(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150069
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法、及びそのねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063301
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 景太
(72)【発明者】
【氏名】栗生 賢
(72)【発明者】
【氏名】森重 有矢
(72)【発明者】
【氏名】小川 正裕
(72)【発明者】
【氏名】和田 顕
【テーマコード(参考)】
3H013
【Fターム(参考)】
3H013JA02
(57)【要約】
【課題】ねじ継手によってカップリングを鋼管に締結する際にシール接触領域で焼付きを抑制できる締結方法を提供する。
【解決手段】鋼管(1)のピン(11)をカップリング(2)のボックス(21)に挿入する。鋼管用グリッパ(4)によって管本体(10)を掴む。カップリング用グリッパ(5)によってカップリング本体(20)及びボックス(21)を掴む。鋼管(1)とカップリング(2)を中心軸(C1及びC2)回りに相対的に回転させ、雄ねじ部(111)と雌ねじ部(211)とを相互に噛み合わせるとともに、ピンシール面(112)とボックスシール面(212)とを相互に干渉接触させる。ボックス(21)は環状溝(214)を備える。環状溝(214)は、ボックス(21)の外周面に設けられ、締結状態においてピンシール面(112)とボックスシール面(212)との接触領域(S1)を囲む。
【選択図】
図5C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法であって、
管本体と、前記管本体の一方端に連続するピンと、を備え、前記ピンは、前記ピンの外周面に設けられた雄ねじ部と、前記雄ねじ部よりも前記ピンの先端側において前記ピンの前記外周面に設けられたピンシール面と、を含む、鋼管を準備する鋼管準備工程と、
カップリング本体と、前記カップリング本体の一方端に連続し、前記ピンが挿入されるように構成されたボックスと、を備え、前記ボックスは、前記雄ねじ部に対応して前記ボックスの内周面に設けられ、前記ピンと前記ボックスとの締結状態において前記雄ねじ部と噛み合うように構成された雌ねじ部と、前記ピンシール面に対応して前記ボックスの前記内周面に設けられ、前記締結状態において前記ピンシール面と干渉接触するように構成されたボックスシール面と、前記ボックスの外周面に設けられ、前記締結状態において前記ピンシール面と前記ボックスシール面との接触領域を囲むよう構成された環状溝と、を含む、カップリングを準備するカップリング準備工程と、
前記鋼管の中心軸を前記カップリングの中心軸と一致させつつ、前記ピンを前記ボックスに挿入するピン挿入工程と、
鋼管用グリッパによって前記管本体を掴む鋼管掴み工程と、
カップリング用グリッパによって前記カップリング本体及び前記ボックスを掴むカップリング掴み工程と、
前記鋼管用グリッパで掴んだ前記鋼管と前記カップリング用グリッパで掴んだ前記カップリングを前記中心軸回りに相対的に回転させて、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とを相互に噛み合わせるとともに、前記ピンシール面と前記ボックスシール面とを相互に干渉接触させる締結工程と、を備える、締結方法。
【請求項2】
請求項1に記載の締結方法であって、
前記カップリングの外径が前記管本体の外径の110%以下である、締結方法。
【請求項3】
請求項1に記載の締結方法であって、
前記カップリングの前記中心軸に沿う方向において、前記接触領域の中央から前記環状溝の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記接触領域の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離の3倍以上であり、
前記カップリングの前記中心軸に沿う方向において、前記接触領域の前記中央から前記環状溝の前記カップリング本体側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記接触領域の前記カップリング本体側に位置する側端までの距離の3倍以上である、締結方法。
【請求項4】
請求項1に記載の締結方法であって、
前記カップリングの前記中心軸に沿う方向において、前記接触領域の中央から前記環状溝の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記ボックスの危険断面の位置までの距離よりも小さい、締結方法。
【請求項5】
請求項1に記載の締結方法であって、
前記カップリングの前記中心軸に垂直な方向において、前記環状溝の深さは、前記接触領域における前記ピンシール面と前記ボックスシール面との最大干渉量の大きさの20%以上である、締結方法。
【請求項6】
請求項1に記載の締結方法であって、さらに、
前記カップリング本体の内周面に対応する軸対称形状の外周面を有する治具を準備する治具準備工程と、
前記カップリング掴み工程の前に、前記治具の中心軸を前記カップリングの前記中心軸と一致させつつ、前記治具を前記カップリングに挿入して前記カップリング本体の内側に配置する治具配置工程と、を備える、締結方法。
【請求項7】
請求項6に記載の締結方法であって、
前記カップリング本体の前記内周面、及び前記治具の前記外周面が円筒形であり、前記治具の外径が前記カップリング本体の内径よりも小さくて、前記カップリング本体の前記内径と前記治具の前記外径との差が0.01mm以下である、締結方法。
【請求項8】
請求項7に記載の締結方法であって、
前記治具の長さが前記カップリング本体の長さと同じかそれよりも大きい、締結方法。
【請求項9】
請求項6に記載の締結方法であって、
前記カップリング本体の前記内周面は、前記ボックスに連続する前記一方端から他方端に向けて口広がりとなるテーパを有し、
前記治具の前記外周面は、前記カップリング本体の前記テーパに対応するテーパを有する、締結方法。
【請求項10】
請求項9に記載の締結方法であって、
前記カップリング本体の前記テーパ及び前記治具の前記テーパそれぞれのテーパ率が1/50以上である、締結方法。
【請求項11】
請求項9に記載の締結方法であって、
前記治具の長さは、前記カップリング本体の長さよりも10mm以上大きい、締結方法。
【請求項12】
請求項6に記載の締結方法であって、
前記治具は、前記中心軸に沿う貫通穴を有する、締結方法。
【請求項13】
請求項12に記載の締結方法であって、
前記治具の肉厚は、前記カップリング本体の肉厚よりも大きい、締結方法。
【請求項14】
鋼管とカップリングとを連結するためのねじ継手であって、
前記鋼管は、管本体と、前記管本体の一方端に連続するピンと、を備え、
前記カップリングは、カップリング本体と、前記カップリング本体の一方端に連続し、前記ピンが挿入されるボックスと、を備え、
前記ピンは、
前記ピンの外周面に設けられた雄ねじ部と、
前記雄ねじ部よりも前記ピンの先端側において前記ピンの前記外周面に設けられたピンシール面と、を含み、
前記ボックスは、
前記雄ねじ部に対応して前記ボックスの内周面に設けられ、前記ピンと前記ボックスとの締結状態において前記雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部と、
前記ピンシール面に対応して前記ボックスの前記内周面に設けられ、前記締結状態において前記ピンシール面と干渉接触するボックスシール面と、
前記ボックスの外周面に設けられ、前記締結状態において前記ピンシール面と前記ボックスシール面との接触領域を囲む環状溝と、を含む、ねじ継手。
【請求項15】
請求項14に記載のねじ継手であって、
前記カップリングの外径が前記管本体の外径の110%以下である、ねじ継手。
【請求項16】
請求項14に記載のねじ継手であって、
前記カップリングの中心軸に沿う方向において、前記接触領域の中央から前記環状溝の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記接触領域の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離の3倍以上であり、
前記カップリングの前記中心軸に沿う方向において、前記接触領域の前記中央から前記環状溝の前記カップリング本体側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記接触領域の前記カップリング本体側に位置する側端までの距離の3倍以上である、ねじ継手。
【請求項17】
請求項14に記載のねじ継手であって、
前記カップリングの中心軸に沿う方向において、前記接触領域の中央から前記環状溝の前記カップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、前記接触領域の前記中央から前記ボックスの危険断面の位置までの距離よりも小さい、ねじ継手。
【請求項18】
請求項14に記載のねじ継手であって、
前記カップリングの前記中心軸に垂直な方向において、前記環状溝の深さは、前記接触領域における前記ピンシール面と前記ボックスシール面との最大干渉量の大きさの20%以上である、ねじ継手。
【請求項19】
請求項14に記載のねじ継手であって、
