(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150144
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】植物の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241016BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20241016BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20241016BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20241016BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
A01P21/00
A01N37/02
A01N37/06
A01N25/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063406
(22)【出願日】2023-04-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】508373497
【氏名又は名称】株式会社日本健康食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁木 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博二
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB03
4H011BB06
4H011BB22
4H011DA01
4H011DA12
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】本発明は、安価で、かつ、環境への負荷が少ない、野菜類の抽苔防止方法及び抽苔発生防止剤を提供することを課題とする。
【解決手段】葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分としてモノグリセライドを接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法、
を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、
抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分としてモノグリセライドを接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法。
【請求項2】
前記接触させる工程が、以下のいずれか1つの工程を含むか、2つ以上の工程を組み合わせる工程である請求項1に記載の方法。
(1)モノグリセライドを含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)モノグリセライドを含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
(4)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の苗を植える工程
【請求項3】
モノグリセライドを接触させた葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を用いて葉菜類植物又は根菜類植物を生産する方法。
【請求項4】
前記モノグリセライドとして食品用乳化剤が利用される請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
モノグリセライドを有効成分とする葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
【請求項6】
固形状である請求項5に記載の葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
【請求項7】
前記モノグリセライドとして食品乳化剤が利用される請求項5又は6に記載の抽苔発生防止剤。
【請求項8】
葉菜類植物又は根菜類植物の種子であって、モノグリセライドで被覆された前記種子。
【請求項9】
葉菜類植物又は根菜類植物の苗であって、モノグリセライドで被覆された前記苗。
【請求項10】
有効成分としてモノグリセライドを含む、葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための培養土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽苔発生を防止した植物の生産方法に関する。特に詳しくは、モノグリセライドを利用して抽苔発生を防止した葉菜類植物又は根菜類の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、特に野菜の種または幼葉が寒さに会うとそれが記憶されて、野菜が成長する過程で突然とう立ちし、花茎が伸びて、花が咲き、種ができる、いわゆる「抽苔(バーナリゼイション)」が起きることが知られている。
