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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149981
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】免震用オイルダンパシステム
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/027 20060101AFI20241016BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241016BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20241016BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20241016BHJP
   F16F 9/504 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F16F15/027
E04H9/02 331A
E04H9/02 331B
E04H9/02 331D
E04H9/02 331E
E04H9/02 351
F16F15/023 A
F16F15/04 P
F16F15/04 E
F16F9/504
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063177
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廣石 恒二
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】田部井 直哉
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB11
2E139AB13
2E139AC03
2E139AC06
2E139AC08
2E139BA12
2E139BD35
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CB08
2E139CB15
2E139CC02
3J048AA02
3J048AA03
3J048AB08
3J048AC04
3J048BA08
3J048BE03
3J048BG01
3J048BG02
3J048CB21
3J048EA38
3J069AA50
3J069EE01
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】強風時にはオイルダンパをロック状態として建物の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパのロック状態を解除して建物へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステムを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とする。
【解決手段】免震用オイルダンパシステム10Aは、免震装置と、オイルダンパ30と、オイルダンパ30の第1室R1と第2室R2との間で液体を流通させる流通経路40と、流通経路40を開閉する制御弁50Aと、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Aを備え、振動が生じた際に剛体71Aに生じる応答量が閾値Sより小さい場合に、制御弁50Aを閉状態としてオイルダンパ30をロック状態とし、応答量が閾値S以上の場合に、制御弁50Aを開状態としてオイルダンパ30のロック状態を解除する、減衰力切替手段70Aと、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物へ伝わる振動を低減させる、免震装置とオイルダンパを組み合わせた免震用オイルダンパシステムであって、
積層ゴム支承、すべり支承、及び転がり支承のうち、いずれかを含んで構成される前記免震装置と、
液体が充填されたシリンダと、前記シリンダの内側を第1室と第2室に区画し、前記シリンダに対して相対移動するピストンと、を備えている、前記オイルダンパと、
前記第1室と前記第2室との間で前記液体を流通させる流通経路と、
前記流通経路を開閉する制御弁と、
前記建物と分離して、前記建物に対して相対移動可能に設けられた剛体を備え、振動が生じた際に前記剛体に生じる応答量が閾値より小さい場合に、前記制御弁を閉状態として前記オイルダンパをロック状態とし、前記応答量が前記閾値以上の場合に、前記制御弁を開状態として前記オイルダンパのロック状態を解除する、減衰力切替手段と、
を備えていることを特徴とする免震用オイルダンパシステム。
【請求項2】
前記剛体は前記建物に対してバネにより連結され、
前記減衰力切替手段は、振動が生じていない状態において前記剛体から前記閾値だけ離れた位置に設けられた、前記剛体の接触を検出する剛体検出器を備え、
前記減衰力切替手段は、振動が生じて前記剛体が前記建物に対して相対移動し、前記剛体検出器に接触した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とすることを特徴とする請求項1に記載の免震用オイルダンパシステム。
【請求項3】
前記剛体は棒状体であり、当該棒状体の軸線方向に振動するように、前記剛体はバネにより前記建物に対して連結され、前記剛体の表面には、前記軸線方向に沿って延在するように凹部が形成され、前記軸線方向において、前記凹部の端部の各々と前記凹部の中心との間の距離は、それぞれ前記閾値の長さとされ、
前記減衰力切替手段は、前記建物に対して前記軸線方向に相対移動不能に固定されて、前記剛体の前記凹部に対向して、前記剛体に対して進退自在に設けられ、前記制御弁と連動して動作し、前記制御弁の開閉を切り替える切替レバーを備え、
振動が生じていない状態において、前記切替レバーは、前記凹部の前記中心に当接して設けられ、
前記切替レバーは、前記凹部に対応して位置して前記凹部に当接している場合に前記制御弁を閉状態とし、かつ前記凹部の外側に対応して位置して前記凹部の外側に当接している場合に前記制御弁を開状態とし、
前記減衰力切替手段は、振動が生じて前記剛体が前記建物に対して相対移動し、前記切替レバーが前記凹部の外側に対応して位置して前記凹部の外側に当接した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とすることを特徴とする請求項1に記載の免震用オイルダンパシステム。
【請求項4】
前記減衰力切替手段は、ロープと、前記ロープの張力を検出する張力検出手段と、を備え、前記ロープの一端は前記剛体に、他端は前記張力検出手段に、それぞれ接続され、前記剛体は、振動が生じていない状態において、前記ロープに張力が作用しない初期位置に載置され、かつ振動が生じて前記応答量が前記閾値以上となり、前記初期位置から落下すると、前記ロープに張力が作用するように設けられ、
前記減衰力切替手段は、前記剛体が初期位置から落下して前記ロープに張力が作用し、前記張力検出手段が前記ロープの張力を検出した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とすることを特徴とする請求項1に記載の免震用オイルダンパシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物へ伝わる振動を低減させる、免震装置とオイルダンパを組み合わせた免震用オイルダンパシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地震による振動を減衰し、低減させるため、建物の免震層に、オイルダンパ等の減衰装置と免震装置を組み合わせて設けることが広く行われている。このような場合においては、免震層を設けることによって、建物の上部構造が下部構造に対し相対移動可能な構成となるために、建物に作用する風が大きくなると、建物が揺れやすくなってしまい、建物の内部の人間に不快感を与える可能性がある。
これに対し、強風時においては風揺れを抑制し、なおかつ地震発生時には建物へ伝わる振動を低減するためのシステムが開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、上部構造と下部構造の間の免震層に、免震装置と並列に風ロック機構を備える構成が開示されている。風ロック機構は、上下方向に伸縮するバネを有する軸バネ装置と、軸線方向を上下方向に配し、下端部側を、軸バネ装置を介して下部構造に接続しつつ軸バネ装置によって上方に付勢される軸材と、下端部が軸材の上端部にピン結合され、軸バネ装置の圧縮状態とされたバネの付勢力が軸材を通じて作用することで上端部を上部構造に押圧して配設される束材とを備えている。
