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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150221
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】粒状担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20241016BHJP
   C08B 15/10 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08G59/42
C08B15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063532
(22)【出願日】2023-04-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2022年5月20日 https://www.mdpi.com/2310-2861/8/5/321 https://www.mdpi.com/2310-2861/8/5/321/htm https://www.mdpi.com/2310-2861/8/5/321/pdf にて発表 2.2022年8月17日 第71回高分子討論会予稿集にて発表 3.2022年9月5日~7日 第71回高分子討論会にて発表 4.2022年9月5日~7日 第71回高分子討論会ポスター発表にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】田澤 寿明
(72)【発明者】
【氏名】大泉 つぐみ
(72)【発明者】
【氏名】森岡 佳保里
(72)【発明者】
【氏名】甲野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 彩華
【テーマコード(参考)】
4C090
4J036
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA29
4C090BB05
4C090CA35
4C090DA32
4J036AB01
4J036AB10
4J036FB18
4J036JA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高吸水性及び生分解性を兼ね揃えた粒状担体であって、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一であり、強度及び透明性にも優れた粒状担体を原料ロスを低減し収率よく簡便に製造する技術を提供する。
【解決手段】カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含むゲル粒子からなる粒状担体の製造方法であって、アルカリ水溶液に特定のカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製し、上記水溶液に架橋剤を添加してカルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物を得、上記混合物と特定の低極性有機溶媒とを第1の容器内で混合し、混合物が低極性有機溶媒中に分散した懸濁液を得ること、及び上記懸濁液中で架橋重合を進行させ、上記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成することを含み、上記第1の容器は疎水性の内表面を有している、方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含むゲル粒子からなる粒状担体の製造方法であって、
アルカリ水溶液に1質量%水溶液の25℃における粘度が5mPa・s以上300mPa・s以下の範囲にあるカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製すること、
前記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加し、前記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と前記架橋剤との混合物を得ること、
前記混合物と低極性有機溶媒とを第1の容器中で混合し、前記混合物が前記低極性有機溶媒中に分散した懸濁液を得ること、及び
前記懸濁液中で前記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させ、前記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成すること
を含み、
前記低極性有機溶媒は25℃における比誘電率が10以下であり、且つ、37.8℃における動粘度が10mm/s以上であり、前記第1の容器は疎水性の内表面を有している粒状担体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の容器の内表面は、四フッ化エチレン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリプロピレン 、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンのうち少なくとも1つを含む材料で構成されている請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と前記架橋剤との前記混合物の調製が前記第1の容器内で行われ、前記混合物と前記低極性有機溶媒との混合が、前記第1の容器内に含まれる前記混合物に前記低極性有機溶媒を添加することにより行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子が形成されるまでの反応が前記第1の容器内で行われる請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と前記架橋剤との前記混合物の調製が第2の容器内で行われ、前記混合物と前記低極性有機溶媒との混合が、前記第1の容器内に含まれる前記低極性有機溶媒に前記混合物を添加することにより行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記低極性有機溶媒と前記混合物とを混合するときの前記低極性有機溶媒の温度が15℃乃至43℃の範囲内である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記低極性有機溶媒が流動パラフィン又はシリコーンオイルである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記低極性有機溶媒の37.8℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩の前記粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記混合物中の前記カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩(X)と前記架橋剤(Y)との質量比(X/Y)が、10/2乃至10/5の範囲にある請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記架橋剤が分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記粒状担体が薬剤担持用に用いられる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記粒状担体が吸収性物品において吸水性材料として用いられる請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高吸水性ポリマー(Superabsorbent polymer,SAP)は、水との接触により吸水し、瞬時に透明な水和ゲルとなる。このゲルは圧力をかけても離水せず、水を保持する機能性高分子の一つである。高吸水性ポリマーの用途は多岐にわたっており、例えば、衛生用品分野では、紙おむつや婦人用の生理用ナプキン等の吸収性物品における高吸水性物質として使用されている。また、高吸水性ポリマーは、ゲル製剤において、香料、消臭剤等の薬剤を含む水性液状組成物を吸収し担持する担体としても使用されている。このような高吸水性ポリマーからなる担体を含むゲル製剤は、容器から液がこぼれる心配がないことや意匠性に優れるという点から、据え置き型の芳香剤や消臭剤などに幅広く取り入れられている。
【0003】
現在、高吸水性ポリマー(SAP)としては、合成の容易さ、コストなどの観点から、ポリアクリル酸系SAPがその主流を占めている。一方、ポリアクリル酸系SAPは、石油を原料とするため、原油価格の変動や高騰に伴い製造コストが影響を受ける問題があることに加え、製造時及び廃棄時の排出COが多い。特におむつ用途では吸水状態で廃棄されるため、アクリル酸系SAPの焼却処分には大量のエネルギーを必要とし、排出COが特に多くなる。また、アクリル酸系SAPを埋立て処理する場合には、生分解性がないことから土壌汚染などの問題がある。
