(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014995
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20240125BHJP
B22D 11/18 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B22D11/10 340E
B22D11/18 J
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197157
(22)【出願日】2023-11-21
(62)【分割の表示】P 2020053204の分割
【原出願日】2020-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】田口 謙治
(57)【要約】
【課題】ノズル流路内面への介在物の付着を抑制することができる鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、ノズルは上ノズルと、スライディングゲートと、浸漬ノズルとを含み、スライディングゲートは上ノズルと浸漬ノズルとの間に配置されており、浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、スライディングゲートを用いて鋳型に注入される溶鋼の流量調整を行い、且つ、スライディングゲートの摺動面の外周部に不活性ガスを流し、外周部の酸素濃度を5%以下にすることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、
前記ノズルは上ノズルと、スライディングゲートと、浸漬ノズルとを含み、前記スライディングゲートは前記上ノズルと前記浸漬ノズルとの間に配置されており、
前記浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、前記スライディングゲートを用いて前記鋳型に注入される溶鋼の流量調整を行い、且つ、前記スライディングゲートの摺動面の外周部に不活性ガスを流し、該外周部の酸素濃度を5%以下にすることを特徴とする、
鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記ノズルの流路内面のうち少なくとも前記浸漬ノズルの流路内面に、化学組成として、ZrO2を50~85mass%、CaOを1~25mass%、Cを8~40mass%含有するジルコニアグラファイト系耐火物を配し、
前記ノズルに一方の電極を接続するとともに、前記タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、前記ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、前記ノズルにおける平均電流密度の絶対値を1~50mA/cm2とし、前記ノズルの極性が正となるように通電しながら、鋳造することを特徴とする、
請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記ノズルの極性が正負交互に入れ替わる交流パルス状の電流波形で通電し、前記電流波形の周期が0.5ms~20msであり、前記ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、前記ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きいことによって、前記ノズルの極性が正となるよう通電しながら、鋳造することを特徴とする、請求項2に記載の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法に関し、詳しくは高融点非金属介在物による浸漬ノズルの閉塞が生じやすいアルミキルド鋼などの溶融金属を連続鋳造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、アルミナに代表される高融点非金属介在物の付着による浸漬ノズル内面の閉塞は、操業および鋳片品質に大きな影響を及ぼす問題である。従来、浸漬ノズル閉塞の防止に対して様々な対策技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋳造中の高温下における化学反応によって緻密な内面を形成する、スピネル-ペリクレース-黒鉛系耐火物が開示されている。また、特許文献2には、低融点の緑柱石を含有し内面に半溶融層を形成するマグネシア-黒鉛あるいはスピネル-黒鉛系の耐火物が開示されている。
【0004】
一方、本発明者らは、特許文献3において、アルミナグラファイトに微量のCaO等を含有させることでアルミナ介在物の付着を防止し、さらに通電を併用してその効果を向上させる発明を開示している。本発明者らは、さらに特許文献4において、交流パルス状の電流を浸漬ノズルに流して非金属介在物の付着を防止する発明を開示している。特許文献5~7には、浸漬ノズル内への不活性ガスの吹き込み方法を適正化して、浸漬ノズルの閉塞防止と気泡欠陥の防止を両立する方法が開示されている。
【0005】
これらの方法は、それぞれ一定の効果を発揮することが確認できている。しかしながらREM(希土類元素)添加鋼のように、従来の技術では非金属介在物による浸漬ノズルの閉塞が十分に防止できない鋼種もあった。
【0006】
また本発明者らは、浸漬ノズルの閉塞に影響を及ぼす因子について研究開発を重ねた結果、特許文献8に開示したように、浸漬ノズル内へ吹き込むArガスの純度を通常よりも高めることによって、効果的に浸漬ノズル内へのアルミナ等高融点介在物の付着を抑制できることを知見している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3358989号公報
【特許文献2】特開2002-35904号公報
【特許文献3】特開2010-201504号公報
【特許文献4】特許第5024296号公報
【特許文献5】特開2001-300702号公報
【特許文献6】特開2010-5691号公報
【特許文献7】特開2011-110561号公報
