(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150010
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】回転電機用ステータおよび絶縁部材
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063212
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】堺谷 洋
(72)【発明者】
【氏名】大図 達也
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DB01
5H604DB17
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で絶縁部材をスロットに固定することが可能な回転電機用ステータを提供する。
【解決手段】回転電機用ステータは、軸線を中心とした周面から径方向に延在するスロット22を有するステータコア20と、スロット22に配置される絶縁部材40と、絶縁部材40の内側に配置されるコイルと、を備える。絶縁部材40は、コイルを包囲するように軸方向に延在する本体部と、ステータコア20の軸方向端面におけるスロット22の縁部204に係合する弾性変形可能な係合部46と、を有する。
【選択図】
図6C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした周面から径方向に延在するスロットを有するステータコアと、
前記スロットに配置される絶縁部材と、
前記絶縁部材の内側に配置されるコイルと、を備え、
前記絶縁部材は、
前記コイルを包囲するように軸方向に延在する本体部と、
前記スロットの縁部に係合する弾性変形可能な係合部と、を有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記絶縁部材は、前記コイルの表面に押圧力を付与するように前記表面に向けて突出する突出部をさらに有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記係合部は、前記絶縁部材の軸方向端部から前記絶縁部材の外側に向けて突設され、
前記突出部は、前記絶縁部材の前記軸方向端部から前記絶縁部材の内側に向けて突設されることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項4】
請求項2に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記スロットは、前記周面から径方向に延在する一対の側面によって形成され、
前記本体部は、前記一対の側面に対向して軸方向に延在する一対の側壁を有し、
前記一対の側壁は、前記一対の側壁の軸方向端部に向かうに従い前記一対の側壁の間の距離が徐々に小さくなるように前記一対の側壁の前記軸方向端部にかけて傾斜する傾斜部を有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記絶縁部材は、前記本体部の内側空間と前記絶縁部材の径方向外側の空間とを連通する連通口を有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記連通口は第1連通口であり、
前記絶縁部材は、前記本体部の前記内側空間と前記絶縁部材の軸方向外側の空間とを連通する第2連通口をさらに有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項7】
軸線を中心としたステータコアの周面から径方向に延在するスロットに配置される絶縁部材であって、
コイルを包囲するように軸方向に延設された本体部と、
前記スロットの縁部に係合する弾性変形可能な係合部と、を備えることを特徴とする絶縁部材。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁部材において、
前記本体部は、
前記周面から径方向に延在して前記スロットを形成する一対の側面に対向する一対の側壁と、
前記一対の側壁の径方向外側の端部同士および径方向内側の端部同士をそれぞれ接続する一対の周壁と、を有し、
