(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150065
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】異味及び/又は異臭のマスキング剤、異味及び/又は異臭をマスキングする方法、並びに、組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 5/20 20160101AFI20241016BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20241016BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20241016BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063292
(22)【出願日】2023-04-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】593157910
【氏名又は名称】株式会社タイショーテクノス
(71)【出願人】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 潤平
(72)【発明者】
【氏名】大坪 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】小田原 毅
(72)【発明者】
【氏名】林 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直人
(72)【発明者】
【氏名】深見 健
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC02
4B035LG02
4B035LG07
4B035LG17
4B035LG19
4B035LP01
4B047LB04
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF01
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4B047LG04
4B047LG08
4B047LG21
4B047LG25
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】異味及び/又は異臭の新規なマスキング剤を提供すること。
【解決手段】異味及び/又は異臭のマスキング剤であって、マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を有効成分として含む、マスキング剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異味及び/又は異臭のマスキング剤であって、
マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を有効成分として含む、マスキング剤。
【請求項2】
前記マルトビオン酸類含有物が、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水飴、又は、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む粉飴である、請求項1に記載のマスキング剤。
【請求項3】
前記加熱物がマルトールを含有する、請求項1又は2に記載のマスキング剤。
【請求項4】
前記加熱物中のマルトールの含有量が、前記加熱物の全質量を基準として、30質量ppm以上である、請求項1又は2に記載のマスキング剤。
【請求項5】
前記異味及び/又は異臭がチアミン臭、魚臭、酢酸臭、大豆臭、獣臭、酸味、えぐ味及び金属味からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のマスキング剤。
【請求項6】
前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、マルトビオン酸カルシウムである、請求項1又は2に記載のマスキング剤。
【請求項7】
異味及び/又は異臭をマスキングする方法であって、
マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を対象物に含有させることを含む、方法。
【請求項8】
マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物からなり、
前記加熱物がマルトールを含有する、組成物。
【請求項9】
前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、マルトビオン酸カルシウムである、請求項8に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異味及び/又は異臭のマスキング剤、異味及び/又は異臭をマスキングする方法、並びに、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
異味又は異臭のマスキングに関して、これまでに種々の技術手段が提案されている。例えば、特許文献1には、分離大豆蛋白質を用いた飲料品のような、独特の風味を有する食品を効果的にマスキングできる素材として、マルトースを主たる糖質として含有する糖加熱品粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、異味及び/又は異臭の新規なマスキング剤、並びに、異味及び/又は異臭をマスキングする新たな方法を提供することを目的とする。本発明はまた、異味及び/又は異臭のマスキングに適した組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の各態様を包含する。
[1]
