(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149567
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】硫酸鉛被膜除去装置、硫酸鉛被膜除去システム、及び、硫酸鉛被膜除去方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
H01M10/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024123337
(22)【出願日】2024-07-30
(62)【分割の表示】P 2024502606の分割
【原出願日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2023010376
(32)【優先日】2023-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322007453
【氏名又は名称】株式会社アルファブライト
(71)【出願人】
【識別番号】596139122
【氏名又は名称】株式会社パワーサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】久保 高士
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 克史
(57)【要約】
【課題】低消費電力で、かつ、鉛蓄電池の電極にダメージを与えることのない硫酸鉛被膜除去装置を提供することを課題とする。
【解決手段】硫酸鉛被膜除去装置、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去するASICによって実現される硫酸鉛被膜除去装置において、前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する特定用途向けディジタル集積回路によって実現される硫酸鉛被膜除去装置において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、
を備える、硫酸鉛被膜除去装置。
【請求項2】
前記ディジタル集積回路は、
PTAT信号を生成する基準電源回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTATに基づいてCTAT信号を生成する定電流回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTAT信号と前記定電流回路によって生成されるCTAT信号との合流信号の出力のオン/オフの切り替えを制御する制御回路と、
前記制御回路によって出力のオン/オフの切り替え制御がされる合流電流に基づいて前記鉛蓄電池の第1電極端子と第2電極端子との電気的接続をスイッチングする端子間スイッチ回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTAT信号と前記定電流回路によって生成されるCTAT信号とに基づくパルス信号を生成する発振回路と、
前記発振回路によって生成されるパルス信号を分周する分周回路と、
前記分周回路によって分周されるパルス信号に基づいて電源電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、
前記レベルシフト回路によってレベルシフトされる電圧に基づいて後記パルスドライバ回路の駆動信号を生成する駆動回路と、
前記分周回路によって分周されるパルス信号に基づいて前記駆動信号の出力の有無を切り替える駆動スイッチ回路と、
前記駆動スイッチ回路によって出力の有無が切り替えられる駆動信号に基づいて前記除去信号を生成するためのパルスドライバ回路と、
を備える、請求項1記載の硫酸鉛被膜除去装置。
【請求項3】
請求項1記載の硫酸鉛被膜除去装置と、
前記硫酸鉛被膜除去装置が接続される鉛蓄電池の性能を示す計測を行う計測装置と、
前記計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置と、
を備える硫酸鉛被膜除去システム。
【請求項4】
鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する特定用途向けディジタル集積回路によって実現される硫酸鉛被膜除去装置を用いた硫酸鉛被膜除去方法において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成するステップと、
前記生成した除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給するステップと、
を含む、硫酸鉛被膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸鉛被膜除去装置、硫酸鉛被膜除去システム、及び、硫酸鉛被膜除去方法に関し、特に、鉛蓄電池の負極電極で生じる硫酸鉛被膜を除去する、硫酸鉛被膜除去装置、硫酸鉛被膜除去システム、及び、硫酸鉛被膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉛蓄電池の正極電極及び負極電極に発生する硫酸鉛被膜の除去時における発熱を抑制しつつ、硫酸鉛被膜の除去に要する時間の短縮させることを課題とした硫酸鉛被膜除去装置が開示されている。この硫酸鉛被膜除去装置は、パルス幅1.6μsec(16000nsec)、周波数20000Hzのパルス波形駆動信号を用いてスイッチング回路を駆動し、スイッチング回路がオンすると、抵抗R1を介して500mAの電流がバッテリ(鉛蓄電池)から取り出され、スイッチング回路がオフすると、電流の取り出しは停止し、スイッチング回路がオフすると、鉛蓄電池に対して逆起電力および500mAのネガティブなスパイク状の逆電流が供給され、この電流が鉛蓄電池の電極に作用することによって、鉛蓄電池の電極に析出した硫酸鉛被膜が除去される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置は、相対的に高消費電力であり、SDGs(Sustainable Development Goals)に掲げられているエネルギー目標を達成するためには、低消費電力化が不可欠である。
