IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シンテックの特許一覧

<>
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図1
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図2
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図3
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図4
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図5
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図6
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図7
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図8
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図9
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図10
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図11
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図12
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図13
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図14
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図15
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図16
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図17
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図18
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図19
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図20
  • 特開-切片回収装置および切片回収方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150078
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】切片回収装置および切片回収方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G01N1/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063310
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】509308953
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】北條 雅史
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC22
2G052GA34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の切片の顕微鏡画像を取得し、それらを合成して試料の3次元モデルを構築する用途において、効率的な切片回収装置、及び、切片回収方法の提供。
【解決手段】試料をスライスする刃と液体を貯留する液体貯留部とを備える切片作成装置30の近傍に配置され、刃により順次スライスされ液体の液面に列をなして浮いている複数の試料の切片を切片支持部材40に移載するための切片回収装置1であって、切片支持部材を40着脱可能に固定する載置台9を備え、載置台9が、載置台9に固定された切片支持部材40の一部を液体内に浸漬させたときの切片支持部材40の上側表面と液面との境界線が液面上に並ぶ複数の切片の列に沿って延びる姿勢に、切片支持部材40を支持可能である切片回収装置1である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をスライスする刃と液体を貯留する液体貯留部とを備える切片作成装置の近傍に配置され、前記刃により順次スライスされ前記液体の液面に列をなして浮いている複数の前記試料の切片を切片支持部材に移載するための切片回収装置であって、
前記切片支持部材を着脱可能に固定する載置台を備え、