【特許文献8】特許第5768773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献8に記載されている発明のように、浸漬ノズル内へ吹き込むArガスの純度を通常よりも高めることによって、効果的に浸漬ノズル内へのアルミナ等高融点介在物の付着を抑制できる。しかしながら、浸漬ノズル内面への介在物の付着を抑制する効果を安定させるためには、まだまだ改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明では、ノズル流路内面への介在物の付着を抑制することができる鋼の連続鋳造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献8に記載される発明では、ノズルの流路内面に存在する継目等の隙間から外気が吸引されることにより、流路内面に吹き込まれるArガスの純度が低下し、これによりノズル流路内面への介在物の付着を抑制する効果が不安定化するという問題があることを知見した。そこで、本発明者らは当該問題を解決するために、ノズル内面への外気の吸引を抑制することにより、ノズル流路内面への介在物付着抑制効果(ノズル閉塞抑制効果)を向上させることができることをさらに知見した。当該知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の第一態様は、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、ノズルは上ノズルと浸漬ノズルとを含み、タンディッシュ内の上ノズルの上側に上下方向に移動可能なストッパーが配置されており、浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、前記上ノズルと前記ストッパーとの間隙を調整することにより鋳型に注入される溶鋼の流量を調整することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法である。
【0012】
第一態様において、ノズルは流路内面の継目に段差が無いこと、或いは、ノズルは流路内面に継目が無い一体型浸漬ノズルであることが好ましい。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の第二態様は、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、ノズルは上ノズルと、スライディングゲートと、浸漬ノズルとを含み、スライディングゲートは上ノズルと浸漬ノズルとの間に配置されており、浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、スライディングゲートを用いて鋳型に注入される溶鋼の流量調整を行い、且つ、スライディングゲートの摺動面の外周部に不活性ガスを流し、該外周部の酸素濃度を5%以下にすることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法である。
【0014】
さらに、上記課題を解決するための本発明の第三態様は、上記第一態様又は第二態様であって、ノズルの流路内面のうち少なくとも浸漬ノズルの流路内面に、化学組成として、ZrO2を50~85mass%、CaOを1~25mass%、Cを8~40mass%含有するジルコニアグラファイト系耐火物を配し、ノズルに一方の電極を接続するとともに、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、ノズルにおける平均電流密度の絶対値を1~50mA/cm2とし、ノズルの極性が正となるように通電しながら、鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法である。
【0015】
上記第三態様において、ノズルの極性が正負交互に入れ替わる交流パルス状の電流波形で通電し、電流波形の周期が0.5ms~20msであり、ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きいことによって、ノズルの極性が正となるよう通電しながら、鋳造することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ノズルの流路内面への介在物の付着を抑制することができる鋼の連続鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】ノズル400の断面及びスライディングゲート430の側面を説明する図である。
【
図6】スライディングゲート430に不活性ガスを吹き込む機構を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の鋼の連続鋳造方法について、各態様を用いて以下に説明する。
【0019】
[第一態様]
本発明の第一態様は、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、ノズルは上ノズルと浸漬ノズルとを含み、タンディッシュ内の上ノズルの上側に上下方向に移動可能なストッパーが配置されており、浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、上ノズルとストッパーとの間隙を調整することにより鋳型に注入される溶鋼の流量を調整することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法である。
【0020】
第一態様は、浸漬ノズルの流路内に高純度のArガスを流し、さらにタンディッシュから供給される溶鋼の流量調整にストッパーを用いた形態である。後述する第二態様は流量調整にスライディングゲートを用いた形態であり、こちらの方が溶鋼の流量調整に優れる。
しかしながら、溶鋼の流量調整にスライディングゲートを用いる場合、上ノズルとスライディングゲートとの継目、スライディングゲートの摺動面と摺動面との合わせ目、スライディングゲートと浸漬ノズルとの継目などから外気が吸引され、当該外気によりノズルの流路内面に吹き込まれるArガスの純度が低下することが確認されている。特に、これらの継目において、流路断面積の変化がある場合に、継目からの外気吸引が顕著に生じることが分かっている。その観点では、スライディングゲートは主要な外気吸引場所と言える。そこで、第一態様ではスライディングゲートを用いた流量調整ではなく、ストッパーを用いて流量調整することで、流路内面への外気の吸引を抑制している。
【0021】
以下、第一態様について、さらに詳しく説明する。第一態様の説明は主に
図1を参照しつつ行うが、適宜
図2、3を参照することとする。なお、図中にノズルの大きさを示しているが、これは後述の実施例のノズルの大きさを説明するための数値(単位は「mm」である)であり、あくまでも一例である。そのため、ノズルの大きさはこれに限定されるものではない。
【0022】
<ノズル>
図1に第一態様に用いることができるノズルの一例であるノズル100を示した。
