(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149935
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】情報処理方法、プログラム及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
H04B 7/155 20060101AFI20241016BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20241016BHJP
【FI】
H04B7/155
H04W84/06
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058838
(22)【出願日】2023-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、「国立研究開発法人情報通信研究機構」、「革新的情報通信技術研究開発委託研究」、「Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」、「研究開発項目1)LEOコンステレーション用小型衛星搭載電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」、「研究開発項目2)超広帯域光衛星通信システムの実現に向けた基盤技術の研究開発」、「次世代LEO通信コンステレーション構築に向けた超小型・低コスト電波・光ハイブリッド通信システムおよび通信制御システムの研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515039731
【氏名又は名称】株式会社アクセルスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】桧垣 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 順平
(72)【発明者】
【氏名】米本 明弘
【テーマコード(参考)】
5K067
5K072
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067DD45
5K067EE07
5K072AA23
5K072BB22
5K072DD03
5K072DD04
5K072DD19
(57)【要約】
【課題】人工衛星と地上局との間の通信を好適に行うことができる情報処理方法等を提供する。
【解決手段】所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する処理をコンピュータが実行する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記他の人工衛星のチャネル状態情報を更に取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報に基づき、人工衛星の軌道情報とチャネル状態情報との間の第1の相関関係を導出し、
前記他の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報と、通信速度とに基づき、人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報と通信速度との間の第2の相関関係を導出し、
前記第1の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星のチャネル状態情報を特定し、
前記第2の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報を説明変数とし、通信速度を目的変数とする回帰式を最小二乗法により導出し、
導出した回帰式と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報を入力した場合に通信速度を算出するよう学習済みのモデルを生成し、
生成した前記モデルに前記特定の人工衛星の軌道情報を入力することで、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記人工衛星と前記地上局との間の通信は電磁波により行われる
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記人工衛星と前記地上局との間の通信は、光若しくはマイクロ波を相互に切り換える、又は光及びマイクロ波の両方を同時に使用することにより行われる
請求項5に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記地上局は複数存在し、
地上回線を通じて複数の前記地上局の間で前記軌道情報及び通信速度に係るデータを共有することにより、前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度を取得する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記他の人工衛星に対応する位置の散乱体情報を取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報に基づき、人工衛星の軌道情報と散乱体情報との間の第3の相関関係を導出し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報と、通信速度とに基づき、軌道情報及び散乱体情報と通信速度との間の第4の相関関係を導出し、
前記第3の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星に対応する位置の散乱体情報を特定し、
