(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150228
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063542
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 丈二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】水村 美典
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 翔太
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA34
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA21
3J104BA33
3J104BA36
3J104DA14
3J104EA01
3J104EA07
(57)【要約】
【課題】転動体およびスライダ本体の破損を効果的に防止することの可能な直動案内装置を提供する。
【解決手段】直動案内装置100は、案内レール10と、スライダ20と、複数の転動体30とを有する。スライダ20は、軌道面24および戻し路42が形成されたスライダ本体21と、スライダ本体21の長手方向における両端に固定され、方向転換路43の外側円弧面43aを有するエンドキャップ22と、方向転換路43の内側円弧面43bを有するリターンガイド26と、を備える。リターンガイド26の内側円弧面43bが、リターンガイド26の側から見て、スライダ本体21に形成された軌道面24の、リターンガイド26に接続する先端部24aの全てを覆う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは前記案内レールの外側に配置され、
前記案内レールおよび前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は、前記案内レールの長手方向に延び、
前記スライダは、前記転動体の戻し路と、前記転動路と前記戻し路を連通させる方向転換路を有し、
前記転動路、前記戻し路、および前記方向転換路で構成される循環経路内に前記転動体が配置され、
前記スライダは、前記軌道面および前記戻し路が形成されたスライダ本体と、前記スライダ本体の前記長手方向における両端に固定され、前記方向転換路の外側円弧面を有するエンドキャップと、前記方向転換路の内側円弧面を有するリターンガイドと、を備え、
前記循環経路内を循環する前記転動体を介して、前記スライダが前記案内レールに対して移動する直動案内装置であって、
前記リターンガイドの内側円弧面が、前記リターンガイドの側から見て、前記スライダ本体に形成された前記軌道面の、前記リターンガイドに接続する先端部の全てを覆う、
直動案内装置。
【請求項2】
前記スライダ本体に形成された軌道面は、前記先端部から傾斜するように延びて当該軌道面に繋がるクラウニング領域を有する、
請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記クラウニング領域は、前記軌道面に対し第1のクラウニング傾斜角をもって傾斜する第1傾斜部と、前記第1傾斜部よりも前記リターンガイドの側に設けられ、前記軌道面に対し第2のクラウニング傾斜角をもって傾斜する第2傾斜部と、を含み、
前記第2のクラウニング傾斜角は、前記第1のクラウニング傾斜角よりも大きい、
請求項2に記載の直動案内装置。
【請求項4】
前記第1傾斜部と前記第2傾斜部が、曲面によって接続されている、
請求項3に記載の直動案内装置。
【請求項5】
前記クラウニング領域は、前記軌道面に対しクラウニング傾斜角αをもって傾斜し、
前記内側円弧面が、少なくとも前記クラウニング領域に接続した領域において、前記軌道面に対し傾斜角βをもって傾斜し、
傾斜角β≦クラウニング傾斜角α、が成立する、
請求項2に記載の直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、案内レールとスライダと複数の転動体とを有し、スライダは案内レールの外側に配置されている。案内レールおよびスライダは、互いに対向する位置に、転動体の転動路を形成する軌道面をそれぞれ有し、軌道面は案内レールの長手方向に延びている。スライダは、転動体の戻し路と、転動路と戻し路を連通させる方向転換路を有する。転動路、戻し路、および方向転換路で構成される循環経路内に、転動体が配置されている。直動案内装置は、循環経路内を循環する転動体を介して、スライダが案内レールに対して移動する装置である。
【0003】
スライダは、スライダ本体とエンドキャップとリターンガイドを備えている。スライダの軌道面および戻し路はスライダ本体に形成されている。エンドキャップは、方向転換路の外側円弧面を有し、スライダ本体のスライダ移動方向(案内レール長手方向と平行)の両端に固定されている。リターンガイドは方向転換路の内側円弧面を有する。
【0004】
