、用語「VHH」は、重鎖抗体の可変ドメインを指す。本明細書中で用いる場合、用語「VH」および「VL」は、それぞれ通常抗体の可変重鎖と可変軽鎖を指す。
【0072】
通常の技術を有する者により理解される通り、あらゆる目的で、書面の明細書を提供する観点から、本明細書中に開示される全ての範囲は、あらゆる可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせも包含する。任意の列挙された範囲は、その範囲を少なくとも同等の半分、三分の1、四分の1、五分の1、十分の1などに分割することを十分に記載しかつ可能であるものとして容易に理解することができる。非限定例として、本明細書中に記載の各範囲は、下部三分の1、中部三分の1および上部三分の1等に容易に分割することができる。当業者により理解される通り、「~以下」、「少なくとも」、「より多く」、「未満」等のような全ての語句は、言及された数を包含し、そして上記に記載した通りその後に部分範囲に分割することができる範囲を指す。最後に、当業者により理解される通り、範囲は各々個々のメンバーを含む。よって、例えば、1~3個の項目を有する群は、1、2または3個の項目を有する群を指す。同様に、1~5個の項目を有する群は、1、2、3、4または5個の項目を有する群を指すという風に。
【0073】
本明細書に記載の開示の態様と実施形態は、その態様および実施形態「を含む」、「から成る」、「本質的にそれから成る」ものを含む。本明細書中で用いる場合、「含む」は、「包含する」、「含有する」または「により特徴づけられる」と同義であり、包含的であるかまたは制限のない(自由な)意味(open-ended)であり、追加の、言及されない要素または方法の工程を排除しない。本明細書中で用いる場合、「から成る」は、言及される組成物または方法に特定されない任意の要素、工程または成分を排除する。本明細書中で用いる場合、「本質的にから成る」は、言及される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴に物質的に影響を与えない材料または工程を排除しない。本明細書中での用語「含む」の任意の言及は、特に組成物の成分の記載に関してまたは方法の工程の記載に関して、その用語の言及は、言及された組成物または工程から本質的に成るおよびから成るそれらの組成物と方法を包含すると解釈される。
【0074】
見出し、例えば(a)、(b)、(i)等は、単に明細書と特許請求の範囲を読む上での簡便性のために与えられる。明細書と特許請求の範囲における見出しの使用は、アルファベット順もしくは数字順でまたはそれらが記載されれている順序で実施されることを要求としない。
【0075】
細胞表面受容体
多くの場合、膜貫通受容体と呼ばれる細胞表面受容体は、細胞と外界との間のコミュニケーション(情報伝達)を媒介するタンパク質である。これらの受容体は、細胞外シグナル伝達分子の結合と、1つ以上の細胞内シグナル伝達分子へのそのメッセージの伝達を担っており、それは細胞の挙動を変化させる。細胞表面受容体は本質的に原形質膜に埋め込まれている。これらの受容体は酵素として作用するか、細胞内の酵素と会合する。刺激を受けると、酵素はさまざまな細胞内シグナル伝達経路を活性化する。それらは、動物組織の細胞の成長、増殖、分化および生存を調節する細胞外シグナルタンパク質に応答するそれらの役割を通して発見された。細胞の増殖、増殖、分化、生存および遊走の疾患は癌の基礎であり、酵素共役受容体を介したシグナル伝達の異常が、このクラスの疾患の発症において主な役割を果たしている。
【0076】
細胞表面受容体は、細胞外分子を受容する(それに結合する)ことにより、細胞のシグナル伝達に作用する。細胞外分子は、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、成長因子、細胞接着分子、または栄養素であることができ;それらは受容体と反応して細胞の代謝と活性の変化を誘導する。細胞のシグナル伝達の過程で、膜受容体を介したシグナル伝達過程は、リガンドが膜受容体に結合する外部反応と、細胞内応答が惹起される内部反応とを含む。
【0077】
それらの経路の重要な性質のため、細胞表面受容体における突然変異は、自己免疫、癌、神経変性、軟骨無形成症およびアテローム性動脈硬化症をはじめとする広域の疾患に関与している。実際、臨床用途での全医薬品のほぼ半数が細胞表面受容体を標的としており、これらのタンパク質とそのリガンドは、構造に基づいた薬物設計と新薬の開発にとって非常に重要な標的であり続けている。細胞表面受容体は、(i)イオンチャネル結合型受容体、(ii)酵素結合型受容体、および(iii)Gタンパク質共役型受容体の3つの主要なクラスに分類される。それらのうち、酵素結合型受容体は通常、細胞内酵素に直接結合する1回膜貫通型受容体である。このクラスには、広く研究されている受容体チロシンキナーゼ(RTK)、細胞の増殖と分化を制御するポリペプチド増殖因子に結合するJanusキナーゼ(JAKS)およびSTATを通してシグナル伝達する受容体(後者はJAK/STATサイトカイン受容体として知られる)が含まれる。以下でより詳細に説明するように、RPTP動員は、リン酸化機構を介してシグナル伝達するキナーゼ結合受容体に適用可能な方法であり、主にITAM/ITIM含有受容体および関連する免疫受容体(Bezbradica他、2012)、JAK/STATサイトカイン受容体(Rawlings他、2004)、およびリガンド依存状態と非依存状態の両方で活性であるRTK受容体(Bergeron他、2016)に適用される。
【0078】
酵素結合受容体の最大のファミリーは、チロシン残基上でそれらの基質タンパク質をリン酸化する、受容体プロテインチロシンキナーゼである。このファミリーには、大部分のポリペプチド成長因子の受容体が含まれるため、タンパク質チロシンのリン酸化は、動物細胞の成長と分化の制御に関与するシグナル伝達機構として特に十分に研究されている。実際、最初のプロテインチロシンキナーゼは、1980年代に動物腫瘍ウイルス、特にラウス肉腫ウイルスの発癌性タンパク質の研究の最中に発見された。上皮増殖因子(EGF)受容体は、その後プロテインチロシンキナーゼとして機能することが判明し、増殖因子刺激に対する細胞の応答における重要なシグナル伝達機構としてタンパク質チロシンリン酸化を明確に確立した。
【0079】
現在、50以上の受容体プロテインチロシンキナーゼが同定されており、それには上皮増殖因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン、および他の多くの増殖因子のための受容体が含まれる。それらの受容体は全て共通の構造的構成を共有している:N末端の細胞外リガンド結合ドメイン、1回膜貫通αヘリックス、プロテインチロシンキナーゼ活性を有する細胞質性C末端ドメイン。受容体プロテインチロシンキナーゼの大部分は、単一のポリペプチドから成るが、インスリン受容体と幾つかの関連の受容体は、2組のポリペプチド鎖から成る二量体である。それらの受容体の細胞外ドメインへのリガンド(例えば増殖因子)の結合は、それらの細胞質性キナーゼドメインを活性化し、受容体それ自体と細胞内標的タンパク質の両方のリン酸化をもたらし、それが増殖因子の結合により開始されるシグナルを伝搬する。大部分の受容体プロテインチロシンキナーゼからのシグナル伝達の第一段階は、リガンドにより誘発される受容体の二量化である。PDGFやNGFのような幾つかの増殖因子は、それ自体、2つの同一ポリペプチド鎖から成る二量体であり、それらの増殖因子は、2つの異なる受容体分子への同時結合によって直接二量化を誘導する。別の増殖因子(例えばEGF)は、単量体であるが、受容体を架橋する働きをする2つの別個の受容体結合部位を有する。
【0080】
リガンド誘導性の二量化は、その後二量化ポリペプチド鎖が互いに交差リン酸化する時に受容体の自己リン酸化をもたらす。そのような自己リン酸化は、それらの受容体からのシグナル伝達において2つの重要な役割を果たす。第一に、触媒ドメイン内のチロシン残基のリン酸化は、受容体型プロテインキナーゼ活性を増加せることにより調節する役割を果たし得る。第二に、触媒ドメインの外側のチロシン残基のリン酸化は、活性化型受容体の下流に細胞内シグナルを伝達する追加のタンパク質のための特異的な結合部位を構築する。それらの下流シグナル伝達分子と受容体プロテインチロシンキナーゼとの会合は、特定のホスホチロシン含有ペプチドに結合するタンパク質ドメインにより媒介される。それらのドメインのうち最も特徴的であるものは、それらがSrc(ラウス肉腫ウイルスの発癌性タンパク質)に関連するプロテインチロシンキナーゼにおいて最初に認識されたため、SH2ドメイン(Src相同体2に対する)と呼ばれる。SH2ドメインは、およそ100個のアミノ酸から成り、ホスホチロシン残基を含む特定の短鎖ペプチド配列に結合する。結果として生じたSH2含有タンパク質と活性型受容体プロテインチロシンキナーゼとの会合は、数種類の効果を有することができる。それは原形質膜にSH2含有タンパク質を局在化し、別のタンパク質との会合をもたらし、それらのリン酸化を促進し、それらの酵素活性を刺激する。それらのタンパク質と自己リン酸化受容体との会合は、増殖因子が細胞表面に結合することによって開始されるシグナルの細胞内伝達の最初の段階を表す。
【0081】
酵素結合型受容体の別のファミリーは、サイトカイン受容体および非受容体型プロテインチロシンキナーゼ(サイトカイン受容体スーパーファミリーとも呼ばれる)である。内在性の酵素活性を有すること以外に、多くの受容体は、それらが非共有結合的に会合する細胞内プロテインチロシンキナーゼ(例えばJAK/TYK)を刺激することによって作用する。この受容体ファミリーには、大部分のサイトカイン(例えばインターロイキン2およびエリスロポエチン)の受容体および幾つかのポリペプチドホルモン(例えば成長ホルモン)の受容体が含まれる。受容体プロテインチロシンキナーゼと同様、サイトカイン受容体は、N末端細胞外リガンド結合ドメイン、1回膜貫通αヘリックス、およびC末端細胞質ドメインを含む。しかしながら、サイトカイン受容体の細胞質ドメインは、いずれの既知触媒活性も欠いている。代わりに、サイトカイン受容体は、リガンド結合の結果として活性化される、非受容体型プロテインチロシンキナーゼと連携して機能する。
【0082】
サイトカイン受容体からのシグナル伝達における第一段階は、リガンド誘発性の受容体二量化と、会合した非受容体プロテインチロシンキナーゼの交差リン酸化であると考えられる。それらの活性化されたキナーゼは、次いで受容体をリン酸化し、SH2ドメインを含む下流のシグナル伝達分子の動員のためのホスホチロシン結合部位を提供する。よって、サイトカイン受容体と会合する非受容体プロテインチロシンキナーゼとの組み合わせは、受容体プロテインチロシンキナーゼのファミリーと同様に機能する。
【0083】
サイトカイン受容体と会合する非受容体プロテインチロシンキナーゼは、2つの主なファミリーに入る。それらのキナーゼの多くはSrcファミリーであり、そのファミリーはSrcと8つの密接に関連したタンパク質とから成る。Srcは最初ラウス肉腫ウイルスの発癌性タンパク質として同定され、プロテインチロシンキナーゼ活性を有することが示された最初のタンパク質であり、従ってそれは本発明者らの現在の細胞シグナル伝達の解明に至った実験で重要な役割を果たした。Srcファミリーメンバーに加えて、サイトカイン受容体は、JanusキナーゼすなわちJAKファミリーに属する非受容体プロテインチロシンキナーゼと会合する。JAKファミリーのメンバーは、サイトカイン受容体からのシグナル伝達に共通して必要とされるように思われ、JAKファミリーキナーゼはそれらの受容体を細胞内標的のチロシンリン酸化に関連付ける重要な役割を果たすことを示した。対照的に、Srcファミリーのメンバーは、BおよびTリンパ球上の抗原受容体からのシグナル伝達に重要な役割を果たすが、大部分のサイトカイン受容体からのシグナル伝達には必要でないように思われる。
【0084】
大部分の酵素結合型受容体は、タンパク質-チロシンリン酸化を刺激するが、幾つかの受容体は他の酵素活性と関連付けられる。それらの受容体にはプロテインチロシンホスファターゼが含まれる。プロテインチロシンホスファターゼは、ホスホチロシン残基からリン酸基を除去し、それによってプロテインチロシンキナーゼの作用を相殺する働きをする。多くの場合、プロテインチロシンキナーゼは、タンパク質チロシンリン酸化によって開始されるシグナルを停止させることによって細胞のシグナル伝達経路において負の調節という役割を果たす。しかしながら、幾つかのプロテインチロシンホスファターゼは、その酵素活性が細胞シグナル伝達において正の役割を果たす細胞表面受容体である。一例は、TおよびBリンパ球の表面上に発現されるホスファターゼCD45により与えられる。抗原刺激後、CD45は、特定のホスホチロシン残基を脱リン酸化し、それがSrcファミリーメンバーの酵素活性を阻害すると考えられる。
【0085】
細胞表面受容体の幾つかのメンバーは、免疫系の調節因子、例えば刺激性チェックポイントまたは阻害性チェックポイントであることができる免疫チェックポイントである。それらの受容体は内在性の酵素活性は持たないが、代わりにそれらの細胞内ITAM、ITSM、および/またはITIMモチーフを介してキナーゼの基質として機能する(例えばPardoll、2012参照)。これらの受容体活性は、それらの細胞内ドメインに対して作用するリン酸化とホスファターゼ活性とのバランスを通して調節されるので、記載のようなホスファターゼの連結(ライゲーション)によるシグナル活性調節のための優れた候補である。それらのうち、阻害性チェックポイントは、多数のタイプの癌における使用可能性があるために、癌免疫療法の有力なターゲットとしてますます検討されてきている(Topalian他、2015)。現在承認されているチェックポイント阻害剤は、CTLA-4とPD-1とPD-L1をブロックする。別の2つの刺激性チェックポイント分子は、B7-CD28スーパーファミリー、いわゆるCD28自体とICOSに属している。阻害性チェックポイントには、限定されないが、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGIT、およびVISTA、並びにその機能的変異体が含まれる。
PD-1
【0086】
PD-1は、プログラム細胞死タンパク質1およびCD279(分化クラスター279)としても知られているが、T細胞炎症活性を抑制することにより免疫系をダウンレギュレーションしかつ自己寛容を促進する上で重要な役割を果たす、細胞表面受容体である。PD-1は免疫チェックポイントであり、リンパ節の抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進すると同時に、制御性T細胞(抗炎症性、抑制性T細胞)のアポトーシスを減少させるという二重のメカニズムを通して自己免疫に対し防御する。これらのメカニズムを通し、PD-1は免疫系を阻害すると考えられる。ヒトの場合のPD-1タンパク質はPDCD1遺伝子によりコードされる。
【0087】
PD-1はB7ファミリーのメンバーである2つのリガンド、PD-L1とPD-L2を有する。PD-L1タンパク質は、LPSおよびGM-CSF処理に応答してマクロファージと樹状細胞(DC)上でアップレギュレートされ、そしてTCRおよびB細胞受容体のシグナル伝達によりT細胞とB細胞上でアップレギュレートされるが、一方で静止時マウスでは、PD-L1 mRNAは心臓、肺、胸腺、脾臓、腎臓で検出することができる。PD-L1は、IFN-γで処理すると、P815肥満細胞腫、PA1骨髄腫、B16黒色腫を含む、ほぼ全てのマウス腫瘍細胞株上に発現される。PD-L2の発現はより制限されており、主にDCと多数の腫瘍系列によって発現される。
CTLA-4
【0088】
CD152(分化クラスター152)としても知られているCTLA4またはCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)は、免疫チェックポイントとして機能し、免疫応答をダウンレギュレートするタンパク質受容体である。CTLA4は制御性T細胞で構成的に発現されるが、通常のT細胞では活性化後にのみアップレギュレートされ、この現象は特に癌で顕著である。CTLA-4は、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合すると、「オフ」スイッチとして機能する。CTLA-4タンパク質は、マウスではCtla4遺伝子、ヒトではCTLA4遺伝子によりコードされている。この遺伝子の変異体は、インスリン依存性糖尿病、グレーブス病、橋本甲状腺炎、セリアック病、全身性エリテマトーデス、グレーブス病、橋本甲状腺炎、セリアック病、甲状腺関連眼窩症、原発性胆汁性肝硬変およびその他の自己免疫疾患に関連があるとされている。CTLA-4遺伝子の多型は、自己免疫性甲状腺疾患や多発性硬化症などの自己免疫疾患に関連があるが、この関連性はしばしば弱い。全身性エリテマトーデス(SLE)では、CTLA-4のスプライス変異体が異常産生されることが分かっており、活動性SLE患者の血清中に認められる。
【0089】
CTLA-4は活性化T細胞によって発現され、T細胞に阻害性シグナルを伝達する。CTLA-4はT細胞共刺激タンパク質であるCD28と相同であり、その両方の分子が抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA-4は、CD28よりも高い親和性と結合力でCD80とCD86に結合するため、CD28のリガンドを目当てにCD28と競争して打ち勝つことができる。ただし、CTLA-4は阻害性シグナルをT細胞に伝達するが、一方でCD28は刺激性シグナルを伝達する。CTLA-4は制御性T細胞にも見られ、その阻害機能に寄与する。
CD28
【0090】
CD28(分化クラスター28)は、T細胞活性化と生存に必要な共刺激シグナルを提供するT細胞上に発現されるタンパク質の1つである。T細胞受容体(TCR)に加えてCD28を通したT細胞刺激は、様々なインターロイキン(特にIL-6)の産生のための強力なシグナルを提供することが報告されている。共刺激性受容体CD28は、そのリガンドであるB7.1(CD80)およびB7.2(CD86)によって活性化され、TCRシグナル伝達と協働してT細胞の増殖とT細胞プライミング中の生存を促進する。Toll様受容体リガンドによって活性化されると、抗原提示細胞(APC)でのCD80発現がアップレギュレートされる。抗原提示細胞でのCD86発現は構成的である(その発現は環境要因とは無関係である)。CD28は、ナイーブT細胞上で構成的に発現されるB7受容体であることが知られている。マウスのループス(全身性紅斑性狼瘡)モデルにおけるCD28-/- MRL-lprの阻害は、糸球体腎炎の遅延と軽減、腎血管炎および関節炎の欠失を表すことが証明されており、CD28-B7相互作用のブロックが自己免疫ループスの潜在的な治療法でありうることを暗示している。
TIM-3
【0091】
TIMファミリー細胞表面受容体タンパク質に属するTIM-3(T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有-3)は、例えば、Th1(Tヘルパー1)CD4+ 細胞およびIFN-γを分泌する細胞傷害性CD8+ T細胞上で発現される、膜貫通受容体タンパク質である。TIM-3は通常、ナイーブT細胞では発現されず、むしろ活性化されたエフェクターT細胞上でアップレギュレートされる。TIM-3は、in vivoで免疫と寛容を調節する役割を果たす。
【0092】
ヒトでは、TIM-3は、IFNγを産生するCD4+ Th1およびCD8+ Tc1細胞上で発現される細胞表面分子として最初に記載され、HAVCR2遺伝子によりコードされる。TIM-3の発現は、その後Th17細胞、調節性T細胞および先天性免疫細胞、例えば樹状細胞、NK細胞、単球中で検出される。TIM-3は、T細胞受容体(TCR)複合体の多数の成分と相互作用し、その機能を負に調節すると考えられる、5つの保存されたチロシン残基を含む。TIM-3は、免疫チェックポイント薬であると考えられ、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)およびリンパ球活性化遺伝子3タンパク質(LAG3)を含む別の抑制性受容体と一緒になって、CD8+ T細胞枯渇を媒介する。TIM-3は、マクロファージの活性化を調節し、かつマウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎の重症度を高める、CD4+ Th1特異的細胞表面タンパク質としても示されている。
CD5
【0093】
CD5は、様々な種のT細胞の表面上およびB-1aとしても知られるマウスB細胞のサブセットに発現される分化クラスター(CD)の1つである。CD5はI型糖タンパク質であり、スカベンジャー受容体ファミリーの一員である。CD5は、胸腺細胞、成熟T細胞、および成熟B細胞のサブセットにより発現され、リンパ球の活性化の調節および分化過程に関与していることが示されている。CD72、gp80-40、およびIgフレームワーク構造はCD5の目的リガンドであり、CD5とそれらの相互作用がマウスで証明されている。CD3に対するモノクローナル抗体が開発されるまで、CD5がT細胞マーカーとして使用されてきた。おそらく同種親和性であるCD5は、他の細胞の表面にも結合できることが報告されている。T細胞はB細胞よりも高レベルのCD5を発現する。CD5は、強力な活性化によりT細胞上でアップレギュレートされる。胸腺では、CD5発現と自己ペプチドに対するT細胞の相互作用の強さとに相関関係が認められる。
【0094】
CD5は、B細胞受容体(BCR)の近傍の表面IgMのCD79aとCD79b形質導入パートナーに会合し、CD5シグナル伝達は、脂質ラフト中へのBCRとCD79aおよびCD79bとの共沈によって媒介される。CD79aおよびCD79bは、Lynに加えてSykやZap70などの他のチロシンキナーゼによってリン酸化され、更にチロシンホスファターゼSHP-1がこのシグナル伝達のメディエーターであると報告されている。
CD132
【0095】
CD132(共通γ鎖-γc)は、インターロイキン-2受容体サブユニットγまたはIL-2RGとしても知られ、IL-2、Il-4、IL-7、IL-9、IL-15およびインターロイキン21受容体などの数種類の異なるインターロイキン受容体に対する受容体複合体に共通であるサイトカイン受容体サブユニットである。γc鎖はこれらのリガンド特異的受容体と提携して、サイトカインに応答するようにリンパ球に指令を送る。γc糖タンパク質は、ほとんどのリンパ球(白血球)集団上に発現するI型サイトカイン受容体ファミリーの1員である。ヒトでは、CD132はIL2RG遺伝子によりコードされる。
【0096】
CD132は、骨髄中の未熟造血細胞の表面上に発現される。CD132タンパク質の一方の端は、それがサイトカインに結合する細胞の外側にあり、該タンパク質のもう一方の端は、それが細胞の核にシグナルを伝達する細胞の内側に存在する。CD132は他のタンパク質と提携して、造血細胞にリンパ球を形成させるよう指令する。CD132を発現するリンパ球は、これらのサイトカインタンパク質のための機能的受容体を形成することができ、その受容体がある細胞から別の細胞へとシグナルを伝達し、細胞分化のプログラムを指令する。
TIGIT
【0097】
TIGIT(IgとITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)は、細胞質の末尾部に免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)を有する免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーの一員であり、それは活性型T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞のサブセット上に発現される。TIGITの別名にはWUCAMとVstm3がある。TIGITはCD155(いわゆるPVRまたはnecl-5)、CD112(PVRL2またはネクチン-2)、およびおそらくCD113(PVRL3またはネクチン-3)と相互作用することが知られている。抗原提示細胞上に発現される高親和性リガンドCD155とTIGITの結合は、T細胞とNK細胞の機能を抑制することが報告されている。TIGITは、樹状細胞によるサイトカイン産生を調節することにより、間接的にT細胞を阻害することも報告されている。TIGIT-Fc融合タンパク質は、樹状細胞上のPVRと相互作用し、LPS刺激下でIL-10分泌レベルを増加させ/IL-12分泌レベルを減少させ、更にin vivoでのT細胞活性化も阻害することができると報告されてる。NK細胞毒性に対するTIGIT阻害活性は、CD155との相互作用に対する抗体によってブロックされ、その活性はITIMドメインを介して指令される。
