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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150377
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】火打ち梁及び山留め支保構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/04 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
E02D17/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063794
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】平尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】高野 金幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿人
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 光
(57)【要約】
【課題】従来よりも掘削抗内における各作業効率を向上させるとともに、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能な、火打ち梁及び山留め支保構造を提供する。
【解決手段】一方の腹起し2Aに突き合わされるとともに該一方の腹起しとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材33Aと、他方の腹起し2Bに突き合わされるとともに該他方の腹起しとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材33Bと、所定の曲げ剛性を有するとともに一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される火打ち主材31と、を有し、前記火打ち主材は、H型断面を有するとともに前記一方の端部及び前記他方の端部にボルト孔314を有するエンドプレート313を備えて繰り返し使用することが可能な既成山留め主材であることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留め支保構造において隣り合う腹起しに突き合わされる火打ち梁であって、
一方の腹起しに突き合わされるとともに該一方の腹起しとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材と、
他方の腹起しに突き合わされるとともに該他方の腹起しとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材と、
所定の曲げ剛性を有するとともに一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される火打ち主材と、を有し、
前記火打ち主材は、
H型断面を有するとともに前記一方の端部及び前記他方の端部にボルト孔を有するエンドプレートを備えて繰り返し使用することが可能な既成山留め主材である
ことを特徴とする火打ち梁。
【請求項2】
前記第一火打ち受け部材、前記第二火打ち受け部材及び前記火打ち主材は、いずれもH型断面を有して強軸方向が水平方向となる
請求項1に記載の火打ち梁。
【請求項3】
2以上の前記火打ち主材を水平方向に結合するとともに、該火打ち主材の一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される
請求項2に記載の火打ち梁。
【請求項4】
前記火打ち梁の水平方向の幅は、前記一方の腹起し及び/又は前記他方の腹起しの水平方向の幅の2倍以上である
請求項3に記載の火打ち梁。
【請求項5】
隣り合う腹起しに突き合わされる火打ち梁、及び、コーナーピースを有し、
前記火打ち梁は、
一方の腹起しに突き合わされるとともに該一方の腹起しとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材と、
他方の腹起しに突き合わされるとともに該他方の腹起しとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材と、
所定の長さを有するとともに一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される火打ち主材と、を有し、
前記火打ち主材は、
