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  • 特開-2重シールドティグ溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149941
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】2重シールドティグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
B23K9/29 L
B23K9/29 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063127
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】今井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LB02
4E001LH01
4E001LH06
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】2重シールドティグ溶接方法において、アークの硬直性を所望状態に調整すること。
【解決手段】インナーガス7を噴出させるインナーノズル4及びアウターガス9を噴出させるアウターノズル5を備えた溶接トーチWTを使用し、電極1と母材2との間にアーク3を発生させ溶接電流Iwを通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、溶接電流Iwの設定値Irに応じてインナーガス7の流量Fiを設定し、アーク3の硬直性を調整するための調整部H4Rを備え、調整部H4Rは設定されたインナーガス7の流量Fiを増減させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
電極と母材との間にアークを発生させ溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記溶接電流の値に応じて前記インナーガスの流量を設定し、
前記アークの硬直性を調整するための調整部を備え、
前記調整部は前記設定された前記インナーガスの流量を増減させる、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法。
【請求項2】
前記溶接電流の値に応じて設定された前記インナーガスの流量を、前記電極の直径及び前記母材の継手形状に応じて補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電流の値、前記電極の直径及び前記母材の継手形状の内の少なくとも一つの条件が変更されたときは、前記調整部による前記インナーガスの流量の増減値を0にリセットする、
ことを特徴とする請求項2に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重シールドティグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用して溶接する2重シールドティグ溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。インナーガス及びアウターガスとしては、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-15048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2重シールドティグ溶接方法において、溶接作業者ごとに所望するアークの硬直性は異なっている。溶接作業者によっては、アークの硬直性が強い硬いアークを好む人もいるし、アークの硬直性の弱い柔らかなアークを好む人もいる。そして、アークの硬直性を溶接作業者が所望する状態に調整することができれば、溶接作業性を向上させることができる。
【0005】
そこで、本発明では、アークの硬直性を所望する状態に調整することができる2重シールドティグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
電極と母材との間にアークを発生させ溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記溶接電流の値に応じて前記インナーガスの流量を設定し、
前記アークの硬直性を調整するための調整部を備え、
前記調整部は前記設定された前記インナーガスの流量を増減させる、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記溶接電流の値に応じて設定された前記インナーガスの流量を、前記電極の直径及び前記母材の継手形状に応じて補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記溶接電流の値、前記電極の直径及び前記母材の継手形状の内の少なくとも一つの条件が変更されたときは、前記調整部による前記インナーガスの流量の増減値を0にリセットする、
ことを特徴とする請求項2に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る2重シールドティグ溶接方法によれば、アークの硬直性を溶接作業者が所望する状態に調整することができるので、溶接作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
