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特開2024-149735カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤を含む化粧料組成物及び多面的感情改善剤
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  • 特開-カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤を含む化粧料組成物及び多面的感情改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149735
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤を含む化粧料組成物及び多面的感情改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/754 20060101AFI20241010BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241010BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20241010BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20241010BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20241010BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 31/01 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20241010BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K36/754
A23L33/105
A61P43/00 105
A61K8/92
A61Q19/08
A61P17/00
A61P25/00
A61K9/72
A61Q13/00 101
A61Q19/10
A61K31/01
A61K31/015
A61K8/9789
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024133767
(22)【出願日】2024-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(74)【代理人】
【識別番号】100128543
【弁理士】
【氏名又は名称】犬山 広樹
(72)【発明者】
【氏名】周 蘭西
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 理絵
(72)【発明者】
【氏名】釼持 久典
(57)【要約】
【課題】 倦怠感の軽減、前向きな気分の向上等の多面的感情の改善作用や、皮膚の弛み、毛穴の目立ち、乾燥肌の改善等の皮膚改善効果を有するオキシトシン分泌促進剤を提供する。
【解決手段】 カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤。
【請求項2】
前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする請求項1に記載のオキシトシン分泌促進剤。
【請求項3】
嗅覚を介し摂取することで、摂取者にオキシトシン分泌促進効果をもたらすことを特徴とする、請求項1又は2に記載のオキシトシン分泌促進剤。
【請求項4】
請求項1に記載のオキシトシン分泌促進剤を含有するオキシトシン分泌促進用香料組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のオキシトシン分泌促進剤又は請求項4に記載のオキシトシン分泌促進用香料組成物が配合されたオキシトシン分泌促進用香粧品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のオキシトシン分泌促進剤又は請求項4に記載のオキシトシン分泌促進用香料組成物が配合されたオキシトシン分泌促進用経口組成物。
【請求項7】
カボス精油からなる皮膚改善剤。
【請求項8】
前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする請求項7に記載の皮膚改善剤。
【請求項9】
嗅覚を介し摂取することで、摂取者に皮膚改善効果をもたらすことを特徴とする、請求項7又は8に記載の皮膚改善剤。
【請求項10】
皮膚の有益な効果が、皮膚の毛穴目立ちの予防又は改善、皮膚の弛みの改善並びに乾燥肌改善から選択される1以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の皮膚改善剤。
【請求項11】
請求項7に記載の皮膚改善剤を含有する皮膚改善剤用香料組成物。
【請求項12】
請求項7又は8に記載の皮膚改善剤又は請求項11に記載の皮膚改善剤用香料組成物が配合された皮膚改善剤用香粧品。
【請求項13】
請求項7又は8に記載の皮膚改善剤又は請求項11に記載の皮膚改善剤用香料組成物が配合された皮膚改善剤用経口組成物。
