(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150223
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/06 20060101AFI20241016BHJP
H01T 13/08 20060101ALI20241016BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F16J15/06 M
H01T13/08
F02P13/00 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063535
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100142918
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 貴志
(72)【発明者】
【氏名】山口 健太郎
【テーマコード(参考)】
3G019
3J040
5G059
【Fターム(参考)】
3G019KA11
3J040AA01
3J040AA12
3J040BA03
3J040HA05
3J040HA16
5G059AA10
5G059CC02
5G059DD04
5G059EE04
5G059FF02
5G059JJ26
(57)【要約】
【課題】点火プラグを内燃機関に取り付ける際に用いられるガスケットであって、気密性を確保しつつ点火プラグから脱落したり落ち込みが発生したりといった事象の発生を低減するガスケットを提供する。
【解決手段】内燃機関のシリンダヘッドに点火プラグに設けられたねじ部を螺合させて取り付ける際に点火プラグとシリンダヘッドとの間に配置されるガスケット20であって、ねじ部の根本側においてねじ山が形成されていないねじ盗み部に配置される環状の本体部23と、本体部23から径方向の内側に傾斜しながら突出する傾斜部を有する凸部と、を備える。本体部23の環状中心Cpを中心とし傾斜部の突出端26aを通る円S1の内径φa[mm]と、ねじ盗み部の外径φb[mm]と、ねじ部のねじ呼び径φc[mm]とにおいて、φb≦φa≦φc-0.9mmの関係が成立する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドにおける壁部に、点火プラグに設けられたねじ部を螺合させて取り付ける際に前記点火プラグと前記壁部との間に配置されるガスケット(20)であって、
前記ねじ部の根本側においてねじ山が形成されていないねじ盗み部に配置される環状の本体部(23)と、
前記本体部から径方向の内側に傾斜しながら突出する傾斜部(26)を有する凸部(25)と、を備え、
前記本体部の環状中心(Cp)を中心とし前記傾斜部の突出端(26a)を通る円(S1)の内径φa[mm]と、前記ねじ盗み部の外径φb[mm]と、前記ねじ部のねじ呼び径φc[mm]と、においてφb≦φa≦φc-0.9mmの関係が成立するガスケット。
【請求項2】
前記突出端の周方向長さ(L1)の合計は、前記突出端を通る円の全周長に対して50%以上80%以下である、請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記本体部の環状中心を通る任意の直線は前記突出端と少なくとも一箇所において交差する、請求項1または2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記傾斜部は、分離点(26b)において前記凸部から傾斜し、
前記本体部の厚み(tg1)に対して、前記本体部の厚み方向に沿った長さであって、前記ガスケットが前記壁部に当接する当接面(22)から前記分離点までの長さ(dp1)の割合が50%以上91%以下である、請求項1に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、点火プラグを内燃機関に取り付ける際に用いられるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中心電極及び接地電極を備える点火プラグが知られている(下記特許文献1参照)。点火プラグは内燃機関に取り付けられ、中心電極と接地電極との間の火花放電ギャップに放電火花を生じさせることにより、内燃機関の燃焼室における混合気に着火できるように成されている。点火プラグには、外周にねじ山が形成された取り付け部が設けられており、点火プラグを内燃機関に取り付ける場合に、内燃機関の燃焼室を形成する壁部に設けたねじ孔に取り付け部のねじ山を螺合させる。これにより、中心電極及び接地電極が、内燃機関の燃焼室内に挿入される。
