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特開2024-150184二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法
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  • 特開-二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150184
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20241016BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241016BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20241016BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20241016BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20241016BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20241016BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20241016BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B01J20/22 A ZAB
B01J20/28 Z
B01J20/34 H
B01J20/34 E
B01D53/047
B01D53/04 220
B01D53/62
B01D53/82
B32B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063467
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】塩見 祥之
(72)【発明者】
【氏名】日下部 純一
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐介
【テーマコード(参考)】
4D002
4D012
4F100
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA04
4D002CA20
4D002DA31
4D002DA32
4D002EA07
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB20
4D012BA01
4D012CA03
4D012CA12
4D012CB03
4D012CD04
4D012CD07
4D012CE03
4D012CF10
4D012CG01
4D012CG03
4D012CG05
4F100AJ05A
4F100AK01A
4F100AK07B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100DE01A
4F100DG00A
4F100DG12B
4F100DG15A
4F100JD14A
4G066AA22C
4G066AB13B
4G066AC12C
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA22
4G066BA26
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
4G066FA37
4G066GA01
4G066GA14
(57)【要約】
【課題】CO吸着時の圧力損失が小さく、担体の比表面積が大きい二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の拡散性吸着化合物、及び該拡散性吸着化合物が、シート基材としての繊維から構成される多孔性シートの繊維表面に担持されている多孔性シートを少なくとも1層含む、二酸化炭素の吸着・分離・回収用の二酸化炭素吸着材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の拡散性吸着化合物、及び該拡散性吸着化合物が、シート基材としての繊維から構成される多孔性シートの繊維表面に担持されている多孔性シートを少なくとも1層含む、二酸化炭素の吸着・分離・回収用の二酸化炭素吸着材。
【請求項2】
前記繊維から構成される多孔性シートが、繊維径2nm~100μm、比表面積0.1m/g~100m/g、厚み0.05mm~5mm、及び目付0.1g/m~1000g/mの不織布である、請求項1に記載の二酸化炭素吸着材。
【請求項3】
前記多孔性シート上に、二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持された多孔性粒子をさらに備える、請求項1に記載の二酸化炭素吸着材。
【請求項4】
前記多孔性シート上に、二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持された多孔性粒子をさらに備える、請求項2に記載の二酸化炭素吸着材。
【請求項5】
前記拡散性吸着化合物が、アミン系化合物であり、かつ、該アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度が、0.01mmol/g以上100mmol/g以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸着材。
【請求項6】
少なくとも1層の請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸着材と、少なくとも1層のスペーサーが、積層された積層構造を有する、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項7】
前記スペーサーが、厚み方向に1μm以上1mm以下の高低差があり、かつ、開口率が20%以上90%以下の織物又は成形体である、請求項6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項8】
前記積層構造における、二酸化炭素吸着材層/スペーサー層の厚み方向の比が、0.1以上20以下である、請求項6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項9】
前記積層構造が、管にスパイラル状に巻かれた構造である、請求項8に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸着材の表面が、高低差3μm以上の凹凸加工されており、これが積層された積層構造を有する、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項11】