【請求項14】
カボス精油からなる多面的感情改善剤。
【請求項15】
前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする請求項14に記載の多面的感情改善剤。
【請求項16】
嗅覚を介し摂取することで、摂取者に多面的感情改善効果をもたらすことを特徴とする、請求項14又は15に記載の多面的感情改善剤。
【請求項17】
多面的感情改善効果が、倦怠感の軽減及び/又は前向きな気分を向上させる効果であることを特徴とする請求項14又は15に記載の多面的感情改善剤。
【請求項18】
請求項14に記載の多面的感情改善剤を含有する多面的感情改善剤用香料組成物。
【請求項19】
請求項14又は15に記載の多面的感情改善剤又は請求項18に記載の多面的感情改善剤用香料組成物が配合された多面的感情改善用香粧品。
【請求項20】
請求項14又は15に記載の多面的感情改善剤又は請求項18に記載の多面的感情改善剤用香料組成物が配合された多面的感情改善用経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高い天然原料由来のオキシトシン分泌促進剤、並びに前記オキシトシン分泌促進剤を含む皮膚改善剤及び多面的感情改善剤に関する。さらに、本発明は、上記オキシトシン分泌促進剤を含む香料組成物、香粧品、又は経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、COVID-19対応によるステイホーム、テレワーク、リモート授業などへの対応や世界情勢の悪化など我々を取り巻く環境は大きく変容しそれに伴うストレスの増加が懸念されている。この種のストレスは老若男女のだれもが受ける可能性があり、さらに過度なストレスは肥満、糖尿病、睡眠障害、気分障害などを誘発する。
また、感染症や空気汚染対策としてマスクの着用が習慣化している。マスク着用自体がストレス誘発の一因にもなっており、マスクを長時間装用することで、マスク着用時に起こる肌の蒸れ、マスクのつけ外しによる肌の乾燥、毛穴の目立ち、マスク生地と肌のこすれ、マスク着用による側頭筋の凝りから頬がたるみやすくなる、ほうれい線がくっきりしやすくなるなど、皮膚状態に影響することも指摘されている。
オキシトシンは、絆ホルモンや幸福ホルモンともよばれており、ストレスを抑制する効果があることが知られている。また、オキシトシンはストレス抑制だけではなく、皮膚の改善効果があることも報告されている(非特許文献1)。
このオキシトシンの分泌を促す方法として、(1)スキンシップ、(2)利他的行動(ボランティア活動など)、(3)コミュニケーション(目を見つめる、やさしく話しかける)、(4)五感への刺激、(5)ペットの飼育、(6)家族との活動(共食)などが提案されている(非特許文献2)。
しかし、ストレスを受ける人は性別、年齢、生活環境など多種多様であるため、上記以外の方法、たとえば非侵襲で日常的に実施できるストレス解消法こそ望ましい。
オキシトシン分泌が促進されることでストレス抑制、多面的感情の改善、さらに皮膚改善効果のすべてを同時に満たすことが期待される。
さらに、呼吸するたびに、無意識に鼻腔を介して体内に取り込み、そして効果を発現する「香り」によってオキシトシン分泌が促進されることは、いっそう望ましい。
【0003】
ホトリエノールという紅茶の香り成分でオキシトシン分泌を促進させる技術(特許文献1)、フレグランスで使用される香料成分であるローズ油、エチルトリメチルシクロペンテニルブテノール、メチルトリメチルシクロペンテニルペンタノール、及びヘキサヒドロヘキサメチルシクロペンタベンゾピランなどの合成香料を含有するオキシトシン産生促進剤(特許文献2)など、香り成分によるオキシトシン分泌促進技術がある。香辛料としても使用されるケイヒエキスを有効成分としオキシトシン受容体の増殖を促進し、肌のハリ・弾力を高める技術(特許文献3)、毛穴を目立たなくするナデシコ属ナデシコ科植物の抽出物(特許文献4)などがあるが、天然由来の原料で、さわやかな柑橘系の香りを有するオキシトシン分泌促進物質はこれまでになかった。
一方、香りの心理的・生理的効果はその香りの嗜好性にも大きく影響をうけることが知られている(非特許文献3)。そのため、香りのバリエーションが少ないことで、消費者の多様な香りの嗜好性に対応できないという課題があった。特に日本人は柑橘系の香りを好む傾向があり(非特許文献4)、柑橘系の香りを有する香粧品や食品が多く上市されているが、そういった製品に応用しにくい点が重要な課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-114046号公報
【特許文献2】特開2011-98898号公報
【特許文献3】特開2020-200240号公報
【特許文献4】特開2016-222564号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂本考司等、「快感情を喚起する触覚刺激によるオキシトシン変化と肌の質感との関連性解析」、日本化粧品技術者会誌、2022年、Vol. 56、No. 3、第247-252頁
【非特許文献2】山口創、「皮膚感覚と心」、日本香粧品学会誌、2022年、Vol.46、No.1、第51-58頁