前記カップリング本体の内周面は、前記ボックスに連続する前記一方端から他方端に向けて口広がりとなるテーパを有する、ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法に関する。さらに本開示は、鋼管とカップリングとを連結するためのねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」とも言う)において、地下資源を採掘するために油井管(OCTG:Oil Country Tubular Goods)と呼ばれる鋼管が使用される。鋼管は順次連結される。鋼管の連結にねじ継手が用いられる。ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型に大別される。カップリング型のねじ継手の場合、鋼管同士を連結するのに管状のカップリングが用いられる。インテグラル型のねじ継手の場合、カップリングは用いられない。
【0003】
カップリング型のねじ継手では、鋼管の両端部それぞれの外周面に雄ねじ部が設けられ、カップリングの両端部それぞれの内周面に雌ねじ部が設けられる。鋼管の一方の雄ねじ部がカップリングの一方の雌ねじ部にねじ込まれ、カップリングが鋼管に締結される。このように締結されたカップリング付き鋼管の雄ねじ部が、別に締結されたカップリング付き鋼管の雌ねじ部にねじ込まれる。これにより、鋼管同士がカップリングを介して連結される。
【0004】
インテグラル型のねじ継手では、鋼管の一方の端部の外周面に雄ねじ部が設けられ、その鋼管の他方の端部の内周面に雌ねじ部が設けられる。鋼管の雄ねじ部が別の鋼管の雌ねじ部にねじ込まれ、両鋼管が締結される。これにより、鋼管同士が直接連結される。
【0005】
一般に、雄ねじ部が設けられた鋼管の端部は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が設けられた鋼管又はカップリングの端部は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。
【0006】
近年、大水深で大深度の油井が増加している。このような油井では、油井管が多重に配置される。多重構造の油井には、ボックスの外径と鋼管の本体の外径との差が鋼管の本体の外径の数%程度と小さいねじ継手が多用される。このねじ継手はスリム型ねじ継手と称される。スリム型ねじ継手のほとんどはインテグラル型のねじ継手を適用する。
【0007】
インテグラル型のねじ継手の場合、鋼管を製造する際、雌ねじ部のねじ切り前に冷間での管端拡管加工及び応力除去熱処理が必要となる。このため、製造コストが高い。また、冷間加工又は熱処理によって鋼管の材料特性が変化するおそれがある。
【0008】
この点、カップリング型のねじ継手の場合、カップリングを製造する際、外径及び肉厚を調整した素管からカップリングを削り出す。この場合、冷間加工及び熱処理は必要ない。このため、カップリング型のねじ継手をスリム型ねじ継手に適用すれば、製造コストの低減を期待することができる。
【0009】
しかしながら、カップリング型のねじ継手がスリム型ねじ継手に適用された場合、以下の事態が危惧される。特開平5-116043号公報(特許文献1)及び特開2003-090468号公報(特許文献2)に開示されるように、カップリングを鋼管に締結する際、カップリングの雌ねじ部に鋼管の雄ねじ部を挿入し、鋼管に対してカップリングを中心軸回りに回転させる。これにより、鋼管がカップリングにねじ込まれて、雄ねじ部と雌ねじ部とが相互に噛み合い、カップリングが鋼管に締結される。この締結作業は、通常、工場内で締結装置を用いて行われる。
【0010】
ねじ継手のシール性能を高めるために、ピン(鋼管の端部)の外周面にピンシール面が設けられ、ボックス(カップリングの端部)の内周面にボックスシール面が設けられることが多い。ピンの外周面のうち、ピンシール面は、雄ねじ部よりもピンの先端側に設けられる。ボックスの内周面のうち、ボックスシール面は、ピンシール面に対応して雌ねじ部よりもカップリング本体側に設けられる。カップリングが鋼管に適切に締結されれば、雄ねじ部と雌ねじ部とが相互に噛み合うとともに、ピンシール面とボックスシール面とが相互に干渉接触する。
【0011】
カップリングを鋼管に締結する際、鋼管は管本体を鋼管用グリッパで掴まれる。カップリングはカップリング本体をカップリング用グリッパで掴まれる。カップリングは鋼管に比べてはるかに短く、それ故にカップリング本体はなおさら短い。スリム型ねじ継手の場合、カップリング本体の肉厚が小さいことから、カップリングの剛性は高くはない。このため、カップリング用グリッパの掴み圧によって、カップリングは縮径変形しやすい。
【0012】
カップリングが縮径変形すれば、カップリングを鋼管に締結する途中、雄ねじ部と雌ねじ部の間で焼付きが発生するおそれがある。とりわけ、ボックスシール面はカップリング本体に近く、ボックスシール面付近の縮径変形の度合いは雌ねじ部のそれよりも大きい。このため、カップリングを鋼管に締結する途中、カップリングの縮径変形に伴って、ピンシール面とボックスシール面との接触領域(シール接触領域)で面圧が増大する。このため、シール接触領域で焼付きが発生するリスクは極めて高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5-116043号公報
【特許文献2】特開2003-090468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本開示の1つの目的は、ねじ継手によってカップリングを鋼管に締結する際にシール接触領域で焼付きを抑制できる締結方法を提供することである。また、本開示の他の目的は、シール接触領域で焼付きを抑制できるねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示に係る締結方法は、ねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法である。当該締結方法は、鋼管準備工程と、カップリング準備工程と、ピン挿入工程と、鋼管掴み工程と、カップリング掴み工程と、締結工程とを備える。鋼管準備工程は、鋼管を準備する。鋼管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の一方端に連続する。ピンは、雄ねじ部と、ピンシール面とを含む。雄ねじ部は、ピンの外周面に設けられる。ピンシール面は、雄ねじ部よりもピンの先端側においてピンの外周面に設けられる。カップリング準備工程は、カップリングを準備する。カップリングは、カップリング本体と、ボックスとを備える。ボックスは、カップリング本体の一方端に連続し、ピンが挿入されるように構成される。ボックスは、雌ねじ部と、ボックスシール面と、環状溝とを含む。雌ねじ部は、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられ、ピンとボックスとの締結状態において雄ねじ部と噛み合うように構成される。ボックスシール面は、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピンシール面と干渉して接触するように構成される。環状溝は、ボックスの外周面に設けられ、締結状態においてピンシール面とボックスシール面との接触領域を囲むよう構成される。
【0016】
ピン挿入工程は、鋼管の中心軸をカップリングの中心軸と一致させつつ、ピンをボックスに挿入する。鋼管掴み工程は、鋼管用グリッパによって管本体を掴む。カップリング掴み工程は、カップリング用グリッパによってカップリング本体及びボックスを掴む。そして、締結工程は、鋼管用グリッパで掴んだ鋼管とカップリング用グリッパで掴んだカップリングを中心軸回りに相対的に回転させて、雄ねじ部と雌ねじ部とを相互に噛み合わせるとともに、ピンシール面とボックスシール面とを相互に干渉接触させる。
【0017】
本開示に係るねじ継手は、鋼管とカップリングとを締結するためのねじ継手である。鋼管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の一方端に連続する。カップリングは、カップリング本体と、ボックスとを備える。ボックスは、カップリング本体の一方端に連続し、ピンが挿入される。ピンは、雄ねじ部と、ピンシール面とを含む。雄ねじ部は、ピンの外周面に設けられる。ピンシール面は、雄ねじ部よりもピンの先端側においてピンの外周面に設けられる。ボックスは、雌ねじ部と、ボックスシール面と、環状溝とを含む。雌ねじ部は、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられ、ピンとボックスとの締結状態において雄ねじ部と噛み合う。ボックスシール面は、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピンシール面と干渉接触する。環状溝は、ボックスの外周面に設けられ、締結状態においてピンシール面とボックスシール面との接触領域を囲む。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る締結方法によれば、ねじ継手によってカップリングを鋼管に締結する際にシール接触領域で焼付きを抑制することができる。また、本開示に係るねじ継手は、シール接触領域で焼付きを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1実施形態の鋼管の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のカップリングの縦断面図である。
【
図3】
図3は、締結状態におけるピンシール面とボックスシール面との接触領域、及びその周辺を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の締結方法を示すフローチャートである。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態の締結方法を示す縦断面図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態の締結方法を示す別の縦断面図である。