【0003】
内燃機関と点火プラグとの間の気密性を確保するために、内燃機関のねじ孔周囲の壁部と点火プラグの座部との間に、ガスケットを介在させることがある。このガスケットの構成として、例えば特許文献1では、ガスケットの内周縁部に本体部から径方向の内側に突出した複数の凸部が形成されている。凸部から、本体部の軸方向において本体部の壁部側の面である特定面の側に延びる複数の第1延長部と、を備え、第1延長部は、凸部との接続部を除いて本体部から分離されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ガスケットの気密性向上に着目しており、点火プラグからガスケットが脱落することや、脱落しないまでも落ち込みによってガスケットが点火プラグのねじ部に嵌ってしまう落ち込みについては考慮されていなかった。
【0006】
本開示は、点火プラグを内燃機関に取り付ける際に用いられるガスケットであって、気密性を確保しつつ点火プラグから脱落したり落ち込みが発生したりといった事象の発生を低減するガスケットを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、内燃機関のシリンダヘッドにおける壁部に、点火プラグに設けられたねじ部を螺合させて取り付ける際に点火プラグと壁部との間に配置されるガスケット(20)であって、ねじ部の根本側においてねじ山が形成されていないねじ盗み部に配置される環状の本体部(23)と、本体部から径方向の内側に傾斜しながら突出する傾斜部(26)を有する凸部(25)と、を備える。本体部の環状中心(Cp)を中心とし傾斜部の突出端(26a)を通る円(S1)の内径φa[mm]と、ねじ盗み部の外径φb[mm]と、ねじ部のねじ呼び径φc[mm]と、においてφb≦φa≦φc-0.9mmの関係が成立する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、点火プラグを内燃機関に取り付ける際に用いられるガスケットであって、気密性を確保しつつ点火プラグから脱落したり落ち込みが発生したりといった事象の発生を低減するガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】
図3は、実施形態におけるガスケットの平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態におけるガスケットの作用効果を説明するための図である。
【
図5】
図5は、実施形態におけるガスケットの作用効果を説明するための図である。
【
図6】
図6は、実施形態におけるガスケットの作用効果を説明するための図である。
【
図7】
図7は、第1変形例におけるガスケットの平面図である。
【
図8】
図8は、第2変形例におけるガスケットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
図1に示されるように、スパークプラグ10は、鉄等の金属材料によって形成された円筒状のハウジング11を備えている。ハウジング11の内部には、円筒状の絶縁碍子12の下端部が同軸に挿入されている。絶縁碍子12は、アルミナ等の絶縁材料で成形されている。絶縁碍子12に対してハウジング11の上端部11Aをかしめることにより、ハウジング11と絶縁碍子12とが一体に結合されている。そして、絶縁碍子12の下部において、貫通孔12Aには、中心電極13が挿入されて保持されている。
【0012】
中心電極13は、耐熱性等に優れているNi合金を母材として、円柱状に形成されている。具体的には、中心電極13の内材(中心材)が銅で形成され、外材(外皮材)がNi(ニッケル)基合金で形成されている。中心電極13の先端部13Aは、絶縁碍子12の下端から露出している。
【0013】
中心電極13の先端部13Aに対向する位置には、ハウジング11の下端面から一体的に湾曲して延びる接地電極14が配置されている。接地電極14は、ハウジング11に接続されて、中心電極13の先端面に接地電極14の先端部14Aが対向するように湾曲している。接地電極14もNi基合金によって形成されている。
【0014】
中心電極13の上部には、端子部15が電気的に接続されている。端子部15には、火花発生用の高電圧を印加する外部回路が接続される。
【0015】
ハウジング11の下部の外周には、取り付け部としてのねじ部11Bが形成されている。ねじ部11Bの外周には、ねじ山16が設けられている。ねじ山16は、内燃機関のシリンダヘッド30の壁部32に設けられたねじ孔33にスパークプラグ10を取り付けるためのものである。ねじ山16とねじ孔33とが螺合することで、スパークプラグ10がシリンダヘッド30の壁部32に取り付けられる。ねじ山16の呼び径は呼び径rcとも称される。
