(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015028
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】高粘度流体ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 15/02 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
F04B15/02 Z
F04B15/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198523
(22)【出願日】2023-11-22
(62)【分割の表示】P 2020105124の分割
【原出願日】2020-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000179395
【氏名又は名称】株式会社ヤマダコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 宏之
(57)【要約】
【課題】高粘度流体、特にUVインキ等のポンプの摺動部分で、UVインキ等硬化を回避すること
【解決手段】上部往復駆動部20にプランジャー40を連結し、ピストン66が嵌装されたピストンバルブ62をプランジャー40に連結し、その下方にフートバルブ部80が設け、その更に下方に流体吸入口100が設けて、ピストン66及びピストンバルブ62の上下動により流体を流体吐出口110から外部に給送する際に、プランジャー40を覆ったグランドリテイナー42との間隙43に、一部を折り返して両端部を固定してあるダイアフラム44を設けた。ピストン66に部分球状部66Sを設けて、その外側のサクションチューブ68の内周面を摺動させる。フートバルブ部80のフートバルブハウジング82の下部に円形状のボール受け台84が設けて、ボール86を挟持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部往復駆動部にプランジャーを連結し、ピストンが嵌装されたピストンバルブを前記プランジャーに連結し、その下方にフートバルブ部が設けられ、その更に下方に流体吸入口が設けられて、前記ピストン及び前記ピストンバルブの上下動により流体を流体吐出口から外部に給送する高粘度流体ポンプにおいて、前記ピストンは、サクションチューブに嵌装されており、前記ピストンに部分球状部を設けて、前記サクションチューブの内周面を摺動させたことを特徴とする高粘度流体ポンプ。
【請求項2】
前記ピストンの前記部分球状部は、円球の一部である請求項1記載の高粘度流体ポンプ。
【請求項3】
前記部分球状部の外表面と前記サクションチューブの内表面にクリアランスを設けた請求項2記載の高粘度流体ポンプ。
【請求項4】
前記クリアランスは0.1mm~0.2mmである、請求項3記載の高粘度流体ポンプ。
【請求項5】
前記クリアランスに、高粘度流体であるUVインキをその間に侵入させて、前記ピストンに前記部分球状部と前記サクションチューブの内周面を非接触摺動のシール構造としたことを特徴とする請求項4の高粘度流体ポンプ。
【請求項6】
前記フートバルブ部は、フートバルブハウジングの下部に円形状のボール受け台が設けて、ボールを挟持する構造とし、前記ボールの浮沈によるバルブ開閉構造としたことを特徴とする請求項1記載の高粘度流体ポンプ。
【請求項7】
前記円形状のボール受け台の上部はテーパー状部になっており、テーパー下端で前記ボールを挟持できる請求項6記載の高粘度流体ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘度流体、特にUVインキ等のポンプの摺動部分の改良に関するものであり、特にUVインキ等硬化を回避出来るポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、高粘度ポンプで、ポンプ本体が、上部ボディと、サクションチューブと、バルブハウジングと、シュートによって構成され、その下部に高粘度材吸込口が設けられている。上部ボディの側面に高粘度材吐出口が開口されている。前記上部ボディに、シール部材を介してプランジャーが上下動自在に嵌合され、プランジャーの上端が、往復駆動部のドライブシャフトに取り付けられている。
【0003】
前記プランジャーに嵌合されたシール部材としてのパッキンおよびスロートベアリングが、上部ボディにねじ込まれたグランドリテーナーによりこの上部ボディ内に保持されている。また、前記プランジャーの下部にロッドの上部がねじ込まれ、このロッドの外周部に、前記サクションチューブ内で摺動するピストンが環状間隙を介して嵌合され、この環状間隙の上端は通孔を経てサクションチューブ内に連通されている。
