(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150025
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電気化学反応セルスタック、および、電気化学反応セルスタック用の流路形成部材
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2465 20160101AFI20241016BHJP
H01M 8/0276 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20241016BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241016BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20241016BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20241016BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241016BHJP
【FI】
H01M8/2465
H01M8/0276
H01M8/0273
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/77
C25B9/60
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063231
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島津 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】堀田 信行
(72)【発明者】
【氏名】赤木 陽祐
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021CA15
4K021DA17
4K021DB06
4K021DB36
4K021DB46
4K021DB53
5H126AA27
5H126BB06
5H126EE11
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】流路形成部材の応力緩和性を確保しつつ、層状粒子が一律に第2の方向に沿った構成に比べて、流路形成部材からのガス漏れを抑制する。
【解決手段】電気化学反応セルスタックは、複数の単セルを備え、前記空気極および前記燃料極のうちの一方が面するガス室に連通する連通路が形成されている。電気化学反応セルスタックは、第1の部材と、前記第1の部材に対向するように配置される第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材との間に配置され、前記ガス室および前記連通路を含むガス流路と、前記ガス流路以外の空間との間を隔てる流路形成部材とを有する。前記流路形成部材は、複数の層状粒子からなる層状構造を有する。前記流路形成部材の端に位置する第1の層状粒子が存在する。第1の層状粒子の第1の角度は、中央に位置する第2の層状粒子の第2の角度と差がある。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とをそれぞれ含む複数の単セルを備え、
前記空気極および前記燃料極のうちの一方が面するガス室に連通する連通路が形成された電気化学反応セルスタックにおいて、
第1の部材と、
前記第1の部材に対向するように配置される第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に配置され、前記ガス室および前記連通路を含むガス流路と、前記ガス流路以外の空間との間を隔てる流路形成部材とを有し、
前記流路形成部材は、前記第1の部材と前記第2の部材とが対向する第1の方向に積層される複数の層状粒子からなる層状構造を有し、
前記流路形成部材のうち、前記第1の方向に沿った少なくとも1つの特定断面において、前記第1の方向に直交する第2の方向における前記流路形成部材の端に位置する第1の層状粒子であって、前記第2の方向に対する第1の角度が、前記第2の方向における前記流路形成部材の中央に位置する第2の層状粒子が前記第2の方向に対してなす第2の角度と差がある第1の層状粒子が存在する、ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記第1の角度と前記第2の角度との差の絶対値は、1.4度以上である、ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記第1の角度の絶対値は、90度未満である、ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項4】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記特定断面において、前記流路形成部材の第2の方向の幅は、前記第1の方向の幅の3倍以上である、ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項5】
電気化学反応セルスタック用の流路形成部材であって、
第1の方向に積層される複数の層状粒子からなる層状構造を有し、
前記流路形成部材のうち、前記第1の方向に沿った少なくとも1つの特定断面において、前記第1の方向に直交する第2の方向における前記流路形成部材の端に位置する第1の層状粒子であって、前記第2の方向に対する第1の角度が、前記第2の方向における前記流路形成部材の中央に位置する第2の層状粒子が前記第2の方向に対してなす第2の角度と差がある第1の層状粒子が存在する、ことを特徴とする電気化学反応セルスタック用の流路形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、電気化学反応セルスタック用の流路形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物を含む電解質層を備える固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCは、一般に、複数の構成単位(電気化学反応単位)が所定の方向に並べて配置された燃料電池スタックの形態で利用される。各電気化学反応単位は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を備える単セルと、空気極に面する空気流路、および燃料極に面する燃料流路の周囲をそれぞれ囲む空気極フレームおよび燃料極フレームと、を備える。空気極フレームは、例えばマイカにより形成されている(特許文献1参照)。マイカは、上記所定の方向に積層される複数の層状粒子からなる層状構造を有する。このため、燃料電池スタックに生じる応力を空気極フレームにより緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気極フレームは、空気極と、その空気極以外の空間(例えば外部空間)との間を隔てるように配置され、空気極に面する空気流路からのガス漏れを抑制することが好ましい。しかし、従来、空気極フレームに用いられるマイカは、複数の層状粒子が上記所定の方向に垂直な面方向に沿って互いに平行に並んだ層状構造である。このため、空気流路内のガスが、層状粒子同士の隙間を介して外部空間に漏れ出るおそれがある。なお、空気流路からのガス漏れが生じると、例えば燃料電池の発電効率が低下するなどの問題が生じる。
【0005】
このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解セル単位を複数備える電解セルスタックにも共通の問題である。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応セルスタックにも共通の課題である。また、このような課題は、空気極フレームに限らず、他の流路形成部材にも共通の問題である。流路形成部材は、電気化学反応セルスタックを構成する2つの部材の間に配置され、電気化学反応セルスタックに形成された所定のガス流路と、それ以外の空間とを隔てる部材であり、かつ、複数の層状粒子からなる層状構造を有する部材である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックは、電解質層と前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とをそれぞれ含む複数の単セルを備える。電気化学反応セルスタックには、前記空気極および前記燃料極のうちの一方が面するガス室に連通する連通路が形成されている。電気化学反応セルスタックは、第1の部材と、前記第1の部材に対向するように配置される第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材との間に配置され、前記ガス室および前記連通路を含むガス流路と、前記ガス流路以外の空間との間を隔てる流路形成部材とを有する。前記流路形成部材は、前記第1の部材と前記第2の部材とが対向する第1の方向に積層される複数の層状粒子からなる層状構造を有する。前記流路形成部材のうち、前記第1の方向に沿った少なくとも1つの特定断面において、前記第1の方向に直交する第2の方向における前記流路形成部材の端に位置する第1の層状粒子であって、前記第2の方向に対する第1の角度が、前記第2の方向における前記流路形成部材の中央に位置する第2の層状粒子が前記第2の方向に対してなす第2の角度と差がある第1の層状粒子が存在する。
【0007】
本電気化学反応セルスタックでは、第2の層状粒子の存在により、流路形成部材の応力緩和性が確保される。また、第1の層状粒子の存在により、ガス室内のガスが流路形成部材を構成する粒状素子同士の間を通過して外部空間に漏れ出ることが抑制される。このため、本電気化学反応セルスタックによれば、流路形成部材の応力緩和性を確保しつつ、層状粒子が一律に第2の方向に沿った構成に比べて、流路形成部材からのガス漏れを抑制することができる。
【0008】
(2)上記電気化学反応セルスタックにおいて、前記第1の角度と前記第2の角度との差の絶対値は、1.4度以上である構成としてもよい。本電気化学反応セルスタックによれば、例えば第1の角度と第2の角度との差の絶対値が1.4度未満である構成に比べて、流路形成部材からのガス漏れを効果的に抑制することができる。
【0009】
(3)上記電気化学反応セルスタックにおいて、前記第1の角度の絶対値は、90度未満である構成としてもよい。本電気化学反応セルスタックによれば、例えば第1の角度の絶対値が90度である構成に比べて、第1の層状粒子の存在に起因する流路形成部材の応力緩和性の低下を抑制することができる。
【0010】
(4)上記電気化学反応セルスタックにおいて、前記特定断面において、前記流路形成部材の第2の方向の幅は、前記第1の方向の幅の3倍以上である構成としてもよい。本電気化学反応セルスタックによれば、例えば流路形成部材の第2の方向の幅が第1の方向の幅の3倍未満である構成に比べて、ガス室と外部空間との間の流路形成部材内の経路が長い分だけ、流路形成部材の応力緩和性を確保しつつ、流路形成部材からのガス漏れを効果的に抑制することができる。
【0011】
(5)本明細書に開示される流路形成部材は、電気化学反応セルスタック用の流路形成部材であって、第1の方向に積層される複数の層状粒子からなる層状構造を有し、前記流路形成部材のうち、前記第1の方向に沿った少なくとも1つの特定断面において、前記第1の方向に直交する第2の方向における前記流路形成部材の端に位置する第1の層状粒子であって、前記第2の方向に対する第1の角度が、前記第2の方向における前記流路形成部材の中央に位置する第2の層状粒子が前記第2の方向に対してなす第2の角度と差がある第1の層状粒子が存在する。本流路形成部材によれば、流路形成部材の応力緩和性を確保しつつ、層状粒子が一律に第2の方向に沿った構成に比べて、流路形成部材からのガス漏れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の燃料電池スタックの外観構成を示す斜視図
【
図2】実施形態の燃料電池スタックを
図1のII-II線で切断して示す断面図
【
図3】実施形態の燃料電池スタックを
図1のIII-III線で切断して示す断面図
【
図4】実施形態の燃料電池スタックを
図1のIV-IV線で切断して示す断面図
【
図5】実施形態の燃料電池スタックにおける隣り合う2つの電気化学反応単位を、
図1のII-II線と同じ位置で切断して示す断面図
【
図6】実施形態の燃料電池スタックにおける隣り合う2つの電気化学反応単位を、
図1のIII-III線と同じ位置で切断して示す断面図
【
図7】
図5における空気極フレーム130の第1の部分X1を拡大して示す模式図
【
図8】
図7における空気極フレーム130の分割領域E1における層状構造を示す模式図
【
図9】空気極フレーム130の各部分X1~X4の製法を示す模式図
【
図10】実施形態の空気極フレーム130と比較例の空気極フレーム130Xとのガスの流れを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
<実施形態>
実施形態を、
図1から
図10を参照しつつ説明する。本実施形態の燃料電池スタック10(電気化学反応セルスタックの一例)は、固体酸化物を含む電解質層112を備える固体酸化物形の燃料電池に用いられる。
【0015】
(燃料電池スタック10の全体構成)
燃料電池スタック10は、
図1から
図4に示すように、発電ブロック100と、末端セパレータ230と、第1プレート232と、第2プレート260と、第1ターミナルプレート240と、第2ターミナルプレート250と、絶縁部220と、第1エンドプレート210と、第2エンドプレート270と、4つのガス通路部材280と、を備える。第1エンドプレート210、絶縁部220、末端セパレータ230、第1ターミナルプレート240、発電ブロック100、第2ターミナルプレート250、第2プレート260、および第2エンドプレート270は、ほぼ同じ大きさの矩形の外形を有しており、所定の配列方向(
図2の上下方向)に、この順に重なって配置されている。
【0016】
燃料電池スタック10は、
図1および
図4に示すように、4つの角部付近に、それぞれ、第1エンドプレート210から第2エンドプレート270まで貫通するボルト孔BHを有している。各ボルト孔BHにはボルトBが挿入されている。各ボルトBの両端部にはナットNがねじ付けられている。これらのボルトBおよびナットNにより、第1エンドプレート210から第2エンドプレート270までの部材が一体に締結されている。
図2から
図4に示すように、第1プレート232は末端セパレータ230に支持されており、4つのガス通路部材280は第2エンドプレート270に接続されている。
【0017】
発電ブロック100は、
図2から
図4に示すように、所定の配列方向(
図2の上下方向)に並んで配置された複数(本実施形態では7つ)の電気化学反応単位100U(以下、「反応単位100U」と略記することがある)によって構成される。
【0018】
