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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150336
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】銅材溶接用シールドガス
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20241016BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20241016BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20241016BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B23K9/16 J
B23K9/23 E
B23K9/167 A
B23K9/29 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063705
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】村田 政広
(72)【発明者】
【氏名】藤川 敦士
(72)【発明者】
【氏名】石井 正信
(72)【発明者】
【氏名】木村 駿介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 隆
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001CB02
4E001EA08
4E001LB02
4E001LH06
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを得ることができる銅材溶接用シールドガスを提供する。
【解決手段】タングステン電極を囲む第1ガス流路を流れる第1シールドガスと、第1ガス流路を囲む第2ガス流路を流れる第2シールドガスと、のうち一方または両方として銅材からなる母材の溶接に用いられる銅材溶接用シールドガスは、5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン電極を囲む第1ガス流路を流れる第1シールドガスと、前記第1ガス流路を囲む第2ガス流路を流れる第2シールドガスと、のうち一方または両方として銅材からなる母材の溶接に用いられる銅材溶接用シールドガスであって、
5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる、銅材溶接用シールドガス。
【請求項2】
前記銅材は無酸素銅である、請求項1に記載の銅材溶接用シールドガス。
【請求項3】
前記第1シールドガスとして用いられ、5体積%以上20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる、請求項1または請求項2に記載の銅材溶接用シールドガス。
【請求項4】
前記第2シールドガスとして用いられ、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる、請求項1または請求項2に記載の銅材溶接用シールドガス。
【請求項5】
前記第2シールドガスとして用いられ、20体積%以上50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる、請求項1または請求項2に記載の銅材溶接用シールドガス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅材溶接用シールドガスに関する。
【背景技術】
【0002】
TIG(Tungsten Inert Gas)溶接用トーチとして、タングステン電極と、タングステン電極を囲む第1ガス流路を形成する第1ノズルと、第1ノズルを囲む第2ガス流路を形成する第2ノズルと、を含むものが知られている。このような二重ノズル構造を有するトーチを用いてフェライト系ステンレス鋼を溶接する際に、第1ガス流路を流れるシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-86136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような二重ノズル構造のトーチを用いた溶接において、銅材の溶接に適したシールドガスが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを得ることができる銅材溶接用シールドガスを提供することを目的のひとつとする。
【発明の効果】
【0006】
本開示のシールドガスによれば、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】トーチの先端部分の一例を示す概略断面図である。
図2】銅材の溶接方法における各工程を示すフローチャートである。
図3】実施例において用いたサンプルを示す概略図である。
図4】サンプルに形成された溶融池が凝固した状態の一例を示す図である。
図5】溶接焼けのスコアが4であるサンプルの一例を示す図である。
図6】溶接焼けのスコアが1であるサンプルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。本開示に従う銅材溶接用シールドガスは、タングステン電極を囲む第1ガス流路を流れる第1シールドガスと、第1ガス流路を囲む第2ガス流路を流れる第2シールドガスと、のうち一方または両方として銅材からなる母材の溶接に用いられる銅材溶接用シールドガスである。銅材溶接用シールドガスは、5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる。
