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特開2024-150414固体NMR用MASマイクロガスタービンにおける機能別ガスの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150414
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】固体NMR用MASマイクロガスタービンにおける機能別ガスの使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G01N24/00 510C
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024056013
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】10 2023 202 880.8
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】524122990
【氏名又は名称】ブルーカー バイオスピン ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング ウント コー カー ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker BioSpin GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】リコ ジムラー
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド オーセン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ポダデッラ サンチェス
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ベッカー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低い圧力であってもMASロータが高い回転周波数で動作できるように効率を向上させる方法を提供する。
【解決手段】細長いMASロータ12を収容するためのMASステータ11を含むMASタービン10を有するMASシステムを備えたNMR装置の動作方法であってMASロータの支持のための、及び駆動のための、分離されたガス供給ラインがMASステータに配置されている方法は、少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物が、分離されたガス供給ラインを通してMASステータに供給される異なるガス又はガス混合物が、MASステータに配置されたフラッシングシール16によって、MASステータにおいて混合されるのを防止され、このフラッシングシールによって、MASロータ12の駆動のための及び支持のための異なるガス又はガス混合物が、MASステータから少なくとも部分的に流出することと、を特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いMASロータ(12)を収容するためのMASステータ(11)を含むMASタービン(10)を有するMASシステムを備えたNMR装置の動作方法であって、前記MASロータ(12)の支持のための、及び駆動のための、分離されたガス供給ライン(13’;13”)が前記MASステータ(11)に配置されている方法であって、前記MASステータ(11)に、前記分離されたガス供給ライン(13’;13”)を通してガス又はガス混合物(X;Y)が供給され、ガス又はガス混合物(X)は、前記MASロータ(12)の駆動のために第1のガス供給ライン(13’)を通して、並びに前記MASロータ(12)の支持のために第2のガス供給ライン(13”)を通して、前記MASステータ(11)に供給され、前記MASステータ(11)への供給前に、前記ガス又はガス混合物(X;Y)の加圧がそれぞれ別々に制御される、方法において、
少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物(X;Y)が、前記分離されたガス供給ライン(13’;13”)を通して前記MASステータ(11)に供給される、ここで、前記少なくとも2つの異なったガス又はガス混合物(X)のうちの1つは前記MASロータ(12)の駆動のために第1のガス供給ライン(13’)を通して前記MASステータ(11)に供給され、これとは異なる他のガス又はガス混合物(Y)は前記MASロータ(12)の支持のために第2のガス供給ライン(13”)を通して供給されることと、
前記少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物(X;Y)の加圧が、前記MASステータ(11)への前記ガス又はガス混合物の供給前にそれぞれ別々に制御されることと、
前記異なるガス又はガス混合物(X;Y)が、前記MASステータ(11)に配置されたフラッシングシール(16)によって、前記MASステータ(11)において混合されるのを防止され、前記フラッシングシール(16)を介して、前記MASロータ(12)の駆動のための及び前記MASロータ(12)の支持のための前記異なるガス又はガス混合物(X;Y)が、前記MASステータ(11)から少なくとも部分的に流出することと、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記分離されたガス供給ライン(13’;13”)を介して前記MASステータ(11)及び前記MASロータ(12)に供給される前記異なるガス又はガス混合物(X;Y)は、前記分離されたガス供給ライン(13’;13”)を介して前記MASステータ(11)及び前記MASロータ(12)に送られる前に、別個のガス制御ユニット(14)に導入される原料ガス又は原料ガス混