(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149756
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20241010BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241010BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241010BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P27/02
A61K47/10
A61K47/02
A61K9/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134577
(22)【出願日】2024-08-09
(62)【分割の表示】P 2019199484の分割
【原出願日】2019-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018207064
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】根本 夫規子
(72)【発明者】
【氏名】小林 真也
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 駿佐
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、角膜上皮創傷の治癒促進のために使用される眼科用組成物を提供することである。
【解決手段】浸透圧が200~260mOsmである眼科用組成物は、角膜上皮創傷の治癒を促進する作用があり、角膜上皮創傷が生じている眼に当該眼科用組成物を適用することにより、角膜上皮創傷の治癒を促進できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透圧が200~260mOsmである、角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項2】
浸透圧が220~260mOsmである、請求項1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項3】
アルカリ金属塩、及び/又は多価アルコールを含む、請求項1又は2に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩が塩化ナトリウムである、請求項3に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールがプロピレングリコール及び/又はグリセリンである、請求項3に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項6】
点眼液である、請求項1~5のいずれかに記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【請求項7】
眼科用組成物の浸透圧を200~260mOsmに調整する工程を含む、眼科用組成物に角膜上皮創傷の治癒促進作用を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜上皮創傷の治癒促進のために使用される眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、及び角膜内皮から構成されている。この内、最表層に位置する角膜上皮は、内的要因や外的要因によって創傷が生じ易い組織である。通常、角膜上皮に創傷が生じても、上皮幹細胞が健常であれば自己修復機能によって自然治癒される。角膜上皮の創傷治癒は、上皮細胞の伸展・移動(第1相)、上皮細胞の増殖(第2相)、及び上皮細胞の分化(第3相)という3つの相を経て進行する。
【0003】
このように角膜上皮創傷は、自己修復機能によって自然治癒されるが、その自然治癒には長期間を要したり、創傷閉鎖が不十分になったりすることがある。角膜上皮創傷の治癒期間中や創傷閉鎖が不十分な状態では、角膜上皮によるバリア機能が十分に発揮できず、角膜の恒常性維持が不十分になったり、細菌感染等のリスクが高まったりする。そのため、角膜上皮創傷の治癒を促進させることは、眼疾患を防ぎ、眼を健全な状態に維持する上で重要になっている。
【0004】
従来、角膜上皮創傷の治療に有効な治療薬が種々検討されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-529906号公報
【特許文献2】特表2013-523829号公報
【特許文献3】特開平2-212433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、角膜上皮創傷の治癒促進のために使用される眼科用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、浸透圧が200~260mOsmである眼科用組成物は、角膜上皮創傷の治癒を促進する作用があり、角膜上皮創傷が生じている眼に当該眼科用組成物を適用することにより、角膜上皮創傷の治癒を促進できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
本発明の一態様として、下記に掲げる眼科用組成物を提供する。
項1-1.浸透圧が200~260mOsmである、角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-2.浸透圧が220~260mOsmである、項1-1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-3.アルカリ金属塩、及び/又は多価アルコールを含む、項1-1又は1-2に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-4.前記アルカリ金属塩が塩化ナトリウムである、項1-3に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-5.前記多価アルコールがプロピレングリコール及び/又はグリセリンである、項1-3に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-6.浸透圧が210~255mOsmであり、塩化ナトリウムを含む、項1-1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-7.浸透圧が220~258mOsmであり、グリセリンを含む、項1-1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-8.