図1に示したように、ノズル100は上ノズル110と浸漬ノズル120とを備えている。上ノズル110はタンディッシュから供給される溶鋼を受け取る部分であり、上ノズル110の高さ方向の上側(タンディッシュ側)の流路断面積(又は流路直径)は下側(鋳型側)の流路断面積よりも大きく形成されている。浸漬ノズル120は上ノズル110に供給された溶鋼を鋳型に注入する部分であり、鋳型中の溶鋼に浸漬するように配置されている。また、浸漬ノズル120の下部(鋳型側)には溶鋼を注入するための孔120a(ノズル吐出孔)が設けられている。
【0023】
図1のように、ノズル100は上ノズル110と浸漬ノズル120との間にコレクターノズル130を備えていてもよい。コレクターノズル130は上ノズル110と浸漬ノズル120とを接続する役割を有する。
【0024】
ノズル100のように、各部分の継目の段差は溶鋼流の方向に流路が拡大する方向に設けることが一般的である。継目から溶鋼が漏れることを抑制するためである。
しかしながら、上記したようにノズルの流路内面の継目から外気が吸引されることにより、吹き込まれるArガスの純度が低下する虞がある。
【0025】
そのため、第一態様では、流路内面の継目に段差が無いノズルを用いることが好ましい。
図2に流路内面の継目に段差が無いノズルの一例であるノズル200を示した。ノズル200のように流路内面の継目に段差が無い構成とすることにより、ノズルの流路内面の継目から外気が吸引されることを抑制することができる。
【0026】
ここで「流路内面の継目に段差が無い」とは、流路内面の継目に完全に段差が無い、すなわち継目に対向する部分同士の流路内面の直径(流路断面積)に全く差が無いことを意味するものではなく、製造上の誤差を許容するものである。例えば、継目の段差が1mm以内(直径2mm以内)の誤差であれば、継目に段差が無いと言える。
【0027】
また、ノズル流路内面の継目からの外気の吸引をなくすために、第一態様では、ノズルとして、流路内面に継目が無い一体型浸漬ノズルを用いることがさらに好ましい。
図3に一体型浸漬ノズルの一例であるノズル300を示した。
図3のように、上ノズルとして機能する部分と浸漬ノズルとして機能する部分とを一体としたノズル300を用いることにより、ノズルの流路内面に継目が無くなるため、継目からの外気の吸引を全く無くすことができる。
【0028】
ここで、ノズル100の流路内面に配置される耐火物について説明する。ノズル100の流路内面において、耐火物を配する位置は特に限定されず、ノズルの内面の少なくとも一部に配置されていればよいが、好ましくは内面の全部に配することである。通常、ノズル100の内面は全て溶鋼と接触し得るためである。耐火物としては特に限定されないがアルミナグラファイト系耐火物(AG)や、後述するジルコニアグラファイト系耐火物(ZG)を配置することができる。好ましくは、ジルコニアグラファイト系耐火物である。
【0029】
<ストッパー>
第一態様では、タンディッシュ内の上ノズル110の上側に上下方向に移動可能なストッパー150が配置されている。ストッパー150は、タンディッシュからノズルに供給する溶鋼の流量を調整するための部材であり、
図1のように、ストッパーを上下方向に移動させることにより、ストッパー150と上ノズル110との間隙を調整し、タンディッシュから鋳型に注入される溶鋼の流量を調整している。第一態様では、上記したとおり、流量調整にストッパー150を用いることにより、スライディングゲートを用いた場合に比べて、外気の吸引を抑制しつつ、溶鋼の流量を調整することができる。このようなストッパー150としては、公知のストッパーを用いることができる。
【0030】
<高純度Arガスの吹き込み>
通常の鋼の連続鋳造時において、浸漬ノズル内に流すArガスは、純度が99.9%程度のものが用いられる。Arガス中の酸素等不純成分による溶鋼の汚染を防止する観点からは、99.9%という純度は十分に高いと考えられているためである。
【0031】
一方で、第一態様では、さらに純度を高めたArガスを流す。すなわち、第一態様では浸漬ノズル120の流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガス(高純度Arガス)を流す。これにより、ノズルの流路内面への介在物の付着を抑制することができる。
【0032】
かかる効果は溶鋼の表面張力(Ar気相と溶鋼との界面張力)が高められたためであると、本発明者らは推定している。鋳造後のノズル内面を詳しく調査した結果、高純度Arガスを浸漬ノズル120内に流すことによって、Arガス膜が溶鋼と浸漬ノズル120の内面との間に安定して形成されていたことから、溶鋼が浸漬ノズル120の内面に接触する機会が減少していると考えられたためである。
【0033】
Arガスの純度が上記規定値よりも低い、酸素濃度が上記規定値よりも高い、露点が上記規定値よりも高い、あるいは窒素濃度が上記規定値よりも高い場合には、Arガスによる非金属介在物付着防止効果が低下する。溶鋼の表面張力を低下させるためである。
【0034】
ここで、第一態様に用いるArガスの純度は99.999%以上であることが好ましい。Arガスの酸素濃度は1ppm以下であることが好ましい。Arガスの露点は-70℃以下であることが好ましい。Arガスの窒素濃度は5ppm以下であることが好ましい。
溶鋼の表面張力に対し、酸素や水分の影響は大きいので、第一態様ではこれら不純分に対する濃度の規定は厳しい値となっている。一方で、溶鋼の表面張力に対する窒素の影響は、酸素や水分の影響に比べると小さいので、窒素に対する濃度の規定は酸素等の規定に比べて緩くなっている。ただし、窒素の影響を完全に無視することはできない。
【0035】
第一態様では、浸漬ノズル120の流路内に高純度Arガスを流す。浸漬ノズル120の流路内にArガスを吹き込むのは、浸漬ノズル120が他の部分より溶鋼との接触面積が大きくアルミナ等高融点介在物の付着頻度が高いためである。
浸漬ノズル120の流路内に高純度Arガスを流す方法は、例えば、浸漬ノズル120の流路内に直接高純度Arガスを流す方法、上ノズル110の流路内に高純度Arガスを流し、間接的に浸漬ノズル120の流路内に高純度Arガスを流す方法、又はこれらを組み合わせた方法等を挙げることができる。
図1では、好ましい形態である上ノズル110及び浸漬ノズル120の両方の流路内に高純度Arガスを流す方法を採用している。
【0036】
浸漬ノズル120の流路内に直接高純度Arガスを流す方法としては、例えば
図1のように、Ar吹き込みプラグ121からスリット122(蓄気用空間、例えば厚さ2mm)を介してArガス吹き込み部123に高純度Arガスを供給し、浸漬ノズル120の流路内に直接高純度Arガスを吹き込む方法を挙げることができる。そして、流路内に供給された高純度Arガスは溶鋼流に乗って、溶鋼と共に鋳型に注入される。
