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特開2024-150154ニッケル粉末の製造方法、塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法
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  • 特開-ニッケル粉末の製造方法、塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150154
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ニッケル粉末の製造方法、塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/04 20060101AFI20241016BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241016BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20241016BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241016BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241016BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20241016BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241016BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20241016BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20241016BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241016BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B22F9/04 C
A01P3/00
A01N59/16 Z
C09D7/61
C09D201/00
C09D5/14
C08L101/00
C08K3/015
C08K3/08
B22F1/00 M
C22C19/03 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063420
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】西村 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】王 昌麟
(72)【発明者】
【氏名】牧野 裕輝
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J038
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BB18
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB111
4J002BC031
4J002BC061
4J002BC071
4J002BG011
4J002BG131
4J002BN151
4J002BN161
4J002CB001
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD061
4J002CF031
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF221
4J002CF271
4J002CG001
4J002CK021
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002DA086
4J002FB026
4J002FD186
4J038HA066
4J038HA386
4J038KA01
4J038PB05
4K017AA02
4K017BA03
4K017BB13
4K017BB14
4K017CA07
4K017DA07
4K017DA09
4K017EA01
4K017EA03
4K017EB00
4K017FA14
4K017FA17
4K018BA04
4K018BB04
4K018BD04
(57)【要約】
【課題】本開示は、簡便で低コストの製造が可能な防カビ作用に優れるニッケル粉末の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係るニッケル粉末の製造方法は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とするニッケル粉末の製造方法であって、原料ニッケル粉を、水素元素を含む溶媒を用いて湿式粉砕する湿式粉砕工程を備え、上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.05質量%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルまたはニッケル合金を主成分とするニッケル粉末の製造方法であって、
原料ニッケル粉を、水素元素を含む溶媒を用いて湿式粉砕する湿式粉砕工程を備え、
上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.05質量%以上であるニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
上記原料ニッケル粉が、リン元素を含む請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対するリン元素の含有量が0.15質量%以上15.70質量%以下である請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
上記溶媒が、カルボキシル基を有する脂肪酸を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項5】
上記脂肪酸が、ステアリン酸、オレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸からなる群より選択される1種または2種以上を含む請求項4に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項6】