【0005】
また、特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置は、鉛蓄電池の電極に供給される逆電流の電流量乃至レベルが相対的に過多乃至高く、鉛蓄電池の電極にダメージを与えていた。特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置を用いることで、鉛蓄電池の寿命が短くなるのでは本末転倒である。
【0006】
さらに、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜の除去効率を向上するためには、鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて生成する硫酸鉛被膜の除去信号の電流のピーク値を高くすることが望ましいが、ピーク値を高くすると硫酸鉛被膜除去装置の消費電力も高くなってしまう。そして、発明者らの知見によれば、硫酸鉛被膜除去装置をアナログ回路で構成した場合、硫酸鉛被膜除去装置の消費電力を踏まえた当該ピーク値の上限はせいぜい1000mAであった。
【0007】
そこで、本発明は、硫酸鉛被膜除去装置をアナログ回路で構成するというアプローチを採用せずに、硫酸鉛被膜除去装置の消費電力を許容範囲内として、硫酸鉛被膜の除去信号のピーク値を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去するための除去信号について誠意研究した結果、そのピーク値が相対的に大きいほど、そのパルス幅が相対的に広いほど、その周波数が相対的に高いほど、硫酸鉛被膜の除去に寄与し、加えて、硫酸鉛被膜除去装置を特定用途向けディジタル集積回路によって実現すると、硫酸鉛被膜の除去信号のピーク値を高められることを見出した。
【0009】
具体的には、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する特定用途向けディジタル集積回路によって実現される硫酸鉛被膜除去装置において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、
を備える。
【0010】
なお、前記ディジタル集積回路は、
PTAT(Proportional To Absolute Temperature)信号を生成する基準電源回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTATに基づいてCTAT(Complementary To Absolute Temperature)信号を生成する定電流回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTAT信号と前記定電流回路によって生成されるCTAT信号との合流信号の出力のオン/オフの切り替えを制御する制御回路と、
前記制御回路によって出力のオン/オフの切り替え制御がされる合流電流に基づいて前記鉛蓄電池の第1電極端子と第2電極端子との電気的接続をスイッチングする端子間スイッチ回路と、
前記基準電源回路によって生成されるPTAT信号と前記定電流回路によって生成されるCTAT信号とに基づくパルス信号を生成する発振回路と、
前記発振回路によって生成されるパルス信号を分周する分周回路と、
前記分周回路によって分周されるパルス信号に基づいて電源電圧のレベルをシフトするレベルシフト回路と、
前記レベルシフト回路によってレベルシフトされる電圧に基づいて後記パルスドライバ回路の駆動信号を生成する駆動回路と、
前記分周回路によって分周されるパルス信号に基づいて前記駆動信号の出力の有無を切り替える駆動スイッチ回路と、
前記駆動スイッチ回路によって出力の有無が切り替えられる駆動信号に基づいて前記除去信号を生成するためのパルスドライバ回路と、
を備えることができる。
【0011】
また、本発明は、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する特定用途向けディジタル集積回路によって実現される硫酸鉛被膜除去装置を用いた硫酸鉛被膜除去方法において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成するステップと、
前記生成した除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給するステップと、
を含む。
【0012】
ここで、例えば、パルス幅及び周波数の条件を上記範囲として、ピーク値を550mA~1000mAとした場合には、良い結果が得られることを確認した。具体的には、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0013】