前記係合部は、前記一対の側壁の軸方向端部に設けられることを特徴とする絶縁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ステータおよび絶縁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ステータコアとスロット内のコイルとを電気的に絶縁する絶縁紙を備える回転電機用ステータが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の回転電機用ステータでは、絶縁紙のうちスロットの軸方向両端部に対応する部分に発泡接着部が設けられ、発泡接着部の加熱によって生じる膨張および粘着性により、絶縁紙がスロットに保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の回転電機用ステータのように、発泡接着剤を有する絶縁紙により絶縁部材を構成すると、絶縁紙を加熱する必要がある。このため、加熱のための設備が必要となって、作業工数およびコストの増加を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である回転電機用ステータは、軸線を中心とした周面から径方向に延在するスロットを有するステータコアと、スロットに配置される絶縁部材と、絶縁部材の内側に配置されるコイルと、を備える。絶縁部材は、コイルを包囲するように軸方向に延在する本体部と、スロットの縁部に係合する弾性変形可能な係合部と、を有する。
【0006】
本発明の他の態様は、軸線を中心としたステータコアの周面から径方向に延在するスロットに配置される絶縁部材であって、コイルを包囲するように軸方向に延設された本体部と、スロットの縁部に係合する弾性変形可能な係合部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安価な構成により絶縁部材を容易にスロットに保持することができる
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機の要部構成を示す断面図。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る絶縁部材の斜視図。
【
図5】ステータコアに絶縁部材を取り付ける絶縁部材取付工程を説明する斜視図。
【
図7A】絶縁部材へのコイルの挿入工程を説明する断面図。
【
図8A】本発明の第1実施形態に係る絶縁部材の変形例を示す図。
【
図8B】本発明の第1実施形態に係る絶縁部材の他の変形例を示す図。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機の要部構成を示す断面図。
【
図10】
図9の回転電機に含まれるステータコアの斜視図。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る絶縁部材の斜視図。
【
図14】
図9の回転電機の要部を拡大して示す断面図であり、本発明の第2実施形態に係る回転電機用ステータにおける冷却油の流れを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
-第1実施形態-
以下、
図1~
図8Bを参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機100の要部構成を示す断面図である。回転電機100は、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載され、車両駆動用の電動機として用いることができ、発電機として用いることもできる。なお、回転電機100は、車両以外に搭載し、種々の用途に用いることもできる。
【0010】
図1は、軸線CL0に対し垂直な回転電機100の断面図である。
図1に示すように、回転電機100は、軸線CL0を中心に回転するロータ1と、ロータ1の外周面1aを包囲するように設けられたステータ2とを備える。ステータ2の周囲にはケース3が配置される。以下では、軸線CL0の延在する方向を軸方向、軸線CL0から放射状に延びる方向を径方向、軸線CL0を中心とした円の円周に沿った方向を周方向と定義する。
【0011】
回転電機100は、例えば埋込磁石型同期モータとして構成される。したがって、ロータ1は、軸線CL0を中心とした略円環形状のロータコア10と、ロータコア10に形成された周方向複数の磁極部(不図示)と、を有する。なお、磁極部には永久磁石が埋設される。ロータコア10の内周面10aには、例えば回転電機100の出力軸を構成する不図示のロータシャフトが嵌合され、ロータ1はロータシャフトと一体に回転する。ロータ1の外周面1aはロータコア10の外周面に相当する。ロータコア10は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して形成される。
【0012】