【0004】
このように高吸水性ポリマー(SAP)としてポリアクリル酸系SAPが主流を占めることには、環境問題の要因となる虞がある。今後は新興国で紙おむつの需要が急速に増大することが予想されることもあり、高吸水性ポリマーとして生分解性を有する天然高分子系ポリマーの使用が所望されている。このような状況において、多糖類等の植物由来原料を使用した高吸水性ポリマーが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1乃至3では、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose, CMC)又はCMC塩の、架橋型重合体からなるセルロース系SAPを、ポリアクリル酸系SAPに替わる生分解性の高吸水性ポリマーとして提案している。このCMCは、水溶性セルロース誘導体の一つであり、セルロースの水酸基をクロロ酢酸等でエーテル化して合成されている。その水溶液はアニオン性を示し、高粘性かつ分散性に優れていることから、増粘剤、分散・安定剤として広く利用されている。
【0006】
CMCは、毒性やアレルギー性もなく、食品添加剤や医薬品のバインダーにも使用されている。その物性はモノマーであるグルコース1残基あたりに置換したカルボキシメチル基の平均個数である置換度(DS)に強く依存し、一例によるとDS>0.55で水溶性を示すと言われている。例えば、特許文献1では置換度が1.1以上のCMC及びCMC塩が使用され(請求項1等参照)、特許文献2では置換度が0.65乃至1.4のCMC塩が使用されている(請求項1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-140534号公報
【特許文献2】国際公開第2012/147255号公報
【特許文献3】特開2008-285611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
芳香剤組成物や消臭剤組成物などのゲル製剤が容器に充填された据え置き型の製品が流通している。この種の製品には、高吸水性ポリマーからなるゲル担体に各種薬剤を含有する液状組成物を担持させた粒状ゲル製剤を使用したものが多い。それらは粒状ゲル製剤の表面を空気に触れさせてゲル担体に担持された各種薬剤の機能を発揮させるものが多い。すなわち、ゲル担体に担持された薬剤が香料等の揮散性薬剤の場合、粒状ゲル製剤の表面を空気に触れさせて揮散性薬剤を揮散させる。また、ゲル担体に担持された薬剤が、例えば化学反応を用いて消臭するタイプの消臭剤であって非揮散性薬剤である場合、粒状ゲル製剤の表面を空気に触れさせて悪臭分子と非揮散性消臭剤とを接触させ、化学反応により悪臭分子を分解し消臭させる。
【0009】
このため粒状ゲル製剤においてゲル担体に担持された薬剤を効率的に機能させるために、粒状ゲル製剤が容器に充填された状態において空気の流動が起こりやすいことが望ましい。空気の流動を起こりやすくするためには、粒状ゲル製剤同士の間隙が均一で且つ間隙にある程度の大きさがあることが好ましい。このため粒状ゲル製剤はサイズが均一で且つ形状が球状に近いことが所望される。
【0010】
また、芳香剤組成物や消臭剤組成物などの粒状ゲル製剤が容器に充填された据え置き型の製品として流通することを考慮すると、粒状ゲル製剤はゲル強度にも優れることが所望される。また、このような製品には、粒状ゲル製剤が透明又は半透明の容器に充填され、外部から視認できることも多い。粒状ゲル製剤のサイズが均一で且つ形状が球状に近いことは、上述した薬剤を効率的に機能させることを可能とすることに加え、美観の観点からも好ましい。美観の観点からは、粒状ゲル製剤が透明性にも優れると更に好ましい。
【0011】
一方、従来のセルロース系SAPを製造する方法としては、CMC又はCMC塩を、架橋剤を用いて水溶液中で重合する方法(以下において、「水溶液重合」という。)が知られている。例えば、水酸化ナトリウム水溶液にCMC又はCMC塩を溶解したCMC塩水溶液に、架橋剤を添加して架橋反応させることにより、水溶液が一様にゲル化した含水ゲルを得る。含水ゲルは粉砕され、分級などの選別工程を経てセルロース系SAPが形成される(例えば、特許文献1の段落0035、特許文献2の段落0024等参照、特許文献3の段落0044等参照)。
【0012】
粉砕により細粒化された粉砕ゲル粒子(クラッシュゲル)は、典型的には鋭い縁形状を有する破片形状であり、球状とは言い難い歪な形をした粒子がその多くを占めている。このような球状ではなくもろもろとした不均一な小さいゲル破片の集まりからなるセルロース系SAPは、容器に充填された場合にゲル同士が密に接した状態となり、空気の流動が起こりにくい。また、このような不均一な小さいゲル破片の集まりからなるセルロース系SAPは美観の観点からも好ましいものではない。
【0013】
また、ポリアクリル酸系SAPに比べ、CMC又はCMC塩を用いて製造されるセルロース系SAPは比較的高価であるため、原料損失を減らして収率を高める技術の開発が所望される。
【0014】
本発明は、高吸水性及び生分解性を兼ね揃えた粒状担体であって、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一であり、強度及び透明性にも優れた粒状担体を、原料損失を低減し収率よく簡便に製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面によると、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含むゲル粒子からなる粒状担体の製造方法であって、
アルカリ水溶液に1質量%水溶液の25℃における粘度が5mPa・s以上300mPa・s以下の範囲にあるカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製すること、
上記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加し、上記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と上記架橋剤との混合物を得ること、
上記混合物と低極性有機溶媒とを第1の容器中で混合し、上記混合物が上記低極性有機溶媒中に分散した懸濁液を得ること、及び
上記懸濁液中で上記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させ、上記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成すること
を含み、上記低極性有機溶媒は25℃における比誘電率が10以下であり、且つ、37.8℃における動粘度が10mm/s以上であり、前記第1の容器は疎水性の内表面を有している粒状担体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の他の側面によると、上記第1の容器の内表面は、四フッ化エチレン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリプロピレン 、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンのうち少なくとも1つを含む材料で構成されている上記側面に係る製造方法が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と上記架橋剤との上記混合物の調製が上記第1の容器内で行われ、上記混合物と上記低極性有機溶媒との混合が、上記第1の容器内に含まれる上記混合物に上記低極性有機溶媒を添加することにより行われる上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、上記カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子が形成されるまでの反応が前記第1の容器内で行われる上記側面に係る製造方法が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、上記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と上記架橋剤との上記混合物の調製が第2の容器内で行われ、上記混合物と上記低極性有機溶媒との混合が、上記第1の容器内に含まれる上記低極性有機溶媒に上記混合物を添加することにより行われる上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、上記低極性有機溶媒と上記混合物とを混合するときの上記低極性有機溶媒の温度が15℃乃至43℃の範囲内である上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によると、上記低極性有機溶媒が流動パラフィン又はシリコーンオイルである上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0022】
