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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150302
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】チタン酸凝集体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063655
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB05
4G047CD03
(57)【要約】
【課題】製造設備を損傷することなく、粒度の整ったチタン酸凝集体を製造する方法を提供する。
【解決手段】硫酸チタニルを含む溶液と硫酸アンモニウムを混合して加水分解する加水分解工程を含むことを特徴とするチタン酸凝集体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸チタニルを含む溶液と硫酸アンモニウムを混合して加水分解する加水分解工程を含むことを特徴とするチタン酸凝集体の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解工程において、硫酸アンモニウムを硫酸チタニルに対して0.30~3.0モル等量用いることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解工程において、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液中における硫酸アンモニウムの濃度が0.20~1.80mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解工程は、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液を90~120℃に加熱して行われることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸凝集体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸リチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタンの複合酸化物は酸化チタン又はメタチタン酸、チタン酸を前駆体とし、それら前駆体とリチウム塩、バリウム塩、カリウム塩とを用いて乾式プロセス又は湿式プロセスにより合成される。ここで、リチウムやカリウム等の元素はフラックス剤として粒成長を促進するため、前駆体が反応性の高い微細粒子である場合、チタンの複合酸化物のサイズや粒度の制御が困難になる。このため、特に1ミクロン以上の粒子径を有するチタンの複合酸化物を合成する場合、サブミクロン以下の前駆体を用いると粒度分布が広くなりやすいといった問題がある。一方、前駆体の一次粒子サイズが大きい場合、反応性が乏しく、粒子内部まで反応が進行しない。このように前駆体の粒子形状、粒子径は目的物の粒子形状、粒子径に大きな影響を与える要因である。
【0003】
ここで上記前駆体のうち酸化チタン(TiO)は、メタチタン酸(TiO(OH))やチタン酸(Ti(OH))を焼成することによって製造され、焼成工程において,焼成温度の調整や添加剤により粒成長を促進することで、目的とする粒子径の酸化チタンを得ることができる。しかしながら、当該製法では1μm以上の粒子径を有する酸化チタンを製造することは困難であり、工業品として市場に流通する酸化チタンは数ナノメートルからサブミクロンサイズに限定されている。このため、市販の酸化チタンを原料として粒度分布の狭い1μm以上の粒子径を有するチタン酸化物及びその他元素との複合酸化物を製造することは容易ではない。これに対し、前駆体を(I)微細な一次粒子からなる凝集粒子であって、(II)ミクロンオーダーの二次粒子径を有し、更に(III)粒度分布が狭いものとすることで、粒度分布の狭い1μm以上の粒子径を有するチタン酸化物及びその他元素との複合酸化物を製造することができる可能性がある。そのような前駆体に関し、特許文献1には硫酸チタニルの加水分解工程において、塩化物塩を添加することにより、粒度の整ったメタチタン酸凝集体が形成されることが開示されている。またその他のチタン化合物の製造方法として、硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和水蒸気圧以上の圧力下で加水分解する球状含水二酸化チタンの製造方法(特許文献2参照)や、反応終了時の酸の濃度が3.0~8.0Nの強酸性領域となるように濃度を調整した硫酸チタニルもしくは硫酸チタンの酸性水溶液を加熱して加水分解させてアナターゼ型二酸化チタン微粒子を製造する方法が開示されている(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-154527号公報
【特許文献2】特開平5-163022号公報