同様に、周波数及びピーク値の条件を上記範囲として、パルス幅を5nsec~100nsecとした場合にも、良い結果が得られることを確認した。この場合にも、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0014】
さらに、パルス幅及びピーク値の条件を上記範囲として、周波数を5kHz~50kHzとした場合にも、良い結果が得られることを確認した。この場合にも、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0015】
したがって、本発明は、除去信号のピーク値、パルス幅、及び、周波数を最適化することによって、低消費電力で、かつ、鉛蓄電池の電極にダメージを与えることのない硫酸鉛被膜除去装置を提供することができる。
【0016】
また、本発明の硫酸鉛被膜除去装置は、その小型化という副次的効果も得られた。特許文献1の特許権者の販売品の大きさは、筐体ベースで、約11cm×約5.5cm×約2cmであるが、これを、約3.5cm×約6.0cm×約1.5cmにまで小型化できた。
【0017】
さらに、本発明の硫酸鉛被膜除去装置は、低消費電力化を図ることによって特許文献1が課題としていた温度上昇の抑制効果も大幅に上回る硫酸鉛被膜除去装置を実現できた。
【0018】
さらにまた、本発明の硫酸鉛被膜除去システムは、
前記硫酸鉛被膜除去装置と、
前記硫酸鉛被膜除去装置が接続される鉛蓄電池の性能を示す計測を行う計測装置と、
前記計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置と、
を備える。
【0019】
本発明の硫酸鉛被膜除去システムによれば、山間部などで用いられる通信基地局の鉛蓄電池に生じる硫酸鉛被膜除去をすることに加えて、例えば遠隔地にいる管理者に鉛蓄電池の交換目安の判断材料となる計測結果を送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10の概念的な使用例を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す硫酸鉛被膜除去装置10の回路構成を一部機能的に示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す硫酸鉛被膜除去装置10の回路トポロジーを示す図である。
【
図4】
図1に示すように硫酸鉛被膜除去装置10を鉛蓄電池20に接続した状態で計測した「ピーク電流値」の計測結果、及び、その計測結果と対比するためにアナログ回路によって実現される比較例の硫酸鉛被膜除去装置を鉛蓄電池20に接続した状態で計測した「ピーク電流値」に相当する電圧値及び電流値の計測結果を示す図である。
【
図5】車両等に搭載されている鉛蓄電池20に対する硫酸鉛被膜除去装置10の回復前後の鉛蓄電池電圧値等の計測結果を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
10 硫酸鉛被膜除去装置
11 基準電源回路
12 定電流回路
13A 制御回路
13B 端子間スイッチ回路
14 発振回路
15 第1分周回路
16 第2分周回路
17 レベルシフト回路
18A 駆動回路
18B パルスドライバ回路
19 駆動スイッチ回路
100A 基板正極端子
100B 基板負極端子
110 電源ユニット
120 ドライブ抵抗
130,140 分圧抵抗
150 スイッチング回路
160 信号生成部
170 パルスドライバ回路
【発明の実施の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置、方法及びシステムについて、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10の概念的な使用例を示す説明図である。
図1には、硫酸鉛被膜除去装置10と鉛蓄電池20とが、接続線40及び接続線50によって接続され、また、鉛蓄電池20と電源30とが、接続線60及び接続線70によって接続された状態を示している。
【0024】
なお、硫酸鉛被膜除去装置10を実際に使用する際にユーザが用意するものは、硫酸鉛被膜除去装置10と接続線40及び接続線50とに留まり、その他のものを態々用意するというわけではない点に留意されたい。換言すると、鉛蓄電池20及び電源30については、自動車等に搭載されているものを意図している。
【0025】
硫酸鉛被膜除去装置10は、特定用途向けディジタル集積回路(Application Specific Integrated Circuit以下、「ASIC」という。)によって実現されている。その具体的な回路構成については、
図2,
図3を用いて後述する。
【0026】
鉛蓄電池20は、乗用車などの自動車、ゴルフカートなどの電動車両、フォークリフトなどの作業車、防災無線などの無線機に搭載され、例えば自動車の場合でいうと、そのエンジン始動の他に、ライトなどの電装品への電力供給、各種コンピュータ機器へのバックアップをするなどの役割を担っている。鉛蓄電池20自体は、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10の構成等とは無関係であるので、ここでは詳述しない。
【0027】
電源30は、鉛蓄電池20に対する電力供給源であり、例えば自動車の場合でいうと、オルタネータに相当する。電源30自体は、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10の構成等とは無関係であるので、ここでは詳述しない。
【0028】
