IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150307
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 35/02 20060101AFI20241016BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01N35/02
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063662
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 凡
(72)【発明者】
【氏名】平間 結衣
(72)【発明者】
【氏名】大西 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB05
(57)【要約】
【課題】環境中に存在するウイルスの不活化を可能としながらも、香りが弱いウイルス不活化剤の提供。
【解決手段】α-ヘキシルシンナムアルデヒドを有効成分とするウイルス不活化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-ヘキシルシンナムアルデヒドを有効成分とするウイルス不活化剤。
【請求項2】
ウイルスがエンベロープを有するRNAウイルスである、請求項1記載のウイルス不活化剤。
【請求項3】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1又は2記載のウイルス不活化剤。
【請求項4】
α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物をウイルス汚染が懸念される対象に適用する、ウイルス不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを不活化するウイルス不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症は、感冒症状を始め、肺炎、肝炎、脳炎等の重篤な症状を引き起こす疾患であり、人類にとって永遠の脅威となっている。近年では、インフルエンザウイルスが世界的に猛威を振るい、時には、抗原性が変化した新型インフルエンザの発現によってパンデミックを起こす場合もある。また、2019年には、SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)が出現し、パンデミックを引き起こして、生命や健康のみならず、経済活動、社会機能にまで影響を及ぼしている。
【0003】
このような事態に対応するために、ワクチンや抗ウイルス剤の開発があるが、ワクチンや治療薬の開発には時間が掛かり、また必ずしも成功するとは言えない。
ウイルスは、感染者によって生活空間へ持ち込まれた場合に、患者から直接、あるいは衣服、各種器具・部材、壁やエアコン等の設備を含む環境を介して、感染が拡大する。したがって、ウイルスが付着し得る手指、衣服、各種器具・部材を洗浄・消毒することによる除ウイルスやウイルス不活化を図ることや、生活空間に飛沫したウイルス及びエアロゾルとして空間中に漂うウイルスを不活化することが感染拡大を防ぐために有効であると考えられている。
【0004】
従来、エタノール、次亜塩素酸ソーダ、二酸化塩素、グルタルアルデヒド等が、ウイルスを不活化することを目的として使用されている(例えば、特許文献1)。しかし、これら一般的な消毒剤は、粘膜や皮膚への刺激性が高いため、安全上の問題から使用用途が限られる。また、空間に存在するウイルスを化学的に不活化する方法として、二酸化塩素を散布することも考案されているが、その効果は確かなものではない。
【0005】
精油やそれに含まれる香気成分は、香料として化粧品を始め、様々な製品に配合されるが、特定の生理作用を発揮する精油や化合物があることもよく知られている。例えば、桂皮油の主成分であるシンナムアルデヒドは、インフルエンザウイルス等に対して抗ウイルス活性を有することが知られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平4-502616号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fabra, M. J., Castro-Mayorga, J. L., Randazzo, W., Lagaron, J. M., Lopez-Rubio, A., Aznar, R., & Sanchez, G. (2016) Food and environmental virology, 8, 125-132