ステータ2は、ロータ1の外周面1aから径方向に所定の間隔を隔てて配置された内周面20aを有する軸線CL0を中心とした略円環状のステータコア20と、ステータコア20に取り付けられたコイル21と、を有する。ステータコア20は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を積層して構成される。コイル21は、略矩形断面を有する導体である。なお、コイル21は円形断面であってもよい。ステータコア20の内周面20aには、径方向外側に向けて周方向複数のスロット22が形成され、スロット22にコイル21が配置される。
【0013】
コイル21に電流を流すと、ステータ2に磁界が発生する。この磁界と、ロータ1の磁極部の永久磁石によって発生する磁界とが相互作用することにより、ロータ1が回転する。これにより走行駆動力が発生し、車両が走行する。
【0014】
図2は、スロット内の構成を示す
図1の要部拡大図である。
図2に示すように、スロット22は、ステータコア20の内周面20aに設けられたティース先端部221と、ティース先端部221の径方向外側に設けられた収容部222とを有する。収容部222は、互いに対向する一対の側面222a,222bと、径方向外側の底面222cとを有する。収容部222の幅、すなわち一対の側面222a,222b間の距離(周方向長さ)は、径方向外側にかけて一定であり、収容部222は、径方向に細長の断面略矩形状に形成される。収容部222の幅は、ティース先端部221の幅よりも大きい。
【0015】
スロット22には、コイル21を形成する4本の導体セグメント211が径方向に並べて配置される。なお、スロット内の導体セグメント211の本数は4本より多くてもよく、少なくてもよい。導体セグメント211は、ステータコア20の軸方向一端面および他端面を超えて軸方向に延在する。
【0016】
スロット22には、絶縁部材40が配置される。絶縁部材40は、スロット22の一対の側面222a,222bにそれぞれ対向する一対の側壁41,42と、周方向に直線状に延在し、一対の側壁41,42の外径側端部同士および内径側端部同士をそれぞれ接続する一対の周壁43,44と、を有する。周壁43は径方向外側に位置し、スロット22の底面222cに対向する。側壁41,42と周壁43,44とは、絶縁部材40の本体部400を構成する。本体部400は、収容部222の形状に対応して全体が断面略矩形の枠形状を呈し、収容部222に嵌合される。
【0017】
絶縁部材40は、電気絶縁性を有する樹脂を構成材として、例えば樹脂成形により構成される。コイル21は、絶縁部材40の内側に配置される。これによりコイル21とステータコア20との間に絶縁部材40が介装され、コイル21とステータコア20とが電気的に絶縁される。
【0018】
図3は、第1実施形態に係る絶縁部材40の単体の斜視図であり、
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図である。図中のX方向、Y方向およびZ方向は、それぞれ
図1の軸方向、径方向および周方向(幅方向)に相当する。
図3、
図4に示すように、絶縁部材40はX方向に延在し、本体部400のX方向一端部にZ方向一対の係止部45が、X方向他端部にZ方向一対の係合部46がそれぞれ設けられる。一対の係止部45の内側および一対の係合部46の内側にはそれぞれ開口45a,46aが設けられ、開口45a,46aを介して絶縁部材30の内部の収容空間SP1にコイル21が挿入される。
【0019】
図4に示すように、係止部45は、側壁41,42のX方向一端部からそれぞれZ方向外側(収容空間SP1の反対側)に所定量突出するようにY方向全長にわたって設けられる。係止部45は、側壁41,42のX方向一端部のY方向全長にわたって設けられることに代えて、あるいは、Y方向全長にわたって設けられることに加えて、Y方向外側に所定量突出するようにZ方向全長にわたって設けられてもよい。
【0020】
図3に示すように、側壁41,42は、周壁43,44よりもX方向に突設され、係合部46は、この側壁41,42のX方向端部にY方向全長にわたって設けられる。より詳しくは、
図4に示すように、係合部46は、側壁41,42よりもZ方向外側に突出するように設けられる。係合部46の反対側には、側壁41,42よりもZ方向内側に突出部47が突設される。突出部47も、側壁41,42のX方向端部にY方向全長にわたって設けられる。突出部47の先端部には、Z方向内側に向けて円弧状の突起部47aが設けられる。係合部46と突出部47とは、X方向同一位置に位置する。
【0021】
図5は、ステータコア20に絶縁部材40を取り付ける絶縁部材取付工程を説明する斜視図である。
図6A~
図6Cは、絶縁部材取付工程を説明するステータコア20の要部のZ方向断面図である。ステータコア20に絶縁部材40を取り付ける場合、まず、
図5,