前記第4の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記人工衛星は同時に複数の方向に指向するマルチビームアンテナを搭載し、
前記他の人工衛星の各指向方向への通信速度を取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報と、各指向方向への通信速度とに基づき、人工衛星の軌道情報と各指向方向への通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の各指向方向への通信速度を算出し、
算出した各指向方向への通信速度に応じて、各指向方向の通信に配分すべき電力の比率を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項10】
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項11】
制御部を備える情報処理装置であって、
前記制御部が、
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、プログラム及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星を用いた次世代の通信システムとして、複数の人工衛星が協働して通信を行う衛星コンステレーションの構築が期待されている(例えば特許文献1)。しかしながら、地上ネットワークに匹敵する回線速度を実現するためには、高い周波数帯の電磁波を通信に利用する必要が生じ、従来のマイクロ波よりも大気、雲、水蒸気、砂粒などの影響を受けやすくなる。また、衛星通信においては人工衛星に比べて地上局の方が少ないシステムであることが一般的に多いため、通信に必要なタイムスロットを予め予約して通信することがほとんどである。このため、リアルタイムに通信に影響を与える環境を把握し、時刻毎に最大の通信速度のポテンシャルを引き出すことができれば有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの側面では、人工衛星と地上局との間の通信を好適に行うことができる情報処理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの側面では、情報処理方法は、所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する処理をコンピュータが実行する。
【発明の効果】
【0006】
一つの側面では、人工衛星と地上局との間の通信を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】衛星通信システムの構成例を示す説明図である。
【
図3】通信履歴DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
【
図5】サーバが実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態2に係るサーバが実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】実施の形態3に係るサーバが実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態4に係るサーバが実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、衛星通信システムの構成例を示す説明図である。本実施の形態では、複数の人工衛星2、2、2…のうち、これから通信を行う予定の人工衛星2と地上局3との間の通信速度を、地上局3と通信を完了した他の人工衛星2における通信履歴から予測(算出)する衛星通信システムについて説明する。衛星通信システムは、情報処理装置1、人工衛星2、地上局3を含む。
【0009】
人工衛星2は所定の軌道上に配置され、地上局3との間で通信を行う。本実施の形態では複数の人工衛星2、2、2…の軌道が格子状を成すように配置され(
図4参照)、全体として衛星コンステレーションを形成する。
【0010】
地上局3は、人工衛星2と通信を行うための地上側の無線施設であり、アンテナ等の無線機器から成る。
図1では地上局3を一つしか図示していないが、本実施の形態では複数の地上局3、3、3…が存在するものとして説明する。
【0011】
情報処理装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等である。本実施の形態では情報処理装置1がサーバコンピュータであるものとし、以下では簡潔のためサーバ1と読み替える。サーバ1は、地上局3に接続されており、人工衛星2と地上局3との間の通信を管理する。具体的には後述の如く、サーバ1は、これから特定の人工衛星2が特定の地上局3と通信を行う場合に、他の人工衛星2と地上局3との間の通信履歴に基づいて当該特定の人工衛星2と地上局3との間の通信速度を予測(算出)し、予測した通信速度を当該特定の人工衛星2に送信する。
【0012】