接続線40は、硫酸鉛被膜除去装置10の基板正極端子100A(
図2)と鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22とを接続するものである。接続線50は、硫酸鉛被膜除去装置10の基板負極端子100B(
図2)と鉛蓄電池20の鉛蓄電池負極端子24とを接続するものである。接続線40,50は、硫酸鉛被膜除去装置10と鉛蓄電池20とを電気的に接続できるものであれば、特段の制限なく用いることができる。
【0029】
接続線60は、鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22と電源10の正極端子(図示せず)とを接続するものである。接続線70は、鉛蓄電池20の鉛蓄電池負極端子24と電源10の負極端子(図示せず)とを接続するものである。接続線60,70は、鉛蓄電池20と電源10とを電気的に接続できるものであれば、特段の制限なく用いることができる。
【0030】
図2は、
図1に示す硫酸鉛被膜除去装置10の回路構成を一部機能的に示すブロック図である。硫酸鉛被膜除去装置10は、既述のとおりASICで実現されるが、その一部を機能的に示すと、以下説明する、基板正極端子100A及び基板負極端子100Bと、電源ユニット110と、ドライブ抵抗120と、分圧抵抗130,140と、スイッチング回路150と、信号生成部160と、パルスドライバ回路170と、を備えるというように整理できる。
【0031】
基板正極端子100A及び基板負極端子100Bは、鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22及び鉛蓄電池負極端子24に対して、接続線40及び接続線50を通じてそれぞれ電気的に接続されるものである。基板正極端子100Aは、ドライブ抵抗120と分圧抵抗130,140及び電源ユニット110とに並列に接続されている。
【0032】
基板正極端子100Aを流れる電流(鉛蓄電池20から取り出した信号)は、その一部が、ドライブ抵抗120を通じて、その下流に位置するパルスドライバ回路170に向けて流れる。また、当該電流の一部は、分圧抵抗130,140のうち分圧抵抗130を通じて、信号生成部160に向けて流れる。当該電流の残りは、電源ユニット110に向けて流れる。
【0033】
電源ユニット110は、例えば、相対的に高圧の前段電源回路及び相対的に低圧の後段電源回路を備え、それらは直列に接続されている。このため、鉛蓄電池20を電源として生成される、前段電源回路の相対的に高圧の出力電圧VHがスイッチング回路150を介して間接的に信号生成部160に印加され、後段電源回路の相対的に低圧の出力電圧VLが直接的に信号生成部160に印加される。もちろん、物理的には一つの電源回路を分圧して、出力電圧VH及び出力電圧VLを得るという構成としてもよい。
【0034】
ドライブ抵抗120は、パルスドライバ回路170に流れる電流値を規定するものである。ドライブ抵抗120の抵抗値は、鉛蓄電池20の電圧値、分圧抵抗130,140の抵抗値、及び、電源ユニット110の入力抵抗値等に応じて決定すればよい。ただし、これらを後述する条件とする場合には、10Ω~30Ω程度(例えば約15Ω)とすればよい。
【0035】
分圧抵抗130,140は、信号生成部160に向けて流れる電流の値を規定するものである。分圧抵抗130,140の各抵抗値は、鉛蓄電池20の電圧、ドライブ抵抗120の抵抗値、及び、電源ユニット110の入力抵抗値等に応じて決定すればよいが、分圧抵抗130の抵抗値は0Ω~20kΩ程度(例えば約0Ω)、分圧抵抗140の抵抗値は100Ω~300kΩ程度(約200kΩ)とすることができる。
【0036】
スイッチング回路150は、この例ではFETなどのトランジスタによって実現され、信号生成部160から出力される後述のオン/オフ信号に従ったスイッチング動作を実行する。スイッチング回路150がオン状態のときには、電源ユニット110の前段電源回路の出力電圧VHが信号生成部160に印加され、スイッチング回路150がオフ状態のときには、信号生成部160に対する出力電圧VHの印加は停止される。
【0037】
信号生成部160は、出力電圧VH,VLに基づいてスイッチング回路150に供給する前掲のオン/オフ信号を生成するものである。このオン/オフ信号は、スイッチング回路150に供給される。また、信号生成部160は、定電流源出力回路、発振器及び分周回路等を備えており、電圧VH,VLに基づいて除去信号を生成するための制御信号を生成するものである。この制御信号は、のこぎり波形をしており、パルスドライバ回路170のゲートに出力されるゲート電流となる。
【0038】
ここで、信号生成部160は、最終的に鉛蓄電池20の電極に供給する除去信号を、ピーク値が550mA~1000mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、のこぎり波形をしたパルス信号となるように、例えば、以下の条件で動作させる。
【0039】
すなわち、電源ユニット110の前段電源回路の出力電圧VHを9.0V~11.0V程度(例えば10.0V)、後段電源回路の出力電圧VLを5.0V~6.0V程度(例えば5.5V)、信号生成部160の発振器の発振周波数を約1.0MHz~約5.0MHz程度(例えば約2.5MHz)、分周回路を例えば2分周回路と例えば同期型の62分周回路とによって構成し、前者によって周波数を約0.6MHz~約2.5MHz程度(例えば約1.25MHz)、後者によって周波数を約9.67kHz~約40.32kHz程度(例えば約20.16kHz)とする。この結果、鉛蓄電池20の電圧が、分周後の周波数によってパルス幅が約5nsec~約100nsecのパルス信号を生成することができる。
