(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149596
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】膜厚測定装置及び膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
G01B11/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124564
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2024515457の分割
【原出願日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2023001846
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】大塚 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森島 康太
(72)【発明者】
【氏名】土屋 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 輝雄
(57)【要約】
【課題】対象物の膜厚を高精度に測定すること。
【解決手段】膜厚測定装置1は、光照射部10と、傾斜ダイクロイックミラー22と、エリアセンサ23,24と、第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する解析部32と、を備える。解析部32は、第1の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出し、第2の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出し、1の膜厚候補及び前記第2の膜厚候補に基づいて、サンプル100の膜厚を導出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に膜が形成された対象物の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、
前記対象物に対して第1の波長を有する第1の光、及び、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光をそれぞれ照射する光照射部と、
所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、前記対象物からの前記第1の光及び前記第2の光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、
前記光学素子によって反射された前記第1の光及び前記光学素子を透過した前記第1の光を検出し、第1の信号を出力すると共に、前記光学素子によって反射された前記第2の光及び前記光学素子を透過した前記第2の光を検出し、第2の信号を出力する光検出部と、
前記第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、前記第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する解析部と、を備え、
前記解析部は、
前記第1の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出し、
前記第2の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出し、
前記第1の膜厚候補及び前記第2の膜厚候補に基づいて、前記対象物の膜厚を導出する、膜厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、膜厚測定装置及び膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、波長に応じて透過率及び反射率が変化するダイクロイックミラーを用いて、対象物からの光を分離し、分離した光をそれぞれ撮像することにより波長重心を求め、該波長重心に基づき、対象物の膜厚を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した波長重心を用いた膜厚測定方法では、予め膜厚と波長重心との関係を把握しておき、波長重心の値から対象物の膜厚を推定する。ここで、測定対象の膜の種類や、照射する光の波長によっては、波長重心の値から複数の膜厚候補が挙げられることがある。この場合、一意に膜厚を推定することができず、膜厚測定精度が悪くなるおそれがある。
【0005】
本開示の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、対象物の膜厚を高精度に測定することができる膜厚測定装置及び膜厚測定方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る膜厚測定装置は、基板に膜が形成された対象物の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、対象物に対して第1の波長を有する第1の光、及び、第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光をそれぞれ照射する光照射部と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、対象物からの第1の光及び第2の光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、光学素子によって反射された第1の光及び光学素子を透過した第1の光を検出し、第1の信号を出力すると共に、光学素子によって反射された第2の光及び光学素子を透過した第2の光を検出し、第2の信号を出力する光検出部と、第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する解析部と、を備え、解析部は、第1の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出し、第2の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出し、第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補に基づいて、対象物の膜厚を導出する。
【0007】
本開示の一態様に係る膜厚測定装置では、対象物に対して第1の波長を有する第1の光が照射され、光学素子によって反射された対象物からの第1の光及び光学素子を透過した第1の光が検出されて第1の信号が出力され、第1の信号に基づいて第1の波長重心が導出される。そして、予め規定されている第1の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報と、導出した第1の波長重心とから、少なくとも1つの第1の膜厚候補が導出される。また、本開示の一態様に係る膜厚測定装置では、対象物に対して第2の波長を有する第2の光が照射され、光学素子によって反射された対象物からの第2の光及び光学素子を透過した第2の光が検出されて第2の信号が出力され、第2の信号に基づいて第2の波長重心が導出される。そして、予め規定されている第2の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報と、導出した第2の波長重心とから、少なくとも1つの第2の膜厚候補が導出される。更に、本開示の一態様に係る膜厚測定装置では、上述した第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補に基づき、対象物の膜厚が導出される。
【0008】
このように、本開示の一態様に係る膜厚測定装置では、互いに異なる複数の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出される。例えば、ある1種類の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報と導出した波長重心とから膜厚を導出しようとする場合、導出した波長重心に対応する膜厚の候補が複数存在し、膜厚を一意に特定することができない場合がある。また、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形の形状によっては、波形の極値がなだらかになり、波長重心の違いによる膜厚の違いが出にくくなり、波長重心に対応する膜厚を正確に導出することができない場合がある。この点、上述したように、互いに異なる複数の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出されることにより、1つの波長の光では膜厚を一意に特定することができない場合であっても、複数の波長の光それぞれの膜厚候補の一致性等を考慮することによって、膜厚候補に基づき、適切に対象物の膜厚を導出することができる。また、互いに異なる複数の波長の光については、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形の極値(膜厚を正確に導出することができない範囲)が互いに一致しないため、それぞれの膜厚候補に基づき、適切に対象物の膜厚を導出することができる。以上のように、本開示の一態様に係る膜厚測定装置によれば、対象物の膜厚を高精度に測定することができる。
