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特開2024-150175インクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
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  • 特開-インクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150175
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】インクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241016BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241016BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241016BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/54
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063453
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 範晃
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB27
2H186BA08
2H186DA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039AD09
4J039BC13
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA34
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できるインクセットを提供する。
【解決手段】インクセットは、インクジェット用インクと、前処理液とを備える。前記インクジェット用インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有する。前記第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含む。前記前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有する。前記一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含む。前記二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含む。前記前処理液において、前記一価の塩の質量に対する前記二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用インクと、前処理液とを備えるインクセットであって、
前記インクジェット用インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有し、
前記第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含み、
前記前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有し、
前記一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含み、
前記二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含み、
前記前処理液において、前記一価の塩の質量に対する前記二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下である、インクセット。
【請求項2】
前記インクジェット用インクにおいて、前記炭素原子数6のジオールの含有割合は、15.0質量%以上25.0質量%以下である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記インクジェット用インクにおいて、前記トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、3.0質量%以上7.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記二価の塩は、硫酸カルシウム及び硫酸マグネシウムのうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項5】
前記一価の塩は、塩化ナトリウム、塩化リチウム及び塩化カリウムのうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項6】
前記前処理液において、前記一価の塩の含有割合は、1.0質量%以上3.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項7】
前記前処理液において、前記二価の塩の含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項8】
前記第二水性媒体は、水及びグリセリンを含有する、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項9】
前記前処理液は、固形分として、前記一価の塩及び前記二価の塩のみを含有する、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項10】
記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、
請求項1又は2に記載のインクセットと、
前記画像形成領域に前記前処理液を吐出するライン式前処理ヘッドと、
前記画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出するライン式記録ヘッドとを備える、インクジェット記録装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のインクセットを用いて記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記画像形成領域に前記前処理液を吐出する前処理工程と、
前記画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出する画像形成工程とを備える、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法では、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できることが要求される。このような要求に対して、前処理液を用いて記録媒体を前処理した後に、記録媒体にインクを用いて画像形成を行うインクジェット記録方法が提案されている。このようなインクジェット記録方法においては、例えば、前処理液と、インクジェット用インクとを備えるインクセットであって、前処理液が、樹脂粒子と、カルシウムイオンと、複数のカルボン酸イオンと、水とを含有するインクセットを用いることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7074921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクセットであっても、形成される画像の画像濃度と、耐擦過性との両方を満たすことは困難である。
【0005】
本発明の目的は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できるインクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態のインクセットは、インクジェット用インクと、前処理液とを備える。前記インクジェット用インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有する。前記第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含む。前記前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有する。前記一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含む。前記二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含む。前記前処理液において、前記一価の塩の質量に対する前記二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下である。