受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)
【0098】
可逆性のタンパク質チロシンリン酸化は、代謝、増殖、接着、分化、遊走、通信および結合をはじめとする基本的な細胞事象に影響を及ぼす細胞シグナル伝達を調節する主要な機序である。例えば、タンパク質のチロシンリン酸化は、タンパク質間相互作用、コンホメーション、安定性、酵素活性、細胞内局在化などのタンパク質機能を決める。この重要な調節機序の崩壊は、癌、糖尿病、自己免疫疾患など、様々なヒトの病気の一因である。正味タンパク質チロシンリン酸化は、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)活性とプロテインチロシンホスファターゼ(PTP)活性の動的バランスによって決定される。PTKとPTPの間の微妙なバランスの調節の異常が、癌、糖尿病、自己免疫疾患などの多くのヒトの病気の病因に関与している。
【0099】
PTPは大型で構造的に多様性のある酵素ファミリーを構成する。シーケンシングデータは、ヒトゲノム中に107個のPTP遺伝子があり、そのうち81個が活性プロテインホスファターゼをコードすることを示している。PTPスーパーファミリーの中で、38個が古典的なチロシン特異的PTPであり、他の43個は二重特異性チロシン/セリン、スレオニンホスファターゼである。古典的PTPは、PTPドメインとして知られる少なくとも1つの触媒ドメインを所有する。280アミノ酸のPTP触媒ドメインは、不変の活性部位シグネチャーモチーフ(I/V)HCXAGXXR(S/T)Gを含み、これには、基質のリン酸基に対する求核攻撃とそれに続く基質の脱リン酸化を触媒する必須システイン残基が含まれている。
【0100】
PTPは、それらの全体的構造に基づいて、膜貫通型受容体様PTP(RPTP)および非膜貫通型PTPに更に細分することができる。これらのうち、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)は、細胞内PTP活性を有し、細胞接着分子(CAM)に対する配列相同性を有する細胞外ドメイン(ECD)を有する統合型(integral)細胞表面タンパク質の1ファミリーである。ほとんどのRPTPの細胞内ドメイン(ICD)は、D1およびD2と呼ばれる2つのタンデム(直列)のPTPドメインを含む。一般に、膜近傍PTPドメイン(D1)は触媒活性の大部分を所有するが、膜遠位PTPドメイン(D2)は、あるとしても微弱な触媒活性を有する。RPTPのECDは、CAM様モチーフと、フィブロネクチンIII型(FN3)、メプリン、A5、PTPμ(MAM)、免疫グロブリン(Ig)、および炭酸脱水酵素(CA)に相同である配列との組み合わせを含んでいる。まとめると、RPTPの分子構造は、細胞外接着により媒介される事象を、細胞内シグナル伝達経路の調節へ直接連結できるようにする。
【0101】
それらのECD構造に基づいて、RPTPファミリーは、8つのサブファミリーに分類することができる:R1/R6、R2A、R2B、R3、R4、R5、R7およびR8。これらのサブファミリーの代表的なメンバーには、それぞれCD45、LAR、RPTP-κ、DEP1、RPTP-α、RPTP-ζ、PTPRR、およびIA2が含まれる。それらのサブファミリーの各々を規定する構造的特徴、それらの分子/生化学的構造、調節様式、基質特異性および生物学的機能に関する更なる情報は、十分に文書化されており、例えばXu Y.他(J. Cell Commun. Signal. 6:125, 138, 2012)中に見つけることができる。
CD45
【0102】
白血球共通抗原(LCA)とも呼ばれる受容体型プロテインチロシンホスファターゼCD45は、RPTPのR1/R6サブタイプの唯一のメンバーである。CD45はI型膜貫通タンパク質であり、赤血球と形質細胞を除くすべての分化した造血細胞上に様々な形態で提示され、それらの細胞の活性化を助ける(共刺激の一形態)。CD45は、リンパ腫、B細胞慢性リンパ性白血病、有毛細胞白血病、および急性非リンパ球性白血病において発現される。遺伝子PTPRCによってコードされるヒトCD45は、血小板と赤血球を除き、造血細胞を含むリンパ系起源の全ての細胞によって発現される細胞膜チロシンホスファターゼであり、T細胞とB細胞のシグナル伝達の重要な調節因子として機能する。CD45は、細胞外領域、短い膜貫通セグメント、および細胞質領域のタンデム(直列)のPTPドメインから構成される。CD45では、該分子の細胞外ドメイン中のエクソンの複雑な選択的スプライシングによって多数のアイソフォームが生成される。これらのアイソフォームは、細胞の分化と活性化状態に応じて細胞型に特有の方法で発現される。CD45アイソフォームの非限定的例としては、CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、CD45R(ABC)が挙げられる。CD45RAはナイーブT細胞上にあり、CD45R0は記憶T細胞上に存在する。CD45Rは最長のタンパク質であり、T細胞から分離されると200 kDaの分子量の位置で移動する。B細胞もまた、分子量を220 kDaにするより高度の(重い)グリコシル化を有するCD45Rを発現するため、220 kDaのB細胞アイソフォームであるB220と命名された。B220の発現はB細胞に限定されず、活性型T細胞、樹状細胞のサブセット、および他の抗原提示細胞上でも発現されうる。ナイーブTリンパ球は大型CD45アイソフォームを発現し、通常はCD45RA陽性である。活性型の記憶Tリンパ球は、RA、RBおよびRCエクソンを欠いている最短形のCD45アイソフォームであるCD45R0を発現する。この最短形アイソフォームはT細胞活性化を促進すると考えられる。
【0103】
CD45は、免疫系の発達および機能において重要な役割を果たし、抗原特異的リンパ球の刺激および増殖に必要とされる。CD45は、TCR活性化閾値を制御し、サイトカイン応答を調節し、リンパ球の生存を調節することにより、免疫応答を調節する。これらのプロセスはすべて、自己免疫疾患や感染症の病因に不可欠である。
【0104】
CD45は、多くの免疫受容体に動員されるのに適したRPTP標的である。その理由は、それが基質と互いに空間的近傍に置かれると、例えば2つのRPTP結合モジュールと受容体結合モジュールとが受容体の細胞内ドメインの脱リン酸化を達成するのに十分なほど近位に置かれると、広範囲の基質に作用するからである。CD45は、LynやLckなどのPTKのSrcファミリー(SFK)のチロシンリン酸化を調節することにより、T細胞およびB細胞の受容体機能を媒介する。CD45はLynとLck中の阻害性C末端リン酸化部位を脱リン酸する。CD45により媒介される他のチロシンの脱リン酸化によるSFK活性の減弱も報告されている。CD45ノックアウトマウスにおける研究は、CD45媒介のFynとLckの活性化が、胸腺細胞の発達に重要であることを示している。TCRライゲーション時に、活性化されたFynおよびLckは、TCR-ζ(ゼータ)やCD3-ε(イプシロン)などのTCR複合体の成分をリン酸化する。これらのチロシンリン酸化タンパク質は、Src-相同体2(SH2)ドメインを含むタンパク質が下流シグナルを伝達するためのドッキング部位を提供する。CD45ヌル胸腺細胞では、TCRのライゲーションが、LynやLckの活性化、またはその後のTCR複合体のチロシンリン酸化を引き起こさない。従って、下流シグナル伝達事象は全く起こらず;このことは TCR活性化におけるCD45の重要な役割を示唆している。CD45は、CD3-ζ(ゼータ)およびCD3-ε(イプシロン)ITAM、Janusキナーゼ(JAK)を脱リン酸化し、そしてサイトカイン受容体活性化を負に調節するPTPとしても同定されている。
開示の組成物
多価ポリペプチドおよび多価抗体
【0105】
一態様では、本明細書中に開示される幾つかの実施形態は、多価ポリペプチドモジュール、例えば各々が1つ以上の標的タンパク質に結合することができるモジュラータンパク質結合部分を含む、新規キメラポリペプチドに関する。幾つかの実施形態では、開示のキメラポリペプチドは、(i)受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列、および(ii)リン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列を含み、ここで第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。幾つかの実施形態では、本開示のキメラポリペプチドは、多価ポリペプチドである。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、多価抗体である。第一のポリペプチドモジュールおよび第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、標的の天然リガンドと競合的または非競合的様式のいずれかでありうる。従って、本開示の幾つかの実施形態では、第一のポリペプチドモジュールおよび/または第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、リガンドブロッキング(遮断)であり得る。幾つかの他の実施形態では、第一のポリペプチドモジュールおよび/または第二のポリペプチドモジュールとそのそれぞれの標的との結合は、天然リガンドの結合をブロックしない。本明細書中で用いる場合、本明細書で使用する「多価ポリペプチド」という用語は、互いに作動可能に連結された2つ以上のタンパク質結合モジュールを含むポリペプチドを指す。例えば、本開示の「二価」ポリペプチドは、2つのタンパク質結合モジュールを含み、一方で本開示の「三価」ポリペプチドは、3つのタンパク質結合モジュールを含む。ポリペプチドモジュールのアミノ酸配列は、通常、多価ポリペプチドに一緒にまとめられた別個のタンパク質内に存在してもよく、または同じタンパク質内に存在してもよいが、それらは多価ポリペプチド内に新しい配置で配置される。多価ポリペプチドは、例えば、化学合成により、またはペプチド領域が所望の関係でコードされているポリヌクレオチドを作製しそしてそれを翻訳することにより、作製することができる。
【0106】
キメラポリペプチドのアミノ酸配列の設計、例えば、「第一の」アミノ酸配列として受容体プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチド、および「第二の」アミノ酸配列として細胞表面受容体に結合することができるポリペプチドモジュールを含む多価ポリペプチドのアミノ酸配列の設計は、多価ポリペプチド内での「第一」と「第二」のアミノ酸配列のいずれか特定の構造的配置を意味するものではない。非限定的な例として、本開示の幾つかの実施形態において、多価ポリペプチドまたは多価抗体は、RPTPに結合することができるN末端ポリペプチドモジュールと、細胞表面受容体に結合することができるポリペプチドを含むC末端ポリペプチドモジュールとを含むことができる。別の実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体は、細胞表面受容体に結合することができるN末端ポリペプチドモジュールと、RPTPに結合することができるC末端ポリペプチドモジュールとを含むことができる。それに加えてまたは代わりに、多価ポリペプチドまたは多価抗体は、RPTPに結合することができる2つ以上のポリペプチドモジュール(例えばモジュール)、および/または細胞表面受容体に結合することができる2つ以上のポリペプチドモジュールを含むことができる。従って、幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一のアミノ酸配列が、各々RIPTに結合することができる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールを含む。幾つかの実施形態では、第一のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールが各々同じRPTPに結合することができる。幾つかの実施形態では、第一のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールが各々異なるRPTPに結合することができる。
【0107】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の第二のアミノ酸配列は、各々が細胞表面受容体に結合することができる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールを含む。幾つかの実施態様では、第二のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールが、同じ細胞表面受容体に結合することができる。幾つかの実施形態では、第二のアミノ酸配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10個のポリペプチドモジュールが各々異なる細胞表面受容体に結合することができる。各々が異なる細胞表面受容体に結合することができる複数のポリペプチドを含むそのような多価ポリペプチドまたは多価抗体の非限定例は、実施例17に記載される。
【0108】
それに加えてまたはその代わりに、上記に示唆した通り、本開示の多価ポリペプチドと抗体は、それぞれの標的タンパク質に対する多価ポリペプチドまたは多価抗体の結合親和性に影響を及ぼす、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を含むことができる。そのようなものとして、その各々の標的(例えばRPTPまたは細胞表面受容体)に対するポリペプチドモジュールの結合親和性は、所望の標的細胞特異性を達成するように調整する(チューニングする)ことができる。例えば、CD45は広く発現されるので、PD1結合モジュールは高親和性結合モジュールを形成するように構成でき、一方でCD45結合モジュールはより低い結合親和性を持つように構成することができる。例えば、幾つかの実施形態において、細胞表面受容体結合モジュールは、RPTPに対するRPTP結合モジュールの結合親和性と比較した場合、細胞表面受容体に対してより高い親和性(より低いKd)を有する。幾つかの実施形態では、親和性の差は、大きさで少なくとも一桁、または少なくとも二桁である(例えばRPTPに対するRPTP結合モジュールの相互作用のKdと、細胞表面受容体に対する細胞表面受容体結合モジュールの相互作用のKdとの比が、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、または少なくとも100である)。当業者は、RPTPまたはその標的受容体に対して高親和性を有し、かつ他のものに対しては低親和性を有するという多価ポリペプチドまたは多価抗体のこの概念が、標的細胞特異性に合わせてRIPR活性を微調整する重要な部分でありうることを認識するだろう。従って、幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールの結合親和性は、受容体結合ポリペプチドモジュールの結合親和性とは異なり得る。例えば、幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールはその標的に対して高い親和性を有し、受容体結合ポリペプチドモジュールはその標的に対して低い親和性を有する。幾つかの実施形態では、RPTP結合ポリペプチドモジュールは、その標的に対して低い親和性を有し、そして細胞表面受容体結合ポリペプチドモジュールはその標的に対して高い親和性を有する。幾つかの実施形態において、RPTP結合モジュールと受容体結合モジュールは、そのそれぞれの標的タンパク質に対して同じ親和性を有する。
【0109】
幾つかの実施形態において、各々の標的の細胞外ドメインに対して親和性を有する受容体結合モジュールとRPTP結合モジュールの結合親和性は、独立に、Kd=10-5~10-12 M、例えば、約10-5~約10-11 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-10 MのKd、あるいは約10-6 ~約10-12 MのKd、あるいは約10-7 ~約10-12 MのKd、あるいは約10-8 ~約10-12 MのKd、あるいは約10-9 ~約10-12 MのKd、あるいは約10-10~約10-12 MのKd、あるいは約10-11~約10-12 MのKd、あるいは約10-5~約10-11 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-10 MのKd、あるいは約10-5~約10-9 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-10 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-9 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-8 MのKd、あるいは約10-5~約10-9 MのKd、約10-5 ~約10-8 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-7 MのKd、あるいは約10-5 ~約10-6 MのKdである。
【0110】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、約1000 nM、約800 nM、約700 nM、約600 nM、約500 nM、約400 nM、約200 nM、約100 nM、約10 nM、約5 nM、または約1 nMのKdでRPTP(例えばCD45)に対する結合親和性を有する。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、RPTPに対して低い結合親和性を有し、例えば約10-5M超のKd、例えば約10-4 M超のKd、例えば約10-3 M超のKd、例えば約10-4 M超のKd、例えば約10-3 M超のKd、例えば約10-2 M超のKd、または例えば約10-1 M超のKdを有する。幾つかの実施形態では、RPTP(例えばCD45)に対する結合親和性(Kd)は、約700 nMであり得る。幾つかの実施形態では、CD45に対する多価ポリペプチドまたは多価抗体の結合親和性は、約300 nMであり得る。
【0111】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、1,000 nM、約800 nM、約700 nM、約600 nM、約500 nM、約400 nM、約200 nM、約150 nM、約100 nM、約80 nM、約60 nM、約40 nM、約20 nM、約10 nM、約5 nM、または約1 nMのKdで、細胞表面受容体(例えばPD-1)に対する結合親和性を有することができる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、例えば約10-8 M未満、約10-9 M未満、約10-10 M未満、約10-11 M未満、または約10-12 M未満のKdで、細胞表面受容体に対する高い結合親和性を有する。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体に対する親和性は約7 nMであり得る。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体に対する多価ポリペプチドまたは多価抗体の結合親和性は、約6 nMであり得る。幾つかの実施形態において、細胞表面受容体に対する結合親和性は、約5 nMであり得る。
【0112】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一のアミノ酸配列が第二のアミノ酸配列に直接連結されている。幾つかの実施形態では、第一のアミノ酸配列は、少なくとも1つの共有結合によって第二のアミノ酸配列に直接連結されている。幾つかの実施形態では、第一のアミノ酸配列は、少なくとも1つのペプチド結合によって第二のアミノ酸配列に直接連結されている。幾つかの実施形態では、第一のアミノ酸配列のC末端アミノ酸は、第二のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸に作動可能に連結され得る。あるいは、第一のポリペプチドモジュールのN末端アミノ酸が第二のポリペプチドモジュールのC末端アミノ酸に作動可能に連結されうる。
【0113】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一のアミノ酸配列がリンカーを介して第二のアミノ酸配列に作動可能に連結される。本明細書中に記載の多価ポリペプチドに使用することができるリンカーに関しては何も特別な制限はない。幾つかの実施形態では、リンカーは、例えば、化学架橋剤などの合成化合物リンカーである。市販されている適当な架橋剤の非限定的例としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸エステル(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸エステル(スルホ-DST)、ビス〔2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)およびビス〔2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル〕スルホン(スルホ-BSOCOES)。本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体に適した代替的な構造や結合の他の例としては、Spiess他、Mol. Immuno. 67:95-106、2015中に記載のものが挙げられる。
【0114】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一のアミノ酸配列は、リンカーポリペプチド配列(ペプチド結合)を介して第二のアミノ酸配列に作動可能に連結される。理論上、リンカーポリペプチド配列の長さおよび/またはアミノ酸組成に何ら特別な制限はない。幾つかの実施形態では、約1から約100アミノ酸残基(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15 、16、17、18、19、20などのアミノ酸残基)を含む任意の一本鎖ポリペプチドが、ポリペプチドリンカーとして使用できる。幾つかの実施形態では、リンカーペプチド配列は、約5~50、約10~60、約20~70、約30~80、約40~90、約50~100、約60~80、約70~100、約30~60、約20~80、約30~90アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10、約5~15、約10~20、約15~25、約20~40、約30~50、約40~60、約50~70アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は約40~70、約50~80、約60~80、約70~90.または約80~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は約1~10、約5~15、約10~20、約15~25アミノ酸残基を含む。
【0115】
幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列の長さとアミノ酸組成は、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性を変化させて望ましい活性の多価ポリペプチドを達成するように最適化することができる。幾つかの実施形態では、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強または低減するであろうチューニング作用(同調作用)を果たすための「チューニング」手段として様々に変更することができる。幾つかの実施形態では、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性を最適化して、二重特異性ポリペプチドの部分アンタゴニストから完全アンタゴニストまで種々の変形を作製することができる。幾つかの実施形態では、リンガーはグリシンおよび/またはセリン残基のみを含む(例えばグリシン-セリンリンカー)。そのようなポリペプチドリンカーの例としては、Gly、Ser; Gly Ser; Gly Gly Ser; Ser Gly Gly; Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly; (Gly Gly Gly Gly Ser)n(ここでn は1以上の整数である);および(Ser Gly Gly Gly Gly)n(ここでnは1以上の整数である)が挙げられる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドは、アミノ酸配列GlySerGly (GSG)(典型的なGly/Serリンカーポリペプチド反復配列の接合の箇所に存在する)が存在しないように改変される。例えば、幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS およびGGGGS(XGGGS)n(ここでXは、配列中に挿入することができる任意アミノ酸であるが、配列GSGを含むポリペプチドを生じないアミノ酸であり、nは0~4である)から成る群より選択されたアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGSであり、X1はPでありそしてX2 はSであり、nは0~4である。 幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は (GGGX1X2)nGGGGS であり、X1 はG でありそしてX2 はQ であり、n は0 ~ 4である。幾つかの別の実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS であり、X1はGでありそしてX2はAであり、n は0 ~4である。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列はGGGGS(XGGGS)nであり、X はPであり、そしてn は0~4である。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGGQ)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGPS)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドはアミノ酸配列GGGGS(PGGGS)2を含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドは、配列表中の配列番号7、36、38、40、42、44、46、48、50または52に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれから成る。
【0116】
加えて、またはその代わりに、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、1つ以上の受容体結合モジュールに化学的に結合した1つ以上のRPTP結合モジュールを含み得る。幾つかの実施形態は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、(i) 1つ以上の受容体結合モジュールに化学的に結合した1つ以上のRPTP結合モジュール;および(ii) ペプチド結合を介して1つ以上の受容体結合モジュールに結合した1つ以上のRPTP結合モジュールを含む。
【0117】
本明細書に開示される幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンドまたは抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態において、第一および第二のポリペプチドモジュールのうちの少なくとも1つは、タンパク質結合リガンドのアミノ酸配列を含む。一般に、任意の適切なタンパク質結合リガンドを本開示の組成物と方法に使用することができ、例えば、標的抗体または標的タンパク質に対して特異的結合親和性を有する任意の組換えポリペプチドまたは天然ポリペプチド(例えば、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)または細胞表面受容体の組換えまたは天然型リガンド受容体)であることができる(Verdoliva、他、J. Immuno. Methods, 2002; Naik他、J. Chromatography, 2011も参照のこと)。例えば、ホスファターゼCD45のための適当なリガンドの非限定例としては、例えば、レクチンCD22(Hermiston ML他、Annu. Rev. Immunol. 2003)およびガラクチン-1(Walzel H.他、J. Immunol. Lett. 1999およびNguyen JT他、J Immunol. 2001)などの天然リガンドが挙げられる。幾つかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、細胞表面受容体のまたはRPTPの1つ以上の細胞外ドメイン(ECD)のアミノ酸配列を含む。従って、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドの第一のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第二のモジュールに作動可能に連結されたRPTPの1つ以上のECDを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドの第二のポリペプチドモジュールは、多価ポリペプチドの第一のモジュールに作動可能に連結されたRPTPの1つ以上のECDを含む。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドの第二のポリペプチドモジュールは、該多価ポリペプチドの第一のモジュールに作動可能に連結された細胞表面受容体の1つ以上のECDを含む。
【0118】
上記のように、本開示の組成物と方法に適したタンパク質結合リガンドの非限定的例には、細胞表面受容体の天然リガンドが含まれる。例えば、PD-1の適当な天然リガンドにはB7ファミリーのメンバーであるPD-L1とPD-L2が含まれる。適当なCD5の天然リガンドには、CD72、gp80-40、およびIgフレームワーク構造が含まれる。実施例18に記載のように、IL-2Rの天然リガンドである組換えインターロイキン-2(IL-2)は、抗CD45 scFvに作動可能に連結させてCD45とIL-2Rに結合することができる多価ポリペプチドを生成することができる。
【0119】
それに加えてまたはその代わりに、タンパク質結合リガンドは、標的の天然リガンドのアゴニストまたはアンタゴニストバージョンであり得る。よって、幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)または細胞表面受容体のアゴニストリガンドである。幾つかの別の実施形態では、タンパク質結合リガンドは、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)または細胞表面受容体のアンタゴニストリガンドである。幾つかの実施形態では、タンパク質結合リガンドは、例えば、ペプチドや小分子などの合成分子であることができる。
【0120】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、標的タンパク質、例えば受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)または細胞表面受容体に結合する抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、抗体またはその抗原結合フラグメントの1つ以上の抗原結合決定基を含む。遮断抗体と非遮断抗体のどちらも適当である。本明細書で用いる場合、「遮断(ブロッキング)」抗体または「アンタゴニスト」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的または機能的活性を防止する、阻害する、遮断する(ブロックする)、または減少させる抗体を指す。遮断抗体またはアンタゴニスト抗体は、実質的にまたは完全に、抗原の生物学的活性を防止、阻害、遮断または減少させることができる。例えば、遮断抗PD-1抗体は、PD-1とPD-L1の間の結合相互作用を防止、阻害、遮断または減少させることができ、それによってPD-1/PD-L1相互作用に関連した免疫抑制機能を防止、阻害、遮断または減少させることができる。「非遮断」抗体という用語は、それが結合する抗原の生物学的または機能的活性を妨害、阻害、遮断または減少させない抗体を指す。
【0121】
本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という用語は、例えば、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvフラグメント、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、一本鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(例えば二価ダイアボディ-bi-scFvまたは二価ダイアボディ-di-scFv)、または抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体の一部分から形成された多重特異性抗体などの抗体フラグメントを指す。抗原結合部分は、天然由来のポリペプチド、非ヒト動物の免疫化によって産生される抗体、または他の供給源、例えば、ラクダから得られた抗原結合部分を含むことができる(例えば、Bannas他、Front.Immunol.、2017年11月22日; McMahon C.他、Nat Struct Mol Biol. 25(3):289-296、2018参照)。抗原結合部分は、所望のおよび/または改善された性質を提供するように操作し、合成し、設計し、ヒト化し(例えば、Vincke他、J. Biol. Chem. 30; 284(5):3273-84、2009参照)、または改変することができる。
【0122】
従って、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の第一および第二のポリペプチドモジュールの少なくとも1つは、抗原結合フラグメント(Fab)、一本鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、VHドメイン、VLドメイン、単一ドメイン抗体(dAb)、VNARドメイン、およびVHHドメイン、ダイアボディ、または前述のいずれか1つの機能性フラグメントから成る群より選択された抗原結合部分のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分はダイアボディを含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、2つのscFv分子が互いに作動可能に連結されているbi-scFvまたはdi-scFvを含む。幾つかの実施形態では、bi-scFvまたはdi-scFvは、タンデムscFvを形成する2つのVH領域と2つのVL領域を有する単一ペプチド鎖を含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分はナノボディを含む。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む。
【0123】
幾つかの実施形態において、抗原結合部分の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間に配置された1つ以上の介在アミノ酸残基を介して互いに作動可能に連結されている。幾つかの実施形態において、1つ以上の介在アミノ酸残基は、リンカーポリペプチド配列を含む。原則的には、リンカーポリペプチド配列の長さおよび/またはアミノ酸組成に何ら特定の制限はない。幾つかの実施形態では、約1~100アミノ酸残基(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個等のアミノ酸残基)を含む任意の一本鎖ポリペプチドをポリペプチドリンカーとして使用することができる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、例えば約5~50、約10~60、約20~70、約30~80、約40~90、約50~100、約60~80、約70~100、約30~60、約20~80、約30~90アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は、約1~10、約5~15、約10~20、約15~25、約20~40、約30~50、約40~60、約50~70アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は約40~70、約50~80、約60~80、約70~90、または約80~100アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列は約1~10、約5~15、約10~20、約15~25アミノ酸残基を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチド配列の長さとアミノ酸組成は、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性を変化させて多価ポリペプチドの所望の活性を達成するように最適化することができる。幾つかの実施形態では、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性は、多価ポリペプチドのRPTP活性を増強または低減するであろうチューニング作用(同調作用)を果たすための「チューニング」手段として様々に変更することができる。幾つかの実施形態では、第一および第二のポリペプチドモジュールの互いに関する配向性および/または近傍性を最適化して、多価ポリペプチドの部分アンタゴニストから全長アンタゴニストまで作出することができる。
【0124】
ある一定の実施形態では、リンカーはグリシンおよび/またはセリン残基のみを含む(例えばグリシン-セリンリンカー)。そのようなポリペプチドリンカーの例としては、Gly、Ser; Gly Ser; Gly Gly Ser; Ser Gly Gly; Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly Gly; Gly Gly Gly Gly Gly Gly Ser; Ser Gly Gly Gly Gly Gly Gly; (Gly Gly Gly Gly Ser)n(ここでn は1以上の整数である);および(Ser Gly Gly Gly Gly)n(ここでnは1以上の整数である)が挙げられる。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドは、アミノ酸配列GSG(典型的なGly/Serリンカーポリペプチド反復配列の接合の箇所に存在する)が存在しないように改変される。例えば、幾つかの実施形態では、ポリペプチドリンカーは、(GGGXX)nGGGGS およびGGGGS(XGGGS)n(ここでXは、配列中に挿入することができる任意アミノ酸であるが、配列GSGを含むポリペプチドを生じないアミノ酸であり、nは0~4である)から成る群より選択されたアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGSであり、X1はPでありそしてX2 はSであり、nは0~4である。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は (GGGX1X2)nGGGGS であり、X1 はG でありそしてX2 はQであり、n は0~4である。幾つかの別の実施形態では、リンカーポリペプチドの配列は(GGGX1X2)nGGGGS であり、X1はGでありそしてX2はAであり、n は0~4である。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドの配列はGGGGS(XGGGS)nであり、X はPであり、そしてn は0~4である。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドは、アミノ酸配列(GGGGA)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGGQ)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、本開示のリンカーポリペプチドはアミノ酸配列 (GGGPS)2GGGGSを含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドはアミノ酸配列GGGGS(PGGGS)2を含むかまたはそれから成る。幾つかの実施形態では、リンカーポリペプチドは、配列表中の配列番号7、36、38、40、42、44、46、48、50または52に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれから成る。
【0125】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体の第一のポリペプチドモジュールは、1つ以上の標的RPTPを結合することができる抗原結合部分を含む。一般に、本明細書に記載の多価ポリペプチドと多価抗体により標的指向することができるRPTPに関しては何ら特別な制限はない。適当なRPTPの非限定的例には、サブファミリーR1/R6、R2A、R2B、R3、R4のメンバーが含まれる。サブファミリーR5、R7およびR8のメンバーもまた、本明細書に開示の組成物と方法に適当である。適当なRPTPの例としては、限定されないが、Ptpn5 (STEP)、Ptpra (RPTP-α)、Ptprb (PTPB)、Ptprc (CD45)、Ptprd (RPTP-δ)、Ptpre (RPTP-R)、Ptprf (LAR)、Ptprg (RPTP-γ)、Ptprh (SAP1)、Ptprj (DEP-1)、Ptprk (RPTP-κ)、およびその任意の機能的変異体が挙げられる。本開示の組成物と方法に適当なRPTPの別の非限定的例としては、Ptprm (RPTP-μ)、Ptprn (IA2)、Ptprn2 (IA2β)、Ptpro (GLEPP1)、Ptprp (PTPS31)、Ptprr (PCPTP1)、Ptprs (RPTP-σ)、Ptprt (RPTP-ρ)、Ptpru (RPTP-λ)、Ptprz (RPTP-ζ)、およびその任意の機能的変異体が挙げられる。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の第一のポリペプチドモジュールは、CD45ホスファターゼまたはその機能的変異体(例えばその相同体)を結合することができる抗原結合部分を含む。幾つかの実施形態では、CD45ホスファターゼはヒトCD45ホスファターゼである。一般に、CD45の任意のアイソフォームを使用できる。幾つかの実施形態では、受容体型プロテインチロシンホスファターゼは、CD45RA、CD45RB、 CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45R0、CD45Rから成る群より選択されたCD45アイソフォームを含む。本開示の組成物と方法に適当なCD45結合部分の例としては、限定されないが、米国特許第7,825,222 号および同第9,701,756号明細書に記載されたものが挙げられる。
【0126】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の第二のポリペプチドモジュールは、リン酸化機構を通してシグナル伝達する細胞表面受容体を結合することができる抗原結合部分を含む。一般に、細胞表面受容体は、当業界で既知の任意の細胞表面受容体であることができる。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体は、免疫チェックポイント受容体、サイトカイン受容体、または増殖因子受容体である。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体は、阻害性チェックポイント受容体および刺激性チェックポイント受容体から成る群より選択された免疫チェックポイント受容体である。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体は阻害性チェックポイント受容体である。通常、阻害性チェックポイント受容体は、リン酸化機構を通してシグナル伝達する阻害性チェックポイント受容体のいずれかであることができる。本開示の組成物と方法に適当な阻害性チェックポイント受容体の非限定例としては、PD-1、CTLA-4、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CD5、CD132、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGIT、VISTA、およびその機能的変異体が挙げられる。幾つかの実施形態では、阻害性チェックポイント受容体はPD-1またはその機能的変異体である。幾つかの実施形態では、阻害性チェックポイント受容体はCTLA-4またはその機能的変異体である。幾つかの実施形態では、阻害性チェックポイント受容体はTIGITまたはその機能的変異体である。幾つかの実施形態では、阻害性チェックポイント受容体はCD5またはその機能的変異体である。幾つかの実施形態では、阻害性チェックポイント受容体はCD132またはその機能的変異体である。
【0127】
幾つかの実施形態において、細胞表面受容体は、刺激性チェックポイント受容体である。一般に、刺激性チェックポイント受容体は、リン酸化機序を介してシグナル伝達する刺激性チェックポイント受容体のいずれか1つであることができる。本明細書に開示の組成物と方法に適した刺激性チェックポイント受容体の非限定的な例としては、CD27、CD28、CD40、OX40、GITR、ICOS、CD137、およびその機能的変異体が挙げられる。幾つかの実施形態において、阻害性チェックポイント受容体は、CD28またはその機能的変異体である。
【0128】
幾つかの実施形態において、細胞表面受容体は、例えば、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)、または免疫受容体チロシンベースのスイッチモチーフ(ITSM)、または免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)などの、リン酸化基質として機能する保存されたアミノ酸モチーフを介してシグナルを伝達する。幾つかの実施形態において、細胞表面受容体は、リン酸化基質として働く、ITAMモチーフ、ITSMモチーフ、ITIMモチーフ、または関連の細胞内モチーフから選択される特定のチロシンベースのモチーフを介してシグナル伝達を媒介する。幾つかの実施形態では、細胞表面受容体は、DAP10、DAP12、SIRPa、CD3、CD28、CD4、CD8、CD200、CD200R、ICOS、KIR、FcR、BCR、CD5、CD2、G6B、LIR、CD7およびBTNまたはそのいずれかの機能的変異体から成る群より選択される。
【0129】
幾つかの実施形態において、細胞表面受容体はサイトカイン受容体である。幾つかの実施形態において、サイトカイン受容体は、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、ケモカイン受容体、成長ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体(EpoR)、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLPR)、トロンボポエチン受容体(TpoR)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-SCF)受容体、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体から成る群より選択される。
【0130】