合物(X’;Y’)から調製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MASロータ(12)の支持のための前記ガス又はガス混合物(Y)の圧力が0.5~5barの間の値に制御され、前記MASロータ(12)の駆動のための前記ガス又はガス混合物(X)の圧力が0~10barの間の値に制御されることを特徴とする、請求項1及び2のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記MASロータ(12)の支持のための前記ガス混合物(Y)中にNが存在し、前記MASロータ(12)の駆動のための前記ガス混合物(X)中にヘリウムが存在すること、特に前記MASロータ(12)の支持のためのガス(Y)としてドライ窒素が使用されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記MASロータ(12)の支持のためのガス混合物(Y)として、Heの割合が0~50%の、特に0~30%のN-He混合物が使用されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記MASロータ(12)の駆動のためのガス又はガス混合物(X)として、10%~100%の、特に25%~100%の、殊に50%~100%のヘリウムが使用されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記使用されるヘリウムは、少なくとも95%の純度(=「バルーンガス」)を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記MASロータ(12)の温度調節のための温度調節ガスとして、別のガス又はガス混合物(Z)が、前記MASロータ(12)の支持のための前記ガス供給ライン(13’)から並びに前記MASロータ(12)の駆動のための前記ガス供給ライン(13”)から空間的に分離された追加のガス供給ライン(13”’)を通して前記MASステータ(11)に送られ、また、別個に制御されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記MASロータ(12)の温度調節のためのガス又はガス混合物(Z)としてドライ窒素、C5パーフルオロケトン(C5-PFK)或いは乾燥又は精製された空気が使用されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実行するように設計された、かつ細長いMASロータ(12)を収容するためのMASステータ(11)を含むMASタービン(10)を有するMASシステムを備えたNMR装置であって、ここで、前記MASステータ(11)には、前記MASロータ(12)の支持のための、及び駆動のための分離されたガス供給ライン(13’;13”)が配置されており、また、供給される原料ガス又は原料ガス混合物(X’;Y’)が分離されたガス供給ラインを介して供給されうるガス制御ユニット(14)が設けられており、また、前記MASタービン(10)における前記MASロータ(12)の駆動及び支持を互いに分離して行うために、前記ガス制御ユニット(14)は、前記MASロータ(12)のガス駆動のための、及び前記MASロータ(12)のガス支持のための原料ガス又は原料ガス混合物(X’;Y’)を調製するように、そして、対応するそれぞれ適合させた圧力を印加するように、そして、分離されたガス供給ライン(13’;13”)を介して前記MASステータ(11)に送るように、設計されている、NMR装置において、
供給された少なくとも2つの異なる原料ガス又は原料ガス混合物(X’;Y’)が、分離されたガス供給ラインを介して供給されうるガス制御ユニット(14)が設けられていることと、
前記MASタービン(10)における前記MASロータ(12)の駆動及び支持を互いに分離してもたらすために、前記ガス制御ユニット(14)は、前記MASロータ(12)のガス駆動のための及び前記MASロータ(12)のガス支持のための、異なる組成のガス状媒体(X;Y)としての前記原料ガス又は原料ガス混合物(X’;Y’)を調製するように、そして、前記対応するそれぞれ適合させた圧力を印加するように、そして、分離されたガス供給ライン(13’;13”)を介して前記MASステータ(11)に送るように、設計されていることと、
前記MASタービン(10)がフラッシングシール(16)を含み、前記フラッシングシールは、前記駆動ガス及び軸受ガス(X;Y)の流出器として駆動ノズル(17”)と軸受ノズル(17’)との間に配置されており、かつ前記駆動ガス(X)がNMRコイルの領域に到達することを防ぐために、前記軸受ガス(Y)の少なくとも一部が通過するように設計されていることと、を特徴とするNMR装置。
【請求項11】
前記ガス制御ユニット(14)は、前記駆動ガス及び軸受ガス(X;Y)の圧力及び/又は組成を調整するために前記MASタービン(10)の周波数センサ(15’)に接続されていることを特徴とする、請求項10に記載のNMR装置。
【請求項12】
前記MASステータ(11)は、前記MASロータ(12)の温度調節のための温度調節ガスとしての別のガス又はガス混合物(Z)の供給のための、空間的に分離された追加のガス供給ライン(13”’)を有することを特徴とする、請求項10又は11のいずれか1項に記載のNMR装置。
【請求項13】