【0009】
溶接の際に、トーチから第1シールドガスおよび第2シールドガスが放出されつつ、タングステン電極と母材との間に電位差が形成される。タングステン電極と母材との電位差によって、タングステン電極と母材との間にアークが発生する。アークの熱によって、トーチから放出された第1シールドガスの一部と第2シールドガスの一部とがイオン化する。イオン化したシールドガスは、アークの導電体になる。ここで、ヘリウムガスは、アルゴンガスの電気抵抗よりも高い電気抵抗を有する。このため、第1シールドガスと第2シールドガスとのうち一方または両方として上記の銅材溶接用シールドガスを用いることにより、アルゴンガスを用いた場合と比較して、ヘリウムガスの電気抵抗に起因してアークのエネルギーが高くなる。これにより、良好な溶け込みが得られる。そして、ヘリウムガスは、アルゴンガスの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する。このため、第1シールドガスと第2シールドガスとのうち一方または両方として上記の銅材溶接用シールドガスを用いることにより、アルゴンガスを用いた場合と比較して、ヘリウムガスによって母材が効率的に冷却される。これにより、母材の酸化による溶接焼けが抑えられる。このようにして、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを得ることができる。
【0010】
上記の銅材溶接用シールドガスにおいて、銅材は無酸素銅であってもよい。銅材溶接用シールドガスは、無酸素銅の溶接にも好適である。
【0011】
上記の銅材溶接用シールドガスは、第1シールドガスとして用いられ、5体積%以上20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなってもよい。第1シールドガスは、第2シールドガスに比べてアークの近くでトーチから放出される。このため、第1シールドガスは、第2シールドガスに比べて溶け込みに寄与しやすくなる。銅材溶接用シールドガスを第1シールドガスとして用いることにより、ヘリウムガスによる溶け込みの効率が向上する。第1シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を20体積%以下に設定したとしても、十分な溶け込みを得ることができる。また、第1シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を20体積%以下に設定することにより、十分な溶け込みを得ながらも、アークの熱による溶接焼けが抑制される。これにより、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを効率的に得ることができる。
【0012】
上記の銅材溶接用シールドガスは、第2シールドガスとして用いられ、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなってもよい。第2シールドガスは、第1シールドガスに比べてアークの遠くでトーチから放出される。このため、第2シールドガスは、第1シールドガスに比べてアークの影響を受けにくくなる。銅材溶接用シールドガスを第2シールドガスとして用いることにより、ヘリウムガスによる母材の冷却効率が向上する。第2シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を10体積%以上に設定することにより、一層良好な溶け込みを得ることができる。また、第2シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を10体積%以上に設定することにより、上記の母材の冷却効率の向上によって溶接焼けが抑制される。これにより、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも一層良好な溶け込みを得ることができる。
【0013】
上記の銅材溶接用シールドガスは、第2シールドガスとして用いられ、20体積%以上50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなってもよい。
第2シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を20体積%以上に設定することにより、一層良好な溶け込みを得ることができる。第2シールドガスにおけるヘリウムガスが第1シールドガスに混入することがある。第2シールドガスから第1シールドガスに混入するヘリウムガスの量によって、第1シールドガスによる溶け込み量が変化する。第2シールドガスとして用いられる銅材溶接用シールドガスにおいてヘリウムガスの含有量を50体積%以下に設定することにより、第2シールドガスから第1シールドガスにヘリウムガスが混入した場合における溶け込み量の変化が抑えられる。これにより、銅材を溶接する際に一層良好な溶け込みをより安定的に得ることができる。
【0014】
[実施形態の具体例]
次に、銅材の溶接に用いるトーチおよび本開示の銅材溶接用シールドガスの具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
〔トーチの構造〕
図1は、トーチ1の先端部分の一例を示す概略断面図である。図1を参照して、トーチ1は、タングステン電極10と、第1ノズル11と、第2ノズル12と、を含む。トーチ1は、TIG溶接用トーチであって、いわゆる二重ノズル構造を有するトーチである。
【0016】
タングステン電極10は、例えば、棒状に形成されている。タングステン電極10は、タングステン電極10の長手方向に沿う中心軸を有する筒状の外周面100と、外周面100に接続されており先細り形状を有する先端部101と、を含む。タングステン電極10および母材9は、電源(図示しない)に接続されている。タングステン電極10は、例えば、電子放出率を高くするためのドーパントとして2%程度の酸化セリウムを含有するタングステン材からなる。