特許文献1においては、免震層に、免震装置や、オイルダンパ等の減衰装置に加えて、これらとは異なる新たな構造体として、比較的大規模で複雑な構造の風ロック機構を構築する必要がある。このため、設置が容易ではない。また、特許文献1の風ロック機構は、構造が簡潔ではないため、設置後の維持管理も容易ではない。
【0004】
また、特許文献2には、基礎と構造物との間に介在して構造物を水平方向に移動自在に支持する免震支持体と、風速を検知する風速検知手段と、風速検知手段が所定値以上の風速を検知したときに基礎に対する構造物の水平方向の変位を強制的に自動停止させる変位停止手段とを備えた構成が記載されている。変位停止手段は、基礎および建築物のそれぞれに設けられて互いに上下に対向する下側孔部および上側孔部と、風速検知手段が所定値以上の風速を検知したときに下側孔部および上側孔部の両方に挿通して基礎に対する建築物の水平方向の変位を強制的に停止させる停止棒とを備える。下側孔部は、基礎に設置された下側水平板に設けた上下方向に貫通する貫通孔であり、上側孔部は、下側水平板に対向するように建築物の側面に突設された上側水平板に設けた貫通孔である。
特許文献2においては、風速検知手段として、回転式風速計、熱線風速計、サーミスタ風速計、超音波風速計、または、風騒音から風速を検出する手段を、建築物の屋根の上に設置し、更に、上記のような下側水平板、上側水平板、及び停止棒を備えた、比較的大規模な構造体を、免震層に、新たに設ける必要がある。このため、設置が容易ではない。また、特許文献2の免震耐風構造は、特許文献1と同様に、設置後の維持管理も容易ではない。
【0005】
更に、特許文献3には、免震装置及びアクティブ制御型の制振装置が設けられた鉄骨造建物において、積層ゴム支承、及び調圧弁を開閉して減衰力を調整するロック機構付きオイルダンパを含む免震装置と、強風時には、風情報により、ロック機構付きオイルダンパのロック機構を作動させて免震装置が設けられた建物の免震層の変形を抑えるとともに、アクティブ制御型の制振装置を駆動させて建物の揺れを低減させる制御装置と、を備える構成が記載されている。
特許文献3においても、ロック機構付きオイルダンパのロック機構を制御するために、気象予報等に基づく風向及び風速の予測値、建物近隣の風向及び風速の測定値等の風情報を取得する構成とする必要がある。このため、設置が容易ではない。また、特許文献3に開示された構成は、特許文献1、2に開示された構成と同様に、設置後の維持管理も容易なものとはならない可能性がある。
強風時にはオイルダンパをロック状態として建物の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパのロック状態を解除して建物へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステムを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とすることが、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-87581号公報
【特許文献2】特開平9-317011号公報
【特許文献3】特許第7145746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、強風時にはオイルダンパをロック状態として建物の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパのロック状態を解除して建物へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステムを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、建物を対象とする制震システムとして、強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物へ伝わる振動を低減する免震装置とオイルダンパを組み合わせた免震用オイルダンパシステムである。免震用オイルダンパシステムでは、建物に対して相対移動可能な剛体を設け、その剛体の相対移動量に基づいて、オイルダンパを構成する制御弁を開閉させて、オイルダンパの減衰力を高減衰モード、または低減衰モードに変更させることで、建物の応答量に影響を受けることなく、剛体に生じる応答値に基づいて、強風時には風揺れを抑制し、地震発生時には建物に伝わる振動を低減するものである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の免震用オイルダンパシステムは、強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物へ伝わる振動を低減させる、免震装置とオイルダンパを組み合わせた免震用オイルダンパシステムであって、積層ゴム支承、すべり支承、及び転がり支承のうち、いずれかを含んで構成される前記免震装置と、液体が充填されたシリンダと、前記シリンダの内側を第1室と第2室に区画し、前記シリンダに対して相対移動するピストンと、を備えている、前記オイルダンパと、前記第1室と前記第2室との間で前記液体を流通させる流通経路と、前記流通経路を開閉する制御弁と、前記建物と分離して、前記建物に対して相対移動可能に設けられた剛体を備え、振動が生じた際に前記剛体に生じる応答量が閾値より小さい場合に、前記制御弁を閉状態として前記オイルダンパをロック状態とし、前記応答量が前記閾値以上の場合に、前記制御弁を開状態として前記オイルダンパのロック状態を解除する、減衰力切替手段と、を備えていることを特徴とする。
上記のような構成においては、建物に強風が作用した際には、建物に作用する風外力が剛体には直接作用しないため、建物と分離して、建物に対して相対移動可能に設けられた剛体の応答量は、閾値より小さくなる。この場合には、制御弁は、ピストンにより区画されたシリンダの第1室と第2室との間で液体を流通させる流通経路を閉状態とするため、第1室と第2室との間の液体の流通が抑制される。すると、強風によって建物の免震層よりも上の上部構造が揺れようとして、ピストンがシリンダの内側を、第1室と第2室の一方へと移動することで、オイルダンパが伸縮しようとしても、当該一方の室の内側の液体の流通先が制限される。これにより、ピストンの移動が抑制されて、オイルダンパが容易に伸縮することができない、ロック状態となる。その結果、建物(の上部構造)の揺れが抑制される。
また、地震が発生した際には、地動による慣性力が剛体に直接作用するため、剛体に作用する力は、建物に強風が作用した場合よりも大きくなる。このため、剛体の応答量は閾値以上となり、制御弁は流通経路を開状態とするため、第1室と第2室との間で、流通経路を介して、液体が流通するようになる。すると、地震によって上部構造が揺れようとして、ピストンがシリンダの内側を、第1室と第2室の一方へと移動することで、オイルダンパが伸縮しようとした際には、当該一方の内側の液体は、流通経路を介して、第2室へと移動することができる。これにより、ピストンの移動が抑制されず、オイルダンパのロック状態が解除されて、容易に伸縮することができる状態となる。その結果、上部構造は、免震層より下の下部構造に対して振動しつつも、この振動は、オイルダンパにより抑制される。
ここで、上記のような免震用オイルダンパシステムを実現するに際し、基本的には、オイルダンパに対して流通経路を設けたうえで、減衰力切替手段と制御弁を設置するようにすればよい。減衰力切替手段としても、剛体と、剛体の応答量を検出して制御弁を制御する機構のみが、最低限設けられれば良い。このため、構造全体が簡潔なものとなる。これにより、設置と、及び設置後の維持管理とが、容易になる。
このようにして、強風時にはオイルダンパをロック状態として建物の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパのロック状態を解除して建物へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステムを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とすることができる。
【0009】
本発明の一態様においては、前記剛体は前記建物に対してバネにより連結され、前記減衰力切替手段は、振動が生じていない状態において前記剛体から前記閾値だけ離れた位置に設けられた、前記剛体の接触を検出する剛体検出器を備え、前記減衰力切替手段は、振動が生じて前記剛体が前記建物に対して相対移動し、前記剛体検出器に接触した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とする。