本発明の更に他の側面によると、上記低極性有機溶媒の37.8℃における動粘度が10mm/s以上100mm/s以下である上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0023】
本発明の更に他の側面によると、上記カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩の上記粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下である上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0024】
本発明の更に他の側面によると、上記混合物中の上記カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩(X)と上記架橋剤(Y)との質量比(X/Y)が、10/2乃至10/5の範囲にある上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0025】
本発明の更に他の側面によると、上記架橋剤が分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物である上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0026】
本発明の更に他の側面によると、上記粒状担体が薬剤担持用に用いられる上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0027】
本発明の更に他の側面によると、上記粒状担体が吸収性物品において吸水性材料として用いられ上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高吸水性及び生分解性を兼ね揃えた粒状担体であって、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一であり、強度及び透明性にも優れた粒状担体を、原料損失を低減し収率よく簡便に製造する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の実施形態に係る粒状担体の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る粒状担体の製造方法の他の例を示すフロー図である。
図3図3は、例1で得られた粒状担体の吸水状態を示す写真である。
図4図4は、比較例2で得た乾燥状態にある粉砕ゲル粒子(a)と、参考例2で得た乾燥状態にある粒状担体(b)の写真である。
図5図5は、比較例2で得た粉砕ゲル粒子(a)の吸水状態と、参考例2で得た粒状担体(b)の吸水状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。
【0031】
本実施形態に係る製造方法により得られる粒状担体(以下において、「本実施形態に係る粒状担体」ともいう。)は、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含むゲル粒子であり、以下に説明するように、低極性有機溶媒を分散媒とする懸濁液中での懸濁重合(すなわち、逆相懸濁重合)により形成される分散粒子由来のゲル粒子である。この逆相懸濁重合によるカルボキシアルキルセルロース塩の架橋体の形成を経て得られる分散粒子由来の粒状担体は、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一であり、強度及び透明性にも優れる。本実施形態に係る製造方法によれば、このような特性を有する粒状担体を、上述した従来の製造方法におけるゲル体の粉砕や、分級などの工程を経ることなく簡便に得られる。
【0032】
本実施形態において、原料となるカルボキシアルキルセルロース又はその塩は、例えば、製造コストなどの観点から、炭素数1~3のアルキル基を有するカルボキシアルキルセルロース又はその塩であることが好ましく、具体的には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシブチルセルロース、又はこれらの塩が挙げられる。カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本実施形態において、原料となるカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩として、その1質量%水溶液の粘度が所定範囲内のものを選択することは重要である。カルボキシアルキルセルロースの高分子鎖が長いほど溶解時の粘度が高くなり、分散媒体である低極性有機溶媒へ注入する際のハンドリング性が悪くなる。その結果、得られる粒状担体の粒子形状及び粒子サイズの均一性などに悪影響を及ぼす恐れがある。一方、カルボキシアルキルセルロースの高分子鎖が長いほど吸水量は多くなり、これは本実施形態に係る粒状担体が薬剤担体用に用いられる場合、多くの薬剤を担持できることを意味する。しかしながら、吸水量が多くなりすぎると、ゲル強度の低下、離水の増大といった問題が生じ得る。これらの観点から、本発明の実施形態では、カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩として、その1質量%水溶液の粘度が5mPa・s以上300mPa・s以下であるものを使用する。
【0034】
ここで、カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩の1質量%水溶液の粘度は、固形分が1質量%となるようにカルボキシアルキルセルロースの200mL水溶液を作製し、B型粘度計で測定したときの粘度の値である。以下において、この条件で測定されるカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩の1質量%水溶液の粘度を、単に「カルボキシアルキルセルロースの粘度」という。カルボキシアルキルセルロースの粘度は、10mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましく、20mPa・s以上50mPa・s以下であることがより好ましい。
【0035】
また、本実施形態において、原料となるカルボキシアルキルセルロースの平均エーテル化度(平均置換度、DS)は、一例によれば、0.5乃至1.5であってよい。この範囲の平均エーテル化度を有するカルボキシアルキルセルロースを用いると、ゲルの吸水性、強度を容易に向上することができる。なお、平均エーテル化度(平均置換度)とは、セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位の水酸基に対する置換度の平均である。
【0036】
本実施形態に係る粒状担体の製造方法は、アルカリ水溶液にカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製すること、上記カルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物を得ること、上記混合物と低極性有機溶媒とを第1の容器中で混合し、上記混合物が低極性有機溶媒中に分散した懸濁液を得ること、及び上記懸濁液中でカルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させ、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成することを含む。本実施形態において、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物と低極性有機溶媒との混合に使用され、逆相懸濁重合が行われる第1の容器は、疎水性の内表面を有している。
【0037】
<第1製造方法:ワンポット反応>
図1は、本実施形態に係る粒状担体の製造方法の一例を示すフロー図である。図1に示す製造方法は、工程S101乃至S104を含む。すなわち、図1に示す製造方法は、アルカリ水溶液にカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製する工程S101と、工程S101で得られたカルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物を調製する工程S102と、工程S102で得られた混合物に低極性有機溶媒を添加し、混合物が低極性有機溶媒中に分散した懸濁液(逆相懸濁液)を得、この懸濁液中でカルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させ、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成する工程S103と、工程S103で形成された分散粒子を懸濁液から濾別し、洗浄し、乾燥する工程S104とを含む。
