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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150383
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】コンテナ内の害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/00 20060101AFI20241016BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20241016BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20241016BHJP
   A01N 53/10 20060101ALI20241016BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20241016BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01N25/00 102
A01N25/06
A01N53/06 110
A01N53/10 210
A01N53/08 125
A01M7/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106137
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023063603
(32)【優先日】2023-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智基
(72)【発明者】
【氏名】本多 佳子
(72)【発明者】
【氏名】石角 陽平
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121CB07
2B121EA10
4H011AC01
4H011BB15
4H011BC01
4H011BC03
4H011DA21
4H011DB05
4H011DD05
4H011DE15
(57)【要約】
【課題】コンテナ内に侵入した害虫の防除を短期間で簡便に行えるようにする。
【解決手段】荷物200が収容されている貨物用コンテナ100内の害虫を防除するコンテナ100内の害虫防除方法は、殺虫剤と噴射剤とが収容されたエアゾール製品を用意し、エアゾール製品が有する噴射口をコンテナ100内の隙間S1~S4に向けて殺虫剤を噴射し、殺虫剤の噴射後にコンテナ100の扉を閉じる工程を含んでいる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物が収容されているコンテナ内の害虫を防除するコンテナ内の害虫防除方法であって、
殺虫剤と、当該殺虫剤を噴射するための噴射剤とが収容されたエアゾール製品を用意し、
前記エアゾール製品が有する噴射口を前記コンテナ内の隙間に向けて前記殺虫剤を噴射し、前記殺虫剤の噴射後にコンテナの扉を閉じることを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
前記コンテナの壁面と前記荷物との間に形成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
前記コンテナに収容された複数の前記荷物のうち、一の前記荷物と、当該一の前記荷物の隣に位置する他の前記荷物との間に形成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項4】
請求項1に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
荷物はパレットに載置されており、
前記パレットに形成されているフォークポケットで構成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項5】
請求項1に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
トランスフルトリンとメトフルトリンの少なくとも一方を前記殺虫剤として含んでいる薬剤が収容されたエアゾール製品を用意することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項6】