浸透圧が220~255mOsmであり、プロピレングリコールを含む、項1-1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-9.浸透圧が219~255mOsmであり、グリセリン、ホウ酸及びホウ砂を含む、項1-1に記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-10.塩化ナトリウム及びトロメタモ―ルを含む、項1-1~1-4のいずれかに記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-11.エデト酸及びその塩、並びにl-メントールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、項1-1~1-4のいずれかに記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-12.ピリドキシン、クロルフェニラミン、シアノコバラミン、アスパラギン酸、タウリン、ネオスチグミン、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、項1-1~1-4のいずれかに記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
項1-13.点眼液である、項1-1~1-12のいずれかに記載の角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物。
【0009】
また、本発明の他の一態様として、下記に掲げる方法を提供する。
項2-1.眼科用組成物の浸透圧を200~260mOsmに調整する工程を含む、眼科用組成物に角膜上皮創傷の治癒促進作用を付与する方法。
項2-2.浸透圧が220~260mOsmである、項2-1に記載の方法。
項2-3.前記眼科用組成物にアルカリ金属の塩化物及び/又は多価アルコールが配合される、項2-1又は2-2に記載の方法。
項2-4.前記アルカリ金属の塩化物が塩化ナトリウムである、項2-3に記載の方法。
項2-5.前記多価アルコールがプロピレングリコール及び/又はグリセリンである、項2-3に記載の方法。
項2-6.浸透圧が210~255mOsmであり、塩化ナトリウムが配合される、項2-1に記載の方法。
項2-7.浸透圧が220~258mOsmであり、グリセリンが配合される、項2-1に記載の方法。
項2-8.浸透圧が220~255mOsmであり、プロピレングリコールが配合される、項2-1に記載の方法。
項2-9.浸透圧が219~255mOsmであり、グリセリン、ホウ酸及びホウ砂が配合される、項2-1に記載の方法。
項2-10.前記眼科用組成物に、塩化ナトリウム及びトロメタモ―ルが配合される、項2-1~2-4のいずれかに記載の方法。
項2-11.前記眼科用組成物に、エデト酸及びその塩、並びにl-メントールよりなる群から選択される少なくとも1種が配合される、項2-1~2-4のいずれかに記載の方法。
項2-12.前記眼科用組成物に、ピリドキシン、クロルフェニラミン、シアノコバラミン、アスパラギン酸、タウリン、ネオスチグミン、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種が配合される、項2-1~2-4のいずれかに記載の方法。
項2-13.前記眼科用組成物が点眼液である、項2-1~2-12のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の眼科用組成物によれば、200~260mOsmという低浸透圧であることにより、角膜上皮創傷の治癒を効果的に促進することができる。また、本発明の眼科用組成物は、薬理成分を使用せずとも角膜上皮創傷の治癒促進が可能であることから、ヒアルロン酸点眼剤等に取って代わる、安全性の高い点眼剤となり得る。更に、本発明の眼科用組成物は、例えば、緑内障治療剤で懸念される中毒性角膜症等の角膜上皮障害を軽減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1において、不死化ヒト角膜上皮細胞を用いて、各種浸透圧の条件でスクラッチアッセイを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.定義
本明細書において、「角膜上皮創傷」とは、機械的、化学的又は生物学的刺激により、角膜上皮組織や角膜上皮細胞が欠損した状態を指す。「角膜上皮創傷」には、例えば、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、角膜潰瘍、マイボーム腺炎、アレルギー性結膜炎、ドライアイ等の内因性疾患に伴う角膜上皮の欠損;術後、薬剤性、外傷、化学外傷、熱傷、コンタクトレンズ装用等における外因性疾患に伴う角膜上皮の欠損;春季カタルやアトピー性角結膜炎等の角膜病変を伴う眼アレルギー性疾患に伴う角膜上
皮の欠損等が含まれる。
【0013】
本明細書において、「角膜上皮創傷の治癒」とは、角膜上皮が欠損した部位において、角膜上皮組織又は角膜上皮細胞が伸展・移動(遊走)、増殖又は分化して、欠損した部位が塞がった状態へ向かう生体反応をいう。
【0014】
本明細書において、「治癒促進用」とは、角膜上皮が欠損した部位が塞がった状態に向かう生体反応が促進されるものをいう。角膜上皮が欠損した部位が少しでも塞がれば、治癒促進用に該当する。
【0015】
本明細書において、「治癒促進作用を付与する」とは、角膜上皮が欠損した部位が塞がった状態に向かう生体反応を促進させる働きを持つようにすることをいう。
【0016】
本明細書において、「眼科用組成物」とは、眼科用途の医薬組成物である。
【0017】
本明細書において、「浸透圧」は、第十七改正日本薬局方の「一般試験法」の「30.浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に規定されている方法に従って測定される値である。
【0018】
2.好ましい実施形態の説明
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
当業者はまた、後述する好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更等を容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0019】
3.眼科用組成物
従来、角膜上皮創傷の治癒を促進させる眼科用組成物として、ヒアルロン酸ナトリウムを有効成分とする点眼液、キサンタンガムを有効成分とする組成物、ケトロラクとカルボキシメチルセルロースを含む組成物、ビトロネクチンを有効成分とする点眼剤等が知られているが、角膜上皮創傷の治癒と眼科用組成物の浸透圧との関連性については知られていない。このような状況の下、本発明者等は、低浸透圧の眼科用組成物は、角膜上皮創傷の治癒を促進できることを見出した。具体的には、浸透圧が200~260mOsmである