このような構成によれば、剛体の接触を検出する剛体検出器が、振動が生じていない状態において剛体から閾値だけ離れた位置に設けられている。このような剛体検出器は、振動が作用して、建物に対する剛体の相対移動量が閾値以上となるような場合に、剛体の接触を検出するため、剛体検出器の検出結果によって、剛体の応答量として、建物に対する剛体の相対移動量が、閾値以上か否かを判定することができる。このような剛体検出器を用いて、剛体が剛体検出器に接触した際に、応答量が閾値以上となったとして、制御弁を開状態とするように構成することにより、免震用オイルダンパシステムを、適切に実現することが可能となる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記剛体は棒状体であり、当該棒状体の軸線方向に振動するように、前記剛体はバネにより前記建物に対して連結され、前記剛体の表面には、前記軸線方向に沿って延在するように凹部が形成され、前記軸線方向において、前記凹部の端部の各々と前記凹部の中心との間の距離は、それぞれ前記閾値の長さとされ、前記減衰力切替手段は、前記建物に対して前記軸線方向に相対移動不能に固定されて、前記剛体の前記凹部に対向して、前記剛体に対して進退自在に設けられ、前記制御弁と連動して動作し、前記制御弁の開閉を切り替える切替レバーを備え、振動が生じていない状態において、前記切替レバーは、前記凹部の前記中心に当接して設けられ、前記切替レバーは、前記凹部に対応して位置して前記凹部に当接している場合に前記制御弁を閉状態とし、かつ前記凹部の外側に対応して位置して前記凹部の外側に当接している場合に前記制御弁を開状態とし、前記減衰力切替手段は、振動が生じて前記剛体が前記建物に対して相対移動し、前記切替レバーが前記凹部の外側に対応して位置して前記凹部の外側に当接した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とする。
このような構成によれば、振動が生じていない状態において、切替レバーは、棒状体である剛体の表面に、軸線方向に沿って延在するように形成された凹部の中心に当接している。振動が生じると、剛体は、軸線方向に振動する。切替レバーは、建物に対して軸線方向に相対移動不能に固定されているため、剛体は、切替レバーに対し、軸線方向に相対移動する。ここで、軸線方向において、凹部の端部の各々と凹部の中心との間の距離は、それぞれ閾値の長さとされている。このため、切替レバーが凹部に当接していれば、建物に対する剛体の相対移動量が閾値より小さい状態であり、制御弁は閉状態とされる。また、切替レバーが、凹部の端部を越えて、凹部の外側に当接した場合、建物に対する剛体の相対移動量が閾値以上の状態であり、制御弁が開状態となる。このような剛体と切替レバーを用いて、剛体の応答量が閾値以上か否かを、剛体に対する切替レバーの位置によって、建物に対する剛体の相対移動量を観測することで判定し、応答量が閾値以上の場合に制御弁を開状態とするように構成することにより、免震用オイルダンパシステムを、適切に、実現することができる。
【0011】
本発明の一態様においては、前記減衰力切替手段は、ロープと、前記ロープの張力を検出する張力検出手段と、を備え、前記ロープの一端は前記剛体に、他端は前記張力検出手段に、それぞれ接続され、前記剛体は、振動が生じていない状態において、前記ロープに張力が作用しない初期位置に載置され、かつ振動が生じて前記応答量が前記閾値以上となり、前記初期位置から落下すると、前記ロープに張力が作用するように設けられ、前記減衰力切替手段は、前記剛体が初期位置から落下して前記ロープに張力が作用し、前記張力検出手段が前記ロープの張力を検出した際に、前記応答量が前記閾値以上となったとして、前記制御弁を開状態とする。
このような構成によれば、剛体は、振動が生じていない状態では、剛体と張力検出手段とを結ぶロープに張力が作用しない初期位置に載置される。振動が生じて剛体が変位し、剛体の応答量が閾値以上となると、剛体は初期位置から落下して、ロープに張力が作用し、張力検出手段により張力が検出される。この場合に、減衰力切替手段が、応答量が閾値以上となったとして、制御弁を開状態とする。これにより、第1室と第2室との間で液体が流通するようになる。その結果、オイルダンパのロック状態が解除されて、オイルダンパが容易に伸縮することができる状態となる。このようにして、免震用オイルダンパシステムを、適切に実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強風時にはオイルダンパをロック状態として建物の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパのロック状態を解除して建物へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステムを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムを備えた建物の概略構成を示す図である。
図2図1の免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。
図3図2の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
図4】本発明の実施形態の第1変形例に係る免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。
図5図4の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
図6】本発明の実施形態の第2変形例に係る免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。
図7図6の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
図8】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムの解析例に用いた解析モデルを示す図である。
図9】オイルダンパのロックを解除するときのバネ復元力特定を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムの解析例を示す図であり、建物の階ごとの最大加速度の分布を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムの解析例を示す図であり、建物の階ごとの最大層間変形角の分布を示す図である。
図12】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムの他の解析例を示す図であり、建物の階ごとの最大加速度の分布を示す図である。
図13】本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムの他の解析例を示す図であり、建物の階ごとの最大層間変形角の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、建物を対象とする強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物へ伝わる振動を低減させる、免震装置とオイルダンパを組み合わせた免震用オイルダンパシステムである。具体的には、本発明の免震用オイルダンパシステムでは、強風時にオイルダンパの伸縮をロック(ロックON)することで減衰力を高い状態とし、強風時の風揺れを低減させるとともに、地震発生時にはオイルダンパが伸縮可能なようにロック状態を解除して減衰力を低い状態とし、建物へ伝わる振動を低減させる。
以下、添付図面を参照して、本発明による免震用オイルダンパシステムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
(実施形態)
本発明の実施形態に係る免震用オイルダンパシステムを備えた建物の概略構成を示す図を図1に示す。
図1に示されるように、免震用オイルダンパシステム10Aは、建物1の上部構造4と、建物1を支持する下部構造2と、の間に設けられた免震層3に配置されている。本実施形態においては、下部構造2は、建物1の基礎部である。免震用オイルダンパシステム10Aは、強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物1の上部構造4へ伝わる振動を低減させる。免震用オイルダンパシステム10Aは、免震装置20と、オイルダンパ30と、流通経路40と、制御弁50Aと、減衰力切替手段70Aと、を組み合わせて構成されている。
【0015】
