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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150417
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】室内ボード面の穴開け加工装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20241016BHJP
   B26F 1/16 20060101ALI20241016BHJP
   B23B 45/14 20060101ALI20241016BHJP
   B23B 41/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B28D1/14
B26F1/16
B23B45/14
B23B41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059354
(22)【出願日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2023063552
(32)【優先日】2023-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190725
【氏名又は名称】シンクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】兼高 正治
(72)【発明者】
【氏名】竹下 孝洋
【テーマコード(参考)】
3C036
3C060
3C069
【Fターム(参考)】
3C036AA00
3C036EE19
3C060AA20
3C060AB00
3C060BA05
3C060BC22
3C060BD01
3C060BE08
3C060BH01
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069BC02
3C069BC05
3C069CA12
3C069DA07
(57)【要約】
【課題】 室内空間の壁面等にユティリティー開口を、自動的・自律的に無人で開口することができる、室内ボード面の穴開け加工装置の開発を技術課題とした。
【解決手段】 本発明の穴開け加工装置Aは、車輪装置4を具えた縦行・横行移動可能な移動架台1と、この移動架台1に支持される加工ユニット2とを具え、加工ユニット2における刃物装置10により室内の壁面などのボード面に、ユティリティー開口を形成するものであり、刃物装置10は、加工を直接担う部材をルータ錐12とし、このルータ錐12の作用方向と位置が三次元方向に変更できるように構成され、且つ刃物装置10の作用方向を変更する向き替えシフト機構を具えるとともに、刃物装置10の立面位置を変更する位置替え旋回シフト機構を具え、刃物装置10がボード面に作用する際、移動架台1は、ボード面との干渉が回避される構成であることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪装置を具えた縦行・横行移動可能な移動架台と、この移動架台に支持される加工ユニットとを具え、加工ユニットにおける刃物装置により室内に既設されたボード面に対し、ユティリティー開口を形成する室内ボード面の穴開け加工装置であって、
前記刃物装置は、加工を直接担う部材をルータ錐とし、このルータ錐の作用方向と位置とが三次元方向に変更できるように構成され、
且つ刃物装置は、刃物装置の作用方向を変更する向き替えシフト機構を具えるとともに、刃物装置の立面位置を変更する位置替え旋回シフト機構を具え、
刃物装置がボード面に作用する際、移動架台は、ボード面との干渉が回避された状態で、ボード面にユティリティー開口を形成する構成であることを特徴とする、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項2】
前記移動架台には、バッテリと、圧縮空気が充填されたエアタンクとを具えるパワーユニットが搭載され、
前記移動架台の移動、加工ユニットを所望の作業位置に移動させるための可動部材の作動、刃物装置を適宜の向きや位置に設定するためのシフト作動、ルータ錐そのものの回転駆動は、当該パワーユニットを動力源として作動させる構成であることを特徴とする請求項1記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項3】
前記加工ユニットの刃物装置を適宜の高さ・向き・位置にシフトする構成は、
移動架台に設けられたポストフレームに対し昇降自在に支持される昇降クロス架台と、
この昇降クロス架台上を横行するスライド架台と、
このスライド架台に対し、スライド面に直交する向きを回転軸芯とした立面旋回ベースと、
この立面旋回ベースに支持され、立面旋回ベースと接近・離反自在に支持される刃物ホルダと、
この刃物ホルダに設けられる刃物向き替えベースとを具えて構成され、
立面旋回ベースを旋回シフトすることにより、刃物装置の作用位置を昇降クロス架台のスライド面と平行な面上において変更するものであり、