請求項1に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
前記隙間には、前記殺虫剤を20mg以上噴射することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【請求項7】
請求項4に記載のコンテナ内の害虫防除方法において、
前記隙間には、前記殺虫剤を40mg以上噴射することを特徴とするコンテナ内の害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貨物用コンテナに侵入した害虫を防除するコンテナ内の害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1等に記載されているように、ヒアリやアルゼンチンアリ等の特定外来生物に指定されている害虫が海外での荷役時に貨物用コンテナ内に侵入し、生きたまま日本国内に侵入する事例が報告されている。ヒアリ(Solenopsis invicta)は、攻撃性が強く、刺された場合体質によってはアナフィラキシー症状を起こす可能性がある等人体にとって危険な生物である。また、在来のアリ類を駆逐してしまうなど生態系への影響が懸念されている。このような外来生物の国内への侵入及び定着を防ぐため、コンテナ内で防除が行われており、例えばホスフィンや臭化メチルを含有する燻蒸剤や燻煙剤がコンテナ内で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室、「ヒアリの防除に関する基本的考え方 Ver.3.2」、2022年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホスフィンや臭化メチルを含有する燻蒸剤や燻煙剤を用いることで高い防除効果が得られることは知られているが、ホスフィンは毒物(前駆物質としてよく使用される燐化アルミニウムとその分解促進剤とを含有する製剤は特定毒物)、臭化メチルは劇物にそれぞれ指定されているので、作業時には送気管や防護服等の準備が必要になり、煩雑である。
【0005】
また、燻蒸剤や燻煙剤を用いた場合には、作業開始から終了までに数日以上を要するので処理に時間が掛かるという問題もあった。このため、コンテナを数日間にわたって倉庫等に保管しておく必要があり、特に貨物用コンテナにおいては、流通の遅れ、保管のコストなどが大きな課題となっている。
【0006】
一方で、家庭用の殺虫剤においては、居室空間に殺虫剤を含有するエアゾール製品を噴霧することで、当該居室空間内の害虫を簡便に防除する技術が知られている。しかしながら、コンテナには大量の荷物が積載されており、内部空間の大部分は荷物で占められている。また奥行が長く、通常の居室空間とは大きく異なる。このように、奥行が長く、かつ大部分が荷物で占められた空間において、害虫を簡便に防除する方法はこれまで知られていない。
【0007】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンテナ内に侵入した害虫の防除を短期間で簡便に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願出願人は、殺虫剤と、当該殺虫剤を噴射するための噴射剤とが収容されたエアゾール製品を用意し、前記エアゾール製品が有する噴射口を前記コンテナ内の隙間に向けて噴射することで意外にも高い防除効果を奏することが可能であることを見出した。すなわち、上記目的を達成するために、荷物が収容されているコンテナ内の害虫を防除するコンテナ内の害虫防除方法を前提とすることができる。この防除方法では、殺虫剤と、当該殺虫剤を噴射するための噴射剤とが収容されたエアゾール製品を用意し、前記エアゾール製品が有する噴射口を前記コンテナ内の隙間に向けて前記殺虫剤を噴射し、前記殺虫剤の噴射後にコンテナの扉を閉じる工程を備えている。
【0009】
すなわち、コンテナ内に荷物が収容されていることでコンテナ内の隙間は狭くなっており、殺虫剤を拡散させる必要のある容積は小さくなっている。よって、コンテナ内の隙間に向けて殺虫剤を噴射すると、噴射された殺虫剤が隙間を通ってコンテナの奥側や幅方向両側に拡散し易くなるとともに、高さ方向にも拡散し易くなる。その結果、殺虫剤がコンテナ内の各部に行き渡り、各部に潜んでいる害虫に対して高い防除効果を発揮する。これにより、従来例の燻蒸剤や燻煙剤を用いることなく、殺虫剤を用いて簡便にかつ短期間でコンテナ内の害虫を防除可能になる。
【0010】
