(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150286
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】低アルコールビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 12/04 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
C12C12/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063631
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】中山 航
(72)【発明者】
【氏名】松島 健将
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP16
4B128CP30
4B128CP33
4B128CP38
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】火薬臭及び薬品臭が抑制され、飲用後舌上にべたつき・粉っぽい感覚が残らない、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料を提供すること。
【解決手段】9~50ppmのβ-フェネチルアルコール濃度、0.2~15ppmの酢酸エチル濃度及び1~60ppmのイソアミルアルコール濃度を有し、脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
9~50ppmのβ-フェネチルアルコール濃度、0.2~15ppmの酢酸エチル濃度及び1~60ppmのイソアミルアルコール濃度を有し、脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
脱アルコール麦汁発酵液を含む、請求項1に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
5ppbを超えて50ppb未満のリナロール濃度を有する、請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記麦汁発酵液は、11~18w/w%の麦汁エキス濃度を有する、請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項5】
前記麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液である、請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記麦汁発酵液は、50w/w%以上の麦芽使用比率を有する請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記麦汁発酵液は、1~10w/w%の外観エキス濃度を有する、請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項8】
アルコール濃度が0.5v/v%未満である請求項1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【請求項9】
脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料中間液を提供すること、
該低アルコールビールテイスト飲料中間液に濃度9~50ppmのβ-フェネチルアルコール、濃度0.2~15ppmの酢酸エチル、及び濃度1~60ppmのイソアミルアルコールを含有させること、
を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項10】
前記低アルコールビールテイスト飲料中間液が脱アルコール麦汁発酵液を含むものである、請求項9に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料に関し、特に、通常のビールからアルコール分を抜いて作られた低アルコールビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料には香気成分が含まれている。香気成分とは香りを呈する成分をいう。香気成分は揮発性を示し、例えば、飲用する際に鼻から直接入るトップ香及び飲用後に口中から鼻に抜ける戻り香等を呈する成分である。そのため、香気成分の種類及び含有量は、ビールテイスト飲料の香りを左右するだけでなく、飲用感及び飲用後の余韻の感じ方にも影響する。
【0003】
通常のビールからアルコール分を抜いて作られた、発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料が知られている。発酵物であるビールからアルコール分を抜く場合、アルコール発酵過程で生成する香味成分を残すことで、低アルコールビールテイスト飲料が提供される。
【0004】
特許文献1には、ビールテイスト飲料からアルコール分を除去して低アルコールビールテイスト飲料を製造する場合、アルコール及び揮発性香気成分が除去されてしまうため、得られる脱アルコールビールテイスト飲料は、酸味感、渋味感が強く、アルコール感、醸造由来の複雑味が弱くなる傾向があることが記載されている。特許文献1の発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料では、酢酸エチル、イソブタノール、酢酸イソアミル及びイソアミルアルコールを含む香気成分を含有させることで、前記問題点が解決されている。
【0005】