H型断面を有するとともに前記一方の端部及び前記他方の端部にボルト孔を有するエンドプレートを備えて繰り返し使用することが可能な既成山留め主材である
ことを特徴とする山留め支保構造。
【請求項6】
前記第一火打ち受け部材、前記第二火打ち受け部材及び前記火打ち主材は、いずれもH型断面を有して強軸方向が水平方向となる
請求項6に記載の山留め支保構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留め支保工において利用することが可能な、火打ち梁及び山留め支保構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に示されるように、掘削範囲を囲って構築した山留め支保工として、切梁式支保工がある。図1には従来工法における切梁式支保工の一例が平面図で示されている。そして出隅部にはコーナーピース4が設けられ、褄部のスパンが大きい場合など、大きな土圧が作用する場合は図示されるように複数の火打ち梁3が配置される。
【0003】
図2には、従来の火打ち梁3及びコーナーピース4の設置態様が斜視図で示されている。図示されるように、腹起し2からなる枠組みの出隅部にはコーナーピース4が設置され、火打ち梁3は、火打ち主材31と、その両端に結合される一対の火打ち受けピース32とから構成されている。
【0004】
上記した従来の火打ち梁3を構成する火打ち主材31や、火打ち受けピース32は、切梁式支保工材のリース品として専用に製造された部材であり、繰り返し使用することが可能な既成山留め材として、掘削を伴う施工現場において広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52-046612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の切梁式支保工は、上記したように、出隅部にコーナーピース4を設置する必要があり、加えて、褄部のスパンが大きい場合は図1に示されるように、多数の火打ち梁を設ける必要があった。
【0007】
褄部のスパンが大きい場合、多数の火打ち梁を設置する必要があることに加え、図1に示されるように、火打ち梁が長くなると座屈防止のための座屈防止杭5も必要となる。したがって、これら設置手間の増大による工期の長期化や、部材点数の増加に伴う切梁式支保工材のリース費用の増大、さらに、切梁式支保工材が多数配置されることによって掘削機械の作業スペースや揚重作業における資機材搬入ルートに制約を受けるなど、種々の問題があった。
【0008】
そこで本願発明は、上記した問題点等に鑑み、従来よりも掘削抗内における各作業効率を向上させるとともに、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能な、火打ち梁及び山留め支保構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)に係る発明は、山留め支保構造において隣り合う腹起しに突き合わされる火打ち梁であって、一方の腹起しに突き合わされるとともに該一方の腹起しとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材と、他方の腹起しに突き合わされるとともに該他方の腹起しとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材と、所定の曲げ剛性を有するとともに一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される火打ち主材と、を有し、前記火打ち主材は、H型断面を有するとともに前記一方の端部及び前記他方の端部にボルト孔を有するエンドプレートを備えて繰り返し使用することが可能な既成山留め主材であることを特徴とする火打ち梁である。
【0010】
(2)に係る発明は、前記第一火打ち受け部材、前記第二火打ち受け部材及び前記火打ち主材は、いずれもH型断面を有して強軸方向が水平方向となる上記(1)に記載の火打ち梁である。
【0011】
(3)に係る発明は、2以上の前記火打ち主材を水平方向に結合するとともに、該火打ち主材の一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される上記(2)に記載の火打ち梁である。
【0012】
(4)に係る発明は、前記火打ち梁の水平方向の幅は、前記一方の腹起し及び/又は前記他方の腹起しの水平方向の幅の2倍以上である上記(3)に記載の火打ち梁である。
【0013】