該載置台が、該載置台に固定された前記切片支持部材の一部を前記液体内に浸漬させたときの前記切片支持部材の上側表面と前記液面との境界線が前記液面上に並ぶ複数の前記切片の列に沿って延びる姿勢に、前記切片支持部材を支持可能である切片回収装置。
【請求項2】
前記切片作成装置に対して、前記載置台を、前記境界線と前記切片の列との距離を変更する方向に並進可能に支持する第1並進機構を備える請求項1に記載の切片回収装置。
【請求項3】
前記第1並進機構が、前記切片作成装置に対して、前記載置台を、鉛直方向または前記境界線に交差する水平方向に並進移動可能に支持する請求項2に記載の切片回収装置。
【請求項4】
前記切片作成装置に対して、前記載置台を、該載置台に載置した前記切片支持部材の前記上側表面に沿いかつ前記境界線に交差する方向に並進移動可能に支持する第2並進機構を備える請求項1に記載の切片回収装置。
【請求項5】
前記切片作成装置に対して、前記載置台を、前記境界線に沿って延びる水平軸線回りに回転可能に支持する回転機構を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切片回収装置。
【請求項6】
切片作成装置の刃により試料を順次スライスすることにより作成された複数の切片を液体貯留部に貯留された液体の液面に一列に浮かせることと、
切片支持部材の一部を前記液体内に浸漬させ、該切片支持部材の上側表面と前記液面との境界線が、前記液面上に並ぶ複数の前記切片の列に沿って延びる姿勢に、前記切片支持部材を支持することと、
前記液面に浮いている一列の前記切片を前記切片支持部材に移載することとを含む切片回収方法。
【請求項7】
前記切片作成装置に対して前記切片支持部材を前記境界線と前記切片の列との距離を変更する方向に並進させることを含む請求項6に記載の切片回収方法。
【請求項8】
前記切片作成装置に対して前記切片支持部材を前記境界線と前記切片の列との距離を変更する方向に並進させることが、前記切片支持部材を、鉛直方向または前記境界線に交差する水平方向に並進移動させることを含む請求項7に記載の切片回収方法。
【請求項9】
前記切片作成装置に対して前記切片支持部材を該切片支持部材の前記上側表面に沿いかつ前記境界線に交差する方向に並進移動させることを含む請求項6に記載の切片回収方法。
【請求項10】
前記切片作成装置に対して、前記切片支持部材を、前記境界線に沿って延びる水平軸線回りに回転させることを含む請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の切片回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切片回収装置および切片回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡等で試料を観察するために、樹脂等に包埋した試料をミクロトームによって薄くスライスすることが行われている。そして、スライスされた切片を試料台に載せることにより分析用切片試料を作成する作成装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。ミクロトームによってスライスされた切片は、作成装置のタンク内に貯留されている液体の自由表面上に浮かべられ、自由表面に沿う液体の流れの下流に配置した試料台に載せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-33312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の作成装置においては、試料台は、スライスされた切片の流れの方向に直交する軸線回りに傾斜して配置される。このために、1枚の試料台に載せられる切片の数は少量であり、多くの切片を回収するには多量の試料台を用意し、順次供給する必要がある。
【0005】
特に、各切片の顕微鏡画像を取得し、それらを合成して試料の3次元モデルを構築する用途では、多量の切片を撮影する必要があるが、試料台に載せられている切片が少量であると、試料台を交換しながら切片を撮影する必要があり、効率的ではない。
したがって、1枚の試料台のような切片支持部材が多量の切片を回収することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
試料をスライスする刃と液体を貯留する液体貯留部とを備える切片作成装置の近傍に配置され、前記刃により順次スライスされ前記液体の液面に列をなして浮いている複数の前記試料の切片を切片支持部材に移載するための切片回収装置であって、前記切片支持部材を着脱可能に固定する載置台を備え、該載置台が、該載置台に固定された前記切片支持部材の一部を前記液体内に浸漬させたときの前記切片支持部材の上側表面と前記液面との境界線が前記液面上に並ぶ複数の前記切片の列に沿って延びる姿勢に、前記切片支持部材を支持可能である切片回収装置である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態に係る切片回収装置を適用する切片作成装置の一例を示す斜視図である。