特許文献2には、発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、β-フェニルエチルアルコール含有量が30~38ppmであり、リナロール含有量が3.0~5.0ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料が記載されている。ここでいう発酵麦芽飲料には、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャー等を有する発泡性飲料が含まれる。特許文献2の発酵麦芽飲料は、麦芽の使用比率が低いので、麦芽オフフレーバーが少ない上にすっきりした味わいであり、かつ華やかな香りをも有するものである。
【0006】
特許文献3には、発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料は、麦汁に含まれている低分子の糖が発酵過程において消費され、また、アルコール、及び揮発性香気成分が除去されており、ビールらしい複雑味及び飲みごたえが不足し、よだれ臭、いも臭等の発酵に伴う不快臭が目立ち易いことが記載されている。特許文献3の発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料では、所定量のリナロール及び酢酸を含有させることで、前記問題点が解決されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2022/163522号公報
【特許文献2】特開2015-123042号公報
【特許文献3】国際公開第2022/210104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料は、アルコール濃度を低減していくに従って、揮発性成分が減少し、オフフレーバーをマスキングする機能を担う成分も減少する。そのため、アルコール濃度が低減された発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料には、火薬臭及び薬品臭が目立ち、飲用後舌上にべたつき・粉っぽい感覚(以下「飲用後べたつき感」ということがある。)が残り易いという問題がある。アルコール濃度が低減された発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料の具体例として、0.1v/v%以下、0.05v/v%以下、又は0.02v/v%以下のアルコール濃度を有する発酵後脱アルコール処理ビールテイスト飲料が挙げられる。
【0009】
本発明は上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、火薬臭及び薬品臭が抑制され、飲用後舌上にべたつき・粉っぽい感覚が残らない、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明には以下の態様が含まれる。
【0011】
[態様1]
9~50ppmのβ-フェネチルアルコール濃度、0.2~15ppmの酢酸エチル濃度及び1~60ppmのイソアミルアルコール濃度を有し、脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料。
【0012】
[態様2]
脱アルコール麦汁発酵液を含む、態様1に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0013】
[態様3]
5ppbを超えて50ppb未満のリナロール濃度を有する、態様1又は2に記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0014】
[態様4]
前記麦汁発酵液は、11~18w/w%の麦汁エキス濃度を有する、態様1~3のいずれかに記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0015】
[態様5]
前記麦汁発酵液は、麦汁下面発酵液である、態様1~4のいずれかに記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0016】
[態様6]
前記麦汁発酵液は、50w/w%以上の麦芽使用比率を有する態様1~5のいずれかに記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0017】
[態様7]
前記麦汁発酵液は、1~10w/w%の外観エキス濃度を有する、態様1~6のいずれかに記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0018】
[態様8]
アルコール濃度が0.5v/v%未満である態様1~7のいずれかに記載の低アルコールビールテイスト飲料。
【0019】
[態様9]
脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料中間液を提供すること、
該低アルコールビールテイスト飲料中間液に濃度9~50ppmのβ-フェネチルアルコール、濃度0.2~15ppmの酢酸エチル、及び濃度1~60ppmのイソアミルアルコールを含有させること、
を含む、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【0020】
[態様10]
