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特開2024-150381藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法
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  • 特開-藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法 図1
  • 特開-藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法 図2
  • 特開-藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150381
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/28 20180101AFI20241016BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20241016BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01G24/28
E02D17/20 102F
A01G7/00 602Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023072755
(22)【出願日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】523147439
【氏名又は名称】有限会社秩父水生生物研究所
(71)【出願人】
【識別番号】511171372
【氏名又は名称】秩父土建株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関根 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】山中 宜之
【テーマコード(参考)】
2B022
2D044
【Fターム(参考)】
2B022AA05
2B022AB20
2B022DA19
2D044DA31
(57)【要約】
【課題】 本発明は、藻類による団粒化の促進によって植物根に好適な環境を提供し、同時に土壌流出の低減化に寄与する土壌改良法を提供することを目的とする。
【解決手段】 土壌表層に藻類、及びカリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水を散布し、該土壌表層に前記藻類を増殖させ、前記藻類の分泌する粘着物質及び藻体を該土壌に供給し、該土壌の団粒化を促進せしめるとともに前記藻類が窒素固定を行える藍藻類を含むことを特徴とする藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法、に構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌表層に藻類、及びカリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水を散布し、該土壌表層に前記藻類を増殖させ、前記藻類が分泌する粘着物質及び藻体を供給し、該土壌の団粒化を促進せしめるとともに、前記藻類が窒素固定を行える藍藻類を含むことを特徴とする藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法。
【請求項2】
前記藍藻類が胞子形成を行える藍藻類を含むことを特徴とする請求項1記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法。
【請求項3】
前記藻類を土壌表層に散布するにおいて、自然から採取した前記藻類を含む液に水と栄養物を加えて大量培養して得た藻体懸濁液を土壌表層に散布することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法。
【請求項4】
前記アルカリ水が塩化カリウム又は炭酸カリウムを電解質として用いた電気分解により得られる液であることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土工事で発生する法面や圃場等の土壌改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
土工事で発生する法面や圃場における植物の生長促進、及び土壌の降雨による流出の抑制には、団粒構造をもった土壌の育成が重要となる。