眼科用組成物は、角膜上皮創傷の治癒を効果的に促進し得ることを見出した。
【0020】
即ち、一つの態様として、本発明は、浸透圧が200~260mOsmである、角膜上皮創傷治癒促進用の眼科用組成物を提供する。
【0021】
[浸透圧]
本発明の眼科用組成物における浸透圧は、200~260mOsmである。このような浸透圧に調整されていることによって、角膜上皮創傷の治癒を効果的に促進することが可能になる。但し、浸透圧が低すぎると点眼時に違和感が現れやすい。このような低浸透圧に起因する点眼時の違和感を抑制しつつ、角膜上皮創傷の治癒促進効果を有効に奏させるという観点から、本発明の眼科用組成物の浸透圧として、好ましくは218~260mOsm、より好ましくは220~260mOsm、更に好ましくは240~260mOsmが挙げられる。
【0022】
浸透圧を前述する範囲に調整するには、本発明の眼科用組成物に配合する成分の種類や濃度を調整すればよく、眼科用組成物の浸透圧は、当業者であれば適宜設定可能な事項である。
【0023】
[配合成分]
本発明の眼科用組成物は、水を基剤として含み、且つ前述する浸透圧を充足させるために各種成分が含まれ得る。
【0024】
本発明の眼科用組成物は、前述する浸透圧を充足させるために、浸透圧調整剤及び/又は緩衝剤が含まれていていることが望ましい。
【0025】
浸透圧調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、多価アルコール、糖類等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸アルカリ金属塩;ホウ砂、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の無機酸アルカリ金属塩等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、具体的には、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩化物等が挙げられる。多価アルコールとしては、具体的には、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。糖類としては、具体的には、ソルビトール、グルコース、マンニトール等が挙げられる。これらの浸透圧調整剤は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば、リン酸水素二ナトリウム12水和物であってもよい。
【0026】
これらの浸透圧調整剤の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、及び多価アルコール、更に好ましくは、アルカリ金属の塩化物、無機酸アルカリ金属塩、及び多価アルコール、特に好ましくは塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。
【0027】
これらの浸透圧調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の眼科用組成物に浸透圧調整剤を含有させる場合、その濃度については、使用する浸透圧調整剤の種類、他に配合する成分の種類や濃度等に応じて前述する浸透圧を充足するように適宜設定すればよいが、例えば、0.001~5w/v%、好ましくは0.005~3w/v%が挙げられる。
【0029】
緩衝剤は、浸透圧を調整すると共に、緩衝作用を付与する役割を果たす。本発明で使用される緩衝剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、トリス緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸緩衝剤等が挙げられる。
【0030】
リン酸緩衝剤としては、具体的には、リン酸及び/又はその塩が挙げられる。リン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸三アルカリ金属塩等が挙げられる。また、リン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよく、例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば十二水和物の形態、リン酸二水素ナトリウムの場合であれば二水和物の形態等であってもよい。リン酸緩衝剤として、リン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。リン酸及びその塩の中でも、好ましくはリン酸塩、更に好ましくはリン酸水素二アルカリ金属塩及びリン酸二水素アルカリ金属塩の少なくとも1種、特に好ましくはリン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
クエン酸緩衝剤としては、具体的には、クエン酸及び/又はその塩が挙げられる。クエン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、クエン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。クエン酸緩衝剤として、クエン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
ホウ酸緩衝剤としては、具体的には、ホウ酸及び/又はその塩が挙げられる。ホウ酸としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等が挙げられる。これらのホウ酸の中でも、好ましくはオルトホウ酸及びテトラホウ酸が挙げられる。これらのホウ酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ホウ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;トリエ
チルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン等の有機アミン塩等が挙げられる。また、ホウ酸/又はその塩は、ホウ砂等のように、水和物の形態であってもよい。ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸及びその塩の中から、1種を選択して単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
トリス緩衝剤としては、具体的には、トロメタモール及び/又はその塩が挙げられる。