抽苔は野菜の品質を著しく低下させ、商品価値をなくしてしまう事から、野菜農家にとって重大な問題である。
ここで、「抽苔(バーナリゼイション)」として、より具体的に以下の現象が知られている。
大根、白菜、カブなどの野菜は、種が土中で水分を吸った時に低温に会うと、芽が出て成長する過程で抽苔を起こすが、この現象を「種子バーナリゼイション」という。
また、キャベツ、タマネギ、ニンジンなどの野菜は、葉が5~10枚位になった時に低温に会うと、それが成長する過程で抽苔を起こすが、この現象を「植物体バーナリゼイション」という。
このほかにも、最適な環境要因に比べて、低照度、低温、高温、肥料不足、水分不足、水分過多等の環境ストレスによっても抽苔が起こる場合があることが知られている。
ここで、特許文献1には、5-アミノレブリン酸、その誘導体又はそれらの塩に、特許文献2には、天然型アブジン酸に野菜類の抽苔抑制作用があることが開示されている。しかし、これらの化合物の利用には製造コストがかかり、また多用することによる他の植物への影響あるいは周囲の環境への問題も考えられる。
本出願人らは、先に、カボチャ、菜種、ヒマワリなどの植物種子の搾油粕および搾油粕のアルコール抽出物に野菜類の抽苔(バーナリゼイション)発生を防止する効果のあることを見出し、特許出願(特許文献3)を行った。
本特許文献3において、植物種子搾油粕のアルコール抽出物が抽苔発生の防止に有効であることを示したが、その有効成分については依然として不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-121878号公報
【特許文献2】特開平4-217603号公報
【特許文献3】特願2022-153366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決し、安価に、かつ、環境への負荷の少ない野菜の抽苔発生防止方法及び抽苔発生防止剤の提供、並びに抽苔発生の低減された野菜の生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、前記植物種子搾油粕のアルコール抽出物中に含まれる野菜類の抽苔発生防止効果のある物質の探索を行ったところ、モノグリセライド画分に当該作用を有することを見出し、さらには、モノグリセライドを高濃度で含む食品乳化剤にも当該作用があることを確認して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための方法であって、
抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子に、
有効成分としてモノグリセライドを接触させる工程を含む、
葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止する方法。
<2>
前記接触させる工程が、以下のいずれか1つの工程を含むか、2つ以上の工程を組み合わせる工程である<1>に記載の方法。
(1)モノグリセライドを含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)モノグリセライドを含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
(4)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の苗を植える工程
<3>
モノグリセライドを接触させた葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を用いて葉菜類植物又は根菜類植物を生産する方法。
<4>
前記モノグリセライドとして食品乳化剤が利用される<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>
モノグリセライドを有効成分とする葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
<6>
固形状である<5>に記載の葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生防止剤。
<7>
前記モノグリセライドとして食品乳化剤が利用される<5>又は<6>に記載の抽苔発生防止剤。
<8>
葉菜類植物又は根菜類植物の種子であって、モノグリセライドで被覆された前記種子。
<9>
葉菜類植物又は根菜類植物の苗であって、モノグリセライドで被覆された前記苗。
<10>