上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の粒子径が、レーザー散乱式粒度分布装置により測定した50%体積累計基準で、0.1μm以上20μm以下である請求項1又は請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項7】
防カビ剤として用いるニッケル粉末を製造する方法である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項8】
ニッケル粉末を塗料材料に添加する塗料調製工程を備え、
上記ニッケル粉末として、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる塗料の製造方法。
【請求項9】
被塗布部材に塗料を塗布する塗布工程を備え、
上記塗料として、請求項8に記載の塗料の製造方法により製造された塗料を用いる部材の製造方法。
【請求項10】
ニッケル粉末を樹脂に添加する樹脂調製工程を備え、
上記ニッケル粉末として、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
樹脂組成物を成形する成形工程を備え、
上記樹脂組成物として、請求項10に記載の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂組成物を用いる樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニッケル粉末の製造方法、塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生上の観点からカビの抑制を目的としたコーティングがあらゆる場面で施されており、コーティング剤に防カビ剤を添加、塗布することが一般的に実施されている。防カビ剤は多様な種類が知られているが、防カビ性の持続性の観点でニッケル粉末が優れている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
ニッケル粉末に防カビ性を付与するためには、粉末中に水素を含有させる必要がある。例えば下記特許文献1では、酸または酸化剤への浸漬、および水素雰囲気での熱処理により水素を含有させている。また、下記特許文献2では、水素吸蔵特性に優れるMgと合金化させた上で、水素ガス雰囲気下で熱処理を行う方法が用いられている。
【0004】
水素を含有させた原料ニッケル粉は、使用態様により求められる粒径となるように粉砕処理がなされニッケル粉末が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-64401号公報
【特許文献2】特開平10-251702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような水素含有処理の方法では、工程が複雑であり、粉砕処理を別途行う必要があるため、製造コストの増加につながりやすい。
【0007】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、簡便で低コストの製造が可能な防カビ作用に優れるニッケル粉末の製造方法、並びに当該ニッケル粉末の製造方法により製造されるニッケル粉末を用いた塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るニッケル粉末の製造方法は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とするニッケル粉末の製造方法であって、原料ニッケル粉を、水素元素を含む溶媒を用いて湿式粉砕する湿式粉砕工程を備え、上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.05質量%以上である。
【0009】
本開示の別の一態様に係る塗料の製造方法は、ニッケル粉末を塗料材料に添加する塗料調製工程を備え、上記ニッケル粉末として、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0010】
本開示の別の一態様に係る部材の製造方法は、被塗布部材に塗料を塗布する塗布工程を備え、上記塗料として、本開示の塗料の製造方法により製造された塗料を用いる。
【0011】
本開示の別の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、ニッケル粉末を樹脂に添加する樹脂調製工程を備え、上記ニッケル粉末として、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0012】
本開示の別の一態様に係る樹脂成形品の製造方法は、樹脂組成物を成形する成形工程を備え、上記樹脂組成物として、本開示の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂組成物を用いる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のニッケル粉末の製造方法は、簡便で低コストの製造が可能であり、得られるニッケル粉末が防カビ作用に優れる。また、本開示の塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法は、簡便で低コストの製造が可能であり、得られる塗料、部材、樹脂組成物および樹脂成形品が、その防カビ作用に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の一態様に係るニッケル粉末の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、本開示の一態様に係る塗料の製造方法および部材の製造方法を示すフロー図である。
図3図3は、本開示の一態様に係る樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
(1)本開示の一態様に係るニッケル粉末の製造方法は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とするニッケル粉末の製造方法であって、原料ニッケル粉を、水素元素を含む溶媒を用いて湿式粉砕する湿式粉砕工程を備え、上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量が0.05質量%以上である。
