(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150346
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】植物の施設栽培の飽差管理方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/24 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A01G9/24 R
A01G9/24 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063723
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】520373729
【氏名又は名称】KS.EP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】倉本 強
(72)【発明者】
【氏名】倉本 泰志
【テーマコード(参考)】
2B029
【Fターム(参考)】
2B029PA02
2B029SE04
(57)【要約】
【課題】施設内環境の適切な飽差管理における施設内環境の低温誘導を適切に行うことができ、運用コストも低く抑えることのできる施設栽培の飽差管理方法を提案すること。
【解決手段】イチゴ栽培ハウス1の飽差管理では、ハウス内部環境を低温誘導する必要がある場合に、ミスト散布ノズル51(1)、51(2)から次亜塩素酸水のミストを施設内部に散布し、散布して施設内部のハウス床面24、壁面、遮光カーテン42等に付着したミストの気化熱を利用して、施設内温度を効率良く下げている。飽差管理範囲での栽培環境時間を長くできるので光合成の促進が期待され、また、病気の蔓延を防止でき、設備投資を抑え、ランニングコストも採算を取れるように低減できる。この結果、栽培植物の品質向上と生産量向上を達成できる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を利用した植物の施設栽培において栽培植物の光合成の時間帯に行う施設栽培の飽差管理方法であって、
栽培施設の内部環境を目標飽差範囲内の状態にするために低温誘導が必要になったことが検出されると、前記栽培施設の施設内部において次亜塩素酸水のミストを散布するミスト冷却工程を行い、
前記ミスト冷却工程として、
前記栽培施設の施設内部に配置した遮光カーテンが閉じている場合には、前記遮光カーテンの上から遮光カーテンの上面に向けて、前記ミストを散布して、前記遮光カーテンに付着した前記ミストの気化熱による前記低温誘導を行う第1ミスト冷却工程を行い、
前記遮光カーテンが開いている場合には、前記ミストを前記栽培植物に向けて散布して、前記栽培施設の内部表面、前記栽培植物に付着した前記ミストの気化熱による前記低温誘導を行う第2ミスト冷却工程を行い、
前記次亜塩素酸水として、原水によって希釈された次亜塩素酸ナトリウムの希釈水溶液と、前記原水によって希釈された希釈塩素とを撹拌混合して生成されたものを用いることを特徴とする施設栽培の飽差管理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記ミスト冷却工程において外気の取り込み換気を並行して行い、
前記外気の取り込み換気として、
前記栽培施設の側窓より導入した外気を天窓から抜く自然換気、
強制換気ファンを用いた第1強制換気、および、
前記施設内部の温度調整に用いる暖房機の換気機能を利用した第2強制換気
のうちの少なくとも一つを行う施設栽培の飽差管理方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ミスト冷却工程として前記第1ミスト冷却工程を行う場合に、
前記第1強制換気および前記第2強制換気のうちの少なくとも一方を並行して行い、前記遮光カーテンの下面側に外気を流して前記ミストの気化熱による前記低温誘導を促進させる施設栽培の飽差管理方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記ミスト冷却工程では、