(電気化学反応単位100Uの全体構成)
図5および
図6に示すように、電気化学反応単位100Uは、単セル110と、単セル用セパレータ120(第1の部材の一例)と、空気極フレーム130と、燃料極フレーム140と、燃料極集電部材144と、2つのインターコネクタ190と、2つのIC用セパレータ180(第2の部材の一例)と、を備える。一方のIC用セパレータ180、空気極フレーム130、単セル用セパレータ120、燃料極フレーム140、他方のIC用セパレータ180が、この順に重なって配置されている。単セル110は単セル用セパレータ120に支持され、2つのインターコネクタ190は2つのIC用セパレータ180にそれぞれ支持され、燃料極集電部材144は単セル110とインターコネクタ190との間に配されている。
【0019】
図5および
図6に示すように、IC用セパレータ180およびインターコネクタ190は、隣り合う2つの反応単位100Uに共有されている。但し、
図2に示すように、複数の反応単位100Uのうち一端(
図2の下端)に位置する反応単位100Uは、燃料極フレーム140に隣り合うIC用セパレータ180とインターコネクタ190とを備えておらず、燃料極フレーム140に第2ターミナルプレート250が重なっている。
【0020】
(単セル110)
単セル110は、電解質層112と、空気極114と、燃料極116と、を備える。
図5および
図6に示すように、空気極114と、電解質層112と、燃料極116とが、この順に重なって配されており、電解質層112と空気極114との間には、反応防止層118が介在している。本実施形態の単セル110は、燃料極116によって単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、反応防止層118)が支持される燃料極支持形の単セルである。
【0021】
電解質層112は、矩形の平板状の部材であって、空気極114が配された一面(
図5、
図6の上面)と、燃料極116が配され、一面に平行な他面(
図5、
図6の下面)と、を有する。電解質層112は、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))を含む層である。空気極114は、電解質層112より小さい矩形の外形を有する層であり、例えばペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含む。燃料極116は、電解質層112と略同じ大きさの矩形の外形を有する層であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等を含む。反応防止層118は、空気極114と略同じ大きさの矩形の外形を有する層であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)を含む。反応防止層118は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO
3)が生成されることを抑制する機能を有する。
【0022】
(単セル用セパレータ120)
単セル用セパレータ120は、
図5および
図6に示すように、中央付近に略矩形の貫通孔121を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。単セル用セパレータ120の板厚は、比較的薄く、例えば0.05mm以上、0.2mm以下である。単セル用セパレータ120における貫通孔121の周縁部は、電解質層112の一面(空気極114が配された面:
図5、
図6の上面)の周縁部に、接合部124によって接合されている。接合部124は、例えばロウ材(Agロウ)により形成されている。
【0023】
(空気極フレーム130)
空気極フレーム130は、
図5および
図6に示すように、中央付近に略矩形の貫通孔131を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えばマイカにより形成されている。空気極フレーム130の厚さは、0.5mm以上、5mm以下であることが好ましい。
【0024】
(燃料極フレーム140)
燃料極フレーム140は、
図6に示すように、中央付近に略矩形の貫通孔141を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。
【0025】
(IC用セパレータ180)
IC用セパレータ180は、
図5および
図6に示すように、中央付近に貫通孔181を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。
【0026】
(インターコネクタ190、および、燃料極集電部材144)
インターコネクタ190は、
図5および
図6に示すように、矩形の平板形状の平板部191と、平板部191の一面から空気極114に向かって突出した複数の板状の空気極集電部192と、被覆層193と、を備えている。平板部191と空気極集電部192とは、導電性を有し、金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。被覆層193は、導電性を有し、空気極集電部192の表面と、平板部191において空気極集電部192が配された面と、を覆うように配されている。平板部191は、IC用セパレータ180における貫通孔181の周縁部に、例えば溶接により接合されている。
【0027】
燃料極集電部材144は、インターコネクタ190と燃料極116とを接続する部材であって、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等の導電性材料により形成されている。燃料極集電部材144は、
図5および
図6に示すように、インターコネクタ対向部146と、インターコネクタ対向部146に平行な電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備え、全体としてU字状をなしている。電極対向部145は、燃料極116に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ190の平板部191に接触している。
【0028】
上記したように、インターコネクタ190は、隣り合う2つの反応単位100Uに共有されている。より具体的には、
図5および
図6に示すように、空気極集電部192は、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性接合材196を介して、隣り合う2つの反応単位100Uのうち一方に備えられる単セル110の空気極114に接合されており、これにより空気極114に電気的に接続されている。平板部191は、燃料極集電部材144を介して、隣り合う2つの反応単位100Uのうち他方に備えられる単セル110の燃料極116に電気的に接続されている。これにより、隣り合う2つの反応単位100U間の電気的導通が確保されている。
【0029】
但し、上述したように、複数の反応単位100Uのうち一端(
図2の下端)に位置する反応単位100Uは、燃料極116側のインターコネクタ190を備えていない。この反応単位100Uに備えられる燃料極116は、燃料極集電部材144を介して第2ターミナルプレート250に接続されている。
【0030】
電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極集電部材144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による反応単位100Uの変形に追随し、燃料極集電部材144を介した燃料極116とインターコネクタ190(または第2ターミナルプレート250)との電気的接続が良好に維持される。
