(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150386
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】床版とその接続構造、床版とその接続構造の施工方法、プレキャスト製の床版、及び床版の接続部
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20241016BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20241016BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20241016BHJP
E04B 1/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
E04B5/02 R
E04B1/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147897
(22)【出願日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2023063538
(32)【優先日】2023-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内堀 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亘
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐典
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059CC03
2D059GG01
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】床版とその接続構造において、腐食の可能性を排除し、施工性を高める。
【解決手段】構造物1は、プレキャスト製の一対の床版2A,2Bと、一対の床版2A,2Bの接続部4とを有する。一対の床版2と接続部4は鋼製短繊維を含み、各床版2は連続繊維補強材6を有する。連続繊維補強材6は、一対の床版2A,2Bと接続部4の配列方向に沿って延び、床版2A,2Bの接続部4に面した端面8A,8Bから突き出して、接続部4で終端する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト製の一対の床版と、前記一対の床版の接続部とを有し、
前記一対の床版と前記接続部は鋼製短繊維を含み、
各床版は連続繊維補強材を有し、
前記連続繊維補強材は、前記一対の床版と前記接続部の配列方向に沿って延び、前記床版の前記接続部に面した端面から突き出して、前記接続部で終端した、床版とその接続構造。
【請求項2】
一方の前記床版の前記連続繊維補強材と他方の前記床版の前記連続繊維補強材は接続部4を構成し、前記接続部4の接続部4の長ささは5d以上10d以下(dは前記連続繊維補強材の直径)である、請求項1に記載の床版とその接続構造。
【請求項3】
前記連続繊維補強材はガラス繊維強化プラスチックからなる、請求項1に記載の床版とその接続構造。
【請求項4】
前記一対の床版に含まれる前記鋼製短繊維の混入率は0.5%以上2.5%である、請求項1に記載の床版とその接続構造。
【請求項5】
前記接続部に含まれる前記鋼製短繊維の混入率は0.5%以上2.5%である、請求項1に記載の床版とその接続構造。
【請求項6】
前記接続部に含まれる前記鋼製短繊維の混入率は前記一対の床版に含まれる前記鋼製短繊維の混入率以上である、請求項4または5に記載の床版とその接続構造。
【請求項7】
前記接続部の圧縮強度が120MPaより大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載の床版とその接続構造。
【請求項8】
前記一対の床版を前記配列方向に延びる部材は前記連続繊維補強材だけである、請求項1から3のいずれか1項に記載の床版とその接続構造。
【請求項9】
プレキャスト製の他の床版と接続部を介して接続されるプレキャスト製の床版であって、
鋼製短繊維と連続繊維補強材を有し、
前記連続繊維補強材は、前記床版と前記他の床版と前記接続部の配列方向に沿って延び、前記床版の前記接続部に面した端面から突き出した、プレキャスト製の床版。
【請求項10】
プレキャスト製の一対の床版を接続した接続部であって、
鋼製短繊維と、
前記一対の床版と前記接続部の配列方向に沿って各床版を延びる連続繊維補強材の一部と、を有し、前記連続繊維補強材の一部は、前記床版の前記接続部に面した端面から突き出して、前記接続部で終端した部分である、接続部。
【請求項11】
プレキャスト製の一対の床版を有する床版とその接続構造の施工方法であって、
前記一対の床版を、空隙部を介して配置したことと、