団粒構造は、土壌粒子が互いに付着し、小粒の団粒となり、さらにこれらが互いに付着して、より大きくなり、団粒の集合体が形成される。団粒構造を持つ土壌は、通気性、保水性、透水性に優れ、根に好適な環境を提供し植物の生長促進、及び土壌流出の低減化に寄与する。
この土壌粒子の付着は、土壌中の陽イオンや粘土鉱物、腐食などの有機物、細菌類、糸状菌類、放線菌類、藻類、原生動物、線虫等土壌微生物の分泌物、植物根の分泌物等の作用による。団粒構造の形成には、土壌への有機物の投入が不可欠である。土壌への有機物の投入によって、土壌微生物の量や活性も増加し、土壌微生物が分泌する粘着物質により団粒構造の発達が促進される。
土木工事に関しては、工事等により露出した法面に、土壌微生物の一つである藻類を大量培養して得た藻類を散布し、法面土壌表層でこれを増殖させ、土壌粒子が互いに付着した団粒構造の形成を促進し、土壌流出を防ぐ技術も提案されている。(特許文献1)藻類は、光合成により空気中の二酸化炭素を有機物に変換し増殖することにより、土壌の有機物を増加させ土壌微生物の量や活性を増加させるとともに、自ら多糖類等粘着物質を分泌することにより、団粒構造の形成に寄与している。藍藻類の中には、空気中の分子状窒素をアンモニア、硝酸塩、二酸化窒素等窒素化合物に変換(以後窒素固定と表す)できる種もあり、窒素肥料の節減が可能となる。
また、作物の栽培に関しては、畑や水田に消石灰と堆肥等有機物を施肥し、土壌表層にアルカリ性の環境でもよく増殖する藍藻類を自然繁殖させ、団粒構造の形成を促進し、果樹、米や野菜を栽培している農家もいる。(非特許文献1)
また、炭酸カリウムを電解質として用いた電気分解により陰極側に生成する強アルカリ性電解水は、作物栽培に利用されており、灌水すると根張りが良く、生長が促進される等、効果がある。(特許文献2)本発明者も、PH13.2の強アルカリ性電解水を水で200倍希釈した液でヒヤシンスを水耕栽培したところ、根張りが良く、生長が促進されるのを確認した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】酒井弥、藍藻で環境が変わる-劇的農薬、ダイオキシン分解も-技報堂出版、1998年
【特許文献】
【特許文献1】特許第3718203号
【特許文献2】特開2016-42867
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、有効な藻類種の選定や該藻類の増殖に適する環境の形成が不十分となる問題点があり、非特許文献1では、土壌中で消石灰は硬い炭酸カルシウムとなり、消石灰の繰り返しの多用は土壌の硬化を招き、団粒構造形成の障害となる問題点がある。本発明は、これら問題点を解消した藻類による土壌改良法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、
(1)土壌表層に藻類、及びカリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水を散布し、該土壌表層に前記藻類を増殖させ、前記藻類が分泌する粘着物質及び藻体を供給し、土壌の団粒化を促進せしめるとともに、前記藻類が窒素固定を行える藍藻類を含むことを特徴とする藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法、
(2)前記藍藻類が胞子形成を行える藍藻類を含むことを特徴とする(1)記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法、
(3)前記藻類を土壌表層に散布するにおいて、自然から採取した前記藻類を含む液に水と栄養物を加えて大量培養して得た藻体懸濁液を土壌表層に散布することを特徴とする(1)又は(2)記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法、
(4)前記アルカリ水が塩化カリウム又は炭酸カリウムを電解質として用いた電気分解により得られる液であることを特徴とする(1)又は(2)又は(3)記載の藻類による工事法面及び圃場の土壌の改良法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
前記(1)によれば、
(ア)カリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水を土壌表面に散布し、アルカリ性環境でも良く増殖する藍藻を含む藻体を該土壌表面に散布し、藍藻を含む藻体を増殖させ、藍藻を含む藻体の分泌する粘着物質による土壌粒子の接合及び増殖藻体の生物分解の結果生成する粘着物質により、土壌の団粒化を促進せしめ、これによって植物根の生長に好適な環境を提供できるとともに、表層土壌の流出を防ぐことができ、