【0017】
第1ノズル11は、タングステン電極10の外周面100に対向する円筒状の第1内周面110と、第1内周面110と同心に配置された円筒状の第1外周面111と、を含む。第1内周面110とタングステン電極10との間には、第1ガス流路P1が形成される。すなわち、第1ノズル11は、タングステン電極10を囲む第1ガス流路P1を形成する。第1ガス流路P1には、第1シールドガス(内側シールドガス)が流れる。第1シールドガスは、第1ノズル11の先端の開口から放出される。図1における破線の矢印は、第1シールドガスが流れる方向を概念的に示す。
【0018】
第2ノズル12は、第1ノズル11の第1外周面111に対向する円筒状の第2内周面120と、第2内周面120と同心に配置された円筒状の第2外周面121と、を含む。第2内周面120と第1ノズル11との間には、第2ガス流路P2が形成される。すなわち、第2ノズル12は、第1ガス流路P1を囲む第2ガス流路P2を形成する。第2ガス流路P2には、第2シールドガス(外側シールドガス)が流れる。第2シールドガスは、第2ノズル12の先端の開口から放出される。図1における一点鎖線の矢印は、第2シールドガスが流れる方向を概念的に示す。
【0019】
母材9は、例えば、銅材からなる。銅材は、例えば、純銅、無酸素銅、タフピッチ銅などである。純銅は、銅の純度が99.99%以上の銅材であり、例えば、JIS H 3510に規定されるC1011である。無酸素銅は、銅の純度が99.96%以上の銅材であり、例えば、JIS H 3100に規定されるC1020である。タフピッチ銅は、銅の純度が99.90%以上の銅材であり、例えば、JIS H 3100に規定されるC1100である。
【0020】
母材9が銅材である場合、母材9の溶接には、第1シールドガスと第2シールドガスとのうち一方または両方として、5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる、銅材溶接用シールドガスが用いられる。「残部が実質的にアルゴンガスからなる」とは、銅材溶接用シールドガスの上記残部が、アルゴンガス以外に不可避的不純物のみを含む、との意味である。「不可避的不純物」とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、完全に除去することは困難であり、やむを得ないものとして許容されている不純物である。不可避的不純物の含有量は、たとえば0.1体積%以下であることが好ましい。また、不可避的不純物としての水の含有量は80体積ppm以下であることが好ましい。
【0021】
銅材溶接用シールドガスは、第1シールドガスとして用いられる場合、5体積%以上20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなっていてもよい。銅材溶接用シールドガスは、第2シールドガスとして用いられる場合、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなっていてもよい。銅材溶接用シールドガスは、第2シールドガスとして用いられる場合、20体積%以上50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなることが好ましい。
【0022】
〔銅材の溶接方法〕
図2は、銅材の溶接方法における各工程を示すフローチャートである。続いて、図1および図2を参照して、上記で説明したトーチ1を用いて、銅材からなる一対の母材9を溶接する溶接方法(銅材の溶接方法)について説明する。
【0023】
銅材の溶接方法は、接合されるべき一対の母材9を準備するステップ(ST1)と、第1シールドガスおよび第2シールドガスをトーチ1から放出しつつトーチ1のタングステン電極10と母材9との間にアークを形成することにより溶融池を一対の母材9にわたって形成するステップ(ST2)と、溶融池に向けて第1のシールドガスおよび第2のシールドガスをトーチ1から放出しつつトーチ1を母材9同士の境界線に沿って移動することにより当該境界線に沿って母材9を溶融させるステップ(ST3)と、溶融した母材9を凝固させるステップ(ST4)と、を含む。
【0024】
ステップST2において、タングステン電極10と母材9との間に電位差が形成される。タングステン電極10と母材9との電位差によって、タングステン電極10と母材9との間にアークが発生する。ステップST2およびステップST3において、アークの熱によって母材9が溶融する。また、アークの熱によって、第1シールドガスの一部と第2シールドガスの一部とがイオン化する。イオン化したシールドガスは、アークの導電体になる。
【0025】
第1シールドガスと第2シールドガスとのうち一方または両方として上記の銅材溶接用シールドガスを用いる。例えば、第1シールドガスおよび第2シールドガスを0.2L/分以下20.0L/分以上の流速でトーチ1から放出させる。また、ステップST3において、溶接線が延びる方向に交差するようにトーチ1を揺動させながら移動する、いわゆるウィービングを実施してもよい。また、例えば、銅または銅合金から構成される溶加材を用いてもよい。
【0026】
続いて、実施例を参照して本開示にかかる銅材溶接用シールドガスをより具体的に説明する。ただし、本開示はこれら実施例の記載によって限定して解釈されるものではない。
【0027】
〔評価試験1〕