【0038】
なお、図1に示される製造方法は、上記の通り一例である。本実施形態に係る製造方法は、図1に示されていない他の工程を更に含んでもよい。また、工程S104は後述するとおり必要に応じて行う任意工程であり、本実施形態に係る製造方法は、工程S104を含まない製造方法であってもよい。各工程について以下に詳細に説明する。
【0039】
工程S101では、アルカリ水溶液にカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を添加し、常温で撹拌しながら完全に溶解させ、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製する。工程S101において、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製するのに要する時間は適宜設定することができる。一例によれば、この時間は1時間乃至5時間を目安とすることができる。カルボキシアルキルセルロースをアルカリ水溶液に添加した後において、必要に応じて減圧により、または所定の時間常圧で静置することにより脱泡処理を行ってよい。
【0040】
工程S101において使用されるカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩としては、パルプ等のセルロースを出発原料として用い、これを慣用の方法でカルボキシアルキル化して得たものを使用してもよいし、市販品のカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を用いてもよい。
【0041】
工程S101で得られるカルボキシアルキルセルロース塩水溶液に含有されるカルボキシアルキルセルロース塩は、例えば、カルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であってよい。この場合、カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩が添加されるアルカリ水溶液としては、アルカリ金属又はアルカリ土塁金属を含有するアルカリ水溶液が使用される。カルボキシアルキルセルロース塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩、又はカルシウム塩等が挙げられる。この場合、カルボキシアルキルセルロースを添加するアルカリ水溶液として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は水酸化カルシウムの水溶液が使用される。一例によれば、カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)が使用され、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液が使用され、工程S101においてCMC-Na水溶液が調製される。
【0042】
工程S102では、工程S101で得られたカルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤の混合物を調製する。以下において、単に「混合物」というとき、これは工程S102で調製されるカルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物を意味する。
【0043】
カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合は、好ましくは15℃乃至43℃の温度範囲内で、より好ましくは20℃乃至35℃の温度範囲内で、例えばスタティックミキサーを用いて行う。この温度を低くし過ぎると、混合物の粘性が高くなり、ハンドリング性が低下する。また、工程S102では、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加した直後から、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋反応が始まり、粘度が上昇し始める。この混合時の温度を適度に低くすることにより、架橋反応が急速又は過度に進行するのを抑制するとともに、優れたハンドリング性を達成できる。なお、撹拌後、必要に応じて減圧による脱泡操作を行ってもよい。
【0044】
本実施形態に係る製造方法において使用される架橋剤に特に制限はなく、ポリエポキシ化合物、ポリグリシジル化合物、ポリアルデヒド化合物、ポリカルボン酸、ビニルエーテル化合物、メチロール化合物、ポリイソシアネート、ポリオキサゾリン化合物、ポリビニル化合物、ポリアクリレート化合物、ポリメタクリレート化合物、ポリハロゲン化合物、メチレンビスアクリルアミド、エピクロロヒドリン、ポリ酸無水物、クエン酸、メチレンビスアクリルアミド、グリシジルメタクリレート等の公知の化合物を用いることができる。
【0045】
架橋剤の好ましい具体例としては、(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物、(b)2以上の重合可能な二重結合を有する化合物、(c)2以上のエポキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0046】
(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、ポリオキシプロピレン、ソルビタン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、1,3-プロパンジオール、ソルビトール等が挙げられる。
【0047】
(b)分子中に2以上の重合可能な二重結合を有する化合物としては、ビス(メタ)アクリルアミド、アリル(メタ)アクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられる。
【0048】
(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ethylene glycol diglycidyl ether,EGDE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0049】
これらの中では、反応性及び得られる粒状担体の吸水性能の観点から、(b)分子中に2以上の重合可能な二重結合を有する化合物、及び(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、(c)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物がより好ましく、ポリグリシジルエーテルが更に好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)が特に好ましい。
【0050】
カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩と架橋剤の配合質量比は、適宜設定することができる。粒状担体の形状、透明性及び強度の観点からは、カルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩(X)と架橋剤(Y)との配合質量比(X/Y)は、10/2≧X/Y≧10/5の範囲であることが好ましく、10/2>X/Y≧10/4の範囲であることがより好ましい。
【0051】
工程S103では、工程S102で得られた混合物に、低極性有機溶媒を添加(注入)し、混合物が低極性有機溶媒中に分散してなる懸濁液(逆相懸濁液)を得る。この懸濁液中においてカルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させることにより、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成する。
【0052】
工程S103において混合物に添加され、分散媒体として使用される低極性有機溶媒は、25℃における比誘電率が10以下の低極性有機溶媒であり、分散質の上記混合物より極性が低い。このため工程S103において調製される懸濁液は逆相懸濁液であり、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合は逆相懸濁重合である。ここで比誘電率は、静電容量計により測定される25℃における比誘電率である。一例によれば、分散媒体として使用される低極性有機溶媒は、比誘電率が3以上6以下であることがより好ましい。
【0053】
