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▶ 株式会社半導体エネルギー研究所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149553
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】金属酸化物膜
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/363 20060101AFI20241010BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20241010BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20241010BHJP
   H01L 27/088 20060101ALI20241010BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20241010BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20241010BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20241010BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20241010BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20241010BHJP
【FI】
H01L21/363
H01L29/78 618B
H01L27/06 102A
H01L27/088 B
H01L27/088 331E
C23C14/34 Z
C23C14/08 Z
C23C14/14 D
G01N23/20058
G01N23/2055 310
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024123143
(22)【出願日】2024-07-30
(62)【分割の表示】P 2021501126の分割
【原出願日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019030643
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019042866
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019076585
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】生内 俊光
(72)【発明者】
【氏名】保坂 泰靖
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 智則
(72)【発明者】
【氏名】金川 朋賢
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(57)【要約】
【課題】電気特性の高い金属酸化物膜を提供する。信頼性の高い金属酸化物膜を提供する。
【解決手段】金属酸化物膜は、インジウム、M(Mはアルミニウム、ガリウム、イットリウム、またはスズ)、及び亜鉛を含む。また金属酸化物膜は、金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から電子線を照射する電子線回折で決定される面間隔dの分布が、第1のピークと、第2のピークとを有する。また第1のピークの頂点は、0.25nm以上0.30nm以下に位置し、第2のピークの頂点は、0.15nm以上0.20nm以下に位置する。上記面間隔dの分布は、金属酸化物膜の複数の領域における複数の電子線回折パターンから得られるものである。また電子線回折は、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を用いて行われる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、M(Mはアルミニウム、ガリウム、イットリウム、またはスズ)、及び亜鉛を含む金属酸化物膜であって、
前記金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から電子線を照射する電子線回折で決定される面間隔dの分布が、第1のピークと、第2のピークとを有し、
前記第1のピークの頂点が、0.25nm以上0.30nm以下に位置し、
前記第2のピークの頂点が、0.15nm以上0.20nm以下に位置し、
前記面間隔dの分布は、前記金属酸化物膜の複数の領域における複数の電子線回折パターンから得られるものであり、
前記電子線回折は、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を用いて行われる、
金属酸化物膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、金属酸化物膜に関する。本発明の一態様は、金属酸化物膜を用いた半導体装置に関する。本発明の一態様は、金属酸化物膜の評価方法に関する。
【0002】
なお、本発明の一態様は、上記の技術分野に限定されない。本明細書等で開示する本発明の一態様の技術分野としては、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、記憶装置、電子機器、照明装置、入力装置、入出力装置、それらの駆動方法、又はそれらの製造方法、を一例として挙げることができる。半導体装置は、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指す。
【背景技術】
【0003】
トランジスタに適用可能な半導体材料として、酸化物半導体が注目されている。例えば、特許文献1では、複数の酸化物半導体層を積層し、当該複数の酸化物半導体層の中で、チャネルとなる酸化物半導体層がインジウム及びガリウムを含み、且つインジウムの割合をガリウムの割合よりも大きくすることで、電界効果移動度(単に移動度、またはμFEという場合がある)を高めた半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-7399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、電気特性の高い金属酸化物膜を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、信頼性の高い金属酸化物膜を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、量産性に優れた金属酸化物膜を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、新規な金属酸化物膜を提供することを課題の一とする。
【0006】
また、本発明の一態様は、金属酸化物膜が適用され、電気特性の高い半導体装置を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、金属酸化物膜が適用され、信頼性の高い半導体装置を提供することを課題の一とする。
【0007】
また、本発明の一態様は、金属酸化物膜の新規な分析方法、評価方法、または解析方法を提供することを課題の一とする。
【0008】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、インジウム、M(Mはアルミニウム、ガリウム、イットリウム、またはスズ)、及び亜鉛を含む金属酸化物膜である。金属酸化物膜は、金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から電子線を照射する電子線回折で決定される面間隔dの分布が、第1のピークと、第2のピークとを有する。第1のピークの頂点が、0.25nm以上0.30nm以下に位置し、第2のピークの頂点が、0.15nm以上0.20nm以下に位置する。面間隔dの分布は、金属酸化物膜の複数の領域における複数の電子線回折パターンから得られるものである。また電子線回折は、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を用いて行われる。
【0010】
また、上記において、第1のピークの頂点の高さが、第2のピークの頂点の高さよりも高いことが好ましい。または、上記において、第1のピークの頂点の高さが、第2のピークの頂点の高さよりも低いことが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の一態様は、半導体層と、ゲート電極と、ゲート絶縁層と、を有する半導体装置であって、当該半導体層は、上記いずれか一に記載の金属酸化物膜を含む。
【0012】
また、本発明の他の一態様は、金属酸化物膜の複数の領域に対して、金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を照射して、複数の電子線回折パターンを取得し、複数の電子線回折パターンで観測される複数のスポットに対して、面間隔dを算出し、面間隔dの度数分布の形状から、金属酸化物膜の結晶性を評価する、金属酸化物膜の評価方法である。
【0013】
また、本発明の他の一態様は、金属酸化物膜の複数の領域に対して、金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を照射して、複数の電子線回折パターンを取得し、複数の電子線回折パターンで観測される複数のスポットに対して、基準線からの角度θを算出し、角度θの分布の形状から、金属酸化物膜の結晶性を評価する、金属酸化物膜の評価方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、電気特性の高い金属酸化物膜を提供できる。または、信頼性の高い金属酸化物膜を提供できる。または、新規な金属酸化物膜を提供できる。
【0015】
本発明の一態様によれば、金属酸化物膜が適用され、電気特性の高い半導体装置を提供できる。または、金属酸化物膜が適用され、信頼性の高い半導体装置を提供できる。
【0016】
本発明の一態様によれば、金属酸化物膜の新規な分析方法、評価方法、または解析方法を提供できる。
【0017】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1Aは、金属酸化物膜の概略図である。図1B図1Cは、電子線回折パターンの概略図である。図1D図1Eは、ヒストグラムの概略図である。
図2図2A乃至図2Cは、ヒストグラムの概略図である。
図3図3A図3Bは、電子線回折パターンの概略図である。
図4図4Aは、電子線回折パターンである。図4Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図5図5Aは、電子線回折パターンである。図5Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図6図6Aは、電子線回折パターンである。図6Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図7図7Aは、電子線回折パターンである。図7Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図8図8Aは、電子線回折パターンである。図8Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図9図9Aは、電子線回折パターンである。図9Bは、格子面間隔のヒストグラムである。
図10図10は、電子線回折ピークの頻度の比を示す図である。
図11図11Aは、フレーム毎の格子面間隔の変化を示す図である。図11Bは、フレーム毎のスポットの角度の変化を示す図である。
図12図12Aは、フレーム毎の格子面間隔の変化を示す図である。図12Bは、フレーム毎のスポットの角度の変化を示す図である。
図13図13A図13B図13Cは、XRDスペクトルである。
図14図14A図14B図14Cは、XRDスペクトルである。
図15図15A図15B図15Cは、XRDスペクトルである。
図16図16A図16B図16Cは、XRDスペクトルである。
図17図17は、X線回折ピークの頂点の角度を示す図である。
図18図18A乃至図18Eは、計算モデルを示す図である。
図19図19A乃至図19Eは、計算モデルを示す図である。
図20図20Aは、温度と平均エネルギーの関係を示す図である。図20Bは、温度と平均エネルギーの差の関係を示す図である。
図21図21は、欠陥の生成エネルギーを説明する図である。
図22図22Aは、IGZOの結晶構造の分類を説明する図である。図22Bは、石英ガラスのXRDスペクトルを説明する図である。図22Cは、結晶性IGZOのXRDスペクトルを説明する図である。図22Dは、結晶性IGZOの極微電子線回折パターンを説明する図である。
図23図23Aは、半導体装置の上面図である。図23B図23Cは、半導体装置の断面図である。
図24図24A図24Bは、半導体装置の断面図である。
図25図25Aは、半導体装置の上面図である。図25B図25Cは、半導体装置の断面図である。
図26図26Aは、半導体装置の上面図である。図26B図26Cは、半導体装置の断面図である。
図27図27A図27Bは、半導体装置の断面図である。
図28図28A乃至図28Cは、表示装置の構成例を示す図である。
図29図29は、表示装置の断面構成例を示す図である。
図30図30は、表示装置の断面構成例を示す図である。
図31図31は、表示装置の断面構成例を示す図である。
図32図32Aは、表示装置のブロック図である。図32B図32Cは、表示装置の回路図である。
図33図33A図33C図33Dは、表示装置の回路図である。図33Bは、タイミングチャートである。
図34図34A図34Bは、表示モジュールの構成例である。
図35図35A乃至図35Cは、電子機器の構成例を示す図である。
図36図36A乃至図36Eは、電子機器の構成例を示す図である。
図37図37A乃至図37Gは、電子機器の構成例を示す図である。
図38図38A乃至図38Dは、電子機器の構成例を示す図である。
図39図39A乃至図39Dは、トランジスタのId-Vg特性を示す図である。
図40図40は、トランジスタの信頼性評価結果を示す図である。
図41図41A乃至図41Dは、トランジスタのId-Vg特性を示す図である。
図42図42は、HAADEF-STEM像及びEDXマッピング画像である。
図43図43A乃至図43Dは、金属酸化物膜の組成の定量分析結果である。
図44図44A乃至図44Cは、金属酸化物膜の組成のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。ただし、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0020】
なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0021】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成要素の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0022】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、数的に限定するものではない。
【0023】
トランジスタは半導体素子の一種であり、電流や電圧の増幅や、導通または非導通を制御するスイッチング動作などを実現することができる。本明細書におけるトランジスタは、IGFET(Insulated Gate Field Effect Transistor)や薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を含む。
【0024】
また、「ソース」や「ドレイン」の機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合などには入れ替わることがある。このため、本明細書においては、「ソース」や「ドレイン」の用語は、入れ替えて用いることができるものとする。
【0025】
また、本明細書等において、「膜」という用語と、「層」という用語とは、互いに入れ替えることが可能である。例えば、「導電層」や「絶縁層」という用語は、「導電膜」や「絶縁膜」という用語に相互に交換することが可能な場合がある。
【0026】
本明細書等において、表示装置の一態様である表示パネルは表示面に画像等を表示(出力)する機能を有するものである。したがって表示パネルは出力装置の一態様である。
【0027】
また、本明細書等では、表示パネルの基板に、例えばFPC(Flexible Printed Circuit)もしくはTCP(Tape Carrier Package)などのコネクターが取り付けられたもの、または基板にCOG(Chip On Glass)方式等によりICが実装されたものを、表示パネルモジュール、表示モジュール、または単に表示パネルなどと呼ぶ場合がある。
【0028】
なお、本明細書等において、表示装置の一態様であるタッチパネルは表示面に画像等を表示する機能と、表示面に指やスタイラスなどの被検知体が触れる、押圧する、または近づくことなどを検出するタッチセンサとしての機能と、を有する。したがってタッチパネルは入出力装置の一態様である。
【0029】
タッチパネルは、例えばタッチセンサ付き表示パネル(または表示装置)、タッチセンサ機能つき表示パネル(または表示装置)とも呼ぶことができる。タッチパネルは、表示パネルとタッチセンサパネルとを有する構成とすることもできる。または、表示パネルの内部または表面にタッチセンサとしての機能を有する構成とすることもできる。
【0030】
また、本明細書等では、タッチパネルの基板に、コネクターやICが実装されたものを、タッチパネルモジュール、表示モジュール、または単にタッチパネルなどと呼ぶ場合がある。
【0031】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の金属酸化物膜、及び金属酸化物膜の評価方法について説明する。
【0032】
[金属酸化物膜]
図1Aに、基板10上に形成された金属酸化物膜11の概略図を示している。
【0033】
本発明の一態様の金属酸化物膜11は、インジウム、M(Mはアルミニウム、ガリウム、イットリウム、またはスズ)、及び亜鉛を含む酸化物膜である。このような酸化物膜は、半導体特性を示す特徴を有する。金属酸化物膜11は、スパッタリング法により成膜された膜であることが好ましい。特に、スパッタリングターゲットとして、多結晶の金属酸化物ターゲットを用いることが好ましい。
【0034】
金属酸化物膜11は、ランダムに配向した(配向性を有さないともいう)極めて微小な(数nm以下の)複数の結晶領域が含まれる。このような結晶性を有する金属酸化物膜11は、非晶質の金属酸化物膜と比較して信頼性が極めて高い。また、金属酸化物膜11は、配向性を有さない結晶領域と、配向性を有する結晶領域とが混在した膜であってもよい。
【0035】
本発明の一態様の金属酸化物膜11は、半導体装置に適用することができる。例えば、トランジスタのチャネルが形成される半導体に適用することができる。
【0036】
金属酸化物膜11としては、特に、インジウム、ガリウム、及び亜鉛を含む酸化物膜であることが好ましい。また、金属酸化物膜11として、金属酸化物膜11が含む金属元素のうち、インジウムの含有比率の高い材料を用いることが好ましい。特に、ガリウムの含有率よりもインジウムの含有率が高い材料を用いることが好ましい。このような金属酸化物膜11をトランジスタの半導体層に適用することで、電界効果移動度の高いトランジスタを実現することができる。
【0037】
金属酸化物膜11は、成膜条件を異ならせることにより、結晶性を制御することができる。例えば、成膜ガス中の酸素ガスの割合(酸素流量比ともいう)を高くして成膜することで結晶性の高い膜とすることができる。一方、成膜ガス中の酸素ガスの割合を低くする、または酸素ガスを含まない成膜ガスを用いて成膜することで、結晶性の低い膜とすることができる。または、成膜時の基板温度を高くするほど、結晶性の高い膜とすることができ、基板温度を低くする、または基板加熱を行わない状態で成膜することで、結晶性の低い膜とすることができる。金属酸化物膜11は、結晶性が高いほど、膜の安定性が向上する。一方、結晶性が低いほど、トランジスタに適用した際に、電界効果移動度を高めることができる。
【0038】
[電子線回折]
本発明の一態様の金属酸化物膜11は、膜面に垂直な方向から、電子線を照射して得られる電子線回折パターンに、以下の特徴が現れる膜である。
【0039】
電子線回折法としては、電子ビームを収束させて試料に照射するナノビーム電子回折(NBED:Nano Beam Electron Diffraction)法を用いることが好ましい。または、平行電子線を用い、照射領域を絞って微小領域に電子線を照射する制限視野電子線回折(SAED:Selected Area Electron Diffraction)法を用いてもよい。
【0040】
極めて微小な結晶領域を有する金属酸化物膜11に対して、電子線のビーム径を極めて小さくした条件(例えば0.3nm以上且つ10nm以下または5nm以下)で電子線回折パターンを測定すると、円周方向(θ方向ともいう)に離散的に分布した複数のスポットが確認される。一方、ビーム径を大きくした条件(例えば50nm以上、または100nm以上)における電子線回折パターンでは、リング状(環状ともいう)のパターンが観測される。
【0041】
図1B図1Cに、金属酸化物膜11の膜面に垂直な方向から、ビーム径が数nmの電子線を照射して得られる電子線回折パターンの概略図を示す。図1Bに示す電子線回折パターン20aは、図1Aで示す領域12aにおける電子線回折パターンであり、図1Cに示す電子線回折パターン20bは、領域12aとは異なる領域12bにおける電子線回折パターンである。
【0042】
図1Bに示すように、金属酸化物膜11の電子線回折パターン20aには、試料を透過した入射電子線のスポット(ダイレクトスポット20)と、ダイレクトスポット20に近い側に第1のスポット21と、第1のスポット21よりもダイレクトスポット20から遠い側に第2のスポット22が観測される。
【0043】
第1のスポット21は、ダイレクトスポット20からの動径方向の距離rが距離r1及びその近傍に位置する環状の第1の領域31内に観測される。また、第2のスポット22は、ダイレクトスポット20からの動径方向の距離rが距離r2及びその近傍に位置する環状の第2の領域32内に観測される。第2の領域32は、第1の領域31よりも外側に位置する。すなわち距離r2は、距離r1よりも大きい。
【0044】
また、図1Aに示すように、電子線の照射位置を金属酸化物膜11の膜面方向に平行に走査して、領域12aとは異なる領域(領域12b)の電子線回折パターンを観測すると、図1Cに示すように、第1の領域31内の異なる位置に第1のスポット21が、第2の領域32内の異なる位置に第2のスポット22が、それぞれ観測される。
【0045】
このことから、金属酸化物膜11は、極めて微小な結晶領域が含まれていることが分かる。また、異なる領域では第1のスポット21及び第2のスポット22の位置が異なることから、金属酸化物膜11に含まれる微小な結晶領域は配向性を有さないことが分かる。
【0046】
このように、電子線の照射位置を金属酸化物膜11の膜面方向に平行に走査しながら測定することで、複数の電子線回折パターンを観測することができる。こうして得られる複数の電子線回折パターンのそれぞれからは、第1のスポット21及び第2のスポット22の位置と、検出強度などの情報を取得することができる。第1のスポット21及び第2のスポット22の位置情報としては、ダイレクトスポット20からの距離rと、任意に決定される基準線からの角度θがある。複数の電子線回折パターンから得られた情報から、距離r、角度θ、検出強度などに対するヒストグラム(分布図、度数分布図ともいう)を得ることができる。
