IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山本産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-床材および床材の製造方法 図1
  • 特開-床材および床材の製造方法 図2
  • 特開-床材および床材の製造方法 図3
  • 特開-床材および床材の製造方法 図4
  • 特開-床材および床材の製造方法 図5
  • 特開-床材および床材の製造方法 図6
  • 特開-床材および床材の製造方法 図7
  • 特開-床材および床材の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149709
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】床材および床材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47G 27/02 20060101AFI20241010BHJP
   D06M 13/428 20060101ALI20241010BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A47G27/02 101Z
A47G27/02 101A
D06M13/428
D06M15/277
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130936
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2022212006の分割
【原出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】596063403
【氏名又は名称】山本産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 修也
(72)【発明者】
【氏名】三品 潤一
(57)【要約】
【課題】防汚性を向上することのできる床材および床材の製造方法を提供する。
【解決手段】床材100は、基布層12と、基布層12の表面12aに固定されたパイル層11と、基布層12の裏面12b側に固定された裏貼り材8と、撥水撥油層2とを備える。撥水撥油層2は、基布層12の表面12aと、パイル層11における基布層12の表面12aから1mm以内の距離に存在する領域である根元領域RG1とを覆う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布層と、
前記基布層の表面に固定されたパイル層と、
前記基布層の裏面側に固定された裏貼り材と、
撥水撥油層とを備え、
前記撥水撥油層は、前記基布層の前記表面と、前記パイル層における前記基布層の前記表面から1mm以内の距離に存在する領域である根元領域とを覆い、
前記撥水撥油層はシリカを含まず、
前記撥水撥油層は、前記基布層の前記裏面と、前記パイル層における前記根元領域よりも前記基布層から離れた領域である先端領域とをさらに覆う、床材。
【請求項2】
基布層の表面にパイル層を固定する工程と、
前記基布層の裏面側に裏貼り材を固定する工程と、
前記基布層の前記表面と、前記パイル層における前記基布層の前記表面から1mm以内の距離に存在する領域である根元領域とを撥水撥油層で覆う工程とを備え
前記撥水撥油層はシリカを含まず、
前記撥水撥油層で覆う工程は、前記基布層の前記表面に前記パイル層を固定することにより得られたキバタを、撥水撥油材料を用いてパディングする工程を含み、
前記キバタをパディングする工程の後で、前記基布層の前記裏面側に裏貼り材を固定する工程を行う、床材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材および床材の製造方法に関する。より特定的には、本発明は、高い防汚性を有する床材および床材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タフテッドカーペットやウィルトンカーペットなどのパイル糸の立体構造を有するカーペットにおいては、防汚性が求められている。この種のカーペットの防汚性を向上するためのカーペットの従来の処理方法として、SG(ソイルガード)加工やSR(ソイルリリース加工)などの方法が用いられていた。SG加工とは、フッ素樹脂で繊維の表面を覆うことで薄い皮膜を作り、パイル糸の表面の凹凸を無くす処理方法である。SR(ソイルリリース)加工とは、パイル糸の表面に機能性ポリマー樹脂を加工することにより親水性を高め、汚れを落としやすくする処理方法である。
【0003】
