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特開2024-149815単層カーボンナノチューブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149815
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】単層カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/159 20170101AFI20241010BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20241010BHJP
【FI】
C01B32/159
C01B32/162
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024137551
(22)【出願日】2024-08-19
(62)【分割の表示】P 2021018038の分割
【原出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀
(57)【要約】
【課題】単層カーボンナノチューブをより簡便に得ることができるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50を洗浄する第1工程と、金属基板50の表面にAl23バッファ層51を作製する第2工程と、Al23バッファ層51の表面にIr(イリジウム)20を蒸着させる第3工程と、CVDを実行する第4工程と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板を洗浄する第1工程と、
前記Si基板の表面側にIr(イリジウム)イオン溶液をコーティングする第2工程と、
前記Si基板を焼成する第3工程と、
CVDを実行する第4工程と、
を備えていることを特徴とする単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記Si基板は、前記Irイオン溶液に浸漬され、前記Si基板の表面を前記Irイオン溶液の液面に交差する向きにした状態で0.1mm/secから0.6mm/secの速度で前記Irイオン溶液から引き上げられることを特徴とする請求項1に記載の単層カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単層カーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来のカーボンナノチューブの製造方法を開示している。このカーボンナノチューブの製造方法は、単結晶石英基板の表面にCo(コバルト)を蒸着した後、真空状態かつ800℃の状態に保たれた電気炉にこの単結晶石英基板を装填し、電気炉内にエタノールを供給することによって、単結晶石英基板の表面にカーボンナノチューブを成長させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-178631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のものは、単結晶石英基板を用い、この表面にCo(コバルト)を蒸着している。このため、特許文献1のものは、単結晶石英基板を用意する手間や、Coを蒸着する際に蒸着用の装置を使用する手間がかかってしまう。このため、カーボンナノチューブをより簡便に得る手法の確立が望まれている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、単層カーボンナノチューブをより簡便に得ることができるカーボンナノチューブの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の単層カーボンナノチューブの製造方法は、
金属基板を洗浄する第1工程と、
前記金属基板の表面にAl23バッファ層、又はPDMSバッファ層のいずれかを作製する第2工程と、
前記Al23バッファ層、又は前記PDMSバッファ層の表面にIr(イリジウム)を蒸着させる第3工程と、
CVDを実行する第4工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0007】
第2発明の単層カーボンナノチューブの製造方法は、
Si基板を洗浄する第1工程と、
前記Si基板の表面側にIr(イリジウム)イオン溶液をコーティングする第2工程と、
前記Si基板を焼成する第3工程と、
CVDを実行する第4工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0008】
第1発明の単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板の表面にAl23バッファ層又はPDMSバッファ層のいずれかを作製し、その後Ir(イリジウム)を蒸着させている。これにより、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板上にカーボンナノチューブを成長させることができるので、簡便にカーボンナノチューブを得ることができる。
【0009】
第2発明の単層カーボンナノチューブの製造方法は、Si基板の表面にIrイオン溶液をコーティングした後焼成することによって、Si基板の表面にIrの粒子を容易に形成させることができる。これにより、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、Si基板上に蒸着装置等を用いることなくIrの粒子を形成させることができるので、簡便にカーボンナノチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び実施例2の単層カーボンナノチューブの製造方法を示す概略図である。