【
図5C】
図5Cは、第1実施形態の締結方法を示すさらに別の縦断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の治具の縦断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の締結方法を示すフローチャートである。
【
図8A】
図8Aは、第2実施形態の締結方法を示す縦断面図である。
【
図8B】
図8Bは、第2実施形態の締結方法を示す別の縦断面図である。
【
図8C】
図8Cは、第2実施形態の締結方法を示すさらに別の縦断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態のカップリングの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本開示はそれらの例示に限定されない。
【0021】
本開示の実施形態に係る締結方法は、ねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法である。当該締結方法は、鋼管準備工程と、カップリング準備工程と、ピン挿入工程と、鋼管掴み工程と、カップリング掴み工程と、締結工程とを備える。鋼管準備工程は、鋼管を準備する。鋼管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の一方端に連続する。ピンは、雄ねじ部と、ピンシール面とを含む。雄ねじ部は、ピンの外周面に設けられる。ピンシール面は、雄ねじ部よりもピンの先端側においてピンの外周面に設けられる。カップリング準備工程は、カップリングを準備する。カップリングは、カップリング本体と、ボックスとを備える。ボックスは、カップリング本体の一方端に連続し、ピンが挿入されるように構成される。ボックスは、雌ねじ部と、ボックスシール面と、環状溝とを含む。雌ねじ部は、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられ、ピンとボックスとの締結状態において雄ねじ部と噛み合うように構成される。ボックスシール面は、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピンシール面と干渉して接触するように構成される。環状溝は、ボックスの外周面に設けられ、締結状態においてピンシール面とボックスシール面との接触領域を囲むよう構成される。
【0022】
ピン挿入工程は、鋼管の中心軸をカップリングの中心軸と一致させつつ、ピンをボックスに挿入する。鋼管掴み工程は、鋼管用グリッパによって管本体を掴む。カップリング掴み工程は、カップリング用グリッパによってカップリング本体及びボックスを掴む。そして、締結工程は、鋼管用グリッパで掴んだ鋼管とカップリング用グリッパで掴んだカップリングを中心軸回りに相対的に回転させて、雄ねじ部と雌ねじ部とを相互に噛み合わせるとともに、ピンシール面とボックスシール面とを相互に干渉接触させる(第1の構成)。
【0023】
第1の構成の締結方法によれば、締結工程において、カップリングを鋼管に締結する際、すなわちピンをボックスに挿入して両者をねじ継手によって締結する際、カップリング用グリッパがカップリング本体及びボックスを掴んでいる。このとき、カップリングの外周面のうち、ピンシール面とボックスシール面との接触領域に対応する部分、すなわちシール接触領域を囲む環状溝の部分は、カップリング用グリッパと非接触状態となっている。この場合、カップリング用グリッパの掴み圧によってカップリングが縮径変形したとしても、カップリングの環状溝の部分では、カップリング用グリッパの掴み圧が緩和される。そのため、カップリングを鋼管に締結する途中、ピンシール面とボックスシール面との干渉接触に伴って、カップリングの環状溝の部分が拡径変形しようとするが、その拡径変形は、少なくとも環状溝の深さの分だけ許容される。これにより、シール接触領域で接触面圧の増大を抑制することができる。その結果、シール接触領域で焼付きを抑制することができる。
【0024】
このように焼付きを抑制することができるため、カップリングを鋼管に適切に締結することができる。そうすると、製造コストに優れたカップリング型のねじ継手をスリム型ねじ継手に適用することが可能になる。
【0025】
雄ねじ部及び雌ねじ部で構成されるねじの形態は、特に限定されない。
【0026】
典型的な例では、ねじは、例えばAPI規格のバットレスねじに代表される台形ねじである。この場合、雄ねじ部は、ピンねじ頂面、ピンねじ底面、ピン荷重フランク面、及びピン挿入フランク面を含む。雌ねじ部は、ボックスねじ頂面、ボックスねじ底面、ボックス荷重フランク面、ボックス挿入フランク面を含む。この場合、ねじにおいて、ピン荷重フランク面及びボックス荷重フランク面のフランク角は、負角であってもよい。ここで、ピン荷重フランク面が管軸に垂直な面に対して管本体側に傾斜する向きを負角とする。
【0027】
この場合、締結が完了した状態で相互に噛み合う雄ねじ部と雌ねじ部に締付け軸力が付与されるように、鋼管は、ピンにピンショルダ面を備える。そして、カップリングは、ボックスに、ピンショルダ面に対応してボックスショルダ面を備える。例えば、ピンショルダ面はピンの先端に設けられる。ピンショルダ面がピンの管本体側に設けられてもよい。
【0028】
ねじはダブテイル状ねじであってもよい。この場合、ねじにおいて、ピン挿入フランク面及びボックス挿入フランク面のフランク角は負角となっている。ここで、ピン挿入フランク面が管軸に垂直な面に対してピンの先端側に傾斜する向きを負角とする。締結が完了した状態で、ピン挿入フランク面はボックス挿入フランク面と強く接触し合う。つまり、雄ねじ部と雌ねじ部とが楔状に強く噛み合って、締付け軸力が生じる。この場合、ピンショルダ面、ボックスショルダ面は不要とすることができる。
【0029】
上記締結方法において、典型的な例では、カップリングの外径が管本体の外径の110%以下である(第2の構成)。
【0030】
この場合、カップリング型のねじ継手がスリム型ねじ継手に適用される。このため、スリム型ねじ継手において、製造コストの低減を期待できる。
【0031】
上記締結方法において、好ましくは、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央から接触領域のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離の3倍以上である。この場合、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央から接触領域のカップリング本体側に位置する側端までの距離の3倍以上であることが好ましい(第3の構成)。
【0032】
第3の構成では、カップリングの中心軸に沿う方向において、環状溝のカップリング本体とは反対側に位置する側端(以下、「環状溝の外側端」とも言う。)が、接触領域のカップリング本体とは反対側に位置する側端(以下、「接触領域の外側端」とも言う。)から、カップリング本体とは反対側(ボックスの先端側)に適度に離れた位置にある。また、環状溝のカップリング本体側に位置する側端(以下、「環状溝の内側端」とも言う。)が、接触領域のカップリング本体側に位置する側端(以下、「接触領域の内側端」とも言う。)から、カップリング本体側に適度に離れた位置にある。要するに、カップリングの中心軸に沿う方向において、環状溝の内側端から外側端までの長さ(幅)は、接触領域の内側端から外側端までの長さ(幅)よりも適度に大きい。そのため、カップリングを鋼管に締結する途中、カップリングにおいて、拡径変形を許容する環状溝の部分の範囲が適度に広くなる。これにより、シール接触領域で接触面圧の増大をより抑制することができる。その結果、シール接触領域で焼付きをより抑制することができる。
【0033】
上記締結方法において、好ましくは、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央からボックスの危険断面の位置までの距離よりも小さい(第4の構成)。
【0034】
第4の構成では、カップリングの中心軸に沿う方向において、環状溝の外側端は、接触領域の外側端から、カップリング本体とは反対側(ボックスの先端側)に離れた位置にあるとはいえども、ボックスの危険断面の位置に達していない。ここで、ボックスにおいて、危険断面の位置とは、中心軸に沿う方向の各位置のうち、締結状態において引張荷重に耐える面積が最小となる横断面の位置を意味する。横断面とは、対象物の中心軸に垂直な断面を意味する。通常、ボックスの危険断面の位置は、雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合い領域のうちピンの先端側の端にある。環状溝の外側端が、ボックスの危険断面の位置に達していると、環状溝によって危険断面の面積が減少し、ねじ継手の引張強度が低下するおそれがある。第4の構成では、環状溝の外側端が、ボックスの危険断面の位置に達していないため、危険断面の面積が確保される。したがって、ねじ継手の引張強度の低下を抑制できる。
【0035】
上記締結方法において、好ましくは、カップリングの中心軸に垂直な方向において、環状溝の深さは、接触領域におけるピンシール面とボックスシール面との最大干渉量の大きさの20%以上である(第5の構成)。
【0036】
この場合、環状溝の深さがシール接触領域の最大干渉量の20%以上であって、適度に深い。そのため、カップリングを鋼管に締結する途中、カップリングにおいて、環状溝の部分の拡径変形が十分に許容される。これにより、シール接触領域で接触面圧の増大をより抑制することができる。その結果、シール接触領域で焼付きをより抑制することができる。
【0037】