SG加工などで用いられるフッ素系高分子化合物の撥水撥油材料は、表面自由エネルギーが非常に小さいため、水の表面張力との差が大きい。このため、フッ素系高分子化合物の撥水撥油材料をパイル糸の表面に塗布することにより、一定の防汚効果が得られる。
【0004】
従来の床材は、たとえば下記特許文献1に開示されている。下記特許文献1には、吸水・防汚加工剤と撥水撥油剤からなる組成物をパイル部に付与したカーペットが開示されている。上記組成物は、含浸法やスプレー塗布法などによりパイル部に付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-213298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のカーペットには、依然として防汚性が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、防汚性を向上することのできる床材および床材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に従う床材は、基布層と、基布層の表面に固定されたパイル層と、基布層の裏面側に固定された裏貼り材と、撥水撥油層とを備え、撥水撥油層は、基布層の表面と、パイル層における基布層の表面から1mm以内の距離に存在する領域である根元領域とを覆い、撥水撥油層はシリカを含まず、撥水撥油層は、基布層の裏面と、パイル層における根元領域よりも基布層から離れた領域である先端領域とをさらに覆う。
【0009】
本発明の他の局面に従う床材の製造方法は、基布層の表面にパイル層を固定する工程と、基布層の裏面側に裏貼り材を固定する工程と、基布層の表面と、パイル層における基布層の表面から1mm以内の距離に存在する領域である根元領域とを撥水撥油層で覆う工程とを備え、撥水撥油層はシリカを含まず、撥水撥油層で覆う工程は、基布層の表面にパイル層を固定することにより得られたキバタを、撥水撥油材料を用いてパディングする工程を含み、キバタをパディングする工程の後で、基布層の裏面側に裏貼り材を固定する工程を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防汚性を向上することのできる床材および床材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態における床材100の構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施の形態において、滑り止め層7側から見た場合の床材100の構成を示す平面図である。
図3】撥水層2の存在を確認する第2および第3の方法における臨界接触角θを模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施の形態における床材100の製造方法を示す図である。
図5図3のステップS1の工程で得られたキバタ91を示す断面図である。
図6図3のステップS2の工程を概念的に示す図である。
図7】床材と汚物の液滴DRとの関係を示す断面図である。
図8】試料1および2の各々から取得した特性X線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態における床材100の構成を示す断面図である。図2は、本発明の一実施の形態において、滑り止め層7側から見た場合の床材100の構成を示す平面図である。
【0014】
図1を参照して、本実施の形態における床材100(床材の一例)は、床に配置される床タイルとして使用されるものである。床材100は、床FLに配置されるものであればよい。床材100は、平面的に見た場合に、たとえば一辺が20cm~80cmの矩形状を有している。床材100は、表面層1が上(床FLとは反対の方向、図1中上方向)を向いた状態で使用される。床材100が配置されていない床FLの表面と床材100の表面との段差による種々の障害の発生を抑止するために、床材100は0より大きく20mm以下の厚さ(図1中上下方向の長さ)を有していることが好ましい。
【0015】
床材100は、表面層1(表面層の一例)と、撥水撥油層2(撥水撥油層の一例)と、裏張り材8(裏貼り材の一例)とを備えている。表面層1は、床FLから最も離れた最上の層であり、使用者と接触する層である。表面層1は、デザイン性、保温性、および吸音性などを床材100に付与する。表面層1は、繊維質材料よりなっている。表面層1は、パイル層11(パイル層の一例)と、基布層12(基布層の一例)とを含んでいる。表面層1は、たとえば4.0mm以上6.0mm以下の厚さを有している。
【0016】
