(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150340
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】冷却装置および線材コイルの冷却方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/52 20060101AFI20241016BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20241016BHJP
C21D 9/54 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C21D9/52 104
C21D1/00 123Z
C21D9/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063713
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 豪志
(72)【発明者】
【氏名】森 雅史
(72)【発明者】
【氏名】浅井 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】神▲辺▼ 省吾
(72)【発明者】
【氏名】牧野 佑哉
【テーマコード(参考)】
4K034
4K043
【Fターム(参考)】
4K034AA02
4K034AA05
4K034AA16
4K034AA19
4K034BA02
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB05
4K034DB06
4K034FA01
4K034FA05
4K034FB03
4K034FB07
4K034FB08
4K034FB09
4K034GA08
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4K043AA02
4K043CA02
4K043CB01
4K043CB03
4K043CB04
4K043DA05
4K043EA01
4K043FA03
4K043FA07
4K043FA12
4K043FA13
4K043GA03
4K043GA06
(57)【要約】
【課題】従来の大気放冷や衝風冷却よりも短時間で線材コイルを冷却することが可能な新規な構造の冷却装置を提供する。
【解決手段】冷却装置16は、被処理物Sを収容する冷却室34と、冷却室34に配置された複数の噴霧ノズル42を含んで構成され、冷却室34内の被処理物Sに向けて冷却水を噴霧する水冷機構部41と、送風ファン85を含んで構成され、冷却室34内の被処理物Sに対して外気を冷却風として送風する送風機構部84と、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する冷却室と、
該冷却室に配置された複数の噴霧ノズルを含んで構成され、前記冷却室内の前記被処理物に向けて冷却水を噴霧する水冷機構部と、
送風ファンを含んで構成され、前記冷却室内の前記被処理物に対して外気を冷却風として送風する送風機構部と、
を備えている、冷却装置。
【請求項2】
前記水冷機構部は、
前記被処理物の上方に設けられ、前記被処理物の上面に向けて冷却水を噴霧する複数の前記噴霧ノズルから成るノズル群と、
前記被処理物の側方に設けられ、前記被処理物の側面に向けて冷却水を噴霧する複数の前記噴霧ノズルから成るノズル群と、
を備えている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記冷却室の上方に設けられた排気ダクトと、前記冷却室の上壁から上方に延びて前記排気ダクトに接続された排気管と、を更に備え、前記冷却室内のガスを前記排気管を介して前記排気ダクトへ排気するとともに、
前記排気管の上端は前記排気ダクトの底部よりも高く差し込まれて、前記排気管と前記排気ダクトとの繋ぎ部に水止め用の段差部が設けられ、
前記排気ダクトの底部にはドレン抜き配管が接続されている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷却室の上壁には側壁に近づくほど高さが低くなる傾斜部が形成されている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記噴霧ノズルに水を供給する水供給管に接続されて、該水供給管および前記噴霧ノズルに向けて高圧エアを送出する高圧エア供給管と、