上記締結方法は、さらに、治具準備工程と、治具配置工程とを備える。治具準備工程は、治具を準備する。治具は、カップリング本体の内周面に対応する軸対称形状の外周面を有する。治具配置工程は、カップリング掴み工程の前に、治具の中心軸をカップリングの中心軸と一致させつつ、治具をカップリングに挿入してカップリング本体の内側に配置する(第6の構成)。
【0038】
第6の構成の締結方法によれば、締結工程において、カップリングを鋼管に締結する際、カップリング本体の内側に治具が配置されていて、カップリング用グリッパがカップリング本体及びボックスを掴んでいる。そうすると、カップリング用グリッパの掴み圧によってカップリングが縮径変形したとしても、カップリング本体の縮径変形が治具によって制限される。このため、カップリングの過剰な縮径変形を抑制できる。これにより、シール接触領域で接触面圧の増大をより一層抑制することができる。その結果、シール接触領域で焼付きをより一層抑制することができる。また、雄ねじ部と雌ねじ部との間の焼付きを抑制することもできる。要するに、ねじ継手によってカップリングを鋼管に締結する際に焼付きを抑制することができる。
【0039】
第6の構成の締結方法において、典型的な例では、カップリング本体の内周面、及び治具の外周面が円筒形である。治具の外径がカップリング本体の内径よりも小さくて、カップリング本体の内径と治具の外径との差が0.01mm以下である(第7の構成)。以下、このような円筒形の外周面を有する治具を「円筒治具」とも言う。
【0040】
第7の構成では、カップリング本体の内周面と治具の外周面との間の隙間がほとんどない。このため、カップリングの縮径変形を抑制することができる。
【0041】
第7の構成の締結方法において、治具の長さがカップリング本体の長さと同じかそれよりも大きいことが好ましい(第8の構成)。
【0042】
第8の構成では、カップリング本体の内周面の長手方向全域にわたって治具が配置される。このため、カップリングの縮径変形を確実に抑制することができる。
【0043】
第6の構成の締結方法において、他の典型的な例では、カップリング本体の内周面は、ボックスに連続する一方端から他方端に向けて口広がりとなるテーパを有し、治具の外周面はカップリング本体のテーパに対応するテーパを有する(第9の構成)。以下、このようなテーパの外周面を有する治具を「テーパ治具」とも言う。
【0044】
この場合、治具配置工程において、治具を口広がり側の端からカップリング本体に挿入すれば、治具の外周面がカップリング本体の内周面に接触する。これにより、カップリング本体に対する治具の位置合わせを容易に行える。また、カップリング本体の内周面と治具の外周面との間の隙間がない。このため、カップリングの縮径変形を抑制することができる。しかも、第9の構成の締結方法の場合、カップリングに対する治具の挿入及び抜出しを簡単に行える。
【0045】
第9の構成の締結方法において、カップリング本体のテーパ及び治具のテーパそれぞれのテーパ率が1/50以上であることが好ましい(第10の構成)。
【0046】
テーパ率が1/50以上であれば、治具の外周面がカップリング本体の内周面に有効に接触する。テーパ率の上限は特に限定されない。ただし、テーパ率があまりに大きいと、カップリング本体の口広がり側の端の内径が過大になる。この場合、口広がり側の端に連続するボックスに各要素(例:ボックスシール面及び雌ねじ部)を設けることが困難になる。特に、鋼管がピンの先端にピンショルダ面を備える場合、ピンショルダ面に対応するボックスショルダ面の径方向の厚みを確保することが困難になる。このため、テーパ率の上限は3/50であることが好ましい。
【0047】
第9の構成又は第10の構成の締結方法において、治具の長さは、カップリング本体の長さよりも10mm以上大きいことが好ましい(第11の構成)。
【0048】
第11の構成では、カップリング本体の内周面の長手方向全域にわたって治具が配置される。このため、カップリングの縮径変形を確実に抑制することができる。
【0049】
第6の構成から第11の構成のいずれか1つの締結方法において、治具は、中心軸に沿う貫通穴を有することが好ましい(第12の構成)。
【0050】
第12の構成では、治具の重さを軽くすることができる。このため、治具の取扱いが容易である。
【0051】
第12の構成の締結方法において、治具の肉厚がカップリング本体の肉厚よりも大きいことが好ましい(第13の構成)。なお、テーパ治具の場合、治具の肉厚は治具の肉厚のうちの最小肉厚を意味し、カップリング本体の肉厚はカップリング本体の肉厚のうちの最大肉厚を意味する。
【0052】
第13の構成では、治具の剛性を確保することができる。このため、治具によってカップリング本体の縮径変形を有効に制限することができる。
【0053】
本開示の実施形態に係るねじ継手は、鋼管とカップリングとを締結するためのねじ継手である。鋼管は、管本体と、ピンとを備える。ピンは、管本体の一方端に連続する。カップリングは、カップリング本体と、ボックスとを備える。ボックスは、カップリング本体の一方端に連続し、ピンが挿入される。ピンは、雄ねじ部と、ピンシール面とを含む。雄ねじ部は、ピンの外周面に設けられる。ピンシール面は、雄ねじ部よりもピンの先端側においてピンの外周面に設けられる。ボックスは、雌ねじ部と、ボックスシール面と、環状溝とを含む。雌ねじ部は、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられ、ピンとボックスとの締結状態において雄ねじ部と噛み合う。ボックスシール面は、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられ、締結状態においてピンシール面と干渉接触する。環状溝は、ボックスの外周面に設けられ、締結状態においてピンシール面とボックスシール面との接触領域を囲む(第14の構成)。
【0054】
第14の構成のねじ継手は、上記第1の構成の締結方法に用いることができる。したがって、当該ねじ継手は、シール接触領域で焼付きを抑制できる。
【0055】
第14の構成のねじ継手において、典型的な例では、カップリングの外径が管本体の外径の110%以下である(第15の構成)。このねじ継手は、第2の構成の締結方法に用いることができる。
【0056】
第14の構成又は第15の構成のねじ継手において、好ましくは、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央から接触領域のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離の3倍以上である。この場合、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央から接触領域のカップリング本体側に位置する側端までの距離の3倍以上であることが好ましい(第16の構成)。このねじ継手は、第3の構成の締結方法に用いることができる。
【0057】
第14の構成から第16の構成のいずれか1つのねじ継手において、好ましくは、カップリングの中心軸に沿う方向において、接触領域の中央から環状溝のカップリング本体とは反対側に位置する側端までの距離は、接触領域の中央からボックスの危険断面の位置までの距離よりも小さい(第17の構成)。このねじ継手は、第4の構成の締結方法に用いることができる。
【0058】
第14の構成から第17の構成のいずれか1つのねじ継手において、好ましくは、カップリングの中心軸に垂直な方向において、環状溝の深さは、接触領域におけるピンシール面とボックスシール面との最大干渉量の大きさの20%以上である(第18の構成)。このねじ継手は、第5の構成の締結方法に用いることができる。
【0059】
第14の構成から第18の構成のいずれか1つのねじ継手において、カップリング本体の内周面は、ボックスに連続する一方端から他方端に向けて口広がりとなるテーパを有していてもよい(第19の構成)。このねじ継手は、第9の構成の締結方法に用いることができる。
【0060】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態に係るねじ継手、及びそのねじ継手による鋼管とカップリングとの締結方法について、その具体例を説明する。
【0061】
[第1実施形態]
[鋼管]
図1は、第1実施形態の締結方法によって締結される鋼管1の縦断面図である。本明細書において、縦断面とは、対象物の中心軸を含む断面を意味する。横断面とは、対象物の中心軸に垂直な断面を意味する。長さとは、対象物の中心軸に沿う方向の長さを意味する。中心軸に沿う方向を長手方向とも言う。
図1には、鋼管1の中心軸C1が一点鎖線で示される。
【0062】
図1を参照して、鋼管1は、詳細は後述するカップリング2と締結される。つまり、鋼管1同士を連結するのに、カップリング型のねじ継手が採用される。鋼管1は、管本体10と、ピン11と、ピン12とを備える。ピン11は、管本体10の一方端に連続する。ピン12は、管本体10の他方端に連続する。ピン11及びピン12は、それぞれ管本体10につながる管端部である。管本体10の長さL1は、例えば1000~14000mmである。以下、説明の便宜上、管本体10の一方端に連続するピン11を第1のピン11とも言い、管本体10の他方端に連続するピン12を第2のピン12とも言う。さらに、第1のピン11に対応する要素には「第1の」と付し、第2のピン12に対応する要素には「第2の」と付す。
【0063】
第1のピン11は、第1の雄ねじ部111と、第1のピンシール面112とを含む。第1の雄ねじ部111は、第1のピン11の外周面に設けられる。第1のピンシール面112は、第1の雄ねじ部111よりも第1のピン11の先端側において第1のピン11の外周面に設けられる。具体的には、第1のピン11の外周面には、第1のピン11の先端に近い方から順に、第1のピンシール面112及び第1の雄ねじ部111が設けられる。