【非特許文献2】Hayashi, K., Imanishi, N., Kashiwayama, Y., Kawano, A., Terasawa, K., Shimada, Y., & Ochiai, H. (2007) Antiviral Research, 74(1), 1-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、シンナムアルデヒドは特に抗ウイルス効果を発揮する濃度で使用すると香りが強くなりすぎるため、その抗ウイルス活性を有効活用することが難しい場合がある。
そこで、本発明は、環境中に存在するウイルスの不活化を可能としながらも、香りが弱いウイルス不活化剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、α-ヘキシルシンナムアルデヒドは香りが弱いながらインフルエンザウイルスを不活化する効果があり、ウイルス不活化剤として有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)α-ヘキシルシンナムアルデヒドを有効成分とするウイルス不活化剤。
2)α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物をウイルス汚染が懸念される対象に適用する、ウイルス不活化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるウイルス不活化剤によれば、生活環境中の硬質・軟質表面に付着したウイルス、生活空間に飛沫したウイルス、エアロゾルとして空間中に漂うウイルス等を不活化でき、当該ウイルスによる感染の拡大を防止又は低減することができる。また、α-ヘキシルシンナムアルデヒドは香りが弱いため、匂いを気にすることなく様々な製品に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、α-ヘキシルシンナムアルデヒドをウイルス不活化のための有効成分として使用する。
【0013】
本発明におけるα-ヘキシルシンナムアルデヒドは、2-ベンジリデンオクタナールとも称される、分子式C1520Oの化合物である。α-ヘキシルシンナムアルデヒドは、E体、Z体いずれかの異性体であっても、異性体の混合物であってもよい。
【0014】
α-ヘキシルシンナムアルデヒドは既知化合物であり、商業的に入手したものを用いることができる。また、既報に基づき化学合成することにより取得することができる。
【0015】
α-ヘキシルシンナムアルデヒドは、液相状態でも気相状態でも使用できるが、ウイルス不活化効果の点から、液相状態で使用するのが好ましい。
【0016】
本発明におけるウイルス不活化剤の対象となるウイルスは、核酸の種類(RNA、DNA)及びエンベロープの有無を問わず、すべての種類のウイルスが含まれる。
エンベロープを有するウイルスとしては、核酸としてRNAを有する、インフルエンザウイルス;コロナウイルス;SARSコロナウイルス;SARSコロナウイルス-2;RSウイルス;ムンプスウイルス;ラッサウイルス;デングウイルス;風疹ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス、核酸としてDNAを有する、ヒトヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;B型肝炎ウイルス等が挙げられる。
また、エンベロープを有さないウイルスとしては、核酸としてRNAを有する、ノロウイルス;ポリオウイルス;エコーウイルス;A型肝炎ウイルス;E型肝炎ウイルス;ライノウイルス;アストロウイルス;ロタウイルス;コクサッキーウイルス;エンテロウイルス;サポウイルス、核酸としてDNAを有する、アデノウイルス;B19ウイルス;パポバウイルス;ヒトパピローマウイルス等が挙げられる。
【0017】
このうち、エンベロープを有するウイルスが好ましく、エンベロープを有し核酸としてRNAを有するウイルスがより好ましく、インフルエンザウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、SARSコロナウイルス-2がより好ましい。
なお、SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。
【0018】
本発明において、ウイルスの不活化とは、ウイルスの活性を低減又は消失し、宿主細胞への感染力を消失させる作用を意味する。
なお、ウイルスの不活化作用は、例えば、試験品とウイルスを接触させた後、ウイルスを宿主細胞に感染させ、そのウイルス感染価を測定すること等により確認することができる。ここで、宿主細胞としては、対象となるウイルスが増殖可能な細胞であればよく、インフルエンザウイルスであれば、例えばイヌ腎臓細胞(MDCK)、アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(Vero)、アヒル胚性幹細胞由来株化細胞(EB66)、ヒトコロナウイルスであれば、例えばヒト回盲腺癌細胞(HCT-8)、アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(VeroE6)、ヒト肝臓がん由来株化細胞(Huh7)を用いることができる。