前記噴霧ノズルに対し水を供給する水供給流路と、前記噴霧ノズルに対し高圧エアを供給する高圧エア供給流路を切換える流路切換え手段と、
を更に備えている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記送風機構部は、
前記冷却室の側壁に設けられた第1の冷却風吹出口と、
前記冷却室の側壁の、前記第1の冷却風吹出口とは異なる高さに設けられた第2の冷却風吹出口と、
前記送風ファンから送り出された冷却風をこれら第1の冷却風吹出口および第2の冷却風吹出口に案内する案内ダクトと、
該案内ダクトの、前記第1の冷却風吹出口と第2の冷却風吹出口と繋ぐ流路上に設けられた風量調整用ダンパと、
を更に備えている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項7】
請求項1に記載の冷却装置を用いて、前記被処理物としての線材コイルを冷却する方法であって、
加熱された前記線材コイルを前記冷却室に収容するステップと、
前記冷却室に収容された前記線材コイルに向けて冷却水を噴霧する水冷ステップと、
前記水冷ステップの後、前記線材コイルに対して外気を冷却風として衝風して更に冷却する空冷ステップと、
を実行する、線材コイルの冷却方法。
【請求項8】
上下2段に縦積みした縦積みコイル体の状態で加熱された前記線材コイルに対して、前記縦積みコイル体の状態のままで前記水冷ステップおよび空冷ステップを実行する、請求項7に記載の線材コイルの冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は冷却装置およびこれを用いた線材コイルの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材をコイル状に巻回した線材コイルの熱処理において、加熱・均熱の工程に続く冷却の工程は大気放冷もしくは衝風冷却によって行われるのが一般的である。ここで線材コイルの熱処理における生産性を高めるためには、短時間で冷却することが望ましい。
【0003】
下記特許文献1では、線材コイルを急速冷却する方法として、線材コイルの上端に塞ぎ板を当てた状態で、線材コイルの内部に空気を送り込む方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の急冷方法は1つのコイルごとに大型の送風ファンが必要となるため、複数の線材コイルを一度に冷却しようとするとランニングコストが高くなってしまう。またこれに加えて、2段に縦積みされた状態の線材コイルに適用することが難しいなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、従来の大気放冷や衝風冷却よりも短時間で線材コイルを冷却することが可能な新規な構造の冷却装置およびこれを用いた線材コイルの冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面の冷却装置は次のように規定される。即ち、
被処理物を収容する冷却室と、
該冷却室に配置された複数の噴霧ノズルを含んで構成され、前記冷却室内の前記被処理物に向けて冷却水を噴霧する水冷機構部と、
送風ファンを含んで構成され、前記冷却室内の前記被処理物に対して外気を冷却風として送風する送風機構部と、
を備えている。
【0007】
このように規定された第1の局面の冷却装置によれば、加熱・均熱処理された高温の被処理物としての線材コイルを、ミスト(微粒子)状の冷却水による水冷の効果よって大気放冷や衝風冷却よりも短時間で冷却することができる。更に線材コイルに対して外気を冷却風として衝風することで、水冷時に線材コイルに付着した水分を乾燥除去することができる。このため、コイル表面に錆が生じることによる酸洗不良や製品不良を回避することができる。
【0008】
ここで、前記水冷機構部は、前記被処理物の上方に設けられ、前記被処理物の上面に向けて冷却水を噴霧する複数の前記噴霧ノズルから成るノズル群と、
前記被処理物の側方に設けられ、前記被処理物の側面に向けて冷却水を噴霧する複数の前記噴霧ノズルから成るノズル群と、を備えることができる(第2の局面)。
【0009】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、
第1または第2の局面で規定の冷却装置において、前記冷却室の上方に設けられた排気ダクトと、前記冷却室の上壁から上方に延びて前記排気ダクトに接続された排気管と、を更に備え、前記冷却室内のガスを前記排気管を介して前記排気ダクトへ排気するとともに、