【0031】
(空気室313および燃料室323)
図5および
図6に示すように、単セル用セパレータ120および単セル110と、空気極フレーム130と、IC用セパレータ180およびインターコネクタ190と、で区画される空間は、空気極114に面し、酸化剤ガスOGが流通する空気室313(ガス室の一例)となっている。空気極フレーム130は、空気室313を全周にわたって外部空間から区画するとともに、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間をシールし、空気室313から外部空間へガスが漏れ出ることを防ぐ役割を果たしている。
【0032】
また、単セル用セパレータ120および単セル110と、燃料極フレーム140と、IC用セパレータ180およびインターコネクタ190と、で区画される空間は、燃料極116に面し、燃料ガスFGが流通する燃料室323となっている。燃料極フレーム140は、燃料室323を全周にわたって外部空間から区画するとともに、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間をシールし、燃料室323から外部空間へガスが漏れ出ることを防ぐ役割を果たしている。
【0033】
単セル用セパレータ120により、空気室313と燃料室323とが区画され、単セル110の周辺において空気極114側から燃料極116側、または燃料極116側から空気極114側へのガスのリーク(クロスリーク)が抑制される。また、IC用セパレータ180とインターコネクタ190とにより、隣り合う反応単位100U間のガスのリークが抑制される。
【0034】
(第1エンドプレート210)
第1エンドプレート210は、1枚の板状部材をプレス加工(屈曲)することにより形成された部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。第1エンドプレート210は、
図1から
図4に示すように、中央付近に貫通孔212を有する矩形のフレーム状の平面部211と、平面部211から絶縁部220と反対方向(
図2の上方)に突出する外側凸部213および内側凸部214と、を備えている。平面部211は、上述したボルト孔BHを構成する孔を有している。外側凸部213は、平面部211の外周縁から突出している。外側凸部213は、平面部211の外周部の全周にわたって形成されている。内側凸部214は、平面部211の内周縁から突出している。内側凸部214は、平面部211の内周部の全周にわたって形成されている。
【0035】
(絶縁部220)
絶縁部220は、中央付近に貫通孔を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば絶縁性材料により形成されている。絶縁部220は、
図2に示すように、第1エンドプレート210と末端セパレータ230との間に挟み込まれており、これにより、第1エンドプレート210と末端セパレータ230との絶縁性が確保されている。
【0036】
(末端セパレータ230)
末端セパレータ230は、
図2から
図4に示すように、中央付近に貫通孔231を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。
【0037】
(第1プレート232)
第1プレート232は、矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。第1プレート232は、
図2から
図4に示すように、末端セパレータ230における貫通孔231の周縁部分に、例えば溶接により接合されている。末端セパレータ230と第1プレート232とは、発電ブロック100を燃料電池スタック10の外部空間から区画する。
【0038】
第1プレート232は、発電ブロック100を構成する複数の反応単位100Uのうち他端(
図2の上端)に配された反応単位100Uに備えられるインターコネクタ190に、燃料極集電部材144と同一構造の接続部材を介して接続されており、これにより、この反応単位100Uと第1プレート232とが電気的に接続されている。
【0039】
(第1ターミナルプレート240)
第1ターミナルプレート240は、中央付近に貫通孔241を有する矩形のフレーム状の部材であり、例えば表面にアルミナの酸化被膜を形成するフェライト系ステンレス等の導電材料により形成されている。第1ターミナルプレート240は、発電ブロック100を構成する複数の反応単位100Uのうち他端(
図2の上端)に配された反応単位100Uに、第1プレート232、および末端セパレータ230を介して電気的に接続されている。第1ターミナルプレート240の一端部(
図2の右端部)は、発電ブロック100から側方に張り出しており、この張り出し部分は、燃料電池スタック10のプラス側の出力端子として機能する。
【0040】
(第2ターミナルプレート250)
第2ターミナルプレート250は、矩形の板状の部材であり、例えば表面にアルミナの酸化被膜を形成するフェライト系ステンレス等の導電材料により形成されている。上述したように、第2ターミナルプレート250は、上述したように、複数の反応単位100Uのうち一端(
図2の下端)に配された反応単位100Uに備えられる燃料極116に、燃料極集電部材144を介して接続されており、これにより、この反応単位100Uと第2ターミナルプレート250とが電気的に接続されている。第2ターミナルプレート250の一端部(
図2の右端部)は、発電ブロック100から側方に張り出しており、この張り出し部分は、燃料電池スタック10のマイナス側の出力端子として機能する。
【0041】
(第2プレート260)
第2プレート260は、矩形の平板状の部材であり、例えば絶縁材料により形成されている。第2プレート260の周縁部は、第2ターミナルプレート250と第2エンドプレート270との間に挟み込まれており、これにより、第2ターミナルプレート250と第2エンドプレート270との絶縁性が確保されている。
【0042】
(第2エンドプレート270)
第2エンドプレート270は、1枚の板状部材をプレス加工(屈曲)することにより形成された部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。第2エンドプレート270は、中央付近に貫通孔272を有する矩形のフレーム状の平面部271と、平面部271から第2ターミナルプレート250と反対方向(
図2の下方)に突出する外側凸部273および内側凸部274と、を備えている。平面部271は、上述したボルト孔BHを構成する孔を有している。外側凸部273は、平面部271の外周縁から突出している。外側凸部273は、平面部271の外周部の全周にわたって形成されている。内側凸部274は、平面部271の内周縁から突出している。内側凸部274は、平面部271の内周部の全周にわたって形成されている。
【0043】
(マニホールド311、312、321、322)
図1、
図2および
図3に示すように、燃料電池スタック10は、発電ブロック100から第2エンドプレート270まで貫通する4つの孔を有している。4つの孔は、それぞれ、酸化剤ガス供給マニホールド311(連通路の一例)、酸化剤ガス排出マニホールド312(連通路の一例)、燃料ガス供給マニホールド321、燃料ガス排出マニホールド322である。
【0044】