図2図1の切片回収装置を示す正面図である。
図3図1の切片回収装置を示す平面図である。
図4図1の切片回収装置を示す側面図である。
図5図1の切片回収装置を既存の切片作成装置に取り付けた状態を示す正面図である。
図6図5の切片回収装置を示す平面図である。
図7図1の切片作成装置の槽内にスライドガラスの一端を挿入配置した状態を示す斜視図である。
図8図2の切片回収装置によるスライドガラスの支持姿勢の一例を示す部分的な縦断面図である。
図9図8のスライドガラスを上昇させた状態を示す部分的な縦断面図である。
図10図8のスライドガラスを回転軸線回りに回転させた状態を示す部分的な縦断面図である。
図11図8のスライドガラスをその上側表面に沿って槽から抜き出す方向に移動させた状態を示す部分的な縦断面図である。
図12】本開示の切片回収方法を示すフローチャートである。
図13図12の切片回収方法のステップ3により自由液面上に浮かぶ切片の列が形成された状態を示す切片作成装置およびスライドガラスの平面図である。
図14図12の切片回収方法のステップ4の一例を示すサブルーチンのフローチャートである。
図15図12の切片回収方法のステップS2により、刃に対して設定されたスライドガラスの一例を示す部分的な拡大図である。
図16図15のスライドガラスを、図14のステップS41により上昇させた状態を示す部分的な拡大図である。
図17図16のスライドガラスを、図14のステップS42により、上側表面に沿って並進移動させた状態を示す部分的な拡大図である。
図18図17のスライドガラスを、図14のステップS43により下降させた状態を示す部分的な拡大図である。
図19図17の状態を示す切片作成装置およびスライドガラスの平面図である。
図20図2の切片回収装置によりスライドガラスに回収された切片の一例を示す平面図である。
図21図2の切片回収装置を適用する他の例の切片作成装置の槽内にスライドガラスの一端を挿入配置した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態に係る切片回収装置1および切片回収方法について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態に係る切片回収装置1は、切片作成装置30の近傍に配置され、好ましくは、切片作成装置30に固定される装置である。
【0009】
まず、切片作成装置30について、以下に説明する。
切片作成装置30は、試料をスライスし薄い切片Sを作成するため、ナイフと呼ばれる場合もある。薄い切片Sは、電子顕微鏡、光学顕微鏡、赤外線吸光分析器、X線光電子分光器等による観察、分析等に用いられる。また、切片作成装置30の一例は超薄切片(Ultra-thin section)を作製するためにダイヤモンドを用いており、この場合にはダイヤモンドナイフとも呼ばれる。
【0010】
切片作成装置30は、公知のミクロトームまたはウルトラミクロトームに搭載して使用される。試料は、細菌、ウイルス、動植物の細胞または組織、材料、金属、複合材、遺跡、隕石等であり、その他の試料も対象になり得る。一例では、樹脂等に包埋された状態の試料が切片作成装置30によりスライスされる。
【0011】
図1は、切片作成装置30の斜視図である。切片作成装置30は、上側が開放されたボート(液体貯留部)31と、ボート31に設けられた刃32とを備えている。図1の切片作成装置30は、排液路33およびボート31内に配置される基板(図示略)を支持できる支持台34を備える既存のものを例示している。本実施形態においては排液路33および支持台34の説明は省略する。
【0012】
ボート31は、相互に直交する前後方向、左右方向および上下方向を有し、前後方向および左右方向が水平方向に対応し、上下方向が鉛直方向に対応している。図1から図7において、X方向が前後方向、Y方向が左右方向、Z方向が上下方向である。以下、X方向の刃32がある側がボート31の前側として説明され、X方向の他端側がボート31の後側として説明される。ボート31は、金属あるいはプラスチック等から形成される。
【0013】
ボート31は、例えば、前側壁31b、後側壁31c、および一対の側壁31d,31eによって囲まれた槽31aを有し、切片を浮かべるための液体(水等)を槽31a内に貯留することができる。ボート31の下側には、切片作成装置30をミクロトームまたはウルトラミクロトームに固定するための固定部35が設けられている。
【0014】
ボート31の前端には刃32が固定されている。一例では、刃32の上端部はダイヤモンド製であり、ダイヤモンド製の刃32によってスライスされた切片は、表面張力によって、槽31a内に貯留された液体の自由液面(液面)Lに浮かぶ。自由液面Lは、刃32によってスライスされた切片が、スライス直後に自由液面Lに浮かぶように、ボート31の上端と略同一位置に配置される。
ボート31の後側壁31cには、切片作成装置30を切片回収装置1に固定するためのボルト(図2参照)を貫通させる貫通孔36が設けられている。
【0015】
次に、本実施形態に係る切片回収装置1について説明する。