また刃物向き替えベースを回転シフトすることにより、刃物装置の作用方向を、刃物向き替えベースの回転面と平行な面上において変更する構成であることを特徴とする請求項2記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項4】
前記スライド架台に支持される立面旋回ベースを旋回シフトする構成は、立面旋回ベースの旋回基台に旋回ピニオンギヤを設け、一方、この旋回ピニオンギヤと旋回シフト時において噛み合うことができる刃物シフターラックのうちの位置替えシフターラックを昇降クロス架台に設け、
また刃物向き替えベースを回転シフトする構成は、刃物向き替えベースに向き替えピニオンギヤを設け、一方、この向き替えピニオンギヤに対し、回転シフト時において、噛み合うことができる刃物シフターラックのうちの向き替えシフターラックを昇降クロス架台に設け、
これら旋回基台の位置替え旋回シフト、並びに刃物向き替えベースの回転シフトにあたっては、刃物シフターラックが両ピニオンギヤのいずれか一方または双方と噛み合った状態でスライド架台を横行させることによりピニオンギヤを回転させ、刃物装置の位置替えと向き替えとのいずれか一方または双方を行う構成であることを特徴とする請求項3記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項5】
前記旋回ピニオンギヤと位置替えシフターラックとの噛み合いは、位置替えシフターラックを、スライド架台の横行方向に沿う方向を軸として回動させて両者の噛み合いを図り、
一方、前記向き替えピニオンギヤと向き替えシフターラックとの噛み合いは、向き替えピニオンギヤが搭載される刃物ホルダをスライド架台側に最接近させることにより両者の噛み合いを図る構成であることを特徴とする請求項4記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項6】
前記移動架台は、
平面視で幅狭状の矩形状を成す基部フレームと、
当該基部フレームの前方において立ち上げ状態に設けられるポストフレームと、
このポストフレームに対し昇降自在に支持される昇降ポストフレームと、
基部フレームの四隅部に設けられるアウトリガとを具えていることを特徴とする請求項1または2記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項7】
前記移動架台における車輪装置は、四基の車輪を一ユニットとした車輪装置ユニットを基部フレームの下方に前後一対具えるものであり、
一ユニットの車輪装置ユニットは、
基部フレームの長手方向の中心部において回動自在に支持される車輪架台と、
この車輪架台に支持されたスイングアームの先端に設けられる、四基全てが駆動される車輪と、
この車輪の高さを変更できるリフトアップ機構とを具え、
前記車輪装置ユニットは、移動架台を水平旋回させる際、または室内接地面に形成された段差を乗り越える際に、車輪の向きまたは高さを変更する構成であることを特徴とする請求項6記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項8】
前記車輪装置の作動による段差乗り越えのための構成は、いずれかの車輪が室内段差に当接または接近したことをセンサまたは予め室内設計仕様に応じた位置情報により感知し、当該車輪をリフトアップ機構によって上方に退避させ、その後、車輪の一部または全てを回転駆動させて、移動架台を前進させる構成であることを特徴とする請求項7記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【請求項9】
前記車輪装置の作動によって移動架台を水平旋回させる構成は、旋回する外周側の車輪装置ユニットの向きを最大90度の範囲で切り替えるとともに、
旋回中心となる側の車輪装置ユニットは、旋回外周側に位置する同軸支持の一対の車輪を、リフトアップ機構を作用させて上方に退避させて、
他の車輪装置ユニットの車輪を駆動させて、移動架台全体を水平旋回させる構成であることを特徴とする請求項7記載の、室内ボード面の穴開け加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設された室内の壁面や天井面等のボード面に、例えば配線用や配管用等の開口を形成するにあたり、自動的・自律的に加工できるようにした、室内ボード面の穴開け加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な居住空間や、オフィスをはじめとする業務空間等を構成する室内空間の壁面や天井面等には、電気、水道、ガス、空調機器、照明機器等を設置するため種々の開口が形成される。このような開口は、内装工事において、室内の壁面等にボードが張設された後、この既設のボード面に対し、設計仕様に応じた形状や位置において開口(以下、これらを総称してユティリティー開口とする)を形成するのが一般的である。この形成作業は、現状では作業者が電気ドリル、ホールソー、回し挽き鋸(手ノコ)等を用いて一カ所ずつ順次加工することが行われている(例えば特許文献1・2参照)。
【0003】