図2】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を10分(層厚30nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を20分(層厚60nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を30分(層厚90nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図5】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を40分(層厚120nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図6】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を50分(層厚150nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図7】実施例1の製造方法の第1工程において、金属基板の表面Al23バッファ層を堆積させる時間を60分(層厚180nm)としたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図8】金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を30分(層厚90nm)としたサンプルにおける金属基板の表面を板厚方向、及び金属基板の断面を板厚方向に直交する向きから観察したFE-SEMの画像である。
図9】金属基板の表面にAl23バッファ層を堆積させる時間を60分(層厚180nm)としたサンプルにおける金属基板の表面を板厚方向、及び金属基板の断面を板厚方向に直交する向きから観察したFE-SEMの画像である。
図10】金属基板の表面に堆積するAl23バッファ層の層厚に対する割合G/Dの変化を示すグラフである。
図11】実施例2の製造方法の第2工程におけるスピンコーターの回転数の変化を示すグラフである。
図12】実施例2の製造方法を用いて製造したサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図13】実施例2の製造方法を用いて製造したサンプルにおける金属基板の表面を板厚方向から観察したFE-SEMの画像である。
図14】実施例3の単層カーボンナノチューブの製造方法を示す概略図である。
図15】実施例3の製造方法の第2工程において、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる様子を示す模式図である。
図16】実施例3の製造方法の第2工程において、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度を0.1mm/secとしたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図17】実施例3の製造方法の第2工程において、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度を0.2mm/secとしたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図18】実施例3の製造方法の第2工程において、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度を0.4mm/secとしたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図19】実施例3の製造方法の第2工程において、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度を0.6mm/secとしたサンプルにおける単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示すグラフである。
図20】0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度を0.1mm/secとしたサンプルにおけるSi基板の表面を板厚方向、及びSi基板の断面を板厚方向に直交する向きから観察したFE-SEMの画像である。
図21】0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液からSi基板を引き上げる速度に対する、割合G/Dの変化、及び割合G/Siを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
第1発明の単層カーボンナノチューブの製造方法において、Al23バッファ層の厚みは、30nmから200nmであり得る。この場合、単層カーボンナノチューブを金属基板上に確実に成長させることができる。
【0013】
第2発明の単層カーボンナノチューブの製造方法の第2工程において、Si基板は、Irイオン溶液に浸漬され、Si基板の表面をIrイオン溶液の液面に交差する向きにした状態で0.1mm/secから0.6mm/secの速度でIrイオン溶液から引き上げられ得る。この場合、Si基板上に粒子状のIrを良好に形成させることができ、これによって、単層カーボンナノチューブをSi基板上に確実に成長させることができる。
【0014】
次に、本発明の単層カーボンナノチューブの製造方法を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