本実施形態に係る切片回収装置1は、図2図4に示すように、切片作成装置30に固定するベース2と、第1ステージ3と、ベース2に対して第1ステージ3をZ方向に並進移動可能に支持する並進機構(第1並進機構)4とを備える。また、切片回収装置1は、第2ステージ5と、X方向に延びる回転軸線(水平軸線)X回りに第1ステージ3に対して第2ステージ5を回転可能に支持する回転機構6とを備える。
【0016】
また、切片回収装置1は、第3ステージ7と、第2ステージ5に対して第3ステージ7をX方向に並進移動可能に支持する並進機構(第2並進機構)8とを備える。さらに、切片回収装置1は、平面状の載置面9aを備える載置台9と、載置台9を第3ステージ7に対して載置面9aに沿いかつX方向に交差する方向に並進移動可能に支持する並進機構10とを備える。
【0017】
ベース2は、平板状に形成され、厚さ方向に延びる図示しないネジ孔を備える。ボート31の後側壁31cに設けられた貫通孔36を貫通させたボルト11をベース2のネジ孔に締結することにより、切片回収装置1が固定されている切片作成装置30をベース2に固定することができる。
【0018】
第1ステージ3は、ベース2に対して平行に配置された平板状に形成されている。並進機構4は、ベース2に対して第1ステージ3をZ方向に移動可能に支持するスライド機構12と、ベース2と第1ステージ3との間に配置されたマイクロメータヘッド13とを備える。マイクロメータヘッド13は、スピンドル13aと、スリーブ13bと、シンブル13cとを備える。
【0019】
マイクロメータヘッド13のスリーブ13bがベース2に設けた取付部14aに固定され、スピンドル13aがスライド機構12に設けた取付部14bに固定されている。シンブル13cを回転させることにより、スピンドル13aをZ方向に進退させることができ、シンブル13cの回転により、ベース2に対して第1ステージ3をZ方向に精密かつ滑らかに微動させることができる。
【0020】
第2ステージ5は、第1ステージ3に対して平行に配置された平板状の第1部分5aと、第1部分5aに直交してX方向に延びる平板状の第2部分5bとを備えるL字状に形成されている。回転機構6は、第1ステージ3に固定される円柱状の第1回転部6aと、X方向に延びる回転軸線X回りに第1回転部6aに対して、回転可能に支持された第2回転部6bとを備える。第2回転部6bは、第2ステージ5の第1部分5aに固定されている。
【0021】
第1回転部6aには、例えば、押しねじ等の回り止め6cが設けられている。第2回転部6bには、径方向に延びるハンドル6dが設けられている。回り止め6cを解除し、ハンドル6dに回転軸線X回りの力を加えることにより、第1回転部6aに対して第2回転部6bを回転させ、それによって、第1ステージ3に対して第2ステージ5を回転軸線X回りに回転させることができる。本実施形態においては、回転軸線Xは、後述するように、切片作成装置30に備えられた刃32の刃先の中央を通りX方向に延びる基準線Eの近傍に配置可能である。
【0022】
第3ステージ7は、第2ステージ5の第2部分5bに対して平行に配置された平板状に形成されている。並進機構8は、第2ステージ5に対して第3ステージ7をX方向に移動可能に支持するスライド機構15と、第2ステージ5と第3ステージ7との間に配置された駆動機構16とを備える。
駆動機構16は、例えば、ラック&ピニオンギヤであり、ピニオンギヤ(図示略)に固定されたつまみ16aを回転させることにより、第3ステージ7を第2ステージ5に対してX方向に直線移動させることができる。図2および図3において、符号17は、押しねじ等の移動止めである。
【0023】
載置台9は、第3ステージ7に対して平行に配置された平板状に形成され、第2ステージ5、回転機構6、第1ステージ3、並進機構4およびベース2を回り込んで、切片作成装置30の側壁31eに隙間を空けて隣接する位置まで延びている。載置台9の少なくとも切片作成装置30に隣接する部分の上側表面は、切片支持部材40を搭載する載置面9aであり、磁性材料により形成されている。切片支持部材40は、例えば、顕微鏡観察に使用されるスライドガラスである(以下、スライドガラスとも言う。)。
【0024】
載置台9の載置面9aにスライドガラス40を搭載し、スライドガラス40を厚さ方向に挟んで載置面9aとは反対側に磁石50を配置する。これにより、磁石50と載置面9aとの間に発生する磁気吸引力によって、スライドガラス40を載置面9aに搭載した状態に固定することができる。
【0025】
並進機構10は、第3ステージ7と載置台9との間に配置されたマイクロメータヘッド18と、第3ステージ7に対して載置台9をX方向に直交しかつ第3ステージ7に平行な方向に移動可能に支持するスライド機構19とを備える。
マイクロメータヘッド18のスリーブ18bが第3ステージ7に設けた取付部20aに固定され、スピンドル18aがスライド機構19に設けた取付部20bに固定される。シンブル18cを回転させることにより、スピンドル18aをX方向に直交しかつ第3ステージ7に平行な方向に進退させることができる。これにより、シンブル18cの回転により、第3ステージ7に対して載置台9をX方向に直交しかつ第3ステージ7に平行な方向、すなわち、載置面9aに沿う方向に精密かつ滑らかに微動させることができる。