【0016】
スパークプラグ10がシリンダヘッド30の壁部32に取り付けられた状態で、スパークプラグ10の中心電極13及び接地電極14が燃焼室31内に露出している。
【0017】
ハウジング11のねじ部11Bの上部には、径がねじ部11Bの径よりも大きく設けられた座部11Cが形成されている。座部11Cは、ねじ部11Bよりもスパークプラグ10の径方向外側に突出しており、ねじ部11Bがねじ孔33に取り付けられることでねじ孔33を覆うように形成されている。また、ハウジング11のねじ部11Bと座部11Cとの間には、ねじ盗み部11Dが形成されている。
【0018】
図2に、ねじ盗み部11Dの拡大断面図を示す。
図2は、
図1のAに示された領域の拡大断面図である。
【0019】
ねじ盗み部11Dは、径がねじ部11Bのねじ山16の谷径と等しくなるように形成されており、転造ダイスを用いてねじ山16を形成する際の転造ダイスの逃がし部として機能する。ねじ盗み部11Dの外径はねじ盗み径rbとも称される。
【0020】
ハウジング11は、冷間鋳造により形成された金属パイプを切削加工することにより形成されている。座部11Cのねじ盗み部11D側の面であるプラグ座面17は、ねじ盗み部11Dに向けて縮径するテーパ面となるように形成されている。このため、切削加工によりハウジング11を形成する際に、軸周りに回転する金属パイプに対して刃具を径方向の内側に移動させてプラグ座面17を形成し、その後に刃具を径方向の外側に移動させる際に、刃具によりプラグ座面17が損傷することを抑制できる。軸方向に対するプラグ座面17の傾斜角は、例えば3°である。
【0021】
ねじ盗み部11Dの外周には、環状のガスケット20が設けられている。ガスケット20は、シリンダヘッド30への取り付けに用いられる。具体的には、シリンダヘッド30の壁部32の外表面には、スパークプラグ10の軸方向に垂直な壁部座面34が形成されている。ガスケット20は、スパークプラグ10がシリンダヘッド30の壁部32に取り付けられることで、壁部座面34とプラグ座面17とに当接し、シリンダヘッド30とスパークプラグ10との間を気密に保持する。ガスケット20は、プラグ座面17と当接する第1当接面21と、壁部座面34と当接する第2当接面22とを有している。
【0022】
ガスケット20は、環状の本体部23を備えている。本体部23は、中実環状をしており、その断面形状が略矩形状となっている。また、ガスケット20は、本体部23から径方向の内側に突出した複数の凸部25を備えている。凸部25は、本体部23の内周面24に沿った円弧状を成している。
【0023】
凸部25は、本体部23から離隔するように傾斜して伸びる傾斜部26を有している。傾斜部26の先端部部分が突出端26aとなっている。突出端26aは、凸部25の最も内側に設けられている部分である。
【0024】
傾斜部26は、分離点26bを起点として本体部23から傾斜し、突出端26aが最も本体部23から離れるように設けられている。本体部23の厚みtg1に対して、本体部23の厚み方向に沿った長さであって、ガスケット20が壁部34に当接する第2当接面22から分離点26bまでの長さdp1の割合が50%以上91%以下になるように設けられている。
【0025】
本体部23の厚みtg1は、スパークプラグ10の長手方向に沿った本体部23の長さである。第2当接面22から分離点26bまでの長さdp1も同様に、スパークプラグ10の長手方向に沿った第2当接面22から分離点26bまでの長さである。
【0026】
続いて、
図3を参照しながらガスケット20について更に説明する。
図3に示されるように、ガスケット20は環状をなしている。ガスケット20の環状中心Cpは、内周面24に沿った円の中心でもある。ガスケット20の環状中心Cpは、本体部23の環状中心Cpでもある。
【0027】
突出端26aの周方向長さL1は、凸部25の周方向長さと同じものとして定義することもできる。突出端26aの周方向長さL1は、文字通り突出端26aの周方向長さとして定義することもできる。
【0028】
突出端26aの周方向長さL1の合計は、突出端26aを通る円S1の全周長に対して50%以上80%以下となっている。
図3に示される例の場合、突出端26aは、θ=120°ごとに3カ所設けられているので、突出端26aの周方向長さL1の合計は、3×L1である。
図6に示されるように、突出端26aの周方向長さL1の合計は、突出端26aを通る円S1の全周長に対して50%以上80%以下とすることで、落ち込み不具合の発生を抑制することができる。また、凸部25に対して傾斜部26を公知のかしめ工法により製造する場合も、かしめ荷重を適切な範囲に設定することができる。