【0040】
このパルス信号を、電圧VH,VLが供給されるPMOSトランジスタで構成した定電流源出力回路及びNMOSで構成したスイッチに供給すれば、ピーク値が約550mA~約1000mAであり、パルス幅が約5nsec~約100nsecであり、周波数が約5kHz~約50kHzである、のこぎり波形の制御信号を生成することができる。
【0041】
パルスドライバ回路170は、信号生成部160から出力される制御信号に従って、除去信号を生成するものである。パルスドライバ回路170は、例えばFETなどのトランジスタによって実現することができる。この構成の場合、理論上、除去信号は当該制御信号と同じパルス幅及び同じ周波数となる。この除去信号は、基板正極端子110A及び基板負極端子100Bを通じて鉛蓄電池20に供給され、鉛蓄電池負極電極24の硫酸鉛被膜を除去することができる。
【0042】
図3は、
図2に示す硫酸鉛被膜除去装置10の回路トポロジーを示す図である。硫酸鉛被膜除去装置10は、既述のように、ASICによって実現されるが、このASICは、以下説明する、基準電源回路11と、定電流回路12と、制御回路13Aと、端子間スイッチ回路13Bと、発振回路14と、第1分周回路15と、第2分周回路16と、レベルシフト回路17と、駆動回路18Aと、パルスドライバ回路18Bと、駆動スイッチ回路19と、を備えている。
【0043】
ここで、
図2に示す部分と
図3に示す部分との関係は、各図における対応部分の全てを示しているわけではなく、また、必ずしも1:1で対応するわけではないため、概念的に整理したものとなるが、大凡以下のようになる。すなわち、
・
図2に示す電源ユニット110は、
図3には直接的には現れていないが、高電源電圧V
DDH(
図2を用いて説明した「出力電圧V
H」に相当。)及び低電源電圧V
DDL(
図2を用いて説明した「出力電圧V
L」に相当。)を生成する部分に、
・
図2に示すドライブ抵抗120は、
図3に示す駆動回路18Bに接続される部分(図示せず)、
・
図2に示す分圧抵抗130,140は、
図3に示す駆動回路18Aに、
・
図2に示すスイッチング回路150は、
図3に示す駆動スイッチ回路19に、
・
図2に示す信号生成部160は、
図3に示す基準電源回路11と定電流回路12と制御回路13Aと端子間スイッチ回路13Bと発振回路14と第1分周回路15と第2分周回路16とに、
・
図2に示すパルスドライバ回路170は、
図3に示すパルスドライバ回路18Bに、
それぞれ相当する。
【0044】
基準電源回路11は、いわゆるBGR(Bandgap Reference)回路によって構成することができ、低電源電圧V
DDLが供給され、基準信号(基準電流)となるP
TAT信号を生成して、当該P
TAT信号を定電流回路12と制御回路13Aと発振回路14とに出力するものである(なお、基準信号として用いるものについては、
図3において「I
ref」と付記している。以下同じ。)。
【0045】
定電流回路12は、低電源電圧VDDLが供給され、基準電源回路11から出力されるPTAT信号を入力し、当該PTAT信号に基づいてCTAT信号を生成し、当該CTAT信号を制御回路13Aと発振回路14と駆動回路18Aとに出力するものである。
【0046】
制御回路13Aは、低電源電圧VDDLが供給され、基準電源回路11から出力されるPTAT信号と定電流回路12から出力されるCTAT信号とを入力し、当該PTAT信号と当該CTAT信号との合流信号を生成するとともに当該合流信号の出力のオン/オフの切り替えを制御するものである。具体的には、制御回路13Aには、低電源電圧VDDLと比較される閾値SL及び閾値SHが設定されていて、閾値SL≦低電源電圧VDDL≦閾値SHならば端子間スイッチ回路13Bに合流信号を出力し、それ以外の場合には端子間スイッチ回路13Bに合流信号を出力しないといった制御を行う。
【0047】
端子間スイッチ回路13Bは、例えばNMOSトランジスタによって構成することができ、制御回路13Aからの合流信号が入力されるゲートと、鉛蓄電池20の鉛蓄電池負極端子24に接続されるソースと、鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22に電圧電流調整用の抵抗やダイオードなどの素子を介して接続されるドレインと、を備え、合流信号の出力の有無に従って鉛蓄電池正極端子22と鉛蓄電池負極端子24との電気的接続をスイッチングするものである。
【0048】
発振回路14は、低電源電圧VDDLが供給され、基準電源回路11から出力されるPTAT信号と定電流回路12から出力されるCTAT信号とを入力し、これらの信号に基づくパルス信号を生成し、当該パルス信号を第1分周回路15に出力するものである。発振回路14は、発振周波数が例えば2.5MHzのパルス信号を生成するようにしている。
【0049】
第1分周回路15は、低電源電圧VDDLが供給され、発振回路14から出力される発振周波数が例えば2.5MHzのパルス信号を入力し、当該パルス信号の発振周波数を1/2に分周すなわち例えば1.25MHzに分周し、第2分周回路16に出力するものである。
【0050】
第2分周回路16は、第1分周回路15から出力される発振周波数が例えば1.25MHzのパルス信号を入力し、当該パルス信号の発振周波数を例えば1/62すなわち20.16kHzに分周し、レベルシフト回路17と駆動スイッチ回路19とに出力する、同期型のものである。