実施例1の単層カーボンナノチューブの製造方法は、先ず、金属基板50を洗浄する第1工程を実行する(図1(A)参照。)。金属基板50は、ステンレスで形成されており、平板状をなしている。金属基板50の外形は、およそ10mm角の正方形である。ステンレスは、Siに比べ、容易に入手することができる。金属基板50の表面は、図1(A)における上側の面である。
【0016】
第1工程では、金属基板50をアセトンに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄する。そして、乾燥させた金属基板50をメタノールに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。その後、金属基板50を純水に浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。これにより、金属基板50の表面に付着したごみ等の異物を金属基板50の表面から取り除く。こうして、第1工程を実行する。
【0017】
次に、第1工程を実行後、金属基板50の表面にAl23バッファ層51を作製する第2工程を実行する(図1(B)参照。)。第2工程では、RFマグネトロンスパッタ装置(サンユー電子製 SVC-700RF II)を用いてAl23バッファ層51を金属基板50の表面に堆積させて作製する。Al23バッファ層51は、RFマグネトロンスパッタ装置において1分間スパッタする毎に金属基板50の表面におよそ3nmずつ堆積する。つまり、Al23バッファ層51の堆積する速度は、3nm/minである。第2工程において、金属基板50の表面に堆積するAl23バッファ層51の層厚は、30nmから200nmである。第2工程において、金属基板50の表面にAl23バッファ層51を堆積させる時間は、10分(層厚30nm)から67分(層厚200nm)である。こうして金属基板50の表面に作成したAl23バッファ層51の結晶性は、非晶質(アモルファス)である。
【0018】
次に、第2工程を実行後、Al23バッファ層51の表面にIr20(イリジウム)を蒸着させる第3工程を実行する(図1(C)参照。)。具体的には、パルスアークプラズマガン(アドバンス理工製 APS-1)を用い、金属基板50の表面のAl23バッファ層51の表面に、触媒として作用するIr20を蒸着する。蒸着するIr20は、金属基板50の板厚方向における平均厚さが0.3nmである。Ir20は、粒子状となってAl23バッファ層51の表面に付着する。Ir20の蒸着を実行する条件は、放電電圧100V、放電回数5回、放電間隔1秒である。こうして、第3工程を実行する。これにより、Al23バッファ層51の表面にIr20を蒸着する。
【0019】
次に、第3工程を実行後、CVDを実行する第4工程を実行する(図1(D)参照。)。第4工程では、ホットウォール型CVD成長装置(サーモ理工製 均温熱処理装置)を用いて、エタノールを炭素源としたCVD(化学気相成長)を行う。このホットウォール型CVD成長装置は、石英で形成された反応炉を有している。この反応炉は、電気炉に全て収容される構成とされている。反応炉の全てが電気炉に収容されるので、反応炉内に入る大きさまでの金属基板50を導入することができる。CVDを実行する反応炉内に第3工程までを実行した金属基板50を導入する。反応炉内の気体を排気することによって、CVDを実行する反応炉内の圧力をおよそ1Paにする。そして、気体が排気された反応炉にAr及びH2を100sccmで流して還元雰囲気とし、所定の温度(およそ850℃)まで昇温する。所定の温度に達した後、反応炉内へのAr及びH2の供給を停止し、反応炉内に導入された金属基板50に気化させたエタノールを500sccmで導入し、10分間この蒸気に曝す。すると、Ir20が触媒として作用し、Ir20を介して金属基板50の表面のAl23バッファ層51に結合した複数の単層カーボンナノチューブ30が成長する。こうして、第4工程を実行する。反応炉が電気炉に収容されるので、反応炉に導入したエタノールは直ちに加熱される。これにより、反応炉内のいずれの場所に金属基板50を配置したとしても金属基板50の全体を加熱された気体のエタノールに満遍なく曝すことができる。このため、ホットウォール型CVD成長装置は、反応炉に金属基板50の表面が露出するように配置すればよいので、金属基板50を所定の間隔で重ねるように配置することもでき、より多くの金属基板50を反応炉内に導入することが可能である。
【0020】
その後、反応炉内の温度を室温にまで降温して、複数の単層カーボンナノチューブ30が成長した金属基板50を反応炉から取り出す。
【0021】
〔実施例1におけるサンプルの評価結果〕
図2から図7に、実施例1の製造方法を用い、第2工程におけるスパッタの時間を10分、20分、30分、40分、50分、60分の6種類に変化させて作製したサンプル1からサンプル6において、488nm、532nm、671nm、785nmの4種類の波長の光を照射した際の単層カーボンナノチューブ30のラマンスペクトルを示す。
【0022】
図2(B)、図3(B)、図4(B)、図5(B)、図6(B)、図7(B)に示すように、サンプル1からサンプル6の各々において、高波数領域には鋭いG-bandのスペクトルのピークが現れている。そして、図2(A)、図3(A)、図4(A)、図5(A)、図6(A)、図7(A)に示すように、低波数領域の170~300cm-1付近には、複数のRBM(ラジアルブリ―ジングモード)のスペクトルのピークが現れている。なお、図2(A)の488nmのスペクトルにおけるピークは明瞭でない。以上の結果から、サンプル1からサンプル6のいずれにも単層カーボンナノチューブ30が成長していることがわかる。また、RBMのスペクトルのピークの位置から、サンプル1からサンプル6における単層カーボンナノチューブ30の直径は、概ね0.8nmから1.5nmの間に分布していることがわかる。
【0023】