所定のミスト散布時間に亘って前記ミストを散布する散布動作と、所定のミスト拡散時間に亘ってミスト散布動作を停止する散布停止動作とを、所定回数分、交互に行う施設栽培の飽差管理方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記栽培施設の施設内部を複数の散布区画に分け、前記散布区画のそれぞれに対して、所定の順番で、所定のミスト散布時間に亘って前記ミストを散布する散布動作と、所定のミスト拡散時間に亘ってミスト拡散動作を停止する散布停止動作とを、所定回数分、交互に行う施設栽培の飽差管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を利用したイチゴ等の植物の施設栽培における飽差管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用した植物の施設栽培、例えばイチゴ等の植物のハウス栽培を行う上で、植物および果実の生育を左右する環境条件のなかで飽差管理は重要な管理項目である。飽差管理は、植物のハウス栽培技術として古くから注目されていた環境制御の湿度管理項目であり、温度と湿度の相関関係で表現された植物の光合成に最適な特定数値の範囲を示す飽差管理表が出来上がっている。飽差管理は、目標とする飽差範囲となるように、栽培環境を誘導するものであるが、自然環境との調整及び湿度と細菌の繁殖の関連などから詳細制御が困難である。
【0003】
実際の栽培現場での飽差管理において、季節の変化の中で、栽培環境の温度、湿度を上げることは、暖房機、ミスト散布機を用いて行われており、ランニングコストの問題も特にない。しかしながら、温度を下げる、湿度を下げることは、冷房機、除湿機を用いて行われるが、これらの設備の設置コスト、ランニングコストが掛かり、多くの場合、採算が取れないので、設備が放置され、これらの機器を用いた飽差管理が普及していないのが実情である。
【0004】
一方、飽差管理において、太陽光利用ハウスでの急速な温度上昇時の乾燥状態については、ミスト散布機を稼働して、ミスト散布することで、湿度調整が可能である。ミスト散布を行うことは、今までもミスト(細霧)冷房機器を含め乾燥状態の改善に利用されているが、栽培環境が、湿度、温度の高い領域になってしまうと改善が見込めず、外気取り入れ等を行っても、制御できないことが多い。この結果、高温、多湿の状況が長くなり、植物に病気蔓延のリクスが高まってしまうことがある。このため、ミスト散布による冷房が十分に活用されていないのが実情である。また、従来のミスト散布は、植物体を濡らさない様に運用するのが一般的である。しかし、この方法は、空気中の雑菌を植物に付着させ、菌が繁殖し病気を引き起こすことが欠点であった。
【0005】
ここで、特許文献1(特開2018-164431号公報)において提案されている植物の栽培方法では、トマトの栽培施設における飽差管理の中で、従来の水を使う方法では病気が蔓延してうまく行かない事に対して、施設内で、トマトの頭上から水の代わりに電解次亜塩素酸水を噴霧している。これにより、栽培施設内における栽培後期に増加するカビの胞子等の浮遊菌の増加を抑えて栽培環境の改善を図っている。
なお、特許文献2~4は、本発明の実施の形態において言及されているものであり、特許文献2(特許第5866147号公報)には洗浄農法が提案されており、特許文献3(特許第6667845号公報)には次亜塩素酸生成機が提案されており、特許文献4(特許第5591521号公報)にはイチゴ栽培ハウスの温度管理システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-164431号公報
【特許文献2】特許第5866147号公報
【特許文献3】特許第6667845号公報
【特許文献4】特許第5591521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の太陽光を利用した施設栽培における飽差管理においては、施設内環境を、高温多湿の状態から目標とする飽差範囲内の値となるように、温度および湿度を下げる低温誘導制御が適切に行われていないという課題がある。特許文献1に提案の栽培方法では、農薬指定の電解次亜塩素酸水溶液をミスト散布することで、水のミストを散布する場合の弊害であるカビの胞子等の浮遊菌の繁殖増加を抑制している。しかしながら、施設内環境が高温多湿状態になった場合の飽差管理については何ら着目あるいは言及されていない。
【0008】