【0007】
本発明の実施形態のインクジェット記録装置は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、上述のインクセットと、前記画像形成領域に前記前処理液を吐出するライン式前処理ヘッドと、前記画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出するライン式記録ヘッドとを備える。
【0008】
本発明の実施形態のインクジェット記録方法は、上述のインクセットを用いて記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録方法であって、前記画像形成領域に前記前処理液を吐出する前処理工程と、前記画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出する画像形成工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るインクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第二実施形態のインクジェット記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー(登録商標)ナノZS」)を用いて測定された値である。
【0012】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
<第一実施形態:インクセット>
以下、本発明の第一実施形態のインクセットを説明する。本実施形態のインクセットは、インクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)と、前処理液とを備える。インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有する。第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含む。前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有する。一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含む。二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含む。前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下である。
【0014】
本実施形態のインクセットは、ライン式記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置に使用することが好ましい。ライン式記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置は、形成される画像の画像濃度が不十分となり易い。これに対して、本実施形態のインクセットを用いることにより、ライン式記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置でも所望の画像濃度を有する画像を形成できる。
【0015】
本実施形態のインクセットの備える前処理液は、記録媒体の画像形成領域に塗布して用いる。前処理液を記録媒体の画像形成領域に塗布する方法としては、例えば、ローラーによる塗布、スプレーによる塗布及びインクジェット吐出による塗布が挙げられ、インクジェット吐出による塗布が好ましい。
【0016】
本実施形態のインクセットにより画像を形成する記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、浸透性の記録媒体(例えば、コピー用紙、又はプリンター用紙)が挙げられる。
【0017】
本実施形態のインクセットは、上述の構成を備えることにより、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できる。その理由は以下のように推察される。本実施形態のインクセットの備える前処理液は、一価の塩と、二価の塩とを含有する。インクが含有する顔料は、アニオン性を有する場合が多い。そのため、一価の塩及び二価の塩を含有する前処理液で記録媒体を前処理することにより、記録媒体の表面付近において、一価の塩及び二価の塩に含まれるカチオンがインク中の顔料を凝集させる。その結果、本実施形態のインクセットは、記録媒体の表面付近に顔料を留め、所望の画像濃度を有する画像を形成できる。一方、公知のインクセットでは、形成される画像の画像濃度と耐擦過性とがトレードオフの関係となり易い。これは、前処理によって記録媒体の表面付近に顔料を留めようとすると、記録媒体の最表層に存在する顔料の量が多くなり、画像の耐擦過性が低くなる傾向がある。
【0018】
これに対して、本実施形態のインクセットは、前処理液が一価の塩と二価の塩とを特定の比で含有することにより、形成される画像の画像濃度と、耐擦過性とを両立できる。詳しくは、塩のうち、二価の塩は、顔料との反応性が比較的高く、顔料を効率的に凝集させることができる。一方、二価の塩は、自身の親水性が高いため、疎水的な環境では顔料との反応性が低下するという特徴がある。これに対して、一価の塩は、顔料との反応性が比較的低く、顔料を効率的に凝集させることができない。一方、一価の塩は、自身の親水性が低いため、疎水的な環境でも顔料との反応性を維持できるという特徴がある。そして、本実施形態のインクセットが備える前処理液で処理した記録媒体にインクが着弾すると、記録媒体の最表層ではインク中の水分が乾燥して疎水的な環境となる。このような環境においては、一価の塩が主に顔料を凝集させるが、上述の通り、一価の塩はあまり効率的に顔料を凝集させることができない。一方で、記録媒体の最表層からやや内部の位置においては、インクに含まれる水分が乾燥せずに保持されるため、親水的環境となる。このような環境においては、二価の塩が効率的に顔料を凝集させる。これらの結果、本実施形態のインクセットにより形成される画像は、記録媒体の最表層にはあまり多くの顔料が留まらず、記録媒体の最表層からやや内部の位置に多くの顔料が留まる。これにより、本実施形態のインクセットは、形成される画像の画像濃度と、耐擦過性とを両立できる。
【0019】
また、本実施形態のインクセットが備えるインクは、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含有する。炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルは、記録媒体に対する優れた浸透性をインクに付与する。なお、ジオールは、炭素原子数が多いほど、記録媒体に対する優れた浸透性をインクに付与できる。但し、炭素原子数が7以上のジオールは、水に対する溶解度が低い。以上から、ジオールの炭素原子数としては、6が最適である。インクが炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含有することにより、本実施形態のインクセットは、形成される画像の画像濃度と、耐擦過性とを更に高いレベルで両立できる。以下、本実施形態のインクセットの備えるインク及び前処理液の詳細を説明する。
【0020】
[インク]
インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有する。インクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
【0021】
(顔料)
インクにおいて、顔料は、例えば、顔料被覆樹脂と共に顔料粒子を構成する。顔料粒子は、例えば、顔料を含むコアと、コアを被覆する顔料被覆樹脂とにより構成される。顔料被覆樹脂は、例えば、溶媒に分散して存在する。インクの色濃度、色相、又は安定性を最適化する観点から、顔料粒子の体積中位径としては、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0022】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0023】
インクにおいて、顔料の含有割合としては、1.0質量%以上12.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。顔料の含有割合を1.0質量%以上とすることで、本実施形態のインクセットは、所望する画像濃度を有する画像を形成できる。また、顔料の含有割合を12.0質量%以下とすることで、インクの流動性を確保できる。
【0024】
(顔料被覆樹脂)