【特許文献3】特開平5-178617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり硫酸チタニルの加水分解工程において、塩化物塩を添加して粒度の整ったチタン酸凝集体を製造する方法が開示されている。しかし、塩化物塩を用いる場合、腐食性の塩化水素、塩酸が加水分解工程内で発生し(例:NaCl+HSO→HCl+NaHSO)、製造設備の腐食を起こし得る。また、前駆体にClが混入すると、その後の焼成工程において塩素ガスや塩化水素ガスが発生し、焼成炉の腐食を起こし得る。また、このように塩化物塩を添加した場合は設備腐食の可能性が高まり、それに伴うコンタミ発生のリスクが発生する。このため、塩化物を使用しない反応系で粒度の整ったチタン酸凝集体を製造する方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、塩化物を使用しない反応系で粒度の整ったチタン酸凝集体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、塩化物を使用することなく粒度の整ったチタン酸凝集体を製造する方法について検討し、硫酸チタニルを含む溶液と硫酸アンモニウムを混合して加水分解工程を行うことで、塩化物を使用しない反応系で粒度の整ったチタン酸凝集体を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]硫酸チタニルを含む溶液と硫酸アンモニウムを混合して加水分解する加水分解工程を含むことを特徴とするチタン酸凝集体の製造方法。
【0009】
[2]前記加水分解工程において、硫酸アンモニウムを硫酸チタニルに対して0.30~3.0モル等量用いることを特徴とする[1]に記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【0010】
[3]前記加水分解工程において、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液中における硫酸アンモニウムの濃度が0.20~1.80mol/Lであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【0011】
[4]前記加水分解工程は、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液を90~120℃に加熱して行われることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のチタン酸凝集体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のチタン酸凝集体の製造方法は、製造設備を損傷することなく粒度の整ったチタン酸凝集体を製造することができる。得られるチタン酸凝集体は、粒度分布の狭い1μm以上の粒子径を有するチタン酸化物及びその他元素との複合酸化物を製造する際の前駆体として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図2】実施例2で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図3】実施例3で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図4】実施例4で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図5】実施例5で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図6】実施例6で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図7】実施例7で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図8】実施例8で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図9】実施例9で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図10】実施例10で得られたチタン酸酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図11】実施例11で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図12】実施例12で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図13】実施例13で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図14】実施例14で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図15】実施例15で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図16】実施例16で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図17】実施例17で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図18】実施例18で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図19】比較例3で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0015】
チタン酸凝集体の製造方法
本発明のチタン酸凝集体の製造方法は、硫酸チタニルを含む溶液と硫酸アンモニウムを混合して加水分解する加水分解工程を含むことを特徴とする。
