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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149951
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】抗真菌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/286 20060101AFI20241016BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241016BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20241016BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241016BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K36/286
A61P31/10
A61P17/00
A61P17/08
A61K8/9789
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063145
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関 兵馬
(72)【発明者】
【氏名】大隅 和寿
(72)【発明者】
【氏名】赤座 誠文
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB352
4C083AB432
4C083AB442
4C083AC022
4C083AC072
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC342
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC482
4C083AC542
4C083AD092
4C083AD272
4C083AD352
4C083AD512
4C083BB51
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC12
4C083CC25
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE10
4C083EE13
4C083FF01
4C083FF05
4C088AB26
4C088AC01
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA05
4C088CA06
4C088MA28
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗真菌作用に優れた新規な外用剤を提供する。
【解決手段】本願発明の特定のベニバナ抽出物は、皮膚にとって有益なマラセチア・シンポディアリスを抑制せず、有害なマラセチア・レストリクタを抑制できる優れた選択的な抗真菌作用を有し、安定性にも優れている。本願発明の特定のベニバナ抽出物は、健康用素材、化粧品、医薬部外品及び医薬品等への応用が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~2:1の光を照射して栽培したベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる1種又は2種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする抗真菌剤。
【請求項2】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が8:1~1:1の光を照射して栽培したベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる1種又は2種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする抗真菌剤。
【請求項3】
マラセチア・シンポディアリスには抗菌性を示さず、マラセチア・レストリクタに対して抗菌性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の抗真菌剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のベニバナの抽出物を含有することを特徴とする脂漏性皮膚炎抑制剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のベニバナの抽出物を含有することを特徴とするアトピー性皮膚炎抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚にとって有益なマラセチア・シンポディアリスを抑制せず、有害なマラセチア・レストリクタを抑制できる抗真菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト健常皮膚表面には皮膚常在菌と称される様々な微生物が生息しており、皮膚常在菌叢を形成している。個人差や部位差等があるが、皮膚常在菌叢は様々な微生物で構成されており、真菌の代表例としてマラセチア・レストリクタ(Malassezia restricta:M.restricta)やマラセチア・シンポディアリス(Malassezia sympodialis:M.sympodialis)といったマラセチア属酵母が挙げられる。
【0003】
皮膚常在菌は、通常は皮脂膜の一部を構成し、ヒトにとって有益な役割を担っている。例えば、皮膚の保湿がある。皮膚常在菌が中性脂肪を分解することで生成されるグリセリンは、皮膚の潤いを保つ天然の保湿成分として役立っている。しかし、何らかの原因によって特定の皮膚常在菌が過剰増殖したりすると、様々な皮膚疾患を引き起こす。皮膚常在菌を理解し、制御することは、皮膚の健康維持のために重要といえる。
【0004】
マラセチア・レストリクタは脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎に深く関与している菌といわれている(非特許文献1、2)。リパーゼによって皮脂を分解し、発生した遊離脂肪酸によって炎症が引き起こされる。また、マラセチア・レストリクタに対するヒトの自然免疫反応がニキビの炎症に関与すると考えられており、皮膚に有害な菌であると考えられる。
【0005】
一方、マラセチア・シンポディアリスはヒトの皮膚上に生育しているものの、皮膚疾患の原因となるような報告はない。また、皮膚常在真菌叢におけるマラセチア・レストリクタとマラセチア・シンポディアリスの割合は負の相関関係にあることが明らかになっている(非特許文献3)。このことから、マラセチア・シンポディアリスは皮膚に有害なマラセチア・レストリクタを抑制する、皮膚に有益な菌であると考えられる。
【0006】
