(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149939
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】交流消耗電極アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20241016BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 501A
B23K9/073 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063125
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082AB01
4E082BA02
(57)【要約】
【課題】くびれ検出制御を併用する交流消耗電極アーク溶接において、スパッタの発生を抑制して溶接状態を安定化すること。
【解決手段】溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中にアークの再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流Iwを減少させて低レベル電流値に維持し、アークが再発生すると溶接電流Iwを低レベル電流値から高アーク電流値まで傾斜を有して上昇させ、電極極性を少なくとも1回のアーク期間を含む電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とに周期的に切り換えて溶接する交流消耗電極アーク溶接制御方法において、電極プラス極性期間中の時刻t41~t42の溶接電流Iwの上昇率を、電極プラス極性期間中の時刻t21~t22の溶接電流Iwの上昇率よりも小さな値に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、
前記短絡期間中にアークの再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させて低レベル電流値に維持し、
前記アークが再発生すると前記溶接電流を前記低レベル電流値から高アーク電流値まで傾斜を有して上昇させ、
電極極性を少なくとも1回の前記アーク期間を含む電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とに周期的に切り換えて溶接する交流消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記傾斜中の前記溶接電流の上昇率を、前記電極マイナス極性期間中は前記電極プラス極性期間中よりも小さな値に設定する、
ことを特徴とする交流消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記上昇率を、前記電極マイナス極性期間中は前記電極プラス極性期間中の50%以下に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記電極マイナス極性期間中の前記上昇率を、50~500A/msの範囲に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記電極マイナス極性期間中の前記上昇率を、前記高アーク電流値が大きいほど小さな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークの再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させ、電極極性を電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とに周期的に切り換えて溶接する交流消耗電極アーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中にアークの再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させて低レベル電流値に維持し、アークが再発生すると溶接電流を低レベル電流値から高アーク電流値まで傾斜を有して上昇させるくびれ検出制御方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、電極極性を、複数周期の短絡期間及びアーク期間を含む電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とに周期的に切り換えて溶接する交流消耗電極アーク溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5918051号公報
【特許文献2】特許第6601870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したくびれ検出制御を行いながら交流消耗電極アーク溶接を行うと、電極マイナス極性期間中に多くのスパッタが発生して溶接状態が不安定になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、くびれ検出制御を併用する交流消耗電極アーク溶接において、スパッタの発生を抑制して溶接状態を安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、
前記短絡期間中にアークの再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させて低レベル電流値に維持し、
前記アークが再発生すると前記溶接電流を前記低レベル電流値から高アーク電流値まで傾斜を有して上昇させ、
電極極性を少なくとも1回の前記アーク期間を含む電極プラス極性期間と電極マイナス極性期間とに周期的に切り換えて溶接する交流消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記傾斜中の前記溶接電流の上昇率を、前記電極マイナス極性期間中は前記電極プラス極性期間中よりも小さな値に設定する、
