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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014962
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】蓄冷材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240125BHJP
   A61J 3/00 20060101ALI20240125BHJP
   A23L 3/36 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C09K5/06 K
C09K5/06 G
C09K5/06 F
A61J3/00 301
A23L3/36 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195013
(22)【出願日】2023-11-16
(62)【分割の表示】P 2020019822の分割
【原出願日】2020-02-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】町田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基啓
(72)【発明者】
【氏名】竹口 伸介
(57)【要約】
【課題】本開示は、液状医薬品または食品の保存および冷蔵に適した蓄冷材を提供する。
【解決手段】
本開示に係る蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀酸化物を含有する。この蓄冷材は、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、かつ摂氏0度以上の前記融点以下の結晶化温度を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷材であって、
テトラヒドロフラン、
水、および
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀酸化物
を含有し、
前記蓄冷材は、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、かつ
前記蓄熱材は、摂氏0度以上の前記融点以下の結晶化温度を有する、
蓄冷材。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄冷材であって、
前記銀酸化物が、前記リン酸銀である、
蓄冷材。
【請求項3】
請求項1に記載の蓄冷材であって、
前記銀酸化物が、前記炭酸銀である、
蓄冷材。
【請求項4】
請求項1に記載の蓄冷材であって、
前記銀酸化物が、前記酸化銀である、
蓄冷材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄冷材であって、
前記水に対する前記テトラヒドロフランのモル比が、0.05以上0.07以下である、
蓄冷材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄冷材であって、
前記水に対する前記銀化合物のモル比が、2.64×10-6以上3.70×10-2以下である、
蓄冷材。
【請求項7】
クーラーボックスであって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄冷材を具備する、
クーラーボックス。
【請求項8】
請求項7に記載のクーラーボックスであって、
液状医薬品または食品を含有する、
クーラーボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄冷材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、冷却によりクラスレートハイドレートが構成される蓄冷材を開示している。特許文献1に開示されたサンプルC-6による蓄冷材は、0.05mmolのAgIおよび19重量%のテトラヒドロフラン水溶液から構成されている。サンプルC-6による蓄冷材は、摂氏4.6度の融点および摂氏マイナス7度の結晶化温度を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-059676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、液状医薬品または食品の保存および冷蔵に適した蓄冷材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る蓄冷材は、
テトラヒドロフラン、
水、および
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀酸化物
を含有し、
前記蓄冷材は、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、かつ
前記蓄熱材は、摂氏0度以上の前記融点以下の結晶化温度を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、液状医薬品または食品の保存および冷蔵に適した蓄冷材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、蓄冷時における蓄冷材の特性を示すグラフである。
図2図2は、放冷時における蓄冷材の特性を示すグラフである。
図3図3は、第2実施形態によるクーラーボックス100の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、冷却時における蓄冷材の特性を示すグラフである。図1において、横軸および縦軸は、それぞれ、時間および温度を指し示す。
【0010】