【0026】
図中、符号21は、第3ステージ7に固定された長孔21aを有するプレート、符号22は、長孔21aに挿入されスライド機構19に締結される移動止めのボルトである。ボルト22を緩めて、スライド機構19によって第3ステージ7に対して載置台9を移動させ、長孔21aの任意の位置においてボルト22を締結することにより、ボルト22とスライド機構19との間でプレート21を挟んで、スライド機構19の並進移動を固定することができる。
【0027】
切片作成装置30の側壁31eに隣接して配置される載置台9の載置面9aは、切片作成装置30の上面よりも上方に配置されるとともに、切片作成装置30にY方向に近づくに従って下降するように、X方向に延びる軸線回りに傾斜して配置される。これは、図4に示すように、第1ステージ3に対して、回転機構6によって、第2ステージ5から載置台9までのユニットを回転軸線X回りに回転させた位置に配置することにより達成される。
【0028】
本実施形態においては、スライドガラス40を自由液面Lに対して傾斜させた位置に保持することが必要であり、回転機構6による載置台9の傾斜角度範囲は、例えば、0°~90°の範囲であればよい。5°~45°の範囲であれば好ましく、10°~25°の範囲であれば、より好ましい。
【0029】
このように構成された本実施形態に係る切片回収装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る切片回収装置1を使用するには、図5および図6に示されるように、切片作成装置30の貫通孔36を貫通させたボルト11をベース2のネジ孔に締結することにより、切片作成装置30をベース2に固定する。
【0030】
次いで、切片作成装置30に設けられた固定部35によって、切片作成装置30および切片回収装置1を、ミクロトームまたはウルトラミクロトームに固定する。これにより、切片作成装置30は、槽31aの上端を水平にして、ミクロトーム等に固定される。
この状態で、切片作成装置30のボート31の槽31a内に液体を貯留する。液体が槽31a内に充満させられることにより、槽31aの上端とほぼ同一位置に自由表面が形成される。
【0031】
そして、この状態で、切片回収装置1の載置台9の載置面9aに、切片支持部材、例えば、スライドガラス40を密着させ、磁石50の磁気吸引力によって、スライドガラス40を載置面9aに固定する。このとき、スライドガラス40の長さ方向の一端は、載置面9aから突出して切片作成装置30の槽31a内に配置される。
【0032】
これにより、図7に示すように、スライドガラス40はその一部が槽31a内の液体内に浸漬させられた状態となり、スライドガラス40と液体の自由液面Lとの間に境界線Dが形成される。
【0033】
載置台9の載置面9aは、切片作成装置30の側壁31eに隣接して配置されているので、載置面9aに搭載されるスライドガラス40の一端は、側壁31e側の斜め上方からボート31の槽31a内に挿入された状態に配置される。そして、これにより、スライドガラス40の上側表面と自由液面Lとの境界線Dは、刃32の中央からX方向に延びる基準線Eに平行に形成されるものを含む。
【0034】
操作者は、切片回収装置1を操作して、スライドガラス40を所望の位置および姿勢に調整する。例えば、図8に示すように、載置台9にスライドガラス40を固定したときに、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが、基準線Eよりも側壁31e側に間隔をあけて形成されるようにスライドガラス40が配置されたものと仮定する。
【0035】
ここで、回転機構6の回転軸線Xは、基準線Eに一致しているものとする。この状態において、操作者が切片回収装置1の並進機構10を操作することにより、図9に示すように、載置台9およびスライドガラス40をZ方向上方に並進移動させることができる。これにより、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが、基準線Eよりも側壁31d側に間隔をあけて形成されるようにスライドガラス40が配置されることになる。
【0036】
また、例えば、図8の状態において、操作者が切片回収装置1の回転機構6を操作することにより、図10に示すように、載置台9およびスライドガラス40を回転軸線X回りに回転させることができる。これにより、自由液面Lに対するスライドガラス40の傾斜角度を変更することができる。
【0037】
さらに、例えば、図8の状態において、操作者が切片回収装置1の並進機構10を操作することにより、図11に示すように、載置台9およびスライドガラス40をX方向に直交しかつ載置台9の載置面9aに沿う方向に並進移動させることができる。これにより、基準線Eに対するスライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dの位置を変更することなく、スライドガラス40を長さ方向に移動させることができる。
