(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150177
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】山岳トンネルにおけるロックボルト孔への充填材注入システム
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
E21D20/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063457
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(57)【要約】
【課題】山岳トンネルにおけるロックボルトの打設施工に際して、ロックボルト孔へのモルタル等の充填材の充填量を正確に把握する。
【解決手段】充填材注入システム5の充填材注入ポンプ10の吐出部15と注入管16との間又は注入管16にモルタル等の充填材6の流量を計測する充填材流量計20を介在させる。算出部30によって、充填材流量計20の計測出力に基づいてロックボルト孔4へのトータルの充填材充填量を算出する。充填材流量計20は、充填材6を通す計測管21と、磁界形成手段22と、起電力を検知する電極23,24を含む。計測管21の内周面及び電極23,24の計測管内を向く面23a,24aに内面層26が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルのロックボルト孔に充填材を注入するシステムであって、
充填材注入ポンプと、
前記充填材注入ポンプの吐出部から延びる注入管と、
前記吐出部と前記注入管との間、又は注入管に介在されて、前記充填材の流量を計測する充填材流量計と、
前記充填材流量計の計測出力に基づいてロックボルト孔へのトータルの充填材充填量を算出する算出部と、
を備え、前記充填材流量計が、充填材を通す計測管と、前記計測管内に磁界を形成する磁界形成手段と、前記計測管内の充填材の流れと前記磁界とによって発生する起電力を検知する電極と、前記計測管の内周面及び前記電極の計測管内を向く面に設けられた内面層とを含むことを特徴とするロックボルト孔への充填材注入システム。
【請求項2】
前記算出部が、前記充填材注入ポンプの駆動停止後の前記充填材流量計の計測出力を前記算出に加える、請求項1に記載の充填材注入システム。
【請求項3】
前記充填材流量計が、前記充填材の瞬間流速と対応する計測出力を所定の時間間隔で前記算出部へ送り、
前記算出部が、受け取った計測出力と、直前の受け取り時からの経過時間とによって、前記経過時間の期間における充填材流量を算出する、請求項1又は2に記載の充填材注入システム。
【請求項4】
前記算出部が、前記期間ごとの充填材流量の移動平均から前記充填材充填量の算出を行なう、請求項3に記載の充填材注入システム。
【請求項5】
前記充填材注入ポンプへ供給される水の流量を計測する水流量計を更に備えた、請求項1又は2に記載の充填材注入システム。
【請求項6】
前記吐出部と前記注入管との間、又は注入管に介在されて、前記充填材の圧力を計測する充填材圧力計を、更に備えた、請求項1又は2に記載の充填材注入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルにおけるロックボルトの施工システムに関し、特に、ロックボルトが挿し込まれるロックボルト孔へモルタル等の充填材を注入するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
NATM工法などによる山岳トンネル工事においては、地山が掘削されるとともにロックボルトの打設施工がなされる。ロックボルトの打設施工においては、地山にロックボルト孔が形成される。該ロックボルト孔にモルタル(充填材)が注入された後、ロックボルトが挿し込まれる。又は、ロックボルト孔にロックボルトが挿し込まれた後、ロックボルトの外周とロックボルトの内周との間にモルタルが注入される(特許文献1等参照)。
【0003】
従来のモルタル注入施工においては、モルタル充填量の計測を行なっておらず、モルタル原料のセメントの空袋の数を数えることで、モルタル充填量を把握するのが一般的であった。また、ロックボルト孔へのモルタル注入状況を目視で確認しながら、充填が十分かどうかを確認するのが一般的であった。