上述のとおり硫酸チタニルの加水分解工程において、塩化物塩を用いると粒度の整ったチタン酸凝集体を得ることができる一方、製造設備の腐食を起こし得る。また、前駆体にClが混入すると焼成炉の腐食を起こし得る。これに対し、塩化物塩に代えて、硫酸塩の中でも硫酸アンモニウムを使用することで製造設備を損傷することなく粒度の整ったチタン酸凝集体を製造することが可能となる。
なお、チタン酸にはメタチタン酸(TiO(OH))やオルソチタン酸(Ti(OH))が含まれるが、本発明の製造方法で得られるチタン酸凝集体は、メタチタン酸を主な成分とするものである。
【0016】
上記加水分解工程においては、硫酸アンモニウムを硫酸チタニルに含まれるチタンに対して0.30~3.0モル等量用いることが好ましい。硫酸チタニルの加水分解において硫酸塩を用いると、硫酸塩と硫酸チタニルとが複塩を形成し、加水分解反応が複雑化する場合がある。これに対し、硫酸アンモニウムを硫酸チタニルに対して0.30~3.0モル等量用いることで、複塩の形成を抑制して加水分解反応の複雑化を防ぎ、その結果、一定の加水分解速度でチタン酸が反応系中に析出するようにして、より粒度分布の整ったチタン酸凝集体を得ることができる。硫酸アンモニウムの使用量は、硫酸チタニルに含まれるチタンに対して0.35~1.70モル等量であることがより好ましく、更に好ましくは、0.40~1.60モル等量である。
【0017】
上記加水分解工程においては硫酸チタニルを含む溶液に硫酸アンモニウムを添加して混合してもよく、硫酸アンモニウムに硫酸チタニルを含む溶液を添加して混合してもよい。
上記加水分解工程において硫酸チタニルを含む溶液に硫酸アンモニウムを添加する場合、及び、硫酸アンモニウムに硫酸チタニルを含む溶液を添加する場合のいずれの場合についても添加する方法は特に制限されず、一括添加であってもよく、分割添加や連続添加であってもよい。
【0018】
上記加水分解工程において、硫酸チタニルを含む溶液における硫酸チタニルの濃度は特に制限されないが、チタン酸凝集体の収率と製造の効率とを考慮すると、0.10~3.5mol/Lであることが好ましい。より好ましくは、0.50~2.5mol/Lであり、更に好ましくは、0.70~2.0mol/Lである。
【0019】
上記加水分解工程において、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液中における硫酸アンモニウムの濃度は0.20~1.80mol/Lであることが好ましい。このように、加水分解に使用する各原料の溶解性や溶液の粘度を考慮しつつ、反応溶液量が多くなりすぎないようにして加水分解工程を進めることで高い製造効率でチタン酸凝集体を製造することができる。硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液中における硫酸アンモニウムの濃度はより好ましくは、0.30~1.56mol/Lであり、更に好ましくは、0.50~1.10mol/Lである。
【0020】
上記加水分解工程は、加水分解を十分に進めるために酸を添加して行うことが好ましい。
添加する酸は特に制限されないが、鉱酸が好ましく、より好ましくは硫酸である。
【0021】
上記加水分解工程は、硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液を90~120℃に加熱して行われることが好ましい。このような温度に加熱して行うことで、加水分解反応をより十分に進行させることができ、チタン酸凝集体をより高い収率で得ることができる。加水分解工程における硫酸チタニルと硫酸アンモニウムとを含む溶液の温度はより好ましくは、95~115℃であり、更に好ましくは、103~110℃である。
【0022】
上記加水分解工程を行う時間は特に制限されないが、チタン酸凝集体を高い収率で得ることと製造の効率とを考慮すると、30~720分行うことが好ましい。より好ましくは、45~360分であり、更に好ましくは、60~240分である。
【0023】
本発明のチタン酸凝集体の製造方法は、上記加水分解工程で得られた加水分解物を中和する工程を含むことが好ましい。これにより、チタン酸凝集体内に残存する硫酸イオンをより、効率的に除去することができる。中和する工程は、加水分解物に塩基性化合物を添加して行うことができる。
中和に用いる塩基性化合物は特に制限されず、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。これらの中でも、その塩基性化合物自体や、中和により生成する塩が水溶性である点で、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好ましい。より好ましくはアンモニアである。これらは固体又は気体の状態で添加しても良いが通常は水溶液として添加する。
【0024】
上記中和工程においては、加水分解物を、加水分解物の質量に対して10倍の水にリパルプしたリパルプスラリーのpHが7~10になるまで塩基性化合物を添加することが好ましい。これにより、硫酸イオンからなる化合物が塩を形成し、水溶性が向上するため、より効率的に硫酸イオンを除去できる。より好ましくは、リパルプスラリーのpHが8~9になるまで塩基性化合物を添加することである。
【0025】
本発明のチタン酸凝集体の製造方法では、加水分解工程の後、得られた加水分解物を中和工程に供する前にろ過、水洗する工程を行うことが好ましい。加水分解物の水洗は、水洗に用いた水の電気伝導度が1000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、これにより加水分解物に含まれる不要な硫酸アンモニウムを十分に除去することができる。
