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特開2024-150337コンクリート補強用繊維、コンクリート成形品及び成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150337
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】コンクリート補強用繊維、コンクリート成形品及び成形方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 14/42 20060101AFI20241016BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C04B14/42 B
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063708
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】518050171
【氏名又は名称】新日本繊維株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】深澤 裕
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】川口 哲
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA17
(57)【要約】
【課題】 フレッシュコンクリートに良好に分散させ得て、成形固化後のコンクリート成形品に高い機械強度を与え得るコンクリート補強用無機繊維、コンクリート成形品及び成形方法の提供。
【解決手段】 コンクリート補強用繊維は、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体である。成形方法は、コンクリート補強用繊維をフレッシュコンクリートに加えて混練し変形させてストランドの間にフレッシュコンクリートを侵入させるとともに棒状体に自己復元させ、コンクリート成形品中で内部にコンクリートを含ませつつ棒状体として分散させる。コンクリート成形品は、フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を分散させて成形し固化させた成形品である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレッシュコンクリートに分散させて成形し固化させてコンクリート成形品を与えるコンクリート補強用繊維であって、
非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、
前記フレッシュコンクリートに加えられて混練され変形しながら前記ストランドの間に前記フレッシュコンクリートを侵入させるとともに前記棒状体に自己復元する剛性を有し、
前記コンクリート成形品中で内部にコンクリートを含みつつ前記棒状体として分散されることを特徴とするコンクリート補強用繊維。
【請求項2】
前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項3】
前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴とする請求項2記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項4】
前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴とする請求項3記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項5】
前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項6】
フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を分散させて成形し固化させるコンクリート成形品の成形方法であって、
前記コンクリート補強用繊維は、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、
前記コンクリート補強用繊維を前記フレッシュコンクリートに加えて混練し変形させて前記ストランドの間に前記フレッシュコンクリートを侵入させるとともに前記棒状体に自己復元させ、前記コンクリート成形品中で内部にコンクリートを含ませつつ前記棒状体として分散させることを特徴とするコンクリート成形品の成形方法。
【請求項7】
前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴とする請求項6記載のコンクリート成形品の成形方法。
【請求項8】
前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴とする請求項7記載のコンクリート成形品の成形方法。
【請求項9】
前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴とする請求項8記載のコンクリート成形品の成形方法。