【0019】
後述する実施例に示すように、α-ヘキシルシンナムアルデヒドは、インフルエンザウイルスに対して優れたウイルス不活化効果を示す。しかも、香りは弱い。一方、シンナムアルデヒドのアルデヒド基のα位の炭素原子にメチル基又はペンチル基を有する化合物のウイルス不活化作用は低かった。
したがって、α-ヘキシルシンナムアルデヒドは、ウイルスを不活化するウイルス不活化剤となり得、また、ウイルス不活化剤を製造するために使用することができる。また、α-ヘキシルシンナムアルデヒドは、ウイルスを不活化するために使用することができる。
【0020】
本発明におけるウイルス不活化剤は、α-ヘキシルシンナムアルデヒドを含む組成物(例えば、ウイルス不活化組成物、衛生用品組成物等)の形態であってもよい。すなわち、本発明におけるウイルス不活化剤は、ウイルス不活化効果を発揮するウイルス不活化組成物や衛生用品組成物となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。
【0021】
上記ウイルス不活化組成物は、液相又は気相の状態で使用されるものを包含する。
液相状態で使用されるウイルス不活化組成物は、α-ヘキシルシンナムアルデヒドの他、基剤、次亜塩素酸、過酸化水素、銀イオン化合物等の抗菌性物質や、カチオン性抗菌剤(塩化ベンゼトニウム等)、殺菌剤(トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等)、界面活性剤等を含んでいてもよい。また、ウイルス不活化組成物は、キレート剤、保湿剤、潤滑剤、ビルダー、緩衝剤、研磨剤、電解質、漂白剤、香料、染料、発泡制御剤、腐食防止剤、精油、増粘剤、顔料、光沢向上剤、酵素、洗剤、溶媒、分散剤、ポリマー、シリコーン、向水性物質等の添加剤を適宜配合することにより調製される。斯かる組成物の形態としては、液状、乳液状、クリーム状、ローション状、ペースト状、ジェル状、シート状(基剤担持)、オイル状等の形態であり得るが、これらに限定されない。
当該ウイルス不活化組成物は、各種洗浄剤(衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤、食器用洗浄剤、洗髪剤、手指洗浄剤、全身用洗浄剤等)、消毒剤等に適宜配合して使用することができる。
【0022】
気相状態で使用されるウイルス不活化組成物(例えば、空間ウイルス不活化組成物)は、α-ヘキシルシンナムアルデヒドの他、基剤及び各種添加剤(界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、消臭剤、天然抽出物、シリコーン、増粘剤、染料、顔料、色素、油剤、香料等)を配合することにより調製できる。斯かる組成物の形態としては、液状又はゲル状等が挙げられるが、液状であるのが好ましい。
【0023】
本明細書において、基剤としては、油性又は水性の別を問わず、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジメチルエーテル、液体プロパン、ワセリン、ラノリン、ヒマシ油、パラフィン系炭化水素(例えば、流動パラフィン等)等の従来公知のものが挙げられる。これら基剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、ウイルス不活化組成物をゲル状製剤とする場合は、例えば、カラギーナン、ジェランガム等の水溶性ゲル化剤、金属石鹸、オクチル酸アルミニウム等の油溶性ゲル化剤等、天然ゲル化剤又は合成ゲル化剤を従来公知の方法に従って、適宜添加することにより調製できる。
【0024】
上記衛生用品組成物としては、例えばローション、クリーム、シャンプー、ヘアコンディショナー、ハンドソープ、ボディシャンプー、洗顔料、入浴剤、フォーム、制汗剤、消臭剤、腋臭防止剤、口腔衛生用品(洗口液、歯磨、口中清涼剤、うがい薬等)等が挙げられる。
当該組成物は、化粧料等として許容される担体(例えば、希釈剤、分散剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、保湿剤、増粘剤、殺菌剤、香料等)を適宜組み合わせて常法により調製することができる。
【0025】