パイル層11は、基布層12の表面12aに固定されている。パイル層11は、たとえばタフティングにより基布層12に植え込まれている。パイル層11は、たとえばナイロン、アクリル、ポリエステル、もしくはポリプロピレンなどの合成繊維、またはウールなどの天然繊維よりなるパイル糸などにより形成されている。特にパイル層11がナイロンよりなるパイル糸で形成されている場合には、優れた耐摩擦性、強度、弾力性、および接触冷感を表面層1に付与することができる。パイル層11は、先端がカットされて揃えられたカットパイルであってもよいし、先端をループ状にしたループパイルであってもよいし、カットパイルおよびループパイルが混在するものであってもよい。
【0017】
基布層12は、ポリエステルもしくはポリプロピレンなどの合成繊維よりなっている。基布層12は、織布であってもよいし不織布であってもよい。基布層12は、ポリエステルよりなるスパンボンドよりなることが好ましい。
【0018】
撥水撥油層2は、パイル層11全体を覆っており、パイル層11における根元領域RG1(根元領域の一例)および先端領域RG2(先端領域の一例)を覆っている。根元領域RG1は、パイル層11における基布層12の表面12aから1mm以内の領域である。先端領域RG2は、パイル層11における根元領域RG1よりも基布層12から離れた領域である。また撥水撥油層2は、基布層12全体を覆っており、基布層12の表面12aおよび裏面12bを覆っている。
【0019】
撥水撥油層2はフッ素および炭素を含むことが好ましく、たとえばフッ素系高分子化合物の撥水撥油材料よりなっている。具体的には、撥水撥油層2は、たとえば長鎖パーフルオロアルキル化合物(長鎖PFAS)(より詳細には、炭素数8以上のパーフルオロカルボン酸、または炭素数6以上のパーフルオロスルホン酸)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、短鎖パーフルオロアルキル化合物(短鎖PFAS)(より詳細には、炭素数6以下のパーフルオロカルボン酸、もしくは炭素数4以下のパーフルオロスルホン酸)、またはパーフロロヘキサン酸(PFHxA)などよりなっている。撥水撥油層2は、シリコン系または炭化水素系の撥水撥油材料などよりなっていてもよい。
【0020】
撥水撥油層2は、少なくとも基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とを覆っていればよい。撥水撥油層2は、基布層12の裏面12bと、パイル層11における先端領域RG2とをさらに覆っていることが好ましい。
【0021】
裏貼り材8は、基布層12の裏面12b側に固定されている。裏貼り材8は、表面層1の形および大きさを維持する。裏貼り材8は、高分子樹脂層3(第1の高分子樹脂層の一例)と、補強材層4(補強材層の一例)と、高分子樹脂層5(第2の高分子樹脂層の一例)と、緩衝材層6(緩衝材層の一例)と、滑り止め層7(滑り止め層の一例)とを含んでいる。高分子樹脂層3、補強材層4、高分子樹脂層5、緩衝材層6、および滑り止め層7の各々は、上から下に向かってこの順序で設けられている。具体的には、高分子樹脂層3は、基布層12の裏面12b側であって補強材層4の表面側に設けられている。補強材層4は、高分子樹脂層3の裏面側であって高分子樹脂層5の表面側に設けられている。高分子樹脂層5は、補強材層4の裏面側であって緩衝材層6の表面側に設けられている。緩衝材層6は、高分子樹脂層5の裏面側であって滑り止め層7の表面側に設けられている。滑り止め層7は、緩衝材層6の裏面に融着されており、床材100における床FLと接触する部分である。
【0022】
高分子樹脂層3および5の各々は、高分子樹脂を含む層である。高分子樹脂層3および5の各々は、たとえば高分子樹脂と、可塑剤と、所要の添加剤とを含んでいる。高分子樹脂は、たとえば塩化ビニル樹脂、エチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、非晶性オレフィン重合体樹脂、アスファルト系樹脂などよりなっている。これらの高分子樹脂は適度な剛軟性を有しているので、これらの高分子樹脂を用いることで、床材100が受ける荷重を高分子樹脂層3または5全体で受けることができる。また、これらの高分子樹脂は十分な接着強度を有しているので、隣接する層と接着する場合に、接着部の剥離を防止することができる。高分子樹脂は、塩化ビニル樹脂よりなっていることが好ましい。可塑剤は、常温では液体であることが好ましい。可塑剤は、たとえば天然ワックス、合成ワックス、または変性ワックスなどよりなっている。高分子樹脂層3および5の各々は、たとえば1.0mm以上3.0mm以下の厚さを有している。
【0023】
高分子樹脂層3および5の各々を構成する材料は互いに異なっていてもよいが、製造方法を簡素化するという観点で、同一であることが好ましい。高分子樹脂層3および5の各々の厚さは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、高分子樹脂層3よりも高分子樹脂層5の方が表面層1から離れてるため、高分子樹脂層3の密度よりも高分子樹脂層5の密度を高くすることで、床材100の形状の経時変化(床材100のカールなど)を抑止することができる。