前記低アルコールビールテイスト飲料中間液が脱アルコール麦汁発酵液を含むものである、態様9に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、火薬臭及び薬品臭が抑制され、飲用後舌上にべたつき・粉っぽい感覚が残らない、アルコール濃度1v/v%未満の低アルコールビールテイスト飲料が提供される。本発明の低アルコールビールテイスト飲料は、その結果、ビールらしい香味に優れ、飲用感及び飲用後の余韻を快適に感じることができるものになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、低アルコールビールテイスト飲料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す低アルコールビールテイスト飲料及びその製造方法に限定されない。
【0023】
<低アルコールビールテイスト飲料>
「低アルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール濃度が通常のビールテイスト飲料よりも低いビールテイスト飲料をいう。「ビールテイスト」とは、ビールを想起させる味及び香気をいう。「ビール」とは麦芽、ホップ及び水等を原料として、これらを酵母で発酵させて得られる飲料をいう。
【0024】
本明細書において低アルコールビールテイスト飲料は、1v/v%未満、好ましくは0.5v/v%未満、より好ましくは0.1v/v%以下、更に好ましくは0.05v/v%以下、最も好ましくは0.02v/v%以下のアルコール濃度を有する。「低アルコールビールテイスト飲料」の意味には、実質的にアルコールを含有しない、ノンアルコールビールテイスト飲料(例えば、アルコール濃度0.00v/v%)も含まれる。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。
【0025】
<脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分>
本発明の低アルコールビールテイスト飲料は、脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含む。脱アルコール麦汁発酵液とは、麦汁をビール酵母で発酵させて得られる発酵液、即ち麦汁発酵液から、アルコールを除去して得られる液体である。本発明でいう麦汁は、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を意味し、これには麦芽に由来する成分、及び必要に応じてホップに由来する成分が含まれる。麦芽に由来する成分とは、麦芽に含まれる成分をいう。ホップに由来する成分とは、イソα酸等のホップに含まれる成分をいう。
【0026】
脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分とは、脱アルコール麦汁発酵液に含まれる成分をいう。本発明の低アルコールビールテイスト飲料は、脱アルコール麦汁発酵液を含むものであってもよい。
【0027】
麦汁発酵液は、例えば、以下の方法によって製造することができる。まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸等へ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外に、トランスグルコシダーゼ等の酵素、並びにスパイス及びハーブ類等の香味成分等が添加される。
【0028】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0029】
糖化に供される原料、即ち澱粉質原料は麦芽を含む。糖化に供される原料中の麦芽の含有量は、ビールらしい香味を低減させない観点から、25%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは67%以上である。糖化に供される原料は麦芽使用比率100%であってもよい。麦芽使用比率とは、澱粉質原料の重量に対する麦芽の重量の比率である。麦芽使用比率が高くなるほど、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生しやすくなる。
【0030】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0031】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0032】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。
【0033】
麦汁は、ビールらしい香味を低減させない観点から、10~18w/w%の麦汁エキス濃度を有するように水分量を調節する。一方で、麦汁エキス濃度が前記範囲である場合には、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生することがある。麦汁の麦汁エキス濃度は、好ましくは11~15w/w%、より好ましくは11.5~14.5w/w%、更に好ましくは13~14.5w/w%である。
【0034】
上記麦汁煮沸までの操作により、麦汁が得られる。得られた麦汁を酵母により発酵させて、麦汁発酵液が得られる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行うことができる。
【0035】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、ビールらしい香味を低減させない観点から、90%以下、好ましくは40~90%、より好ましくは40%~60%に調節する。一方で、外観最終発酵度が前記範囲である場合には、アルコール濃度の低減に伴う火薬臭、薬品臭及び飲用後べたつき感が発生することがある。
【0036】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(w/w%)、を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0037】