次に、FE-SEMを用い、サンプル3、及びサンプル6における金属基板50の表面を板厚方向、及び金属基板50の断面を板厚方向に直交する向きから観察した結果を図8図9に示す。図8に示すように、サンプル3、及びサンプル6において、単層カーボンナノチューブ30は、金属基板50に対して垂直配向して成長しており、高密度であることがわかる。なお、図8(B)は、金属基板50に対して垂直配向して成長した単層カーボンナノチューブ30が金属基板50の表面に沿う方向に倒れた状態である。サンプル3、及びサンプル6における単層カーボンナノチューブ30の長さは、およそ4μmから7μmであった。サンプル3、及びサンプル6における単層カーボンナノチューブ30の長さは概ね同じであった。また、図示しないが、第2工程におけるスパッタの時間が67分(層厚200nm)のサンプルにおいても、単層カーボンナノチューブ30が成長していることが確認された。
【0024】
次に、サンプル1からサンプル6の各々における、欠陥に起因するD-bandのスペクトルのピークの大きさに対するG-bandのスペクトルのピークの大きさの割合G/D(以下、割合G/Dともいう)を図10に示す。
【0025】
割合G/Dは、成長した単層カーボンナノチューブ30の結晶性の指標であり、G-bandのスペクトルのピークの値をD-bandのスペクトルのピークの値で除した値である。D-bandのスペクトルのピークは、単層カーボンナノチューブ30に生じる点欠陥等が多くなるに従い大きくなる。つまり、D-bandのスペクトルのピークの値が大きくなると、割合G/Dは小さくなり、単層カーボンナノチューブ30の結晶性がより良好でなくなることを示す。そして、D-bandのスペクトルのピークの値が小さくなると、割合G/Dは大きくなり、単層カーボンナノチューブ30の結晶性がより良好になることを示す。
【0026】
割合G/Dは、サンプル1においておよそ1.1から2.3であり、サンプル2においておよそ2.4から4.5であり、サンプル3においておよそ2.0から4.0であり、サンプル4においておよそ2.5から4.5であり、サンプル5においておよそ1.7から2.6であり、サンプル6においておよそ1.8から3.3であった。また、第2工程におけるスパッタの時間が7分以下(層厚20nm以下)のサンプルは、割合G/Dが1以下であり、単層カーボンナノチューブ30の結晶性が良好でないことがわかる。
【0027】
FE-SEMの観察結果、及び割合G/Dの結果から、Al23バッファ層51の厚みは、30nm(スパッタの時間10分)から200nm(スパッタの時間67分)にすることによって結晶性の良好な単層カーボンナノチューブ30が成長することがわかった。なお、第2工程におけるスパッタの時間は、60nm(スパッタの時間20分)から180nm(スパッタの時間60分)が好ましく、60nm(スパッタの時間20分)から120nm(スパッタの時間40分)がより好ましい。
【0028】
次に、上記実施例における作用効果を説明する。
【0029】
この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50を洗浄する第1工程と、金属基板50の表面にAl23バッファ層51を作製する第2工程と、Al23バッファ層51の表面にIr(イリジウム)20を蒸着させる第3工程と、CVDを実行する第4工程と、を備えている。この構成によれば、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50の表面にAl23バッファ層51を作製し、その後Ir(イリジウム)20を蒸着させている。これにより、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50上に単層カーボンナノチューブ30を成長させることができるので、簡便に単層カーボンナノチューブ30を得ることができる。
【0030】
この単層カーボンナノチューブの製造方法において、Al23バッファ層51の厚みは、30nmから200nmである。この場合、単層カーボンナノチューブ30を金属基板50上に確実に成長させることができる。
【0031】
<実施例2>
次に、本発明の単層カーボンナノチューブの製造方法を具体化した実施例2について、図面を参照しつつ説明する。実施例2の単層カーボンナノチューブの製造方法は、第2工程において、金属基板50の表面にPDMSバッファ層52を作製する点が実施例1と相違する。実施例1と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0032】
実施例2の単層カーボンナノチューブの製造方法は、実施例1と同様に第1工程を実行後、金属基板50の表面にPDMSバッファ層52を作製する第2工程を実行する(図1(B)参照。)。PDMSバッファ層52の材料は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)である。第2工程では、スピンコーター(ミカサ製Opticast MS-A100)を用いて、金属基板50の表面にPDMSを塗布することによってPDMSバッファ層52を作製する。スピンコーターを用いることによって、金属基板50の外形が小さい場合であっても、PDMSを均一且つ薄く金属基板50の表面に塗布することができる。
【0033】