人工衛星2は、送信された通信速度に応じて地上局3との間の通信を行うことで、最大の通信速度で通信を行うことが可能となる。例えば、地球観測データなどの衛星からのダウンリンクのデータサイズの制限が緩和されるので、衛星画像等の写真データであれば、解像度の低下や、写真サイズの制限、あるいは撮影枚数の制限が緩和され、地球観測事業者の利便性向上が可能となる。また、衛星コンステレーションを用いて、全世界にブロードバンド通信を提供する非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)として移動通信の標準化団体3GPP(登録商標)(3rd Generation Partnership Project)で検討されている衛星通信による携帯電話サービスの場合、地上局3をVSAT(Very Small Aperture Terminal:超小型地球局)等のユーザ端末とみなすことで、サービスリンクの下りを高速化することが可能となり、さらに携帯端末からの通信を、衛星2-地上局3間のフィーダリンク経由で無線基地局(eNodeB:evolved Node B)へ転送して衛星通信を行う場合、当該フィーダリンクを高速化でき、情報通信事業者のサービス拡充に繋がる。
【0013】
なお、
図1ではサーバ1が地上局3に無線又は有線で直接接続されている様子を図示しているが、サーバ1はクラウドコンピュータであってもよい。また、サーバ1が実行する処理は、人工衛星上のOBC(On Board Computer)が担ってもよい。
【0014】
また、本実施の形態では人工衛星2が地上局3と通信を行うものとして説明するが、地上局3に代えて、静止衛星30と通信を行うものであってもよい。
【0015】
図2は、サーバ1の構成例を示すブロック図である。サーバ1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、及び補助記憶部14を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部14に記憶されたプログラムPを読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。
【0016】
補助記憶部14は、大容量メモリ、ハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP(プログラム製品)、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部14は、通信履歴DB141を記憶している。通信履歴DB141は、人工衛星2と地上局3との間の通信履歴を格納するデータベースである。
【0017】
なお、補助記憶部14はサーバ1に接続された外部記憶装置であってもよい。また、サーバ1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであっても良く、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0018】
また、本実施の形態においてサーバ1は上記の構成に限られず、例えば操作入力を受け付ける入力部、画像を表示する表示部等を含んでもよい。また、サーバ1は、CD(Compact Disk)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等の可搬型記憶媒体1aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体1aからプログラムPを読み取って実行するようにしても良い。
【0019】
図3は、通信履歴DB141のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。通信履歴DB141は、地上局列、通信時間列、衛星列、座標列、CSI(Channel State Information;チャネル状態情報)列、通信速度列を含む。地上局列は、地上局3を識別するための地上局IDを記憶している。通信時間列、衛星列、座標列、CSI列、及び通信速度列はそれぞれ、地上局IDと対応付けて、地上局3が人工衛星2と通信を行った通信時間帯、当該通信時間帯に地上局3が通信を行った人工衛星2のID、通信時における人工衛星2の座標、通信時に計測されたCSIの値、及び通信速度を記憶している。
【0020】
図4は、人工衛星2の軌道を示す説明図である。
図4では、複数の人工衛星2、2、2…が衛星コンステレーションを形成し、各人工衛星2が特定の地上局3と通信を行う様子を図示している。
図4に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0021】
本実施の形態では、複数の人工衛星2、2、2…が互いに協働して通信処理を実行する衛星コンステレーションを形成する。例えば人工衛星2は、
図4に示す軌道上に配置され、各軌道上を周回する。なお、人工衛星2の移動も地球の自転・公転も観測される宇宙空間に固定された慣性座標系から見て人工衛星2は破線で示す軌道上を移動するが、同時に地球の自転で地上局3が東に向かう図の右方向に移動するため、人工衛星2と地上局3の相対的な位置関係を示す地上局3から見た人工衛星2の軌道は実線になる。人工衛星2と地上局3との間の通信は電磁波により行われる。具体的には、人工衛星2と地上局3との間の通信は光又はマイクロ波を所定の基準に基づいて切り換えたり、光とマイクロ波の両方を同時に使用して、それぞれで用いる通信速度を適切に設定したりすることで行われる。所定の基準として、たとえば、光とマイクロ波の伝送量の合計を最大化する、光とマイクロ波の通信機で消費する電力を最小化する、通信不能と考えられる場合に一方または両方の通信を中止する、等である。本システムでも一般的な衛星コンステレーションシステムと同じく、人工衛星2の数に比べて地上局3の数が少ないため、各人工衛星2は所定時間毎(例えば10分間毎)のタイムスロットで地上局3と通信を行う。
【0022】