前記排気管の上端は前記排気ダクトの底部よりも高く差し込まれて、前記排気管と前記排気ダクトとの繋ぎ部に水止め用の段差部が設けられ、前記排気ダクトの底部にはドレン抜き配管が接続されている。
【0010】
このように規定された第3の局面の冷却装置によれば、水冷時に生じる水蒸気を排気管を介して冷却室の外に排気することができる。また排気ダクト内に溜まった水(ドレン)は、排気管に逆流することなくドレン抜き配管を通じて外部に排出されるため、排気ダクト内に溜まった水が水滴として線材コイル上に落下し付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0011】
またこの第1~第3の何れかの局面で規定の冷却装置において、前記冷却室の上壁には側壁に近づくほど高さが低くなる傾斜部を形成することができる(第4の局面)。
このようにすれば、冷却室の天井に付着した水滴が線材コイル上に落下し付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0012】
この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち、
第1~第4の何れかの局面で規定の冷却装置において、前記噴霧ノズルに水を供給する水供給管に接続されて、該水供給管および前記噴霧ノズルに向けて高圧エアを送出する高圧エア供給管と、
前記噴霧ノズルに対し水を供給する水供給流路と、前記噴霧ノズルに対し高圧エアを供給する高圧エア供給流路を切換える流路切換え手段と、
を更に備えている。
【0013】
このように規定された第5の局面の冷却装置によれば、水供給管から噴霧ノズルに到る流路に高圧エアが導入され、内部に残存する水分を除去することができる。このため、高温下に配置されノズル詰まりが生じ易い噴霧ノズルにおけるノズル詰まりの防止を図ることができる。
【0014】
この発明の第6の局面は次のように規定される。即ち、
第1~第5の何れかの局面で規定の冷却装置において、前記送風機構部は、
前記冷却室の側壁に設けられた第1の冷却風吹出口と、
前記冷却室の側壁の、前記第1の冷却風吹出口とは異なる高さに設けられた第2の冷却風吹出口と、
前記送風ファンから送り出された冷却風をこれら第1の冷却風吹出口および第2の冷却風吹出口に案内する案内ダクトと、
該案内ダクトの、前記第1の冷却風吹出口と第2の冷却風吹出口と繋ぐ流路上に設けられた風量調整用ダンパと、
を更に備えている。
【0015】
このように規定された第6の局面の冷却装置によれば、線材コイルが上下2段に縦積みされた場合であっても、上側の線材コイルと下側の線材コイルに対し冷却風を均等にあてることができる。
【0016】
この発明の第7の局面の線材コイルの冷却方法は次のように規定される。即ち、
第1~第6の何れかの局面に記載の冷却装置を用いて、前記被処理物としての線材コイルを冷却する方法であって、
加熱された前記線材コイルを前記冷却室に収容するステップと、
前記冷却室に収容された前記線材コイルに向けて冷却水を噴霧する水冷ステップと、
前記水冷ステップの後、前記線材コイルに対して外気を冷却風として衝風して更に冷却する空冷ステップと、
を実行する。
【0017】
このように規定された第7の局面の冷却方法によれば、第1の局面と同等の効果を奏する。
【0018】
ここで上下2段に縦積みした縦積みコイル体の状態で加熱された前記線材コイルに対して、前記縦積みコイル体の状態のままで前記水冷ステップおよび空冷ステップを実行することができる(第8の局面)。
このようにすれば、加熱の工程から冷却の工程に到る一連の熱処理を効率良く実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】線材コイルを2段積みした状態の縦積みコイル体を示した図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の冷却装置を含んで構成された熱処理設備の概略全体構成を示した図である。
【
図3】
図2の熱処理炉における搬送方向に沿った断面図である。
【
図4】
図2の冷却装置における搬送方向に沿った断面図である。
【
図5】
図2の冷却装置における搬送方向と直交する方向の断面図である。
【
図6】(A)は第1のノズル群におけるスプレーパターンを示した模式図である。(B)は第2のノズル群および第4のノズル群におけるノズル配置を示した図である。
【
図7】噴霧ノズルに流体を供給するための構成を示す配管図である。