第1実施形態による蓄冷材は、冷却される。図1に含まれる区間Aを参照せよ。一般的な液体の場合とは異なり、蓄冷材の技術分野においてよく知られているように、蓄冷材の冷却により蓄冷材の温度がその融点に到達しても、蓄冷材は固化せず、過冷却状態となる。図1に含まれる区間Bを参照せよ。過冷却状態において、蓄冷材は液体である。
【0011】
次いで、蓄冷材は、自発的に結晶化し始める。結晶化に伴い、蓄冷材は潜熱にほぼ等しい結晶化熱を放出する。その結果、蓄冷材の温度は上昇し始める。図1に含まれる区間Cを参照せよ。本明細書において、蓄冷材が自発的に結晶化し始める温度は、「結晶化温度」と言う。
【0012】
ΔTは、蓄冷材の融点および結晶化温度の差を表す。ΔTは、「過冷却度」とも呼ばれ得る。過冷却状態における蓄冷材の結晶化により、蓄冷材はセミクラスハイドレートとなる(例えば、特許文献2を参照せよ)。ここで、クラスレートハイドレートとは、水分子が水素結合によってかご状の結晶を作り、その中に水以外の物質が包み込まれてできる結晶のことを言う。また、セミクラスハイドレートとは、ゲスト分子が水分子の水素結合ネットワークに参加してできる結晶のことをいう。水分子とゲスト分子が過不足なくハイドレートを形成する濃度を調和濃度という。一般的にハイドレートは調和濃度付近で利用される場合が多い。
【0013】
結晶化の完了と共に蓄冷材の結晶化熱の放出が完了した後は、蓄冷材の温度は、周囲温度と等しくなる様に徐々に下がる。図1に含まれる区間Dを参照せよ。
【0014】
結晶化温度は、蓄冷材の融点より低い。蓄冷材の融点は、蓄冷材の技術分野においてよく知られているように、示差走査熱量計(これは「DSC」とも呼ばれ得る)を用いて測定され得る。
【0015】
図2は、加温時における蓄冷材の特性を示すグラフである。図2において、横軸および縦軸は、それぞれ、時間および温度を指し示す。区間Eの間、蓄冷材の温度は、結晶化温度以下の温度に維持されている。例えば、クーラーボックスの蓋が閉められている間、クーラーボックス内に配置された蓄冷材の温度が結晶化温度以下に維持されるように、クーラーボックスの内部の温度は結晶化温度以下に設定されている。
【0016】
次に、蓄冷材は、徐々に加温される。図2に含まれる区間Fを参照せよ。例えば、区間Eの終わり(すなわち、区間Fの始まり)でクーラーボックスの蓋が開けられると(または蓋が開けられて食品が収められると)、クーラーボックスの内部の温度は、徐々に高くなる。
【0017】
蓄冷材の温度が、当該蓄冷材の融点に達すると、蓄冷材の温度は、蓄冷材の融点付近に維持される。図2に含まれる区間Gを参照せよ。万一、蓄冷材がない場合には、クーラーボックスの内部の温度は、図2に含まれる区間Zに示されるように連続的に上昇する。一方、蓄冷材がある場合には、区間Gの一定期間の間、クーラーボックスの内部の温度は、蓄冷材の融点付近に維持される。このようにして、蓄冷材は蓄冷効果を発揮する。区間Gの終わりで、蓄冷材の結晶は融解して消失する。その結果、蓄冷材は液化する。
【0018】
その後、液化した蓄冷材の温度は、周囲温度と等しくなるように上昇する。図2に含まれる区間Hを参照せよ。
【0019】
蓄冷材は冷却され、再利用され得る。
【0020】
液状医薬品または食品を内部に有することができるクーラーボックスのために好適に用いられる蓄冷材のためには、以下の条件(I)および条件(II)が充足されなければならない。
条件(I)蓄冷材が、摂氏2度以上かつ摂氏8度以下の融点を有すること。一例として、蓄冷材は、摂氏3度以上かつ摂氏7度以下の融点を有すること。
条件(II)蓄冷材が、摂氏0度以上融点以下の結晶化温度を有すること。
【0021】
条件(I)の理由は、液状医薬品および食品の保存のためには、クーラーボックスの内部は、おおよそ摂氏2度以上かつ摂氏8度以下に維持されるべきであるからである。万一、クーラーボックスの内部の温度が摂氏0度未満に維持された場合には、液状医薬品および食品の内部に含有される水が氷に変化するために、液状医薬品および食品は変質し得る。一方、万一、クーラーボックスの内部の温度が摂氏8度を超える温度で維持された場合、クーラーボックスは機能していない。
【0022】
条件(II)の理由は、蓄冷材の機能を得ることを目的として蓄冷材が冷却される区間(すなわち、図1に示される区間B)における効率を高めるためである。以下、この効率は「結晶化効率」と呼ばれる。結晶化温度の低下に伴い、結晶化効率が低下する。図1(特に図1の区間B)から明らかなように、例えば、蓄冷材の機能を得ることを目的として摂氏マイナス18度の結晶化温度を有する蓄冷材(以下、「マイナス18蓄冷材」という)を冷却するためには、摂氏マイナス18度よりも低い温度(例えば、摂氏マイナス20度)で維持される冷凍庫で蓄冷材を冷却する必要がある。一方、例えば、蓄冷材の機能を得ることを目的として摂氏マイナス1度の結晶化温度を有する蓄冷材(以下、「マイナス1蓄冷材」という)を冷却するためには、摂氏マイナス1度よりも低い温度で維持される冷凍庫で蓄冷材が冷却される。マイナス1蓄冷材を冷却するために必要とされるエネルギーは、マイナス18蓄冷材を冷却するために必要とされるエネルギーよりも小さい。従って、結晶化温度が高ければ高いほど、結晶化効率は向上する。
【0023】
この技術分野においては、融解熱量は、潜熱量とも呼ばれる。
【0024】
混同を予防するために、本明細書において、過冷却度ΔTのためには「ケルビン」が用いられる。例えば、本発明者は、「過冷却度ΔTがnケルビン以下である」と表記する。言うまでもないが、nは実数である。「過冷却度ΔT≦5ケルビン」という説明は、蓄冷材の結晶化温度および融点の差が5ケルビン以下ということを意味する。一方、本明細書において、温度のためには、「摂氏」が用いられる。例えば、「結晶化温度は摂氏5度(すなわち、5℃)である」と本発明者は表記する。
【0025】
第1実施形態による蓄冷材は、
テトラヒドロフラン、
水、および
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有する。
【0026】