前記空隙部に間詰材を充填して、前記一対の床版の接続部を作成したことと、を有し、
前記一対の床版と前記間詰材は鋼製短繊維を含み、
各床版は連続繊維補強材を有し、
前記連続繊維補強材は、前記一対の床版と前記接続部の配列方向に直線状に延び、
前記一対の床版は、前記連続繊維補強材が前記床版を貫通して前記空隙部で終端したように配置される、床版とその接続構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は床版とその接続構造、床版とその接続構造の施工方法、プレキャスト製の床版、及び床版の接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁等の床版取替え工事が数多く実施されている。特許文献1には、床版同士を間詰材で接続した、床版とその接続構造が開示されている。床版は鉄筋を内蔵したプレキャスト製床版であり、間詰材は鋼繊維やビニロン繊維を含んでいる。また、プレキャスト製床版には、ひび割れを制御するためにプレストレスが掛けられることがある。特許文献2には、プレキャスト製床版の緊張方法が開示されている。プレストレスを掛けるための緊張材としてPC鋼線のほか、炭素繊維や樹脂繊維を用いた緊張材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-2250号公報
【特許文献2】特開2022-165352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された床版とその接続構造では、床版の補強材は鉄筋である。また、鉄筋は接続部に突き出して継手構造を形成している。このため、この床版とその接続構造は、長期間の使用によって鉄筋が腐食する可能性がある。床版にプレストレスを掛ける場合、緊張材が腐食する可能性もある。特許文献2に記載されたようにFRPなどの緊張材を用いれば、緊張材の腐食という問題は生じない。しかし、一般にFRPは種類によっては引張荷重を加えたときの伸長量が大きく、緊張作業の難易度が高い。このため、早期供用を要する床版取替え工事において工程遅延のリスクが内在する。
【0005】
本発明は腐食の可能性が排除され、且つ施工性に優れた床版とその接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の床版とその接続構造は、プレキャスト製の一対の床版と、一対の床版の接続部とを有している。一対の床版と接続部は鋼製短繊維を含み、各床版は連続繊維補強材を有している。連続繊維補強材は、一対の床版と接続部の配列方向に沿って延び、床版の接続部に面する端面から突き出して、接続部で終端する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、腐食の可能性が排除され、且つ施工性に優れた床版とその接続構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る構造物と鋼桁の斜視図である。
【
図5】床版における実施例と比較例の引張軟化特性を示す図である。
【
図6】接続部における実施例と比較例の長さ変化率を示す図である。
【
図7】接続部における実施例と比較例の引張軟化特性を示す図である。
【
図9】
図8に示す試験体の梁中央変位と荷重の関係を示す図である。
【
図10】
図8に示す試験体の破壊後のひび割れ性状を示す図である。
【
図11】R-n、G試験体の等曲げ区間の全ひび割れ幅の推移を示す図である。
【
図12】接続部の試験に用いた試験体の形状を示す図である。
【
図13】
図12に示す試験体の梁中央変位と荷重の関係を示す図である。
【
図14】
図12に示す試験体の破壊後のひび割れ状況を示す図である。
【
図15】輪荷重走行試験の荷重及び繰り返し回数を示す図である。
【
図16】接続部の疲労耐久性の試験に用いた試験体の形状を示す図である。
【
図17】
図16に示す試験体の載荷回数と床版のたわみの関係を図である。
【
図18】
図16に示す試験体の橋軸方向の床版のたわみ分布を示す図である。
【
図19】
図16に示す試験体の接合部の切断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の床版とその接続構造(以下、構造物1という)の実施形態について説明する。以下の説明で、鋼桁3の延在する方向、すなわち鋼桁3の長手方向を桁行方向Xといい、鋼桁3の幅方向を桁幅方向Yという。桁行方向Xは一対の床版2A,2Bと接続部4の配列方向と平行である。桁行方向Xと桁幅方向Yは概ね直交しており、桁行方向X及び桁幅方向Yは鉛直方向Zと概ね直交している。
図1は構造物1と鋼桁3の斜視図、
図2は
図1のA-A線に沿った鋼桁3と構造物1の部分断面図である。
図3(a)は
図1のB-B線に沿った鋼桁3と構造物1の断面図であり、
図3(b)は一対の床版2A,2Bとその接続部4を示す
図3(a)の拡大図、
図3(c)は