前記コンテナの壁面と前記荷物との間に形成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射してもよい。これにより、殺虫剤がコンテナの壁面と荷物との間を通って奥側及び高さ方向に広く拡散していく。
【0011】
前記コンテナに収容された複数の前記荷物のうち、一の前記荷物と、当該一の前記荷物の隣に位置する他の前記荷物との間に形成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射してもよい。これにより、殺虫剤が荷物と荷物との間を通って奥側及び高さ方向に広く拡散していく。
【0012】
一般に、前記荷物はパレットの上に載置された状態でコンテナに収容される。前記パレットに形成されているフォークポケットで構成された隙間に向けて前記殺虫剤を噴射してもよい。すなわち、パレットには、荷役作業時にフォークリフトのフォークが差し込まれるフォークポケットが設けられている場合があり、この場合、フォークポケットがコンテナの底部と荷物との間に形成される隙間になる。フォークポケットに殺虫剤を噴射することで、殺虫剤がフォークポケット内を通ってコンテナの奥へ拡散していき、やがてコンテナの幅方向や高さ方向にも広く拡散していく。
【0013】
トランスフルトリンとメトフルトリンの少なくとも一方を前記殺虫剤として含んでいる薬剤が収容されたエアゾール製品を用意し、前記隙間に噴射するようにしてもよい。これにより、害虫の防除効果を十分に高めることができる。
【0014】
前記隙間には、前記殺虫剤を20mg以上、または前記フォークポケットで構成された隙間には、前記殺虫剤を40mg以上噴射してもよい。これにより、コンテナ内の各部の害虫に対して高い防除効果を発揮する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、荷物が収容されているコンテナ内の隙間に向けて殺虫剤を噴射するようにしたので、コンテナ内に侵入した害虫の防除を短期間で簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るコンテナ内の害虫防除方法が適用されるコンテナの斜視図である。
図2】扉を開けたコンテナを開口側から見た図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るエアゾール製品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るコンテナ内の害虫防除方法が適用されるコンテナ100の斜視図である。コンテナ100は貨物用コンテナであり、例えば国外から国内に荷物を輸送する場合等に使用される。国外で荷物をコンテナ100に収容する際に、荷物と一緒に害虫がコンテナ100に侵入する場合があり、コンテナ100に侵入した害虫は生きたまま国内まで運ばれて荷物と共に出てきて、外来生物として国内に定着する可能性がある。本実施形態に係るコンテナ内の害虫防除方法は、コンテナ100で生きたまま運ばれてきた害虫をコンテナ100内で防除(具体的には殺虫)する方法である。防除対象となる害虫の種類は特に限定されるものではないが、例えばヒアリ、アルゼンチンアリ、アカカミアリ、ハヤトゲフシアリ等の特定外来生物のアリを挙げることができる。
【0019】
コンテナ100は従来から周知のものである。すなわち、底板101、一対の側板102、上板103、奥板104及び扉105を備えている。底板101は、幅方向に比べて奥行方向に長い部材で構成されており、コンテナ100の底壁部となる。一方の側板102は、底板101の幅方向一方の端部から上方及び奥行方向に延びており、コンテナ100の一方の側壁部となる。他方の側板102は、底板101の幅方向他方の端部から上方及び奥行方向に延びており、コンテナ100の他方の側壁部となる。上板103は、一方の側板102の上端部から他方の側板102の上端部まで延びており、コンテナ100の上壁部(天井部)となる。奥板104は、底板101の奥側の端部から上方及び幅方向に延びており、コンテナ100の奥側の壁部となる。扉105は、コンテナ100の手前側に形成された開口100a(図2に示す)を開閉するための部材である。開口100aは、荷物をコンテナ100内に搬入するための開口であり、この開口100aを介してコンテナ100内の荷物を搬出することも可能である。扉105は、例えば観音開きタイプの扉で構成することができる。尚、図2及び図3では扉105を省略している。
【0020】