本発明の目的は、ミスト散布を利用して、施設内環境が高温多湿状態になった場合でも適切に飽差管理を行うことができ、運用コストも低く抑えることのできる植物の施設栽培の飽差管理方法および飽差管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、太陽光を利用した植物の施設栽培において栽培植物の光合成の時間帯に行う施設栽培の飽差管理方法であって、
栽培施設の内部環境を目標飽差範囲内の状態にするために低温誘導が必要になったことが検出されると、前記栽培施設の施設内部において次亜塩素酸水のミストを散布するミスト冷却工程を行い、
前記ミスト冷却工程として、
前記栽培施設の施設内部に配置した遮光カーテンが閉じている場合には、前記遮光カーテンの上から遮光カーテンの上面に向けて、前記ミストを散布して、前記遮光カーテンに付着した前記ミストの気化熱による前記低温誘導を行う第1ミスト冷却工程を行い、
前記遮光カーテンが開いている場合には、前記ミストを前記栽培植物に向けて散布して、前記栽培施設の内部表面、前記栽培植物に付着した前記ミストの気化熱による前記低温誘導を行う第2ミスト冷却工程を行い、
前記次亜塩素酸水として、原水によって希釈された次亜塩素酸ナトリウムの希釈水溶液と、前記原水によって希釈された希釈塩素とを撹拌混合して生成されたものを用いることを特徴としている。
【0010】
ここで、前記ミスト冷却工程においては、外気の取り込み換気を並行して行って、温湿度を調整することが望ましい。この場合、前記外気の取り込み換気として、
前記栽培施設の側窓より導入した外気を天窓から抜く自然換気、
強制換気ファンを用いた第1強制換気、および、
前記施設内部の温度調整に用いる暖房機の換気機能を利用した第2強制換気
のうちの少なくとも一つを行うことができる。
【0011】
また、前記ミスト冷却工程が、遮光カーテンが閉じている場合に行われる前記第1ミスト冷却工程である場合には、遮光カーテン上面に付着したミストの気化熱による低温誘導を効率良く行えるように、前記第1強制換気および前記第2強制換気のうちの少なくとも一方を並行して行い、前記遮光カーテンの下面側に外気を流すことが望ましい。
【0012】
さらに、前記ミスト冷却工程では、施設内部の各部の湿度調整を精度良く均一に行うことができるように、所定のミスト散布時間に亘って前記ミストを散布する散布動作と、所定のミスト拡散時間に亘ってミスト散布動作を停止して散布されたミストが各部に均一に分散した状態が形成されるのを待つ散布停止動作を、所定回数分、交互に行うことが望ましい。
【0013】
この場合、施設内部の各部において、より精度良く、均一に湿度調整が行われるようにするためには、前記栽培施設の施設内部を複数の散布区画に分け、前記散布区画のそれぞれに対して、所定の順番で、所定のミスト散布時間に亘って前記ミストを散布する散布動作と、所定のミスト拡散時間に亘ってミスト拡散動作を停止する散布停止動作とを、所定回数分、交互に行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の飽差管理方法では、栽培施設の内部環境を低温誘導する必要がある場合に、ヒートピンプ、クーラー等の冷房機、除湿機を使用する代わりに、次亜塩素酸水のミストを施設内部に散布し、散布して施設内部の床面、壁面、栽培植物、遮光カーテン等に付着したミストの気化熱(蒸散熱)を利用して、施設内温度を効率良く下げるようにしている。
本発明によれば、飽差管理範囲での栽培環境時間を長くすることができるようになり光合成の促進が期待され、また、病気の蔓延を防止でき、設備投資を抑え、ランニングコストも採算を取れるように低減できるという効果が得られる。この結果、栽培植物の品質向上と生産量向上を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を適用可能なイチゴ栽培ハウスの全体構成を示す説明図である。
【
図2】
図1のイチゴ栽培ハウスに設置されている高設ベンチを示す説明図、および、b-b線で切断した部分を示す概略横断面図である。
【
図4】
図1のイチゴ栽培ハウスに設置されている飽差管理を行う環境制御システムを示す概略構成図である。
【