【非特許文献3】O. Alaoui-Ismaili et al, 「Odor hedonics: connection with emotional response estimated by autonomic parameters」 Chem. Senses 22: 237-248, (1997)
【非特許文献4】川本利恵子等、「日常生活における香りに関する影響要因の検討」、応用心理学研究、2013年、Vol.39、No.1、第25-32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、柑橘系の香調を有し、簡便な非侵襲的方法でオキシトシン分泌を促進させることができ、かつ天然由来で安全性が高いオキシトシン分泌促進剤を提供することであり、同時に、皮膚の弛みや毛穴改善や、乾燥肌改善などの皮膚改善効果、及び倦怠感の低減や前向きな気分を向上させる多面的感情改善効果をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために、柑橘系の香調を有し、オキシトシン分泌を促進する成分及び方法を検討した結果、食経験のあるカボスの果皮から抽出される精油にオキシトシン分泌促進効果を発見し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を含むものである。
(1)カボス精油からなるオキシトシン分泌促進剤。
(2)前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする上記(1)に記載のオキシトシン分泌促進剤。
(3)嗅覚を介し摂取することで、摂取者にオキシトシン分泌促進効果をもたらすことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載のオキシトシン分泌促進剤。
(4)上記(1)に記載のオキシトシン分泌促進剤を含有するオキシトシン分泌促進用香料組成物。
(5)上記(1)又は(2)に記載のオキシトシン分泌促進剤又は上記(4)に記載のオキシトシン分泌促進用香料組成物が配合されたオキシトシン分泌促進用香粧品。
(6)上記(1)又は(2)に記載のオキシトシン分泌促進剤又は上記(4)に記載のオキシトシン分泌促進用香料組成物が配合されたオキシトシン分泌促進用経口組成物。
(7)カボス精油からなる皮膚改善剤。
(8)前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする上記(7)に記載の皮膚改善剤。
(9)嗅覚を介し摂取することで、摂取者に皮膚改善効果をもたらすことを特徴とする、上記(7)又は(8)に記載の皮膚改善剤。
(10)皮膚の有益な効果が、皮膚の毛穴目立ちの予防又は改善、皮膚の弛みの改善並びに乾燥肌改善から選択される1以上であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の皮膚改善剤。
(11)上記(7)に記載の皮膚改善剤を含有する皮膚改善剤用香料組成物。
(12)上記(7)又は(8)に記載の皮膚改善剤又は上記(11)に記載の皮膚改善剤用香料組成物が配合された皮膚改善剤用香粧品。
(13)上記(7)又は(8)に記載の皮膚改善剤又は上記(11)に記載の皮膚改善剤用香料組成物が配合された皮膚改善剤用経口組成物。
(14)カボス精油からなる多面的感情改善剤。
(15)前記カボス精油が、圧搾法又は抽出法によってカボスの果皮から得られることを特徴とする上記(14)に記載の多面的感情改善剤。
(16)嗅覚を介し摂取することで、摂取者に多面的感情改善効果をもたらすことを特徴とする、上記(14)又は(15)に記載の多面的感情改善剤。
(17)多面的感情改善効果が、倦怠感の軽減及び/又は前向きな気分を向上させる効果であることを特徴とする上記(14)又は(15)に記載の多面的感情改善剤。
(18)上記(14)に記載の多面的感情改善剤を含有する多面的感情改善剤用香料組成物。
(19)上記(14)又は(15)に記載の多面的感情改善剤又は上記(18)に記載の多面的感情改善剤用香料組成物が配合された多面的感情改善用香粧品。
(20)上記(14)又は(15)に記載の多面的感情改善剤又は上記(18)に記載の多面的感情改善剤用香料組成物が配合された多面的感情改善用経口組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、天然由来のカボス精油を使用するものであり、吸入又は経口により安全に摂取可能なものであり、倦怠感、前向きな気分等の多面的感情や、皮膚の弛み、毛穴の目立ち、乾燥肌等の皮膚の状態を改善するために、吸入や経口摂取が可能な各種組成物、例えば、香料組成物、香粧品、又は経口組成物に添加することができる。特に、本発明で使用されるカボス精油は、日本人に好まれる柑橘系の香調を有することから、香料組成物や香粧品への使用に適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】多面的な感情や気分の主観評価に使用したアンケート用紙(多面的感情尺度短縮版40問(MMS))である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1〕オキシトシン分泌促進剤
(1)有効成分
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、カボス精油を有効成分として含有する。