(5)に係る発明は、隣り合う腹起しに突き合わされる火打ち梁、及び、コーナーピースを有し、前記火打ち梁は、一方の腹起しに突き合わされるとともに該一方の腹起しとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材と、他方の腹起しに突き合わされるとともに該他方の腹起しとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材と、所定の長さを有するとともに一方の端部に前記第一火打ち受け部材が結合され、他方の端部に前記第二火打ち受け部材が結合される火打ち主材と、を有し、前記火打ち主材は、H型断面を有するとともに前記一方の端部及び前記他方の端部にボルト孔を有するエンドプレートを備えて繰り返し使用することが可能な既成山留め主材であることを特徴とする山留め支保構造である。
【0014】
(6)に係る発明は、前記第一火打ち受け部材、前記第二火打ち受け部材及び前記火打ち主材は、いずれもH型断面を有して強軸方向が水平方向となる上記(5)に記載の山留め支保構造である。
【発明の効果】
【0015】
上記(1)に係る発明によれば、例えば図5に示されるように、他方の腹起しと火打ち主材との間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材を設ければよく、せん断力に抵抗する機構を省略することが可能となる。これにより、火打ち梁の位置調整が容易となり、従来のように、位置合わせのために、腹起しや火打ち受けピースに対して、ガス切断によってボルト孔を開けるような手間などを削減することが可能となる。
【0016】
加えて、火打ち主材を、繰り返し使用することが可能な既成山留め主材としたことで、従来から使用されているリース品を有効に利用して、必要な火打ち梁の長さに応じた効率的な火打ち梁の設置作業が可能となる。
【0017】
上記(2)に係る発明によれば、例えば図3に示されるように、第一火打ち受け部材、第二火打ち受け部材及び火打ち主材の強軸方向を、従来とは異なる水平方向としたので、従来の火打ち梁よりも剛性を高めて、腹起しの曲げモーメントを抑制することが可能となる。
【0018】
また、従来の火打ち梁では、図1に示されるように、火打ち主材の座屈を考慮して座屈防止杭5を打設する必要があった。しかし、本発明の上記構成による火打ち主材の使用方法によって、水平方向の剛性が大きく、座屈防止杭の省略が見込める。したがって当該座屈防止杭を打設・撤去する工事の省略に加えて、掘削中や掘削完了時の資材横移動に支障となる座屈防止杭の存在がなくなり、作業の生産性向上を図ることが可能となる。
【0019】
加えて、従来よりも火打ち梁の設置数を削減すること可能となり、掘削抗内における各作業効率を向上させるとともに、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能となる。
【0020】
上記(3)に係る発明によれば、例えば図6、13、14に示されるように、2以上の火打ち主材を水平方向に結合したので、さらに火打ち梁の剛性を高めて、腹起しの曲げモーメントを抑制することが可能となる。
【0021】
上記(4)に係る発明によれば、例えば図6のL’とHで示されるように、火打ち梁の水平方向の幅を、腹起しの水平方向の幅の2倍以上(図6(b)、(c)参照)とすると、さらに火打ち梁の剛性を高めて、腹起しの曲げモーメントを抑制することが可能となる。
【0022】
上記(5)、(6)に係る発明によれば、図17~19、特に図18(b)のA部斜視図に示されるように、本発明の火打ち梁と従来のコーナーピースを併用することにより、火打ち構造を強化しつつ内空を従来よりも広く確保することができ、生産性の向上、さらには材料費及び工事費を従来よりも大幅に削減することが可能な山留め支保構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来工法における切梁式支保工の一例を示す平面図である。
図2】(a)は従来工法における火打ち梁の設置態様の一例を示す斜視図、(b)は(a)の火打ち受けピースのA-A断面図、(c)は従来型火打ち梁の発生変位量シミュレーション画像、(d)は従来工法における火打ち受けピースの桁高の差を説明する図及び表である。
図3】本発明の第一実施形態における、火打ち梁の設置態様を説明する斜視図である。
図4】本発明の第一実施形態における、火打ち梁の構成を説明する図であって、(a)は火打ち主材、(b)は第一火打ち受け部材、(c)は第二火打ち受け部材の斜視図である。
図5】本発明の第一実施形態における、火打ち梁に作用する力学特性を説明する平面図である。
図6】本発明の第二実施形態における、(a)は火打ち梁の設置態様を説明する斜視図、(b)は従来工法(図2(a)参照)における腹起しの桁高と火打ち梁の接触長さの割合を示す表、(c)は(a)の実施形態における腹起しの桁高と火打ち梁の接触長さの割合を示す表である。