比誘電率が10以下の低極性有機溶媒の例として、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、流動パラフィン、シリコーンオイル等が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
工程S103で使用される上記低極性有機溶媒は、更に、37.8℃における動粘度が10mm/s以上の粘性流体である。分散媒体が粘性流体である場合、生成する球状ゲル粒子の凝集性を抑制したり、球状ゲル粒子同士の粘着を抑制したりして、球状ゲル粒子の塊状化を抑制することができる。低極性有機溶媒において動粘度が10mm/s以上であることは、形状が球形状であり且つ粒子サイズが均一な高品質の粒状担体を得るために重要である。
【0055】
ここで動粘度は、振動粘度計により測定される37.8℃における動粘度である。一例によれば、分散媒体として使用される低極性有機溶媒は、動粘度が10mm/s以上100mm/s以下であり、他の例によれば15mm/s以上80mm/s以下であり、更に他の例によれば20mm/s以上50mm/s以下である。
【0056】
比誘電率が10以下の低極性有機溶媒として挙げた上記具体例のなかでも、流動パラフィン及びシリコーンオイルは、粘性流体であるため、工程S3において使用される上記低極性有機溶媒として特に好ましい。
【0057】
流動パラフィンとしては、常温で液状のパラフィンであれば特に限定されず、例えば、炭素原子数が12~50の液状飽和炭化水素等が挙げられ、n-パラフィン、イソパラフィン、ナフテンのいずれであってもよい。また、市販品として、例えば、モレスコ(登録商標)ホワイト、モレスコバイオレス、スモイル(登録商標)(いずれも商品名、株式会社MORESCO製)、スタノール、クリストール、エッソホワイトオイル、ピュアレックス(いずれも商品名、エッソ石油社製)等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
シリコーンオイルとしては、常温で液状のシロキサン構造を有するものであれば特に限定されず、例えば、ジメチルシリコーンオイル等のポリシロキサンオイル等が挙げられ、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、シアノ基、メルカプト基、トリフルオロプロピル基、クロルフェニル基、長鎖アルキル基等の官能基を有したり、ポリエーテルやアルコール等で変性したりした変性シリコーンオイルも用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
工程S103において、低極性有機溶媒に前述した架橋剤をさらに添加しておくことにより、ゲル粒子の表面層に架橋密度の高い部分を設ける表面架橋(二次架橋)を行うこととしてもよい。表面架橋(二次架橋)を行うことにより、吸水量を維持しながらゲル強度を向上させることができる。
【0060】
工程S103において、工程S102で得られた混合物に添加される低極性有機溶媒の温度は、15℃乃至43℃の範囲内であることが好ましく、15℃乃至30℃の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
なお、上記の通り、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液に架橋剤を添加した直後から、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋反応が始まる。カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤とを混合してから、この混合物に低極性有機溶媒を添加するまでの時間は、例えば30分以内とすることが好ましい。
【0062】
工程S103は、撹拌下に行われる。撹拌装置としては、例えば、メカニカルスターラー等が挙げられ、撹拌翼としては、例えば、アンカー型、プロペラ型、パドル型等が挙げられ、適宜選択して使用することができる。回転速度は、撹拌翼の形状や、懸濁液が収容されている反応容器の大きさなどとの関係に応じて適宜設定される。
【0063】
工程S103において、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合反応に要する時間は、適宜設定することができる。一例によれば、1時間乃至6時間を目安とすることができる
【0064】
一例によれば、工程S103では上記の架橋重合を、第1条件下で懸濁液を撹拌する第1工程と、第2条件下で懸濁液を撹拌する第2工程とをこの順に行うことにより進行させる。
【0065】
まず、第1工程として、低極性有機溶媒が添加される直前の混合物を適度に低い温度(T1)に調節しておき、混合物を添加した後もその温度T1において所定時間(t1)撹拌する。具体的には、温度T1は15℃乃至43℃の範囲内が好ましく、15℃乃至40℃の範囲内がより好ましい。また、上記温度T1における撹拌時間t1は、5分乃至120分の範囲内が好ましく、10分乃至120分の範囲内がより好ましく、20分乃至60分の範囲内が更に好ましい。第1工程において、架橋重合が急速には進行しない温度条件下で、十分に長い時間に亘って撹拌を継続する。それ故、第1工程では、分散粒子の合一や分裂による粒径の均一化が進行する。また、第1工程では、架橋重合は穏やかに進行するため、粒径の均一化が進行すると、分散粒子の更なる合一や分裂は生じ難くなる。従って、第1工程を終了した時点における分散粒子の粒径は均一である。
【0066】
第2工程として、低極性有機溶媒が添加された混合物をより高い温度T2に加温し、所定時間(t2)撹拌する。具体的には、温度T2は46℃乃至80℃の範囲内が好ましく、46℃乃至60℃の範囲内がより好ましい。また、上記温度T2における撹拌時間t2は、120分乃至360分の範囲内が好ましく、240分乃至300分の範囲内がより好ましい。第2工程において撹拌をより高い温度で行うことにより、架橋重合は十分に進行する。従って、十分に短い時間で工程S103を完了させることができる。
【0067】
上述した図1に示す製造方法は、ワンポット反応により実施することができる。ここでワンポット反応とは、広義には、少なくとも工程S102及び工程S103に含まれる反応が一つの反応容器内で連続して行われることを意味し、狭義には、工程S101乃至工程S103に含まれるすべての反応を、一つの反応容器内で連続して行うことを意味する。
【0068】
広義のワンポット反応は、具体的には、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物の調製を第1の容器内で行い(工程S102)、次いで第1の容器内に含まれる混合物に低極性有機溶媒を添加する(工程S103)ことを意味する。狭義のワンポット反応は、具体的には、第1の容器内においてカルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製し(工程S101)、次いでここに架橋剤を添加することにより第1の容器内においてカルボキシセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物を調製し(工程S102)、次いでここに低極性有機溶媒を添加する(工程S103)ことを意味する。
【0069】
これに対し、後述する図2に示す製造方法の他の例は、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物の調製を第2の容器内で行い、次いで、得られた混合物と低極性有機溶媒との混合を第2の容器とは別の容器である第1の容器内で行う。以下において、図1に示す製造方法の一例を「第1製造方法」又は「ワンポット反応」といい、図2に示す製造方法の他の例を「第2製造方法」又は「ツーポット反応」という。
【0070】
第1製造方法(ワンポット反応)は、後述する第2製造方法(ツーポット反応)に対し、簡便性に更に優れ、且つ、原料ロスをより低減して収率を更に向上することができる。また、第1製造方法(ワンポット反応)は、工程S101乃至工程S103に含まれるすべての反応を第1の容器内で連続して行う狭義のワンポット反応であることがより好ましい。
【0071】