顔料被覆樹脂は、インクの第一水性媒体に可溶な樹脂である。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、顔料粒子の表面に存在し、顔料粒子の分散性を最適化する。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、インクの第一水性媒体に溶解した状態で存在する。
【0025】
顔料被覆樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましい。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち少なくとも1つのモノマーに由来する繰り返し単位と、スチレン単位とを有する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。スチレン-(メタ)アクリル樹脂としては、スチレンと、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸と、アクリル酸ブチルとの共重合体(X)が好ましい。なお、共重合体(X)は、塩基(例えば、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム)によって等量中和されていることが好ましい。
【0026】
共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、スチレンに由来する繰り返し単位の含有割合としては、10質量%以上20質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、10質量%以上20質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、メタクリル酸に由来する繰り返し単位の含有割合としては、35質量%以上45質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、25質量%以上35質量%以下が好ましい。
【0027】
インクにおいて、顔料被覆樹脂の含有割合としては、0.5質量%以上6.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の含有割合を0.5質量%以上6.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を最適化できる。
【0028】
インクにおいて、顔料100質量部に対する顔料被覆樹脂の含有量としては、10質量部以上80質量部以下が好ましく、30質量部以上50質量部以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の含有量を10質量部以上80質量部以下とすることで、インクの吐出安定性を最適化できる。
【0029】
(第一水性媒体)
インクが含有する第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含む。第一水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。第一水性媒体は、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル以外の水溶性有機溶媒(以下、その他の水溶性有機溶媒と記載することがある)を更に含有してもよい。
【0030】
(水)
インクにおいて、水の含有割合としては、40.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、55.0質量%以上67.0質量%以下がより好ましい。
【0031】
(炭素原子数6のジオール)
炭素原子数6のジオールは、記録媒体に対する浸透性をインクに付与する。炭素原子数6のジオールは、直鎖構造を有してもよく、分岐構造を有してもよい。水との親和性の高さの観点から、炭素原子数6のジオールは、分岐構造を有することが好ましい。炭素原子数6のジオールとしては、例えば、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールが挙げられる。炭素原子数6のジオールとしては、1,6-ヘキサンジオール又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールが好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオールがより好ましい。
【0032】
インクにおける炭素原子数6のジオールの含有割合としては、5.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。炭素原子数6のジオールの含有割合を5.0質量%以上とすることで、インクの記録媒体に対する浸透性を更に最適化できる。炭素原子数6のジオールの含有割合を40.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を最適化できる。
【0033】
(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)
トリエチレングリコールモノブチルエーテルは、記録媒体に対する浸透性をインクに付与する。インクにおけるトリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、1.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合を1.0質量%以上とすることで、インクの記録媒体に対する浸透性を更に最適化できる。トリエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合を10.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を最適化できる。
【0034】
(その他の水溶性有機溶媒)
第一水性媒体が含有してもよいその他の水溶性有機溶媒としては、例えば、炭素原子数1以上5以下のグリコール化合物、グリコールエーテル化合物(トリエチレングリコールモノブチルエーテルを除く)、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0035】
その他の水溶性有機溶媒としては、グリセリンが好ましい。インクがグリセリンを含有することで、インクの保湿性及び吐出安定性を最適化できる。インクにおいて、グリセリンの含有割合としては、2.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下がより好ましい。グリセリンの含有割合を4.0質量%以上6.0質量%以下とすることで、インクの保湿性及び吐出安定性を更に最適化できる。
【0036】
第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びグリセリンのみを含有することが好ましい。第一水性媒体において、水、炭素原子数6のジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びグリセリンの合計含有割合としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0037】
インクにおける第一水性媒体の含有割合としては、70.0質量%以上97.0質量%以下が好ましく、85.0質量%以上95.0質量%以下がより好ましい。
【0038】
(界面活性剤)
界面活性剤は、インクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を最適化する。また、界面活性剤は、インクの記録媒体に対する濡れ性を最適化する。インクにおける界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0039】
インクにおけるノニオン界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール界面活性剤(アセチレングリコール化合物を含む界面活性剤)、シリコーン界面活性剤(シリコーン化合物を含む界面活性剤)及びフッ素界面活性剤(フッ素樹脂又はフッ素含有化合物を含む界面活性剤)が挙げられる。アセチレングリコール界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物及びアセチレングリコールのプロピレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコール界面活性剤が好ましい。
【0040】
インクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0041】
(他の成分)