図7】本発明の第一及び第二実施形態において、従来の火打ち受けピースとの剛性比を比較する表である。
図8】本発明の第一及び第二実施形態において、従来の火打ち受けピースとの曲げ剛性を比較するグラフである。
図9】本発明の第一及び第二実施形態において、従来の火打ち主材との剛性比を比較する表である。
図10】本発明の第一及び第二実施形態において、従来の火打ち主材との曲げ剛性を比較するグラフである。
図11】本発明の各実施形態における、腹起しの変位量を説明するシミュレーション画像であって、(a)は従来工法、(b)は第一実施形態、(c)は第二実施形態におけるシミュレーション画像である。
図12】本発明の各実施形態における、火打ち梁の発生応力度及び撓み量σを説明するシミュレーション画像であって、(a)は従来工法、(b)は第一実施形態、(c)は第二実施形態におけるシミュレーション画像である。
図13】本発明の第二実施形態と従来工法における切梁式支保工を比較する平面図であって、(a)は従来工法、(b)は第二実施形態における切梁式支保工の平面図である。
図14】本発明の第二実施形態と従来工法における、切梁式支保工の鋼材使用量を比較する表であって、(a)は従来工法における鋼材使用量、(b)は第二実施形態における鋼材使用量とその鋼材低減率を説明する表である。
図15】本発明の他の実施形態における、火打ち梁の設置態様を説明する斜視図である。
図16】本発明の他の実施形態における、火打ち梁の設置態様を説明する斜視図である。
図17】(a)は本発明の第二実施形態における切梁式支保工の一例を示す平面図、(b)は本発明の他の実施形態において、コーナーピースを併用した火打ち梁の設置態様を説明する平面図である。
図18】(a)は従来工法における切梁式支保工の一例を示す平面図、(b)は本発明の他の実施形態において、コーナーピースを併用した切梁式支保工の一例を示す平面図及びA部斜視図、(c)は本発明の他の実施形態において、コーナーピースを併用して腹起しをサイズダウンした切梁式支保工の一例を示す平面図である。
図19図18に示した(a)、(b)、(c)それぞれのコスト比較を行った結果を示す表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の火打ち梁の各実施形態について説明する。
【0025】
(第一実施形態)
図3には、本発明の第一実施形態における火打ち梁3の設置態様が斜視図で示されている。加えて、図4には、上記火打ち梁3を構成する部材の斜視図として、図4(a)には火打ち主材が、図4(b)には第一火打ち受け部材が、図4(c)には第二火打ち受け部材がそれぞれ図示されている。
【0026】
すなわち、隣り合う腹起し2A、2Bに突き合わされる火打ち梁3は、一方の腹起し2Aに突き合わされるとともに該一方の腹起し2Aとの間で生じるせん断力に抗することが可能な第一火打ち受け部材33Aと、他方の腹起し2Bに突き合わされるとともに該他方の腹起し2Bとの間で生じる引張力に抗することが可能な第二火打ち受け部材33Bと、を有している。
【0027】
さらに、上記第一火打ち受け部材33Aと上記第二火打ち受け部材33Bとの間には、所定の長さを有するとともに一方の端部に上記第一火打ち受け部材33Aが結合され、他方の端部に上記第二火打ち受け部材33Bが結合される火打ち主材31を有している。
【0028】
加えて、上記火打ち主材31は、H型断面を有するとともに上記一方の端部及び上記他方の端部にボルト孔314を有するエンドプレート313を備えて、繰り返し使用することが可能な既成山留め主材である。
【0029】
上記既成山留め主材は、従来から切梁式支保工材のリース品として専用に製造された部材であり、切梁式支保工の撤去後は、再び他の施工現場で繰り返し使用され、掘削を伴う施工現場において広く利用されているものである。
【0030】
また、本実施形態の火打ち梁3を構成する第一火打ち受け部材33A、第二火打ち受け部材33B及び火打ち主材31は、図3及び図4等に示されるように、H型断面を有し、第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bのウェブ331や、 火打ち主材31のウェブ311を水平にした姿勢で配置される。
【0031】
上記した第一火打ち受け部材33Aには、図3及び図4に示されるように、一方の腹起し2Aのフランジと対向する端部に、せん断抵抗用プレート335Aが設置され、腹起し2Aと結合するための丸孔からなるボルト孔336が形成されている。また第一火打ち受け部材33Aの、火打ち主材31のエンドプレート313と対向する端部には、火打ち主材31と結合するためのエンドプレート334が設置され、丸孔からなるボルト孔336が形成されている。