溶接トーチWTは、主に電極1、それを取り囲むインナーノズル4及びそれを取り囲むアウターノズル5を備えている。電極1には、タングステン電極等が使用される。例えば、インナーノズル4の内径は5mm、であり、アウターノズル5の内径は13mmである。
【0014】
起動スイッチONは、オン状態になるとHighレベルとなり、オフ状態になるとLowレベルになる起動信号Onを出力する。この起動スイッチONは、溶接トーチWTに設けられたトーチスイッチである。また、ロボット制御装置から起動信号Onが出力される場合もある。
【0015】
電流設定回路IRは、予め定めた電流設定信号Irを出力する。
【0016】
電極径補正回路H1Rは、使用する電極1の直径を1.6mm、2.4mm又は3.2mmからいずれかを選択すると、1.6mmが選択されたときはH1r=-1となり、2.4mmが選択されたときはH1r=-0.5となり、3.2mmが選択されたときはH1r=0となる電極径補正信号H1rを出力する。
【0017】
母材材質補正回路H2Rは、使用する母材2の材質を鉄鋼又はアルミニウムからいずれかを選択すると、鉄鋼が選択されたときはH2r=0となり、アルミニウムが選択されたときはH2r=2となる母材材質補正信号H2rを出力する。
【0018】
継手形状補正回路H3Rは、母材2の継手形状を突合せ継手又はすみ肉継手からいずれかを選択すると、突合せ継手が選択されたときはH3r=0となり、すみ肉継手が選択されたときはH3r=1となる母材継手補正信号H3rを出力する。
【0019】
インナーガス流量設定回路FIRは、上記の電流設定信号Ir、上記の電極径補正信号H1r、上記の継手形状補正信号H3r及び後述するアーク硬直性調整信号H4rを入力として、予め定めたインナーガス流量設定関数に入力して算出された値をインナーガス流量設定信号Fir[l/min]として出力する。インナーガス設定関数の例を以下に示す。
Fir=(Ir-75)/50+3.5+H1r+H3r+H4r (1)式
但し、75≦Ir≦150の範囲であり、Ir<75の場合はIr=75と同一値であり、Ir>150の場合はIr=150と同一値である。
【0020】
インナーガス流量調整器CIは、慣用されているマスフローコントローラであり、上記の起動信号On及び上記のインナーガス流量設定信号Firを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、インナーガスボンベ6からのインナーガス7の流量Fiをインナーガス流量設定信号Firによって定まる値に調整して噴出する。
【0021】
アウターガス流量設定回路FORは、上記の電流設定信号Ir及び上記の母材材質補正信号H2rを入力として、予め定めたアウターガス流量設定関数に入力して算出された値をアウターガス流量設定信号For[l/min]として出力する。アウターガス設定関数の例を以下に示す。
For=(Ir-75)/50+5.5+H2r (2)式
但し、75≦Ir≦150の範囲であり、Ir<75の場合はIr=75と同一値であり、Ir>150の場合はIr=150と同一値である。
【0022】
アウターガス流量調整器COは、慣用されているマスフローコントローラであり、上記の起動信号On及び上記のアウターガス流量設定信号Forを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、アウターガスボンベ8からのアウターガス9の流量Foをアウターガス流量設定信号Forによって定まる値に調整して噴出する。
【0023】
インナーノズル4の内側の通路をインナーガス7が流れる。また、インナーノズル4の外側とアウターノズル5の内側の通路をアウターガス9が流れる。インナーガス7及びアウターガス9にはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。アーク3は、電極1が負極となり、母材2が正極となって発生する。
【0024】
溶接電源PSは、上記の起動信号On及び上記の電流設定信号Irを入力として、 起動信号OnがHighレベルになると、電極1と母材2との間に高周波高電圧を印加し、アーク3が発生すると電流設定信号Irによって設定された溶接電流Iwの出力を開始し、起動信号OnがLowレベルになると溶接電流Iwの出力を停止する。
【0025】
アーク硬直性調整回路H4Rは、上記の電流設定信号Ir、上記の電極径補正信号H1r及び上記の継手形状補正信号H3rを入力として、溶接電源PSのフロントパネルに設けられており、増加ボタンと減少ボタンを備えており、増加ボタンが押されるごとに所定値だけ増加し、減少ボタンが押されるごとに所定値だけ減少する、アーク硬直性調整信号H4rを出力する。アーク硬直性調整信号H4rは、電流設定信号Ir、電極径補正信号H1r及び継手形状補正信号H3rのいずれかの信号の値が変化したときは0にリセットされる。例えば、所定値は0.1(l/min)である。このときに、増加ボタンが5回おされるとH4r=0.5(l/min)となる。その後に、減少ボタンが2回押されるとH4r=0.5-0.2=0.3(l/min)となる。
【0026】