インクは、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0042】
なお、インクは、吐出安定性等の観点から、樹脂粒子を含有しないことが好ましい。インクにおいて、樹脂粒子の含有割合としては、5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.0質量%が更に好ましい。
【0043】
インクの好ましい組成として、組成a~bを下記表1に示す。なお、下記表1において、組成aの顔料の「5.0-7.0」との表記は、顔料を5.0質量%以上7.0質量%以下含有することを示す。他の欄について同様である。「樹脂」は、顔料被覆樹脂を示す。「BTG」は、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを示す。「MPD」は、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを示す。「1,6HD」は、1,6-ヘキサンジオールを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
(インクの製造方法)
インクは、例えば、顔料及び顔料被覆樹脂を含有する顔料分散液と、炭素原子数6のジオールと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、必要に応じて配合される他の成分(例えば、水及び界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより製造できる。インクの製造では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0046】
(顔料分散液)
顔料分散液は、顔料及び顔料被覆樹脂を含む分散液である。顔料分散液の分散媒としては、水が好ましい。
【0047】
顔料分散液における顔料の含有割合としては、5.0質量%以上25.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。顔料分散液における顔料被覆樹脂の含有割合としては、1.0質量%以上12.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。
【0048】
顔料分散液は、顔料と、顔料被覆樹脂と、分散媒(例えば、水)と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤)とをメディア型湿式分散機により湿式分散することで調製できる。メディア型湿式分散機による湿式分散では、メディアとして、例えば、小粒径ビーズ(例えば、D50が0.5mm以上1.0mm以下のビーズ)を用いることができる。ビーズの材質としては、特に限定されないが、硬質の材料(例えば、ガラス及びジルコニア)が好ましい。
【0049】
[前処理液]
前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有する。前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下であり、6.0以上11.0以下が好ましく、8.0以上11.0以下が更に好ましい。一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比を4.5以上とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像に所望の画像濃度及び耐擦過性を付与できる。一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比を12.0以下とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像に耐擦過性を付与できる。
【0050】
(一価の塩)
一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含む。一価の塩における陰イオンとしては、例えば、F-、Cl-、OH-、及びNO3 -が挙げられる。一価の塩における陰イオンとしては、Cl-が好ましい。一価の塩としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム又は塩化カリウムが好ましい。
【0051】
前処理液における一価の塩の含有割合としては、0.5質量%以上6.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。一価の塩の含有割合を0.5質量%以上とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像の耐擦過性を最適化できる。一価の塩の含有割合を6.0質量%以下とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像の耐擦過性及び画像濃度を最適化できる。
【0052】
(二価の塩)
二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含む。二価の塩における陰イオンとしては、例えば、O2 -、S2 -、SO4 2-、及びCO3 2-が挙げられる。二価の塩における陰イオンとしては、SO4 2-が好ましい。二価の塩としては、硫酸カルシウム又は硫酸マグネシウムが好ましい。
【0053】
前処理液における二価の塩の含有割合としては、3.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。二価の塩の含有割合を3.0質量%以上とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像の画像濃度を最適化できる。二価の塩の含有割合を20.0質量%以下とすることで、本実施形態のインクセットは、形成される画像の耐擦過性を最適化できる。
【0054】
(第二水性媒体)
前処理液が含有する第二水性媒体は、水を含む媒体である。第二水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。第二水性媒体の具体例としては、水のみを含有する水性媒体、及び水と水溶性有機溶媒とを含有する水性媒体が挙げられる。前処理液をインクジェット吐出によって記録媒体に塗布する場合、前処理液の吐出安定性を付与するため、第二水性媒体は、水と水溶性有機溶媒とを含有することが好ましい。一方、前処理液をインクジェット吐出以外の方法(例えば、ローラーによる塗布、及びスプレーによる塗布)によって記録媒体に塗布する場合、第二水性媒体は、水のみを含有することが好ましい。
【0055】
(水)
前処理液において、水の含有割合としては、60.0質量%以上90.0質量%以下が好ましく、73.0質量%以上85.0質量%以下がより好ましい。
【0056】
(水溶性有機溶媒)
第二水性媒体における水溶性有機溶媒としては、インクにおいて例示した水溶性有機溶媒(詳しくは、炭素原子数6のジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びその他の水溶性有機溶媒)と同様の化合物が挙げられる。第二水性媒体における水溶性有機溶媒としては、グリセリンが好ましい。つまり、第二水性媒体は、水及びグリセリンを含有することが好ましい。
【0057】
前処理液において、グリセリンの含有割合としては、3.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以上12.0質量%以下がより好ましい。
【0058】
第二水性媒体は、水のみを含有するか、又は水及びグリセリンのみを含有することが好ましい。第二水性媒体において、水及びグリセリンの合計含有割合としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0059】
(他の成分)
前処理液は、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、界面活性剤、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0060】
前処理液は、一価の塩、二価の塩、及び第二水性媒体のみを含有することが好ましい。第二水性媒体において、一価の塩、二価の塩、及び第二水性媒体の合計含有割合としては、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0061】
特に、前処理液は、固形分として、一価の塩及び二価の塩のみを含有することが好ましい。前処理液において、一価の塩及び二価の塩以外の固形分(例えば、樹脂)の含有割合としては、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0質量%が更に好ましい。
【0062】