【0051】
なお、第1分周回路15及び第2分周回路16の分周条件は、第2分周回路16から出力するパルス信号のパルス幅がこの例では800nsecとなるようにすればよく、したがって、「1/2」分周或いは「1/62」分周に限定されるものではなく、また、分周回路の数も「2」限定されるものではない点に留意されたい。
【0052】
レベルシフト回路17は、低電源電圧VDDLと高電源電圧VDDHとが供給され、第2分周回路16から出力される例えばパルス幅が800nsecのパルス信号を入力し、当該パルス信号に基づいて低電源電圧VDDLと高電源電圧VDDHとのレベルをシフトし、レベルシフト後の電圧信号を駆動回路18Aに出力するものである。
【0053】
駆動回路18Aは、例えばPMOSトランジスタによって構成することができ、高電源電圧VDDHが供給され、レベルシフト回路17から出力される電圧信号と定電流回路12から出力されるCTAT信号と駆動スイッチ回路19から出力されるスイッチ信号とを入力し、当該電圧信号と当該CTAT信号とに基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を当該スイッチ信号に従ってパルスドライバ回路18Bに出力するものである。
【0054】
駆動スイッチ回路19は、例えばNMOSトランジスタによって構成することができ、低電源電圧VDDLが供給され、第2分周回路16から出力される例えばパルス幅が800nsecのパルス信号を入力するゲートと、当該パルス信号に基づいて上記スイッチ信号を駆動回路18Aに出力するソースと及びドレインと、を備えるものである。
【0055】
パルスドライバ回路18Bは、例えばNMOSトランジスタによって構成することができ、駆動回路18Aから出力される駆動信号を入力するゲートと、ドライブ抵抗120を介して基板正極端子100に接続されるドレインと、基板負極端子100Bに接続されるソースと、を備えるものである。
【0056】
図4(a)は、
図1に示すように硫酸鉛被膜除去装置10を鉛蓄電池20に接続した状態で計測した「ピーク電流値」の計測結果を示す図である。ここでいう「ピーク電流値」とは、鉛蓄電池正極端子22から硫酸鉛被膜除去装置10を介して鉛蓄電池負極端子24に流れる電流値のことである。
【0057】
図4(a)に示す各計測結果を得るために用意したものは、以下のとおりである。
【0058】
硫酸鉛被膜除去装置10は、その各素子のスペックを、
図2を用いてした説明のうちかっこ書きで例示した値を採用した。すなわち、ドライブ抵抗120を例にすれば、約15Ωという値を採用とした。
【0059】
鉛蓄電池20は、Panasonic caos社製の型番「100D23R/C6密閉型」という、いわゆる「12V鉛蓄電池」と称される鉛蓄電池20とした。鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22と鉛蓄電池負極端子24との距離は180mmである。なお、
図4(a)及び
図4(b)に示す各計測結果を得る前に測定した鉛蓄電池20自体の電圧値/抵抗値は12.67V/6.49mΩであった。
【0060】
電源30は、ITECH社製の型番「IT6720」という電源を用意した。この電源30は、出力電圧を0~60V、出力電流を0~5a、出力電力を0~100Wの範囲で設定できるものであり、電源30の出力電圧は、鉛蓄電池正極端子24と鉛蓄電池負極端子26との間の「鉛蓄電池電圧値」を、11.9V,12.9V,13.9Vと可変設定した。
【0061】
接続線40,50は、それらの長さが60cmで、それらの線幅が0.5sq(AWG20相当)の黄銅製の汎用的なものとした。接続線40,50は、硫酸鉛被膜除去装置10の基板正極端子100A及び基板負極端子100Bから約48cmとなる位置までの部分は直線的かつ相互に略密着させて配置し、そこから分岐させた残り約12cmの部分は鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22及び鉛蓄電池負極端子24に向けてそれぞれ向けて相互に斜めに向けて延びるように配置した。
【0062】
接続線60,70は、それらの長さが5cmで、それらのインダクタが470μH/3Aある黄銅製の汎用的なものを用いた。
【0063】
図4(b)は、
図4(a)に示す計測結果と対比するためにアナログ回路によって実現される比較例の硫酸鉛被膜除去装置を鉛蓄電池20に接続した状態で計測した「ピーク電流値」に相当する電圧値及び電流値の計測結果を示す図である。
【0064】
図4(b)に示す各計測結果を得るための、鉛蓄電池20と、電源30と、接続線60,70とについては、
図4(a)に示す各計測結果を得るために用意したものと同一のもの用意し、同一の条件で用いた。その他のものは以下のとおりである。
【0065】
比較例の硫酸鉛被膜除去装置は、本実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10がASICによって実現されるものであるのに対して、アナログ回路によって実現されるものである。比較例の硫酸鉛被膜除去装置を構成する各素子のスペックは、硫酸鉛被膜除去装置10と同じく、
図2を用いてした説明のうちかっこ書きで例示した値を採用した。したがって、両装置の実質的な相違は、既述のようにピーク電流の上限のみである。
【0066】