尚、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分をいう。エキスは、主として糖分からなる。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。ビール様発酵麦芽飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度(w/w%)を意味する。
【0038】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0039】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
【0040】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0041】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0042】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、例えば、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量等の糖化条件を調整することにより、制御することができる。例えば、原料の糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、麦汁発酵液の外観最終発酵度を高めることができる。
【0043】
麦汁発酵液からアルコールを除去する方法としては、麦汁発酵液を加熱するか、減圧下加熱して、アルコールを気化させる方法、逆浸透膜等によりアルコールを除去する方法等が挙げられる。脱アルコール麦汁発酵液は、最終生成物中の低アルコールビールテイスト飲料のアルコール含有量が、例えば前記のような所望の濃度になる程度までアルコールが除去されていればよい。
【0044】
低アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を含むことで、低アルコールビールテイスト飲料にビールらしい複雑味、飲みごたえ感及びボディ感が付与される。
【0045】
一方で、脱アルコール麦汁発酵液は、アルコール、及び揮発性香気成分が除去されているものである。そのため、その飲用時に感じられるビールらしい香味、及び飲用後の快適な余韻は、麦汁発酵液と比較して弱くなっている。
【0046】
低アルコールビールテイスト飲料に含まれる脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分の量及び濃度は特に限定されず、所望の香味に応じて適宜設定することができる。
【0047】
麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよいが、後味をすっきりさせる観点から麦汁下面発酵液であることが好ましい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば10℃前後でおよそ1週間発酵させた麦汁発酵液をいう。
【0048】
低アルコールビールテイスト飲料の外観エキス濃度は1~10w/w%に調節される。低アルコールビールテイスト飲料の外観エキス濃度が1w/w%未満であると、低アルコールビールテイスト飲料のビールらしい複雑味及び麦らしい甘味が不十分になる場合がある。また、低アルコールビールテイスト飲料の外観エキス濃度が10w/w%を超えると、低アルコールビールテイスト飲料の後味が重くなる場合がある。低アルコールビールテイスト飲料の外観エキス濃度は、好ましくは3~9.5w/w%であり、より好ましくは5~9w/w%であり、さらに好ましくは6~8.5w/w%である。
【0049】
低アルコールビールテイスト飲料の外観エキス濃度は、例えば、ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法(2004)に記載の方法により測定することができる。低アルコールビールテイスト飲料は、例えば後述する低アルコールビールテイスト飲料の製造方法により製造することができる。
【0050】
<β-フェネチルアルコール>
低アルコールビールテイスト飲料はβ-フェネチルアルコール(C6H5C2H4OH)を含有する。β-フェネチルアルコールは芳香族アルコールの一種であり、バラの花びらのようなにおいを示す物質である。
【0051】
低アルコールビールテイスト飲料に含まれるβ-フェネチルアルコールは、原料に由来するもの、発酵工程において酵母により生産されるもの、市販の製剤及び食品添加物、例えば、β-フェネチルアルコール含有香料として添加されたものであってよい。
【0052】
ある一形態において、β-フェネチルアルコールは、低アルコールビールテイスト飲料のβ-フェネチルアルコールの濃度が9~50ppmになる量で、低アルコールビールテイスト飲料に含有させる。低アルコールビールテイスト飲料のβ-フェネチルアルコールの濃度が9ppm未満であると、フローラルなコク感が失われ、50ppmを超えると、溶剤様のもったりとしたコク感が強くなりすぎて、キレが悪くなることによるべたつきが増加する。低アルコールビールテイスト飲料のβ-フェネチルアルコール濃度は、好ましくは15~45ppmであり、より好ましくは17~40ppmであり、更に好ましくは28~40ppmである。
【0053】