図3(b)のC-C線に沿った断面図(平面図)である。
【0010】
鋼桁3は、一例として4本の鋼製梁31からなり、その上に多数のプレキャスト製の床版2が桁行方向Xに配置されている。床版2は桁行方向Xに一つずつ順番に取り付けられるため、先行して鋼桁3に設置される床版を第1の床版2A、第1の床版2Aの直後に第1の床版2Aと互いに隣接して鋼桁3に設置される床版2を第2の床版2Bと称する。なお、第1の床版2Aと第2の床版2Bを区別する必要がない場合は、単に床版2という場合がある。
【0011】
床版2は上方視で長方形の形状を有し、一対の床版2A,2Bと接続部4の配列方向は通常桁行方向Xと一致する。しかし、カーブしている道路橋に設置される床版2はカーブの形状に合わせて湾曲している場合もある。従って、桁行方向Xはより一般的には、一対の床版2A,2Bと接続部4の配列方向に沿った方向を意味する。
【0012】
床版2は、連続繊維補強材で補強されたコンクリート製のプレキャスト床版である。各床版2の桁行方向Xの長さは2~3mであり、桁幅方向Yの長さは鋼桁3の全幅より長い。床版2間には接続部4が設けられている。接続部4は間詰材によって形成されている。接続部4は桁幅方向Yに直線状に設けられ、接続部4の幅Wは桁幅方向Yにおいて一定である。接続部4の幅W(
図3(b),3(c)参照)は180mm程度であるが、140~250mm程度の幅から適宜選択できる。床版2と接続部4の組成については後述する。
【0013】
床版2の桁幅方向Yの両端には壁高欄の下部構造5が設けられており、その上に壁高欄の上部構造(図示せず)が設置される。床版2は、平板状の本体21と、本体21の下面に設けられた複数のハンチ22と、を有している。ハンチ22は桁行方向Xに延び、鋼製梁31と対向する位置に設けられている。すなわち、床版2はハンチ22の位置で鋼桁3に固定される。
【0014】
床版2は、桁行方向Xに延びる連続繊維補強材6と、桁幅方向Yに延びる緊張材7と、を有している。連続繊維補強材6と緊張材7は共に、細長いロッドの形状を有している。連続繊維補強材6は桁幅方向Yに複数列、床版2の厚さ方向(鉛直方向Z)に2段設けられているが、連続繊維補強材6の配置や本数、厚さ方向の段数は特に限定されない。連続繊維補強材6は桁行方向Xに全長に渡って直線状に延び、床版2を桁行方向Xに貫通している。連続繊維補強材6は床版2の両側の接続部4で終端している。すなわち、連続繊維補強材6は、床版2の一方の側の接続部4を始点として床版2を貫通し、床版2の他方の側の接続部4で終端している。連続繊維補強材6は、床版2の両側の接続部4に面する各端面(端面8A,8Bのみ図示)から突き出している。連続繊維補強材6の外周にはリブが設けられているが、このリブを除けば連続繊維補強材6の外径は長さ方向に一定である。換言すれば、連続繊維補強材6の先端部に機械式定着部などの拡径部は設けられていない。
【0015】
なお、床版2と接続部4は桁行方向Xに交互に多数設置されるため、連続繊維補強材6は通常は、床版2を貫通している。しかし、端部の床版2、すなわち一方の側にしか接続部4が設けられない床版2については、連続繊維補強材6の一端は床版2の内部で終端し、他端は床版2の端面8Aまたは8Bから突き出している。また、湾曲している床版2については、連続繊維補強材6を床版2の形状に沿って湾曲させてもよいが、複数の直線状の連続繊維補強材6を重ね継手を介して配置することも考えられる。この場合も、連続繊維補強材6の一端は床版2の内部で終端し、他端は床版2の端面から突き出している。
【0016】
緊張材7は床版2の桁幅方向Yの両端間を延びて、床版2に桁幅方向Yの圧縮力を付与する。緊張材7は桁行方向Xに複数列、床版2の厚さ方向(鉛直方向Z)に2段設けられているが、緊張材7の本数や段数、厚さ方向の段数は特に限定されない。圧縮力は予め工場などで付与される。緊張材7の外周にはリブが設けられているが、このリブを除けば緊張材7の外径は長さ方向に一定である。
【0017】
連続繊維補強材6は腐食の生じにくいものが好ましく、本実施形態では合成樹脂で作成されている。また、連続繊維補強材6は後述する理由から、付着力の大きなものが好ましい。この観点からはガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が特に好ましいが、アラミド繊維、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などでもよい。緊張材7もFRPなどの合成樹脂で作成されている。
【0018】
第1の床版2Aの連続繊維補強材6と第2の床版2Bの連続繊維補強材6は接続部4に突き出しており、干渉を避けるため桁幅方向Yに互いにずらされている。また、第1の床版2Aの連続繊維補強材6と第2の床版2Bの連続繊維補強材6は、桁行方向Xに重ねられて重ね継手8を形成している。重ね継手8の継手長さは5d以上10d以下、好ましくは5d以上7d以下(d:連続繊維補強材6の直径)である。接続部4には緊張材も鉄筋も配置されないので、施工性が向上する。また、上述のように接続部4の幅Wが小さいため、接続部4に間詰材を充填する手間も軽減され、施工性がさらに向上する。