【0047】
本発明の一態様の金属酸化物膜の評価方法について説明する。まず金属酸化物膜の複数の領域に対して、金属酸化物膜の膜面に垂直な方向から、ビーム径が0.3nm以上10nm以下である電子線を照射して、複数の電子線回折パターンを取得する。続いて、取得した複数の電子線回折パターンで観測される複数のスポットに対して、面間隔dを算出する。そして、算出した面間隔dの度数分布の形状から、金属酸化物膜の結晶性を評価することができる。
【0048】
また、同様に取得した複数の電子線回折パターンで観測される複数のスポットに対して、基準線からの角度θを算出し、当該角度θの分布の形状から、金属酸化物膜の結晶性を評価することができる。
【0049】
また、同様に取得した複数の電子線パターンで観測される複数のスポットの輝度(検出強度)の情報(例えば分布の形状)から、金属酸化物膜の結晶性を評価することもできる。
【0050】
取得する電子線回折パターンの数が多いほど情報の正確性が高くなるため好ましい。例えば、電子線回折パターンを50以上、好ましくは100以上、より好ましくは1000以上取得することが好ましい。上限は特に限られないが、1万以下、または5000以下でも十分に精度の高い情報を得ることができる。
【0051】
以下では、より具体的な例について説明する。
【0052】
図1Dに、金属酸化物膜11の電子線回折パターンで観測されたスポットの数(頻度)を、ダイレクトスポット20からの距離rに対して示したヒストグラム30rの例を示す。図1Dに示すように、ヒストグラム30rには、第1の領域31内にピークの頂点が位置する第1のスポット21のピークと、第2の領域32内にピークの頂点を有する第2のスポット22のピークが、それぞれ存在する。
【0053】
電子線回折法では、ダイレクトスポットの中心から、対象のスポットまでの距離rを用いて、下記数式(1)によって、当該スポットに対応する面間隔dの値(以下、d値という)を算出することができる。
【0054】
[数1]
d=Lλ/r・・・・(1)
数式(1)において、Lはカメラ距離であり、λは電子線の波長である。
【0055】
このようにして算出したd値を用いて作成されるヒストグラム30を、図1Eに示す。
【0056】
本発明の一態様の金属酸化物膜11の電子線回折パターンから得られるd値のヒストグラムは、図1Eに示すように、2つのピーク(d値の大きい側から、第1のピーク41、第2のピーク42)を有する。
【0057】
図1Eに示すように、金属酸化物膜11は、d値の度数分布の形状が、d値が0.25nm以上0.30nm以下の範囲に第1のピーク41の頂点が位置し、d値が0.15nm以上0.20nm以下の範囲に第2のピーク42の頂点が位置する膜であることが好ましい。
【0058】
第1のピーク41を構成する複数の第1のスポット21には、金属酸化物膜11に含まれる微小な結晶性クラスターの中距離秩序構造に由来する散乱電子によるスポットが含まれる。第1のスポット21は、当該結晶性クラスターにおける面間隔の異なる回折による散乱電子や、構造の異なる結晶性クラスターからの散乱電子などを含むため、散乱角にばらつきが生じ、その結果、第1のスポット21のd値の観測されうる領域の幅が大きくなる。そのため、第1のピーク41の半値全幅は、第2のピーク42の半値全幅よりも大きい傾向がある。
【0059】
なお、第1のスポット21には、金属酸化物膜11に含まれる微小な結晶領域により回折された回折電子によるスポットが含まれていてもよい。
【0060】
第2のピーク42を構成する複数の第2のスポット22は、金属酸化物膜11に含まれる微小な結晶領域により回折された回折電子によるスポットである。例えば当該結晶領域が、InGaZnO結晶と同様の結晶構造を有する場合には、第2のスポット22は、(110)面及びこれと等価な結晶面による回折電子に由来すると推察される。
【0061】
ヒストグラム30が有する第1のピーク41と第2のピーク42の形状や高さは、金属酸化物膜11の結晶性を反映した形状となる。したがって、ヒストグラム30の度数分布の形状から、金属酸化物膜11の結晶性を評価することが可能となる。
【0062】
一例として、図2A図2B図2Cには、異なる結晶性を有する金属酸化物膜11のヒストグラム30をそれぞれ示している。
【0063】
図2Aに示すヒストグラム30aは、結晶性の低い金属酸化物膜11の例である。図2Aでは、第1のピーク41の頂点の値であるピーク値P1と、第2のピーク42の頂点の値であるピーク値P2と、を示している。なお、ピーク値P1及びピーク値P2の高さ及び位置は、ヒストグラム30aのデータの分割幅(階級幅)に応じて変化するため、当該階級幅は適当な幅とすることができる。代表的には、階級の数を全データ数の平方根程度とすることが好ましい。
【0064】
ヒストグラム30aでは、第1のピーク41のピーク値P1よりも、第2のピーク42のピーク値P2の方が低い。また、これよりもさらに結晶性の低い金属酸化物膜11では、第2のピーク42がほとんど観測されない場合もある。
【0065】
図2Bに示すヒストグラム30bは、図2Aよりも結晶性が高い金属酸化物膜11の例である。結晶性が向上することにより、回折電子に由来する第2のスポット22の数が増えることで、第2のピーク42のピーク値P2が図2Aよりも高くなる。一方、金属酸化物膜11中の低秩序領域の存在割合が減少することにより、第1のスポット21の数が減少し、第1のピーク41のピーク値P1が低くなる。これにより、図2Aと比較して、第1のピーク41のピーク値P1と第2のピーク42のピーク値P2との差が小さくなる。
【0066】
図2Cに示すヒストグラム30cは、図2Bよりもさらに結晶性が高い金属酸化物膜11の例である。結晶性の向上に伴い、第2のスポット22の数がさらに増えることと、第1のスポット21の数が減少することにより、第1のピーク41のピーク値P1と第2のピーク42のピーク値P2との大小関係が逆転し、ピーク値P2がピーク値P1よりも大きくなっている。
【0067】
以上が、ヒストグラムの例である。ここで示した評価方法によれば、ヒストグラムの度数分布の形状から、金属酸化物膜11の結晶性を評価することが可能となる。また、異なる成膜条件で成膜した金属酸化物膜11に対して、ヒストグラムの度数分布の形状を比較することで、これらの結晶性を比較することもできる。
【0068】
金属酸化物膜11は、結晶性の低い領域と、結晶性の高い領域とが混在した膜であってもよい。このような金属酸化物膜11に対して、上記のように、膜面方向に平行に電子線を走査させながら、電子線回折パターンの測定を行うと、結晶性の低い領域に由来する電子線回折パターンと、結晶性の高い領域に由来する電子線回折パターンとが、交互に現れる場合がある。
【0069】
図3Aには、金属酸化物膜11の結晶性の低い領域を測定した際の、電子線回折パターン20cの例を示している。
【0070】
電子線回折パターン20cでは、第1の領域31内に複数の第1のスポット21が観測されている。第1のスポット21は、動径方向の位置(具体的にはダイレクトスポット20から第1のスポット21までの距離)に、ばらつきがある。また、ここでは示さないが、第1のスポット21の検出強度にもばらつきがある。
【0071】
また、電子線回折パターン20cでは、第2の領域32内に第2のスポット22が観測されている。第2のスポット22は、動径方向のばらつきは、第1のスポット21に比べて小さい。また、結晶性が低い領域であるため、多くの場合、第2のスポット22の観測される数は、第1のスポット21よりも少なくなる。また、検出強度も比較的小さくなる場合がある。
【0072】
図3Bには、金属酸化物膜11の結晶性の高い領域を測定した際の、電子線回折パターン20dの例を示している。
【0073】
電子線回折パターン20dでは、第1の領域31内に、6個の第1のスポット21が観測されている。ダイレクトスポット20を中心として、隣り合う2つの第1のスポット21が成す角θ1は、概ね60度である。すなわち、6個の第1のスポット21は、ダイレクトスポット20を中心として、6回対称性を満たすように観測される。また、第1のスポット21の動径方向の位置、及び検出強度は、上記電子線回折パターン20cと比較して、ばらつきが小さくなる。
【0074】
また、電子線回折パターン20dでは、第2の領域32内に、6個の第2のスポット22が観測されている。第2のスポット22も第1のスポット21と同様に、6回対称性を満たすように観測され、隣り合う2つの第2のスポット22の成す角θ2は、概ね60度である。
【0075】
また、ダイレクトスポット20を中心として、第1のスポット21と、第2のスポット22とが成す角θ3は、概ね30度となる。このことから、金属酸化物膜11の結晶性の高い領域は、膜面に垂直な軸に対して6回対称性を有することが分かる。
【0076】
金属酸化物膜11に含まれる結晶領域が、InGaZn結晶と同様の結晶構造を有する場合、第1のスポット21は、(100)面及びこれと等価な結晶面による回折電子に由来すると推察される。なお結晶領域が、InGaZnO結晶と同様の結晶構造を有する場合には、(100)面は消滅則を満たすため、原理的には回折電子は観測されない。しかしながら、InGaZnO結晶と同様の結晶構造を有する場合であっても、結晶領域全体が完全な結晶ではなく、格子歪が含まれる不完全な状態であることにより消滅則が破られ、本来観測されないはずの(100)面からの回折電子が観測される場合がある。
【0077】
また、金属酸化物膜11に含まれる結晶領域の結晶構造が、六方晶系に分類される場合には、膜面に対して垂直に電子線を照射して得られる電子線回折パターン20dが6回対称性を有することから、金属酸化物膜11に含まれる結晶領域の結晶方位としては、c軸が膜厚方向に配向していることを推察できる。
【0078】
[金属酸化物膜の形成方法]
以下では、本発明の一態様の金属酸化物膜の形成方法について説明する。
【0079】
本発明の一態様の金属酸化物膜は、基板を加熱して、または基板を加熱しない状態で、スパッタリング法により形成することができる。
【0080】
基板を加熱して成膜する場合、基板温度としては、室温以上250℃以下、好ましくは室温以上200℃以下、より好ましくは室温以上140℃以下とすればよい。例えば基板温度を、室温以上140℃未満とすると、生産性が高くなり好ましい。
【0081】
基板を加熱することなく成膜する場合、基板温度は初期の状態で室温またはその近傍の温度となる。なお、成膜時にスパッタリング粒子等により基板に与えられるエネルギーにより、基板が加熱される場合もある。また、金属酸化物膜を成膜する装置に、基板を加熱する機構を必要としないため、装置を簡略化し、コストを低減することができる。
【0082】
成膜時、酸素を含む雰囲気下としてもよい。例えば、成膜装置の成膜室に供給する成膜ガスの全流量に対する酸素の流量の割合(以下、酸素の流量比という)を、0%以上100%以下の範囲で適切な値とすることができる。酸素流量を調整することにより、成膜される金属酸化物膜の結晶性を制御することができる。具体的には、酸素の流量比が高いほど結晶性の高い金属酸化物膜とすることができ、酸素の流量比が低いほど、結晶性の低い金属酸化物膜とすることができる。成膜ガスに含まれる酸素以外のガスとしては、例えばアルゴンなどの希ガスを用いることができる。酸素を含む雰囲気下で成膜することにより、金属酸化物膜中の酸素欠損を低減することができる。また、酸素を含まない雰囲気下としてもよい。
【0083】
金属酸化物膜の成膜に用いることの可能な酸化物ターゲットとしては、例えば、In-M-Zn系酸化物(Mは、Al、Ga、Y、またはSn)を適用することができる。特に、In-Ga-Zn系酸化物を用いることが好ましい。
【0084】
また、金属酸化物膜の成膜に用いることの可能な酸化物ターゲットとして、In-M系酸化物や、In-Zn系酸化物などを用いることもできる。特にIn-Ga酸化物は酸素欠損を形成しにくいため好ましい。
【0085】
ここで、酸化物ターゲットに含まれる金属酸化物は、Inの含有比率が高いことが好ましい。例えば、In、M、及びZnそれぞれの組成の総和を1(100%)としたとき、Inの割合が33%以上60%以下、好ましくは40%以上、50%以下である金属酸化物ターゲットを用いることが好ましい。代表的には、In:Ga:Zn=1:1:1及びその近傍の酸化物、In:Ga:Zn=4:2:3及びその近傍の酸化物、In:Ga:Zn=4:2:4.1及びその近傍の酸化物、In:Ga:Zn=5:1:3及びその近傍の酸化物、In:Ga:Zn=5:3:4及びその近傍の酸化物、または、In:Ga:Zn=10:1:3及びその近傍の酸化物などを用いることができる。
【0086】
これにより、成膜された金属酸化物膜は、Inの含有比率の高い金属酸化物膜とすることができる。ここで、成膜された金属酸化物膜と、酸化物ターゲットの組成は必ずしも一致しない場合がある。特に、成膜された金属酸化物膜は、酸化物ターゲットと比較してZnの含有率が低下しやすい傾向がある。
【0087】
以上のようにして、金属酸化物膜を形成することができる。
【0088】
なお、金属酸化物膜の成膜方法としては、上記に限られない。他の成膜方法としては、プラズマ化学気相堆積(PECVD)法、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、真空蒸着法、パルスレーザ堆積(PLD)法、液相法(スピンコート法、スプレー法等)などを用いてもよい。熱CVD法の例としては、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等が挙げられる。
【0089】
以上が、金属酸化物膜の形成方法についての説明である。
【0090】
[金属酸化物膜の評価例]
以下では、本発明の一態様の金属酸化物膜について、上記で例示した評価方法を用いて分析した結果について説明する。
【0091】
作製方法が異なる金属酸化物膜について、ナノビーム電子回折分析、及びX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)分析を行い、結晶性の評価を行った。評価には、シリコンウェハ上に厚さ40nmの金属酸化物膜を形成した試料(sample A1乃至sample A6)を用いた。金属酸化物膜としてIn-Ga-Zn酸化物を用い、試料間で金属酸化物膜の成膜条件を異ならせた。
【0092】
〔試料作製〕
金属酸化物膜の成膜は、In-Ga-Zn酸化物ターゲット(In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比])を用いたスパッタリング法により形成した。なお、In:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]の組成のターゲットを用いて形成された試料の膜組成は、概ねIn:Ga:Zn=4:2:3[原子数比]となる。
【0093】
sample A1乃至sample A6の金属酸化物膜の成膜条件を、表1に示す。なお、表1において、金属酸化物膜の成膜時の基板温度をTsub、酸素流量比をO/(Ar+O)、圧力をPressure、電源電力をPowerと記している。
【0094】
【表1】
【0095】
sample A1は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、室温(以下、RTとも記す)とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を10%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0096】
sample A2は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、室温(RT)とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を30%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0097】
sample A3は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、室温(RT)とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を40%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0098】
sample A4は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、室温(RT)とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を50%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0099】
sample A5は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、100℃とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を10%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0100】
sample A6は、金属酸化物膜の成膜時の基板温度を、100℃とした。成膜ガスとして酸素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用い、酸素流量比を30%とした。成膜時の圧力を0.6Paとし、電源電力を2.5kWとした。
【0101】
〔ナノビーム電子回折〕
sample A1乃至sample A6をそれぞれ、金属酸化物膜の被形成面に平行な方向に薄片化し、厚さを約20nm乃至30nmとした。薄片化後の試料は、金属酸化物膜を成膜した際の金属酸化物膜の表面を含む。
【0102】
次に、加速電圧が200kV(波長:約2.51pm)、ビーム径が1nmの電子線を、金属酸化物膜の被形成面の垂直な方向から入射させ、複数の電子線回折パターンを得た。電子線照射箇所を移動させながら、電子線回折パターンを動画で撮影することで、複数の電子線回折パターンを得た。動画は、電子線照射箇所を1フレームあたり約0.08nm乃至0.10nm移動させながら撮影し、各試料でそれぞれ約3700フレームを得た。電子線回折パターンの撮影は、200画素×200画素のイメージングプレートを用いた。1画素に対する散乱ベクトルの大きさ(q)は、0.082426/nm/pixelであった。
【0103】
次に、動画のフレーム毎に、スポットの解析を行った。
【0104】
sample A1のナノビーム電子回折結果を、図4A図4Bに示す。sample A2のナノビーム電子回折結果を、図5A図5Bに示す。sample A3のナノビーム電子回折結果を、図6A図6Bに示す。sample A4のナノビーム電子回折結果を、図7A図7Bに示す。sample A5のナノビーム電子回折結果を、図8A図8Bに示す。sample A6のナノビーム電子回折結果を、図9A図9Bに示す。
【0105】
図4A図5A図6A図7A図8A及び図9Aはそれぞれ、各試料の動画における最終フレームの電子線回折パターンを示している。各図において、上側の横軸及び右側の縦軸に、イメージングプレートの画素の座標(pixelと表記)を、左下を基準として示している。また、下側の横軸及び左側の縦軸に、散乱ベクトルの大きさ(q[/nm])を示している。また、各図に示す各点は、スポットの強度(検出強度(Intensity))が高いほど濃い色で、強度が低いほど薄い色で示している。
【0106】
電子線回折パターンの中心から30画素以上90画素以下の領域に観察されたスポット(第1のスポット)について、それぞれのスポットの位置及び強度の値を得た。図4A図5A図6A図7A図8A及び図9Aでは、中心から30画素の領域、及び中心から90画素の領域を、実線の円で示している。電子線回折パターンの中心から30画素以上90画素以下の領域は、格子面間隔(d)が0.13348nm以上0.4044nm以下に相当する。また、スポットの強度(0乃至255)が64以上であり、かつ面積が2画素以上のスポットのみを評価の対象とした。図4A図5A図6A図7A図8A及び図9Aでは、電子線回折パターンの中心と、各スポットを実線で結んでいる。なお、電子線回折パターンの中心は、試料内で回折せずに透過した入射電子線のスポット(ダイレクトスポットともいう)の中心とした。
【0107】
図4B図5B図6B図7B図8B及び図9Bはそれぞれ、各試料について取得した動画の全フレームにおける格子面間隔(d)のヒストグラム(度数分布図)である。各図において、横軸に格子面間隔(d[nm])を示し、縦軸に頻度(Frequency[count])を示す。なお、本実施の形態では、ヒストグラムのデータ区間(階級幅)を格子面間隔(d)=0.002nmとした。
【0108】
図4B図5B図6B図7B図8B及び図9Bに示すように、全ての条件において、格子面間隔(d)の値が0.25nm以上0.30nm以下の範囲に頂点を有するピーク(第1のピーク)と、0.15nm以上0.20nm以下の範囲に頂点を有するピーク(第2のピーク)を有している。
【0109】
ここで、sample A1乃至sample A4について、第1のピークの頂点の値(ピーク値P1)に対する、第2のピークの頂点の値(ピーク値P2)の比(P2/P1)を、図10に示す。図10において、横軸に金属酸化物膜の成膜時の酸素流量比(O/(Ar+O)[%])を示し、縦軸にピーク値P1に対する、ピーク値P2の比(P2/P1)を示す。なお、図10では、ピーク値P1としてd=0.278nmでの頻度を、ピーク値P2としてd=0.168nmでの頻度を用いた値を示している。
【0110】
sample A1乃至sample A4を比較すると、酸素流量比が高いほど、第2のピークが増大する傾向がみられる。またsample A1乃至sample A3では第1のピークの頂点の値(ピーク値P1)が、第2のピークの頂点の値(ピーク値P2)よりも高い。一方、最も酸素流量比の高い条件のsample A4では、これらの大小関係が逆転し、第2のピークの頂点の値(ピーク値P2)が、第1のピークの頂点の値(ピーク値P1)を上回っており、図10で示すP2/P1の値も、1を超える値となっている。
【0111】
同様に、sample A5とsample A6を比較すると、酸素流量比の低い条件のsample A5では第1のピークの頂点の値が、第2のピークの頂点の値よりも高いのに対し、酸素流量比の高い条件のsample A6では、第2のピークの頂点の値が、第1のピークの頂点の値を上回っている。このことから、酸素流量比が高いほど結晶性が向上していることが確認できる。
【0112】
また、同じ酸素流量比の条件で成膜したsample A1とsample A5を比較すると、sample A5の方が第2のピークが大きい。またsample A2とsample A6についても同様である。このことから、同じ酸素流量比の条件であっても、成膜時の基板温度が高いほど、結晶性が向上することが確認できる。
【0113】
本発明の一態様の評価方法では、ヒストグラムだけではなく、検出されるスポットの位置や輝度に関するフレーム毎のデータからも、金属酸化物膜の結晶性に関する情報を得ることができる。
【0114】
sample A1のフレーム毎の格子面間隔(d)の変化を図11Aに示す。図11Aにおいて、横軸にフレーム番号(Frame No.)を示し、縦軸に格子面間隔(d[nm])を示す。また、図11Aに示す各点は、スポットの強度(Intensity)が高いほど濃い色で、強度が低いほど薄い色で示している。
【0115】
また、sample A1のフレーム毎のスポットの角度(Angle)の変化を図11Bに示す。図11Bにおいて、横軸にフレーム番号(Frame No.)を示し、縦軸にスポットの角度(Angle[°])を示す。また、図11Bに示す各点は、スポットの強度(Intensity)が高いほど濃い色で、強度が低いほど薄い色で示している。