マラセチア属酵母は、各菌のバランスが取れているときはヒトと共生し、ヒトの皮膚を守ってくれる有益な存在であるが、特定の菌が過剰増殖したときに皮膚疾患の原因となりうるため、菌のバランスを適切な状態に保つことが重要だといえる。現在、抗真菌剤としてはケトコナゾールやルリコナゾールが汎用されている。また、マラセチアに対して抗真菌性を発揮する素材や成分の検討もされてきた(特許文献1~3)。しかし、これらの抗真菌剤や抗真菌成分では、マラセチアの菌種ごとに選択的な抗真菌性を得ることが難しい。マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる抗真菌剤が望まれているが、現状、それを満たす素材又は成分が提供されているとは言い難い。
【0007】
ベニバナ(学名:Carthamus tinctorius)は、キク科ベニバナ属に属する一年生又は多年生植物である。これまでベニバナは鎮痛作用を持つとされ、薬用として用いられてきた。また、ベニバナ抽出物は、グラム陽性菌に対して抗菌活性を有していることや(非特許文献4)、ベニバナカルスのアルコール抽出物は大腸菌や枯草菌に抗菌性を示すことが知られているが(特許文献4)、抗真菌性については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-062059
【特許文献2】特開2018-150266
【特許文献3】特開2013-249293
【特許文献4】特開平05-085904
【非特許文献1】日本医真菌学会雑誌,Vol.46(3),PP.163-167(2005)
【非特許文献2】日本医真菌学会雑誌,Vol.53(2),PP.97-102(2012)
【非特許文献3】Int J Cosmet Sci,doi:10.1111/ics.12842(2023)
【非特許文献4】「紅花の変異原性と抗菌活性(第1報)」山形県衛生研究所報,23巻,43-48項(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
安全性に優れ、マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる選択的な抗真菌作用を持つ素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の波長域を有する2種の人工光を照射して栽培したベニバナの抽出物が、マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる優れた選択的な抗真菌性を有することを見出した。更に、その抽出物を含有する外用剤が、マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる選択的な抗真菌性を持つ健康用素材、化粧品、医薬部外品及び医薬品と成り得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0012】
(1)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が4:1~2:1の光を照射して栽培したベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる1種又は2種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする抗真菌剤。
(2)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が8:1~1:1の光を照射して栽培したベニバナの水、低級アルコール及び液状多価アルコールから選ばれる1種又は2種以上の溶媒による抽出物を含有することを特徴とする抗真菌剤。
(3)マラセチア・シンポディアリスには抗菌性を示さず、マラセチア・レストリクタに対して抗菌性を示すことを特徴とする(1)又は(2)に記載の抗真菌剤。
(4)(1)又は(2)に記載のベニバナの抽出物を含有することを特徴とする脂漏性皮膚炎抑制剤。
(5)(1)又は(2)に記載のベニバナの抽出物を含有することを特徴とするアトピー性皮膚炎抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の波長域を有する2種の人工光を照射して栽培したベニバナの抽出物を有効成分として含有する、マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる選択的な抗真菌剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いるベニバナ(学名:Carthamus tinctorius)は、キク科ベニバナ属に属する一年生又は多年生植物である。本発明において、ベニバナの抽出物は、その花、実、種子、茎、葉、根等の植物体の一部又は植物体全体(全草)、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は全草が好ましい。また、抽出には、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0015】
栽培方法としては、土を用いた栽培や水耕栽培を行うことができる。水耕栽培を行う場合には、種子を播種後、出根した状態で、水耕栽培に供することができ、市販苗を用いることもできる。栽培は、温度、光、二酸化炭素濃度が制御された施設で栽培することが好ましい。栽培温度は、15~30℃、好ましくは20~25℃である。栽培期間は、照射する条件によって異なるが、概ね10~50日で収穫でき、これより多くの期間栽培することも可能である。
【0016】
光源は、植物の栽培施設で用いる光源等を使用することができ、中でもLED等の人工光が最も好ましい。人工光源は、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード等の光半導体素子が挙げられるが、特定の範囲の波長域が選択的に照射できる光源であれば良い。
【0017】
ベニバナの栽培において、照射する波長としては、波長域400~515nmの青色光、570~730nmの赤色光であることが好ましく、波長域430~460nm、630~680nmの光がさらに好ましい。これらの光は、同時に照射することが最も好ましい。このときの波長は、照射スペクトルの極大波長(ピーク波長)のことをいう。このような波長のピークを有する光源であれば、独自に作製したものや市販のものを使用することもできる。また、上記波長を選択的に照射できるように、光学フィルタを用いても良い。照射は上記の2種の範囲の光のみが好ましいが、太陽光や蛍光灯等の光源も追加して使用することもできる。
【0018】
照射する光量としては、光合成光量子束密度(PPFD)として表される。発光体を2種組み合わせて照射する場合には、その合計の光量を意味する。その光量は、発芽後は10~300μmol・m-2-1が好ましく、50~200μmol・m-2-1がさらに好ましい。この範囲外の光強度の場合は、生育障害、生育不良になる場合がある。照射は、ベニバナの上部10~50cmの位置から照射することが好ましい。照射時間は、植物の特性や目的に応じて適宜変更できるが、1日当たり6時間以上が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0019】