幾つかの実施形態において、細胞表面受容体は増殖因子受容体である。幾つかの実施形態において、増殖因子受容体は、チロシン受容体キナーゼ(TRK)であり、これは、本明細書中ではチロシンキナーゼ受容体(TKR)とも互換的に称される。一般に、TRKは、当技術分野で知られている任意のTRKであり得る。本開示に適したTRKの非限定的例としては、限定されないが、RTKクラスI(EGF受容体ファミリー;ErbBファミリー)、RTKクラスII(インスリン受容体ファミリー)、RTKクラスIII(PDGF受容体ファミリー)、RTKクラスIV(VEGF受容体ファミリー)、RTKクラスV(FGF受容体ファミリー)、RTKクラスVI(CCK受容体ファミリー)、RTKクラスVII(NGF受容体ファミリー)に属するものが挙げられる。本発明の開示に適した追加のTRKとしては、限定されないが、RTKクラスVIII(HGF受容体ファミリー)、RTKクラスIX(Eph受容体ファミリー)、RTKクラスX(AXL受容体ファミリー)、RTKクラスXI(TIE受容体ファミリー)、RTKクラスXII(RYK受容体ファミリー)、RTKクラスXIII(DDR受容体ファミリー)、RTKクラスXIV(RET受容体ファミリー)、RTKクラスXV(ROS受容体ファミリー)、RTKクラスXVI(LTK受容体ファミリー)、RTKクラスXVII(ROR受容体ファミリー)、RTKクラスXVIII(MuSK受容体ファミリー)、RTKクラスXIX(LMR受容体)、RTKクラスXXに属するものが挙げられる。幾つかの特定の実施形態において、増殖因子受容体は、ErbB-1、ErbB-2 (HER2)、ErbB-3、ErbB-4およびc-Kit (CD117)から成る群より選択された幹細胞増殖因子受容体(SCFR)または上皮増殖因子受容体(EGFR)である。
【0131】
本明細書に開示の幾つかの実施形態は、(a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;(b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB;(c) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;および(d) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインDを含む、多価ポリペプチドに関する。
【0132】
「A」、「B」、「C」、または「D」ポリペプチドドメインとしての本開示の多価ポリペプチドと多価抗体のポリペプチドドメインの称号は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体内の「第一」、「第二」、「第三」または「第四」のポリペプチドドメインのいずれか特定の構造的配置を意味するわけではない。さらにまたはその代わりに、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、RPTPおよび/または細胞表面受容体に結合することができる2以上のポリペプチドモジュールを含んでもよい。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、それぞれが異なるRPTPに結合することができる少なくとも2つのポリペプチドモジュールを含んでよい。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、それぞれが同じRPTPに結合することができる少なくとも2つのポリペプチドモジュールを含んでよい。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、それぞれが異なる細胞表面受容体に結合することができる少なくとも2つのポリペプチドモジュールを含んでよい。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体は、それぞれが同じ細胞表面受容体に結合することができる少なくとも2つのポリペプチドモジュールを含んでよい。
【0133】
幾つかの実施形態では、複数の受容体結合モジュールは、中央のRPTP結合モジュールに作動可能に連結されて、一般式(I)を有する多価ポリペプチドまたは多価抗体を形成する。
【0134】
【0135】
ここで、nは1、2、3、4、5、6、7、8、9または10の範囲から選択される整数である。
【0136】
幾つかの実施形態において、複数の受容体結合モジュールは、タンデム(直列)に作動可能に連結されて、一般式(II)を有する多価ポリペプチドまたは多価抗体を形成する。
【0137】
【0138】
本明細書に開示される幾つかの実施形態は、多価ポリペプチドであって、N末端からC末端方向に、(a) RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインA;(b) 細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインB; (c)細胞表面受容体のエピトープに特異的な第二のscFvの重鎖可変領域の結合領域を含むドメインC;および(d)RPTPのエピトープに特異的な第一のscFvの軽鎖可変領域の結合領域を含むドメインDを含む多価ポリペプチドに関する。
【0139】
本明細書に記載の例示的なポリペプチドおよび抗体、例えば式(I)および(II)の多価ポリペプチドまたは多価抗体の非限定例は、Table 1、Table 2およびTable 3に提供される。
【表1-1】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
本明細書に開示される幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54から成る群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号2、4、6、10、12、14、16、20、22、24、26、28および54からなる群より選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号10のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号12のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、配列番号14のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0145】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号16のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有する。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有する。
【0146】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号22のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号24のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号26のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0147】
幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号28のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドは、配列番号54のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%もしくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0148】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドは、各々が標的タンパク質に対して特異的結合性を有する少なくとも2つの抗原結合部分を含む多価抗体(例えば二価抗体または三価抗体)であることができる。幾つかの実施形態では、少なくとも2つの抗原結合部分は、同じ標的タンパク質に対して特異的結合性を有する。そのような抗体は多価の単一特異性抗体である。幾つかの実施形態では、少なくとも2つの抗原結合部分は少なくとも2つの異なる標的タンパク質に対して特異的結合性を有する。そのような抗体は多価の多重特異性抗体(例えば二重特異性、三重特異性等)である。従って、本明細書中に開示の幾つかの抗体は、多価抗体またはその機能的フラグメントに関し、それは(i) 1つ以上の受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に特異的な第一のポリペプチドモジュール、および(ii) リン酸化機序を介してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体に特異的な第二のポリペプチドモジュールを含み、ここで第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。従って、幾つかの実施形態では、本開示の多価抗体は二価の単一特異性抗体であることができる。幾つかの実施形態では、本開示の多価抗体は三価の単一特異性抗体であることができる。幾つかの実施形態では、本開示の多価抗体は二価の二重特異性抗体であることができる。幾つかの実施形態では、本開示の多価抗体は三価の三重特異性抗体であることができる。
【0149】
当業者は、完全アミノ酸配列を使用して逆翻訳された遺伝子を作製できることを理解するだろう。例えば、特定のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むDNAオリゴマーを合成することができる。例えば、所望のポリペプチドの一部分をコードする数個の小オリゴヌクレオチドを合成し、次いで連結することができる。個々のオリゴヌクレオチドは典型的には相補的な会合(アセンブリ)のための5′または3′突出端を含む。
【0150】
組み換え分子生物学技術により変更されている核酸分子の発現を介して変異体ポリペプチドを作製することに加えて、本開示にかかる主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、化学的に合成することができる。化学的に合成されたポリペプチドは、当業者により日常的に作製される。
【0151】
いったん会合されれば(合成により、部位特異的突然変異誘発により、または他の方法により)、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードするDNA配列は、発現ベクター中に挿入し、所望の形質転換宿主における多価ポリペプチドまたは多価抗体の発現に適当な発現調節配列に作動可能に連結されるだろう。適正な会合(アセンブリ)は、ヌクレオチドシーケンシング、制限マッピング、および適切な宿主における生物学的活性ポリペプチドの発現により確認することができる。当技術分野で知られているように、宿主中でのトランスフェクトされた遺伝子の高発現レベルを得るためには、該遺伝子を、選択された発現宿主において機能的である転写および翻訳発現調節配列に作動可能に連結しなければならない。
【0152】
本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の結合活性は、当技術分野で既知の任意の適切な方法によってアッセイすることができる。例えば、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体の結合活性は、例えば、スキャッチャード(Scatchard)分析(Munsen他、1980.Analyt. Biochem. 107:220-239)によって決定することができる。特異的結合は、競合ELISA、BIACORE(登録商標)アッセイおよび/またはKINEXA(登録商標)アッセイを含むがこれらに限定されない、当技術分野で既知の技術を使用して評価することができる。標的タンパク質または標的エピトープに「優先的に結合する」または「特異的に結合する」(本明細書で互換的に用いられる)抗体またはポリペプチドは、当技術分野でよく理解されている用語であり、そのような特異的または優先的結合を測定する方法も当技術分野で知られている。 抗体またはポリペプチドは、代替タンパク質またはエピトープとで反応または会合するよりも頻繁に、より迅速に、より長い持続時間で、および/またはより大きな親和性で、特定のタンパク質もしくはエピトープと反応または会合するならば、「特異的結合」または「優先的結合」を示すと言われる。抗体またはポリペプチドは、それが他の物質に結合するよりも高い親和性、結合力、より容易に、および/またはより長い持続時間で結合するならば、標的に「特異的に結合する」または「優先的に結合する」。また、抗体またはポリペプチドは、サンプル中に存在する別の物質に結合するよりも、サンプル中のその標的に対してより高い親和性、結合力、より容易に、および/またはより長い持続時間で結合するならば、その標的に「特異的に結合する」または「優先的に結合する」。例えば、PD-1エピトープに特異的にまたは優先的に結合する抗体またはポリペプチドは、それが別のPD-1エピトープまたは非PD-1エピトープに結合するよりも大きい親和性、結合力で、容易に、および/またはより長い持続期間で、このエピトープを結合する抗体またはポリペプチドである。この定義を読むことによって、例えば、第一の標的に特異的にまたは優先的に結合する抗体またはポリペプチド(または部分もしくはエピトープ)が、第二の標的に対しては特異的にもしくは優先的に結合してもしなくてもよいことも理解される。そのようなものとして、「特異的結合」または「優先的結合」は、必ずしも排他的結合を必要としない(それを包含することはできるが)。
【0153】
様々なアッセイ形式を使用して、目的の分子に特異的に結合する抗体またはポリペプチドを選択することができる。たとえば、固相ELISAイムノアッセイ、免疫沈降、BiacoreTM(商標)(GE Healthcare社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)、KinExA、蛍光活性化細胞選別法(FACS)、OctetTM(商標)(ForteBio、Inc.、カリフォルニア州メンロパーク)およびウエスタンブロット分析は、多数のアッセイの中でも、同族リガンドまたは結合相手と特異的に結合する抗原もしくは受容体、またはそのリガンド結合部分と特異的に反応する抗体を同定するために使用することができる。一般に、特異的または選択的反応は、バックグラウンドシグナルまたはノイズの少なくとも2倍、より典型的にはバックグラウンドの10倍超、さらにより典型的には、バックグラウンドの50倍超、より典型的にはバックグラウンドの100倍超、更により典型的には、バックグラウンドの500倍超、さらに一般的にはバックグラウンドの1000倍超、さらにより典型的にはバックグラウンドの10,000倍超であるだろう。また、平衡解離定数(KD)が7 nM未満(<7 nM)である場合、抗体は抗原に「特異的に結合」すると言われる。
【0154】
本明細書中では、「結合親和性」という用語は、二つの分子間、例えば抗体またはその部分と抗原との間の非共有結合的相互作用の強さの尺度として使用される。「結合親和性」という用語は、一価の相互作用(内在性活性)を記載するために用いられる。2分子間の結合親和性は、解離定数(KD)の決定によって定量化することができる。次いで、複合体形成と解離の速度論の測定によって、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore)を使ってKDを求めることができる。一価複合体の会合と解離に相当する速度定数は、会合速度定数ka(またはkon)および解離速度定数kd(またはkoff)とそれぞれ呼称される。KDは、式、KD=kd /ka からkaとkdに関係がある。解離定数の値は、周知の方法により直接求めることができ、そしてCaceci他(1984年、Byte 9:340-362)に記載のものなどの方法により、複合体混合物についてもコンピュータ計算することができる。例えば、KDは、Wong & Lohman(1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5428-5432)により開示されたものなどの二重フィルターニトロセルロースフィルター結合アッセイを使って確立することができる。標的抗原に対する本開示の抗体またはポリペプチドの結合力を評価するための他の標準アッセイは、当業界で周知であり、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、およびフローサイトメトリー分析並びに本明細書中の他の箇所に例示される他のアッセイが挙げられる。抗体の結合反応速度と結合親和性は、当業界で既知の標準アッセイにより、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)、例えばBiacoreTM(商標)系またはKinExAを使うことによって評価することもできる。
核酸分子
【0155】
一態様では、本開示の幾つかの実施形態は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体をコードする組み換え核酸分子、宿主細胞中でまたはex vivo(生体外)無細胞発現系で該多価ポリペプチドまたは多価抗体の発現を可能にする調節配列に作動可能に連結されたそれらの核酸分子を含む発現カセットおよび発現ベクターに関する。
【0156】
用語「核酸分子」および「ポリヌクレオチド」は、本明細書中では互換的に用いられ、
cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、および核酸類似体を含むDNAもしくはRNA分子をはじめとする核酸分子を含む、RNA分子とDNA分子の両方を指す。核酸分子は、二本鎖または一本鎖(例えば、センス鎖またはアンチセンス鎖)であり得る。核酸分子は、非従来型のまたは修飾されたヌクレオチドを含み得る。本明細書で使用される「ポリヌクレオチド配列」および「核酸配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子の配列を互換的に指す。米国特許法37CFR§1.822に明記されているヌクレオチド塩基の命名法が本明細書で使用される。
【0157】
本開示の核酸分子は、一般に約5 Kb~約50 Kb、例えば約5 Kb~約40 Kb、約5 Kb~約30 Kb、約5 Kb~約20 Kb、または約10 Kb~約50 Kb、例えば約15 Kb~約30 Kb、約20 Kb~約50 Kb、約20 Kb~約40 Kb、約5 Kb~約25 Kb、または約30 Kb~約50 Kbである核酸分子を含む、任意の長さの核酸分子であり得る。
【0158】
本明細書で使用される「組換え」核酸分子という用語は、ヒトの介入によって改変されている核酸分子を指す。非限定的な例として、cDNAは組換えDNA分子であり、in vitro ポリメラーゼ連鎖反応により生成されているか、またはそれにリンカーが連結されているか、またはクローニングベクターもしくは発現ベクターのようなベクター中に組み込まれている、任意の核酸分子である。非限定的例として、組換え核酸分子は:1)例えば、化学的もしくは酵素的技術を使用して〔例えば、化学的核酸合成の使用により、または核酸分子の複製、重合、エキソヌクレアーゼ消化、エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、逆転写、転写、塩基修飾(例えば、メチル化を含む)、または組換え(相同および部位特異的組換えを含む)のための酵素の使用により〕、in vitroで合成または改変されている;2)天然では連結されていない連結したヌクレオチド配列を含む;3)天然に存在する核酸分子配列に関して1つ以上のヌクレオチドを欠くように分子クローニング技術を使用して操作されている;そして/または 4)天然に存在する核酸配列に関して1つ以上の配列変化または再配列を有するように分子クローニング技術を使って操作されている。
【0159】
本明細書に開示される幾つかの実施形態において、本開示の核酸分子は、多価ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、これは、(i) 受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に結合することができる第一のポリペプチドモジュールを含む第一のアミノ酸配列、および(ii)リン酸化機序を介してシグナル伝達する細胞表面受容体に結合することができる第二のポリペプチドモジュールを含む第二のアミノ酸配列を含み、ここで第一のポリペプチドモジュールは第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている。幾つかの実施形態では、本開示の核酸分子は、(i)1つ以上の受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)に特異的な第一のポリペプチドモジュール、および(ii)リン酸化機序を介してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体に特異的な第二のポリペプチドモジュールを含む多価抗体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0160】
本明細書に開示の幾つかの実施形態では、核酸分子は、(i) 本明細書に開示の多価ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくはその機能的フラグメント、または(ii)本明細書に開示の多価抗体に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、もしくはその機能的フラグメントを含む、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。核酸分子は、(i)本明細書に開示の多価ポリペプチドまたはその機能的フラグメントのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列;または(ii)本明細書に開示の多価抗体またはその機能的フラグメントに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0161】
幾つかの実施形態において、核酸分子は、配列番号1、3、5、9、11、13、15、19、21、23、25、27および53から成る群より選択されたヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号1のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0162】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号9のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号11のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号13のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0163】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号15のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号19のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号21のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0164】
幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号23のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号25のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号27のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。幾つかの実施形態では、核酸分子は、配列番号53のヌクレオチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、またはその機能的フラグメントを含む。