【0064】
第2のピン12は、第1のピン11と同様に、第2の雄ねじ部121と、第2のピンシール面122とを含む。
【0065】
第1の雄ねじ部111は、第1のピンねじ頂面111a、第1のピンねじ底面111b、第1のピン荷重フランク面111c、及び第1のピン挿入フランク面111dを含む。第2の雄ねじ部121は、第1の雄ねじ部111と同様に、第2のピンねじ頂面121a、第2のピンねじ底面121b、第2のピン荷重フランク面121c、及び第2のピン挿入フランク面121dを含む。
【0066】
本実施形態では、第1の雄ねじ部111及び第2の雄ねじ部121はともに台形ねじである。また、第1のピン11に第1のピンショルダ面113が設けられ、第2のピン12に第2のピンショルダ面123が設けられる。具体的には、第1のピンショルダ面113は第1のピン11の先端に設けられ、第2のピンショルダ面123は第2のピン12の先端に設けられる。このため、第1のピン11の外周面のうち、第1のピンシール面112は、第1のピンショルダ面113と第1の雄ねじ部111との間に設けられる。第2のピン12の外周面のうち、第2のピンシール面122は、第2のピンショルダ面123と第2の雄ねじ部121との間に設けられる。
【0067】
[カップリング]
図2は、第1実施形態の締結方法によって締結されるカップリング2の縦断面図である。
図2には、カップリング2の中心軸C2が一点鎖線で示される。
【0068】
図2を参照して、カップリング2は、上記の鋼管1と締結される。カップリング2は、カップリング本体20と、第1のボックス21と、第2のボックス22とを備える。第1のボックス21は、カップリング本体20の一方端に連続する。第2のボックス22は、カップリング本体20の他方端に連続する。第1のボックス21及び第2のボックス22は、それぞれカップリング本体20につながる管端部である。第1のボックス21に第1のピン11が挿入される。カップリング本体20の長さL2は、例えば25~100mmである。要するに、カップリング本体20は管本体10よりもはるかに短い。
【0069】
本実施形態では、カップリング本体20の内周面20iが円筒形である。つまり、カップリング本体20の内径D2iは、長手方向全域にわたって一定である。カップリング2の外径D2o、具体的にはカップリング本体20の外径、並びに第1及び第2のボックス21及び22の外径は、管本体10の外径D1oの110%以下である。つまり、鋼管1とカップリング2とを連結するためのねじ継手はスリム型ねじ継手である。
【0070】
第1のボックス21は、第1の雌ねじ部211と、第1のボックスシール面212と、第1の環状溝214とを含む。第1の雌ねじ部211は、第1の雄ねじ部111に対応して第1のボックス21の内周面に設けられる。第1の雌ねじ部211は、第1のピン11と第1のボックス21との締結状態において第1の雄ねじ部111と噛み合うように構成される。第1のボックスシール面212は、第1のピンシール面112に対応して第1のボックス21の内周面に設けられる。第1のボックスシール面212は、締結状態において第1のピンシール面112と干渉接触するように構成される。具体的には、第1のボックス21の内周面には、第1のボックス21の先端に近い方から順に、第1の雌ねじ部211及び第1のボックスシール面212が設けられる。
【0071】
第1の環状溝214は、第1のボックス21の外周面に設けられる。具体的には、第1の環状溝214は、第1のボックス21の外周面で半径方向に向かって凹の形状をなす。第1の環状溝214は、周方向に延びている。第1の環状溝214は、第1のボックス21の全周にわたり連続する。さらに、第1の環状溝214は、締結状態において第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との第1の接触領域S1を囲む。第1の接触領域S1とは、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とが相互に干渉接触する領域を意味する。
【0072】
図3を参照して、接触領域S1について詳しく説明する。
図3は、締結状態におけるピンシール面112とボックスシール面212との接触領域S1、及びその周辺を示す縦断面図である。
図3に示すように、締結状態において、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とは、相互に干渉しながら接触する。ねじ継手の縦断面において、第1のピンシール面112は、凸の曲線からなる。同様に、第1のボックスシール面212は、凸の曲線からなる。これらの曲線同士の重なり部分が、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との第1の接触領域S1である。凸の曲線は、円弧である。ただし、曲線が、円弧以外の曲線(例:楕円弧)であってもよいし、さらに直線を組み合わせたものであってもよい。
【0073】
ねじ継手の縦断面において、第1のピンシール面112の曲線と第1のボックスシール面212の曲線とは2つの点PSi及びPSoで交差する。2つの交点PSi及びPSo同士を直線SLで結ぶ。点PSiは、第1の接触領域S1の内側端S1i(カップリング本体20側に位置する側端)に相当する。点PSoは、第1の接触領域S1の外側端S1o(カップリング本体20とは反対側に位置する側端)に相当する。直線SLの中点PScは、第1の接触領域S1の中央S1cに相当する。
【0074】
第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との最大干渉量δは、下記の式(1)より算出できる。
δ=(Dps-Dbs)/2 (1)
式(1)中の記号の意味は以下のとおりである;
Dps:直線SLの中点PScにおける干渉前の設計上の第1のピンシール面112の直径、及び
Dbs:直線SLの中点PScにおける干渉前の設計上の第1のボックスシール面212の直径。
【0075】
なお、ねじ継手の縦断面において、第1のピンシール面112及び第1のボックスシール面212のうちの一方が、直線であっても構わない。この場合、一方の直線と他方の曲線とが2つの点で交差するため、直線SLを描くことは可能である。このため、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との最大干渉量δを算出することは可能である。
【0076】
図2及び
図3を参照して、カップリング2の中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の外側端214o(カップリング本体20とは反対側に位置する側端)までの距離LG1oは、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の接触領域S1の外側端S1o(カップリング本体20とは反対側に位置する側端)までの距離LS1oよりも大きい。具体的には、第1の環状溝214の外側端214oに関する距離LG1oは、第1の接触領域S1の外側端S1oに関する距離LS1oの3倍以上とすることができる。好ましくは、距離LG1oは、距離LS1oの6倍以上である。
【0077】
また、中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の内側端214i(カップリング本体20側に位置する側端)までの距離LG1iは、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の接触領域S1の内側端S1i(カップリング本体20側に位置する側端)までの距離LS1iよりも大きい。具体的には、第1の環状溝214の内側端214iに関する距離LG1iは、第1の接触領域S1の内側端S1iに関する距離LS1iの3倍以上とすることができる。好ましくは、距離LG1iは、距離LS1iの6倍以上である。第1の環状溝214において、外側端214oに関する距離LG1oは、内側端214iに関する距離LG1iと等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
この場合、中心軸C2に沿う方向において、第1の環状溝214の外側端214oが、第1の接触領域S1の外側端S1oから、カップリング本体20とは反対側(第1のボックス21の先端側)に適度に離れた位置にある。また、第1の環状溝214の内側端214iが、第1の接触領域S1の内側端S1iから、カップリング本体20側に適度に離れた位置にある。要するに、カップリング2の中心軸C2に沿う方向において、第1の環状溝214の内側端214iから外側端214oまでの長さLG1(幅)は、第1の接触領域S1の内側端S1iから外側端S1oまでの長さLS1(幅)よりも適度に大きい。例えば、第1の環状溝214の長さLG1は、第1の接触領域S1の長さLS1の3倍以上とすることができる。好ましくは、長さLG1は、長さLS1の6倍以上である。
【0079】
カップリング2の中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の外側端214oまでの距離LG1oは、例えば、第1の接触領域S1の中央S1cから第1のボックス21の危険断面の位置R1までの距離LR1よりも小さい。
【0080】
また、中心軸C2に垂直な方向において、第1の環状溝214の深さは、例えば、第1の接触領域S1における第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との最大干渉量δの大きさの20%以上である。一方、締結状態で第1の接触領域S1による密封性能を確保するため、第1の環状溝214の深さは、第1の接触領域S1の中央S1cにおける第1のボックス21の肉厚の17.0%以下であることが好ましい。
【0081】