【0009】
上記膜厚測定装置において、光照射部は、対象物に対して、第1の波長及び第2の波長と異なる第3の波長を有する第3の光を更に照射し、光学素子は、対象物からの第3の光を透過及び反射することにより更に分離し、光検出部は、光学素子によって反射された第3の光及び光学素子を透過した第3の光を更に検出し、第3の信号を出力し、解析部は、第3の信号に基づいて第3の波長重心を更に導出し、第3の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を更に導出し、第1の膜厚候補、第2の膜厚候補、及び第3の膜厚候補に基づいて、対象物の膜厚を導出してもよい。このように、互いに異なる3種類の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出されることにより、2種類の波長の光を用いる場合と比べて更に、膜厚を一意に特定しやすくなる。これによって、対象物の膜厚をより高精度に測定することができる。
【0010】
上記膜厚測定装置において、解析部は、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、膜厚予想範囲内のみから、第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補を導出してもよい。予め膜厚予想範囲が想定されている場合には、膜厚予想範囲内のみから膜厚候補を導出することにより、膜厚導出に係る処理時間を短縮することができる。
【0011】
上記膜厚測定装置において、光照射部は、3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な光源を有し、3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第1の光を、対象物に対して照射してもよい。膜厚と波長重心との関係情報を示す波形は、光の波長幅が広いほどカーブの傾きが急になり、光の波長幅が狭いほどカーブの傾きが緩やかになる。波形のカーブの傾きが急である箇所ほど、波長重心の変化に対して膜厚の変化が大きくなるので、正確に膜厚を導出することができる。このため、2波長の単色光が同時出射されて第1の光の波長幅が広くされることにより、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形におけるカーブを急にすることができ、対象物の膜厚をより高精度に測定することができる。
【0012】
上記膜厚測定装置において、2波長の単色光は、赤色波長の光と青色波長の光であってもよい。このように、2波長の単色光が、互いに波長の相違が大きい赤色波長の光と青色波長の光とされることにより、第1の光の波長幅を広くして、対象物の膜厚をより高精度に測定することができる。
【0013】
本開示の一態様に係る膜厚測定方法は、基板に膜が形成された対象物の膜厚を測定する膜厚測定装置が実行する膜厚測定方法であって、対象物に対して第1の波長を有する第1の光を照射する第1の照射ステップと、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化する光学素子を用いて、対象物からの第1の光を透過及び反射する第1の分離ステップと、光学素子によって反射された第1の光及び光学素子を透過した第1の光を検出し、第1の信号を出力する第1の光検出ステップと、第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、第1の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出する第1の演算ステップと、対象物に対して前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光を照射する第2の照射ステップと、光学素子を用いて、対象物からの第2の光を透過及び反射する第2の分離ステップと、光学素子によって反射された第2の光及び光学素子を透過した第2の光を検出し、第2の信号を出力する第2の光検出ステップと、第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出すると共に、第2の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出する第2の演算ステップと、第1の演算ステップによって求められた少なくとも1つの第1の膜厚候補と、第2の演算ステップによって求められた少なくとも1つの第2の膜厚候補と、に基づいて、対象物の膜厚を導出する解析ステップと、を備える。
【0014】
上記膜厚測定方法は、対象物に対して、第1の波長及び第2の波長と異なる第3の波長を有する第3の光を更に照射する第3の照射ステップと、対象物からの第3の光を透過及び反射することにより更に分離する第3の分離ステップと、光学素子によって反射された第3の光及び光学素子を透過した第3の光を更に検出し、第3の信号を出力する第3の光検出ステップと、第3の信号に基づいて第3の波長重心を更に導出し、第3の波長における対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を更に導出する第3の演算ステップと、を更に備え、解析ステップでは、第1の膜厚候補、第2の膜厚候補、及び第3の膜厚候補に基づいて、対象物の膜厚を導出してもよい。
【0015】
上記膜厚測定方法において、解析ステップでは、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、膜厚予想範囲内のみから、第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補を導出してもよい。
【0016】
上記膜厚測定方法において、第1の照射ステップでは、3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な光源から照射され3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第1の光を、対象物に対して照射してもよい。
【0017】
上記膜厚測定方法において、2波長の単色光は、赤色波長の光と青色波長の光であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、対象物の膜厚を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る膜厚測定装置を模式的に示した図である。
【
図2】
図2は、光照射部の構成として多色LEDアレイを用いる場合の構成を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、光照射部の構成として白色光源及びフィルタ切り替え機構を用いる場合の構成を模式的に示した図である。
【
図4】
図4は、ダイクロイックミラーの特性と光源から出射される光の波長との関係を説明する図である。
【
図5】
図5は、光のスペクトル及び傾斜ダイクロイックミラーの特性を説明する図である。
【
図6】
図6は、透過光量及び反射光量に応じた波長シフトを説明する図である。
【
図7】
図7は、膜厚毎の波長に応じた反射率を示す図である。
【
図8】
図8は、サンプルの膜厚と波長重心との関係情報を示す波形である。
【
図9】
図9は、複数種類の波長それぞれについて、サンプルの膜厚と波長重心との関係情報を示す波形である。
【
図10】
図10(a)は
図2に示される構成における、単色光の組み合わせ毎の波長に応じたシステム分光特性を示す図である。
図10(b)は、
図2に示された構成における、波長重心と膜厚との関係を示す図である。
【
図11】
図11(a)は
図3に示される構成における、設定フィルタ毎の波長に応じたシステム分光特性を示す図である。
図11(b)は、
図3に示された構成における、波長重心と膜厚との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、膜厚測定の具体的な工程を示すフローチャートである。
【
図13】
図13(a)~(c)は、互いに異なる3つの波長パターン毎の膜厚探索ブロック設定について説明する図である。
【
図14】
図14は、膜厚候補の導出について説明する図である。
【
図15】
図15は、膜厚予想範囲に応じた膜厚候補の導出について説明する図である。
【
図16】
図16は、各波長パターンについての膜厚候補の導出について説明する図である。
【
図18】
図18は、膜厚候補の最適な組み合わせ選出に基づく膜厚導出について説明する図である。
【
図19】
図19(a)は膜厚ムラが大きいサンプルにおける膜厚導出を説明する図である。
図19(b)は膜厚の正解データの一例である。
図19(c)は
図19(b)に示される正解データに対応する多波長解析結果を示す図である。
【
図20】
図20(a)は比較的波長範囲が狭い光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
図20(b)は比較的波長範囲が広い光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
図20(c)は比較的波長範囲が広く、複数山(2つの極大値)を有する光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