前処理液の好ましい組成として、組成A~Fを下記表2に示す。なお、下記表2において、組成AのKClの「1.5-2.5」との表記は、塩化カリウムを1.5質量%以上2.5質量%以下含有することを示す。他の欄について同様である。
【0063】
【表2】
【0064】
(前処理液の調製方法)
前処理液は、例えば、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを攪拌機により均一に混合することにより製造できる。前処理液の製造では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0065】
<第二実施形態:インクジェット記録装置>
次に、第二実施形態のインクジェット記録装置について説明する。本実施形態のインクジェット記録装置は、記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録装置であって、第一実施形態のインクセットと、画像形成領域に前処理液を吐出するライン式前処理ヘッドと、画像形成領域にインクを吐出するライン式記録ヘッドとを備える。本実施形態のインクジェット記録装置は、第一実施形態のインクセットを用いることで、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できる。なお、本実施形態においては、第一実施形態において説明したインクセットについての重複説明を省略する。
【0066】
以下、本実施形態のインクジェット記録装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0067】
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の一例であるインクジェット記録装置100の要部を示す図である。図1に示すように、インクジェット記録装置100は、搬送部1と、ライン式前処理ヘッド11と、ライン式記録ヘッド12とを主に備える。ライン式前処理ヘッド11には、前処理液が充填される。ライン式記録ヘッド12には、インクが充填される。インクジェット記録装置100は、給紙トレイ2、給紙ローラー3、給紙従動ローラー4、搬送ベルト5、ベルト駆動ローラー6、ベルト従動ローラー7、排出ローラー8、排出従動ローラー9及び排紙トレイ10を更に備える。搬送ベルト5、ベルト駆動ローラー6及びベルト従動ローラー7は、搬送部1の一部を構成する。インクジェット記録装置100の図中左端部には、給紙トレイ2が設けられている。給紙トレイ2は、記録媒体Mを収容する。給紙トレイ2の一端部には、給紙ローラー3と、給紙従動ローラー4とが設けられている。給紙ローラー3は、収容された記録媒体Mを、最上位置の記録媒体Mから順に一枚ずつ取り出し、搬送ベルト5に搬送し給紙する。給紙従動ローラー4は、給紙ローラー3に圧接されて従動回転する。
【0068】
給紙ローラー3及び給紙従動ローラー4の搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、ベルト駆動ローラー6とベルト従動ローラー7とに掛け渡されている。ベルト駆動ローラー6は、搬送方向下流側に配置される。ベルト駆動ローラー6は、搬送ベルト5を駆動する。ベルト従動ローラー7は、搬送方向上流側に配置される。ベルト従動ローラー7は、搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動して回転する。ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録媒体Mが矢印で示される搬送方向Xに搬送される。
【0069】
また、搬送ベルト5の搬送方向下流側には、排出ローラー8と排出従動ローラー9とが設けられている。排出ローラー8は、図中時計回りに駆動され、画像が形成された記録媒体Mを装置筐体外へ排出する。排出従動ローラー9は、排出ローラー8の上部に圧接され従動回転する。排出ローラー8及び排出従動ローラー9の下流側には、排紙トレイ10が設けられている。排紙トレイ10には、装置筐体外に排出された記録媒体Mが積載される。
【0070】
ライン式前処理ヘッド11は、搬送ベルト5の上方に配設されている。ライン式前処理ヘッド11は、搬送ベルト5上を搬送される記録媒体Mの画像形成領域に前処理液を吐出する。これにより、ライン式前処理ヘッド11は、記録媒体Mの画像形成領域を前処理する。
【0071】
ライン式記録ヘッド12は、ライン式前処理ヘッド11よりも搬送方向下流に配設される。ライン式記録ヘッド12は、ライン式記録ヘッド12C、12M、12Y及び12Kを含む。ライン式記録ヘッド12C、12M、12Y及び12Kは、搬送ベルト5の上方において、記録媒体Mの搬送方向上流側から下流側に向けて、この順に配設されている。ライン式記録ヘッド12C~12Kの各々は、搬送ベルト5の上面との距離が所定の長さとなる高さで支持されている。ライン式記録ヘッド12C~12Kは、搬送ベルト5上を搬送される記録媒体Mに画像形成する。ライン式記録ヘッド12C~12Kには、それぞれ異なる4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のカラーインクが収容されている。ライン式記録ヘッド12C~12Kの各々からカラーインクを吐出することにより、インクジェット記録装置100は、記録媒体M上にカラー画像を形成する。
【0072】
以上、本実施形態のインクジェット記録装置の一例について説明したが、本実施形態のインクジェット記録装置は、図1に示されるものに限定されない。
【0073】
図1では、4色のインクに対応する4個のライン式記録ヘッド12C~12Kを備えるインクジェット記録装置100を例に挙げて説明した。しかしながら、本実施形態のインクジェット記録装置が備えるライン式記録ヘッドの数は、2個以上であれば特に限定されず、例えば、2個以上10個以下とすることができ、3個以上5個以下が好ましい。
【0074】
また、インクジェット記録装置100は、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のインクをこの順番で吐出するが、インクの種類、組み合わせ及び吐出順序はこれに限定されない。
【0075】
更に、本実施形態のインクジェット記録装置は、スキャナー、複写機、プリンター又はファクシミリの機能を更に有する複合機であってもよい。
【0076】
<第三実施形態:インクジェット記録方法>
次に、第三実施形態のインクジェット記録方法を説明する。本実施形態のインクジェット記録方法は、第一実施形態のインクセットを用いて記録媒体の画像形成領域に画像を形成するインクジェット記録方法であって、画像形成領域に前処理液を吐出する前処理工程と、画像形成領域にインクを吐出する画像形成工程とを備える。本実施形態のインクジェット記録方法は、第一実施形態のインクセットを用いることで、所望の画像濃度を有すると共に耐擦過性に優れる画像を形成できる。なお、本実施形態においては、第一実施形態において説明したインクセットについての重複説明を省略する。
【0077】
[前処理工程]
本工程では、記録媒体に前処理液を吐出する。記録媒体に前処理液を吐出する方法としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド又はサーマルインクジェット方式ヘッドを用いる方法が挙げられる。
【0078】
本工程では、記録媒体の表面のうちインクが吐出される領域のみに前処理液を吐出してもよく、記録媒体の全面に前処理液を吐出してもよい。
【0079】
本工程において、前処理液の塗布量としては、例えば、3.5g/m2以上7.0g/m2以下である。本工程において、前処理液の1画素あたりの塗布量としては、例えば、10pL以上20pL以下である。
【0080】
[画像形成工程]
本工程では、前処理工程後の記録媒体にインクを吐出し、所望の画像を形成する。インクを吐出する方法としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド又はサーマルインクジェット方式ヘッドを用いる方法が挙げられる。
【実施例0081】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0082】
本実施例において、体積中位径(D50)は、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー(登録商標)ナノZS」)を用いて測定した値である。なお、測定に際しては、必要に応じて、測定対象をイオン交換水で希釈してから測定した。
【0083】
<評価方法>
実施例では、以下の方法により、評価対象となるインクセットについて、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。
【0084】