前記ガス制御ユニット(14)は、前記駆動ガス、軸受ガス、及び温度調節ガス(X;Y;Z)を別々に制御するためのそれぞれ分離されたサブ制御ユニット(18’;18”;18”’)を含むことを特徴とする、請求項12に記載のNMR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細長い(laenglichen)MASロータを収容するためのMASステータを含むMASタービンを有するMASシステムを備えたNMR装置の動作方法であって、MASロータの支持のための、及び駆動のための、分離されたガス供給ラインがMASステータに配置されている方法、並びに先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するように設計されているNMR装置に関し、MASステータに、分離されたガス供給ラインを通してガス又はガス混合物が供給され、ガス又はガス混合物は、MASロータの駆動のために第1のガス供給ラインを通して、並びにMASロータの支持のために第2のガス供給ラインを通して、MASステータに供給され、MASステータへの供給前に、ガス又はガス混合物の加圧(Druckbeaufschlagung)がそれぞれ別々に制御される。
【背景技術】
【0002】
このようなMASシステムを備えたNMR装置及び対応する動作方法は、例えば、JIANG,Y.J.、他による論文である非特許文献1(=参考文献[0])からそれ自体既知である。
【0003】
類似の装置が特許文献1(=参考文献[1])、又はK.R.Thurber、他による論文である非特許文献2(=参考文献[2])からも知られている。
【0004】
本発明は、一般に、磁気共鳴の分野に関する。核磁気共鳴(NMR)分光法は、物質の化学組成を特徴付けるための機器分析の商業的に広く普及した方法である。この方法では、強い静磁場中にある測定試料に高周波パルスを照射し、それによって測定物質中の核スピンが整列し、測定試料の電磁的反応が測定される。次に、この情報が、測定試料の特定の領域、いわゆるアクティブボリューム(aktive Volumen)に亘って総合的に取得され、化学組成を決定するために評価される。
【0005】
固体NMR分光法では、異方性相互作用による線膨張(Linienverbreiterungen)を低減するために、分光測定中にNMR試料を静磁場に対してarctan√2≒54.74°のいわゆる「マジックアングル」に傾けて、高周波数(典型的には数kHz)で回転させる(「MAS」=Magic Angle Spinning)ことが更に知られている。そのために、試料がMASロータに装填される。MASロータは通常、キャップにより閉鎖されている、片側が開いた円筒形のチューブであり、キャップには翼要素、特に小羽根車が設けられている。MASロータはMASステータに配置され、ガス圧によってMASロータが翼要素を介して回転駆動される。MASロータとMASステータとからなる全体をMASタービンと呼ぶ。
【0006】
取り囲むガス中でNMR試料が回転すると、ガス摩擦によりMASロータの壁が熱せられる。これが、試料物質全体の不均一な温度分布、及び試料物質の望ましくない加熱をもたらす。したがって、NMR試料を含むMASロータは、測定中において、温度調節ガスを供給することによって所望の温度に保たれ、これは例えば特許文献2(=参考文献[3])に記載されており、そこでも冒頭で定義したものと同様の特徴を有するMASシステムが使用されている。
【0007】
特別な先行技術
MASロータの支持及び駆動のために代替ガス(例えば窒素の代わりにヘリウムなど)を使用することにより、固体NMR用のMASシステムにおけるより高い回転速度を達成することができる。しかし、軸受にヘリウムを使用することによって、利用者に高い追加コストが発生する。更に、ヘリウム中での噴霧耐性が低下する。その場合、更に、軸受ノズルと駆動ノズルを設計し直す必要がある。従来のMASステータでは、ノズル開口と軸受隙間幅は通常、窒素の密度と粘度に合わせて設計されているが、それはこのガスが従来から、その不活性ガス特性、良好な入手性、及び低価格を理由として世界中の実験室で使用されているためである。
【0008】
例えば、特許文献3(=参考文献[4])には、高磁場磁石用の低温MASシステムが記載されており、このシステムでは、20Kまでの非常に低い温度でも又はより高い回転速度でもMASロータを動作させることができる。このようなケースについて、特許文献3(=参考文献[4])は、窒素の代わりにヘリウムを軸受ガス及び駆動ガスとして使用することを推奨している。
【0009】
E.Bouleau、他による科学論文である非特許文献3(=参考文献[5])には、DNP-MASタービンの冷却ガス及び駆動ガスとしてのヘリウムの使用が記載される。
【0010】
Bouleauはまた、非常に低い温度で使用するために、特許文献4(=参考文献[6])において、冷却ガス及び駆動ガスとして窒素又はヘリウムのいずれかを用いて動作させることができるMASロータを記載している。
【0011】
特許文献5(=参考文献[7])には、可能な回転速度を高めるために、MASロータの材料としてダイヤモンドを使用することが記載されている。これに関連して、駆動ガスとしてヘリウムを使用することも記載される。
【0012】
冒頭ですでに引用した非特許文献2(=参考文献[2])には、MAS回転のための駆動及び軸受ガスとして窒素を使用すること、並びに、VT用に(すなわちNMR試料の温度調節のためのみに)冷ヘリウムを使用することが記載される。W.H.Potterによる科学論文である非特許文献4(=参考文献[8])においても、同様のことが開示されている。ここでもまた、冷却ガス及び駆動ガスとしてヘリウムに言及されている。
【0013】
同じく冒頭ですでに引用した特許文献1(=参考文献[1])には、“超音速サンプルスピナー(Supersonic Sample Spinner)”、すなわち超音速域で回転し得るMASロータが記載されている。特許文献1(=参考文献[1])によると、これは、ヘリウムだけを使用して動作する(すなわち格納され(gelagert)、駆動される)か、又は、MASロータの高速回転による軸受の加熱を低減するためにヘリウム/窒素混合物を使用して動作することができる。したがって、動作中にMASロータとMASステータとの間の電圧フラッシュオーバーという重大な問題を引き起こすことなく、窒素中に最大5%のヘリウムを含有させることが可能である。
【0014】