図6】飽差管理における低温誘導時の動作状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明の飽差管理方法の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態に係る飽差管理用ミスト装置を備えた環境制御システムが備わっているイチゴ栽培ハウスの一例を示す説明図であり、
図2(a)は高設ベンチを示す説明図であり、
図2(b)は
図2(a)のb-b線で切断した部分を示す高設ベンチの概略横断面図である。
【0017】
(イチゴ栽培ハウスの全体構成)
イチゴ栽培ハウス1(以下、単に「ハウス1」という場合もある。)は、光透過性のシート、板材等から構成された一般的なものであり、その内部には、イチゴの養液栽培用の高設ベンチ2が並列配置されており、各列の高設ベンチ2の間には作業員、作業台車などの通路用の隙間が形成されている。
図1においては一列分の高設ベンチ2を模式的に示してある。なお、高設ベンチ2は、ハウス桁行方向(長手方向)に配列されるが、図においては梁間方向(短手方向)に配列された状態で示してある。
【0018】
各高設ベンチ2の上に沿って養液供給管7が配置されている。養液供給管7は養液供給ポンプ13を介して養液供給タンク14につながっており、ここから養液が供給される。養液栽培容器4の底に配置されている排水パイプ9は例えば地下に設置した排水浄化タンク15につながっており、廃液がここに回収されて浄化される。浄化後の液体は、給水タンク16に戻される。給水タンク16内の液体は、給水ポンプ17から給水管18を介して各部に供給される。
【0019】
高設ベンチ2は、
図2(b)に示すように、パイプ材、アングル材を組み立てることにより構成した支持台3の上に、発泡プラスチック製の養液栽培容器4を載せた構成となっている。養液栽培容器4は上方に開口した凹断面形状のものであり、その凹部5にはロックウール微粒綿などからなる培地6が形成されている。
【0020】
培地6の上には、長手方向に水平に延びる養液供給管7が配置されており、ここに形成されている供給孔から養液が培地6に供給される。養液栽培容器4の凹部5の底部中央には長手方向に延びる排水溝8が形成されており、ここには網状パイプからなる排水パイプ9が配置されており、廃液が排水溝8に集められ、排水パイプ9に流れ込み、ここを通って排出される。
【0021】
養液栽培容器4の凹部表面は防水シート10で覆われており、その上には防根シート11が敷かれている。凹部底面には、防水シート10と防根シート11の間に左右一対の電熱線テープ12が貼り付けられている。電熱線テープ12は養液栽培容器4の長手方向に延びている。
【0022】
(外気取り込み換気設備)
図1に示すように、イチゴ栽培ハウス1の屋根には開閉可能な換気用の天窓21が配置され、壁面には、強制換気ファン22が付設された換気用の側窓23が配置されている。外気を、側窓23、その他の開口からハウス内に導入し、天窓21から外部に抜く外気の自然取り込み換気が行われる。また、強制換気ファン22を稼働させることで外気の強制取り込み換気を行うことができる。
【0023】
さらに、本例では、ハウス内暖房用の暖房機の換気機能を利用した外気の強制換気を行うことが可能となっている。すなわち、各列の高設ベンチ2の真下に位置するハウス床面24に沿って、ビニールシートなどの可撓製シート素材からなる可撓製ダクト25が配置されている。可撓製ダクト25における上方を向いている外周面部分には、そのパイプ長手方向に沿って一定の間隔で空気吹き出し孔25aが形成されている。可撓製ダクト25の先端は開口しており、後端は、ハウス床面24から立ち上がっている硬質素材からなるエルボー型の立ち上げダクト26の上端開口に接続されている。
【0024】
各立ち上げダクト26の下端は、ハウス床下に配置した床下ダクト27に接続されている。床下ダクト27はハウス内暖房用の暖房機28の送風口28aに接続されている。暖房機28には、その吸気口28bを、イチゴ栽培ハウス1外に連通する外気取り入れ口30および当該イチゴ栽培ハウス1の内部に連通する内気取り入れ口31の一方に選択的に接続するシャッター機構32が備わっている。暖房機28の吸気口28bを外気取入れ口30に連通させた状態で暖房機28を稼働させることで、外気の強制取り込み換気を行うことができる。
【0025】