免震装置20は、積層ゴム支承、すべり支承、及び転がり支承のうち、いずれかを含んで構成される。本実施形態では、免震装置20として、例えば、積層ゴム支承21を備えている。免震装置20としては、積層ゴム支承、すべり支承、及び転がり支承の、複数が組み合わせて設けられても構わない。免震装置20は、下部構造2と、上部構造4との間に複数個設けられている。各積層ゴム支承21は、下部構造2上に固定される下部取付板21aと、上部構造4の下面に固定される上部取付板21bと、下部取付板21aと上部取付板21bとの間に設けられた積層ゴム部21cと、を備える。積層ゴム部21cは、鋼板とゴム層とを上下方向において交互に積層してなる。積層ゴム支承21は、後に説明するオイルダンパ30のロック状態が解除されている場合において、上部構造4の、下部構造2に対する水平方向の相対変位を許容する。
【0016】
図2は、図1の免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。
図2に示されるように、オイルダンパ30は、シリンダ31と、ピストン32と、ピストンロッド33と、を備えている。シリンダ31は、水平方向に沿った軸線方向Dcに延びる筒状に形成されている。シリンダ31の一端は、蓋34によって閉塞されている。シリンダ31の他端には、ロッドガイド35が装着されている。ロッドガイド35は、その中央部にロッド挿通孔35hを有した円環状に形成されている。
【0017】
ピストン32は、シリンダ31内に配置されている。ピストン32は、シリンダ31内で、シリンダ31に対して軸線方向Dcに相対移動自在に設けられている。ピストン32は、ピストンロッド33の一端に連結されている。ピストンロッド33は、ピストン32に対して軸線方向Dcの一方側Dc1に設けられている。ピストン32は、シリンダ31内を、第1室R1と第2室R2とに区画する。第1室R1は、ピストン32に対して軸線方向Dcの一方側Dc1に設けられたピストンロッド33側に位置する。第2室R2は、ピストン32に対して第1室R1とは反対側、つまり、軸線方向Dcの他方側Dc2に位置する。シリンダ31内の第1室R1、及び第2室R2には、作動油等の液体が充填されている。液体は、作動油以外にも、水や水溶液を使用することも可能である。
ピストンロッド33は、シリンダ31の軸線方向Dcに延びている。ピストンロッド33は、ロッドガイド35のロッド挿通孔35hに挿通されている。ピストンロッド33の他端は、ロッド挿通孔35hを通してシリンダ31の外方に突出している。ピストンロッド33は、ピストン32とともに、シリンダ31に対して軸線方向Dcに相対移動する。
【0018】
このようなオイルダンパ30において、シリンダ31は、ブラケット36を介して、例えば下部構造2側に固定されている。ピストンロッド33の他端は、ブラケット37を介して、シリンダ31とは反対側の、上部構造4側に固定されている。これにより、地震が生じ、後に説明するオイルダンパ30のロック状態が解除されると、下部構造2と上部構造4との間での、シリンダ31の軸線方向Dcの相対変位に伴い、シリンダ31に対し、ピストンロッド33、及びピストン32が軸線方向Dcに相対移動する。
【0019】
流通経路40は、オイルダンパ30の第1室R1と、第2室R2とに接続されている。流通経路40は、第1室R1と第2室R2との間で液体を流通させる。
制御弁50Aは、流通経路40の途中に設けられている。制御弁50Aは、流通経路40を開閉する。より詳細には、制御弁50Aは、流通経路40を閉鎖する閉鎖部分53と、流通経路40を開通させる開通部分52を備えている。閉鎖部分53と開通部分52は、水平方向に隣接するように設けられている。開通部分52は、閉鎖部分53の、後に説明する剛体71Aの側に位置づけられている。本実施形態において、制御弁50Aは、水平方向(軸線方向Dc)に進退自在に設けられ、閉鎖部分53と開通部分52が自在に切り替えられるように構成されている。
通常の、振動が生じていない場合においては、流通経路40内には制御弁50Aの閉鎖部分53が位置して、流通経路40が閉鎖され、流通経路40内を液体が流通できない状態となっている。この場合に、開通部分52は、流通経路40から剛体71A側に突出するように位置づけられている。
後に図3を用いて説明するように、振動が生じ、剛体71Aが水平方向に閾値S以上移動した場合に、制御弁50Aは水平方向に移動して、流通経路40内に開通部分52が位置する。この場合には、流通経路40が開通され、流通経路40内を液体が流通できる状態となる。
【0020】
減衰力切替手段70Aは、剛体71Aと、バネ72と、剛体検出器74と、を備えている。
剛体71Aは、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられている。本実施形態において、剛体71Aは、下部構造2上に設けられた台25上で、水平方向(軸線方向Dc)に移動自在に支持されている。図1においては、剛体71Aの下面には車輪が設けられて、剛体71Aが台25上で走行するような形態として描かれているが、台25が剛体71Aを相対移動可能に支持する形態は、これに限られず、どのようなものであっても構わない。剛体71Aは、例えば、台25に固定されたブラケット26に、バネ72を介して水平方向(軸線方向Dc)に変位可能に支持されている。
【0021】
剛体検出器74は、振動が生じていない状態において剛体71Aから閾値Sだけ離れた位置に設けられている。本実施形態においては、剛体検出器74は、制御弁50Aと一体に設けられている。剛体検出器74は、本実施形態においては、閉鎖部分53から、剛体71A側に向かって水平方向(軸線方向Dc)に延びるように設けられた、制御弁50Aの開通部分52である。剛体検出器74は、制御弁50Aと連動して動作する。
剛体71Aと剛体検出器74は、振動が生じていない場合においては、これらの間の距離が閾値Sとなるように、設けられている。このため、振動が生じて剛体71Aが建物1に対して相対移動したとしても、剛体71Aの、水平方向の移動量が閾値S以下である場合には、剛体71Aは、剛体検出器74に接触しない。
【0022】
図3は、図2の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
剛体検出器74は、振動が生じ、図3に示されるように、剛体71Aが、水平方向に閾値S以上移動した場合に、剛体71Aの接触を検出する。剛体検出器74は、剛体71Aが、水平方向に閾値S以上移動した場合に、剛体71Aによって押圧される。これにより、制御弁50Aは、開通部分52が流通経路40に位置して開状態となる。
制御弁50Aは、一旦閉状態から開状態となると、その後も流通経路40が開状態に維持されるようになっている。制御弁50Aを、開状態から閉状態に戻すには、手動で制御弁50Aを操作する。
【0023】
制御弁50Aは、振動が生じていない状態において、図2に示されるように、閉鎖部分53で流通経路40を閉鎖している。つまり、制御弁50Aは、初期状態において、流通経路40を閉鎖し、第1室R1と第2室R2との間での、流通経路40を介した液体の流通を遮断している。この状態においては、振動が生じ、上部構造4が下部構造2に対し相対移動しようとするのに伴って、ピストン32が第1室R1側もしくは第2室R2側へと移動しようとしても、移動しようとする方向に位置する室R1、R2内に位置する液体の移動先が制限される。これにより、オイルダンパ30は、シリンダ31内におけるピストン32の軸線方向Dcへの移動が制御弁50Aによって抑制されたロック状態となる。
図3に示されるように、振動が生じ、剛体71Aが、バネ72の弾性力に抗して水平方向に閾値S以上移動すると、剛体検出器74が押圧され、制御弁50Aが、閉状態から開状態へと切り替わる。これにより、流通経路40が開放される。この状態においては、振動が生じ、上部構造4が下部構造2に対し相対移動しようとするのに伴って、ピストン32が第1室R1側に移動しようとすると、第1室R1内の液体は、流通経路40を介して、第2室R2へと移動する。逆に、ピストン32が第2室R2側に移動しようとすると、第2室R2内の液体は、流通経路40を介して、第1室R1へと移動する。このようにして、第1室R1と第2室R2との間での、流通経路40を介した液体の流通が可能となり、オイルダンパ30のロック状態が解除される。
【0024】
このように、減衰力切替手段70Aは、振動が生じた際に剛体71Aに生じる応答量、すなわち本実施形態においては、剛体71Aの建物1に対する相対移動量が、閾値Sより小さい場合に、制御弁50Aを閉状態としてオイルダンパ30をロック状態とし、応答量が閾値S以上の場合に、制御弁50Aを開状態としてオイルダンパ30のロック状態を解除する。