【0037】
Arガス吹き込み部123の構成は特に限定されず、Arガスを浸漬ノズル120内に供給できる形態であればよい。
図1では、Arガス吹き込み部123に多孔質耐火物を用いて、多孔質耐火物の隙間からArガスを浸潤させ、浸漬ノズル120内にArガスを吹き込む形態を採っている。多孔質耐火物は、例えば気孔率を高めたアルミナグラファイトあるいはジルコニアグラファイトを採用することができる。また、Arガス吹き込み部123を配置する位置は特に限定されない。浸漬ノズル120の流路内のいずれの位置に配置されていても、高純度Arガスを流すことによる効果を享受することができるためである。さらに、Arガス吹き込み部123は、
図1のように浸漬ノズル120の周方向全体に設けられていることが好ましい。
【0038】
また、上ノズル110の流路内に高純度Arガスを流し、間接的に浸漬ノズル120の流路内に高純度Arガスを流す方法としては、例えば
図1のよう、Ar吹き込みプラグ111からスリット112(蓄気用空間、厚さ3mm)を介してArガス吹き込み部113に高純度Arガスを供給し、上ノズル110の流路内に高純度Arガスを吹き込むことで、間接的に浸漬ノズル120の流路内に高純度Arガスを流す方法を挙げることができる。
【0039】
Arガス吹き込み部113の構成は特に限定されず、Arガス吹き込み部123と同様の構成を採ることができる。また、Arガス吹き込み部113を配置する位置は特に限定されない。上ノズル110の流路内のいずれの位置に配置されていても、高純度Arガスを流すことによる効果を享受することができるためである。
【0040】
浸漬ノズル120のArガス吹き込み部123からノズル100の流路内に高純度Arガスを吹き込む量は特に限定されないが、1NL/min以上5NL/min以下であることが好ましい。
上ノズル110のArガス吹き込み部113からノズル100の流路内に高純度Arガスを吹き込む量も特に限定されないが、2NL/min以上50NL/min以下であることが好ましい。ただし、上ノズル110及び浸漬ノズル120の両方の流路内に高純度Arガスを流す場合は、Arガス吹き込み部113から吹き込む高純度Arガスの量はArガス吹き込み部123から吹き込む高純度Arガスの量の2~10倍とすることが好ましい。上ノズル110のArガス吹き込み部113からノズル100の流路内に吹き込まれる高純度Arガスは、一部がタンディッシュ内に浮上するため、通常、浸漬ノズル120のArガス吹き込み部123から吹き込む高純度Arガスの量よりも多量のガス量を必要とするためである。
【0041】
上ノズル110及び浸漬ノズル120の両方の流路内に高純度Arガスを流す場合、より好ましくは、上ノズル110のArガス吹き込み部113から供給する高純度Arガスの量をq1とし、浸漬ノズル120のArガス吹き込み部123から供給する高純度Arガスの量をq2とし、ノズル100内面の総面積をAとしたとき、{(q1/5)+q2}/Aが3~25の間とすることである。{(q1/5)+q2}/Aが3よりも小さい場合は、介在物付着抑制効果が発揮し難く、25より大きい場合は高純度Arガスの供給が過剰であり、鋳造される鋳片に気泡性の欠陥が生じる虞がある。より具体的には、特許文献8を参照することにより行うことができる。
【0042】
[第二態様]
本発明の第二態様は、タンディッシュから鋳型への溶鋼注入にノズルを用いる鋼の連続鋳造方法であって、ノズルは上ノズルと、スライディングゲートと、浸漬ノズルとを含み、スライディングゲートは上ノズルと浸漬ノズルとの間に配置されており、浸漬ノズルの流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下のArガスを流し、スライディングゲートを用いて鋳型に注入される溶鋼の流量調整を行い、且つ、スライディングゲートの摺動面の外周部に不活性ガスを流し、該外周部の酸素濃度を5%以下にすることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法である。
【0043】
第二態様は、第一態様と異なり、ストッパーではなくスライディングゲートによって溶鋼の流量を調整する形態である。上記したように、スライディングゲートはストッパーよりも流量調整の精度が優れる。一方で、スライディングゲートは摺動面と摺動面の合わせ目等から外気を吸引し易い。そこで、第二態様では、スライディングゲートの摺動面の外周部に不活性ガスを流し、スライディングゲートの摺動面の外周部における酸素濃度を5%以下にすることで、外気の吸引による影響を抑制している。
【0044】
以下、第二態様について、さらに詳しく説明する。第二態様の説明は主に
図4を参照しつつ行う。なお、第二実施形態の説明において、第一実施形態と重複する部分については、説明は省略する。また、図中にノズルの大きさを示しているが、これは後述の実施例のノズルの大きさを説明するための数値(単位は「mm」である)であり、あくまでも一例である。そのため、ノズルの大きさはこれに限定されるものではない。
【0045】
<ノズル>
図4に第二態様に用いることができるノズル400の一例を示した。
図4の左側はノズル400の断面図であり、右側は左側図の紙面右側から観察したスライディングゲート430の図である。直線lはノズル400の中心線である。
【0046】
図4に示したように、ノズル400は上ノズル410と、スライディングゲート430と、浸漬ノズル420とを備えている。上ノズル410と浸漬ノズル420とは第一態様と同様の機能を有するものなので、ここでは説明を省略する。
【0047】
スライディングゲート430は、浸漬ノズル420に供給される溶鋼の流量を調整するための部材である。スライディングゲート430は、
図4に示すように3層構造であり、上固体板431、下固定板432と、これらの間に中間プレート433を備えている。中間プレート433はこれらの間を摺動可能に配置されている。中間プレート433はスライド板とも呼ばれ、中間プレート433が摺動することによって流路を絞る構造となっている。その構造ゆえ、スライディングゲート430は、操業中の摺動面には段差が生じ、当該段差から外気が吸引され易い。
【0048】
<不活性ガスの吹き込み>
そこで、第二態様では、スライディングゲート430の摺動面の外周部に不活性ガスを流し、当該外周部の酸素濃度を5%以下にしている。これにより、スライディングゲート430を用いたノズル400であっても、摺動面からの外気の吸引による悪影響を抑制することができる。