【請求項10】
前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴とする請求項6乃至9のうちの1つに記載のコンクリート成形品の成形方法。
【請求項11】
フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を分散させて成形し固化させたコンクリート成形品であって、
前記コンクリート補強用繊維は、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、
前記コンクリート補強用繊維が内部にコンクリートを含みつつ前記棒状体として分散させられていることを特徴とするコンクリート成形品。
【請求項12】
前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴とする請求項11記載のコンクリート成形品。
【請求項13】
前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴とする請求項12記載のコンクリート成形品。
【請求項14】
前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴とする請求項13記載のコンクリート成形品。
【請求項15】
前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴とする請求項11乃至14のうちの1つに記載のコンクリート成形品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートに分散させて成形し固化させることで機械強度を高めたコンクリート成形品を与えるコンクリート補強用繊維、コンクリート成形品及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンのような汎用熱可塑性樹脂からなるコンクリート補強用樹脂繊維をフレッシュコンクリートに分散させて成形し固化させることで機械強度を高めたコンクリート床やコンクリート構造物、コンクリート成形品など(以下、これらを単に「コンクリート成形品」と称する。)が提供されている。かかるコンクリート補強用樹脂繊維はコンクリート成形品におけるひび割れの進展を抑制し機械強度を高め得る。近年では、汎用熱可塑性樹脂よりも強度に優れた材料からなるコンクリート補強用樹脂繊維も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維からなる繊維束を撚糸し、表面をイソシアネート化合物を主成分とする樹脂で被覆してなるコンクリート補強用樹脂繊維が開示されている。ここでは、撚り係数を一定の範囲内とすることで、樹脂で集束されたときの補強材としての一体化が高まり、フレッシュコンクリート中で混練されても集束を維持し、材料の流動性と施工性とを確保することができるとしている。
【0004】
ところで、石炭火力発電の廃棄物である「フライアッシュ」からなるフライアッシュファイバは、耐熱性とともに耐アルカリ性に優れることからコンクリート中でも安定性に優れ、コンクリート補強材としての使用も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献2では、このようなフライアッシュを利用した無機繊維のうち、従来以上の高強度を呈する無機繊維が開示されている。石炭の燃焼後に捕集された球形微細粒子のフライアッシュを所定に成分調整することで、その溶融開始温度、粘度などのパラメータを制御し長繊維へと成形する。かかる無機繊維は、非晶性に富み、結晶相/非晶質相界面での剥離に起因する機械強度の低下を生じさせないため、高い機械強度を得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-111632号公報
【特許文献2】特開2022-163187号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石炭灰を高温溶融し繊維化したフライアッシュファイバーを用いた繊維補強モルタルの力学的挙動;礒健一,明永卓也;日本建築学会構造系論文集第496号, 1-8, 1997年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示の無機繊維は、ほとんど吸水性を示さないことから、短く切断してフレッシュコンクリート中に混練してコンクリート補強材としても水分量を変化させず、コンクリートフレッシュ性に優れることが期待される。一方で、コンクリート補強材としての利用には、フレッシュコンクリート中にて十分に分散させ、かつ、固化後に大規模な空隙ができないように分散させる必要もある。