【0116】
図11Aに示すように、sample A1では、格子面間隔(d)が0.25nm乃至0.35nmの領域に第1のスポットが、0.15nm乃至0.20nmの領域に第2のスポットが、それぞれ観察された。図11Aで示すように、第1のスポットは測定位置によらず連続して観測されているのに対し、第2のスポットは離散的に観測されている。第2のスポットが観測される位置は、他の位置よりも比較的結晶性の高い領域であると推察される。このことから、金属酸化物膜は、均一な結晶性を有するのではなく、結晶性の比較的高い領域と、結晶性の比較的低い領域とが混在していることが確認できる。
【0117】
図11Bに示すように、sample A1では、スポットの角度依存性はほとんどないことが分かる。このことから、sample A1に含まれる結晶領域のほとんどは、配向性を有さずにランダムに配向していることが推察される。
【0118】
続いて、図12Aにsample A6のフレーム毎の格子面間隔(d)の変化を、図12Bにフレーム毎のスポットの角度(Angle)の変化を、それぞれ示す。
【0119】
図12Aでは、格子面間隔(d)が0.15nm乃至0.20nmの領域に見られる第2のスポットが、位置(フレーム)によらず連続して観測されていることから、sample A1に比べてsample A6は結晶性が極めて高いことが確認できる。また、格子面間隔(d)が0.25nm乃至0.35nmの領域に見られる第1のスポットに着目すると、ばらつきの小さい領域(例えば0フレームから200フレームの範囲)と、ばらつきの大きな領域(例えば300フレームから500フレームの範囲)とが交互に出現することが確認できる。また第1のスポットのばらつきが小さい領域では、第2のスポットのばらつきも小さい傾向がある。このことから、金属酸化物膜中に、サイズの大きな結晶領域が存在していることが推察される。
【0120】
さらに、図12Bによれば、図12Aで第1のスポットのばらつきが小さい領域では、約30度間隔でスポットが離散的に観測されていることが確認できる。また、図9Aを見ると、6個の第1のスポットと、その外側に6個の第2のスポットとが、それぞれ正六角形の頂点に位置するように観測され、6回対称性を有する電子線回折パターンを示していることが分かる。このことから、図12A図12Bにおける第1のスポットのばらつきが小さい領域では、6回対称性を有する単一の結晶領域が観測されていることが推察される。
【0121】
このように、本発明の一態様の評価方法によれば、金属酸化物膜の結晶性を精度よく評価、比較することができる。
【0122】
[X線回折]
次に、sample A1乃至sample A6のX線回折(XRD)分析を行った。
【0123】
XRD分析は、out-of-plane法の一種であるGIXRD(Grazing-Incidence XRD)法を用いた。GIXRD法は、薄膜法またはSeemann-Bohlin法ともいう。GIXRD法は、X線の入射角をごく浅い角度に固定し、X線源に対向して設けられる検出器の角度を変化させてX線回折強度を測定する方法である。本実施の形態では、入射角を0.70度とした。また、X線源として波長0.15418nmのCuKα線を用い、走査範囲を2θ=15度乃至70度、ステップ幅を0.01度とした。
【0124】
sample A1乃至sample A3のXRD測定結果を、図13A乃至図13Cに示す。またsample A4乃至sample A6のXRD測定結果を、図14A乃至図14Cに示す。
【0125】
図13A乃至図14Cにおいて、横軸は2θを示し、縦軸は強度(Intensity)を示す。また、図13A乃至図14Cでは、補助線として2θ=33度(deg.と表記)、及び2θ=55度を破線で示している。
【0126】
図13A乃至図14Cに示すように、いずれの試料においても2θ=33度付近、及び2θ=55度付近に回折ピークが観察された。2θ=33度付近の回折ピークは、格子面間隔(d)が約0.27nmに相当し、前述の電子線回折における第1のピークに対応するものと考えられる。また、2θ=55度付近にもピークが観察されている。なお、2θ=51度付近に観察されるシャープなピークは、基板であるシリコンウェハからの回折に起因するピークである。
【0127】
各試料で観察された2θ=33度付近の回折ピークについて、ローレンツ関数のフィッティングを用いて、回折ピークの頂点の角度(2θ)を算出した。ローレンツ関数のフィッティングには、最小二乗法を用いた。図13A図13B図13Cの拡大図を、図15A図15B図15Cに示す。また、図14A図14B図14Cの拡大図を、図16A図16B図16Cに示す。また、各試料における回折ピークの頂点の角度(2θ)を、図17に示す。図17において、横軸に金属酸化物膜の成膜時の酸素流量比(O/(Ar+O)[%])を示し、縦軸に回折ピークの頂点の角度(2θ[deg.])を示す。また、図17では、基板温度を室温とした試料(Tsub=RTと表記)を丸印で、基板温度を100℃とした試料(Tsub=100℃と表記)を三角印で、それぞれプロットしている。
【0128】
図15A乃至図16C、及び図17に示すように、金属酸化物膜の成膜時の酸素流量比が高くなると、回折ピークの頂点の2θが小さくなる傾向となった。また、金属酸化物膜の成膜時の基板温度が高くなると、回折ピークの頂点の2θが小さくなる傾向となった。これは、金属酸化物膜の結晶性が高まることにより、2θ=31度近傍の回折ピーク(InGaZnO結晶における(009)面のピークに相当)の強度が高くなることによるものと推察される。
【0129】
図17に示すように、XRD分析によって、金属酸化物膜の結晶性に関する情報を得ることができる。したがって、上記電子線回折を用いた評価方法と、ここで例示したXRDを用いた評価方法とを組み合わせ、多角的に分析することで、金属酸化物膜の結晶性に関してより詳細な情報を得ることができる。
【0130】
[nc膜の安定性]
本項では、極微小な結晶領域を有する金属酸化物膜(以下、nc膜ともいう)の安定性について、第一原理計算の結果を用いて説明する。
【0131】
なお、nc膜の安定性を説明するため、2つの計算モデル(計算モデル1Aおよび計算モデル2A)を用意した。計算モデル1Aは、結晶領域を有する計算モデルであり、nc膜を模した計算モデルである。また、計算モデル2Aは、結晶領域を有さない計算モデルであり、非晶質膜を模した計算モデルである。なお、結晶領域については後述する。
【0132】
〔計算モデル1Aの作成方法〕
以下では、計算モデル1Aの作成方法について説明する。
【0133】
はじめに、In:Ga:Zn:O=1:1:1:4[原子数比]のIn-Ga-Zn酸化物の結晶構造から、六角柱状の領域(結晶領域と呼ぶ。)を切り出し、当該結晶領域を計算モデルの中心に配置する。なお、当該結晶領域に配置される原子の数は87個である。以降では、結晶領域に位置する原子とは、結晶領域に配置される87個の原子のことである。また、結晶領域に位置する原子のいずれか一または複数は、以降に行う計算によって、結晶領域の外周部に移動する場合がある。
【0134】
次に、上記結晶領域の外周部に、複数のIn原子、複数のGa原子、複数のZn原子、および複数のO原子をランダムに配置する。なお、当該外周部に配置する、In原子の数、Ga原子の数、Zn原子の数、およびO原子の数、ならびに、当該外周部のサイズは、上記結晶領域および当該外周部に配置した原子の原子数比がIn:Ga:Zn:O=1:1:1:4となり、かつ、計算モデルの密度が6.1g/cmとなるように、調整している。なお、当該外周部に配置した原子の数は291個である。よって、計算モデルに含まれる原子の数は378個である。また、当該外周部に配置した原子のいずれか一または複数は、以降に行う計算によって、結晶領域に移動する場合がある。
【0135】
次に、上記結晶領域に位置する原子の座標を固定して、上記外周部を融解するための計算を行う。具体的には、温度を3500K、時間刻み幅を1fs、ステップ数を6000回に設定する。以降では、温度、時間刻み幅、およびステップ数を設定して行う計算を、第一原理分子動力学計算、または量子分子動力学計算と呼ぶ場合がある。
【0136】
計算には、第一原理計算ソフトウェアVASP(The Vienna Ab initio simulation package)を用いた。上記設定した条件以外の計算条件を表2に示す。上記第一原理分子動力学計算では、計算条件を表2に示す条件1に設定する。
【0137】
【表2】
【0138】
電子状態擬ポテンシャルにはProjector Augmented Wave(PAW)法により生成されたポテンシャルを、汎関数にはGGA/PBE(Generalized-Gradient-Approximation/Perdew-Burke-Ernzerhof)を用いた。
【0139】
なお、本実施の形態で行われる、第一原理分子動力学計算、および後述する、計算モデルの構造を最適化するための計算(最適化計算ともいう。)において、In、Ga、およびZnのポテンシャルでは、3d状態または4d状態は、価電子帯として考慮されていない。また、計算モデルの格子ベクトル(軸の長さ、および軸間の角度)は固定されている。つまり、第一原理分子動力学計算は、粒子数(N)、体積(V)、温度(T)が一定の条件(NVTアンサンブル)で行われる。また、第一原理分子動力学計算では、温度を制御するための手法として、Nose-Hoover thermostatが用いられる。
【0140】
次に、融解した外周部を温度500Kまで冷却するための計算を行う。なお、冷却速度は、500K/psとする。具体的には、まず、結晶領域に位置する原子の座標を固定し、時間刻み幅を1fs、ステップ数を1000回、その他の計算条件を表2に示す条件1に設定する。そして、上記外周部を融解するための計算で得られる計算モデルに対して、温度を3500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を3000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を2500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を2000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を1500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を1000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。以上により、外周部を冷却するための計算が完了する。
【0141】
次に、冷却した外周部の構造を緩和するための計算を行う。具体的には、外周部を冷却するための計算で得られる計算モデルに対して、結晶領域に位置する原子の座標を固定し、温度を300K、時間刻み幅を1fs、ステップ数を5000回、その他の計算条件を表2に示す条件1に設定し、第一原理分子動力学計算を行う。
【0142】
次に、計算条件を表2に示す条件2に設定し、外周部の構造を緩和するための計算で得られる計算モデルに対して、結晶領域に位置する原子の座標を固定し、外周部の構造を最適化するための計算を行う。その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して、外周部に位置する原子の座標と、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標とを固定して、結晶領域の構造を最適化するための計算を行う。その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して、当該In原子のみ座標を固定して、計算モデル全体(結晶領域および外周部)の構造を最適化するための計算を行う。その後、計算条件を表2に示す条件3に設定し、当該計算後に得られる計算モデルに対して、当該In原子のみ座標を固定して、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。
【0143】
以上の方法により、計算モデル1Aを作成する。作成した計算モデル1Aを図18A乃至図18Dに示す。図18Aおよび図18Cは、計算モデル1Aの全体像を示す図である。また、図18Bおよび図18Dは、計算モデル1Aの結晶領域を示す図である。また、図18Aおよび図18Bは、六角柱状の領域の側面から見た図であり、図18Cおよび図18Dは、六角柱状の領域の上面から見た図である。
【0144】
〔計算モデル2Aの作成方法〕
以下では、計算モデル2Aの作成方法について説明する。なお、計算モデル2Aを作成するための計算は、表2に示す計算条件を用いる。
【0145】
はじめに、計算モデル1Aの結晶領域および外周部を融解するための計算を行う。具体的には、計算モデル1Aを用意し、全原子の座標を固定せずに、温度を3500K、時間刻み幅を1fs、ステップ数を6000回、その他の計算条件を表2に示す条件1に設定して、第一原理分子動力学計算を行う。
【0146】
次に、融解した計算モデル全体を温度500Kまで冷却するための計算を行う。なお、冷却速度は、500K/psとする。具体的には、まず、全原子の座標を固定せずに、時間刻み幅を1fs、ステップ数を1000回、その他の計算条件を表2に示す条件1に設定する。そして、結晶領域および外周部を融解するための計算で得られる計算モデルに対して、温度を3500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を3000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を2500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を2000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を1500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を1000Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。次に、当該計算後に得られる計算モデルに対して、温度を500Kに設定して第一原理分子動力学計算を行う。以上により、計算モデル全体を冷却するための計算が完了する。
【0147】
次に、冷却した計算モデル全体の構造を緩和するための計算を行う。具体的には、計算モデル全体を冷却するための計算で得られる計算モデルに対して、全原子の座標を固定せずに、温度を300K、時間刻み幅を1fs、ステップ数を5000回、その他の計算条件を表2に示す条件1に設定し、第一原理分子動力学計算を行う。
【0148】
次に、計算条件を表2に示す条件2に設定し、計算モデル全体を緩和するための計算で得られる計算モデルに対して、全原子の座標を固定せずに、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。その後、計算条件を表2に示す条件3に設定し、当該計算後に得られる計算モデルに対して、全原子の座標を固定せずに、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。
【0149】
以上の方法で、計算モデル2Aを作成する。計算モデル2Aの全体像を、図18Eに示す。
【0150】
上記方法で作成した計算モデル1Aおよび計算モデル2Aのそれぞれに対して、全エネルギーを算出し、比較した。具体的には、計算条件を表2に示す条件3に設定して、計算モデル1Aに対しては、結晶領域中心に存在する1つのIn原子のみ座標を固定して、1点計算を行い、計算モデル2Aに対しては、全原子の座標を固定せずに、1点計算を行う。当該計算で算出される全エネルギーを比較する。
【0151】
上記計算の結果、計算モデル1Aの全エネルギーの値は、計算モデル2Aの全エネルギーの値よりも小さく、具体的には、6.83eV小さかった。したがって、結晶領域を有する計算モデル1Aは、結晶領域を有さない計算モデル2Aよりも安定であることが分かる。すなわち、nc膜は、結晶領域を有することで、安定化していることが示唆される。
【0152】
次に、計算モデル1Aと比較するための、計算モデル3Aを用意する。なお、計算モデル3Aの構造は、単結晶構造である。
【0153】
はじめに、InGaZnOの単結晶構造(空間群は、R-3mである。)を有し、原子数比がIn:Ga:Zn:O=1:1:1:4であり、密度が6.36g/cmであり、112原子を含む計算モデルを用意する。次に、k点のグリッドを2×2×3に設定し、その他の計算条件を表2に示す条件3に設定し、当該計算モデルの原子の座標を最適化するための計算を行う。以上により、計算モデル3Aを作成する。
【0154】
上記方法で作成した計算モデル3Aに対して、全エネルギーを算出する。具体的には、k点のグリッドを2×2×3に設定し、その他の計算条件を表2に示す条件3に設定して、1点計算を行う。当該計算で算出される全エネルギーを3.375(=378/112)倍した値を、単結晶構造の計算モデルの全エネルギーの値とする。
【0155】
上記計算の結果、単結晶構造の計算モデルの全エネルギーの値は、計算モデル1Aの全エネルギーの値よりも小さく、具体的には、54.88eV小さかった。つまり、膜中の結晶性が向上することで、膜は、エネルギー的に安定になることがわかる。
【0156】
以上より、計算モデル1Aは、単結晶構造の計算モデルよりもエネルギーは高いものの、計算モデル2Aよりも安定であることから、結晶領域の存在が、nc膜の安定化に寄与していることが示唆される。
【0157】
以上が、nc膜の安定性についての説明である。
【0158】
[nc膜の熱安定性]
本項では、nc膜の熱安定性について、第一原理計算の結果を用いて説明する。なお、nc膜の熱安定性は、後述する内部エネルギーを用いて評価する。
【0159】
ここで、内部エネルギーについて説明する。本明細書では、内部エネルギーUを、下式を用いて算出する。
【0160】
【数2】
【0161】
ここで、MはI番目(Iは自然数である。)の原子核の質量であり、mは電子の質量である。また、vはI番目の原子核の速度である。つまり、上式の右辺の第1項は、原子核の運動エネルギーを表し、上式の右辺の第3項は、電子の運動エネルギーを表す。
【0162】
また、ZはI番目の原子核の電荷であり、eは電子の電荷である。また、rIJは、I番目の原子核とJ番目(Jは、Iよりも大きい整数である。)の原子核との距離であり、rijは、i番目(iは自然数である。)の電子とj番目(jは、iよりも大きい整数である。)の電子との距離である。つまり、上式の右辺の第2項は、原子核と原子核の相互作用に関するポテンシャルエネルギーであり、上式の右辺の第4項は、電子と電子の相互作用に関するポテンシャルエネルギーであり、上式の右辺の第5項は、原子核と電子の相互作用に関するポテンシャルエネルギーである。
【0163】
以上より、内部エネルギーUは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーとの和として算出される。
【0164】
なお、平衡状態における相の安定性などは、ヘルムホルツの自由エネルギーFによって記述される。ここで、ヘルムホルツの自由エネルギーFは、内部エネルギーUから、温度TとエントロピーSの積を引いた値(F=U-TS)である。しかしながら、エントロピーSの評価は困難なため、本明細書では、内部エネルギーUを用いて、熱力学的な相安定性について検証を行う。
【0165】
以上が、内部エネルギーの説明である。次に、nc膜の熱安定性を評価するための、具体的な方法を説明する。
【0166】
上述の計算モデル1Aおよび計算モデル2Aのそれぞれに対して、温度を300K、673K、1000K、1500K、または2000Kに設定して、第一原理分子動力学計算を行う。なお、計算モデル1Aを用いる場合、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標を固定して当該第一原理分子動力学計算を行う。また、計算モデル2Aを用いる場合、全原子の座標を固定せずに当該第一原理分子動力学計算を行う。また、当該第一原理分子動力学計算では、時間刻み幅を1fs、ステップ数を10000回、その他の計算条件を、表2に示す条件2に設定する。
【0167】
次に、上述の計算モデル1Aおよび計算モデル2Aのそれぞれに対して、各温度に設定して第一原理分子動力学計算が行われた後の計算モデル(計10種)のそれぞれに対して、内部エネルギーを算出する。具体的には、ステップが9001回から10000回までの内部エネルギーの平均値を算出する。なお、計算モデル1Aに対して、温度を300Kに設定して第一原理分子動力学計算を行うことで得られる内部エネルギーの平均値を基準(0.0eV)としたときの、内部エネルギーの平均値を、平均エネルギーと呼ぶ。
【0168】
温度と、上記方法で算出された平均エネルギーの関係を図20Aに示す。図20Aでは、横軸は温度[K]であり、縦軸は平均エネルギー[eV]である。また、図20Aの黒菱形で示すプロットは、計算モデル1Aを用いた場合の、平均エネルギーのプロットであり、白四角のプロットは、計算モデル2Aを用いた場合の、平均エネルギーのプロットである。
【0169】
次に、計算モデル1Aに対して、各温度に設定して第一原理分子動力学計算を行うことで得られる計算モデル(計5種)のそれぞれに対して、計算条件を表2に示す条件2に設定して、計算モデルの構造を最適化するための計算を行う。なお、当該最適化計算を、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標を固定して行う。その後、当該最適化計算を行うことで得られる計算モデル(計5種)のそれぞれに対して、計算条件を表2に示す条件3に設定して、計算モデルの構造を最適化するための計算を行う。
【0170】
上記計算により得られる計算モデル(計5種)の一部を図19A乃至図19Eに示す。なお、図19A乃至図19Eでは、計算モデルのうち、結晶領域の外周部に原子を配置する前に、結晶領域に配置された87個の原子の配列を示す。図19Aは、温度が300Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルであり、図19Bは、温度が673Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルであり、図19Cは、温度が1000Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルであり、図19Dは、温度が1500Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルであり、図19Eは、温度が2000Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルである。
【0171】
図19A乃至図19Dより、温度が1500K以下に設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルでは、結晶領域の格子配列が保たれている。また、図19Eより、温度が2000Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルでは、結晶構造が壊れている。また、図19Dより、温度が1500Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルでは、結晶領域の格子配列は保たれているものの、温度が1000Kに設定された第一原理分子動力学計算、および最適化計算を行うことで得られる計算モデルと比較すると原子配列の乱れが大きく、結晶構造が崩れ始める兆候が見えている。
【0172】
ここで、計算モデル1Aの平均エネルギーと、計算モデル2Aの平均エネルギーとの差を、各温度で算出し、計算モデル1Aと計算モデル2Aの熱安定性を比較する。なお、温度と、計算モデル1Aおよび計算モデル2Aの平均エネルギーの関係は、図20Aに示すとおりである。