第2のボックス22は、第1のボックス21と同様に、第2の雌ねじ部221と、第2のボックスシール面222と、第2の環状溝224とを含む。第2の雌ねじ部221、及び第2のボックスシール面222は、それぞれ、第2の雄ねじ部121、及び第2のピンシール面122に対応して設けられる。ただし、第2のボックス22は、第2の環状溝224を含んでいなくてもよい。すなわち、第2のボックス22の外周面に第2の環状溝224を設けなくてもよい。
【0082】
第1の雌ねじ部211は、第1のボックスねじ頂面211a、第1のボックスねじ底面211b、第1のボックス荷重フランク面211c、及び第1のボックス挿入フランク面211dを含む。第2の雌ねじ部221は、第1の雌ねじ部211と同様に、第2のボックスねじ頂面221a、第2のボックスねじ底面221b、第2のボックス荷重フランク面221c、及び第2のボックス挿入フランク面221dを含む。
【0083】
本実施形態では、第1の雄ねじ部111及び第2の雄ねじ部121と同様に、第1の雌ねじ部211及び第2の雌ねじ部221はともに台形ねじである。また、第1のボックス21に第1のボックスショルダ面213が設けられ、第2のボックス22に第2のボックスショルダ面223が設けられる。第1のボックスショルダ面213は、第1のピンショルダ面113に対応して設けられる。第2のボックスショルダ面223は、第2のピンショルダ面123に対応して設けられる。
【0084】
[締結方法]
図4、及び
図5A~
図5Cを参照して、第1実施形態の締結方法を説明する。
図4は、第1実施形態の締結方法を示すフローチャートである。
図5A~
図5Cは、第1実施形態の締結方法を示す縦断面図である。本実施形態の締結方法は
図5A~
図5Cに示す順序で進む。
図4に示すように、第1実施形態の締結方法は、鋼管準備工程(ステップ#5)と、カップリング準備工程(ステップ#10)と、ピン挿入工程(ステップ#15)と、鋼管掴み工程(ステップ#20)と、カップリング掴み工程(ステップ#25)と、締結工程(ステップ#30)とを備える。
【0085】
図4を参照して、ステップ#5の鋼管準備工程において、鋼管1(
図1参照)を準備する。ステップ#10のカップリング準備工程において、カップリング2(
図2参照)を準備する。鋼管1及びカップリング2を準備する順序は特に限定されない。鋼管1及びカップリング2にはあらかじめ任意の表面処理を施しても良い。また、鋼管1及びカップリング2にはあらかじめ潤滑剤を塗布しておいても良い。
【0086】
準備した鋼管1及びカップリング2を締結装置に搬入する。締結装置は、鋼管用グリッパ4、及びカップリング用グリッパ5を備える。さらに、締結装置は、いずれも図示しない、鋼管用グリッパ4の駆動装置、及びカップリング用グリッパ5の駆動装置などを備える。
【0087】
ステップ#15のピン挿入工程において、
図5Aに示すように、締結装置により、第1のピン11を第1のボックス21に挿入する。つまり、カップリング2の第1の雌ねじ部211に鋼管1の第1の雄ねじ部111を挿入する。このとき、鋼管1の中心軸C1をカップリング2の中心軸C2と一致させる。ステップ#20の鋼管掴み工程において、鋼管用グリッパ4によって管本体10を掴む(
図5A中の白抜き矢印参照)。ステップ#25のカップリング掴み工程において、カップリング用グリッパ5によってカップリング本体20及び第1のボックス21を掴む(
図5A中の黒塗り矢印参照)。
【0088】
ここで、第1のボックス21への第1のピン11の挿入は、締結装置の外部で行われてもよい。この場合、カップリング2の第1の雌ねじ部211に鋼管1の第1の雄ねじ部111が緩く噛み合っていて、カップリング2が鋼管1に仮締結される。これにより、鋼管1とカップリング2を一体で取り扱うことができる。このため、鋼管1とカップリング2を締結装置に搬入するのが容易になる。
【0089】
鋼管用グリッパ4は、管本体10の長手方向の一部の領域を包囲している。この領域に、鋼管用グリッパ4の掴み圧が加えられる。例えば、鋼管用グリッパ4の駆動装置の作動により、鋼管用グリッパ4は、包囲した領域の外周面において周方向に均一な荷重を与え、これにより掴み圧が加えられる。また例えば、鋼管用グリッパ4の駆動装置の作動により、鋼管用グリッパ4は、包囲した領域の外周面において周方向に等間隔な3つ以上の箇所(例:5箇所、6箇所、7箇所)で均等な荷重を与え、これにより掴み圧が加えられる。
【0090】
カップリング用グリッパ5は、カップリング本体20の長手方向全部の領域を包囲し、さらに第1及び第2のボックス21及び22それぞれの長手方向の一部の領域を包囲している。その領域に、カップリング用グリッパ5の掴み圧が加わる。鋼管用グリッパ4と同様に、カップリング用グリッパ5の駆動装置の作動により、カップリング用グリッパ5は、包囲した領域の外周面において周方向に均一な荷重を与え、これにより掴み圧が加えられる。また例えば、カップリング用グリッパ5の駆動装置の作動により、カップリング用グリッパ5は、包囲した領域の外周面において周方向に等間隔な3つ以上の箇所(例:5箇所、6箇所、7箇所)で均等な荷重を与え、これにより掴み圧が加えられる。
【0091】
ステップ#30の締結工程において、
図5Bに示すように、締結装置により、鋼管用グリッパ4で掴んだ鋼管1とカップリング用グリッパ5で掴んだカップリング2を、中心軸C1及びC2回りに相対的に回転させる。本実施形態では、鋼管1に対してカップリング2を回転させる。具体的には、カップリング用グリッパ5の駆動装置の作動により、カップリング2が中心軸C2回りに回転する(
図5B中の実線矢印参照)。これにより、鋼管1とカップリング2との間に相対的な軸回転運動が生じ、鋼管1の第1の雄ねじ部111がカップリング2の第1の雌ねじ部211にねじ込まれる。カップリング2への鋼管1のねじ込みに伴って、鋼管1を掴んだ鋼管用グリッパ4が中心軸C1に沿って移動する。
【0092】
図5Cに示すように、カップリング2への鋼管1のねじ込みにより、第1の雄ねじ部111と第1の雌ねじ部211とが相互に噛み合うとともに、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とが相互に干渉接触する。これにより、カップリング2が鋼管1に締結される。
【0093】
締結が完了した状態で、第1のピンショルダ面113が第1のボックスショルダ面213に強く接触している。また、第1のピン荷重フランク面111cが第1のボックス荷重フランク面211cに強く接触している。第1のピンねじ底面111bと第1のボックスねじ頂面211aとが相互に干渉接触している。第1のピンねじ頂面111aと第1のボックスねじ底面211bとの間には隙間があり、両者は非接触状態である。第1のピン挿入フランク面111dと第1のボックス挿入フランク面211dとの間には隙間があり、両者は非接触状態である。ただし、第1のピンねじ頂面111aと第1のボックスねじ底面211bとが相互に干渉接触し、第1のピンねじ底面111bと第1のボックスねじ頂面211aとが非接触状態であってもよい。
【0094】
締結が完了した後、鋼管用グリッパ4の駆動装置の作動により、鋼管用グリッパ4を退避させ、カップリング用グリッパ5の駆動装置の作動により、カップリング用グリッパ5を退避させる。そして、カップリング2付き鋼管1を締結装置から搬出する。このようにしてカップリング2付き鋼管1が得られる。
【0095】
本実施形態の締結方法では、上記のようにカップリング2を鋼管1に締結する際、すなわち第1のピン11を第1のボックス21に挿入して両者をねじ継手によって締結する際、カップリング用グリッパ5がカップリング本体20及び第1のボックス21を掴んでいる。つまり、カップリング本体20及び第1のボックス21に、カップリング用グリッパ5の掴み圧が加わる。このとき、カップリング2の外周面のうち、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との第1の接触領域S1に対応する部分、すなわち第1のシール接触領域S1を囲む第1の環状溝214の部分は、カップリング用グリッパ5と非接触状態となっている。
【0096】
この場合、カップリング用グリッパ5の掴み圧によってカップリング2が縮径変形したとしても、カップリング2の第1の環状溝214の部分では、カップリング用グリッパ5の掴み圧が緩和される。そのため、カップリング2を鋼管1に締結する途中、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との干渉接触に伴って、カップリング2の第1の環状溝214の部分が拡径変形しようとするが、その拡径変形は、少なくとも第1の環状溝214の深さの分だけ許容される。これにより、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とのシール接触領域S1で接触面圧の増大を抑制することができる。その結果、シール接触領域S1で焼付きを抑制することができる。したがって、本実施形態の締結方法に用いられるねじ継手は、シール接触領域S1で焼付きを抑制できる。
【0097】
本実施形態の締結方法に用いられるねじ継手によれば、カップリング2の中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の外側端214oまでの距離LG1oは、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の接触領域S1の外側端S1oまでの距離LS1oよりも大きく、具体的には、距離LS1oの3倍以上である。中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の内側端214iまでの距離LG1iは、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の接触領域S1の内側端S1iまでの距離LS1iよりも大きい。具体的には、第1の環状溝214の長さLG1は、第1の接触領域S1の長さLS1の3倍以上である。そのため、カップリング2を鋼管1に締結する途中、カップリング2において、拡径変形を許容する第1の環状溝214の部分の範囲が適度に広くなる。これにより、第1のシール接触領域S1で接触面圧の増大をより抑制することができる。その結果、第1のシール接触領域S1で焼付きをより抑制することができる。