【0024】
補強材層4は、表面層1を補強する層である。補強材層4は、任意の材料の織布または不織布よりなっている。補強材層4は、荷重に対する伸びを防ぐ役割を果たす。また補強材層4は、温度変化に対する伸びまたは縮みを防ぐ役割を果たす。補強材層4は、ガラス繊維性織布よりなっていることが好ましい。補強材層4がガラス繊維性織布よりなる場合、ガラス繊維織布の網目を通して高分子樹脂層3の内部に補強材層4を埋設することができる。
【0025】
高分子樹脂層3および補強材層4を設けることで、床材100の強度が向上する。なお、高分子樹脂層3および補強材層4は省略されてもよい。
【0026】
緩衝材層6は、衝撃を吸収し、衝撃音を低減する層である。また緩衝材層6は、断熱する役割を果たしてもよい。緩衝材層6は、互いに交絡した複数の有機繊維と、複数の有機繊維同士の間を融着する融着材とを含んでいる。融着材は省略されてもよい。
【0027】
緩衝材層6は、レギュラー綿(中実の有機繊維)、中空の有機繊維、および熱融着性繊維を含む原綿と、スパンボンド不織布とを用いて作製されることが好ましい。レギュラー綿とは、芯の部分が空洞でない通常の有機繊維である。中空の短繊維とは、芯の部分が空洞である有機繊維である。
【0028】
緩衝材層6は、次の方法で作製されることが好ましい。始めに、塊状のレギュラー綿、中空の有機繊維、および熱融着性繊維の各々をほぐし、適切な割合で配合して均一にすることで原綿を作製する(混綿および開繊)。次に、カード機を用いて、塊状の原綿をシート状に成形することで、ウェブを作製する(ウェブ成形)。次に、クロスレイヤーを用いて、ウェブを多重に積層する(ウェブ積層)。次に、積層されたウェブの上側または下側にスパンボンド不織布を沿わせる(スパンボンド投入)。次に、バーブ(返し)の付いた針である特殊針を用いて、積層されたウェブおよびスパンボンドを互いに交絡させる(ニードルパンチ)。次に、乾燥炉を用いて、交絡させたウェブおよびスパンボンドを加熱することで熱融着性繊維を溶融する。溶融した熱融着性繊維は、融着材として交絡させたウェブおよびスパンボンドを一体化させる(融着)。
【0029】
レギュラー綿は、中実の有機繊維であり、たとえば汎用のポリエステル短繊維よりなっている。中空の有機繊維は、たとえば中空のポリエステル短繊維を含むコンジュゲート繊維よりなっている。熱融着性繊維は、たとえば110℃程度の低い融点を有するポリエステル短繊維よりなっている。熱融着性繊維は、有機繊維100重量パーセントに対し20~50重量パーセントの割合で配合されることが好ましい。スパンボンド不織布は、たとえば20g/m2の密度を有するポリエステルよりなっている。
【0030】
緩衝材層6は、任意の厚さおよび密度を有していればよい。
【0031】
なお、緩衝材層6は、複数の有機繊維層と融着材とを含む材料よりなる代わりに、ウレタンを含む材料よりなっていてもよい。ウレタンを含む材料よりなる場合にも、緩衝材層6の各々は優れた衝撃音低減性を発揮する。一方で、経時劣化しにくいという観点で、緩衝材層6は、複数の有機繊維層と融着材とを含む材料よりなることが好ましい。
【0032】
図1および図2を参照して、滑り止め層7は、床材100が床FLに対して滑るのを防止するための層である。滑り止め層7は、たとえばアクリル樹脂などの樹脂よりなっている。平面的に見た場合(図1中下方向から見た場合)に、滑り止め層7の少なくとも一部は、緩衝材層6の裏面にドット状に設けられている。滑り止め層7は、たとえば0.3mm以上0.8mm以下の厚さを有している。
【0033】
樹脂は滑りにくいため、樹脂よりなる滑り止め層7を設けることで、床材100を床FLに対して滑りにくくすることができる。また、樹脂は有機繊維に対して強固に融着するので、滑り止め層7を緩衝材層6に対して強固に固定することができる。このため、緩衝材層6の裏面に対して滑り止め材(両面テープなど)などを別途設ける必要が無く、かつ滑り止め材を別途設けるよりも滑り止めとしての効果が大きくなる。加えて、滑り止め層7をドット状に設けることで、滑り止め層7を緩衝材層6の裏面全体に設ける場合よりもコストを低減することができ、軽量化を図ることができる。
【0034】
なお、滑り止め層7は省略されてもよい。この場合、床材100は、両面テープや滑り止め部材などを用いて床FLに対して貼り付けられてもよい。
【0035】
床材100を構成する各層の間には、必要な層が適宜挿入されていてもよい。また裏貼り材8を構成する層は任意の材料よりなっていればよい。裏貼り材8は、ポリ塩化ビニルなどの撥水性(疎水性)の材料を含むことが好ましい。裏貼り材8が撥水性の材料を含むことにより、床材100の防汚性を一層向上することができる。