【0173】
温度と、計算モデル1Aの平均エネルギーから、計算モデル2Aの平均エネルギーを引いた値(平均エネルギーの差ともいう。)との関係を図20Bに示す。図20Bでは、横軸は温度[K]であり、縦軸は平均エネルギーの差[eV]である。
【0174】
図20Bより、温度が2000Kに設定された場合、平均エネルギーの差はゼロに近く、計算モデル1Aを用いた場合の平均エネルギーと、計算モデル2Aを用いた場合の平均エネルギーとはほぼ等しいことがわかる。一方、温度が1500K以下に設定された場合、いずれの温度でも、平均エネルギーの差は負の値であり、計算モデル1Aを用いた場合の平均エネルギーは、計算モデル2Aを用いた場合の平均エネルギーよりも、小さいことがわかる。つまり、結晶領域の格子配列が保たれる温度では、結晶領域を有する計算モデルは、結晶領域を有さない計算モデルよりも熱に対して安定であると推定される。したがって、高温域を除き、結晶領域が存在することで、膜の熱安定性が向上することが示唆される。
【0175】
以上が、nc膜の熱安定性についての説明である。
【0176】
[nc膜におけるHの生成しやすさ]
本項では、nc膜における欠陥の生成しやすさについて、第一原理計算の結果を用いて説明する。具体的には、酸素欠損に水素が入った欠陥(以下、VHまたはHと呼ぶ場合がある。)の生成エネルギーを、第一原理計算より算出する。
【0177】
は、キャリアとなる電子を生成する場合がある。このため、酸化物半導体中のチャネル形成領域にHが生成されると、トランジスタはノーマリーオン特性となりやすいなど、トランジスタの電気特性が変動してしまう。したがって、酸化物半導体中のチャネル形成領域では、Hの生成が抑制されることが好ましい。
【0178】
ここで、欠陥の生成エネルギーについて説明する。本明細書では、欠陥の生成エネルギーを、下式を用いて算出する。欠陥の生成エネルギーが小さいほど、当該欠陥は生成しやすいといえる。
【0179】
【数3】
【0180】
ここで、Eform(defect)は欠陥(defect)の生成エネルギーであり、E(defect)は欠陥を1つ含む計算モデルの全エネルギーであり、E(no defect)は欠陥を含まない計算モデルの全エネルギーであり、原子Xは欠陥を生成することで増減した原子であり、μ(X)は原子Xの化学ポテンシャルであり、nは原子Xの増減数である。例えば、欠陥がHである場合、Xは酸素原子(O)または水素原子(H)であり、nは-1であり、nは+1である。
【0181】
また、酸素原子の化学ポテンシャルμ(O)および水素原子の化学ポテンシャルμ(H)は、下式を用いて算出する。
【0182】
【数4】
【0183】
ここで、E(O)は、酸素分子(O)の全エネルギーであり、E(HO)は、水分子(HO)の全エネルギーである。
【0184】
なお、E(O)は、1つのO分子を1nmの格子内に配置し、計算条件を表2に示す条件2に設定して、O分子の構造を最適化するための計算を行い、その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して1点計算を行うことで、算出される。また、E(HO)は、1つのHO分子を1nmの格子内に配置し、計算条件を表2に示す条件2に設定して、HO分子の構造を最適化するための計算を行い、その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して1点計算を行うことで、算出される。
【0185】
以上が、欠陥の生成エネルギーに関する説明である。
【0186】
欠陥の生成エネルギーを算出するために、計算モデル3Aを用意した。以下では、計算モデル3Aの作成方法について説明する。なお、計算モデル3Aを作成するための計算は、表2に示す計算条件を用いる。
【0187】
はじめに、計算モデル1Aを用意し、計算モデル1Aの外周部の構造を緩和するための計算を行う。具体的には、計算モデル1Aを用意し、結晶領域に位置する原子の座標を固定して、温度を1000K、時間刻み幅を1fs、ステップ数を10000回、その他の計算条件を表2に示す条件2に設定して、第一原理分子動力学計算を行う。
【0188】
次に、計算条件を表2に示す条件2に設定したまま、外周部の構造を緩和するための計算で得られる計算モデルに対して、結晶領域に位置する原子の座標を固定して、外周部の構造を最適化するための計算を行う。その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して、外周部に位置する原子の座標と、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標とを固定して、結晶領域の構造を最適化するための計算を行う。その後、当該計算後に得られる計算モデルに対して、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標を固定して、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。その後、計算条件を表2に示す条件3に設定し、当該計算後に得られる計算モデルに対して、結晶領域中心に存在する1つのIn原子の座標を固定して、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。
【0189】
以上の方法で、計算モデル3Aを作成する。
【0190】
上記方法で作成した計算モデル3Aを用いて、Hの生成エネルギーを算出する。具体的には、計算モデル3A中の1つの酸素原子を1つの水素原子に置換することで、Hを1つ含む計算モデルを用意する。なお、計算モデル3A中の酸素原子の数は216個であるため、Hを1つ含む計算モデルは216個用意される。なお、Hを含まない計算モデルは、計算モデル3Aそのものである。
【0191】
を1つ含む計算モデルおよびHを含まない計算モデルのそれぞれに対して、計算条件を表2に示す条件3に設定して、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う。当該計算後に得られる、Hを1つ含む計算モデルの全エネルギーをE(defect)とし、当該計算後に得られる、Hを含まない計算モデルの全エネルギーをE(no defect)とする。なお、Hを1つ含む計算モデルに対して当該計算を行うことで、Hが別の欠陥(例えば、酸素欠損および水素など)に変わる場合がある。
【0192】
上記の方法で算出した、E(defect)およびE(no defect)を用いて、Hの生成エネルギーを算出する。算出したHの生成エネルギーを図21に示す。図21では、横軸は結晶領域中心に存在するIn原子から、計算モデル全体の構造を最適化するための計算を行う前の計算モデルに配置したHまでの距離(Distance)[Å]であり、縦軸は、Hの生成エネルギー(Formation energy)[eV]である。なお、図21に示す黒四角(■)のプロットは、結晶領域中のIn近傍の領域(結晶のcore領域ともいう。)に位置するHの生成エネルギーであり、図21に示す白四角(□)のプロットは、結晶領域中のcore領域以外の領域(結晶のshell領域ともいう。)に位置するHの生成エネルギーであり、図21に示すバツ印(×)のプロットは、外周部に位置するHの生成エネルギーである。なお、結晶のcore領域に位置する酸素の数は12個であり、結晶のshell領域に位置する酸素の数は38個である。
【0193】
結晶のcore領域に位置するH、結晶のshell領域に位置するH、外周部に位置するHの生成エネルギーの平均値は、それぞれ、2.75eV、2.60eV、2.14eVとなった。
【0194】
図21より、結晶のcore領域と比較して、結晶のshell領域では、Hの生成エネルギーのバラツキが大きく、Hの生成エネルギーの値が小さいHがあった。これは、結晶領域においても、結晶領域と外周部との界面に近い領域では、構造が歪んでいるためと推測される。
【0195】
また、結晶領域(結晶のcore領域、および結晶のshell領域)と比較して、外周部では、Hの生成エネルギーのバラツキが大きく、Hの生成エネルギーの値が小さいHが多いことが分かる。これは、結晶領域と比較して、結晶性の低い外周部の方が結合長の揺らぎが大きく、金属原子との結合力が弱くなっている酸素原子が多いためと推測される。
【0196】
以上より、結晶領域はHが生成されにくく、結晶性の低い領域(上記外周部)では、Hが生成されやすいことが示唆される。したがって、結晶領域が存在することにより、Hの生成が抑制される。よって、nc膜をトランジスタに用いることで、トランジスタの電気特性の変動を抑制することができる。
【0197】
以上が、nc膜におけるHの生成しやすさについての説明である。
【0198】
[金属酸化物の構造]
酸化物半導体(金属酸化物)は、単結晶酸化物半導体と、それ以外の非単結晶酸化物半導体と、に分けられる。非単結晶酸化物半導体としては、例えば、CAAC-OS(c-axis aligned crystalline oxide semiconductor)、多結晶酸化物半導体、nc-OS(nanocrystalline oxide semiconductor)、擬似非晶質酸化物半導体(a-like OS:amorphous-like oxide semiconductor)、および非晶質酸化物半導体などがある。
【0199】
CAAC-OSは、c軸配向性を有し、かつa-b面方向において複数のナノ結晶が連結し、歪みを有した結晶構造となっている。なお、歪みとは、複数のナノ結晶が連結する領域において、格子配列の揃った領域と、別の格子配列の揃った領域と、の間で格子配列の向きが変化している箇所を指す。
【0200】
ナノ結晶は、六角形を基本とするが、正六角形状とは限らず、非正六角形状である場合がある。また、歪みにおいて、五角形、七角形などの格子配列を有する場合がある。なお、CAAC-OSにおいて、歪み近傍においても、明確な結晶粒界(グレインバウンダリーともいう。)を確認することは難しい。すなわち、格子配列の歪みによって、結晶粒界の形成が抑制されていることがわかる。これは、CAAC-OSが、a-b面方向において酸素原子の配列が稠密でないことや、金属元素が置換することで原子間の結合距離が変化することなどによって、歪みを許容することができるためである。なお、明確な結晶粒界(グレインバウンダリ-)が確認される結晶構造は、いわゆる多結晶(polycrystal)と呼ばれる。結晶粒界は、再結合中心となり、キャリアが捕獲されトランジスタのオン電流の低下、または電界効果移動度の低下を引き起こす可能性が高い。よって、明確な結晶粒界が確認されないCAAC-OSは、トランジスタの半導体層に好適な結晶構造を有する結晶性の酸化物の一つである。なお、CAAC-OSを構成するには、Znを有する構成が好ましい。例えば、In-Zn酸化物、及びIn-Ga-Zn酸化物は、In酸化物よりも結晶粒界の発生を抑制できるため好適である。
【0201】
また、CAAC-OSは、インジウム、および酸素を有する層(以下、In層)と、元素M、亜鉛、および酸素を有する層(以下、(M,Zn)層)とが積層した、層状の結晶構造(層状構造ともいう)を有する傾向がある。なお、インジウムと元素Mは、互いに置換可能であり、(M,Zn)層の元素Mがインジウムと置換した場合、(In,M,Zn)層と表すこともできる。また、In層のインジウムが元素Mと置換した場合、(In,M)層と表すこともできる。
【0202】
CAAC-OSは結晶性の高い金属酸化物である。一方、CAAC-OSは、明確な結晶粒界を確認することが難しいため、結晶粒界に起因する電子移動度の低下が起こりにくいといえる。また、金属酸化物の結晶性は不純物の混入や欠陥の生成などによって低下する場合があるため、CAAC-OSは不純物や欠陥(酸素欠損など)の少ない金属酸化物ともいえる。したがって、CAAC-OSを有する金属酸化物は、物理的性質が安定する。そのため、CAAC-OSを有する金属酸化物は熱に強く、信頼性が高い。
【0203】
nc-OSは、微小な領域(例えば、1nm以上10nm以下の領域、特に1nm以上3nm以下の領域)において原子配列に周期性を有する。また、nc-OSは、異なるナノ結晶間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、膜全体で配向性が見られない。したがって、nc-OSは、分析方法によっては、a-like OSや非晶質酸化物半導体と区別が付かない場合がある。
【0204】
なお、インジウムと、ガリウムと、亜鉛と、を有する金属酸化物の一種である、In-Ga-Zn酸化物(以下、IGZO)は、上述のナノ結晶とすることで安定な構造をとる場合がある。特に、IGZOは、大気中では結晶成長がし難い傾向があるため、大きな結晶(ここでは、数mmの結晶、または数cmの結晶)よりも小さな結晶(例えば、上述のナノ結晶)とする方が、構造的に安定となる場合がある。
【0205】
a-like OSは、nc-OSと非晶質酸化物半導体との間の構造を有する金属酸化物である。a-like OSは、鬆または低密度領域を有する。すなわち、a-like OSは、nc-OSおよびCAAC-OSと比べて、結晶性が低い。
【0206】
酸化物半導体(金属酸化物)は、多様な構造をとり、それぞれが異なる特性を有する。本発明の一態様の酸化物半導体は、非晶質酸化物半導体、多結晶酸化物半導体、a-like OS、nc-OS、CAAC-OSのうち、二種以上を有していてもよい。
【0207】
また、非単結晶酸化物半導体として、CAC(Cloud-Aligned Composite)-OSを用いてもよい。なお、CAC-OSは材料構成に関する。
【0208】
[金属酸化物の構成]
CAC-OSとは、材料の一部では導電性の機能と、材料の一部では絶縁性の機能とを有し、材料の全体では半導体としての機能を有する。なお、CAC-OSを、トランジスタの活性層に用いる場合、導電性の機能は、キャリアとなる電子(またはホール)を流す機能であり、絶縁性の機能は、キャリアとなる電子を流さない機能である。導電性の機能と、絶縁性の機能とを、それぞれ相補的に作用させることで、スイッチングさせる機能(On/Offさせる機能)をCAC-OSに付与することができる。CAC-OSにおいて、それぞれの機能を分離させることで、双方の機能を最大限に高めることができる。
【0209】
また、CAC-OSは、導電性領域、及び絶縁性領域を有する。導電性領域は、上述の導電性の機能を有し、絶縁性領域は、上述の絶縁性の機能を有する。また、材料中において、導電性領域と、絶縁性領域とは、ナノ粒子レベルで分離している場合がある。また、導電性領域と、絶縁性領域とは、それぞれ材料中に偏在する場合がある。また、導電性領域は、周辺がぼけてクラウド状に連結して観察される場合がある。
【0210】
また、CAC-OSにおいて、導電性領域と、絶縁性領域とは、それぞれ0.5nm以上10nm以下、好ましくは0.5nm以上3nm以下のサイズで材料中に分散している場合がある。
【0211】
また、CAC-OSは、異なるバンドギャップを有する成分により構成される。例えば、CAC-OSは、絶縁性領域に起因するワイドギャップを有する成分と、導電性領域に起因するナローギャップを有する成分と、により構成される。当該構成の場合、キャリアを流す際に、ナローギャップを有する成分において、主にキャリアが流れる。また、ナローギャップを有する成分が、ワイドギャップを有する成分に相補的に作用し、ナローギャップを有する成分に連動してワイドギャップを有する成分にもキャリアが流れる。このため、上記CAC-OSをトランジスタのチャネル形成領域に用いる場合、トランジスタのオン状態において高い電流駆動力、つまり大きなオン電流、及び高い電界効果移動度を得ることができる。
【0212】
すなわち、CAC-OSは、マトリックス複合材(matrix composite)、または金属マトリックス複合材(metal matrix composite)と呼称することもできる。
【0213】
また、酸化物半導体は、結晶構造に着目した場合、上記とは異なる分類となる場合がある。ここで、酸化物半導体における、結晶構造の分類について、図22Aを用いて説明を行う。図22Aは、酸化物半導体、代表的にはIGZO(Inと、Gaと、Znと、を含む金属酸化物)の結晶構造の分類を説明する図である。
【0214】
図22Aに示すように、IGZOは、大きく分けてAmorphous(無定形)と、Crystalline(結晶性)と、Crystal(結晶)と、に分類される。また、Amorphousの中には、completely amorphousが含まれる。また、Crystallineの中には、CAAC、nc、及びCACが含まれる。なお、Crystallineの分類には、single crystal、poly crystal、及びcompletely amorphousは除かれる。また、Crystalの中には、single crystal、及びpoly crystalが含まれる。
【0215】
なお、図22Aに示す太枠内の構造は、Amorphous(無定形)と、Crystal(結晶)との間の中間状態であり、新しい境界領域(New crystalline phase)に属する構造である。当該構造は、Amorphousと、Crystalとの間の境界領域にある。すなわち、当該構造は、エネルギー的に不安定なAmorphous(無定形)や、Crystal(結晶)とは全く異なる構造と言い換えることができる。
【0216】
なお、膜または基板の結晶構造は、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)像を用いて評価することができる。ここで、石英ガラス、及びCrystallineに分類される結晶構造を有するIGZO(結晶性IGZOともいう。)のXRDスペクトルを図22B図22Cに示す。また、図22Bが石英ガラス、図22Cが結晶性IGZOのXRDスペクトルである。なお、図22Cに示す結晶性IGZOの組成は、In:Ga:Zn=4:2:3[原子数比]近傍である。また、図22Cに示す結晶性IGZOの厚さは、500nmである。
【0217】
図22Bの矢印に示すように、石英ガラスは、XRDスペクトルのピークの形状がほぼ左右対称である。一方で、図22Cの矢印に示すように、結晶性IGZOは、XRDスペクトルのピークの形状が左右非対称である。XRDスペクトルのピークの形状が左右非対称であることは、結晶の存在を明示している。別言すると、XRDスペクトルのピークの形状で左右対称でないと、Amorphousであるとは言えない。なお、図22Cには、2θ=31°、またはその近傍に結晶相(IGZO crystal phase)を明記してある。XRDスペクトルのピークにおいて、形状が左右非対称となる由来は当該結晶相(微結晶)に起因すると推定される。
【0218】
具体的には、図22Cに示す、結晶性IGZOのXRDスペクトルにおいて、2θ=34°またはその近傍にピークを有する。また、微結晶は、2θ=31°またはその近傍にピークを有する。X線回折像を用いて酸化物半導体膜を評価する場合、図22Cに示すように、2θ=34°またはその近傍のピークよりも低角度側のスペクトルの幅が広くなる。これは、酸化物半導体膜中に、2θ=31°またはその近傍にピークを有する微結晶が内在することを示唆している。
【0219】
また、膜の結晶構造は、極微電子線回折法(NBED:Nano Beam Electron Diffraction)によって観察される回折パターン(極微電子線回折パターンともいう。)にて評価することができる。基板温度を室温として成膜したIGZO膜の回折パターンを図22Dに示す。なお、図22Dに示すIGZO膜は、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]である酸化物ターゲットを用いて、スパッタリング法によって成膜される。また、極微電子線回折法では、プローブ径を1nmとして電子線回折が行われた。
【0220】
図22Dに示すように、室温成膜したIGZO膜の回折パターンでは、ハローではなく、スポット状のパターンが観察される。このため、室温成膜したIGZO膜は、結晶状態でもなく、非晶質状態でもない、中間状態であり、非晶質状態であると結論することはできないと推定される。
【0221】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0222】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の金属酸化物膜を適用した半導体装置の構成例について説明する。以下では、トランジスタを例に挙げて説明する。
【0223】
[構成例1]
〔構成例1-1〕
図23Aは、トランジスタ300の上面図であり、図23Bは、図23Aに示す一点鎖線A1-A2における切断面の断面図に相当し、図23Cは、図23Aに示す一点鎖線B1-B2における切断面の断面図に相当する。一点鎖線A1-A2方向はチャネル長方向、一点鎖線B1-B2方向はチャネル幅方向に相当する。なお、図23Aにおいて、トランジスタ300の構成要素の一部(ゲート絶縁層等)を省略して図示している。また、トランジスタの上面図については、以降の図面においても図23Aと同様に、構成要素の一部を省略して図示する。
【0224】
トランジスタ300は基板302上に設けられ、導電層304、絶縁層306、半導体層308、導電層312a、及び導電層312b等を有する。絶縁層306は導電層304を覆って設けられている。半導体層308は島状の形状を有し、絶縁層306上に設けられている。導電層312a及び導電層312bは、それぞれ半導体層308の上面に接し、且つ、半導体層308上で離間して設けられている。また、絶縁層306、導電層312a、導電層312b、及び半導体層308を覆って絶縁層314が設けられ、絶縁層314上に絶縁層316が設けられている。
【0225】
半導体層308に、実施の形態1で例示した金属酸化物膜を適用することができる。
【0226】
基板302の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の耐熱性を有している必要がある。例えば、シリコンや炭化シリコンを材料とした単結晶半導体基板、多結晶半導体基板、シリコンゲルマニウム等の化合物半導体基板、SOI基板、ガラス基板、セラミック基板、石英基板、サファイア基板等を、基板302として用いてもよい。また、これらの基板上に半導体素子が設けられたものを、基板302として用いてもよい。
【0227】
また、基板302として、可撓性基板を用い、可撓性基板上に直接、半導体装置を形成してもよい。または、基板302と半導体装置の間に剥離層を設けてもよい。剥離層は、その上に半導体装置を一部あるいは全部完成させた後、基板302より分離し、他の基板に転載するために用いることができる。その際、半導体装置は耐熱性の劣る基板や可撓性の基板にも転載できる。
【0228】
導電層304は、ゲート電極として機能する。絶縁層306の一部は、ゲート絶縁層として機能する。導電層312aは、ソース電極またはドレイン電極の一方として機能し、導電層312bは他方として機能する。半導体層308の導電層304と重畳する領域はチャネル形成領域として機能する。トランジスタ300は、半導体層308よりも被形成面側にゲート電極が設けられた、いわゆるボトムゲート型のトランジスタである。ここで、半導体層308の導電層304側とは反対側の面をバックチャネル側の面と呼ぶことがある。トランジスタ300は、半導体層308のバックチャネル側と、ソース電極及びドレイン電極との間に保護層を有さない、いわゆるチャネルエッチ構造のトランジスタである。
【0229】
半導体層308は、2層以上の積層構造を有していてもよい。このとき、半導体層308を構成する半導体膜は、金属酸化物を含むことが好ましい。半導体層308を2層構造とする場合、バックチャネル側に位置する半導体膜は、導電層304側に位置する半導体膜よりも結晶性の高い膜であることが好ましい。これにより、導電層312a及び導電層312bの加工時に、半導体層308の一部がエッチングされ、消失してしまうことを抑制することができる。