図3は、実施例において用いたサンプルSを示す概略図である。図4は、サンプルSに形成された溶融池WPが凝固した状態の一例を示す図である。図5は、溶接焼けのスコアが4であるサンプルSの一例を示す図である。図6は、溶接焼けのスコアが1であるサンプルSの一例を示す図である。図3から図6において、X方向は母材90の長さ方向を示す。Y方向は母材90の厚さ方向を示す。Z方向は母材90の幅方向を示す。図5および図6は、母材90の上端縁91側から母材90の厚さ方向(Y方向)に見たサンプルSを示す。図5および図5において、母材90の上端縁91は図中で下を向いている。図5および図6において、サンプルSにおける母材90の焼け具合の理解を助けるためにサンプルSとともにスケールを比較対象として示している。
【0028】
溶接を行った場合の溶け込み量および溶接焼けを評価する目的で、上記の銅材の溶接方法に従って、サンプルSを準備した。具体的には、図3に示すように、トーチ1の先端を無酸素銅からなる板状の母材90の上端縁91に向けることにより、母材90の角部に溶融池WPを形成した。形成された溶融池WPを凝固させることにより、サンプルSを準備した。母材90は、5mmの板厚Tを有する。第1シールドガス(内側シールドガス)として、0体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた。第2シールドガス(外側シールドガス)として、90体積%以上100体積%以下のアルゴンガスを含有するガスを用いた。溶接機として、ダイヘン株式会社製A350Pを用いた。
【0029】
上記の条件で準備したサンプルSについて、溶け込み量および溶接焼けを評価した。図4を参照して、溶け込み量は、母材90において凝固した溶融池WPの深さDと奥行きLと幅Wとを掛け算した積である。溶接焼けは、母材90の焼け具合(酸化具合)であり、評価者3人が目視により総合的に判定した。溶接焼けのスコアとして、図5に示すようにサンプルSにおいて母材90の焼け具合が少ないものを「4」とした。溶接焼けのスコアが4である母材90の焼け具合は、第1シールドガスと第2シールドガスとの両方としてアルゴンガスを用いてサンプルSを準備した場合の母材90の焼け具合と同等である。溶接焼けのスコアが「4」であるものと比較して母材90の焼け具合が大きいものを、母材90の焼け具合が大きくなる順に「3」、「2」とした。溶接焼けのスコアが「2」であるものと比較して母材90の焼け具合が大きいものであって、図6に示すようにサンプルSにおいて母材90の焼け具合が顕著なものを「1」とした。
【0030】
表1に、評価試験1の結果を示す。表1は、左列から順に、第1シールドガスのアルゴンガスの含有率(体積%)、第1シールドガスのヘリウムガスの含有率(体積%)、第2シールドガスのアルゴンガスの含有率(体積%)、第2シールドガスのヘリウムガスの含有率(体積%)、左記の組成を有する第1シールドガスおよび第2シールドガスを用いて準備したサンプルSの数、左記の数のサンプルSからなるサンプル群における溶け込み量の平均値(mm)、左記の数のサンプルSからなるサンプル群における溶接焼けの平均スコアを示す。なお、表中の「-」は、対象のガスが含まれていないことを示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<溶け込み量の評価結果>
表1に示すように、第1シールドガスとして100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合、溶け込み量は10.4mmであった。これに対して、第1シールドガスとして、5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量は12.5mm以上120.0mm以下であり、優れていた。このうち、10体積%超え75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量は21.7mm以上120.0mm以下であり、さらに優れていた。このうち、15体積%超え75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量は27.2mm以上120.0mm以下であり、さらに優れていた。
【0033】
<溶接焼けの評価結果>
表1に示すように、第1シールドガスとして、50体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアはいずれも2であった。これに対して、第1シールドガスとして、10体積%以上20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアはいずれも3であり、優れていた。また、第1シールドガスとして、5体積%以上10体積%未満である5体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアは4であり、優れていた。
【0034】
<総合評価>
第1シールドガスとして、5体積%以上20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量および溶接焼けのスコアがともに優れていた。このうち、10体積%超え20体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量がさらに優れていた。このうち、15体積%超え20体積%以下である20体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量が最も優れていた。
【0035】
〔評価試験2〕
溶接を行った場合の溶け込み量および溶接焼けを評価する目的で、上記の銅材の溶接方法に従って、サンプルSを準備した。評価試験2において、第1シールドガス(内側シールドガス)として、90体積%以上100体積%以下のアルゴンガスを含有するガスを用いた。第2シールドガス(外側シールドガス)として、0体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた。その他の、サンプルSの準備条件および評価対象は、上記の評価試験1と同じである。
【0036】