前記積層構造が、管にスパイラル状に巻かれた構造である、請求項10に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【請求項12】
以下の工程:
請求項6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール内の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる吸着工程;及び
温度及び圧力を変化させ、二酸化炭素を脱離させる脱離工程
を含む、大気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収(DAC)方法。
【請求項13】
以下の工程:
請求項10に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール内の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる吸着工程;及び
温度及び圧力を変化させ、二酸化炭素を脱離させる脱離工程
を含む、大気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収(DAC)方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着によるガス分離は産業において様々な用途があり、例えばガス流体からの特定の成分の除去では、目的生成物は流体から分離される成分、取り除かれ残った流体、又はその両方である。重要な用途としては、例えば、煙道ガス、排気ガス、産業廃ガス又は大気のようなガス流体からの二酸化炭素(CO)回収である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ボイラーなどの燃焼設備から排出されたプロセスガスなどの二酸化炭素を可逆的に吸着する、親水性バインダーによって親水性繊維と多孔質粉末とが複合された多孔質粒子に、アミン化合物が担持されてなる、二酸化炭素吸収剤が開示されている。
また、例えば、特許文献5には、水素製造や尿素製造などの大規模プラントで合成される合成ガス、天然ガス、排ガスなどからCOを分離するプロセスとして、COガス分離膜と、供給されるガス成分の流路となる供給側流路材と、COガス分離膜を透過したガス成分の流路となる透過側流路材とを含む積層体を、複数の穴が壁面に形成された中空の集ガス管の外周に巻き付けた構造を有する、スパイラル型エレメントを備えたことを特徴とするCOガス分離膜モジュールが開示されている。
尚、特許文献5には、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール用の二酸化炭素吸着材ではなく、COガス分離膜が開示されている。
【0004】
気候変動対策として2050年に実質ゼロとなるカーボンニュートラルが目標となっているが、排出削減量の不足を補うためにネガティブエミッションとなる事業やオフセットが必要となっている。
ネガティブエミッション事業の有力候補として直接空気回収(Direct Air Capture:DAC)と呼ばれる、大気からの直接のCO回収が注目されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、空気又は煙道ガスから、ガス状二酸化炭素を吸着する吸着剤としてアミン官能化セルロースを用いた循環式吸着/脱着によりガス状二酸化炭素を分離する方法が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献3には、ガス混合物からCOを捕捉するための可逆的な吸着及び脱着サイクルが可能な多孔性吸着構造体であって、
構造体は、表面改質セルロースナノファイバーの支持マトリックスを含み、
表面改質セルロースナノファイバーは、表面にカップリング剤が共有結合している状態で覆われており、
支持マトリックスが、少なくとも20%の空隙率を有するナノファイバーの織布であることを特徴とし、
カップリング剤は、少なくとも1つのモノアルキルジアルコキシ-アミノシランを含むものが開示されている。
また、例えば、特許文献3には、セルロースナノファイバーからなるマット状の吸着構造体が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献4には、基体、担体、及び/又は担体がコーティングされた基体の上に、二酸化炭素等の気体などの吸着剤のコーティングを塗布する方法が開示されている。
また、特許文献4には、吸着剤は、アミン類、メラミンを含むアミド、アミン含有ポリマー及びこれらの組合せからなる群より選択され、
基体は、織布又は不織布のプラスチック又はセルロース繊維であり、
担体は、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、炭素、ゼオライト、金属有機構造体(MOF)又はこれらの組合せであることが開示されている。
前記したように、特許文献3、4には、CO吸着剤の基体として特定の不織布を用いることが開示されているが、圧力損失を考慮した二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュールや該モジュールに適した不織布は開示されていない。
また、例えば、特許文献5には促進輸送機構を利用したCOガス分離膜が開示されているが、COガス分離膜はCOガス濃度が低い大気からのCO回収には有効ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-187574号公報
【特許文献2】特表2017-528318号公報
【特許文献3】国際公開第2012/168346号
【特許文献4】特表2014-533195号公報
【特許文献5】国際公開第2016/024523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DACの課題は、エネルギーコストがかかることにある。エネルギーコストを削減するには、COを吸着剤に吸着させる時の電力の削減及び吸着剤に吸着したCOを脱離させる時の温度の低減が挙げられる。
CO吸着時の電力の削減には、COを含む気体をできるだけ少ない電力で吸着剤に吸着する、すなわち、吸着時の圧力損失をできるだけ小さくすることが必要である。
また、CO吸着時の電力の削減には、COを吸着する吸着剤をできるだけ多く担体に担持する、すなわち、担体の比表面積をできるだけ大きくすることが必要である。
さらに、CO吸着効率を高めるために、CO吸着材に被処理気体が接触する機会をできるだけ高める、例えば被処理気体の装置内での偏流の抑制やデッドスペースの低減を図ることが必要である。
例えば、特許文献1には、多孔質粒子に、アミン化合物が担持されてなる、二酸化炭素吸収剤が開示されているが、吸収剤の形状が粒子である場合は圧力損失が大きく、比表面積も小さい、また、装置内での偏流やデッドスペースが形成されるという問題がある。
【0010】
本発明は、CO吸着時の圧力損失が小さく、担体の比表面積が大きい二酸化炭素吸着材、並びに効率的な二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0012】