[評価機]
評価機として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機を用いた。評価機は、記録媒体の画像形成領域に前処理液を吐出するライン式前処理ヘッドと、記録媒体の画像形成領域にインクを吐出するライン式記録ヘッドとを備えていた。前処理ヘッドは、吐出される前処理液の吐出量が1画素あたり13pLとなるように設定された。ライン式記録ヘッドは、吐出されるインク一滴の体積が10pL(即ち、1画素当たりのインク体積が10pL)となるように設定された。
【0085】
[画像濃度の評価]
画像濃度の評価は、温度25℃、湿度50%RHの環境下において行った。画像濃度の評価においては、記録媒体としては、A4サイズの普通紙(mondi社製「Color Copy(登録商標)」、坪量:90g/m2)を用いた。評価機のライン式前処理ヘッドを用いて、記録媒体の画像形成領域に前処理液(詳しは、評価対象のインクセットが備える前処理液)を吐出した。次に、評価機のライン式記録ヘッドを用いて、記録媒体の画像形成領域にインク(詳しは、評価対象のインクセットが備えるインク)を吐出し、記録媒体に1cm×1cmのソリッド画像を形成した。次に、記録媒体を24時間放置した。次に、記録媒体に形成されたソリッド画像の画像濃度(ID値)を、蛍光分光濃度計(コニカミノルタ株式会社製「FD-5」)で測定した。画像濃度は、以下の基準で判定した。
【0086】
(画像濃度の基準)
A(良好):ID値が1.30以上である。
B(不良):ID値が1.30未満である。
【0087】
[耐擦過性の評価]
耐擦過性の評価は、温度28℃、湿度80%RHの環境下において行った。耐擦過性の評価においては、記録媒体としては、多用途プリンター用紙(富士ゼロックス株式会社製「Vitality」、含水率4質量%~6質量%)を用いた。評価機のライン式前処理ヘッドを用いて、記録媒体の画像形成領域に前処理液(詳しは、評価対象のインクセットが備える前処理液)を吐出した。次に、評価機のライン式記録ヘッドを用いて、記録媒体の画像形成領域にインク(詳しは、評価対象のインクセットが備えるインク)を吐出し、記録媒体に10cm×10cmのソリッド画像を形成した。
【0088】
ソリッド画像の形成から10秒後、ソリッド画像が形成された記録媒体の表面(ソリッド画像側の面)上に、試験用紙(未印刷の上述の多用途プリンター用紙)を載置した。重りを用いて試験用紙に1kgの荷重を加えながら、試験用紙の一方の面でソリッド画像上を5往復擦った。その後、試験用紙において、ソリッド画像と接触させた側の面の画像濃度を、上述の蛍光分光濃度計を用いて測定した。詳しくは、画像濃度の測定は、上述のソリッド画像と接触させた側の面のうち無作為に選択した10箇所でそれぞれ測定した。得られた10箇所の画像濃度の算術平均値を、耐擦過性の評価値として採用した。耐擦過性は、以下の基準で判定した。
【0089】
(耐擦過性の基準)
A(良好):評価値が0.020以下である。
B(不良):評価値が0.020超である。
【0090】
[マゼンタ顔料分散液の調製]
インクの調製に使用するためのマゼンタ顔料分散液を調製した。マゼンタ顔料分散液の調製においては、まず、顔料被覆樹脂(R)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を調製した。
【0091】
(顔料被覆樹脂溶液の調製)
メタクリル酸に由来する繰り返し単位(MAA単位)と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位(MMA単位)と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位(BA単位)と、スチレンに由来する繰り返し単位(ST単位)とを有するアルカリ可溶性樹脂を準備した。このアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20000、酸価が100mgKOH/gであった。このアルカリ可溶性樹脂における各繰り返し単位の質量比は、「MAA単位:MMA単位:BA単位:ST単位=40:15:30:15」であった。このアルカリ可溶性樹脂と、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度:10質量%)とを混合した(中和処理)。中和処理では、アルカリ可溶性樹脂の中和に必要な量の1.05倍量のNaOHで中和した。これにより、顔料被覆樹脂(R)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を得た。
【0092】
上述のアルカリ可溶性樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8020GPC」)を用いて下記条件により測定した。検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンであるF-40、F-20、F-4、F-1、A-5000、A-2500、及びA-1000と、n-プロピルベンゼンとを用いて作成した。
【0093】
(質量平均分子量の測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR検出器
【0094】
[マゼンタ顔料分散液の調製]
下記表3に示す組成となるように、マゼンタ顔料(C.I.Pigment Red 112)と、顔料被覆樹脂(R)を含有する上述の顔料被覆樹脂溶液と、アセチレングリコール界面活性剤である日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)と、イオン交換水とを、メディア型湿式分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「DYNO(登録商標)-MILL」)のベッセルに投入した。
【0095】
なお、下記表3の「水」の含有割合は、上述のベッセルに投入したイオン交換水と、顔料被覆樹脂溶液に含まれていた水(詳しくは、アルカリ可溶性樹脂の中和に用いた水酸化ナトリウム水溶液に含まれていた水、及びアルカリ可溶性樹脂及び水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水)との合計含有割合を示す。
【0096】
【表3】
【0097】
次いで、ベッセルの内容物を湿式分散した。メディアとしては、ジルコニアビーズ(粒子径1.0mm)を用いた。メディアの投入量は、ベッセルの容量に対して70体積%とした。分散条件は、温度10℃、周速8m/秒とした。これにより、マゼンタ顔料分散液を得た。
【0098】
得られたマゼンタ顔料分散液に含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)を測定した。詳しくは、得られたマゼンタ顔料分散液をイオン交換水で300倍に希釈し、これを測定試料とした。動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて、測定試料中の顔料粒子のD50を測定した。測定試料中の顔料粒子のD50を、マゼンタ顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50とした。なお、測定は10回行い、各測定結果の平均値を顔料粒子のD50として採用した。マゼンタ顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50は、100nmであった。
【0099】
<検討1:インク中のジオールの検討>
以下の方法により、インク(I-1)~(I-4)と、前処理液(P-1)とを調製した。そして、下記表4に示す通りに、インク(I-1)~(I-4)のうち何れか1つと、前処理液(P-1)とを組み合わせることにより、実施例1~2及び比較例1~2のインクセットを準備した。実施例1~2及び比較例1~2のインクセットを用い、インク中のジオールについて検討した。
【0100】
[インク(I-1)の調製]
マゼンタ顔料分散液40.0質量部(マゼンタ顔料:6.0質量部、顔料被覆樹脂(R):2.4質量部)と、界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)0.3質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部と、下記表4に示すジオール(インク(I-1)においては3-メチルー1,5-ペンタンジオール)20.0質量部と、グリセリン5.0質量部と、イオン交換水29.7質量部とをビーカーに投入した。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて、回転速度400rpmで、ビーカーの内容物を混合し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、インク(I-1)を得た。