【
図21】
図21(a)は赤色波長の光及び青色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(b)は緑色波長の光及び青色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(c)は赤色波長の光及び緑色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(d)は膜厚マッピング結果の正解データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態に係る膜厚測定装置1を模式的に示した図である。膜厚測定装置1は、サンプル100(対象物)に対して面状に光を照射し、該サンプル100からの反射光に基づいて、サンプル100に形成された膜の厚さを測定する装置である。サンプル100は、例えばLED、ミニLED、μLED、SLD素子、レーザ素子、垂直型レーザ素子(VCSEL)、OLED等の発光素子であってもよいし、ナノドット等を含む蛍光物質により発光波長を調整する発光素子であってもよい。また、サンプル100は、例えば光学フィルム、ディスプレイパネル向け薄膜、半導体向け薄膜などでもよい。サンプル100は、基板100aの表面に膜100bが形成された対象物である。本実施形態では、サンプル100においては、基板100aの表面に膜100bが一層のみ形成されているとして説明する。膜100bは、例えば、酸化膜又は窒化膜等であるが、その他の膜であってもよい。
【0021】
図1に示されるように、膜厚測定装置1は、光照射部10と、ハーフミラー11と、フィールドレンズ12と、カメラシステム20と、制御装置30(解析部32,記憶部33)と、を備えている。
【0022】
光照射部10は、サンプル100に対して面状に光を照射する。光照射部10は、例えば、サンプル100の表面の略全面に対して面状に光を照射する。光照射部10は、例えば、サンプル100の表面を均一的に照射可能な光源を有しており、サンプル100に対して拡散光を照射してもよい。
【0023】
光照射部10は、サンプル100に対して第1の波長を有する第1の光、及び、第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光をそれぞれ照射する。更に、光照射部10は、サンプル100に対して、第1の波長及び第2の波長とは異なる第3の波長を有する第3の光を照射してもよい。なお、第1の波長、第2の波長、及び第3の波長は、それぞれ波長域(波長幅)を有していてもよい。各波長が「異なる」とは、それぞれの波長域の一部が重複している場合を含んでいてもよい。すなわち、「第1の波長とは異なる第2の波長」とは、第1の波長と波長域が完全に異なる波長だけでなく、第1の波長と波長域が一部重複しているものの、波長域が完全には一致していない波長も含む。同様に、「第1の波長及び第2の波長とは異なる第3の波長」とは、第1の波長及び第2の波長と波長域が完全に異なる波長だけでなく、第1の波長又は第2の波長と波長域が一部重複しているものの、波長域が完全には一致していない波長も含む。以下では、光照射部10が、第1の光、第2の光、及び第3の光をサンプル100に対して照射するとして説明する。光照射部10から出射された光は、ハーフミラー11及びフィールドレンズ12を経て、サンプル100に対して面状に照射される。
【0024】
光照射部10の詳細な構成例について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、光照射部10の構成として多色LED(Light Emitting Diode)アレイ光源10aを用いる場合の構成を模式的に示した図である。光照射部10は、3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な光源である多色LEDアレイ光源10aを有している。ここでの単色光とは、波長幅が狭い光を意味している。波長幅が狭い光とは、例えば、スペクトルの半値全幅が100nm未満の光である。反対に、波長幅が広い光とは、例えば、スペクトルの半値全幅が100nm以上の光である。このような光照射部10では、多色LEDアレイ光源10aが、上記3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第1の光を、サンプル100に対して照射してもよい。この場合、多色LEDアレイ光源10aは、第1の光とは異なる組み合わせの2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第2の光を、サンプル100に対して照射する。また、多色LEDアレイ光源10aは、第1の光及び第2の光とは異なる組み合わせの2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第3の光を、サンプル100に対して照射する。
【0025】
すなわち、例えば、多色LEDアレイ光源10aが、赤色波長の単色光、緑色波長の単色光、及び青色波長の単色光を出射可能である場合において、上記2波長の単色光は、赤色波長の単色光と青色波長の単色光であってもよいし、赤色波長の単色光と緑色波長の単色光であってもよいし、緑色波長の単色光と青色波長の単色光であってもよい。この場合、第1の光は、赤色波長の単色光と青色波長の単色光とが同時に出射されることにより構成される光であってもよい。また、第2の光は、赤色波長の単色光と緑色波長の単色光とが同時に出射されることにより構成される光であってもよい。また、第3の光は、緑色波長の単色光と青色波長の単色光とが同時に出射されることにより構成される光であってもよい。なお、第1の光、第2の光、及び第3の光は、必ずしも2波長の単色光を同時に出射することにより構成される光でなくてもよい。なお、赤色波長の単色光とは、610nm以上780nm以下の波長を含む光であり、緑色波長の単色光とは、500nm以上570nm以下の波長を含む光であり、青色波長の単色光とは、430nm以上490nm以下の波長を含む光である。
【0026】
上述したような多色LEDアレイ光源10aは、各LEDの組み合わせによって様々な波長パターンの光を生成することができる。また、多色LEDアレイ光源10aは、LEDで構成されていることから、高寿命である。また、多色LEDアレイ光源10aは、フィルタによって波長を設定する構成ではないため、フィルタを切り替えるためのフィルタ切り替え機構(可動部)等が不要である。これにより、シンプルな構成によって迅速に波長を切り替えることができる。なお、光照射部10は、多色LEDアレイ光源10aと同様にフィルタ切り替え機構を設けない構成として、波長可変光源(不図示)を用いてもよい。
【0027】
図3は、光照射部10の構成として白色光源10b及びフィルタ切り替え機構10cを用いる場合の構成を模式的に示した図である。
図3に示される光照射部10では、白色光源10bから出射された光がフィルタ切り替え機構10cによって設定されたフィルタを経てサンプル100に照射される。この場合、光照射部10は、フィルタ切り替え機構10cによってフィルタを切り替えることにより、上述した第1の光、第2の光、及び第3の光をサンプル100に照射する。
【0028】
光照射部10は、カメラシステム20が有する傾斜ダイクロイックミラー22(詳細は後述)の所定の波長域に含まれる波長の光を、サンプル100に対して照射する。詳細は後述するが、傾斜ダイクロイックミラー22は、サンプル100からの光を波長に応じて透過及び反射することにより分離する光学素子である。傾斜ダイクロイックミラー22は、上述した所定の波長域において、波長に応じて透過率及び反射率が変化する。
【0029】
図4は、傾斜ダイクロイックミラー22の特性と光照射部10から出射される光の波長との関係を説明する図である。
図4において、横軸は波長を示しており、縦軸は傾斜ダイクロイックミラー22の透過率を示している。
図4の傾斜ダイクロイックミラー22の特性X4に示されるように、傾斜ダイクロイックミラー22においては、所定の波長域X10では波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が緩やかに変化し、該特定の波長域以外の波長域では波長の変化に関わらず光の透過率(及び反射率)が一定とされている。
図4に示されるように、光照射部10から出力される光X20は、上述した所定の波長域X10に含まれる波長の光を含んでいる。すなわち、光照射部10は、所定の波長域X10を含むブロードなスペクトルの光を出力する。なお、測定に係る波長域(干渉ピーク波長)は、サンプル100に形成されている膜の材質や測定膜厚範囲によって定まる。
【0030】
図1に戻り、ハーフミラー11は、光照射部10から出射された光をサンプル100方向(詳細には、サンプル100に導光するフィールドレンズ12方向)に反射すると共に、光が照射されたサンプル100からの光(詳細には、サンプル100からフィールドレンズ12を経た光)を透過するミラーである。フィールドレンズ12は、光の進行方向を揃えるレンズである。
【0031】
カメラシステム20は、レンズ21と、傾斜ダイクロイックミラー22(光学素子)と、エリアセンサ23(光検出部)と、エリアセンサ24(光検出部)と、を含んで構成されている。なお、カメラシステム20は、エリアセンサの代わりにリニアイメージセンサ(検出部)を含んで構成してもよい。