後述される実施例において実証されるように、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏2度以上かつ摂氏8度以下の融点を有する。従って、第1実施形態による蓄冷材は、液状医薬品および食品の保存のために好適に用いられる。
【0027】
後述される実施例において実証されるように、第1実施形態による蓄冷材は、摂氏0度以上の結晶化温度を有する。一方、従来技術の欄において説明されたように、特許文献1のサンプルC-6による蓄冷材は、摂氏マイナス7度の結晶化温度を有する。従って、第1実施形態による蓄冷材は、高い結晶化効率を有する。言い換えれば、第1実施形態による蓄冷材が冷却される区間Bにおいて必要とされるエネルギーは、特許文献1のサンプルC-6による蓄冷材のそれよりも小さい。
【0028】
図1から明らかなように、結晶化温度は、融点より低い。
【0029】
第1実施形態による蓄冷材は、化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有する。後述される比較例において実証されるように、これらの3つの銀化合物に代えて、他の銀化合物(例えば、ヨウ化銀、臭化銀、または塩化銀)が用いられた場合には、結晶化温度が著しく低下する。同様に、後述される比較例において実証されるように、これらの3つの銀化合物に代えて、他の金属塩(例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化マンガン、または酸化亜鉛)が用いられた場合にも、結晶化温度が著しく低下する。
【0030】
第1実施形態による蓄冷材が摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、かつ摂氏0度以上前記融点以下の結晶化温度を有する限り、第1実施形態における蓄冷材において、水に対するテトラヒドロフランのモル比は限定されない。一例として、当該モル比は、5%以上7%以下である。水に対するテトラヒドロフランのモル比が1/17である蓄冷材が、冷却されたときに、水またはテトラヒドロフランの過不足なく水およびテトラヒドロフランの結晶が形成されることが知られている。
【0031】
実施例1A~実施例3Dから実証されるように、第1実施形態における蓄冷材において、水に対する銀化合物のモル比は限定されない。一例として、当該モル比は、2.64×10-6以上3.70×10-2以下である。
【0032】
第1実施形態による蓄冷材は、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、かつ摂氏0度以上前記融点以下の結晶化温度を有する限り、テトラヒドロフラン、水、および当該銀化合物以外の添加剤を含有していてもよい。
【0033】
添加剤の例は、過冷却抑制剤、増粘剤、および防腐剤である。
【0034】
第1実施形態による蓄冷材は、添加剤を含有しなくてもよい。言い換えれば、第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および当該銀化合物から構成されていてもよい。
【0035】
第1実施形態による蓄冷材は、テトラヒドロフラン、水、および当該銀化合物を混合することにより製造され得る。
【0036】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態によるクーラーボックスが説明される。
【0037】
図3は、第2実施形態によるクーラーボックス100の概略図を示す。
【0038】
クーラーボックス100は、底(図示せず)および側面からなる断熱ボックス101および断熱蓋102を具備する。
【0039】
断熱ボックス101の内側の底面、断熱ボックス101の内側の側面、および断熱蓋102の内側の面(すなわち、下側の面)からなる群から選択される少なくとも1つの内部に、第1実施形態による蓄冷材が設けられる。図3では、直方体の形状を有する断熱ボックス101の内側の4つの各側面に接するように、第1実施形態による蓄冷材を内包する蓄冷材パック110が設けられている。
【0040】
第1実施形態による蓄冷材は、断熱ボックス101の底の内部、断熱ボックス101の側面の内部、および断熱蓋102の内部からなる群から選択される少なくとも1つに設けられてもよい。第1実施形態による蓄冷材は、クーラーボックス100の内部の空間(すなわち、断熱ボックス101の内側の底面、断熱ボックス101の内側の側面、および断熱蓋102の内側の面により形成される空間)の内部に、第1実施形態による蓄冷材は、蓄冷材パック110の形で置かれるように、内包されていてもよい。
【0041】
断熱ボックスの側面、断熱ボックスの断熱蓋、断熱ボックス自体からなる群から選択される少なくとも1つの内部に、第1実施形態による蓄冷材が設けられていてもよい。この場合も、第1実施形態による蓄冷材は、蓄冷材パック110の形で設けられていてもよい。
【0042】
断熱ボックス101の内部に、医薬品および食品からなる群から選択される少なくとも1つが入れられることが望ましい。図3では、断熱ボックス101の内部に、医薬品120が入れられる。医薬品の例は、液状医薬品である。液状医薬品の例は、ワクチンである。ワクチンが持ち運びされる際、その品質を維持するため、ワクチンは摂氏2度以上摂氏8度以下で保存されることが求められる。第2実施形態によるクーラーボックスは、第1実施形態による蓄冷材が摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有するため、ワクチンの持ち運びに適している。
【0043】
(実施例)
以下の実施例を参照しながら、本発明がより詳細に説明される。
【0044】