ことを特徴とする交流消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記上昇率を、前記電極マイナス極性期間中は前記電極プラス極性期間中の50%以下に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記電極マイナス極性期間中の前記上昇率を、50~500A/msの範囲に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記電極マイナス極性期間中の前記上昇率を、前記高アーク電流値が大きいほど小さな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の交流消耗電極アーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るくびれ検出制御を併用する交流消耗電極アーク溶接によれば、スパッタの発生を抑制して溶接状態を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る交流消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る交流消耗電極アーク溶接制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る交流消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Ea及び後述する極性切換信号Spnを入力として、1次側インバータ回路によって誤差増幅信号Eaに基づいて出力制御を行い、2次側インバータ回路によって極性切換信号Swに基づいて電極極性を電極プラス極性EPと電極マイナス極性ENとに切り換えて交流の溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動される1次側インバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル及び平滑された直流を交流出力に変換する上記の極性切換信号Spnによって駆動される2次側インバータ回路を備えている。
【0016】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。溶接ワイヤ1を、定速送給する場合もある。
【0017】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には交流の溶接電圧Vwが印加され、交流の溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出される。
【0018】
電圧設定回路VRは、第2アーク期間中の溶接電圧Vwを設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出し絶対値に変換して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0019】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr及び上記の電圧検出信号Vdを入力として、両値の誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0020】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出し絶対値に変換して、電流検出信号Idを出力する。
【0021】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0022】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0023】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0024】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0025】
正送ピーク値設定回路WSRは、後述する極性切換信号Spnを入力として、極性切換信号SpnがHighレベル(電極プラス極性期間)のときは予め定めた電極プラス極性正送ピーク値となり、極性切換信号SpnがLowレベル(電極マイナス極性期間)のときは予め定めた電極マイナス極性正送ピーク値となる正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0026】
逆送ピーク値設定回路WRRは、後述する極性切換信号Spnを入力として、極性切換信号SpnがHighレベル(電極プラス極性期間)のときは予め定めた電極プラス極性逆送ピーク値となり、極性切換信号SpnがLowレベル(電極マイナス極性期間)のときは予め定めた電極マイナス極性逆送ピーク値となる逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0027】
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
【0028】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0029】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0030】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0031】
高アーク電流設定回路IA1Rは、予め定めた高アーク電流設定信号Ia1rを出力する。
【0032】
第3アーク期間回路STA3は、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間Tdが経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる第3アーク期間信号Sta3を出力する。
【0033】
第3アーク電流設定回路IA3Rは、予め定めた第3アーク電流設定信号Ia3rを出力する。
【0034】
電極プラス極性上昇率設定回路SPRは、予め定めた電極プラス極性上昇率設定信号Spr[A/ms]を出力する。電極マイナス極性上昇率設定回路SNRは、上記の高アーク電流設定信号Ia1rを入力として、予め定めた上昇率設定関数によって算出された電極マイナス極性上昇率設定信号Snr[A/ms]を出力する。
1)Snr<Sprである。
2)SnrはSprの50%以下の値である。より好ましくは30%以下の値である。
3)Snrは50~500A/msの範囲に設定される。より好ましくは50~200A/msの範囲である。
4)SnrはIa1rの関数であり、Ia1rが大きくなるほどSnrは小さくなる関数である。例えば、関数は、Ia1rが400~500Aの範囲で変化したときに、Ia1r=500のときのSnrはIa1r=400のときよりも20%小さな値に設定される。