金属基板50の表面にPDMSを塗布する際における、スピンコーターの回転速度について説明する。スピンコーターに金属基板50をセットし、金属基板50の表面にPDMSを塗布した後、スピンコーターは、回転を開始する。図11に示すように、スピンコーターの回転数は、回転を開始すると徐々に大きくなり、回転開始後5秒後に4000rpmに到達する。その後、スピンコーターは、回転数を4000rpmに維持する。そして、回転開始して65秒後にスピンコーターは、回転数を4000rpmから1000rpmに小さくし、その後、回転数を1000rpmに維持する。そして、回転開始して125秒後にスピンコーターは、回転数を1000rpmから0rpmに小さくし、回転を停止する。金属基板50の表面にPDMSを塗布した後、2時間乾燥させる。その後、PDMSを塗布した金属基板50を800℃で1時間焼成する。こうして金属基板50を焼成することによって、PDMSはSiO2に変化してPDMSバッファ層52となる。こうして、第2工程を実行する。こうして金属基板50の表面に作成したPDMSバッファ層52の結晶性は、非晶質(アモルファス)である。
【0034】
次に、第2工程を実行後、実施例1と同様に、PDMSバッファ層52の表面にIr20(イリジウム)を蒸着させる第3工程を実行する(図1(C)参照。)。次に、第3工程を実行後、実施例1と同様に、CVDを実行する第4工程を実行する(図1(D)参照。)。具体的には、CVDを実行する反応炉内に第3工程までを実行した金属基板50を導入する。反応炉内における、条件は実施例1と同様である。すると、Ir20が触媒として作用し、Ir20を介して金属基板50の表面のPDMSバッファ層52に結合した複数の単層カーボンナノチューブ30が成長する。こうして、第4工程を実行する。その後、反応炉内の温度を室温にまで降温して、複数の単層カーボンナノチューブ30が成長した金属基板50を反応炉から取り出す。
【0035】
〔実施例2におけるサンプルの評価結果〕
図12に、実施例2の製造方法を用いて作製したサンプル7において、488nm、532nm、671nm、785nmの4種類の波長の光を照射した際の単層カーボンナノチューブ30のラマンスペクトルを示す。図12(B)に示すように、高波数領域には鋭いG-bandのスペクトルのピークが現れている。そして、図12(A)に示すように、低波数領域の170~300cm-1付近には複数のRBM(ラジアルブリージングモード)のスペクトルのピークが現れている。このことから、サンプル7には、単層カーボンナノチューブ30が成長していることがわかる。また、RBMのスペクトルのピークの位置から、サンプル7における単層カーボンナノチューブ30の直径は、概ね0.8nmから1.5nmの間に分布していることがわかる。
【0036】
次に、FE-SEMを用い、サンプル7における金属基板50の表面を板厚方向から観察した結果を図13に示す。図13に示すように、サンプル7において、単層カーボンナノチューブ30は、金属基板50の表面に平行な方向に延びて互いに絡まり合うように網の目状をなしており、成長する方向が定まらず不規則であるが、金属基板50の表面に多量に成長している。
【0037】
この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50を洗浄する第1工程と、金属基板50の表面にPDMSバッファ層52を作製する第2工程と、PDMSバッファ層52の表面にIr(イリジウム)20を蒸着させる第3工程と、CVDを実行する第4工程と、を備えている。この構成によれば、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50の表面にPDMSバッファ層52を作製し、その後Ir(イリジウム)20を蒸着させている。これにより、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50上に単層カーボンナノチューブ30を成長させることができるので、簡便に単層カーボンナノチューブ30を得ることができる。
【0038】
<実施例3>
次に、本発明の単層カーボンナノチューブの製造方法を具体化した実施例3について、図面を参照しつつ説明する。実施例3の単層カーボンナノチューブの製造方法は、金属基板50に代えてSi基板110を用いる点、第2工程において、Si基板の表面にIr(イリジウム)イオン溶液をコーティングする点、及び第3工程において、Si基板110を焼成する点等が実施例1、2と相違する。実施例1、2と同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0039】
実施例3の単層カーボンナノチューブの製造方法は、先ず、Si(ケイ素)基板110を洗浄する第1工程を実行する(図14(A)参照。)。Si基板110はSiで形成されており、平板状をなしている。Si基板110の外形はおよそ20mm×10mmの長方形状である。Si基板110の表面(図14(A)における上側の面)は(111)面である。第1工程では、Si基板110をアセトンに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄する。そして、乾燥させたSi基板110をメタノールに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。その後、Si基板110を純水に浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。これにより、Si基板110の表面に付着したごみ等の異物を金属基板50の表面から取り除く。こうして、第1工程を実行する。
【0040】
次に、第1工程を実行後、Si基板110を熱処理して、Si基板110の表面を酸化させて熱酸化させる熱酸化工程を実行する(図14(B)参照。)。熱酸化工程では、熱酸化することによって、Si基板110の表面に所定の厚みのSiO2層110Aを形成する。熱酸化工程では、炉内の温度を1000℃にした管状炉にSi基板110を14分間導入する。その際、N2をキャリアガスとしてH2O(水)をバブリングし、水蒸気酸化を行う。こうして、熱酸化工程を実行する。
【0041】