【0038】
また、並進機構10を操作することにより、図7に示すように、基準線Eに対するスライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dの間隔を維持したまま、スライドガラス40をX方向に移動させることができる。
【0039】
次に、このように構成された本実施形態に係る切片回収装置1を用いた切片回収方法について、図面を参照して説明する。
まず、図12に示すように、初期設定S1として、上述したように、切片作成装置30に切片回収装置1のベース2を固定し、切片作成装置30をミクロトーム等に固定し、ボート31の槽31a内に液体を満たす。
【0040】
次に、スライドガラス40の一部を液体内に浸漬させ、スライドガラス40の上側表面と自由液面Lとの境界線Dが、基準線Eに沿って延びる姿勢に、スライドガラス40を設定する(ステップS2)。
スライドガラス40の設定に際しては、ボート31の側壁31eの外側の斜め上方から、スライドガラス40の長さ方向の一端を槽31a内の液体内に浸漬させる。そして、図8に示すように、スライドガラス40の液体内の一端がボート31の側壁31dの内面にできるだけ近接する位置に、スライドガラス40を配置し、磁石50をスライドガラス40の上側表面に載せる。これにより、磁石50と載置面9aとの間に磁気吸引力を発生させ、スライドガラス40を載置台9に固定する。
【0041】
この状態で、切片回収装置1を操作することにより、スライドガラス40を、例えば、図8の位置および姿勢に設定する。
すなわち、スライドガラス40を、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが基準線Eに対して側壁31e側に間隔をあけて平行に配置されるように設定する。図8においては、回転機構6の回転軸線Xが基準線Eに一致している例が示されているが、回転軸線Xは基準線Eの近傍に配置されていれば正確に一致していなくてもよい。
【0042】
すなわち、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが基準線Eに対して側壁31d側に配置されている場合には、並進機構10を操作してスライドガラス40をZ方向下方に並進移動させる。また、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが基準線Eに対して側壁31e側に大きく離れて配置されている場合には、並進機構10を操作してスライドガラス40をZ方向上方に並進移動させる。
【0043】
また、回転機構6を操作することにより、スライドガラス40の傾斜角度を、図8あるいは図9に示すように、操作者にとって操作し易い角度に調整する。ここで、回転機構6の回転軸線Xが基準線Eの近傍に配置されているので、基準線Eとスライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dとの位置関係を大きく変動させずに、スライドガラス40の傾斜角度を調整することができる。
【0044】
スライドガラス40の傾斜角度を変更した結果、基準線Eとスライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dとの位置関係が所望の位置関係ではなくなった場合には、再度並進機構10の操作により位置調整すればよい。
【0045】
次いで、切片回収方法は、このようにして、スライドガラス40が切片作成装置30に対して所望の位置および姿勢に設定された状態で、ミクロトーム等を作動させ、切片作成装置30の刃32により試料を順次スライスする(ステップS3)。
試料が刃32により順次スライスされることにより、図13に示すように、刃32により作成された複数の切片Sが一列に並んで自由液面L上に浮かぶ。切片Sの列は、先に形成された切片Sが後に形成された切片SによってX方向後方に向かって押され、それが繰り返されることにより形成される。
【0046】
このため、切片Sの列は、整然と並んだ状態となる場合もあれば、図13に示すように、切片S同士がY方向に若干ずれて整列される場合もあるが、概ね、基準線Eに沿って一列に形成される。そして、上述したように、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dは、基準線Eに対して側壁31e方向に離れた位置に基準線Eと平行に延びているので、基準線E上には障害物がなく、切片Sの列が基準線Eに沿って形成されていく。
【0047】
次いで、切片回収方法は、自由液面L上に一列に並んで浮いている複数の切片Sをスライドガラス40上に移載する(ステップS4)。
自由液面L上に一列に並んで浮いている複数の切片Sをスライドガラス40に移載するステップS4は、例えば、まつ毛ツール(eyelash tool)等と称される切片誘導器具(図示略)によって、切片Sの列を境界線D側に寄せることにより行われてもよい。
【0048】