【0032】
レンズ21は、フィールドレンズ12及びハーフミラー11を経て入射した、サンプル100からの光を集光するレンズである。レンズ21は、傾斜ダイクロイックミラー22の前段(上流)に配置されていてもよいし、傾斜ダイクロイックミラー22とエリアセンサ23,24との間の領域に配置されていてもよい。本実施形態では、レンズ21が傾斜ダイクロイックミラー22の前段(上流)に配置されているとして説明する。レンズ21は、有限焦点レンズであってもよいし、無限焦点レンズであってもよい。レンズ21が有限焦点レンズである場合には、レンズ21からエリアセンサ23,24までの距離は所定値とされる。レンズ21が無限焦点レンズである場合には、レンズ21は、サンプル100からの光を平行光に変換するコリメータレンズであり、平行光が得られるように収差補正されている。レンズ21から出力された光は、傾斜ダイクロイックミラー22に入射する。
【0033】
傾斜ダイクロイックミラー22は、特殊な光学素材を用いて作成されたミラーであり、サンプル100からの光を波長に応じて透過及び反射することにより分離する光学素子である。すなわち、傾斜ダイクロイックミラー22は、サンプル100からの第1の光、第2の光、及び第3の光を透過及び反射することによりそれぞれ分離する。傾斜ダイクロイックミラー22は、所定の波長域において波長に応じて光の透過率及び反射率が変化するように構成されている。
【0034】
図5は、光のスペクトル及び傾斜ダイクロイックミラー22の特性を説明する図である。
図5において横軸は波長を示しており、縦軸はスペクトル強度(光のスペクトルの場合)及び透過率(傾斜ダイクロイックミラー22の場合)を示している。
図5の傾斜ダイクロイックミラー22の特性X4に示されるように、傾斜ダイクロイックミラー22においては、所定の波長域(波長λ1~λ2の波長域)では波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が緩やかに変化する。一方、該所定の波長域以外の波長域(すなわち、波長λ1よりも低波長側及び波長λ2よりも高波長側)では波長の変化に関わらず光の透過率(及び反射率)が一定とされていてもよい。換言すれば、特定の波長域(波長λ1~λ2の波長域)では波長の変化に応じて光の透過率が単調増加(反射率が単調減少)で変化している。透過率と反射率とは、一方が大きくなる方向に変化すると他方が小さくなる方向に変化する、負の相関関係にあるため、以下では「透過率(及び反射率)」と記載せずに単に「透過率」と記載する場合がある。なお、「波長の変化に関わらず光の透過率が一定」とは、完全に一定である場合だけでなく、例えば波長1nmの変化に対する透過率の変化が0.1%以下であるような場合も含むものである。波長λ1よりも低波長側では波長の変化に関わらず光の透過率が概ね0%であってもよいし、波長λ2よりも高波長側では波長の変化に関わらず光の透過率が概ね100%であってもよい。なお、「光の透過率が概ね0%である」とは、0%+10%程度の透過率を含むものであり、「光の透過率が概ね100%である」とは、100%-10%程度の透過率を含むものである。
図3において、波形X1は、光照射部10から出力される光の波形を示している。
図3の波形X1に示されるように、光照射部10から出力される光は、傾斜ダイクロイックミラー22の所定の波長域(波長λ1~λ2の波長域)に含まれる波長の光を含んでいる。
【0035】
図1に戻り、エリアセンサ23,24は、サンプル100からの光を撮像する。エリアセンサ23,24は、傾斜ダイクロイックミラー22によって分離された光を撮像(検出)する。エリアセンサ23は、傾斜ダイクロイックミラー22において透過された光を撮像(検出)し、検出結果に応じた信号を出力する。すなわち、エリアセンサ23は、傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第1の光、傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第2の光、及び傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第3の光を検出する。エリアセンサ24は、傾斜ダイクロイックミラー22において反射された光を撮像(検出)し、検出結果に応じた信号を出力する。すなわち、エリアセンサ24は、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第1の光、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第2の光、及び傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第3の光を検出する。第1の光の検出に関して、エリアセンサ23及びエリアセンサ24から出力される信号が第1の信号である。第2の光の検出に関して、エリアセンサ23及びエリアセンサ24から出力される信号が第2の信号である。第3の光の検出に関して、エリアセンサ23及びエリアセンサ24から出力される信号が第3の信号である。エリアセンサ23,24が感度を有する波長の範囲は、傾斜ダイクロイックミラー22において波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が変化する所定の波長域に対応している。エリアセンサ23,24は、例えば、モノクロセンサ又はカラーセンサである。エリアセンサ23,24による撮像結果(画像)は、上述した第1の信号、第2の信号、及び第3の信号によって制御装置30に出力される。
【0036】
エリアセンサ23,24の前段(上流)には、バンドパスフィルタ(不図示)が配置されていてもよい。このようなバンドパスフィルタ(不図示)は、例えば、上述した所定の波長域(傾斜ダイクロイックミラー22において、波長に応じて光の透過率及び反射率が変化する波長域)以外の波長域の光を取り除くフィルタであってもよい。
【0037】
制御装置30は、コンピュータであって、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。制御装置30は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。制御装置30は、マイコンやFPGAで構成されていてもよい。
【0038】
制御装置30は、第1の光、第2の光、及び第3の光を撮像したエリアセンサ23,24からの信号である第1の信号、第2の信号、及び第3の信号に基づいてサンプル100の膜厚を導出する。制御装置30は、膜厚の導出に係る処理として、エリアセンサ23,24からの信号に基づく波長重心導出処理と、波長重心等に基づく膜厚導出処理とを実施する。また、制御装置30は、膜厚導出処理を実施する前提として、膜厚と波長重心との関係情報を記憶している。制御装置30は、上述した各処理及び記憶を実現する機能的構成として、解析部32と、記憶部33と、を有している。解析部32は、波長重心導出処理及び膜厚導出処理を実施する機能である。記憶部33は、上述した関係情報を記憶する。以下では、最初に波長重心導出処理について説明し、続いて膜厚と波長重心との関係情報について説明し、最後に膜厚導出処理について説明する。
【0039】
(波長重心導出処理)
解析部32は、光を検出したエリアセンサ23,24からの信号に基づいて、サンプル100に関する波長重心を導出する。すなわち、解析部32は、第1の光を検出したエリアセンサ23,24からの信号である第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、第2の光を検出したエリアセンサ23,24からの信号である第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する。更に、解析部32は、第3の光を検出したエリアセンサ23,24からの信号である第3の信号に基づいて第3の波長重心を導出する。
【0040】
解析部32は、エリアセンサ23における検出結果を示すエリアセンサ23からの信号に基づき特定される透過光量(傾斜ダイクロイックミラー22を透過した光の強度)と、エリアセンサ24における検出結果を示すエリアセンサ24からの信号に基づき特定される反射光量(傾斜ダイクロイックミラー22を反射した光の強度)とに基づき、波長重心として、画素毎の光の波長重心を導出してもよい。具体的には、解析部32は、以下の(1)式に基づいて、各画素の波長重心を導出する。以下の(1)式において、x´は波長重心、IT´は透過光量、IR´は反射光量を示している。
x´=(IT´-IR´)/2(IT´+IR´) (1)
【0041】
なお、解析部32は、更に、傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長(所定の波長域の中心波長)と、傾斜ダイクロイックミラー22の幅と、を考慮して、画素毎の光の波長重心を導出してもよい。傾斜ダイクロイックミラー22の幅とは、例えば傾斜ダイクロイックミラー22において透過率が0%となる波長から透過率が100%となる波長までの波長幅である。この場合、解析部32は、以下の(2)式に基づいて、各画素の波長重心を導出してもよい。以下の(2)式において、x´は波長重心、IT´は透過光量、IR´は反射光量、λ0は傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長、Aは傾斜ダイクロイックミラー22の幅を示している。