ここで、閾値Sは、建物1に強風が作用した際における剛体71Aの応答量よりも大きく、かつ、地震発生時における剛体71Aの応答量よりも小さくなるように設定される。
【0025】
このような免震用オイルダンパシステム10Aでは、建物1に強風が作用した際には、建物1に作用する風外力が剛体71Aには直接作用しないため、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Aの応答量、すなわち、剛体71Aの建物1に対する相対移動量は、閾値Sより小さくなる。この場合、相対移動量が閾値Sより小さいため、剛体71Aは剛体検出器74へと到達しない。このため、制御弁50Aは、ピストン32により区画されたシリンダ31の第1室R1と第2室R2との間で液体を流通させる流通経路40を、閉状態とした状態となっている。これにより、流通経路40における第1室R1と第2室R2との間の液体の流通が抑制される。すると、強風によって建物1の免震層3よりも上の上部構造4が揺れようとして、ピストン32がシリンダ31の内側を移動し、オイルダンパ30が伸縮しようとしても、移動しようとする方向に位置する室R1、R2の内側の液体の流通先が制限される。このため、ピストン32の移動が抑制されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができない、ロック状態となる。これにより、免震用オイルダンパシステム10Aによる減衰力が高い状態となり、下部構造2と上部構造4との水平方向の相対変位が抑えられ、建物1(の上部構造4)の揺れが抑制される。
【0026】
また、地震が発生した際には、地動による慣性力が剛体71Aに直接作用するため、剛体71Aに作用する力は、建物1に強風が作用した場合よりも大きくなる。このため、剛体71Aの応答量、すなわち、剛体71Aの建物1に対する相対移動量は閾値S以上となり、剛体71Aは剛体検出器74へと到達し、制御弁50Aは流通経路40を開状態とするため、流通経路40を介して、第1室R1と第2室R2との間で液体が流通するようになる。すると、地震によって建物1の上部構造4が揺れようとして、ピストン32がシリンダ31の内側を、例えば第1室R1の方へと移動することで、オイルダンパ30が伸縮しようとした際には、第1室R1の内側の液体は、流通経路40を介して、第2室R2へと移動できる。また、ピストン32がシリンダ31の内側を、例えば第2室R2の方へと移動することで、オイルダンパ30が伸縮しようとした際には、第2室R2の内側の液体は、流通経路40を介して、第1室R1へと移動できる。このように、ピストン32の移動は抑制されず、オイルダンパ30のロック状態が解除されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができる状態となる。これにより、免震用オイルダンパシステム10Aによる減衰力が低い状態となり、建物1の上部構造4は、免震層3より下の下部構造2に対して振動しつつも、この振動は、オイルダンパ30により抑制される。
【0027】
上述したような免震用オイルダンパシステム10Aによれば、強風時に風揺れを抑制し、地震発生時には建物1へ伝わる振動を低減させる、免震装置20とオイルダンパ30を組み合わせた免震用オイルダンパシステム10Aであって、積層ゴム支承21、すべり支承、及び転がり支承のうち、いずれかを含んで構成される免震装置20と、液体が充填されたシリンダ31と、シリンダ31の内側を第1室R1と第2室R2に区画し、シリンダ31に対して相対移動するピストン32と、を備えている、オイルダンパ30と、第1室R1と第2室R2との間で液体を流通させる流通経路40と、流通経路40を開閉する制御弁50Aと、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Aを備え、振動が生じた際に剛体71Aに生じる応答量が閾値Sより小さい場合に、制御弁50Aを閉状態としてオイルダンパ30をロック状態とし、応答量が閾値S以上の場合に、制御弁50Aを開状態としてオイルダンパ30のロック状態を解除する、減衰力切替手段70Aと、を備えている。
上記のような構成においては、建物1に強風が作用した際には、建物1に作用する風外力が剛体71Aには直接作用しないため、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Aの応答量は、閾値Sより小さくなる。この場合には、制御弁50Aは、ピストン32により区画されたシリンダ31の第1室R1と第2室R2との間で液体を流通させる流通経路40を閉状態とするため、第1室R1と第2室R2との間の液体の流通が抑制される。すると、強風によって建物1の免震層3よりも上の上部構造4が揺れようとして、ピストン32がシリンダ31の内側を、第1室R1と第2室R2の一方へと移動することで、オイルダンパ30が伸縮しようとしても、当該一方の内側の液体の流通先が制限される。これにより、ピストン32の移動が抑制されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができない、ロック状態となる。その結果、建物1(の上部構造4)の揺れが抑制される。
また、地震が発生した際には、地動による慣性力が剛体71Aに直接作用するため、剛体71Aに作用する力は、建物1に強風が作用した場合よりも大きくなる。このため、剛体71Aの応答量は閾値S以上となり、制御弁50Aは流通経路40を開状態とするため、第1室R1と第2室R2との間で、流通経路40を介して、液体が流通するようになる。すると、地震によって上部構造4が揺れようとして、ピストン32がシリンダ31の内側を、第1室R1と第2室R2の一方へと移動することで、オイルダンパ30が伸縮しようとした際には、当該一方の内側の液体は、流通経路40を介して、第2室R2へと移動することができる。これにより、ピストン32の移動が抑制されず、オイルダンパ30のロック状態が解除されて、容易に伸縮することができる状態となる。その結果、上部構造4は、免震層3より下の下部構造2に対して振動しつつも、この振動は、オイルダンパ30により抑制される。
ここで、上記のような免震用オイルダンパシステム10Aを実現するに際し、基本的には、オイルダンパ30に対して流通経路40を設けたうえで、減衰力切替手段70Aと制御弁50Aを設置するようにすればよい。減衰力切替手段70Aとしても、剛体71Aと、剛体71Aの応答量を検出して制御弁50Aを制御する機構のみが、最低限設けられれば良い。このため、構造全体が簡潔なものとなる。これにより、設置と、及び設置後の維持管理とが、容易になる。
このようにして、強風時にはオイルダンパ30をロック状態として建物1の風揺れを抑制し、地震発生時にはオイルダンパ30のロック状態を解除して建物1へ伝わる振動を低減する免震用オイルダンパシステム10Aを、簡潔な構造で実現し、設置及び維持管理を容易とすることができる。
【0028】
また、剛体71Aは建物1に対してバネ72により連結され、減衰力切替手段70Aは、振動が生じていない状態において剛体71Aから閾値Sだけ離れた位置に設けられた、剛体71Aの接触を検出する剛体検出器74を備え、減衰力切替手段70Aは、振動が生じて剛体71Aが建物1に対して相対移動し、剛体検出器74に接触した際に、応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Aを開状態とする。
このような構成によれば、剛体71Aの接触を検出する剛体検出器74が、振動が生じていない状態において剛体71Aから閾値Sだけ離れた位置に設けられている。このような剛体検出器74は、振動が作用して、建物1に対する剛体71Aの相対移動量が閾値S以上となるような場合に、剛体71Aの接触を検出するため、剛体検出器74の検出結果によって、剛体71Aの応答量として、建物1に対する剛体71Aの相対移動量が、閾値S以上か否かを判定することができる。このような剛体検出器74を用いて、剛体71Aが剛体検出器74に接触した際に、応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Aを開状態とするように構成することにより、免震用オイルダンパシステム10Aを、適切に実現することが可能となる。
【0029】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の免震用オイルダンパシステムは、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、減衰力切替手段70Aは、振動が生じて剛体71Bが建物1に対して相対移動し、切替レバー77に接触した際に、剛体71Aが剛体検出器74に接触することで、制御弁50Aを開状態とするようにしたが、これに限られない。
