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▶ 鈴木 嘉光の特許一覧

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  • 特開-水活用による果樹の結実安定化法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149791
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】水活用による果樹の結実安定化法
(51)【国際特許分類】
   A01G 27/00 20060101AFI20241010BHJP
   A01G 17/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A01G27/00 504Z
A01G17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024135489
(22)【出願日】2024-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】521499103
【氏名又は名称】鈴木 嘉光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 嘉光
(57)【要約】
【課題】 果樹の結実安定化を図る。
【解決手段】 果樹の花芽が発芽した頃から開花始め期にかけて、降水量が少なく乾燥した場合は土壌30cm深の状態を確認し、水分不足であれば湿った状態になるまで十分量潅水する。また、開花3分咲きの頃まで、夏日のような暑い日が到来したら、園地に設置した裸棒温度計で気温を確認し20℃以上であれば、午後に園地全体に散水して暑気を払い、花芽温度を継続して低く管理すれば、結実は高位安定化して豊年満作となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹の花芽が膨らみ、発芽した頃から萌芽・開花始め(花蕾期)にかけて、降水量が少なく土壌が乾燥する場合、早目に潅水して十分な土壌水分の維持に努めるとともに、その期間に夏日のような暑い日が到来した場合、午後の最高気温の時間帯後に、園地全体に十分量散水して暑気を払い、花芽の熱を下げる対応を開花3分咲きの生育相になるまで継続して実施すれば、メシベの胚のう内卵細胞は正常な状態で完全受精し、結実は高位安定化して豊年満作となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気候変動に対応する果樹栽培の結実安定化に関する技術開発分野である。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の影響から果樹生育の前進化が顕著で、特に発芽期から開花始期にかけて降水量が極少なく、夏日のような暑い日が頻繁に出現している。
【0003】
特に、サクランボ等において「偽単為結果」現象(図5 6)は2019年から見られ始め、ここ6ヵ年では4ヵ年、直近の3ヵ年では毎年発生し、結実不良や軟果が大量に発生し、被害は甚大化している。(図4 5a)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7357381号「遮光による凍霜害の回避法」特許請求の範囲
【0005】
【特許文献2】実用新案登録第3240687号「家庭用冷凍庫等で作る完熟サクランボシャーベット菓子」 実用新案登録請求の範囲、明細書[0002]
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】2002年 農業技術体系果樹編 オウトウ 追録第17号第4巻― 技84の11の3~5 ― 片岡郁雄、別府賢治(香川大学)「暖地のオウトウ栽培と課題」
【0007】
【非特許文献2】2002年 新編 果樹園芸学VI成長.開花と結実(5)偽単為結果P188 黒田 治之
【0008】
【非特許文献3】1961年 「土壌のはなし」 P136~137 マルチングの効果 横井 利直
【0009】
【非特許文献4】1989年 「落葉果樹の組織形態」 渡部 俊三 (恩師) 図―93オウトウ台木マザクラの根系、図―79オウトウの種子(仁)の発芽
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、地球温暖化の影響から果樹生育の前進化が見られるとともに、着果が安定せず生産量が大幅に減少、偽単為結果の果実が多く見られている。(図5 6、図4 5a)
【0011】
特に、核果類で多く品種間差が大きいが、サクランボ「佐藤錦」は正常な果実の着果が少ない上に、流通過程で軟果の発生が多く、全国需要の期待に十分応えられていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