【0016】
当該ニッケル粉末の製造方法では、原料ニッケル粉を所定の粒子径まで微粉化させると同時に、水素元素を含む溶媒から上記原料ニッケル粉に水素を添加させることができる。したがって、簡便で低コストでニッケル粉末の製造が可能となる。また、上記ニッケル粉末は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分としており、使用状態でその粉末表面に少量存在し得る吸着水にニッケルイオンが溶出する。このニッケルイオンが吸着水内で増殖し得る菌やカビに接触して死滅させることができる。さらに、上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量を上記下限以上とするので、水素元素が菌やカビを構成するたんぱく質を変質させる水素化物を形成し易く、製造されたニッケル粉末が優れた防カビ作用を示す。
【0017】
(2)上記(1)に記載のニッケル粉末の製造方法で、原料ニッケル粉が、リン元素を含むとよい。このように原料ニッケル粉にリン元素を含めることで、リン元素が上記原料ニッケル粉の結晶粒界に侵入し、ニッケルイオンの溶出を促進することができる。したがって、防カビ作用が向上する。
【0018】
(3)上記(2)に記載のニッケル粉末の製造方法で、上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対するリン元素の含有量が0.15質量%以上15.70質量%以下であるとよい。このように上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の全質量に対するリン元素の含有量を上記範囲内とすることで、ニッケルイオンの溶出を促進できる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法で、上記溶媒が、カルボキシル基を有する脂肪酸を含むとよい。このように上記溶媒にカルボキシル基を有する脂肪酸を含めることで、原料ニッケル粉を所定の粒子径まで迅速に粉砕することができる。
【0020】
(5)上記(4)に記載のニッケル粉末の製造方法で、上記脂肪酸が、ステアリン酸、オレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸からなる群より選択される1種または2種以上を含むとよい。このように上記脂肪酸に、ステアリン酸、オレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸からなる群より選択される1種または2種以上を含めることで、製造コストの増加を抑止しつつ原料ニッケル粉の微粉化を促進することができる。
【0021】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法で、上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の粒子径が、レーザー散乱式粒度分布装置により測定した50%体積累計基準で、0.1μm以上20μm以下であるとよい。このように上記湿式粉砕工程後の上記ニッケル粉末の粒子径を上記範囲内とすることで、製造コストの増加を抑止しつつ、得られるニッケル粉末の防カビ作用を向上させることができる。
【0022】
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法は、防カビ剤として用いるニッケル粉末を製造する方法であるとよい。本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末は、防カビ剤として好適に用いることができる。
【0023】
(8)本開示の別の一態様に係る塗料の製造方法は、ニッケル粉末を塗料材料に添加する塗料調製工程を備え、上記ニッケル粉末として、上記(1)から(6)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0024】
(9)本開示の別の一態様に係る部材の製造方法は、被塗布部材に塗料を塗布する塗布工程を備え、上記塗料として、上記(8)に記載の塗料の製造方法により製造された塗料を用いる。
【0025】
(10)本開示の別の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、ニッケル粉末を樹脂に添加する樹脂調製工程を備え、上記ニッケル粉末として、上記(1)から(6)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0026】
(11)本開示の別の一態様に係る樹脂成形品の製造方法は、樹脂組成物を成形する成形工程を備え、上記樹脂組成物として、上記(10)に記載の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂組成物を用いる。
【0027】
本開示の塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法は、上記(1)から(6)のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いるので、簡便で低コストの製造が可能であり、かつその防カビ作用に優れる。
【0028】
ここで、「主成分」とは、質量換算で最も含有量の大きい成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分を意味する。ニッケル粉末の「水素元素の含有量」は、不活性ガス融解法によって測定される量を指す。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法、塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法について説明する。
【0030】
〔ニッケル粉末の製造方法〕
本開示の一態様に係るニッケル粉末の製造方法は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とするニッケル粉末の製造方法である。当該ニッケル粉末の製造方法は、図1に示すように、湿式粉砕工程S1を備える。
【0031】
当該ニッケル粉末の製造方法は、特に防カビ剤として用いるニッケル粉末を好適に製造することができる。当該ニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末は、防カビ作用が高い。