また、イチゴ栽培ハウス1内の炭酸ガス濃度を調整するために炭酸ガス発生装置33が配置されている。炭酸ガス発生装置33から発生する炭酸ガスは、外気取り入れ口30および内気取り入れ口31に供給可能となっている。炭酸ガス発生装置33としては各種の構成のものを使用することができる。また、外気と内気の混合割合を調整することで、イチゴ栽培ハウス1内の炭酸ガス濃度を所定の範囲で調節することが可能である。
【0026】
(遮光・保温カーテン)
イチゴ栽培ハウス1内において、その天井には、ハウス床面24から所定高さの位置において光透過率の異なる複数枚、本例では2枚の遮光カーテン41、42が上下に所定の間隔を開けて配置されている。これらの遮光カーテン41、42は、それぞれ、開閉機構43、44によって左右に個別に開閉可能である。上側の遮光カーテン41の上側には、保温カーテン45が配置されており、保温カーテン45も開閉機構46によって左右に開閉可能となっている。
【0027】
(飽差管理用のミスト発生装置)
次に、イチゴ栽培ハウス1には、飽差管理用のミスト発生装置50が配置されている。ミスト発生装置50は、給水タンク16から供給される水、次亜塩素酸水生成器60から供給される次亜塩素酸水を、ミスト散布ノズル51からミストとして散布(噴霧)する。ミスト散布ノズル51から散布される次亜塩素酸水のミストの気化熱により、ハウス内環境の低温誘導を行うことができ、また、次亜塩素酸水による洗浄農法を行うことが可能である。ハウス内環境の低温誘導、洗浄農法等を行う機能は、後述の環境制御装置110からの指令に基づき制御される。例えば、ミスト発生装置50に設定された散布時間、散布停止時間等によって規定されるミスト発生条件に従って、ミストの散布動作が行われ、環境制御装置110からの指令を繰り返すことで、ハウス内の床面、壁面、高設栽培ベンチ、イチゴ等のミスト冷却が行われて、ハウス内環境を、目標とする環境数値(飽差範囲内の値)に近づけることができる。
【0028】
ミスト発生装置50のミスト散布ノズル51(スプリンクラー)は、ハウス1内において、遮光カーテン41、42および保温カーテン45よりも上の高さ位置に配置されている。ミスト散布ノズル51は、例えば、高設ベンチ2の真上に位置し、高設ベンチ2に沿って一定間隔で下向きに配置されている。ミスト散布ノズル51の個数、設置高さ、横方向の設置位置は次の条件を満たすように設定されている。
(1)遮光カーテン41、42が閉の状態において、閉じている遮光カーテン41、42の上面にミストが均一に散布されるように、個数、設置高さ、設置位置が設定される。
(2)遮光カーテン41、42が開の状態において、ハウス内部空間に均一にミストが散布されるように、個数、設置高さ、設置位置が設定される。
(3)(洗浄農法による)洗浄除菌時において、イチゴにミストが効率良く掛かる様に、個数、設置高さ、設置位置が設定される。
【0029】
(次亜塩素酸水生成器)
次亜塩素酸水生成器60は、水道水などの原水に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液および塩酸を混合して、所定濃度、pHの次亜塩素酸水を生成する。
【0030】
図3に示すように、次亜塩素酸水生成器60は、上流側管路61と、上流側管路61の下流端から分岐して再び合流する第1分岐管路62および第2分岐管路63と、第1、第2分岐管路62、63の下流端の合流点から延びている下流側管路64とを備えており、原水供給ポンプ65によって、原水が、上流側管路61から第1、第2分岐管路62、63のそれぞれを経由して下流側管路64に圧送される。
【0031】
また、次亜塩素酸水生成器60は、予め設定した濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を貯留する第1薬液タンク66と、予め設定した濃度の塩酸を貯留する第2薬液タンク67とを備えている。第1定量ポンプ68によって、第1分岐管路62を流れる原水に、第1薬液タンク66から次亜塩素酸ナトリウム水溶液が所定量ずつ断続的に供給される。第2定量ポンプ69によって、第2分岐管路63を流れる原水に、第2薬液タンク67から塩酸が所定量ずつ断続的に供給される。第1分岐管路62の途中において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が供給された後の原水を攪拌混合するディスクフィルタ70(第1攪拌混合器)が配置されている。第2分岐管路63の途中において、塩酸が供給された後の原水を攪拌混合するディスクフィルタ71(第2攪拌混合器)が配置されている。