<<態様1>>
二酸化炭素の拡散性吸着化合物、及び該拡散性吸着化合物が、シート基材としての繊維から構成される多孔性シートの繊維表面に担持されている多孔性シートを少なくとも1層含む、二酸化炭素の吸着・分離・回収用の二酸化炭素吸着材。
【0013】
<<態様2>>
前記繊維から構成される多孔性シートが、繊維径2nm~100μm、比表面積0.1m/g~100m/g、厚み0.05mm~5mm、及び目付0.1g/m~1000g/mの不織布である、態様1に記載の二酸化炭素吸着材。
【0014】
<<態様3>>
前記多孔性シート上に、二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持された多孔性粒子をさらに備える、態様1に記載の二酸化炭素吸着材。
【0015】
<<態様4>>
前記多孔性シート上に、二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持された多孔性粒子をさらに備える、態様2に記載の二酸化炭素吸着材。
【0016】
<<態様5>>
前記拡散性吸着化合物が、アミン系化合物であり、かつ、該アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度が、0.01mmol/g以上100mmol/g以下である、態様1~4のいずれか1態様に記載の二酸化炭素吸着材。
【0017】
<<態様6>>
少なくとも1層の態様1~4のいずれか1態様に記載の二酸化炭素吸着材と、少なくとも1層のスペーサーが、積層された積層構造を有する、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0018】
<<態様7>>
前記スペーサーが、厚み方向に1μm以上1mm以下の高低差があり、かつ、開口率が20%以上90%以下の織物又は成形体である、態様6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0019】
<<態様8>>
前記積層構造における、二酸化炭素吸着材層/スペーサー層の厚み方向の比が、0.1以上20以下である、態様6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0020】
<<態様9>>
前記積層構造が、管にスパイラル状に巻かれた構造である、態様8に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0021】
<<態様10>>
態様1~4のいずれか1態様に記載の二酸化炭素吸着材の表面が、高低差3μm以上の凹凸加工されており、これが積層された積層構造を有する、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0022】
<<態様11>>
前記積層構造が、管にスパイラル状に巻かれた構造である、態様10に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール。
【0023】
<<態様12>>
以下の工程:
態様6に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール内の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる吸着工程;及び
温度及び圧力を変化させ、二酸化炭素を脱離させる脱離工程
を含む、大気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収(DAC)方法。
【0024】
<<態様13>>
以下の工程:
態様10に記載の二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール内の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる吸着工程;及び
温度及び圧力を変化させ、二酸化炭素を脱離させる脱離工程
を含む、大気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収(DAC)方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、CO吸着時の圧力損失が小さく、かつ、担体の比表面積が大きい二酸化炭素吸着材、二酸化炭素の吸着・分離・回収用モジュール及び直接空気回収方法が提供される。また、本発明の一態様によれば、担体の形状が粒子ではなくシート状のため、空気と接触機会が多く、高い比表面積が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態の二酸化炭素吸着材の概念図を示す。
図2図2は、本実施形態の二酸化炭素吸着材のSEM像(倍率:50倍)を示す。
図3図3は、本実施形態の一態様である、スパイラル構造のモジュールの概略図を示す。
図4図4は、DAC(Direct Air Capture)技術のシステム図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態ともいう。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は、以下に記述する実施の形態に限定されるものではなく、その示す範囲内で種々変形して用いることができる。
【0028】
<二酸化炭素吸着材>
二酸化炭素吸着材は、二酸化炭素(CO)を吸着することができるものであればよい。合成ガス、天然ガス、排ガスなどのプロセスガス等若しくは大気又はこれらの混合物から二酸化炭素を吸着することが好ましく、特に大気から二酸化炭素を吸着することが好ましい。
大気から二酸化炭素を回収する技術として、DAC(Direct Air Capture)技術があり、二酸化炭素を吸着させる対象が固体である固体吸着方式(Solid DAC)と、二酸化炭素を吸着させる対象が溶液である溶液吸着方式(Liquid DAC)がある。
本実施形態の二酸化炭素吸着材としては、固体吸着方式(Solid DAC)が好ましい。
【0029】
本実施形態に係る二酸化炭素吸着材は、一態様において、二酸化炭素の拡散性吸着化合物、及び多孔性シートを少なくとも1層含む。
本実施形態に係る二酸化炭素吸着材は、一態様において、多孔性無機粒子をさらに備えていてもよい。
【0030】
(二酸化炭素の拡散性吸着化合物)
本実施形態に係る二酸化炭素吸着材で使用される二酸化炭素の拡散性吸着化合物(以下、拡散性吸着化合物と称する。)は、一態様において、シート基材としての繊維から構成される多孔性シートの繊維表面に担持されている。
なお、本開示において、「担持」とは、ある物質が、担体に付着、静電吸着及び反応などにより固定化されていることをいう。
なお、本開示において、「担体」とは、ある物質の土台となる物質のことをいい、本開示では、「多孔性シート」である。
一態様において、本実施形態の拡散性吸着化合物は、アミン系化合物である。