【0004】
このプランジャー、ロッドとピストンの軸方向移動により、前記環状間隙の下端開口がロッドに形成されたシート部で開閉される。ロッドはショベルロッドと結合しており、ショベルロッドの下部に高粘度材掻上用のショベルプレートが設けられている。
【0005】
プランジャーが上昇するとロッドのシート部により環状間隙の下端開口が係止閉塞されるとともにピストンが上昇して、このピストンの上側にある高粘度材が高粘度材吐出口から吐出され、同時にショベルプレートで高粘度材吸込口に掻上げられた高粘度材が吸い上げられる。
【0006】
また、プランジャーが下降されると、シート部が環状間隙の下端開口から離れるので、プランジャーとともに下降するピストンの下側空間にある高粘度材が環状間隙および通孔を経てピストンの上側空間に移動する。
この高粘度ポンプにおいて、前記シール部材としてのパッキンにより、プランジャーの周面に附着した高粘度材をプランジャー上昇時に拭き取り、プランジャーによって外部に持出される高粘度材の漏れをできるだけなくすようにしているが、このパッキンではプランジャーの周面に強く附着した高粘度材を完全に除去することはできず、高粘度材がプランジャー17とグランドリテーナー33との隙間から外部に漏出するという問題があった。
【0007】
この発明は、プランジャーの周面に附着してポンプ本体から漏出した高粘度材を密封体内から循環通路を経て高粘度材吸込口に自動的に戻して、外部に漏出する問題を解決した。
【0008】
特許文献2は、複雑なシール構造を設けることなく、ポンプ内部流体の漏れを確実に防止し、通常のベローズシールを備えた往復動ポンプに比べ吐出圧の高い内部流体に対しても利用でき、有害物質や可燃性物質を含む流体を取扱うポンプとして利用した。ピストンにピストンリングまたはパッキンを設け、ピストン軸部に補助シールを設け、該補助シールより大気側のピストン軸部に可撓性部材によりシリンダー室側を大気側から密封する軸シールを備えたものである。
【0009】
特許文献3は、インキポンプ装置本体部は、インキ取り入れ口とインキを吐出する吐出口とを有するシリンダ筒、このシリンダ筒内を往復動される往復動体、往復動体の先端に取り付けられてインキを汲み上げる円盤状汲み上げ盤体とから構成されている。
【0010】
このピストンを作動させる作動ロッドにトリップロッドが連結され、トリップロッドの他端部側には切り換えスライダーブロックに係合してこの切り換えスライダーブロックをトリップロッドの往復動に基づき往復動させる切り換え爪体が設けられている。
この切り換え爪体は、作動オイルなどが用いられる駆動流体の供給を切り替えるためのものである。
【0011】
特許文献4は、紫外線硬化型インキのような粘度の高い流体の圧送に用いられるプランジャーポンプであり、ピストンボディとシリンダとの間に所定のクリアランスを設け、シリンダとの接触面積の低減を図り、また、ピストンボディ30の外周面に溝を設けることで、ピストンボディとシリンダとの間にシールが形成されるため、インキの流入を防ぐことができ、前記シールハウジング部と前記プランジャーとの間にクリアランスを設けると共に、前記シールハウジング部の内周面に複数の溝が設けられたこと、前記シールハウジング部には、シールを行うOリング部及び前記プランジャが当接する低摩擦部分からなる組合せシールが設けられること、且つ、前記グランドリテーナー部にドレンポートが設けられたものである。
【0012】
以上の公知文献は何れも、シール部材を使用して、シールを行っていたが、高粘度流体は、このようなシール構造では、高粘度流体がシール部の部材同士が摺動することにより、高粘度流体が固着し、摺動部分の作動効率が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平3-246380号公報
【特許文献2】特開2006-144741号公報
【特許文献3】特開2003-286968公報
【特許文献4】特許第5196324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高粘度流体ポンプのシール部分において、極力摺動を排除し、非接触摺動のシール構造を提供することを課題とする。
【0015】