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、フレッシュコンクリートに良好に分散させ得て、成形固化後のコンクリート成形品に高い機械強度を与え得るコンクリート補強用繊維、コンクリート成形品及び成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、フレッシュコンクリートに分散させて成形し固化させてコンクリート成形品を与えるコンクリート補強用繊維であって、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、前記フレッシュコンクリートに加えられて混練され変形しながら前記ストランドの間に前記フレッシュコンクリートを侵入させるとともに前記棒状体に自己復元する剛性を有し、前記コンクリート成形品中で内部にコンクリートを含みつつ前記棒状体として分散されることを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートに良好に分散し成形固化後のコンクリート成形品に高い機械強度を与え得るのである。
【0012】
上記した発明において、前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定して高い機械強度を与え得るのである。
【0013】
上記した発明において、前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定してより高い機械強度を与え得るのである。
【0014】
上記した発明において、前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴としてもよい。また、前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートに良好に分散し成形固化後のコンクリート成形品により高い機械強度を与え得るのである。
【0015】
本発明による成形方法は、フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を分散させて成形し固化させるコンクリート成形品の成形方法であって、前記コンクリート補強用繊維は、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、前記コンクリート補強用繊維を前記フレッシュコンクリートに加えて混練し変形させて前記ストランドの間に前記フレッシュコンクリートを侵入させるとともに前記棒状体に自己復元させ、前記コンクリート成形品中で内部にコンクリートを含ませつつ前記棒状体として分散させることを特徴とする。
【0016】
かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を良好に分散せしめ、成形固化後に高い機械強度を得られるのである。
【0017】
上記した発明において、前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定して高い機械強度を与え得るのである。
【0018】
上記した発明において、前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定してより高い機械強度を与え得るのである。
【0019】
上記した発明において、前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴としてもよい。また、前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートに良好に分散し成形固化後のコンクリート成形品により高い機械強度を与え得るのである。
【0020】
本発明による成形品は、フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を分散させて成形し固化させたコンクリート成形品であって、前記コンクリート補強用繊維は、非吸水性の無機単繊維を束ねたストランドを複数束ねてねじりを加えられ表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定された可撓性を有する棒状体であり、前記コンクリート補強用繊維が内部にコンクリートを含みつつ前記棒状体として分散させられていることを特徴とする。
【0021】
かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートにコンクリート補強用繊維を良好に分散せしめ、成形固化後に高い機械強度を得られるのである。
【0022】
上記した発明において、前記無機単繊維は耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定して高い機械強度を与え得るのである。
【0023】
上記した発明において、前記ストランドは複数束ねた前記無機単繊維にねじりを加え表面の一部に樹脂を付与されてねじり形状を固定されたものであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形固化後のコンクリート成形品に安定してより高い機械強度を与え得るのである。
【0024】