境界線D側に寄せられた切片Sの列は、境界線D側の一縁が境界線Dを越えてスライドガラス40の乾いた上側表面に接触することにより接岸する。接岸した切片Sの列の一縁はスライドガラス40の上側表面に付着する。
【0049】
また、自由液面L上の複数の切片Sをスライドガラス40に移載する他のステップS4として、図14に示すように、切片回収装置1の以下の操作により、スライドガラス40を移動させてもよい。
例えば、図15に示すように、切片Sの列が基準線E上に並んで形成された場合に、並進機構10の作動によってスライドガラス40を、図16に示すように、Z方向上方に並進移動させる(ステップS41)。これにより、スライドガラス40と自由液面Lとの境界線Dが、基準線Eに向かってY方向に移動するので、基準線Eに沿って自由液面L上に並んで浮かんでいる切片Sの列の一縁がスライドガラス40の上側表面上に乗り上げる。乗り上げた切片Sの列の一縁はスライドガラス40の上側表面に付着する。
【0050】
この状態で、並進機構10の作動によって、図17に示すように、スライドガラス40を、基準線Eに直交しかつ載置台9の載置面9aに沿って、液体内から引き出す方向に、並進移動させる(ステップS42)。これにより、図19に示すように、スライドガラス40の上側表面に一縁が付着していた切片Sの列を、液体に接触しない位置まで陸揚げすることができる。
【0051】
そして、並進機構10の作動によって、図18に示すように、スライドガラス40をZ方向下方に並進移動させる(ステップS43)。これにより、切片Sが付着していない領域のスライドガラス40の上側表面と自由液面Lとの境界線Dを、再度、基準線Eに対して側壁31e側に間隔をあけた位置に移動させることができる。
【0052】
この後に所望の列数の切片Sがスライドガラス40に移載されたか否かを判断し(ステップS5)、移載されていない場合には、ステップS3からの工程を繰り返す。所望の列数の切片Sがスライドガラス40に移載された場合には、処理を終了する。これにより、例えば、図20に示すように、スライドガラス40上に複数列の切片Sを移載して回収することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係る切片回収装置1および切片回収方法によれば、スライドガラス40を側壁31e側の斜め上方から槽31a内に挿入するので、スライドガラス40の上側表面と液体の自由液面Lとの境界線Dを、基準線Eとほぼ平行に形成できる。これにより、境界線Dに沿って切片Sの列を形成していくことができ、複数の切片Sを含む列を、少ない移動距離で列ごと、スライドガラス40の上側表面に容易に移載することができるという利点がある。
【0054】
そして、この場合に、スライドガラス40に一度に移載できる切片Sの列の長さは、スライドガラス40の幅寸法と同等であり、基準線Eに直交する方向に境界線Dを配置していた従来の装置と比較して多量の切片Sを一度に容易に移載することができる。
すなわち、切片Sを少量ずつ複数の切片支持部材に移載する従来の装置および方法とは異なり、多量の切片Sを1枚のスライドガラス40に移載することができる。したがって、多量の切片Sを回収するために、多数の切片支持部材を順次供給する必要がないという利点がある。
【0055】
また、切片Sの列は、列に直交する方向にスライドガラス40に陸揚げされるので、次の切片Sの列を陸揚げするために、一旦陸揚げされた切片の列を再度液体に浸漬させずに済む。これにより、切片Sの列を一列ずつ順次陸揚げすることができ、複数列の切片Sを同一のスライドガラス40上に付着させた状態で容易に回収することができる。
【0056】
このようにして回収された多量の切片Sは、1枚のスライドガラス40に搭載されているので、スライドガラス40を電子顕微鏡等にセットするだけで、各切片Sの顕微鏡画像を効率的に取得することができる。
特に、取得された複数の切片Sの顕微鏡画像を合成して試料の3次元モデルを容易に構築する用途に有用である。
【0057】
すなわち、1枚のスライドガラス40上の複数の切片Sは、試料をスライスした順に整列しているので、電子顕微鏡によって整列順に撮影していくだけで、3次元モデルを構築するための顕微鏡画像を順序通りに取得することができる。複数の切片支持部材に少量ずつ分けて切片Sを移載する場合には、切片Sを搭載した切片支持部材の順序および方向が入れ替わらないように管理する必要があるが、本実施形態によればそのような不都合はない。
【0058】
また、本実施形態に係る切片回収装置1によれば、並進機構10がマイクロメータヘッド18によって第3ステージ7および載置台9を移動させるので、図15図18に示すスライドガラス40の移動を精密かつ滑らかに行うことができる。これにより、スライドガラス40の移動に際して自由液面Lを波立たせずに済み、浮かんでいる切片Sの列が乱れることを防止できる。
【0059】
すなわち、図15から図16に遷移する際に、自由液面Lに発生する波によって、切片Sの列が変形したり、境界線Dから遠ざかったりすることを抑制できる、また、図16から図17に遷移する際に、自由液面Lに発生する波によって、一旦接岸した切片Sの列がスライドガラス40から離れてしまうことを抑制できる。