【0035】
上昇率設定回路SRは、上記の電極プラス極性上昇率設定信号Spr、上記の電極マイナス極性上昇率設定信号Snr及び後述する極性切換信号Spnを入力として、極性切換信号SpnがHighレベルのときは電極プラス極性上昇率設定信号Sprを上昇率設定信号Srとして出力し、極性切換信号SpnがLowレベルのときは電極マイナス極性上昇率設定信号Snrを上昇率設定信号Srとして出力する。
【0036】
電極プラス極性期間設定回路TPRは、予め定めた電極プラス極性期間設定信号Tprを出力する。電極マイナス極性期間設定回路TNRは、予め定めた電極マイナス極性期間設定信号Tnrを出力する。
【0037】
極性切換回路SPNは、上記の電極プラス極性期間設定信号Tpr、上記の電極マイナス極性期間設定信号Tnr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理を行い、極性切換信号Spnを出力する。
1)極性切換信号SpnがHighレベルに変化した時点から電極プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間が経過し、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になると、極性切換信号SpnをLowレベル(電極マイナス極性期間)に変化させて出力する。
2)極性切換信号SpnがLowレベルに変化した時点から電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間が経過し、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になると、極性切換信号SpnをHighレベル(電極プラス極性期間)に変化させて出力する。
【0038】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記のくびれ検出信号Nd、上記の第3アーク期間信号Sta3、上記の高アーク電流設定信号Ia1r、上記の第3アーク電流設定信号Ia3r及び上記の上昇率設定信号Srを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icr及び第1アーク期間信号Sta1を出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた遅延期間Tc中は、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)遅延期間Tcが終了すると、低レベル電流設定信号Ilrの値から高アーク電流設定信号Ia1rの値まで上昇率設定信号Srによって定まる上昇率で上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。この期間が第1アーク期間Ta1となり、第1アーク期間信号Sta1をHighレベルにして出力する。
3)その後は、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化するまでの第2アーク期間Ta2及び第3アーク期間Ta3)中は、第3アーク電流設定信号Ia3rとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
4)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
5)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0039】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、両値の誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0040】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の第1アーク期間信号Sta1及び上記の第3アーク期間信号Sta3を入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化し、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化するまでの第2アーク期間Ta2中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)それ以外の期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間、第1アーク期間Ta1及び第3アーク期間Ta3中は定電流特性となり、第2アーク期間Ta2中は定電圧特性となる。
【0041】
図2は、本発明の実施の形態に係る交流消耗電極アーク溶接制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は第1アーク期間信号Sta1の時間変化を示し、同図(F)は第3アーク期間信号Sta3の時間変化を示し、同図(G)は極性切換信号Spnの時間変化を示し、同図(H)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0042】
同図(A)に示す送給速度Fwは、0よりも上側が溶接ワイヤを母材に近づく方向に送給する正送期間となり、下側が溶接ワイヤを母材から離反する方向に送給する逆送期間となる。同図(B)に示す溶接電流Iw及び同図(C)に示す溶接電圧Vwは、0よりも上側が電極プラス極性EPを示し、下側が電極マイナス極性ENを示す。送給速度Fw、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの値の大小はその絶対値の大小を示している。例えば、送給速度Fwが逆送状態にあるときにその値が大きくなるとはその絶対値が大きくなることを意味している。同様に、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwが電極マイナス極性期間Tenにあるときに、その値が大きくなるとはその絶対値が大きくなることを意味している。同図(G)に示す極性切換信号Spnによって
図1の電源主回路PM内の2次側インバータ回路が制御されて、Highレベルのときは電極プラス極性期間Tepとなり、Lowレベルのときは電極マイナス極性期間Tenとなる。
【0043】