特許文献1は、ケーシングの端部に転走する転動体が直接衝突をしないように、スペーサに設けた延在部をケーシングの端部に配設し、該延在部でボールの衝突による衝撃を吸収する直動案内装置を開示している。エンドキャップを構成するスペーサには、方向転換路の内周面から突出して内周面と連続する壁面を備えた延在部が形成されている。延在部は転走するボールの衝突受け面に形成されている。ケーシングの軌道溝の端部には、延在部が嵌合配設される段部でなる収容凹部が形成され、延在部の壁面と軌道溝の端部軌道面とは連続する面をなすように接続されている。
【0005】
特許文献2は、転動体が無負荷領域から負荷領域へ転がり込む際の引っ掛かりを除去し、スライダと軌道レールとが高速で相対運動する場合における摺動抵抗及び騒音の低減を図ることが可能な直線案内装置を開示している。長手方向に沿って転動体の転走面が形成された軌道レールと、上記転走面に対向する負荷転走面及びこの負荷転走面と平行な転動体の戻し通路を備えると共に、これら負荷転走面及び戻し通路の両端部を夫々連通連結して転動体の無限循環路を完成させる一対の方向転換路を備え、上記軌道レールに対して相対移動自在に組み付けられたスライダと、このスライダの負荷転走面と軌道レールの転走面との間で荷重を負荷すると共に、上記無限循環路内を循環する複数の転動体とを備えた直線案内装置において、上記方向転換路と負荷転走面とが接続する部位では、かかる方向転換路の内径側の側壁面に対して負荷転走面が低くなる段部が形成されている。
【0006】
特許文献3は、ターン方向を挟んで導入部に厚肉部と薄肉部が生じても、薄肉部が破損するおそれがない運動案内装置を開示している。蓋部材に、軌道部材のボール転走部を転がるボールを方向転換路に導く導入部を設ける。ボールが進行する方向と直交する断面において、導入部はボールを挟んで厚肉部及び薄肉部を含む。厚肉部がボールを囲む範囲は薄肉部がボールを囲む範囲よりも大きい。そして、ボールと厚肉部との接触点とボールの中心とを結んだ第一の接触角線と、ボールがボール転走部から方向転換路に導かれるターン方向とがなす角度は、ボールと薄肉部との接触点とボールの中心とを結んだ第二の接触角線と、ターン方向とがなす角度よりも小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-071592号公報
【特許文献2】特開2002-155936号公報
【特許文献3】特開2010-139008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、ケーシングの軌道溝の端部の軌道面において、ボールが軌道路に滑らかに出入り可能になるように、方向転換路に向かって緩やかに変化する曲面形状のクラウニング部が設けられている。一方、リターンガイドに相当するスペーサは、クラウニング部の延長線上にある延在部を有している。しかしながら、このような構造でにおいては、リターンガイドの取付誤差、寸法誤差、リターンガイドに生ずる僅かな摩耗などの原因により、リターンガイドよりも転動体の溝の端部が凸となる事象が生じ得る。このような事象が発生すると、転動体が溝の端部に衝突し、端部および転動体の少なくともいずれかに剥離などの不具合が生じ得る。
【0009】
特許文献2は、転動体Uターン路の内壁面に対し、スライダ本体の転動体軌道溝の内壁が低くなるような段部が設けられている構成を提案している。しかしながら、このような構成を実現するための、段差部やUターン路の具体的な形状については述べられていない。
【0010】
特許文献3は、スライダ本体の転動体軌道溝の両端部に曲面形状のR面取り部が形成され、クラウニング部とR面取り部が連続的に角部無しの曲面形状に繋がっている構成を提案している。R面取り部とクラウニング部を連続的な曲面形状とするためには、スライダ本体の転動体軌道溝の研削加工と連続的に研削加工で実施する必要があると考えられる。その場合、R面取りは転動体軌道溝の溝底方向には深い形状となるが、溝底から離れるに従い面取りは浅くなると考えられる。従って、面取りの深い部分と浅い部分が存在することになるため、R面取りが深い部分では転動体とスライダ本体の衝突力を緩和することができるが、R面取りが浅い部分では角部の面取り量が不十分で衝突力が緩和されず、破損に至る可能性がある。
【0011】
本発明は、転動体およびスライダ本体の破損を効果的に防止することの可能な直動案内装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは前記案内レールの外側に配置され、
前記案内レールおよび前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は、前記案内レールの長手方向に延び、
前記スライダは、前記転動体の戻し路と、前記転動路と前記戻し路を連通させる方向転換路を有し、
前記転動路、前記戻し路、および前記方向転換路で構成される循環経路内に前記転動体が配置され、
前記スライダは、前記軌道面および前記戻し路が形成されたスライダ本体と、前記スライダ本体の前記長手方向における両端に固定され、前記方向転換路の外側円弧面を有するエンドキャップと、前記方向転換路の内側円弧面を有するリターンガイドと、を備え、
前記循環経路内を循環する前記転動体を介して、前記スライダが前記案内レールに対して移動する直動案内装置であって、
前記リターンガイドの内側円弧面が、前記リターンガイドの側から見て、前記スライダ本体に形成された前記軌道面の、前記リターンガイドに接続する先端部の全てを覆う、