【0029】
本実施形態では、本体部23の環状中心Cpを中心とし凸部25の突出端26aを通る円S1の内径φa[mm]と、ねじ盗み部11Dの外径であるねじ盗み径φb[mm]と、ねじ部11Bのねじ呼び径φc[mm]とにおいて、式f01の関係が成立する。
φb≦φa≦φc-0.9mm (f01)
【0030】
図4に示されるように、スパークプラグ10がシリンダヘッド30の壁部32に取り付けられていない状態では、ガスケット20はねじ盗み部11Dよりも下方に移動する。ガスケット20とスパークプラグ10とが式f01の関係を満たすと、例えば突出端26aが1山目の不完全ねじを形成するねじ山16に掛かると共に、反対側の内周面24が2山目の不完全ねじを形成するねじ山16に掛かる。
図4に示されるような状態になると、スパークプラグ10からガスケットは脱落せず、落ち込みが発生することもない。
【0031】
一方、
図5に示されるように、比較例としてのガスケット20cpとスパークプラグ10とが式f01の関係を満たしていないと、例えば突出端が1山目の不完全ねじを形成するねじ山16に掛かったとしても、反対側の内周面は2山目の不完全ねじを構成するねじ山16に掛からず落ち込みが発生する。
【0032】
図3を参照しながら説明したように、ガスケット20では突出端26aが円周方向均等に3カ所設けられている。突出端を設ける態様はこれに限られるものではない。
図7に示される変形例としてのガスケット20Aでは、
図3と同様な1つの突出端26aと、2つの突出端26aを繋げた突出端26Aaを設けている。
図8に示される変形例としてのガスケット20Cでは、ガスケット20Aの突出端26aを廃し、ガスケット20Aの突出端26Aaを更に延伸した突出端Caと設けている。
【0033】
[付記]下記付記1から4は、技術的に矛盾しない限り任意に組合せ可能である。
【0034】
[付記1]
内燃機関のシリンダヘッド30における壁部32に、点火プラグ20に設けられたねじ部11Bを螺合させて取り付ける際に点火プラグ20と壁部32との間に配置されるガスケット20であって、
ねじ部11Bの根本側においてねじ山16が形成されていないねじ盗み部11Dに配置される環状の本体部23と、
本体部23から径方向の内側に傾斜しながら突出する傾斜部26を有する凸部25と、を備え、
本体部23の環状中心Cpを中心とし傾斜部26の突出端26aを通る円S1の内径φa[mm]と、ねじ盗み部11Dの外径φb[mm]と、ねじ部11Bのねじ呼び径φc[mm]とにおいて、φb≦φa≦φc-0.9mmの関係が成立する。
【0035】
付記1によれば、
図3および
図4を参照しながら説明したように、ガスケット20がねじ部11Bの不完全ねじ部の2山目を越えて落下することがなく、ガスケット20の突出端26aを確実にねじ山16に引っ掛けることができる。
【0036】
[付記2]
突出端26aの周方向長さL1の合計は、突出端26aを通る円S1の全周長に対して50%以上80%以下である、付記1に記載のガスケット20。
【0037】
付記2によれば、突出端26aの周方向長さL1の合計が円S1の全周長に対して50%以上であるので、突出端26aが形成されている領域がその他の領域よりも多くなり、突出端26aをねじ山16に確実に引っ掛けることができる。突出端26aの周方向長さL1の合計が円S1の全周長に対して80%以下であるので、傾斜部26をかしめに形成する場合にかしめ荷重を過剰なものとすることなく、かしめ型の寿命を悪化させることがない。
【0038】
[付記3]
本体部23の環状中心Cpを通る任意の直線は突出端26aと少なくとも一箇所において交差する、付記1または2に記載のガスケット20。
【0039】
付記3によれば、ガスケット20とねじ山16との関係において、突出端26aが形成されていない部分が対向することがなく、突出端26aを確実にねじ山16に引っ掛けることができる。
【0040】
[付記4]
傾斜部26は、分離点26bにおいて凸部25から傾斜し、
本体部23の厚みtg1に対して、本体部23の厚み方向に沿った長さであって、ガスケット20が壁部32に当接する当接面22から分離点26bまでの長さdp1の割合が50%以上91%以下である、付記1から3のいずれか1つに記載のガスケット20。
【0041】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0042】
10:点火プラグ
11B:ねじ部
11D:ねじ盗み部
20:ガスケット
22:第2当接面(当接面)
23:本体部
25:凸部
26:傾斜部
26a:突出端
26b:分離点