次に、熱酸化工程を実行後、Si基板110の表面側にIrイオン溶液をコーティングする第2工程を実行する(図14(C)参照。)。具体的には、先ず、Si基板110をIrイオン溶液である0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬する(図15参照。)。そして、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬したSi基板110をこの溶液から引き上げて取り出す。
【0042】
このとき、Si基板110の姿勢は、図15に示すように、Si基板110の表面が0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140の液面Sに交差する向き(板厚方向が横向きになるようにした状態)で保持しつつ、この溶液から0.1mm/secから0.6mm/secの速度で引き上げて取り出す。Si基板110の表面と、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140の液面Sと、が交差する角度は、およそ90°である。0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140から取り出したSi基板110のSiO2層110Aの表面は、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140によってコーティングされた状態である。0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140から取り出したSi基板110は、所定の時間乾燥させる。こうして、第2工程を実行する。コーティングされた0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140の厚みは、およそ100nmである。
【0043】
次に、第2工程を実行後、Si基板110を焼成する第3工程を実行する(図14(D)参照。)。具体的には、乾燥させたSi基板110をSiO2層110Aが表面側になるようにしてホットプレート(コーニング製 PC-400D)に乗せ、250℃で15分間焼成する。これによって、SiO2層110Aの表面にコーティングされた0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140のうちIrイオンが凝集して粒子状をなしたIr120を形成する。第2工程においてコーティングされた0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140の厚みがおよそ100nmであることから、Ir120の粒径は、およそ0.5nmから1.5nmであると考えらえる。こうして、第3工程を実行する。
【0044】
次に、第3工程を実行後、CVDを実行する第4工程を実行する(図14(E)参照。)。具体的には、CVDを実行する反応炉内に第3工程までを実行したSi基板110を導入する。反応炉内における、条件は実施例1と同様である。すると、Ir120が触媒として作用し、Ir120を介してSi基板110の表面のSiO2層110Aに結合した複数の単層カーボンナノチューブ130が成長する。こうして、第4工程を実行する。その後、反応炉内の温度を室温にまで降温して、複数の単層カーボンナノチューブ130が成長したSi基板110を反応炉から取り出す。
【0045】
〔実施例3におけるサンプルの評価結果〕
図16から図19に、実施例3の製造方法を用い、第2工程における0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬したSi基板110を引き上げる速度を0.1mm/sec、0.2mm/sec、0.4mm/sec、0.6mm/secの4種類に変化させて作製したサンプル8からサンプル11において、488nm、532nm、671nm、785nmの4種類の波長の光を照射した際の単層カーボンナノチューブ130のラマンスペクトルを示す。
【0046】
図16(B)、図17(B)、図18(B)、図19(B)に示すように、サンプル8からサンプル11の各々において、高波数領域には鋭いG-bandのスペクトルのピークが現れている。そして、図16(A)、図17(A)、図18(A)、図19(A)に示すように、低波数領域の170~300cm-1付近には、複数のRBM(ラジアルブリ―ジングモード)のスペクトルのピークが現れている。このことから、サンプル8からサンプル11のいずれにも単層カーボンナノチューブ130が成長していることがわかる。また、RBMのスペクトルのピークの位置から、サンプル8からサンプル11における単層カーボンナノチューブ130の直径は、概ね0.8nmから1.5nmの間に分布していることがわかる。
【0047】
次に、FE-SEMを用い、サンプル8におけるSi基板110の表面を板厚方向、及びSi基板110の断面を板厚方向に直交する向きから観察した結果を図20に示す。図20(A)に示すように、サンプル8において、単層カーボンナノチューブ130は、Si基板110に対して垂直配向して成長しており、高密度であることがわかる。サンプル8における単層カーボンナノチューブ130の長さは、およそ200nmであった(図20(B)参照。)。
【0048】
次に、サンプル8からサンプル11の各々における割合G/D、及びSi基板110に由来するスペクトルのピークの大きさに対するG-bandのスペクトルのピークの大きさの割合G/Si(以下、割合G/Siともいう)を図21に示す。
【0049】
ここで、割合G/Siは、単層カーボンナノチューブ130の収量の指標であり、G-bandのスペクトルのピークの値をSi基板110に由来するピークの値で除した値である。ここで、Si基板110に由来するピークとは、ラマンスペクトル中の520cm-1付近に現れるピークである(図示せず。)。
【0050】