冒頭ですでに引用した非特許文献1(=参考文献[0])も、単一のガスによるMASシステムの動作に言及しているだけであり、同時に複数の異なるガス又はガス混合物を用いる動作については全く言及していない。
【0015】
MAS技術における一般的な傾向は、MASロータをいっそう高い回転周波数で動作させることである。そのための制限要因として文献で常に挙げられるのは、駆動ガスの音速である。
【0016】
駆動ガスとしての窒素の有効性は音速に達する前にすでに衰える。他のガス(例えばヘリウム)は、音速がより高いため、及び/又は粘度が異なるなどの理由で、特に高速回転することが目的とされるMASロータを備えた固体NMR用のMASシステムで使用するのに有利な特性を有している。
【0017】
そして、MASロータのより高い回転周波数が意図される場合に、これまで使用されていた駆動ガスを、より高い音速の別のガスに置き換える、すなわち例えば、窒素をヘリウムに置き換えることが適切であり得ると思われる。これは原理的にはそれ自体知られてはいるが、実際に音速をより高くするという目的で動作ガスを置き換えることは、残念ながらそれほど簡単ではない。なぜなら、例えば窒素などの高密度で、したがって音速が低いガスでなければ、MASロータの良好なガス支持が得られないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第5,508,615号明細書(=参考文献[1])
【特許文献2】欧州特許第3301467号明細書(=参考文献[3])
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0026302号明細書(=参考文献[4])
【特許文献4】米国特許第9,995,802号明細書(=参考文献[6])
【特許文献5】国際公開第2021/097382号(=参考文献[7])
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】JIANG,Y.J.,et al.による論文Efficient stator/rotor assembly for magic-angle spinning NMR.Review of scientific instruments,1987,58.Jg.,Nr.5,755~758ページ、DOI:https://doi.org/10.1063/1.1139626[2023年12月1日に調査及び検索](=参考文献[0])
【非特許文献2】K.R.Thurber et al.,による論文“Biomolecular solid state NMR with magic-angle spinning at 25K”,Journal of Magnetic Resonance 195(2008)179~186ページ(=参考文献[2])
【非特許文献3】E.Bouleau et alによる科学論文“Pushing NMR sensitivity limits using dynamic nuclear polarization with closed-loop cryogenic helium sample spinning”,Chem.Sci.(2015)6,6806(=参考文献[5])
【非特許文献4】W.H.Potterによる科学論文、“Apparatus to Rotate Samples Rapidly at Temperatures Less than 2K in High Transverse Magnetic Fields” in Review of Scientific Instruments 42,618(1971)(=参考文献[8])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
これに対して、本発明は、冒頭で定義された特徴を有するNMR装置に一般的に使用されているような従来のMASステータを使用して、MASロータの回転速度を最大化するという課題に基づいている。
【0021】
ここで、本発明により、MASステータを軽ガス用に特別に設計する必要性は回避される。
【0022】
これらの既知のMASステータでは、駆動ガス流と軸受ガス流のための物理的ガス供給ラインはすでに空間的に分離されている。しかしながら、従来の一般的な流出ノズルを、本発明のために必ずしも適合させる必要はない。
【0023】
また、可能な限り小さい圧力を印加してMASロータを高い回転周波数で動作させることができるように、効率を向上させることも重要である。その場合、NMR測定時に発生する回転変動が可能な限り小さくなるように、圧力は安定しているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明をもってすれば、この複雑な課題は、冒頭で定義された種類のNMR装置の動作方法により、驚くほど簡単かつ効果的に解決される。この動作方法では、少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物が、分離されたガス供給ラインを通してMASステータに供給される、ここで、少なくとも2つの異なったガス又はガス混合物のうちの1つはMASロータの駆動のために第1のガス供給ラインを通してMASステータに供給され、これとは異なる他のガス又はガス混合物はMASロータの支持のために第2のガス供給ラインを通して供給される、また、少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物の加圧が、MASステータへのガス又はガス混合物の供給前にそれぞれ別々に制御される、また、異なるガス又はガス混合物X;Yは、MASステータに配置されたフラッシングシールによって、MASステータにおいて混合されるのを防止され、このフラッシングシールを介して、MASロータの駆動のための及びMASロータの支持のための異なるガス又はガス混合物X;Yが、MASステータから流出する。
【0025】