【0049】
ここで、「スライディングゲート430の摺動面」とは、上固体板431と中間プレート433との摺動面(摺動面A)、及び、下固定板432と中間プレート433との摺動面(摺動面B)を含む概念である。
「摺動面の外周部」とは、摺動面の外周より外側の所定の範囲であり、具体的には摺動面の外周から5mm以内の位置である。
「不活性ガス」とは、Arガス、窒素ガス、又はこれらの混合ガスである。Arガス又は窒素ガスは一般的に用いられる純度のガスで良い。好ましくはArガスである。
【0050】
スライディングゲート430の摺動面A、Bの外周部に不活性ガスを流す構造は何れも同じであるので、ここでは摺動面Bの外周部に不活性ガスを流す構造を、
図5を用いて説明する。
【0051】
図5は下固定板432の3面図である。中央が下固定板432の平面図であり、左が下固定板432の左側面図であり、下が下固定板432の正面図である。
【0052】
図5のように、下固定板432は下固定板固定金物432aの内部に固定されており、下固定板固定金物432aには、下固定板432の外周を取り囲むように不活性ガスを吹き込むガス吹き込み孔432b(上固定板固定金物431aにおいてはガス吹き込み孔431b)が複数配置されている。
図5ではφ1.5mmの不活性ガス吹き込み孔432bが48個、下固定板432の外周を取り囲むように配置されている。ガス吹き込み孔432bの具体的な位置は特に限定されず、下固定板(摺動面B)の外周部の酸素濃度を5%以下にすることができるように不活性ガス吹き込み孔432bを配置すればよい。そのため必ずしもガス吹き込み孔432bを下固定板(摺動面B)の外周部に配置する必要はない。
【0053】
ガス吹き込み孔432bは下固定板固定金物432aの内部に設けられているガスチャンネル432cを通じて不活性ガスを摺動面の外周部に供給する。不活性ガスの流量速度は特に限定されないが、10~30Nl/minとすることが好ましい。上固定板431等も同様の構成を備えている。
【0054】
図6にスライディングゲート430をそれぞれの固体金物(上固体板固定金物431a、下固体板固定金物432a、中間プレート固定金物433a)と共に重ねた断面図を示した。なお、中間プレート433は中間プレート固定金物433aに完全に固定されているわけではなく、摺動方向に摺動可能なように固定されている。
図6のように、上固体板固定金物431aと中間プレート固定金物433aとの間、及び、下固体板固定金物432aと中間プレート固定金物433aとの間には、ガス吹き込み孔から不活性ガスを吹き込むことができる空間(空間C)がそれぞれ存在している。空間Cは上記摺動面の外周部を含むように配置されており、空間Cと外側とをつなぐ部分に耐火ウール等のシール部材Dを配置することによって、空間Cを緩い密閉状態としている。そして、このような空間Cに不活性ガスを吹き込むことにより、空間C内を常に正圧に保つことができるため、空間C内への外気の侵入が抑制され、これによりスライディングゲート430の摺動面の外周部の酸素濃度を5%以下にすることができ、摺動面からの外気の吸引を効果的に抑制することができる。
【0055】
ここで、「酸素濃度」は、空間Cにおける上記摺動面の外周部の任意の例えば3箇所から空気を採取し、当該空気の酸素濃度の平均値から算出することができる。
【0056】
<高純度Arガスの吹き込み>
第二態様では、浸漬ノズル420の流路内に純度が99.99%以上、酸素濃度が2ppm以下、露点が-65℃以下、窒素濃度が10ppm以下である高純度Arガスを流す。
浸漬ノズル420の流路内に高純度Arガスを流す方法は、例えば、浸漬ノズル420の流路内に直接高純度Arガスを流す方法、スライディングゲート430の上固定板431から高純度Arガスを流し、間接的に浸漬ノズル420の流路内に高純度Arガスを流す方法、又はこれらを組み合わせた方法等を挙げることができる。
図4では、好ましい形態である上固定板431及び浸漬ノズル420の両方の流路内に高純度Arガスを流す方法を採用している。
【0057】
浸漬ノズル420の流路内に直接高純度Arガスを流す方法は、第一態様と同様である。すなわち、Ar吹き込みプラグ421から高純度Arガスを浸漬ノズル420に供給する。また、好ましい高純度Arガスの態様も第一態様と同様である。
【0058】
また、スライディングゲート430の上固定板431から高純度Arガスを流し、間接的に浸漬ノズル420の流路内に高純度Arガスを流す方法としては、例えば
図4のように、Ar吹き込みプラグ431pからArガスを吹き込み、スリット431q(畜気用空間、厚さ7mm)を通り、上固体板431の内面に穿かれた貫通孔431rを介して、ノズル400の流路内に高純度Arガスを吹き込むことで、間接的に浸漬ノズル420の流路内に高純度Arガスを流す方法を挙げることができる。
【0059】
貫通孔431rの構成は特に限定されず、Arガスをノズル400内に流通できる形態であればよい。好ましくは、上固体板431の内面の周方向に10~15個の貫通孔を高さ方向に1~3段設けることが好ましい。
図4では周方向に12個の貫通孔を2段設けている。
【0060】
第二態様におけるArガスの流量は第一態様と同様にすればよい。ここで第二態様の上固体板431から吹き込まれるArガスの流量は、第一態様の上ノズルから吹き込まれるArガスの流量を援用することができる。
【0061】
[第三態様]
本発明の第三態様は、第一態様又は第二態様であって、さらに、ノズルの流路内面のうち少なくとも浸漬ノズルの流路内面に、化学組成として、ZrO2を50~85mass%、CaOを1~25mass%、Cを8~40mass%含有するジルコニアグラファイト系耐火物を配し、ノズルに一方の電極を接続するとともに、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、ノズルにおける平均電流密度の絶対値を1~50mA/cm2とし、ノズルの極性が正となるように通電しながら、鋳造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法である。
【0062】
このように第三態様は、第一態様又は第二態様の構成に加え、さらにノズルと溶鋼との間を通電しながら連続鋳造を行うものである。
【0063】
ノズル内を流れる溶鋼は、流路内面において耐火物の溶損によって乖離する酸化物や、耐火物内を透過してノズル内面に達する外気、耐火物壁面近傍における温度低下によって上昇する酸素ポテンシャル等といった汚染に晒される。これらの汚染は、溶鋼の表面張力を低下させるため、吹き込まれた高純度Arガスによる効果を損なう方向に作用する。そこで、第三態様では、酸素イオン透過性を有するジルコニアグラファイト系耐火物を浸漬ノズル内面に配し、ノズルの極性が正となるように通電することで、酸素イオンをノズル内面から外面へ移送して上記の汚染を軽減するのである。