有効成分としてモノグリセライドを含む、葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止するための培養土。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、モノグリセライドを有効成分として利用することにより葉菜類植物又は根菜類植物の抽苔発生を防止してこれらの植物を生産することができる。モノグリセライドとしてはこれを含む市販の食品乳化剤を用いることもでき、安価で、かつ環境にも優しい方法により植物の抽苔発生を防止して、これらの植物を生産することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(有効成分)
本発明の植物の抽苔発生防止機能を有する有効成分は、モノグリセライドであり、植物由来成分でも、油脂とグリセリンから合成された成分でも、市販品でもいずれでもよい。
植物由来成分としては、植物種子の搾油粕アルコール抽出物のモノグリセライド画分が挙げられる。植物としては、カボチャ種子、ナタネ種子、ヒマワリ種子などが挙げられるがこれらに限定されない。カボチャ種子は、西洋カボチャ種子、東洋カボチャ種子、ペポカボチャ種子のいずれも対象とすることができる。搾油粕抽出物としては、有効成分を抽出できればいずれでもよく、アルコール抽出物が好ましく、エタノール抽出物がさらに好ましい。搾油粕のアルコール抽出物は、大部分が油脂由来の物質であり、当該抽出物をシリカゲルカラムにより、溶出溶媒としてヘキサン:アセトンを用いて分画することで、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライドの順に各画分を得ることができる。モノグリセライド画分は、ロータリーエバポレーターを用いて溶出溶媒を除き、乾固することで調製される。利用時は、前記乾固物を少量のエタノールに溶解し、水で希釈することで液状のモノグリセライド溶液として利用できる。また、モノグリセライドの精製度は、利用時に有効量含まれる程度に精製できればよく、前記で得られた画分をさらに精製を繰り返し、より純度の高い画分として利用することもできる。
【0008】
本発明の有効成分であるモノグリセライドの市販品としては、花王(株)や理研ビタミン(株)などのメーカーが製造販売している市販品が挙げられる。モノグリセライドの含量は、少なくとも乳化剤中20%以上あることが望ましい。そのような乳化剤としては、例えば、花王(株)製の高純度モノグリセライドであるエキセルO-95R、エキセルS-95、エキセルS-95パウダー、エキセルVS-95、エキセルO-95N(いずれもモノグリセライド含量95%以上)、中純度モノグリセライドとしてエキセルP-40(モノグリセライド含量50~60%)、エキセルP-405(同35%以上)、エキセル122V(同52%以上)、エキセル200(同79%以上)、理研ビタミン(株)製のエマルジーP-100、エマルジーOL-100H、エマルジーHRO、エマルジーMO{M}、エマルジーMU(以上いずれもモノグリセライド含有量が95%以上)などが挙げられる。
【0009】
また、このような乳化剤は、食用油脂を原料として合成することもできる。例えば食用油脂をグリセリンと脂肪酸に分解し、エステル化法によって、モノグリセライドとジグリセライドを製造する方法によりモノグリセライドを得ることができる。また、食用油脂とグリセリンから、エステル交換法によって、モノグリセライドとジグリセライドを製造する方法によりモノグリセライドを得ることもできる。いずれの場合でも、分子蒸留により、90%以上の純度を持つモノグリセライドを生産することができる。
本発明の有効成分である乳化剤は、それ自体が粉末、液状、ロウ状(油状)などで存在しており、利用形態に応じて、液体、固体など様々な形態として利用することができる。
【0010】
本発明の有効成分は、市販の乳化剤や、種子搾油粕アルコール抽出物のモノグリセライド画分をそのままを利用することもできるが、利用形態によって、水や他の溶媒で希釈して用いることが望ましい場合もある。例えば、アルコール抽出物のモノグリセライド画分(油状)の場合、2倍~100倍に希釈して利用することが望ましい。また、他のバインダーと混錬して成形したり、液状(含むロウ状、油状)の有効成分を固化して成形したもの、ビーズなどの担体に固定化したもの、他のバインダーと混錬して成形したものなどが挙げられる。また、固形状とする場合にはあらかじめ抽苔防止対象の種子とともに固形化することも望ましい態様である。
有効成分を種子とともに固形化する態様としては、種子に液状の有効成分を直接あるいは間接的に被覆する態様が挙げられる。直接被覆するとは、種子に液状(あるいは油状)の有効成分を噴霧するなどしてコーティングする態様であり、間接的に被覆するとは、有効成分をバインダーとともに種子に被覆したり、バインダーや他の担体とともに混合したものを被覆する態様などが挙げられる。この場合の有効成分は液状のみならず、固形状の有効成分も同様に種子に間接的に被覆することができることはいうまでもない。