ここで、ある特定の人工衛星2が、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局3との通信を予約している場合を考える。この場合に、事前に特定の人工衛星2と特定の地上局3との間の通信速度を予測することができれば、人工衛星2は最大の通信速度で地上局3と通信を行うよう処理を制御することができる。そこでサーバ1は、特定の時刻以前に当該特定の地上局3と通信を完了した他の人工衛星2、2、2…の通信履歴に基づき、通信速度を予測して、当該特定の人工衛星2に送信する。通信速度の予測のために参照する他の人工衛星の範囲は、直前に通過した1機でもよいし、過去に通過したすべてでもよいが、様々な要因による経時変化を加味して、1日以内、1時間以内、などと対象となる人工衛星が通信した時間範囲を絞ったり、推定誤差を計算する際、過去になるほど誤差を小さく評価するよう忘却係数をかけたり、絞り込みや重み付けの種々の方法がある。
【0023】
まずサーバ1は、他の人工衛星2、2、2…が特定の地上局3と通信を行った際の軌道情報、CSI、及び通信速度を通信履歴DB141から取得する。軌道情報は、人工衛星2の軌道に関わるデータであり、少なくとも通信時における人工衛星2の座標(例えば経度x及び緯度yから成る座標データ、あるいはTLE(Two Line Element set;2行軌道要素)など)を含むデータである。本実施の形態では、軌道情報は経度x及び緯度yから成る通信時の人工衛星2の座標データであるものとして説明する。
【0024】
なお、後述する実施の形態2で説明するように、軌道情報は人工衛星2の座標のほか、通信時の風速、天候(雲量、雨量等)などを含んでもよい。
【0025】
CSIは、人工衛星2と地上局3との間の通信品質を表すデータであり、送信信号及び受信信号の強度比、振幅比、位相差などの周波数特性で表される。通信速度は、単位時間当たりの通信容量である。
【0026】
各人工衛星2と各地上局3との間の通信時における軌道情報、CSI、及び通信速度といった通信履歴に係るデータは、地上回線を通じて複数の地上局3、3、3…の間で共有されている。サーバ1は、各地上局3が人工衛星2と通信を行った際のデータを地上回線を通じて取得し、通信履歴DB141に保存する。サーバ1は、当該データを通信履歴DB141から読み出し、通信速度の予測に用いる。
【0027】
サーバ1は、他の人工衛星2、2、2…の軌道情報等に基づき、人工衛星2の軌道情報と、通信速度との間の相関関係を導出する。具体的には、サーバ1は回帰分析を用いて、軌道情報を説明変数とし、通信速度を目的変数とする回帰式を最小二乗法により導出する。
【0028】
本実施の形態では、軌道情報だけでなくCSIも考慮して回帰式を導出する。まずサーバ1は、他の人工衛星2、2、2…の軌道情報及びCSIに基づき、軌道情報を説明変数とし、CSIを目的変数とする第1の回帰式(第1の相関関係)f1(x,y)を導出する。更にサーバ1は、他の人工衛星2、2、2…の軌道情報及びCSIと、通信速度とに基づき、軌道情報及びCSIを説明変数とし、通信速度を目的変数とする第2の回帰式(第2の相関関係)f2(x,y,CSI)を導出する。
【0029】
サーバ1は、予測対象とする特定の人工衛星2の現在の軌道情報を取得する。サーバ1は、特定の人工衛星2の軌道情報と、上記で導出した第1の回帰式f1(x,y)とに基づき、特定の人工衛星2のCSIを特定(予測)する。更にサーバ1は、特定したCSIと、特定の人工衛星2の軌道情報と、上記で導出した第2の回帰式f2(x,y,CSI)とに基づき、特定の人工衛星2の通信速度を算出する。サーバ1は、算出した通信速度を、対象とする特定の人工衛星2に送信する。
【0030】
なお、ここでは簡単のため、CSIと通信速度に対する回帰式をそれぞれ1つずつ用意しているが、使用する周波数帯が広かったり、RF信号同士のみならず光とRF信号のようにお互いの周波数が離れていたりする場合、周波数帯によって回帰式や回帰式中の係数の値が変化するため、細分化した周波数帯ごとの回帰式を用意することも考えられる。また、CSIや通信速度の予測値が大幅に低下する場合や、通信不能となる場合には、そのような周波数帯の通信を中止し、通信可能な周波数帯のみを利用することも考えられる。これは結果的に選択的に通信周波数帯を利用することになる。
【0031】
以上より、本実施の形態によれば、通信を完了した他の人工衛星2、2、2…の通信履歴から人工衛星2の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、導出した相関関係に基づき、これから通信を行う予定の人工衛星2と地上局3との間の通信速度を予測(算出)する。特に本実施の形態では、CSIも考慮して回帰式(相関関係)を導出することにより、通信速度を好適に予測することができる。また、適切に通信周波数を選択することで、通信不能な周波数帯の通信機の電力消費を抑制するなどして、省電力化も図れる。
【0032】
図5は、サーバ1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5に基づき、サーバ1が実行する処理内容について説明する。
サーバ1の制御部11は、所定の軌道上に配置された複数の人工衛星2、2、2…のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局3との通信が予約されている特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…であって、特定の時刻以前に特定の地上局と通信が完了した他の人工衛星2、2、2…の軌道情報、CSI、及び通信速度を取得する(ステップS11)。軌道情報は、人工衛星2の軌道に関わるデータであり、少なくとも通信時における人工衛星2の座標を含む。CSIは、人工衛星2と地上局3との間の通信品質を表すデータであり、送信信号及び受信信号の強度比、振幅比、位相差などで表される。通信速度は、単位時間当たりの通信容量である。制御部11は、取得した軌道情報等のデータに基づき、人工衛星2の軌道情報とCSIとの第1の回帰式(第1の相関関係)と、人工衛星2の軌道情報及びCSIと通信速度との第2の回帰式(第2の相関関係)とを最小二乗法により導出する(ステップS12)。