低アルコールビールテイスト飲料のβ-フェネチルアルコール濃度を調節する方法としては、例えば、β-フェネチルアルコール自体を添加剤として添加する方法、又はβ-フェネチルアルコールを含有する香料を添加剤として添加する方法が挙げられる。また、β-フェネチルアルコールは、発酵工程において酵母によりフェニルアラニンから生産される。このため、フェニルアラニンを含む原料の使用量を調節することによっても、低アルコールビールテイスト飲料のβ-フェネチルアルコール濃度を調節することができる。また、発酵工程において、発酵温度、発酵開始時の溶存酸素量等の条件を調節してβ-フェネチルアルコールの生成量を調節してもよい。
【0054】
<酢酸エチル>
低アルコールビールテイスト飲料は酢酸エチル(CH3COOC2H5)を含有する。酢酸エチルは果実様香気を示す物質である。
【0055】
ある一形態において、酢酸エチルは、低アルコールビールテイスト飲料の酢酸エチルの濃度が0.2~15ppmになる量で、低アルコールビールテイスト飲料に含有させる。低アルコールビールテイスト飲料の酢酸エチルの濃度が0.2ppm未満であると、フルーティ感が失われ、15ppmを超えると、果実感が過剰になり、ビールらしい香味が損なわれることがある。低アルコールビールテイスト飲料の酢酸エチル濃度は、好ましくは0.5~15ppmであり、より好ましくは5~15ppmである。
【0056】
<イソアミルアルコール>
低アルコールビールテイスト飲料はイソアミルアルコール((CH3)2CHCH2CH2OH)を含有する。イソアミルアルコールはアルコール感のある香気を示す物質である。
【0057】
ある一形態において、イソアミルアルコールは、低アルコールビールテイスト飲料のイソアミルアルコールの濃度が1~60ppmになる量で、低アルコールビールテイスト飲料に含有させる。低アルコールビールテイスト飲料のイソアミルアルコールの濃度が1ppm未満であると、発酵による複雑香が失われ、60ppmを超えると、溶媒感が過剰になり、ビールらしい香味が損なわれることがある。低アルコールビールテイスト飲料のイソアミルアルコール濃度は、好ましくは3~50ppmであり、より好ましくは20~50ppmである。
【0058】
香気成分は、人工的に化学合成したものであっても、天然物に由来するもの、例えば酵母による発酵代謝物として得られるものであってもよい。各香気成分の含有量の比率を最適化する観点から、特に酵母による発酵代謝物として得られる麦汁発酵液に由来する香気成分であることが好ましい。
【0059】
<リナロール>
低アルコールビールテイスト飲料は、好ましくは、リナロールを含有する。リナロールは、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールとも称される化合物であり、モノテルペンアルコールの一種である。リナロールは、スズラン様のさわやかな甘い香りを有する成分である。本発明で用いられるリナロールは天然物から単離又は抽出されたもの、食品化学的に許容される手法によって化学合成されたもの、リナロールを含有する原料に由来するもの、製造工程において、リナロールに変換される前駆体を含有する原料に由来するもの、のいずれであってもよい。リナロールを含有する原料としては、ホップ、ホップエキス、ホップ香料等が挙げられる。本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれるリナロールは、香料として市販されているリナロールを添加したものであってもよい。
【0060】
低アルコールビールテイスト飲料中のリナロールは、低アルコールビールテイスト飲料の酸味、苦味、甘味のバランスを改善する。
【0061】
ある一形態において、リナロールは、低アルコールビールテイスト飲料のリナロールの濃度が5ppbを超えて40ppb未満になる量で、低アルコールビールテイスト飲料に含有させる。低アルコールビールテイスト飲料のリナロール濃度が5ppb以下であるか、40ppb以上であると、低アルコールビールテイスト飲料の酸味、苦味、甘味のバランスが崩れる場合がある。低アルコールビールテイスト飲料のリナロール濃度は、好ましくは6~35ppbであり、より好ましくは8~30ppb、更に好ましくは10~25ppbである。
【0062】
低アルコールビールテイスト飲料中におけるリナロール濃度は、例えば、GC/MSを用いて測定することができる。
【0063】
低アルコールビールテイスト飲料のリナロール濃度は、例えば、リナロール含有量の多い原材料(例えばホップ等)の品種やその使用量、及び当該原材料の添加のタイミング等を調整すること、又はリナロールを適宜添加することによって調節することができる。
【0064】
<低アルコールビールテイスト飲料の製造方法>
低アルコールビールテイスト飲料の製造方法は、脱アルコール麦汁発酵液に由来する成分を低アルコールビールテイスト飲料に含有させること、及びβ-フェネチルアルコール、酢酸エチル及びイソアミルアルコールを低アルコールビールテイスト飲料に含有させることを、包含していればよく、これらの工程以外は、従来の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法を利用することができる。
【0065】
低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、β-フェネチルアルコール、酢酸エチル及びイソアミルアルコールを含有させる工程は、例えば、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程にこれらを含む香料を添加して行うことができる。この場合、香料を添加する工程が前工程であればあるほど、香料中の成分の濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後に行うことが望ましい。
【0066】
また、低アルコールビールテイスト飲料の製造方法は、β-フェネチルアルコール、酢酸エチル又はイソアミルアルコールの濃度調節工程、リナノールの濃度調節工程、苦味価調節工程、又は外観エキス濃度調節工程を含んでよい。