【
図8】同実施形態の冷却装置における衝風冷却動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1は線材コイルを2段積みした状態の縦積みコイル体を示した図である。
図1において、Wは縦積みコイル体、Sは線材をコイル状に巻回した線材コイル、2は積載治具である。
【0021】
積載治具2は、下側の線材コイルS1が載置される第1の載置板3と、上側の線材コイルS2が載置される第2の載置板5と、これら載置板3,5の間に位置する第1の支柱4と、第2の載置板5の上方に位置する第2の支柱6と、を含んで構成されている。このように構成された積載治具2を用いて線材コイルS1とS2が縦積みされて、縦積みコイル体Wは組み立てられている。
【0022】
図2は本発明の一実施形態の冷却装置を含んで構成された熱処理設備の概略全体構成を示した図である。同図において、10は縦積みコイル体Wを熱処理するための熱処理設備で、搬送台車11と、加熱炉15,15と、冷却装置16と、装入・抽出テーブル17と、を備えている。
【0023】
搬送台車11は、複数の搬送用ローラ12を備えるとともに、図中上下方向に直線状に延設された搬送軌道たるレール13に沿って移動可能とされており、図中左右方向に沿って列状に並んだ5つの縦積みコイル体Wの受け取りおよび引き渡しを、加熱炉15、冷却装置16、装入・抽出テーブル17との間で実行する。
【0024】
加熱炉15は、
図3で示すように、箱形をなす炉体21の内部に加熱室22が形成されている。加熱室22は、5つの縦積みコイル体Wが収容できるように、5つの収容領域に仮想的に区画されており、各収容領域には搬送手段としての複数のローラ23が配設されている。
炉体21の長手方向の一端側(詳しくは搬送台車11と対向する側)には出入口24が形成されており、縦積みコイル体Wは、ローラ23により出入口24を通じて炉内(加熱室22)に装入される。なお、出入口24は、駆動装置25と連結された扉26によって開閉可能とされている。
【0025】
加熱室22には、ラジアントチューブバーナ28および天井ファン29が搬送方向(長手方向)に沿って複数設けられるとともに、各種のガスを導入するためのガス導入管30が接続されている。加熱炉15では、所定の雰囲気下において縦積みコイル体Wに対し所定の温度(例えば800℃)で加熱および均熱処理が行なわれる。
【0026】
図4は本発明の一実施形態の冷却装置の搬送方向に沿った断面図である。
同図で示すように、冷却装置16は、箱形をなす炉体33の内部に冷却室34が形成されている。冷却室34は、5つの縦積みコイル体Wがそれぞれ収容できるように、5つの収容領域35-1~35-5に仮想的に区画されており、各収容領域には搬送手段としての複数のローラ36が配設されている。なお、以下において収容領域35-1~35-5を一括して言及するときは「収容領域35」と表記する場合がある。
【0027】
炉体33の長手方向の一端側(詳しくは搬送台車11と対向する側)に出入口37が形成されており、縦積みコイル体Wは、ローラ36により出入口37を通じて炉内(冷却室34)に装入される。なお、出入口37は、駆動装置38と連結された扉39によって開閉可能とされている。
【0028】
冷却室34の各収容領域35には、縦積みコイル体Wに向けて冷却水を噴霧する水冷機構部41と、縦積みコイル体Wに対して外気を冷却風として送風する送風機構部84(
図5参照)が設けられている。
【0029】
水冷機構部41は、収容領域35に設けられた複数の噴霧ノズル42を含んで構成されている。複数の噴霧ノズル42は、それぞれ異なる高さの第1~第4のノズル群51,52,53,54を構成する。
第1のノズル群51は、収容領域35の上方に位置する複数の噴霧ノズル42で構成されている。第1のノズル群51を構成する噴霧ノズル42は、
図5および
図6(A)で示すように、上側の線材コイルS2の上面Saおよびコイル内径穴Scにミスト状の冷却水が噴霧されるように、噴射口を略下向きとした状態で冷却室34の長手方向に沿って列状(
図4参照)に配置されている。
【0030】
第2のノズル群52は、
図5で示すように、上側の線材コイルS2の側方に位置する複数の噴霧ノズル42で構成されている。第2のノズル群52を構成する噴霧ノズル42は、
図6(B)で示すように、線材コイルS2の外周面Sb全体にミスト状の冷却水が噴霧されるように、噴射口を上側の線材コイルS2の外周面Sbに向けた状態で、冷却室34の左右の側壁78近傍において冷却室34の長手方向に沿って列状(