同図において、電極プラス極性期間Tepは、時刻t1~t4の期間となり、電極マイナス極性期間Tenは、時刻t4~t7の期間となる。電極プラス極性期間Tepは、
図1の電極プラス極性期間設定信号Tprの値に短絡が発生するまでの期間を加算した期間となる。電極マイナス極性期間Tenは、
図1の電極マイナス極性期間設定信号Tnrの値に短絡が発生するまでの期間を加算した期間となる。交流の周波数が0.1~30Hz、デューティが20~80%程度の範囲に設定されるので、電極プラス極性期間Tep及び電極マイナス極性期間Tenは、7ms~8秒程度の範囲に設定される。各期間ともに、少なくとも1回のアーク期間を含むことになる。例えば、交流の周波数が10Hz、デューティが50%のときは、Tep=50ms、Ten=50msとなる。このときに短絡・アーク期間の周期は10ms程度であるので、各期間に10周期の短絡・アーク期間が含まれることになる。
【0044】
(1)電極プラス極性期間Tepの動作
電極マイナス極性期間Tenの短絡期間である時刻t0において、同図(G)に示すように、極性切換信号SpnはLowレベルとなっている。同図(A)に示すように、送給速度Fwは電極マイナス極性逆送ピーク値の状態にある。同図(B)に示すように、溶接電流IWは、負の値の初期電流値の状態にある。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは負の値の数Vの短絡電圧値の状態にある。同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベル(短絡期間)の状態にある。
【0045】
時刻t1において、同図(G)に示すように、極性切換信号SpnがHighレベルに変化すると、電極プラス極性期間Tepに移行する。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは電極プラス極性逆送ピーク値へと加速される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は定電流制御されて、正の値の初期電流値へと変化する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、正の値の短絡電圧値に変化する。時刻t1に極性切換信号SpnがHighレベルに変化するタイミングは、短絡期間中であり、短絡が発生した直後又はそれから所定期間(1ms程度)が経過した時点である。
【0046】
その後に、予め定めた初期期間が終了すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた短絡時傾斜で上昇し、短絡時ピーク値に到達するとその値を維持する。 同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。 その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、同図(H)に示すように、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化する。これに応動して、
図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間Tcが経過するまでは低レベル電流値を維持する。くびれが検出されたときの溶接電流Iwの急減速度を高速にするために、溶接電流Iwの通電路に抵抗とスイチング阻止を並列接続した回路を追加することが望ましい。くびれが検出されるまではスイッチング阻止をオン状態にして抵抗を短絡し通常の状態とし、くびれが検出されるとスイッチング阻止をオフ状態にして抵抗を通電路に挿入することによって急減速度を高速にすることができる。例えば、上記の初期期間は1msに設定され、初期電流値は50Aに設定され、短絡時傾斜は400A/msに設定され、短絡時ピーク値は450Aに設定され、低レベル電流値は50Aに設定される。同図(H)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t2にアークが再発生するとLowレベルに戻る。
【0047】
時刻t2において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、電極プラス極性逆送ピーク値から電極プラス極性正送ピーク値への変化を開始する。時刻t2~t21の予め定めた遅延期間Tc中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって低レベル電流値を維持する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。例えば、電極プラス極性正送ピーク値は70m/分に設定され、電極プラス極性逆送ピーク値は-50m/分に設定される。また、遅延期間Tcは0~0.5ms程度に設定される。Tc=0のときは遅延期間Tcが削除された状態である。
【0048】
時刻t21において、遅延期間Tcが終了すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって、低レベル電流値から
図1の電極プラス極性上昇率設定信号Sprによって定まる上昇率で
図1の高アーク電流設定信号Ia1rによって定まる値まで上昇する。時刻t22において、溶接電流Iwが高アーク電流値まで上昇すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1はLowレベルに変化して、第1アーク期間が終了する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して上昇する。電極プラス極性上昇率は、500~1000a/ms程度に設定され、高アーク電流値は400~500A程度に設定される。
【0049】
時刻t23において、アーク発生時点t2から予め定めた電流降下時間Tdが経過すると、同図(F)に示すように、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する。時刻t22~t23の期間が第2アーク期間Ta2となる。この第2アーク期間Ta2中は、定電圧制御されてアーク長が適正値に維持される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に降下する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは定電圧制御によって制御され、次第に降下する。例えば、電流降下時間Tdは6msに設定される。第2アーク期間Ta2は、所定値ではないが5ms程度となる。