【0098】
また、本実施形態の締結方法に用いられるねじ継手によれば、カップリング2の中心軸C2に沿う方向において、第1の接触領域S1の中央S1cから第1の環状溝214の外側端214oまでの距離LG1oは、第1の接触領域S1の中央S1cから第1のボックス21の危険断面の位置R1までの距離LR1よりも小さい。この場合、中心軸C2に沿う方向において、第1の環状溝214の外側端214oは、第1のボックス21の危険断面の位置R1に達していない。そのため、危険断面の面積が確保される。したがって、ねじ継手の引張強度の低下を抑制できる。
【0099】
本実施形態の締結方法に用いられるねじ継手では、カップリング2の中心軸C2に垂直な方向において、第1の環状溝214の深さは、第1の接触領域S1における第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212との最大干渉量δの大きさの20%以上である。この場合、第1の環状溝214の深さが適度に深い。そのため、カップリング2を鋼管1に締結する途中、カップリング2において、第1の環状溝214の部分の拡径変形が十分に許容される。これにより、第1のシール接触領域S1で接触面圧の増大をより抑制することができ、その結果、第1のシール接触領域S1で焼付きをより抑制することができる。
【0100】
[第2実施形態]
以下に、
図6、
図7及び
図8A~
図8Cを参照して、第2実施形態の締結方法を説明する。第2実施形態の締結方法は、治具3を用いる点で上記した第1実施形態の締結方法と異なる。以下、第1実施形態と重複する構成についての説明は適宜省略する。
【0101】
[治具]
図6は、第2実施形態の締結方法で用いられる治具3の縦断面図である。
図6には、治具3の中心軸C3が一点鎖線で示される。理解を容易にするため、
図6には、カップリング2を二点鎖線で示す。
【0102】
図6を参照して、治具3は軸対称形状の外周面3oを有する。この場合、治具3は中心軸C3を有する。治具3の横断面における外周面3oの形状が円形である。つまり、治具3は回転体である。治具3の外周面3oは、カップリング本体20の内周面20iに対応する形状を有する。具体的には、上記のとおり、カップリング本体20の内周面20iが円筒形である。このため、治具3の外周面3oが円筒形である。つまり、治具3は円筒治具であり、治具3の外径D3oは長手方向全域にわたって一定である。治具3は、相互の中心軸C3及びC2を一致させた状態で、カップリング2に挿入可能である。
【0103】
本実施形態では、治具3の外径D3oが、カップリング本体20の内径D2iよりも小さい。そして、カップリング本体20の内径D2iと治具3の外径D3oとの差が、0.01mm以下である。このため、治具3がカップリング2に挿入されたとき、治具3をカップリング本体20の内側に配置することが可能である。しかも、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iと治具3の外周面3oとの間の隙間をほとんどなくすことが可能である。
【0104】
また本実施形態では、治具3の長さL3が、カップリング本体20の長さL2と同じかそれよりも大きい。このため、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向全域にわたって治具3を配置することが可能である。
【0105】
ただし、治具3の長さL3が、カップリング本体20の長さL2より小さくてもよい。この場合、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向の一部に治具3を配置することが可能である。
【0106】
また本実施形態では、治具3が中心軸C3に沿う貫通穴30を有する。この場合、治具3の重さを軽くすることができる。このため、治具3の取扱いが容易である。貫通穴30の横断面形状は、例えば円形である。この場合、治具3は円環状である。ただし、治具3の外周面3oが軸対称形状であればよく、すなわち治具3の横断面における外周面3oの形状が円形であればよく、治具3は中実であってもよい。この場合、治具3は円盤状である。
【0107】
また本実施形態では、円環状の治具3の肉厚t3が、カップリング本体20の肉厚t2よりも大きい。この場合、治具3の剛性を確保することができる。ただし、治具3の剛性を確保できればよく、治具3の肉厚t3は、カップリング本体20の肉厚t2と同じであってもよいし、カップリング本体20の肉厚t2より小さくてもよい。
【0108】
治具3の材質は、例えば鋼である。この場合、管状の鋼材から治具3を容易に製作することができる。ただし、治具3の剛性を確保できればよく、治具3の材質は特に限定されない。例えば、治具3の材質としては、鋼のほかに、超硬合金、セラミックス等であってもよい。
【0109】
[締結方法]
図7は、第2実施形態の締結方法を示すフローチャートである。
図8A~
図8Cは、第2実施形態の締結方法を示す縦断面図である。本実施形態の締結方法は
図8A~
図8Cに示す順序で進む。
図7に示すように、第2実施形態の締結方法は、さらに、治具準備工程(ステップ#12)と、治具配置工程(ステップ#17)とを備える。
【0110】
図7を参照して、ステップ#12の治具準備工程において、治具(
図6参照)を準備する。鋼管1、カップリング2、及び治具3を準備する順序は特に限定されない。治具3は、締結作業の度に準備してもよいし、複数回の締結作業で兼用されてもよい。準備した治具3を、鋼管1及びカップリング2と共に締結装置に搬入する。締結装置は、さらに、図示しない治具3の支持装置を備える。
【0111】
ステップ#15のピン挿入工程に続いて、ステップ#17の治具配置工程において、
図8Aに示すように、治具3をカップリング2に挿入してカップリング本体20の内側に配置する。このとき、治具3の中心軸C3をカップリング2の中心軸C2と一致させる。カップリング2への治具3の挿入は、治具3の支持装置の作動によって行われる。
【0112】
そして、ステップ#20の鋼管掴み工程、及びステップ#25のカップリング掴み工程の後、ステップ#30の締結工程に移行する。締結工程では、
図8Bに示すように、締結装置により、鋼管用グリッパ4で掴んだ鋼管1とカップリング用グリッパ5で掴んだカップリング2を、中心軸C1及びC2回りに相対的に回転させる。治具3は、カップリング2に追従して中心軸C3回りに回転する。
図8Cに示すように、カップリング2への鋼管1のねじ込みにより、第1の雄ねじ部111と第1の雌ねじ部211とが相互に噛み合うとともに、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とが相互に干渉接触する。これにより、カップリング2が鋼管1に締結される。
【0113】
締結が完了した後、治具3の支持装置の作動により、第2のボックス22に向けて治具3を中心軸C3に沿って移動させる。これにより、治具3がカップリング2から抜出される。さらに、鋼管用グリッパ4を退避させ、カップリング用グリッパ5を退避させる。これにより、カップリング2付き鋼管1が得られる。
【0114】
本実施形態の締結方法によれば、締結工程において、カップリング2を鋼管1に締結する際、カップリング本体20の内側に治具3が配置されていて、カップリング用グリッパ5がカップリング本体20及び第1のボックス21を掴んでいる。そうすると、カップリング用グリッパ5の掴み圧によってカップリング2が縮径変形したとしても、カップリング本体20の縮径変形が治具3によって制限される。このため、カップリング2の過剰な縮径変形を抑制できる。これにより、第1のシール接触領域S1で接触面圧の増大をより一層抑制することができる。その結果、第1のシール接触領域S1で焼付きをより一層抑制することができる。また、第1の雄ねじ部111と第1の雌ねじ部211との間の焼付きを抑制することもできる。要するに、ねじ継手によってカップリング2を鋼管1に締結する際に焼付きを抑制することができる。
【0115】
本実施形態では、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iと治具3の外周面3oとの間の隙間がほとんどない。このため、カップリング2の縮径変形を抑制することができる。
【0116】
また本実施形態では、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向全域にわたって治具3が配置される。このため、カップリング2の縮径変形を確実に抑制することができる。
【0117】
[第3実施形態]
以下に、
図9、
図10及び
図11A~
図11Cを参照して、第3実施形態の締結方法を説明する。第3実施形態の締結方法は、カップリング2及び治具3を変形した点で上記した第1実施形態の締結方法と異なる。
【0118】
[カップリング]
図9は、第3実施形態の締結方法によって締結されるカップリング2の縦断面図である。
図9を参照して、本実施形態では、カップリング本体20の内周面20iは長手方向全域にわたってテーパを有する。このテーパは、第1のボックス21から第2のボックス22に向けて口広がりとなっている。つまり、カップリング本体20の内周面20iは、第1のボックス21に連続する一方端から他方端に向けて口広がりのテーパを有する。このため、カップリング本体20の内周面20iにおいて、第1のボックス21側の端の内径D2i1(以下、「第1の内径」とも言う)は、第2のボックス22側の端の内径D2i2(以下、「第2の内径」とも言う)よりも小さい。