【0033】
制御部11は、特定の人工衛星2の軌道情報を取得する(ステップS13)。制御部11は、取得した軌道情報と、ステップS12で導出した軌道情報とCSIとの第1の回帰式とに基づき、特定の人工衛星2のCSIを特定する(ステップS14)。制御部11は、特定したCSIと、ステップS13で取得した軌道情報と、ステップS12で導出した軌道情報及びCSIと通信速度との第2の回帰式とに基づき、特定の人工衛星2の通信速度を算出する(ステップS15)。制御部11は、算出した通信速度を特定の人工衛星2に送信し(ステップS16)、一連の処理を終了する。
【0034】
以上より、本実施の形態1によれば、人工衛星2と地上局3との間の通信を好適に行うことができる。
【0035】
(実施の形態2)
本実施の形態では、通信速度の予測に、回帰分析の方法として機械学習を用いる形態について述べる。なお、実施の形態1と重複する内容については同一の符号を付して説明を省略する。
【0036】
図6は、実施の形態2の概要を示す説明図である。
図6に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0037】
実施の形態1では、通信速度を算出するための回帰式を導出する形態について説明した。本実施の形態においてサーバ1は、回帰式に代えて機械学習モデルを生成し、通信速度の算出に用いる。
【0038】
具体的には、サーバ1は、人工衛星2の軌道情報を入力とし、CSIを出力とする第1モデル51と、軌道情報及びCSIを入力とし、通信速度を出力とする第2モデル52とを生成する。
図6では、第1モデル51及び第2モデル52の入出力イメージを図示している。第1モデル51及び第2モデル52は、例えばニューラルネットワークであるが、他の学習アルゴリズムに基づくモデルであってもよい。さらに、時系列の状態変化の認識に有効なLSTM(Long Short-Term Memory)アルゴリズムや、空間あるいは時間的な広がりに対する特徴を抽出できるCNN(Convolutional Neural Network)や、真に重要な部分から優先的に処理できるAttentionアルゴリズムなどを組み合わせることも可能である。前の実施形態では回帰式の表現次第で予測精度が変化してしまうが、ニューラルネットワークなどの機械学習は数式を用いないため、数式によるモデル化が難しい状況でも汎用的に対応可能であるという利点がある。
【0039】
なお、実施の形態1では軌道情報は人工衛星2の座標(x,y)のみであったが、
図6に示すように、本実施の形態では他のパラメータも軌道情報として用いる。具体的には、通信時における風速(v
x,v
y)、地上局3が位置する地形の標高z(x,y)、通信時における雲量、及び雨量を軌道情報に加える。なお、風速、天候(雲量、雨量)などの情報は、人工衛星2と地上局3との間の通信時の通信経路線上に近い範囲(例えば当該通信経路線から100km距離範囲)の風速、天候を用いる。風速、天候等の情報は、外部の気象データ、及び他の人工衛星2、2、2…の通信履歴の一方または両方を用いる。人工衛星2と地上局3との間の通信に関連するこれらのパラメータを加えることにより、通信速度をより好適に予測することができる。
【0040】
サーバ1は、予測対象とする特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…の軌道情報及びCSIに基づき、第1モデル51を生成する。すなわち、サーバ1は、他の人工衛星2、2、2…のデータを機械学習用の訓練データとして用い、第1モデル51を生成する。サーバ1は、訓練用の軌道情報を第1モデル51に入力することでCSIを出力し、出力されたCSIの値が正解のCSIと近似するように、ニューロン間の重み等のパラメータを最適化する。これによりサーバ1は、第1モデル51を生成する。
【0041】
同様にしてサーバ1は、他の人工衛星2、2、2…の軌道情報、CSI及び通信速度に基づき、第2モデル52を生成する。サーバ1は、他の人工衛星2の軌道情報及びCSIを第2モデル52に入力することで通信速度を出力し、出力された通信速度が正解の通信速度と近似するように、ニューロン間の重み等のパラメータを最適化する。これによりサーバ1は、第2モデル52を生成する。
【0042】
予測対象とする特定の人工衛星2と地上局3との間の通信速度を予測する場合、サーバ1は、当該特定の人工衛星2の軌道情報を第1モデル51に入力することで、CSIを特定(出力)する。更にサーバ1は、特定されたCSIと、当該特定の人工衛星2の軌道情報とを第2モデル52に入力することで、通信速度を算出(出力)する。サーバ1は、算出した通信速度を当該特定の人工衛星2に送信する。
【0043】
図7は、実施の形態2に係るサーバ1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。他の人工衛星2、2、2…の軌道情報、CSI及び通信速度を取得した後(ステップS11)、サーバ1は以下の処理を実行する。
サーバ1の制御部11は、取得した軌道情報等のデータに基づき、人工衛星2の軌道情報を入力した場合にCSIを出力するよう学習済みの第1モデル51と、人工衛星2の軌道情報及びCSIを入力した場合に通信速度を出力するよう学習済みの第2モデル52とを生成する(ステップS201)。例えば制御部11は、第1モデル51及び第2モデル52としてニューラルネットワーク(LSTM等)を生成する。制御部11は処理をステップS13に移行する。