本発明の基本的な考え方は、MASシステムの各機能に特に適したガス又はガス混合物を使用することである。すなわち、本発明は、ガス供給とガス調製との一貫した分離を実施することを提案する。
【0026】
特に本発明により、固体NMR用のMASマイクロガスタービンにおけるMASロータの支持とその駆動のために用いられるガスの機能別の最適化という、これまで想像できなかった可能性が開かれる。
【0027】
MASロータに軸受ガス及び駆動ガスを装填するための空間的に分離されたガス供給ラインは、これは通常MASシステムにすでに存在するものだが、本発明によって、物理的変更を行わなくても、支持及び駆動のための異なるガス組成により、そのまま利用できるようになる。
【0028】
使用されるべきガス又はガス混合物は、更にNMR装置のHFコイルにおける電気的フラッシュオーバも排除できるように、簡単に選択することができる。
【0029】
更に、異なるガス流を、特に、印加される圧力に関して制御し、これら異なるガス流の組成を調整可能にする制御ユニットが提供されるべきである。
【0030】
軸受強度を低下させないために、ヘリウムが支持部に到達することは許されない。逆に、音速はNによって低下する。したがって、軸受ガスが駆動領域に到達することは許されない。すなわち、本発明によれば、軸受と駆動装置が切り離されるべきであるため、フラッシングシールによる効率的な分離が必要である。
【0031】
必要に応じて、MASロータ、したがってNMR試料の温度調節のための温度調節ガス流(VT)も(やはり)可能である。その装填もまた、特にこの目的のために最適化されたガス又はガス混合物を使用して、特に、言うまでもなく、使用される軸受ガス又は駆動ガスを使用して行うことができる。
【0032】
VTガスは、ステータにおいて、コイルも着座するロータに対して直接放出されるか、若しくはロータに向けて導かれる。したがって、別個の温度調節ガスを相応に選択することによって耐電圧も高めることができる。VTガスが適切に選択されることによって、特に極端な範囲、すなわち非常に高い温度又は非常に低い温度に達する場合に、ガス特性を最適化することができる。この場合、軸受ガスは過度の高温/低温からの熱シールドとしても機能する。必要に応じて、例えば室温測定において、MASタービンにおける全流量を低減するために温度調節ガスをオフにすることができる。
【0033】
発明の好ましい実施形態
本発明による方法の更に特に好ましい実施形態では、分離されたガス供給ラインを介してMASステータ及びMASロータに供給される異なるガス又はガス混合物は、分離されたガス供給ラインを介してMASステータ及びMASロータに送られる前に、別個のガス制御ユニットに導入される原料ガス又は原料ガス混合物から調製される。
【0034】
ガス制御ユニットで重要なのは、ガスパラメータの最適な制御である。ステータの圧力センサ、温度センサ及び回転周波数センサは、ガス混合物がその最適な組成及び圧力若しくは温度に従って調製され、かつ別々のガス供給ラインを介してMASステータ及びMASロータに送られるようにするために用いられる情報を制御ユニットに出力する。
【0035】
これは、例えば、ユーザが周波数や温度などの所定のパラメータを入力する操作ユニット(ソフトウェア)を用いた自動化のためにも用いられる。例えば、高価なヘリウムを低い回転周波数で低減することができる場合、適切な混合調製によってコストも削減することができる。
【0036】
実際に、MASロータの支持のためのガス又はガス混合物Yの圧力が0.5~5barの間の値に制御され、MASロータの駆動のためのガス又はガス混合物Xの圧力が0~10barの間の値に制御されることを特徴とする本発明による方法の変形形態が有効であることが実証されている。
【0037】
安定した回転速度を得るためには、圧力と流量の正確な制御が必要である。わずか1mbarの偏差であっても50Hzの回転数の変化につながる。しかし、正確で安定した測定のためには、偏差は最大でも10Hzでなければならない。駆動はミリバール未満の範囲(sub-Millibar-Bereich)に制御されるが、これを手動制御で達成するのは困難である。より広い範囲にわたって測定したいため、圧力制御も広い範囲で行う必要がある。
【0038】
更に好ましい変形形態では、MASロータの支持のためのガス混合物Y中にNが存在し、MASロータの駆動のためのガス混合物X中にヘリウムが存在し、特にMASロータの支持のためのガスYとしてドライ窒素が使用される。
【0039】
は、不活性であって高密度であり、容易にかつ安価に入手できる。したがって、軸受ガスとして使用するのに非常に適している。ヘリウムは高音速であるため、このガスは、より速く流れて、MASロータをより速く回転させることができる。
【0040】
MASロータの支持のためのガス混合物Yとして、Heの割合が0~50%の、特に0~30%のN-He混合物が使用される方法の変形形態も有利である。
【0041】
軸受ガス中の混合物によって、音速を調整/増加させることができる。高回転速度では、超音速に達したときの衝撃波や乱流が発生するという問題があるが、これらを回避できるためである。
【0042】
本発明による方法の別の好ましい変形形態は、MASロータの駆動のためのガス又はガス混合物Xとして、10%~100%の、特に25%~100%の、殊に50%~100%のヘリウムが使用される。
【0043】
ヘリウムの音速はより高い。駆動速度がより低い場合、駆動効率と可用性がより良好であるNも追加で供給することもできる。
【0044】
これらの方法の変形形態は、使用されるヘリウムが少なくとも95%の純度(=「バルーンガス」)を有することによって更に改良できる。
【0045】
5%の不純物は音速にあまり影響を与えない。したがって、工業用、すなわち不純物がごくわずかで、したがってコスト効率がよりよいヘリウムを使用することもできる。
【0046】