図6Aに示すように、ステータコア20のX方向(軸方向)の一方からスロット22に向けて(矢印A方向)、絶縁部材40の係合部46を近づける。なお、ステータコア20はX方向の一端面201に、スロット22の側面222a,222bと端面201との交差部である縁部203(角部)を、X方向の他端面202に、スロット22の側面222a,222bと端面202との交差部である縁部204(角部)を有する。
【0022】
次いで、
図6Bに示すように、係合部46を、縁部203を介してスロット22の内部に挿入する。係合部46の幅(Z方向長さ)、すなわちZ方向一方側の係合部46からZ方向他方側の係合部46までの長さは、スロット22の幅よりも広い。このため、側壁41,42の先端部を、弾性変形によりスロット22の内側に向けて撓ませながら、絶縁部材40の先端部(係合部46)をスロット22に挿入する。そして、係合部46をスロット22の側面222a,222b上に摺動させながら、絶縁部材40をスロット22の奥方に押し込む。
【0023】
係止部45と係合部46とを除いた絶縁部材40の軸方向長さは、ステータコア20のX方向の一端面201から他端面202までの長さと等しい。
図6Cに示すように、絶縁部材40の全体がスロット22に挿入された状態では、係合部46がスロット22の外側に位置する。したがって、側壁41,42の先端部が復元力によりZ方向外側に拡がり、係合部46は、ステータコア20の端面202の縁部204に係合する。
【0024】
この場合、係合部46から縁部204に押圧力(復元力)が作用し、これにより絶縁部材40をスロット22の所定位置に保持できる。なお、係合部46からの押圧力が小さい場合であっても、スロット22のティース先端部221の幅は収容部222の幅よりも小さいため、絶縁部材40を収容部222に嵌合した状態で保持できる。このとき、係止部45は、ステータコア20の端面201の縁部203に当接する。これにより、絶縁部材40のX方向の移動を阻止できる。
【0025】
このようにして絶縁部材40がステータコア20に取り付けられた後、絶縁部材40の内部の収容空間SP1にコイル21が挿入される。
図7A、
図7Bは、コイル21の挿入工程を説明する図である。
図7Aに示すように、まず、ステータコア20のX方向一端面201の側方から矢印B方向にコイル21(導体セグメント211)の先端部を近づける。そして、絶縁部材40の係止部45の内側の開口45aを介して、絶縁部材40の内部の収容空間SP1にコイル21の先端部を挿入する。
【0026】
図7Bに示すように、コイル21は、その先端部が係合部46の内側の開口46aを通過して、ステータコア20の他端面202よりもX方向に所定量突出するまでスロット22に挿入される。この状態では、絶縁部材40の突出部47の先端の突起部47aがコイル21の一対の側面21aに当接し、突出部47が弾性変形によりZ方向外側に撓む。これにより、コイル21の側面21aに、突出部47からの押圧力(復元力)が作用し、コイル21が所定位置に保持される。コイル21のX方向の移動に伴い突起部47aはコイル21の側面21a上を摺動するが、突起部47aは円弧状断面に形成されるため、コイル21の側面21aが突起部47aにより損傷することを防止できる。
【0027】
図8Aは、絶縁部材40の変形例を示す図である。
図8Aでは、絶縁部材40の側壁41,42の係合部46側の先端部が、Z方向内側に向けて傾斜しており、側壁41,42は傾斜部41a,42aを有する。このため、側壁41,42が傾斜部41a,42aを有しない場合(点線)よりも、突出部47がZ方向内側に位置する。これにより突出部47からコイル21に作用する押圧力が大きくなり、絶縁部材40の内側でコイル21をより強固に保持できる。
【0028】
図8Bは、絶縁部材40の他の変形例を示す図である。
図8Bでは、絶縁部材40のX方向両端部に係合部46が設けられ、係止部45が省略される。これによりコイル21のX方向両端部が突出部47から押圧されるため、絶縁部材40の内側でコイル21をより強固に保持できる。
【0029】
第1実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)回転電機用ステータとしてのステータ2は、軸線CL0を中心とした内周面20aから径方向外側に延在するスロット22を有するステータコア20と、スロット22に配置される絶縁部材40と、絶縁部材40の内側に配置されるコイル21と、を備える(
図1,
図2)。絶縁部材40は、コイル21を包囲するように軸方向に延在する本体部400と、スロット22の縁部204に係合する弾性変形可能な係合部46と、を有する(
図4,
図6C)。これにより発泡接着部や接着剤などを用いることなく、絶縁部材40をスロット22に容易に固定することができる。したがって、絶縁部材40の取付に要する作業工数およびコストの増加を抑えることができる。