図4は、本発明の実施形態の第1変形例に係る免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。図5は、図4の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
図4に示されるように、本変形例における免震用オイルダンパシステム10Bは、免震装置20(図1参照)と、オイルダンパ30と、流通経路40と、制御弁50Bと、減衰力切替手段70Bと、を組み合わせて構成されている。
【0030】
制御弁50Bは、流通経路40の途中に設けられている。制御弁50Bは、流通経路40を開閉する。より詳細には、制御弁50Bは、流通経路40を閉鎖する閉鎖部分53と、流通経路40を開通させる開通部分52を備えている。閉鎖部分53と開通部分52は、上下方向に隣接するように設けられている。開通部分52は、閉鎖部分53の下側に位置づけられている。本変形例において、制御弁50Bは、上下方向に進退自在に設けられ、閉鎖部分53と開通部分52が自在に切り替えられるように構成されている。
通常の、振動が生じていない場合においては、流通経路40内には制御弁50Bの閉鎖部分53が位置して、流通経路40が閉鎖され、流通経路40内を液体が流通できない状態となっている。この場合に、開通部分52は、流通経路40から下側に突出するように位置づけられている。
後に図5を用いて説明するように、振動が生じ、剛体71Bが水平方向に閾値S以上移動した場合に、制御弁50Bは上方へと移動して、流通経路40内に開通部分52が位置する。この場合には、流通経路40が開通され、流通経路40内を液体が流通できる状態となる。
【0031】
減衰力切替手段70Bは、剛体71Bと、バネ78と、切替レバー77と、を備えている。
剛体71Bは、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられている。図1においては、剛体71Bの下面には車輪が設けられて、剛体71Bが下部構造2の表面上で走行するような形態として描かれているが、剛体71Bが相対移動可能に支持される形態は、これに限られず、どのようなものであっても構わない。本変形例において、剛体71Bは、棒状体75である。棒状体75は、ピストンロッド33に平行となるように、軸線方向Dcに延びている。剛体71Bは、軸線方向Dcの両側の端部が、それぞれ下部構造2上に設けられたブラケット28に、バネ78を介して連結され、水平方向(軸線方向Dc)に移動自在に支持されている。
棒状体75には、その延伸方向の中央部に凹部76が設けられている。凹部76は、棒状体75の上側の表面75fに対し、軸線方向Dcに直交する方向に、すなわち下方に、窪んで形成されている。凹部76は、軸線方向Dcに沿って所定長にわたって延在している。軸線方向Dcにおいて、凹部76の中心76cと、軸線方向Dcの両側に位置する凹部76の端部76dとの、軸線方向Dcにおける距離は、それぞれ、閾値Sの長さとされている。制御弁50Bは、棒状体75の、上側の表面75fに、対向して設けられている。
【0032】
切替レバー77は、建物1に対して軸線方向Dcに相対移動不能に固定されている。切替レバー77は、制御弁50Bに接続されている。切替レバー77は、制御弁50Bから、棒状体75の表面75fに直交するように、棒状体75に向かう方向に延びている。切替レバー77は、制御弁50Bと連動して、表面75fに直交する方向に進退自在に設けられている。切替レバー77は、制御弁50Bと連動して表面75fに直交する方向に進退することで、流通経路40に対して、制御弁50Bの、閉鎖部分53と開通部分52とのいずれかが位置するかを切り替える。このようにして、切替レバー77は、制御弁50Bの開閉を切り替える。
切替レバー77の先端部には、ローラ77aが設けられている。切替レバー77が棒状体75に向かう方向に進出し、ローラ77aが凹部76に当接している場合に、制御弁50Bは閉鎖部分53に位置して閉状態となる。図5に示されるように、剛体71Bが、水平方向に閾値S以上移動すると、切替レバー77が凹部76の軸線方向Dcの両外側に対応して位置して、ローラ77aが凹部76の外側の表面75fに当接する。このとき、ローラ77aが、凹部76の端部76dを乗り上げることによって、切替レバー77全体が上方へと押し上げられる。このように、切替レバー77が棒状体75に向かう方向から退行している場合に、制御弁50Bは開通部分52に位置して開状態となる。
制御弁50Bは、一旦閉状態から開状態となると、その後も流通経路40が開状態に維持されるようになっている。制御弁50Bを開状態から閉状態に戻すには、手動で制御弁50Bを操作する。
【0033】
振動が生じていない状態においては、図4に示されるように、切替レバー77は水平方向で凹部76の中心76cの位置に設けられて、制御弁50Bは、閉鎖部分53で流通経路40を閉鎖している。つまり、制御弁50Bは、初期状態において、流通経路40を閉鎖し、第1室R1と第2室R2との間での、流通経路40を介した液体の流通を遮断している。この状態においては、振動が生じ、上部構造4が下部構造2に対し相対移動しようとするのに伴って、ピストン32が第1室R1側もしくは第2室R2側へと移動しようとしても、移動しようとする方向に位置する室R1、R2内に位置する液体の移動先が制限される。これにより、オイルダンパ30は、シリンダ31内におけるピストン32の軸線方向Dcへの移動が制御弁50Bによって抑制されたロック状態となる。
振動が生じ、剛体71Bが、バネ78の弾性力に抗して水平方向に閾値S以上し、ローラ77aが凹部76から軸線方向Dcの両外側に移動すると、図5に示されるように、切替レバー77が剛体71Bとは反対側に向けて押圧され、制御弁50Bが、閉状態から開状態へと切り替わる。これにより、流通経路40が開放される。この状態においては、振動が生じ、上部構造4が下部構造2に対し相対移動しようとするのに伴って、ピストン32が第1室R1側に移動しようとすると、第1室R1内の液体は、流通経路40を介して、第2室R2へと移動する。逆に、ピストン32が第2室R2側に移動しようとすると、第2室R2内の液体は、流通経路40を介して、第1室R1へと移動する。このようにして、第1室R1と第2室R2との間での、流通経路40を介した液体の流通が可能となり、オイルダンパ30のロック状態が解除される。
【0034】
このように、切替レバー77は、凹部76に対応して位置して凹部76に当接している場合に制御弁50Bを閉状態とし、かつ凹部76の外側に対応して位置して凹部76の外側に当接している場合に制御弁50Bを開状態とする。つまり、減衰力切替手段70Bは、振動が生じた際に剛体71Bに生じる応答量、すなわち本変形例においては、剛体71Bの建物1に対する相対移動量が、閾値Sより小さい場合に、制御弁50Bを閉状態としてオイルダンパ30をロック状態とし、応答量が閾値S以上の場合に、制御弁50Bを開状態としてオイルダンパ30のロック状態を解除する、
ここで、閾値Sは、建物1に強風が作用した際における剛体71Bの応答量よりも大きく、かつ、地震発生時における剛体71Bの応答量よりも小さくなるように設定される。
このようにして、減衰力切替手段70Bは、振動が生じて剛体71Bが建物1に対して相対移動し、切替レバー77が凹部76の外側に対応して位置して凹部76の外側に当接した際に、剛体71Bに生じる応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Bを開状態とする。
【0035】
このような免震用オイルダンパシステム10Bでは、建物1に強風が作用した際には、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Bの応答量、すなわち、剛体71Bの建物1に対する相対移動量は、閾値Sより小さくなる。この場合、剛体71Bは、建物1に対して軸線方向Dcに相対移動不能に固定されている切替レバー77に対し、軸線方向Dcに相対移動するが、相対移動量が閾値Sより小さいため、切替レバー77は依然として、凹部76に対応して位置して凹部76に当接している。このため、制御弁50Bは、流通経路40を、閉状態とした状態となっている。これにより、上記実施形態と同様に、オイルダンパ30が容易に伸縮することができない、ロック状態となる。すると、免震用オイルダンパシステム10Bによる減衰力が高い状態となり、下部構造2と上部構造4との水平方向の相対変位が抑えられ、建物1(の上部構造4)の揺れが抑制される。
【0036】