赤色と青色の光量比においては、それぞれのPPFDの比を意味しており、収量や有効性等目的に応じて選択が可能である。
【0020】
中でも、植物体の収量を高めるには、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が好ましく、その中でも4:1~2:1がより好ましく、その中でも特に3:1の場合が最も好ましい。
【0021】
溶媒による抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出(例えば40~100℃)、常温抽出(例えば15~25℃)、低温抽出(例えば0~15℃)、撹拌抽出又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒又は水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。中でも、エタノール又は1,3-ブチレングリコールを20~100重量%含有するのが好ましく、25~80重量%含有するのが最も好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0022】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばベニバナの全草(乾燥重量)に対し、5倍以上、好ましくは10倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0023】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0024】
本発明の外用剤には、上記抽出物をそのまま使用しても良く、これらの効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品又は医薬品に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤等の成分を含有することもできる。
【0025】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、ローション、クリーム、マッサージクリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、軟膏、パップ剤等が挙げられる。
【0026】
本発明に用いる上記抽出物の含有量は、外用の場合、全量に対し、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を越えて含有した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0027】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いるベニバナの栽培例、ベニバナ抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例と処方例に示す%とは重量%を示す。
【実施例0028】
(1)実験材料及び生育条件
水分を含んだバーミキュライトにベニバナの種子を播種し、温度22~24℃・暗所で発芽させ、これをスポンジに包み、22~24℃で、12時間白色蛍光灯下で栽培し、育苗した。その後、水耕栽培装置を用いて、室温21~23℃で1日当たり12時間、植物の真上30cmの位置から、赤色LED(ピーク波長660nm)及び青色LED(ピーク波長450nm)を同時に照射し、赤色と青色LEDの合計光合成光量子束密度100μmol・m-2-1となるように、赤色と青色の光量比を8:1~1:1にして、栽培を行った。また、比較栽培例として太陽光下で栽培を行った。尚、栽培中は光量比を変えなかった。いずれも4週間栽培した後、収穫し、約60℃で温風乾燥させることで、ベニバナの乾燥物を得た(表1)。
【0029】
【表1】
【0030】
(2)ベニバナの抽出物の製造例
ベニバナの抽出物を以下の通り製造した。製造例1A~4Aにおいて、抽出材料には赤色:青色=2:1の比で栽培したベニバナの全草を用いた。
【0031】
(製造例1A)ベニバナ全草の熱水抽出物の調製
ベニバナの乾燥物10gに精製水200mLを加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、凍結乾燥して熱水抽出物を1.8g得た。
【0032】
(製造例2A)ベニバナ全草の25%エタノール抽出物の調製
ベニバナの乾燥物10gに25%エタノール200mLを加え、常温で7日間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮乾固して、25%エタノール抽出物を1.5g得た。
【0033】
(製造例3A)ベニバナ全草のエタノール抽出物の調製
ベニバナの乾燥物10gにエタノール200mLを加え、常温で7日間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮乾固して、エタノール抽出物を0.5g得た。
【0034】
(製造例4A)ベニバナ全草の1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ベニバナの乾燥物10gに1,3-ブチレングリコール200mLを加え、常温で7日間抽出した。得られた抽出液を濾過し、ベニバナの1,3-ブチレングリコール抽出物を190g得た。
【0035】
上記と同様に、赤色と青色LEDの合計光合成光量子束密度100μmol・m-2-1となるように、赤色と青色の光量比を変化させて栽培したベニバナ又は太陽光で栽培したベニバナを用い、上記の製造例1A~4Aと同様に抽出し、製造例1B~4B、製造例1C~4C、製造例P~Sとした(表2)。
【0036】
【表2】
【実施例0037】
(処方例1) クリーム
処方 含有量(%)
1.ベニバナの25%エタノール抽出物(製造例2B) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0038】
(比較処方例1) 従来のクリーム
処方例1において、ベニバナの25%エタノール抽出物(製造例2B)を、ベニバナの25%エタノール抽出物(製造例Q)に置き換えたものを、従来のクリームとした。
【0039】
(処方例2) 乳液
処方 含有量(%)
1.ベニバナのエタノール抽出物(製造例3C) 1.0
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0040】
(比較処方例2) 従来の乳液
処方例2において、ベニバナのエタノール抽出物(製造例3C)を、ベニバナのエタノール抽出物(製造例R)に置き換えたものを、従来の乳液とした。
【0041】
(処方例3) パック
処方 含有量(%)
1.ベニバナのエタノール抽出物(製造例3A) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4A) 2.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0042】