【0067】
低アルコールビールテイスト飲料の製造方法は、公知の装置等を用いた、カラメル色素等を添加する工程、煮沸工程、pH調節工程、ろ過工程、香味調節工程、炭酸ガスを溶解させる工程等をさらに含んでもよい。
【0068】
低アルコールビールテイスト飲料の製造方法は、必要に応じて、食物繊維、大豆ペプチド、炭酸、エキス類、香料、酸味料、甘味料、苦味料、着色料、酸化防止剤、pH調節剤、各種栄養成分等を添加する工程をさらに含んでもよい。
【0069】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0070】
<製造例1>
高β-フェネチルアルコール脱アルコール麦汁発酵液の製造
(1)麦汁発酵液の製造
仕込槽に粉砕麦芽と酵素、温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにてろ過し、その後煮沸釜に移してビターホップを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、原麦汁エキスが16%の冷麦汁を得た。この麦汁に酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、酵母を除去した。麦汁発酵液の外観最終発酵度は48.0%であった。タンクを移し替えて7日間熟成の後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いてろ過した。得られた麦汁発酵液を発酵液1とした。
【0071】
(2)脱アルコール麦汁発酵液の製造
発酵液1を90mbar付近の減圧下で脱ガスタンク内にスプレーし炭酸ガスを除去した後、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させることで揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を除去し、アルコール濃度0.02v/v%の脱アルコール発酵液を得た。得られた脱アルコール麦汁発酵液を蒸留液1とした。
【0072】
(3)蒸留液1の分析
蒸留液1に含まれるβ-フェネチルアルコールを定量したところ、50ppmであった。蒸留液1中のβ-フェネチルアルコール含有量(濃度)は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)編)の「8.22 低沸点後記繁分」に記載されている方法に準じて測定した。
尚、酢酸エチル及びイソアミルアルコールは脱アルコール工程において除去されており、蒸留液1に含まれていない。
【0073】
<製造例2>
低β-フェネチルアルコール脱アルコール麦汁発酵液の製造
仕込釜に粉砕麦芽、水及びコーンスターチを投入し、70℃で糊化、100℃で液化を行った。次に仕込槽に粉砕麦芽、酵素及び温水を投入し、仕込釜から仕込槽へ液を移送し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、ホップを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、原麦汁エキスが10%の冷麦汁を得た。この麦汁に酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、酵母を除去した。麦汁発酵液の外観最終発酵度は48.0%であった。タンクを移し替えて7日間熟成の後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えて希釈後、珪藻土を用いてろ過した。得られた麦汁発酵液を発酵液2とした。
【0074】
発酵液1の代わりに発酵液2を用いること以外は製造例1と同様にして、発酵液2に含まれるアルコール及び揮発成分を取り除き、アルコール濃度0.02v/v%の脱アルコール麦汁発酵液を得た。得られた脱アルコール麦汁発酵液を蒸留液2とした。
【0075】
蒸留液1の代わりに蒸留液2を用いること以外は製造例1と同様にして、蒸留液2に含まれるβ-フェネチルアルコールを定量したところ、7ppmであった。
【0076】
<実施例>
蒸留液を混合した低アルコールビールテイスト飲料の製造及び官能評価
蒸留液1と蒸留液2とを所定の混合比率で混合することで、β-フェネチルアルコールの濃度を変化させた低アルコールビールテイスト飲料を作製した。さらに、これらのビールテイスト飲料にリナロール、酢酸エチル、及びイソアミルアルコールを添加し、2.9ガスボリュームの炭酸ガスを添加し、4℃に調温して、これらを試料1~25とした。各試料の組成を表1~5に示す。
【0077】
その後、試料1~25を訓練されたパネリスト6名による官能評価に供した。評価項目は、飲用後舌上に残るべたつき・粉っぽい感覚、薬品臭、火薬臭、及びビールらしい香味とした。
【0078】
官能評価は、パネリストが試料を飲み、各評価項目を5段階で採点した。評点は、香気成分の含有量が最も少ない試料1の評点を3として、やや強く感じられる場合は4、強く感じられる場合は5、やや弱く感じられる場合は2、弱く感じられる場合は1とし、最後に6名の評点の平均を算出した。また、総合評価として、各評価項目の評点に加えて香味のバランス、余韻の快適性も考慮して、以下の基準により4段階に格付けした。評価結果を表1~5に示す。
【0079】
A:香味のバランスに優れ、快適な余韻を感じる
B:香味のバランスが良い
C:香味のバランスが少し悪い
D:香味のバランスが悪く、試料1と比較して改善が認められない
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】