【0230】
例えば半導体層308は、インジウムと、M(Mは、ガリウム、アルミニウム、シリコン、ホウ素、イットリウム、スズ、銅、バナジウム、ベリリウム、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、またはマグネシウムから選ばれた一種または複数種)と、亜鉛と、を有すると好ましい。特にMはアルミニウム、ガリウム、イットリウム、またはスズとすることが好ましい。
【0231】
特に、半導体層308として、インジウム、ガリウム、及び亜鉛を含む酸化物を用いることが好ましい。
【0232】
導電層312a及び導電層312bは、それぞれ被形成面側から順に、導電層313aと導電層313bとが積層された積層構造を有する。
【0233】
導電層313bは、銅、銀、金、またはアルミニウム等を含む、低抵抗な導電性材料を用いることが好ましい。特に、導電層313bが銅またはアルミニウムを含むことが好ましい。これにより、導電層312a及び導電層312bを極めて低抵抗なものとすることができる。
【0234】
また、導電層313aは、導電層313bとは異なる導電性材料を用いることができる。例えば、導電層313aは、チタン、タングステン、モリブデン、クロム、タンタル、亜鉛、インジウム、白金、またはルテニウム等を含む導電性材料を用いることが好ましい。
【0235】
このように、銅やアルミニウム等を含む導電層313bと半導体層308との間に、導電層313aを設けることにより、導電層313bに含まれる金属元素が半導体層308中に拡散することを防ぐことができ、信頼性の高いトランジスタ300を実現できる。また、導電層313aは、半導体層308中の酸素が導電層313bに拡散することを防ぐバリア層として機能することが好ましい。
【0236】
なお、導電層312a及び導電層312bの構成は2層構造に限られず、銅、銀、金、またはアルミニウムを含む導電層を含む3層構造、または4層構造としてもよい。例えば、導電層312a及び導電層312bとして、導電層313b上に導電層313aと同様の導電性材料を含む導電層を積層した3層構造としてもよい。これにより、導電層313bの上面の酸化を抑制すること、及び導電層313bに含まれる金属元素が周囲に飛散することを防ぐことができ、信頼性の高いトランジスタを実現できる。
【0237】
導電層304は、導電層313aまたは導電層313bに用いることのできる上述の導電性材料を適宜用いることができる。特に、銅を含む導電性材料を用いることが好ましい。
【0238】
半導体層308と接する絶縁層306及び絶縁層314には、酸化物を含む絶縁性材料を用いることが好ましい。また、絶縁層306や絶縁層314を積層構造とする場合には、半導体層308と接する層に、酸化物を含む絶縁性材料を用いる。
【0239】
また、絶縁層306には窒化シリコンや窒化アルミニウムなどの窒化絶縁膜を用いてもよい。酸化物を含まない絶縁性材料を用いる場合には、絶縁層306の上部に酸素を添加する処理を施し、酸素を含む領域を形成することが好ましい。酸素を添加する処理としては、例えば酸素を含む雰囲気下における加熱処理またはプラズマ処理や、イオンドーピング処理などがある。
【0240】
絶縁層316は、トランジスタ300を保護する保護層として機能する。絶縁層316は、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどの無機絶縁材料を用いることができる。特に、絶縁層316として、窒化シリコンや酸化アルミニウムなどの酸素を拡散しにくい材料を用いることで、作製工程中にかかる熱などにより半導体層308や絶縁層314から絶縁層316を介して外部に酸素が脱離してしまうことを防ぐことができるため好ましい。
【0241】
また、絶縁層316として平坦化膜として機能する有機絶縁性材料を用いてもよい。または、絶縁層316として無機絶縁材料を含む膜と、有機絶縁材料を含む膜の積層膜を用いてもよい。
【0242】
また、半導体層308は、導電層312a及び導電層312bと接する部分及びその近傍に位置し、ソース領域及びドレイン領域として機能する一対の低抵抗領域が形成されていてもよい。当該領域は、半導体層308の一部であり、チャネル形成領域よりも低抵抗な領域である。また低抵抗領域は、キャリア濃度が高い領域、またはn型である領域などと言い換えることができる。また半導体層308において、一対の低抵抗領域に挟まれ、且つ、導電層304と重なる領域が、チャネル形成領域として機能する。
【0243】
〔構成例1-2〕
以下では、上記構成例1-1と一部の構成が異なるトランジスタの構成例について説明する。なお、以下では、上記構成例1-1と重複する部分は説明を省略する場合がある。
【0244】
図24Aは、トランジスタ300Aのチャネル長方向の断面図であり、図24Bは、チャネル幅方向の断面図である。
【0245】
トランジスタ300Aは、絶縁層314上に導電層320を有する点で、構成例1-1と主に相違している。
【0246】
導電層320は、絶縁層314を介して半導体層308と重畳する領域を有する。
【0247】
トランジスタ300Aにおいて、導電層304は、第1のゲート電極(ボトムゲート電極ともいう)としての機能を有し、導電層320は、第2のゲート電極(トップゲート電極ともいう)としての機能を有する。また、絶縁層314の一部は、第2のゲート絶縁層として機能する。
【0248】
また、図24Bに示すように、導電層320は、絶縁層314、及び絶縁層306に設けられた開口部342を介して、導電層304と電気的に接続されていてもよい。これにより、導電層320と導電層304には同じ電位を与えることができ、オン電流の高いトランジスタを実現できる。
【0249】
また図24Bに示すように、チャネル幅方向において、導電層304及び導電層320が、半導体層308の端部よりも外側に延在していることが好ましい。このとき、図24Bに示すように、半導体層308のチャネル幅方向の全体が、導電層304及び導電層320に覆われた構成となる。
【0250】
このような構成とすることで、半導体層308を一対のゲート電極によって生じる電界で、電気的に取り囲むことができる。このとき特に、導電層304と導電層320に同じ電位を与えることが好ましい。これにより、半導体層308にチャネルを誘起させるための電界を効果的に印加できるため、トランジスタ300Aのオン電流を増大させることができる。そのため、トランジスタ300Aを微細化することもできる。
【0251】
なお、導電層304と導電層320とを接続しない構成としてもよい。このとき、一対のゲート電極の一方には定電位を与え、他方にトランジスタ300Aを駆動するための信号を与えてもよい。このとき、一方のゲート電極に与える電位により、トランジスタ300Aを他方のゲート電極で駆動する際のしきい値電圧を制御することができる。
【0252】
または、導電層320を導電層312a及び導電層312bのいずれか一方と電気的に接続する構成としてもよい。特に、導電層312a及び導電層312bのうち、定電位が供給される導電層(例えばソース電極)と、導電層320とを電気的に接続することが好ましい。
【0253】
以上が構成例1についての説明である。
【0254】
[構成例2]
以下では、上記構成例1とは異なるトランジスタの構成例について説明する。
【0255】
〔構成例2-1〕
図25Aは、トランジスタ350の上面図であり、図25Bは、図25Aに示す一点鎖線A3-A4における切断面の断面図に相当し、図25Cは、図25Aに示す一点鎖線B3-B4における切断面の断面図に相当する。一点鎖線A3-A4方向はチャネル長方向、一点鎖線B3-B4方向はチャネル幅方向に相当する。
【0256】
トランジスタ350は、基板352上に設けられ、絶縁層353、半導体層358、絶縁層360、金属酸化物層364、導電層362、絶縁層368等を有する。島状の半導体層358は、絶縁層353上に設けられる。絶縁層360は、絶縁層353の上面、半導体層358の上面及び側面に接して設けられる。金属酸化物層364及び導電層362は、絶縁層360上にこの順に積層して設けられ、半導体層358と重畳する部分を有する。絶縁層368は、絶縁層360の上面、金属酸化物層364の側面、及び導電層362の上面を覆って設けられている。
【0257】
半導体層358に、実施の形態1で例示した金属酸化物膜を適用することができる。
【0258】
また、図25A図25Bに示すように、トランジスタ350は、絶縁層368上に導電層370a及び導電層370bを有していてもよい。導電層370a及び導電層370bは、ソース電極またはドレイン電極として機能する。導電層370a及び導電層370bは、それぞれ絶縁層368、及び絶縁層360に設けられた開口部391aまたは開口部391bを介して、低抵抗領域358nに電気的に接続される。
【0259】
導電層362の一部は、ゲート電極として機能する。絶縁層360の一部は、ゲート絶縁層として機能する。トランジスタ350は、半導体層358上にゲート電極が設けられた、いわゆるトップゲート型のトランジスタである。
【0260】
導電層362、及び金属酸化物層364は、上面形状が互いに概略一致するように加工されている。
【0261】
なお、本明細書等において「上面形状が概略一致」とは、積層した層と層との間で少なくとも輪郭の一部が重なることをいう。例えば、上層と下層とが、同一のマスクパターン、または一部が同一のマスクパターンにより加工された場合を含む。ただし、厳密には輪郭が重なり合わず、上層が下層の内側に位置することや、上層が下層の外側に位置することもあり、この場合も「上面形状が概略一致」という。
【0262】
絶縁層360と導電層362との間に位置する金属酸化物層364は、絶縁層360に含まれる酸素が導電層362側に拡散することを防ぐバリア膜として機能する。さらに金属酸化物層364は、導電層362に含まれる水素や水が絶縁層360側に拡散することを防ぐバリア膜としても機能する。金属酸化物層364は、例えば少なくとも絶縁層360よりも酸素及び水素を透過しにくい材料を用いることが好ましい。
【0263】
金属酸化物層364により、導電層362にアルミニウムや銅などの酸素を吸引しやすい金属材料を用いた場合であっても、絶縁層360から導電層362へ酸素が拡散することを防ぐことができる。また、導電層362が水素を含む場合であっても、導電層362から絶縁層360を介して半導体層358へ水素が拡散することを防ぐことができる。その結果、半導体層358のチャネル形成領域におけるキャリア密度を極めて低いものとすることができる。
【0264】
金属酸化物層364としては、絶縁性材料または導電性材料を用いることができる。金属酸化物層364が絶縁性を有する場合には、金属酸化物層364はゲート絶縁層の一部として機能する。一方、金属酸化物層364が導電性を有する場合には、金属酸化物層364はゲート電極の一部として機能する。
【0265】
金属酸化物層364として、酸化シリコンよりも誘電率の高い絶縁性材料を用いることが好ましい。特に、酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、またはハフニウムアルミネート膜等を用いると、駆動電圧を低減できるため好ましい。
【0266】
金属酸化物層364として、例えば酸化インジウム、インジウムスズ酸化物(ITO)、またはシリコンを含有したインジウムスズ酸化物(ITSO)などの、導電性酸化物を用いることもできる。特にインジウムを含む導電性酸化物は、導電性が高いため好ましい。
【0267】
また、金属酸化物層364として、半導体層358と同一の元素を一以上含む酸化物材料を用いることが好ましい。特に、上記半導体層358に適用可能な酸化物半導体材料を用いることが好ましい。このとき、金属酸化物層364として、半導体層358と同じスパッタリングターゲットを用いて形成した金属酸化物膜を適用することで、装置を共通化できるため好ましい。
【0268】
また、金属酸化物層364は、スパッタリング装置を用いて形成すると好ましい。例えば、スパッタリング装置を用いて酸化物膜を形成する場合、酸素ガスを含む雰囲気で形成することで、絶縁層360や半導体層358中に好適に酸素を添加することができる。
【0269】
半導体層358は、導電層362と重畳する領域と、当該領域を挟む一対の低抵抗領域358nを有する。半導体層358の、導電層362と重畳する領域は、トランジスタ350のチャネル形成領域として機能する。一方、低抵抗領域358nは、トランジスタ350のソース領域またはドレイン領域として機能する。
【0270】
また低抵抗領域358nは、チャネル形成領域よりも低抵抗な領域、キャリア濃度が高い領域、酸素欠陥密度の高い領域、不純物濃度の高い領域、またはn型である領域ともいうことができる。
【0271】
半導体層358の低抵抗領域358nは、不純物元素を含む領域である。当該不純物元素としては、例えば水素、ホウ素、炭素、窒素、フッ素、リン、硫黄、ヒ素、アルミニウム、または希ガスなどが挙げられる。なお、希ガスの代表例としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノン等がある。特に、ホウ素またはリンを含むことが好ましい。またこれら元素を2以上含んでいてもよい。
【0272】
低抵抗領域358nに不純物を添加する処理は、導電層362をマスクとして、絶縁層360を介して行うことができる。低抵抗領域358nに不純物を添加する処理としては、プラズマイオンドーピング法やイオン注入法を好適に用いることができる。
【0273】
低抵抗領域358nは、不純物濃度が、1×1019atoms/cm以上、1×1023atoms/cm以下、好ましくは5×1019atoms/cm以上、5×1022atoms/cm以下、より好ましくは1×1020atoms/cm以上、1×1022atoms/cm以下である領域を含むことが好ましい。
【0274】
低抵抗領域358nに含まれる不純物の濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)や、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の分析法により分析することができる。XPS分析を用いる場合には、表面側または裏面側からのイオンスパッタリングとXPS分析を組み合わせることで、深さ方向の濃度分布を知ることができる。
【0275】
また、低抵抗領域358nにおいて、不純物元素は酸化した状態で存在していることが好ましい。例えば不純物元素としてホウ素、リン、マグネシウム、アルミニウム、シリコンなどの酸化しやすい元素を用いることが好ましい。このような酸化しやすい元素は、半導体層358中の酸素と結合して酸化した状態で安定に存在しうるため、後の工程で高い温度(例えば400℃以上、600℃以上、または800℃以上)がかかった場合であっても、脱離することが抑制される。また、不純物元素が半導体層358中の酸素を奪うことで、低抵抗領域358n中に多くの酸素欠損が生成される。この酸素欠損と、膜中の水素とが結合することでキャリア供給源となるため、低抵抗領域358nは極めて低抵抗な状態となる。
【0276】
例えば、不純物元素としてホウ素を用いた場合、低抵抗領域358nに含まれるホウ素は酸素と結合した状態で存在しうる。このことは、XPS分析において、B結合に起因するスペクトルピークが観測されることで確認できる。また、XPS分析において、ホウ素元素が単体で存在する状態に起因するスペクトルピークが観測されない、または測定下限のバックグラウンドノイズに埋もれる程度にまでピーク強度が極めて小さくなる。
【0277】
絶縁層360は、半導体層358のチャネル形成領域と接する領域、すなわち導電層362と重畳する領域を有する。また、絶縁層360は、半導体層358の低抵抗領域358nと接し、且つ導電層362と重畳しない領域を有する。
【0278】
絶縁層360の、低抵抗領域358nと重畳する領域には、上述した不純物元素が含まれる場合がある。このとき、低抵抗領域358nと同様に、絶縁層360中の不純物元素も酸素と結合した状態で存在することが好ましい。このような酸化しやすい元素は、絶縁層360中の酸素と結合して酸化した状態で安定に存在しうるため、後の工程で高い温度がかかった場合でも脱離することが抑制される。また特に絶縁層360中に加熱により脱離しうる酸素(過剰酸素ともいう)が含まれる場合には、当該過剰酸素と不純物元素とが結合して安定化するため、絶縁層360から低抵抗領域358nへ酸素が供給されることを抑制することができる。また、酸化した状態の不純物元素が含まれる絶縁層360の一部は、酸素が拡散しにくい状態となるため、絶縁層360よりも上側から当該絶縁層360を介して低抵抗領域358nに酸素が供給されることで、高抵抗化することも防ぐことができる。
【0279】
絶縁層368は、トランジスタ350を保護する保護層として機能する。絶縁層368としては、例えば酸化物または窒化物などの無機絶縁材料を用いることができる。より具体的な例としては、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ハフニウム、ハフニウムアルミネートなどの無機絶縁材料を用いることができる。
【0280】
〔構成例2-2〕
図26Aは、トランジスタ350Aの上面図であり、図26Bは、トランジスタ350Aのチャネル長方向の断面図であり、図26Cは、トランジスタ350Aのチャネル幅方向の断面図である。
【0281】
トランジスタ350Aは、構成例2-1で例示したトランジスタ350と比較して、絶縁層360の構成が異なる点、及び絶縁層366を有する点で、主に相違している。
【0282】
絶縁層360は、導電層362及び金属酸化物層364と上面形状が概略一致するように加工されている。絶縁層360は、例えば導電層362及び金属酸化物層364を加工するためのレジストマスクを用いて加工することにより形成することができる。
【0283】
絶縁層366は、半導体層358の導電層362、金属酸化物層364、及び絶縁層360に覆われていない上面及び側面に接して設けられている。また絶縁層366は、絶縁層353の上面、絶縁層360の側面、金属酸化物層364の側面、及び導電層362の上面及び側面を覆って設けられている。
【0284】
絶縁層366は、低抵抗領域358nを低抵抗化させる機能を有する。このような絶縁層366としては、絶縁層366の成膜時、または成膜後に加熱することにより、低抵抗領域358n中に不純物を供給することのできる絶縁膜を用いることができる。または、絶縁層366の成膜時、または成膜後に加熱することにより、低抵抗領域358n中に酸素欠損を生じさせることのできる絶縁膜を用いることができる。
【0285】
例えば、絶縁層366として、低抵抗領域358nに不純物を供給する供給源として機能する絶縁膜を用いることができる。このとき、絶縁層366は、加熱により水素を放出する膜であることが好ましい。このような絶縁層366を半導体層358に接して形成することで、低抵抗領域358nに水素などの不純物を供給し、低抵抗領域358nを低抵抗化させることができる。
【0286】
絶縁層366は、成膜の際に用いる成膜ガスに、水素元素などの不純物元素を含むガスを用いて成膜される膜であることが好ましい。また絶縁層366の成膜温度を高めることで、半導体層358に効果的に多くの不純物元素を供給することができる。絶縁層366の成膜温度としては、例えば200℃以上500℃以下、好ましくは220℃以上450℃以下、より好ましくは250℃以上400℃以下とすることができる。
【0287】
また、絶縁層366の成膜を減圧下で、且つ加熱して行うことで、半導体層358中の低抵抗領域358nとなる領域の酸素の脱離を促進することができる。酸素欠損が多く形成された半導体層358に、水素などの不純物を供給することで、低抵抗領域358n中のキャリア密度が高まり、より効果的に低抵抗領域358nを低抵抗化させることができる。
【0288】
絶縁層366としては、例えば、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウムなどの、窒化物を含む絶縁膜を好適に用いることができる。特に窒化シリコンは、水素や酸素に対するブロッキング性を有するため、外部から半導体層への水素の拡散と、半導体層から外部への酸素の脱離の両方を防ぐことができ、信頼性の高いトランジスタを実現できる。
【0289】
また、絶縁層366は、半導体層358中の酸素を吸引し、酸素欠損を生成する機能を有する絶縁膜としてもよい。特に、絶縁層366には、金属窒化物を用いることが特に好ましい。
【0290】
また、金属窒化物を用いる場合、アルミニウム、チタン、タンタル、タングステン、クロム、またはルテニウムの窒化物を用いることが好ましい。特に、アルミニウムまたはチタンを含むことが特に好ましい。例えば、アルミニウムをスパッタリングターゲットに用い、成膜ガスとして窒素を含むガスを用いた反応スパッタリング法により形成した窒化アルミニウム膜は、成膜ガスの全流量に対する窒素ガスの流量を適切に制御することで、極めて高い絶縁性と、水素や酸素に対する極めて高いブロッキング性とを兼ね備えた膜とすることができる。そのため、このような金属窒化物を含む絶縁膜を、半導体層に接して設けることで、半導体層を低抵抗化できるだけでなく、半導体層から酸素が脱離すること、及び半導体層へ水素が拡散することを好適に防ぐことができる。
【0291】
金属窒化物として、窒化アルミニウムを用いた場合、当該窒化アルミニウムを含む絶縁層の厚さを5nm以上とすることが好ましい。このように薄い膜であっても、水素及び酸素に対する高いブロッキング性と、半導体層の低抵抗化の機能とを両立できる。なお、当該絶縁層の厚さはどれだけ厚くてもよいが、生産性を考慮し、500nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは50nm以下とすることが好ましい。
【0292】
絶縁層366に窒化アルミニウム膜を用いる場合、組成式がAlN(xは0より大きく2以下の実数、好ましくは、xは0.5より大きく1.5以下の実数)を満たす膜を用いることが好ましい。これにより、絶縁性に優れ、且つ熱伝導性に優れた膜とすることができるため、トランジスタ350Aを駆動したときに生じる熱の放熱性を高めることができる。
【0293】
このような絶縁層366を低抵抗領域358nに接して設けることで、絶縁層366が低抵抗領域358n中の酸素を吸引し、低抵抗領域358n中に酸素欠損を形成させることができる。またこのような絶縁層366を形成した後に、加熱処理を行うことで、低抵抗領域358nにより多くの酸素欠損を形成することができ、低抵抗化を促進することができる。また、絶縁層366に金属酸化物を含む膜を用いた場合、絶縁層366が半導体層358中の酸素を吸引した結果、絶縁層366と低抵抗領域358nとの間に、絶縁層366に含まれる金属元素(例えばアルミニウム)の酸化物を含む層が形成される場合がある。
【0294】
ここで、半導体層358として、インジウムを含む金属酸化物膜を用いた場合、低抵抗領域358nの絶縁層366側の界面近傍に、酸化インジウムが析出した領域、または、インジウム濃度の高い領域が形成されている場合がある。これにより、極めて低抵抗な低抵抗領域358nを形成することができる。このような領域の存在は、例えば、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)等の分析法で観測できる場合がある。
【0295】
〔構成例2-3〕
図27Aに、トランジスタ350Bの断面図を示している。図27Aでは、一点鎖線よりも左側にチャネル長方向の断面を、右側にチャネル幅方向の断面を、並べて明示している。
【0296】
トランジスタ350Bは、基板352と絶縁層353との間に導電層356を有する点で、構成例2-1と主に相違している。導電層356は半導体層358及び導電層362と重なる領域を有する。
【0297】