【0032】
一方、上記した第二火打ち受け部材33Bには、図3及び図4に示されるように、他方の腹起し2Bのフランジと対向する端部に、引張抵抗用プレート335Bが設置され、腹起し2Bと結合するための長孔からなるボルト孔336が形成されている。また第二火打ち受け部材33Bの、火打ち主材31のエンドプレート313と対向する端部には、火打ち主材31と結合するためのエンドプレート334が設置され、丸孔からなるボルト孔336が形成されている。
【0033】
上記した第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bによる作用効果について、図5の平面図に基づいて以下に説明する。すなわち、周辺地盤から山留め壁1に土圧が作用すると、一方の腹起し2A及び他方の腹起し2Bはそれぞれ、次のような挙動を示す。
【0034】
他方の腹起し2Bは、図示破線で示されるように、長手方向の中間部が掘削領域側に移動し、一方の腹起し2Aと当接する側の端部近傍が山留め壁1側に移動するような変形挙動を示す。すなわち、他方の腹起し2Bは第二火打ち受け部材33Bとの結合部に概ね引張り力のみが作用する。
【0035】
したがって、せん断力に抵抗する結合構造を省略することが可能となり、図4(c)に示される引張抵抗用プレート335Bに設けた長孔からなるボルト孔336を介して、腹起し2Bのフランジとボルト接合により結合できる。
【0036】
一方の腹起し2Aは、図示破線で示されるように、端部近傍の側面が他方の腹起し2Bの端面に当接している。このため、図5に示されるように、土圧が作用すると一方の腹起し2Aは端部近傍を拘束された状態で、長手方向の中間部が掘削領域側に移動するような変形挙動を示す。すなわち、一方の腹起し2Aは第一火打ち受け部材33Aとの結合部に主にせん断力が作用する。
【0037】
したがって、せん断力に抵抗する結合構造として、図4(b)に示されるせん断抵抗用プレート335Aに設けた丸孔からなるボルト孔336を介して、腹起し2Aのフランジとボルト接合により結合できる。
【0038】
上記したように、第二火打ち受け部材33Bの引張抵抗用プレート335Bのボルト孔336を長孔にしたことにより、各腹起し2A、2Bの施工誤差によるボルト孔336の位置ズレがある場合でも、容易に第二火打ち受け部材33Bを他方の腹起し2Bに結合することができ、作業効率の向上を図ることが可能となる。また従来のように、位置合わせのために、止むを得ず腹起し2A、2Bや火打ち受けピース32に対し、ガス切断によってボルト孔を開けるような手間を削減することが可能となる。
【0039】
従来の火打ち梁3は、図2(a)に示されるように、その強軸方向が鉛直方向となって水平方向の曲げ剛性が小さかった。加えて、図2(b)の断面構成に示されるように、従来の火打ち受けピース32はウェッブ3枚のみで側面に鋼板を備えておらず曲げ剛性が小さいものであった。さらに、図2(d)の従来工法における火打ち受けピース32の桁高の差を説明する図及び表を見ても判るように従来の火打ち受けピース32の高さは、腹起し2A、2Bや火打ち主材31よりも約10%程度小さく、図2(c)の発生変位量のシミュレーション画像が示すよう火打ち主材31のフランジを押し広げるように変形させてしまう。一方、本実施形態の火打ち梁3は、図3に示されるように、火打ち梁3の強軸方向が水平方向となるように配置し、第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bと火打ち主材31の桁高を同じにしている。これにより、応力の集中を発生させることのない安定した構造を提供でき、腹起し2A、2Bの曲げモーメントを効果的に抑制することが可能となっている。
【0040】
以上のような本実施形態の火打ち梁3により、従来の既成山留め主材からなる火打ち主材31を使用しつつ、剛性の向上と曲げモーメントの抑制効果によって、火打ち梁3の設置数を大幅に削減することが可能となる。これにより、掘削抗内における各作業効率を向上させるとともに、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能となる。
【0041】
(第二実施形態)
続いて、本発明の第二実施形態について以下に説明する。なお、前述した第一実施形態と共通する構成や作用効果については記載を省略する。
【0042】