ミカン科ミカン属のカボス(Citrus sphaerocarpa)は、まろやかな酸味とさわやかな香りを特長とする大分県特産の香酸柑橘(薬味や風味付けのために用いられる柑橘類)である。
本発明に用いられるカボス精油は、主としてカボスの果皮を原料として、圧搾法や水蒸気蒸留法を用いて採取することができる(詳しくは、特許庁公報「周知慣用技術集(香料)第I部 香料一般」、平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁を参照)。なお、カボス精油の採取方法は、上記したものに限定されるものではない。
(2)オキシトシン分泌促進
本発明において「オキシトシンの分泌促進」とは、視床下部などのオキシトシン産生組織で産生されるオキシトシンの分泌を促進することを意味する。つまり、本発明の「オキシトシン分泌促進」とは、オキシトシン産生促進により、血中や唾液中へのオキシトシンの分泌量の増加、各組織でのオキシトシンによる作用が向上される状態となることを意味する。
(3)オキシトシン分泌促進剤の摂取方法
本発明のオキシトシン分泌促進剤の摂取方法は、オキシトシン分泌促進剤の有効成分であるカボス精油を鼻孔から吸入するか、口腔内で摂取又は皮膚からの吸収によって体内に
取り込まれる方法であれば特に制限されない。
具体的には、ディフューザーやネブライザー(蒸気や超音波を利用した拡散機や霧化機)、アロマテラピー用キャンドル等により空間中に人為的に香気を蒸散させ主に鼻孔から吸入する方法の他、衣類や皮膚、頭髪等に使用する香粧品や飲食品を始めとする経口組成物等から自然に揮散される香気を吸入する方法が挙げられる。
超音波ディフューザーを使用する場合は、容器内の水の量に対し0.05~0.15%程度(水100mlに対し2~3滴程度)カボス精油を添加し、活動時間帯は玄関やレストルーム、リビングやオフィス、キッチン等、主たる活動場所で安定な台の上もしくは床への設置し、就寝時は足元や枕元への設置により、蒸気とともに精油の香気を噴霧させることである。
【0012】
〔2〕皮膚改善剤
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、皮膚改善剤として使用することができる。本発明において、皮膚改善とは、皮膚のゆるみ、毛穴の目立ち、乾燥肌などの肌のトラブルを改善することをいう。
本発明の皮膚改善剤は、上記で説明したオキシトシン分泌促進剤の摂取方法と同様の方法により摂取可能である。
【0013】
〔3〕多面的感情改善剤
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、多面的感情改善剤として使用することができる。
本発明において、多面的感情とは、感情を、肯定的感情を表す3尺度(活動的快、非活動的快、親和)、否定的感情を表す3尺度(抑うつ・不安、倦怠、敵意)、中性的感情である2尺度(驚愕、集中)の8種の感情状態で分類したものをいう。
また、本発明において、多面的感情の改善とは、上記の8種の感情状態のうち、いずれか1種又はそれ以上の感情状態が改善することをいう。また、本発明において、倦怠感の軽減とは、上記8種の感情状態のうち、倦怠が改善することをいい、前向きな気分の向上とは、上記8種の感情状態のうち、活動的快が改善することをいう。
香りをかぐことによる感情の変化を多面的感情尺度として数値化することで、香りによる、多面的感情の改善を判断することができる。
本発明の多面的感情改善剤は、上記で説明したオキシトシン分泌促進剤の摂取方法と同様の方法により摂取可能である。
【0014】
〔4〕香料組成物
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、単独で香粧品や飲食品に添加することもできるが、他の香料素材と組み合わせた香料組成物として使用することもできる。
他の香料素材としては、天然香料、合成香料を問わず広く採用することができ、例えば特許庁公報「周知慣用技術集(香料)第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)、「周知慣用技術集(香料)第III部 香粧品用香料」(平成13(2001)年6月発行、日本国特許庁)に記載された香料が例示される。
【0015】
香料組成物として使用する場合、当該組成物中のオキシトシン分泌促進剤の含有量は0.0001~90質量%の範囲が好ましい。
本発明のオキシトシン分泌促進剤はそのまま或いは他の香料素材と組み合わせた香料組成物として、必要に応じてエタノール、プロピレングリコール、グリセリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の溶剤に溶解して各種の香粧品、飲食品に添加できる。
さらに、一般的に用いられる乳化剤や賦形剤を添加し、常法に従って製剤化して乳化香料、粉末香料として使用することもできる。
【0016】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、付加的成分として、酸化防止剤、糖類、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、発色剤、pH調整剤など、香粧品や飲食品に一般的に