【0031】
(アミン系化合物)
本実施形態のアミン系化合物としては、二酸化炭素を可逆的に脱着できればよく、つまり、アミン系化合物中に含まれるアミノ基により二酸化炭素を吸着及び脱着できればよい。
本実施形態のアミン系化合物としては、例えば、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、イソホロンジアミン、2-アミノエチルアミノプロピルジメトキシシラン(AEAPDMS)、2-アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、リシン、アジリジンなどが挙げられる。
これらのアミン系化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上のアミン化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
また、多孔性シートにアミン系化合物を担持させる方法は、2-アミノエチルアミノプロピルジメトキシシラン、2-アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランのアミノ系アルコキシシランを多孔性シートと反応させることでアミン化合物を担持させてもよい。さらに、リシン、アジリジンなどを多孔性シート上にグラフト重合させることでアミン系化合物を多孔性シートに担持させてもよい。
【0033】
本実施形態の拡散性吸着化合物は、アミン系化合物であり、かつ、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度が、0.01mmol/g以上100mmol/g以下が好ましく、5mmol/g以上30mmol/g以下がより好ましい。
【0034】
アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度は、公知の方法で測定できる。
例えば本実施形態に係る多孔性シートが窒素を含まない場合は、アミン系化合物中に含まれるアミノ基を担持した多孔性シートをケルダール法や燃焼法により、該多孔性シートが含有する窒素量を測定する。
次に赤外分光測定装置を用いて求めたアミノ基に帰属されるピークの吸光度と、ケルダール法や燃焼法から求めた該多孔性シートが含有する窒素量との検量線を引く。
検量線と赤外分光測定装置とを用いて、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の含有量を求め、該アミノ基を担持した多孔性シートの重量に対して割り返すことにより、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度を求めることができる。
例えば本実施形態に係る多孔性シートが窒素を含む場合は、アミン系化合物中に含まれるアミノ基を担持した多孔性シートと、該アミノ基を担持しない多孔性シート(多孔性シート単独)のそれぞれをケルダール法や燃焼法により、多孔性シート単独及びアミン系化合物に含まれるアミノ基を担持した多孔性シートのそれぞれが含有する窒素量を求める。
アミン系化合物中に含まれるアミノ基を担持した多孔性シートの含有窒素量から多孔性シート単独の含有窒素量を引いて、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の窒素量を求める。
続いて、多孔性シートが窒素を含まない場合と同様に、赤外分光測定装置を用いて求めたアミノ基に帰属されるピークの吸光度と、ケルダール法や燃焼法から求めたアミン系化合物中に含まれるアミノ基を担持した多孔性シートが含有する窒素量との検量線を引く。
検量線と赤外分光測定装置とを用いて、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の含有量を求め、該アミノ基を担持した多孔性シートの重量に対して割り返すことにより、アミン系化合物中に含まれるアミノ基の二酸化炭素吸着材の単位質量に対する担持密度を求めることができる。
【0035】
(多孔性シート)
本実施形態に係る多孔性シートは、一態様において、シート基材としての繊維から構成される。
本開示において、「多孔性」は、シート基材である繊維と繊維の間に空隙を有することにより、発現する性質である。一態様において、本実施形態に係る多孔性シートは、繊維間の空隙に二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持されてなる。
また、本実施形態に係る多孔性シートは、形状がシート状のため、空気と接触機会が多く、高い比表面積が得られる、かつ、CO吸着時の圧力損失が小さくなるので、拡散性吸着化合物の担体として好ましい。
また、形状がシート状であれば、スペーサーと積層する際、表裏の両面に二酸化炭素吸着材を担持することで、被処理気体との効率的な接触を確保することができる。
【0036】
繊維としては、各種疎水性の熱可塑性樹脂の繊維や、各種親水性の繊維を使用することができる。
疎水性の合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエステルなどが挙げられる。
親水性の繊維としては、セルロース、セルロース誘導体及び再生セルロースからなるセルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維などが挙げられ、親水性の繊維が好ましい。
セルロースとしては、木材パルプ、古紙パルプ、綿、麻などが挙げられる。
セルロース誘導体としては、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
再生セルロースとしては、キュプラ、レーヨン、リヨセルなどが挙げられる。
ポリビニルアルコール系繊維としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールなどが挙げられる。
ポリアミド系繊維としては、ナイロン(一態様において、6-ナイロン、6,6-ナイロン)などが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る多孔性シートは、不織布であることが好ましく、以下の特定の要件を満たす不織布がより好ましい。
本実施形態に係る多孔性シートの繊維径は、2nm~100μmが好ましく、2nm~20μmがより好ましい。
本実施形態に係る多孔性シートの比表面積は、0.1m/g~100m/gが好ましく、1.0m/g~100m/gがより好ましい。
本実施形態に係る多孔性シートの厚みは、0.05mm~5mmが好ましく、0.1mm~1.0mmがより好ましい。
本実施形態に係る多孔性シートの目付は、0.1g/m~1000g/mが好ましく、10g/m~150g/mがより好ましい。
本実施形態に係る多孔性シートは、繊維径等が上記特定の範囲にある場合、二酸化炭素の吸着に優れるため、好ましい。
【0038】
多孔性シートの繊維径は、以下の通り測定する。
多孔性シートを、走査型電子顕微鏡、日本電子製JSM-6380を用いて10000倍の倍率で観察し、任意の50本を選び、測定した平均値を繊維径とした。