海上輸送コンテナは一般的に20フィートまたは40フィートのドライコンテナが流通しており、これらを例として挙げることができる。上記コンテナには通常のものに加え、ハイキューブと呼ばれる、高さが大きいサイズのものも含んでもよい。
【0021】
コンテナ100は特に限定されるものはないが、例えば40フィートハイキューブコンテナが挙げられ、その大きさの一例を示すと、奥行が12m、幅が2.3m、高さが2.7mである。このコンテナ100よりも大きなコンテナに本実施形態を適用することができ、また、このコンテナ100よりも小さなコンテナに本実施形態を適用することもできる。本実施形態に係るコンテナ内の害虫防除方法は、容積が76.3m以下のコンテナ100に適用することができ、より一層高い防除効果が得られるのは、容積が33.1m以下のコンテナ100である。
【0022】
コンテナ100に収容される荷物200(図2及び図3に示す)としては、例えば段ボール箱に入った荷物、袋に入った荷物等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、どのような荷物であってもよい。コンテナに対する荷物の充填率については特に限定されるものではないが、例えば重量充填率であれば50%以上95%以下が好ましく、60%以上80%以下がより好ましい。容積充填率であれば25%以上95%以下が好ましく、30%以上80%以下がより好ましい。容積充填率が25%未満であると、荷物の配置や隙間がまばらとなるため、効果にバラつきが生じ易くなる。また、容積充填率が95%を超えると、後述の薬剤がコンテナ全体に拡散しにくくなる。
【0023】
また、図2に示すように、一般にコンテナ100に収容される荷物200は、パレット300に載置されている。すなわち、荷物200をコンテナ100に搬入する際やコンテナ100から搬出する際にフォークリフト(図示せず)が使用される。フォークリフトには、フォークが設けられており、このフォークをパレット300に形成されているフォークポケット301に差し込むことで、パレット300をフォークによって上昇させて荷物200を運ぶことが可能になる。
【0024】
パレットの種類は平パレット、ボックスパレット、ロールボックスパレット、ポストパレット、シートパレット(ただし、フォークポケットがない)、サイロパレット、タンクパレット等が挙げられる。いずれの種類でも限定されるものではないが、中でも平パレットがより好ましい。パレットの素材は木製、金属、プラスチック、紙等が挙げられる。いずれの素材でも限定されるものではないが、中でも木製、プラスチック製がより好ましい。パレットのサイズは世界各国で使用されているものを使用すればよい。具体的にはISOやJIS等で規定されているサイズを使用すればよい。中でも1100mm×1100mm、1200mm×1000mmサイズがより好ましい。
【0025】
パレット300の大きさや形状は特に限定されるものではないが、向かって左側と右側にそれぞれフォークポケット301が設けられているものが好ましい。具体的には、パレット300の下板部302と、上板部303とが互いに上下方向に離れて配置されており、下板部302と上板部303の間には上下方向に延びる縦板部304が左右方向に互いに間隔をあけて配置されている。下板部302は、コンテナ100の底板101に載置される部分である。また、上板部303には荷物200が載置される。縦板部304は奥行方向に延びており、従ってフォークポケット301は奥行方向に延びる空間を有することになる。パレット300は、荷物200とコンテナ100の底板101との間に配置されており、パレット300のフォークポケット301によって荷物200とコンテナ100の底板101との間に隙間が形成されることになる。フォークポケット301によって形成される隙間はコンテナ100の奥行方向に延びる隙間となる。
【0026】
荷物200を多く収容する場合には、複数のパレット300がコンテナ100の奥行方向に並ぶように配置される。奥行方向に並ぶパレット300は、それぞれ奥行方向に延びるフォークポケット301を持っているので、奥行方向に並ぶパレット300のフォークポケット301同士が連通してコンテナ100の奥行方向に広がる隙間S1が当該コンテナ100の奥に達するまで形成される。
【0027】
コンテナ100の側板102の内面(壁面)と荷物200の側面との間には、奥行方向及び上下方向に広がる隙間S2が形成される。荷物200の一部が側板102の内面に接するように収容されている場合には、隙間S2が部分的にしか形成されない場合があるが、そのような場合であっても隙間S2は奥行方向に広がる部分及び高さ方向に広がる部分を有している。