【0032】
下流側管路64を流れる次亜塩素酸ナトリウムの希釈水溶液と希釈塩酸とが、ディスクフィルタ72(第3攪拌混合器)によって撹拌混合されて、次亜塩素酸水が生成される。生成された次亜塩素酸水は、供給タンク73に貯留される。供給タンク73から、供給ポンプ(図示せず)により、給水管18を介して、ミスト散布ノズル51に供給される。
【0033】
(環境制御システム)
図4はイチゴ栽培ハウス1の環境制御システムを示す概略ブロック図である。環境制御システム100は飽差管理機能を備えた環境制御装置110を中心に構成されている。環境制御装置110は、マイクロコンピューターから構成され、制御部111、記憶部112、時計部113を備えている。また、記憶部112に各日の日の出・日の入り時刻などを設定し、あるいは、入力情報に基づき設定時刻を更新可能な時刻設定更新部114を備えている。
【0034】
環境制御装置110には、炭酸ガス濃度、温度、湿度、給液時間・回数、光量などの各種の制御用パラメータ管理用の駆動条件を入力設定するための手動操作盤120が接続されている。手動操作盤120を介して、各日の日の出・日の入りなどの時刻の設定入力、更新入力が可能である。また、手動操作盤120には、給液動作を行わせるための手動操作用のマニュアルスタートスイッチ121、ミスト発生装置50によるミスト散布動作(散布時間、散布停止時間、散布開始時間、散布終了時間、散布順など)を設定するための設定スイッチ122、その他の操作スイッチが配置されている。
【0035】
環境制御装置110の入力側には、センサ回線群130を介して、イチゴ栽培ハウス1内の炭酸ガス濃度、温度、日射量、湿度を検出する環境センサ群140、および、イチゴ栽培ハウス1外の外気温、日射量、降雨量、風向、風速を検出する環境センサ群150が接続されている。環境制御装置110の出力側は、制御対象である、暖房機28、シャッター機構32、遮光カーテン41、42の開閉機構43、44、保温カーテン45の開閉機構46、ミスト発生装置50のミスト散布ノズル51に液体を供給するための給水ポンプ17、電熱線テープ12に対する給電制御器160、天窓21の開閉機構170、炭酸ガス発生装置33、飽差管理用のミスト発生装置50などに接続されている。
【0036】
環境制御装置110、および、上記の各部には、共通の通信規格により通信を行う入出力用の共通の通信モジュールが搭載されており、通信回線180を介して通信を行うことが可能である。また、環境制御装置110の記憶部112には、温度管理用の駆動条件、炭酸ガス濃度管理条件、飽差管理条件、その他の各種の制御条件、動作シーケンス等が設定されており、センサ検出信号(環境情報)に基づき、これらの設定条件・手順に従って、飽差管理を含む環境制御動作を行う。なお、補光制御を行う場合には、人工照明設備が追加される。各部の駆動電力は電力盤190から電力線191を介して供給される。
【0037】
環境制御装置110は、通信回線180を介して、パーソナルコンピューターなどの通信端末(図示せず)に接続可能である。通信端末において、環境制御装置110との間で通信を行い、炭酸ガス濃度管理状態、温湿度管理状態、飽差管理状態等を監視可能である。
【0038】
(環境制御システムの動作例)
環境制御システム100の環境制御装置110には、温湿度管理用の制御プログラムがインストールされており、設定された状態に従って、環境センサ群140、150からの検出信号に基づき、制御対象の各部を駆動制御して、イチゴ栽培ハウス1内の温度管理および湿度管理を行う。また、栽培植物(イチゴ)が光合成を行う時間帯においては、飽差管理用の制御プログラムに基づき、内部環境が目標とする飽差範囲内の状態となるように、温度および湿度を制御する。
【0039】
例えば、高設ベンチ2を加温する場合には、暖房機28を駆動して温風を供給して、各高設ベンチ2の真下に沿って配置されている可撓製ダクト25の空気吹き出し孔25aから温風を高設ベンチ2の底に吹き付ける。また、夜間などのように外気温が低い場合には、電熱線テープ12を発熱させて高設ベンチ2を温める。さらに、保温カーテン45を開閉制御して高設ベンチ2を所定の温度状態に維持する。一方、日中において日差しが強い場合には遮光カーテン41、42の双方あるいは一方を閉じて直射日光によって高設ベンチ2が過熱状態にならないように制御する。また、ミスト散布ノズル51から液体を噴霧して、イチゴ栽培ハウス1の内部をミスト冷却する。