【0030】
(2)絶縁部材40は、コイル21の一対の側面(表面)21aに押圧力を付与するように側面21aに向けて突出する突出部47をさらに有する(
図7B)。これにより、絶縁部材40によりコイル21を所定位置に保持することができる。
【0031】
(3)係合部46は、絶縁部材40の軸方向端部から絶縁部材40の外側に向けて突設され、突出部47は、絶縁部材40の軸方向端部から絶縁部材40の内側に向けて突設される(
図4)。換言すると、絶縁部材40は、その軸方向端部に係合部46と突出部47とを有する。これにより絶縁部材40は、絶縁部材40をステータコア20に固定する機能とコイル21を保持する機能とを、簡易な構成で同時に発揮することができる。
【0032】
(4)スロット22は、ステータコア20の内周面20aから径方向外側に延在する一対の側面222a,222bにより形成される(
図2)。本体部400は、スロット22の一対の側面222a,222bに対向して軸方向に延在する一対の側壁41,42を有する(
図4)。一対の側壁41,42は、軸方向端部に向かうに従い一対の側壁41,42の間の距離が徐々に小さくなるように一対の側壁41,42の軸方向端部にかけて傾斜する傾斜部41a,42aを有する(
図8A)。これにより、突出部27からコイル21の側面21aに作用する押圧力が大きくなり、コイル21をより強固に保持することができる。
【0033】
(5)絶縁部材40は、軸線CL0を中心としたステータコア20の内周面20aから径方向に延在するスロット22に配置される(
図2)。この絶縁部材40は、コイル21を包囲するように軸方向に延設された本体部400と、スロット22の縁部204に係合する弾性変形可能な係合部46と、を備える(
図4,
図6A)。これにより絶縁部材40に接着層や発泡接着層を設ける必要がなく、ステータコア20への絶縁部材40の固定が容易になる。
【0034】
(6)本体部400は、ステータコア20の内周面20aから径方向に延在してスロット22を形成する一対の側面222a,222bに対向する一対の側壁41,42と、 一対の側壁41,42の径方向外側の端部同士および径方向内側の端部同士をそれぞれ接続する一対の周壁43,44と、を有する(
図2)。係合部46は、一対の側壁41,42の軸方向端部に設けられる(
図3)。側壁41,42の軸方向端部は、弾性変形により容易に撓ませることが可能である。したがって、この側壁41,42の軸方向端部に係合部46を設けることで、スロット22の縁部204に係合部46を容易に係合することができる。
【0035】
-第2実施形態-
図9~
図14を参照して本発明の第2実施形態について説明する。以下では、
図1~
図8Bと同一の箇所には同一の符号を付し、第1実施形態との相違点を主に説明する。第2実施形態では、第1実施形態の構成に加え、絶縁部材40の内側の収容空間SP1に冷却油を供給して、コイル21を冷却するように回転電機用ステータを構成する。
【0036】
図9は、本発明の第2実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機100の要部構成を示す断面図であり、
図10は、
図9の回転電機100に含まれるステータコア20の斜視図である。
図10に示すように、ステータコア20の外周面20bには、X方向中央部に、全周にわたって所定深さの溝200が設けられる。
【0037】
図9に示すように、ステータコア20の外周面20bはケース3の内周面31によって覆われる。これにより、溝200(
図9の点線)とケース3の内周面31との間に、軸線CL0を中心とした円環状の流路PA0が形成される。ケース3の外周面には、冷却油供給用のフランジ部32が設けられる。フランジ部32は、例えばケース3の外周面の重力方向最上部に設けられる。フランジ部32には、ケース3を径方向に貫通する貫通孔32aが穿設され、貫通孔32aを介してケース3の外部空間と流路PA0とが連通する。
【0038】
図11は、
図10のXI-XI線に沿った断面図である。
図11に示すように、ステータコア20の溝200の底面には、ステータコア20を径方向に貫通するように、スロット22に向けて周方向複数の貫通孔210が穿設される。これによりケース3の貫通孔32a、流路PA0、およびステータコア20の貫通孔210を介して、ケース3の外部からスロット22の内部に冷却油を導くことができる。
【0039】
図12は、第2実施形態に係る絶縁部材40の単体の斜視図である。
図12に示すように、絶縁部材40の径方向外側の周壁43には、X方向中央部に、周壁43を貫通する略矩形状の開口48が設けられる。絶縁部材40がスロット22に取り付けられた状態(
図9)では、開口48のX方向中心位置が溝200のX方向中心位置に一致する。