図2に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド311は、燃料電池スタック10の外部から導入された酸化剤ガスOGを各反応単位100Uの空気室313に供給するガス流路である。酸化剤ガス排出マニホールド312は、各反応単位100Uの空気室313から排出された酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック10の外部へ排出するガス流路である。酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。酸化剤ガス供給マニホールド311と酸化剤ガス排出マニホールド312とは、空気室313を挟んで、互いに反対側に配されている。
【0045】
図3に示すように、燃料ガス供給マニホールド321は、燃料電池スタック10の外部から導入された燃料ガスFGを各反応単位100Uの燃料室323に供給するガス流路である。燃料ガス排出マニホールド322は、各反応単位100Uの燃料室323から排出された燃料オフガスFOGを燃料電池スタック10の外部へ排出するガス流路である。燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。燃料ガス供給マニホールド321と燃料ガス排出マニホールド322とは、燃料室323を挟んで、互いに反対側に配されている。
【0046】
空気極フレーム130は、
図5に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド311と空気室313とを連通する酸化剤ガス供給連通流路132と、空気室313と酸化剤ガス排出マニホールド312とを連通する酸化剤ガス排出連通流路133と、を有している。
【0047】
また、各燃料極フレーム140は、
図6に示すように、燃料ガス供給マニホールド321と燃料室323とを連通する燃料ガス供給連通流路142と、燃料室323と燃料ガス排出マニホールド322とを連通する燃料ガス排出連通流路143と、を有している。
【0048】
(ガス通路部材280)
4つのガス通路部材280のそれぞれは、
図2および
図3に示すように、本体部281と、フランジ部282と、を備えている。本体部281は、両端が開口した筒状をなしている。フランジ部282は、本体部281の一端(
図2の下端)から外側に張り出すように設けられている。フランジ部282は、複数のボルト孔284を有している。各ボルト孔284には、燃料電池スタック10を外部装置に接続するためのボルト(図示せず)が挿入される。4つのガス通路部材280に備えられる本体部281の一端(
図2、
図3の上端)が、第2エンドプレート270に対して例えば溶接により接合され、本体部281の内部空間は、それぞれマニホールド311、312、321、322に連通している。各本体部281には、ガスの供給または排出のためのガス配管が接続されている。
【0049】
(燃料電池スタック10の動作)
図2および
図5に示すように、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材280を介して酸化剤ガス供給マニホールド311に供給され、酸化剤ガス供給連通流路132を介して空気室313に供給される。酸化剤ガスOGは、空気室313の内部を、酸化剤ガス供給連通流路132から酸化剤ガス排出連通流路133に向かって流れていく。
【0050】
また、
図3および
図6に示すように、燃料ガスFGは、ガス配管からガス通路部材280を介して燃料ガス供給マニホールド321に供給され、各燃料極フレーム140が有する燃料ガス供給マニホールド321を構成する孔から、燃料ガス供給連通流路142を介して燃料室323に供給される。
【0051】
各反応単位100Uの空気室313に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室323に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。上記したように、インターコネクタ190は、隣り合う2つの反応単位100Uに共有されており、インターコネクタ190によって隣り合う2つの反応単位100U間の導通が確保されている。つまり、燃料電池スタック10に含まれる複数の反応単位100Uは、電気的に直列に接続されている。また、複数の反応単位100Uのうち一端(
図2の下端)に位置する反応単位100Uには、第2ターミナルプレート250が電気的に接続されており、他端(
図2の上端)に位置する反応単位100Uには、第1ターミナルプレート240が電気的に接続されている。これにより、燃料電池スタック10の出力端子として機能するターミナルプレート240、250から、各反応単位100Uにおいて生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック10が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0052】
図2および
図5に示すように、各反応単位100Uの空気室313から酸化剤ガス排出連通流路133を介して酸化剤ガス排出マニホールド312に排出された酸化剤オフガスOOGは、本体部281の内部空間を通って燃料電池スタック10の外部に排出される。また、
図3および
図6に示すように、各反応単位100Uの燃料室323から燃料ガス排出連通流路143を介して燃料ガス排出マニホールド322に排出された燃料オフガスFOGは、本体部281の内部空間を通って燃料電池スタック10の外部に排出される。
【0053】
(空気極フレーム130の詳細構成)
上述したように、空気極フレーム130(流路形成部材の一例)は、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間に配置されている。以下、空気室313と酸化剤ガス供給マニホールド311と酸化剤ガス排出マニホールド312とを含む空間を「酸化剤ガス流路」という。空気極フレーム130は、酸化剤ガス流路と、燃料室323(ガス流路以外の空間の一例)や燃料電池スタック10の外部空間(ガス流路以外の空間の一例)との間を隔てている。
【0054】
具体的には、
図5に示すように、空気極フレーム130のうち、酸化剤ガス供給マニホールド311を構成する貫通孔と空気極フレーム130の外周面との間の第1の部分X1は、酸化剤ガス流路と燃料電池スタック10の外部空間との間を隔てている。空気極フレーム130のうち、酸化剤ガス排出マニホールド312を構成する貫通孔と空気極フレーム130の外周面との間の第2の部分X2は、酸化剤ガス流路と燃料電池スタック10の外部空間との間を隔てている。また、
図6に示すように、空気極フレーム130のうち、燃料ガス供給マニホールド321を構成する貫通孔と貫通孔131との間の第3の部分X3は、酸化剤ガス流路と燃料ガス供給マニホールド321(燃料室323)との間を隔てている。空気極フレーム130のうち、燃料ガス排出マニホールド322を構成する貫通孔と貫通孔131との間の第4の部分X4は、酸化剤ガス流路と燃料ガス排出マニホールド322(燃料室323)との間を隔てている。
【0055】
空気極フレーム130(各部分X1~X4)は、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180とが対向する上記所定の配列方向(
図2の上下方向 第1の方向の一例)に積層される複数の層状粒子400からなる層状構造を有する。具体的には、空気極フレーム130は、上述したように、マイカにより形成されている。
【0056】
ここで、空気極フレーム130のうち、配列方向に沿った少なくとも1つの特定断面(例えばXZ断面)において、第1の層状粒子400R,400Lと、第2の層状粒子400Cとが存在する。第1の層状粒子400Rは、配列方向に直交する面方向(