【0039】
本開示で比表面積とはBET比表面積を指す。
多孔性シートの比表面積は、以下の通り測定する。
比表面積の測定は比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)を用い、乾燥状態の多孔性シート0.2gを真空下で120℃、2時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムによりBET比表面積(m/g)を算出した。
【0040】
多孔性シートの厚みは、以下の通り測定する。
乾燥状態の多孔性シートを、JIS-L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。尚、測定は20回行い、その平均値を多孔性シートの厚み(mm)とした。
【0041】
多孔性シートの目付は、以下の通り測定する。
面積0.05m以上の多孔性シートを、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定し、多孔性シートの1m当たりの質量(g)を求めた。尚、測定は5回行い、その平均値を多孔性シートの目付(g/m)とした。
【0042】
多孔性シートの繊維径を小さくすれば、多孔性シートの比表面積を高めることができるが、シートの機械的特性を考慮して最適化することが肝要である。
また、多孔性シートの厚みや目付は、これをスペーサーと積層する場合に、二酸化炭素吸着材と被処理気体との接触面積を確保するために重要である。
【0043】
(多孔性粒子)
本実施形態に係る二酸化炭素吸着材は、一態様において、多孔性シート上に、多孔性粒子をさらに備えていてもよい。
多孔性シートへ多孔性粒子を担持させる方法は、公知の方法で実施できる。
例えば、二酸化炭素の拡散性吸着化合物の水溶液に多孔性粒子を任意の濃度に設定した多孔性粒子分散液をスプレー又はディップにより多孔性シートに塗布後、該多孔性シートを室温で乾燥することで多孔性シートへ多孔性粒子を担持することができる。
一態様において、多孔性シート上で、本実施形態に係る多孔性粒子に二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持されている。
また、一態様において、繊維から構成される、繊維径2nm~100μm、比表面積0.1m/g~100m/g、厚み0.05mm~5mm、及び目付0.1g/m~1000g/mの不織布である多孔性シート上で、本実施形態に係る多孔性粒子に二酸化炭素の拡散性吸着化合物が担持されている。
本実施形態に係る多孔性粒子としては、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、活性炭、ゼオライト、金属有機構造体(MOF)又はこれらの組合せから選択できる。
【0044】
多孔性粒子の平均粒子径は0.1μm以上3mm以下が好ましい。より好ましくは1μm以上1mm以下であり、更に好ましくは3μm以上500μm以下である。
圧力損失の上昇を抑える観点から多孔性粒子の平均粒子径は0.1μm以上であることが好ましく、また吸着モジュール内の容積効率を上げる観点から多孔性粒子の平均粒子径は3mm以下が好ましい。
多孔性粒子の平均粒子径は、以下の通り測定した。
走査型電子顕微鏡、日本電子製JSM-6380を用いて2000~10000倍の倍率で観察し、任意の50個を選び、測定した平均値を平均粒子径とした。
【0045】
多孔性粒子は、比表面積10m/g以上1000m/g以下が好ましい。より好ましくは50m/g以上、800m/g以下、更に好ましくは100m/g以上、800m/g以下である。
多孔性粒子の比表面積が10m/g以上の場合は二酸化炭素の拡散性吸着化合物を担持させたときに、二酸化炭素吸着材の単位質量当たりの二酸化炭素吸着量を増やすことができるため好ましく、比表面積が1000m/g以下の場合は、二酸化炭素を吸着、脱離するサイクルを繰り返すにあたり、二酸化炭素吸着材の耐久性が向上するため好ましい。
多孔性粒子の細孔容積及び比表面積は、比表面積・細孔分布測定装置(Nova-4200e,カンタクローム・インスツルメンツ社製)を用い、乾燥状態の多孔性粒子0.2gを真空下で120℃、2時間乾燥を行った後、液体窒素の沸点における窒素ガスの吸着量を相対蒸気圧(P/P0)が0.05以上0.2以下の範囲にて5点測定した後(多点法)、同装置プログラムにより細孔容積(ml/g)とBET比表面積(m/g)を算出した。
【0046】
また、多孔性粒子の細孔容積は0.1ml/g以上1.5ml/g以下が好ましい。多孔性粒子の細孔容積は、より好ましくは0.3ml/g以上1.3ml/g以下である。
多孔性粒子の細孔容積が0.1ml/g以上の場合は、二酸化炭素の拡散性吸着化合物を担持させたときに、二酸化炭素吸着材の単位質量当たりの二酸化炭素吸着量を増やすことができるため好ましく、細孔容積が1.5ml/g以下の場合は、二酸化炭素を吸着、脱離するサイクルを繰り返すにあたり、二酸化炭素吸着材の耐久性が向上するため好ましい。
【0047】
多孔性シートへ担持される多孔性粒子の量は、0.01g/g以上2g/g以下が好ましい。多孔性シートへ担持される多孔性粒子の量は、より好ましくは0.02g/g以上1.5g/g以下である。
多孔性粒子の多孔性シートへの担持量0.01g/g以上の場合、二酸化炭素の吸着量を増やすことができるため、好ましく、2g/g以下の場合、二酸化炭素の吸着工程で圧力損失を小さくすることができるため好ましい。
多孔性粒子の多孔性シートへの担持量は、多孔性粒子が担持されていない多孔性シート及び多孔性粒子を担持した多孔性シートを10cm角にカットし、それぞれの重量を測定する。多孔性粒子の重量増加分に、多孔性粒子分散液中の多孔性粒子の濃度を掛けることで多孔性粒子の多孔性シートへの担持量を算出することができる。
【0048】
[二酸化炭素吸収材の製造方法]
本実施形態に係る二酸化炭素吸収材の製造方法は、シート基材としての多孔性シートを作製する工程と、作製した多孔性シートに拡散性吸着化合物を担持させる工程とを含む。
【0049】
・多孔性シートを作製する工程
シート基材としての多孔性シートを作製する工程は、ポリプロプレン、ポリエステル、ナイロン及びセルロースなどの各材料によって公知の方法を用いることができる。
例えば、熱可塑性のポリプロプレン、ポリエステル、ナイロン等の繊維を用いた不織布タイプの多孔性シートを作製する場合は、スパンボンド法、メルトブロー法など各種公知の方法により得ることができる。
例えば、スパンボンド法では原料樹脂を押し出し機で溶融させた樹脂を連続紡糸し、そのままネット上に開繊、堆積させてウエブを形成した後、シート上に結合させることで本実施形態の多孔性シートが得られる。
例えば、メルトブロー法では原料樹脂を押し出し機で溶融させた樹脂を連続紡糸する際に、紡糸ノズルの周囲から噴射する高温エアにより、繊維を細くして、シート上に集積させる。メルトブロー法では風で繊維を延伸することにより、繊維径を細くすることができる。