異味及び/又は異臭のマスキング剤であって、マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を有効成分として含む、マスキング剤。
[2]
前記マルトビオン酸類含有物が、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水飴、又は、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む粉飴である、[1]に記載のマスキング剤。
[3]
前記加熱物がマルトールを含有する、[1]又は[2]に記載のマスキング剤。
[4]
前記加熱物中のマルトールの含有量が、前記加熱物の全質量を基準として、30質量ppm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のマスキング剤。
[5]
前記異味及び/又は異臭がチアミン臭、魚臭、酢酸臭、大豆臭、獣臭、酸味、えぐ味及び金属味からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載のマスキング剤。
[6]
前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、マルトビオン酸カルシウムである、[1]~[5]のいずれかに記載のマスキング剤。
[7]
異味及び/又は異臭をマスキングする方法であって、マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を対象物に含有させることを含む、方法。
[8]
マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物からなり、前記加熱物がマルトールを含有する、組成物。
[9]
前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が、マルトビオン酸カルシウムである、[8]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、異味及び/又は異臭の新規なマスキング剤、並びに、異味及び/又は異臭をマスキングする新たな方法を提供することができる。本発明によれば、異味及び/又は異臭のマスキング剤に適した組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0008】
本実施形態に係るマスキング剤は、異味及び/又は異臭のマスキング剤である。当該マスキング剤は、マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むマルトビオン酸類含有物の加熱物を有効成分として含む。本実施形態に係るマスキング剤を使用する場合、これを使用しない場合と比べて、異味及び/又は異臭が弱く感じられるようになる。本実施形態に係るマスキング剤を使用することによって、対象物の味及び/又は香りを改善することができる。
【0009】
異臭としては、チアミン臭、魚臭、レバー(例えば豚レバー)又はその加工品に由来する生臭さ、酢酸臭、大豆臭、及び獣臭が挙げられる。チアミン臭は、ビタミンB1臭ともよばれ、チアミン及び/又はその誘導体の保存中に発生する臭気である。魚臭としては、例えば、魚又は魚加工品に由来する生臭さ及び泥臭さが挙げられる。獣臭はコラーゲンに起因する臭気であってよい。本実施形態に係るマスキング剤は異臭に対してより優れた効果を有する。
【0010】
異味としては、酸味、えぐ味、及び金属味(鉄味)が挙げられる。えぐ味は酢酸ナトリウム等の酢酸塩に起因するえぐ味であってよい。
【0011】
本実施形態に係るマスキング剤はチアミン臭、魚臭、酢酸臭、大豆臭、獣臭、酸味、えぐ味及び金属味からなる群より選択される少なくとも1種のマスキング剤として好適に用いることができる。
【0012】
マルトビオン酸はグルコン酸にグルコースがα-1,4結合したものである。マルトビオン酸の塩は、食品又は食品添加物として許容し得る塩であってよく、例えば、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属塩、又はアンモニウム塩であってよい。マルトビオン酸のアルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、及びマグネシウム塩が挙げられる。マルトビオン酸のアルカリ金属塩としては、カリウム塩、及びナトリウム塩が挙げられる。マルトビオン酸の塩は、マスキング効果がより優れたものとなる観点から、カルシウム塩であることが好ましい。
【0013】
マルトビオン酸類含有物は、マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下「マルトビオン酸類」)を含むものである。
【0014】
マルトビオン酸類含有物はマルトビオン酸類のみからなっていてもよく、マルトビオン酸類以外の成分を含んでいてよい。マルトビオン酸類含有物中のマルトビオン酸及びその塩の総含有量は、マルトビオン酸類含有物の全質量を基準として、20質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、又は55質量%以上であってよく、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、又は65質量%以下であってよい。
【0015】
マルトビオン酸類含有物中のマルトビオン酸類以外の成分(以下「その他の成分」ともいう。)としては、例えば、水、無機酸又は有機酸並びにそれらの塩等、デキストリンやマルトースなどの糖類が挙げられる。その他の成分の総含有量は、マルトビオン酸類含有物の全質量を基準として、65質量%以下、55質量%以下、又は45質量%以下であってよく、15質量%以上、25質量%以上、35質量%以上、45質量%以上、又は55質量%以上であってよい。
【0016】