本発明におけるウイルス不活化剤を組成物として使用する態様における前記有効成分の含有量は、組成物の形態に応じて適宜決定できる。例えば、組成物の総量に対するα-ヘキシルシンナムアルデヒドの含有量は、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。また、99.999質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明におけるウイルス不活化剤によれば、ウイルス汚染が懸念される対象におけるウイルスの不活化が可能となる。α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物が適用されるウイルス汚染が懸念される対象としては、例えば、ウイルスが付着する動物の皮膚若しくは粘膜や無生物対象物の硬質若しくは軟質表面、廃棄物等の物体、ウイルスが飛沫する若しくは浮遊する生活空間が挙げられる。ここで、無生物対象物の表面としては、例えば、家庭や事業施設における、カウンタ、シンク、化粧室、トイレ、浴槽、シャワー台、床、窓、ドアノブ、壁、下水口、パイプ等の硬質表面;キッチン用品、家具、電話、玩具等の各種器具、道具、雑貨等の硬質表面;繊維製品(カーペット、エリアラグ、カーテン、布製家具、衣類、マスク等)等の軟質表面が挙げられる。
廃棄物としては、一般廃棄物(食材残渣、ティッシュペーパー、マスク等の家庭廃棄物)、産業廃棄物(汚泥、糞尿、医療廃棄物等)が挙げられる。廃棄物が袋に内包されている場合、袋表面を対象としても良い。
また、生活空間としては、玄関、ダイニングキッチン室、寝室、子供室、浴室、トイレ等の一般家庭内、販売店、食堂、旅館、病院、作業場、工場、ごみ集積場、検疫所、畜産農場、市場等の施設内、自動車、電車、航空機等の乗り物内、準密閉空間(ロッカー、物置、押入れ、クローゼット等;収納箱(おもちゃ用、カラオケ用マイク用、食器用、調味料用、筆記具用、文房具用))等が挙げられる。
【0027】
本発明におけるウイルス不活化剤において、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物は、ウイルス汚染が懸念される対象に適用されるが、その態様は特に限定されず、α-ヘキシルシンナムアルデヒドを液相又は気相でウイルスと接触又は反応させればよい。
α-ヘキシルシンナムアルデヒドを液相でウイルスと接触させる方法としては、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を処理対象にそのまま塗布する方法、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を拡散させて処理対象に振りかける方法、或いは、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を含浸させたシート、ガーゼ、タオル、おしぼり、ティッシュ、ウエットティッシュ等で対象表面を拭き取る方法等、の何れでもよい。
また、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を、例えば、トリガースプレー容器(直圧又は蓄圧型)やディスペンサータイプのポンプスプレー容器、耐圧容器を具備したエアゾールスプレー容器等の公知のスプレー容器に充填し、噴霧量を適宜調整して処理対象に噴霧する方法が挙げられる。また、加圧空気霧化噴霧装置、ネブライザー、ディフューザー等の霧化装置、ウオッシャーノズルやミスト機等の拡散装置に充填し、ウイルスが存在する空間中に噴霧する方法が挙げられる。ウイルス存在する空間中に霧状に散布して用いることによって、揮散速度を速めることができ、迅速にウイルス不活化効果を発揮させることができる。
【0028】
α-ヘキシルシンナムアルデヒドを気相でウイルスと接触又は反応させる方法としては、例えば、α-ヘキシルシンナムアルデヒドを自然揮散させる形態或いは強制揮散させる形態が挙げられる。これにより、生活空間に存在するウイルスを不活化でき、簡便に空間のウイルス除去(除ウイルス)が行える。
本発明におけるウイルス不活化剤を、自然揮散を目的として使用する場合、例えば、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を芯棒、濾紙等に染み込ませて揮散させる方法や透過膜を用いて揮散させる方法等の従来公知の方法が適用できる。また、樹脂にα-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を混練して使用することもできる。混練しうる樹脂としては、天然系、石油系、合成系のワックス、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル系樹脂等が挙げられる。上記の混練物は、そのまま用いることもできるし、多孔質担体に担持させたり、シート状にしたり、該シート状物を積層体にして用いることもできる。多孔質担体としては、例えば、セルロース、キトサン等の天然高分子、上記の合成樹脂、ケイ酸カルシウム等の無機多孔性物質等を、粒状、シート状等の任意の形状にしたものが挙げられる。上記の混練物や積層体は、例えば、空調設備、トイレ、浴室、居間、病室、病院の待合室、ダストボックス等に設置して、α-ヘキシルシンナムアルデヒドを徐々に揮散させながら利用することもできる。また、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物を紙や不織布等からなる製品(空気清浄器のフィルター等)に担持させて使用することもできる。