トランジスタ350Bにおいて、導電層362は、第2のゲート電極(トップゲート電極ともいう)としての機能を有し、導電層356は、第1のゲート電極(ボトムゲート電極ともいう)としての機能を有する。また、絶縁層360の一部は、第2のゲート絶縁層として機能し、絶縁層353の一部は、第1のゲート絶縁層として機能する。
【0298】
半導体層358の、導電層362及び導電層356の少なくとも一方と重なる部分は、チャネル形成領域として機能する。なお以下では説明を容易にするため、半導体層358の導電層362と重なる部分をチャネル形成領域と呼ぶ場合があるが、実際には導電層362と重ならずに、導電層356と重なる部分(低抵抗領域358nを含む部分)にもチャネルが形成されうる。
【0299】
また、図27Aに示すように、導電層356は、金属酸化物層364、絶縁層360、及び絶縁層353に設けられた開口部392を介して、導電層362と電気的に接続されていてもよい。これにより、導電層356と導電層362には、同じ電位を与えることができる。
【0300】
導電層356と、導電層370a及び導電層370bのいずれか一方とを、電気的に接続する構成としてもよい。
【0301】
導電層356は、導電層362、導電層370a、または導電層370bと同様の材料を用いることができる。特に導電層356に銅を含む材料を用いると、配線抵抗を低減できるため好ましい。
【0302】
図27Aでは、絶縁層353が、導電層356側から、絶縁層353aと、絶縁層353bとが積層された積層構造を有する場合を示している。このとき、導電層356側に位置する絶縁層353aには、導電層356に含まれる金属元素を拡散しにくい絶縁膜を用いることが好ましい。例えば窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜などの無機絶縁膜を用いることが好ましい。また、半導体層358と接する絶縁層353bには、酸素を含む絶縁膜を用いることが好ましい。例えば酸化シリコン膜、または酸化窒化シリコン膜などを用いることが好ましい。
【0303】
また、図27Aに示すように、チャネル幅方向において、導電層362及び導電層356が、半導体層358の端部よりも外側に突出していることが好ましい。このとき、図27Aに示すように、半導体層358のチャネル幅方向の全体が、絶縁層360と絶縁層353を介して、導電層362と導電層356に覆われた構成となる。
【0304】
このような構成とすることで、半導体層358を一対のゲート電極によって生じる電界で、電気的に取り囲むことができる。このとき特に、導電層356と導電層362に同じ電位を与えることが好ましい。これにより、半導体層358にチャネルを誘起させるための電界を効果的に印加できるため、トランジスタ350Bのオン電流を増大させることができる。そのため、トランジスタ350Bを微細化することも可能となる。
【0305】
なお、導電層362と導電層356とを接続しない構成としてもよい。このとき、一対のゲート電極の一方に定電位を与え、他方にトランジスタ350Bを駆動するための信号を与えてもよい。このとき、一方のゲート電極に与える電位により、トランジスタ350Bを他方のゲート電極で駆動する際のしきい値電圧を制御することもできる。
【0306】
〔構成例2-4〕
図27Bに、トランジスタ350Cの断面図を示している。図27Bでは、一点鎖線よりも左側にチャネル長方向の断面を、右側にチャネル幅方向の断面を、並べて明示している。
【0307】
トランジスタ350Cは、構成例2-2で例示したトランジスタ350Aに、構成例2-3で例示した、第2のゲート電極として機能する導電層356を設けた場合の例である。
【0308】
このような構成とすることで、オン電流の高いトランジスタとすることができる。または、しきい値電圧を制御することのできるトランジスタとすることができる。
【0309】
本実施の形態で例示した構成例、及びそれらに対応する図面等は、少なくともその一部を他の構成例、または図面等と適宜組み合わせて実施することができる。
【0310】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0311】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の金属酸化物膜を有する半導体装置を用いて作製できる表示装置の構成例について説明する。
【0312】
図28Aは、表示装置700の上面概略図である。表示装置700は、可撓性を有する基板762を有する。基板762には、表示部702、一対の回路部763、回路部764、配線704、接続端子703a、及び接続端子703bが設けられている。
【0313】
回路部763及び回路部764は、表示部702を駆動する機能を有する。回路部763は、表示部702を挟んで2つ設けられている。回路部764は、表示部702と配線704との間に設けられている。回路部763は、例えばゲートドライバとしての機能を有し、回路部764は、例えばソースドライバ、またはその一部としての機能を有する。例えば回路部764は、バッファ回路、またはデマルチプレクサ回路を含んでいてもよい。
【0314】
表示部702に設けられる表示素子としては、例えば液晶素子または発光素子など、上述した各種表示素子を適用できる。特に、表示素子として、有機EL素子を用いることが好ましい。
【0315】
基板762は、配線704、接続端子703a及び接続端子703bが設けられる部分が、他の部分よりも突出した上面形状を有する。言い換えると、基板762の当該部分の幅が、表示部702が設けられる部分の幅よりも小さい形状を有する。
【0316】
また基板762の突出部は、配線704と重なる領域において、湾曲させることができる領域(湾曲部761a)を有する。また、基板762は、表示部702が設けられる領域において、湾曲させることができる一対の領域(湾曲部761b)を有する。図28Aに示すように、基板762の一部が突出した形状を有することで、湾曲部761aの湾曲方向と、湾曲部761bの湾曲方向とは、交差した方向とすることができる。
【0317】
接続端子703aはFPC(Flexible Printed Circuit)が接続される端子として機能し、接続端子703bはICが接続される端子として機能する。
【0318】
図28B図28Cには、湾曲部761aと湾曲部761bにおいて、表示面側とは反対側に基板762を湾曲させた場合の、表示装置700の斜視図を示している。図28Bは、表示面側を含む斜視図であり、図28Cは、表示面側とは反対側を含む斜視図である。また図28Cでは、接続端子703aに接続したFPC706と、接続端子703bに接続したIC707を明示している。
【0319】
図28Bに示すように、表示部702の両側をそれぞれ湾曲させることにより、電子機器に表示装置700を組み込む際に、電子機器の両側部に湾曲した表示部を設けることができる。これにより、機能性の高い電子機器を実現できる。
【0320】
また、図28B図28Cに示すように、湾曲部761aにより、基板762の一部を表示面側とは反対側に折り返すことができる。具体的には、配線704が外側になるように、基板762の突出部を折り返すことができる。これにより、接続端子703a及び接続端子703bを、表示面側とは反対側に配置することができ、さらにはFPC706を表示面側とは反対側に配置することができる。これにより、表示装置700を電子機器に組み込む際に、非表示部の面積を縮小することが可能となる。
【0321】
また、基板762には、切欠き部765が設けられている。切欠き部765は、例えば電子機器が有するカメラのレンズ、光学センサ等の各種センサ、照明装置、または意匠などを配置することのできる部分である。表示部702の一部が切り欠かれることにより、より意匠性の高い電子機器を実現できる。また、これにより、筐体表面に対する画面の占有率を高めることができる。
【0322】
[断面構成例]
以下では、表示装置の断面構成例について説明する。
【0323】
〔構成例1〕
図29に、表示装置700の断面概略図を示す。図29は、図28Aで示した表示装置700の表示部702と、回路部763と、湾曲部761aと、接続端子703aと、を含む断面を示している。表示部702には、トランジスタ750及び容量素子790が設けられている。回路部763には、トランジスタ752が設けられている。
【0324】
トランジスタ750及びトランジスタ752は、チャネルが形成される半導体層に、酸化物半導体を適用したトランジスタである。なお、これに限られず、半導体層に、シリコン(アモルファスシリコン、多結晶シリコン、または単結晶シリコン)や、有機半導体を用いたトランジスタを適用することもできる。
【0325】
本実施の形態で用いるトランジスタは、高純度化し、酸素欠損の形成を抑制した酸化物半導体膜を有する。該トランジスタは、オフ電流を著しく低くできる。そのため、このようなトランジスタが適用された画素は、画像信号等の電気信号の保持時間を長くでき、画像信号等の書き込み間隔も長く設定できる。よって、リフレッシュ動作の頻度を少なくできるため、消費電力を低減することができる。
【0326】
また、本実施の形態で用いるトランジスタは、比較的高い電界効果移動度が得られるため、高速駆動が可能である。例えば、このような高速駆動が可能なトランジスタを表示装置に用いることで、画素のスイッチングトランジスタと、回路部に使用するドライバトランジスタを同一基板上に形成することができる。すなわち、シリコンウェハ等により形成された駆動回路を適用しない構成も可能であり、表示装置の部品点数を削減することができる。また、画素においても、高速駆動が可能なトランジスタを用いることで、高画質な画像を提供することができる。
【0327】
容量素子790は、トランジスタ750が有する第1のゲート電極と同一の膜を加工して形成される下部電極と、半導体層と同一の金属酸化物膜を加工して形成される上部電極と、を有する。上部電極は、トランジスタ750のソース領域及びドレイン領域と同様に低抵抗化されている。また、下部電極と上部電極との間には、トランジスタ750の第1のゲート絶縁層として機能する絶縁膜の一部が設けられる。すなわち、容量素子790は、一対の電極間に誘電体膜として機能する絶縁膜が挟持された積層型の構造を有する。また、上部電極には、トランジスタ750のソース電極及びドレイン電極と同一の膜を加工して得られる配線が接続されている。
【0328】
また、トランジスタ750、トランジスタ752、及び容量素子790上には、平坦化膜として機能する絶縁層770が設けられている。
【0329】
表示部702が有するトランジスタ750と、回路部763が有するトランジスタ752とは、異なる構造のトランジスタを用いてもよい。例えば、いずれか一方にトップゲート型のトランジスタを適用し、他方にボトムゲート型のトランジスタを適用した構成としてもよい。なお、上記回路部764についても、回路部763と同様である。
【0330】
なお、トランジスタ750及びトランジスタ752の構成については、上記実施の形態2を援用できる。
【0331】
接続端子703aは、配線704の一部を有する。また図29に示すように、接続端子703aが、複数の導電膜が積層された積層構造を有すると、接続端子703aの導電性や、機械的強度が高まるため好ましい。接続端子703aは、接続層780を介してFPC706と電気的に接続されている。接続層780としては、例えば異方性導電材料等を用いることができる。
【0332】
表示装置700は、それぞれ支持基板として機能する基板762と、基板740と、を有する。基板762及び基板740としては、例えばガラス基板、またはプラスチック基板等の可撓性を有する基板を用いることができる。
【0333】
トランジスタ750、トランジスタ752、容量素子790等は、絶縁層744上に設けられる。基板762と絶縁層744とは、接着層742によって貼り合されている。
【0334】
また、表示装置700は、発光素子782、着色層736、遮光層738等を有する。
【0335】
発光素子782は、導電層772、EL層786、及び導電層788を有する。導電層772は、トランジスタ750が有するソース電極またはドレイン電極と電気的に接続される。導電層772は、絶縁層770上に設けられ、画素電極として機能する。また導電層772の端部を覆って絶縁層730が設けられ、絶縁層730及び導電層772上にEL層786と導電層788が積層して設けられている。
【0336】
導電層772には、可視光に対して反射性を有する材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀等を含む材料を用いることができる。また、導電層788には、可視光に対して透光性を有する材料を用いることができる。例えば、インジウム、亜鉛、スズ等を含む酸化物材料を用いるとよい。そのため、発光素子782は、被形成面とは反対側(基板740側)に光を射出する、トップエミッション型の発光素子である。
【0337】
EL層786は、有機化合物、または量子ドットなどの無機化合物を有する。EL層786は、電流が流れた際に光を呈する発光材料を含む。
【0338】
発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)材料、無機化合物(量子ドット材料など)などを用いることができる。量子ドットに用いることのできる材料としては、コロイド状量子ドット材料、合金型量子ドット材料、コア・シェル型量子ドット材料、コア型量子ドット材料、などが挙げられる。
【0339】
遮光層738と、着色層736は、絶縁層746の一方の面に設けられている。着色層736は、発光素子782と重なる位置に設けられている。また、遮光層738は、表示部702において、発光素子782と重ならない領域に設けられている。また遮光層738は、回路部763等にも重ねて設けられていてもよい。
【0340】
基板740は、絶縁層746の他方の面に、接着層747によって貼り合されている。また、基板740と基板762とは、封止層732によって貼り合されている。
【0341】
ここでは、発光素子782が有するEL層786として、白色の発光を呈する発光材料が適用されている。発光素子782が発する白色の発光は、着色層736により着色されて外部に射出される。EL層786は、異なる色を呈する画素に亘って設けられる。表示部702に、赤色(R)、緑色(G)、または青色(B)のいずれかを透過する着色層736が設けられた画素をマトリクス状に配置することで、表示装置700は、フルカラーの表示を行うことができる。
【0342】
また、導電層788として、透過性及び反射性を有する導電膜を用いてもよい。このとき、導電層772と導電層788との間で微小共振器(マイクロキャビティ)構造を実現し、特定の波長の光を強めて射出する構成とすることができる。またこのとき、導電層772と導電層788との間に光学距離を調整するための光学調整層を配置し、当該光学調整層の厚さを異なる色の画素間で異ならせることで、それぞれの画素から射出される光の色純度を高める構成としてもよい。
【0343】
なお、EL層786を画素毎に島状または画素列毎に縞状に形成する、すなわち塗り分けにより形成する場合においては、着色層736や、上述した光学調整層を設けない構成としてもよい。
【0344】
ここで、絶縁層744と絶縁層746には、それぞれ透湿性の低いバリア膜として機能する無機絶縁膜を用いることが好ましい。このような絶縁層744と絶縁層746との間に、発光素子782やトランジスタ750等が挟持された構成とすることで、これらの劣化が抑制され、信頼性の高い表示装置を実現できる。
【0345】
〔構成例2〕
図30には、図29とは一部の構成が異なる表示装置700の断面図を示している。また、図30では、湾曲部761aにおいて表示装置700の一部が湾曲し、表示面側とは反対側に折り返された形態を明示している。
【0346】
図30に示す表示装置700は、図29で示した接着層742と絶縁層744との間に、樹脂層743が設けられている。また、基板740に換えて、保護層749を有する。
【0347】
樹脂層743は、ポリイミドやアクリルなどの有機樹脂を含む層である。絶縁層744は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン等の無機絶縁膜を含む。樹脂層743と基板762とは、接着層742によって貼りあわされている。樹脂層743は、基板762よりも薄いことが好ましい。
【0348】
保護層749は、封止層732と貼りあわされている。保護層749としては、ガラス基板や樹脂フィルムなどを用いることができる。また、保護層749として、偏光板(円偏光板を含む)、散乱板などの光学部材や、タッチセンサパネルなどの入力装置、またはこれらを2つ以上積層した構成を適用してもよい。また、保護層749は、電子機器の筐体の一部(例えば画面となる部分)を構成する部材を含んでいてもよい。
【0349】
また、発光素子782が有するEL層786は、絶縁層730及び導電層772上に島状に設けられている。EL層786を、副画素毎に発光色が異なるように作り分けることで、着色層736を用いずにカラー表示を実現することができる。
【0350】
また、発光素子782を覆って、保護層741が設けられている。保護層741は発光素子782に水などの不純物が拡散することを防ぐ機能を有する。保護層741は、導電層788側から絶縁層741a、絶縁層741b、及び絶縁層741cがこの順で積層された積層構造を有している。このとき、絶縁層741aと絶縁層741cには、水などの不純物に対してバリア性の高い無機絶縁膜を、絶縁層741bには平坦化膜として機能する有機絶縁膜を、それぞれ用いることが好ましい。また、保護層741は、回路部763等にも延在して設けられていることが好ましい。
【0351】
また、封止層732よりも内側において、トランジスタ750やトランジスタ752等を覆う有機絶縁膜が島状に形成されることが好ましい。言い換えると、当該有機絶縁膜の端部が、封止層732の内側、または封止層732の端部と重なる領域に位置することが好ましい。図30では、絶縁層770、絶縁層730、及び絶縁層741bが、島状に加工されている例を示している。例えば封止層732と重なる部分では、絶縁層741c及び絶縁層741aが接して設けられている。このように、トランジスタ750やトランジスタ752を覆う有機絶縁膜の表面が、封止層732よりも外側に露出しない構成とすることで、外部から当該有機絶縁膜を介してトランジスタ750やトランジスタ752に水や水素が拡散することを好適に防ぐことができる。これにより、トランジスタの電気特性の変動が抑えられ、極めて信頼性の高い表示装置を実現できる。
【0352】
また、図30において、湾曲部761aには、基板762、接着層742の他、絶縁層744等の無機絶縁膜が設けられていない部分を有する。また湾曲部761aにおいて、配線704が露出することを防ぐために、有機材料を含む絶縁層770が配線704を覆う構成を有している。図30に示す構成では、湾曲部761aが、樹脂層743、配線704、及び絶縁層770が積層された積層構造を有している。
【0353】
湾曲部761aに、無機絶縁膜をできるだけ設けず、且つ、金属または合金を含む導電層と、有機材料を含む層のみを積層した構成とすることで、曲げた際にクラックが生じることを防ぐことができる。また湾曲部761aに基板762を設けないことで、極めて小さい曲率半径で、表示装置700の一部を曲げることができる。
【0354】
また、接続端子703aと重なる領域において、樹脂層743には、接着層748を介して支持体720が貼り合されている。支持体720は、基板762等よりも剛性の高い材料を用いることができる。または、支持体720は、電子機器の筐体の一部、または電子機器の内部に配置される部材の一部であってもよい。
【0355】
また、図30において、保護層741上には導電層761が設けられている。導電層761は、配線や電極として用いることができる。
【0356】
また、導電層761は、表示装置700に重ねてタッチセンサが設けられる場合に、画素を駆動する際の電気的なノイズが、当該タッチセンサに伝わることを防ぐための静電遮蔽膜として機能させることができる。このとき、導電層761には所定の定電位が与えられる構成とすればよい。
【0357】
または、導電層761は、例えばタッチセンサの電極として用いることができる。これにより、表示装置700をタッチパネルとして機能させることができる。例えば、導電層761は、静電容量方式のタッチセンサの電極または配線として用いることができる。このとき、導電層761は、検知回路が接続される配線または電極や、センサ信号が入力される配線または電極として用いることができる。このように、発光素子782上にタッチセンサを作りこむことで、部品点数を削減でき、電子機器等の製造コストを削減することができる。
【0358】
導電層761は、発光素子782と重ならない部分に設けられることが好ましい。例えば導電層761は、絶縁層730と重なる位置に設けることができる。これにより、導電層761として、比較的導電性の低い透明導電膜を用いる必要がなく、導電性の高い金属や合金などを用いることができるため、センサの感度を高めることができる。
【0359】
なお、導電層761を用いて構成することのできるタッチセンサの方式としては、静電容量方式に限られず、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、光学方式、感圧方式など様々な方式を用いることができる。または、これら2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0360】
〔構成例3〕
図31には、表示素子として液晶素子を用いた場合の、表示装置700aの断面概略図を示している。図31では、回路部763、表示部702、及び接続端子703aを含む領域の断面図を示している。
【0361】
図31に示す表示装置700aは、基板701と基板705との間に、トランジスタ721、トランジスタ722、液晶素子710等を有する。基板701と基板705とは、封止層732によって貼り合されている。
【0362】
ここでは、トランジスタ721とトランジスタ722として、ボトムゲート型のトランジスタを適用した場合について示している。
【0363】
液晶素子710は、導電層711、液晶712、及び導電層713を有する。導電層713は基板701上に設けられる。導電層713上に一以上の絶縁層が設けられ、当該絶縁層上に、導電層711が設けられている。また、液晶712は、導電層711と基板705の間に位置する。導電層713は、配線723と電気的に接続され、共通電極として機能する。導電層711は、トランジスタ721と電気的に接続され、画素電極として機能する。配線723には、共通電位が与えられる。
【0364】
図31に示す液晶素子710は、横電界方式(例えば、FFSモード)が適用された液晶素子である。導電層711は、櫛歯状、またはスリットを有する上面形状を有する。液晶素子710は、導電層711と導電層713との間に生じる電界によって、液晶712の配向状態が制御される。
【0365】
また、導電層711、導電層713、及びこれらに挟持された一以上の絶縁層の積層構造により、保持容量として機能する容量素子790が形成されている。そのため、別途容量素子を設ける必要がなく、開口率を高めることができる。
【0366】
導電層711及び導電層713には、それぞれ可視光に対して透光性の材料、または反射性の材料を用いることができる。透光性の材料としては、例えば、インジウム、亜鉛、スズ等を含む酸化物材料を用いるとよい。反射性の材料としては、例えば、アルミニウム、銀等を含む材料を用いるとよい。
【0367】
導電層711または導電層713のいずれか一方、または両方に反射性の材料を用いると、表示装置700aは反射型の液晶表示装置となる。一方、導電層711及び導電層713の両方に透光性の材料を用いると、表示装置700aは透過型の液晶表示装置となる。反射型の液晶表示装置の場合、視認側に偏光板を設ける。一方、透過型の液晶表示装置の場合、液晶素子を挟むように、一対の偏光板を設ける。
【0368】