【0165】
本明細書に開示される幾つかの実施形態は、本明細書に開示の組換え核酸分子を含むベクターまたは発現カセットに関する。本明細書で使用する場合、「発現カセット」という用語は、受容細胞中で、in vivo(生体内)でおよび/またはex vivo(生体外)でのコード配列の適正な転写および/または翻訳を指令するのに十分な調節情報とコード配列とを含む、遺伝物質の構成物を指す。発現カセットは、所望の宿主細胞および/または対象へのターゲティング用ベクター中に挿入することができる。従って、発現カセットという用語は、「発現構築物」という用語と互換的に使用することができる。
【0166】
本明細書に開示される多価ポリペプチドと多価抗体のいずれかをコードする1つ以上の核酸分子を含むベクター、プラスミドまたはウイルスも本明細書に提供される。上記の核酸分子は、例えば、ベクターを用いて形質導入した細胞中でそれらの発現を指令することができるベクターの中に含めることができる。真核生物や原核生物の細胞で使用するのに適したベクターは当技術分野で知られており、市販されているか、または当業者によって容易に調製される。追加のベクターは、例えば、Ausubel、F.M.他、"Current Protocoks in Molecular Biology, (Current Protocol, 1994) およびSambrook他、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual",第二版(1989)に見出すことができる。、
【0167】
全てのベクターおよび発現調節配列が、本明細書に記載のDMA配列を発現するのに等しくうまく機能するわけではないことを理解されたい。また、全ての宿主が同じ発現系で同等にうまく機能するわけではない。しかしながら、当業者は、過度の実験なしに、これらのベクター、発現調節配列および宿主の中から選択を行うことが可能である。例えば、ベクターを選択する際には、ベクターは宿主の中で複製しなければならないため、宿主を考慮する必要がある。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、抗生物質マーカーなどのベクターによってコードされる他の任意タンパク質の発現も考慮に入れるべきである。例えば、使用することができるベクターとしては、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体をコードするDNAをコピー数に関して増幅できるようにするベクターが挙げられる。そのような増幅可能なベクターは当技術分野で知られている。それらの例としては、DHFR増幅(例えば、Kaufman、米国特許第4,470,461号明細書を参照のこと)またはグルタミンシンテターゼ(「GS」)増幅(例えば、米国特許第5,122,464号号および欧州特許出願公開EP338,841公報を参照のこと)により増幅可能であるベクターが挙げられる。
【0168】
従って、幾つかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、ベクター、通常は発現ベクターから発現させることができる。ベクターは、宿主細胞中での自律複製に有用であるか、または宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製されてもよい(例えば、非エピソームの哺乳動物ベクター)。発現ベクターは、それらが作動可能に連結されているコード配列の発現を指令することができる。一般に、組換えDNA技術における有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミド(ベクター)の形である。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)のような他の形態の発現ベクターも含まれる。
【0169】
例示的な組換え発現ベクターは、発現に使用する予定の宿主細胞に基づいて選択され、発現させるべき核酸配列に作動可能に連結された1つ以上の調節配列を含むことができる。
【0170】
DNAベクターは、従来の形質転換またはトランスフェクション技術によって原核生物または真核生物の細胞に導入することができる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrook他(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, N.Y.)および他の標準的分子生物学研究マニュアルに見出すことができる。
【0171】
本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体をコードする核酸配列は、目的の宿主細胞中での発現のために最適化することができる。例えば、配列のGC含有量は、宿主細胞中で発現される既知遺伝子を参照することによって計算される通り、所定の細胞宿主の平均レベルに調整することができる。コドン最適化の方法は当技術分野で知られている。本明細書に開示の多価ポリペプチドと多価抗体のコード配列内のコドン使用頻度は、宿主細胞中での発現を増強するように最適化することができ、その結果、コード配列内のコドンの約1%、約5%、約10%、約25%、約50%、約75%、または最大100%が、特定の宿主細胞での発現のために最適化されている。
【0172】
使用に適するベクターとしては、細菌で用いられるT7ベースのベクター、哺乳動物細胞で用いられるpMSXND発現ベクター、および昆虫細胞で用いられるバキュロウイルス由来ベクターが含まれる。幾つかの実施形態では、そのようなベクター中で主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする核酸挿入断片を、プロモーターに作動可能に連結することができ、該プロモーターは例えば、発現を得ようとする細胞型に基づいて選択される。
【0173】
発現調節配列を選択する際には、様々な要因も考慮すべきである。これらの要因としては、例えば、配列の相対強度、その制御可能性、および特に潜在的な二次構造に関しては、主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする実際のDNA配列との適合性が挙げられる。宿主は、選択されるベクターとの適合性、本開示のDNA配列によってコードされる生成物の毒性、それらの分泌特性、それらのポリペプチドを正しく折りたたむ能力、それらの発酵または培養要件、並びにDNA配列によりコードされる生成物の精製の容易さを考慮して選択されるべきである。
【0174】
これらのパラメータの中で、当業者は、例えば、CHO細胞またはCOS7細胞を使って、発酵または大規模な動物培養において所望のDNA配列を発現するであろう、様々なベクター/発現調節配列/宿主の組み合わせを選択することが可能である。
【0175】
幾つかの実施形態では、発現調節配列および発現ベクターの選択は、宿主の選択に依存するであろう。多種多様な発現宿主/ベクターの組み合わせを使用することができる。真核生物宿主のための有用な発現ベクターの非限定的例としては、例えば、SV40、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスおよびサイトメガロウイルスからの発現調節配列を有するベクターが含まれる。細菌宿主用の有用な発現ベクターの非限定的例としては、col El、pCRI、pER32z、pMB9およびそれらの誘導体をはじめとする大腸菌由来のプラスミドなどの既知細菌プラスミド、RP4などの更に広い宿主域のプラスミド、ファージDNA、例えば、ファージλの多数の誘導体、例えば、NM989、並びに他のDNAファージ、例えばM13および糸状一本鎖DNAファージなどが挙げられる。酵母細胞に有用な発現ベクターの非限定的例としては、2μプラスミドおよびその誘導体が含まれる。昆虫細胞に有用なベクターの非限定的例としては、pVL 941およびpFastBacTM 1が挙げられる。
【0176】
さらに、多種多様な発現調節配列のいずれもこれらのベクターで使用することができる。そのような有用な発現調節配列には、前述の発現ベクターの構造遺伝子に関連する発現調節配列が含まれる。有用な発現調節配列の例としては、例えば、SV40またはアデノウイルスの初期および後期プロモーター、lac系、trp系、TACまたはTRC系、ファージλの主要オペレーターおよびプロモーター領域、例えばPL、fdコートタンパク質の制御領域、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の糖分解酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、例えば、PhoA、酵母a-交配型のプロモーター、バキュロウイルスの多面体プロモーター、および原核細胞もしくは真核細胞またはそれらのウイルスの遺伝子、並びにそれらの様々な組み合わせの発現を制御することが知られている他の配列が挙げられる。
【0177】
T7プロモーターは細菌で使用することができ、多面体プロモーターは昆虫細胞で使用することができ、サイトメガロウイルスまたはメタロチオネインプロモーターは哺乳動物細胞で使用することができる。また、高等真核生物の場合、組織特異的および細胞型特異的プロモーターが広く利用可能である。これらのプロモーターの名称は、体内の特定の組織または細胞型中での核酸分子の発現を指令するその能力に由来する。当業者は、核酸の発現を指令するために使用することができる多数のプロモーターおよび他の調節要素を容易に理解するだろう。
【0178】
挿入された核酸分子の転写を促進する配列に加えて、ベクターは、複製開始点と、選択可能なマーカーをコードする他の遺伝子とを含むことができる。例えば、ネオマイシン耐性(neoR)遺伝子は、それが発現される細胞にG418耐性を付与するため、トランスフェクトされた細胞の表現型選択を可能にする。当業者は、一定の調節要素または選択可能マーカーが特定の実験状況での使用に適当であるかどうかを容易に決定することができる。
【0179】
本開示で使用することができるウイルスベクターには、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ベクター、ヘルペスウイルス、シミアンウイルス40(SV40)、およびウシ乳頭腫ウイルスベクターが含まれる(例えば、Gluzman編、 Eukaryotic Viral Vectors、CSH Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.参照)。
【0180】
本明細書に開示される主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする核酸分子を含み、それを発現する原核生物または真核生物の細胞もまた、本開示の特徴である。本開示の細胞は、トランスフェクトされた細胞、例えば、核酸分子、例えば、変異型IL-2ポリペプチドをコードする核酸分子が、組換えDNA技術によって導入された細胞である。そのような細胞の子孫もまた、本開示の範囲内であると見なされる。
【0181】
発現系の正確な構成要素は重要ではない。例えば、本明細書に開示される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、細菌の大腸菌(E.coli)などの原核生物宿主、または昆虫細胞(例えばSf21細胞)などの真核生物宿主、または哺乳動物細胞(例えばCOS細胞、NIH 3T3細胞、またはHeLa細胞)中で生産させることができる。それらの細胞は多数の供給源から入手可能であり、例えばアメリカン・タイプ・カルチチャー・コレクション(ATCC)(米国バージニア州マナナス)から入手可能である。発現系を選択する際には、その構成要素が互いに適合性であることのみが重要である。技術者または当業者はそのような決定を下すことができる。更に、発現系を選択する際に指導書(手引き)が必要な場合、当業者はAusubel他(Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sonsm, New York, N.Y., 1993)およびPouwels他(Cloning Vectors: A Laboratory Manual, 1985 増補、1987)を参考にすることができる。
【0182】
発現されたポリペプチドは、日常的な生化学手順を使用して発現系から精製することができ、本明細書に記載されるように、例えば、治療薬として使用することができる。
【0183】
幾つかの実施形態では、得られた多価ポリペプチドまたは多価抗体は、その多価ポリペプチドまたは多価抗体を生産するために用いられる宿主生物に応じてグリコシル化されているかまたはグリコシル化されていない。宿主として細菌が選択される場合、生産される多価ポリペプチドまたは多価抗体はグリコシル化されない(非グリコシル化形)。他方、真核細胞は、多価ポリペプチドまたは多価抗体をグリコシル化するが、おそらく生来のポリペプチドがグリコシル化されるのと同じ方法ではないだろう。形質転換された宿主によって産生される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、当業界で既知の任意の適当な方法に従って精製することができる。産生された多価ポリペプチドまたは多価抗体は、大腸菌などの細菌中で生成された封入体から、または陽イオン交換、ゲル濾過、および/または逆相液体クロマトグラフィーを使用して、所定の多価ポリペプチドまたは多価抗体を産生する哺乳動物または酵母培養物の馴化培地から単離することができる。
【0184】
さらにまたはあるいは、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードするDNA配列を構築する別の例示的な方法は、化学合成によるものである。これには、記載された特性を示す多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードするタンパク質配列の、化学的手段によるペプチドの直接合成が含まれる。この方法は、多価ポリペプチドまたは多価抗体と標的タンパク質との結合親和力に影響を与える位置に、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を組み込むことができる。あるいは、所望の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする遺伝子を、オリゴヌクレオチド合成装置を使用した化学的手段によって合成することができる。かかるオリゴヌクレオチドは、所望の多価ポリペプチドまたは多価抗体のアミノ酸配列に基づいて設計され、そして通常は組み換え多価ポリペプチドまたは多価抗体が生産される宿主細胞において好都合なコドンを選択して設計される。この点に関して、遺伝暗号が縮重していること、すなわちアミノ酸が複数のコドンによってコードされ得ることは当技術分野で十分認識されている。例えば、Phe(F)はTICまたはTTTの2つのコドンによりコードされ、Tyr(Y)はTACまたはTATによりコードされ、His(H)はCACまたはCATによりコードされる。Trp(W)は、単一のコドンTGGによりコードされる。従って、当業者には、特定の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする所定のDNA配列について、その多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードするであろう多数のDNA縮重配列が存在することは理解されるだろう。例えば、配列表に提供される多価ポリペプチドまたは多価抗体のDNA配列に加えて、本明細書に開示される多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードする多くの縮重DNA配列が存在することは理解されるだろう。これらの縮重DNA配列は、本開示の範囲内であると見なされる。従って、本開示の文脈における「その縮重変異体」とは、特定の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードし、それによってそれらの発現を可能にする全てのDNA配列のことを意味する。
【0185】
主題の多価ポリペプチドまたは多価抗体をコードするDNA配列は、部位特異的突然変異誘発、化学合成または他の方法により調製されるかどうかに関わらず、シグナル配列をコードするDNA配列も含み得る。そのようなシグナル配列は、存在する場合、多価ポリペプチドまたは多価抗体の発現用に選択された細胞により認識されるものでなければならない。それは、原核生物、真核生物、またはその2つの組み合わせであることができる。一般に、シグナル配列の包含は、それが作製される組み換え細胞から、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体を分泌させることを所望するかどうかに依存する。選択した細胞が原核生物である場合、DNA配列は通常シグナル配列をコードしない。選択した細胞が真核生物である場合、通常シグナル配列が含まれる。
【0186】
提供される核酸分子は、天然に存在する配列、または天然に存在するものとは異なる配列を含むことができるが、遺伝暗号の縮重のため、同じポリペプチドをコードする。これらの核酸分子は、RNAもしくはDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、またはホスホルアミダイト法ベースの合成によって製造されるものなどの合成DNA)、またはこれらの核酸タイプ内のヌクレオチドの組み合わせもしくは修飾から成ることができる。その上、核酸分子は二本鎖または一本鎖(例えば、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれか)であることができる。
【0187】
核酸分子は、ポリペプチドをコードする配列に限定されない。コード配列(例えばIL-2のコード配列)の上流または下流にある非コード配列の一部または全部を含めることもできる。分子生物学の技術分野の当業者は、核酸分子を単離するための日常的手順に精通している。それらの核酸分子は、例えば、ゲノムDNAを制限エンドヌクレアーゼで処理することにより、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実施により生成することができる。核酸分子がリボ核酸(RNA)である場合、該分子は例えばin virto転写によって生成することができる。
【0188】
本開示の例示的な単離された核酸分子は、天然状態ではそれ自体で見い出されないフラグメント(断片)を含み得る。従って、本開示は、核酸配列(例えば、変異体IL-2をコードする配列)がベクター(例えばプラスミドまたはウイルスベクター)または異種細胞のゲノム(または天然の染色体位置以外の位置にある同種細胞のゲノム)中に組み込まれているものを包含する。
医薬組成物
【0189】
幾つかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、医薬組成物をはじめとする組成物中に組み込むことができる。そのような組成物は、典型的には、多価ポリペプチドおよび/または多価抗体並びに薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0190】
注射用途に適した医薬組成物には、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および無菌の注射液剤または分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(商標)(BASF、ニュージャージー州Parsippany)またはリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、容易な注射可能性が存在する程度まで流動性でなければならない。製造および保管の条件下で安定している必要があり、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保護する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む、溶剤または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、および界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウムの使用により、維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、通常は等張化剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどの多価アルコールを組成物に含めることになる。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。
【0191】
無菌の注射可能な溶液は、必要に応じて、上に列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を無菌ビヒクルに組み込むことによって調製され、これは、基礎的な分散媒と、上に列挙されたものからの必要な他の成分とを含む。無菌の注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合、一般的な調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、この方法により有効成分の粉末に加えて、既に滅菌濾過された溶液から任意の追加の所望の成分が得られる。
【0192】
経口組成物は、使用される場合、一般に、不活性希釈剤または可食性担体を含む。経口治療投与の目的上、活性化合物(例えば、本開示の多価ポリペプチド、多価抗体、および/または核酸分子)は、賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えばゼラチンカプセルの形で使用することができる。経口組成物は、洗口液(マウスウオッシュ)として使用される液体担体を使っても調製することができる。医薬上混合可能な結合剤、および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分のいずれか、または類似の性質の化合物を含むことができる:微結晶性セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、PrimogelTM(商標)またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムやSterotesTM(商標)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味剤;または、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジフレーバーなどの着香剤。
【0193】
吸入による投与の場合、本開示の主題の多価ポリペプチドと多価抗体は、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素などのガスを含む加圧容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態、またはネブライザー(噴霧器)の形で送達される。そのような方法は、米国特許第6,468,798号に記載されたものを含む。
【0194】
本開示の主題の多価ポリペプチドおよび多価抗体の全身投与は、経粘膜または経皮手段によることもできる。経粘膜または経皮投与の場合、浸透させるべきバリアに適した浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般に知られており、例えば、経粘膜投与用には、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、点鼻薬または坐薬の使用を通して果たすことができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野で一般に知られているように、軟膏、軟膏(salve)、ゲル、またはクリームに処方される。
【0195】
幾つかの実施形態において、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、坐剤(例えば、カカオバターや他のグリセリドなどの常用の坐剤基材を用いて)または直腸送達のための停留浣腸の形で調製することもできる。