また、地震が発生した際には、剛体71Bの応答量、すなわち、剛体71Bの建物1に対する相対移動量は閾値S以上となり、切替レバー77は凹部76の端部76dを乗り越えて、凹部76の軸線方向Dcの両外側に対応して位置して、凹部76の外側の表面75fに当接する。これにより、制御弁50Bは流通経路40を開状態とするため、流通経路40を介して、第1室R1と第2室R2との間で液体が流通するようになる。すると、上記実施形態と同様に、オイルダンパ30のロック状態が解除されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができる状態となる。これにより、免震用オイルダンパシステム10Bによる減衰力が低い状態となり、建物1の上部構造4は、免震層3より下の下部構造2に対して振動しつつも、この振動は、オイルダンパ30により抑制される。
【0037】
上述したような免震用オイルダンパシステム10Bによれば、剛体71Bは棒状体75であり、棒状体75の軸線方向Dcに振動するように、剛体71Bはバネ78により建物1に対して連結され、剛体71Bの表面75fには、軸線方向Dcに沿って延在するように凹部76が形成され、軸線方向Dcにおいて、凹部76の端部76dの各々と凹部76の中心76cとの間の距離は、それぞれ閾値Sの長さとされ、減衰力切替手段70Bは、建物1に対して軸線方向Dcに相対移動不能に固定されて、剛体71Bの凹部76に対向して、剛体71Bに対して進退自在に設けられ、制御弁50Bと連動して動作し、制御弁50Bの開閉を切り替える切替レバー77を備え、振動が生じていない状態において、切替レバー77は、凹部76の中心76cに当接して設けられ、切替レバー77は、凹部76に対応して位置して凹部76に当接している場合に制御弁50Bを閉状態とし、かつ凹部76の外側に対応して位置して凹部76の外側に当接している場合に制御弁50Bを開状態とし、減衰力切替手段70Bは、振動が生じて剛体71Bが建物1に対して相対移動し、切替レバー77が凹部76の外側に対応して位置して凹部76の外側に当接した際に、応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Bを開状態とする。
このような構成によれば、振動が生じていない状態において、切替レバー77は、棒状体75である剛体71Bの表面75fに、軸線方向Dcに沿って延在するように形成された凹部76の中心76cに当接している。振動が生じると、剛体71Bは、軸線方向Dcに振動する。切替レバー77は、建物1に対して軸線方向Dcに相対移動不能に固定されているため、剛体71Bは、切替レバー77に対し、軸線方向Dcに相対移動する。ここで、軸線方向Dcにおいて、凹部76の端部76dの各々と凹部76の中心76cとの間の距離は、それぞれ閾値Sの長さとされている。このため、切替レバー77が凹部76に当接していれば、建物1に対する剛体71Bの相対移動量が閾値Sより小さい状態であり、制御弁50Bは閉状態とされる。また、切替レバー77が、凹部76の端部76dを越えて、凹部76の外側に当接した場合、建物1に対する剛体71Bの相対移動量が閾値S以上の状態であり、制御弁50Bが開状態となる。このような剛体71Bと切替レバー77を用いて、剛体71Bの応答量が閾値以上か否かを、剛体71Bに対する切替レバー77の位置によって、建物1に対する剛体71Bの相対移動量を観測することで判定し、応答量が閾値S以上の場合に制御弁50Bを開状態とするように構成することにより、免震用オイルダンパシステム10Bを、適切に、実現することができる。
【0038】
(実施形態の第2変形例)
図6は、本発明の実施形態の第2変形例に係る免震用オイルダンパシステムのオイルダンパ、制御弁、及び減衰力切替手段を示す断面図である。図7は、図6の免震用オイルダンパシステムにおいて、オイルダンパのロック状態が解除された場合の図である。
図6に示されるように、本変形例における免震用オイルダンパシステム10Cは、免震装置20(図1参照)と、オイルダンパ30と、流通経路40と、制御弁50Cと、減衰力切替手段70Cと、を組み合わせて構成されている。
制御弁50Cは、流通経路40の途中に設けられている。制御弁50Cは、流通経路40を開閉する。より詳細には、制御弁50Cは、流通経路40を閉鎖する閉鎖部分53と、流通経路40を開通させる開通部分52を備えている。閉鎖部分53と開通部分52は、上下方向に隣接するように設けられている。開通部分52は、閉鎖部分53の上側に位置づけられている。本変形例において、制御弁50Cは、上下方向に進退自在に設けられ、閉鎖部分53と開通部分52が自在に切り替えられるように構成されている。
通常の、振動が生じていない場合においては、流通経路40内には制御弁50Cの閉鎖部分53が位置して、流通経路40が閉鎖され、流通経路40内を液体が流通できない状態となっている。この場合に、開通部分52は、流通経路40から上側に突出するように位置づけられている。
後に図7を用いて説明するように、振動が生じ、剛体71Cが落下してロープ79に張力が作用した場合に、制御弁50Cは下方に移動して、流通経路40内に開通部分52が位置する。この場合には、流通経路40が開通され、流通経路40内を液体が流通できる状態となる。
【0039】
本変形例において、減衰力切替手段70Cは、剛体71Cと、ロープ79、及び張力検出手段80を備えている。
剛体71Cは、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられている。本変形例において、剛体71Cは、球体として形成されている。剛体71Cは、下部構造2上に設けられた台29の上に支持されている。
台29の、剛体71Cが載置される上側の表面29fにおいては、中央部が縁部よりも僅かに下方に窪むような凹部(図示無し)が形成されている。剛体71Cは、初期位置として、この凹部の最も窪んだ中央部に設けられる。
上記実施形態及び第1変形例においては、閾値Sと比較される、剛体71A、71Bに生じる応答量は、剛体71A、71Bの、建物1に対する相対移動量であったが、本変形例における、剛体71Cに生じる応答量は、剛体71Cに作用する振動によって生じる、剛体71Cが台29の凹部を離脱しようとする力である。すなわち、閾値Sは、振動が、オイルダンパ30のロック状態を解除することが想定された大きさである場合に、その際の剛体71Cの応答量、つまり剛体71Cに作用する力の大きさとして設定される。
このようにした場合において、振動が、オイルダンパ30のロック状態を解除することが想定された大きさより小さいと、剛体71Cに作用する力は閾値Sより小さい状態となり、剛体71Cは、台29の凹部内を、中央から縁部へと移動しても、縁部を乗り越えることができないように、凹部の深さ、形状は設計されている。振動が、オイルダンパ30のロック状態を解除することが想定された大きさとなり、剛体71Cに作用する力が閾値S以上となったときに、はじめて、剛体71Cが、台29の凹部内を、中央から縁部へと移動して、縁部を乗り越え、台29の上側の表面29fから離脱して、台29から落下するように、凹部の深さ、形状は設計されている。
【0040】
ロープ79は、一端が剛体71Cに、他端が次に説明する張力検出手段80(本変形例においては制御弁50C)に、それぞれ接続されている。振動が生じていない状態において、剛体71Cが台29上に設けられたときに、ロープ79は撓んで、張力が作用しないように設けられている。また、図7に示すように、剛体71Cに閾値S以上の大きい力が作用して、台29から落下しても、剛体71Cは、台29が設けられた床面までは落下せずに宙吊りとなって、ロープ79に張力が作用するような長さに、ロープ79は形成されている。
本変形例においては、張力検出手段80は、制御弁50Cである。すなわち、剛体71Cが台29から落下してロープ79に下向きの張力が作用すると、その張力は、ロープ79の他端が接続された制御弁50Cを、下向きに引っ張るように作用する。換言すれば、制御弁50Cが、ロープ79の張力を検出する張力検出手段80として機能する。張力を検出した制御弁50Cは、この張力を受けて、下方へと移動し、流通経路40内に開通部分52が位置する状態となる。
【0041】
このような免震用オイルダンパシステム10Cでは、建物1に強風が作用した際には、建物1と分離して、建物1に対して相対移動可能に設けられた剛体71Cの応答量、すなわち、剛体71Cに作用する力の大きさは、閾値Sより小さくなる。この場合、剛体71Cは、台29の凹部内を、中央から縁部へと移動しても、縁部を乗り越えることができない。このため、ロープ79は弛んだままとなり張力は作用せず、制御弁50Cは、流通経路40を、閉状態とした状態となっている。これにより、上記実施形態と同様に、オイルダンパ30が容易に伸縮することができない、ロック状態となる。すると、免震用オイルダンパシステム10Cによる減衰力が高い状態となり、下部構造2と上部構造4との水平方向の相対変位が抑えられ、建物1(の上部構造4)の揺れが抑制される。
【0042】