【0032】
<湿式粉砕工程>
湿式粉砕工程S1では、原料ニッケル粉を、水素元素を含む溶媒を用いて湿式粉砕する。当該ニッケル粉末の製造方法では、原料ニッケル粉を湿式粉砕することにより、所望の粒子径まで微粉化させると同時に、水素元素を含む溶媒から原料ニッケル粉中に水素元素を添加させることができる。
【0033】
(原料ニッケル粉)
上記原料ニッケル粉は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分とする。
【0034】
上記原料ニッケル粉は、ニッケル以外の金属を含んでいてもよい。また、上記原料ニッケル粉は上述の通りニッケル合金を主成分とした粉末であってもよい。上記原料ニッケル粉に含まれるニッケル以外の金属元素としては、例えば、Fe、Co、Zn等が挙げられる。
【0035】
上記原料ニッケル粉の全質量に対するニッケル元素の含有量は、湿式粉砕工程S1後のニッケル粉末の全質量に対するニッケル元素の含有量が所望の値(後述)となるように定められる。
【0036】
上記原料ニッケル粉におけるニッケル以外の金属元素の含有量は、湿式粉砕工程S1後のニッケル粉末の全質量に対するニッケル元素の含有量が好ましい範囲内となる範囲で設定することが好ましい。一方、上記原料ニッケル粉は、金属元素として実質的にニッケルのみを含むものとしてもよい。なお、「金属元素として実質的にニッケルのみを含む」とは、金属元素が、ニッケルおよび不可避的に含まれる金属元素のみから構成されていることを意味する。
【0037】
上記原料ニッケル粉が、リン元素を含むとよい。このように上記原料ニッケル粉にリン元素を含めることで、リン元素が上記原料ニッケル粉の結晶粒界に侵入し、ニッケルイオンの溶出を促進することができる。したがって、防カビ作用が向上する。
【0038】
上記原料ニッケル粉の全質量に対するリン元素の含有量は、湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の全質量に対するリン元素の含有量が所望の値(後述)となるように定められる。
【0039】
上記原料ニッケル粉の作製には、例えば公知の溶融製造プロセスを適宜採用することができる。上記溶融製造プロセスとしては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転電極法等を挙げることができる。上記原料ニッケル粉にリン元素を含ませる場合、例えば純ニッケルとNi-P合金を所定量混合し、水アトマイズ法により作製する方法を採用することができる。
【0040】
(溶媒)
上記溶媒は、水素元素を含む公知の溶媒であれば、特に限定されず、例えば水、エタノールなどを挙げることができる。水やエタノールを溶媒とした場合、水やエタノールが分解して発生した水素元素がニッケルに固溶した状態あるいはニッケル表面に吸着した状態になると考えられる。
【0041】
上記溶媒が、カルボキシル基を有する脂肪酸を含むとよい。カルボキシル基を有する脂肪酸は、分散剤として機能し、溶媒中における原料ニッケル粉の分散性を向上させ粉砕性を上げる。このため、上記溶媒にカルボキシル基を有する脂肪酸を含めることで、原料ニッケル粉を所定の粒子径まで迅速に粉砕することができる。
【0042】
上記脂肪酸が、ステアリン酸、オレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸からなる群より選択される1種または2種以上を含むとよい。このように上記脂肪酸に、ステアリン酸、オレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸からなる群より選択される1種または2種以上を含めることで、製造コストの増加を抑止しつつ原料ニッケル粉の微粉化を促進することができる。
【0043】
上記溶媒の全質量に対する上記脂肪酸の含有量の上限としては、3質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。上記脂肪酸の含有量が上記上限を超えると、溶け残りが生じ、当該ニッケル粉末の製造方法の製造コストが増加するおそれがある。一方、上記脂肪酸の含有量の下限としては、特に限定されず、上記脂肪酸による微粉化の容易化効果を得るには0質量%超であればよい。
【0044】
(湿式粉砕)
ニッケル粉末に要求される粒子径(後述)の観点から、粉砕には湿式粉砕が用いられる。湿式粉砕は、ビーズミル、ディスクミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。中でも、ニッケル粉末に要求される粒子径の観点からビーズミルが好ましい。
【0045】
(ニッケル粉末)
湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の全質量に対する上記水素元素の含有量の下限としては、0.05質量%であり、0.07質量%がより好ましい。一方、上記水素元素の含有量の上限としては、1.0質量%が好ましく、0.8質量%がより好ましい。上記水素元素の含有量が上記下限未満であると、上記ニッケル粉末の酸化や変質の抑止効果が不十分となり、防カビ作用が低下するおそれがある。逆に、上記水素元素の含有量が上記上限を超えると、水素元素を含有させるための粉砕に時間を要し、製造コストが増加するおそれがある。
【0046】
湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の全質量に対する上記ニッケル元素の含有量の下限としては、所望の防カビ作用を得る観点から、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、上記ニッケル元素の含有量の上限は特に限定されないが、例えば99質量%とすることができる。
【0047】
上記原料ニッケル粉がリン元素を含む場合、湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の全質量に対する上記リン元素の含有量の下限としては、0.15質量%が好ましく、0.20質量%がより好ましく、0.25質量%がさらに好ましい。一方、上記リン元素の含有量の上限としては、15.70質量%が好ましく、12.00質量%がより好ましく、10.00質量%がさらに好ましい。上記リン元素の含有量が上記下限未満であると、リン元素によるニッケルイオンの溶出促進効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記リン元素の含有量が上記上限を超えると、得られるニッケル粉末の耐食性が向上し過ぎることによりニッケルイオンの溶出が阻害されるおそれがある。