x´=λ0+A(IT´-IR´)/2(IT´+IR´) (2)
【0042】
図6は、透過光量及び反射光量に応じた波長シフトを説明する図である。上述した(1)式又は(2)式によってx´(波長重心)を導出する場合、
図6に示されるように、IT´(透過光量)=IR´(反射光量)である画素については、x´=λ0(傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長)とされる。また、IT´<IR´である画素、すなわち透過光量よりも反射光量が多い画素については、x´=λ1(λ0よりも短波長側の波長)とされる。また、IT´>IR´である画素、すなわち透過光量が反射光量よりも多い画素については、x´=λ2(λ0よりも長波長側の波長)とされる。このように、x´(波長重心)は、透過光量及び反射光量に基づいて値がシフト(波長シフト)する。
【0043】
そして、波長重心は、膜厚と相関性があるため、膜厚の導出に用いることができる。
図7は、膜厚毎の波長に応じた反射率を示す図である。
図7では、横軸が波長、縦軸が反射率とされている。
図7に示される例では、膜厚が820nmの例、830nmの例、840nmの例のそれぞれについて波長と反射率との関係が示されている。
図7に示されるように、膜厚の違いによって、波長重心が異なることとなる。このように、波長重心と膜厚とは相関性があるため、波長重心が特定されることにより、膜厚を推定することが可能となる。具体的な膜厚導出処理については後述する。
【0044】
(膜厚と波長重心との関係情報)
図1に戻り、記憶部33は、光照射部10から出射される光の波長毎に、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を記憶する。上述したように、膜厚と波長重心とは相関性がある。そのため、膜厚と波長重心との関係情報が予め準備されていることにより、該関係情報と実際に測定された波長重心とから、膜厚を導出することができる。記憶部33は、関係情報を、膜の種類毎に記憶している。すなわち、記憶部33は、光照射部10から出射される光の波長及び膜の種類の組み合わせ毎に、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を記憶している。
【0045】
関係情報は、膜の種類に応じた理論反射率と、膜厚測定装置1全体の分光特性(分光感度)と、に基づき導出されたものであってもよい。理論反射率は、膜の種類(膜の屈折率及び膜の消衰係数)及び膜厚が定まれば、波長毎の値が定まる。膜厚測定装置1全体の分光特性は、光照射部10から出射される光の波長毎に定まる。膜厚測定装置1全体の分光特性は、種々の方法により、予め特定(見積り)されていればよい。また、関係情報は、予め、膜厚と波長重心との関係を把握するための基準サンプルに関する測定を実施することにより、実測値から導出されたものであってもよい。以下では、関係情報が、膜の種類に応じた理論反射率と、膜厚測定装置1全体の分光特性(分光感度)と、に基づき導出されたものであるとして説明する。
【0046】
図8は、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を示す波形である。このような関係情報を用いて波長重心の値から膜厚を推定する例を考える。
図8において、横軸は膜厚d、縦軸は波長重心x´を示している。いま、波長重心が、
図8において横方向に延びる破線で示される値であったとする。この場合、
図8に示されるように、当該波長重心に対応する膜厚として、複数の膜厚候補(
図8に示される例では10パターンの膜厚候補)が考えられる。このため、
図8に示される関係情報のみから膜厚を一意に特定することができない。
【0047】
また、
図8に示されるように、関係情報を示す波形においては、破線の円で示された極値(極大値・極小値)を複数有するところ、このような極値では波形のカーブの傾きがなだらか(緩やか)になる。カーブの傾きがなだらかになる箇所においては、波長重心の違いによる膜厚の違いが出にくくなり、波長重心に対応する膜厚を正確に特定することができない場合がある。
【0048】
このように、光照射部10から出射される1つの光の波長についての、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報のみから膜厚を導出しようとすると、膜厚を正確に導出することができない場合がある。このため、記憶部33は、複数種類の波長(光照射部10から出射される光の波長)について、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を記憶している。
【0049】
図9は、複数種類の波長(光照射部10から出射される光の波長)それぞれについて、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を示す波形である。
図9に示される例では、3種類の波長、すなわち光照射部10から出射される第1の光、第2の光、及び第3の光のそれぞれの波長について、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を示す波形が示されている。第1の光の波長の波長域は、400~700nmである。第2の光の波長域は、610~700nmである。第3の光の波長域は、400~550nmである。
【0050】
図9に示されるように、複数種類の波長それぞれについての関係情報を示す波形においては、極値(極大値・極小値)の領域が互いに一致しないため、いずれかの波形に基づき、膜厚を適切に導出することができる。
図9に示される例では、領域301については少なくとも第1の光の波形201が極値から遠くカーブの傾きが比較的大きいので第1の光の波形201に基づき膜厚を適切に導出することができ、領域302については少なくとも第2の光の波形202が極値から遠くカーブの傾きが比較的大きいので第2の光の波形202に基づき膜厚を適切に導出することができ、領域303については少なくとも第3の光の波形203が極値から遠くカーブの傾きが比較的大きいので第3の光の波形203に基づき膜厚を適切に導出することができる。また、複数種類の波長それぞれについての関係情報を示す波形から膜厚候補が導出される場合、複数の波長それぞれの膜厚候補の一致性等が考慮されることによって、膜厚を一意に導出することができる(詳細は後述)。
【0051】
記憶部33が記憶する、上記関係情報を示す波形の例について、
図10及び
図11を参照して説明する。上述したように、膜厚と波長重心との関係情報は、膜の種類に応じた理論反射率と、膜厚測定装置1全体の分光特性(分光感度)とに基づき導出されたものである。
図10(a)は、
図2に示される構成(多色LEDアレイ光源10aを用いる構成)における、単色光の組み合わせ毎の波長に応じたシステム分光特性を示す図である。
図10(a)において、横軸は波長、縦軸は分光特性を示している。
図10(a)に示されるように、単色光の組み合わせ毎に、透過側及び反射側の分光特性が導出される。関係情報の導出は、詳細には、理論反射率と膜厚測定装置1の分光特性とから波長重心の期待値が導出されることと、波長重心の期待値がプロットされてカーブフィッティングにより関係式が導出されることと、が実施されることにより行われる。なお、カーブフィッティングの方式としては、例えば、多項式近似法やその他曲線あてはめ法などがある。また、カーブフィッティング以外にも補間法などを用いて波長とスペクトル強度との関係を示す曲線を導出してもよい。
【0052】
膜の種類が定まっている場合、波長毎の理論反射率の値は、膜厚に応じて決まる。ある膜厚が指定されて、波長毎の理論反射率の値が決まっているとする。この場合、波長毎の理論反射率と、波長毎の膜厚測定装置1の透過側の分光特性とに基づいて、エリアセンサ23において測定される透過光量の期待値を推定することができる。エリアセンサ23には分光機能がないため、エリアセンサ23において測定される透過光量の期待値は、各波長についての光の強度が積分された値となる。同様に、波長毎の理論反射率と、波長毎の膜厚測定装置1の反射側の分光特性とに基づいて、エリアセンサ24において測定される反射光量の期待値を推定することができる。そして、上述した(1)式又は(2)式より、透過光量の期待値及び反射光量の期待値から、波長重心の期待値を導出することができる。このように、膜の種類が定められた状態において、ある膜厚における波長重心の期待値を導出することができる。そして、同じ膜の種類で且つ膜厚の条件を変えながら、各膜厚における波長重心の期待値を導出する。これにより、ある膜の種類について、複数の膜厚条件それぞれの波長重心の期待値が導出された状態となる。いま、ある膜の種類について、複数の膜厚条件における波長重心の期待値がそれぞれ導出されているとする。そして、膜厚と波長重心の期待値とが複数プロットされたデータに対してカープフィッティングを行うことにより、膜厚dと波長重心x´との関係を示す波形(曲線)が導出される。なお、カーブフィッティングの方式としては、例えば、多項式近似法やその他曲線あてはめ法などがある。また、カーブフィッティング以外にも補間法などを用いて波長とスペクトル強度との関係を示す曲線を導出してもよい。
【0053】
このような曲線の導出を、
図10(a)に示される単色光の組み合わせ毎に(すなわち、第1の光~第3の光について)行うことにより、