図6(a)には、本発明の第二実施形態における火打ち梁3の設置態様が斜視図で示されている。加えて図6(b)は従来工法(図2(a)参照)における腹起し2A、2Bの桁高Hと火打ち梁3の接触長さLの割合(L/H)を示す表、図6(c)は上記(a)の実施形態における腹起し2A、2Bの桁高Hと火打ち梁の接触長さL’の割合(L’/H)を示す表が示されている。図示されるように、本実施形態では2つの火打ち主材31を水平方向に結合し、同様に、2つの第一火打ち受け部材33A及び2つの第二火打ち受け部材33Bも水平方向に連結して配置している。そしてこれら各部材はボルトによって剛結合されている。すなわち、火打ち梁3の水平方向の幅を、腹起し2A、2Bの水平方向の幅の2倍以上とすると、火打ち梁3の接触長さL’の割合が大きくなり、さらに火打ち梁3の剛性を高めて、腹起し2A、2Bの曲げモーメントを抑制することが可能となる。
【0043】
図7(a)には、図2に示される従来の火打ち受けピース32のサイズ別に水平方向の断面剛性(曲げ剛性Io)が示され、図7(b)には本実施形態における第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bのサイズ別に水平方向の断面剛性(曲げ剛性I’及びI’’)が示されている。さらに、本実施形態における第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bを、それぞれ1本使いした場合と2本使いした場合でそれぞれ従来型との剛性比率(I’/Io及びI’’/Io)が示されている。加えて、図8には従来の火打ち受けピース32と、本実施形態における火打ち受け部材33A及、33Bを1本使いした場合と2本使いした場合の曲げ剛性を比較したグラフが示されている。
【0044】
図3図6(a)、図7及び図8から判るように、本実施形態の火打ち受け部材33A、33Bは、従来の火打ち受けピース32と比較して曲げ剛性が約2~7倍となっている。さらに、前述したように、本実施形態では図3図6に示されるように火打ち梁3の強軸方向を水平方向としている。すなわち、火打ち梁3の側面に鋼板を備えることによって、曲げ剛性を強化することが可能となる。
【0045】
図9(a)には、図2に示される従来の火打ち主材31の鋼材のサイズ別に水平方向の断面剛性(曲げ剛性Io)が示され、図9(b)には、図3図6(a)等に示されるように強軸方向を水平方向とした本実施形態における火打ち主材31の鋼材のサイズ別に、水平方向の曲げ剛性(曲げ剛性I’及びI’’)が示されている。加えて、図10には従来の火打ち主材31と、本実施形態における火打ち主材31を1本使いした場合と2本使いした場合の曲げ剛性を比較したグラフが示されている。
【0046】
図9図10に示されるように、本実施形態における火打ち主材31はその剛性比率(I’/Io及びI’’/Io)を約3~9倍とすることが可能となっている。以上のような本実施形態の火打ち受け部材33A、33B及び火打ち主材31から構成される火打ち梁3は、従来の火打ち梁3よりも曲げ剛性を高めることが可能となり、従来の火打ち梁3よりも大幅に腹起し2A、2Bの曲げモーメントを抑制することが可能となっている。
【0047】
(各実施形態と従来技術との比較)
続いて図11には、所定の土圧下における、火打ち梁3及び腹起し2A、2Bの発生変位量のシミュレーション画像が示されている。図示されるように、腹起し2Bの発生変位量は、従来工法(図示(a))による火打ち梁3を使用した場合では最大79mm、前述した第一実施形態(図示(b))の火打ち梁3を使用した場合では最大74mm、前述した第二実施形態(図示(c))の火打ち梁3を使用した場合では最大71mmと、その発生変位量を効果的に低減させることが判る。
【0048】
さらに図12には、各火打ち梁3における発生変位量のシミュレーション画像が示されている。図示されるように、火打ち梁3に発生する撓み量σは、従来工法(図示(a))σ1>第一実施形態(図示(b))σ2>第二実施形態(図示(c))σ3と、その撓み量σを効果的に低減させることが判る。
【0049】
また、各火打ち梁3における発生応力度についても、図示されるように、従来工法(図示(a))による火打ち梁3では326N/mmであるのに対し、前述した第一実施形態(図示(b))では142N/mm、前述した第二実施形態(図示(c))では135N/mmと、発生応力度を大幅に低減させることが判る。
【0050】
続いて図13(a)には、従来工法による切梁式支保工の一例が平面図で示され、図13(b)には、前述した第二実施形態の火打ち梁3を使用した切梁式支保工の一例が平面図で示されている。図示されるように、本発明の曲げ剛性の高い火打ち梁3を用いることで、従来のコーナーピース4を設置する必要がなく、さらに腹起し2に使用される型鋼の断面寸法を小さくすることが可能となる。
【0051】