従来は高粘度流体ポンプで扱う流体で、特に紫外線硬化型インキ(UVインキ)の特徴は、紫外線により硬化する恐れがあり、硬化したインキを印刷機に送られてしまうことで、印刷上の不具合に繋がる。油性インキ用ポンプを使用した場合、摺動パッキンを使用しているので、UVインキでは摺動パッキン等への固着が発生し、これらが抵抗になりポンプが作動しなくなってしまうという故障が生じる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決について、油性インキ用ポンプを使用した場合に摺動パッキンを回避することが、インキの硬化を回避できるので、プランジャーを覆ったグランドリテーナーとの間隙に、摺動パッキンを使用しないダイアフラムによるシール構造を提供して、インキの固着化を防止した。
【0017】
ピストンとサクションチューブとの摺動部分で、パッキンを使用せず、ピストンの外径部の形状について部分球状部を設けて、摺動部分の面積を狭小化し、又はピストンとサクションチューブ内径の間にクリアランスを設け、金属同士が非接触摺動のシール構造とした。
【0018】
フートバルブは、ボールの浮沈によるバルブ開閉構造にすることで、摺動部を無くした。
【0019】
本発明の請求項1乃至5記載の発明は、上部往復駆動部にプランジャーを連結し、ピストンが嵌装されたピストンバルブをプランジャーに連結し、その下方にフートバルブ部が設けられ、その更に下方に流体吸入口が設けられて、ピストン及びピストンバルブの上下動により流体を流体吐出口から外部に給送する高粘度流体ポンプにおいて、ピストンは、サクションチューブに嵌装されており、ピストンに部分球状部を設けて、サクションチューブの内周面を摺動させ、或いはピストンに部分球状部とサクションチューブの内周面との間にクリアランスを設けて非接触摺動のシール構造とした。
【0020】
本発明の請求項6、7記載の発明は、上部往復駆動部にプランジャーを連結し、ピストンが嵌装されたピストンバルブをプランジャーに連結し、その下方にフートバルブ部が設けられ、その更に下方に流体吸入口が設けられて、ピストン及びピストンバルブの上下動により流体を流体吐出口から外部に給送する高粘度流体ポンプにおいて、フートバルブ部は、フートバルブハウジングの下部に円形状のボール受け台を設けて、ボールを挟持する構造とした。
【発明の効果】
【0021】
請求項1乃至5の発明は、ピストンは、サクションチューブに嵌装されており、ピストンに部分球状部を設けて、サクションチューブの内周面を摺動するので、摺動部分が限定的となり、高粘度流体の固着が限定的となる。或いはピストンに部分球状部とサクションチューブの内周面との間にクリアランスを設けて非接触摺動のシール構造としたので、高粘度流体の固着を防止できる。
【0022】
請求項6、7の発明は、フートバルブ部は、フートバルブハウジングの下部に円形状のボール受け台を設けて、ボール受け台は内側が円形状にくり抜かれ、上部はテーパー状部になっており、テーパー下端で、ボールを挟持する構造になっているので、ボールの浮沈によるバルブ開閉構造としたから、摺動部分が無いので、高粘度流体の固着化の問題がない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の高粘度流体であるUVインキポンプ10の正面図である。
【
図2】
図1の上部往復駆動部20の部分の左側面図である。
【
図3】
図1の高粘度流体であるUVインキポンプ10のプランジャー40以下の内部を表した模式図である。
【
図4】(A)は
図3の高粘度流体であるUVインキポンプ10の下死点のときの状態を表した模式図、(B)はボール受け台84の拡大図である。
【
図5】
図4の高粘度流体であるUVインキポンプ10の上死点の状態を表した模式図である。
【
図6】本発明のダイアフラムの一例を表した正面図である。
【
図7】
図6のダイアフラムの形状を示したもので(A)は上死点、(C)は下死点の状態を表した模式図であり、同(B)は、同(A)の円で囲んだ部分の拡大図、同D)は、同(C)の円で囲んだ部分の拡大図である。
【
図8】(A)は、本発明のピストンの形状を示した斜視図、(B)は(A)の上方からの状態を示した上方斜視図である。
【
図9】本発明のピストンとダイアフラムを表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の高粘度流体ポンプ10(特にUVインキポンプ)は、上部往復駆動部20、プランジャー40、ピストンバルブ部60、フートバルブ部80、流体吸入口100、流体吐出口110から成り立っている。
【0025】
(上部往復駆動部20)