【0040】
(飽差管理)
飽差管理によるハウス内環境の制御においては、例えば、環境制御装置110の記憶部112に設定されている飽差管理表に基づき、目標とする飽差範囲内の状態になるように、ハウス内の温度、湿度を制御する。
【0041】
図5は飽差管理表を示す説明図であり、この図に示すように、飽差は温度と湿度の相関関係で表現される。飽差管理表200において、斜線部分で示す領域が最適領域210として定義される。最適領域210以外は、蒸散しすぎ領域220および蒸散しにくい領域230である。飽差管理においては、ハウス1の内部環境を、蒸散しすぎ領域220あるいは蒸散しにくい領域230から、最適領域210内の状態となるように、温度、湿度を調整する。
【0042】
環境制御装置110は、ハウス1内の現状の環境数値を、飽差管理表の最適領域210に近づけるために、低温状態では高温誘導を行う。高温誘導では、暖房機28による暖房と、ミスト散布ノズル51からのミスト散布とにより、環境数値を最適領域210に近づける。これに対して、高温状態では低温誘導を行う。低温誘導では、ミストの気化熱(蒸散熱)を利用したミスト冷却を行い、次亜塩素酸水のミストを使うことで、洗浄除菌効果により病気の発生を防止しつつ、栽培植物(イチゴ)を濡らすことで、ミスト冷却効果を高める。また、外気の強制取り込み換気を行うことで湿度調整を行う。
【0043】
図6(A)および(B)は、飽差管理における高温状態からの低温誘導時の動作例を示す説明図である。環境制御装置110は、ハウス1の内部環境を目標飽差範囲内の状態にするために低温誘導が必要になったことを検出すると、ミスト発生装置50を駆動制御して、ミスト散布ノズル51からハウス1の施設内部に次亜塩素酸水のミストを散布するミスト冷却動作を行う(ミスト冷却工程)。
【0044】
遮光カーテン41、42の双方あるいは一方が閉じている場合、例えば遮光カーテン42が閉じている場合には、
図6(A)に示すように、閉じている遮光カーテン42の上から遮光カーテン上面に向けてミストを散布する。遮光カーテン42に付着したミストの気化熱によりハイス内部環境を低温誘導することができる(第1ミスト冷却工程)。この場合、遮光カーテン上面に付着したミストの気化熱による低温誘導を効率良く行えるように、外気の強制取り込み換気を並行して行い、遮光カーテン42の下面側に外気を流す。例えば、強制換気ファン22を用いた強制換気および暖房機28の換気機能を利用した強制換気のうちの一方あるいは双方を行う。例えば、暖房機28の換気機能を利用した強制換気を行う。
【0045】
ミスト冷却を行う場合、各ミスト散布ノズル51から同時にミスト散布を行うと、ハウス内の湿度が一時的に過度に上昇する、局所的に湿度が高くなる等、制御性が低下するおそれがある。このため、ハウス内部の各部の湿度調整を精度良く均一に行うことができるように、例えば、
図6(A)に示すように、一方のミスト散布ノズル51(1)から設定されたミスト散布時間に亘ってミスト散布を行い、この間においては、他方のミスト散布ノズル51(2)からのミスト散布は行わないようにする。次に、他方のミスト散布ノズル51(2)から設定されたミスト散布時間に亘ってミスト散布を行い、この間においては、ミスト散布ノズル51(1)の側ではミスト散布を行わずに待機する。この間に、ミスト散布ノズル51(1)から散布されたミストが各方面に均一に拡散する。このような動作を繰り返すことで、大きな湿度変動を伴うことなく、ハウス内環境の低温誘導を行うことができる。なお、散布されるミストの量は、ハウス1の内部環境条件(温度、湿度、日射量等)の増減の複合制御により決定される。
【0046】
図6(B)には、遮光カーテン41、42が開いている場合の低温誘導の動作(第2ミスト冷却工程)を示してある。この場合には、ミストをハウス床面24、高設ベンチ2等に向けて散布して、ハウス1の床面、側面、高設ベンチ2、栽培されているイチゴに付着したミストの気化熱による低温誘導を行う。この場合においても、ミスト散布ノズル51(1)、51(2)からのミスト散布を交互に行うことが望ましい。また、外気の強制取り込み換気あるいは自然換気による湿度調整を並行して行うことが望ましい。