図4参照)に配置されている。
【0031】
第3のノズル群53は、
図5で示すように、下側の線材コイルS1の側方且つ上方に位置する複数の噴霧ノズル42で構成されている。第3のノズル群53を構成する噴霧ノズル42は、積載治具2の載置板5と線材コイルS1との間に形成された隙間δを通じて線材コイルS1の上面Saおよびコイル内径穴Scに向けてミスト状の冷却水が噴霧されるように、噴射口を斜め下向きとした状態で、冷却室34の左右の側壁78近傍において冷却室34の長手方向に沿って列状(
図4参照)に配置されている。
【0032】
第4のノズル群54は、
図5で示すように、下側の線材コイルS1の側方に位置する複数の噴霧ノズル42で構成されている。第4のノズル群54を構成する噴霧ノズル42は、
図6(B)で示すように、線材コイルS1の外周面Sb全体に冷却水が噴霧されるように、噴射口を線材コイルS1の外周面Sbに向けた状態で、冷却室34の左右の側壁78近傍において冷却室34の長手方向に沿って列状(
図4参照)に配置されている。
【0033】
これら第1~第4のノズル群51,52,53,54の各噴霧ノズルから同時にミスト状の冷却水を噴霧すれば、線材コイルS1およびS2を含む縦積みコイル体W全体を噴霧ミストで覆う状態となり、かかる噴霧ミストとの接触により線材コイルS1およびS2を短時間で冷却することができる。
本例で用いられる噴霧ノズル42としては、スプレーパターンが円形で均等な流量分布の充円錐ノズルを用いることができる。なお、第3のノズル群53を構成する噴霧ノズルについては、スプレーパターンが横長状となるフラットタイプの噴霧ノズルを用い、隙間δを通じて線材コイルS1の上面Saおよびコイル内径穴Scに、より集中的に冷却水を噴霧することも可能である。
【0034】
図7は、噴霧ノズルに流体を供給するための構成を示す配管図である。
同図で示すように、各噴霧ノズル42に噴霧用の水を供給する水供給ライン57は、水供給源58から延びる水供給管59と、その流路上に設けられた送水ポンプ60および電磁開閉弁61と、水供給管59から分岐した各分岐管63A,63B,63C,63Dとを備えており、送水ポンプ60により加圧された水が水供給管59および各分岐管63A,63B,63C,63Dを経て各噴霧ノズル42に供給されている。なお、64は圧力調整弁、65A,65B,65C,65Dは各分岐管に設けられた電磁開閉弁である。
【0035】
また
図7に示されているように本実施形態では、高圧エア源70から延び、その端部が水供給管59に接続された高圧エア供給管71と、この高圧エア供給管71の流路上に設けられた電磁開閉弁72を更に備えている。ここで、電磁開閉弁72を閉、電磁開閉弁61を開とすることで、噴霧ノズル42に対し水を供給する水供給流路が形成される。他方、電磁開閉弁72を開、電磁開閉弁61を閉とすることで、噴霧ノズル42に対し高圧エアを供給する高圧エア供給流路が形成される。即ち、電磁開閉弁72および電磁開閉弁61は、水供給流路と高圧エア供給流路を切換える流路切換え手段に相当する。
このように構成すれば、水冷動作終了後、高圧エア供給流路に切換えた状態で、複数ある電磁開閉弁65A,65B,65C,65Dのうちの何れか1つを順に閉から開に切り替えることで、高圧エアが水供給管59および選択された分岐管に接続された噴霧ノズル42に順次導入され、配管内およびノズル内に残存する水分を除去することができる。これにより、高温下に配置されノズル詰まりが生じ易い噴霧ノズル42におけるノズル詰まりの防止を図ることができる。
【0036】
図4,5で示すように、冷却装置16における各収容領域35の上壁(天井)77には、排気管80が設けられている。筒状を成す排気管80の冷却室側の端部は排気口80aとされており、上壁77から上方に延びた排気管80の他方の端部80bは排気ダクト82に接続されている。これら排気管80および排気ダクト82を含む排気ガス流路上には図示を省略する排気ファンが設けられており、排気管80の冷却室側の端部の排気口80aから吸引されたミストおよび水蒸気は、排気管80を通じて冷却室34の外に排気される。
【0037】
ここで排気管80は、
図5で示すように、その上端80bが、排気ダクト82の底部82aよりも高くなるように排気ダクト82内に差し込まれており、排気管80と排気ダクト82との繋ぎ部には水止め用の段差部81が設けられている。そして、排気ダクト82の底部82aにはドレン抜き配管95(