本実施例において、リン酸銀は、化学式Ag3PO4により表される。リン酸銀は、三津和化学薬品株式会社より購入された。本実施例において、炭酸銀は、化学式Ag2CO3により表される。炭酸銀は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。本実施例において、酸化銀は、化学式AgOにより表される。言い換えれば、本明細書において、酸化銀は、化学式Ag2Oにより表される酸化銀(I)ではなく、酸化銀(II)である。酸化銀は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。本実施例において、テトラヒドロフランは、「THF」と略記される。THFは、東京化成工業株式会社より購入された。
【0045】
(実施例1A)
(蓄冷材の製造方法)
まず、以下の表1に示される試薬が、60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に添加され、混合物を得た。混合物はスクリュー管内で十分に撹拌され、実施例1Aによる蓄冷材を得た。
(表1)
リン酸銀 0.0419グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
【0046】
スクリュー管は、ねじのついた蓋を有するガラス管であった。
【0047】
(融点および結晶化温度の測定)
実施例1Aによる蓄冷材(約6グラム)を含有するスクリュー管を、恒温槽(エスペック株式会社製、商品名:SU-241)の内部に入れた。スクリュー管に熱電対が取り付けられ、スクリュー管内部の温度が観測された。恒温槽は、摂氏20度に2時間、維持された。次いで、恒温槽の温度は、摂氏1度/1分の速度で、低下された。恒温槽の温度が摂氏4度に到達した後、恒温槽は摂氏4度で30分間、維持された。
【0048】
その後、恒温槽の温度は、摂氏4度から摂氏マイナス20度まで、摂氏1度/24時間の速度で低下された。恒温槽に入れられた実施例1Aによる蓄冷材の温度は、熱電対およびデータロガー(株式会社キーエンス製、商品名:NR-600)を用いて記録された。蓄冷材の温度が急速に上昇した後の蓄冷材の温度(図1の区間Cを参照せよ)および融点(次の段落で説明される)から、実施例1Aによる蓄冷材の結晶化温度が算出された。
【0049】
恒温槽に入れられた実施例1Aによる蓄冷材は、摂氏マイナス20度で3時間維持された。その後、恒温槽の温度は、摂氏1度/1分の速度で、上昇された。示差走査熱量計(これは「DSC」とも呼ばれ得る)を用いて、実施例1Aによる蓄冷材の融点が測定された。その結果、実施例1Aによる蓄冷材の融点は摂氏4.5度であった。
【0050】
(実施例1B)
実施例1Bでは、表1に示される試薬に代えて以下の表2に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。
実験の結果は、表27に示される。
(表2)
リン酸銀 0.010グラム(2.39×10-5モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0051】
(実施例1C)
実施例1Cでは、表1に示される試薬に代えて以下の表 3に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表3)
リン酸銀 0.001グラム(2.39×10-6モルに等しい)
THF 19.071 グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929 グラム(約4.50モルに等しい)
【0052】
(実施例1D)
実施例1Dでは、表1に示される試薬に代えて、以下の表4に示される試薬に混合されたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表4)
実施例1Cによる蓄冷材 5.00グラム
THF 18.117グラム(約0.251モルに等しい)
純水 76.883グラム(約4.27モルに等しい)
【0053】
(実施例2A)
実施例2Aでは、表1に示される試薬に代えて以下の表5に示される試薬が用いられたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表5)
炭酸銀 0.0276グラム(1.00×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
【0054】
(実施例2B)
実施例2Bでは、表1に示される試薬に代えて以下の表6に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表6)
炭酸銀 0.01グラム(3.63×10-5モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929 グラム(約4.50モルに等しい)
【0055】
(実施例2C)
実施例2Cでは、表1に示される試薬に代えて以下の表7に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表7)
炭酸銀 0.001グラム(3.63×10-6モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0056】
(実施例2D)
実施例2Dでは、表1に示される試薬に代えて、以下の表8に示される試薬に混合されたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表8)
実施例2Cによる蓄冷材 20.00グラム
THF 15.257グラム(約0.212モルに等しい)
純水 64.743グラム(約3.60モルに等しい)
【0057】
(実施例3A)
実施例3Aでは、表1に示される試薬に代えて以下の表9に示される試薬が用いられたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表9)
酸化銀 0.0124グラム(1.00×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
【0058】
(実施例3B)
実施例3Bでは、表1に示される試薬に代えて以下の表10に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表10)