本実施形態に係る粒状担体の製造方法では、上記第1の容器として、原料と接触する内表面が疎水性の反応容器が使用される。内表面が疎水性の反応容器は、例えば特に疎水化処理を施していないガラスや金属の内表面を有する反応容器と比べ、その表面エネルギーは低いため、重合反応中や重合後のモノマーやポリマーが反応容器側壁に固定することがない。このため均一な反応が可能となり、収率が向上するだけでなく、生成物の回収も容易となる。内表面が疎水性を有する反応容器は、上記内表面が疎水性を有する物質で構成されたものであってもよいし、あるいは内表面に疎水性を付与する化学的、あるいは物理的処理(疎水化処理)を施したものであってもよい。第1の容器に使用可能な疎水性を有する物質は、疎水性を有する物質であれば特に制限されず、公知の物質が使用できる。このような物質として、例えば、フルオロアルキル基を有するフッ素樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン)、飽和アルキル基を有するポリオレフィン樹脂(例えば、ポリプロピレン 、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレン)等が挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る粒状担体の製造方法は、通常、図1に示されるように工程S104を含む。すなわち、本実施形態の工程S103において懸濁液中で形成されたカルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子は、通常は、濾別により懸濁液から取り出され、更に必要に応じて洗浄、乾燥等される。濾別後の洗浄は、例えば、ゲル粒子の表面に付着した低極性有機溶媒を界面活性剤等の洗剤水溶液で洗浄すること、及び/又は、ゲル粒子をエタノールに浸漬させ脱水・脱アルカリすることなどであり、乾燥は、例えば風乾により行うことができる。低極性有機溶媒としてn-ヘキサンなどの沸点の低い溶媒を使用した場合、減圧蒸留などの方法を使用することにより、洗浄を行うことなくゲル粒子表面の溶媒を揮発/除去することができる。
【0073】
但し、本実施形態に係る粒状担体の製造方法において、工程S104は任意工程であり、分散粒子は懸濁液から取り出されることなく、懸濁液中で分散状態のまま製品として流通してもよい。すなわち、本実施形態に係る粒状担体は、工程S103で形成される懸濁液中で逆相懸濁重合された分散粒子由来のゲル粒子であればよく、例えば、懸濁液中に存在する分散粒子の形態であってもよいし、懸濁液から取り出され、乾燥されていない吸水状態のゲル粒子(吸水ゲル粒子)の形態であってもよいし、懸濁液から取り出され、乾燥された乾燥状態のゲル粒子(乾燥ゲル粒子)の形態であってもよい。
【0074】
本実施形態に係る粒状担体の粒子径としては、特に限定されるものではないが、使用される目的に応じて好ましい粒子径がある。例えば、本実施形態に係る粒状担体が薬剤担持用として使用される場合、吸水状態のゲル粒子としての平均粒子径は、一例によれば2mm以上30mm以下であってよく、他の例によれば2mm以上20mm以下であってよい。ここで、平均粒子径とは、ランダムに抽出した粒子30個についてノギスを用いて長径を測定し平均することにより測定されるものを意味する。
【0075】
また、本実施形態に係る粒状担体が薬剤担持用として使用される場合、乾燥状態のゲル粒子としての平均粒子径は、一例によれば0.2mm以上6mm以下であってよく、他の例によれば0.5mm以上4mm以下であってよい。ここで、平均粒子径とは、ランダムに抽出した粒子30個についてノギスを用いて長径を測定し平均することにより測定されるものを意味する。
【0076】
本実施形態に係る粒状担体は、一例によれば、紙おむつ、生理用品(ナプキン、タンポンなど)、パット(汗取りパット、母乳パット、失禁パットなど)、ペット用トイレ等の吸収性物品において、高吸水性物質として乾燥状態で使用することができる。
【0077】
また、他の例によると、本実施形態に係る粒状担体は、薬剤担体用として用いられる。すなわち、本実施形態に係る乾燥ゲル粒子からなる粒状担体に、例えば、芳香性、消臭性、脱臭性、防虫性、殺虫性又は防カビ性等を有する薬剤から選択される少なくとも1種の薬剤を含有する液状組成物を吸収、担持させる。これにより、粒状芳香剤組成物、粒状消臭剤組成物、粒状脱臭剤組成物、粒状防虫剤組成物、粒状殺虫剤組成物、粒状防カビ剤組成物等の粒状薬剤組成物等のゲル製剤を提供することができる。
【0078】
このような粒状薬剤組成物からなるゲル製剤において、粒状担体に吸収、担持される液状組成物に含有される薬剤成分としては、目的に応じて一般的に使用されている各種薬剤を使用することができる。
例えば、芳香性を有する薬剤の具体例として、麝香、霊猫香、竜延香等の動物性香料、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、クミン油、樟脳油、バジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、マンダリン油、ハッカ油、オレンジ油、セージ油、スターアニス油、テレピン油、ローズマリー油、ユーカリ油、アニス油、ラベンダー油、クミン油、シナモン油、ヒバ油等の植物性香料等の香料等を挙げることができる。また、合成香料または抽出香料等の人工香料を用いることもでき、具体例として、ピネン、リモネン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、βフェネチルアルコール等のアルコール系香料、アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド等のアルデヒド系香料、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料、γ-ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル系香料等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0079】
消臭性を有する薬剤は、揮散性薬剤でも非揮散性薬剤でもよく、具体例として酸化チタンや酸化亜鉛等の金属酸化物、フラボノイド化合物や、カテキン、ポリフェノール等の植物抽出物又はその誘導体、シクロデキストリン又はその誘導体、アミン化合物等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0080】
脱臭性を有する薬剤は、具体例としてヤシ殻活性炭等の活性炭、備長炭等の木炭などの炭素系吸着剤、ゼオライト、シリカゲル、層状アルミノケイ酸亜鉛等のシリカ系吸着剤等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0081】
防虫性又は殺虫性を有する薬剤は、具体例としてエンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、エミネンス、プロフルトリン等のピレスロイド系殺虫成分や、パラジクロロベンゼン、ナフタリン、樟脳、2-フェノキシエタノール、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネート等の揮散性防虫・殺虫成分等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用することもでき、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0082】
液状組成物には、上述した薬剤以外に各種添加剤を使用することができる。具体例としては、界面活性剤、着色料、防腐剤やpH調整剤等が挙げられる。
【0083】
本実施形態に係る粒状薬剤組成物は、例えば、乾燥状態のゲル粒子を液状薬剤組成物に含侵させることにより製造することができる。
【0084】
上述した通り、低極性有機溶媒を分散媒とする逆相懸濁重合により形成される分散粒子由来のゲル粒子である本実施形態に係る粒状担体は、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一である。このため本実施形態に係る粒状担体に液状薬剤組成物を担持させてなる粒状薬剤組成物は、容器に充填された状態において空気の流動が起こりやすく、粒状担体に担持された薬剤を効率的に機能させることができる。また、本実施形態に係る粒状薬剤組成物は、強度及び透明性にも優れる。このため本実施形態に係る粒状担体は、芳香剤や消臭剤等の据え置き型製品において、容器に充填される粒状ゲル製剤の薬剤担持用として好適に用いられる。
【0085】
<第2製造方法:ツーポット反応>
本実施形態に係る粒状担体は、図2に示す本実施形態に係る製造方法の他の例である第2製造方法によっても得られる。
【0086】
図2は、第2製造方法の一例を示すフロー図である。図2に示される第2製造方法は、アルカリ水溶液にカルボキシアルキルセルロース及び/又はその塩を溶解し、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液を調製する工程S1と、工程S1で得られたカルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤の混合物を調製する工程S2と、工程S2で得られた混合物を低極性有機溶媒中に添加(注入)し分散させて懸濁液(逆相懸濁液)とし、この懸濁液中でカルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合を進行させ、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成する工程S3と、工程S3で形成された分散粒子を懸濁液から濾別し、洗浄し、乾燥する工程S4とを含む。