【0004】
特許文献1のモルタル注入システムにおいては、モルタル注入ポンプから延びる注入管の途中に圧力流量計を設け、モルタルの積算注入量が計画注入量以上、かつ注入圧が初期注入圧+所定付加圧以上に到達した段階でモルタル注入を停止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、流量計は、測定対象の流体を通す計測管を有している。一方、モルタル等の充填材には砂等の固形成分が含まれている。その固形成分が計測管の内壁に衝突するとノイズが発生しやすい。特に、充填材の水分量が小さく性状が固体に近いと、ノイズの影響が大きくなり、計測値が実流量と乖離してしまう。
本発明は、かかる事情に鑑み、山岳トンネルにおけるロックボルトの打設施工に際して、ロックボルト孔へのモルタル等の充填材の充填量を正確に把握できる注入システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、山岳トンネルのロックボルト孔に充填材を注入するシステムであって、
充填材注入ポンプと、
前記充填材注入ポンプの吐出部から延びる注入管と、
前記吐出部と前記注入管との間、又は注入管に介在されて、前記充填材の流量を計測する充填材流量計と、
前記充填材流量計の計測出力に基づいてロックボルト孔へのトータルの充填材充填量を算出する算出部と、
を備え、前記充填材流量計が、充填材を通す計測管と、前記計測管内に磁界を形成する磁界形成手段と、前記計測管内の充填材の流れと前記磁界とによって発生する起電力を検知する電極と、前記計測管の内周面及び前記電極の計測管内を向く面に設けられた内面層とを含むことを特徴とする。
【0008】
前記充填材としてはモルタル、セメント等の無機系充填材が挙げられるが、有機系充填材であってもよい。
前記起電力は磁界の強さ及び充填材流速と比例するから、起電力を検知することで充填材流速を計測できる。これに計測管の管路断面積を乗じることによって充填材流量が得られる。注入期間中の充填材流量を積算することによって、前記トータルの充填材充填量が得られる。
モルタル等の充填材に含まれる固形成分は、計測管の内面層と接触することはあっても、電極とは直接接触しない。これによって、充填材中の固形成分が電極と衝突することによるノイズを低減できる。この結果、充填材充填量の算出データの信頼度が高まる。
好ましくは、前記算出部は、コンピューター等の処理手段によって構成されている。充填材流量計からのアナログ出力(電流値等)がデジタル変換されて処理手段に入力される。
より好ましくは、前記処理手段は、前記算出データ等に基づいて作業日報等の作業管理レポートを自動作成する機能を有している。
【0009】
モルタル等の充填材はそれ自身が重量を持ち、粘度が高いため、充填材注入ポンプが駆動停止した後も慣性力で一定時間、吐出が続く現象が見られる。注入管が長いほどその現象が顕著になる。そこで、好ましくは、前記算出部が、前記充填材注入ポンプの駆動停止後の前記充填材流量計の計測出力を前記算出に加える。これによって、充填材のトータル充填量をより正確に把握できる。
【0010】
好ましくは、前記充填材流量計が、前記充填材の瞬間流速と対応する計測出力を所定の時間間隔で前記算出部へ送り、前記算出部が、受け取った計測出力と、直前の受け取り時からの経過時間とによって、前記経過時間の期間における充填材流量を算出する。
これによって、充填材流量計からの計測出力の受け取り漏れがあっても、その受け取り漏れを補償でき、充填材のトータル充填量の算出誤差を小さくできる。
一般的な流量計は、測定対象流体の流量が所定値(例えば0.数リットル程度)に達するごとにパルス信号を出力するパルス方式であるところ、このようなパルス方式の場合、前記算出部においてパルス信号の受け取り漏れがあったときは、その分の流量が積算されないことになるから、トータル流量の算出値が実流値に対して減少側へ乖離してしまう。
【0011】
好ましくは、前記算出部が、前記期間ごとの充填材流量の移動平均から前記充填材充填量の算出を行なう。これによって、瞬間的なノイズをカットでき、充填材流量の算出誤差を一層緩和できる。移動平均は、単純移動平均でもよく加重移動平均でもよい。
【0012】
好ましくは、前記充填材注入システムは、前記充填材注入ポンプへ供給される水の流量を計測する水流量計を更に備えている。