接続線40,50に相当するものは、それらの長さが54cm、それらの線幅が1.25sq(AWG16相当)の黄銅製の汎用的なものとした。比較例の硫酸鉛被膜除去装置に接続線40,50を接続しなかった理由は、当該装置の端子の大きさが、基板正極端子100A及び基板負極端子100Bと異なっていることによる。
【0067】
ただ、接続線40,50とそれに相当するものとの電気抵抗等が実質的に同一となる条件で、接続線40,50に相当するものを選定した。接続線40,50に相当するものは、比較例の硫酸鉛被膜除去装置側から約42cmとなる位置までの部分は直線的かつ平行に相互に約2cm離間させて配置し、そこから分岐させた残り約12cmの部分は、それぞれ鉛蓄電池20の鉛蓄電池正極端子22及び鉛蓄電池負極端子24に向けて相互に斜めに向けて延びるように配置した。
【0068】
なお、
図4に示す計測結果及び後述の
図5に示す計測結果のいずれにおいても、種々の計測をする際には、鉛蓄電池20を充電完了直後のものとし、周囲の環境温度などの条件はほぼ同一とし、計測結果に影響を及ぼす要因は可能な限り排除した。
【0069】
図4(a)に示すように、本実施形態の硫酸鉛被膜除去装置10の場合には、電源30の供給電圧を「鉛蓄電池電圧値」を11.9V,12.9V,13.9Vと可変した場合に、「ピーク電流値」はそれぞれ675mA,733mA,793mAであった。
【0070】
図4(a)に示す計測結果によれば、ピーク電流が675mA~793mAとなることがわかる。なお、当業者にとって、ドライブ抵抗120、分圧抵抗130,140のいずれかの抵抗値を変更することによって、ピーク電流の値を容易に制御できることは自明である。
【0071】
また、ここでは「12V鉛蓄電池」を前提とした測定結果を示しているが、「12V鉛蓄電池」に代えて例えば「24V鉛蓄電池」を用いた場合には、「鉛蓄電池電圧値」の増加に伴って「ピーク電流値」も増加することは当業者であれば容易に理解し得る。本実施形態では、そのような場合に「ピーク電流値」の上限が1000mAとなるように設計している。
【0072】
一方、比較例の硫酸鉛被膜除去装置の場合には、電源30の供給電圧を「鉛蓄電池電圧値」が11.9V,12.9V,13.9Vと可変した場合に、「ピーク電流値」はそれぞれ540mA,570mA,600mAにしかならなかった。
【0073】
本発明者らは、ピーク電流を550mA~1000mAの範囲で検証したところ、鉛蓄電池負極端子22に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池20の電極にダメージが見受けられなかった。
【0074】
なお、信号生成部160における、定電流源出力回路、発振器及び分周回路等のスペックを適宜変更することによって、パルス信号のパルス幅や周波数を容易に制御することができることも当業者にとって自明である。周波数及びピーク値の条件を上記範囲として、パルス幅を5nsec~100nsecとした場合、ピーク値及びパルス幅の条件を上記範囲として、周波数を5kHz~50kHzにした場合にも、鉛蓄電池負極端子24に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池20の電極にダメージが見受けられなかった。
【0075】
図5は、車両等に搭載されている鉛蓄電池20に対する硫酸鉛被膜除去装置10の回復前後の鉛蓄電池電圧値等の計測結果を示す図である。この電圧値は、鉛蓄電池正極端子22及び鉛蓄電池負極端子24の近傍で計測したものであり、硫酸鉛被膜除去装置10は
図2を用いて説明したスペックの素子を用いた。
【0076】
また、硫酸鉛被膜除去装置10の接続先の種別によって、計測項目が異なっている場合がある(例えば、CCA(Cold Cranking Ampere)値を示す場合もあれば、「比重値」の計測結果を示す場合もある。)。このことは、計測対象によって、硫酸鉛被膜の除去効果の評価可能な計測項目が異なったり、そもそも計測対象については特定の計測項目の計測結果を得ることが困難或いは不可であったりなどの理由による。
【0077】
まず、2台のゴルフカートa,bに搭載された鉛蓄電池20に関して説明する。ゴルフカートa,bの鉛蓄電池20は、いずれも12Vの鉛蓄電池20(GS YUASA社製「SER38-12」)を6個搭載したものである。
図5に示す計測結果は、6個の鉛蓄電池20の各々の計測値の平均としている。
【0078】
ゴルフカートa,bの内部抵抗値は、鉛蓄電池20の開放電圧と負荷抵抗との間の電圧降下に基づいて計測したものである。内部抵抗値は、鉛蓄電池20の使用期間が長くなるにつれて上昇していき、これに比例して鉛蓄電池20の能力は低下していく。内部抵抗値は、一概にメルクマールとなる絶対的な値はなく、相対的な値の大小によって硫酸鉛被膜の除去効果を評価できる。
【0079】
ゴルフカートa,bの各抵抗差は、鉛蓄電池20の内部抵抗値の最大値から最小値を差し引いた値である。したがって、この値が小さいほど、鉛蓄電池20の間での抵抗差のバラつきが小さく、鉛蓄電池20の状態が良好であることを意味する。
【0080】
まず、ゴルフカートaに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果について考察する。電圧値は、回復前に13.05Vであったものが、回復後には13.03Vとなり大きな変化は見られない。内部抵抗値は、回復前に8.76mΩであったものが、回復後には8.29mΩとなり、改善したことがわかる。
【0081】