しかし、当然ながらこのような手作業による開口作業では、作業効率を上げるには限界がある。加えて、このようなユティリティー開口は、壁面の意匠性を損なわないためもあって、室内空間(壁面)の下方や上方等に寄った位置に形成されることが多い。
このため特にユティリティー開口が下方に位置している場合には、開口作業を行うにあたり、作業者は不自然な姿勢をとることを余儀なくされ、作業負担も大きいものであった。更に開口作業にあたり、下地となる壁面ボードは、石膏ボード等が多用されることから、これを切削すると細かい切削粉が周囲に飛散することは免れず、作業環境も必ずしもよいとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-329097号公報
【特許文献2】特開2021-24087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、室内空間の壁面等にユティリティー開口を形成するにあたり、自動的・自律的に無人で行うこともできる室内ボード面の穴開け加工装置を開発することを技術課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、
車輪装置を具えた縦行・横行移動可能な移動架台と、この移動架台に支持される加工ユニットとを具え、加工ユニットにおける刃物装置により室内に既設されたボード面に対し、ユティリティー開口を形成する室内ボード面の穴開け加工装置であって、
前記刃物装置は、加工を直接担う部材をルータ錐とし、このルータ錐の作用方向と位置とが三次元方向に変更できるように構成され、
且つ刃物装置は、刃物装置の作用方向を変更する向き替えシフト機構を具えるとともに、刃物装置の立面位置を変更する位置替え旋回シフト機構を具え、
刃物装置がボード面に作用する際、移動架台は、ボード面との干渉が回避された状態で、ボード面にユティリティー開口を形成する構成であることを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記移動架台には、バッテリと、圧縮空気が充填されたエアタンクとを具えるパワーユニットが搭載され、
前記移動架台の移動、加工ユニットを所望の作業位置に移動させるための可動部材の作動、刃物装置を適宜の向きや位置に設定するためのシフト作動、ルータ錐そのものの回転駆動は、当該パワーユニットを動力源として作動させる構成であることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項2記載の要件に加え、
前記加工ユニットの刃物装置を適宜の高さ・向き・位置にシフトする構成は、
移動架台に設けられたポストフレームに対し昇降自在に支持される昇降クロス架台と、
この昇降クロス架台上を横行するスライド架台と、
このスライド架台に対し、スライド面に直交する向きを回転軸芯とした立面旋回ベースと、
この立面旋回ベースに支持され、立面旋回ベースと接近・離反自在に支持される刃物ホルダと、
この刃物ホルダに設けられる刃物向き替えベースとを具えて構成され、
立面旋回ベースを旋回シフトすることにより、刃物装置の作用位置を昇降クロス架台のスライド面と平行な面上において変更するものであり、
また刃物向き替えベースを回転シフトすることにより、刃物装置の作用方向を、刃物向き替えベースの回転面と平行な面上において変更する構成であることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項4記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項3記載の要件に加え、
前記スライド架台に支持される立面旋回ベースを旋回シフトする構成は、立面旋回ベースの旋回基台に旋回ピニオンギヤを設け、一方、この旋回ピニオンギヤと旋回シフト時において噛み合うことができる刃物シフターラックのうちの位置替えシフターラックを昇降クロス架台に設け、
また刃物向き替えベースを回転シフトする構成は、刃物向き替えベースに向き替えピニオンギヤを設け、一方、この向き替えピニオンギヤに対し、回転シフト時において、噛み合うことができる刃物シフターラックのうちの向き替えシフターラックを昇降クロス架台に設け、
これら旋回基台の位置替え旋回シフト、並びに刃物向き替えベースの回転シフトにあたっては、刃物シフターラックが両ピニオンギヤのいずれか一方または双方と噛み合った状態でスライド架台を横行させることによりピニオンギヤを回転させ、刃物装置の位置替えと向き替えとのいずれか一方または双方を行う構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項5記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項4記載の要件に加え、
前記旋回ピニオンギヤと位置替えシフターラックとの噛み合いは、位置替えシフターラックを、スライド架台の横行方向に沿う方向を軸として回動させて両者の噛み合いを図り、
一方、前記向き替えピニオンギヤと向き替えシフターラックとの噛み合いは、向き替えピニオンギヤが搭載される刃物ホルダをスライド架台側に最接近させることにより両者の噛み合いを図る構成であることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項6記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記移動架台は、