マルトビオン酸類含有物の性状は液状、粘液状又は粉末状であってよい。マルトビオン酸類含有物は、マルトビオン酸類を含む水飴、又は、マルトビオン酸類を含む粉飴であってよい。当該水飴又は当該粉飴としては、市販されているマルトビオン酸含有水飴又はマルトビオン酸含有粉飴を使用することができる。市販のマルトビオン酸含有水飴としては例えばサワーオリゴ(サンエイ糖化株式会社)が挙げられる。市販のマルトビオン酸含有粉飴としてはマルトビオン酸Ca含有粉飴であるサワーオリゴC(サンエイ糖化株式会社)が挙げられる。
【0017】
マルトビオン酸類含有物の加熱物は、マルトビオン酸類の反応物を含む。当該反応物はマルトビオン酸類同士の反応物、及び/又はマルトビオン酸と上記その他の成分との反応物を含んでいてよい。
【0018】
マルトビオン酸類含有物の加熱物中のフェノール性化合物の含有量は、マルトビオン酸類含有物の加熱物の全質量を基準として、マスキング効果がより一層優れたものとなることから、30質量ppm以上、50質量ppm以上、80質量ppm以上、100質量ppm以上、150質量ppm以上、200質量ppm以上、250質量ppm以上、300質量ppm以上、350質量ppm以上、400質量ppm以上、600質量ppm以上、800質量ppm以上、1000質量ppm以上、1200質量ppm以上、1400質量ppm以上、1500質量ppm以上、1600質量ppm以上、1800質量ppm以上、2000質量ppm以上、2200質量ppm以上、2300質量ppm以上、3000質量ppm以上、10000質量ppm以上、又は15000質量ppm以上であってよく、20000質量ppm以下、10000質量ppm以下、3000質量ppm以下、2800質量ppm以下、2600質量ppm以下、2400質量ppm以下、又は2200質量ppm以下であってよい。本明細書において、「質量ppm」は10-4質量%である。
【0019】
マルトビオン酸類含有物の加熱物中のフェノール性化合物の含有量は加熱条件等を調整することによって上述した数値範囲内に調整することができる。本明細書における「フェノール性化合物の含有量」はフォリンチオカルト法により測定される没食子酸換算の量を意味する。フォリンチオカルト法により没食子酸換算の量として、フェノール性化合物の含有量を測定する方法は後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0020】
マルトビオン酸類含有物の加熱物はマルトールを含有していてもよい。マルトールとは3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン又は3-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピロンとも称される化合物である。マルトビオン酸類含有物の加熱物がマルトールを含有する場合、当該加熱物の異味及び/又は異臭のマスキング効果、特にチアミン臭のマスキング効果が更に優れたものとなる。
【0021】
マルトールの含有量は、マルトビオン酸類含有物の加熱物の全質量を基準として、マスキング効果がより一層優れたものとなることから、4質量ppm以上、10質量ppm以上、20質量ppm以上、30質量ppm以上、50質量ppm以上、80質量ppm以上、100質量ppm以上、150質量ppm以上、180質量ppm以上、200質量ppm以上、300質量ppm以上、350質量ppm以上、400質量ppm以上、450質量ppm以上又は500質量ppm以上であってよく、1000質量ppm以下、800質量ppm以下、600質量ppm以下、500質量ppm以下、又は450質量ppm以下であってよい。
【0022】
マルトビオン酸類含有物の加熱物中のマルトールの含有量は、加熱対象のマルトビオン酸類含有物のpH、加熱条件等を調整することによって上述した数値範囲内に調整することができる。加熱対象のマルトビオン酸類含有物のpHを4.0~11.0の範囲内、特にpH4.0~8.0の範囲内とすることによってマルトールがより生成しやすくなる。
【0023】
マルトールは次に示す条件で実施される高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。「マルトールを含有する」とは、次に示す条件で測定されるマルトールが検出限界値(4質量ppm)以上であることを意味する。
カラム:shiseido capcell PAK C18 UG120(4.6×250)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:13%メタノール(v/v)(0.1%酢酸,0.011%EDTA・2Na・2水和物含有)
検出:吸光度(275nm)
【0024】
マルトビオン酸類含有物の加熱物の着色度は、3.00以下、2.50以下、2.00以下、1.50以下、1.00以下、又は0.50以下であってよく、例えば0.00~0.50又は0.00~0.35であってよい。加熱物の着色度は、波長440nmの吸光度を測定することで求めることができる。吸光度を測定するための試料は、加熱物を試料の全質量を基準として1質量%となるように水で希釈して得られるものが使用される。着色度は加熱条件等を調整することによって上述した数値範囲内に調整することができる。
【0025】
マルトビオン酸類含有物の加熱物は加熱前のマルトビオン酸類含有物と同程度のpHを有していてよい。マルトビオン酸類含有物及びその加熱物のpHは、例えば1.5~5.0、3.0~5.0又は4.0~5.0であってよい。
【0026】
マルトビオン酸類含有物の加熱物の性状は特に制限されず、固体状(例えば、粉末状)又は液状であってよい。製剤への配合のしやすさ並びに希釈及び詰め替えの容易さから、マルトビオン酸類含有物の加熱物は粉末状であってよい。
【0027】