前記充填材流量計の計測出力から得られた充填材流量から前記水流量計によって計測された水流量を差し引くことで、水以外の充填材成分(セメント及び細骨材等の固形原料)の流量が得られる。さらには、水とそれ以外の充填材成分との比が分かる。
【0013】
好ましくは、前記充填材注入システムが、前記吐出部と前記注入管との間、又は注入管に介在されて、前記充填材の圧力を計測する充填材圧力計を、更に備えている。
これによって、計測圧力から充填不足や充填不良の有無を推定できる。また、充填材圧力が所定の閾値以上になったらブザー、ランプ等で報知したり、充填材がロックボルト孔の奥端から手前側へムラ無く充填されているかを確認したりできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、山岳トンネルにおけるロックボルトの打設施工に際して、ロックボルト孔へのモルタル等の充填材の充填量を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ロックボルト注入施工の概要を示す解説図である、
【
図2】
図2は、充填材流量計の詳細を示し、同図(a)は、
図1のIIa-IIa線に沿う断面図であり、同図(b)は、同図(a)のIIb-IIb線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、NATMトンネル等の山岳トンネル1の構築におけるロックボルト打設施工の様子を示したものである。山岳トンネル1においては、トンネル軸方向(
図1の紙面と直交する方向)の1~数メートル置きの断面ごとに、周辺地山2内へ放射状に複数のロックボルト3が打ち込まれている。詳しくは、削孔機Mによって地山2にロックボルト孔4が削孔される。ロックボルト孔4に充填材注入システム5によって充填材としてモルタル6が注入される。モルタル充填後のロックボルト孔4にロックボルト3が挿し込まれる。
【0017】
図1に示すように、充填材注入システム5は、充填材注入ポンプ10と、充填材流量計20と、処理手段30を備えている。充填材注入ポンプ10は、ホッパー11(充填材原料投入部)と、給水ポート12と、モータ13と、混練押出部14を含む。混練押出部14の先端に吐出部15が設けられている。
【0018】
ホッパー11には、セメント及び細骨材等の固形のモルタル原料6a(充填材原料)が投入される。
給水ポート12には水流量計7を介して給水管8が接続されている。
水流量計7は、給水管8から充填材注入ポンプ10へ供給される水6wの流量を計測する。なお、水流量計7は、給水ポート12と給水管8の間に限らず、給水管8の中途部に介在されていてもよく、給水ポート12から充填材注入ポンプ10内へ延びる給水路に設けられていてもよい。
【0019】
図1に示すように、さらに充填材注入ポンプ10には操作盤19が設けられている。操作盤19には、電源オンボタン19a、電源オフボタン19b等が設けられている。電源オンボタン19aの操作によってモータ13が駆動され、電源オフボタン19bの操作によってモータ13の駆動が停止される。
【0020】
混練押出部14の先端の吐出部15から注入管16が延びている。
吐出部15と注入管16との間には、モルタル6(充填材)の圧力を計測する充填材圧力計17が設けられている。なお、充填材圧力計17は、注入管16の中途部に介在されていてもよい。
【0021】
図2(b)に示すように、注入管16の中途部には、モルタル6の流量を計測する充填材流量計20が介在されている。なお、充填材流量計20は、吐出部15と注入管16との間に設けられていてもよい。
【0022】
充填材流量計20は、いわゆる外部電極型の電磁流量計によって構成されている。詳しくは、充填材流量計20は、計測管21と、磁界形成手段22と、一対の電極23,24を含む。計測管21の両端部に、充填材流量計20を挟んで両側の注入管16がそれぞれ接続されている。
【0023】
磁界形成手段22は、コア22a及びコイル22bを有する電磁石によって構成されている。磁界形成手段22によって、計測管21内に磁界Bが形成される。磁界Bは、計測管21の管軸方向に対して直交している。
【0024】
図2(a)に示すように、計測管21に一対の電極23,24が設けられている。電極23,24どうしは、計測管21の管軸方向及び磁界Bに対して直交する向きに対向している。電極23,24の対向面23a,24a(計測管内を向く面)は、それぞれ計測管21の内周面21aと面一になっている。電極23,24は、出力回路25に接続されている。