【0019】
図4は比較例の床版とその接続構造を示している。本実施形態と比較例を対比して本実施形態の利点についてさらに説明する。
図4(a)に示す構造物101は、鉄筋コンクリート製の床版102と、U字形のループ鉄筋を備えた接続部104と、を有している。床版102は鉄筋106を内蔵し、鉄筋106は接続部104でループ形状を描いている。床版102はPC鋼材107によって桁幅方向Yにプレストレスを掛けられる。接続部104には桁幅方向Yに延びる鉄筋108が設けられている。このような構造はひび割れが発生しにくいが、長期間の使用で鉄筋が腐食する可能性がある。本実施形態の構造物1は、床版2の内部に鉄筋、PC鋼材などの鉄部材が用いられていないため、腐食が発生する可能性がなく、長期間の使用に耐えることができる。
【0020】
図4(a)に示す構造物101において鉄部材をFRPに置換することも考えられる。しかし、FRPは曲げ加工をした部位の強度が低下しやすい。このため、U字形の折り曲げ部での強度低下を補うためにFRP補強材の数を増やす必要が生じ、施工性や経済性が悪化する可能性がある。本実施形態では、連続繊維補強材6は接続部4も含めて直線形状であるので、連続繊維補強材6の強度を確保することが容易である。
【0021】
図4(b)に示す構造物201は、一般的なFRP補強材206で補強されたコンクリート製の床版202と、直線状の重ね継手を備えた接続部204と、を有している。床版202はFRP緊張材207によって桁幅方向Yにプレストレスを掛けられる。接続部204のコンクリートには合成繊維が混入されている。このような構成では後述するようにコンクリートの引張軟化特性が小さく、FRP補強材206の周囲のコンクリートに付着割裂ひび割れが生じやすくなる。FRP補強材206の付着強度が小さいため、定着長を確保するため接続部204を桁行方向Xに長くする必要がある。本実施形態では、後述するように連続繊維補強材6の材質と接続部4の組成を工夫することで、接続部4を短くすることを可能としている。
【0022】
図4(c)に示す構造物301は、コンクリート製の床版302と、モルタルからなる接続部304と、を有している。床版302はFRP緊張材307によって桁幅方向Yにプレストレスを掛けられ、FRP緊張材308によって桁行方向Xにもプレストレスを掛けられている。FRP緊張材308は床版302に設けられたシース309と接続部304に設けられたシースジョイント310に収容されている。このような構成は床版302が2方向に圧縮されるため、ひび割れが発生しにくい。また、接続部304に継手構造が不要であるため、接続部304の幅も抑えられる。その反面、床版302に緊張作業のための突起構造が必要となるなど、床版302の構造が複雑化しやすい。特にFRP緊張材308は腐食の可能性はないものの、引張荷重を掛けたときの伸長量が多く、緊張作業に熟練した作業員を必要とする。このため、作業員の確保が難しい場合に工程遅延のリスクが生じる。本実施形態では、床版2と接続部4に桁行方向Xのプレストレスを掛けずに高耐久な床版継手構造が成立するため上記の課題が生じない。なお、本実施形態と
図4(a)~(c)に示す比較例では床版の桁幅方向Yのプレストレスが掛けられているが、この工程は工場で実施可能であるため、上記の問題は発生しない。
【0023】
以上説明した構造物1は以下の手順で施工される。まず、予め桁幅方向Yにプレストレスを与えられた第1の床版2Aを鋼桁3に設置する。次に、予め桁幅方向Yにプレストレスを与えられた第2の床版2Bを鋼桁3に設置する。この際、第2の床版2Bを、第1の床版2Aに対して、桁行方向Xに空隙部を介して配置する。換言すれば、一対の床版2A,2Bは、連続繊維補強材6が各床版2A,2Bを貫通して空隙部で終端するように配置される。なお、空隙部の位置及び範囲は
図2に示す接続部4と一致する。次に、空隙部に間詰材を充填して、一対の床版2A,2Bの接続部4を作成する。
【0024】
この手順によれば、第1の床版2Aと第2の床版2Bに桁行方向Xにプレストレスを掛ける必要がないため、緊張作業が不要となるだけなく事前の床版同士の位置合わせも容易となる。また、接続部4の幅Wは前述のように180mm程度であるため、接続部4の施工も非常に短時間ですむ。さらに、鉄筋やPC鋼材を用いていないため腐食の可能性がない。このように、本実施形態の構造物1は長期信頼性や施工性の観点から、従来の構造と比べて多くの利点を有する。
【0025】
しかしながら、本実施形態の構造物1は上記の利点にも拘らず、重ね継手8の信頼性、特に連続繊維補強材6の付着強度の観点から不利となる可能性がある。また、プレストレスを掛けていないため、床版2及び接続部4に収縮に伴うひび割れが進展しやすい。そこで、本実施形態では主に床版2と接続部4の組成を工夫することで、このような潜在的課題が顕在化することを抑制している。表1に床版2のコンクリートの組成(配合例)を、表2に接続部4のコンクリートの組成(配合例)を示す。