図1に示すとおり、上部往復駆動部20は、エアモーター22が最上部にあり、下方に連結されているシリンダ32とドライブシャフト24を上下に駆動している。又、サイレンサー26は、エアモーター22の上部とエアモーター22の下部をチューブ28で接続しており、エアモーター22から排気されるエアの排気音の消音を行っている。30は、エア入口である。シリンダ32からエジェクタ34の間は、チューブ36で接続しており、エア入口30から供給された加圧エアがエジェクタ34の作用により、負圧を発生させる。エジェクタ34は、後述するプランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙
43と連通している。
【0026】
(プランジャーとグランドリテーナー)
図2に示すとおり、ドライブシャフト24には、プランジャー40の上端が上下動自在に連結されている。プランジャー40は、上方の長径部40Lとその下の短径部40Sからなっており、プランジャー40の長径部40Lの外側は、
図3に示すとおり、グランドリテーナー42が外装されている。プランジャー40とグランドリテーナー42の間は、間隙43であり、プランジャーの長径部40Lから、短径部40Sにかけて、後述するシール部材としてダイアフラム44が嵌合している。高粘度流体ポンプ10の分解・組立時のダイアフラム44損傷防止の為に、プランジャー40とグランドリテーナー42の両者
を固定可能なようにブラケット48が設けられている。
【0027】
(ピストンバルブ)
プランジャー40の短径部40Sの下部に、ピストンバルブ部60のピストンバルブ62の上端部62Hから延設された結合ロッド62Rが嵌装されている。これにより、プランジャー40とピストンバルブ62とは連動して上下に往復動する。
【0028】
ピストンバルブ62の下端部は、汲み上げ盤体62Lが設けられており、汲み上げ盤体62Lは、ピストンバルブ62の中心外径が末広がりのラッパ状になっており、下端部は円盤状になっている。ピストンバルブ62の上端部の結合ロッド62Rが、プランジャー40の短径部40Sの下部と嵌合している部分には、ピストンバルブ62の周囲に割ピン64が、環装、固定されている。ピストンバルブ62の上端部と下部の汲み上げ盤体62Lの間は、ピストンバルブ円柱部62Cになっている。
【0029】
(ピストンとピストンバルブ)
ピストンバルブ62には、ピストン66が嵌装されており、ピストン66は、ピストンバルブ62からはフリーの状態であり、ピストン66の上部の貫通孔66Pに、ピストンバルブ円柱部62Cが貫通している。
【0030】
図8、
図9のように、ピストン66は、中空形状であり、上部の門型状取っ手部66Gと、下部の部分球状部66Sとから構成されており、上部の門型状取っ手部66Gの下部は、円柱状のリング状部66Rになっており、リング状部66Rに部分球状部66Sが連接されている。
【0031】
ピストン66は、サクションチューブ68に嵌装されており、上下に往復動する。サクションチューブ68は、上方に絞られた円錐台チューブ70を介してグランドリテーナー42と接合している。
【0032】
ピストン66は、ピストンバルブ62が上昇すると汲み上げ盤体62Lの上部と部分球状部66Sの下端部が当設する構造になっている。
【0033】
(フートバルブ部80)
フートバルブ部80は、フートバルブハウジング82に覆われており、サクションチューブ68の下端部が、フートバルブハウジング82の上端部と嵌合、接続している。フートバルブハウジング82の下部は、ボール受け台84が設けられており、ボール受け台84は内側が円形状にくり抜かれ、上部はテーパー状部84Tになっており、テーパー下端84Lで、ボール86を挟持する構造になっている(
図4(B)参照)。ボールの上方で、サクションチューブ68の下端部には、ストッパ88が設けられ(
図3参照)、流体の下部からの流入で、浮上したボールのストッパの役割を果たしている。
【0034】
フートバルブ部80の下部はプレート90になっており、プレート90は中心に流体吸入口100が設けられている。
【0035】
(流体吐出口)
サクションチューブ68の上方の円錐台チューブ70は、流体吐出口110が側面に設けられており、流体吐出口110と対向した部分は、流体の洗浄等に使用する排出口112である。
【0036】
(高粘度流体ポンプの下死点)
本発明の高粘度流体ポンプ10の作用について説明する。
図4は、エアモーター22からドライブシャフト24、プランジャー40とピストンバルブ62が、下降した状態であり、下死点の状態を示している。プランジャー40の短径部40S下端はピストン66の門型状取っ手部66Gの上端部分と当接しており、サクションチューブ68の上方から下降した状態である。ピストン66の部分球状部66Sは中空であり、ピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lは、更に下降しており、ピストン66とピストンバルブ62との間には間隙がある状態になっている。このように上方からピストンバルブ62が下降して来