(イ)カリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水を土壌表面に散布するので、消石灰を用いる際に起こる土壌の硬化が無く、
(ウ)散布する藻体が窒素固定を行える藍藻類を含むので、工事で発生する法面のように窒素分の貧困な土壌環境でも、藻体が増殖するので、土壌の団粒化を促進でき、また作物栽培の場合、窒素肥料の節減につながる、
効果がある。
前記(2)によれば、前記藍藻類が胞子形成を行える藍藻類を含むので、土壌が乾燥状態になった場合でも、藍藻は耐乾燥性のある胞子を形成して生き延び、降雨等水分の添加によって再び増殖するので、追加の藻類散布の必要性が少ない。
前記(3)によれば、自然から採取した前記藍藻類を含む液に水と栄養物を加えて大量培養して得た新鮮な藻体懸濁液を速やかに散布するので、濃縮や乾燥処理を加えた藻体よりも損傷が少なく、活性が高く、より速やかに藻体を土壌表面に増殖させることができる。
前記(4)によれば、塩化カリウム又は炭酸カリウムを電解質として用いた電気分解により得られる強アルカリ電解水は、作物栽培において灌水や葉面散布に利用されており、作物の生長促進に効果があり、散布時の人体等への安全性も確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】は法面土壌の縦断面図である。
図2】は一実験装置例を示す平面図である。
図3】は図2におけるX-X縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を図面を用いて説明する。図1は法面縦断面を示す。土壌表面1にカリウムイオンと水酸化物イオンよりなるアルカリ水(以後本アルカリ水と表す)及び粘着物質を分泌し、窒素固定を行え、胞子形成を行える藍藻類(以後本藍藻類と表す)を含む懸濁液(以後本藻体懸濁液と表す)を散布する。散布の順番については、アルカリ水を土壌に散布し、十分浸透した後、本藻体懸濁液を散布することが望ましい。
(作用)
【0009】
土壌表面1に本アルカリ水、本藍藻類を含む本藻体懸濁液を散布すると、土壌表面1において、藻体2は太陽光の照射を受け、光合成により空気中の二酸化炭素を吸収し有機物に変換し、増殖することで土壌中の有機物を増加させ、同時に、周囲に粘着物質を分泌する。粘着物質は、土壌粒子を接着し、団粒化する。藻体は、細菌類、糸状菌類、放線菌類、原生動物、線虫等土壌微生物により分解され、その過程で生成する粘着物質により、土壌粒子が接着し、団粒化が進む。土壌中に窒素源が少ない環境では、本藍藻類は、窒素固定を行い、藻体を増加させる。土壌中の水分が少ない環境では、本藍藻類は胞子を形成して、死滅を免れ、水分環境が改善されれば、通常の栄養細胞の増殖が再開される。
本藻体懸濁液が珪藻類、緑藻類等他の藻類も含む場合においても、これら藻体は細菌類、糸状菌類、放線菌類、原生動物、線虫等土壌微生物により分解され、その過程で生成する粘着物質により、土壌粒子が接着し、団粒化が進む。
【0010】
本発明に利用する本藍藻類は、粘着物質分泌し、窒素固定を行え、胞子形成を行える藍藻類であり、Komarek et al.2014.Taxonomic classification of cyanoprokaryotes(cyanobacterial genera)2014, using a polyphasic approach. Preslia 86: 295-335.に従えば、ネンジュモ目(Nostocales)に分類される、ネンジュモ属(Nostoc)、アナベナ属(Anabaena)、ドリコスペルマム属(Dolichospermum)、アファニゾメノン属(Aphanizomenon)、シリンドロスペルマム属(Cylindrospermum)、トリポスリックス属(Tolypothrix)、ミクロカエテ属(Microchaete)、カロスリックス属(Calothrix)、スキトネマ属(Scytonema)、ハパロシフォン属(Hapalosiphon)、スチゴネマ属(Stigonema)等が挙げられる。
本発明に利用する本藻体懸濁液は本藍藻類の少なくとも1種を含むものであり、珪藻類、緑藻類等他の藻類を含んでもよい。
【0011】
本藍藻類は、湖沼水、湖沼底泥、土壌表層に生育しており、自然界から容易に採取できる。緑がかった湖沼水を複数の透明容器に採取し、顕微鏡観察により、異形細胞(ヘテロシスト)や胞子(アキネート)の有無や細胞の形態等から本藍藻類を確認したサンプルに、栄養、例えばハイポネックスジャパン社ハイポネックス原液を加え、光照射下培養し、大量培養の種株とする。また、湖沼底泥又は土壌表層土を複数の透明容器に採取し、これらサンプルに水と栄養、例えば、ハイポネックス、を加え、光照射下培養し、緑がかったサンプルを顕微鏡観察し、本藍藻類を確認したものを大量培養の種株とすることもできる。培養液のPHはアルカリで8.0~9.0に調整することが好ましく、これにより藍藻類が優占しやすくなる。