【0048】
上記湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の粒子径の下限としては、レーザー散乱式粒度分布装置により測定した50%体積累計基準で、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、上記ニッケル粉末の粒子径の上限としては、20μmが好ましく、15μmがより好ましい。上記ニッケル粉末の粒子径が上記下限未満であると、粉砕に時間を要し、製造コストが増加するおそれがある。逆に、上記ニッケル粉末の粒子径が上記上限を超えると、上記ニッケル粉末の比表面積が小さくなり、防カビ作用が低下するおそれがある。
【0049】
上記湿式粉砕工程S1後の上記ニッケル粉末の比表面積の下限としては、1m/gが好ましく、2m/gがより好ましく、3m/gがさらに好ましい。一方、上記比表面積の上限としては、11m/gが好ましく、10m/gがより好ましく、9m/gがさらに好ましい。上記比表面積が上記下限未満であると、ニッケルイオンの溶出量が十分に確保できず、防カビ作用が低下するおそれがある。逆に、上記比表面積が上記上限を超えると、粒子同士の凝集が発生することでニッケルイオンの溶出が阻害され、防カビ作用が低下するおそれがある。ここで、「比表面積」は、ガス吸着法により測定される比表面積であり、Nガスを用いた吸着量をBET法により解析し算出した量を指す。その具体的条件としては、前処理条件は200℃で3時間の真空脱気とし、吸着温度は-196℃とする。
【0050】
ここで、上記ニッケル粉末の粒子径と上記ニッケル粉末の全質量に対する上記水素元素の含有量とは、上述のように、ともに粉砕時間に依存する。このうち水素元素の含有量は、溶媒の水素元素含有量や、水素元素の溶媒中での存在形態にも依存するから、両者は独立して制御可能である。
【0051】
<利点>
当該ニッケル粉末の製造方法では、原料ニッケル粉を所定の粒子径まで微粉化させると同時に、水素元素を含む溶媒から上記原料ニッケル粉に水素を添加させることができる。したがって、簡便で低コストでニッケル粉末の製造が可能となる。また、上記ニッケル粉末は、ニッケルまたはニッケル合金を主成分としており、使用状態でその粉末表面に少量存在し得る吸着水にニッケルイオンが溶出する。このニッケルイオンが吸着水内で増殖し得る菌やカビに接触して死滅させることができる。さらに、上記ニッケル粉末の全質量に対する水素元素の含有量を上記下限以上とするので、水素元素が菌やカビを構成するたんぱく質を変質させる水素化物を形成し易く、製造されたニッケル粉末が優れた防カビ作用を示す。
【0052】
〔塗料および部材の製造方法〕
<塗料の製造方法>
本開示の別の一態様に係る塗料の製造方法は、図2に示すように、ニッケル粉末を塗料材料に添加する塗料調製工程S2を備える。当該塗料の製造方法では、上記ニッケル粉末として、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0053】
上記塗料材料は、溶媒を含んでもよく、溶媒を含まなくてもよい。当該塗料または上記塗料材料の形態としては、溶媒系、水系、または粉体のいずれかであってもよい。
【0054】
上記塗料材料は、通常、樹脂を含む。上記塗料材料に含まれる樹脂は、特に限定されず、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。すなわち、当該塗料または上記塗料材料は、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料、アクリル系塗料、シリコーン系塗料のいずれかであってもよい。
【0055】
上記塗料における上記ニッケル粉末の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0056】
<部材の製造方法>
本開示の別の一態様に係る部材の製造方法は、図2に示すように、被塗布部材に塗料を塗布する塗布工程S3を備える。当該部材の製造方法では、上記塗料として、本開示の塗料の製造方法により製造された塗料を用いる。
【0057】
上記被塗布部材としては、特に限定されず、防カビ性が要求される種々の部材であってもよい。上記被塗布部材としては、屋外照明用カバー、スマートメーターカバー等の屋外設備用カバー;台所、風呂、トイレ等の水周りで使用される部材または住宅設備;冷蔵庫、エアコン等の家電;コンビニエンスストア等に設置されているATM(現金自動預け払い機);POS端末;携帯電話、スマートフォン、タブレット等の携帯用端末;パソコン等の計算機器;各種包装材;壁紙;各種フィルター;スイッチ;日用品・生活用資材;衛生材;衣料品;車両関連の各種プラスチック部品等の部材が挙げられる。
【0058】
上記塗料の塗布は、被塗布部材の全面に行ってもよく、一部に行ってもよい。
【0059】
<利点>
本開示の塗料の製造方法および部材の製造方法は、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いるので、簡便で低コストの製造が可能であり、かつその防カビ作用に優れる。
【0060】
〔樹脂組成物および樹脂成形品の製造方法〕
<樹脂組成物の製造方法>
本開示の別の一態様に係る樹脂組成物の製造方法は、図3に示すように、ニッケル粉末を樹脂に添加する樹脂調製工程S4を備える。当該樹脂組成物の製造方法では、上記ニッケル粉末として、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いる。
【0061】
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0062】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリプロレン、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート系共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のポリアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等のポリエステル系樹脂;ナイロン66、ナイロン69、ナイロン612、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6-66共重合体、ナイロン6-12共重合体等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリカーボネート-ABS樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂;ポリアセタール樹脂;熱可塑性ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0063】