る状態で、ピストン66とピストンバルブ62との間には間隙が出来れば、流体はL1の流れのように上方に押し出され、流体吐出口110から外部に供給される状態になっている。なおピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lの下降に伴い、汲み上げ盤体62Lとボールの距離が短縮されることで、ボール86は、ボール受け台84方向に押されて、流体吸入口100からの流体が逆流できない状態になっている。
【0037】
(高粘度流体ポンプの上死点)
図5は、エアモーター22からドライブシャフト24、プランジャー40とピストンバルブ62が、上昇した状態であり、上死点の状態を示している。
【0038】
下死点から、ピストンバルブ62が、上昇した時点では、プランジャー40の短径部40S下端とピストン66の門型状取っ手部66Gの上端部分との当接状態は解消され、ピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lが上昇することで、ピストン66の部分球状部66Sの下端と当接する。その後のピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lの上昇により、ピストン66の部分球状部66Sも下方から押されて、上昇する。この間ピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lとピストン66の部分球状部66Sの間の間隙が無くなるので、流体は、ピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lの下方からは、侵入して来ないが、ピストン66より上方の流体は上昇し、流体の流れL2のように上方に押し出され、流体吐出口110から外部に供給される状態になる。
【0039】
なおピストンバルブ62の汲み上げ盤体62Lの上昇に伴い、ボール86は、汲み上げ盤体62Lとボールの距離が離間することで、ボール86は上昇しストッパ88に当接する状態となるが、これにより、ボール受け台84とボール86の間に空間が出来、流体吸入口100からの流体が流れL3の流れのように侵入して、汲み上げ盤体62Lが上昇した空間に新たな流体を流入することになる。
【0040】
(高粘度流体、特にUVインキの特性)
本発明の適用対象である高粘度流体、特にUVインキは、紫外線により硬化するインキであるが、この硬化は、(i)UVインキに一定温度以上の熱が加わったり、(ii)UVインキに圧力が加わったり、(iii)UVインキにアルミニウムや亜鉛に接触した場合、硬化(ゲル化)のきっかけになる恐れがあり、これらにより硬化したインキを印刷機に送られてしまうことで、印刷上の不具合に繋がる恐れがある。
【0041】
特に油性インキ用ポンプを使用してUVインキの搬送に利用する場合、油性インキ用ポンプでは、通常摺動パッキンを使用するが、UVインキでは、摺動パッキン等へのインキ自体の固着が発生し、この固着が抵抗になりポンプが作動しなくなってしまう症状が見られた。
【0042】
(ダイアフラム)
特に、プランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43の部分まで、UVインキが入り込んでくるが、この部分のシール構造は、摺動パッキンを使用した場合、インキが固着し、ポンプの作動に悪影響を及ぼすことが考えられる。
【0043】
そこで本発明では、シール部材としてダイアフラム44を採用した。
図6によれば、ダイアフラム44は、柔軟性のある材質である外被がゴムで基布はポリエステル繊維である材質を使用する。ダイアフラム44の形状については、
図6に図示したように、全体的に円筒形状であり、中心に尻つぼみ状の胴部44B、上端側に隆起部44Pが幅方向に突出し、下端側に底部44L、底部が中抜けになっており、中抜け部44Hから構成されている。ダイアフラム44自体が伸縮自在の素材であって、プランジャー40の装着される部位に密着するものであれば良い。
【0044】
ダイアフラム44は、プランジャー40を組み立てる際にグランドリテーナー42の下端部42Pに隆起部44Pを挟み込んで固定される。プランジャー40の長径部40Lからフランジ面40Fまでを、胴部44Bを嵌めこみ、プランジャー40の長径部40Lの底部40LBには底部44Lを嵌めこんで固定される。底部44Lについては、