割合G/Dは、図21(A)に示すように、サンプル8においておよそ1.7から4.4であり、サンプル9においておよそ1.4から3.6であり、サンプル10においておよそ1.3から3.2であり、サンプル11においておよそ1.2から2.7であった。割合G/Siは、図21(B)に示すように、サンプル8においておよそ0.06から0.28であり、サンプル9においておよそ0.07から0.16であり、サンプル10においておよそ0.04から0.12であり、サンプル11においておよそ0.02から0.12であった。
【0051】
割合G/D、及び割合G/Siの計算結果から、第2工程における0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬したSi基板110を引き上げる速度が0.1mm/secから0.6mm/secの間において、単層カーボンナノチューブ30は良好に成長することがわかった。さらに、第2工程における0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬したSi基板110を引き上げる速度が小さいほど単層カーボンナノチューブ130の結晶性がより良好になり、且つ単層カーボンナノチューブ130の成長量が大きくなることがわかった。
【0052】
この単層カーボンナノチューブの製造方法は、Si基板110を洗浄する第1工程と、Si基板110の表面側に0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140をコーティングする第2工程と、Si基板110を焼成する第3工程と、CVDを実行する第4工程と、を備えている。この構成によれば、Si基板110の表面に0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140をコーティングした後焼成することによって、Si基板110の表面にIr120の粒子を容易に形成させることができる。これにより、この単層カーボンナノチューブの製造方法は、Si基板110上に蒸着装置等を用いることなくIr120の粒子を形成させることができるので、簡便に単層カーボンナノチューブ130を得ることができる。
【0053】
この単層カーボンナノチューブの製造方法の第2工程において、Si基板110は、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140に浸漬され、Si基板110の表面を0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140の液面Sに交差する向きにした状態で0.1mm/secから0.6mm/secの速度で0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液140から引き上げられる。この構成によれば、Si基板110上に粒子状のIr120を良好に形成させることができ、これによって、単層カーボンナノチューブ130をSi基板110上に確実に成長させることができる。
【0054】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1、2では、金属基板にステンレスを用いることが開示されている。これに限らず、金属基板にタングステン、モリブデン、コバルト、ニッケル合金等の他の金属を用いてもよい。
(2)上記実施例では、単層カーボンナノチューブをCVD(化学気相成長)を用いて成長させる際に反応炉内を850℃に加温したが、加温温度を適宜に変更してもよい。
(3)上記実施例では、単層カーボンナノチューブをCVD(化学気相成長)を用いて成長させる際に炭素源としてエタノールを反応炉内に供給したが、エタノール以外の炭素源を供給してもよい。
(4)実施例3では、Si基板の表面を(111)面としたが、Si基板の表面を(100)面や(110)面等の他の結晶面に適宜変更してもよい。
(5)実施例3では、Irイオン溶液として0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液を用いている。これに限らず、Irイオンを水に溶解させた液をIrイオン溶液として用いてもよい。
(6)実施例3では、Si基板を0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液に浸漬させている。これに限らず、スピンコーターを用いてSi基板に0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液をコーティングしてもよい。また、バーコーティング法によりSi基板に0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液をコーティングしてもよい。
(7)実施例3では、Si基板の表面と、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液の液面と、が交差する角度は、およそ90°である。具体的には、Si基板の表面と、0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液の液面と、が交差する角度は、90°であってもよく、90°から僅かにずれた角度であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
20,120…Ir(イリジウム)
30,130…単層カーボンナノチューブ
50…金属基板
51…Al23バッファ層
52…PDMSバッファ層
110…Si基板
140…0.01M酢酸イリジウムエタノール溶液(Ir(イリジウム)イオン溶液)
S…Ir(イリジウム)イオン溶液の液面
図1
図2
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