本発明による方法の変形形態で、特に好ましくは、MASロータの温度調節のための温度調節ガスとしての別のガス又はガス混合物Zが、MASロータの支持のためのガス供給ラインから並びにMASロータの駆動のためのガス供給ラインから空間的に分離された追加のガス供給ラインによってMASステータに送られ、また、別個に制御される。
【0047】
MASシステム全体ではなく、試料は、ターゲットを絞って温度調節されるべきである。適切なガスを的確に選択することによって、HFパルスの耐電圧を高めることができる。
【0048】
運転コストを低く抑えるために、これらの方法の変形形態の発展形態では、MASロータの温度調節のためのガス又はガス混合物Zとしてドライ窒素、C5パーフルオロケトン(C5-PFK)或いは乾燥及び精製された空気を使用することができる。
【0049】
この温度範囲でVTガスが液化又は凍結することは許されない。必要な耐電圧を確保するには、VTガスの露点が目標温度未満である必要がある。
【0050】
上記の変形形態のうちの1つによる方法を実行するように設計されている、かつ細長い(laenglichen)MASロータを収容するためのMASステータを含むMASタービンを有するMASシステムを備えたNMR装置も本発明の範囲に含まれる、ここで、MASステータには、MASロータの支持のための、及び駆動のための分離されたガス供給ラインが配置されており、また、供給される原料ガス又は原料ガス混合物が分離されたガス供給ラインを介して供給されうるガス制御ユニットが設けられており、また、MASタービンにおけるMASロータの駆動及び支持を互いに分離して行うために、ガス制御ユニットは、MASロータのガス駆動のための、及びMASロータのガス支持のための原料ガス又は原料ガス混合物を調製するように、そして、対応するそれぞれ適合させた圧力を印加するように、そして、分離されたガス供給ラインを介してMASステータに送るように、設計されている。
本発明によれば、そのようなNMR装置は、供給された少なくとも2つの異なる原料ガス又は原料ガス混合物X’;Y’が、分離されたガス供給ラインを介して供給されうるガス制御ユニットが設けられていることと、MASタービンにおけるMASロータの駆動及び支持を互いに分離してもたらすために、ガス制御ユニットがMASロータのガス駆動のための及びMASロータのガス支持ための、異なる組成のガス状媒体X;Yとしての原料ガス又は原料ガス混合物X’;Y’を調製するように、そして、対応するそれぞれ適合させた圧力を印加するように、そして、分離されたガス供給ラインを介してMASステータに送るように、設計されていることと、MASタービンがフラッシングシールを含み、フラッシングシールは、駆動ガス及び軸受ガスX;Yの流出器として駆動ノズルと軸受ノズルとの間に配置されており、かつ駆動ガスXがNMRコイルの領域に到達することを防ぐために、軸受ガスYの少なくとも一部が通過するように設計されていることと、を特徴とする。
【0051】
ガス制御ユニットは、すでに上記で説明したように、ガス流の最適化及び自動化された制御のために用いられる。ユーザは目標データをソフトウェアに入力しさえすればよく、その場合、制御ユニットが目標を達成するために必要な各ガスの組成とそれぞれの圧力調整とを制御する。制御ユニットは、MASステータからの対応するセンサ情報を処理し、流量を適合させる。
【0052】
更に、緊急停止が可能であれば、ロータの破損を回避するための測定に関する安全面と、作業場で酸素不足が発生した場合のユーザ自身に関する安全面の両方を統合することができる。
【0053】
本発明によるNMR装置の有利な実施形態では、ガス制御ユニットは、駆動ガス及び軸受ガスX;Yの圧力及び/又は組成を調整するためにMASタービンの周波数センサに接続されている。
【0054】
MASステータが、MASロータの温度調節のための温度調節ガスとしての別のガス又はガス混合物Zの供給のための、空間的に分離された追加のガス供給ラインを有することを特徴とする、本発明によるNMR装置の一実施形態も好ましい。
【0055】
この類の実施形態の有利な発展形態では、ガス制御ユニットは、駆動ガス、軸受ガス、及び温度調節ガスX;Y;Zを別々に制御するためのそれぞれ分離されたサブ制御ユニットを含む。
【0056】
これらのガスは、以下の理由から個別に制御可能でなければならない:
-駆動効率と高い音速(駆動ガスX)、
-軸受耐荷重/軸受強度(軸受ガスY)
-温度調節にはVTガスの流れと熱質量が決定的に重要であるため、温度調節(温度調節ガスZ)。
圧力制御は、特に、速度を一定にするために用いられる。
【0057】
ガス制御ユニットが、温度調節ガスの温度を調節するためにMASタービンの温度センサに接続されている本発明の実施形態も好ましい。
【0058】
試料温度を一定に保つために温度センサが必要である。温度センサからのデータにより、VTガスの温度設定に関する結論を導き出すことができる。
【0059】
本発明のさらなる利点は、以下の説明及び図面から明らかになる。図示及び説明される実施形態は、網羅的な列挙と解されるべきではなく、むしろ本発明を説明するための例示的な性格を有する。
【0060】
本発明を図面に示し、実施例をもとにして詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明によるMASタービンの一実施形態の概略垂直断面図を示す。
図2】3つの異なる軸受ガス及び駆動ガス或いはガス混合物による、それぞれのケースでの駆動圧力pDRIVE(bar)の関数としての回転周波数fROT(kHz)のグラフを示す。
図3a】2つのガスを調製するための実施形態におけるMASタービン用のガス供給及び制御システムを備えた、MASシステムの本発明によるガス管理の概略機能図を示す。
図3b図3aと同様であるが、3つのガスを調製するための実施形態の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、細長いMASロータ12を収容するためのMASステータ11を含むMASタービン10を有するMASシステムを備えるNMR装置の動作方法に関するものであって、MASステータ11には、MASロータ12の支持のため、及び駆動のための、分離されたガス供給ライン13’;13”が配置されている。本発明の主題は、これに対応して改良されたNMR装置でもある。