図7(B)で図示されているように、鍵状リテーナー50が、ダイアフラム44の底部44Lを保持し、ナット52で締め付け固定している。
【0045】
ダイアフラム44が柔軟性のある材質である外被がゴムで基布はポリエステル繊維である材質を使用している為に、プランジャー40の外側に密着して装着される。ダイアフラムの材質は、柔軟性のある材質であれば良く、ゴム単体でも良い。又外被がゴムで基布は別の素材の場合に、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ナイロン、ガラス繊維、綿等特に素材は限定されない。
【0046】
ダイアフラム44は、高粘度流体ポンプ10が上死点に到達した場合、胴部44Bの下部でかつ、プランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43で、垂直方向又は、ポンプの上下動方向で逆U字状に折り返している(44U)。この折り返した内部に流体、特にUVインキが入り込み、シール構造になっている(
図7(A)参照)。
【0047】
又高粘度流体ポンプ10の分解・組立時のダイアフラム44損傷防止の為に、プランジャー40とグランドリテーナー42の両者を固定可能なようにブラケット48が設けられていることは前述した。
【0048】
図7(C)の通り、高粘度流体ポンプ10の下死点では、ダイアフラム44の胴部44Bの隆起部44Pに近接した部分で、プランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43の下部で、垂直方向又はポンプの上下動方向でU字状に折り返している(44U)。この折り返した内部は間隙44Sであり、その間隙44Sに流体、特にUVインキが入り込み、シール構造になっている(
図7(C)(D)参照)。
【0049】
このようにダイアフラム44は、プランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43のシールの役割を果たしており、しかも、高粘度流体特にUVインキが、ダイアフラム44の垂直方向或いは、ポンプの上下動方向でU字状に折り返した内側の間隙44Sに入り込むため、ダイアフラム44の自体は、相互に直接当接せず、摺動部分が無いので、UVインキは、この部分で固着することが無くなった。
【0050】
(ダイアフラムの変形実施例)
ダイアフラム44のプランジャー40とグランドリテーナー42への装着方法は、以上のような装着方法に限られない。ダイアフラム44の隆起部44Pは、特に隆起形状ではなくても、前述したダイアフラム44の底部44Lの固定方法のようにリテーナーとかナットで固定する方法でも良い。反対に前述したダイアフラム44の底部44Lは、隆起部44Pと似た形状にして、プランジャー40の長径部40Lと短径部40Sを分割して、その間に挟み込む方法で固定しても良い。プランジャー40とグランドリテーナー42への装着した時に、全体的に円筒形状であり、中心に尻つぼみ状の胴部44Bのある構造で
あれば、前述したプランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43で、垂直方向又は、ポンプの上下動方向で逆U字状に折り返して使用出来れば、十分にシール構造として利用できる。
【0051】
(ダイアフラムとエジェクタ)
ダイアフラム44は、以上のように折り返した形状で使用しているので、その形状が保たれない場合には、ダイアフラム44自体が、摺動部分に接触することで、高粘度流体であるUVインキの固化を招くことがあった。そこで、エジェクタ34は、プランジャー40とグランドリテーナー42の間の間隙43を負圧にすることを可能とした。これにより、ダイアフラム44の高粘度流体であるUVインキとの非接触部分であって、プランジャー40外側及びグランドリテーナー42内側の接触する部分は、空気の層が排除されるために、プランジャー40外側とダイアフラム44、グランドリテーナー42内側とダイア
フラム44が接着したような状態となり、ダイアフラム44の脱落を防止し、折り返されたダイアフラムの胴部と胴部で形成された逆U字空間である間隙44Sには、高粘度流体であるUVインキが入り込むため、前述した直接の摺動状態は無くなり、高粘度流体であるUVインキが摺動部分に触れて固化するような現象が無くなった。このような構成により、従来のような摺動部分が無くなったことで、高粘度流体であるUVインキが固化して付着し、ポンプの上下動が円滑にいかないような状態が解消された。
【0052】
(ピストンの部分球状部)