【0026】
【0027】
【0028】
床版2は鋼製短繊維を含む。鋼製短繊維は例えば外径0.2~0.62mm、繊維長15mm~30mm程度のものであり、床版2にほぼ均等に分散して互いに独立している。各実施例で用いた鋼製短繊維の混入率は0.5~1.5%であり,この程度の混入率を確保することで必要な性能を付与できる。なお、表1に示す実施例は例示に過ぎず、鋼製短繊維の混入率を実施例に限定する趣旨ではない。床版2の鋼製短繊維は床版2にプレストレスを掛けることなく、床版2を構造的に成立させる効果を有している。従って、床版2を一対の床版2A,2Bと接続部4の配列方向(桁行方向X)に延びる部材は連続繊維補強材6だけである。後述するように、この効果は合成繊維では十分に得ることができない。従来はプレストレスによって圧縮力を掛けてひび割れの発生や進展を抑えていた。本実施形態ではプレストレスに代わるものとして鋼製短繊維を用いているので、ひび割れの進展が抑えられる。なお、前述のように床版2は鉄筋やPC鋼材を含まないため、仮にひび割れが生じて水分が内部に浸透しても、鋼材の腐食膨張によるコンクリート片はく落等の損傷が生じることはない。また、万が一床版2の防水層(図示せず)が破損した場合でも、鋼製短繊維によってひび割れが抑制され床版2の内部への浸水を低減できるため、床版2の疲労劣化が抑制され、床版2の長期信頼性を高めることができる。
【0029】
接続部4は鋼製短繊維を含む。接続部4の鋼製短繊維は床版2の鋼製短繊維と同じであるが、異なっていてもよい。各実施例で用いた鋼製短繊維の混入率は1.0~2.0%である。鋼製短繊維は接続部4にほぼ均等に分散して互いに独立している。接続部4の鋼製短繊維は、付着強度を上げる効果によって連続繊維補強材6の定着性能を改善する。一般に付着強度は付着長さに比例するため、付着性能の低い補強材を用いる場合、長い定着長を確保する必要がある。特にFRPのような合成樹脂を用いた連続繊維補強材6は付着性能が低い場合があり、定着長として35~50d(dは連続繊維補強材6の外径)が必要とされることもある。しかし、本実施形態では、付着性能の高い連続繊維補強材6を用い、且つ接続部4に鋼製短繊維を混入することで、定着長を大幅に低減することができる。また、圧縮強度がそれほど高いコンクリートでなくても付着性能の高い連続繊維補強材6が定着できるため、コンクリートの自己収縮が過度に大きくならない。本実施形態では、GFRPで作成された連続繊維補強材6を用いることで、接続部4の幅Wを180mm前後(最小140mm)に抑えることができる。また、GFRP以外の材料を用いた場合も、接続部4の幅Wが増加する可能性はあるが、定着長の大幅な増加を抑えることができる。
【0030】
次に、接続部4の間詰材の収縮ひび割れを抑える効果について説明する。接続部4にはいわゆる拘束ひび割れが発生しやすい。拘束ひび割れの発生原因は主に2つ考えられる。一つは間詰材と連続繊維補強材6との間の滑りである。車両の走行等に伴い接続部4はせん断荷重を受けるが、このせん断荷重によって連続繊維補強材6と間詰材との界面に微小な滑りが生じることがある。本実施形態では、接続部4の鋼製短繊維が、付着性能の高い連続繊維補強材6の使用と相まって、付着強度を上げ、間詰材と連続繊維補強材6との間の滑りを抑制する。これによって、接続部4のひび割れが進展しにくくなる。もう一つは第1の床版2と第2の床版2が接続部4を拘束する現象である。第1の床版2と第2の床版2は現場での据付け時に十分に固化が進んでいるため、接続部4の間詰材は第1の床版2と第2の床版2によって拘束された状態で収縮しようとする。これによって、接続部4にひび割れが発生する。しかしながら、接続部4に付着特性の高い連続繊維補強材6を用いることで間詰材の圧縮強度を極端に大きくする必要がない。一般に圧縮強度が高いほどコンクリートの自己収縮は大きく、ひび割れが生じやすい傾向にあるが、本実施形態では、間詰材に自己収縮が過度に大きくならない材料を使用することができる(
図6参照)。これにより、第1の床版2と第2の床版2が接続部4を拘束する現象を抑制することができる。さらに、鋼製短繊維を混入することで、接続部4のひび割れが進展しにくくなる。
【0031】
上述のように、接続部4においては付着性能を高める必要性がある。このため、接続部4に含まれる鋼製短繊維の混入率は一対の床版2A,2Bに含まれる鋼製短繊維の混入率以上とすることが好ましい。接続部4における鋼製短繊維の混入率を下げると、その分付着強度が低下するため、接続部4の幅Wが増えて現場での作業量が増える可能性もある。この観点からも、接続部4には床版2と同等か、床版2より多めの混入率で鋼製短繊維を加えることが好ましい。
【0032】