図2の左右方向 第2の方向の一例)において、空気極フレーム130における各部分X1~X4の右端部に位置する層状粒子400である。第1の層状粒子400Lは、面方向において、空気極フレーム130における各部分X1~X4の左端部に位置する層状粒子400である。第2の層状粒子400Cは、面方向において、各部分X1~X4の中央部(中央線Cが通過する部分)に位置する層状粒子400である。
【0057】
第1の層状粒子400R,400Lについて、面方向に沿った所定の基準ベクトルVに対する相対角度を、第1の角度θ1とし、第2の層状粒子400Cについて、基準ベクトルVに対する相対角度を、第2の角度θ2とする。第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1と、第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2とは差がある。また、第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1と、第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2とは差がある。
【0058】
以下、空気極フレーム130の第1の部分X1を例に挙げて具体的に説明する。
図7に示すように、空気極フレーム130の第1の部分X1を、配列方向(Z軸方向)に等間隔に10個の領域に分割する。分割された各領域を、分割領域E(E1~E10)という。少なくとも1つの分割領域Eにおいて、第1の層状粒子400R,400Lの少なくとも一方の第1の角度θ1と、第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2とに差があればよい。なお、空気極フレーム130の各部分X1~X4において、第1の角度θ1と第2の角度θ2との角度差がある領域(分割領域Eの数)は、全領域(10個の分割領域E)に対して30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0059】
図8には、基準ベクトルVと測定領域TR,TL,TCとが示されている。基準ベクトルVは、面方向(X軸方向)に平行であり、かつ、X軸負方向に向いている。第1の角度θ1と第2の角度θ2とは、いずれも、層状粒子400が基準ベクトルVに対して上側(Z軸正方向側)に傾斜する場合、正の角度とし、層状粒子400が基準ベクトルVに対して下側(Z軸負方向側)に傾斜する場合、負の角度とする。測定領域TR,TL,TCは、第1の角度θ1と第2の角度θ2とを特定するための領域である。測定領域TR,TL,TCは、いずれも同一サイズであり、面方向に所定の幅W(例えば300μm)を有し、かつ、分割領域Eと同じ高さHを有する。
【0060】
図8に示すように、第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1を特定するため、右側に位置する測定領域TRの右辺は、空気極フレーム130の右端に一致している。この測定領域TRには、複数の第1の層状粒子400Rが存在する。各第1の層状粒子400Rについて、右端を基点として基準ベクトルVに対する相対角度を、それぞれの第1の角度θ1として特定する。なお、
図8に示す第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1は、正の角度である。測定領域TRに存在する全ての第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1の平均値を、分割領域E1における第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1とする。
【0061】
第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1を特定するため、左側に位置する測定領域TLの左辺は、空気極フレーム130の左端に一致している。この測定領域TLには、複数の第1の層状粒子400Lが存在する。各第1の層状粒子400Lについて、右端を基点として基準ベクトルVに対する相対角度を、それぞれの第1の角度θ1として特定する。なお、
図8に示す第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1は、負の角度である。測定領域TLに存在する全ての第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1の平均値を、分割領域E1における第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1とする。
【0062】
第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2を特定するため、測定領域TCは、第1の部分X1の中央部(中央線C)を含んでいる。この測定領域TCには、複数の第2の層状粒子400Cが存在する。各第2の層状粒子400Cについて、右端を基点として基準ベクトルVに対する相対角度を、それぞれの第2の角度θ2として特定する。なお、
図8に示す第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2は、正の角度である。測定領域TCに存在する全ての第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2の平均値を、分割領域E1における第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2とする。
【0063】
次に、第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1と第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2との差の絶対値は、1.4度以上であることが好ましい。また、第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1と、第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2との差の絶対値は、1.4度以上であることが好ましい。
【0064】
第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1の絶対値は、90度未満であることが好ましい。また、第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1の絶対値は、90度未満であることが好ましい。
【0065】
特定断面において、空気極フレーム130の各部分X1~X4の面方向の幅Dは、上下方向の高さHの3倍以上であることが好ましい(
図7参照)。
【0066】
(空気極フレーム130の製法)
上述したように、空気極フレーム130の各部分X1~X4では、同一の分割領域Eにおいて、中央部に位置する第2の層状粒子400Cは、面方向に略平行であり、端に位置する第1の層状粒子400R,400Cは、いずれも、面方向に対して傾斜している。このような層状構造を有する各部分X1~X4の製法の一例では次の通りである。
【0067】
図9に示すように、マイカ素材130Aに対して、金型500を用いてプレス加工を施すことにより、空気極フレーム130の各部分X1~X4を作成することができる。マイカ素材130Aは、ほぼ全ての層状粒子が面方向(