図8、9のように、ピストン66の下部の部分球状部66Sは、円球の一部になっており、この部分では、ピストンが鉛直線から傾斜しても、ピストン66のサクションチューブ68に接する部分の外径は同一である。したがって多少の傾きは問題とならない構造になっている。このようにして、ピストン66は、サクションチューブ68に嵌装されて上下に往復動する。ピストン66は、サクションチューブ68の摺動部分についても、摺動部の面積を縮小することができるので、摺動による材料固着が生じにくくなる効果がある。
【0053】
ここで、ピストン66とサクションチューブ68の摺動部分は従来のものであれば、面で接触しており、摺動面も大きなものとなっていた。その意味では本発明の部分球状部66Sを利用した場合、摺動部分が線に近似した接触になっており、摺動部分が狭小化している点で、利点がある。摺動面積が少なくなれば、高粘度流体であるUVインキとの接触量が減少し、インキの硬化を防止できるからである。
【0054】
なお、ピストン66の部分球状部66Sとサクションチューブ68内径の間にはクリアランスを設ければ、前述した摺動する部分が無くなり、部分球状部66Sとサクションチューブ68は直接接触しない、非接触摺動のシール構造となる。
【0055】
部分球状部66Sの外表面とサクションチューブ68の内表面のクリアランスは、0.1mm~0.2mmが好適である。部分球状部66Sの外表面とサクションチューブ68の内表面は、高粘度流体であるUVインキが入り込み、シールに一役買っているような構造になっている。UVインキは油性インキの数倍以上の粘度があるため、適度なクリアランスであれば内部リークは少なく、ポンプ性能に大きな悪影響はない。
【0056】
なお、ピストンの部分球状部は円球の一部が望ましいが、楕円球でも同じ効果が期待できる。又球状部は、例えば薄い円盤状のものであれば、摺動面積の減少の効果がある。又円錐台形状のもので、上向き円錐台と下向き円錐台のものを合わせて、中央部分の尖った部分が円形になっているものでも代替可能である。
【0057】
以上のような構成は、摺動部分を狭小化し、あるいは摺動部分を解消するような発明であるが、このような摺動部分についても、摺動部分の部品の表面処理を施すことで、摺動性を向上させることが出来る。例えば、ピストン66の外周部分およびサクションチューブの内周部分にフッ素系表面処理を施すことで、潤滑性の高い摺動面にすると、摩擦部分が低減され、インキ固着リスクが低減する。
【0058】
(接液部金属材質)
なお、接液部金属材質について、鋼鉄(無電解ニッケルめっき)またはステンレスを使用し、上記のインキが硬化(ゲル化)するきっかけになる材質(アルミニウム合金、電気亜鉛メッキ、等)を使用しないことは、高粘度流体であるUVインキの硬化を防止できる。接液部としては、プランジャー40の外周面、ピストン66の外周面やサクションチューブ68の内周面、フートバルブハウジング82の内周面、ボール受け台84の外周面、ボール86の外表面などが挙げられる。
【0059】
(フートバルブ)
本発明のフートバルブは、フートバルブハウジング82の下部にボール受け台84が設けられ、ボール受け台84は内側が円形状にくり抜かれ、上部はテーパー状部84Tになっており、テーパー下端84Lで、ボール86を挟持する構造になっているので、ボールの浮沈によるバルブ開閉構造としたから、従来の円柱台形状のものに比較して摺動部分が無いので、UVインキの固着化の問題がない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述の実施形態では、高粘度流体ポンプで用いられるパッキン等のシール方法について、非接触摺動のシール構造を提案するものであり、従来困難とされた高粘度流体ポンプにおけるシールの方法を画期的に改善したものである。
【0061】
なお発明は高粘度流体ポンプ、特にUVインキポンプについて使用されているシール構造であるが、広く高粘度流体への適用が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 高粘度流体であるUVインキポンプ
20 上部往復駆動部
22 エアモーター
24 ドライブシャフト
32 シリンダ
34 エジェクタ
40 プランジャー
42 グランドリテーナー
43 間隙
44 ダイアフラム
48 ブラケット
50 鍵状リテーナー
52 ナット
60 ピストンバルブ部
62 ピストンバルブ
62L 汲み上げ盤体
66 ピストン
66S 部分球状部
66G 門型状取っ手部
68 サクションチューブ
80 フートバルブ部
82 フートバルブハウジング
84 ボール受け台
84T テーパー状部
84L テーパー下端
86 ボール
90 プレート
100 流体吸入口
110 流体吐出口
L1、L2、L3 流れ