トロメタモールの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、酢酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、スルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。トリス酸緩衝剤として、トロメタモール及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
酒石酸緩衝剤としては、具体的には、酒石酸及び/又はその塩が挙げられる。酒石酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、酒石酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酒石酸緩衝剤として、酒石酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
酢酸緩衝剤としては、具体的には、酢酸及び/又はその塩が挙げられる。酢酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。また、酢酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。酢酸緩衝剤として、酢酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
アミノ酸緩衝剤としては、具体的には、酸性アミノ酸、中性アミノ酸、及びそれらの塩が挙げられる。酸性アミノ酸としては、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸が挙げられる。酸性アミノ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。中性アミノ酸としては、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、タウリンが挙げられる。中性アミノ酸
の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。アミノ酸緩衝剤として、酸性アミノ酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
これらの緩衝剤の中でも、好ましくはリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、及びトリス緩衝剤が挙げられる。
【0039】
本発明の眼科用組成物に緩衝剤を含有させる場合、その濃度については、使用する緩衝剤の種類、他に配合する成分の種類や濃度等に応じて前述する浸透圧を充足するように適宜設定すればよいが、例えば、0.001~5w/v%、好ましくは0.005~3.5w/v%、更に好ましくは0.01~2w/v%が挙げられる。
【0040】
前記浸透圧調整剤及び/又は緩衝剤を含み、浸透圧が前記範囲を満たす眼科用組成物の具体的な例として、塩化ナトリウムを含み、且つ浸透圧が200~260mOsm、好ましくは210~255mOsmである眼科用組成物;グリセリンを含み、且つ浸透圧が200~260mOsm、好ましくは220~258mOsmである眼科用組成物;プロピレングリコールを含み、且つ浸透圧が200~260mOsm、好ましくは220~255mOsmである眼科用組成物;グリセリン、ホウ酸及びホウ砂を含み、且つ浸透圧が200~260mOsm、好ましくは219~255mOsmである眼科用組成物;塩化ナトリウム及びトロメタモ―ルを含み、且つ浸透圧が200~260mOsm、好ましくは221mOsmである眼科用組成物等が挙げられる。
【0041】
本発明の眼科用組成物には、前述する浸透圧を充足することを限度として、前記成分の他に、必要に応じて、界面活性剤、粘稠剤、溶解補助剤、キレート剤、清涼化剤、安定化剤、pH調整剤、保存剤等の添加剤を含有してもよい。
【0042】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン
界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ジェランガム、アルギン酸、ポリカルボフィル等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用し
てもよい。
【0044】
溶解補助剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、エタノール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ステアリン酸ポリオキシル、ヒマシ油、カルボマーコポリマータイプA等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
キレート剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、ニトリロトリ酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、これら塩等が挙げられる。塩の形態としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。また、これらのキレート剤は水和物の形態であってもよい。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使
用してもよい。
【0046】
清涼化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油、ゲラニオール、ベルガモット油等が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
pH調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロンアミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。これらのpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
これらの添加剤の濃度は、前述する浸透圧を充足する範囲で、使用する添加剤の種類や水性液剤に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
これらの添加剤の中でも、好適な一例として、エデト酸及びその塩、並びにl-メントールよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0051】
本発明の眼科用組成物にエデト酸及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~0.127w/v%、好ましくは0.005~0.1w/v%、更に好ましくは0.01~0.05w/v%が挙げられる。
【0052】