接続部4に含まれる鋼製短繊維の混入率は0.5%以上2.5%で調整することが好ましい。但し、鋼製短繊維の混入率を高めるとコストが増加するだけでなく、フレッシュ時の流動性が低下するため、最大でも2.0%とすることが好ましく、より好ましくは0.9~1.5%、さらに好ましくは0.9~1.1%とするのがよい。一方、一対の床版2A,2Bに含まれる鋼製短繊維の混入率はこれより小さい値、例えば0.5%以上1.0%の範囲から選択することでも構造が成立するため経済的に好ましい。なお、表2に示す実施例は例示に過ぎず、鋼製短繊維の混入率を実施例に限定する趣旨ではない。
【0033】
接続部4のコンクリートの圧縮強度は一例では120MPa以上、より好ましくは140MPa程度以上、床版2のコンクリートの圧縮強度は一例では80MPa程度以上である。床版の圧縮強度は一般的に50MPa程度であるので、本実施形態の構造物1は十分な強度を有している。高い強度が必要とされる接続部4は一対の床版2A,2Bより大きな圧縮強度を有している。上述の通り、圧縮強度が高いほどコンクリートの自己収縮は大きく、ひび割れが生じやすい傾向にあるが、本実施形態では圧縮強度を極端に高めないことで過度な自己収縮を抑制しており、収縮低減剤と膨張材の併用によって、さらに収縮を抑制する効果も得られている。
【0034】
鋼製短繊維は腐食する可能性が否定できない。しかし、本実施形態では、後述のように床版2及び接続部4を構成するコンクリートの水結合材比を下げて緻密化を図っており、これによって腐食反応に必要な水や酸素が侵入しにくくなっている。また、床版2の表面近くに配置される鉄筋と異なり、鋼製短繊維は床版2及び接続部4にほぼ均等に分散して相互に独立しているため、仮にごく表面に存在する一部の鋼製短繊維が腐食しても、鋼製短繊維の腐食によって床版2及び接続部4のひび割れが大きく進展する可能性は低い。
【0035】
図5は本実施形態の鋼製短繊維を混入したコンクリート(実施例1-1)と、ポリビニルアルコール(PVA)繊維を混入したコンクリート(比較例1)の引張軟化特性の一例を示している。引張軟化特性はひび割れ幅と引張応力との関係であり、あるひび割れ幅が生じたときに負担可能な引張応力を示している。実施例1-1と比較例1の引張軟化特性は全体的な形状については概ね同程度であると言える。しかし、実施例1-1は鋼製短繊維を用いているため、ひび割れ幅の小さい範囲での引張応力が大きい。すなわち、高速道路などに用いられる床版2や接続部4については、ひび割れ幅を0.2mm以下に抑えるという考え方が一般的に採用されており、この範囲で実施例1-1の引張応力は比較例1の引張応力よりも大きくなっている。鋼製短繊維を用いた実施例1-1は、PVA繊維を用いた比較例1に対し、あるひび割れ幅が生じるために必要な引張応力、すなわちひび割れに対する耐力が大きく、ひび割れが進展しにくい。
【0036】
図6は実施例2-1~2-10と比較例2(表2参照)の注水からの日数と長さ変化率の関係を示している。
図7は実施例2-1~2-10と比較例2(表2参照)の注水28日目の引張応力(引張軟化特性)を示している。
図6に示すように、実施例2-1~2-10は比較例2と比べて長さ変化率(収縮)が抑えられている。なお、
図6においては、実施例2-2,2-4,2-7,2-8は材齢7日までのデータのみを示している。
図7より、実施例2-1~2-10の引張応力は比較例2と同程度である。つまり、実施例2-1~2-10は比較例2と同程度の力学的特性を確保しつつ、収縮が抑えられている。
【0037】
床版2の配合についてまとめる。
・水結合材比は30%以下が好ましく、22~30%がさらに好ましく、25%前後がさらに好ましい。
・結合材としてポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末やシリカフュームで置換することが好ましい。
なお、表1には記載していないが、粗骨材の最大寸法は20mm以下、単位絶対粗骨材容積は0.225m3/m3以下が好ましい。また、単位水量は175~185kg/m3、モルタル細骨材容積比は40%~60%が好ましい。
【0038】
接続部4の配合についてまとめる。
・水結合材比は15~20%が好ましく、18%前後がさらに好ましい。また、水粉体容積比は40~60%が好ましく、55%前後がさらに好ましい。
・結合材としてポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末やフライアッシュ,シリカフューム等で置換することが好ましい。
・収縮低減剤(内添された高性能減水剤で可)を使用することが好ましい。
・接合部4の収縮を抑えるため膨張材を使用することが好ましい。
・細骨材として風砕されたフェロニッケルスラグ(FNS)を用いることも好ましい。
なお、表2には記載していないが、粗骨材の最大寸法は13~15mm以下、単位絶対粗骨材容積は0.175~0.200m3/m3以下が好ましい。また、単位水量は135~175kg/m3、,モルタル細骨材容積比は21%~42%が好ましい。