直動案内装置。
(2) 前記スライダ本体に形成された軌道面は、前記先端部から傾斜するように延びて当該軌道面に繋がるクラウニング領域を有する、
(1)に記載の直動案内装置。
(3) 前記クラウニング領域は、前記軌道面に対し第1のクラウニング傾斜角をもって傾斜する第1傾斜部と、前記第1傾斜部よりも前記リターンガイドの側に設けられ、前記軌道面に対し第2のクラウニング傾斜角をもって傾斜する第2傾斜部と、を含み、
前記第2のクラウニング傾斜角は、前記第1のクラウニング傾斜角よりも大きい、
(2)に記載の直動案内装置。
(4) 前記第1傾斜部と前記第2傾斜部が、曲面によって接続されている、
(3)に記載の直動案内装置。
(5) 前記クラウニング領域は、前記軌道面に対しクラウニング傾斜角αをもって傾斜し、
前記内側円弧面が、少なくとも前記クラウニング領域に接続した領域において、前記軌道面に対し傾斜角βをもって傾斜し、
傾斜角β≦クラウニング傾斜角α、が成立する、
(2)に記載の直動案内装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、転動体およびスライダ本体の破損を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る直動案内装置を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【
図3】
図3は、リターンガイドを含むエンドキャップの正面図(裏面図)である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の直動案内装置において、エンドキャップを取り付けたスライダ本体の正面図を破線で示す図であり、(a)は全体正面図、(b)は(a)のP領域の拡大図である。
【
図6】
図6は、
図5(b)のQ領域およびR領域の拡大図であり、(a)はQ領域の拡大図、(b)は(a)のII-II線に沿った断面図、(c)はR領域の拡大図、(d)は(a)のIII-III線に沿った断面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の変形例における
図5(b)のQ領域の拡大図であり、(a)は変形例1の拡大図、(b)は変形例2の拡大図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態の直動案内装置における、リターンガイドとスライダ本体の接続部分の拡大図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の変形例における、リターンガイドとスライダ本体の接続部分の拡大図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態の直動案内装置における、リターンガイドを含むエンドキャップの正面図(裏面図)である。
【
図11】
図11は、第3実施形態の直動案内装置における、スライダ本体の正面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態の直動案内装置において、エンドキャップを取り付けたスライダ本体の正面図を破線で示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る直動案内装置について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0016】
(直動案内装置の全体構成)
まず、
図1および
図2を参照して、本発明の実施形態に係る直動案内装置の全体構成について説明する。直動案内装置100は、一方向に延びる金属製の案内レール10と、案内レール10の外側において、案内レール10を跨ぐように配置され、この案内レール10に対して軸方向に移動可能な断面略コの字状のスライダ20と、複数の転動体30と、を備える。なお、本明細書において、前後方向とは、スライダ20が案内レール10に沿って移動する方向を表し、左右方向とは、案内レール10に取り付けられたスライダ20の幅方向を表す。また、直動案内装置100に対する方向を示すXYZ座標系が設定される。XYZ座標系は、案内レール10の長手方向(前後方向)に沿うX軸、案内レール10およびスライダ20の幅方向(左右方向)に沿うY軸、X軸およびY軸の双方向に直交して高さ方向に沿うZ軸を含む。
【0017】
案内レール10は、その長手方向に延びる軌道面11を有している。スライダ20も、案内レール10の長手方向に延びる軌道面24を有している。案内レール10の軌道面11と、スライダ20の軌道面24は、互いに対向する位置に配置され、転動体30の転動路41を形成する。
【0018】
スライダ20は、転動体30の戻し路42と、転動路41と戻し路42を連通させる方向転換路43を有する。より詳しくは、スライダ20は、スライダ本体21と、スライダ本体21の長手方向(前後方向)における両端に固定されたエンドキャップ22と、エンドキャップの一面に取付ねじ25によって取り付けられ、塵、埃などの異物を排除するサイドシール23と、を備える。そして、軌道面24および戻し路42が、スライダ本体21に形成されている。さらに、スライダ20は、エンドキャップ22に組み込まれるリターンガイド26を備えている。エンドキャップ22は、方向転換路43の外側円弧面43aを有しており、リターンガイド26は、方向転換路43の内側円弧面43bを有する。すなわち、エンドキャップ22とリターンガイド26の組み合わせにより、方向転換路43が画定する。