【0026】
また本発明のチタン酸凝集体の製造方法では、中和工程の後、得られた固形物をろ過、水洗する工程を行うことが好ましい。これにより中和工程で生じた塩を除去し、チタン酸凝集体の純度を高めることができる。中和物の水洗は、水洗に用いた水の電気伝導度が1000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、これにより中和工程で生じた塩を十分に除去することができる。より好ましくは、500μS/cm以下となるまで行うことであり、更に好ましくは、100μS/cm以下となるまで行うことである。
【0027】
上記中和工程の後(中和工程の後、得られた中和物をろ過、水洗する工程を行う場合はろ過、水洗する工程の後)、得られたチタン酸凝集体を乾燥する工程を行うことが好ましい。
チタン酸凝集体を乾燥する方法は特に制限されないが、加熱して行うことが好ましい。加熱する際の温度は、80~200℃であることが好ましい。より好ましくは、100~150℃である。乾燥を行う時間は制限されないが、1~48時間であることが好ましい。より好ましくは、2~24時間である。当該温度、時間で乾燥させることで粒子同士の過剰な焼結を抑えつつ、十分に乾燥させることができる。
【0028】
上記チタン酸凝集体の製造方法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、乾燥後のチタン酸凝集体を解砕する工程や、分級する工程等が挙げられる。
【0029】
本発明のチタン酸凝集体の製造方法を用いることで、塩化物を使用することなく、粒度分布の狭い1μm以上の粒子径を有するチタン酸化物及び1μm以上の粒子径を有するその他元素との複合酸化物を製造する際の前駆体として好適なチタン酸凝集体を製造することができる。具体的には、(二次粒子径/一次粒子径)が300以上であって、D90/D10が3.5未満のチタン酸凝集体を製造することができる。
チタン酸の一次粒子径は一般に3~10nm程度であるため、(二次粒子径/一次粒子径)が300以上である場合、二次粒子径は900~1200nm以上となる。1)この場合、一次粒子の大部分は同一の二次粒子内の一次粒子と隣接しており、他の二次粒子表面の一次粒子と隣接する一次粒子はごく僅かとなる。2)さらに、二次粒子内の各一次粒子はファン・デル・ワールス力により互いに引き寄せられているため、焼成時において容易に焼結する状況にある。3)一方で、900~1200nm以上の二次粒子間に特段考慮すべき引力は働かないため、粒子同士の距離は遠く、二次粒子間の反応性は乏しい。これら1)~3)の要因により、(二次粒子径/一次粒子径)が300以上であるチタン酸凝集体では、焼成時に二次粒子内での一次粒子同士の焼結が、二次粒子間での焼結に優先して起こり、凝集体同士の焼結が抑制されることになる。
そしてチタン酸凝集体のD90/D10が3.5未満である場合、チタン酸凝集体の粒度分布が整っていることとなり、これらをチタン酸化物及びその他元素との複合酸化物を製造する際の前駆体とすることで、目的物にチタン酸凝集体の粒度分布や粒子径といった粉体物性を反映させることができる。
したがって、本発明のチタン酸凝集体の製造方法で得られたチタン酸凝集体は、粒度分布の狭い1μm以上の粒子径を有するチタン酸化物及びその他元素との複合酸化物を製造する際の前駆体として好適に使用することができる。
さらに、得られたチタン酸化物やチタンの複合酸化物は粒度分布に優れるため、電子材料やフィラー、触媒、顔料、などの用途に好適に用いることができる。
【実施例0030】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0031】
<比表面積>
全自動比表面積測定装置(Macsorb、マイクロトラック製)を用いて、200℃で30分脱気し、予備加熱を200℃で5分間行った後に、吸脱着測定により、比表面積を測定した。
<一次粒子径>
上記比表面積測定結果から、以下の計算により一次粒子径を算出した。
一次粒子径(μm)=6/(r・S)×1000
r:理論密度(g/cm)、S:比表面積(m/g)
ここで、各実施例、比較例共に主結晶相がアナタース型だったので理論密度は3.90g/cmとした。
<二次粒子径、粒度分布>
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950、HORIBA製)を用いて、分散媒に0.025%ヘキサメタリン酸水溶液を使用し、超音波ホモジナイザー(US-600、日本精機製)で1分間の分散処理をおこなったものについて粒度分布測定を行い、メジアン径(D50)、体積基準10%径(D10)、体積基準90%径(D90)を測定した。D10及びD90の数値から比(D90/D10)を算出した。
<電子顕微鏡観察>
SEM像撮影は電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-7000、JEOL製)を用いて行った。
【0032】
実施例1