本実施形態に係るマスキング剤は、例えば、食品添加物製剤の成分として好適に用いることができる。当該マスキング剤を含む食品添加物製剤は、マルトビオン酸類含有物の加熱物を含むため、食品添加物製剤中の製剤成分に起因する異味及び/又は異臭が抑制される。食品添加物製剤は、単一の用途を明記した単一目的製剤であってよく、2つ以上の目的を備える複数目的製剤であってもよい。複数目的製剤としては、例えば、酸化防止及びpH調整の目的を備える食品添加物製剤(例えば、水産物用品質改良剤)が挙げられる。
食品添加物製剤としては、例えば、チアミン塩製剤、酢酸塩製剤、酢酸製剤、酸味料製剤、pH調整剤製剤、調味料製剤、日持向上剤製剤、及び保存料製剤が挙げられる。チアミン塩製剤中のチアミン塩としては、例えば、チアミンラウリル硫酸塩、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、チアミンセチル硫酸塩、及びチアミンナフタレン-1,5ジスルホン酸塩が挙げられる。酢酸塩製剤中の酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、及び酢酸カルシウムが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るマスキング剤は、他のマスキング素材と併用して用いることもできる。他のマスキング剤と併用して用いる場合、本実施形態に係るマスキング剤は必要に応じて、希釈、詰替等した後に他のマスキング素材と混合されてもよい。このような他のマスキング素材としては例えば、さとうきび抽出物、及びサイクロデキストリンが挙げられる。
【0029】
本実施形態に係るマルトビオン酸類含有物の加熱物の製造方法は、マルトビオン酸類含有物を加熱する工程(加熱工程)を含む。マルトビオン酸類含有物は、上述した市販品をそのまま使用されてよく、上述した市販品に対して水の混合(加水)、中和等の処理を実施した後に使用されてもよい。
【0030】
加熱前のマルトビオン酸類含有物に水を混合する場合、混合される水の量は、マルトビオン酸類含有物の総量100質量部に対して、5質量部以上、10質量部以上又は12質量部であってよく、30質量部以下、20質量部以下、又は15質量部以下であってよい。
【0031】
加熱は湿熱条件であってもよく、乾熱条件であってもよい。加熱は、例えば、熱風により行われてもよく、過熱水蒸気により行われてもよく、マイクロ波により行われてもよく、これらの加熱方法を組み合わせて行われてもよい。加熱は高圧条件下で行われてもよく、無加圧条件で行われてもよい。加熱物を得るための装置としては、例えば、スチームコンベクションオーブン、電子レンジ、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、レトルト殺菌機、ニーダー、及びエクストルーダーが挙げられる。
【0032】
加熱はマルトビオン酸類含有物を容器内に入れ、密封した状態行われてもよく、密封することなく開放系で行われてもよい。
【0033】
加熱温度は加熱方法及び加熱時間等に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度の下限は、80℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、又は210℃以上であってよい。加熱温度が高いほど、マスキング効果に優れる加熱物が短時間で得られ易い。本明細書における加熱温度は加熱物を得るために使用した装置の設定温度であってよい。
【0034】
加熱温度の上限は、加熱物の着色及びカラメル臭の発生が抑制されやすくなることから、250℃以下、240℃以下、230℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下、190℃以下、180℃以下、170℃以下、160℃以下、150℃以下、140℃以下又は135℃以下であってよい。
【0035】
加熱時間は加熱方法及び加熱温度等に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱時間は1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、3時間以上、5時間以上、8時間以上、又は10時間以上であってよく、15時間以下又は13時間以下であってよい。
【0036】
加熱は乾熱加熱(例えば、熱風加熱)により行われてよい。乾熱加熱は、160~240℃、3分以上(例えば、3分以上10分以下)の条件で行われてよく、マスキング効果により優れる加熱物が得られることから、190~240℃、3分以上(例えば、3分以上10分以下)の条件で行われることが好ましく、マスキング効果により優れ、着色及びカラメル臭が抑制された加熱物が得られる観点から、190~210℃、3分以上(例えば、3分以上10分以下)の条件で行われることがより好ましい。
【0037】
加熱が湿熱加熱(例えば、過熱水蒸気加熱)により行われてよい。湿熱加熱は、100~200℃、10分以上(例えば10分以上15時間以下)の条件で行われてよい。
【0038】
湿熱加熱における加熱時間が10分以上1時間未満(例えば10~30分)である場合、マスキング効果により優れた加熱物が得られる観点から、湿熱加熱における加熱温度は160~200℃であることが好ましく、マスキング効果により優れ、かつ着色がより抑制された加熱物が得られる観点から、湿熱加熱における加熱温度は160~180℃であることがより好ましい。
【0039】
湿熱加熱における加熱時間が1時間以上5時間未満(例えば2~4時間)である場合、マスキング効果により優れ、かつ着色がより抑制された加熱物が得られる観点から、湿熱加熱における加熱温度は100~150℃であることが好ましく、マスキング効果により優れ、かつ着色及びカラメル臭がより抑制された加熱物が得られる観点から、湿熱加熱における加熱温度は100~135℃であることがより好ましい。
【0040】
湿熱加熱における加熱時間が5時間以上(例えば5~15時間又は7~13時間)である場合、マスキング効果により優れ、かつ着色がより抑制された加熱物が得られる観点から加熱温度は100~150℃又は110~140℃であることが好ましい。