上記した発明において、前記無機単繊維の引張弾性率は50~100GPaであって、前記棒状体としての引張弾性率を20~50GPaとすることを特徴としてもよい。また、前記棒状体としての剛軟度を200~1000mNとすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、フレッシュコンクリートに良好に分散し成形固化後のコンクリート成形品により高い機械強度を与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明による1つの実施例におけるコンクリート補強用繊維の(a)外観写真及び(b)拡大写真である。
図2】(a)ストランド及び(b)コンクリート補強用繊維の構造を示す斜視図である。
図3】製造試験の結果を示す一覧表でる。
図4】コンクリート補強用繊維のねじり回数と空隙率との関係を示すグラフである。
図5】(a)実施例2及び(b)比較例3のスランプ試験結果の外観写真である。
図6】実施例2のコンクリート補強用繊維に侵入したコンクリートの写真である。
図7】単繊維についての比較試験の結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による1つの実施例としてのコンクリート補強用繊維について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本実施例において、粗骨材を含有しないモルタルについても「コンクリート」の語に含まれるものとする。
【0027】
図1に示すように、コンクリート補強用繊維10は、ねじり形状を与えられた略棒状体を呈する短い繊維体である。コンクリート補強用繊維10は、フレッシュコンクリートに加えて混錬するとフレッシュコンクリートから受ける力によって曲げ方向に弾性変形する程度の比較的高い可撓性を有し、その後、棒状体に自己復元することができる程度の比較的高い剛性を有する。これについては後述する。
【0028】
図2に示すように、このようなコンクリート補強用繊維10は、非吸水性の無機単繊維1を用いて形成される。まず、無機単繊維1を束ねてストランド2を形成する(同図(a)参照)。このとき、ストランド2を固化前の樹脂に浸けて引き上げつつ余分な樹脂をしごき除去してから固化させその表面の一部又は全体に樹脂を与えて束を固定し得る。なお、無機単繊維1を束ねてねじりを加えてストランド2を形成してもよい。そして、ストランド2を複数束ねてねじりを加え、上記同様に固化前の樹脂に浸けて引き上げて固化させ、その表面の一部又は全体に樹脂を付与してかかるねじり形状を固定させる。そして、所定の長さに切断してコンクリート補強用繊維10を得る。典型的には、長さ30mm、直径1mmの棒状体とされる。以上によって上記したような可撓性及び剛性を有するコンクリート補強用繊維10が得られる。
【0029】
なお、ストランド2を形成する際に、無機単繊維1を予め所定の長さに切断してから束ねても良い。また、コンクリート補強用繊維10は、フレッシュコンクリートに加えて混錬されて曲げ変形を与えられるが、このとき、屈曲変形するなどして樹脂の間から吸水性を有しない無機単繊維1が露出することがあってもよい。
【0030】
無機単繊維1としては、耐アルカリ性を有する石炭灰由来の非晶質無機繊維からなることが好ましい。耐アルカリ性を有することで、コンクリート補強用繊維10は、腐食されることなくコンクリート成形品の内部で化学的に安定して、上記した可撓性及び剛性を維持し得る。具体的には、石炭灰のフライアッシュを原料とした非晶質無機繊維を好適に用い得る。また、樹脂としては、耐アルカリ性に優れる樹脂、例えば、エポキシ樹脂を好適に用い得る。
【0031】
コンクリート補強用繊維10は、上記したようにフレッシュコンクリートとともに混錬し成形・固化させてコンクリート成形品を得た場合に、その内部にコンクリートが挿入されている。つまり、ストランド2や無機単繊維1の間にコンクリートが侵入して固化している。これは、コンクリート補強用繊維10が、フレッシュコンクリートに加えられて混練され変形し、屈曲することで、ストランド2や無機単繊維1同士の隙間を形成し、その隙間にフレッシュコンクリートを侵入させたことになる。一方で、コンクリート補強用繊維10は棒状体に自己復元する剛性を有するから、その内部にコンクリートを含ませた状態でコンクリート成形品内に分散された状態となる。
【0032】
このようなコンクリート補強用繊維10は、非吸水性の無機単繊維1を用いても、無機単繊維1同士の間、ストランド2同士の間に隙間を有するために吸水性を有する。一般に、吸水性の高い繊維の場合、周囲のフレッシュコンクリートの水分を減じて流動性を低下させ、フレッシュコンクリート中で十分に分散できずに、得られるコンクリート成形品の内部に空洞を生じることがある。これに対し、コンクリート補強用繊維10では、上記したように、内部にコンクリートを侵入させるため、吸水性を有していても水分と合わせてコンクリートも取り込み、周囲のフレッシュコンクリートの水分を大きく減じることがない。つまり、コンクリート補強用繊維10は、混練されたフレッシュコンクリートの流動性を高く維持できて、混練によってフレッシュコンクリート中に良好に分散する。また、コンクリート補強用繊維10は、内部にコンクリートを侵入させるから、周囲のコンクリートへの馴染みがよく、密着性が高いため、固化後のコンクリート成形品にあっても良好な分散状態を維持できる。
【0033】