【0025】
計測管21の内周面21aには内面層26が設けられている.内面層26によって、計測管21の内周面21aの全域及び電極23,24の対向面23a,24aが覆われている。内面層26は、好ましくはアルミナ等のセラミックによって構成されている。
【0026】
図1に示すように、操作盤19、並びに充填材流量計20の出力回路25、水流量計7及び充填材圧力計17は、それぞれ信号処理回路41を介して処理手段30(算出部)に接続されている。信号処理回路41は、これら機器19,20,7,17からの信号を処理手段30用にデジタル変換する。信号処理回路41と処理手段30とは、LANケーブル等で有線接続されているが、これに限らず、Wi-Fi等で無線接続されていてもよい。処理手段30は、プログラマブルコントローラ(PLC)やコンピュータ(PC)によって構成され、入出力部31、CPU32,記憶部33等を含む。処理手段30は、PC等の1台のデジタルデバイスで構成されていてもよく、PLCとPCの両方を含んでいてもよい。信号処理回路41にPLCが接続され、PLCとPCとが無線又は有線にて通信可能に接続されていてもよい。好ましくは、PCは、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどの好ましくは携行可能なコンピュータによって構成されている。なお、PCが、デスクトップパソコンやクラウドコンピュータ等によって構成されていてもよい。
【0027】
処理手段30に駆動回路42を介してブザー51、ランプ52等の報知手段50が接続されている。駆動回路42は、処理手段30からデジタル信号を報知手段50用にアナログ変換するD/A変換器(図示省略)を含む。
【0028】
充填材注入システム5は、ロックボルト孔4(
図1)へのモルタル注入に際して、次のように動作する。
図1に示すように、注入対象のロックボルト孔4に注入管16の先端部が挿し込まれた状態で、電源オンボタン19aが押下される。これによって、充填材注入ポンプ10への電圧が供給されてモータ13が駆動されるとともに、電源オン信号が信号処理回路41によりデジタル変換されて処理手段30に入力される。電源オン信号は、充填材注入ポンプ10への供給電圧が0から所定値(例えば200ボルト)になる立上がり信号であってもよい。処理手段30は、運転開始を示すコード及び運転開始時刻を含む運転開始情報を記憶部33に記憶する。
【0029】
モータ13の駆動によって、混練押出部14のスクリュー14aが回転される。これによって、混練押出部14においてセメント等のモルタル原料6aと水6wが混練されて、モルタル6が生成される。このとき、給水管8からの水6wの供給流量が、水流量計7によって計測される。計測された給水流量信号が信号処理回路41によって信号変換されたうえで処理手段30に入力される。
【0030】
モルタル6は、混練押出部14によって混練されながら吐出部15から注入管16へ押し出される。このとき、充填材圧力計17によってモルタル圧力が計測される。計測圧力信号が信号処理回路41によって信号変換されたうえで処理手段30に入力される。
【0031】
注入管16内のモルタル6は、注入管16の先端側へ圧送される。途中、モルタル6は充填材流量計20の計測管21内に通される。該計測管21内のモルタル6の流れと磁界Bとによって起電力が発生する。起電力の大きさは磁界の強さ及びモルタル6の瞬間流速vと比例する。瞬間流速vと計測管21の管路断面積A(一定値)との積が瞬時のモルタル流量q(=v×A)となる。したがって、起電力は、モルタル流量qと比例する。該起電力が、電極23,24によって検知される。これによって、出力回路25から、モルタル流量に応じた電気信号からなる計測出力が出される。計測出力は、信号処理回路41によって信号変換されたうえで処理手段30に入力される。
【0032】
計測管21の内周面21a及び電極23,24の対向面23a,24aは内面層26で覆われているから。モルタル6に含まれる固形成分は、内面層26と接触することはあっても、電極23,24とは直接接触しない。これによって、モルタル6中の固形成分が電極23,24と衝突することによるノイズを低減できる。また、計測管21の内周面21a及び電極23,24の損傷を防止できる。