【0036】
基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とを覆う撥水撥油層2の存在は、たとえば次の方法で確認することが可能である。第1の方法では、床材の表面層を、パイル層の先端領域、パイル層の根元領域、および基布層の三つの部分に切断する。切断後、パイル層の根元領域、パイル層の先端領域、および基布層の三つの部分の各々について、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)またはSEM-EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)を用いて特性X線を取得し、取得した特性X線のピーク位置に基づいて撥水撥油材料に含まれる元素の有無を確認する。本実施の形態の床材100においては、撥水撥油層が、フッ素系高分子化合物などのフッ素および炭素を含む撥水撥油材料よりなる場合、少なくともパイル層の根元領域および基布層の表面の各々からフッ素由来のピークが検出される。
【0037】
また、フーリエ変換赤外分光法(Fourier-transform infrared spectroscopy:FTIR)またはイメージング型フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、パイル層の根元領域、パイル層の先端領域、および基布層の三つの部分の各々の赤外吸収スペクトルを取得することで、撥水撥油材料を構成する材料の結合に由来する吸収ピークの有無を確認してもよい。本実施の形態の床材100においては、撥水撥油層がシリコン系の撥水撥油材料よりなる場合、少なくともパイル層の根元領域および基布層の表面の各々の赤外吸収スペクトルにおいて、シリコン-酸素に由来する吸収ピークなどが検出される。撥水撥油層が炭化水素系の撥水撥油材料よりなる場合、少なくともパイル層の根元領域および基布層の表面の各々の赤外吸収スペクトルにおいて、炭素-水素に由来する吸収ピークなどが検出される。
【0038】
また、蛍光X線元素分析法(X-Ray Fluorescence Analysis、XRF)を用いて蛍光X線を取得し、取得した蛍光X線のピーク位置に基づいて撥水撥油材料に含まれる元素の有無を確認してもよい。本実施の形態の床材100においては、撥水撥油層が、フッ素系高分子化合物などのフッ素および炭素を含む撥水撥油材料よりなる場合、少なくともパイル層の根元領域および基布層の表面の各々からフッ素が検出される。
【0039】
さらに、上述の方法の他、パイル層の先端領域、パイル層の根元領域、および基布層の三つの部分の各々について、X線光電子分光法(X-Ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を用いて光電子のエネルギーを取得することで、撥水撥油材料に含まれる元素の有無を確認してもよい。
【0040】
第2の方法は、表面層の撥水性を評価することにより撥水撥油層の存在を確認する方法である。第2の方法では、パイル層の表面から30cm離れた高さから、20容量%のイソプロピルアルコールと80容量%の水との混合液をパイル層の表面に落下させる。これにより、3mmの直径を有する混合液の液滴DRをパイル層の表面に形成する。混合液の液滴DRを形成してから5分経過後に、混合液の液滴DRとパイル層の表面との界面接触角θを計測する。
【0041】
第2の方法は、パイル層の表面から30cm離れた高さからパイル層の表面に混合液を落下させる点において、従来のアルコール・水混合液法と異なっている。
【0042】
第3の方法は、表面層の撥油性を評価することにより撥水撥油層の存在を確認する方法である。第3の方法では、パイル層の表面から30cm離れた高さから、パイル層の表面にn-ヘキサデカンを落下させる。これにより、5mmの直径を有するn-ヘキサデカンの液滴DRをパイル層の表面に形成する。n-ヘキサデカンの液滴DRを形成してから30秒経過後に、液滴DRとパイル層の表面との界面接触角θを計測する。
【0043】
第3の方法は、パイル層の表面から30cm離れた高さからパイル層の表面に混合液を落下させる点において、従来のAATCC118準拠法と異なっている。
【0044】
図3は、撥水撥油層2の存在を確認する第2および第3の方法における臨界接触角θを模式的に示す図である。
【0045】