このような吸水性や内部へのコンクリートの侵入量は、ストランド2に束ねる無機単繊維1の本数や、束ねるストランド2の本数、ねじり、固定する樹脂やその量などで調整し得る。このような吸水性やコンクリートの侵入性を得るため、コンクリート補強用繊維10には空隙を有することが好ましい。かかる空隙は、コンクリートの侵入を許容しやすくする観点からは大きいことが好ましく、コンクリート補強用繊維として高い機械強度を維持する観点からは小さいことが好ましい。つまり、空隙率には好ましい範囲があって、例えば、10~60体積%の範囲内とし得るが、好ましくは、10~30体積%の範囲内である。
【0034】
また、コンクリート補強用繊維10は、ねじりを有しており、その表面に凹凸を形成している。かかる凹凸によって、コンクリート補強用繊維10は、成形固化したコンクリート成形品の中で周囲のコンクリートに対して高い摩擦力を得ており、コンクリート成形品に高い機械強度を与え得る。ねじりを加えてストランド2を形成することも、この摩擦力の向上に寄与し得る。加えて、上記したように、コンクリート補強用繊維10は、その内部にコンクリートを侵入させているため、かかる摩擦力をさらに高めて、コンクリート成形品により高い機械強度を与え得る。
【0035】
このようなコンクリート補強用繊維10を得るための無機単繊維1としては、引張弾性率を50~100GPaの範囲内、好ましくは、80~100GPaの範囲内とする。これにより、上記したような可撓性及び剛性をコンクリート補強用繊維10に比較的容易に付与できる。また、コンクリート補強用繊維10は、引張弾性率を20~50GPaの範囲内、好ましくは、30~40GPaの範囲内とし、曲げ剛性を直接的に評価する観点からは、剛軟度を200~1000mNの範囲内、好ましくは、300~800mNの範囲内とする。これらによって、コンクリート補強用繊維10の有する可撓性及び剛性を上記の如きになし得る。
【0036】
[製造試験]
上記したコンクリート補強用繊維10を製造した結果について、図3乃至図5を用いて説明する。
【0037】
図3に示すように、コンクリート補強用繊維10のねじりを変えた実施例1~4について各種測定を行った。なお、コンクリート補強用繊維10は、無機単繊維1としてフライアッシュ(石炭灰)に調整剤を調合した非晶質無機繊維であるBASHFIBER(登録商標、新日本繊維株式会社製)を使用し、樹脂としてエポキシ樹脂を使用して得られたものである。
【0038】
吸水率は、乾燥時と吸水時の重量差から求めた。実施例1~4では、ねじりによって異なるものの、いずれもアラミド繊維における吸水率(図7参照)と同等の比較的高い吸水率を示した。なお、実施例1~4に用いたBASHFIBERの吸水率は0wt%であった(図7参照)。つまり、この吸水率は、無機単繊維1同士やストランド2同士の間隙によるものと考えられる。
【0039】
図4を併せて参照すると、実施例1~4のねじりに対する空隙率をグラフ上にプロットしたところ、ねじりに対して空隙率が一定の変化をすることが判った。つまり、空隙率は少なくともねじりによって調整可能である。なお、空隙率は吸水率の体積分率から求めた。また、併せて、樹脂率(樹脂量の質量分率及び体積分率)も求め、記録した。なお、樹脂率については、樹脂の密度1.4g/cm、無機単繊維1の密度3.0g/cmを用いて求めた。
【0040】
引張弾性率及び引張強度は、それぞれの繊維から60cmの繊維束を製造して引張試験を行って測定した。実施例1~4の引張弾性率はねじりによって20.6~48.3GPaの幅があるが、比較的高い値であった。つまり、実施例1~4は、フレッシュコンクリートと混錬した際に、弾性限内で曲がりを生じたときに比較的高い剛性によって棒状体に自己復元するものと推定される。また、引張強度は、実施例4が他の実施例よりも劣るものの、いずれも比較的高い値であった。
【0041】
剛軟度は、JIS L1085 6.1.0.3 ガーレ法にて測定した。実施例1~4の剛軟度はねじりによって345.8~738.3mNの幅があった。つまり、剛軟度はねじりによって調整され得て、上記したような可撓性をさらに調整することができる。
【0042】
スランプ値は、JIS A 1101:2020 コンクリートのスランプ試験法に則り、それぞれの繊維を10vol%加えフレッシュコンクリートと混錬し、スランプ試験を行って測定した。なお、測定には簡易的に高さ15cmのスランプコーンを用い、高さ30cmのスランプコーンを用いた場合のスランプ値に換算した。実施例1~4のスランプ値は、いずれも国土交通省により設定された参考値である12cmを超え、コンクリート成形品を得るために必要な流動性を備えていることが判った。なお、比較的吸水率の高い実施例1のスランプ値が他の実施例よりもやや小さな値となった。
【0043】
図5を併せて参照すると、スランプ試験において、実施例2では、特に大きな空隙を発生することなくコンクリート補強用繊維10がフレッシュコンクリート中に良好に分散して良好なフレッシュ性状を得ていた(同図(a)参照)。これに対し、比較のために直径0.48mmに束ねられたアラミド繊維を用いて同様のスランプ試験を行った場合に、大きな空隙を生じた(同図(b)参照)。上記したように、アラミド繊維が水分を吸収して周囲のフレッシュコンクリートの流動性を減じてしまったためと考えられる。