【0044】
特定の人工衛星2の軌道情報を取得した後(ステップS13)、制御部11は、取得した軌道情報を第1モデル51に入力することで、CSIを特定(出力)する(ステップS202)。制御部11は、特定されたCSIと、ステップS13で取得した軌道情報とを第2モデル52に入力することで、通信速度を算出(出力)する(ステップS203)。制御部11は処理をステップS16に移行する。
【0045】
以上より、本実施の形態2によれば、回帰分析の方法として機械学習を用いて通信速度を予測(算出)してもよい。
【0046】
(実施の形態3)
本実施の形態では、人工衛星2の軌道情報、CSIのほかに、気象情報または散乱体情報を用いて通信速度を予測する形態について説明する。
【0047】
図8は、実施の形態3の概要を示す説明図である。
図8に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0048】
本実施の形態においてサーバ1は、軌道情報と通信速度を元に気象に起因する通信品質に影響を与える散乱体の分布および速度情報(以下、散乱体情報)を予測する第3の回帰式f3(x,y)を導出することで散乱体情報を予測し、予測された散乱体情報等を元に通信速度を予測する第4の回帰式f4(x,y,CSI,散乱体情報)を導出することで、最終的に通信速度を予測する。ここで言う散乱体とは、具体的には大気中の水蒸気、降雨する水滴、雲を形成する氷などである。これに対し、気象情報は、任意の座標における気象状況を表すデータであり、例えば「晴れ」、「曇り」、「雨」など、天候の種類を表すデータのほか、気温、風速などのデータである。これら気象情報と物理法則(ボイル・シャルルの法則、流体力学、逆散乱問題の解法等)からも上記散乱体分布を推定することが可能である。また、気象情報から推定した散乱体情報と通信から推定した散乱体情報の両方を考慮した最も確からしい散乱体情報の推定も可能である。
【0049】
気象情報の具体的なイメージを
図8A、Bに図示する。予測対象とする特定の地上局3が1つである場合、
図8Aに示すように、地上局3を中心とする極座標(r,θ)で気象情報を表現すると好適である。例えばサーバ1は、地上局3を中心とする領域を半径100km間隔で、かつ角度15度間隔の領域に分割し、各領域に気象情報を割り当てる。これにより、地上局3に近い方がデータの解像度が高いことを反映することができる。
【0050】
一方で、予測対象とする特定の地上局3が複数である場合、
図8Bに示すように、経度及び緯度の直交座標(x,y)で気象情報を表現すると好適である。例えばサーバ1は、地表面領域をx方向(経度)及びy方向(緯度)それぞれ100km間隔の領域に分割し、各領域に気象情報を割り当てる。これにより、全ての地上局3で同じマッピングを利用することができ、利便性を高めることができる。
【0051】
サーバ1は、予測対象とする特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…の軌道情報等に基づき、軌道情報を説明変数とし、CSIを目的変数とする第1の回帰式f1(x,y)(又は極座標で表現したf1(r,θ))を導出するほか、軌道情報を説明変数とし、散乱体情報を目的変数とする第3の回帰式(第3の相関関係)f3(x,y)と、軌道情報、CSI及び散乱体情報を説明変数とし、通信速度を目的変数とする第4の回帰式(第4の相関関係)f4(x,y,CSI,散乱体情報)とを導出する。
【0052】
なお、本実施の形態でも実施の形態2と同様に、回帰式に代えて機械学習モデルを生成するようにしてもよい。
【0053】
予測対象とする特定の人工衛星2と特定の地上局3との間の通信速度を予測する場合、サーバ1は、当該特定の人工衛星2の軌道情報と、第1の回帰式f1(x,y)とに基づいてCSIを特定するほか、特定の人工衛星2の軌道情報と、第3の回帰式f3(x,y)とに基づいて散乱体情報を特定する。そしてサーバ1は、特定したCSI及び散乱体情報と、特定の人工衛星2の軌道情報と、第4の回帰式f4(x,y,CSI,散乱体情報)とに基づき、通信速度を算出する。サーバ1は、算出した通信速度を特定の人工衛星2に送信する。
【0054】
図9は、実施の形態3に係るサーバ1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
サーバ1の制御部11は、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局3との通信が予約されている特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…の軌道情報、CSI、及び散乱体情報を取得する(ステップS301)。制御部11は、取得したデータに基づき、軌道情報からCSIを特定するための第1の回帰式のほかに、軌道情報を説明変数とし、散乱体情報を目的変数とする第3の回帰式(第3の相関関係)と、軌道情報、CSI及び散乱体情報を説明変数とし、散乱体情報を目的変数とする第4の回帰式(第4の相関関係)とを導出する(ステップS302)。制御部11は処理をステップS13に移行する。
【0055】
第1の回帰式に基づいてCSIを特定した後(ステップS14)、制御部11は、特定の人工衛星2の軌道情報と、ステップS302で導出した第3の回帰式とに基づき、散乱体情報を特定する(ステップS303)。制御部11は、特定したCSI及び散乱体情報と、特定の人工衛星2の軌道情報と、ステップS302で導出した第4の回帰式とに基づき、通信速度を算出する(ステップS304)。制御部11は、処理をステップS16に移行する。