【0050】
短繊維のシートが得られている場合は、乾式法や湿式法により本実施形態の多孔性シートを得ることができる。
乾式法は15mmから100mm程度の短繊維のシートをカードと呼ばれる機械やエアレイと呼ばれる空気流で一定方向またはランダムに並べて多孔性シートを作製する方法である。
湿式法は紙やガラスの短繊維のシートを用いる場合で、該短繊維を水等に分散した分散液を網状のネット上にすきあげてフリースを形成させることで本実施形態の多孔性シートを得る方法である。
【0051】
セルロース繊維を用いて、長繊維の多孔性シートを作製する方法は例えば、銅アンモニア溶液にセルロースを溶解し、脱アンモニアによる凝固を行う方法により、本実施形態の多孔性シートを得ることができる。
例えば、ノズルから糸状に吐出し漏斗内の温水に吐出する流下緊張紡糸、空気中に吐出するエアギャップ紡糸、原液に電荷を与えて細化を行うエレクトロスピニングなどの方法が挙げられる。
【0052】
流下緊張紡糸の具体例としては、異物を除去し、重合度を調整したコットンリンターを銅アンモニウム溶液に溶解させた原液を細孔(原液吐出孔)を有した紡糸口金(紡口)から押し出し、水と共に漏斗内に落下させ、原液を脱アンモニアさせることにより原液を凝固させて繊維を得た。得た繊維について延伸を行い、ネット上へ振り落としウエブを紡糸させる。
この際、ネットを進行させながら進行方向と垂直方向へとネットを振動させることにより、ネットへ振り落とされる繊維はSinカーブを描くことになる。得られた1層のウエブの上に同様の条件で紡糸したウエブを更に重ね、最終的に複数層が重なったセルロース連続長繊維ウエブからなる多孔性シートを得ることができる。
得られたセルロース連続長繊維ウエブを希硫酸で再生し、水洗後、得られた再生セルロース連続長繊維ウエブを穴の開いたシート上で、高圧水流を用い繊維を交絡させた後、熱風乾燥を行い再生セルロース連続長繊維からなる多孔性シートを得ることができる。
【0053】
紡糸漏斗の形状と、その中を流下させる紡水量を変えることにより、延伸倍率の調整を任意になし得る。延伸倍率を調整することにより、多孔性シートの繊維径を変えることが可能である。
また、ネットの進行速度を変えることにより、多孔性シートの厚みの調整を任意になし得る。厚みを調整することにより、多孔性シートの目付を変えることが可能である。
また、ネットの振動幅を制御することにより、繊維配列方向を制御し、多孔性シートとしての強度や伸度等をコントロールすることが可能である。
【0054】
・多孔性シートに拡散性吸着化合物を担持させる工程
多孔性シートに拡散性吸着化合物を担持させる工程は、公知の方法を使用することができる。
例えば、拡散性吸着化合物の原液をニートでそのままか、又は水や溶剤に溶解した溶液を、多孔性シート上に連続して原液又は溶液をスプレーした後、乾燥させるスプレー方法や、多孔性シートを連続的に溶液が入った容器にディップし、ブレード等でディップ量を所定量に調製した後に乾燥させるディップ方法により、拡散性吸着化合物を多孔性シートに担持させることができる。
拡散性吸着化合物を水や溶剤に溶解させる際に、第3成分としてポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンや、4級アンモニウム塩等を混合してもよい。
更に本実施形態に係る多孔性シート上に拡散性吸着化合物を担持させる場合は、あらかじめ多孔性粒子を担持させた多孔性シート上に、拡散性吸着化合物を担持させてもよい。
あるいは、事前に多孔性粒子に拡散性吸着化合物を担持させてもよい。
又は、拡散性吸着化合物を水又は溶媒に溶解させた溶液に多孔性粒子を分散させ、その分散液をスプレー方法やディップ方法により、多孔性粒子と拡散性吸着化合物を同時に多孔性シートに担持させてもよい。その際、多孔性粒子を多孔性シートに結合させるために接着剤等のバインダーを用いてもよい。
【0055】
<モジュール>
本実施形態に係るモジュールは、一態様において、少なくとも1層の二酸化炭素吸着材を有する。
本実施形態に係るモジュールが有する本実施形態に係る二酸化炭素吸着材は、前記同様である。
一態様において、本実施形態に係るモジュールは、少なくとも1層のスペーサーを有する。
一態様において、本実施形態に係るモジュールは、少なくとも1層の二酸化炭素吸着材と、少なくとも1層のスペーサーが、積層された積層構造を有する。
【0056】
(スペーサー)
スペーサーは、二酸化炭素吸着材に空気中の二酸化炭素を吸着させるために、空気が流れる流路となる。
一態様において、スペーサーは、織物又は成形体であることが好ましい。
また、一態様において、スペーサーは、通気性の観点から、厚み方向に1μm以上1mm以下の経糸と横糸の高低差があり、かつ、開口率が20%以上90%以下の織物又は成形体であることがより好ましい。
一態様において、本実施形態に係るモジュールは、厚み方向に1μm以上1mm以下の経糸と横糸の高低差があり、かつ、開口率が20%以上90%以下の織物又は成形体であるスペーサーを有することが好ましい。
【0057】
(積層構造)
一態様において、積層構造は、本実施形態に係る少なくとも1層の二酸化炭素吸着材(一態様において、二酸化炭素吸着材層)と、少なくとも1層のスペーサー(一態様において、スペーサー層)とが積層された構造のことをいう。
一態様において、積層構造は、本実施形態に係る1層~5層の二酸化炭素吸着材(一態様において、二酸化炭素吸着材層)と、少なくとも1層のスペーサー(一態様において、スペーサー層)とが積層された構造が好ましい。
一態様において、積層構造は、表面が高低差3μm以上の凹凸加工された二酸化炭素吸着材が積層されていてもよい。なお、凹凸加工された二酸化炭素吸着材層を有する積層構造の場合、スペーサー層を有してもよいし、有しなくてもよい。
凹凸加工は、エンボス加工等の常法に従って実施することが出来る。
【0058】
積層構造を有することで、本実施形態のモジュールとして、大気中の二酸化炭素の吸着に好適に使用できる。
一態様において、二酸化炭素吸着材層/スペーサー層の厚み方向の比が、0.1以上20以下であることが好ましく、1以上20以下がより好ましい。二酸化炭素吸着効率の観点から0.1以上が好ましく、モジュール内に掛かる圧力損失の観点から20以下が好ましい。
【0059】
一態様において、積層構造は、管にスパイラル状に巻かれた構造である。
このような積層構造を有するモジュールの形態としては、二酸化炭素吸着材層と、スペーサー層とが積層された積層構造が、複数の孔が壁面に形成された中空の集ガス管の外周に巻き付けられた構造を有する、スパイラル型となる。
本実施形態に係る二酸化炭素吸着材を用いたモジュールは、スパイラル型、円筒型、中空糸型、プリーツ型及びプレート&フレーム型などいずれであってもよいが、スパイラル型又はプリーツ型が好ましい。
【0060】
[モジュールの製造方法]
本実施形態に係るモジュールの製造方法は、二酸化炭素吸着材を作製する工程と、スペーサーを作製する工程と、二酸化炭素吸着材と、スペーサーを積層する工程とを含む。
【0061】