【0196】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体はまた、当業界で既知の方法、例えば限定されないがMcCaffrey他(Nature 418:6893、2002)、Xia他(Nature Biotechnol 20:1006-1010、2002)、またはPutnam(Am. J. Health Syst. Pharm. 53:151-160、1996、Am. J. Health Syst. Pharm. 53:325, 1996で訂正された)に記載の方法を使ったトランスフェクションまたは感染により、投与することもできる。
【0197】
幾つかの実施形態では、本開示の主題の多価ポリペプチドと多価抗体は、その多価ポリペプチドと多価抗体を体内からの迅速な排除に対して保護する担体、例えば制御放出製剤(徐放性製剤)、例えばインプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを用いて調節される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤は、標準技術を使用して調製することができるこれらの材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.から商業的に入手することも可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞にターゲットするリポソームを含む)も、製薬上許容される担体として使用できる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号明細書に記載されているように、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0198】
下記により詳細に説明する通り、本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体はまた、PEG化(ペグ化)、アシル化、Fc融合、アルブミンのような分子への結合、等による作用の持続期間の延長を達成するように変更されてもよい。幾つかの実施形態では、多価ポリペプチドまたは多価抗体は、in vivo(生体内)および/またはex vivo(生体外)でのそれらの半減期を延長するように更に改変することができる。多価ポリペプチドを改変するのに適した既知の戦略と方法の非限定的例として、(1)本明細書中に記載の多価ポリペプチドまたは多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)のような高溶解性高分子による、該多価ポリペプチドまたは多価抗体の化学修飾;および(2)本明細書に記載の多価ポリペプチドまたは多価抗体を、例えばアルブミンなどの安定タンパク質と共有結合または接合させることが挙げられる。従って、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体を、アルブミンなどの安定タンパク質に融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合させたポリペプチドの安定性を高めるのに最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、そのような融合タンパク質が数多く報告されている。
【0199】
幾つかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、1つ以上のペグ化試薬を含む。本明細書で使用される場合、「ペグ化(PEG化)」という用語は、ポリエチレングリコール(PEG)をタンパク質に共有結合させることによってタンパク質を修飾することを指し、「ペグ化」は、PEGが結合されているタンパク質を指す。様々な化学物質を使用して、約10,000ダルトンから約40,000ダルトンまでの任意の範囲を有するPEG、またはPEG誘導体のサイズ範囲を、本開示の組換えポリペプチドに付着させることができる。いくつかの実施形態において、ペグ化試薬は、メトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルプロピオネート(mPEG-SPA)、mPEG-スクシンイミジルブチレート(mPEG-SBA)、mPEG-スクシンイミジルスクシネート(mPEG-SS)、mPEG-スクシンイミジルカーボネート(mPEG-SC)、mPEG-スクシンイミジルグルタレート(mPEG-SG)、mPEG-N-ヒドロキシルスクシンイミド(mPEG-NHS)、mPEG-トシレートおよびmPEG-アルデヒドから選択される。幾つかの実施形態では、ペグ化試薬はポリエチレングリコールである。例えば、前記ペグ化試薬は、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体のN末端メチオニン残基に共有結合した平均分子量20,000ダルトンのポリエチレングリコールである。
【0200】
従って、いくつかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドと多価抗体は、1つ以上のポリエチレングリコール部分、例えば、ペグ化により化学的に修飾され、または同様の修飾、例えばPAS化により化学的に修飾される。いくつかの実施形態では、PEG分子またはPAS分子は、多価ポリペプチドまたは多価抗体の1つ以上のアミノ酸側鎖に接合されている。幾つかの実施形態では、PEG化またはPAS化された多価ポリペプチドまたは多価抗体は、1つのアミノ酸のみにPEGまたはPAS部分を含む。他の実施形態では、PEG化またはPAS化された多価ポリペプチドまたは多価抗体は、2つ以上のアミノ酸上に、例えば、2以上、5以上、10以上、15以上、または20以上の異なるアミノ酸残基に結合した、PEGまたはPAS部分を含む。幾つかの実施形態では、PEGまたはPAS鎖は、2000、2000超、5000、5000超、10,000、10,000超、20,000、20,000超、および30,000 Da(ダルトン)である。PAS化された多価ポリペプチドまたは多価抗体は、アミノ基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を介して、PEGまたはPASに直接結合され得る(例えば連結基なしで)。幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、平均分子量が20,000ダルトンのポリエチレングリコールに共有結合されている。
【0201】
幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体は、in vivoおよび/またはex vivoでのそれらの半減期を延長するようにさらに改変することができる。本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体を改変するのに適した既知の戦略と方法論の非限定的な例は、(1)多価ポリペプチドまたは多価抗体がプロテアーゼと接触するのを防ぐポリエチレングリコール(「PEG」)などの超可溶性高分子による、本明細書に記載の多価ポリペプチドまたは多価抗体の化学修飾;および(2)本明細書に記載の多価ポリペプチドまたは多価抗体を、例えばアルブミンなどの安定タンパク質と共有結合または接合させることを含む。従って、幾つかの実施形態では、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体を、アルブミンなどの安定タンパク質に融合させることができる。例えば、ヒトアルブミンは、それに融合したポリペプチドの安定性を高めるための最も効果的なタンパク質の1つとして知られており、そのような融合タンパク質が数多く報告されている。
治療法
【0202】
本明細書に記載の治療組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、および医薬組成物のいずれか1つの投与は、癌や慢性感染症などの関連する疾患の治療に使用することができる。幾つかの実施形態では、本明細書に記載される多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、および/または医薬組成物は、1つ以上の健康障害またはチェックポイント阻害に関連する自己免疫疾患を有するか、有する疑いがあるか、または発症するリスクが高い個体を治療する方法に使用される治療薬の中に組み入れることができる。例示的な自己免疫疾患および健康疾患には癌と慢性感染症が含まれるが、それらに限定されない。
【0203】
従って、一態様では、本開示の幾つかの実施形態は、被験者におけるリン酸化機構を介してシグナル伝達する細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達を活性調節する方法に関し、この方法は、(i) 本開示の多価ポリペプチド、または(ii) 本開示の多価抗体、の有効量を含む第一の治療を該被験者に施すことを含む。別の態様では、本開示の幾つかの実施形態は、治療を必要とする被験者における健康障害の治療方法に関し、該方法は、(i) 本開示の多価ポリペプチド、または(ii) 本開示の多価抗体、の有効量を含む第一の治療を該被験者に施すことを含む。
【0204】
医薬組成物は、その意図された投与経路と適合性があるように処方される。本開示の多価ポリペプチドおよび多価抗体は、経口または吸入によって投与され得るが、それらは非経口経路を介して投与される可能性が高い。非経口投与経路の例には、例えば、静脈内、皮内、皮下、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与が含まれる。非経口適用に使用される溶液または懸濁液には、以下の成分が含まれ得る:注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロース(ブドウ糖)などの等張性を調整するための薬剤。pHは、一塩基性および/または二塩基性リン酸ナトリウム、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる(例えば、約7.2~7.8、例えば7.5のpHに)。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに収容することができる。
【0205】
本開示のそのような主題の多価ポリペプチドおよび多価抗体の投与量、毒性および治療効果は、例えば、LD50(母集団の50%に致死的な用量)およびED50(母集団の50%に治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法によって決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、それはLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が一般的に適している。毒性副作用を示す化合物を使用することも可能であるが、未感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それにより副作用を減らすために、作用を受ける組織の部位にそのような化合物を標的指向する送達システムを設計するように留意しなければならない。
【0206】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトで使用するためのある範囲の投薬量を処方する際に使用することができる。このような化合物の投与量は、一般に、ほとんどまたは全く毒性を持たないED50を含む、一定範囲の血中濃度の中に存在する。投与量は、使用する剤形や用いる投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本開示の方法で使用される任意の化合物について、治療上有効な用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。細胞培養で決定された場合、IC50(例えば症状の50%最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するように、用量を動物モデルにおいて策定することができる。このような情報は、ヒトへの有用な用量をより正確に決定するために利用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0207】
本明細書に記載の治療用組成物、例えば、多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物、および医薬組成物は、1日1回もしくは数回から一週間に1回まもしくは複数回まで(1日おきに1回を含む)投与することができる。当業者は、疾患の重症度、前の治療、被験者の一般的健康状態および/または年齢、並びに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されないある種の要因が、被験者を効果的に処置するのに必要とされる投与量とタイミングに影響を及ぼし得ることは理解するだろう。さらに、本開示の主題の多価ポリペプチドと多価抗体の治療上有効な量による被験者の治療は、単回処置を含むことができ、または一連の処置を含むことができる。幾つかの実施形態では、組成物は、5日間に渡り8時間毎の投与に続き、2~14日間、例えば9日間の休止期間、それに続き追加の5日間に渡り8時間毎に投与される。多価ポリペプチドまたは多価抗体に関しては、本開示の多価ポリペプチドまたは多価抗体の治療有効量(例えば有効量)は、選択される多価ポリペプチドまたは多価抗体に依存する。例えば、約0.001~0.1 mg/kg患者体重の範囲の単回投与量(1回量)を投与することができ、幾つかの実施形態では、約0.005、0.01、0.05 mg/kgを投与することができる。
【0208】
一態様では、被験者のリン酸化機構を介してシグナル伝達する細胞表面受容体により媒介される細胞シグナル伝達を調節するための方法が提供される。この方法は、有効量の(i)本明細書に開示される多価ポリペプチド、または(ii)本明細書に開示される多価抗体を該被験者に投与することによって実施される。別の態様では、本明細書で提供されるのは、治療を必要とする被験者における疾患の治療のための方法である。この方法は、有効量の(i)本明細書に開示される多価ポリペプチド、または(ii)本明細書に開示される多価抗体を被験者に投与することによって実施される。
【0209】
上記に論じたように、治療上有効な量は、被験者、例えば疾患を有する者、疾患を有する疑いのある者、または疾患のリスクがある者に投与された時に特定の効果を促進するのに十分である、治療組成物の量を含む。幾つかの実施形態では、有効量は、疾患の症状の発生を防止もしくは遅らせるか、疾患の症状の過程を変更する(例えば限定されないが、疾患の症状の進行を遅くする)か、または疾患の症状を逆転させるのに十分な量を含む。いずれか特定の事例では、適当な有効量は、日常的実験を用いて当業者により決定することができると理解されよう。
【0210】
疾患の処置のための開示の治療用組成物を含む治療法の効果は、熟練した臨床医により決定することができる。しかしながら、疾患の兆候または症状の少なくとも1つもしくは全てが改善または軽減されるならば、治療は効果的と見なされる。有効性は、入院または医学的介入の必要性によって評価されるように、個体の状態が悪化しないこと(例えば病態の進行が停止するか、少なくとも遅くなる)によって測定することもできる。それらの指標(インジケーター)を測定する方法は、当業者に知られており、そして/または本明細書に記載されている。治療は、個体または動物の疾患(幾つかの非限定的例ではヒトや哺乳動物が含まれる)の任意治療を含み、以下を含む:(1)疾患を抑制すること、例えば症状の進行を停止または遅くすること;または(2)病気を緩和すること、例えば症状の退縮を引き起こすこと;および(3)症状の発症の可能性(尤度)を予防または低減すること。
【0211】
本開示の方法の幾つかの実施形態において、投与される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、細胞表面受容体の空間的近傍にRPTP活性を動員し、細胞表面受容体のリン酸化レベルを減少させるホスファターゼ活性を惹起する。幾つかの実施形態では、投与される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、細胞表面受容体の空間的近傍にRPTPを動員し、例えばRPTPと細胞表面受容体との距離が約500オングストローム未満であり、例えば約5オングストロームから約500オングストロームの距離である。幾つかの実施形態では、空間的近傍が約5オングストローム未満、約20オングストローム未満、約50オングストローム未満、約75オングストローム未満、約100オングストローム未満、約150オングストローム未満、約250オングストローム未満、約300オングストローム未満、約350オングストローム未満、約400オングストローム未満、約450オングストローム未満、または約500オングストローム未満に等しい。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約100オングストローム未満である。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約50オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約20オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約10オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約10~100オングストローム、約50~150オングストローム、約100~200オングストローム、約150~250オングストローム、約200~300オングストローム、約250~350オングストローム、約300~400オングストローム、約350~450オングストローム、または約400~500 オングストロームの範囲である。幾つかの実施形態では、投与される多価ポリペプチドまたは多価抗体は、RPTPが細胞表面受容体から約10~100オングストロームであるように、RITPを空間的近傍に動員する。幾つかの実施形態では、空間的近傍は、約100オングストローム未満になる。幾つかの実施形態では、RPTPと細胞表面受容体との間の距離は、約250オングストローム未満、あるいは約200オングストローム未満、あるいは約150オングストローム未満、あるいは約120オングストローム未満、あるいは約100オングストローム未満、あるいは約80オングストローム未満、あるいは約70オングストローム未満、あるいは約50オングストローム未満である。
【0212】
幾つかの実施形態において、RITPと細胞表面受容体は、互いに関して空間的近傍に置かれ、そして同様な条件下での未処置の被験者における細胞表面受容体のリン酸化レベルに比較して、細胞表面受容体のリン酸化レベルを少なくともまたは少なくとも約10%、15 %、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%減少させることができ、または前記数値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60%(それらの百分率の間の数値も包含する)減少させることができる。
【0213】
幾つかの実施形態において、多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与は、被験者において免疫チェックポイント受容体の活性の低下をもたらす。免疫チェックポイント受容体の活性の低下は、同様な条件下での未処置の被験者における免疫チェックポイント受容体の活性に比較して、少なくともまたは少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%、または前記数値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60% (それらの百分率の間の値も包含する)減少させることができる。
【0214】
開示された方法の幾つかの実施形態において、多価ポリペプチドまたは多価抗体の投与は、被験者においてT細胞活性の増強を付与する。T細胞活性は、同様の条件下での未治療の被験者におけるT細胞活性と比較して、少なくともまたは少なくとも約、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、 65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%、または前記値のいずれか2つの範囲、例えば約20%~約60%(それらの百分率の間にある数値を含む)だけ増強することができる。幾つかの実施形態において、T細胞活性の増強は、活性型T細胞におけるCD69および/またはCD25のアップレギュレーション(上方制御)の増加によって決定される。幾つかの実施形態において、T細胞活性の増強は、活性型T細胞におけるIL-2分泌の増加によって決定される。幾つかの実施形態において、T細胞活性の増強は、活性型T細胞における生産の増加によって決定される。
【0215】
本開示の方法の幾つかの実施形態では、被験者は哺乳動物である。幾つかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。幾つかの実施形態では、被験者は、細胞表面受容体によって媒介される細胞シグナル伝達の阻害に関連する疾患を有するか、または有する疑いがある。本開示の組成物および方法によって治療するのに適した疾患としては、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、感染症が挙げられるがそれらに限定されない。幾つかの実施形態では、疾患は癌または慢性感染症である。
【0216】
上記に論じたように、本開示のいずれかの多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、組換え細胞、細胞培養物および/または医薬組成物を、1以上の追加の治療薬、例えば化学療法剤もしくは抗癌剤または抗癌療法と併用投与することができる。1つ以上の追加の治療薬と「併用」投与することは、任意の順序での同時(同時)および連続投与を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上の追加の治療薬、化学療法剤、抗癌剤、または抗癌療法は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法および手術からなる群より選択される。「化学療法」と「抗癌剤」は、本明細書では互換的に使用される。様々なクラスの抗癌剤を使用することができる。非限定的な例としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ポドフィロトキシン、抗体(例えばモノクローナルまたはポリクローナル)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばメシル酸イマチニブ(Gleevec(登録商標)またはGlivec(登録商標))、ホルモン治療薬、可溶性受容体および他の抗腫瘍薬が挙げられる。
【0217】
トポイソメラーゼ阻害剤もまた、本明細書で使用することができる別のクラスの抗癌剤である。トポイソメラーゼは、DNAのトポロジーを維持する必須の酵素である。I型またはII型トポイソメラーゼの阻害は、適当なDNAスーパーコイルを混乱させることにより、DNAの転写と複製の両方を妨害する。いくつかのI型トポイソメラーゼ阻害剤には、カンプトテシン、イリノテカンおよびトポテカンが含まれる。タイプII阻害剤の例には、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、およびテニポシドが含まれ、これらはエピポドフィロトキシンの半合成誘導体であり、アメリカのミヤオソウ(Podophyllum peltatum)の根の中に天然に存在するアルカロイドである。
【0218】
抗腫瘍剤には、免疫抑制剤であるダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン、シクロホスファミド、クロラムブシル、イホスファミドが含まれる。抗腫瘍性化合物は一般に、細胞のDNAを化学修飾することによって機能する。
【0219】
アルキル化剤は、細胞内に存在する条件下で多数の求核性官能基をアルキル化することができる。シスプラチンとカルボプラチン、およびオキサリプラチンはアルキル化剤である。それらは、生物学的に重要な分子中のアミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、およびリン酸基と共に共有結合を形成することによって細胞機能を害する。