図4参照)が接続されている。このように構成することで、排気ダクト82内に溜まった水(ドレン)は、排気管80に逆流することなくドレン抜き配管95を通じて外部に排出される。このため、排気ダクト82内に溜まった水が水滴として線材コイルS2上に落下し、線材コイルS2に付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0038】
また、
図5で示すように、冷却室34の上壁77には左右の側壁78,78に近づくほど高さが低くなる傾斜部77a、77aが形成されており、冷却室の上壁(天井)77に付着した水滴を傾斜部77a、77aに沿って側壁78,78側に移動させることができるため、冷却室34の天井に付着した水滴が線材コイルS2上に落下して線材コイルS2に付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0039】
一方、ノズルから噴霧された冷却水のうち冷却室34の底部に集まったものは、底壁79に形成された排出口83を通じて下方の排水ピット18に排出される。
【0040】
次に送風機構部84について説明する。
送風機構部84は、
図5で示すように、冷却室34の外に設けられた送風ファン85と、冷却室34の側壁78に設けられた冷却風吹出口86,87と、冷却風を案内する案内ダクト89と、を備えている。
同図で示すように、送風ファン85は冷却室34の上壁77よりも高い位置に取付られている。案内ダクト89は送風ファン85の吹出し部から冷却室34の側壁78に沿って下方に延び出して、送風ファン85から送り出された冷却風としての外気を側壁78に形成された吹出口86,87に案内している。
左右の側壁78にそれぞれ形成された第1の冷却風吹出口86は、
図5で示すように、上側の線材コイルS2を臨む位置に設けられており、線材コイルS2の外周面Sbに冷却風としての外気を衝風する。また、左右の側壁78にそれぞれ形成された第2の冷却風吹出口87は下側の線材コイルS1を臨む位置に設けられており、線材コイルS1の外周面Sbに冷却風としての外気を衝風する。
【0041】
また案内ダクト89の内部には、送風ファン85からの冷却風を上段側の吹出口86と下段側の吹出口87とに振り分けるための振り分けダンパ90が設けられている。吹出口86と吹出口87への冷却風の振分量は、適宜調整すればよく、均等に振り分けてもよいし、どちらかが多くなるように振り分けてもよい。
【0042】
なお、上述の水冷動作に関連する送水ポンプ60、電磁開閉弁72および電磁開閉弁61、空冷動作に関連する送風ファン85等は、冷却装置16における一連の動作を管理する制御部(図示省略)に接続されており、その動作が制御されている。
【0043】
次に熱処理設備10を用いた線材コイルの熱処理動作について説明する。
先ず、
図2の装入・抽出テーブル17上の5つの縦積みコイル体Wを搬送台車11が受け取ると、搬送台車11は加熱炉15に移動する。
加熱炉15は、扉26を開いて、搬送台車11の縦積みコイル体Wを順次受け取り、加熱室22の各収容領域に収容する。そして扉26を閉じた後、所定のヒートパターンに基づいて縦積みコイル体Wに対し加熱・均熱処理を実行する。
【0044】
加熱炉15は、加熱・均熱処理が終了した後、扉26を開いて縦積みコイル体Wを加熱室22から払い出す。搬送台車11は加熱・均熱処理が終了した高温の縦積みコイル体Wを受け取って、冷却装置16に向けて送り出す。
冷却装置16は、扉39を開いて搬送台車11上の縦積みコイル体Wを順次受け取り、縦積みコイル体Wを冷却室34の各収容領域35に収容する。
【0045】
冷却装置16は、扉39を閉じた後、
図5で示すように、縦積みコイル体Wの周囲に配置された第1~第4のノズル群51,52,53,54の各噴霧ノズル42から冷却水を噴霧し、線材コイルS1およびS2を含む縦積みコイル体W全体を噴霧ミストで覆う状態として、噴霧ミストとの接触により線材コイルS1およびS2を冷却する水冷ステップを所定時間実行する。この間、高温の線材コイルとの接触により生じる水蒸気は排気管80を介して冷却室34の外に排気される。
水冷ステップを実行する時間は、線材コイル内部の、温度が最も高い部位での温度が200℃以上300℃未満の範囲になるように予め評価しておくことが望ましい。
【0046】
水冷ステップ終了後は、引き続き、
図8で示すように、線材コイルS1およびS2に対して外気を冷却風として衝風する空冷ステップを所定時間実行する。空冷ステップにおいては、線材コイルS1およびS2の温度を更に冷却するとともに、線材コイルS1およびS2に付着している水分を乾燥除去する。水分が残ることでコイル表面に錆が生じることによる酸洗不良や製品不良を回避するためである。