【0033】
モルタル6は、注入管16の先端部から吐出されて、ロックボルト孔4内に注入される。これによって、ロックボルト孔4にモルタル6を充填できる。
【0034】
好ましくは、注入開始時の注入管16の先端部は、ロックボルト孔4の奥端部に位置される。これによって、モルタル6が、ロックボルト孔4の奥端部から手前側へ漸次充填されていく。モルタル6の充填が進むのに合わせて、作業者によって注入管16が手前側へ引かれる。これによって、
図1に示すように、注入管16の先端部が、ロックボルト孔4内の注入済のモルタル6’の内部に少し入り込んだ状態が保たれる。
【0035】
さらに処理手段30は、各種計測器7,17,20の計測情報に基づいてモルタル(充填材)の注入作業管理を行なう。
例えば、注入管16の先端部が注入済モルタル6’の内部に入り込んだ状態(
図1)のとき、充填材圧力計17による計測圧力は比較的高圧で閾値以上となる。
作業者が注入管16を早く引き過ぎて、注入管16の先端部が注入済モルタル6’から手前側へ出た場合、充填材圧力計17による計測圧力が低下して閾値を下回る。
【0036】
処理手段30は、充填材圧力計17の計測圧力を監視することによって、計測圧力が閾値を下回ったときは報知信号を駆動回路42を介して報知手段50へ出力する。これによって、ブザー51が鳴ったりランプ52が点灯したりすることで、作業者に注入管16を早く引き過ぎていることを報知させることができる。この結果、モルタル6の充填不良を防止できる。
【0037】
さらに処理手段30(算出部)は、充填材流量計20の計測出力に基づいてロックボルト孔4へのトータルのモルタル充填量を算出する。ここで、充填材流量計20の計測出力は、所定の時間間隔(例えば0.数秒間隔)で出される。これに対し、処理手段30は、充填材流量計20からの計測出力をそれと同程度の時間間隔(例えば0.数秒単位)で受け取り可能である。このため、両者のタイミングのずれ等によって計測出力の受け取り漏れが生じる。
【0038】
一方、処理手段30は、計測出力を受け取るたびに、直前の受け取り時からの経過時間を取得する。受け取りの都度、受け取った時刻を記憶しておいて隣接する2つの受け取り時刻から経過時間を算出してもよく、受け取りの都度、タイマーのカウントを経過時間として記憶するとともにタイマーをリセットしてもよい。そして、受け取った計測出力と経過時間とによって、その経過時間tnの期間Tnにおける積算のモルタル流量qnを算出する。
【0039】
例えば、期間Tnの始端に受け取った計測出力すなわち瞬間流速vnと計測管21の管路断面積Aと経過時間tnとを掛け算することで期間Tnにおけるモルタル流量qn(=vn×tn×A)とする。或いは、期間Tnの終端に受け取った瞬間流速vn+1と管路断面積Aと経過時間tnとを掛け算することで期間Tnにおけるモルタル流量qn(=vn+1×tn×A)としてもよい。始端の瞬間流速vnと終端の瞬間流速vn+1から期間Tn中の瞬間流速を補間してもよい。このようにして得られた各期間T1,T2,T3,…Tn,…のモルタル流量q1,q2,q3,…qn,…を積算することによって、ロックボルト孔4へのトータルのモルタル充填量Q=Σqnを算出する。これによって、計測出力の受け取り漏れがあっても、その受け取り漏れを補償でき、トータル充填量Qの算出誤差を小さくできる。
【0040】
なお、一般的な流量計は、測定対象流体の流量が所定値(例えば0.数リットル程度)に達するごとにパルス信号を出力する一般的なパルス方式の流量計の場合、受け取り漏れがあると、その分の流量が積算されないことになるから、受け取り漏れの数だけトータル流量の算出値の誤差が増幅してしまう。これに対し、所定時間間隔で瞬間流速を出力する充填材流量計20においては、流量換算で例えば0.0数リットル程度ないしはそれ以下の流量ごとに計測して積算することができる。
【0041】
好ましくは、処理手段30は、期間Tn(n=1,2,3…)ごとのモルタル流量qnの移動平均qMAnを求める。移動平均qMAnとしては、期間Tnの直近M個のモルタル流量qn-M+1,qn-M+2,…qnの単純移動平均でもよく、期間Tnに近いほど重みが増す加重移動平均でもよい。得られた各期間Tn(n=1,2,3…)の移動平均qMAnを積算した値ΣqMAnをトータルのモルタル充填量Qとする。これによって、瞬間的なノイズをカットでき、モルタル流量の算出誤差を一層緩和できる。