【0063】
本発明は、少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物X;Yが、分離されたガス供給ライン13’;13”を通してMASステータ11に供給されること、ここで、少なくとも2つの異なったガス又はガス混合物Xのうちの1つはMASロータ12の駆動のために第1のガス供給ライン13’を通してMASステータ11に供給され、これとは異なる別のガス又はガス混合物YはMASロータ12の支持のために第2のガス供給ライン13”を通してMASステータ11に供給されることと、少なくとも2つの異なるガス又はガス混合物X;Yの加圧が、これらのガス又はガス混合物がMASステータ11へ供給される前に、それぞれ別々に制御される、という特徴を有する点で、従来技術による従来の動作方法とは区別される。
【0064】
軸受ガス及び駆動ガスのための物理的供給ラインは、これまでに知られているMASシステムの多くで空間的に分離されてはいるが、これまでのところ常に、これらの分離されたガス供給ラインを通して、軸受及び駆動のための、同一のガス若しくはガス混合物しかMASシステムに供給されていなかった。
【0065】
しかし、純ヘリウムは、Nに最適化された軸受(N-optimierten Lagern)の軸受ガスとして適していない。粘度が低いため、MASロータ12とMASステータ11との間でガスクッションの機能が生じない。
【0066】
高速システムでの動作に必要なガスの20%を占める駆動ガスを置き換えることにより、利用者にとってコスト増加が抑えられる。本発明によれば、高速化を可能にするために、駆動ガスとしてヘリウムを使用することが提案される。ヘリウムの他に、他の不活性ガスも少量混合することもできる。MASタービンにおいて、典型的には駆動ガスとしてNが使用される。窒素を使用した場合、所定の圧力で生じる回転周波数が、例えばヘリウムの場合よりも低いため、効率が当然低くなる。音速が低いため、結果として生じる達成可能な最大周波数も低くなる。
【0067】
10%のヘリウムでも、すでに有利な効果が得られる。効率を大幅に高めるために、駆動ガス中のヘリウムの割合は25%より大きいことが好ましい。割合が50%~100%の範囲であることが特に好ましい。
【0068】
NMRコイルは、軸受ガスの供給により引き続き窒素ベースの雰囲気中にあるため、電気的フラッシュオーバを回避することができる。しかし軸受ガスは、電気的フラッシュオーバを発生させることなく、窒素の他に最大33%のヘリウムも含むことができる。耐電圧は、特に、照射される高周波磁場(HF-Feldes)の磁場強度に依存する。NMR分光法では、B1磁場を最大化するために、可能な限り大きい出力(Leistung)が試料に照射される。したがって、高い磁場強度で耐電圧性が得られるように軸受ガスの組成を適合させることが重要である。
【0069】
本発明を適用した場合、軸受の物理的部品を新しい気体力学に適合させる必要がなく、それによって開発における多くの手間が省け、すなわちMASロータとMASステータとの間のノズル開口及び軸受隙間幅を適合させる必要が無くなる。
【0070】
駆動ガスが、実質的にMASロータ12の中心に配置されHF場を生成するNMRコイルの領域に到達するのを回避するために、上の軸受と駆動装置との間にフラッシングシール16が設けられる。図1は、本発明にしたがって改変された、そのようなMASタービン10を示しており、これは、逆向きの2つの矢印で示されるフラッシングシール16を備える。
【0071】
図1にみられるように、フラッシングシール16は、軸受ノズル17’と駆動ガスノズル17”との間において、望ましくはリング状に配置されるガス出口として形成されている。このフラッシングシール16を使用することにより、2つの異なるガス又はガス混合物を、これらのガスが測定領域で混ざり合うことなく、駆動と支持のために使用することが可能である。特に、駆動ガスとしてヘリウムを使用すると測定領域におけるコイルの耐電圧が低下するが、フラッシングシール16によってこれを回避することができる。したがって、MASシステムを、高い磁場強度と高い回転周波数とを両立させて、動作させることができる。
【0072】
理想的には、フラッシングシール16は、Heベースの駆動ガスがNMRコイルの領域に到達するのを防ぐために、軸受ガスの少なくとも一部を通過させるように設計されている。通常、駆動ガスよりも軸受ガスの圧力を高くすることで十分である。更に、駆動装置の下、すなわち、ロータキャップが着座する場所に設けられた円錐形の開口によって、流出する駆動ガスの圧力を確実に下げることができる。この円錐形の拡開部は、図1にも見られる。
【0073】
図2は、回転周波数fROTの3つのグラフを示し、異なる軸受ガス及び駆動ガス或いはガス混合物を用いたそれぞれの場合の、駆動圧力pDRIVE(bar)の関数としての回転周波数fROTのグラフを示す、すなわち
実線曲線:N動作(N-Betrieb)、従来技術
破線曲線:ヘリウムによる駆動、Nによる支持
点線曲線:ヘリウムによる駆動、33%のヘリウムと67%のNによる支持
を示す。
【0074】
ここでは、直径0.7mmの円筒形MASロータには、従来のMASステータが使用された。ヘリウムで駆動した場合、測定された回転周波数fROTがより高い値に達することが顕著にわかる。驚くべきことに、高い周波数が、駆動ガスの駆動圧力pDRIVEがかなり低い場合において達成される。この効率の向上は、N軸受ガスの一部を1/3のヘリウムで(durch 1/3 Helium)置き換えた場合に更に改善される(上の点線曲線)。
【0075】