【0220】
ビンカアルカロイドは、チューブリン上の特定の部位に結合し、チューブリンの微小管への集合を阻害する(細胞周期のM期)。ビンカアルカロイドには、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、およびビンデシンが含まれる。
【0221】
代謝拮抗物質は、プリン類(アザチオプリン、メルカプトプリン)またはピリミジン類に類似しており、これらの物質が細胞周期の「S」期中にDNAに組み込まれるのを防止し、正常な発達と分裂を停止させる。代謝拮抗物質はRNA合成にも影響を与える。
【0222】
植物アルカロイドおよびテルペノイドは、植物から得られ、微小管機能を防止することによって細胞分裂を阻止する。微小管は細胞分裂に不可欠であるため、微小管なしでは細胞分裂は起こることができない。主な例は、ビンカアルカロイドとタキサンである。ポドフィロトキシンは植物由来の化合物であり、消化を助けるだけでなく、他の2つの細胞増殖抑制剤、エトポシドとテニポシドの生成にも使用されることが報告されている。それらは、細胞がG1期(DNA複製の開始期)およびDNAの複製(S期)に入るのを防止する。
【0223】
グループとしてのタキサンは、パクリタキセルとドセタキセルを含む。パクリタキセルは天然物で、もともとはタキソールとして知られ、最初はタイヘイヨウイチイの木の樹皮から誘導された。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。タキサンは微小管の安定性を高め、減数分裂後期の染色体の分離を防ぐ。
【0224】
幾つかの実施形態において、抗癌剤は、レミケード(商標)、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(デカドロン(登録商標))、ステロイド、ゲムシタビン、シス白金、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、グリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、ゲフィチニブ(イレッサ(登録商標))、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、キセロダ、CPT-11、インターフェロンα、ペグ化インターフェロンα(例えばPEG INTRON-A)、カペシタビン、シスプラチン、チオテパ、フルダラビン、カルボプラチン、リポソームダウノルビシン、シタラビン、ドセタキソール(ドセタキセル)、パクリタキセル、ビンブラスチン、IL-2、GM-CSF、ダカルバジン、ビノレルビン、ゾレドロン酸、パルミトロネート、ビアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ビンクリスチン、ドキソルビシン(ドキシル(登録商標))、パクリタキセル、ガンシクロビル、アドリアマイシン、エストラムスチンリン酸ナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダック、エトポシド、およびそれらのいずれかの組み合わせから選択することができる。
【0225】
他の実施形態において、抗癌剤は、ボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、ドキソルビシン、インターフェロンα、レナリドミド、メルファラン、ペグ化インターフェロンα、プレドニゾン、サリドマイドまたはビンクリスチンから選択することができる。
【0226】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載の治療方法は、免疫療法をさらに含む。いくつかの実施形態では、免疫療法は、1つ以上のチェックポイント阻害剤の投与を含む。従って、本明細書に記載の治療方法の幾つかの実施形態は、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物の投与を更に含む。幾つかの実施形態において、1つ以上の免疫チェックポイント分子を阻害する化合物は、アンタゴニスト抗体を含む。幾つかの実施形態において、アンタゴニスト抗体は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、またはアベルマブである。
【0227】
幾つかの態様では、1つ以上の抗癌療法は放射線療法を含む。幾つかの実施形態では、放射線療法は、癌細胞を死滅させるための放射線の投与を含み得る。放射線は、DNAなどの細胞内の分子と相互作用して細胞死を誘発する。放射線は、細胞膜や核膜、その他の細胞小器官に損傷を与えることができる。放射線の種類に応じて、DNA損傷の機構は、相対的な生物学的有効性とまさに同様に異なる場合がある。例えば、重い粒子(すなわち陽子、中性子)はDNAに直接損傷を与え、重い粒子ほど相対的な生物学的有効性が大きくなる。電磁放射線は、主に細胞の水分のイオン化によって生成される短命のヒドロキシルフリーラジカル(遊離基)を介して作用する、間接イオン化をもたらす。放射線の臨床用途は、外照射(外部源からの)と近接照射療法(患者に埋め込まれたまたは挿入された放射線源を使用)から構成される。外照射はX線および/またはγ線から成り、一方で近接照射療法は、崩壊してα粒子またはγ線とともにβ粒子を放出する放射性核種を使用する。本明細書で企図される放射線は、例えば、癌細胞への放射性同位体の直接送達を含む。マイクロ波やUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も本明細書で考慮される。
【0228】
放射線は、単回線量で、または線量分割スケジュールで一連の少量で付与することができる。本明細書で企図される放射線の量は、約1~100 Gy(グレイ)、例えば、約5~約80 Gy、約10~約50 Gy、または約10 Gyの範囲である。総線量は、分割レジメン適用することができる。例えば、レジメンには2 Gyの分割された個別線量が含まれ得る。放射性同位体の線量範囲は広範囲に異なり、同位体の半減期および放出される放射線の強度と種類に依存する。放射線が放射性同位体の使用を含む場合、同位体は、放射性ヌクレオチドを標的組織(例えば腫瘍組織)に運搬する治療用抗体などの標的指向剤に結合させることができる。
【0229】
本明細書に記載の外科手術は、癌性組織の全部または一部が物理的に除去され、切除されそして/または破壊される切除術を含む。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気外科手術、および顕微鏡下手術(モース手術)が含まれる。前癌または正常組織の除去も本明細書で考慮される。
【0230】
従って、幾つかの実施形態では、本開示の治療方法は、被験者に第二の(二次的)治療法を施すことをさらに含む。一般に、第二の治療法は、当技術分野で知られている任意の治療法であり得る。本明細書に開示される治療組成物と組み合わせて使用するのに適した治療法の非限定的例には、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、および外科手術が含まれる。幾つかの実施形態では、第二の治療法は、例えば、化学療法剤もしくは抗癌剤または上記のような抗癌療法などの1つ以上の追加の治療剤を含む。幾つかの実施形態では、第一の治療法と第二の治療法が同時に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は、第二の治療法と同時に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法および第二の治療法は連続して施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は、第二の治療法の前に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は、第二の治療法の後に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療法は、第二の治療法の前および/または後に施される。幾つかの実施形態において、第一の治療法と第二の治療法は、交互に施される。幾つかの実施形態では、第一の治療薬および第二の治療法は、単一の製剤で一緒に施される。
システムまたはキット
【0231】
本開示のシステムまたはキットとしては、本明細書に開示されるポリペプチド、抗体、核酸、ベクター、または医薬組成物のいずれか1つ以上、並びに多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、ベクター、または医薬組成物のいずれかを個体に投与するために使用される注射器(充填済み注射器を含む)および/またはカテーテル(充填済み注射器を含む)が含まれる。キットはまた、本明細書に開示される多価ポリペプチド、多価抗体、核酸、ベクター、または医薬組成物のいずれか並びにそれらの投与の際に使用される注射器および/またはカテーテルを使用するための書面による指示書も含む。
【0232】
本明細書全体を通して与えられる全ての最大数値限定は、あたかもそれより低い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、全てのより低い数値限定を含むことが意図される。この明細書全体を通して与えられる全ての最小数値限定は、あたかもそれより高い数値限定が本明細書に明示的に記載されているかのように、全てのより高い数値限定を含む。この明細書全体を通して与えられる全ての数値範囲には、あたかもより狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されているかのように、より広い数値範囲内に入る全ての狭い数値範囲が含まれるだろう。
【0233】
本開示で言及される全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的にかつ個別に示されたかのように同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0234】
本明細書で引用されたいかなる参考文献も先行技術を構成するとは認められない。参考文献の議論は、その著者が何を主張しているかを述べており、本発明者らは、引用された文書の正確性と適切性に異議を唱える権利を保有する。科学雑誌の文献、特許文書、教科書をはじめとする多くの情報源が本明細書で参照されることは、明確に理解されるだろう。この参照は、それらの文書のいずれかが当技術分野の一般的な知識の一部を形成しているという承認を成すものではない。
【0235】
本明細書で与えられる一般的方法の議論は、例示目的のみを意図している。他の代替的方法および代替物は、本開示を再考察すれば当業者に明らかであり、本出願の精神および範囲内に含まれるべきである。
【0236】
追加の実施態様は、下記の実施例に更に詳細に開示されるが、それは例示目的のみで与えられ、いかなる形でも本開示および特許請求の範囲の範囲を限定するものではない。
実施例1
【0237】
本実施例は、細胞表面受容体シグナル伝達が本開示の幾つかの実施形態に従って局所ホスファターゼ動員によりモジュレートすることができることを実証するために行った実験を記載する。
【0238】
図2に示す通り、細胞膜に存在するPD-1やチェックポイント受容体のような細胞表面受容体は、リガンドの無い静止状態では、低い基底レベルのリン酸化を受ける(
図2の左上のパネル)。同族のリガンドへの結合は、リン酸化を増大し、シグナル伝達を増強してT細胞活性化を阻害する(
図2の右上のパネル)。一例として、PD-1遮断抗体である「チェックポイント阻害剤」は、受容体/リガンド相互作用を付与してT細胞活性化を増大するが、基底の受容体シグナル伝達は影響を受けず、よってチェックポイントAb遮断によるT細胞活性化の増強は、それの有効性の点で制限される。本発明では、CD45ホスファターゼを着目の受容体の空間的近傍に動員する二重特異性ダイアボディが、静止状態とリガンド活性化状態の両方においてPD-1のリン酸化を減少させると期待される(
図2の下のパネル)。
ヒトCD45とPD-1をターゲティングする二重特異性ダイアボディの作製
【0239】
ヒトCD45とPD-1をターゲィングする(標的指向する)二重特異性抗体を作製した。ここで該抗体のアミノ酸配列は、N末端からC末端方向で(i) CD45に特異的なscFvの重鎖可変領域、(ii) 細胞表面受容体PD-1に特異的なscFvの軽鎖可変領域、(iii) 細胞表面受容体PD-1に特異的なscFvの重鎖可変領域;およびCD45に特異的なscFvの軽鎖可変領域を含む。抗体のアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に開示される。
【0240】
図3A~3Cに示す通り、上述したように作製された二重特異性ダイアボディCD45/PD-1は、CD45(
図3A)、PD-1(
図3B)またはその両分子(
図3C)がトランスフェクトされたHEK293細胞に結合することが証明された。これらの実験では、約100万個のHEK293細胞に1μgのCD45 RA、PD-1またはその双方をトランスフェクトした。トランスフェクションの約24時間後、細胞を収得し、Alexa Fluor(登録商標)647蛍光色素で予め標識されているCD45/PD-1二重特異性ダイアボディを用いて、製造業者のプロトコルに従って、氷上で指定の濃度で45分間染色した(Thermo Fisher Scientific社、米国サニーベール)。トランスフェクトしないHEK293細胞は、指定の濃度(灰色の直線)で染色した。表面染色の定量はFACS(CytoFLEX、Beckman Coulter社、米国インディアナポリス)により実施した。代表的なデータは平均±SD、n=3として示される。
【0241】
上述の二重特異性ダイアボディCD45/PD-1がヒトCD45とヒトPD-1の細胞外領域に結合できることを実証するために別の実験セットを行った。これらの実験では、抗ヒトRIPR-PD1多価抗体であるαCD45-PD1(Nivo)をデザインし、作製した。この抗体では、二重特異性モジュールは、ニボルマブ配列に相当する抗PD-1 scFvに作動可能に連結された抗CD45 scFvから構成された。この二重特異性ダイアボディCD45/PD-1をサイズ排除(AKTA FPLC, GE Healthcare, Superdex 200 Increase; 280 nm吸光度)により精製した。加えて、二重特異性ダイアボディCD45/PD1のタンパク質完全性と純度を、非還元型SDS-PAGE電気泳動に続き、標準的なクーマシー染色により確かめた(データは示していない)。表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使って、ヒトCD45とヒトPD-1の細胞外領域に結合するαCD45-PD1(Nivo)を測定した。ここでCD45に対する親和性(KD)は約300 nMであり、PD-1に対する親和性は約6 nMであることが分かった。
【0242】
本開示の幾つかの実施形態に従ってホスファターゼCD45と細胞表面受容体PD-1に結合することができる別の例示的な多価抗体を作製した。この多価ポリペプチドのアミノ酸配列は、N末端からC末端方向で、(i) CD45に特異的なscFvの重鎖可変領域、(ii) PD-1に特異的なscFvの軽鎖可変領域、(iii) PD-1に特異的なscFvの重鎖可変領域、および(iv) CD45に特異的なscFvの軽鎖可変領域を含む。多価抗体のアミノ酸配列は、配列表の配列番号12に開示される。
実施例2
【0243】
本実施例は、PD-1発現がPD-1リガンドの非存在下であってもT細胞活性化を減少させることを証明するために行った実験を記載する。
【0244】
これらの実験では、Jurkat T細胞を全長野生型PD-1を用いてレンチウイルスにより形質導入し、PD-1の表面発現を抗PD-1抗体(クローンEH12.2H7、Biolegend製)を用いて行ったFACSにより測定した。全長野生型PD-1を形質導入したJurkat T細胞の約56%が、細胞表面にPD-1を提示することが分かった。約1百万/mLの細胞密度でPD-1を発現しているJurkat T細胞(Jurkat-PD1)を96ウェルプレート中2μg/mLの固定化ムロモナブ-CD3(Orthoclone OKT3)により一晩活性化した。
図4Aに示す通り、OKT3との一晩のインキュベーションにより惹起したCD25とCD69(Biolegend)のアップレギュレーションが、PD-1を発現している細胞については低いことが判明した。
図4Bに示す通り、CRISPR/Cas9 PD-1ターゲティングガイドRNAを用いて処理した細胞における減少したPD-1発現が、OKT3での活性化によって、より高いCD69発現に至ることが認められた。
【0245】
これらの実験では、ヒトPD-1配列をターゲティングするDNA配列(5’- CACCGCGACTGGCCAGGGCGCCTGT- 3’; 配列番号8)を、CRISPR/Cas9 レンチウイルス送達骨格(Addgene, プラスミド#52961)中にクローニングした。OKT3刺激アッセイの7日前に、Jurkat T細胞にPD-1/CRISPR/Cas9を形質導入した。代表的なデータは平均±SEM, n=3として示される。
実施例3
【0246】
本実施例は、HEK293細胞中のリンパ球特異的プロテインチロシンキナーゼLckおよび/またはCD45と共にCD45-PD1二重特異的ダイアボディの存在下または非存在下でインキュベートすることによる、PD-1リン酸化の再構成を例証するために行った実験を記載する(
図5A参照)。
【0247】
図5Bに示すように、細胞表面受容体PD-1は野生型HEK293細胞中ではリン酸化されていなかった(レーン1)。しかしながら、PD-1のリン酸化は、Lckも存在する時に容易に観察された(レーン2)。CD45の同時発現が総リン酸化を減少させることが観察された(レーン3)。CD45-PD1二重特異性ダイアボディ(Db)と共にインキュベートすると、PD-1リン酸化の減少が観察された。これらの実験では、ほぼ200万個の細胞を、全長ヒトPD-1、LckおよびCD45をコードする遺伝子で一時的にトランスフェクトした。24時間後、細胞を未処置のまま維持するか、または上記実施例1に記載のように作製した多価抗体CD45-PD1と共に室温で約15分間インキュベートした後、細胞を溶解緩衝液(20 mM HEPES、150 mM NaCl、2 mM EDTA、10%グリセロール、2×完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)、2 mMオルトバナジウム酸ナトリウム(NEB)、1×ホスファターゼ阻害剤カクテル(Cell Signaling Technology)、1×DNアーゼ(NEB)、1%NP-40)を用いて氷上で30分間溶解させた。可溶化後、細胞溶解物を21,000×gで4℃にて30分間遠心分離することにより予備清澄化した。次いで、ストレプトアビジン結合Dynabeads(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)に連結させたビオチン化抗PD-1抗体(Biolegend社、カタログ番号367418)を用いて、氷上で1時間、細胞溶解物からPD-1を免疫沈降(IP)せしめた。洗浄緩衝液(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1%NP-40、2×完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)、2 mMオルトバナジウム酸ナトリウムおよび1×ホスファターゼ阻害剤カクテル)で4回洗浄した後、ビーズを非還元型SDSサンプル緩衝液と共にインキュベートし、そして95℃で5分間加熱した。SDS-PAGEを使用して電気泳動した後、IPサンプルをPVDF膜(Bio-Rad社)に移行し、そして製造業者の教示通りに、ウエスタンブロッティングアッセイ(WB)のために抗Tyrリン酸化(上のパネル; Cell Signaling社; P-Tyr-100、カタログ番号9411S)または抗PD-1(下のパネル; Biolegend社、カタログ番号367402)抗体と共にインキュベートした。
実施例4
【0248】
本実施例は、HEK293細胞中のリンパ球特異的プロテインチロシンキナーゼLckおよび/またはCD45と共にインキュベートすることによる、多重受容体リン酸化の再構成を例証するために行った実験を記載する。CD45は全てのリンパ球中に存在する非常に豊富なホスファターゼであるため、本実施例に記載の実験結果は、CD45の動員が、様々な細胞機能に関与している多数の異なる受容体を脱リン酸化するために利用できることを証明する。
【0249】
これらの実験では、CD45が多数の標的を脱リン酸化できることが観察され、これはCD45活性化が特定の標的に特異的でないことを示唆する。TIGIT、CTLA-4、CD132、CD5、および程度は低いがCD28とTIM-3は、全てCD45により脱リン酸化されることが分かった。
図6Aに示されるように、細胞表面受容体TIGIT、CTLA4、CD28、TIM3、CD132、CD5およびB7H3は、野生型HEK293細胞では基本的にリン酸化されていなかった。受容体のリン酸化は、Lckも存在する場合に容易に観察され、ただし、シグナル伝達チロシン残基を含まないB7H3は例外であった(
図6A)。
図6Bに示されるように、CD45の同時発現は、試験した全ての受容体でリン酸化を減少させることが観察され、このことは、CD45活性が特定の標的に特異的でないことを示す。これらの実験では、ほぼ200万個の細胞を、ヒト受容体LckとCD45の細胞内領域をコードする遺伝子を用いて一時的にトランスフェクトせしめた。24時間後、細胞を溶解緩衝液(20 mM HEPES、150 mM NaCl、2 mM EDTA、10%グリセロール、2×完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)、2 mMオルトバナジウム酸ナトリウム(NEB社)、1×ホスファターゼ阻害剤カクテル(Cell Signaling Technology社)、1×DNアーゼ(NEB社)、1%NP-40)により、氷上で30分間溶解させた。可溶化後、細胞溶解物を21,000×g、4℃で30分間の遠心分離により、予備清澄化した。次いで、抗HA磁気ビーズを用いて細胞溶解物からPD-1を氷上で1時間免疫沈降(IP)させた。洗浄緩衝液(20 mM HEPES, 150 mM NaCl, 1%NP-40、2×完全プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)、2 mM オルトバナジウム酸ナトリウムおよび1×ホスファターゼ阻害剤カクテル)で4回洗浄した後、ビーズを非還元型SDSサンプル緩衝液と共にインキュベートし、そして95℃で5分間加熱した。SDS-PAGEを使って電気泳動した後、IPサンプルをPVDF膜(Bio-Rad)に移行し、そして製造業者の教示通りに、ウエスタンブロッティングアッセイ(WB)のために抗Tyrリン酸化抗体(上のパネル;Cell Signaling;P-Tyr-100、カタログ番号9411S)または抗PD-1抗体(下のパネル;Biolegend、カタログ番号367402)と共にインキュベートした。
実施例5
【0250】
本実施例は、CD45-PD1二重特異性ダイアボディによるT細胞の処置が、ムロモナブ-CD3(OKT3)およびペプチド-MHC刺激に応答してT細胞活性化を増加させることを例証するために行った実験を記載する。
【0251】
本実験では、上記実施例1に記載のPD-1を発現するJurkat T細胞を、単独のプレート結合型OKT3(2μg/ml)(黒いひし形)またはニボルマブ抗体(白抜きの四角)もしくはCD45-PD1(Nivo)ダイアボディ(黒丸)で刺激した。二重特異性ダイアボディCD45-PD1が、活性化マーカーCD69(
図7A)およびCD25(
図7B~7C)の発現を増加させること、並びに高レベルのIL-2サイトカイン分泌(
図7D)が観察された。表面発現CD69およびCD25は、OKT3刺激の16時間後にFACS染色により測定した。IL-2濃度は、ニボルマブ抗体(白抜きの四角)またはCD45-PD1(Nivo)ダイアボディ(黒丸)の存在下でOKT3(2μg/mL)を用いたJurkat T細胞刺激後にELISA(カタログ番号431804、Biolegend社)により定量した。異なるT細胞株のSKW-3 T細胞(カタログ番号ACC 53; DSMZ社、ドイツ国ライプニッツ)において同様な実験を実施した。