図10(b)に示されるように、第1の光に関する関係情報を示す波形401と、第2の光に関する関係情報を示す波形402と、第3の光に関する関係情報を示す波形403と、が導出される。記憶部33は、このような波形401~403を、第1の光~第3の光についての、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を示す波形として記憶している。
【0054】
図11(a)は、
図3に示される構成(白色光源10b及びフィルタ切り替え機構10cを用いる構成)における、設定フィルタ毎の波長に応じたシステム分光特性を示す図である。
図11(a)において、横軸は波長、縦軸は分光特性を示している。
図11(a)に示されるように、フィルタ無し、ロングパスフィルタを設定、ショートパスフィルタを設定、のそれぞれの状況毎に、透過側及び反射側の分光特性が導出される。いま、フィルタ無しの場合の白色光源10bからの光が、第1の波長を有する第1の光であるとする。また、ショートパスフィルタを経る場合の白色光源10bからの光が、第2の波長を有する第2の光であるとする。また、ロングパスパスフィルタを経る場合の白色光源10bからの光が、第3の波長を有する第3の光であるとする。そして、上述した方法と同様の方法により、理論反射率と膜厚測定装置1の分光特性とから波長重心の期待値が導出されることと、波長重心の期待値がプロットされてカーブフィッティングにより関係式が導出されることと、が実施されることにより、第1の光~第3の光について、それぞれ、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形が導出される。すなわち、
図11(b)に示されるように、第1の光に関する関係情報を示す波形501と、第2の光に関する関係情報を示す波形502と、第3の光に関する関係情報を示す波形503と、が導出される。記憶部33は、このような波形501~503を、第1の光~第3の光についての、サンプル100の膜厚と波長重心との関係情報を示す波形として記憶している。
【0055】
(膜厚導出処理)
解析部32は、第1の波長(第1の光の波長)におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び、第1の信号に基づいて導出した第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出する。同様に、解析部32は、第2の波長(第2の光の波長)におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び、第2の信号に基づいて導出した第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出する。同様に、解析部32は、第3の波長(第3の光の波長)におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び、第3の信号に基づいて導出した第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を導出する。そして、解析部32は、第1の膜厚候補、第2の膜厚候補、及び第3の膜厚候補に基づいて、サンプル100の膜厚を導出する。
【0056】
膜厚導出の具体的な工程について、
図12~
図18を参照して説明する。
図12は、膜厚測定(膜厚導出)の具体的な工程を示すフローチャートである。
図12に示されるように、膜厚導出処理では、最初に、膜厚探索ブロックの設定が行われる(ステップS1)。
【0057】
図13(a)~(c)は、互いに異なる3つの波長パターン毎の膜厚探索ブロックの設定について説明する図である。ここでの3つの波長パターンとは、第1の波長(第1の光の波長)の波長パターン1、第2の波長(第2の光の波長)の波長パターン2、第3の波長(第3の光の波長)の波長パターン3を意味している。
図13(a)は、波長パターン1の関係情報における膜厚探索ブロックの設定を説明する図である。
図13(b)は、波長パターン2の関係情報における膜厚探索ブロックの設定を説明する図である。
図13(c)は、波長パターン3の関係情報における膜厚探索ブロックの設定を説明する図である。
図13(a)~(c)に示されるように、膜厚探索ブロックの設定では、各波長パターンの関係情報毎に、極値を求めて、極値と極値との間を1つの膜厚探索ブロックとして設定する。この場合、
図13(a)に示される波長パターン1の関係情報においては膜厚探索ブロックが11個設定される。また、
図13(b)に示される波長パターン2の関係情報においては膜厚探索ブロックが13個設定される。また、
図13(c)に示される波長パターン3の関係情報においては膜厚探索ブロックが10個設定される。
【0058】
図12に示されるように、続いて、膜厚候補を導出する対象とする膜厚探索ブロックの限定が行われる(ステップS2)。
図14は、膜厚探索ブロックの限定を行わない場合の、膜厚候補の導出について説明する図である。
図14に示されるように、波長重心の測定値から膜厚候補が導出される場合、膜厚候補が複数存在するため、全ての膜厚探索ブロックについて膜厚候補の導出が行われると、膜厚候補の導出に時間を要してしまう。
【0059】
そこで、本実施形態に係る膜厚導出処理では、膜厚候補を導出する対象とする膜厚探索ブロックの限定が行われる。
図15は、膜厚予想範囲に応じた膜厚候補の導出について説明する図である。
図15に示されるように、解析部32は、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、膜厚予想範囲内のみから、膜厚候補(第1~第3の膜厚候補)の導出を行う。より具体的には、解析部32は、膜厚予想範囲内の膜厚探索ブロックのみを、膜厚候補を導出する対象とする膜厚探索ブロックとし、該膜厚候補を導出する対象とする膜厚探索ブロックのみから、膜厚候補を導出する。
【0060】
図12に示されるように、続いて、膜厚候補を導出する対象とされた膜厚探索ブロック毎に、膜厚候補が導出される(ステップS3)。
図16は、各波長パターンについての膜厚候補の導出について説明する図である。
図16には、波長パターン1に関する関係情報の波形601と、波長パターン2に関する関係情報の波形602と、波長パターン3に関する関係情報の波形603と、が示されている。いま、膜厚予想範囲に応じた膜厚探索ブロックの限定が行われており、各波形601,602,603の細線部分については、膜厚候補を導出する対象から除外されている。波長パターン1の波形601については、波長重心の測定値に基づき、2つの膜厚候補である膜厚候補1及び膜厚候補2が導出されている。また、波長パターン2の波形602については、波長重心の測定値に基づき、2つの膜厚候補である膜厚候補3及び膜厚候補4が導出されている。また、波長パターン3の波形603については、波長重心の測定値に基づき、1つの膜厚候補5が導出されている。
【0061】
図17は、導出された膜厚候補を示す図である。
図17において、横軸は波長パターンNo、縦軸は膜厚を示している。
図17に示されるように、上述した膜厚候補1~5は、それぞれ、膜厚701、膜厚702、膜厚703、膜厚704、膜厚705で示される。すなわち、波長パターン1の膜厚候補として、膜厚701と、膜厚701よりも大きい膜厚702とが示されている。また、波長パターン2の膜厚候補として、膜厚704と、膜厚704よりも小さく膜厚703とが示されている。また、波長パターン3の膜厚候補として、膜厚705が示されている。
図17に示されるように、膜厚701,704,705は、互いに大きさ(厚み)が近似している。
【0062】
図12に示されるように、続いて、各波長パターンの膜厚候補が1つずつ含まれるように膜厚候補の全ての組み合わせが選出される(ステップS4)。
図18は、膜厚候補の最適な組み合わせ選出に基づく膜厚導出について説明する図である。
図18において縦軸は膜厚を示している。
図18に示されるように、各波長パターンの膜厚候補が1つずつ含まれる組み合わせとして、膜厚701,703,705からなる組み合わせ1と、膜厚701,704,705からなる組み合わせ2と、膜厚702,703,705からなる組み合わせ3と、膜厚702,704,705からなる組み合わせ4と、が選出される。
【0063】
図12に示されるように、最後に、上述した膜厚の組み合わせから最適な組み合わせが選出される(ステップS5)。ここでの最適な組み合わせとは、組み合わせに含まれる各膜厚の標準偏差値が最も小さい組み合わせを言う。
図18に示されるように、膜厚701,704,705からなる組み合わせ2が最も膜厚の標準偏差値が小さいので、組み合わせ2が最適な組み合わせとして選出される。そして、当該組合せ2に含まれる膜厚701,704,705の値(例えばこれらの平均値)が、最終膜厚値として導出される。
【0064】
次に、本実施形態に係る膜厚測定装置1の作用効果について説明する。
【0065】