α-ヘキシルシンナムアルデヒドを強制揮散させて用いる場合、斯かる手段としては、例えば、ファン等を用いて揮散させる方法、ヒーター等を用いた加熱揮散方法、超音波によって揮散させる方法等が挙げられる。
なお、空間除ウイルス処理を行う場合、α-ヘキシルシンナムアルデヒド又はこれを含有する組成物の使用量は、処理の態様、気温・湿度等の空間環境、化合物の蒸気圧等によって適宜調整でき、化合物の空間における飽和濃度以上とすることも可能であるが、例えば、対象空間におけるα-ヘキシルシンナムアルデヒドの濃度が、当該化合物の空間における飽和濃度の0.1%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上であり、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下、より好ましくは25%以下で揮散するように使用することが挙げられる。
対象空間におけるα-ヘキシルシンナムアルデヒドの濃度は、空間より採取した気体中の化合物濃度を測定することで検出でき、揮発性有機化合物濃度測定器(VOC測定器、ニオイセンサー等)を用いる方法、ガス捕集管等を併用してガスクロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー/質量分析を用いて求める方法が挙げられる。
【実施例0029】
実施例1 液相でのインフルエンザウイルスの不活化と香りの官能評価
1.試験化合物
α-ヘキシルシンナムアルデヒド:花王(株)
シンナムアルデヒド:富士フィルム和光純薬(株)
4-メチルシンナムアルデヒド:富士フィルム和光純薬(株)
α-メチルシンナムアルデヒド:富士フィルム和光純薬(株)
α-ペンチルシンナムアルデヒド:富士フィルム和光純薬(株)
【0030】
2.方法
インフルエンザウイルスA型(A/Puerto Rico/8/1934,H1N1)株を試験ウイルス株として用いた。試験化合物6%(v/v)、ジプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬社製)60%(v/v)、UltraPure DNase/RNase-Free Distilled Water(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)34%(v/v)の溶液を化合物のストック溶液とし、プロテオセーブチューブ(住友ベークライト社製)内で使用まで4℃で保管した。ストック溶液をHybridoma-SFM(SFM;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で30倍に希釈した溶液を96穴のプロテオセーブプレート(住友ベークライト社製)に60μL添加し、そこにウイルス液60μL(7.8×10FFUもしくは8.3×10FFU)を添加し、化合物の終濃度が0.1%(v/v)となるようにして室温(約23℃)で30分反応させた。
反応後、SFMでウイルスを希釈し、あらかじめ12又は48穴プレートで培養していたMDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)に感染させ、Focus Forming Assayでウイルス力価を測定した。具体的には37℃、5%CO2条件下で約18時間培養後、形成されたフォーカス数を測定し、ウイルス感染力価を測定した。対照の1%(v/v)ジプロピレングリコール溶液と反応させた際の感染力価を100%とし、各化合物のウイルス感染力価を算出した。試験は3回行った。
【0031】
3.香りの官能評価
α-ヘキシルシンナムアルデヒド、シンナムアルデヒド、α-メチルシンナムアルデヒド及びα-ペンチルシンナムアルデヒドについて、香りの官能評価を行った。50mlのガラス管に2μlの試験化合物を入れ、ふたを閉め、室温(約23℃)で30分静置した。その後、香り強度の評価を専門の研究員4名で行った。
α-ペンチルシンナムアルデヒドを香り強度スコア3(標準)とし、そのほかの試験化合物の香り強度を下記5段階のスコアに中間のスコアも含めて9段階評価し、4名のスコア平均値を求めた。
(香り強度スコア)
1:非常に弱い
2:弱い
3:標準(※)
4:強い
5:非常に強い
※α-ペンチルシンナムアルデヒドの香り強度
【0032】
4.結果
表1に示すとおり、対照の1%(v/v)ジプロピレングリコール溶液に比べてα-ヘキシルシンナムアルデヒドは優れたウイルス不活化効果を示した。一方、α-メチルシンナムアルデヒド及びα-ペンチルシンナムアルデヒドのウイルス不活化作用は低かった。
また、表2に示すとおり、シンナムアルデヒド、4-メチルシンナムアルデヒドは香りが強く匂ったが、α-ヘキシルシンナムアルデヒドの香りは弱かった。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】