図9のX軸方向)に沿った層状構造を有している。金型500は、第1の型510と第2の型520とを含む。第1の型510は、ベース部512と周壁部514とを有する。周壁部514は、マイカ素材130Aの周囲を囲む筒状の部分である。ベース部512は、周壁部514の一端側(
図9のZ軸正方向側)を封止する平板状部分である。ベース部512のうち、周壁部514内に向けられる面の周縁部には溝513が形成されている。溝513は、周壁部514に向かうにつれて深さが深くなるように傾斜したテーパ面515を有している。第2の型520は、第1の型510の周壁部514内に進入可能な平板状の部材である。
【0068】
例えばマイカ素材130Aを第2の型520の上に配置し、第1の型510と第2の型520とでマイカ素材130Aをプレスする。すると、マイカ素材130Bが形成される。マイカ素材130Bは、マイカ素材130Aの端が、ベース部512の溝513の形状に沿って傾斜した突起132Bを有する形状である。次に、マイカ素材130Bの突起132Bの先端の一部を切除することにより、マイカ素材130Cが形成される。このマイカ素材130Cが、空気極フレーム130の各部分X1~X4の層状構造を有する。
【0069】
(作用効果)
以上のように本実施形態の燃料電池スタック10は、複数の電気化学反応単位100Uを備える。各電気化学反応単位100Uは、空気極114と、電解質層112と、燃料極116とがこの順に重なっている単セル110と、空気極114が面する空気室313を外部空間から区画する空気極フレーム130と、空気極フレーム130と隣接する単セル用セパレータ120と、同じく空気極フレーム130と隣接するIC用セパレータ180と、を備える。各電気化学反応単位100Uにおいて、空気極フレーム130のうち、配列方向に沿った少なくとも1つの特定断面(例えばXZ断面)において、第1の層状粒子400R,400Lと、第2の層状粒子400Cとが存在する。空気極フレーム130における各部分X1~X4の端部に位置する第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1は、各部分X1~X4の中央部に位置する第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2とは異なる。要するに、各部分X1~X4の特定断面には、端部に位置し、かつ、中央部に位置する第2の層状粒子400Cに対して傾斜した第1の層状粒子400R,400Lが存在する。
【0070】
上記の構成によれば、空気極フレーム130における第2の層状粒子400Cの存在により、空気極フレーム130の応力緩和性が確保される。また、第1の層状粒子400R,400Lの存在により、空気室313内のガスG(酸化剤ガスOG、酸化剤オフガスOOG)が流路形成部材を構成する層状粒子400同士の間を通過して外部空間や燃料室323に漏れ出ることが抑制される。このため、本実施形態によれば、空気極フレーム130の応力緩和性を確保しつつ、層状粒子が一律に面方向に沿った構成に比べて、空気極フレーム130からのガス漏れを抑制することができる。
【0071】
具体的には、
図10の下段に示す比較例の空気極フレーム130Xでは、中央部に位置する第2の層状粒子400Cだけでなく、端部に位置する第1の層状粒子400RX,400LXも面方向に沿って延びている。このため、空気極フレーム130Xには、面方向に沿って直線状に延びる経路が比較的に多く存在することにより、ガスGが酸化剤ガス流路から他の空間に漏れ出やすい。これに対して、
図10の上段に示す本実施形態の空気極フレーム130では、中央部に位置する第2の層状粒子400Cは面方向に沿って延びており、端部に位置する第1の層状粒子400RX,400LXは面方向に対して傾斜している。このため、空気極フレーム130には、端部が面方向に対して部分的に傾斜した経路が比較的に多く存在することにより、ガスGが酸化剤ガス流路から他の空間に漏れ出にくくなる。
【0072】
本実施形態では、第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1と第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2との差の絶対値は、1.4度以上であることが好ましい。このような構成によれば、例えば第1の角度θ1と第2の角度θ2との差の絶対値が1.4度未満である構成に比べて、空気極フレーム130からのガス漏れを効果的に抑制することができる。
【0073】
本実施形態では、第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1の絶対値は、90度未満であることが好ましい。このような構成によれば、例えば第1の角度θ1の絶対値が90度である構成に比べて、第1の層状粒子400R,400Lの存在に起因する空気極フレーム130の応力緩和性の低下を抑制することができる。なお、本実施形態では、空気極フレーム130が絶縁性材料(マイカ)により形成されている。このため、本実施形態によれば、第1の角度θ1が90度である構成に比べて、層状粒子400の表面を通る単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間の沿面距離が長くなるため、絶縁性が上がる。
【0074】
本実施形態では、特定断面において、空気極フレーム130の各部分X1~X4の面方向の幅Dは、上下方向の幅(高さ)Hの3倍以上であることが好ましい。本実施形態によれば、例えば空気極フレーム130の各部分X1~X4の面方向の幅Dが上下方向の幅Hの3倍未満である構成に比べて、空気室313と、その空気室313以外の空間(燃料室323や外部空間)との間の空気極フレーム130内の経路が長い分だけ、空気極フレーム130の応力緩和性を確保しつつ、空気極フレーム130からのガス漏れを効果的に抑制することができる。
【0075】
(本実施形態の性能評価)
次に、本実施形態の性能評価について説明する。9つの空気極フレーム130のサンプルを作製し、各サンプルを用いた燃料電池スタック10について性能評価を行った。以下の表1は、性能評価の結果を示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、各サンプル(サンプルS1~S9)は、基本的には、上記で説明した空気極フレーム130と同様の構成であり、上記の製造方法により製造されたものである。但し、9つのサンプル(サンプルS1~S9)の空気極フレーム130は、次の要素のうち、少なくとも1つが互いに異なる。
・端部に位置する第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1
・中央部に位置する第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2
・第1の角度θ1と第2の角度θ2との角度差
・空気極フレーム130のうち、空間を隔てる部分の高さHに対する幅Dの比率
なお、これらの値の取得方法は次の取りである。各サンプルの空気極フレーム130を切断した断面を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影する。その撮影して得られたSEM画像を画像解析することにより、各サンプルの上記値を取得することができる。
【0078】
(1)初期発電性能について
各サンプルを用いた燃料電池スタック10について、約700(℃)で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55A/cm2のときの単セル110の出力電圧を測定し、その測定値を、初期電圧(定格発電運転前の出力電圧)とした。