【0041】
加熱がマイクロ波により行われる場合、当該加熱は、加熱前のマルトビオン酸類含有物と水とを混合し、加熱によって水が気化して概ね除去されるまで実施されてよい。マイクロ波により加熱は、例えば、加えた水の95質量%以上又は100質量%以上が除去されるように行われてよい。
【0042】
加熱は加圧条件下で行われてもよい。加圧される際の圧力は加熱温度等に応じて適宜設定することができる。加圧される際の圧力は、例えば、0.02MPa以上、0.04MPa以上、0.1MPa以上、又は0.2MPa以上であってよく、0.4MPa以下であってもよい。
【0043】
加熱はマスキング効果に優れる加熱物が得られ易いことから、湿熱加熱により行われることが好ましく、レトルト殺菌機を使用した加圧条件下での湿熱加熱により行われることがより好ましい。
【0044】
マルトビオン酸類含有物の加熱物は粉砕されてもよい。すなわち、本実施形態に係るマルトビオン酸類含有物の加熱物の製造方法は、マルトビオン酸類含有物の加熱物を粉砕する工程(粉砕工程)を更に含んでいてよい。粉砕工程を含むことによって粉末状の加熱物が得られることができる。粉砕する方法としては、例えば、ハンマークラッシャー、ハンマーミル、カッターミル、ハイスピードミル、ピンミル、及びボールミル等が挙げられる。
【0045】
マルトビオン酸類含有物の加熱物の好適な製造方法の一例について説明する。まず、マルトビオン酸類含有物を密封した状態で125~128℃、2~4時間加熱する。この場合の加熱にはレトルト殺菌機が好適に用いられる。加熱後に得られたマルトビオン酸類含有物の加熱物を粉砕して粉末状のマルトビオン酸類含有物の加熱物を得る。
【0046】
本実施形態に係る異味及び/又は異臭をマスキングする方法は、マルトビオン酸類含有物の加熱物を対象物に含有させることを含む。
【0047】
対象物は異味及び/又は異臭を発生し得るものであってよく、食品又は食品添加物製剤であってよい。食品としては、例えば、ビタミンB1、酢酸ナトリウム、大豆タンパク質及びこれらを含む食品、レバー(例えば、豚レバー)、魚類(例えば、サンマ、アジ、イワシ、キャットフィッシュ、カツオ)及びこれらの加工品が挙げられる。食品添加物製剤としては、例えば、チアミン塩製剤及び酢酸塩製剤が挙げられる。
【0048】
マルトビオン酸類含有物の加熱物を対象物に含有させる方法は特に制限されず、例えば、対象物又はその原料にマルトビオン酸類含有物の加熱物を含有させる方法を用いることができる。マルトビオン酸類含有物の加熱物を含有させる際には必要に応じて、希釈、詰替等の処理が行われてよい。
【0049】
マルトビオン酸類含有物の加熱物の含有量は、対象物の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、マルトビオン酸類含有物の加熱物の含有量は、対象物の全質量を基準として、50質量ppm以上、80質量ppm以上、100質量ppm以上、150質量ppm以上、200質量ppm以上、又は250質量ppm以上であってよく、3000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、800質量ppm以下、600質量ppm以下、又は400質量ppm以下であってよい。
【0050】
本発明の一実施形態として、マルトビオン酸類含有物の加熱物からなる組成物が提供される。当該組成物を対象物に含有させることによって対象物から生じる異味及び/又は異臭をマスキングすることが可能になる。したがって、当該組成物は異味及び/又は異臭のマスキング用組成物として好適に用いることができる。
【0051】
組成物における加熱物はマルトールを含有してよい。マルトビオン酸類含有物の加熱物がマルトールを含有する場合、当該加熱物の異味及び/又は異臭のマスキング効果、特にチアミン臭のマスキング効果が更に優れたものとなる。本発明の一実施形態としてマルトールを有効成分として含有するチアミン臭のマスキング剤が提供される。
【0052】
組成物におけるマルトールの含有量は、マスキング剤におけるマルトールの含有量として述べた数値範囲のとおりであってよい。組成物におけるマルトビオン酸含有物の加熱物のその他の具体的態様についてもマスキング剤におけるマルトビオン酸含有物の加熱物の具体的態様として述べたものを適用することができる。組成物は、上述したマルトビオン酸類含有物の加熱物を製造する方法によって得ることができる。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0054】
マルトビオン酸類含有物として次に示すものを用意した。
・サワーオリゴ(マルトビオン酸含有水飴、サンエイ糖化株式会社、マルトビオン酸含有量40質量%以上)
・サワーオリゴC(マルトビオン酸Ca含有粉飴、サンエイ糖化株式会社、マルトビオン酸含有量60質量%以上)
【0055】
<試験例1:マルトビオン酸ナトリウム含有物の加熱物の調製及び評価>
表1に示す検体1及び検体2を、加熱したチアミン溶液に添加することでマルトビオン酸類含有物の加熱物のマスキング効果を評価した。
【0056】
マルトビオン酸類の加熱物を含む検体(検体2)は次の方法によって調製した。水酸化ナトリウム3.3g及び水6.7gを混合して得た水酸化ナトリウム水溶液と、サワーオリゴ50gとを混合して、サワーオリゴの中和物としてマルトビオン酸ナトリウム(MB-Na)含有物を得た。当該中和物をスチームコンベクションオーブン内で140℃、60分間の条件で加熱した。これにより検体2を得た。サワーオリゴに対する水酸化ナトリウムの添加量は、0.5N水酸化ナトリウム溶液を用いた酸度滴定により求められたサワーオリゴの酸度に対応した水酸化ナトリウムの量である。サワーオリゴを含む検体1は、サワーオリゴ50gと水6.7gとを混合することで調製した。
【0057】