【0060】
さらに、図17から図18に遷移する際に、自由液面Lに発生した波が消えるまで次の切片Sの作成動作を待つ必要がなく、迅速に、次の列の切片Sの作成に移行することができる。その結果、多量の切片Sを回収するのに要する時間を短縮することができるという利点がある。
【0061】
また、本実施形態に係る切片回収装置1によれば、回転機構6を有するので、自由液面Lに対するスライドガラス40の傾斜角度を任意に調整することができる。スライドガラス40の角度は、切片Sの列の接岸し易さに関わるパラメータであり、切片Sの大きさあるいは種類等に応じて好適に設定することにより、切片Sの列の陸揚げを迅速に行うことができるようになる。また、スライドガラス40の角度は、特に、まつ毛ツール等によって、切片Sの列を境界線D側に寄せる作業を行う場合には、操作者の使い勝手に関わるパラメータであり、操作者に好適な角度に設定することにより、作業効率を向上することができる。
【0062】
この場合において、回転機構6の回転軸線Xを基準線Eの近傍に基準線Eと平行に配置可能に設定しているので、スライドガラス40の角度変更時に、上側表面と自由液面Lとの境界線Dを大きく変動させずに済む。これにより、スライドガラス40の角度の設定作業において、他の並進機構を組み合わせて操作する必要がなく、設定を容易に行うことができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、載置台9上に支持する切片支持部材として、汎用のスライドガラス40を例示した。切片支持部材としては、これに限定されることなく、任意の形状および材質のものを採用してもよい。スライドガラス40は平行平板であるため、載置台9の載置面9aの傾斜角度はスライドガラス40の上側表面の傾斜角度と同一である。切片支持部材が平行平板ではない場合には、切片支持部材の上側表面が好適な傾斜角度となるように、載置面9aの傾斜角度を調整すればよい。
【0064】
また、磁石50によってスライドガラス40を載置面9aに固定したが、クリップあるいは接着等の任意の固定手段によって固定してもよい。また、載置台9の載置面9aが磁性材料である場合を例示したが、載置台9全体が磁性材料であってもよい。あるいは、切片支持部材が磁性材料からなる場合には、載置台9自体が磁石であってもよい。
【0065】
また、本実施形態においては、切片作成装置30の側壁31e側に載置台9を近接させたが、側壁31d側に近接させてもよい。
また、切片作成装置30として既存のものを使用する場合を例示したが、これに代えて、図21に示すように、支持台34を有さず、Y方向に幅広の槽31aを備える切片作成装置30を使用してもよい。これによれば、槽31aの液体内に浸漬できるスライドガラス40の面積を大きく確保することができ、より多くの列の切片Sを回収することができるという利点がある。
【0066】
また、本実施形態においては、切片作成装置30がボルト11によって固定される切片回収装置1を例示したが、これに代えて、切片回収装置1は、切片作成装置30の近傍にミクロトーム等あるいは他の支持構造物に固定されてもよい。切片作成装置30に対して、直接的あるいは間接的に固定されて切片支持部材を所定の位置および姿勢に支持することができればよい。
【0067】
また、スライドガラス40の一部を液体内に浸漬させたときのスライドガラス40の上側表面と自由液面Lとの境界線Dが基準線Eと平行となるようにスライドガラス40を支持可能な場合を例示した。これに代えて、境界線Dと基準線Eとは厳密に平行である必要はなく、境界線Dが自由液面L上に並ぶ切片Sの列に沿って延びる姿勢にスライドガラス40を支持可能であればよい。境界線Dと基準線Eとは、X方向前方から後方に向かって間隔が狭まる方向に相対的に傾斜していてもよいし、広がる方向に相対的に傾斜していてもよい。
【0068】
また、本実施形態においては、並進機構10によって、スライドガラス40をZ方向(鉛直方向)に並進移動させることにより、スライドガラス40の上側表面と自由液面Lとの境界線Dを水平方向に移動させる例を例示した。これに代えて、並進機構10として、スライドガラス40をY方向(境界線Dに交差する水平方向)に並進移動させる機構を採用してもよい。
【0069】
また、本実施形態においては、切片Sの列をスライドガラス40に移載するステップS4を、操作者が手動で切片回収装置1を操作して行う場合を例示した。これに代えて、ステップS3,S41,S42,S43,S5を自動的に行うよう切片回収装置1を制御する制御装置を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 切片回収装置
4 並進機構(第1並進機構)
6 回転機構
8 並進機構(第2並進機構)
9 載置台
30 切片作成装置
31 ボート(液体貯留部)
32 刃
40 スライドガラス(切片支持部材)
D 境界線
L 自由液面(液面)
S 切片
X 回転軸線(水平軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21