【0047】
水冷ステップおよび空冷ステップを含む冷却処理が終了した後、冷却装置16は扉39を開いて縦積みコイル体Wを冷却室34から払い出す。搬送台車11は冷却処理が終了した縦積みコイル体Wを受け取った後、装入・抽出テーブル17に移動する。そして冷却処理が終了した縦積みコイル体Wを装入・抽出テーブル17に払い出すことで、熱処理設備10を用いた一連の熱処理動作が終了する。
【0048】
以上のように本実施形態の冷却装置16によれば、加熱・均熱処理された高温の被処理物としての線材コイルS1,S2を、ミスト状の冷却水による水冷の効果よって大気放冷や衝風冷却よりも短時間で冷却することができる。更に線材コイルS1,S2に対して外気を冷却風として衝風することで、水冷時に線材コイルS1,S2に付着した水分を乾燥除去することができる。このため、コイル表面に錆が生じることによる酸洗不良や製品不良を回避することができる。
【0049】
また本実施形態の冷却装置16では、線材コイルS1,S2の上面Saに向けて冷却水を噴霧する複数の噴霧ノズル42から成るノズル群51,53と、線材コイルS1,S2の側方に設けられ、線材コイルS1,S2の側面Sbに向けて冷却水を噴霧する複数の噴霧ノズル42から成るノズル群52,54と、備えており、これらノズル群51,52,53,54の各噴霧ノズル42から同時にミスト状の冷却水を噴霧することで、線材コイルS1およびS2を含む縦積みコイル体W全体を噴霧ミストで覆う状態とすることができる。
【0050】
また本実施形態の冷却装置16では、排気管80を介して冷却室34内のガスを排気ダクト82へ排気するにあたって、排気管80の上端80bが排気ダクト82の底部82aよりも高く差し込まれて、排気管80と排気ダクト82との繋ぎ部に水止め用の段差部81が設けられ、また排気ダクト82の底部82aにはドレン抜き配管95が接続されている。このようにすることで、排気ダクト82内に溜まった水が水滴として線材コイルS2上に落下し付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0051】
また本実施形態の冷却装置16では、冷却室34の上壁77に、側壁78に近づくほど高さが低くなる傾斜部77aが形成されており、冷却室34の天井に付着した水滴が線材コイルS2上に落下し付着することによる品質上の不具合を回避することができる。
【0052】
また本実施形態の冷却装置16では、噴霧ノズル42に水を供給する水供給管59に接続される高圧エア供給管71と、水供給流路と高圧エア供給流路を切換える流路切換え手段としての電磁開閉弁61,72と、を備えており、高圧エアを水供給管59および噴霧ノズル42に導入することで配管内およびノズル内に残存する水分を除去することができ、噴霧ノズル42におけるノズル詰まりの防止を図ることができる。
【0053】
また本実施形態の冷却装置16では、上下2段に縦積みした縦積みコイル体Wの状態で加熱された線材コイルS1,S2に対して、縦積みコイル体Wの状態のままで水冷ステップおよび空冷ステップを実行する。このため、加熱の工程から冷却の工程に到る一連の熱処理を縦積みコイル体Wの状態で効率良く実行することができる。
【0054】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えば水冷時に用いる噴霧ノズルの位置や数については適宜変更可能である。噴霧ノズルに対し水とともに空気流を供給して冷却能力を高めることも可能である。また本実施形態では上下2段に縦積みした縦積みコイル体の状態で冷却を実行したが、本発明の冷却装置は単体の線材コイルの冷却に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0055】
16 冷却装置
34 冷却室
41 水冷機構部
42 噴霧ノズル
51 第1のノズル群
52 第2のノズル群
53 第3のノズル群
54 第4のノズル群
59 水供給管
61,72 電磁開閉弁(流路切換え手段)
71 高圧エア供給管
77 上壁
77a 傾斜部
78 側壁
80 排気管
81 段差部
82 排気ダクト
84 送風機構部
85 送風ファン
86 第1の冷却風吹出口
87 第2の冷却風吹出口
89 案内ダクト
95 ドレン抜き配管
S,S1,S2 線材コイル(被処理物)
Sa 上面
Sb 外周面(側面)
W 縦積みコイル体