担体としては、抽苔の抑制および植物の生育に悪い影響を与えない範囲でいずれも利用することができる、例えば、肥料などに利用される担体が挙げられる。より具体的には、シリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム、鉄粉、でんぷん、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどである。
また、有効成分を固形化する場合の形状は問わないが、種子とともに固形化する場合は、粒子形状とすることが望ましい。この場合の粒子径は、0.5~5.0mm程度が好ましく、1.0~3.0mm程度がさらに好ましく、2mm程度がよりいっそう好ましい。また、当該粒子中の有効成分の量は、1~50mgが好ましい。上記において、有効成分が被覆された種子は、換言すれば、抽苔発生防止用種子と言える。また、同様に有効成分が被覆された苗は、抽苔発生防止用苗と言える。
【0011】
本発明の有効成分を抽苔を防止したい対象植物に接触させる方法(処理)としては、典型的には以下の工程が挙げられ、以下のいずれか1つの工程を含むか、あるいは2つ以上の工程を組み合わせて用いられる。
(1)モノグリセライドを含む液状物を抽苔発生を防止したい葉菜類植物、根菜類植物又は当該植物の種子又は苗に噴霧する工程
(2)モノグリセライドを含む液状物に抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子又は苗を浸漬する工程
(3)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の種子を播種する工程
(4)モノグリセライドを混合した培養土に、抽苔発生を防止したい葉菜類植物又は根菜類植物の苗を植える工程
本発明において、有効成分と、抽苔防止対象の野菜類を接触させる処理は、濃度の調製により1回でも十分な効果は得られるが、複数回処理することにより、更に効果を高めることもできる。また、接触時間を調整することによっても効果をコントロールすることができる。
前記2つ以上の工程を組み合わせる処理の具体例としては、有効成分を野菜類の種子に接触させ、かつ、有効成分を含む培養土に当該種子を播種する方法などが挙げられる。複数種類の異なる処理を組み合わせることによってさらに抽苔防止効果を高めて葉菜類又は根菜類植物を生産することができる。
【0012】
(対象植物)
本発明の抽苔発生防止対象の葉菜類又は根菜類植物は特に限定されないが、例えばアカザ科としてはホウレンソウ、テンサイ:アブラナ科としてはアブラナ、コマツナ、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブ:キク科としてはレタス、シュンギク、ゴボウ:ユリ科としてはタマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、ネギ、アサツキ、ワケギ:ナス科としてはジャガイモ:セリ科としてはニンジン、セルリー:ショウガ科としてはショウガ、ミョウガ:ヤマノイモ科としてはヤマノイモ:サトイモ科としてはサトイモ:スイレン科としてはレンコン:ヒルガオ科としてはサツマイモ:シソ科としてはシソ:イネ科としてはタケノコ、ヒユ科としてはビートを挙げることができる。
【0013】
(抽苔発生防止剤)
本発明の抽苔発生防止剤は、食品乳化剤など上記有効成分であるモノグリセライドが含まれていればよく、必要に応じて他の植物生長調節剤、糖類、含窒素化合物、酸類、アルコール類、ビタミン類、微量要素、金属塩、キレート剤、防腐剤、防黴剤等を配合することもできる。また、有効成分の態様は上記で述べたとおり、有効成分を含む溶液状の抽苔発生防止剤、有効成分を含む固形状の抽苔発生防止剤、有効成分が被覆された抽苔発生防止用種子、有効成分を含む抽苔発生防止用培養土、有効成分を含む抽苔発生防止用肥料、有効成分を含む抽苔発生防止用培養液、有効成分が被覆された種子、有効成分を含む培養土、有効成分を含む肥料、有効成分を含む培養液等である。
特に、モノグリセライドを溶液として利用する場合は、取り扱いのし易さなどから好ましい濃度は1%~30%であり、10%前後がよりいっそう好ましい。
以下、本発明をより具体的に実施例をもって説明するが、これらの実施例に限定されるべきものではない。
【実施例0014】
[試験例1] カボチャ種子搾油粕アルコール抽出物由来グリセライドによる種子バーナリゼイション発生防止効果の検討/有効成分の探索
1.試験方法
1-1.供試液の調整
カボチャ種子の搾油粕のアルコール抽出物をシリカゲルカラムにより、溶出溶媒としてヘキサン:アセトンを用いて、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライドに分画した。これら3つの画分について、ロータリーエバポレーターを用いて溶出溶媒を除き、溶出物を乾固し、その一定量を少量の95%エチルアルコールに溶解して、さらに10倍量の水で希釈して供試液とした。