純水1200mL、硫酸チタニルn水和物(Tiとして19.9wt%)240gをセパラブルフラスコに入れ、そこに硫酸アンモニウム33.04g(硫酸チタニルに対して、0.5モル等量)、純水140mL、硫酸20mLを添加し、混合した。混合溶液を200rpm、加熱撹拌し、3時間還流を行った。得られたスラリーをブフナー漏斗に加えて吸引ろ過をし、ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで純水で通水洗浄した。洗浄後の固形分を、固形分に対して約10倍の質量の純水にリパルプし、リパルプスラリーのpHが8-9程度になるまでアンモニア水溶液を添加した。pH調整後のスラリーについて再度ろ過し、ろ液の伝導度が100μS/cm以下となるように通水洗浄した。洗浄後の固形分を100℃で乾燥させ、150μmの篩通しを行い、実施例1のチタン酸凝集体を製造した。塩化物を使用していないため、塩化水素や塩酸の発生による製造設備の損傷はなかった。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例2~5
硫酸チタニル、硫酸アンモニウム、純水、硫酸の量を表1のように添加したこと以外は実施例1と同様にして実施例2~5のチタン酸凝集体を製造した。なお、表中の硫酸アンモニウムの濃度は、純水に硫酸を加えた溶液量(L)に対する硫酸アンモニウムの物質量(mol)を意味する。以降の表中でも同様である。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例6~10
硫酸チタニルに対する硫酸アンモニウムのモル比が1.0になるように調整して、硫酸チタニル、硫酸アンモニウム、純水、硫酸の量を表2のように添加したこと以外は実施例1と同様にして実施例6~10のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例11~15
硫酸チタニルに対する硫酸アンモニウムのモル比が1.5になるように調整して、硫酸チタニル、硫酸アンモニウム、純水、硫酸の量を表3のように添加したこと以外は実施例1と同様にして実施例11~15のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例16~18
硫酸チタニルに対する硫酸アンモニウムのモル比が3.0になるように調整して、硫酸チタニル、硫酸アンモニウム、純水、硫酸の量を表4のように添加したこと以外は実施例1と同様にして実施例16~18のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
比較例1
硫酸アンモニウムに代えて硫酸ナトリウムを用い、硫酸チタニルに対する硫酸ナトリウムのモル比が1.0、反応溶液内の硫酸ナトリウム濃度が0.80mol/Lが値になるように調整して、硫酸チタニル、硫酸ナトリウム、純水、硫酸の量を表5のように添加したこと以外は実施例1と同様にして比較例1のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表5に示す。
【0042】
比較例2
硫酸アンモニウムに代えて炭酸ナトリウムを用い、硫酸チタニルに対する炭酸ナトリウムのモル比が1.0、反応溶液内の炭酸ナトリウム濃度が0.80mol/Lが値になるように調整して、硫酸チタニル、炭酸ナトリウム、純水、硫酸の量を表5のように添加したこと以外は実施例1と同様にして比較例2のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表5に示す。
【0043】
比較例3
硫酸アンモニウムを添加せず、硫酸チタニル、純水、硫酸の量を表5のように変えて添加したこと以外は実施例1と同様にして比較例3のチタン酸凝集体を製造した。
得られたチタン酸凝集体の比表面積、二次粒子径、凝集度、及び、粒度分布(D90/D10)を測定した。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
実施例に示した方法で合成することで、(二次粒子径/一次粒子径)が300以上であって、D90/D10が3.5未満であるチタン酸凝集体を製造することができた。
一方で、比較例1に示した方法で合成したチタン酸凝集体のD90/D10は実施例におけるD90/D10に比べて大きいものであった。比較例1では、反応系中で硫酸ナトリウムが硫酸チタニルと複塩を形成した結果、加水分解反応が複雑化し、チタン酸の析出速度が一定のものでなくなったことにより、硫酸アンモニウムを用いた場合に比べて粒度分布が広くなったものと考えられる。
さらに、比較例2に示した方法で合成したチタン酸凝集体のD90/D10は、実施例、比較例1におけるD90/D10に比べて極めて大きいものであった。炭酸ナトリウムの水溶液は塩基性を示すため、実施例や比較例1の場合と異なり、比較例2の反応系では塩基による硫酸チタニルの加水分解反応が進行する。そのため、急激なチタン酸の析出が反応系中で起こり、均一な二次粒子成長が起こらず、D90/D10が極めて大きな数値となったと考えられる。
また、比較例3に示した方法で合成したチタン酸凝集体のD90/D10も、実施例、比較例1におけるD90/D10に比べて極めて大きいものであった。これは、凝集体形成に寄与する塩類が含まれていないため、反応終了後、チタン酸は水に高分散した状態で存在しており、これを乾燥する過程でチタン酸が乱雑に凝集したためと考えられ、これによりD90/D10が極めて大きな数値となったと考えられる。
実施例、比較例の結果から、本発明のメタチタン酸凝集体の製造方法を用いることで、塩化物を使用しない反応系で粒度の整ったメタチタン酸凝集体を製造できることが確認された。また、比較例1~3との比較から、硫酸チタニルの加水分解時に硫酸アンモニウムを添加することが重要であることが確認された。
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