【0087】
第2製造方法が含む工程S1及び工程S2は、各々、第1製造方法において説明した工程S101及び工程S102と同様である。但し、工程S3は、第1製造方法における工程S103と異なる。
【0088】
工程S3では、工程S2で得られた混合物と分散溶媒である低極性有機溶媒とを混合して懸濁液(逆相懸濁液)とし、この懸濁液中での架橋重合によりカルボキシアルキルセルロース塩の架橋体を含む分散粒子を形成する。この点で、工程S3は第1製造方法における工程S103と同様である。但し、第1製造方法は、工程S102において第1の容器内で混合物を調製し、続く工程103において第1の容器内に存在する混合物に対し低極性有機溶媒を添加するワンポット反応である。これに対し、第2製造方法は、工程S2におけるカルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合物の調製を第2の容器内で行い、次いで工程S3では、第2の容器とは別の容器である第1の容器内に存在する低極性有機溶媒に、工程S2で調製した混合物を撹拌下において添加するツーポット反応である。
【0089】
工程S3において分散媒体として使用される低極性有機溶媒は、第1製造方法の工程S103において使用される低極性有機溶媒と同様である。
【0090】
第2製造方法において、上記混合物と低極性有機溶媒との混合に使用される第1の容器は、第1製造方法において使用される第1の容器と同様であり、原料と接触する内表面が疎水性である。このため均一な反応が可能となり収率が向上する。また、生成物の回収も容易となるため、原料損失を低減することができる。
【0091】
第2製造方法において、カルボキシアルキルセルロース塩水溶液と架橋剤との混合に使用される第2の容器の材質は、特に制限されるものではない。第2の容器は、第1の容器と同様に、原料と接触する内表面が疎水性である容器であってもよいし、疎水性でない容器であってもよい。第2の容器に使用可能な疎水性を有する物質の例は、第1の容器と同様である。疎水性でない材料からなる容器としては、例えば、ガラス製の容器が挙げられる。原料損失の更なる低減の観点からは、第2の容器は第1の容器と同様の容器であることが好ましく、すなわち、原料と接触する内表面が疎水性である容器であることが好ましい。
【0092】
工程S3において、上記低極性有機溶媒の撹拌に用いられる撹拌装置としては、例えば、メカニカルスターラー等が挙げられ、撹拌翼としては、例えば、アンカー型、プロペラ型、パドル型等が挙げられ、適宜選択して使用することができる。一例によれば、工程S3において、低極性有機溶媒は50乃至500rpmの回転速度で撹拌されており、他の例によれば200乃至500rpmの回転速度で撹拌されており、更に他の例によれば250乃至400rpmの回転速度で撹拌されている。
【0093】
工程S3において、工程S2で得られた混合物を低極性有機溶媒中に添加(注入)する方法としては、一例として、低極性有機溶媒の液面上からピペットを用いて1滴ずつ混合物を滴下する方法(以下において、「滴下注入法」ということがある。)が挙げられ、他の例として、低極性有機溶媒の液中にピペットを浸しながら、混合物を連続的に注入する方法(以下において、「連続注入法」ということがある。)が挙げられる。滴下注入法は、分散粒子の粒径がそろいやすい点で好ましい。連続注入法は、短時間で容易に実施できる点で好ましい。
【0094】
工程S3において、カルボキシアルキルセルロース塩の架橋重合反応に要する時間は、適宜設定することができる。一例によれば、1時間乃至6時間を目安とすることができる。
【0095】
工程S3において、工程S2で得られた混合物が添加される直前の低極性有機溶媒は、常温又は加温された状態にある。一例によれば、工程S3では上記の架橋重合を、第1条件下で懸濁液を撹拌する第3工程と、第2条件下で懸濁液を撹拌する第4工程とをこの順に行うことにより進行させる。
【0096】
まず、第3工程として、混合物が添加される直前の低極性有機溶媒を適度に低い温度(T3)に調節しておき、混合物を添加した後もその温度T3において所定時間(t3)撹拌する。具体的には、温度T3は15℃乃至43℃の範囲内が好ましく、15℃乃至40℃の範囲内がより好ましい。また、上記温度T3における撹拌時間t3は、5分乃至120分の範囲内が好ましく、10分乃至120分の範囲内がより好ましく、20分乃至60分の範囲内が更に好ましい。第3工程において、架橋重合が急速には進行しない温度条件下で、十分に長い時間に亘って撹拌を継続する。それ故、第3工程では、分散粒子の合一や分裂による粒径の均一化が進行する。また、第3工程では、架橋重合は穏やかに進行するため、粒径の均一化が進行すると、分散粒子の更なる合一や分裂は生じ難くなる。従って、第3工程を終了した時点における分散粒子の粒径は均一である。
【0097】
第4工程として、低極性有機溶媒をより高い温度T4に加温し、所定時間(t4)撹拌する。具体的には、温度T4は46℃乃至80℃の範囲内が好ましく、46℃乃至60℃の範囲内がより好ましい。また、上記温度T4における撹拌時間t4は、120分乃至360分の範囲内が好ましく、240分乃至300分の範囲内がより好ましい。第4工程において撹拌をより高い温度で行うことにより、架橋重合は十分に進行する。従って、十分に短い時間で工程S3を完了させることができる。
【0098】
第2製造方法は、通常、図2に示されるように工程S4を含む。工程S4は、第1製造方法において説明した工程S104と同様である。
【実施例0099】
以下に、本発明に関連して行った試験の結果を記載する。
(1)粒状担体の製造
(1.1)例1(ワンポット反応、第1の容器:PP)
原料として、粘度が20乃至50mPa・sの範囲にあるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)(ダイセル1120、ダイセルミライズ株式会社製)を使用し、以下に説明する第1製造方法(ワンポット反応)により粒状担体を製造した。ここで粘度は、CMC-Naの1質量%水溶液の25℃における粘度を、上掲の方法で測定した粘度である。
【0100】
第1の容器としてポリプロピレン(PP)製の500mLビーカーを用意した。この容器にイオン交換水150gを注入し、これに水酸化ナトリウム3gを添加して0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水酸化ナトリウム水溶液に、上記CMC-Na(ダイセル1120)15gを添加し、常温下で撹拌しながら完全に溶解した。その後、これを一晩静置することにより脱泡した。次いで、このCMC-Na水溶液に架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)(デナコール(登録商標)EX-810、ナガセケムテックス株式会社製)6gを滴下し、250rpmの撹拌速度で30分間攪拌した。これによりCMC-Na水溶液とEGDEとの混合物を得た。なお、本例において、CMC-Naと架橋剤EGDEの配合質量比(CMC-Na/EGDE)は、10/4である。
【0101】
次いで、得られた混合物に、撹拌下(撹拌速度250rpm)において、常温(24℃)の流動パラフィン(スモイルP-100、松村石油株式会社製;動粘度20.5mm/s)300gを添加した。撹拌を継続したまま、流動パラフィンの注入を完了してから5分間は液温を上記常温に保ち、その後、加温を開始した。液温が50℃を超えた時点から4時間に亘る撹拌を更に行い反応させた。
【0102】
反応後、生成したゲル粒子を濾別した。次いで、ゲル粒子表面に付着した流動パラフィンを適当量の界面活性剤水溶液で流し落とした。更に、ゲル粒子をエタノールに浸漬し脱水・脱アルカリした後、減圧乾燥を行った。これにより乾燥状態の粒状担体を得た。
【0103】
(1.2)例2(ツーポット反応、第1の容器:PP)
原料として、上記CMC-Na(ダイセル1120、ダイセルミライズ株式会社製)を使用し、以下に説明する第2製造方法(ツーポット反応)により粒状担体を製造した。
【0104】
ガラス製の200mLビーカーに注入されたイオン交換水100gに水酸化ナトリウム2gを溶解し、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水酸化ナトリウム水溶液に上記CMC-Na(ダイセル1120)10gを溶解し、一晩静置し脱泡した。この水溶液に架橋剤として上記EGDE(デナコールEX-810)4gを滴下し、250rpmの撹拌速度で30分間攪拌した。これによりCMC-Na水溶液とEGDEとの混合物を得た。なお、本例において、CMC-Naと架橋剤EGDEの配合質量比(CMC-Na/EGDE)は、10/4である。
【0105】