【0015】
1―2.栽培方法
白菜、大根、カブなどの種で植える野菜の代表として、白菜を試験に用いた。白菜の種の表面を上記の供試液でコーティングしてから播種することで、「種子バーナリゼイション」の防止効果を観察した。試験数は各水準200個とした。
傾斜型回転パンにコア基材としてシリカを投入し、それに白菜の種子を加え、回転しながら供試液をスプレーして、白菜の種子の表面をコーティングした。
コーティングした白菜の種子を人工気象室にセットした市販の培土に播種し、充分に水を与えて1夜放置した。その後、人工気象室の温度を1℃に下げて48時間冷却した後に、常温に戻して発芽させ、栽培した。
【0016】
2.試験結果
モノグリセライド画分を種子にコーティングしたものではバーナリゼイションが全く発生せず(0%)、ジグリセライド画分では約70%に、トリグリセライド画分では約90%にバーナリゼイションの発生が見られた。
【0017】
[試験例2]カボチャ種子搾油粕アルコール抽出物由来グリセライドによる植物体バーナリゼイション発生防止効果の検討
キャベツ、タマネギ、トマト、キュウリなどの苗で植える野菜の代表として、キャベツを試験に用いた。キャベツの苗を試験例1の各供試液に浸漬した後に移植することで、「植物体バーナリゼイション」の防止効果を観察した。
1.試験方法
育苗用セルに市販培土を入れ、それにキャベツの種子を播種し、種子が隠れる程度に覆土した後に1日2回水を与えて7日間置き、葉が3~4枚になった時に成型苗を取り出し、上記の供試液に1夜浸漬した後に人工気象室に移し、1℃で48時間冷却してから常温に戻して移植し、栽培した。試験数は各水準200個とした。
【0018】
2.結果
モノグリセライド画分に浸漬した苗ではバーナリゼイションが全く見られず(0%)、ジグリセライド画分では80%に、トリグリセライド画分では90%にバーナリゼイションの発生が見られた。
以上の試験例1及び試験例2の結果から、植物種子搾油粕のアルコール抽出物のモノグリセライド画分にバーナリゼイション発生防止機能があることが明らかとなった。
【0019】
[試験例3]食品用乳化剤による種子バーナリゼイション発生防止効果の確認
上記試験例1及び試験例2より、カボチャ種子搾油粕抽出物由来のグリセライドのうち、モノグリセライドに野菜類の抽苔(バーナリゼイション)発生防止機能があることがわかった。本試験では、モノグリセライドのソース原として食品用乳化剤の有効性についても検討を行った。
【0020】
1.試験方法
1-1.モノグリセライド供試液の調整
モノグリセライドを含む市販の食品乳化剤を用いて、野菜類の抽苔発生防止効果について検討を行った。
食品用乳化剤エキセル(EXCEL)O-95R(花王株式会社製)はモノグリセライドを93%以上含有しており、これを用いて、種子バーナリゼイションと植物体バーナリゼイションの発生防止効果を観察した。エキセルO-95Rを少量の非イオン界面活性剤ツイン20と共に、水に懸濁し、10%水溶液(懸濁液)とし(供試液中のモノグリセライド含量は9.3%)、これをモノグリセライド供試液とした。
【0021】
1-2.栽培方法試験例1と同様の方法により、モノグリセライド供試液で白菜種子の表面をコーティングした。また、対照として、エキセルO-95Rを含まない水溶液をスプレーして、白菜種子の表面をコーティングした物を調製した。
コーティングした白菜の種子を人工気象室にセットした市販の培土に播種し、充分に水を与えて1夜放置した。その後、人工気象室の温度を1℃に下げて48時間冷却した後に、常温に戻して発芽させ、栽培した。試験数は各水準200個とした。
【0022】
2.試験結果
エキセルO-95Rを種子にコーティングしたものではバーナリゼイションが全く発生せず(0%)、対照の0-95Rを含まない水溶液をコーティングした種子は約70%にバーナリゼイションの発生が見られた。
【0023】
[試験例4] 食品用乳化剤による植物バーナリゼイション防止効果の確認
1.栽培方法
育苗用セルに市販培土を入れ、それにキャベツの種子を播種し、種子が隠れる程度に覆土した後に1日2回水を与えて7日間置き、葉が3~4枚になった時に成型苗を取り出し、試験例3のモノグリセライド供試液に苗を1夜浸漬した後に人工気象室へ移し、1℃で48時間冷却してから常温に戻して移植し、栽培した。試験数は各水準200個とした。
【0024】
2.試験結果
エキセルO-95Rの水溶液(懸濁液)に浸漬した苗ではバーナリゼイションが全く見られず(0%)、対照としてO-95Rを含まない水に浸漬した苗では、80%にバーナリゼイションの発生が見られた。
試験例3及び試験例4の結果より、93%のモノグリセライドを含有するエキセルO-95Rは野菜類の抽苔発生を防止する効果のあることが明らかとなった。
これによって、モノグリセライドを含む食品用乳化剤の新たな用途が見出され、野菜農家にとって大きな問題である抽苔の発生が安全性の高い食品添加物の乳化剤を用いることにより防止できるようになった。