図3を参照して、本実施の形態の床材100においては、少なくとも基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とが撥水撥油層2で覆われている。このため、第2および第3の方法のいずれの方法においても、床材100の表面層の撥水性および撥油性は高い。具体的には、図3(a)に示すように、液滴DPは表面層にはじかれて球状となる。その結果、臨界接触角θは150度未満となる。一方、基布層の表面と、パイル層における根元領域とが撥水撥油層で覆われているない場合には、表面層の撥水性および撥油性が低い。具体的には、図3(b)に示すように、液滴DPは表面層にはじかれず、表面層に吸収される。このため、臨界接触角θは150度以上となる。
【0046】
図4は、本発明の一実施の形態における床材100の製造方法を示す図である。図5は、図4のステップS1の工程で得られたキバタ91を示す断面図である。図6は、図4のステップS2の工程を概念的に示す図である。
【0047】
図4および図5を参照して、床材100は、たとえば次の方法で作製される。始めに、基布層12の表面12aにパイル層11を固定することにより、長尺のキバタ(仕上げ加工前の生地)91を作製する(ステップS1)。キバタ91は表面層1となる部材である。パイル層11は、たとえばタフティングにより基布層12の表面12aに植え込まれる。
【0048】
図4および図6を参照して、次に、撥水撥油層2を形成する(ステップS2)。少なくとも基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とが撥水撥油層2で覆われる。この工程は、撥水撥油材料を用いてキバタ91をパディングする工程を含むことが好ましい。キバタ91はたとえば次の方法でパディングされる。
【0049】
キバタ91は長尺であり、搬送装置92によって矢印ARで示す方向に搬送される。キバタ91の搬送経路には、浸漬装置93と、マングル94と、乾燥装置95とが搬送方向に沿ってこの順序で設けられている。浸漬装置93は、パディング槽96と、パディング槽96の内部に充填された撥水撥油材料97とを含んでいる。キバタ91は浸漬装置93を通過する。浸漬装置93を通過する際に、キバタ91は撥水撥油材料97に一回または複数回浸漬される。これにより、パイル層11および基布層12の全体に撥水撥油材料が付着する。
【0050】
続いて、キバタ91はマングル94を通過する。キバタ91は、マングル94を通過する際に絞られる。パイル層11および基布層12の全体に付着した撥水撥油材料は、均一な付着量にされる。
【0051】
続いて、キバタ91は乾燥装置95を通過する。キバタ91が乾燥装置95を通過する際に、パイル層11および基布層12に付着した撥水撥油材料は乾燥され、撥水撥油層2となる。撥水撥油材料が乾燥された結果、パイル層11の全体と、基布層12の全体とが撥水撥油層2で覆われる。その後、長尺のキバタ91は必要な長さに切断される。
【0052】
撥水撥油層2を形成する工程(ステップS2)では、基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とが撥水撥油層2で覆われればよい。たとえば、キバタ91をパディングする工程において、パイル層11の一部および基布層の一部のみを撥水撥油材料97に浸漬することにより、パイル層11および基布層12の必要な部分のみが撥水撥油層2で覆われてもよい。
【0053】
図4および図1を参照して、次に、裏貼り材8を作製する(ステップS3)。裏貼り材8はたとえば次の方法で作製される。
【0054】
滑り止め層7を予め形成した緩衝材層6を準備する。次に、上述の方法で作製した高分子樹脂層5の原料ペーストをドクターナイフで緩衝材層6の表面に平たく塗布する。次に、高分子樹脂層5の表面に補強材層4を貼り付ける。次に、高分子樹脂層3の原料ペーストをドクターナイフで補強材層4の表面に平たく塗布する。
【0055】
高分子樹脂層3および5の各々の原料となる原料ペーストは、たとえば高分子樹脂層の材料となる塩化ビニル樹脂などの高分子樹脂と、炭酸カルシウムと、可塑剤と、添加剤とを適切な割合で窯に投入し、これらの混錬することで作製される。たとえば原料ペーストが塩化ビニル樹脂を含む場合、高分子樹脂層3および5の各々の原料ペーストの固型化加工処理は、たとえば次の方法で行われる。原料ペーストを乾燥炉中で加熱する。これにより、塩化ビニル樹脂粒子が膨張し、塩化ビニル樹脂粒子同士が接触して流動性を失い、ゲル化する。ゲル化の際、塩化ビニル樹脂は可塑剤および炭酸カルシウムを取り込んで一体化する。さらに原料ペーストを加熱し、原料ペーストが130度~180度の温度となると、塩化ビニル樹脂の粒子の界面が消失し、塩化ビニル樹脂が溶融する。溶融の際、塩化ビニル樹脂は可塑剤及び炭酸カルシウムをさらに取り込む。その結果、原料ペーストは、軟質塩化ビニル樹脂に変化して安定化する。その後、軟質塩化ビニル樹脂を乾燥炉から取り出す。これにより、軟質塩化ビニル樹脂は冷却により硬化し、さらに安定化する。
【0056】
次に、基布層12の裏面12b側に裏貼り材8を固定する(ステップS4)。基布層12の裏面12bが補強材層4側となるように、補強材層4の表面にキバタ91を貼り付ける。キバタ91は表面層1となり、積層体が得られる。