【0019】
転動体30は、転動路41、戻し路42、および方向転換路43で構成される循環経路内に配置され、循環経路内を循環する転動体30を介して、スライダ20が案内レール10に対し、前後方向に移動可能となっている。
【0020】
図3は、リターンガイド26を含むエンドキャップ22の正面図(裏面図)である。
図3のエンドキャップ22は、
図2に示すエンドキャップ22であり、
図3で示された面は、スライダ本体21の端部に取り付けられる面である。
【0021】
図4は、スライダ本体21の正面図である。
図4で示されたスライダ本体21の面に対し、
図3で示すエンドキャップ22およびリターンガイド26の面が取り付けられる。
【0022】
(第1実施形態)
図5は、第1実施形態の直動案内装置100において、エンドキャップ22を取り付けたスライダ本体21の正面図を破線で示す図であり、(a)は全体正面図、(b)は(a)のP領域の拡大図である。すなわち、
図5(a)及び
図5(b)は、
図4のスライダ本体21に対し、
図3のエンドキャップ22およびリターンガイド26を取り付けた状態に相当する。スライダ本体21は、エンドキャップ22およびリターンガイド26の背後に存在するため、破線で示されている。ただし、エンドキャップ22およびリターンガイド26の図示は、大部分が省略されている。実線の部分は、転動体30が方向転換路43から入ってくる転動路41の入口部分を示すとともに、転動体30が方向転換路43から出ていく方向転換路43の出口部分も示している。
【0023】
図6は、
図5(b)のQ領域およびR領域の拡大図であり、(a)はQ領域の拡大図、(b)は(a)のII-II線に沿った断面図、(c)はR領域の拡大図、(d)は(a)のIII-III線に沿った断面図である。
【0024】
スライダ本体21の軌道面24は、その先端部24aにて、リターンガイド26に接続する。
図5(b)、
図6(a)、
図6(c)に示すように、リターンガイド26の側から見て、リターンガイド26の内側円弧面43bは、軌道面24の先端部24aの全てを覆っている。これにより、リターンガイド26の内側円弧面43bと軌道面24は、連続的に接続されず、段差部50が、リターンガイド26によって覆われた先端部24aの全ての領域にわたって形成されている。言い換えると、段差部50の存在する領域においては、軌道面24の一部であって、軌道面24の先端部分を構成する先端部24aが、内側円弧面43bよりも低い位置に位置することになり、内側円弧面43bと軌道面24は不連続な状態で接続されている。
【0025】
さらにスライダ本体21の軌道面24は、先端部24aから傾斜するように延びて、軌道面24自身に繋がるクラウニング領域27を有している。クラウニング領域27は、軌道面24に対し所定のクラウニング傾斜角θをもって傾斜する傾斜面である。これにより、クラウニング領域27において、先端部24aと逆側に位置する後端部24bは、軌道面24に繋がる。後端部24bを含む軌道面24は、内側円弧面43bよりも高い位置に位置することになる。
【0026】
図6(a)、(b)に示すQ領域においても、
図6(c)、(d)に示すR領域においても、クラウニング領域27および段差部50は形成されている。すなわち、リターンガイド26に接触する先端部24aの全領域に渡って、クラウニング領域27および段差部50が存在している。
【0027】
このような構成においては、転動体30が、
図6(b)および
図6(d)における矢印の向きに沿って、方向転換路43から転動路41に進入する際、転動体30は、段差部50を乗り越える。軌道面24の先端部24aは、全領域に渡って、段差部50より低い位置に位置しているため、転動体30が、先端部24aに直接的に衝突することが防止される。よって、直動案内装置100の駆動時において、転動体30およびスライダ本体21が破損する可能性を低減し、装置の耐久性を高めることができるとともに、さらなる高速動作をも実現し得る。
【0028】
また、段差部50が、スライダ本体21の軌道面24における先端部24aに隣接して設けられている。段差部50の存在により、先端部24aと方向転換路43の内側円弧面43bは、不連続となる。段差部50は、切削加工などの方法によるクラウニング領域27の形成により生み出される。このため、軌道面24に対し、段差部50の深さ(高さ)を一定にする、すなわち、軌道面24の輪郭形状に合致するように、段差部50を容易に加工することができる。これにより、エンドキャップ22の組立誤差等の要因により、転動路41と方向転換路43の位置ずれが生じた場合においても、耐久性の効果を維持する事ができる。
【0029】
図7は、第1実施形態の変形例における
図5(b)のQ領域の拡大図であり、(a)は変形例1の拡大図、(b)は変形例2の拡大図であって、
図6(b)の図に相当する。この変形例においては、クラウニング領域27が、第1傾斜部27aと、第1傾斜部27aよりもリターンガイド26の側に設けられる第2傾斜部27bと、を含む。