【0047】
ここで、ミスト発生装置50に、ミスト散布動作を制御するミスト配電盤を配置しておくことができる。例えば、ミスト配電盤は、複数回路のタイマ、例えば、5回路のタイマを内蔵しており、動作モート選択スイッチ、各タイマの時間設定部(散布時間、散布停止時間の設定部)、起動時間設定タイマ、外部からの起動指令を受け付ける外部起動端子等を備えている。ミスト配電盤によって設定されるミスト発生装置50の機能は、例えば、次の通りである。
(1)ミスト散布の開始時間は、例えば、24時間中、15分間隔で設定可能である。
(2)5回路を順番に制御可能である。
(3)ミスト継続時間(ミスト散布時間)を、時、分、秒の単位で、5回路のそれぞれに指定可能である。
(4)例えば、ミスト散布動作を4回路に割り当て、5回路目を、時間指定用に割り当てることで、繰り返し時間の制限設定が可能である。
(5)外部入力と24時間タイマを重ねることも可能である。
(6)配電盤はシリーズに運転可能ある。(例えば、1~5回路と、5~10回路)
(7)配電盤を数台同時スタートして、連棟ハウスの場合、側窓の左右から順次スタートして各棟の窓側と内側のミスト散布量を変化させるように設定することが可能である。
なお、これらの機能を、環境制御装置110の側の手動操作盤120からの入力によって実現することも可能である。
【0048】
以上説明したように、本例の環境制御システム100によれば、主として以下の機能(作用効果)が得られる。
<機能1:飽差管理の湿度調整>
次亜塩素酸水のミストを、遮光カーテン41、42、およびハウス1の内部に散布(噴霧)して、病気の蔓延を防止しつつ、水の気化熱による植物体とハウス内の温度を低温誘導する。
<機能2:飽差管理の温度調整>
散布されたミストの気化熱を利用する。
2-1 植物体の日焼けを防止する。
2-2 日射量が多い場合などのように、遮光カーテン41、42が閉じた状態では、その上からの散布したミストの気化熱による低温誘導を行う(第1ミスト冷却工程)。
2-3 遮光カーテン41、42の開放状態では、ハウス内へのミスト散布により、(項目2-1)の日焼け防止に加えて、日射量を確保したまま、ミストの気化熱による低温誘導を行う(第2ミスト冷却工程)。
<機能3:次亜塩素酸水を用いた洗浄農法によるハウス内洗浄除菌機能と防除工程の短縮>
洗浄農法を取り入れることで、ハウス内の菌密度を低減し病気の発生を抑える。これにより、消毒等の工程を低減できる。なお、洗浄農法については、特許文献2(特許第5866147号公報)において提案されている。
【符号の説明】
【0049】
1 イチゴ栽培ハウス
2 高設ベンチ
3 支持台
4 養液栽培容器
5 凹部
6 培地
7 養液供給管
8 排水溝
9 排水パイプ
10 防水シート
11 防根シート
12 電熱線テープ
13 養液供給ポンプ
14 養液供給タンク
15 排水浄化タンク
16 給水タンク
17 給水ポンプ
18 給水管
21 天窓
22 強制換気ファン
23 側窓
24 ハウス床面
25 可撓製ダクト
25a 空気吹き出し孔
26 立ち上げダクト
27 床下ダクト
28 暖房機
28a 送風口
28b 吸気口
30 外気取り入れ口
31 内気取り入れ口
32 シャッター機構
33 炭酸ガス発生装置
41、42 遮光カーテン
43、44 開閉機構
45 保温カーテン
46 開閉機構
50 ミスト発生装置
51、51(1)、51(2) ミスト散布ノズル
60 次亜塩素酸水生成器
61 上流側管路
62 第1分岐管路
63 第2分岐管路
64 下流側管路
65 原水供給ポンプ
66 第1薬液タンク
67 第2薬液タンク
68 第1定量ポンプ
69 第2定量ポンプ
70、71、72 ディスクフィルタ
73 供給タンク
100 環境制御システム
110 環境制御装置
111 制御部
112 記憶部
113 時計部
114 時刻設定更新部
120 手動操作盤
121 マニュアルスタートスイッチ
122 設定スイッチ
130 センサ回線群
140 環境センサ群
150 環境センサ群
160 給電制御器
170 開閉機構
180 通信回線
190 電力盤
191 電力線
200 飽差管理表
210 最適領域
220 蒸散しすぎ領域
230 蒸散しにくい領域