【0057】
次に、得られた積層体を乾燥炉へ投入し、高分子樹脂層3および5の各々の原料ペーストの固型化加工処理を行う(ステップS5)。これにより、床材100が得られる。
【0058】
なお、滑り止め層7を予め形成した緩衝材層6を準備する代わりに、上述のように高分子樹脂層3および5の各々の原料ペーストの固型化加工処理を行った後で、緩衝材層6の裏面に滑り止め層7を形成してもよい。
【0059】
[実施の形態の効果]
【0060】
本実施の形態によれば、床材の防汚性を向上することができる。これについて以下に説明する。
【0061】
図7は、床材と汚物の液滴DRとの関係を示す断面図である。図7(a)は従来の床材と汚物の液滴DRとの関係を示す図である。図7(b)は本発明の一実施の形態における床材100と汚物の液滴DRとの関係を示す図である。
【0062】
図7(a)を参照して、従来、撥水撥油材料は、含浸法やスプレー塗布法などによりパイル層に塗布されていた。含浸法は、パイル層を構成するパイル糸を撥水撥油材料に含浸させる塗布方法である。スプレー塗布法は、パイル層の上方からパイル層の表面に向かって撥水撥油材料を噴霧する塗布方法である。
【0063】
従来の塗布方法では、パイル層211の少なくとも一部は撥水撥油層202で覆われるものの、基布層212は撥水撥油層202で覆われなかった。特に、スプレー塗布法では、パイル層211の表面211a付近のみが撥水撥油層202で覆われ、パイル層211の根元領域RG1および基布層212は撥水撥油層202で覆われなかった。
【0064】
実際の使用の状況で床材が汚物により汚される場合、汚物の液滴DRは高所(パイル層211の表面211aの30cm以上の高さ)から落下し、相当な運動エネルギーを有した状態でパイル層211の表面211aに衝突する。汚物の液滴DRは、パイル層211の内部に入り込み、パイル層211の根元領域RG1および基布層212の表面212aにまで到達する。しかし、上述のように、従来の床材の基布層212の表面212aには撥水撥油材料が付着していないため、基布層212の表面212aは汚物の液滴DRをはじかない。その結果、汚物の液滴DRは、基布層212の表面212aおよびパイル層211における根元領域RG1に付着し、吸収される。その結果、従来の床材の防汚性は低く、実際の使用の状況で汚されやすかった。
【0065】
また、床材の開発を担う開発者には、実際の使用の状況での床材の防汚性が低いという課題に着目し得ない事情があった。床材の防汚性の従来の評価方法としては、アルコール・水混合液法と、AATCC118準拠法とが存在する。アルコール・水混合液法では、次の方法により撥水性が評価される。ピペットなどを用いて、20容量%のイソプロピルアルコールと80容量%の水との混合液をパイル層の表面に静かに置く。これにより、3mmの直径を有する混合液の液滴をパイル層の表面に形成する。混合液の液滴を形成してから5分経過後の混合液の液滴とパイル層の表面との界面接触角を計測する。
【0066】
AATCC118準拠法では、次の方法による撥油性が評価される。ピペットなどを用いて、n-ヘキサデカンをパイル層の表面に静かに置く。これにより、5mmの直径を有するn-ヘキサデカンの液滴をパイル層の表面に形成する。n-ヘキサデカンの液滴を形成してから30秒経過後の液滴とパイル層の表面との界面接触角を計測する。
【0067】
アルコール・水混合液法およびAATCC118準拠法のいずれにおいても、パイル層の表面に液滴を導入する場合、液滴はパイル層の表面に静かに(言い換えれば、液滴を落下させることなく)置かれる。このような方法で液滴を導入した場合、液滴がパイル層の内部に入り込むことはない。このため、パイル層における表面付近のみが撥水層で被覆されていれば、良好な結果が得られる。
【0068】
上述の理由により、床材の防汚性の従来の評価方法では、高所から汚物の液滴が落下するような実際の使用の状況での床材の防汚性を正当に評価することができなかった。床材の開発者は、アルコール・水混合液法およびAATCC118準拠法を用いた評価方法において高い防汚性の評価を得ること(言い換えれば、パイル層における表面付近の防汚性を向上すること)に拘泥してしまい、高所から汚物の液滴が落下するような実際の使用の状況での防汚性が低いという課題に着目し得なかった。
【0069】