使用される各種の添加剤を必要に応じて適宜配合しても良い。
【0017】
〔5〕香粧品
香粧品の例としては、フレグランス製品(香水、オードパルファム、ボディーコロンなど)、スキンケア化粧料(化粧水、乳液、クリーム、口紅、ファンデーション、洗顔料、石鹸、ボディーシャンプー、ボディーケア製品、入浴剤、制汗デオドラント剤など)、ヘアケア化粧料(シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアートリートメント、ヘアオイル、ヘアトニック、育毛剤、ヘアカラーリング剤、ヘアスタイリング剤、パーマネント剤など)、衣類用洗剤、衣類用柔軟剤、衣類用仕上げ剤、各種洗浄剤(繊維用、皮革用、硬質表面用、住居用、家庭用、トイレ用、お風呂用など)、芳香消臭剤、香りつきトイレットペーパー 、ワックス剤、アロマオイルのような家庭用製品が挙げられる。
香粧品中に使用する場合、香粧品中のオキシトシン分泌促進剤の含有量は0.0001%以上が好ましく、オキシトシン分泌促進剤をそのままアロマオイル等として使用することもできる。
【0018】
〔6〕経口組成物
経口組成物の例としては、飲料、菓子類、加工食品、乳製品、風味調味料、粉末飲料や粉末スープ等の加工食品、口腔衛生剤、サプリメントなどが挙げられるが、より具体的には下記のものを挙げることができる。
【0019】
飲料の例としては、清涼飲料、乳酸菌飲料、乳飲料、無果汁飲料、果汁入り飲料、炭酸飲料、酒類、栄養ドリンク等が挙げられる。
菓子類の例としては、ゼリー、ババロア、ムース、ケーキ、キャンディー、ビスケット、クッキー、チョコレート、ガム、ラムネ菓子、タブレット、アイスクリーム、シャーベット、アイスキャンディー等が挙げられる。
【0020】
加工食品の例としては、マヨネーズ、ドレッシング、つゆ、たれ、スナック類(ポテトチップス、揚あられ類、かりんとう、ドーナッツ)、調理冷凍食品(麺類等)等が挙げられる。
乳製品等の例としては、アイスクリーム類、ヨーグルトなどが挙げられる。
【0021】
口腔衛生剤の例としては、歯磨、洗口剤、うがい薬、口中清涼剤、口臭防止剤などが挙げられる。
【0022】
サプリメントは、カプセル剤、錠剤、粉末剤、シロップ剤又は液状懸濁剤の形態であってもよい。
経口組成物中に使用する場合、当該組成物中のオキシトシン分泌促進剤の含有量は0.000001~0.1質量%の範囲が好ましい。
【0023】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下試験例に限定されるものではない。
【実施例0024】
〔試験例〕
カボス製油を用いた皮膚改善作用と多面的感情改善作用の評価
【0025】
〔試験の概要〕
(1)試験に使用した試験品
カボス精油は、小川香料おおいた佐伯農場株式会社製のカボス精油を購入し使用した。本製品は、大分県産カボスの果皮から水蒸気蒸留法で抽出した精油である。
対象としてイオン交換水を用いた。試験に用いた試験品1と試験品2を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
(2)試験方法
(a)被験者対象者
肌のかさつきや張りのなさを自覚しており、中程度のストレスを有する30歳以上45歳未満の女性24名を被験者対象者とし、被験者を第1群と第2群に分けた。
【0028】
(b)試験内容
水道水100mlを入れた超音波噴霧式ディフューザーの容器に試験品を3滴(0.1ml)、滴下し、当該ディフューザーを枕元から1m以内、かつ枕元より高い場所に設置した。
就寝前1時間から就寝後2時間の計3時間ディフューザーを稼働し、噴霧されたミストを自然呼吸で被験者に吸入させた。これを4週間継続した。
【0029】
試験は第1群と第2群の並行群間比較試験とし、第1群は試験品1を4週間、第2群は試験品2を4週間、それぞれ吸入した。
皮膚改善効果は肌アンケートを用いて評価した。
【0030】
肌アンケートは下記の表2に示す基準で行った。
【0031】
【表2】
【0032】
また、多面的な感情や気分の主観評価は、多面的感情尺度短縮版40問(MMS)を用いたアンケートにより行った。このアンケートは、「抑うつ・不安」、「敵意」、「倦怠」、「活動的快」、「非活動的快」、「親和」、「集中」、「驚愕」の8つの尺度に分類される項目をランダムに並べ、それぞれの言葉に対してその時の感情に当てはまる度合いを4段階(1点「まったく感じていない」~4点「はっきり感じている」)で評定する(寺崎正治等、「多面的感情状態尺度・短縮版の作成」、日本心理学会第55回大会発表論文集、1991年、435)。
実際に使用したアンケート用紙を図1に示す。
【0033】
〔試験例1〕唾液中のオキシトシン濃度の変化量
試験品1及び2を用い、カボス精油のオキシトシン分泌促進作用を検討した。唾液採取にはCryovial(SalivaBio社製)、及びSaliva Collection Aid(SalivaBio社製)を用いた。唾液採取後速やかに、-30℃以下で凍結保存した。測定時には、遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)したのち上清を回収し、分析に供した。唾液中のオキシトシン濃度の測定はOxytocin ELISA kit(ENZO社製)を用い、測定キットの手順に従って定量した。試験品1及び2においてそれぞれ試験後から試験前のオキシトシン分析値の変化量を算出した。表3に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での唾液中のオキシトシン濃度(平均値±標準誤差)を示す。