【0056】
以上より、本実施の形態3によれば、通信速度を算出するための説明変数として気象情報または散乱体情報を加えることで、より好適に通信速度を予測することができる。
【0057】
(実施の形態4)
本実施の形態では、人工衛星2が複数の地上局3と同時に通信を行うことが可能なマルチビームアンテナを搭載している場合において、各地上局3との間で予測される通信速度に応じて、各地上局3との通信に配分すべき電力の比率を算出する形態について説明する。
【0058】
図10は、実施の形態4の概要を示す説明図である。
図10に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0059】
図10では、人工衛星2が複数の方向に指向性を有するマルチビームアンテナを搭載し、各指向方向に位置する地上局3、3、3との間で通信を行う様子を図示している。本実施の形態において人工衛星2は、同時に複数の方向に指向するマルチビームアンテナを搭載しており、各指向方向にビームを放射する。
【0060】
ここで、各地上局3との通信速度は、天候等により変わり得る。例えば
図6に示すように、人工衛星2と中央の地上局3との間の領域は晴れているため十分な通信速度を確保できる一方で、人工衛星2と左下の地上局3との間の領域は曇っているため、中央の地上局3よりも通信速度は低くなる。また、人工衛星2と右上の地上局3との間の領域は雨であるため、更に通信速度は低くなる。
【0061】
そこで本実施の形態では、サーバ1は各指向方向(人工衛星2から各地上局3に向かう方向)の通信速度を予測し、予測された各指向方向の通信速度に応じて、各指向方向へのビームの放射に要する電力の比率を算出する。サーバ1は、算出した電力の比率を人工衛星2に送信することで、最適な電力配分で各指向方向の通信を行うことができるよう制御する。
【0062】
具体的には、サーバ1は、第1の回帰式f1(x,y)、第2の回帰式f2(x,y,CSI)を導出する場合に、複数の指向方向それぞれに位置する地上局3との通信時におけるCSIを算出する第1の回帰式f1(x,y)と、複数の指向方向それぞれへの通信速度を算出する第2の回帰式f2(x,y,CSI)とを導出する。すなわち、サーバ1は、予測対象とする特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…の通信履歴として、複数の指向方向それぞれのCSI及び通信速度を取得し、当該他の人工衛星2の各指向方向でのCSI及び通信速度に基づき、各指向方向の地上局3との通信時におけるCSIを目的変数とするf1(x,y)と、各指向方向への通信速度を目的変数とする第2の回帰式f2(x,y,CSI)を導出する。
【0063】
実際に予測対象とする特定の人工衛星2の通信速度を予測する場合、サーバ1は、当該第1の回帰式f1(x,y)と、第2の回帰式f2(x,y,CSI)とに基づき、複数の指向方向それぞれへの通信速度を算出する。すなわち、サーバ1はまず、実施の形態1と同様に、特定の人工衛星2の軌道情報と、第1の回帰式f1(x,y)とに基づき各指向方向に対応するCSIを算出する。そしてサーバ1は。算出したCSIと、特定の人工衛星2の軌道情報と、第2の回帰式f2(x,y,CSI)とに基づき、各指向方向への通信速度を算出する。
【0064】
サーバ1は、算出した各指向方向への通信速度に応じて、各指向方向の通信(ビーム放射)に配分すべき電力の比率を算出する。具体的には、サーバ1は、算出した各指向方向への通信速度に比例したビーム強度を得られるように、最急勾配法、又は特異値分解を用いて、各指向方向の通信に配分すべき電力の比率を算出する。サーバ1は、算出した電力の比率を人工衛星2に送信する。
【0065】
図11は、実施の形態4に係るサーバ1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
サーバ1の制御部11は、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局3との通信が予約されている特定の人工衛星2以外の他の人工衛星2、2、2…の軌道情報、CSI及び通信速度を取得する(ステップS401)。本実施の形態では、制御部11は、他の人工衛星2のCSI及び通信速度として、複数の指向方向それぞれのCSI及び通信速度を取得する。制御部11は、取得した他の人工衛星2のデータに基づき、軌道情報を説明変数とし、各指向方向でのCSIを目的変数とする第1の回帰式(第1の相関関係)を導出するほか、軌道情報及びCSIを説明変数とし、各指向方向への通信速度を目的変数とする第2の回帰式(第2の相関関係)を導出する(ステップS402)。制御部11は処理をステップS13に移行する。
【0066】
制御部11は、ステップS13で取得した軌道情報と、ステップS402で導出した第1の回帰式とに基づき、各指向方向のCSIを特定する(ステップS403)。そして制御部11は、特定した各指向方向のCSIと、特定の人工衛星2の軌道情報と、第2の回帰式とに基づき、特定の人工衛星2の各指向方向への通信速度を算出する(ステップS404)。制御部11は、算出した各指向方向への通信速度に応じて、各指向方向の通信に配分すべき電力の比率を算出する(ステップS405)。具体的には、制御部11は、算出した各指向方向への通信速度に比例するように、各指向方向の通信に配分すべき電力の比率を算出する。制御部11は、ステップS403で算出した通信速度と、ステップS404で算出した電力の比率とを特定の人工衛星2に送信し(ステップS406)、一連の処理を終了する。
【0067】