表2に、評価試験2の結果を示す。表2は、左列から順に、第1シールドガスのアルゴンガスの含有率(体積%)、第1シールドガスのヘリウムガスの含有率(体積%)、第2シールドガスのアルゴンガスの含有率(体積%)、第2シールドガスのヘリウムガスの含有率(体積%)、左記の組成を有する第1シールドガスおよび第2シールドガスを用いて準備したサンプルSの数、左記の数のサンプルSからなるサンプル群における溶け込み量の平均値(mm)、左記の数のサンプルSからなるサンプル群における溶接焼けの平均スコア、左記の数のサンプル群における溶け込み量の標準偏差を示す。なお、表中の「-」は、対象のガスが含まれていないことを示す。標準偏差の値は、不偏分散の平方根として求めた値である。
【0037】
【表2】
【0038】
<溶け込み量の評価結果>
表2に示すように、第2シールドガスとして100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合、溶け込み量は10.4mm以上12.9mm以下であった。これに対して、第2シールドガスとして、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量は19.4mm以上50.0mm以下であり、優れていた。このうち、20体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量は25.0mm以上50.0mm以下であり、さらに優れていた。
【0039】
表2に示すように、第2シールドガスとして、75体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量の標準偏差は11.96であった。これに対して、第2シールドガスとして、50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量の標準偏差は5.85以下であり、溶け込み量の変化が抑えられた。
【0040】
<溶接焼けの評価結果>
表2に示すように、第2シールドガスとして100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合、溶接焼けのスコアは3または4であった。第2シールドガスとして、10体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアは3であった。また、第2シールドガスとして、50体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアはいずれも3であった。第2シールドガスとして、10体積%超え50体積%未満である20体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアは4であった。
【0041】
<総合評価>
第2シールドガスとして、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合と比較して、溶け込み量が優れていた。このうち、20体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量がさらに優れていた。また、第2シールドガスとして、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合と比較して、溶接焼けのスコアが同等であった。このうち、10体積%超え50体積%未満である20体積%のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶接焼けのスコアが最も優れていた。すなわち、第2シールドガスとして、10体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、100体積%のアルゴンガスを含有するガスを用いた場合と比較して、溶接焼けのスコアが同等でありながらも溶け込み量が優れていた。
【0042】
第2シールドガスとして、50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、溶け込み量がより安定的に得られた。すなわち、第2シールドガスとして、20体積%以上50体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなるガスを用いた場合、さらに優れた溶け込み量がより安定的に得られた。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 トーチ、10 タングステン電極、11 第1ノズル、12 第2ノズル、100 外周面、101 先端部、110 第1内周面、111 第1外周面、120 第2内周面、121 第2外周面、9 母材、90 母材、91 上端縁、D 深さ、L 奥行き、幅 W、T 板厚、S サンプル、WP 溶融池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記のような二重ノズル構造のトーチを用いた溶接において、銅材の溶接に適したシールドガスが望まれる。本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、銅材を溶接する際に溶接焼けを抑えつつも良好な溶け込みを得ることができる銅材溶接用シールドガスを提供することを目的のひとつとする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示に従う銅材溶接用シールドガスは、タングステン電極を囲む第1ガス流路を流れる第1シールドガスと、第1ガス流路を囲む第2ガス流路を流れる第2シールドガスと、のうち一方または両方として銅材からなる母材の溶接に用いられる銅材溶接用シールドガスである。銅材溶接用シールドガスは、5体積%以上75体積%以下のヘリウムガスを含有し残部が実質的にアルゴンガスからなる。