【0034】
【表3】
【0035】
イオン交換水では試験期間後の唾液中のオキシトシン濃度の増加はわずかであったが、カボス精油では唾液中のオキシトシン濃度が大きく増加した。
これらの結果より、カボス精油にオキシトシン分泌促進効果があることが確認された。
【0036】
〔試験例2〕皮膚の弛み評価値の変化量
試験品1及び2を用い、カボス精油による皮膚の弛みの抑制効果を検討した。
試験品1及び2においてそれぞれ試験後から試験前の皮膚の弛みの評価の変化量を算出した。表4に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での皮膚の弛み評価(平均値±標準誤差)を示す。
【表4】
【0037】
イオン交換水では試験期間後の弛み点数はわずかに増加したが、カボス精油では弛み点数は減少した。
この結果より、カボス精油に皮膚の弛み改善効果があることが確認された。
【0038】
〔試験例3〕皮膚の毛穴目立評価値の変化量
試験品1及び2を用い、カボス精油による毛穴目立の改善効果を検討した。
試験品1及び2においてそれぞれ試験後から試験前の皮膚の毛穴が目立つかの評価の変化量を算出した。表5に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での毛穴目立の評価(平均値±標準誤差)を示す。
【0039】
【表5】
【0040】
イオン交換水では試験期間後の毛穴点数の減少はわずかであったが、カボス精油では毛穴点数は大きく減少した。
この結果より、カボス精油に毛穴改善効果があることが確認された。
【0041】
〔試験例4〕皮膚の乾性及び潤い評価値の変化量
試験品1及び2を用い、カボス精油による乾燥肌の改善効果を検討した。
試験品1及び2においてそれぞれ試験後から試験前の乾性及び潤いの評価の変化量を測定した。統計的な優位差はt検定を用いた。表6に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での皮膚の乾性の評価(平均値±標準誤差)を示す。また、表7に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での潤いの評価(平均値±標準誤差)を示す。
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
イオン交換水では試験期間後の乾性点数の減少はわずかであったが、カボス精油では乾性点数は有意に減少した(p<0.05)。
また、イオン交換水では試験期間後の潤い点数の増加はわずかであったが、カボス精油では潤い点数は有意に増加した(p<0.05)。
以上の結果より、カボス精油に乾燥肌の改善効果があることが確認された。
【0045】
〔試験例5〕多面的感情尺度の変化量
多面的感情状態尺度を用い、肌アンケートと同じタイミングで各気分状態を1~4の4段階で評価した。各気分状態の評点について、0週目と4週目の数値を算出した(平均値
±標準誤差)。表8にイオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での「倦怠」点数(平均値±標準誤差)、表9に、イオン交換水及びカボス精油の各試験期間前後での「活動的快」点数(平均値±標準誤差)を示す。
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
カボス精油吸入により倦怠点数は有意に減少した(p<0.05)。
また、活動的快点数は、カボス精油吸入期間後で有意に増加した(p<0.05)。
以上の結果より、カボス精油に倦怠感の軽減、及び活動的快、つまり、前向きな気分を向上させる効果があることが確認された。
【0049】
〔製造例〕
カボス精油を配合した各種組成物の製造
〔製造例1〕
カボス精油を配合したバスオイルの製造
以下の表10のA相に示す各成分の所定量をビーカーに秤量し、恒温水層で60℃まで加温した。また、以下の表10のB相に示す各成分の所定量をビーカーに秤量し、スパーテルを用いて室温にて均一に溶解した。A相にB相を添加し、スパーテルで均一に溶解し、室温まで冷却した。
得られたバスオイルには、柑橘系のさわやかな香りが感じられ、良好な使用感が得られた。
【0050】
【表10】
【0051】
〔製造例2〕
カボス精油を配合した洗口剤の製造
【0052】
以下の表11のA相、B相に示す各成分の所定量を、それぞれ別のビーカーに秤量し、スパーテルを用いて混合した。次に、A相にB相を徐々に添加し、スパーテルを用いて混合した。
得られた洗口剤には、柑橘系のさわやかな香りが感じられ、良好な使用感が得られた。
【0053】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、天然由来のカボス精油を使用するものであり、吸入又は経口により安全に摂取可能なものであることから、倦怠感の軽減、前向きな気分の向上等の多面的感情や、皮膚の弛み、毛穴の目立ち、乾燥肌等の皮膚の状態を改善するための各種組成物、例えば、香料組成物、香粧品、又は経口組成物としての活用が期待される。
図1