図7(b)を参照して、本実施の形態の床材100によれば、基布層12の表面12aとパイル層11の根元領域RG1とが撥水撥油層2で覆われる。このため、汚物の液滴DRが落下し、相当な運動エネルギーを有した状態でパイル層11の表面11aに衝突したとしても、基布層12の表面12aおよびパイル層11の根元領域RG1は、汚物の液滴DRをはじき、基布層12の表面12a付近ヘ汚物の液滴を侵入させない。汚物の液滴DRはパイル層11の表面11a付近に留まり、雑巾などで拭くことで容易に除去可能となる。その結果、高い防汚性を有する床材100を実現することができる。また、本実施の形態の床材100によれば、撥水撥油材料の種類に依らずに防汚性を向上できるため、撥水撥油性能が高い一方で有害性のある撥水撥油材料の代わりに、有害性の少ない撥水撥油材料を用いた場合にも、高い防汚性を有する床材を実現することができる。
【0070】
加えて、基布層12の裏面12bと、パイル層11における先端領域RG2とが撥水撥油層2でさらに覆われる場合には、床材100の防汚性を一層向上することができる。
【0071】
さらに、本実施の形態の製造方法では、裏張り材8が固定される前のキバタ91が、撥水撥油材料を用いてパディングされる。キバタ91は薄くて変形しやすいため、容易にパディングすることができる。その結果、基布層12の表面12aと、パイル層11における根元領域RG1とを撥水撥油層2で容易に覆うことができる。一般的なカーペットは、キバタに裏張り材が固定されているため、相当の厚みを移しており、変形しにくい。このため、一般的なカーペットをパディングすることは困難である。
【0072】
[実施例]
【0073】
本願発明者らは、下記方法にて試料1および2を作製し、撥水撥油層の有無を確認した。
【0074】
試料1(本発明例):上述の実施の形態に記載した方法を用いて床材を作製した。撥水撥油層の原料である撥水撥油材料として、「AG-E082」(AGC株式会社化学品カンパニー製)というフッ素系高分子化合物を使用した。
【0075】
試料2(比較例):撥水発油層を形成しなかった。これ以外は、上述の実施の形態に記載した方法と同様の方法を用いて床材を作製した。
【0076】
続いて、試料1および2の各々を、パイル層の先端領域、パイル層の根元領域、および基布層の三つの部分に切断した。切断後、パイル層の根元領域、パイル層の先端領域、および基布層の三つの部分の各々について、「日立卓上顕微鏡 Miniscope(登録商標) TM3030Plus」(株式会社 日立ハイテク製)というSEM-EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)を用いて特性X線を取得し、取得した特性X線のピーク位置に基づいて撥水撥油材料に含まれるフッ素の有無を確認した。
【0077】
その結果、試料1では、パイル層の先端領域、パイル層の根元領域、および基布層の表面のいずれからもフッ素由来のピークが検出され、撥水撥油層の存在が確認された。試料2では、パイル層の先端領域、パイル層の根元領域、および基布層の表面のいずれにおいても、フッ素由来のピークは検出されず、撥水撥油層の存在は確認されなかった。
【0078】
図8は、試料1および2の各々から取得した特性X線を示す図である。図8(a)は、試料1におけるパイル層の先端領域から取得した特性X線を示す図である。図8(b)は、試料1におけるパイル層の根元領域から取得した特性X線を示す図である。図8(c)は、試料2におけるパイル層の根元領域から取得した特性X線を示す図である。図8(a)、図8(b)、および図8(c)の各々において、横軸はエネルギー(keV)を示しており、縦軸は強度を示している。
【0079】
図8を参照して、試料1においては、パイル層の先端領域および根元領域の両方で、0.67keV付近にフッ素のピークが現れていることが分かる。一方、試料2においては、パイル層の根元領域において、フッ素のピークが現れていないことが分かる。
【0080】
[その他]
【0081】
床材100はタイル状ではなくカーペット状であってもよい。すなわち、床材100が床一面に設けられる形態のものであってもよい。
【0082】
上述の実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1 表面層(表面層の一例)
2,202 撥水撥油層(撥水撥油層の一例)
3,5 高分子樹脂層(第1および第2の高分子樹脂層の一例)
4 補強材層(補強材層の一例)
6 緩衝材層(緩衝材層の一例)
7 滑り止め層(滑り止め層の一例)
8 裏張り材(裏貼り材の一例)
11,211 パイル層(パイル層の一例)
11a,211a パイル層の表面
12,212 基布層(基布層の一例)
12a,212a 基布層の表面
12b 基布層の裏面
91 キバタ(キバタの一例)
92 搬送装置
93 浸漬装置
94 マングル
95 乾燥装置
96 パディング槽
97 撥水撥油材料
100 床材(床材の一例)
FL 床
RG1 パイル層の根元領域(根元領域の一例)
RG2 パイル層の先端領域(先端領域の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8