つぎに、ゴルフカートbに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果について考察する。電圧値は、回復前に13.01Vであったものが、回復後には13.00Vとなり、これは測定誤差であると見受けられる。内部抵抗値は、回復前に8.86mΩであったものが、回復後には8.41mΩとなり、改善したことがわかる。
【0082】
考察結果をまとめると、ゴルフカートaに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果によれば、内部抵抗値が改善されたので、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果があるといえる。
【0083】
一方、ゴルフカートbに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果によれば、若干の除去効果が認められるが、ゴルフカートbの鉛蓄電池負極電極24に硫酸鉛がそれほど付着していなかったと推測される。
【0084】
つぎに、2台の自動車c,dに搭載され鉛蓄電池20に関して説明する。自動車cの鉛蓄電池20は、12Vの鉛蓄電池20(BOSCH社製「BLA-95-L5」)を1個搭載したものである。自動車dの鉛蓄電池20は、12Vの鉛蓄電池20(GSユアサ社製M-42 LB314)を1個搭載したものである。
【0085】
自動車cのCCA値は、鉛蓄電池20にエンジンを始動させる能力を示す性能基準値である。CCA値は、その鉛蓄電池のメーカ、種類などによって基準値が異なるので、一概にメルクマールとなる絶対的な値はなく、相対的な値の大小によって硫酸鉛被膜の除去効果を評価できる。
【0086】
自動車c,dに搭載されている鉛蓄電池20の内部抵抗値に対する評価は、ゴルフカートa,bのものに対して説明したとおりであり、したがって、内部抵抗値は、相対的に小さい値になるほど硫酸鉛被膜の除去効果が高いという評価ができる。
【0087】
まず、自動車cに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果について考察する。電圧値は、回復前に12.64Vであったものが、回復後には13.07Vとなり大きな変化は見られない。CCA値は、回復前に711であったものが、回復後には826となり、大きく改善したことがわかる。内部抵抗値は、回復前に3.25mΩであったものが、回復後には2.80mΩとなり改善したことがわかる。
【0088】
自動車dに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果について考察する。電圧値は、回復前に13.29Vであったものが、回復後には13.42Vとなり大きな変化は見られない。鉛蓄電池20を構成する6つのセルの比重値平均は、回復前に1.00であったものが、回復後には1.20となり、改善したことがわかる。内部抵抗値は、回復前に6.94mΩであったものが、回復後には6.03mΩとなり改善したことがわかる。
【0089】
考察結果をまとめると、自動車cに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果によれば、CCA値及び内部抵抗値が改善され、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果は大きいであるといえる。
【0090】
一方、自動車dに搭載されている鉛蓄電池20の計測結果によれば、比重値平均及び内部抵抗値が改善され、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果は大きいであるといえる。
【0091】
以上説明した硫酸鉛被膜除去装置10は、それが接続される鉛蓄電池20の性能を示す計測を行う計測装置と、計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置とともに、これらを備えた硫酸鉛被膜除去システムとすることもできる。
【0092】
当該計測装置が計測を行う鉛蓄電池20の性能を示す計測対象としては、
図5に示すピーク電流、
図5に示す内部抵抗値が典型例として挙げられる。さらに、内部抵抗値は温度による影響を受けやすいので温度も考慮した評価が可能なように周辺温度も含めることができる。したがって、当該計測装置は、これらの幾つかを計測するセンサーなどを有するものとすればよい。
【0093】
当該送信装置が送信する計測結果の送信先は、鉛蓄電池20が搭載された電気機器の管理者及び/又は本実施形態の硫酸鉛被膜除去システムの管理者などのいくつか考えられる。また、計測結果は、これらの者に直接送信してもよいし、図示しないクラウドサーバに一度送信し、その後にクラウドサーバからそれらの者に間接送信してもよい。送信技術としてはLPWA(Low Power Wide Area)などの通信規格を用い、送信媒体としては無線や光ファイバ等を用い、送信頻度としては例えば毎月1回とすることが一法であるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本実施形態の硫酸鉛被膜除去システムによれば、山間部などで用いられる通信基地局の鉛蓄電池20に硫酸鉛被膜除去装置10を接続すれば、その鉛蓄電池20に生じる硫酸鉛被膜除去をすることもできるし、例えば遠隔地にいる管理者がその鉛蓄電池20の交換目安の判断材料となる計測結果を得ることができる。
【0095】
以上、本実施形態では、鉛蓄電池負極電極24に付着する硫酸鉛被膜を除去する場合を例に説明したが、鉛蓄電池20には複数のセルから構成されているものもあり、その場合にそれらの各セルの負極電極に付着した硫酸鉛被膜を除去することも可能である。