図7E~7Fに示される通り、適切なT細胞受容体(TCR)およびPD-1を用いて形質導入されたSKW-3 T細胞を、アゴニストペプチド-MHC±PD-L1を提示している細胞と共に48時間(PD-L1-、黒いひし形;PD-L1+、白丸)、ニボルマブ抗体(白抜きの四角)またはCD45-PD1(Nivo)ダイアボディ(黒丸)の存在下でインキュベートした。抗原提示細胞を10μMのアゴニストペプチドと共に37℃で1時間インキュベートした後、SKW-3 T細胞と共にインキュベートした。TCR、PD-1、MHCおよびPD-L1の表面発現を、FACSにより確認した。上記の実施例1に記載の二重特異性ダイアボディCD45-PD1とのインキュベーションが、PD-1が存在しない場合に達成されるものと同様なレベルに、IL-2サイトカイン分泌を増加させることが分かった。
図7A~7F中、代表的なデータは平均±SEM、n=3として示される。
実施例6
【0252】
本実施例は、二重特異性CD45-PD1ダイアボディが、活性化末梢血単核細胞(PBMC)の増殖を増強できることを示すために実施された実験を記載する。
【0253】
これらの実験において、健常ドナーからの活性型PBMC細胞は、標準的なフィコール分離を用いて、白血球除去輸血チャンバーから単離された。実験前にPBMCを完全RPMI(10%FBS、1×1 Glutamax、1×ピルビン酸ナトリウム、1×HEPES、および1×Pen/Strep)中に一晩静置した。約100万個/mlの密度のPBMCを、1μM CFSEで室温にて10分間標識し、1 μg/mLのプレート結合型OKT3と市販のPD-1抗体ニボルマブまたは上記実施例1に記載の二重特異性CD45-PD1ダイアボディと共に4日間インキュベートした。示されているデータは、FACS染色によって測定されたように、生存T細胞(CD3+/CD4+/CD8+)でゲーティングされた。
図8Aに示すように、CD45-PD1がニボルマブ抗体よりも高レベルでT細胞増殖を増強することが観察された。
【0254】
これらの実験では、CD45-PD1およびニボルマブを0.5μMの最終濃度で添加した。更に、OKT3単独でまたはニボルマブもしくはCD45-PD1と組み合わせたOKT3で処理した細胞に対するT細胞の増殖率(%)の定量もFACSにより実施した(
図8B)。代表的なデータは、平均±SEMとして示される(n=3)。
実施例7
【0255】
本実施例は、二重特異性ダイアボディCD45-PD1がアゴニストペプチドに応答してCD4+およびCD8+ T細胞活性化を増強することができ、RIPR-PD1がPD-1/PD-L1相互作用の遮断に厳密には依存しないことを示すために、活性化PBMCを用いて行った別の実験を記載する。
【0256】
PD-1は、T細胞活性を低下させることが知られている(これは「チェックポイント阻害剤」としても知られる)。それを果たすために、PD-1は未知のメカニズムによりリン酸化されるに違いないが、それはPD-1への結合に完全に依存していると推測される。本発明者らは、PD-1シグナル伝達に寄与する2つの成分が存在すると仮定した: 1)リガンド結合および2)緊張性シグナル伝達(すなわち、PD-1または任意の他の受容体は、リガンド結合前であっても、低いが機能的に関連性のあるリン酸化レベルを有すると予想される)。以前は、ニボルマブやペンブロリズマブなどの遮断抗体(ブロッキング抗体)の開発をはじめ、リガンド結合を制御するために多くの努力がなされてきた。しかしながら、持続性(tonic)シグナル伝達の寄与はほとんどが見落とされてきた。いずれの特定の理論にも拘束されることなく、ホスファターゼであるCD45のPD-1への動員は、PD-1リン酸化を低減すると期待され、従って持続性シグナル伝達とリガンド誘導性PD-1シグナル伝達の両方を低減すると期待される。低下したPD-1活性の結果は、T細胞活性化の増強であると予想された。本実施例では、本発明者らは、新たに単離したリンパ球において、PD-L1へのPD-1結合をブロックするニボルマブおよびペンブロリズマブ抗体による処理が、CD69、CD25および分泌サイトカイン(例えばIL-2およびIFNγ)を含む、種々の活性化マーカーの発現または分泌を増強することを示した。さらに、これらの細胞を、PD-1に結合させるのにニボルマブまたはペンブロリズマブのアームを使ってそれらの細胞をRIPRで処理することが、更に高いレベルの活性化を誘導することを示した。
【0257】
これらの実験では、先の実施例7で記載したように単離されたPBMCを、176個のペプチド(JPT、PM-CEFX-1)から構成されるペプチドプールと共に50μM(最終濃度)で24時間インキュベートすることにより活性化し、その後、種々の抗体またはダイアボディを0.5 μM(最終濃度)で添加した。Table 1およびTable 2は、ダイアボディ標的と組成物の概要と簡単な説明を提供する。多価抗体CD45-PD1(Nivo)とCD45-PD-1 (Pembro)は、配列表の配列番号12と配列番号14に記載されている(Table 1も参照のこと)。
【0258】
抗体またはダイアボディ処理の24時間後に、処理した細胞と上清を採取した。CD45-PD1(Nivo)とCD45-PD1(Pembro)の両方が、FACS(CytoFLEX)によって測定した時、CD69(
図9A)およびCD25(
図9B)の発現レベルの上昇によって決定されるように、T細胞活性化を増強することができ、並びにELISAにより決定されるようにIFNγ(
図9D)およびサイトカインIL-2(
図9C)の分泌を増強することができることが観察された(製造業者の教示通りに、IL-2はカタログ番号431804、Biolegend社製を使って定量し、そしてIFNγはカタログ番号430104、Biolegend社製を使って定量した)。CD69について示したデータは、生存CD3+/CD4+/CD8+細胞上でゲートされた。
図9Eに要約されているのは、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、またはCD45-PD1(Nivo)およびCD45-PD1(Pembro)で処理した後、T細胞を蛍光標識抗PD1遮断抗体のクローンEH12.2H7(Biolegend、カタログ番号329904)で染色した。クローンEH12.2H7、ニボルマブおよびペンブロリズマブは重複したエピトープを有し、従ってクローンEH12.2H7標識からの蛍光強度(PD-1 MFI)は、ニボルマブまたはペンブロリズマブ処理後に減少した。RIPR-NivoおよびRIPR-Pembro分子は、同程度にクローンEH12.2H7の標識を減弱し、よってRIPR-NivoとRIPR-Pembroは、それぞれ、ニボルマブとペンブロリズマブのPD-1結合特性を維持していたことを示している。
【0259】
【0260】
実施例8
【0261】
本実施例は、非遮断scFvを使ってPD-1に結合させた二重特異性ダイアボディCD45-PD1(Cl19)が、アゴニストペプチドに応答してT細胞活性化を促進できることを例証するために行った別のセットの実験を記載する。
【0262】
本実験では、前の実施例7に記載した通り単離したPBMCを、まず最初に、50 μM(最終濃度)の176ペプチド(JPT、PM-CEFX-1)から構成されるペプチドプールとの24時間のインキュベーションにより活性化し、その後で様々な抗体またはダイアボディを0.5 μM(最終濃度)で添加した。処理した細胞および上清を抗体またはダイアボディ処理の24時間後に収得した。CD45-PD1(Cl19)が、CD69の発現レベルの上昇により測定されるT細胞活性化(
図10A)、並びにELISAにより測定されるIFNγの分泌(
図10B)を増強できることが観察された(IFNγは、製造業者の教示通りに、Biolegend社製カタログ番号430104を使って定量した)。
【0263】
CD69およびCD25について示されたデータは、生存CD3+/CD4+/CD8+細胞でゲーティングされた。
図10Cに要約されるのは、ニボルマブ、ペンブロリズマブまたはCD45-PD1(Cl19)による処理後、T細胞を蛍光標識抗PD1遮断抗体であるクローンEH12.2H7(Biolegend社、カタログ番号329904)で染色した競合実験である。クローンEH12.2H7、ニボルマブおよびペンブロリズマブは、重複するエピトープを有し、従ってクローンEH12.2H7標識からの蛍光強度(PD-1 MFI)は、細胞をニボルマブまたはペンブロリズマブで処理した時に低かった。CD45-PD1(Cl19)は、クローンEH12.2H7標識の効果が弱いことが観察され(より高い蛍光、PD1 MFI)、このことはCD45-PD1(Cl19)エピトープがニボルマブまたはペンブロリズマブとは異なることを示唆している。
【0264】
本実施例に記載の実験は、PD-L1へのPD-1結合を完全にはブロックしない抗PD-1結合ユニットを使用するhRIPR-PD1分子も、T細胞活性を促進することを示す。いずれの特定の理論に拘束されることなく、hRIPR-PD1分子は、PD-1リン酸化を直接標的とするため、PD-1のシグナル伝達を減弱することが期待され、従ってPD-1/PD-L1遮断が存在しない場合であっても、T細胞活性化を増強すると予想される。αCD45-PD1(Cl19)は、T細胞活性化を増強する上で、ニボルマブよりも弱いが、ペンブロリズマブより強力であるように見えることが観察された。
実施例9
【0265】
本実施例は、scFvに融合したナノボディ(単一重鎖)を使用したため、異なる構造を有する第3のhRIPR-PD1分子を開発するために行われた実験を説明する。以下に更に詳細に説明するように、この新しいRIPR分子(第二世代)は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるように、精製収率を増加させ、PD-1およびCD45への結合を維持している。
【0266】
本実施例に記載される第二世代の二重特異性RIPR-PD1分子は、上記実施例に記載されたものと同じ抗CD45 scFvを使用したが、ここではナノボディ(VHH)抗ヒトPD-1(米国特許出願US20170137517A1に記載)に融合された。従って、この新規αCD45-PD1(VHH)二重特異性分子は、ヒトCD45とヒトPD-1に結合するだろうと予想された。
【0267】
抗PD1ナノボディ(VHH)に結合した抗CD45 scFvから成る第二世代抗ヒトRIPR-PD1(抗CD45/抗PD1)二重特異性分子を、サイズ排除(AKTA FPLC、GE Healthcare社製、Superdex 200 Increase; 280 nm吸光度)により精製した。タンパク質の完全性と純度は、非還元型SDS-PAGE電気泳動とそれに続く標準的なクーマシー染色により確認された(データは示していない)。このCD45-PD1(VHH)は、表面プラズモン共鳴技術により測定されるようにヒトCD45とヒトPD-1タンパク質の細胞外領域に結合できることが観察された(データは示していない)。CD45の親和性(KD)は約700 nMであり、PD-1に対する親和性は約5 nMであることが判明した。
実施例10
【0268】
この実施例は、上記実施例9に記載の第2世代CD45-PD1(VHH)二重特異性結合モジュールによるT細胞の処理が、ムロモナブ-CD3(OKT3)に応答してT細胞活性化を増加させることができることを示すために行われた実験を記載する。
【0269】
これらの実験において、Jurkatt T細胞発現を、1.5μMのニボルマブ(黒いひし形)、CD45-PD1(Nivo)(黒丸)、CD45-PD1(VHH)(白丸)、抗CD45ダイアボディ#4(黒い三角)の非存在下または存在下で、様々な濃度(0.625~5μg/mL)でプレート結合OKT3を用いて刺激した。前記二重特異性ダイアボディCD45-PD1(Nivo)およびCD45-PD1(VHH)が活性化マーカーCD69(
図11A)およびCD25(
図11B)の発現を増加させることが観察され、CD69+/CD25+細胞のより高い画分をもたらした(
図11C)。表面発現CD69およびCD25は、OKT3刺激の24時間後のFACS染色によって決定された。
実施例11
【0270】
本実施例は、マウスCD45およびマウスPD-1を標的とするRIPR-PD1分子を開発するために設計された実験を記載する。
【0271】
マウスRIPRは、マウスPD-1(PD-1 scFv;PD1-F2、WO2004056875A1中に既に記載)を認識するscFvに直接融合したマウスCD45を標的とするナノボディ(VHH)配列から構築および構成された。組換えmRIPRは、トリコプルシア・ニイ(Trichoplusia ni;イラクサギンウワバ)(High FiveTM)細胞中のバキュロウイルス-昆虫細胞発現系を用いて作製した。Ni-NTA精製後、mRIPRは、280 nmの吸光度(データは示してない)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーの際に、単量体形および単分散型の溶出プロフィールを示した。mRIPRの純度は、非還元型SDS-PAGE電気泳動に続いて、ピーク画分SEC溶出に一致した標準的なクーマシー染色により確認された(データは示していない)。
実施例12
【0272】
本実施例は、抗マウスCD45(VHH)-PD1F2二重特異性結合モジュールを用いたマウスT細胞の処理が、抗マウスCD3(2C11)に応答してT細胞活性化を増加させることを示すために行われた実験を記載する。
【0273】
これらの実験では、C57BL/6マウスから単離されたCD8+ T細胞を、上記実施例11中に記載のCD45(VHH)-PD1F2二重特異性結合モジュールの非存在下(未処理;黒いひし形)または存在下で、様々な濃度で(1~10μg/mL)プレート結合型2C11により刺激した。二重特異性ダイアボディCD45(VHH)-PD1F2は、活性化マーカーCD69(
図12A)およびCD25(
図12B)の発現を増加させることが観察された。これらの実験において、CD69およびCD25の表面発現は、2C11刺激の16時間後にFACS染色によって決定された。FACS分析の結果は、以下の表4に要約され、各コホートにおける二重陽性細胞(CD69+ CD25+)の割合が示される。
【0274】
【0275】
実施例13
本実施例は、マウスTCRトランスジェニック(Pmel-1)CD8+ T細胞の抗マウスCD45(VHH)-PD1(F2)二重特異性結合モジュールによる処理が、gp100ペプチドに応答し得T細胞活性化を増加させることを例証するために行った実験を記載する。
【0276】
これらの実験では、Pmel-1 TCRを発現するマウスCD8+ T細胞を、1:1の比で全脾細胞と共にインキュベートし、そしてC45(VHH)-PD1(F2)の非存在下(未処理)もしくは存在下でgp100 ペプチド(0.1~10μM)で、または1μMの抗PD-1遮断抗体で刺激した。二重特異性CD45(VHH)-PD1F2結合分子が活性化マーカーCD69(
図13A)およびCD25(
図13B)の発現を増加させることが観察された。CD69とCD25の表面発現は、gp100ペプチド刺激後24時間目にFACS染色により測定した。FACS分析の結果を下表5に要約する。表中、各コホートの二重陽性細胞(CD69+ CD25+)の割合(%)が示される。
【0277】
【0278】
実施例14
【0279】
本実施例は、抗マウスCD45(VHH)-CTLA4二重特異性結合モジュールであるmRIPR-CTLA4によるマウスT細胞の処理が、T細胞活性化を増加させることを例証するために実施した実験を記載する。
【0280】
PD-1と同様、CTLA-4はT細胞活性を減少させる。本発明者らは、CD45をCTLA4に動員するRIPR分子を開発した。PD-1についてと同様に、CD45活性の動員は、CTLA-4リン酸化を減少させると予想され、そしてCTLA-4はT細胞活性の阻害剤であるため、RIPR-CTLA4はT細胞機能を増強すると予想される。
【0281】
これらの実験では、C57BL/6マウスから単離したT細胞を、250 nMまたは1μMのmRIPR-CTLA4の非存在下または存在下で、プレート結合型2C11により1μg/mlにて刺激した。mRIPR-CTLA4は活性化マーカーCD69とC25の発現を増加させ、2C11抗体とのインキュベーションの両方についてCD69+/CD25+ 細胞の画分の増加をもたらすことが観察された。表面発現CD69とCD25は、2C11刺激後の指摘の時点でのFACS染色により測定した。示したデータは、生存CD3+/CD4+またはCD3+/CD8+ T細胞上でゲートされた。
実施例15
【0282】
本実施例は、抗マウスCD45(VHH)-CTLA4二重特異性結合モジュールであるmRIPR-CTL4を用いたマウスT細胞の処理が、抗マウスCD3(2C11)に応答してT細胞活性化を増加させることを示すために行われた実験を記載する。
【0283】
これらの実験において、C57BL/6 マウスから単離されたT細胞を、1μMのCD45(VHH)-mCTLA4の非存在下(左側のパネル)または存在下(右側のパネル)で、1μg/mLのプレート結合型2C11で刺激した。二重特異性ダイアボディ CD45(VHH)-CTLA4が活性化マーカーCD69とCD25の発現を増加させ、それが2C11抗体とのインキュベーションの24時間後および48時間後に、CD4+とCD8+の両方についてCD69+/CD25+細胞の画分の増加をもたらすことが観察された。表面発現CD69とCD25を、2C11刺激後の適当な時点でFACS染色により測定した。表4に示すデータは、生存CD3+/CD4+またはCD3+/CD8+ T細胞でゲーティングされた。表6に示すデータは、上記実施例14に記載したように1μg/mLのプレート結合型2C11および1μMのmRIPR-CTLA4での活性化と一致する、CD25とCD69表面染色の一例である。
【0284】
【0285】
本実施例は、抗マウスCD45(VHH)-CD28二重特異性結合モジュールであるmRIPR-CD28によるマウスT細胞の処理が、抗マウスCD3(2C11)に応答して、CD25とCD44のようなT細胞活性化マーカーの発現を減少させることを示すために行った実験を記載する。
【0286】
上記のように、CD28は、B7ファミリーの細胞表面共受容体であるPD-1およびCTLA-4と同じタンパク質ファミリーの一部である。PD-1およびCTLA-4とは異なり、CD28共受容体によるシグナル伝達はT細胞活性化を増強する。いずれかの特定の理論に拘束されることなく、CD45のようなホスファターゼのCD28への動員は、CD28シグナル伝達を減弱させ、かつT細胞活性化を減少させる(例えば抑制する)と予想される。
【0287】
これらの実験で使用されるmRIPR-CD28は、ナノボディCD45(PMOD:25819371)に融合したナノボディ抗マウスCD28(国際公開WO2002/047721A1)を含んだ。C57BL/6マウスから単離されたT細胞を、125、250、500または1000μMのmRIPR-CD28の非存在下または存在下で、0.5、1、2、4、または8μg/mlのプレート結合型2C11で刺激した。mRIPR-CD28は、2C11抗体およびmRIPR-CD28との48時間のインキュベーション後に、CD4+(
図15A)およびCD8+(
図15B)の両方について、活性化マーカーCD25 とCD44の発現を減少させることが観察された。表面発現CD25およびCD44を、2C11刺激後の指摘の時点でFACS染色により測定した。示したデータは、生存CD4+またはCD8+T細胞でゲーティングされた。
実施例17
【0288】
本実施例は、CD45を2つの異なる細胞表面抗原 PD-1とCTLA4に動員するように設計されたRIPR分子の三重特異性バージョンを記載し、それを二重RIPR(dRIPR)-PD1/CTLA4と命名した。このRIPR分子の三重特異性バージョンは、マウスCD45、PD-1およびCTLA4に結合し、そしてT細胞活性化を増強すると予想される。
【0289】
この分子は、ナノボディ抗CD45(PMID:25819371)およびscFv抗PD-1(PD1-F2、国際公開WO2004/056875A1に記載)に融合したナノボディ抗CTLA4(PMID: 29581255)とから構成される。dRIPR-PD1/CTLA4のアミノ酸配列は、配列表の配列番号28中に記載されている。dRIPR-PD1/CTLA4に関する更なる情報は、Table 1中にも見つけることができる。この抗マウス三重特異性CD45-PD1-CTLA4を、続いてサイズ排除(AKTA FPLC、GE Healthcare、Superdex 200 Increase; 280 nm吸光度が
図17Aに示される)により精製した。更に、三重特異的CD45-PD1/CTLA4分子のタンパク質完全性と純度は、非還元型SDS-PAGE電気泳動とそれに続く標準的なクーマシー染色により確認した(
図17B)。
実施例18
【0290】
本実施例は、サイトカイン、この場合はインターロイキン-2に融合した抗CD45 scFvを含む多価ポリペプチドが、STAT5(pSTAT5)のリン酸化を減少させ、かつSTAT5シグナル伝達を減弱させることを証明するために行った実験を記載する。
【0291】
これらの実験において、CD45ホスファターゼをIL-2Rに動員するために、抗ヒトCD45 scFvを次の通りに野生型IL-2に融合させた:まず、CD45とIL-2Rに結合することができる多価ポリペプチドを作製した。ここで、該ポリぺプチドのアミノ酸配列は、N末端からC末端方向に、以下を含んだ:(i)CD45に特異的なscFvの重鎖可変領域、(ii)CD45に特異的なscFvの軽鎖可変領域;および(iii)サイトカイン受容体IL-2Rに対する結合親和性を有するサイトカインIL-2のアミノ酸配列。多価ポリペプチド抗CD45-IL2のアミノ酸配列は、配列表の配列番号6に開示される。
図16Aに要約される通り、IL-2はIL-2受容体に結合するとJAK Tyrリン酸化を誘導し、そしてサイトカイン受容体IL-2RへのCD45の局所ホスファターゼ動員が、STAT5のリン酸化(pSTAT5)を減少させると考えられる。
【0292】
これらの実験において、蛍光標識された抗CD45-IL2多価ポリペプチド〔製造業者の教示に従ってAlexa(登録商標)Fluor647で標識されている;Thermo Fisher Scientific社製〕によるHEK293細胞(灰色)およびYT+細胞(CD25+;薄い灰色)の表面染色が
図16Bに示される。また、
図16Cに示すように、指示した濃度で抗CD45-IL2多価ポリペプチドとのYT+細胞の37℃で15分間のインキュベーションは、野生型IL-2と比較して、pSTAT5 Emaxの約50%減少をもたらす。代表的なデータを平均±SD、n=3として示す。IL-2またはCD45-IL2キメラに対するpSTAT5の応答の程度をもとめるために、約100,000個の細胞を室温で10分間、4%PFA中で固定した。固定後、細胞を氷上で1時間メタノールで透過性にし、続いて-80℃で一晩インキュベートした。MACS緩衝液(Miltenyi)で洗浄した後、細胞をMACS緩衝液中1:100希釈した蛍光標識抗ヒトpSTAT5抗体(AlexaFluor(登録商標)647;BD Biosciences,カタログ番号61299)と共に氷上で1時間インキュベートした。氷冷MACS緩衝液中で3回洗浄した後、pSTAT5をFACS(CytoFLEX)により定量した。
【0293】
本開示の特定の代替例を開示してきたが、添付の特許請求の範囲の真の精神と範囲内で様々な変更および組み合わせが可能であり、考慮されることが理解されるべきである。従って、本明細書に提示された正確な要約および開示に対する制限の意図は全くない。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドであって、
受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)の細胞外ドメイン(ECD)に対して結合親和性を有する第一のポリペプチドモジュール;および
リン酸化機構を通してシグナル伝達する1つ以上の細胞表面受容体(CSR)の細胞外ドメイン(ECD)に対して結合親和性を有する第二のポリペプチドモジュール
を含み、
ここで、
前記1つ以上のCSRが前記RPTPも発現する細胞において発現され、
前記1つ以上のCSRがPD-1、TIGIT、CTLA4、TIM3およびCD132から成る群から選択され、そして
前記第一のポリペプチドモジュールが前記第二のポリペプチドモジュールに作動可能に連結されている、ポリペプチド。
【外国語明細書】