二酸化炭素吸着材を作製する工程は、前記同様である。
【0062】
・スペーサーを積層する工程
スペーサーは各種公知の織物又は成形体を使用することができる。
具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等の共重合体、ポリフェニレンサルファイド、ポリビニリデンクロライド、ナイロン、フッ素樹脂、ステンレス、ガラス等の各種繊維を平織りや綾織り、朱子織りした各種織物又は成形体を使用することができる。
各種繊維の繊維径や織り方を変更することで、スペーサーの厚み、目開き、経糸と横糸の高低差及び開口率等を制御することができる。
【0063】
二酸化炭素吸着材及び/又はスペーサーを積層する工程は、以下の通りである。
第1の形態として、二酸化炭素吸着材の多孔性シート及びスペーサーシートを目的とするモジュールに合わせてカットし、1枚又は2枚以上の所定枚数の二酸化炭素吸着材の多孔性シートとスペーサーの枚葉シートをそれぞれ重ねて積層させ、この二酸化炭素吸着材の多孔性シートとスペーサーの積層体を1セットとして、更に同様の方法で作製したセットを複数積層する。
第2の形態として、それぞれロール状の二酸化炭素吸着材の多孔性シートとスペーサーシートを樹脂やステンレス等の管にスパイラル状に巻き付けて、スパイラル状の積層体を作製してもよい。
二酸化炭素吸着材である多孔性シート及びスペーサーシートはそれぞれ1ロールで用いてもよいし、二酸化炭素吸着材シート及び/又はスペーサーシートは2枚以上の複数ロールを用いて作製した積層体をスパイラル状に巻いてもよい。スパイラル状に巻いたロール状のモジュールは二酸化炭素吸着用の容器に入れて使用することができる。
第3の形態としては、二酸化炭素吸着材の多孔性シート単独でスペーサーを介さずに枚葉シートを積層させる場合や二酸化炭素吸着材のロール状のシートを樹脂やステンレス等の管に巻き付ける場合で、単独の二酸化炭素吸着材のシート又は重ね合わせた二酸化炭素吸着材シートを一旦、エンボスロール等で二酸化炭素吸着材シート表面に3μm以上の高低差をつけるようにエンボス加工してから積層又は管に巻き付けることで、モジュールの積層体を作製することができる。
【0064】
尚、第2及び第3の形態では樹脂又はステンレス等の孔が複数空いた管を用いてもよい。孔が複数空いた管を用いることで、管内に流れる空気が管に巻き付けた二酸化炭素吸着材及びスペーサーの面内及び垂直に空気が流れるようにすることができる。
積層させた二酸化炭素吸着材シートや二酸化炭素吸着材とスペーサーのモジュールを二酸化炭素の吸着用容器内に設置する際に空気が特定の箇所のみ空気の流路となることを防ぐために、パッキン等を用いてもよいし、モジュール内の空気取り入れ部から積層体までの空間及び/又は積層体と空気取り出し出口までの空間に、圧力調整してモジュール全体に空気が均一化させるためにメッシュやパンチングパネル等を追加してもよい。
【0065】
<<用途>>
本実施形態の二酸化炭素吸着材及びモジュールは、CO吸着時の圧力損失が小さく、担体の比表面積が大きいため、効率的なCO吸着・分離・回収に用いることができ、特に大気中の二酸化炭素の直接回収に好適に用いることができる。
【0066】
<直接空気回収(DAC)方法>
本実施形態に係る直接空気回収(DAC)方法は、一態様において、本実施形態に係るモジュール内の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる吸着工程を含む。
一態様において、モジュールは、少なくとも1層の二酸化炭素吸着材と、少なくとも1層のスペーサーが、積層された積層構造を有する。
一態様において、モジュールは、本実施形態に係る二酸化炭素吸着材の表面が、高低差3μm以上の凹凸加工されており、これが積層された積層構造を有する。
一態様において、本実施形態に係る直接空気回収(DAC)方法は、二酸化炭素を脱離させる脱離工程を含む。
一態様において、脱離工程は、温度及び圧力を変化させ、二酸化炭素を脱離させる。
一態様において、本実施形態に係る直接空気回収(DAC)方法は、脱離した二酸化炭素を回収する回収工程を含む。
【0067】
(吸着工程)
本工程は、二酸化炭素を選択的に吸着する多孔性の二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる工程である。二酸化炭素吸着材は、前記同様である。
吸着方法としては、モジュール内に取り込んだ大気に含まれる二酸化炭素を二酸化炭素吸着材に接触できればよく、デッドエンド式が好ましい。
吸着は、温度-20~40℃程度の大気温度、20%RHから100%RHの相対湿度、1分~10時間で相対湿度80%RH程度の空気や窒素等を流速0.001m/秒~1m/秒で導入することにより実施することができる。
本実施形態に係るモジュールによれば、通常の大気に含まれる二酸化炭素や燃焼排ガスから出された二酸化炭素を多く含まれる大気から二酸化炭素を吸着させることができる。
適用できる二酸化炭素の濃度範囲としては300ppm~500ppm、1~10質量%の間で使用することができる。
【0068】
(脱離工程)
本工程は、二酸化炭素吸着材で吸着した二酸化炭素を温度及び圧力を変化させることで脱離させる工程である。
脱離は、温度50~130℃、圧力1kPa~101kPaで相対湿度80%RH程度の窒素等を流速0.001m/秒~5m/秒で導入することにより実施することができる。減圧状態にしてから温度を上げることで、脱離した二酸化炭素の純度を上げることができるため好ましい。
脱離時にさらに水蒸気を同時に加えることが好ましい。水蒸気を加えることで、二酸化炭素吸着材を含水させ、脱離時及び、次の吸着サイクル時に二酸化炭素脱離量及び吸着量を上げることができる。
【0069】
(回収工程)
本工程は、脱離した二酸化炭素を回収する工程である。
【0070】
<<用途>>
本実施形態の直接空気回収(DAC)方法は、CO吸着時の圧力損失が小さく、担体の比表面積が大きいため、効率的なCO吸着・分離・回収に用いることができ、大気中の二酸化炭素の直接回収に好適に用いることができる。
【実施例0071】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
二酸化炭素の吸着工程と脱離工程は以下のように行い、それぞれ二酸化炭素の吸着量と脱離量を求めた。またモジュールを作製し、その性能を評価する場合は吸着での差圧を測定した。実施例1~5及び比較例1の結果を表1及び2に示す。
【0072】
・吸着工程
実施例及び比較例で得られた二酸化炭素吸着材シート(サンプル)を二酸化炭素吸着容器に入れ、温度60℃、相対湿度80%RHの窒素を流速0.05m/秒で導入してサンプル作製までにサンプルに吸着したCOを脱離させた。
次に温度を30℃に下げ、二酸化炭素濃度400ppm、相対湿度80%RHの空気を流速0.05m/秒で吸着容器に流して、2時間、二酸化炭素の吸着工程を行った。
二酸化炭素の吸着量は吸着容器から排出された空気の二酸化炭素濃度をリアルタイムで赤外分光測定装置(FT/IR6800、JASCO製)に導入し、2349cm-1のピークを用いてCO量を測定し、二酸化炭素濃度が400ppmになるまで吸着を実施した。