上記熱硬化性樹脂としては、グリコールと、不飽和および飽和二塩基酸から誘導される不飽和ポリエステルと、他のビニルモノマーとの架橋共重体等の不飽和ポリエステル樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂のポリアミン、酸無水物等による硬化樹脂等のエポキシ樹脂;ポリウレタンフォーム等の熱硬化性ポリウレタン樹脂;架橋ポリアクリルアミドの部分加水分解物、架橋されたアクリル酸-アクリルアミド共重合体等の高吸水性樹脂等が挙げられる。
【0064】
上記樹脂組成物における上記ニッケル粉末の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0065】
<樹脂成形品の製造方法>
本開示の別の一態様に係る樹脂成形品の製造方法は、図3に示すように、樹脂組成物を成形する成形工程S5を備え、上記樹脂組成物として、本開示の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂組成物を用いる。
【0066】
上記樹脂成形品としては、特に限定されず、例えば当該部材の製造方法において被塗布部材として例示された部材であってもよい。
【0067】
<利点>
本開示の樹脂の製造方法および樹脂成形品の製造方法は、本開示のニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末を用いるので、簡便で低コストの製造が可能であり、かつその防カビ作用に優れる。
【0068】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、上記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0069】
上記原料ニッケル粉ひいては上記ニッケル粉末は、ニッケルまたはニッケル合金、水素およびその他不可避的に含まれる不純物以外の化合物を含むことを妨げない。上記原料ニッケル粉および上記ニッケル粉末は、例えばニッケル酸化物をさらに含んでいてもよい。
【実施例0070】
以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
<ニッケル粉末の製造>
[No.1~No.7]
純ニッケルとNi-P合金を所定量混合し、高周波溶解後、水アトマイズを行うことで、粒子径(D50)が約10μmのNi-1質量%P(H:0.0016質量%)原料ニッケル粉を作製した。
【0072】
これを原料とし、湿式粉砕工程として、アシザワファインテック株式会社製の湿式ビーズミル装置「ラボスターミニLMZ015」を用い、表1の条件で微粉化を行い、No.1~No.7のニッケル粉末を得た。
【0073】
表1で、「固形分濃度」は、湿式ビーズミル装置に投入する際のスラリー単位重量当たりに占める原料ニッケル粉の質量比である。また、分散剤として、ステアリン酸を添加したものについて、その添加量は、原料ニッケル粉100質量部に対してステアリン酸が2質量部とした。
【0074】
[No.8]
上述の水アトマイズ法で作製した原料ニッケル粉そのものをNo.8のニッケル粉末とした。
【0075】
[No.9]
上述の水アトマイズ法で作製した原料ニッケル粉を水素雰囲気下で還元熱処理してNo.9のニッケル粉末を得た。なお、還元熱処理は、窒素10体積%の混合水素ガス雰囲気で300℃30分間の処理とした。
【0076】
【表1】
【0077】
表1で「-」は、該当する要素がないことを示す。
【0078】
[評価]
No.1~No.9のニッケル粉末に対して粒子径、水素元素含有量、リン元素含有量、防カビ性を評価した。評価条件は以下に述べる通りである。結果を表2に示す。
【0079】
(粒子径)
粒子径(D50)は、マイクロトラックベル株式会社製のレーザー解析・散乱式粒子径分布測定装置「MT3300EX」を用いて測定した。No.1~No.7は、湿式粉砕工程後スラリー中のニッケル粉末の粒子径である。湿式粉砕を行っていないNo.8は、原料ニッケル粉の粒子径である。また、No.9は、未測定である。
【0080】
(水素元素含有量、リン元素含有量)
水素元素含有量は、湿式粉砕工程後のスラリーをろ過・乾燥させ得られたニッケル粉末を不活性ガス融解法により測定した。リン元素含有量は、各試料粉末を酸溶解させた後、ICP発光分光分析法によって測定した。
【0081】
(防カビ性)
防カビ性は、抗菌製品技術協会(SIAA)の「最小発育阻止濃度測定法I(2018年度版)液体培地希釈法によるMIC測定法」を一部変更して実施した。試験検体はニッケル粉末の最大濃度が1000μg/mLになるようにサブデキストロース液体培地(SDB)と混合し、さらにSDBを用いて2倍希釈系列を合計10段階調製し試験培地とした。試験菌液はCladosporium cladosporioides(NBRC6368)を胞子数が10個/mLになるように調製し、各試験培地に接種後、25℃で48時間培養した。培養後の発育有無を肉眼で観察し、MICを判定した。具体的には、発育が認められなかった試料の試料粉末濃度の最大値を「防カビ性指標[ppm]」として求めた。つまり、防カビ性指標は数値が少ないほど防カビ性に優れることを示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2で「-」は、未測定であることを示す。
【0084】
表2の結果から、本開示のニッケル粉末の製造方法である湿式粉砕工程で製造したニッケル粉末は、防カビ作用に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示のニッケル粉末の製造方法は、簡便で低コストの製造が可能であり、得られるニッケル粉末が防カビ作用に優れる。また、本開示の塗料の製造方法、部材の製造方法、樹脂組成物の製造方法および樹脂成形品の製造方法は、簡便で低コストの製造が可能であり、得られる塗料、部材、樹脂組成物および樹脂成形品が、その防カビ作用に優れる。
図1
図2
図3