【0101】
[インク(I-2)~(I-4)の調製]
ジオールの種類を下記表4に示す通りに変更した以外は、インク(I-1)の調製と同様の方法により、インク(I-2)~(I-4)を調製した。なお、各インクの調製に用いたジオールの説明を以下に示す。
1,4-ブタンジオール:炭素原子数4(直鎖構造)
1,5-ペンタンジオール:炭素原子数5(直鎖構造)
3-メチル-1,5-ペンタンジオール:炭素原子数6(分岐構造)
1,6-ヘキサンジオール:炭素原子数6(直鎖構造)
【0102】
[前処理液(P-1)の調製]
二価の塩としての硫酸マグネシウム10質量部と、一価の塩としての塩化カリウム2質量部と、グリセリン10質量部と、水78質量部とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて攪拌し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物等を除去した。このようにして、前処理液(P-1)を得た。
【0103】
実施例1~2及び比較例1~2のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4に示すように、実施例1及び2のインクセットは、インク中のジオールとして、3-メチル-1,5-ペンタンジオール又は1,6-ヘキサンジオールを用いた。実施例1及び2のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。一方、比較例1及び2のインクセットは、インク中のジオールとして、1,4-ブタンジオール又は1,5-ペンタンジオールを用いた。その結果、比較例1及び2のインクセットは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。以上から、インク中のジオールとしては、炭素原子数6のジオールが適切であると判断される。
【0106】
また、実施例1のインクセットは、実施例2のインクセットよりも形成される画像の画像濃度が高かった。これは、実施例1のインクセットに用いた3-メチル-1,5-ペンタンジオールは、実施例2のインクセットに用いた1,6-ヘキサンジオールと比較して、分岐構造に起因する高い親水性を有しているためであると判断される。
【0107】
<検討2:インク中のグリコールエーテルの検討>
以下の方法により、インク(I-5)~(I-7)を調製した。そして、下記表5に示す通りに、インク(I-5)~(I-7)のうち何れか1つと、上述の前処理液(P-1)とを組み合わせることにより、実施例3及び比較例3~4のインクセットを準備した。実施例3及び比較例3~4のインクセットを用い、インク中のグリコールエーテルについて検討した。
【0108】
[インク(I-5)の調製]
マゼンタ顔料分散液40.0質量部(マゼンタ顔料:6.0質量部、顔料被覆樹脂(R):2.4質量部)と、界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)0.3質量部と、下記表5に示すグリコールエーテル(インク(I-5)においてはトリエチレングリコールモノブチルエーテル)5.0質量部と、3-メチルー1,5-ペンタンジオール20.0質量部と、グリセリン5.0質量部と、イオン交換水29.7質量部とをビーカーに投入した。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて、回転速度400rpmで、ビーカーの内容物を混合し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、インク(I-5)を得た。
【0109】
[インク(I-6)~(I-7)の調製]
グリコールエーテルの種類を下記表5に示す通りに変更した以外は、インク(I-5)の調製と同様の方法により、インク(I-6)~(I-7)を調製した。なお、各インクの調製に用いグリコールエーテルの略称を以下に示す。
トリエチレングリコールモノブチルエーテル:BTG
トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル:BPG
トリエチレングリコールモノエチルエーテル:BEG
【0110】
実施例3及び比較例3~4のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
表5に示すように、実施例3のインクセットは、インク中のグリコールエーテルとして、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いた。実施例3のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。一方、比較例3及び4のインクセットは、インク中のグリコールエーテルとして、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテルを用いた。その結果、比較例3及び4のインクセットは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。以上から、インク中のグリコールエーテルとしては、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが適切であると判断される。トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテルは、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと構造が類似している化合物であるものの、評価結果では劣っていた。
【0113】
<検討3:前処理液中の二価の塩の検討>
以下の方法により、前処理液(P-2)~(P-5)を調製した。そして、下記表6に示す通りに、上述のインク(I-5)と、前処理液(P-2)~(P-5)のうち何れか1つとを組み合わせることにより、実施例4~5及び比較例5~6のインクセットを準備した。実施例4~5及び比較例5~6のインクセットを用い、前処理液中の二価の塩について検討した。
【0114】
[前処理液(P-2)の調製]
下記表6に示す二価の塩(前処理液(P-2)においては硫酸カルシウム)10質量部と、一価の塩としての塩化ナトリウム2質量部と、グリセリン10質量部と、水78質量部とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて攪拌し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物等を除去した。このようにして、前処理液(P-2)を得た。
【0115】
[前処理液(P-3)~(P-5)の調製]
二価の塩の種類を下記表6に示す通りに変更した以外は、前処理液(P-2)の調製と同様の方法により、前処理液(P-3)~(P-5)を調製した。
【0116】
実施例4~5及び比較例5~6のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表6に示す。
【0117】
【表6】
【0118】
表6に示すように、実施例4及び5のインクセットは、前処理液中の二価の塩として、硫酸カルシウム又は硫酸マグネシウムを用いた。実施例4及び5のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。一方、比較例5及び6のインクセットは、前処理液中の二価の塩として、硫酸バリウム又は硫酸亜鉛を用いた。その結果、比較例5及び6のインクセットは、形成される画像の画像濃度が不良であった。以上から、前処理液中の二価の塩としては、カルシウム塩又はマグネシウム塩が適切であると判断される。これは、カルシウム塩又はマグネシウム塩は、二価の塩の中でも顔料との反応性に優れるためであると判断される。
【0119】
<検討4:前処理液中の一価の塩の検討>
以下の方法により、前処理液(P-6)~(P-9)を調製した。そして、下記表7に示す通りに、上述のインク(I-5)と、前処理液(P-6)~(P-9)のうち何れか1つとを組み合わせることにより、実施例6~8及び比較例7のインクセットを準備した。実施例6~8及び比較例7のインクセットを用い、前処理液中の一価の塩について検討した。
【0120】
[前処理液(P-6)の調製]
二価の塩としての硫酸マグネシウム10質量部と、下記表7に示す一価の塩(前処理液(P-6)においては塩化ナトリウム)2質量部と、グリセリン10質量部と、水78質量部とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて攪拌し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物等を除去した。このようにして、前処理液(P-6)を得た。