【0064】
<ジルコニアグラファイト系耐火物>
第三態様では、ノズルの流路内面うち少なくとも浸漬ノズルの流路内面にジルコニアグラファイト系耐火物を配する。従来、ジルコニアの脱酸効果を発揮するにはグラファイト等の導電性カーボンとの共存はできないと考えられていた。しかしながら、本発明者らの研究によって、溶鋼と触れる耐火物の稼働面においては脱炭が生じジルコニア単体として作用し脱酸効果が発揮されることが確認できている。
【0065】
ジルコニアグラファイト系耐火物は、ノズルの流路内面のうち少なくとも浸漬ノズルの流路内面によいが、好ましくはノズルの内面の全部に配することである。
【0066】
ジルコニアグラファイト系耐火物は、化学組成として、ZrO2を50~85mass%、CaOを1~25mass%、Cを8~40mass%含有するものである。
ZrO2の濃度(含有量)が50~85mass%であるのは、50mass%未満では耐火物としての耐食性が失われるからであり、85mass%を越えると熱衝撃に弱くなるからである。CaOの濃度が1~25mass%であるのは、1mass%未満ではジルコニアが不安定化し耐火物の耐久性が低下してしまうからであり、25mass%を越えると介在物であるアルミナと反応した時に低融点化が著しく生じて溶損が過大になってしまうからである。なお、ジルコニア結晶の安定化にはCaOに代えてMgOやY2O3を同じ組成範囲で用いても構わない。Cの濃度が8~40mass%であるのは、8mass%未満であると電気抵抗が増大して安定した通電が難しくなるからであり、40mass%を越えると耐火物の耐食性が低下するからである。
【0067】
ノズル内面への耐火物の配置は、例えば特開2005-199339号公報に記載のような方法で行うことができる。
【0068】
<通電形式>
第三態様では、ノズルに一方の電極を接続するとともに、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、ノズルとその内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、ノズルにおける平均電流密度の絶対値を1~50mA/cm2とし、ノズルの極性が正となるように通電する。通電は直流であっても交流であってもよい。
【0069】
ここで、「ノズルにおける平均電流密度」とは、電圧を印加したときにノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接するノズル内外面の総面積(通電面積)で除して得られる電流密度を意味する。
【0070】
第三態様において、平均電流密度の絶対値を1~50mA/cm2とするのは、1mA/cm2を下回ると、酸素イオンの移動による溶鋼の脱酸作用や耐火物・溶鋼界面の反応濡れといった通電効果が失われるからであり、逆に50mA/cm2よりも大きいと、電流値が大きくなり過ぎてケーブルが太くなるなど実施上の困難が表面化するからである。
【0071】
また、第三態様ではノズルの極性が正となるよう通電する。ジルコニア系耐火物は酸素イオン透過性を有する固体電解質として知られ、正の極性で通電することにより、脱酸効果を得ることができるためである。
【0072】
(交流パルス通電)
第三態様において、交流パルス状の電流波形で通電する場合は、次のように通電しながら鋳造を行うことが好ましい。すなわち、上記の構成に加えて、さらにノズルの極性が正負交互に入れ替わる交流パルス状の電流波形で通電し、電流波形の周期が0.5ms~20msであり、ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きいことによって、ノズルの極性が正となるよう通電しながら、鋳造することが好ましい。
【0073】
ここで、「ノズルの極性が負の期間の平均電流密度」とは、ノズルの極性が負、すなわち、陰極である期間において、ノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接する浸漬ノズル内外面の総面積(通電面積)で除して得られる電流密度を意味し、負極実効電流密度とも言い換えることができる。「浸漬ノズルの極性が負の期間の平均電流密度×通電時間」とは、浸漬ノズルの極性が負である期間の平均電流密度(負極実効電流密度)に、浸漬ノズルの極性が負である期間の通電時間(負極通電時間)を掛けたものである。
同様に、「浸漬ノズルの極性が正の期間における平均電流密度」とは、ノズルの極性が正、すなわち、陽極である期間において、ノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接する浸漬ノズル内外面の総面積(通電面積)で除して得られる電流密度を意味し、正極実効電流密度とも言い換えることができる。「浸漬ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間」とは、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度(正極実効電流密度)に、ノズルの極性が正の期間における通電時間(正極通電時間)を掛けたものである。
「ノズルの極性が正となる」とは、交流パルス状波形を用いて通電を行う場合は、ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きくなることを意味する。なお、直流で通電を行う場合は、ノズルの極性が正となるように通電されていることを意味する。
【0074】
交流パルス通電波形を用いて通電を行う理由は次のとおりである。
ジルコニアグラファイト系耐火物は正極で通電を行うことにより、溶鋼の脱酸効果を得ることができるものであるが、正極で長時間の通電を行うと、下記(1)式の反応が進行し、グラファイトが酸化されCOガスが発生してしまう問題がある。
C+O2-→CO+2e-・・・(1)
【0075】
グラファイトの酸化は耐火物構造の崩壊に繋がることから避けるべきである。さらにCOガスは下記(2)式の反応によって溶鋼中のアルミニウムを酸化し、アルミナを生成する。アルミナは溶鋼汚染を引き起こすため、これも避けるべきである。
2Al+3CO→Al2O3+3C・・・(2)
【0076】