吸着した二酸化炭素量は、吸着容器から排出された空気の二酸化炭素濃度が400ppmから減った二酸化炭素量を積分することにより求めた。
【0073】
吸着した二酸化炭素量が拡散性吸着化合物に対して、0.2COmmol/g~2COmmol/gであれば、多孔性シートは本実施形態の二酸化炭素吸着材として好適に使用できる。
また、吸着した二酸化炭素量が拡散性吸着化合物に対して、1COkg/m~5COkg/mであれば、本実施形態のモジュールとして好適に使用できる。
【0074】
・脱離工程
温度60℃、相対湿度80%RHの窒素を流速3m/秒で導入し、二酸化炭素脱離量を測定しながら脱離工程を行った。脱離工程は吸着容器から排出された窒素中の二酸化炭素量がほぼゼロとなるまで行った。
脱離した二酸化炭素量は赤外分光測定装置(FT/IR6800、JASCO製)に導入し、2349cm-のピークを用いてCO量を測定し、吸着容器から排出された窒素中の二酸化炭素量を積分することにより求めた。
【0075】
差圧(圧力損失)測定
二酸化炭素吸着容器の空気取り入れ側と出口側に差圧計(GC30、長野計器製)を設け、差圧(圧力損失)を測定し、差圧(圧力損失)が1kPa以下であれば、本実施形態のモジュールとして好適に使用できる(評価〇)。差圧(圧力損失)が1kPa超であれば、本実施形態のモジュールとして好適に使用できない(評価×)とした。
【0076】
実施例等で作製した多孔性シート等の繊維径などの物性は、[0038]~[0041]に記載の方法に従って測定した。
【0077】
実施例等で作製した二酸化炭素吸着材の単位質量に対するアミン系化合物中に含まれるアミノ基の担持密度は[0034]に記載の方法に従って測定した。
【0078】
多孔性粒子等の平均粒子径などの物性は、[0044]~[0047]に記載の方法に従って測定した。
【0079】
(実施例1)
数平均分子量Mnが70000のポリエチレンイミン(PEI)(和光純薬社製)を水に溶解させてポリエチレンイミン濃度5wt%の水溶液を調製した。
繊維径12μm、目付38g/m、比表面積0.2m/g及び厚み0.3mmの再生セルロース長繊維からなる不織布(ベンリーゼ、旭化成社製)にポリエチレンイミンの水溶液をスプレー塗布、室温で乾燥して二酸化炭素吸着材である多孔性シート(再生セルロース不織布)を得た。
再生セルロース不織布へ担持するポリエチレンイミン量は赤外吸収分光測定より、担持密度は24mmol/gであることが分かった。
二酸化炭素の吸着量と脱離量はそれぞれポリエチレンイミン質量(g)に対して、0.3COmmol/gであったため、実施例1は本実施形態の二酸化炭素吸着材として好適に使用できる。
【0080】
(実施例2)
実施例1で作製したポリエチレンイミンを担持した再生セルロース不織布の30cm幅ロール5本と、繊維径165μmのポリプロピレン(PP)繊維で平織した厚み方向に165μmの高低差、開口率41%、厚み320μmの30cm幅ポリプロプレンメッシュのスペーサーロール(PROPYLTEX、SEFER製)1本とを用意した。
直径5mmの管に再生セルロース不織布5層とスペーサー1層の積層体をスパイラル状に巻き付けて、二酸化炭素吸着材層とスペーサー層を積層したスパイラル型モジュールを作製した。
作製したモジュールの両端にパッキンを設け、二酸化炭素吸着容器に入れ、二酸化炭素の吸着と脱離を行った。
二酸化炭素の吸着量及び脱離量はそれぞれ1.8kg/mであり、圧力損失は1kPa以下であったため、実施例2は本実施形態のモジュールとして好適に使用できる。
【0081】
(実施例3)
実施例1で作製したポリエチレンイミンの5wt%水溶液を繊維径1μm、目付30g/m、比表面積3m/g及び厚み0.15mmのナイロン長繊維からなる不織布(エルタス、旭化成製)に塗布、室温で乾燥により二酸化炭素吸着材である多孔性シートを得た。
ナイロン不織布へ担持するポリエチレンイミン量は赤外吸収分光測定より、担持密度は18mmol/gであった。
二酸化炭素の吸着量と脱離量はそれぞれポリエチレンイミン質量(g)に対して、0.2COmmol/gであったため、実施例3は本実施形態の二酸化炭素吸着材として好適に使用できる。
【0082】
(実施例4)
実施例1で作製したポリエチレンイミンの5wt%の水溶液に、更に多孔性粒子としてシリカ(製品名CARiACT、富士シリシア製、平均粒子径75μm~150μm、比表面積300m/g)の濃度が3wt%となるように分散させた。
ポリエチレンイミンとシリカの分散液を実施例1で作製した再生セルロース不織布に塗布、室温で乾燥した。
再生セルロース不織布へのシリカ担持量は0.2g/g、シリカを介した再生セルロース不織布上のポリエチレンイミン担持密度は赤外吸収分光測定より、30mmol/gであった。
二酸化炭素の吸着量と脱離量はそれぞれポリエチレンイミン質量(g)に対して、0.5COmmol/gであったため、実施例4は本実施形態の二酸化炭素吸着材として好適に使用できる。
【0083】
(実施例5)
実施例1で作製したポリエチレンイミンを担持した再生セルロース不織布のシートロールにエンボスロール(由利ロール製)を用いて、不織布表面に高低差30μmの凹凸を設けた。凹凸を設けた不織布を直径5mmの管にスパイラル状に巻き付けてスパイラル型モジュールを作製した。
作製したモジュールの両端にパッキンを設け、二酸化炭素吸着容器に入れ、二酸化炭素の吸着と脱離を行った。
二酸化炭素の吸着量及び脱離量はそれぞれ2kg/mであり、圧力損失は1kPa以下であったため、実施例5は本実施形態のモジュールとして好適に使用できる。
【0084】
(比較例1)
繊維径が10nm~100nmのセルロースナノファイバー(CNF)の分散液に2-アミノエチルアミノプロピルジメトキシラン(AEAPDMS:Wacker製)を添加し、攪拌した。
分散液を凍結乾燥し、AEAPDMSが担持されたCNFの粒子を得た。CNFのアミノエチルアミノプロピル基の担持量は5mmol/gであった。
得られたAEAPDMSが担持されたCNFの粒子を二酸化炭素吸着容器の高さ300mmとなるような位置まで充填した。
二酸化炭素の吸着と脱離を行い、二酸化炭素の吸着量及び脱離量はそれぞれ4kg/mであったが、圧力損失は1kPaより大きかったため、比較例1は本実施形態のモジュールとして好適に使用できない。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【符号の説明】
【0087】
1 二酸化炭素吸着材
7 スパイラル型モジュール
8 二酸化炭素吸着容器
9 管
10 アミン系化合物を担持した繊維(シート基材)
12 多孔性シート
14 二酸化炭素吸着材層
16 スペーサー層
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、化学工業等で大気中に排出された二酸化炭素(CO)の処理(DAC等)により、幅広い産業分野での利用が可能である。
図1
図2
図3
図4