【0042】
好ましくは、処理手段30は、充填材流量計20の計測出力の受け取り時の瞬時モルタル流量q、期間Tnごとの積算のモルタル流量qn又はqMAn、及びモルタル充填量Qを記憶部33に記憶する。更に処理手段30は、水流量計7から水量の計測情報を受け取るたびに、その計測水量を記憶部33に記憶する。好ましくは、処理手段30は、モルタル流量から水流量を差し引くことで、水6w以外のモルタル原料6a(セメント等)の投入量を求め、更には水セメント比を求めて、それを記憶部33に記憶する。
【0043】
モルタル充填量Qが設計充填量に近づいたとき、又は設計充填量以上となったときは、処理手段30が駆動回路42を介して報知手段50を操作することで、ブザー51やランプ52で報知することにしてもよい。設計充填量は、例えばロックボルト孔4の孔径及び長さからロックボルト孔4の容積を算出することによって設定される。
【0044】
ロックボルト孔4の手前端の開口までモルタル6が充填されたときは、作業者によって電源オフボタン19bが押下される。これによって、充填材注入ポンプ10への電圧供給が停止されて、モータ13の駆動が停止されるとともに、運転停止信号が信号処理回路41によってデジタル変換されて処理手段30に入力される。運転停止信号は、充填材注入ポンプ10への供給電圧が所定値(例えば200ボルト)から0になる立下り信号であってもよい。処理手段30は、運転停止を示すコード及び運転停止時刻を含む運転停止情報を記憶部33に記憶する。
【0045】
充填材流量計20は、充填材注入ポンプ20の駆動停止後もモルタル流量の計測を継続する。処理手段30は、電源オフ信号の受け取り後ひいては充填材注入ポンプ20の駆動停止後も、継続して、充填材流量計20の計測出力を受け取ってトータルのモルタル充填量Qの算出に加える。継続時間は、駆動停止から好ましくは十秒以内であり、より好ましくは数秒程度であり、具体的には2秒~5秒程度である。
【0046】
なお、モルタル6はそれ自身が重量を持ち,粘度が高いため、充填材注入ポンプ20のモータ13が停止した後も数秒程度は慣性力によって注入管16の先端からモルタル6が出続ける。該駆動停止後のモルタル流量を計測して加算することで、トータルのモルタル充填量Qをより正確に把握できる。
処理手段30は、得られた最終のトータルのモルタル充填量Qを、運転開始情報及び運転停止情報やロックボルト孔4の識別情報(孔番号等)と紐付けて記憶部33に記憶する。
【0047】
モルタル充填後、ロックボルト3がロックボルト孔4に挿し込まれる。
処理手段30は、作業者や作業管理者による指令に応じて、記憶部33に記憶されたデータから作業日報等の作業管理レポートを作成して出力する。好ましくは、作業管理レポートには、トータルのモルタル充填量Q、注入圧力の監視結果、水供給量、水セメント比、運転開始時刻、運転停止時刻等の情報が、対応するロックボルト孔4ごとに表、グラフ等で表示される。
【0048】
本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、充填材注入工程は、ロックボルト孔4にロックボルト3を差し込む前に限らず、特許文献1のようにロックボルト孔4にロックボルト3を差し込んだ後で行ってもよい。充填材圧力計17による計測圧力が所定以上になったか否かによって、充填材の充填が完了したか否かを判定又は推定することにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えばNATM工法による山岳トンネルの構築施工に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 山岳トンネル
3 ロックボルト
4 ロックボルト孔
5 充填材注入システム
6 モルタル(充填材)
6a モルタル原料(充填材原料)
6w 水
7 水流量計
10 充填材注入ポンプ
11 ホッパー(充填材原料投入部)
15 吐出部
16 注入管
17 充填材圧力計
19 操作盤
19a 電源オンボタン
19b 電源オフボタン
20 充填材流量計
21 計測管
21a 内周面
22 磁界形成手段
23,24 電極
23a,24a 対向面(計測管内を向く面)
25 出力回路
30 処理手段(算出部)
33 記憶部
41 信号処理回路
42 駆動回路
50 報知手段
51 ブザー
52 ランプ