【0028】
コンテナ100の上板103の内面と荷物200の上面との間には、奥行方向及び幅方向に広がる隙間S3が形成される。荷物200の一部が上板103の内面に接するように収容されている場合には、隙間S3が部分的にしか形成されない場合があるが、そのような場合であっても隙間S3は奥行方向に広がる部分及び幅方向に広がる部分を有している。
【0029】
幅方向一方側に収容される荷物200と、幅方向他方側に収容される荷物200とが幅方向に互いに離れている場合には、幅方向一方側の荷物200と他方側の荷物200との間に隙間S4が形成される。つまり、コンテナ100に収容された複数の荷物200のうち、一の荷物200(幅方向一側の荷物)と、当該一の荷物200の隣に位置する他の荷物(幅方向他側の荷物)との間には、上下方向及び奥行方向に広がる隙間S4が形成される。尚、幅方向両側の荷物200が互い接している場合には、隙間S4が形成されない場合があるが、幅方向両側の荷物200が一部では接していないことがあり、接していない部分では隙間S4が形成されることになる。
【0030】
図3に示すように、コンテナ100の奥板104の内面と、最も奥に収容された荷物200の奥側の面との間には、幅方向及び高さ方向に広がる隙間S5が形成される。荷物200の一部が奥板104の内面に接するように収容されている場合には、隙間S5が部分的にしか形成されない場合があるが、そのような場合であっても隙間S5は高さ方向に広がる部分及び幅方向に広がる部分を有している。尚、隙間S1~S5の寸法は荷物200の形状、大きさ、積み方等によって様々であり、僅かでも隙間が形成されることで、後述するエアゾール製品1から噴射された粒子が当該隙間に拡散可能であるが、例えば2cm以上または3cm以上の隙間であることが望ましい。
【0031】
次に、本実施形態で使用されるエアゾール製品1について図4に基づいて説明する。エアゾール製品1は、エアゾール容器2と、キャップ3と、噴射ボタン4と、ノズル5とを備えている。エアゾール製品1は、コンテナ内の害虫防除方法で使用されるものであることから、コンテナ内の害虫防除用エアゾール製品と呼ぶこともできる。
【0032】
エアゾール容器2は、耐圧容器で構成されており、上部にはバルブ機構(図示せず)が設けられている。バルブ機構は、噴射ボタン4によって操作可能に構成されており、噴射ボタン4によって1回操作されると、エアゾール容器2の内容物を一定量だけ噴射して停止する定量噴射型バルブ機構で構成されている。一定量とは、例えば0.2ml以上2.0ml以下の範囲とすることができる。エアゾール容器2に設けられるバルブ機構は、定量噴射型でなくてもよく、噴射ボタン4によって押されている間、エアゾール容器2の内容物を連続して噴射するように構成されていてもよい。
【0033】
キャップ3は、エアゾール容器2の上部に取り付けられる部材である。ノズル5は、噴射ボタン4と一体化されており、エアゾール容器2からバルブ機構を介して噴射される内容物を噴射する筒状、または管状に形成されている。ノズル5の先端部には噴射口5aが開口している。エアゾール容器2、キャップ3、噴射ボタン4及びノズル5の構造や形状は一例であり、図示した構造や形状以外のものを使用することもできる。
【0034】
エアゾール容器2には、少なくとも、殺虫剤を含む薬剤(エアゾール原液)と、その薬剤、すなわち殺虫剤を噴射するための噴射剤とが収容されている。殺虫剤は、例えばピレスロイド系、有機リン系、カーバメート系、ネオニコチノイド系、精油であってもよいが、中でもピレスロイド系が望ましい。ピレスロイド系を適用することで高い防除効果を発揮し、かつ防除作業者への安全性が高くなる。ピレスロイド系殺虫剤は、例えば、ペルメトリン、フェノトリン、ビフェントリン、ピレトリン、プラレトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、テラレスリン等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を混合して用いることができる。その中でもトランスフルトリンとメトフルトリンがより好ましい。
【0035】
薬剤には、例えばトランスフルトリンとメトフルトリンの少なくとも一方が含まれており、トランスフルトリンとメトフルトリンの両方が含まれていてもよい。また、薬剤には、トランスフルトリンとメトフルトリン以外のピレスロイド系殺虫剤が含まれていてもよい。