【0039】
(試験例)
床版2の試験体を製作していくつかの試験を実施した。床版2に用いるコンクリートは、設計基準強度80MPaの鋼繊維補強コンクリートである。橋軸方向(X方向)をGFRPによるRC構造とし、あき重ね継手により床版2同士を接合した。これにより、現場における橋軸方向の縦締め緊張作業を不要とした。橋軸直角方向(Y方向)は、AFRP(アラミド繊維製FRPロッド)を緊張材として使用したPC構造とした。床版2の形状をリブのない平板構造として、設計・施工ともより簡易な構造とした。
【0040】
(1)GFRPを補強材に使用した床版の構造性能
(a)実験概要
GFRPを補強材に用いた梁の曲げ試験を実施して、そのひび割れ性状および耐荷挙動を比較検討した。試験体は、床版を想定して厚さ200mm、幅400mmの幅広の断面とし、上下に3本ずつ補強材を配置した。試験体の形状及び寸法を
図8に示す。
図8(a)は側方からみた断面図、
図8(b),8(c)は梁の長さ方向と直交する面の断面図を示す。せん断スパン比は4.5、等曲げ区間を600mmと設定し、この区間に生じた全てのひび割れの幅を計測した。
【0041】
コンクリートは、結合材に早強セメントと高炉スラグ微粉末を用い、水結合材比を25%とした。直径0.2mm、長さ15mmの鋼繊維を体積比で0.5%混入した。工場での製造を想定し、蒸気養生することにより、材齢1日で60MPaの圧縮強度を発現するように配合設計した。材齢28日では90~120MPaに達した。載荷試験時(材齢14~21日)の圧縮強度は繊維あり、繊維なし、ともに90~94MPaであった。
【0042】
試験体一覧を表3に示す。鉄筋、GFRPそれぞれでコンクリートに鋼繊維を混入した場合としない場合で比較した。鉄筋はD19(SD345)を、GFRPはD19とほぼ同じ断面積を有する呼び径18mmのものを使用した、表面には高さ1mmのリブが約10mmピッチで設けられている。GFRPの保証引張強度は1000MPa、ヤング率は60GPaである。
【0043】
【0044】
(b)実験結果
図9に梁中央変位と荷重の関係を、
図10に各試験体の破壊後のひび割れ性状を示す。鉄筋で補強した梁は、いずれも降伏後に梁上縁のコンクリートが圧縮破壊した。鋼繊維を混入したことで鉄筋の降伏荷重と最大荷重が約10%程度上昇した。ひび割れ本数や間隔に鋼繊維の影響は見られなかった。GFRPで補強した梁で鋼繊維ありのG試験体は、荷重が50kN程度で最初の曲げひび割れが発生した後、一定の勾配で荷重が増加し荷重300kNを超えたところで上縁のコンクリートが圧縮破壊した。除荷後の残留変位は約20mmまで復元しており、GFRPが健全であることが分かる。一方、鋼繊維のないG-n試験体は、同様に50kN程度で初ひび割れが生じた後、荷重の増加に伴い斜めひび割れが載荷付近まで進展し、約200kNでせん断圧縮破壊した。これは、後述するように鉄筋と比較してGFRPはひび割れ幅が大きく、斜めひび割れ面での粗骨材のかみ合わせ効果が小さくなること、また、GFRP自体のダウエル効果が小さいことなどが要因と考えられる。鋼繊維を混入したことでこれらは大きく改善されることが分かった。
【0045】
図11(a),11(b)は、R-n、G試験体の等曲げ区間の全ひび割れ幅の推移を示したものである。ここで、コンクリートの引張抵抗を無視したRC計算では、鉄筋やGFRPの応力度が140MPa(一般的な鉄筋コンクリート構造においてひび割れ幅を制御した場合の鉄筋の制限値を相当)になる荷重は45kNである。この荷重レベルで比較すると、一般的な鉄筋コンクリート構造であるR-n試験体のひび割れ幅は0.1~0.2mm程度となった。これに対し、鋼繊維ありのG試験体は45kNではひび割れが生じていないが、最も小さな荷重で生じたひび割れが荷重と釣り合った時のひび割れ幅が約0.2mm程度となった。以上から、繊維補強コンクリートとGFRPを組み合わせた構造では、補強材の応力度を鉄筋と同程度に制御したことによりひび割れ幅を同様に制御できることが分かった。
【0046】
(2)接続部4の検討
(a)実験概要
接続部4には、あき重ね接続部を採用した。あき重ね接続部は、接続部4のコンクリート圧縮強度や鋼繊維混入率を上げることで接続部4の幅を小さくでき、施工性の向上が期待できる。ここで用いた間詰めコンクリートは、鋼繊維を1.0%混入し、シリカフュームプレミックスセメントを用いて材齢28日の実圧縮強度が160MPa程度以上となる配合とした。また、接続部4は収縮ひび割れが問題になる箇所であることから、膨張材と収縮低減剤を用いて収縮量を極力低く抑えることとした。
【0047】
GFRPを用いたあき重ね接続部が成立するかどうかの判定は、GFRPの引張応力度が345MPaに達するまで付着割裂ひび割れなどの変状を生じないこととした。これは、供用時のGFRPの応力の限界値を鉄筋と同等にすることを想定しており、床版の曲げ耐力も同等とすることに配慮したものである。あらかじめ小型の両引き試験を実施し、GFRP直径の5倍の接続部4の長さがあれば、345MPa以上のGFRP引張応力度以上の引張力に抵抗できることを確認した。