【0044】
コンクリート付着強度は、コンクリート補強用繊維10の端部1cmをフレッシュコンクリートに埋め込み固化させて、他端部をガラスクロスと樹脂で補強し掴み、引っ張って強度を求めた。なお、実施例2では、試験部位を引き抜くよう破断させることなくつかみ部が抜けてしまったため、そのときの最大荷重に不等号を付して記録した。つまり、実施例2は、測定装置の能力を超える高い付着強度を有していた。なお、実施例1、3及び4については、実施例2と同等の付着強度を有すると推定され、同様に測定装置の能力を超えると予想された。よって実施例2以外についての付着強度の測定は行わなかった。
【0045】
コンクリート曲げ強度は、付着強度の代替試験として実施した。セメントペーストにコンクリート補強用繊維10を埋め込み、固化させ、支持幅2.7cmとして3点曲げ試験により擬似付着強度を測定した。いずれも1MPa以上の高い値を得たが、特に実施例2~4では2MPa以上と非常に高い値を得た。つまり、上記した比較例2の付着強度試験と併せて考察すると、実施例1~4の付着強度も比較的高いものと考えられる。
【0046】
以上のように、本実施例によるコンクリート補強用繊維10は高い吸水率を有しつつも混練されたときにフレッシュコンクリートに必要とされる流動性を損なうことなく良好に分散し、上記した可撓性や自己復元する比較的高い剛性を有する。さらに高い引張強度を有するとともに、コンクリートに対する高い付着強度を有しつつ、コンクリート成形品においても良好な分散を維持するものである。よって、コンクリート補強用繊維10を混錬して打設したコンクリートは、高い機械強度を与えられる。
【0047】
なお、図6に示すように、コンクリート補強用繊維10の内部にはコンクリートが侵入していたことが判った。同図は、実施例2の固化後のコンクリートからコンクリート補強用繊維10の部分を取出し、さらに繊維をほぐして一部のストランドを取り除いた状態を示したものである。コンクリートは、特に、ねじりに合わせてストランド同士の間に侵入していることが判った。
【0048】
[参考試験]
さらに、本実施例におけるコンクリート補強用繊維10に用いたBASHFIBER(実施例)について、他の繊維と比較した。
【0049】
図7に示すように、引張弾性率、吸水率を測定した。測定は上記したコンクリート補強用繊維10についての測定と同様に行った。また、実施例及び比較例2(ガラス繊維)についてのアルカリ溶解率の測定も行った。アルカリ溶解率は、95℃に加温した0.1mol/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬させた後の質量減少率として求めた。
【0050】
実施例の引張弾性率は89GPaとなり、上記した50~100GPaの範囲内であった。また、吸水率は0wt%であり、アルカリ溶解率は0.37wt%と非常に小さかった。
【0051】
上記した製造試験では、このような、非吸水性の無機単繊維を用いることで、上記したようなコンクリート補強用繊維を得ることができた。すなわち、実施例のBASHFIBERから得られるコンクリート補強用繊維に、上記したような制御された吸水率や可撓性及び剛性を与えることができた。さらに、高い耐アルカリ性を有することで得られるコンクリート補強用繊維にも高い耐アルカリ性を付与し得る。
【0052】
一方、比較例1のポリプロピレン繊維の場合、非吸水性を有するものの、引張弾性率が2GPaと非常に小さかった。そのため、ポリプロピレン繊維では、上記したような可撓性及び剛性をコンクリート補強用繊維に付与することは難しいと考えられる。
【0053】
比較例2のガラス繊維の場合、非吸水性であり、実施例と同等の引張弾性率を有するものの、アルカリ溶解率が1.66wt%と大きかった。そのため、ガラス繊維は、コンクリート補強用繊維の材料としては適さない。
【0054】
比較例3のアラミド繊維の場合、実施例と同等の引張弾性率を有するものの、吸水率が高かった。上記したように、吸水率が高いと水分を吸収して周囲のフレッシュコンクリートの流動性を減じてしまう(図5参照)。そのため、アラミド繊維は、コンクリート補強用繊維の材料としては適さない。
【0055】
比較例4の炭素繊維の場合、非吸水性を有するものの、引張弾性率が235GPaと非常に高い値であった。そのため、炭素繊維は、上記したような可撓性及び剛性を付与することは難しく、コンクリート補強用繊維の材料としては適さない。
【0056】
このように、本実施例によるコンクリート補強用繊維10と同等のコンクリート補強能を与え得る繊維素材としては、非吸水性であり、上記した可撓性及び剛性をコンクリート補強用繊維に付与し得る機械的性質を有するものである。
【0057】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0058】
1 無機単繊維
2 ストランド
10 コンクリート補強用繊維

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7