検体1及び検体2のマスキング効果の評価では、無添加と比較して、チアミン臭の差が認められないものを「×」、チアミン臭が僅かに抑制されているものを「△」、チアミン臭の抑制が明らかに認められる場合を「〇」とした。マスキング効果の評価結果を表1に示す。表1に示す添加量は、チアミン溶液の全質量に対する検体1又は検体2の添加量(質量%)である。チアミン溶液としては、チアミン溶液の全量に対して、チアミン塩酸塩濃度が400質量ppmである溶液を100℃、60分の条件でスチーム加熱したものを用いた。
【表1】
【0058】
表1のとおり、マルトビオン酸類の加熱物がチアミン臭のマスキング効果を有していることが示された。
【0059】
<試験例2:マルトビオン酸カルシウム含有物の加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴC100質量部に対して、30質量部の水を加えて溶解させたものをビーカーに入れ、600Wの電子レンジで水分が概ね飛ぶまで加熱した。室温(約25℃)まで冷やし粉砕して、マルトビオン酸カルシウム(MB-Ca)含有物の加熱物(MB-Ca加熱物)を得た。
【0060】
MB-Ca加熱物(実施例)、及びマルトビオン酸カルシウム(MB-Ca)含有物(サワーオリゴC)の非加熱物(比較例)について、各評価対象物(食品又は食品添加物)における異味及び/又は異臭のマスキング効果を評価した。官能評価用の試料は、対象物に実施例及び比較例それぞれを表2に示す添加量となるように添加することによって調製した。
【0061】
官能評価は、日頃から訓練された中から選抜された3~6名のパネルにより実施した。評価はパネルの総評であり、次の基準に基づいて実施した。無添加を基準としてパネル全員が見分けるのが難しいと判断した差を「×」、パネルの内、過半数が見分けることが難しいと判断した差を「△」、パネルの半数以上の人が見分けられる差を「○」とした。
【表2】
【0062】
<試験例3:加熱物の成分分析>
マルトビオン酸Caの加熱物(MB-Ca加熱物)は次の方法で調製した。サワーオリゴCをステンレス製のバットに薄く広げスチームコンベクションオーブンを用い、設定温度120℃、8時間の条件で過熱水蒸気加熱した。加熱後、室温にて放冷及び粉砕し、MB-Ca加熱物を得た。加熱はマルゼン社製スチームコンベクションオーブンSSC-05SCを用いコンビネーションモード蒸気量3(最大)で行った。これとは別にサワーオリゴCを耐熱袋に密封の上オートクレーブで130℃1時間の設定で加熱し、粉砕したものも作製した。
【0063】
マルトビオン酸Caの非加熱物、及びMB-Ca加熱物をLC-MS/MS分析に供した。詳細な分析条件は次に示すとおりとした。スチームコンベクションオーブン(過熱水蒸気加熱120℃8時間)、又はオートクレーブ(130℃1時間・密封袋)で加熱及び非加熱のマルトビオン酸Ca0.1%溶液をODSカラムを用いてScanモードを採用し分析した。
条件
HPLC: UltiMate 3000
移動相A:0.1%ギ酸水溶液
移動相B:0.1%ギ酸メタノール
グラジエントテーブル:
【表3】
【0064】
カラム:Thermo Scientific Hypersil GOLD (150x2.1mm,1.9μm)
カラム温度:55℃
流速:0.3mL/min
注入量:2μL
【0065】
MS: Q Exactive Focus (Thermo Scientific)
イオン化条件
イオン化法:H-ESI
スプレー電圧:pos 3.0/neg 2.5kV
ベーポライザ温度:400℃
キャピラリー温度:250℃
Sheath gas:50 Arb
Aux gas:15 Arb
S-lens-level:50
【0066】
LC-MS/MS分析によってMB-Ca加熱物中の一成分としてマルトールが同定された。
【0067】
好味酢曹(酢酸ナトリウム(無水)・氷酢酸製剤(株式会社タイショーテクノス))を1質量%となるように添加した水溶液を用いて、マスキング素材無添加と比較し、二つの試験区をブラインドテスト(パネル5名)により、効果を検証した。
【0068】
[試験区1]
加熱を、オートクレーブを用い、128℃、3時間の条件で実施して、MB-Ca加熱物を調製し、当該MB-Ca加熱物を、好味酢曹を含む水溶液と混合した。好味酢曹を含む水溶液の全質量に対するMB-Ca加熱物の添加量は、200質量ppmとした。試験区1のMB-Ca加熱物中のマルトールの含有量は0.14質量ppmであった。
【0069】
[試験区2]
マルトビオン酸Ca(非加熱物)及びマルトールを、好味酢曹を含む水溶液に混合して、試験区2(MB-Ca+マルトール)を調製した。好味酢曹を含む水溶液の全質量に対するマルトビオン酸Ca(非加熱)の添加量は200質量ppmとし、マルトールの添加量は0.14質量ppmとした。
【0070】
官能評価は、以下の基準に基づいて実施した。好味酢曹1質量%溶液に各素材を添加し製剤に由来する味を酸味、酸臭、及び酢酸ナトリウム特有のえぐ味の3つの項目について無添加を基準(評点3)として評価した。パネル5名の評点の平均値を表4に示す。
評点 評価項目
0: 対象味・臭を非常に弱く感じる
1: 対象味・臭を弱く感じる。
2: 対象味・臭をやや弱く感じる。
3: マスキング効果なし
【表4】
【0071】
MB-Ca加熱物中のマルトール以外の成分もマスキング効果に寄与していることが確認された。
【0072】
マルトビオン酸Caを包材(アルミ20cm×30cm)に充填密閉し(充填量:300g)、その後、温度125℃の条件で加熱した。表6に示す時間加熱した後にシャワー冷却を行って、MB-Ca加熱物を得た。当該MB-Ca加熱物のマルトール量及びフェノール性化合物量(没食子酸として:ppm)を測定した。測定結果を表6に示す。
【0073】
マルトール量はODSカラムを用いたHPLCにより測定した。条件については表5に示すとおりである。
【表5】
【0074】
フェノール性化合物量は、フォリンチオカルト法にて、没食子酸換算の量として測定した。具体的な測定条件は次に示すとおりである。