【0050】
第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する時刻t23から短絡が発生する時刻t3までの期間が、第3アーク期間Ta3となる。この第3アーク期間Ta3中は、定電流制御される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、
図1の第3アーク電流設定信号Ia3rによって定まる値となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、第2アーク期間よりも小さな値となる。例えば、第3アーク電流は50Aに設定される。第3アーク期間Ta3は所定値ではないが、1ms程度となる。上述したように、溶接電流Iwを小さな値にすることによって次の短絡が早期に発生するようにしている。
【0051】
時刻t3~t4の期間は、再び短絡期間となり、その後はアーク期間となる。この期間中の動作は上記と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0052】
(2)電極マイナス極性期間Temの動作
電極プラス極性期間Tep中の第3アーク期間Ta3の途中の時刻t31において、時刻t1からの
図1の電極プラス極性期間設定信号Tprによって定まる期間が経過する。そして、時刻t4において、短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは正の値の短絡電圧値となり、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(G)に示すように、極性切換信号SpnはLowレベルに変化し、電極マイナス極性期間Tenに移行する。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、電極プラス極性正送ピーク値から電極マイナス極性逆送ピーク値へと変化する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は定電流制御されて、負の値の初期電流値へと変化する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、負の値の短絡電圧値に変化する。時刻t4に極性切換信号SpnがLowレベルに変化するタイミングは、短絡期間中であり、短絡が発生した直後又はそれから所定期間(1ms程度)が経過した時点である。
【0053】
その後に、予め定めた初期期間が終了すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた短絡時傾斜で上昇し、短絡時ピーク値に到達するとその値を維持する。 同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。 その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、同図(H)に示すように、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化する。これに応動して、
図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間Tcが経過するまでは低レベル電流値を維持する。上記の初期期間、初期電流値、短絡時傾斜、短絡時ピーク値及び低レベル電流値の各値を電極プラス極性期間中と同一値に設定しても良いが、電極マイナス極性の特性を考慮して異なる値に設定しても良い。同図(H)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t5にアークが再発生するとLowレベルに戻る。
【0054】
時刻t5において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、送給速度Fwは、電極マイナス極性逆送ピーク値から電極マイナス極性正送ピーク値への変化を開始する。時刻t5~t51の予め定めた遅延期間Tc中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって低レベル電流値を維持する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwはアーク電圧値となる。例えば、電極マイナス極性正送ピーク値は80m/分に設定され、電極マイナス極性逆送ピーク値は-50m/分に設定される。電極マイナス極性期間Ten中の送給速度Fwの平均値は、電極プラス極性期間Tep中よりも大きな値となる。これは、両期間の溶接電流Iwの平均値をほぼ同一値になるようにするためである。また、遅延期間Tcは、電極プラス極性期間Tepと同様に、0~0.5ms程度に設定される。Tc=0のときは遅延期間Tcが削除された状態である。
【0055】
時刻t51において、遅延期間Tcが終了すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは定電流制御によって、低レベル電流値から
図1の電極マイナス極性上昇率設定信号Snrによって定まる上昇率で
図1の高アーク電流設定信号Ia1rによって定まる値まで上昇する。時刻t52において、溶接電流Iwが高アーク電流値まで上昇すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1はLowレベルに変化して、第1アーク期間が終了する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも傾斜を有して上昇する。電極マイナス極性上昇率は、50~500a/ms程度に設定され、高アーク電流値は400~500A程度に設定される。
【0056】
時刻t53において、アーク発生時点t5から予め定めた電流降下時間Tdが経過すると、同図(F)に示すように、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する。時刻t52~t53の期間が第2アーク期間Ta2となる。この第2アーク期間Ta2中は、定電圧制御されてアーク長が適正値に維持される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に降下する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは定電圧制御によって制御され、次第に降下する。例えば、電流降下時間Tdは6msに設定される。第2アーク期間Ta2は、所定値ではないが5ms程度となる。