【0030】
図7(a)の変形例1において、第1傾斜部27aは、軌道面24に対し第1のクラウニング傾斜角θ
1をもって傾斜するが、第2傾斜部27bは、軌道面24に対し第2のクラウニング傾斜角θ
2をもって傾斜している。第2のクラウニング傾斜角θ
2は、第1のクラウニング傾斜角θ
1よりも大きい(θ
2>θ
1)。
【0031】
傾斜角の大きい第2傾斜部27bがリターンガイド26に接続しているため、段差部50の深さを容易に確保するとともに、傾斜角の小さい第1傾斜部27aが軌道面24に接続するため、クラウニング領域27と軌道面24の交差する角度を緩やかに設定することが可能となる。これにより、転動体30がクラウニング領域27に衝突した際の衝撃を緩和することができ、さらに耐久性を向上させることができる。
【0032】
変形例1においては、第1傾斜部27aと第2傾斜部27bは連続的に接続されている。一方、
図7(b)の変形例2においては、第1傾斜部27aと第2傾斜部27bは、曲面27cによって接続されている。これにより、第1傾斜部27aと第2傾斜部27bとの間に発生する角部をなくし、転動体30による衝突の衝撃をさらに緩和することができる。
【0033】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態の直動案内装置100における、リターンガイド26とスライダ本体21の接続部分の拡大図である。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、リターンガイド26の内側円弧面43bが、リターンガイド26の側から見て、スライダ本体21に形成された軌道面24の、リターンガイド26に接続する先端部24aの全てを覆っている。段差部50が、リターンガイド26によって覆われた先端部24aの全ての領域にわたって形成されている。
【0034】
さらに本実施形態においては、クラウニング領域27は、軌道面24に対しクラウニング傾斜角αをもって傾斜し、内側円弧面43bが、少なくともクラウニング領域27に接続した領域において、軌道面24に対し傾斜角βをもって傾斜している(0°<傾斜角β)。そして、傾斜角βがクラウニング傾斜角αに等しい(傾斜角β=クラウニング傾斜角α)。これにより、転動体30がクラウニング領域27に衝突した際の衝撃を緩和することができ、耐久性を向上させることができる。
【0035】
図9は、第2実施形態の変形例における、リターンガイド26とスライダ本体21の接続部分の拡大図である。本例においても、内側円弧面43bが、少なくともクラウニング領域27に接続した領域において、軌道面24に対し傾斜角βをもって傾斜している(0°<傾斜角β)。したがって、転動体30がクラウニング領域27に衝突した際の衝撃を緩和することができる。なお、本例においては、傾斜角βがクラウニング傾斜角αより小さい(0°<傾斜角β<クラウニング傾斜角α)。すなわち、リターンガイド26の傾斜角βが、クラウニング領域27のクラウニング傾斜角αよりも緩やかに設定されている。このような構成であっても、転動体30がクラウニング領域27に衝突した際の衝撃を緩和することができ、耐久性を向上させることができる。
【0036】
すなわち
図8および
図9においては、傾斜角βがクラウニング傾斜角α以下になる関係が成立している(0°<傾斜角β≦クラウニング傾斜角α)。
【0037】
(第3実施形態)
上記第1実施形態及び第2実施形態は、案内レール10の左右両側に1条ずつの軌道面11が形成されており、左右1本ずつの循環経路が形成された直動案内装置の例であるが、本発明はこのような形態に限定されない。
図10~
図12に示す第3実施形態は、案内レール10の左右両側に2条ずつの軌道面が形成され、左右に2本ずつの循環経路が形成された直動案内装置の例を示す。具体的には、
図10~
図12は、それぞれ、
図3、
図4及び
図5(a)に対応しており、循環経路の数が異なるのみである。したがって、
図10~
図12において、第1実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図10~
図12に示すように、第3実施形態に係る直動案内装置の全ての循環経路において、リターンガイド26の内側円弧面43bは、リターンガイド26の側から見て、軌道面24の先端部24aの全てを覆っている。したがって、転動体30が、先端部24aに直接的に衝突することが防止され、直動案内装置100の駆動時において、転動体30およびスライダ本体21が破損する可能性を低減することができる。
【0039】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0040】
10 案内レール
11 案内レールの軌道面
20 スライダ
21 スライダ本体
22 エンドキャップ
23 サイドシール
24 スライダの軌道面
24a 先端部
24b 後端部
25 取付ねじ
26 リターンガイド
27 クラウニング領域
27a 第1傾斜部
27b 第2傾斜部
27c 曲面
30 転動体
41 転動路
42 戻し路
43 方向転換路
43a 外側円弧面
43b 内側円弧面
50 段差部
100 直動案内装置