結実不良の要因として、蕾期間の高温による胚のう内細胞の害が考えられる。[0006]植物生理学的には「偽単為結果」[0007]で、正常な受精がなされても胚乳核の分裂が停止し胚形成の停止を引き起こす。種皮形成過程も異常となり種子はシイナ(empty seed)となる。(図5 6)胚形成停止時期が遅い品種ほどシイナが大きく成長するが、収穫後の流通段階において軟果が多発する。
【0013】
この偽単為結果とは、花蕾期の高温影響で内生分泌した高濃度のインドール酢酸(IAA)とジベレリン(GA)が胚のうの退化を引き起こす、結実の種類である。[0007]
【0014】
当発明は、効果的に水を活用し、これら内生ホルモンの分泌を抑制して偽単為結果を防止するものである。
【発明の効果】
【0015】
果樹の結実が安定化し、高品質・多収となる。
【0016】
低樹高・省力栽培が可能となり、後継者が育つようになる。
【0017】
果樹の生産・加工・販売、地域の観光・商工業が活性化する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】 果樹花芽の生育ステージ別土壌水分管理イメージ<30cm深>
図2】 果樹根域の片面被覆による土壌水分蒸散抑制・潅水イメージ
図3】 オウトウ台木マザクラの根系、オウトウ種子の発芽(写真 2様)
図4】 サクランボ「佐藤錦」の開花始め期前後の高温影響(表)
図5】 サクランボの偽単為結果と健全果実 (写真 3様)
【発明を実施するための形態】
【0019】
花芽が動き出した時期から降雨が少なく、暑さで土壌表面からの蒸散作用で根域の水分が少なくなったと感じる頃に、図1の1a~cの生育期間に土壌30cm深の水分含量割合20%~30%を目安に湿り具合を確認する。この目安は、土を握った時に水がしたたり落ちず、かつ、パサパサしない状態である。(図1 2a)
【0020】
園地の水はけの良い地点を代表地点としてスコップで30cm深を試掘し、水分不足と判断した時は、速やかに樹冠下根域(図3a)への水分供給を意識して、十分に潅水する。(図1 2b)具体的には、スプリンクラー潅水、畝間潅水、防除器具活用による潅水のほか、野鼠やモグラの穴に注水することも有効な方法である。
【0021】
3月下旬から4月上中旬にかけて水の確保が困難な園地では、降雨直後にビニール等で樹列の半分を覆い水分蒸散抑制を図り、根域水分の保持に努める。(図2 4)一方、樹体の反対側は、降雨時の雨水、追加潅水等を取り込む目的で被覆をしない形態とする。
【0022】
また、腐食を多く含む団粒構造が良く発達した土壌では、水が飽和した時の容水量が非常に高く、多くの水を団粒内部に貯水できる。バーク堆肥やもみ殻、腐熟たい肥等の有機物を落葉後に連年施用して、保水力の高い土づくりに取り組むことが重要である。
【0023】
傾斜地の果樹園は土壌乾燥がより著しいので、高い位置に貯水を目的としたタンクを設置して水を満たしておく。土壌乾燥が続く場合は、細いホース等を活用して上方から下方へ重力で幹近くの根域に点滴潅水を試みる。(サイフォンの原理 図2 3)
【0024】
高温の到来に備え、園地の日当たりのよい場所の1.5mの高さに裸棒温度計を設置し、気温を正確に把握する。一回でも逃すと凍霜害同様、回復しないので留意する。
【0025】
高温日の到来予測は、週間予報で予め見当を付けておくことが重要である。
日中の気温が20℃以上になる予報が出た場合は、前日の予報に注意する。
高温当日は、最高気温を記録する午後2時以降に防除方法(スピードスプレヤー他)や散水装置を稼働して水を十分に散水し、暑気を払い、花芽を冷却する。
【0026】
最高気温が20℃を大きく上回る日は夕方4時頃でも暑いので、日入り前には気温を再確認し、園地全体が涼しいことを体感したら終了する。
【0027】
高温時の散水は、開花3分咲きの生育相まで欠かさず継続して実施する。その結果、果実の核内種子(図3b)が正常に生成され、着果や果実品質が安定化する。(図5 7)(図4 5b)
【0028】
一方、発芽してから開花3分咲きの時期は、連日のように霜注意報が発令され、生産者の意識はその防止対策に重点が置かれている。凍霜害を容易に回避する特許発明[0004]したので、参考にする。今後は、日中の高温障害「偽単為結果」防止対策への意識を高めるが、両面へ注意を払う必要がある。
【0029】
また、流通過程で軟果が大量に発生しているので、考案した実用新案[0005]を参考にして、市場規模で新たな付加価値づくりにチャレンジしサクランボ産業の新たな需要創生の契機とする。
【符号の説明】
【0030】
1 果樹(サクランボ)の生育ステージ
2 土壌水分の目標目安aと潅水イメージb
3 点滴潅水のイメージ
4 片側マルチングのイメージ
5 偽単為結果の発生パターンa
6 偽単為結果の症状
7 健全果実の着果状況
図1
図2
図3
図4
図5