第1の容器としてポリプロピレン(PP)製の500mLビーカーを用意した。この容器に常温(24℃)の流動パラフィン(スモイルP-100)300gを注入した。ここに上掲で得た混合物を撹拌速度250rpmで撹拌しながら注入した。混合物の注入は、高粘度用ピペットを用い、ピペット先端を流動パラフィンに浸しながら行った。撹拌を継続したまま、混合物の注入を完了してから5分間は液温を上記常温に保ち、その後、加温を開始した。液温が50℃を超えた時点から4時間に亘る撹拌を更に行い反応させた。
【0106】
反応後、生成したゲル粒子を濾別し、ゲル粒子表面に付着した流動パラフィンを適当量の界面活性剤水溶液で流し落とした。更に、ゲル粒子をエタノールに浸漬して脱水・脱アルカリした。その後、ゲル粒子を室温で乾燥し、次いで減圧乾燥を行い、乾燥状態の粒状担体を得た。
【0107】
(1.3)参考例1(ツーポット反応、第1の容器:ガラス)
【0108】
例2に対し、第1の容器として、ポリプロピレン(PP)製の500mLビーカーに替えてガラス製の500mLビーカーを使用したこと以外は例2と同様の方法により乾燥状態の粒状担体を得た。
【0109】
(1.4)参考例2(ツーポット反応、第1の容器:ガラス)
原料として、上記CMC-Na(ダイセル1120)を使用し、以下に説明する第2製造方法(ツーポット反応)により粒状担体を製造した。
【0110】
上記CMC-Na(ダイセル1120)10.0gを0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mLに溶解した。この水溶液に架橋剤として上記EGDE(デナコールEX-810)4.0gを滴下し、20分間攪拌した後、減圧による脱泡操作を5分間行った。これによりCMC-Na水溶液とEGDEとの混合物を得た。なお、本例において、CMC-Naと架橋剤EGDEの配合質量比(CMC-Na/EGDE)は、10/4である。
【0111】
次いで、得られた混合物を、ガラス製の500mLビーカー内で60℃に加温され且つ撹拌速度250rpmで攪拌されている流動パラフィン(スモイルP-100、松村石油株式会社製;動粘度20.5mm/s)に注入した。このとき、混合物の注入には高粘度用ピペットを用い、ピペット先端を流動パラフィンに浸しながら注入した。流動パラフィン中で4時間反応させた。反応後、生成したゲル粒子を濾別し、ゲル粒子表面に付着した流動パラフィンを適当量の界面活性剤水溶液で流し落とした。更に、ゲル粒子をエタノールに浸漬し脱水・脱アルカリした後、風乾により乾燥状態の粒状担体を得た。
【0112】
(1.5)比較例1(ツーポット反応、第1の容器:ガラス)
参考例2に対し、CMC-Na(ダイセル1120、粘度20乃至50mPa・s)をCMC-Na(ダイセル1190、粘度1300乃至2000mPa・s)に変更した以外は、参考例2と同様の方法で粒状担体を製造した。
【0113】
(1.6)比較例2(水溶液重合)
イオン交換水100gに水酸化ナトリウム2gを溶解させ0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を得た。この水酸化ナトリウム水溶液に上記CMC-Na(ダイセル1120、ダイセルミライズ株式会社)10gを溶解させた。これにEGDE(デナコールEX-810、ナガセケムテックス株式会社)4gを滴下し、20分間攪拌した。減圧による脱泡操作を5分間行った後、60℃の恒温槽内で4時間反応させた。反応後、生成したゲル状物をビーカーから取り出し、ミキサーを用いて粗く粉砕した。得られた粉砕ゲルをエタノールに浸漬し、脱水・脱アルカリした後、風乾により固形物(クラッシュゲル)を得た。
【0114】
(2)評価
(2.1)乾燥ゲル形状
得られた各粒状担体(乾燥ゲル)の形状を、目視にて下記基準により評価した。結果を表1に纏める。
A:球状の乾燥ゲルがほぼ全体を占め、球状以外の形状の乾燥ゲルは殆ど見られない。
B:球状の乾燥ゲルが多くを占めている。扁平状又は糸状の乾燥ゲルが混在するが、目立つ程度ではない。
C:非球状の乾燥ゲルが多くを占め、球状の乾燥ゲルが少ない。
【0115】
(2.2)透明性
得られた各粒状担体(乾燥ゲル)をイオン交換水に含侵し、吸水可能な最大量の水を担持させ、吸水ゲル粒子にしたものの透明性を、目視にて下記基準により評価した。結果を表1に纏める。
A:白濁はなく、あるいは白濁は殆どなく、全体的に透明性が高い。
B:一部白濁しているが8割以上の部分は透明であり、全体的には透明性が感じられる。
C:白濁している部分が多く、あるいは全体が白濁しており、全体的に透明性が低い。
【0116】
(2.3)強度
得られた各粒状担体(乾燥ゲル粒子)1gを200mLのビーカーに充填し、イオン交換水を150mL加えて一晩静置し、吸水可能な最大量の水を担持させた吸水ゲル粒子を得た。この吸水ゲル粒子を濾別し余剰の水を除去した後、吸水ゲル粒子を再度200mLのビーカーに充填した。このとき容器内は、最下部から最上部までおよそ6段の粒子が積み上がった状態となった。これを評価用サンプルとし、下記基準により強度を評価した。結果を表1に纏める。
【0117】
A:容器の最下部に位置し自重の約6倍の重さがかかる粒子が球形を保ち、粒子が充填された構造の全体にわたり、粒子間に均一なサイズの間隙が生じる強度。
B:容器の最下部に位置し自重の約6倍の重さがかかる粒子の少なくとも一部に球形を保つことができない粒子が存在し、最下部の粒子間に間隙が生じない部分が生じる強度 C:自重だけでも球形を保つことができない強度。
【0118】
なお、表1に記載の評価中、ツーポット反応に係る例2及び参考例1の評価は、同じツーポット反応に係る参考例2の評価結果から推測したものである。すなわち、参考例2に対し、第1の容器をガラス製ビーカーからポリプロピレン製ビーカーに変更した関係にある例2において、乾燥ゲル形状、透明性及び強度は参考例2と同様であることが推測できる。また、参考例2に対し、混合物が添加される直前の流動パラフィンの温度を変更した関係にある参考例1において、乾燥ゲル形状、透明性及び強度は参考例2と同様であることが推測できる。
【0119】
【表1】
【0120】
表1、図3図4及び図5から以下のことがわかる。ここで、図3は、例1で得た粒状担体の吸水状態(吸水ゲル)を示す写真である。図4(a)は、比較例2で製造した乾燥粉砕ゲル粒子(クラッシュゲル)の写真であり、図5(a)はその吸水状態の写真である。図4(b)は、参考例2で製造した乾燥状態の粒状担体(乾燥ゲル粒子)の写真であり、図5(b)は、その吸水状態の写真である。
【0121】
すなわち、表1及び上記図面に示された例1、例2、参考例1及び参考例2より、第1製造方法(ワンポット反応)又は第2製造方法(ツーポット反応)に係る逆相懸濁重合により形成された分散粒子由来の粒状担体は、形状が略球状で且つ粒子サイズが均一であり、透明性及び強度に優れることがわかる。一方、粘度が高いCMCを使用した比較例1においては、逆相懸濁重合による球状ゲル粒子の製造が困難であることがわかる。
【0122】
更に、例1、例2、参考例1及び参考例2と比較例2との対比から、逆相懸濁重合により形成された分散粒子由来の粒状担体と粉砕ゲル粒子とは、粒子形状が全く異なることが明確である。すなわち、図4(a)及び図5(a)から、水溶液重合により形成された含水ゲルを粉砕する従来の方法で得られる比較例2の粉砕ゲル粒子は、鋭い縁形状を有する破片形状であり、球状とは言い難い歪な形をした粒子がその多くを占めているのがわかる。一方、表1並びに図4(b)及び図5(b)から、逆相懸濁重合により形成される分散粒子由来のゲル粒子は、形状が球状で且つ粒子サイズが均一である。本発明の実施形態に係る製造方法によれば、このように高品質のゲル粒子が簡便に得られることがわかる。
【0123】
(4)粒状担体の収率
例1(ワンポット反応、PP)、例2(ツーポット反応、PP)及び参考例1(ツーポット反応、ガラス)について、以下の方法により粒状担体の収率を測定した。
【0124】
・収率
例1、例2及び参考例1において、最終的に得た乾燥状態の粒状担体の収率(%)を、下記式(1)により算出した。
収率(%)=[M2/M1]×100 (1)
式中、M1は、下記表2に示す原料a乃至cの合計質量(g)を表し、M2は、最終的に得た乾燥状態にある粒状担体の質量(g)を表す。結果を表2に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
表2より、以下のことがわかる。すなわち、例1及び例2と参考例1との対比から、逆相懸濁重合を行う第1の容器として、試料と接触する内表面が疎水性の材料から構成される容器を使用することにより、原料損失を抑え、収率を改善できることがわかる。また、例1と例2との対比から、第1の容器として上記疎水性の材料から構成される容器を使用することによる上記効果は、ツーポット反応よりワンポット反応の方が高いことがわかる。
【0127】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
図1
図2
図3
図4
図5