より詳細に説明すると、図14(a)には従来工法の切梁式支保工における支保工の重量が、図14(b)には本発明の火打ち梁3を使用した場合の支保工の重量が例示されている。表に示されるように、本発明の火打ち梁3を使用することで、支保工に使用される鋼材の使用量を全体で約2割削減することが可能となる。したがって、材料費(リース料等)や設置手間の抑制を図り、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能となる。
【0052】
(別実施形態)
以上、本発明の火打ち梁について各実施形態を説明したが、必ずしも前述した構成に限定されるものではなく、以下のような変更が可能である。
【0053】
例えば、図15に示されるように、2つの火打ち主材31を水平方向に結合する場合に、第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bの幅寸法を、結合した2つの火打ち主材31の幅寸法に合わせて一体に形成してもよい。これにより、火打ち梁3の設置手間をさらに削減することが可能となる。
【0054】
また、図16に示されるように、2つの火打ち主材31を水平方向に結合する場合に、2つの第一火打ち受け部材33A及び第二火打ち受け部材33Bを同一寸法・形状とし、水平方向に結合される一方の火打ち主材31に、長さ寸法の短い火打ち主材31を使用することも可能である。このようにすれば、長さ寸法の異なる複数種類の第一火打ち受け部材33Aや第二火打ち受け部材33Bを製造する必要がなくなり、さらに、必要な長さを有する既成山留め主材を、火打ち主材31として有効に利用することが可能となる。これにより、さらに材料費(リース料等)や設置手間の抑制を図り、切梁式支保工に係る仮設費の低減を図ることがと可能となる。
【0055】
また、前述した各実施形態では、本発明の火打ち梁3によって、図2(a)に示されるような従来型コーナーピース4の設置を省くことができる実施形態について説明した。しかし、本発明は必ずしもコーナーピース4の設置を否定するものではなく、前述した各実施形態の火打ち梁3と、コーナーピース4とを併用することも可能である。
【0056】
例えば、図17(a)には前述した本発明の第二実施形態における火打ち梁3の設置態様が示されているが、コーナーピース4を併用することで、図17(b)及び図18(b)のA部斜視図に示されるように、火打ち主材31及び火打ち受け部材33A、33Bを一本使いして、鋼材の使用量やその設置手間を削減することが可能となる。
【0057】
例えば、図18(a)は従来工法における切梁式支保工の一例を示す平面図、(b)は本発明の他の実施形態において、コーナーピースを併用した切梁式支保工の一例(ケース1)を示す平面図、(c)は本発明の他の実施形態において、コーナーピースを併用してさらに腹起しをサイズダウンした切梁式支保工の一例(ケース2)を示す平面図がそれぞれ示されており、これら各実施形態のコスト比較を行った結果が図19に示されている。
【0058】
すなわち、図18(b)のケース1では、本発明の火打ち梁3とコーナーピース4を併用して火打ち構造を強化し、内空を従来よりも広く確保して生産性の向上を図っている。さらに、図18(c)のケース2では、若干ケース1よりも内空を狭めて腹起し2をサイズダウンさせ、コストの減縮を図っている。
【0059】
上記したケース1及びケース2によれば、図19に示されるように、各種鋼材の材料費(リース費等)及び切梁式支保工の工事費を、従来よりも低減させることが可能であり、ケース1の材工費は従来比で14%低減、ケース2にあっては41%もの低減効果を得ることが可能である。
【0060】
以上、本発明の各実施形態等について説明した。本発明の範囲は、上記した各実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施形態に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 山留め壁
2 腹起し
2A 腹起し
2B 腹起し
3 火打ち梁
31 火打ち主材
311 ウェブ
312 フランジ
313 エンドプレート
314 ボルト孔
32 火打ち受けピース
33A 第一火打ち受け部材
33B 第二火打ち受け部材
331 ウェブ
332 フランジ
334 エンドプレート
335A せん断抵抗用プレート
335B 引張抵抗用プレート
336 ボルト孔
4 コーナーピース
5 座屈防止杭
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
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