【0119】
カップリング本体20の内周面20iのテーパ率は一定である。例えば、テーパ率は1/50である。テーパ率は1/50より大きくてもよい。ただし、テーパ率の上限は3/50であることが好ましい。テーパ率が3/50以下であれば、第2のボックスショルダ面223の径方向の厚みを確保するのに支障はない。
【0120】
[治具]
図10は、第3実施形態の締結方法で用いられる治具3の縦断面図である。理解を容易にするため、
図10には、カップリング2を二点鎖線で示す。
図10を参照して、治具3の外周面3oはカップリング本体20の内周面20iに対応する形状を有する。
【0121】
具体的には、本実施形態では、上記のとおり、カップリング本体20の内周面20iが長手方向全域にわたってテーパを有する。このため、治具3の外周面3oが長手方向全域にわたってテーパを有する。つまり、治具3はテーパ治具である。治具3の外周面3oのテーパ率は一定であり、カップリング本体20の内周面20iのテーパ率と同じである。このため、治具3の外周面3oにおいて、第1のボックス21側の端の外径D3o1(以下、「第1の外径」とも言う)は、第2のボックス22側の端の外径D3o2(以下、「第2の外径」とも言う)よりも小さい。
【0122】
また本実施形態では、治具3の長さL3がカップリング本体20の長さL2よりも10mm以上大きい。この場合、例えば、治具3の第1の外径D3o1がカップリング本体20の第1の内径D2i1よりも小さく、治具3の第2の外径D3o2がカップリング本体20の第2の内径D2i2よりも大きい。このため、治具3がカップリング2に挿入されたとき、治具3の外周面3oをカップリング本体20の内周面20iに接触させることが可能である。つまり、カップリング本体20の内周面20iと治具3の外周面3oとの間の隙間をなくすことが可能である。しかも、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向全域にわたって治具3を配置することが可能である。
【0123】
ただし、治具3の長さL3がカップリング本体20の長さL2と同じであってもよいし、治具3の長さL3がカップリング本体20の長さL2より小さくてもよい。この場合、例えば、治具3の第1の外径D3o1がカップリング本体20の第1の内径D2i1よりも小さく、治具3の第2の外径D3o2がカップリング本体20の第1の内径D2i1よりも大きくて第2の内径D2i2よりも小さい。このため、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向の一部に治具3を配置することが可能である。
【0124】
【0125】
まず、鋼管1(
図1参照)を準備する。カップリング2(
図9参照)を準備する。治具3(
図10参照)を準備する。準備した鋼管1、カップリング2及び治具3を締結装置に搬入する。鋼管1及びカップリング2にはあらかじめ任意の表面処理を施しても良い。また、鋼管1及びカップリング2にはあらかじめ潤滑剤を塗布しておいても良い。
【0126】
図11Aを参照して、締結装置において、第1のピン11を第1のボックス21に挿入する。さらに、治具3をカップリング2に挿入してカップリング本体20の内側に配置する。このとき、治具3を第2のボックス22からカップリング本体20に挿入すれば、治具3の外周面3oがカップリング本体20の内周面20iに接触する。これにより、カップリング本体20に対して治具3の位置が自然に定まる。また、カップリング本体20の内周面20iと治具3の外周面3oとの間の隙間がない。そして、鋼管用グリッパ4によって管本体10を掴む(
図11A中の白抜き矢印参照)。カップリング用グリッパ5によってカップリング本体20及び第1のボックス21を掴む(
図11A中の黒塗り矢印参照)。
【0127】
図11Bを参照して、締結装置により、鋼管用グリッパ4で掴んだ鋼管1とカップリング用グリッパ5で掴んだカップリング2を中心軸C1及びC2回りに相対的に回転させる(
図11B中の実線矢印参照)。これにより、鋼管1の第1の雄ねじ部111がカップリング2の第1の雌ねじ部211にねじ込まれる。
【0128】
図11Cを参照して、カップリング2への鋼管1のねじ込みにより、第1の雄ねじ部111と第1の雌ねじ部211とが相互に噛み合うとともに、第1のピンシール面112と第1のボックスシール面212とが相互に干渉接触する。これにより、カップリング2が鋼管1に締結される。
【0129】
本実施形態の締結方法では、上記のようにカップリング2を鋼管1に締結する際、すなわち第1のピン11を第1のボックス21に挿入して両者をねじ継手によって締結する際、内側に治具3が配置されたカップリング本体20に、カップリング用グリッパ5の掴み圧が加わる。このとき、カップリング本体20の内周面20iと治具3の外周面3oとの間の隙間がない。このため、カップリング2の縮径変形を抑制することができる。これにより、ねじ継手によってカップリング2を鋼管1に締結する際に焼付きを抑制することができる。
【0130】
また本実施形態では、治具3がカップリング本体20の内側に配置されたとき、カップリング本体20の内周面20iの長手方向全域にわたって治具3が配置される。このため、カップリング2の縮径変形を確実に抑制することができる。
【0131】
締結が完了した後、治具3の支持装置の作動により、第2のボックス22に向けて治具3を中心軸C3に沿って移動させる。これにより、治具3がカップリング2から簡単に抜出される。カップリング本体20の内周面20i及び治具3の外周面3oがともにテーパを有するためである。したがって、カップリング2に対する治具3の挿入及び抜出しを簡単に行える。
【実施例0132】
本実施形態による効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析(FEM解析)を実施した。
【0133】
[試験条件]
FEM解析では、
図2に示すカップリングを
図1に示す鋼管に締結することを模擬した。比較のために、環状溝の無いカップリングを用いた場合で解析した。各モデルの共通の条件は下記のとおりである。
【0134】
(1)鋼管及びカップリング
・管本体の寸法:外径193.7mm、肉厚12.7mm
・カップリング本体の長さ:50mm
・第1の接触領域の中央における第1のボックスの肉厚:17.5mm
・グリッパの長さ:128mm
・グレード:API規格のQ125(公称降伏応力が125ksiの低合金鋼)
・材料:等方硬化の弾塑性体
・特性:ヤング率210GPa、ポアソン比0.3、0.2%耐力としての降伏強度125ksi(861.8MPa)
・ねじの形態:台形ねじ
【0135】
(2)締結完了時の状態
・第1のピンショルダ面が第1のボックスショルダ面と接触
・第1のピン荷重フランク面が第1のボックス荷重フランク面と接触
・第1のピンねじ底面が第1のボックスねじ頂面と干渉接触
・第1のピンねじ頂面が第1のボックスねじ底面と非接触
・第1のピン挿入フランク面が第1のボックス挿入フランク面と非接触
・第1のピンシール面が第1のボックスシール面と干渉接触
・第1のピンシール面と第1のボックスシール面との最大干渉量:0.41mm
【0136】
変更した寸法条件は下記の表1のとおりである。
【0137】
【0138】
[評価方法]
試験No.1~11の各供試体についてねじの締め付けの解析を行った。解析では、カップリング本体をカップリング用グリッパで掴んだ状態を想定し、第1の雄ねじ部を第1の雌ねじ部にねじ込む解析を行った。第1のピンショルダ面が第1のボックスショルダ面に接触したショルダリング時の各供試体において、第1のピンシール面と第1のボックスシール面とのシール接触領域における最大接触面圧を調査した。また、ショルダリング後さらに1/100ターンだけ締めこんだ各供試体に対して、ISO13679:2011で規定されるSeries A試験を模擬した繰り返し複合荷重を負荷し、メタルシールの密封性能を評価した。
【0139】
カップリング用グリッパの掴み圧が0(ゼロ)MPaである試験No.1での接触面圧を基準(1.00)にして、耐焼付き性能の評価を行った。つまり、試験No.1での接触面圧に対する各試験No.での接触面圧の比により、耐焼付き性能を評価した。以下、この比を接触面圧比とも言う。
【0140】
さらに、繰り返し複合荷重の各荷重条件におけるシール接触領域における周方向単位長さあたりの接触力を算出することにより、締結状態でのシール接触領域による密封性能を評価した。この値がゼロとなった場合にメタルシールは機能を失うことを意味する。
【0141】
[試験結果]
上記の表1に試験結果を示す。比較例である試験No.2、並びに本発明例である試験No.3~11では、グリッパの掴み荷重を614kNとした。試験No.2では、接触面圧比が1.04であった。試験No.3及び4の接触面圧比は、それぞれ1.03及び1.00であり、試験No.2と比較して低かった。これにより、環状溝を有するカップリングを用いれば、シール接触領域で面圧が低くなり、焼付きの発生を抑制できることが実証された。特に、試験No.4の環状溝の長さは、試験No.3と比較して長いため、良好な結果となった。
【0142】
試験No.4~11の結果より、環状溝の長さが同じ場合,溝深さが深いほど接触面圧比が低くなり焼付きの発生を抑制する効果が大きいことが実証された。ここで、試験No.5及び6では、環状溝の溝深さが3.00mm以上、すなわち、第1の接触領域の中央における第1のボックスの肉厚の17.0%よりも大きかった。これにより、継手部の剛性が低下したため、複合荷重サイクルを負荷した際にシール接触力がゼロとなり密封性能を失った。