【0036】
ピレスロイド系殺虫剤の蒸散性は、常温で蒸散性の高いものが好ましく、その蒸気圧は例えば25℃における蒸気圧が1.0×10-5Pa以上のものが好ましく、より好ましいのは25℃における蒸気圧が1.0×10-4Pa以上のものである。蒸散性の高いピレスロイド系殺虫剤を用いることにより、コンテナ内の壁面などに付着した薬剤から当該ピレスロイド系殺虫剤が再蒸散して拡散するので、狭い隙間などに対してピレスロイド系殺虫剤がより行き渡り易くなる。
【0037】
また、薬剤(エアゾール原液)には、ピレスロイド系殺虫剤以外にも、必要に応じて、例えばエタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の炭化水素系溶剤、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル系溶剤、HFO(フッ素系溶剤)等の溶剤、共力剤、忌避成分、除菌成分、抗菌成分、香料、消臭剤、防カビ剤、界面活性剤等がエアゾール容器2に収容されていてもよく、この場合、溶剤、共力剤等も噴射剤によって噴射されることになる。
【0038】
噴射剤は、例えば液化石油ガス(LPG)と、ジメチルエーテル(DME)のうち、一方のみであってもよいし、両者を混合したものであってもよい。
【0039】
薬剤(エアゾール原液)と噴射剤との容量比(液ガス比)は、15/85以上が好ましく、より好ましいのは6.4/93.6以上である。噴射口5aから噴射される平均粒子径は、32.9μm以下の範囲が好ましく、より好ましいのは20.5μm以下である。平均粒子径は、いわゆるD50の平均粒子径であり、雰囲気温度は25℃、噴射口5aから水平方向に向けて噴射した時に、当該噴射口5aから50cm離れたところで測定した平均粒子径である。
【0040】
平均粒子径の測定方法について説明する。図示しないが、粒子径測定機のレーザー光照射部より受光部に照射されるレーザービームと、噴射口5aとの距離が50cmとなる位置から、噴射物であるピレスロイド系殺虫剤と溶剤とからなる薬剤(エアゾール原液)がレーザービームをその照射方向に対して直交する方向に通過するように、薬剤を噴射する。薬剤の噴射中に測定を行い、薬剤の粒度分布を自動演算処理装置により解析することで求めることができる。この手法は従来から周知である。測定機器はマイクロトラック・ベル株式会社製 LDSA-SPR-1500Aである。
【0041】
次に、コンテナ内の害虫防除方法について説明する。本実施形態に係るコンテナ内の害虫防除方法は、図2に示すように、パレット300に載置された荷物200が収容されている貨物用コンテナ100内の害虫を防除する方法である。この防除方法では、ピレスロイド系殺虫剤と、当該ピレスロイド系殺虫剤を噴射するための噴射剤とが収容されたエアゾール製品1(図4に示す)を用意する。
【0042】
荷物200がコンテナ100に搬入された状態で扉105を開いて、エアゾール製品1が有する噴射口5aをコンテナ100内の隙間S1~S4に向けて噴射ボタン4を操作し、ピレスロイド系殺虫剤を噴射口5aから噴射させる。隙間S2またはS4に向けて噴射する場合、例えばコンテナ100の床面から高さ150cmの位置から噴射する。これは防除作業者が立った姿勢で噴射することを想定しており、作業性が向上するとともに上記位置での噴射により粒子がコンテナ100の奥側及び上下方向に拡散しやすくなる。ピレスロイド系殺虫剤の噴射後にコンテナ100の扉105を閉じる。
【0043】
噴射口5aは、隙間S1~S4のうち、どの隙間に向けてもよい。ただし、荷物200の収容状況によっては、隙間S2~S4が極めて狭いなど、エアゾール製品1の噴射口5aから隙間に向けて噴射することが困難な場合が有りうる。このような場合は、隙間S1(フォークポケット301)に向けて噴射することが好ましい。隙間S1は、荷物200の収容状況に影響を受けないためである。隙間S1~S4のうち、任意の一の隙間にピレスロイド系殺虫剤を噴射した後、別の隙間にピレスロイド系殺虫剤を噴射してもよい。例えば、噴射口5aを隙間S1、すなわちフォークポケット301に向けてピレスロイド系殺虫剤を噴射すると、噴射された粒子は、隙間S1を通って奥側へ拡散するとともに、奥側の隙間S5に達し、奥側の隙間S5から高さ方向や幅方向に拡散する。また、奥側の隙間S5に達した粒子は、荷物200の間の隙間S4に拡散するとともに、側方の隙間S2に達して高さ方向や奥行方向に拡散し、上方の隙間S3にも拡散する。これにより、従来例の燻蒸剤や燻煙剤を用いることなく、コンテナ100内に侵入した害虫の防除が行える。