【0079】
燃料電池スタック10の初期発電性能については、各サンプルについて、初期電圧が所定の第1の判定閾値以上であったサンプルを「良(△)」と評価し、初期電圧が第1の判定閾値未満であったサンプルを「不良(×)」と評価した。初期電圧が、第1判定閾値よりも高い第2の判定閾値以上であったサンプルを「最良(〇)」と評価した。
【0080】
(2)信頼性(応力緩和特性)について
燃料電池スタック10の信頼性については、各サンプルについて、熱サイクル試験を50サイクル行った後の電圧低下率が所定の第1のレベル以下であったサンプルを「最良(〇)」と評価し、熱サイクル試験を50サイクル行った後の電圧低下率が第1のレベルを超えたサンプルを「良(△)」と評価した。
【0081】
なお、熱サイクル試験は下記の手順で実施した。まず初期発電性能を調べるために、約700℃で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55A/cm2のときの単セル110の出力電圧を測定した。その測定値を、初期電圧(熱サイクル試験前の出力電圧)とした。次に、空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、かつ電流密度は0A/cm2の状態で、約70℃まで降温した。室温から約700℃への昇温、その後の700℃から70℃への降温を1サイクルとし、計50サイクル繰り返した。50サイクル終了後、再度約700℃に昇温し、空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55A/cm2のときの単セル110の出力電圧を測定した。その測定値を、熱サイクル後の出力電圧とした。熱サイクル50サイクル後の電圧低下率は、「(初期電圧―熱サイクル後の出力電圧)÷初期電圧」で算出した。
【0082】
表1に示すように、角度差が0.0度であるサンプルS1では、初期発電性能が「不良(×)」された。一方、角度差が1.0度以上であったサンプルS2~S9では、初期発電性能が「良(△)」または「最良(〇)」と評価された。これは、空気極フレーム130の端部に位置する第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1が、中央部に位置する第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2と差があることにより、空気極フレーム130からのガス漏れが抑制され、初期電圧の低下が抑制されることを意味する。また、サンプルS2~S6では、高さHに対する幅Dの比率が共通するものの、サンプルS2では、初期発電性能が「良(△)」と評価され、サンプルS3~S6では初期発電性能が「最良(〇)」と評価された。これは、角度差が5.0度以上であれば、空気極フレーム130からのガス漏れが効果的に抑制され、初期電圧の低下がさらに抑制されることを意味する。
【0083】
第1の角度θ1が90度であるサンプルS6では、信頼性が「良(△)」と評価され、第1の角度θ1が90度未満であるサンプルS1~S5,S7~S9(特にサンプルS5)では、信頼性が「最良(〇)」と評価された。これは、第1の角度θ1が90度未満であることにより、空気極フレーム130の応力緩和性が確保されることを意味する。
【0084】
サンプルS3~S9では、角度差が1.5度以上であるものの、サンプルS7では、初期発電性能が「良(△)」と評価され、サンプルS3~S6,S8,S9では初期発電性能が「最良(〇)」と評価された。これは、高さHに対する幅Dの比率が3以上であれば、空気極フレーム130からのガス漏れを効果的に抑制できることを意味する。
【0085】
<他の実施形態>
上記実施形態では、流路形成部材(空気極フレーム130)の材質としてマイカを例示したが、マイカ以外に、例えばバーミキュライトなど、複数の層状粒子からなる層状構造を有する材質であればよい。なお、流路形成部材の材質は、絶縁性を有しない材質でもよい。
【0086】
上記実施形態では、流路形成部材として、空気極フレーム130を例示したが、例えば燃料室323とそれ以外の空間との間を隔てる燃料極フレーム140などでもよい。要するに、流路形成部材は、2つの部材の間に配置され、ガス室(空気室313または燃料室323)と、それ以外の空間とを隔てる部材であればよい。また、例えば金属支持型の単セルを備える電気化学反応セルスタックでは、単セルに電気的に接続される集電体と金属支持体との間に配置される部材が流路形成部材である。また、例えば電解質支持型の単セルを備える電気化学反応セルスタックでは、単セルの電解質と集電体との間に配置される部材が流路形成部材である。
【0087】
上記実施形態において、第1の層状粒子400Rの第1の角度θ1と第1の層状粒子400Lの第1の角度θ1との一方だけが、第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2と差がある構成でもよい。上記実施形態において、第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1と第2の層状粒子400Cの第2の角度θ2との差の絶対値が、1.4度未満である構成でもよい。上記実施形態において、第1の層状粒子400R,400Lの第1の角度θ1は、90度でもよい。上記実施形態において、空気極フレーム130の各部分X1~X4の面方向の幅Dは、上下方向の幅Hの3倍未満でもよい。
【0088】
上記実施形態では、電気化学反応セルスタックが、固体酸化物形の燃料電池(SOFC)に用いられるセルスタックであったが、上記の構成は、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池に用いられるセルスタック、あるいは、固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位を単セルとして備える電解セルスタックにも適用可能である。
【符号の説明】
【0089】
10:燃料電池スタック 100:発電ブロック 100U:反応単位 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 118:反応防止層 120:単セル用セパレータ 121:貫通孔 124:接合部 130,130X:空気極フレーム 130A~130C:マイカ素材 132:酸化剤ガス供給連通流路 132B:突起 133:酸化剤ガス排出連通流路 140:燃料極フレーム 142:燃料ガス供給連通流路 143:燃料ガス排出連通流路 144:燃料極集電部材 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 180:IC用セパレータ 190:インターコネクタ 191:平板部 192:空気極集電部 193:被覆層 196:導電性接合材 210:第1エンドプレート 220:絶縁部 230:末端セパレータ 232:第1プレート 240:第1ターミナルプレート 250:第2ターミナルプレート 260:第2プレート 270:第2エンドプレート 280:ガス通路部材 281:本体部 282:フランジ部 311:酸化剤ガス供給マニホールド 312:酸化剤ガス排出マニホールド 313:空気室 321:燃料ガス供給マニホールド 322:燃料ガス排出マニホールド 323:燃料室 400:層状粒子 400C:第2の層状粒子 400R,400L:第1の層状粒子 400RX,400LX:第1の層状粒子 500:金型 510:第1の型 512:ベース部 513:溝 514:周壁部 515:テーパ面 520:第2の型 B:ボルト N:ナット