また、本発明の眼科用組成物にl-メントールを含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.0001~0.5w/v%、好ましくは0.0005~0.1w/v%、更に好ましくは0.001~0.03w/v%が挙げられる。
【0053】
更に、本発明の眼科用組成物には、必要に応じて、薬理成分が含まれていてもよい。配合可能な薬理成分としては、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム、レバミピド、シクロスポリン、Lifitegrast等のドライアイ治療剤・角結膜上皮障害治療剤;プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、アラントイン、イプシロンアミノカプロン酸、ブロムフェナクナトリウム、ケトロラクトロメタミン、ネパフェナク、ベルベリン塩化物、硫酸ベルベリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩等の消炎剤;クロルフェニラミン、クロルフェニラミンの
塩(クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、ジフェンヒドラミン塩酸塩等の抗ヒスタミン剤;クロモグリク酸ナトリウム、ケトチフェンフマル酸塩、アシタザノラスト、アンレキサノクス、ペミロラストカリウム、トラニラスト、イブジラスト、オロパタジン塩酸塩等の抗アレルギー剤;ノルフロキサシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、レボフロキサシン、ゲンタマイシン、ガチフロキサシン、アジスロマイシン等の抗菌剤;アスコルビン酸、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、ピリドキシン、ピリドキシンの塩(ピリドキシン塩酸塩等)、トコフェロール酢酸エステル、レチノール
酢酸エステル、レチノールパルミチン酸エステル、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等のビタミン類;アスパラギン酸、アスパラギン酸の塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム等)、タウリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のアミノ酸類;グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトース等の単糖類;ネオスチグミン、ネオスチグミンの塩(ネオスチグミンメチル硫酸塩等)等の抗コリンエステラーゼ剤;ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、エピネフリン、エフェドリン、フェニレフリン、dl-メチルエフェド
リン等の血管収縮剤;スルファジアジン、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン、スルファジメトキシン、スルファメトキシピリダジン、スルファメトキサゾール、スルファエチドール、スルファメトミジン、スルファフェナゾール、スルファグアニジン、フタリルスルファチアゾール、スクシニルスルファチアゾール等のサルファ剤;ラタノプロスト、ブリンゾラミド、チモロールマレイン酸塩、ビマトプロスト、ブリモニジン酒石酸塩等の緑内障治療剤;イドクスウリジン等の抗ウィルス剤等が挙げられる。ここで例示する化合物は、薬学的に許容されることを限度として、塩の形態であってもよく、また他の塩の
形態であってもよい。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
これらの薬理成分の濃度については、使用する薬理成分の種類、他に配合する成分の種類や濃度等に応じて、前述する浸透圧を充足する範囲内で適宜設定すればよい。
【0055】
これらの薬理成分の中でも、好適な一例として、ピリドキシン、クロルフェニラミン、シアノコバラミン、アスパラギン酸、タウリン、ネオスチグミン、及びそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0056】
本発明の眼科用組成物にピリドキシン及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~0.3w/v%、好ましくは0.001~0.2w/v%、更に好ましくは0.01~0.1w/v%が挙げられる。
【0057】
本発明の眼科用組成物にクロルフェニラミン及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.0006~0.1w/v%、好ましくは、0.0006~0.05w/v%、更に好ましくは、0.006~0.03w/v%が挙げられる。
【0058】
本発明の眼科用組成物にシアノコバラミンを含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.0002~0.06w/v%、好ましくは、0.0002~0.04w/v%、更に好ましくは、0.004~0.02w/v%が挙げられる。
【0059】
本発明の眼科用組成物にアスパラギン酸及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.01~3w/v%、好ましくは、0.01~2w/v%、更に好ましくは、0.1~1w/v%が挙げられる。
【0060】
本発明の眼科用組成物にタウリンを含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.01~3w/v%、好ましくは、0.01~2w/v%、更に好ましくは、0.1~1w/v%が挙げられる。
【0061】
本発明の眼科用組成物にネオスチグミン及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.001~0.02w/v%、好ましくは、0.001~0.01w/v%、更に好ましくは、0.001~0.005w/v%が挙げられる。
【0062】
本発明の眼科用組成物にブドウ糖を含有させる場合、その濃度については、特に制限されないが、例えば、0.0001~0.5w/v%、好ましくは、0.0005~0.2w/v%、更に好ましくは、0.001~0.1w/v%が挙げられる。
【0063】
本発明の眼科用組成物は、所定の浸透圧を充足することにより、薬理成分としてヒアルロン酸及びそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等の角結膜上皮障害治療剤を含まなくても、角膜上皮創傷の治癒を促進することができる。従って、本発明の眼科用組成物の一実施形態として、ヒアルロン酸、及びそのアルカリ金属塩を含まないことが挙げられる。
【0064】
[pH]