【0044】
フォークポケット301に向けてピレスロイド系殺虫剤を噴射する場合、ピレスロイド系殺虫剤を40mg以上噴射する。噴射ボタン4の1回の操作でピレスロイド系殺虫剤を40mg以上噴射してもよいし、噴射ボタン4の複数回の操作でピレスロイド系殺虫剤を40mg以上噴射してもよい。フォークポケット301に向けて噴射するピレスロイド系殺虫剤の上限量は、300mg以下とするのが好ましい。ピレスロイド系殺虫剤の噴射量が300mgを超えても、害虫の防除効果は40mgの場合と同程度なので、ピレスロイド系殺虫剤の上限量を300mg以下とする。
【0045】
噴射口5aを側方の隙間S2に向けてピレスロイド系殺虫剤を噴射すると、噴射された粒子は、隙間S2を通って奥側及び上下方向に拡散して上方の隙間S3及び奥側の隙間S5に達する。粒子は、奥側の隙間S5から高さ方向や幅方向にも拡散してフォークポケット301内にも達する。これにより、従来例の燻蒸剤や燻煙剤を用いることなく、コンテナ100内に侵入した害虫の防除が行える。
【0046】
噴射口5aを荷物200の間の隙間S4に向けてピレスロイド系殺虫剤を噴射すると、噴射された粒子は、隙間S4を通って奥側及び高さ方向に拡散して奥側の隙間S5、上方の隙間S3に達する。粒子は、奥側の隙間S5から高さ方向や幅方向にも拡散してフォークポケット301内にも達する。これにより、従来例の燻蒸剤や燻煙剤を用いることなく、コンテナ100内に侵入した害虫の防除が行える。
【0047】
噴射口5aを上方の隙間S3に向けてピレスロイド系殺虫剤を噴射すると、噴射された粒子は、隙間S3を通って奥側及び幅方向に拡散して奥側の隙間S5、側方の隙間S2、荷物200の間の隙間S4に達する。粒子は、奥側の隙間S5から高さ方向や幅方向にも拡散してフォークポケット301内にも達する。これにより、従来例の燻蒸剤や燻煙剤を用いることなく、コンテナ100内に侵入した害虫の防除が行える。隙間S2~S4にピレスロイド系殺虫剤を噴射する際には、20mg以上噴射する。噴射ボタン4の1回の操作でピレスロイド系殺虫剤を20mg以上噴射してもよいし、噴射ボタン4の複数回の操作でピレスロイド系殺虫剤を20mg以上噴射してもよい。ピレスロイド系殺虫剤の噴射量が300mgを超えても、害虫の防除効果は20mgの場合と同程度なので、ピレスロイド系殺虫剤の上限量を300mg以下とする。
【0048】
ピレスロイド系殺虫剤の噴射後に扉105を閉めたままにしておく時間は、例えば30分~2時間とすることができるが、これに限られるものではなく、より長時間であってもよい。長時間としては、例えば2時間~24時間が挙げられる。扉105を閉めておくことで、コンテナ100内に噴射されたピレスロイド系殺虫剤が自然蒸散してコンテナ100内に拡がり易くなる。
【0049】
ところで、一般的なエアゾールの飛距離は数十cmから数mとされているので、奥行き12mもあるコンテナ(40フィートコンテナの場合)全体に薬剤を行きわたらせるのは極めて困難で、かつ大量の噴射が必要だと予想された。しかしながら、上記のとおり少ない噴射量でも十分な効果が得られることは全くの予想外であった。
【0050】
このような効果が得られる理由は定かではないが、隙間S1~S4が、コンテナの奥行方向に向かって伸びる通路のような役割を果たし、薬剤を奥まで拡散させた可能性が考えられる。また、このとき、コンテナ100内の全容積にピレスロイド系殺虫剤を蒸散させるのではなく、荷物200の容積分はコンテナ100内の容積が減っているのと同じなので、隙間S1~S5にピレスロイド系殺虫剤を蒸散させればよく、蒸散が必要な容積が小さい。よって、エアゾール製品1であっても、燻蒸剤や燻煙剤と同程度の防除効果を得ることができる。尚、上記時間が経過した後、扉105を開けて荷物200を搬出すればよい。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
<害虫防除試験>
パレットに載置された荷物が収容されているコンテナ内の害虫を防除する試験を実施した。40フィートハイキューブコンテナ(内寸:奥行12.0m×幅2.3m×高さ2.7m)内に、パレットを20個設置し、その上に高さ2.2mの段ボール箱を敷き詰め、荷物が積まれている状況を再現した。壁及び段ボール同士の隙間部分の幅は7~8cm程度とした。供試虫10匹を逃走防止のタルクを塗ったポリカップ(φ76mm×高さ38mm)に含水綿とともに入れた。設置位置は、コンテナの搬入口から0m、6m、12mの床面と、奥側の12mの位置には床面から1m、2mの高さに、それぞれコンテナ中央と左側面の壁際と右側面の壁際に設置することで、計15か所に供試虫を設置した。