以上より、本実施の形態4によれば、人工衛星2がマルチビームアンテナを搭載する場合において、各指向方向の通信に要する電力を最適化することができる。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0069】
各実施の形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 サーバ(情報処理装置)
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
P1 プログラム
141 通信履歴DB
2 人工衛星
3 地上局
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記他の人工衛星のチャネル状態情報を更に取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報に基づき、人工衛星の軌道情報とチャネル状態情報との間の第1の相関関係を導出し、
前記他の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報と、通信速度とに基づき、人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報と通信速度との間の第2の相関関係を導出し、
前記第1の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星のチャネル状態情報を特定し、
前記第2の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報及びチャネル状態情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報を説明変数とし、通信速度を目的変数とする回帰式を最小二乗法により導出し、
導出した回帰式と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報を入力した場合に通信速度を算出するよう学習済みのモデルを生成し、
生成した前記モデルに前記特定の人工衛星の軌道情報を入力することで、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記複数の人工衛星と前記特定の地上局との間の通信は電磁波により行われる
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項6】
前記複数の人工衛星と前記特定の地上局との間の通信は、光若しくはマイクロ波を相互に切り換える、又は光及びマイクロ波の両方を同時に使用することにより行われる
請求項5に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記特定の地上局を含む複数の地上局が存在し、
地上回線を通じて前記複数の地上局の間で前記軌道情報及び通信速度に係るデータを共有することにより、前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度を取得する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記他の人工衛星に対応する位置の散乱体情報を取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報に基づき、人工衛星の軌道情報と散乱体情報との間の第3の相関関係を導出し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報と、通信速度とに基づき、軌道情報及び散乱体情報と通信速度との間の第4の相関関係を導出し、
前記第3の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星に対応する位置の散乱体情報を特定し、
前記第4の相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報及び散乱体情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記複数の人工衛星はそれぞれ、同時に複数の方向に指向するマルチビームアンテナを搭載し、
前記他の人工衛星の各指向方向への通信速度を取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報と、各指向方向への通信速度とに基づき、人工衛星の軌道情報と各指向方向への通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の各指向方向への通信速度を算出し、
算出した各指向方向への通信速度に応じて、各指向方向の通信に配分すべき電力の比率を算出する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項10】
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項11】
制御部を備える情報処理装置であって、
前記制御部が、
所定の軌道上に配置された複数の人工衛星のうち、特定の時刻から開始されるタイムスロットにおいて特定の地上局との通信が予約されている特定の人工衛星の軌道情報と、該特定の人工衛星以外の他の人工衛星であって、前記特定の時刻以前に前記特定の地上局と通信を完了した他の人工衛星の軌道情報及び通信速度とを取得し、
前記他の人工衛星の軌道情報及び通信速度に基づき、人工衛星の軌道情報と通信速度との間の相関関係を導出し、
導出した相関関係と、前記特定の人工衛星の軌道情報とに基づき、前記特定の人工衛星の通信速度を算出し、
算出した通信速度を前記特定の人工衛星に送信する
情報処理装置。