図31では、透過型の液晶表示装置の例を示している。基板701よりも外側に、偏光板755と、光源757が設けられ、基板705よりも外側に、偏光板756が設けられている。光源757は、バックライトとして機能する。
【0369】
基板705の、基板701側の面には、遮光層738及び着色層736が設けられている。また遮光層738及び着色層736を覆って、平坦化層として機能する絶縁層734が設けられている。絶縁層734の基板701側の面には、スペーサ727が設けられている。
【0370】
また、液晶712は、導電層711を覆う配向膜725と、絶縁層734を覆う配向膜726との間に位置している。なお、配向膜725及び配向膜726は、不要であれば設けなくてもよい。
【0371】
また、図31には図示しないが、基板705よりも外側に、位相差フィルム、反射防止フィルムなどの光学部材(光学フィルム)、保護フィルム、防汚フィルム等を適宜設けることができる。反射防止フィルムとしては、AG(Anti Glare)フィルム、AR(Anti Reflection)フィルムなどがある。
【0372】
液晶712には、サーモトロピック液晶、低分子液晶、高分子液晶、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、強誘電性液晶、反強誘電性液晶等を用いることができる。また、横電界方式を採用する場合、配向膜を用いないブルー相を示す液晶を用いてもよい。
【0373】
また、液晶素子のモードとしては、TN(Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Alignment)モード、IPS(In-Plane-Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード、ASM(Axially Symmetric aligned Micro-cell)モード、OCB(Optically Compensated Birefringence)モード、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モード、ゲストホストモードなどを用いることができる。
【0374】
また、液晶712に高分子分散型液晶や、高分子ネットワーク型液晶などを用いた、散乱型の液晶を用いることもできる。このとき、着色層736を設けずに白黒表示を行う構成としてもよいし、着色層736を用いてカラー表示を行う構成としてもよい。
【0375】
また、液晶素子の駆動方法として、継時加法混色法に基づいてカラー表示を行う、時間分割表示方式(フィールドシーケンシャル駆動方式ともいう)を適用してもよい。その場合、着色層736を設けない構成とすることができる。時間分割表示方式を用いた場合、例えばR(赤色)、G(緑色)、B(青色)のそれぞれの色を呈する副画素を設ける必要がないため、画素の開口率を向上させることや、精細度を高められるなどの利点がある。
【0376】
図31に示す表示装置700aは、画素電極として機能する導電層711や、共通電極として機能する導電層713の被形成面側に、平坦化層として機能する有機絶縁膜を設けない構成を有する。また、表示装置700aが有するトランジスタ721等として、作製工程を比較的短くできる、ボトムゲート型のトランジスタが適用されている。また配線704、接続端子703a等は、特別な工程を増やすことなく、トランジスタや液晶素子等の製造工程と共通の工程で作製することができる。このような構成とすることで、製造コストを低減でき、且つ、製造歩留りを高めることができ、信頼性の高い表示装置を安価で提供することが可能となる。
【0377】
本実施の形態で例示した構成例、及びそれらに対応する図面等は、少なくともその一部を他の構成例、または図面等と適宜組み合わせて実施することができる。
【0378】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0379】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置を有する表示装置について、図32A乃至図32Cを用いて説明を行う。
【0380】
図32Aに示す表示装置は、画素部502と、駆動回路部504と、保護回路506と、端子部507と、を有する。なお、保護回路506は、設けない構成としてもよい。
【0381】
画素部502や駆動回路部504が有するトランジスタに、本発明の一態様のトランジスタを適用することができる。また保護回路506にも、本発明の一態様のトランジスタを適用してもよい。
【0382】
画素部502は、X行Y列(X、Yはそれぞれ独立に2以上の自然数)に配置された複数の画素回路501を有する。各画素回路501は、それぞれ表示素子を駆動する回路を有する。
【0383】
駆動回路部504は、ゲート線GL_1乃至GL_Xに走査信号を出力するゲートドライバ504a、データ線DL_1乃至DL_Yにデータ信号を供給するソースドライバ504bなどの駆動回路を有する。ゲートドライバ504aは、少なくともシフトレジスタを有する構成とすればよい。またソースドライバ504bは、例えば複数のアナログスイッチなどを用いて構成される。また、シフトレジスタなどを用いてソースドライバ504bを構成してもよい。
【0384】
端子部507は、外部の回路から表示装置に電源、制御信号、及び画像信号等を入力するための端子が設けられた部分をいう。
【0385】
保護回路506は、自身が接続する配線に一定の範囲外の電位が与えられたときに、該配線と別の配線とを導通状態にする回路である。図32Aに示す保護回路506は、例えば、ゲートドライバ504aと画素回路501の間の配線であるゲート線GL、またはソースドライバ504bと画素回路501の間の配線であるデータ線DL等の各種配線に接続される。なお図32Aでは、保護回路506と画素回路501とを区別するため、保護回路506にハッチングを付している。
【0386】
また、ゲートドライバ504aとソースドライバ504bは、それぞれ画素部502と同じ基板上に設けられていてもよいし、ゲートドライバ回路またはソースドライバ回路が別途形成された基板(例えば、単結晶半導体または多結晶半導体で形成された駆動回路基板)をCOGやTAB(Tape Automated Bonding)によって基板に実装する構成としてもよい。
【0387】
図32B及び図32Cに、画素回路501に適用することのできる画素回路の構成の一例を示す。
【0388】
図32Bに示す画素回路501は、液晶素子570と、トランジスタ550と、容量素子560と、を有する。また画素回路501には、データ線DL_n、ゲート線GL_m、電位供給線VL等が接続されている。
【0389】
液晶素子570の一対の電極の一方の電位は、画素回路501の仕様に応じて適宜設定される。液晶素子570は、書き込まれるデータにより配向状態が設定される。なお、複数の画素回路501のそれぞれが有する液晶素子570の一対の電極の一方に共通の電位(コモン電位)を与えてもよい。また、各行の画素回路501の液晶素子570の一対の電極の一方に異なる電位を与えてもよい。
【0390】
また、図32Cに示す画素回路501は、トランジスタ552と、トランジスタ554と、容量素子562と、発光素子572と、を有する。また画素回路501には、データ線DL_n、ゲート線GL_m、電位供給線VL_a、及び電位供給線VL_b等が接続されている。
【0391】
なお、電位供給線VL_a及び電位供給線VL_bの一方には、高電源電位VDDが与えられ、他方には、低電源電位VSSが与えられる。トランジスタ554のゲートに与えられる電位に応じて、発光素子572に流れる電流が制御されることにより、発光素子572からの発光輝度が制御される。
【0392】
本実施の形態で例示した構成例、及びそれらに対応する図面等は、少なくともその一部を他の構成例、または図面等と適宜組み合わせて実施することができる。
【0393】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0394】
(実施の形態5)
以下では、画素に表示される階調を補正するためのメモリを備える画素回路と、これを有する表示装置について説明する。実施の形態1で例示した金属酸化物膜を有するトランジスタは、以下で例示する画素回路に用いられるトランジスタに適用することができる。
【0395】
[回路構成]
図33Aに、画素回路400の回路図を示す。画素回路400は、トランジスタM1、トランジスタM2、容量C1、及び回路401を有する。また画素回路400には、配線S1、配線S2、配線G1、及び配線G2が接続される。
【0396】
トランジスタM1は、ゲートが配線G1と、ソース及びドレインの一方が配線S1と、他方が容量C1の一方の電極と、それぞれ接続する。トランジスタM2は、ゲートが配線G2と、ソース及びドレインの一方が配線S2と、他方が容量C1の他方の電極、及び回路401と、それぞれ接続する。
【0397】
回路401は、少なくとも一の表示素子を含む回路である。表示素子としては様々な素子を用いることができるが、代表的には有機EL素子やLED素子などの発光素子、液晶素子、またはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子等を適用することができる。
【0398】
トランジスタM1と容量C1とを接続するノードをノードN1、トランジスタM2と回路401とを接続するノードをノードN2とする。
【0399】
画素回路400は、トランジスタM1をオフ状態とすることで、ノードN1の電位を保持することができる。また、トランジスタM2をオフ状態とすることで、ノードN2の電位を保持することができる。また、トランジスタM2をオフ状態とした状態で、トランジスタM1を介してノードN1に所定の電位を書き込むことで、容量C1を介した容量結合により、ノードN1の電位の変位に応じてノードN2の電位を変化させることができる。
【0400】
ここで、トランジスタM1、トランジスタM2のうちの一方または両方に、実施の形態1で例示した、酸化物半導体が適用されたトランジスタを適用することができる。そのため極めて低いオフ電流により、ノードN1及びノードN2の電位を長期間に亘って保持することができる。なお、各ノードの電位を保持する期間が短い場合(具体的には、フレーム周波数が30Hz以上である場合等)には、シリコン等の半導体を適用したトランジスタを用いてもよい。
【0401】
[駆動方法例]
続いて、図33Bを用いて、画素回路400の動作方法の一例を説明する。図33Bは、画素回路400の動作に係るタイミングチャートである。なおここでは説明を容易にするため、配線抵抗などの各種抵抗や、トランジスタや配線などの寄生容量、及びトランジスタのしきい値電圧などの影響は考慮しない。
【0402】
図33Bに示す動作では、1フレーム期間を期間T1と期間T2とに分ける。期間T1はノードN2に電位を書き込む期間であり、期間T2はノードN1に電位を書き込む期間である。
【0403】
〔期間T1〕
期間T1では、配線G1と配線G2の両方に、トランジスタをオン状態にする電位を与える。また、配線S1には定電位である電位Vrefを供給し、配線S2には第1データ電位Vを供給する。
【0404】
ノードN1には、トランジスタM1を介して配線S1から電位Vrefが与えられる。また、ノードN2には、トランジスタM2を介して配線S2から第1データ電位Vが与えられる。したがって、容量C1には電位差V-Vrefが保持された状態となる。
【0405】
〔期間T2〕
続いて期間T2では、配線G1にはトランジスタM1をオン状態とする電位を与え、配線G2にはトランジスタM2をオフ状態とする電位を与える。また、配線S1には第2データ電位Vdataを供給する。配線S2には所定の定電位を与える、またはフローティング状態としてもよい。
【0406】
ノードN1には、トランジスタM1を介して配線S1から第2データ電位Vdataが与えられる。このとき、容量C1による容量結合により、第2データ電位Vdataに応じてノードN2の電位が電位dVだけ変化する。すなわち、回路401には、第1データ電位Vと電位dVを足した電位が入力されることとなる。なお、図33Bでは電位dVが正の値であるように示しているが、負の値であってもよい。すなわち、第2データ電位Vdataが電位Vrefより低くてもよい。
【0407】
ここで、電位dVは、容量C1の容量値と、回路401の容量値によって概ね決定される。容量C1の容量値が回路401の容量値よりも十分に大きい場合、電位dVは第2データ電位Vdataに近い電位となる。
【0408】
このように、画素回路400は、2種類のデータ信号を組み合わせて表示素子を含む回路401に供給する電位を生成することができるため、画素回路400内で階調の補正を行うことが可能となる。
【0409】
また画素回路400は、配線S1及び配線S2に供給可能な最大電位を超える電位を生成することも可能となる。例えば発光素子を用いた場合では、ハイダイナミックレンジ(HDR)表示等を行うことができる。また、液晶素子を用いた場合では、オーバードライブ駆動等を実現できる。
【0410】
[適用例]
〔液晶素子を用いた例〕
図33Cに示す画素回路400LCは、回路401LCを有する。回路401LCは、液晶素子LCと、容量C2とを有する。
【0411】
液晶素子LCは、一方の電極がノードN2及び容量C2の一方の電極と、他方の電極が電位Vcom2が与えられる配線と接続する。容量C2は、他方の電極が電位Vcom1が与えられる配線と接続する。
【0412】
容量C2は保持容量として機能する。なお、容量C2は不要であれば省略することができる。
【0413】
画素回路400LCは、液晶素子LCに高い電圧を供給することができるため、例えばオーバードライブ駆動により高速な表示を実現すること、駆動電圧の高い液晶材料を適用することなどができる。また、配線S1または配線S2に補正信号を供給することで、使用温度や液晶素子LCの劣化状態等に応じて階調を補正することもできる。
【0414】
〔発光素子を用いた例〕
図33Dに示す画素回路400ELは、回路401ELを有する。回路401ELは、発光素子EL、トランジスタM3、及び容量C2を有する。
【0415】
トランジスタM3は、ゲートがノードN2及び容量C2の一方の電極と、ソース及びドレインの一方が電位Vが与えられる配線と、他方が発光素子ELの一方の電極と、それぞれ接続される。容量C2は、他方の電極が電位Vcomが与えられる配線と接続する。発光素子ELは、他方の電極が電位Vが与えられる配線と接続する。
【0416】
トランジスタM3は、発光素子ELに供給する電流を制御する機能を有する。容量C2は保持容量として機能する。容量C2は不要であれば省略することができる。
【0417】
なお、ここでは発光素子ELのアノード側がトランジスタM3と接続する構成を示しているが、カソード側にトランジスタM3を接続してもよい。そのとき、電位Vと電位Vの値を適宜変更することができる。
【0418】
画素回路400ELは、トランジスタM3のゲートに高い電位を与えることで、発光素子ELに大きな電流を流すことができるため、例えばHDR表示などを実現することができる。また、配線S1または配線S2に補正信号を供給することで、トランジスタM3や発光素子ELの電気特性のばらつきの補正を行うこともできる。
【0419】
なお、図33C図33Dで例示した回路に限られず、別途トランジスタや容量などを追加した構成としてもよい。
【0420】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0421】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様を用いて作製することができる表示モジュールについて説明する。
【0422】
図34Aに示す表示モジュール6000は、上部カバー6001と下部カバー6002との間に、FPC6005が接続された表示装置6006、フレーム6009、プリント基板6010、及びバッテリー6011を有する。
【0423】
例えば、本発明の一態様を用いて作製された表示装置を、表示装置6006に用いることができる。表示装置6006により、極めて消費電力の低い表示モジュールを実現することができる。
【0424】
上部カバー6001及び下部カバー6002は、表示装置6006のサイズに合わせて、形状や寸法を適宜変更することができる。
【0425】
表示装置6006はタッチパネルとしての機能を有していてもよい。
【0426】
フレーム6009は、表示装置6006の保護機能、プリント基板6010の動作により発生する電磁波を遮断する機能、放熱板としての機能等を有していてもよい。
【0427】
プリント基板6010は、電源回路、ビデオ信号及びクロック信号を出力するための信号処理回路、バッテリー制御回路等を有する
【0428】
図34Bは、光学式のタッチセンサを備える表示モジュール6000の断面概略図である。
【0429】
表示モジュール6000は、プリント基板6010に設けられた発光部6015及び受光部6016を有する。また、上部カバー6001と下部カバー6002により囲まれた領域に一対の導光部(導光部6017a、導光部6017b)を有する。
【0430】
表示装置6006は、フレーム6009を間に介してプリント基板6010やバッテリー6011と重ねて設けられている。表示装置6006とフレーム6009は、導光部6017a、導光部6017bに固定されている。
【0431】
発光部6015から発せられた光6018は、導光部6017aにより表示装置6006の上部を経由し、導光部6017bを通って受光部6016に達する。例えば指やスタイラスなどの被検知体により、光6018が遮られることにより、タッチ操作を検出することができる。
【0432】
発光部6015は、例えば表示装置6006の隣接する2辺に沿って複数設けられる。受光部6016は、発光部6015と対向する位置に複数設けられる。これにより、タッチ操作がなされた位置の情報を取得することができる。
【0433】
発光部6015は、例えばLED素子などの光源を用いることができ、特に、赤外線を発する光源を用いることが好ましい。受光部6016は、発光部6015が発する光を受光し、電気信号に変換する光電素子を用いることができる。好適には、赤外線を受光可能なフォトダイオードを用いることができる。
【0434】
光6018を透過する導光部6017a、導光部6017bにより、発光部6015と受光部6016とを表示装置6006の下側に配置することができ、外光が受光部6016に到達してタッチセンサが誤動作することを抑制できる。特に、可視光を吸収し、赤外線を透過する樹脂を用いると、タッチセンサの誤動作をより効果的に抑制できる。
【0435】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0436】
(実施の形態7)
本実施の形態では、本発明の一態様の表示装置を適用可能な、電子機器の例について説明する。
【0437】
図35Aに示す電子機器6500は、スマートフォンとして用いることのできる携帯情報端末機である。
【0438】
電子機器6500は、筐体6501、表示部6502、電源ボタン6503、ボタン6504、スピーカ6505、マイク6506、カメラ6507、及び光源6508等を有する。表示部6502はタッチパネル機能を備える。
【0439】
表示部6502に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。
【0440】
表示部6502は、切欠き部を有し、当該切欠き部に係合するように、カメラ6507及び光源6508が設けられている。このような構成とすることで、筐体6501に対する表示部6502の占有面積を大きくできる。
【0441】
また、図35Bには、表示部6502が開口を有し、開口の内部に、カメラ6507と、カメラ6507を囲う、環状の光源6509が配置されている例を示している。また、表示部6502の切欠き部と係合するように、スピーカ6505が設けられている。また、表示部6502を、被写体を照明する光源として用いてもよい。このような構成とすることで、筐体6501に対する表示部6502の占有面積をより大きくできる。
【0442】
図35Cは、筐体6501のマイク6506側の端部を含む断面概略図である。
【0443】
筐体6501の表示面側には透光性を有する保護部材6510が設けられ、筐体6501と保護部材6510に囲まれた空間内に、表示パネル6511、光学部材6512、タッチセンサパネル6513、プリント基板6517、バッテリー6518等が配置されている。
【0444】
保護部材6510には、表示パネル6511、光学部材6512、及びタッチセンサパネル6513が図示しない接着層により固定されている。
【0445】
また、表示部6502よりも外側の領域において、表示パネル6511の一部が折り返されている。また、当該折り返された部分に、FPC6515が接続されている。FPC6515には、IC6516が実装されている。またFPC6515は、プリント基板6517に設けられた端子に接続されている。
【0446】
表示パネル6511には本発明の一態様のフレキシブルディスプレイパネルを適用することができる。そのため、極めて軽量な電子機器を実現できる。また、表示パネル6511が極めて薄いため、電子機器の厚さを抑えつつ、大容量のバッテリー6518を搭載することもできる。また、表示パネル6511の一部を折り返して、画素部の裏側にFPC6515との接続部を配置することにより、狭額縁の電子機器を実現できる。
【0447】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0448】
(実施の形態8)
本実施の形態では、本発明の一態様を用いて作製された表示装置を備える電子機器について説明する。
【0449】
以下で例示する電子機器は、表示部に本発明の一態様の表示装置を備えるものである。したがって、高い解像度が実現された電子機器である。また高い解像度と、大きな画面が両立された電子機器とすることができる。
【0450】
本発明の一態様の電子機器の表示部には、例えばフルハイビジョン、4K2K、8K4K、16K8K、またはそれ以上の解像度を有する映像を表示させることができる。
【0451】
電子機器としては、例えば、テレビジョン装置、ノート型のパーソナルコンピュータ、モニタ装置、デジタルサイネージ、パチンコ機、ゲーム機などの比較的大きな画面を備える電子機器の他、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、などが挙げられる。
【0452】
本発明の一態様が適用された電子機器は、家屋やビルの内壁または外壁、自動車等の内装または外装等が有する平面または曲面に沿って組み込むことができる。
【0453】
図36Aは、ファインダー8100を取り付けた状態のカメラ8000の外観を示す図である。
【0454】
カメラ8000は、筐体8001、表示部8002、操作ボタン8003、シャッターボタン8004等を有する。またカメラ8000には、着脱可能なレンズ8006が取り付けられている。
【0455】
なおカメラ8000は、レンズ8006と筐体とが一体となっていてもよい。
【0456】
カメラ8000は、シャッターボタン8004を押す、またはタッチパネルとして機能する表示部8002をタッチすることにより撮像することができる。
【0457】
筐体8001は、電極を有するマウントを有し、ファインダー8100のほか、ストロボ装置等を接続することができる。
【0458】
ファインダー8100は、筐体8101、表示部8102、ボタン8103等を有する。
【0459】
筐体8101は、カメラ8000のマウントと係合するマウントにより、カメラ8000に取り付けられている。ファインダー8100はカメラ8000から受信した映像等を表示部8102に表示させることができる。
【0460】
ボタン8103は、電源ボタン等としての機能を有する。
【0461】
カメラ8000の表示部8002、及びファインダー8100の表示部8102に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。なお、ファインダーが内蔵されたカメラ8000であってもよい。