そこで、交流パルス通電波形を用いることによって、ジルコニアグラファイト耐火物が正の極性に保たれる時間を短くして、(1)式反応の進行を抑制する方法を、本発明者らは考案した。交流パルス通電波形は、ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きくすることによって、ノズルの極性を正とすることである。これは、COガス発生反応が素反応過程を多く含み時間を要する化学反応であることを利用して、耐火物を正極に保つ時間を短くしてCOガス発生を防止するものである。
【0077】
交流パルス状通電波形の周期が0.5ms~20msであるのは、その周期が0.5msよりも短いと通電に伴う様々の現象が十分に発現しなくなり、脱酸効果が減少してしまうからである。また、その周期が20msよりも長いと、正極通電期間に(1)式反応によってCOガスが発生してしまうからである。(1)式のCOガス発生反応を抑制するには、交流パルス通電波形における陽極通電時間を15ms以下とすることが、さらに好ましい。
【0078】
[連続鋳造装置]
次に、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる連続鋳造装置について説明する。
図7は、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる連続鋳造装置の一例である連続鋳造装置50を模式的に示した図である。ただし、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる連続鋳造装置はこれに限定されない。例えば、
図7では、スライディングゲートを含むノズルを用いた形態を示したが、ノズルの形態もこれに限定されない。また、
図7では連続鋳造装置に通電を行う形態を示したが、通電を行わない形態であってもよい。
【0079】
図7に示すように、取鍋1から注がれる溶鋼2を収容するタンディッシュ4は、底部に上ノズル3が設けられ、この上ノズル3の下部に、流量制御機構としてスライディングゲート5と、円筒状の浸漬ノズル6が順に連なって設けられている。
【0080】
さらに、浸漬ノズル6と溶鋼2との間に通電回路を構成するため、浸漬ノズル6に一方の電極7が接続され、その電極7の対極となる他方の電極(以下、「対極」ともいう)8がタンディッシュ4内の溶鋼2に浸漬され、それぞれ配線9a、9bにより電源装置10と接続されている。電極7および対極8は、いずれも導電性を有するグラファイト質の耐火物からなる。また、電極7が接続された浸漬ノズル6は、絶縁用耐火物11によってタンディッシュ4と電気的に絶縁され、溶鋼2に浸漬する対極8は、これを支持する絶縁用耐火物12によりタンディッシュ4から絶縁されている。絶縁用耐火物11、12は、いずれもカーボンを含まないアルミナ質の耐火物である。
【0081】
このような連続鋳造装置50を用いて次のように連続鋳造が実施される。まず、取鍋1からタンディッシュ4に供給された溶鋼2は、上ノズル3、スライディングゲート5、および浸漬ノズル6を通じた後、浸漬ノズル6のノズル吐出孔13から鋳型14内に注入される。このとき、浸漬ノズル6の内部を通過する溶鋼は、スライディングゲート5の開閉度合いにより、その流量が調整される。また、電源装置10の駆動により、電極7と対極8とを介して、浸漬ノズル6と溶鋼2との間に所定の条件で通電を行う。そして、鋳型14に供給された溶鋼2は、湯面に散布されたモールドパウダー17により大気と遮断されながら、鋳型14からの抜熱作用により鋳型14との接触部から凝固殻15を形成し、下方に引き抜かれて鋳片16となる。
【実施例0082】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに説明する。ただし、本発明はこれに限定されない。
【0083】
ノズルの構成を除き、
図7に示した連続鋳造装置を用いて連続鋳造を行った。ノズルの内面に配置する耐火物の組成を表1に示した。表1中のOthersは、極微量に含まれる化合物や不可避不純物である。
【0084】
連続鋳造機での鋳造試験は、鋳型厚みが0.25m、鋳型幅は1.0~1.6m、非定常部を除く鋳造速度は1.0~1.5m/min、の条件で行った。Arを吹き込む実施例(参考例)、比較例では、Ar吹き込み流量は浸漬ノズルから2NL/min、上ノズルあるいはスライディングゲート上固定板からは10NL/min(
図3に示す一体型浸漬ノズルの場合には、下部の吹き込み部位から2NL/min、上部の上ノズル相当部位から10NL/min)とした。
【0085】
鋳造した鋼種は、C濃度0.02~0.07mass%、Si濃度0.01~0.20mass%、Mn濃度0.3~0.6mass%、sol.-Al濃度0.02~0.05mass%のアルミキルド低炭素鋼とした。浸漬ノズル当たりの鋳鋼量は、390~1050tonで、実施例(参考例)と比較例とは、2つのストランドで同一の溶鋼を同一量鋳造したものを比較対象とし、各条件を組み合わせた複数回の鋳造試験の結果を平均化して評価した。
【0086】
また、これらの実施例(参考例)、比較例において用いた浸漬ノズルは、いずれも80mm角の吐出孔を浸漬ノズル底部近傍の側面に2つ対向して穿ったものであり、浸漬深さを250mmとして操業した。また実施例(参考例)、比較例において、浸漬ノズルの内面積および通電面積は、吐出孔の開口部および吐出孔の側壁(上下左右)の面積を無視して計算した近似値を用いた。
【0087】
以下、それぞれの実施例(参考例)、比較例についてさらに説明する。ここで、表1のノズル閉塞指数は、浸漬ノズルの直径に対する閉塞度合いを数値化したものである。具体的には次のように数値化した。まず、溶鋼が連続して通過した浸漬ノズルの使用後品を回収し、その縦断面から内面全体の平均付着厚さを算出し、その結果を用いて平均付着速度を求めた。試験は複数回行われているので、次に複数回の試験から得られた平均付着速度の平均値を求めた。そして、得られた平均値に基づいて、比較例rの値を100として指数化し、比較例rに対する割合として示した。以下の実施例(参考例)、比較例では、ノズル閉塞指数が40以下であるものを良好な結果であると評価した。
【0088】
【0089】
(参考例a~d)
参考例a~dは、ストッパーを用いてタンディッシュから鋳型への流量調整を行ないつつ、ノズルから高純度Arガスを吹き込んで鋳造を行った例である。
参考例aは、流路内面の継ぎ目に段差があるノズルを用いている。
図1に参考例aで用いたノズルの断面を示している。参考例bは、流路内面の継ぎ目に段差がないノズルを用いている。
図2に参考例bに用いたノズルの断面を示している。参考例c、dはノズルの流路内面に継目が無い一体型浸漬ノズルを用いている。
図3に参考例c、dに用いたノズルの断面を示している。
【0090】