【0053】
【表1】
【0054】
供試剤は、表1に記載の処方1から7を用意した。なお、処方1については、薬剤(エアゾール原液)中のトランスフルトリン濃度が異なる複数のサンプルを作成した。処方2については、ピレスロイド系殺虫剤としてトランスフルトリンとd・d-T80-プラレトリンとを含んでいる。処方3については、ピレスロイド系殺虫剤としてトランスフルトリンとシフルトリンとを含んでいる。処方4については、ピレスロイド系殺虫剤としてメトフルトリンを含んでいる。処方7については、溶剤としてイソプロパノールを含んでいる。
【0055】
供試剤を作成する際には、ピレスロイド系殺虫剤と溶剤とからなる薬剤(エアゾール原液)と、噴射剤と、定量噴射バルブとを有するエアゾール容器に充填した後、噴射口を有するエアゾールキャップを装着した。なお、定量噴射バルブによる1回あたりの噴射量は1mLとした。
【0056】
供試剤を特定回数噴射後、一定時間コンテナの扉を閉じ、その後供試虫を回収し24時間後の殺虫率を確認した。供試虫は、広島県廿日市市市内で採集したアルゼンチンアリ(Linepithema humile)を用いた。試験結果を表2~6に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
表2~6において、「中央の隙間」は図2の隙間S4を、「左右の隙間」は図2のS2を、「フォークポケット」は図2の隙間S1を、それぞれ示している。「噴射回数」は、噴射を行った回数の総計である。複数回の噴射を行う場合は、左右方向(図2の幅方向)でなるべく均等になるように噴射を行った。例えば「左右の隙間」への噴射回数が2回となっている場合は、右側の隙間S2に1回、左側の隙間S2に1回、の計2回噴霧を行ったことを示している。「薬量」は、噴射したピレスロイド系殺虫剤の量の総計であり、複数回の噴射を行っている場合はその合計の量を示している。
【0063】
「曝露時間」は、噴射後にコンテナの扉を閉じていた時間を示している。「殺虫率」は、15か所全てを合わせた殺虫率として算出した。
【0064】
表2より、前記コンテナの壁面と前記荷物との間に形成された隙間、前記コンテナに収容された複数の前記荷物のうち、一の前記荷物と、当該一の前記荷物の隣に位置する他の前記荷物との間に形成された隙間に向けて噴射した場合、トランスフルトリン20mg以上を噴射することで殺虫率100%を達成することが可能になる。また、表3より、前記パレットに形成されているフォークポケットで構成された隙間に向けて噴射した場合、トランスフルトリン40mg以上を噴射することで殺虫率100%を達成することが可能になる。
【0065】
また、表5に示すように、溶剤がイソプロパノールである処方7の場合も、中央の隙間への噴射及びフォークポケットへの噴射の両方で高い殺虫率が得られている。つまり、本発明では、溶剤の種類が異なっても高い殺虫率を得ることができる。
【0066】
また、表6では容積充填率(%)が殺虫率に対してどのような影響を与えるかを示している。容積充填率は、荷物の全体積÷コンテナ内容積で算出しているが、コンテナ内容積は、パレットが占める空間の体積を除いている。仮に容積充填率が100%であれば、パレットを除いたコンテナ内の空間の全てに荷物が存在していることになる。表6に示すように、容積充填率が27%であっても56%であっても、高い殺虫率が得られている。この結果より、高い殺虫率が得られる容積充填率の下限は25%とすることができる。
【0067】
なお、上記試験ではアルゼンチンアリを供試虫として用いたが、本願出願人の検討により、ヒアリ等も、ピレスロイド系殺虫剤に対してアルゼンチンアリと同等の薬剤感受性を有していることが分かっている。従って、ヒアリ等に対しても上記と同様の効力を発揮する。
【0068】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明に係るコンテナ内の害虫防除方法は、貨物用コンテナに侵入した害虫を防除する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 エアゾール製品
100 コンテナ
300 パレット
301 フォークポケット
S1~S4 隙間
図1
図2
図3
図4