本発明の眼科用組成物のpHについては、眼粘膜に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、pH3~10、好ましくはpH4~9、更に好ましくはpH5~8が挙げられる。
【0065】
[製剤形態]
本発明の眼科用組成物の製剤形態については、水を基剤として含むものであればよく、例えば水溶液状、懸濁液状、乳液状等のいずれであってもよいが、好ましくは水溶液状が挙げられる。
【0066】
また、本発明の眼科用組成物は、点眼液又は洗眼液の形態であればよいが、点眼液であることが好ましい。
【0067】
[用途・用量・用法]
本発明の眼科用組成物は、角膜上皮創傷の治癒促進の用途に使用される。本発明の眼科用組成物において、治癒促進対象となる角膜上皮創傷は、内的要因又は外的要因のいずれによって生じたものであってもよい。本発明の眼科用組成物において、治癒促進対象となる角膜上皮創傷の具体例については、前記「1.定義」の欄で例示した通りである。治癒促進対象となる角膜上皮創傷の中でも、好ましくは、アレルギー性結膜炎、ドライアイ等の内因性疾患に伴う角膜上皮の欠損;薬剤性、コンタクトレンズ装用等における外因性疾患に伴う角膜上皮の欠損が挙げられる。
【0068】
本発明の眼科用組成物は、角膜上皮創傷が生じている眼に適用することによって使用される。例えば、本発明の眼科用組成物が点眼液の場合であれば、角膜上皮創傷が生じている眼に1回当たり1~3滴で1日当たり1~6回点眼すればよい。また、本発明の眼科用組成物が洗眼液の場合であれば、角膜上皮創傷が生じている眼に1回当たり1~30mL程度を使用して1日当たり1~6回洗眼すればよい。
【0069】
[製造方法]
本発明の眼科用組成物は、自体公知の調製法に従って製造すればよく、例えば、第十七改正日本薬局方の「製剤総則」の欄に記載された方法を用いて製造することができる。
【0070】
4.角膜上皮創傷の治癒促進作用の付与方法
前述の通り、眼科用組成物の浸透圧を200~260mOsmに調整することによって、眼科用組成物に角膜上皮創傷の治癒促進作用を具備させることができる。従って、一つの態様として、眼科用組成物の浸透圧を200~260mOsmに調整する工程を含む、眼科用組成物に角膜上皮創傷の治癒促進作用を付与する方法を提供する。
【0071】
本方法において、浸透圧の好ましい範囲、眼科用組成物に配合される成分の種類や濃度、眼科用組成物の製剤形態、用途、用量、用法等については、前記「3.眼科用組成物」の欄に記載の通りである。
【実施例0072】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0073】
試験例1:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(1)
1.試験材料及び試験方法
1-1.細胞
V40-adeno virus組換えベクターにより不死化させたヒト角膜上皮細胞(理研細胞バンク、リソース名RCB2280、日本)を使用した。
【0074】
1-2.試験培地
増殖培地として、ヒトインスリン(ヒト、組換え体、富士フィルム和光純薬株式会社)5μg/mL、ペニシリン/ストレプトマイシン1w/v%、ウシ胎児血清(Heat inactivated FBS)(Thermo Fisher Scientific)5w/v%、及び上皮成長因子(EGF)(Pepro Tech)10ng/mLを含むDMEM/F12培地を準備した。また、別途、浸透圧調整液として、塩化ナトリウムを0.359w/v%、0.422w/v%、0.485w/v%、0.548w/v%、0.642w/v%、及び0.837w/v%含む水溶液を準備した。
【0075】
前記増殖培地と前記浸透圧調整液を容量比1:1で混和し、浸透圧が210mOsm、219mOsm、228mOsm、240mOsm、255mOsm、及び285mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0076】
1-3.試験方法
培養した不死化ヒト角膜上皮細胞を、増殖用培地で1.5×105cells/mLに希釈し、24ウェルプレート(Corning)に、1ウェル当たり1mLずつ播種した。37℃、5%CO2の条件下で約24時間インキュベートすることにより、ウェルの底部に不死化ヒト角膜上皮細胞をサブコンフルエントな状態で付着させた。インキュベート後、ウェル内の培地をアスピレータで除去し、ウェルにリン酸緩衝液(DPBS)(Thermo Fisher Scientific)1mLを添加した。次いで、ウェル内のリン酸緩衝液をアスピレータで除去し、Cell Scratcher (ACGテクノグラス)を用いてスクラッチを行い、細胞欠損領域(幅約1.8mm、長さ約13mm)を作製した。細胞欠損領域の作製後、リン酸緩衝液(DPBS)(Thermo Fisher Scientific)1mLを添加した。その後、リン酸緩衝液をアスピレータで除去し、各浸透圧の試験培地1mLを添加した。細胞欠損領域の作製が完了した時点を試験開始時間(0時間)とし、その5時間後に細胞欠損領域の幅を定量することにより、細胞欠損領域の修復の程度を評価した。具体的には、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X700(KEYENCE)を用いて、0時間と5時間後の細胞欠損領域を撮影し、撮影した写真をコンピュータにデジタル画像として保存し、画像解析ソフト(Image-ProR Plus ver. 7.0J)を用いて細胞欠損領域の幅(ピクセル)を測定した。0時間の時点の細胞欠損領域の幅(ピクセル)から5時間後の細胞欠損領域の幅(ピクセル)を差し引くことにより、創傷治癒幅(ピクセル)を算出した。また、等張条件(285mOsm)での創傷治癒幅に対する各浸透圧条件での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)についても算出した。なお、本試験は、1回の測定(1枚の24ウェルプレート)において、同じ試験培地での測定を4ウェルで行った。また、本試験は、異なるウェルプレートで合計3回行った(n=11~12)。
【0077】
2.試験結果
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表1に示し、浸透圧と創傷治癒幅の近似曲線を
図1に示す。この結果、200~260mOsmの低浸透圧の範囲では、等張である285mOsmの場合に比べて、創傷治癒幅が大きい値を示していることが確認された。即ち、本結果から、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが明らかとなった。
【0078】
【0079】
試験例2:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(2)
浸透圧調整液として、グリセリンを1.173w/v%、1.786w/v%、及び2.