ここで、参考例aは、上ノズルとコレクターノズルとの勘合部(継目)及びコレクターノズルと浸漬ノズルとの勘合部(継目)にいずれも2.5mm(直径差5mm)の段差がある。参考例bのノズルはこれらの継目に段差がない。参考例c、dは継目が無い一体型浸漬ノズルを用いている。また、参考例dは参考例a~cに比べて純度の低いArガスを用いている。
【0091】
表1より、参考例a~dは何れもノズル閉塞指数が低く、良好な結果であった。
参考例a~cの結果を比較すると、継目に段差が無いノズルを用いている参考例bに比べると、継目に段差があるノズルを用いている参考例aは継目からの外気吸引の影響でノズル閉塞防止効果は小さいものとなっていた。また、継目が無い一体型浸漬ノズルを用いている参考例cに比べると、影響は小さいものの参考例bは継目からの外気吸引の影響でノズル閉塞防止効果は小さいものとなっていた。このことから、継目からの外気吸引の影響によりノズルの閉塞防止効果が小さくなることが分かり、さらに継目に段差があるとさらにノズルの閉塞防止効果が小さくなることが分かる。また、参考例c、dの結果を比較すると、Arガスの純度が高いほどノズルの閉塞防止効果が高いことが分かる。後述する比較例qの結果からも上記の効果が裏図けられる。
【0092】
(実施例e、f)
実施例e、fは、スライディングゲート(S/G)を用いてタンディッシュから鋳型への流量調整を行ないつつ、ノズルから高純度Arガスを吹き込んで鋳造を行った例である。
図4に実施例e、fで用いたノズルの断面を示している。
【0093】
ここで、実施例eではスライディングゲートの摺動面の外周にArガスを流し、実施例fではスライディングゲートの摺動面の外周にN2ガスを流して、摺動面の外周部の酸素濃度を5%以下に保っている。
【0094】
表1より、実施例e、fは何れもノズル閉塞指数が低く、良好な結果であった。また、スライディングゲートの摺動面の外周に不活性ガスを吹き付ける効果は、ArガスであってもN2ガスであっても効果に差は出なかった。これは、溶鋼の表面張力に対する窒素の影響が酸素の影響に比べて小さいことに起因すると考えられる。また、後述する比較例oとの対比から明らかなように、摺動面の外周部に不活性ガスを流さないと、摺動面から外気が吸引され、ノズル閉塞防止効果が非常に小さくなる。
【0095】
(参考例g、実施例h、参考例i)
参考例g、実施例h、参考例iは、溶鋼とノズルとの間を直流で通電して鋳造を行った例である。参考例g、iは参考例dの条件にさらに直流通電を行ったものであり、実施例hは実施例eの条件にさらに直流通電を行ったものである。ここで、参考例g、iはノズルの極性を正負逆にして試験している。
【0096】
表1より、参考例g、実施例h、参考例iは何れもノズル閉塞指数が低く、良好な結果であった。
参考例g、実施例hは、それぞれ参考例d、実施例eよりもノズル閉塞指数が低くなっており、通電による電気化学的脱酸作用により浸漬ノズル閉塞防止効果が向上することが確認できた。
一方で、参考例iはノズルの極性が負であることから、電気化学的脱酸作用は発揮されず逆に酸素イオンを溶鋼側へ供給する条件となったことから、通電を行わない参考例dに比べてノズル閉塞防止効果が劣る結果となった。ただし、ノズルに対して高純度のArガスを吹き込みながら鋳造を行っていることから、高純度のArガスを吹き込みによるノズル閉塞防止効果は十分に発揮されていた。これは。高純度Arガス吹き込まない比較例qの結果から確認することができる。
【0097】
(参考例j、実施例k、実施例m)
参考例j、実施例k、実施例mは、溶鋼とノズルとの間を交流パルス状の通電波形で通電して鋳造を行った例である。参考例jは参考例gの通電条件を交流パルスに変更した例であり、実施例kは実施例hの通電条件を交流パルスに変更した例であり、実施例mは実施例kにおいてスライディングゲート外周に流す不活性ガスをN
2ガスに変更し、通電条件を再設定した例である。ここで、参考例jの通電波形を
図8に、実施例mの通電波形を
図9に示した。
【0098】
表1より、参考例j、実施例k、実施例mは何れもノズル閉塞指数が非常に低く、優れた結果であった。これは、ノズルの極性が負の期間における平均電流密度×通電時間よりも、ノズルの極性が正の期間における平均電流密度×通電時間の方が大きいことによって、ノズルの極性が正となるよう通電しながら鋳造を行うことにより、電気化学的脱酸作用維持しつつCOガス発生反応を抑制する作用が発揮されたためであると考えられる。このようなことから、参考例jは参考例gよりも効果が高く、実施例k、mは実施例hよりも効果が高くなっていると考えられる。
【0099】
(比較例n~r)
比較例nは、実施例kのArガスに低純度のArガスを用い、さらに耐火物にCaOが30mass%含まれたノズルを用いた例である。表1より、比較例nはノズルの閉塞指数が0であり非常に優れた例であるように見える。しかしながら、ノズル内面の耐火物が溶損し、損耗が激しいものであったため、実用には適さないものであった。また、溶損した耐火物とアルミナ介在物が合体した大きな介在物が鋳片内に持ち込まれ品質欠陥を生じる虞がある。
【0100】
比較例oは、実施例e、fにおいてスライディングゲートの外周に不活性ガスを吹き込まなかった例である。表1より、比較例oはノズル閉塞指数が高く、実施例に比べて劣った結果となった。これは、比較例oはArガスの純度が高いものの、スライディングゲートの摺動面が外気に晒されているため、摺動面から吸い込んだ外気中の酸素による影響により、ノズルに吹き込まれたArガスの純度が低下したためであると考えられる。
【0101】
比較例pは、比較例oよりもさらにノズルに吹き込まれるArガスの純度を低下させた例である。そのため、表1に記載されているとおり、比較例oよりもさらに結果が劣ったものとなった。
【0102】
比較例qは、参考例c、dにおいて純度の低いArガスを用いた例である。そのため、表1に記載されているとおり、ノズル閉塞指数が低く、劣った結果となった。
【0103】
比較例rは、比較例pにおいて酸素濃度の高いArガスを用いた例である。表1に記載されているとおり、ノズル閉塞指数が低く、劣った結果となった。また、酸素濃度が高いためAr気相と溶鋼との界面の表面張力に影響し、比較例pよりもさらに劣る結果となった。
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、浸漬ノズルの流路内に高純度のArガスを流し、さらにノズル内への外気の浸入を抑制することにより、ノズル内面への介在物の付着を抑制し、ノズルの閉塞を抑制することができる。従って、本発明の鋼の連続鋳造方法は、ノズルの閉塞を抑制し、安定した操業を実施できる極めて有用な技術である。