酸化銀 0.01グラム(8.07×10-5モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0059】
(実施例3C)
実施例3Cでは、表1に示される試薬に代えて以下の表11に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表11)
酸化銀 0.001グラム(8.07×10-6モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0060】
(実施例3D)
実施例3Dでは、表1に示される試薬に代えて以下の表12に示される試薬に混合されたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表12)
実施例3Cによる蓄冷材 20.0グラム
THF 15.257グラム(約0.212モルに等しい)
純水 64.743グラム(約3.60モルに等しい)
【0061】
(参考例1A)
参考例1Aでは、表1に示される試薬に代えて以下の表13に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表13)
フッ化銀 0.0127グラム(1.00×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
【0062】
(参考例1B)
参考例1Bでは、表1に示される試薬に代えて以下の表14に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表14)
フッ化銀 0.01グラム(7.88×10-5モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0063】
(参考例1C)
参考例1Cでは、表1に示される試薬に代えて以下の表15に示される試薬が用いられたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表15)
フッ化銀 0.001グラム(7.88×10-6モルに等しい)
THF 19.071グラム(約0.264モルに等しい)
純水 80.929グラム(約4.50モルに等しい)
【0064】
(参考例1D)
参考例1Dでは、表1に示される試薬に代えて以下の表16に示される試薬に混合されたこと、および60ミリリットルの容量を有するスクリュー管に代えて110ミリリットルの容量を有するスクリュー管を用いたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表16)
参考例1Cによる蓄冷材 50.0グラム
THF 9.535グラム(約0.132モルに等しい)
純水 40.465グラム(約2.25モルに等しい)
【0065】
(参考例2)
参考例2では、表1に示される試薬に代えて以下の表17に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表17)
リン酸銀 0.0419グラム(0.1×10-3モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
重水 5.407グラム(約0.270モルに等しい)
参考例2では、水は重水であったことに留意せよ。
【0066】
(比較例1)
比較例1では、表1に示される試薬に代えて以下の表18に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表18)
ヨウ化銀 0.0235グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
ヨウ化銀は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0067】
(比較例2)
比較例2では、表1に示される試薬に代えて以下の表19に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表19)
臭化銀 0.0188グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
臭化銀は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0068】
(比較例3)
比較例3では、表1に示される試薬に代えて以下の表20に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表20)
塩化銀 0.0143グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
塩化銀は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0069】
(比較例4)
比較例4では、表1に示される試薬に代えて以下の表21に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表21)
酸化チタン 0.008グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化チタンは、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0070】
(比較例5)
比較例5では、表1に示される試薬に代えて以下の表22に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表22)
酸化バナジウム 0.0182グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化バナジウムは、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0071】
(比較例6)