以下、溶接電流の値に応じてインナーガス及びアウターガスの流量を設定し、電極の直径、母材の材質及び母材の継手形状に応じて設定されたインナーガス及び/又はアウターガスの流量を補正し、さらにアーク硬直性の調整を行った場合の数値例について説明する。
(1)インナーガス流量の補正
電極径 3.2mm→電極径補正信号H1r=0
継手形状 突合せ継手→継手形状補正信号H3r=0
アーク硬直性調整信号H4r=0.3
上記の(1)式から電流設定信号Irを入力としてインナーガス流量Fiは
Fi=(Ir-75)/50+3.5+H1r+H3r+H4rであるので、
Ir=75AのときはFi=3.8(l/min)となり、
Ir=150AのときはFi=5.3(l/min)となる。
ここで、電極径が2.4mmになると電極径補正信号H1r=-0.5となるので、
インナーガス流量Fiは上記のときよりも0.5(l/min)だけ小さな値となる。
電極径が1.6mmになると電極径補正信号H1r=-1となるので、
インナーガス流量Fiは上記のときよりも1(l/min)だけ小さな値となる。
継手形状がすみ肉継手になるとつぎて形状補正信号H3r=1となるので、
インナーガス流量Fiは上記のときよりも1(l/min)だけ大きな値となる。
ここで、アーク硬直性信号H4rを調整すると、自動設定された上記のインナーガス流量の値を中央値として増減させることができる。
【0027】
(2)アウターガス流量の補正
母材材質 鉄鋼 母材材質補正信号H2r=0
上記の(2)式から電流設定信号Irを入力としてアウターガス流量Foは
Fo=(Ir-75)/50+5.5+H2rであるので、
Ir=75AのときはFo=5.5(l/min)となり、
Ir=150AのときはFo=7(l/min)となる。
ここで、母材材質がアルミニウムになると母材材質補正信号H2r=2となるので、
アウターガス流量Foは上記のときよりも2(l/min)だけ大きな値となる。
【0028】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、溶接電流の値に応じてインナーガスの流量を設定し、アークの硬直性を調整するための調整部を備え、調整部は設定されたインナーガスの流量を増減させる。溶接電流の値に応じてインナーガスの流量を適正化することによって溶接状態を良好にすることができる。その上で、溶接作業者ごとに所望するアークの硬直性は異なっている。溶接作業者によっては、アークの硬直性が強い硬いアークを好む人もいるし、アークの硬直性の弱い柔らかなアークを好む人もいる。そして、アークの硬直性を溶接作業者が所望する状態に調整することができれば、溶接作業性を向上させることができる本実施の形態では、アークの硬直性を微調整するための調整部を備えており、この調整部によって溶接電流の値に応じて設定されたインナーガスの流量を増減させることができる。インナーガスの流量を増加させるとアークの硬直性は強くなり、硬いアークとなる。インナーガスの流量を減少させるとアークの硬直性は弱くなり、柔らかなアークとなる。この結果、本実施の形態では、アークの硬直性を溶接作業者が所望する状態に調整することができるので、作業性を向上させることができる。
【0029】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶接電流の値に応じて設定されたインナーガスの流量を、電極の直径及び母材の継手形状に応じて補正する。このようにすると、種々の電極径及び継手形状の組み合わせに応じてインナーガスの流量が適正化されるので、溶接状態をより良好にすることができる。
【0030】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶接電流の値、電極の直径及び母材の継手形状の内の少なくとも一つの条件が変更されたときは、調整部によるインナーガスの流量の増減値を0にリセットする。溶接電流の値、電極の直径及び母材の継手形状の組み合わせ条件によって調整部の増減値が同一であってもアークの硬直性の度合いは異なっている。したがって、これらの条件の少なくとも一つが変更されたときは、増減値を0にリセットして、アークの硬直性を一旦標準状態に戻すようにしている。その上で、再び調整部によってアークの硬直性を好みの状態にするようにしている。
【符号の説明】
【0031】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 インナーノズル
5 アウターノズル
6 インナーガスボンベ
7 インナーガス
8 アウターガスボンベ
9 アウターガス
CI インナーガス流量調整器
CO アウターガス流量調整器
Fi インナーガス流量
FIR インナーガス流量設定回路
Fir インナーガス流量設定信号
Fo アウターガス流量
FOR アウターガス流量設定回路
For アウターガス流量設定信号
H1R 電極径補正回路
H1r 電極径補正信号
H2R 母材材質補正回路
H2r 母材材質補正信号
H3R 継手形状補正回路
H3r 継手形状補正信号
H4R アーク硬直性調整回路
H4r アーク硬直性調整信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
ON 起動スイッチ
On 起動信号
PS 溶接電源
WT 溶接トーチ
図1