【0121】
[前処理液(P-7)~(P-9)の調製]
二価の塩の種類を下記表7に示す通りに変更した以外は、前処理液(P-6)の調製と同様の方法により、前処理液(P-7)~(P-9)を調製した。
【0122】
実施例6~8及び比較例7のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表7に示す。
【0123】
【表7】
【0124】
表7に示すように、実施例6~8のインクセットは、前処理液中の一価の塩として、塩化ナトリウム、塩化リチウム又は塩化カリウムを用いた。実施例6~8のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。一方、比較例7のインクセットは、前処理液中の一価の塩として、塩化セシウムを用いた。その結果、比較例7のインクセットは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。以上から、前処理液中の一価の塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩又はカリウム塩が適切であると判断される。これは、一価の塩の中で、セシウム塩は顔料との反応性が低いためであると判断される。
【0125】
<検討5:前処理液中の塩の質量比の検討>
以下の方法により、前処理液(P-10)~(P-14)を調製した。そして、下記表8に示す通りに、上述のインク(I-5)と、前処理液(P-10)~(P-14)のうち何れか1つとを組み合わせることにより、実施例9~11及び比較例8~9のインクセットを準備した。実施例9~11及び比較例8~9のインクセットを用い、前処理液中の一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比について検討した。
【0126】
[前処理液(P-10)の調製]
二価の塩としての硫酸マグネシウムと、一価の塩としての塩化ナトリウムと、グリセリン10質量部と、水とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて攪拌し、混合液を得た。硫酸マグネシウム及び塩化ナトリウムの使用量は、下記表8に示す通りとした。水の使用量は、混合液の全量が100質量部となる量とした。具体的には、前処理液(P-10)においては、硫酸マグネシウム10質量部、塩化ナトリウム1質量部、水79質量部とした。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物等を除去した。このようにして、前処理液(P-10)を得た。
【0127】
[前処理液(P-11)~(P-14)の調製]
二価の塩及び一価の塩の使用量を下記表8に示す通りに変更した以外は、前処理液(P-10)の調製と同様の方法により、前処理液(P-11)~(P-14)を調製した。
【0128】
実施例9~11及び比較例8~9のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表8に示す。下記表8において、「部」は、質量部を示す。「比X」は、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比を示す。
【0129】
【表8】
【0130】
表8に示すように、実施例9~11のインクセットは、前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比が4.5以上12.0以下であった。実施例9~11のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。一方、比較例8のインクセットは、前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比が12.0超であった。その結果、比較例8のインクセットは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。これは、前処理液における二価の塩が多すぎる場合、顔料が記録媒体上に過度に留まるためと判断される。また、比較例9のインクセットは、前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比が4.5未満であった。その結果、比較例9のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が不良であった。これは、前処理液における二価の塩が少なすぎる場合、顔料を記録媒体上に留めることができなかったためと判断される。以上から、前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比は、4.5以上12.0以下が適切であると判断される。
【0131】
<検討6:一価の塩、二価の塩の必要性の検討>
以下の方法により、前処理液(P-15)~(P-18)を調製した。そして、下記表9に示す通りに、上述のインク(I-5)と、前処理液(P-15)~(P-18)のうち何れか1つとを組み合わせることにより、比較例10~13のインクセットを準備した。比較例10~13のインクセットを用い、前処理液中の一価の塩、二価の塩の必要性について検討した。
【0132】
[前処理液(P-15)の調製]
下記表9に示す種類及び量の塩(前処理液(P-15)においては、硫酸カルシウム10質量部)と、グリセリン10質量部と、水とを、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて攪拌し、混合液を得た。水の使用量は、混合液の全量が100質量部となる量(前処理液(P-15)においては80質量部)とした。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物等を除去した。このようにして、前処理液(P-15)を得た。
【0133】
[前処理液(P-16)~(P-18)の調製]
二価の塩及び一価の塩の種類及び使用量を下記表9に示す通りに変更した以外は、前処理液(P-15)の調製と同様の方法により、前処理液(P-16)~(P-18)を調製した。
【0134】
比較例10~13のインクセットについて、上述の方法により、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を下記表9に示す。下記表9において、「部」は、質量部を示す。「-」は、該当する成分を使用していないことを示す。
【0135】
【表9】
【0136】
表9に示すように、比較例10~11のインクセットは、前処理液中に一価の塩が含まれなかった。比較例10~11のインクセットは、形成される画像の耐擦過性が不良であった。実施例1~11と比較例10~11との対比から、前処理液に一価の塩を添加することで、形成される画像に耐擦過性を付与できることが確認された。比較例12~13のインクセットは、前処理液中に二価の塩が含まれなかった。比較例12~13のインクセットは、形成される画像の画像濃度が不良であった。実施例1~11と比較例12~13との対比から、前処理液に二価の塩を添加することで、形成される画像に所望の画像濃度を付与できることが確認された。
【0137】
以上をまとめると、実施例1~11のインクセットは、インクと、前処理液とを備えていた。インクは、顔料と、顔料被覆樹脂と、第一水性媒体とを含有していた。第一水性媒体は、水、炭素原子数6のジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを含んでいた。前処理液は、一価の塩と、二価の塩と、第二水性媒体とを含有していた。一価の塩は、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩のうち少なくとも1つを含んでいた。二価の塩は、カルシウム塩及びマグネシウム塩のうち少なくとも1つを含んでいた。前処理液において、一価の塩の質量に対する二価の塩の質量の比は、5.0以上12.0以下であった。実施例1~11のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性が良好であった。
【0138】
一方、比較例1~13のインクセットは、上述の構成のうち少なくとも1つを満たさなかった。その結果、比較例1~13のインクセットは、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性のうち少なくとも1つが不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明に係るインクセット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、画像を形成するために用いることができる。
図1