【0048】
図12に試験体の形状及び寸法を示す。試験体の幅は825mmでGFRPを150mmピッチで配置した。接続部4の接合面には、せん断キーを設けた。接合面は、遅延剤塗布とハイウオッシャーによる目粗しを行った。試験体は、接続部4のGFRPの継手長さを5d、6d、7dとした3体とした。
【0049】
(b)実験結果
図13に梁中央変位と荷重の関係を、
図14に破壊後のひび割れ状況を示す。
図14(a)、14(c)は両側側面、
図14(b)は正面のひび割れ状況を示している。いずれの試験体も、曲げひび割れ発生後一定の剛性で荷重が増加した後、接合部においてGFRPの付着割裂ひび割れが発生して荷重が低下した。接続部の長さが長いほど付着割裂ひび割れが発生した荷重は増加する傾向にあった。最大荷重は、いずれの試験体もコンクリートの引張抵抗を見込まない計算で、GFRPの応力度が345MPaとなる荷重よりも大きな荷重に抵抗できることを確認した。試験の結果、接続部の長さが5d以上あれば所要の耐力を発揮できることが分かったが、実構造においては、材料品質のばらつきや施工誤差などを考慮して7dを採用することが好ましい。
【0050】
(3)疲労耐久性の確認
(a)実験概要
床版接合部の疲労耐久性を確認するため、輪荷重走行試験を実施した。荷重および繰り返し回数は、
図15に示すように東名高速道路の交通量100年分に相当した250kNを10万回載荷後、床版上面に水を張り、その状態で250kNにて再度10万回載荷した。その後は荷重を50kNずつ増加させ各4万回の繰り返し載荷により損傷状況を確認した。
図16に試験体の寸法を示す。
図16(a)は平面図、
図16(b)は断面図、
図16(b)は側面図を示している。NEXCO試験方法442-2019に準じ、全長4.5m、幅2.8mとした。床版支間は2.5mの単純支持版である。床版支間3.0mの連続版の試設計を行い、設計荷重時に曲げひび割れ強度以下になるように床版支間方向にはAFRPで2.0MPa程度のプレストレスを導入した。
【0051】
GFRPは150mm間隔で配置し、設計荷重時に発生した応力が140MPa以下になるように直径を決定した。試験体は、実橋で想定される手順と同様の手順で製作した。延長2.15mの床版パネルを2枚製作した後、接続部の長さが7d(接続部4幅200mm)となるよう架台の上に並べ、接合部コンクリートを打込み接合した。試験体は全長4.5mと短いため、床版が連続した場合と同等の変形となるように弾性FEM解析にて検討し、試験体端部には弾性支持梁H形鋼(300H)を取付けた。
【0052】
(b)試験結果
(i)床版たわみの推移
載荷回数と床版のたわみの関係を
図17に示す。たわみはすべてのステップにおいて、載荷荷重250kNの場合の値に統一した。STEP3までは残留変位、活荷重たわみともほとんど変化が見られず疲労の影響は非常に小さいと考えられる。STEP4においては、残留変位が若干増加したが、活荷重たわみには変化が見られず、構造性能への影響はほとんどないと考えられる。STEP5~7にかけては、荷重が増加するにつれて残留たわみは大きくなっているが活荷重たわみの増加量はそれほど大きくなく、構造性能の低下が限定的であることが確認できる。走行試験は、STEP7(載荷荷重490kN)において、約17000回に到達した時点で試験装置のストロークが限界に達したため、終了した。
【0053】
図18に橋軸方向の床版のたわみ分布を示す。載荷回数および荷重の増加に伴ってたわみが増加したが、STEP5までは増加量も少なく、急激な性能低下は発生していないと考えられる。また、STEP7(
図18の試験完了時)においても、接合部での連続性を保持したたわみ分布であり、支持性能および十分な疲労耐力を保有していることが確認できた。
【0054】
(ii)床版下面および切断面のひび割れ状況
試験体の下面のひび割れ発生状況を確認したところ、下面には一部にうきが発生したが、STEP7終了後においても表面コンクリートは剥落しなかった。これは短繊維の効果と考えられる。また、STEP2以降は床版上面に水を張った状態での載荷であったが、STEP4にて支点上の接合面からの漏水が認められ、STEP6および7では床版支間中央の接合部へも水浸みが確認された。床版支間方向断面を見ると、上側のGFRPの位置に水平ひび割れが発生しており、押抜きせん断ひび割れが発生した。接合面に設けたせん断キーは凸側の途中にひび割れが発生した箇所があるが、ずれは発生していない。
図19に接合部の切断面を示す。GFRPの引抜けや付着切れなどは見られず、静的載荷とは異なりGFRPの抜け出しによる破壊とはならなかった。
【符号の説明】
【0055】
1 構造物(床版とその接続構造)
2 床版
4 接続部
6 連続繊維補強材