【0057】
第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する時刻t53から短絡が発生する時刻t6までの期間が、第3アーク期間Ta3となる。この第3アーク期間Ta3中は、定電流制御される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、
図1の第3アーク電流設定信号Ia3rによって定まる値となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、第2アーク期間よりも小さな値となる。例えば、第3アーク電流は50Aに設定される。第3アーク期間Ta3は所定値ではないが、1ms程度となる。上述したように、溶接電流Iwを小さな値にすることによって次の短絡が早期に発生するようにしている。
【0058】
時刻t6~t7の期間は、再び短絡期間となり、その後はアーク期間となる。この期間中の動作は上記と同様であるので、その説明は繰り返さない。第3アーク期間Ta3の途中の時刻t61において、時刻t4からの
図1の電極マイナス極性期間設定信号Tnrによって定まる期間が経過する。そして、時刻t7において、短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは負の値の短絡電圧値となり、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(G)に示すように、極性切換信号SpnはHighレベルに変化し、電極プラス極性期間Tepが開始する。これ以降の動作は、時刻t1以降と同様になる。
【0059】
同図においては、時刻t21~t22及び時刻t41~t42の溶接電流Iwの上昇を直線状として示しているが、曲線状に上昇するようにすることも含まれる。この場合の上昇率の大小は、その曲線状の最大の上昇率で比較する。曲線状とは、上昇率が経時的に小さくなる場合と大きくなる場合がある。
【0060】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、第1アーク期間中の溶接電流の上昇率を、電極マイナス極性期間中は電極プラス極性期間中よりも小さな値に設定する。電極プラス極性期間のときは、上昇率を大きな値に設定することによって溶接電流を迅速に高アーク電流値まで上昇させている。これにより、母材への十分な入熱を確保すると共に、溶接ワイヤの溶融を促進して適正な溶滴を形成することができる。電極マイナス極性期間のときは電極プラス極性期間のときに比べて、アーク特製の違いから、同一の溶接電流を通電しても溶接ワイヤの溶融速度が大きくなる。このために、電極マイナス極性期間のときの上昇率を電極プラス極性期間のときと同一値にすると、溶接ワイヤの溶融が急速に促進されて溶滴が急激に成長し、スパッタが多く発生することになる。この点は、発明者によって新たに見いだされた知見である。したがって、上昇率を、電極マイナス極性期間中は電極プラス極性期間中よりも小さな値に設定することによって、溶接ワイヤの溶融速度を緩やかにして溶滴の成長を緩和することができる。この結果、本実施の形態では、スパッタの発生を抑制して溶接状態を安定化することができる。
【0061】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、上昇率を、電極マイナス極性期間中は電極プラス極性期間中の50%以下に設定する。より好ましくは30%以下に設定する。このようにすると、電極マイナス極性期間中における溶接ワイヤの溶融速度を適正化することができ、安定した溶滴を形成することができる。この結果、スパッタの発生をより少なくすることができ、溶接状態をより安定化することができる。
【0062】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電極マイナス極性期間中の上昇率を、50~500A/msの範囲に設定する。より好ましくは、50~200A/msの範囲に設定する。このようにすると、電極マイナス極性期間中における溶接ワイヤの溶融速度を適正化することができ、安定した溶滴を形成することができる。この結果、スパッタの発生をより少なくすることができ、溶接状態をより安定化することができる。
【0063】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電極マイナス極性期間中の上昇率を、高アーク電流値が大きいほど小さな値に設定する。高アーク電流値は、溶接電流の平均値が大きくなるほど、母材への入熱を考慮して、400~500A程度の範囲で大きくなるように設定される。電極マイナス極性期間中の、高アーク電流値の設定が大きくなっても上昇率を同一値にしていると、溶滴が過大に成長してスパッタが発生するようになる。これを抑制するために、高アーク電流値が大きくなるほど、上昇率が小さくなるようにしている。この結果、高アーク電流値が大きくなってもスパッタの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ia1 高アーク電流
IA1R 高アーク電流設定回路
Ia1r 高アーク電流設定信号
IA3R 第3アーク電流設定回路
Ia3r 第3アーク電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SNR 電極マイナス極性上昇率設定回路
Snr 電極マイナス極性上昇率設定信号
SPN 極性切換回路
Spn 極性切換信号
SPR 電極プラス極性上昇率設定回路
Spr 電極プラス極性上昇率設定信号
SR 上昇率設定回路
Sr 上昇率設定信号
Sta1 第1アーク期間信号
STA3 第3アーク期間回路
Sta3 第3アーク期間信号
SW 電源特性切換回路
Tc 遅延期間
Td 電流降下時間
TNR 電極マイナス極性期間設定回路
Tnr 電極マイナス極性期間設定信号
TPR 電極プラス極性期間設定回路
Tpr 電極プラス極性期間設定信号
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号Vw 溶接電圧
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号