没食子酸として10~100質量ppmに希釈した検体を試料液として1ml用い、フェノール試薬1mlを添加し室温にて3分間放置したのち10%(w/v)炭酸ナトリウム溶液1mlを添加し30分(又は60分)室温にて放置した際の700nm吸光度を測定し、没食子酸溶液を標準液として求めた検量線に従い、検体中のフェノール性化合物の濃度を求めた。
【0075】
【0076】
<試験例4:スチームコンベクションオーブンによる加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴCをステンレス缶(開放系)に入れ、スチームコンベクションオーブンによる加熱を行って、加熱物を得た。得られた加熱物を粉砕して、マルトビオン酸カルシウム含有物の加熱物(実施例)を得た。加熱条件は表7、表8及び表9に示すとおりとした。表7、表8及び表9に示す設定温度は使用した装置の設定温度であり、表7、表8及び表9に示す時間は設定温度で維持した時間である。加熱方法としては、乾熱(熱風加熱)又は湿熱(過熱水蒸気加熱)を用いた。
【0077】
加熱によって得られた実施例及び加熱処理を行わなかった比較例について、チアミン臭マスキング効果を官能評価により評価した。官能評価用の試料は、チアミンラウリル硫酸塩(TLS)を濃度300質量ppmで含む水溶液に対して、実施例及び比較例それぞれを表7、表8及び表9に示す添加量となるように添加することによって調製した。
【0078】
官能評価はパネル1名により「-」、「±」、「+」及び「++」(十分マスキング効果あり)の4段階で実施した。無添加と判別が難しい場合「-」と評価される。無添加と比較してマスキング効果を感じる場合には「±」、「+」及び「++」と評価され、「±」、「+」及び「++」はこの順にマスキング効果が高い(「++」が最もマスキング効果が高い)ことを意味する。
【0079】
実施例及び比較例について着色度の評価を行った。着色度は波長440nmにおける吸光度を測定することによって評価した。吸光度測定用の試料は、実施例及び比較例を濃度1質量%(w/w%)となるように水に溶解させることによって調製した。
【表7】
【表8】
【表9】
【0080】
表7、表8及び表9のとおり、マルトビオン酸カルシウムの加熱物が、マルトビオン酸カルシウム(非加熱物)と比べて、高いチアミン臭マスキング効果を有することが示された。加熱温度が180℃以下である場合、マルトビオン酸カルシウムの加熱物の着色が顕著に抑制されていた。
【0081】
実施例1-1~1-2では実施例1-3と比べてカラメル臭の発生がより抑制されていた。実施例2-1~2-2及び2-4~2-7は、実施例2-3と比べてカラメル臭の発生がより抑制されていた。実施例2-1及び2-4~2-6は、実施例2-2、2-3、及び2-7と比べてカラメル臭の発生がより顕著に抑制されていた。
【0082】
<試験例5:オートクレーブ加熱(高圧蒸気加熱)による加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴCを袋に入れ、オートクレーブによる加熱(高圧蒸気加熱)を行って、マルトビオン酸カルシウムの加熱物を得た。得られた加熱物を粉砕して、実施例4-1~4-4とした。加熱条件は表10に示すとおりとした。表10に示す設定温度は使用した装置の設定温度であり、表10に示す時間は設定温度で維持した時間である。
【0083】
実施例4-1~4-4のチアミン臭のマスキング効果を官能評価により評価した。官能評価用の試料は、チアミンラウリル硫酸塩(TLS)を濃度300質量ppmで含む水溶液に対して、実施例4-1~4-4それぞれを表10に示す添加量となるように添加することによって調製した。
【0084】
官能評価はパネル1名により「-」、「±」、「+」及び「++」の4段階で実施した。無添加と判別が難しい場合「-」と評価される。無添加と比較してマスキング効果を感じる場合には「±」、「+」及び「++」と評価され、「±」、「+」及び「++」はこの順にマスキング効果が高い(「++」が最もマスキング効果が高い)ことを意味する。
【0085】
実施例4-3について、着色度の評価を行った。着色度は波長440nmにおける吸光度を測定することによって評価した。吸光度測定用の試料は、実施例4-3を濃度1質量%となるように水に溶解させることによって調製した。
【表10】
【0086】
表10のとおり、マルトビオン酸カルシウムの加熱物(実施例4-1~4-4)がチアミン臭のマスキング効果を有することが示された。実施例4-3の着色度の評価結果から、マルトビオン酸カルシウムの加熱物は着色が充分に抑制されていることがわかる。
【0087】
<試験例6:レトルト殺菌機によるマルトビオン酸カルシウム含有物の加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴC50g、及び水20gを含むマルトビオン酸カルシウム含有物を用意し、耐熱袋に入れた。耐熱袋内のマルトビオン酸カルシウム含有物をレトルト殺菌機を用いて、125℃、2時間の条件で加熱して、加熱物(MB-Ca加熱物)を得た。MB-Ca加熱物のpHは4.55であった。MB-Ca加熱物中のマルトールの含有量は当該加熱物の全質量を基準として、142.8質量ppmであった。MB-Ca加熱物中のフェノール性化合物の含有量は当該加熱物の全質量を基準として、1058質量ppmであった。当該MB-Ca加熱物は、チアミン臭の抑制効果を有していた。
【0088】
<試験例7:低温長時間加熱によるマルトビオン酸カルシウム含有物の加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴCを耐熱袋に入れ、オートクレーブにて95℃、4時間の条件で加熱したもの粉砕し、マルトビオン酸カルシウムの加熱物の検体とした。
【0089】