膜厚測定装置1は、基板100aに膜100bが形成されたサンプル100の膜厚を測定する。膜厚測定装置1は、サンプル100に対して第1の波長を有する第1の光、及び、第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光をそれぞれ照射する光照射部10と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、サンプル100からの第1の光及び第2の光を透過及び反射することにより分離する傾斜ダイクロイックミラー22と、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第1の光及び傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第1の光を検出し、第1の信号を出力すると共に、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第2の光及び傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第2の光を検出し、第2の信号を出力するエリアセンサ23,24と、第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する解析部32と、を備える。解析部32は、第1の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出し、第2の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出し、第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補に基づいて、サンプル100の膜厚を導出する。
【0066】
本実施形態に係る膜厚測定装置1では、サンプル100に対して第1の波長を有する第1の光が照射され、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射されたサンプル100からの第1の光及びサンプル100を透過した第1の光が検出されて第1の信号が出力され、第1の信号に基づいて第1の波長重心が導出される。そして、予め規定されている第1の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報と、導出した第1の波長重心とから、少なくとも1つの第1の膜厚候補が導出される。また、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、サンプル100に対して第2の波長を有する第2の光が照射され、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射されたサンプル100からの第2の光及び傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第2の光が検出されて第2の信号が出力され、第2の信号に基づいて第2の波長重心が導出される。そして、予め規定されている第2の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報と、導出した第2の波長重心とから、少なくとも1つの第2の膜厚候補が導出される。更に、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、上述した第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補に基づき、サンプル100の膜厚が導出される。
【0067】
このように、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、互いに異なる複数の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出される。例えば、ある1種類の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報と導出した波長重心とから膜厚を導出しようとする場合、導出した波長重心に対応する膜厚の候補が複数存在し、膜厚を一意に特定することができない場合がある。また、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形の形状によっては、波形の極値がなだらかになり、波長重心の違いによる膜厚の違いが出にくくなり、波長重心に対応する膜厚を正確に導出することができない場合がある。この点、上述したように、互いに異なる複数の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出されることにより、1つの波長の光では膜厚を一意に特定することができない場合であっても、複数の波長の光それぞれの膜厚候補の一致性等を考慮することによって、膜厚候補に基づき、適切にサンプル100の膜厚を導出することができる。また、互いに異なる複数の波長の光については、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形の極値(膜厚を正確に導出することができない範囲)が互いに一致しないため、それぞれの膜厚候補に基づき、適切にサンプル100の膜厚を導出することができる。以上のように、本実施形態に係る膜厚測定装置1によれば、サンプル100の膜厚を高精度に測定することができる。
【0068】
図19(a)は膜厚ムラが大きいサンプル100における膜厚導出を説明する図である。例えば
図19(a)に示されるように、500nm±100nm程度の膜厚ムラがあるサンプル100(酸化膜等のサンプル100)であっても、本実施形態に係る膜厚測定装置1の手法によれば、高レンジ測定が可能であるので、高精度に膜厚を測定することができる。
【0069】
図19(b)は膜厚の正解データの一例である。
図19(c)は
図19(b)に示される正解データに対応する多波長解析結果を示す図である。
図19(b)(c)において、横軸及び縦軸は、サンプル100における位置を示している。また、
図19(b)(c)において、色の濃淡は膜厚を示している。
図19(b)(c)に示されるように、上述した本実施形態に係る膜厚測定装置1の手法(すなわち、多波長解析に基づく膜厚導出)によれば、膜厚の正解データとの一致度が高い、精度の高い膜厚測定を実施することができた。
【0070】
光照射部10は、サンプル100に対して、第1の波長及び第2の波長と異なる第3の波長を有する第3の光を更に照射し、傾斜ダイクロイックミラー22は、サンプル100からの第3の光を透過及び反射することにより更に分離し、エリアセンサ23,24は、傾斜ダイクロイックミラー22によって反射された第3の光及び傾斜ダイクロイックミラー22を透過した第3の光を更に検出し、第3の信号を出力し、解析部32は、第3の信号に基づいて第3の波長重心を更に導出し、第3の波長におけるサンプル100の膜厚と波長重心との関係情報、及び第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を更に導出し、第1の膜厚候補、第2の膜厚候補、及び第3の膜厚候補に基づいて、サンプル100の膜厚を導出してもよい。このように、互いに異なる3種類の波長の光に基づいて、それぞれ一又は複数の膜厚候補が導出されることにより、2種類の波長の光を用いる場合と比べて更に、膜厚を一意に特定しやすくなる。これによって、サンプル100の膜厚をより高精度に測定することができる。
【0071】
解析部32は、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、膜厚予想範囲内のみから、第1の膜厚候補及び第2の膜厚候補を導出してもよい。予め膜厚予想範囲が想定されている場合には、膜厚予想範囲内のみから膜厚候補を導出することにより、膜厚導出に係る処理時間を短縮することができる。
【0072】
光照射部10は、3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な多色LEDアレイ光源10aを有し、3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される第1の光を、サンプル100に対して照射してもよい。膜厚と波長重心との関係情報を示す波形は、光の波長幅が広いほどカーブの傾きが急になり、光の波長幅が狭いほどカーブの傾きが緩やかになる。波形のカーブの傾きが急である箇所ほど、波長重心の変化に対して膜厚の変化が大きくなるので、正確に膜厚を導出することができる。このため、2波長の単色光が同時出射されて第1の光の波長幅が広くされることにより、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形におけるカーブを急にすることができ、サンプル100の膜厚をより高精度に測定することができる。
【0073】
図20(a)は比較的波長範囲(波長幅)が狭い光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
図20(b)は比較的波長範囲(波長幅)が広い光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
図20(c)は比較的波長範囲(波長幅)が広く、複数山(2つの極大値)を有する光が用いられる場合の波長重心と膜厚との関係を示す図である。
図20(a)~
図20(c)において、膜反射率の条件は互いに同じであり、膜厚の変化に応じて膜反射率が変化する。いま、
図20(a)(b)に示されるように、光源から出射される光の波長範囲が比較的狭い場合には、光の波長範囲が比較的広い場合と比べて、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形におけるカーブの傾きが小さくなる。この場合、波長重心の変化に対して膜厚の変化が小さくなり、正確に膜厚を導出しにくくなる。反対に、光源から出射される光の波長範囲(波長幅)が広くされることにより、膜厚導出精度を向上させることができる。また、