比較例6では、表1に示される試薬に代えて以下の表23に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表23)
酸化鉄 0.0160グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化鉄は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0072】
(比較例7)
比較例7では、表1に示される試薬に代えて以下の表24に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表24)
酸化ニッケル 0.0074グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化ニッケルは、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0073】
(比較例8)
比較例8では、表1に示される試薬に代えて以下の表25に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表25)
酸化マンガン 0.0071グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化マンガンは、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0074】
(比較例9)
比較例9では、表1に示される試薬に代えて以下の表26に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表26)
酸化亜鉛 0.0081グラム(0.1×10-4モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
純水 4.856グラム(約0.270モルに等しい)
酸化亜鉛は、富士フィルム和光純薬株式会社より購入された。
【0075】
実施例1A、2A、および3A、参考例1A、参考例2、ならびに比較例1~比較例9による蓄冷材は、およそ6ミリリットルの体積を有していた。実施例1B~1D、実施例2B~2D、実施例3B~3D、および参考例1B~1Dによる蓄冷材は、およそ100ミリリットルの体積を有していた。
【0076】
【表27】
【0077】
実施例1A~実施例3Dから明らかなように、THF、水、およびリン酸銀、炭酸銀、および酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有している蓄冷材は、摂氏4.5度の融点および摂氏1度以上摂氏2度以下の結晶化温度を有する。
【0078】
一方、比較例1~比較例3から明らかなように、THF、水、およびハロゲン化銀(フッ化銀を除く)を含有している蓄冷材は、摂氏4.5度の融点を有するが、摂氏マイナス7度以下の結晶化温度を有する。
【0079】
比較例4~比較例9から明らかなように、THF、水、および金属酸化物(酸化銀を除く)を含有している蓄冷材は、摂氏4.5度の融点を有するが、摂氏マイナス8度以下の結晶化温度を有する。
【0080】
以上のように、実施例1A~実施例3Dによる蓄冷材は、比較例1~比較例4による蓄冷材よりも、高い結晶化温度を有するため、実施例1A~実施例3Dによる蓄冷材は、比較例1~比較例4による蓄冷材よりも、高い結晶化効率を有する。
【0081】
実施例1A~実施例3Dを互いに比較すると明らかなように、蓄冷材における銀化合物の含有率は、結晶化温度に影響を与えない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示による蓄冷材は、液状医薬品または食品の保存および冷蔵に適したクーラーボックスのために用いられ得る。
【符号の説明】
【0083】
100 クーラーボックス
101 断熱ボックス
102 断熱蓋
110 蓄冷材パック
120 医薬品
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷材であって、
テトラヒドロフランと、水とを含有することにより、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有し、かつ、前記水に対する前記銀化合物のモル比が2.64×10-8以上3.70×10-4以下であることによって、
前記蓄冷材は、摂氏0度以上の前記融点以下の結晶化温度を有する、
蓄冷材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示に係る蓄冷材は、
テトラヒドロフランと、水とを含有することにより、摂氏2度以上摂氏8度以下の融点を有し、
化学式Ag3PO4により表されるリン酸銀、化学式Ag2CO3により表される炭酸銀、および化学式AgOにより表される酸化銀からなる群から選択される少なくとも1つの銀化合物を含有し、かつ、前記水に対する前記銀化合物のモル比が2.64×10-8以上3.70×10-4以下であることによって、
前記蓄冷材は、摂氏0度以上の前記融点以下の結晶化温度を有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
実施例1A~実施例3Dから実証されるように、第1実施形態における蓄冷材において、水に対する銀化合物のモル比は限定されない。一例として、当該モル比は、2.64×10 -8 以上3.70×10 -4 以下である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
(参考例2)
参考例2では、表1に示される試薬に代えて以下の表17に示される試薬に混合されたこと以外は、実施例1Aと同様の実験が行われた。実験の結果は、表27に示される。
(表17)
リン酸銀 0.0419グラム(1×10 -4 モルに等しい)
THF 1.144グラム(約0.0159モルに等しい)
重水 5.407グラム(約0.270モルに等しい)
参考例2では、水は重水であったことに留意せよ。