329w/v%含む水溶液を準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と当該浸透圧調整液を容量比1:1で混和し、浸透圧が220mOsm、258mOsm、及び288mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0080】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=6~7)、創傷治癒幅を求め、等張条件(288mOsm)での創傷治癒幅に対する各浸透圧条件での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0081】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表2に示す。この結果、前記試験例1の場合と同様に、200~260mOsmの低浸透圧の範囲では、等張である288mOsmの場合に比べて、創傷治癒幅が大きい値を示しており、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0082】
即ち、浸透圧調整剤としてグリセリンを使用しても、塩化ナトリウムを使用した場合と同様に、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが明らかとなった。
【0083】
【0084】
試験例3:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(3)
浸透圧調整液として、プロピレングリコールを0.989w/v%、1.506w/v%、及び1.963w/v%含む水溶液を準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と当該浸透圧調整液を容量比1:1で混和し、浸透圧が220mOsm、255mOsm、及び286mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0085】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=6~8)、創傷治癒幅を求め、等張条件(286mOsm)での創傷治癒幅に対する各浸透圧条件での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0086】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表3に示す。この結果、前記試験例1及び2の場合と同様に、200~260mOsmの低浸透圧の範囲では、等張である286mOsmの場合に比べて、創傷治癒幅が大きい値を示しており、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0087】
即ち、浸透圧調整剤としてプロピレングリコールを使用しても、塩化ナトリウムやグリセリンを使用した場合と同様に、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが明らかとなった。
【0088】
【0089】
試験例4:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(4)
浸透圧調整液として、表4に示す組成の水溶液A~Fを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液A~Fを容量比1:1で混和し、浸透圧が219mOsm、255mOsm、285mOsm、220mOsm、254mOsm、及び285mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0090】
【0091】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=14~16)、創傷治癒幅を求め、等張条件(285mOsm)での創傷治癒幅に対する各浸透圧条件での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。なお、水溶液A及びBを使用した条件での前記比率は水溶液Cを使用して調整した等張条件との対比で算出し、水溶液D及びEを使用した条件での前記比率は水溶液Fを使用して調整した等張条件との対比で算出した。
【0092】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表5に示す。この結果、グリセリン、ホウ酸、及びホウ砂を使用して浸透圧を調整しても、前記試験例1~3の場合と同様に、200~260mOsmの低浸透圧の範囲では、等張である285mOsmの場合に比べて、創傷治癒幅が大きい値を示しており、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0093】
【0094】
試験例5:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(5)
浸透圧調整液として、表6に示す組成の水溶液G~Iを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液G~Iを容量比1:1で混和し、浸透圧が222mOsm、254mOsm、及び283mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0095】
【0096】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=16)、創傷治癒幅
を求め、等張条件(283mOsm)での創傷治癒幅に対する各浸透圧条件での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0097】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表7に示す。この結果、エデト酸ナトリウム水和物を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0098】
【0099】
試験例6:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(6)
浸透圧調整液として、表8に示す組成の水溶液J及びKを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液J及びKを容量比1:1で混和し、浸透圧が218mOsm、及び284mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0100】
【0101】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(284mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(218mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0102】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表9に示す。この結果、l-メントールを含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0103】
【0104】
試験例7:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(7)
浸透圧調整液として、表10に示す組成の水溶液L及びMを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液L及びMを容量比1:1で混和し、浸透圧が221mOsm、及び286mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0105】
【0106】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(286mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(221mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0107】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表11に示す。この結果、ピリドキシン塩酸塩を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0108】
【0109】
試験例8:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(8)
浸透圧調整液として、表12に示す組成の水溶液N及びOを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液N及びOを容量比1:1で混和し、浸透圧が224mOsm、及び287mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0110】
【0111】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(287mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(224mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0112】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表13に示す。この結果、トロメタモールを含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0113】
【0114】
試験例9:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(9)
浸透圧調整液として、表14に示す組成の水溶液P及びQを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液P及びQを容量比1:1で混和し、浸透圧が221mOsm、及び287mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0115】
【0116】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(287mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(221mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0117】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表15に示す。この結果、クエン酸ナトリウム水和物を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0118】
【0119】
試験例10:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(10)
浸透圧調整液として、表16に示す組成の水溶液R及びSを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液R及びSを容量比1:1で混和し、浸透圧が224mOsm、及び286mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0120】