図20(b)(c)に示されるように、比較的波長範囲(波長幅)が広く複数山(2つの極大値)を有する光が用いられることにより、一山(1つの極大値)を有する光が用いられる場合よりもさらに、膜厚と波長重心との関係情報を示す波形におけるカーブの傾きが大きくなり、膜厚導出精度を向上させることができる。
【0074】
多色LEDアレイ光源10aから出射される2波長の単色光は、赤色波長の光と青色波長の光であってもよい。このように、2波長の単色光が、互いに波長の相違が大きい赤色波長の光と青色波長の光とされることにより、第1の光の波長幅を広くして、サンプル100の膜厚をより高精度に測定することができる。なお、赤色波長の光とは、610nm以上780nm以下の波長範囲の一部の波長を含む光であり、緑色波長の光とは、500nm以上570nm以下の波長範囲の一部の波長を含む光であり、青色波長の単色光とは、430nm以上490nm以下の波長範囲の一部の波長を含む光である。
【0075】
図21(a)は赤色波長の光及び青色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(b)は緑色波長の光及び青色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(c)は赤色波長の光及び緑色波長の光が用いられる場合の膜厚マッピング結果を示す図である。
図21(d)は膜厚マッピング結果の正解データを示す図である。いま、多色LEDアレイ光源10aから出射される2波長の単色光の組み合わせを変えながら、その他の条件は同一として、膜厚マッピング(サンプル100の各領域の膜厚をマッピング)を行った場合の一例について説明する。
図21(d)は、膜厚マッピングの正解データを示している。
図21(a)~(d)に示されるように、2波長の単色光の組み合わせが赤色波長及び青色波長の場合(
図21(a)参照)において、膜厚の正解データとの一致度が最も高くなった。すなわち、2波長の単色光が、互いに波長の相違が大きい赤色波長の光と青色波長の光とされることにより、サンプル100の膜厚を高精度に測定することができた。
【0076】
最後に、本開示に含まれる種々の例示的態様を、以下の[E1]~[E6]に記載する。
【0077】
[E1]
基板に膜が形成された対象物の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、
前記対象物に対して第1の波長を有する第1の光、及び、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光をそれぞれ照射する光照射部と、
所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、前記対象物からの前記第1の光及び前記第2の光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、
前記光学素子によって反射された前記第1の光及び前記光学素子を透過した前記第1の光を検出し、第1の信号を出力すると共に、前記光学素子によって反射された前記第2の光及び前記光学素子を透過した前記第2の光を検出し、第2の信号を出力する光検出部と、
前記第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、前記第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出する解析部と、を備え、
前記解析部は、
前記第1の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出し、
前記第2の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出し、
前記第1の膜厚候補及び前記第2の膜厚候補に基づいて、前記対象物の膜厚を導出する、膜厚測定装置。
【0078】
[E2]
前記光照射部は、前記対象物に対して、前記第1の波長及び前記第2の波長と異なる第3の波長を有する第3の光を更に照射し、
前記光学素子は、前記対象物からの前記第3の光を透過及び反射することにより更に分離し、
前記光検出部は、前記光学素子によって反射された前記第3の光及び前記光学素子を透過した前記第3の光を更に検出し、第3の信号を出力し
前記解析部は、
前記第3の信号に基づいて第3の波長重心を更に導出し、前記第3の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を更に導出し、
前記第1の膜厚候補、前記第2の膜厚候補、及び前記第3の膜厚候補に基づいて、前記対象物の膜厚を導出する、[E1]記載の膜厚測定装置。
【0079】
[E3]
前記解析部は、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、前記膜厚予想範囲内のみから、前記第1の膜厚候補及び前記第2の膜厚候補を導出する、[E1]又は[E2]記載の膜厚測定装置。
【0080】
[E4]
前記光照射部は、
3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な光源を有し、
前記3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される前記第1の光を、前記対象物に対して照射する、[E1]~[E3]のいずれか一項記載の膜厚測定装置。
【0081】
[E5]
前記2波長の単色光は、赤色波長の光と青色波長の光である、[E4]記載の膜厚測定装置。
【0082】
[E6]
基板に膜が形成された対象物の膜厚を測定する膜厚測定装置が実行する膜厚測定方法であって、
前記対象物に対して第1の波長を有する第1の光を照射する第1の照射ステップと、
所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化する光学素子を用いて、前記対象物からの前記第1の光を透過及び反射する第1の分離ステップと、
前記光学素子によって反射された前記第1の光及び前記光学素子を透過した前記第1の光を検出し、第1の信号を出力する第1の光検出ステップと、
前記第1の信号に基づいて第1の波長重心を導出すると共に、前記第1の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第1の波長重心から、少なくとも1つの第1の膜厚候補を導出する第1の演算ステップと、
前記対象物に対して前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2の光を照射する第2の照射ステップと、
前記光学素子を用いて、前記対象物からの前記第2の光を透過及び反射する第2の分離ステップと、
前記光学素子によって反射された前記第2の光及び前記光学素子を透過した前記第2の光を検出し、第2の信号を出力する第2の光検出ステップと、
前記第2の信号に基づいて第2の波長重心を導出すると共に、前記第2の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第2の波長重心から、少なくとも1つの第2の膜厚候補を導出する第2の演算ステップと、
前記第1の演算ステップによって求められた少なくとも1つの前記第1の膜厚候補と、前記第2の演算ステップによって求められた少なくとも1つの前記第2の膜厚候補と、に基づいて、前記対象物の膜厚を導出する解析ステップと、を備える、膜厚測定方法。
【0083】
[E7]
前記対象物に対して、前記第1の波長及び前記第2の波長と異なる第3の波長を有する第3の光を更に照射する第3の照射ステップと、
前記対象物からの前記第3の光を透過及び反射することにより更に分離する第3の分離ステップと、
前記光学素子によって反射された前記第3の光及び前記光学素子を透過した前記第3の光を更に検出し、第3の信号を出力する第3の光検出ステップと、
前記第3の信号に基づいて第3の波長重心を更に導出し、前記第3の波長における前記対象物の膜厚と波長重心との関係情報、及び前記第3の波長重心から、少なくとも1つの第3の膜厚候補を更に導出する第3の演算ステップと、を更に備え、
前記解析ステップでは、前記第1の膜厚候補、前記第2の膜厚候補、及び前記第3の膜厚候補に基づいて、前記対象物の膜厚を導出する、[E6]記載の膜厚測定方法。
【0084】
[E8]
前記解析ステップでは、予め、膜厚設計値から膜厚予想範囲を設定しておき、前記膜厚予想範囲内のみから、前記第1の膜厚候補及び前記第2の膜厚候補を導出する、[E6]又は[E7]記載の膜厚測定方法。
【0085】
[E9]
前記第1の照射ステップでは、、
3波長以上の単色光をそれぞれ出射可能な光源から照射される前記3波長以上の単色光の内、2波長の単色光を同時に出射することにより構成される前記第1の光を、前記対象物に対して照射する、[E6]~[E8]のいずれか一項記載の膜厚測定装置。
【0086】
[E10]
前記2波長の単色光は、赤色波長の光と青色波長の光である、[E9]記載の膜厚測定方法。
【符号の説明】
【0087】
1…膜厚測定装置、10…光照射部、10a…多色LEDアレイ光源(光源)、22…傾斜ダイクロイックミラー(光学素子)、23,24…エリアセンサ(光検出部)、32…解析部、100…サンプル、100a…基板、100b…膜。