また、地震が発生した際には、剛体71Cの応答量、すなわち、剛体71Cに作用する力の大きさは閾値S以上となり、剛体71Cは、台29の凹部内を、中央から縁部へと移動して、縁部を乗り越え、台29の上側の表面29fから離脱して、台29から落下する。すると、剛体71Cは、台29が設けられた床面までは落下せずに宙吊りとなって、ロープ79に張力が作用する。張力検出手段80としての制御弁50Cは、この張力を検出して、下方へと移動し、流通経路40内に開通部分52が位置する状態となり、流通経路40を介して、第1室R1と第2室R2との間で液体が流通するようになる。すると、上記実施形態と同様に、オイルダンパ30のロック状態が解除されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができる状態となる。これにより、免震用オイルダンパシステム10Bによる減衰力が低い状態となり、建物1の上部構造4は、免震層3より下の下部構造2に対して振動しつつも、この振動は、オイルダンパ30により抑制される。
【0043】
上述したような免震用オイルダンパシステム10Cによれば、減衰力切替手段70Cは、ロープ79と、ロープ79の張力を検出する張力検出手段80と、を備え、ロープ79の一端は剛体71Cに、他端は張力検出手段80に、それぞれ接続され、剛体71Cは、振動が生じていない状態において、ロープ79に張力が作用しない初期位置に載置され、かつ振動が生じて応答量が閾値S以上となり、初期位置から落下すると、ロープ79に張力が作用するように設けられ、減衰力切替手段70Cは、剛体71Cが初期位置から落下してロープ79に張力が作用し、張力検出手段80がロープ79の張力を検出した際に、応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Cを開状態とする。
このような構成によれば、剛体71Cは、振動が生じていない状態では、剛体71Cと張力検出手段80とを結ぶロープ79に張力が作用しない初期位置に載置される。振動が生じて剛体71Cが変位し、剛体71Cの応答量が閾値S以上となると、剛体71Cは初期位置から落下して、ロープ79に張力が作用し、張力検出手段80により張力が検出される。この場合に、減衰力切替手段70Cが、応答量が閾値S以上となったとして、制御弁50Cを開状態とする。これにより、第1室R1と第2室R2との間で液体が流通するようになる。その結果、オイルダンパ30のロック状態が解除されて、オイルダンパ30が容易に伸縮することができる状態となる。このようにして、免震用オイルダンパシステム10Cを、適切に実現することが可能となる。
【0044】
(実施形態の他の変形例)
上記実施形態においては、制御弁50Aは、水平方向に隣接するように設けられた閉鎖部分53と開通部分52を備え、剛体検出器74を開通部分52として構成したうえで、剛体71Aが剛体検出器74を押圧することで、制御弁50Aを物理的に移動させ、開通部分52を流通経路40内に位置せしめて、流通経路40を開状態としたが、これに限られない。例えば、剛体検出器を、剛体の接触を電気的に検出する接触センサとして実現して、剛体から閾値Sだけ離れた位置に設け、制御弁を電磁弁等により実現したうえで、接触センサが剛体の接触を検出した場合に、制御弁へ電気信号を送信して、制御弁を開状態とするように構成してもよいのは、言うまでもない。
これは、上記第2変形例においても同様であり、張力検出手段を、制御弁50Cとは別に、張力を電気的に検出するテンションセンサとして設け、制御弁を電磁弁等により実現したうえで、テンションセンサが張力を検出した場合に、制御弁へ電気信号を送信して、制御弁を開状態とするように構成してもよいのは、言うまでもない。
【0045】
また、上記実施形態及び各変形例において、剛体は、建物の下部構造に対して、設置されていた。しかし、建物に対する剛体の応答量を検出してこれが閾値Sとなるまでの間においては、オイルダンパはロック状態とされているため、上部構造、オイルダンパ、及び下部構造は、基本的には、一体となって挙動する。この観点からすれば、剛体は、下部構造に対して設置されずとも構わない。例えば、上部構造の下面に対して設けられても良いし、オイルダンパに対して設けられても構わない。
これ以外にも、上記実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0046】
(解析例)
上記したような構成について、解析を行ったので、その結果を以下に示す。
建物1として、36層の超高層免震建物を対象とし、地震応答解析を行った。オイルダンパ30が、通常時のロック状態から、地震動によりロックが解除されて、地震用ダンパとして機能する一連の挙動による影響を検討した。図8に示すように、対象建物は等価せん断型質点系の解析モデルM2でモデル化した。解析モデルM2の1次固有周期は、免震層固定:4.18秒、全体系:6.44秒とした。建物1の内部減衰は、免震層3を除く上部構造にのみ考慮し、免震層固定一次周期(4.18秒)で減衰定数0.02となる剛性比例型減衰とした。
ここで、減衰力切替手段として、上記実施形態の第1変形例で示したような構成の解析モデルM1を用いた。減衰力切替手段70Bとしてのロック解除機構は、剛体71Bを支持するバネ78と、オイルダンパ30のロックが解除されるときのトリガを模擬した非線形弾性ばね81を並列に配置した1質点系でモデル化した。ここで、剛体71Bに相当する質点は10kgとし、バネ78は、固有周期1sになるように設定した。図9に示すように、ローラ77aが凹部76の軸線方向Dcの中心76cに位置する初期状態から、凹部76の軸線方向Dcの端部76dに達して上方へと変位し、表面75fに当接してオイルダンパ30のロックが解除されるときの、非線形ばねの復元力特性として、質点の変位が1cmに達してから10[N]で0.5cm動かすと作動する機構を想定した。
このような解析モデルM1、M2を用いて、ローラ77aが閾値Sとなる1.5cm(1cm+0.5cm)だけ変位した際に、免震層の減衰係数が切り替えられて、図8の左に示される解析モデルM2が適用されるようにした。
【0047】
オイルダンパ30は、ロック時C1=40000kNs/cm、C2=65kNs/cm、ロック解除時C1=1000kNs/cm、C2=65kNs/cmとし、いずれの状態もリリーフ荷重40000kNとした。入力地震波はEl-CentroEW成分を速度50kineに基準化したものに対し、0.5倍、1.0倍の2通りを対象とした。ロック機構の有無を比較するために、上記実施形態の第1変形例に沿うとする実施例と、オイルダンパ30を常時ロックした比較例1、オイルダンパ30のロックを常時解除した比較例2の、3つのケースを想定した。
【0048】
図10図13に、応答解析結果を示す。図10図11が、0.5倍とした場合の結果であり、図12図13が、1.0倍とした場合の結果である。オイルダンパ30のロックは、0.5倍とした場合では主要動の途中で、1.0倍とした場合では主要動の初期で、それぞれ解除された。図10図11に示すように、0.5倍とした場合では、実施例は、地震動をある程度受けた段階でロック解除が解除されたため、本来の地震時の性能である比較例2に比較し、最大加速度及び層間変形角が大きなものとなっているが、絶対値として構造安全性が懸念されるレベルではないことが確認できる。図12図13に示すように、入力の大きい1.0倍とした場合の最大加速度及び層間変形角は、実施例では、比較例2の応答と同程度となっていることから、ロック機構による大地震時の応答への悪影響は小さいことが確認できた。
ここでは、限られた条件における検討を行ったが、本発明によるロック機構は、質点の重量や固有周期、解除トリガなどの条件を変えることは容易であるため、多様な条件に対応することができる。例えば、1秒で卓越しない入力地震動を想定し、異なる固有周期を持つ複数の質点系を搭載することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 建物 75f 表面
10A~10C 免震用オイルダンパシステム 76 凹部
20 免震装置 76c 凹部の中心
21 積層ゴム支承 76d 凹部の端部
30 オイルダンパ 77 切替レバー
31 シリンダ 72、78 バネ
32 ピストン 79 ロープ
40 流通経路 Dc 軸線方向
50A~50C 制御弁 P1 初期位置
70A~70C 減衰力切替手段 R1 第1室
71A~71C 剛体 R2 第2室
74 剛体検出器 S 閾値
75 棒状体
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
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図10
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