沸騰した水(熱湯)にチアミンラウリル硫酸塩(TLS)を50質量ppmになるように溶解し、室温付近まで冷まして得た溶液(TLS溶液)を用いて評価を行った。当該溶液に対して検体を添加した試料Aと、検体を添加しなかった試料B(対照)とを用い、3点比較法でマスキング効果を評価した。マルトビオン酸カルシウムの加熱物の添加量は、TLS溶液の全質量を基準として400質量ppmとした。3点比較法はパネル3名により実施した。3点比較法は、AAB又はABBの3点で、他の2つと異なる1つの試料を当て、かつ、マルトビオン酸カルシウムの加熱物の方がマスキング効果が高いとしたものを正解(マスキング効果あり)とした。
【表11】
【0090】
表11のとおり、パネル3名とも3点の内一点しか含まれない試料を見分けることができ、マルトビオン酸カルシウムの加熱物のマスキング効果が確認された。
【0091】
【0092】
低温長時間加熱の条件においてもマルトビオン酸カルシウムの加熱物はフェノール性化合物及びマルトールを含んでいた。
【0093】
<試験例8:マルトビオン酸類の非加熱物によるマスキング効果>
3点比較法によりマルトビオン酸類の非加熱物によるチアミン臭のマスキング効果を確認した。対象物質であるサワーオリゴ又はサワーオリゴCをTLS溶液に添加した試料A、TLS溶液に対象物質を添加しなかった試料Bを用いたこと以外は、上記試験例7と同様にしてチアミン臭のマスキング効果を評価した。AAB、ABBの3点で他の2つと異なる一つの試料を当て、かつ対象物質(試料A)の方がマスキング効果が高いとしたものを正解(マスキング効果あり)とした。対象物質無添加の試料B(対照)と比較して、差がみられないものを「×」、チアミン臭が僅かに抑制されているものを「△」、抑制が明らかに認められる場合「〇」と判定した。
【表13】
【0094】
<試験例9:マルトビオン酸カリウム含有物の加熱物の調製及び評価>
サワーオリゴ50g、水酸化カリウム(KOH)4.6g、及び水6.7gを含むマルトビオン酸カリウム含有物を用意し、耐熱袋に入れた。耐熱袋内のマルトビオン酸カリウム含有物をレトルト殺菌機を用いて、125℃、2時間の条件で加熱して、加熱物(MB-K加熱物)を得た。マルトビオン酸カリウム含有物のpH(加熱前)は4.47であり、MB-K加熱物のpHは4.5であった。MB-K加熱物中のマルトールの含有量は当該加熱物の全質量を基準として、30.6質量ppmであった。
【0095】
酢酸ナトリウムの効果の検証試験
好味酢曹1%溶液(w/w)を基準として各素材を400質量ppmを添加した際のマスキング効果(評価対象:酸味、酸臭、及び酢酸ナトリウムによるえぐ味)をブラインドテストにて評価した。基準(無添加)についてはパネル(3名)に明かしたうえ他の検体はブラインドにてそのマスキング効果について評価を行った。
【0096】
無添加と比較して、マスキング効果がない場合「×」、僅かにマスキング効果があると思われる場合「△」、マスキング効果があると認識された場合「○」と評価した。
【表14】
【0097】
<試験例10:パラチノース加熱物との比較試験>
サワーオリゴCを過熱水蒸気加熱により、170℃、20分の条件で加熱して、マルトビオン酸カリウム含有物の加熱物を得た。パラチノース加熱物としては市販品(株式会社ロッテ)を用いた。
【0098】
TLSを濃度200質量ppmで含むTLS水溶液に対して、パラチノース加熱物又はマルトビオン酸加熱物を表15に示す量添加して得られた溶液を用いてチアミン臭のマスキング効果についての官能評価を実施した。官能評価は3名のパネルにより実施した。官能評価では、無添加を基準として3名のパネル全員が無添加と同程度のチアミン臭を感じると判断した場合「×」、無添加を基準として3名のパネル全員が十分にチアミン臭の抑制効果を感じると判断した場合「〇」、1~3名のパネルのうち1~2名がチアミン抑制効果を感じると判断した場合「△」と判断される。
【表15】
【0099】
<試験例11:異性化液糖加熱物との比較試験>
サワーオリゴCをオートクレーブを用い、125℃、4時間の条件で加熱して、マルトビオン酸類含有物の加熱物(MB-Ca加熱物)を得た。異性化液糖加熱物として調味シラップH-90P(昭和化学工業株式会社・昭和商事株式会社)を用意した。
【0100】
TLSを熱湯で溶解させて、TLSを20質量ppm含むTLS水溶液を調製した。TLS水溶液を室温まで冷ましてから、当該TLS水溶液に対して、400質量ppmとなるようにMB-Ca加熱物及び調味シラップH-90Pそれぞれを添加した。
【0101】
官能評価は5名のパネルにより実施した。MB-Ca加熱物又は調味シラップH-90P無添加の場合(基準)と比較して、臭気を感じない場合0点、臭気を感じにくい場合1点、臭気を僅かに感じにくい場合2点、効果なしの場合3点、臭い場合4点とした。5名のパネルによる評点の平均を表16に示す。
【表16】
【0102】
<試験例12:マルトールの効果>
マルトール(東京化成工業株式会社製)を、TLSを200質量ppm含むTLS水溶液に添加して、チアミン臭の抑制効果を3名のパネルにより官能評価した。官能評価では、無添加を基準として3名のパネル全員が無添加と同程度のチアミン臭を感じると判断した場合「×」、無添加を基準として3名のパネル全員が十分にチアミン臭の抑制効果を感じると判断した場合「〇」、1~3名のパネルのうち1~2名がチアミン抑制効果を感じると判断した場合「△」と判断される。
【表17】
前記マルトビオン酸類含有物が、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水飴、又は、前記マルトビオン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む粉飴である、請求項1に記載のマスキング剤。
前記異味及び/又は異臭がチアミン臭、魚臭、酢酸臭、大豆臭、獣臭、酸味、えぐ味及び金属味からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のマスキング剤。