【0012】
土壌に散布するための藻体の大量培養は、水深15~20cm程度のレースウエイ水路で行うのが適当である。これにハイポネックス、水道水、発酵鶏糞浸出液、及び前記種株を投入し、ポンプあるいは水車等で循環流動させながら培養する。培養液のPHは培養開始時8.0~9.0に調整することが好ましく、これにより藍藻類が優占しやすくなる。
培養開始時の藻濃度0.05g/Lとして、水温25~30℃で、約15日程度で約0.5g/Lとなる。二酸化炭素2~5%を含む二酸化炭素強化空気の通気あるいはグルコース等単糖類の添加を行えば、藻の増殖速度が大きくなり、培養時間の短縮につながる。
この様にして培養した本藻体懸濁液をタンクに入れて現場に運び、噴霧器やポンプ等で土壌表面に散布する。藻濃度約0.5g/Lとして、散布量は2L/m以上が好ましく、4L/m以上が更に好ましく、これを初回目と数日後の2回目の2回に分けて散布ことが好ましい。
本藻体懸濁液を濃縮あるいは乾燥して散布してもよい。しかし、藻体の活性度確保のため、上記のように培養した本藻体懸濁液をタンクに入れて現場に運び、散布することが好ましい。
また、道路工事、宅地造成工事等で発生する法面に散布する場合は、肥料、例えば、前記ハイポネックス、発酵鶏糞浸出液を同時に散布することが、藻類の増殖が促進されるので、好ましい。畑地の場合は、肥料が施されているので更なる肥料の散布はしなくてもよい。
【0013】
本発明に用いるアルカリ水は、カリウムイオンと水酸化物イオンを含み、水に水酸化カリウム粉末を溶解させて作製することもできるが、電解質として塩化カリウム又は炭酸カリウムを用いた電気分解により陰極側に生成するアルカリ性電解水であることが好ましい。PH13の強アルカリ性電解水は市販され、また、電気分解装置も市販されており、アルカリ性電解水は容易に入手できる。
散布するアルカリ性電解水のPHは12.0以上が好ましく、12.4以上がさらに好ましい。アルカリ性電解水の土壌表面への散布は、本藻体懸濁液の場合と同様に、タンクに入れて現場に運び、噴霧器やポンプ等で土壌表面に散布する。散布量は、PH12.0のアルカリ電解水の場合、5L/m以上が好ましく、6L/m以上が更に好ましい。
アルカリ水及び本藻体懸濁液を散布する順番については、アルカリ水を土壌に散布し、浸透後、本藻体懸濁液を散布することが望ましい。本藻体懸濁液の散布は、前記のように複数回に分けてもよい。
【実施例1】
本発明の効果を確認するための実験を行った。内径1m×1m、高さ15cmの木枠3を土壌中に埋め、その内部を5cm低くするよう土壌を排出し、そこに試験用土壌5を埋め戻し、試験区を作製した。この試験区を3カ所作製した。これらをA区、B区、C区とした。A区には水道水10Lと液肥ハイポネックス10倍希釈水0.1L、B区には水道水5L、液肥ハイポネックス10倍希釈水0.1Lと本藻体懸濁液5L,C区にはPH12.0アルカリ電解水5L、液肥ハイポネックス10倍希釈水0.1Lと本藻体懸濁液5L、それぞれを土壌表面に散布した。本藻体懸濁液は、水にハイポネックスを添加し、水酸化カリウムでPH8に調整し、ヘテロシストを有する糸状藍藻と他の藻類を含む液を植種し、空気通気条件で培養して得たもので、SS(浮遊物質)は0.52g/Lであった。
PHについては、A区は、開始時7.1、1週間後7.0、1か月後7.1、2か月後7.0と中性であり、B区は、開始時8.5、1週間後8.0,1か月後7.1と、2か月後7.0とアルカリ性から中性に変化し、C区は、開始時8.4、1週間後7.9,1か月後7.0と、2か月後7.0とアルカリ性から中性に変化した。
藻類の土壌表面での増殖については、A区は、開始時から終了まで変化なし、B区及びC区は、1週間後緑色を目視でき、1か月後表面全体が黒緑色になり、2か月後にはB区に比べてC区の黒緑色がより濃くなった。以後この状態が続いた。2か月後の黒緑色の部分を、水に懸濁し、顕微鏡観察すると、ヘテロシストを有する糸状藍藻は、A区では観察されず、B区よりもC区が多く、アルカリ水の散布で本藍藻類であるヘテロシストを有する糸状藍藻の優占が促進された。またB区及びC区では土壌粒子の接着が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、藍藻類を含む藻体の作用で、土木工事で生ずる法面や農地の土壌において土壌団粒化を促進することで、土壌の流出を抑制し、同時に植物の生長を促進できる、有用な土壌改良法である。
【符号の説明】
1は土壌、2は藻体、3は仕切り板、4は既存土壌、5は試験用土壌を示す
図1
図2
図3