(処方例4) ローション
処方 含有量(%)
1.ベニバナの熱水抽出物(製造例1A) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0043】
(処方例5) ゲル剤
処方 含有量(%)
1.ベニバナの25%エタノール抽出物(製造例2A) 1.0
2.ベニバナの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4B) 1.0
3.エタノール 5.0
4.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
5.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
6.香料 適量
7.1,3-ブチレングリコール 5.0
8.グリセリン 5.0
9.キサンタンガム 0.1
10.カルボキシビニルポリマー 0.2
11.水酸化カリウム 0.2
12.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6と、成分1、2及び7~12をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0044】
(処方例6) ファンデーション
処方 含有量(%)
1.ベニバナの熱水抽出物(製造例1C) 0.9
2.ベニバナの25%エタノール抽出物(製造例2C) 0.1
3.ステアリン酸 2.4
4.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
5.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
6.セタノール 1.0
7.液状ラノリン 2.0
8.流動パラフィン 3.0
9.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
10.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
11.ベントナイト 0.5
12.プロピレングリコール 4.0
13.トリエタノールアミン 1.1
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
15.二酸化チタン 8.0
16.タルク 4.0
17.ベンガラ 1.0
18.黄酸化鉄 2.0
19.香料 適量
20.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~9を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分20に成分10をよく膨潤させ、続いて、成分1、2及び11~14を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分15~18を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分19を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0045】
(処方例7) 浴用剤
処方 含有量(%)
1.ベニバナの熱水抽出物(製造例1B) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0046】
(処方例8) 軟膏
処方 含有量(%)
1.ベニバナのエタノール抽出物(製造例3B) 1.0
2.ベニバナの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4C) 2.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び7~9を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0047】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例0048】
実験例1 マラセチアの増殖に及ぼす効果の検討
マラセチア・レストリクタ(M.restricta NBRC 103918)及びマラセチア・シンポディアリス(M.sympodialis CBS 7222)を試験菌として用い、これらの試験菌に対するベニバナ抽出物の抗真菌性を検討した。すなわち、製造例1A~3Cのベニバナ抽出物又は比較として製造例P~Rのベニバナ抽出物を1mg/mLとなるように加えた培地にて、マラセチア・レストリクタ及びマラセチア・シンポディアリスをそれぞれ培養し、増殖性を検討した。培地としては、Leeming&Notman agar培地(J Clin Microbiol,Vol.25,PP.2017-2019,1987)を用いた。マラセチア・レストリクタ及びマラセチア・シンポディアリスは120時間培養した菌体を精製水に懸濁し、波長600nmでの濁度を測定することで、製造例1A~3Cのベニバナ抽出物又は製造例P~Rのベニバナ抽出物が増殖に及ぼす効果を検討した。
【0049】
ベニバナ抽出物未添加時をコントロールとし、その際の濁度の値を100%として、各ベニバナ抽出物を添加した場合の生存率を求めた。実験結果を表3に示す。本発明のベニバナ抽出物(製造例1A~3C)は、太陽光で栽培したベニバナ抽出物(製造例P~R)に比べ、マラセチア・シンポディアリスの菌数を維持しつつ、マラセチア・レストリクタに対する優れた抗真菌性を示した。また、製造例2Bのベニバナ抽出物において顕著に高い効果が認められた。このことから、本発明の特定の波長域を有する人工光を照射する栽培方法によってベニバナ抽出物の選択的な抗真菌性が強化されることが明らかになった。
【0050】
【表3】
【0051】
実験例2 使用試験
処方例1のクリーム及び比較処方例1の従来のクリームを用いて、脂漏性皮膚炎に悩む5人を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。1日1回、処方例1のクリームと比較処方例1のクリームをそれぞれ左右半顔ずつに使用し、使用後にアンケートを実施し、脂漏性皮膚炎の予防及び改善度を判定した。
【0052】
その結果、本発明のベニバナ抽出物を含有するクリームにより、脂漏性皮膚炎の悩みが軽減した。尚、試験期間中、皮膚トラブルは1人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【0053】
また、処方例2の乳液及び比較処方例2の従来の乳液を用い、同様に使用試験を行った。その結果、本発明のベニバナ抽出物を含有する乳液により、脂漏性皮膚炎の悩みが軽減した。尚、試験期間中、皮膚トラブルは1人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のことから、本発明のベニバナ抽出物は、マラセチア・シンポディアリスを抑制せず、マラセチア・レストリクタを抑制できる優れた選択的な抗真菌性を有し、安定性にも優れていた。よって、本発明のベニバナ抽出物は、健康用素材、化粧品、医薬部外品及び医薬品等への応用が期待される。