【0462】
図36Bは、ヘッドマウントディスプレイ8200の外観を示す図である。
【0463】
ヘッドマウントディスプレイ8200は、装着部8201、レンズ8202、本体8203、表示部8204、ケーブル8205等を有している。また装着部8201には、バッテリー8206が内蔵されている。
【0464】
ケーブル8205は、バッテリー8206から本体8203に電力を供給する。本体8203は無線受信機等を備え、受信した映像情報を表示部8204に表示させることができる。また、本体8203はカメラを備え、使用者の眼球やまぶたの動きの情報を入力手段として用いることができる。
【0465】
また、装着部8201には、使用者に触れる位置に、使用者の眼球の動きに伴って流れる電流を検知可能な複数の電極が設けられ、視線を認識する機能を有していてもよい。また、当該電極に流れる電流により、使用者の脈拍をモニタする機能を有していてもよい。また、装着部8201には、温度センサ、圧力センサ、加速度センサ等の各種センサを有していてもよく、使用者の生体情報を表示部8204に表示する機能や、使用者の頭部の動きに合わせて表示部8204に表示する映像を変化させる機能を有していてもよい。
【0466】
表示部8204に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。
【0467】
図36C図36D図36Eは、ヘッドマウントディスプレイ8300の外観を示す図である。ヘッドマウントディスプレイ8300は、筐体8301と、表示部8302と、バンド状の固定具8304と、一対のレンズ8305と、を有する。
【0468】
使用者は、レンズ8305を通して、表示部8302の表示を視認することができる。なお、表示部8302を湾曲して配置させると、使用者が高い臨場感を感じることができるため好ましい。また、表示部8302の異なる領域に表示された別の画像を、レンズ8305を通して視認することで、視差を用いた3次元表示等を行うこともできる。なお、表示部8302を1つ設ける構成に限られず、表示部8302を2つ設け、使用者の片方の目につき1つの表示部を配置してもよい。
【0469】
なお、表示部8302に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。本発明の一態様の半導体装置を有する表示装置は、極めて精細度が高いため、図36Eのようにレンズ8305を用いて拡大したとしても、使用者に画素が視認されることなく、より現実感の高い映像を表示することができる。
【0470】
図37A乃至図37Gに示す電子機器は、筐体9000、表示部9001、スピーカ9003、操作キー9005(電源スイッチ、又は操作スイッチを含む)、接続端子9006、センサ9007(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい又は赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン9008、等を有する。
【0471】
図37A乃至図37Gに示す電子機器は、様々な機能を有する。例えば、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示部に表示する機能、タッチパネル機能、カレンダー、日付または時刻などを表示する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、無線通信機能、記録媒体に記録されているプログラムまたはデータを読み出して処理する機能、等を有することができる。なお、電子機器の機能はこれらに限られず、様々な機能を有することができる。電子機器は、複数の表示部を有していてもよい。また、電子機器にカメラ等を設け、静止画や動画を撮影し、記録媒体(外部またはカメラに内蔵)に保存する機能、撮影した画像を表示部に表示する機能、等を有していてもよい。
【0472】
図37A乃至図37Gに示す電子機器の詳細について、以下説明を行う。
【0473】
図37Aは、テレビジョン装置9100を示す斜視図である。テレビジョン装置9100は、大画面、例えば、50インチ以上、または100インチ以上の表示部9001を組み込むことが可能である。
【0474】
図37Bは、携帯情報端末9101を示す斜視図である。携帯情報端末9101は、例えばスマートフォンとして用いることができる。なお、携帯情報端末9101は、スピーカ9003、接続端子9006、センサ9007等を設けてもよい。また、携帯情報端末9101は、文字や画像情報をその複数の面に表示することができる。図37Bでは3つのアイコン9050を表示した例を示している。また、破線の矩形で示す情報9051を表示部9001の他の面に表示することもできる。情報9051の一例としては、電子メール、SNS、電話などの着信の通知、電子メールやSNSなどの題名、送信者名、日時、時刻、バッテリーの残量、アンテナ受信の強度などがある。または、情報9051が表示されている位置にはアイコン9050などを表示してもよい。
【0475】
図37Cは、携帯情報端末9102を示す斜視図である。携帯情報端末9102は、表示部9001の3面以上に情報を表示する機能を有する。ここでは、情報9052、情報9053、情報9054がそれぞれ異なる面に表示されている例を示す。例えば使用者は、洋服の胸ポケットに携帯情報端末9102を収納した状態で、携帯情報端末9102の上方から観察できる位置に表示された情報9053を確認することもできる。使用者は、携帯情報端末9102をポケットから取り出すことなく表示を確認し、例えば電話を受けるか否かを判断できる。
【0476】
図37Dは、腕時計型の携帯情報端末9200を示す斜視図である。携帯情報端末9200は、例えばスマートウォッチとして用いることができる。また、表示部9001はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、携帯情報端末9200は、例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。また、携帯情報端末9200は、接続端子9006により、他の情報端末と相互にデータ伝送を行うことや、充電を行うこともできる。なお、充電動作は無線給電により行ってもよい。
【0477】
図37E図37F図37Gは、折り畳み可能な携帯情報端末9201を示す斜視図である。また、図37Eは携帯情報端末9201を展開した状態、図37Gは折り畳んだ状態、図37F図37E図37Gの一方から他方に変化する途中の状態の斜視図である。携帯情報端末9201は、折り畳んだ状態では可搬性に優れ、展開した状態では継ぎ目のない広い表示領域により表示の一覧性に優れる。携帯情報端末9201が有する表示部9001は、ヒンジ9055によって連結された3つの筐体9000に支持されている。例えば、表示部9001は、曲率半径1mm以上150mm以下で曲げることができる。
【0478】
図38Aにテレビジョン装置の一例を示す。テレビジョン装置7100は、筐体7101に表示部7500が組み込まれている。ここでは、スタンド7103により筐体7101を支持した構成を示している。
【0479】
図38Aに示すテレビジョン装置7100の操作は、筐体7101が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作機7111により行うことができる。または、表示部7500にタッチパネルを適用し、これに触れることでテレビジョン装置7100を操作してもよい。リモコン操作機7111は、操作ボタンの他に表示部を有していてもよい。
【0480】
なお、テレビジョン装置7100は、テレビ放送の受信機や、ネットワーク接続のための通信装置を有していてもよい。
【0481】
図38Bに、ノート型パーソナルコンピュータ7200を示す。ノート型パーソナルコンピュータ7200は、筐体7211、キーボード7212、ポインティングデバイス7213、外部接続ポート7214等を有する。筐体7211に、表示部7500が組み込まれている。
【0482】
図38C図38Dに、デジタルサイネージ(Digital Signage:電子看板)の一例を示す。
【0483】
図38Cに示すデジタルサイネージ7300は、筐体7301、表示部7500、及びスピーカ7303等を有する。さらに、LEDランプ、操作キー(電源スイッチ、または操作スイッチを含む)、接続端子、各種センサ、マイクロフォン等を有することができる。
【0484】
また、図38Dは円柱状の柱7401に取り付けられたデジタルサイネージ7400である。デジタルサイネージ7400は、柱7401の曲面に沿って設けられた表示部7500を有する。
【0485】
表示部7500が広いほど、一度に提供できる情報量を増やすことができ、また人の目につきやすいため、例えば広告の宣伝効果を高める効果を奏する。
【0486】
表示部7500にタッチパネルを適用し、使用者が操作できる構成とすると好ましい。これにより、広告用途だけでなく、路線情報や交通情報、商用施設の案内情報など、使用者が求める情報を提供するための用途にも用いることができる。
【0487】
また、図38C図38Dに示すように、デジタルサイネージ7300またはデジタルサイネージ7400は、ユーザが所持するスマートフォン等の情報端末機7311と無線通信により連携可能であることが好ましい。例えば、表示部7500に表示される広告の情報を情報端末機7311の画面に表示させることや、情報端末機7311を操作することで、表示部7500の表示を切り替えることができる。
【0488】
また、デジタルサイネージ7300またはデジタルサイネージ7400に、情報端末機7311を操作手段(コントローラ)としたゲームを実行させることもできる。これにより、不特定多数のユーザが同時にゲームに参加し、楽しむことができる。
【0489】
図38A乃至図38Dにおける表示部7500に、本発明の一態様の表示装置を適用することができる。
【0490】
本実施の形態の電子機器は表示部を有する構成としたが、表示部を有さない電子機器にも本発明の一態様を適用することができる。
【実施例0491】
本実施例では、本発明の一態様の金属酸化物膜を適用したトランジスタを作製し、その電気特性を評価した結果について説明する。
【0492】
[試料の作製]
作製したトランジスタの構成は、実施の形態2の構成例2-3及び図27Aで例示したトランジスタ350Bを援用できる。
【0493】
まず、ガラス基板上に厚さ約100nmのタングステン膜をスパッタリング法により形成し、これを加工して第1のゲート電極を得た。続いて、第1のゲート絶縁層として、窒化シリコン膜と酸化窒化シリコン膜とを積層した、厚さ約300nmの積層膜を、プラズマCVD法により形成した。
【0494】
続いて、第1のゲート絶縁層上に、厚さ約30nmの金属酸化物膜を成膜し、これを加工して半導体層を得た。金属酸化物膜は、金属元素の原子数比がIn:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]である金属酸化物ターゲットを用いたスパッタリング法により形成した。成膜ガスとしては、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを用いた。ここで、金属酸化物膜の成膜条件を異ならせた4つの試料(Sample B1乃至Sample B4)を作製した。
【0495】
Sample B1の金属酸化物膜は、成膜ガスの総流量に対する酸素ガスの流量の割合(酸素流量比)を10%とした条件で成膜した。また成膜は、基板を加熱することなく行った。
【0496】
Sample B2の金属酸化物膜は、酸素流量比を30%とした条件で成膜した。また成膜は、基板を加熱することなく行った。
【0497】
Sample B3の金属酸化物膜は、酸素流量比を40%とした条件で成膜した。また成膜は、基板を加熱することなく行った。
【0498】
Sample B4の金属酸化物膜は、酸素流量比を50%とした条件で成膜した。また成膜は、基板を加熱することなく行った。
【0499】
Sample B1乃至Sample B4の金属酸化物膜は、それぞれ上記実施の形態1で示したsample A1乃至sample A4の金属酸化物膜と同じ条件で形成したものである。
【0500】
半導体層の形成後、窒素ガス雰囲気下にて350℃、1時間の加熱処理を行った後、窒素ガスと酸素ガスの混合雰囲気下にて350℃、1時間の加熱処理を行った。
【0501】
続いて、第2のゲート絶縁層として、厚さ約150nmの酸化窒化シリコン膜をプラズマCVD法により成膜した。
【0502】
続いて、第2のゲート絶縁層上に、スパッタリング法により厚さ約20nmの金属酸化物膜を成膜した。金属酸化物膜の成膜は、金属元素の原子数比がIn:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]である金属酸化物ターゲットを用い、酸素を含む雰囲気下で行った。その後、窒素を含む雰囲気下で350℃、1時間の加熱処理を行った。
【0503】
続いて、金属酸化物膜上に厚さ約100nmのモリブデン膜をスパッタリング法により成膜した。その後、モリブデン膜と金属酸化物膜の一部をエッチングにより除去し、第2のゲート電極と、金属酸化物層を得た。
【0504】
続いて、第2のゲート電極をマスクとして、不純物元素としてホウ素の添加処理を行った。不純物の添加は、プラズマイオンドーピング装置を用いた。ホウ素を供給するためのガスにはBガスを用いた。
【0505】
続いて、トランジスタを覆う保護絶縁層として、厚さ約300nmの酸化窒化シリコン膜をプラズマCVD法により成膜した。その後、保護絶縁層及び第2のゲート絶縁層の一部をエッチングにより開口し、モリブデン膜をスパッタリング法により成膜した後、これを加工してソース電極及びドレイン電極を得た。その後、平坦化層として厚さ約1.5μmのアクリル膜を形成し、窒素雰囲気下にて250℃、1時間の加熱処理を行った。
【0506】
以上の工程により、それぞれガラス基板上に形成されたトランジスタを有する、Sample B1乃至Sample B4を得た。
【0507】
[トランジスタのId-Vg特性]
続いて、上記で作製したトランジスタのId-Vg特性を測定した。
【0508】
トランジスタのId-Vg特性の測定条件としては、ゲート電極(第1のゲート電極及び第2のゲート電極)に印加する電圧(ゲート電圧(Vg)ともいう)を、-15Vから+20Vまで0.25V刻みで印加した。また、ソース電極に印加する電圧(ソース電圧(Vs)ともいう)を0Vとし、ドレイン電極に印加する電圧(ドレイン電圧(Vd)ともいう)を、0.1V及び10Vとした。
【0509】
また、測定したトランジスタは、設計値がチャネル長2μm、チャネル幅3μmのトランジスタとした。
【0510】
図39A乃至図39Dに、Sample B1乃至Sample B4のId-Vg特性を示している。各図において、横軸はゲート電圧(Vg)、縦軸はドレイン電流(Id)を示している。また各図には、ドレイン電圧(Vd)が10VのときのId-Vg特性から算出した電界効果移動度(μFE)を破線で示している。
【0511】
図39A乃至図39Dに示すように、いずれの試料についても良好な電気特性が得られることが確認できた。このことから、本発明の一態様の金属酸化物膜を用いたトランジスタは、金属酸化物膜の成膜条件(特に酸素流量比)にばらつきが生じたとしても、電気特性への影響は軽微であることが示唆され、量産性に優れることが確認できた。
【0512】
[信頼性の評価]
続いて、上記Sample B1乃至Sample B4について、信頼性の評価を行った。信頼性の評価として、ゲートバイアスストレス試験(GBT試験)を行った。GBT試験は、トランジスタが形成されている基板を60℃に保持し、トランジスタのソースとドレインに0V、ゲートには20Vまたは-20Vの電圧を印加し、この状態を一時間保持した。ここでは特に、PBTS試験及びNBTIS試験の結果について示す。なお、NBTISにおける光の照射は、約3400lxの白色LED光を用いた。また、ここで測定したトランジスタは、設計値がチャネル長2μm、チャネル幅3μmのトランジスタとした。
【0513】
図40に、Sample B1乃至Sample B4における、PBTS試験及びNBTIS試験前後での、しきい値電圧の変動量(ΔVth)を示す。また一例として、図41A乃至図41Dには、Sample B1及びSample B4における、GBT試験前後でのId-Vg特性の推移を示している。図41AはSample B1のPBTS試験、図41BはSample B4のPBTS試験、図41CはSample B1のNBTIS試験、図41DはSample B4のNBTIS試験の結果について、それぞれ示している。
【0514】
図40、及び図41A乃至図41Dに示すように、いずれの試料についても、しきい値電圧の変動が小さく、信頼性の高いトランジスタであることが確認できた。
【0515】
以上の結果から、本発明の一態様の金属酸化物膜を適用したトランジスタは、短いチャネル長であっても良好なトランジスタ特性を示し、また、信頼性の高いトランジスタであることが確認できた。
【実施例0516】
本実施例では、本発明の一態様の金属酸化物膜の組成について調査した結果について説明する。
【0517】
[試料の作製]
本実施例で用いた試料は、ガラス基板上にスパッタリング法により金属酸化物膜を成膜したものである。金属酸化物膜の成膜は、金属元素の原子数比がIn:Ga:Zn=4:2:4.1[原子数比]である金属酸化物ターゲットを用いた。成膜ガスとしては、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを用いた。また、金属酸化物膜の成膜は、基板を加熱することなく行った。ここで、金属酸化物膜の成膜条件を異ならせた3つの試料(Sample C1乃至Sample C3)を作製した。
【0518】
Sample C1の金属酸化物膜は、成膜ガスの総流量に対する酸素ガスの流量の割合(酸素流量比)を10%とした条件で成膜した。Sample C2の金属酸化物膜は、酸素流量比を30%とした条件で成膜した。Sample C3の金属酸化物膜は、酸素流量比を50%とした条件で成膜した。
【0519】
[HAADF-STEM観察及びEDX分析]
作製した3つの試料について、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM:High-Angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopy)による観察と、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による組成分析を行った。
【0520】
図42に、各試料におけるHAADF-STEM像と、In、Ga、及びZnに対するEDXマッピング像をそれぞれ示す。各試料において、HAADF-STEM像と、EDXマッピング像とは、同一の領域を観察した結果である。
【0521】
HAADF-STEM像においては、原子番号の2乗に比例したコントラストが得られるため、明るい領域ほど重い原子が存在していることを示唆することになる。また、EDXマッピング像では、明るい色の領域は、該当する元素が多く存在する領域に対応し、暗い色の領域は、該当する元素が少ない領域に対応する。
【0522】
図42のEDXマッピング像に示すように、Sample C1、Sample C2、及びSample C3のいずれについても、濃淡が確認された。このことから、In、Ga、及びZnが、数ナノメートルの範囲で、均一に存在していないことが確認できた。
【0523】
[組成の定量分析]
続いて、各試料について、上記InのEDXマッピング像における明るい領域(In-rich領域)、及び、暗い領域(In-poor領域)、ならびにGaのEDXマッピング像における明るい領域(Ga-rich領域)、及び、暗い領域(Ga-poor領域)のそれぞれについて、In、Ga、及びZnについて定量分析を行った。定量分析は、各5ポイントについて行った。
【0524】
図43A乃至図43Dに、Sample C1の定量分析の結果を示す。図43AはIn-rich領域、図43BはIn-poor領域、図43CはGa-rich領域、図43Dは、Ga-poor領域についての分析結果を、それぞれ示す。各図において、横軸はIn、Ga、及びZnの組成の和を100%としたときの各元素の割合であり、5つの測定ポイントについて棒グラフで示している。
【0525】
図43B及び図43Cに着目すると、GaがInよりも多く検出されており、また、ターゲットの組成(In:Ga:Zn=4:2:4.1)と比較しても、Gaの割合が多い領域が存在することが分かる。なお、図43BのIn-poor領域でInが検出されていることは、測定サンプルの厚さが約30nmであり、奥行き方向に存在するInが検出されている結果であると考えられる。
【0526】
また、図43A及び図43Dに着目すると、Gaの組成が極めて小さい、またはGaが検出されない箇所も見られた。Gaが検出されない領域には、酸化インジウムまたは、インジウム亜鉛酸化物のような状態が存在していると推察される。
【0527】
以上の結果からも、実際に成膜された金属酸化物膜は、ターゲットの組成を反映した均一な膜ではなく、異なる組成の領域が分布した膜であることが確認できた。
【0528】
なお、ここではSample C1の結果のみを示したが、Sample C2、Sample C3についても、同様の傾向がみられた。
【0529】
[ヒストグラムによる解析]
続いて、図42に示す各EDXマッピング像全体について定量分析を行い、得られたIn、Ga、及びZnそれぞれの組成について、ヒストグラムを用いた解析を行った。
【0530】
図44A図44B、及び図44Cに、それぞれSample C1、Sample C2、Sample C3における、ヒストグラムを示す。各図において、横軸は組成を示し、縦軸は頻度を示している。また、各要素を見やすくするため、各図には、ピークの頂点近傍に、元素名を明示している。
【0531】
図44A乃至図44Cに示すように、いずれの試料においても組成の分布には大きな差は認められないことが確認できた。また、いずれの試料においても、Gaが検出されない領域(Gaの組成が0である領域)が存在することも確認できた。以上のことから、酸素流量比を異ならせることで形成した、結晶性の異なる複数の金属酸化物膜において、組成の分布に大きな違いは見られないことが確認できた。
【0532】
以上の結果から、本発明の一態様の金属酸化物膜は、均一な膜ではなく、金属酸化物膜を構成する金属元素が不均一に分布した膜であり、コンポジットのように観測されることが確認できた。
【符号の説明】
【0533】
10:基板、11:金属酸化物膜、12a、12b:領域、20:ダイレクトスポット、20a、20b、20c、20d:電子線回折パターン、21:第1のスポット、22:第2のスポット、30、30a、30b、30c、30r:ヒストグラム、31:第1の領域、32:第2の領域、41、42:ピーク、300、300A:トランジスタ、302:基板、304:導電層、306:絶縁層、308:半導体層、312a、312b、313a、313b:導電層、314、316:絶縁層、320:導電層、342:開口部、350、350A、350B、350C:トランジスタ、352:基板、353、353a、353b:絶縁層、356:導電層、358:半導体層、358n:低抵抗領域、360:絶縁層、362:導電層、364:金属酸化物層、366、368:絶縁層、370a、370b:導電層、391a、391b、392:開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図19
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図39
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図44