【0121】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(286mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(224mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0122】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表17に示す。この結果、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0123】
【0124】
試験例11:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(11)
浸透圧調整液として、表18に示す組成の水溶液T及びUを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液T及びUを容量比1:1で混和し、浸透圧が225mOsm、及び286mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0125】
【0126】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(286mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(225mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0127】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表19に示す。この結果、ブドウ糖を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0128】
【0129】
試験例12:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(12)
浸透圧調整液として、表20に示す組成の水溶液V及びWを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液V及びWを容量比1:1で混和し、浸透圧が224mOsm、及び287mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0130】
【0131】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅
を求め、等張条件(287mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(224mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0132】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表21に示す。この結果、クロルフェニラミンマレイン酸塩を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0133】
【0134】
試験例13:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(13)
浸透圧調整液として、表22に示す組成の水溶液X及びYを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液X及びYを容量比1:1で混和し、浸透圧が225mOsm、及び289mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0135】
【0136】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(289mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(225mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0137】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表23に示す。この結果、ネオスチグミンメチル硫酸塩を含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0138】
【0139】
試験例14:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(14)
浸透圧調整液として、表24に示す組成の水溶液AA及びBBを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液AA及びBBを容量比1:1で混和し、浸透圧が219mOsm、及び286mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0140】
【0141】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅
を求め、等張条件(286mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(219mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0142】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表25に示す。この結果、タウリンを含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0143】
【0144】
試験例15:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(15)
浸透圧調整液として、表26に示す組成の水溶液CC及びDDを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液CC及びDDを容量比1:1で混和し、浸透圧が224mOsm、及び287mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0145】
【0146】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(287mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(224mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0147】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表27に示す。この結果、L-アスパラギン酸カリウムを含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0148】
【0149】
試験例16:スクラッチアッセイによる角膜上皮創傷治癒促進作用の検討(16)
浸透圧調整液として、表28に示す組成の水溶液EE及びFFを準備した。前記試験例1で使用した前記増殖培地と浸透圧調整液EE及びFFを容量比1:1で混和し、浸透圧が224mOsm、及び290mOsmに調整された試験培地を調製した。
【0150】
【0151】
前記試験培地を使用し、前記試験例1と同条件で試験を行い(n=12)、創傷治癒幅を求め、等張条件(290mOsm)での創傷治癒幅に対する低浸透圧条件(224mOsm)での創傷治癒幅の比率(%v.s.等張条件)について算出した。
【0152】
各浸透圧条件での創傷治癒幅を表29に示す。この結果、シアノコバラミンを含んでいても、200~260mOsmの低浸透圧の範囲に設定することにより、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが確認された。
【0153】
【0154】
総合考察
前記試験例1~16の結果から、浸透圧の調整に使用する成分の種類、配合する添加剤や薬理成分の種類等に拘わりなく、200~260mOsmの低浸透圧条件下で、角膜上皮の創傷治癒が促進されることが明らかとなった。
【0155】
なお、前記試験例1~16では、それぞれ試験実施日が異なっていることに起因して、各試験時に使用した不死化ヒト角膜上皮細胞の状態の違いにより、同じ浸透圧であっても創傷治癒幅が異なる値を示している場合がある。但し、いずれの試験例でも、等張の場合に比べて、低浸透圧(200~260mOsm)条件下で、創傷治癒幅が増大することが示されており、低浸透圧条件によって角膜上皮の創傷治癒が促進されることが実証されているといえる。
【0156】
試験例17:in vivoにおける角膜上皮創傷治癒促進作用の検討
以下の試験によって、本発明の眼科用組成物がin vivoにおいて角膜上皮創傷治癒促進作用を示すことを確認できる。
【0157】
1.試験材料及び試験方法
1-1.使用動物
雄性日本白色種家兎を用いる。実験動物の使用にあたっては、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月1日法律第105号、最終改正平成25年6月12日法律第38号)等に基づく動物実験倫理委員会の承認を受けて実施する。
【0158】
1-2.被験点眼液
表30に示す組成の等張点眼液及び低張点眼液を被験点眼液として準備する。
【表30】
【0159】
1-3.試験方法
1)角膜上皮掻爬
50mg/mLケタミン注射液(ケタラールR筋注用500mg;第一三共プロファーマ)及び20mg/mLセラクタール注射液(セラクタールR2%注射液;バイエル薬品)の3:1混合液を筋肉内注射(1mL/kg)することにより動物に全身麻酔を施した後、0.4w/v%オキシブプロカイン塩酸塩点眼液(ベノキシールR点眼液0.4%;参天製薬)を用いて局所麻酔を施す。次いで、眼球を脱臼させた後、直径10mmのトレパンを用いて角膜中央部の角膜上皮上に直径10mmの刻印を施し、実体顕微鏡下で、ハンディルーターを用いて刻印した円周内の角膜上皮全層を掻爬する。掻爬後、生理食塩液(大塚生食注;大塚製薬工場)を用いて角膜表面を洗浄し、眼球を眼窩内に復位させて角膜上皮掻爬処置を完了させる。
【0160】
2)被験点眼液の投与
被験点眼液を、角膜上皮掻爬当日は1日2回、掻爬1及び2日後には1日4回、掻爬3日後には1日1回、それぞれ2時間以上の間隔をあけて、処置眼に対して1回50μLの用量でマイクロピペットを用いて点眼する。
【0161】
3)角膜上皮欠損部の面積測定
角膜上皮掻爬が完了した時点を試験開始時間(0時間)とし、その48時間後に角膜上皮欠損面積を定量することにより、角膜上皮の修復の程度を評価する。具体的には、48時間後の時点で処置眼に0.1w/v%フルオレセインナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)溶液を10μL点眼し、直ちにスリットランプを用いて動物の前眼部写真を撮影することにより、フルオレセイン染色された角膜上皮欠損領域を記録する。現像された写真をコンピュータにデジタル画像として保存し、画像解析ソフト(Image-ProR Plus ver. 7.0J)を用いてフルオレセイン染色された角膜上皮欠損部の面積を測定し、48時
間後の残存創傷面積率を算出する。