【0040】
図13は、
図12の側壁41,42の先端部を拡大して示す斜視図である。
図13に示すように、突出部47の先端部には、突起部47aを除去するようにY方向(径方向)複数(図では3個)の切り欠き47bが設けられる。切り欠き47bの位置は、絶縁部材40の内側に複数のコイル21が挿入されたときの、径方向に隣り合うコイル同士の境界の位置(
図14参照)に対応する。
【0041】
図14は、
図9のケース3の貫通孔32aの中心線に沿った、軸線CL0に垂直な回転電機100の要部を拡大して示す断面図である。
図14に矢印で示すように、ケース3の外部から供給された冷却油は、ケース3の貫通孔32aを介してステータコア20の外周面に設けられた流路PA0に流入する。流路PA0に流入した冷却油は、流路PA0に沿って周方向に流れるとともに、ステータコア20の周方向複数の貫通孔210および絶縁部材40の開口48を介して絶縁部材40の内側の収容空間SP1に流入する。
【0042】
収容空間SP1に流入した冷却油は、絶縁部材40とコイル21との隙間および隣り合うコイル21同士の隙間を通り、軸方向に流れる。そして、係止部45の内側の開口45a(
図12)および係合部46の内側の開口46a(
図12)を介して収容空間SP1の外部に流出する。本実施形態では、開口46aに向けて突出部47が設けられるため、開口46aの流路面積は、係止部45の流路面積よりも小さくなる。しかし、本実施形態では、突出部47に切り欠き47bが設けられるため、開口46aに向かって流れた冷却油を、切り欠き47bを介して収容空間SP1の外側にスムーズに流出させることができる。これによりコイル21に沿って冷却油が流れるようになり、コイル21を効率よく冷却することができる。
【0043】
第2実施形態によればさらに以下のような作用効果を奏することができる。
(1)絶縁部材40の本体部400(周壁43)に、本体部400の内側の収容空間SP1(内側空間)と絶縁部材40の径方向外側の空間(貫通孔210など)とを連通する開口48が設けられる(
図12,
図14)。これによりステータコア20の外部から絶縁部材40の内部の収容空間SP1に冷却油を導くことができ、絶縁部材40の内側のコイル21を効率よく冷却することができる。
【0044】
(2)絶縁部材40の突出部47には、本体部400の収容空間SP1とスロット22の軸方向外側の空間とを連通する切り欠き47bが設けられる(
図13)。切り欠き47bは冷却油の流出口として機能するため、収容空間内に導かれた冷却油を、切り欠き47bを介して収容空間SP1の外部に容易に排出することができる。したがって、収容空間内を冷却油がスムーズに流れるようになり、コイル21の冷却効率が向上する。
【0045】
本実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつの変形例について説明する。上記実施形態では、絶縁部材40の側壁41,42の軸方向端部に、スロット22の縁部204に係合するように係合部46を設けたが、絶縁部材をスロットに保持するための係合部の構成は上述したものに限らない。例えばステータコア20の端面202よりも軸方向内側にスロット22の縁部を設け、この縁部に係合するように係合部を設けてもよい。上記実施形態では、絶縁部材40の側壁41,42の軸方向端部に、コイル21の側面21aに押圧力を付与する突出部47を設けたが、突出部の構成は上述したものに限らない。例えば突出部を絶縁部材の軸方向端部に設けることに代えて、または軸方向端部に設けることに加えて、軸方向中央部(絶縁部材の内部)に設けてもよい。
【0046】
上記実施形態では、係合部46と突出部47とを軸方向同一位置に設けたが、これらは同一位置になくてもよい。上記実施形態では、冷却油供給用の連通口(第1連通口)として絶縁部材40の周壁43に開口48を設けたが、一対の側壁41,42の少なくとも一方に第1連通口を設けてもよい。軸方向中央部以外に第1連通口を設けるようにしてもよい。上記実施形態では、冷却油排出用の第2連通口として突出部47に切り欠き47bを設けたが、第1連通口と第2連通口の双方を、周壁43に軸方向に位置をずらして設けるようにしてもよい。上記実施形態では、ロータ1の周囲にステータ2を設けたが、ステータ2の周囲にロータ1を設けるようにしてもよい。
【0047】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
2 ステータ、20 ステータコア、20a 内周面、21 コイル、22 スロット、40 絶縁部材、41,42 側壁、41a,42a 傾斜部、43,44 周壁、46 係合部、47 突出部、47b 切り欠き、48 開口、400 本体部