より低い圧力でのシステムの動作には、機械的負荷が少なくなるという利点があり、高い圧力は、空気圧システム内により高いエネルギーが存在していることを意味し、これは破壊につながる可能性がある。高い圧力で曲線が途切れているのは、キャップが変形して擦れてしまうためである。
【0076】
本発明によれば、MASタービン10の異なる機能(駆動、支持;温度調節)が異なるガスを用いて実現される。すなわち、各機能(駆動、支持、温度調節)にそれぞれ最適なガスを使用することができる。前述のN及びヘリウムといったガスの他に、CO及びSFも考えられる。これらは高い耐電圧と高密度を特徴とし、したがってこれらは軸受ガスとして有効に使用できるだけでなく、温度調節用のVTガスとしても有効に使用できる。HはHeと類似の有利な特性を有し、理論的には駆動ガスとして使用できる。ただし、Hは可燃性であるため、分離させておく必要がある。
【0077】
図3a及び図3bには、本発明によるガス管理の概観が概略的に示されている。
【0078】
分離されたガス供給ライン13’;13”を介してMASステータ11及びMASロータ12に供給される異なるガス又はガス混合物X;Yは、分離されたガス供給ライン13’;13”を介してMASステータ11及びMASロータ12に送られる前に、別個のガス制御ユニット14に導入される原料ガス又は原料ガス混合物X’;Y’;Z’から調製される。ガス制御ユニット14は、MASタービン10においてMASロータ12の駆動と支持を互いに分離して行うために、原料ガス又は原料ガス混合物X’;Y’をMASロータ12のガス駆動及びMASロータ12のガス支持のための異なる組成のガス状媒体X;Yとして調製するように、また、対応するそれぞれ適合させた圧力を印加するように、また、分離されたガス供給ライン13’;13”を介してMASステータ11に送るように、設計されている。
【0079】
このようなガス制御ユニット14の使用は、圧縮ガス供給が変動的である実験室において特に有利であるが、これは、ガス制御ユニット14がガス流を最適な圧力でMASシステムに供給するように設計されているためである。
【0080】
MASロータ12の支持のためのガス供給ライン13’及びMASロータ12の駆動のためのガス供給ライン13”から空間的に分離された追加のガス供給ライン13”’を通して、別のガス又はガス混合物Zを、MASロータ12の温度調節のための温度調節ガスとしてMASステータ11に送り、また、別個に制御することができる。
【0081】
典型的には、VTガスは、電気的フラッシュオーバを防ぐ、例えばNなどの安価な不活性ガスである。
【0082】
ガス制御ユニット14は、駆動ガスXと支持ガスX;Yの圧力及び/又は組成を調整するためにMASタービン10の周波数センサ15’と、温度調節ガスの温度を測定するために温度センサ15”とに接続されている。
【0083】
図3aにおいて、圧力が印加された2つの異なるガスがP/T制御ユニット14に供給される。MASシステムの要件に応じて、圧力が減圧され、MASタービン10に放出され得る。制御ユニット14におけるガスの調製は、特にMASロータ12の回転速度に関して必要である。軸受ガスと駆動ガスを異なる圧力で制御することができる。特に、制御ユニット14を介して、支持及び駆動のためのガスX及びYをその組成に含むガス混合物を調製することが可能である。MASロータ12の回転速度は、好ましくは、MASタービン10において周波数センサ15’によって測定することができ、それぞれの圧力を適合させたり、それぞれのガス混合物を組成に関して最適化するためにインラインコントロールとして制御ユニット14に伝えられ得る。
【0084】
最後に、図3bは、最大3つのガスを組み合わせることができ、温度調節ガスZも混合物として調製できる実施形態を示す。第3のガスZは、高い耐電圧が必要な場合に有意義であり得る。そして、例えば、電気的に絶縁性の良いSFをガスZとして加えることができる。ガス制御ユニット14は、駆動ガス、軸受ガス及び温度調節ガスX;Y;Zを別々に制御するためのそれぞれ分離されたサブ制御ユニット18’;18”;18”’を含む。
【符号の説明】
【0085】
10 MASタービン
11 MASステータ
12 MASロータ
13’;13” MASロータの支持及び駆動のための空間的に分離された物理的ガス供給ライン
13”’ 温度調節ガスの供給のための追加のガス供給ライン
14 ガス制御ユニット
15’ 周波数センサ
15” 温度センサ
16 フラッシングシール
17’ 軸受ノズル
17” 駆動ノズル
18’;18”;18”’ サブ制御ユニット
X MASロータの駆動のためのガス又はガス混合物
Y MASロータの支持のためのガス又はガス混合物
Z MASロータの温度調節のためのガス又はガス混合物
X’;Y’;Z’ 供給される原料ガス混合物
【0086】
文献一覧
特許性の判断において考慮される刊行物:
[0] JIANG,Y.J.他、Efficient stator/rotor assembly for magic-angle spinning NMR. Review of scientific instruments, 1987,第58巻,第5号,755-758頁. DOI:https://doi.org/10.1063/1.1139626[2023年12月1日に調査及び検索]
[1] 米国特許出願公開第5,508,615号明細書
[2] Journal of Magnetic Resonance 195(2008)179~186
[3] 欧州特許第3301467号明細書≒米国特許第10,459,044号明細書≒特許第6517896号公報≒中国特許第107870309号明細書
[4] 米国特許出願公開第2010/0026302号明細書
[5] Chem.Sci.(2015)6,6806
[6] 米国特許第9,995,802号明細書
[7] 国際公開第2021/097382号明細書
[8] Review of Scientific Instruments 42,618(1971)
図1
図2
図3a
図3b
【外国語明細書】