平面視で幅狭状の矩形状を成す基部フレームと、
当該基部フレームの前方において立ち上げ状態に設けられるポストフレームと、
このポストフレームに対し昇降自在に支持される昇降ポストフレームと、
基部フレームの四隅部に設けられるアウトリガとを具えていることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項7記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項6記載の要件に加え、
前記移動架台における車輪装置は、四基の車輪を一ユニットとした車輪装置ユニットを基部フレームの下方に前後一対具えるものであり、
一ユニットの車輪装置ユニットは、
基部フレームの長手方向の中心部において回動自在に支持される車輪架台と、
この車輪架台に支持されたスイングアームの先端に設けられる、四基全てが駆動される車輪と、
この車輪の高さを変更できるリフトアップ機構とを具え、
前記車輪装置ユニットは、移動架台を水平旋回させる際、または室内接地面に形成された段差を乗り越える際に、車輪の高さと向きを変更する構成であることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項8記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項7記載の要件に加え、
前記車輪装置の作動による段差乗り越えのための構成は、いずれかの車輪が室内段差に当接または接近したことをセンサまたは予め室内設計仕様に応じた位置情報により感知し、当該車輪をリフトアップ機構によって上方に退避させ、その後、車輪の一部または全てを回転駆動して移動架台を前進させる構成であることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項9記載の、室内ボード面の穴開け加工装置は、前記請求項7記載の要件に加え、
前記車輪装置の作動によって移動架台を水平旋回させる構成は、旋回する外周側の車輪装置ユニットの向きを最大90度の範囲で切り替えるとともに、
旋回中心となる側の車輪装置ユニットは、旋回外周側に位置する同軸支持の一対の車輪を、リフトアップ機構を作用させて上方に退避させて、
他の車輪装置ユニットの車輪を駆動させて、移動架台全体を水平旋回させる構成であることを特徴として成るものである。
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0015】
まず請求項1記載の発明によれば、本発明の穴開け加工装置は、刃物装置の向き替えを行う向き替えシフト機構と、刃物装置の位置替えを行う位置替え旋回シフト機構とを具えるものであり、室内ボード面に干渉することなく、当該ボード面への穴開け加工が自動で行うことができ、今まで無理な姿勢で作業を行っていた作業者(職人)の労力も軽減することができる。また工期短縮を図ることもできる。
【0016】
また請求項2記載の発明によれば、種々の可動部材の動力源として、装置に搭載したパワーユニットを供給源とするため、必要な動力を自己完結とすることができる。すなわち動力供給源として、内燃機関や外部電源に依存しないため、夜間の自動運転が行い易く、例えば作業中に停電が生じても自動的な開口作業を継続することができる。また動力を自己完結とするため、外部から電源を供給する必要がなく、例えば外部電源ケーブルが届く範囲に作業エリアが限定されるなどといった制約もなくなり、バッテリと圧縮空気が持続する間は、開口作業を継続して行うことができる。
【0017】
また請求項3または4記載の発明によれば、向き替えシフト機構と位置替えシフト機構の具体的構成を現実のものとする。
【0018】
また請求項5記載の発明によれば、旋回ピニオンギヤと位置替えシフターラックとの噛み合い構造と、向き替えピニオンギヤと向き替えシフターラックとの噛み合い構造を明確なものとする。
【0019】
また請求項6記載の発明によれば、ポストフレームに対し昇降ポストフレームを具えるため、ポストフレームの全高よりも一層高い位置に刃物装置を届かせることができ、当該位置での開口作業を正確に行うことができる。また、アウトリガを具えるため、開口作業時に、車体となる移動架台を安定させて開口作業を行うことができ、例えば高所での開口作業も安定した状態で作業を行うことができる。
【0020】
また請求項7から9記載の発明によれば、移動架台の水平旋回、段差乗り越え時における車輪装置の具体的構成を明確なものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の穴開け加工装置(室内ボード面の穴開け加工装置)を示す分解斜視図である。
図2】主に刃物装置の向き替えと位置替えを行う様子を拡大して示す斜視図である。
図3】穴開け加工装置を示す側面図である。
図4】主に穴開け加工装置の車輪装置を平面から視た説明図である。
図5】車輪を上下に回動させ、高さを変更する様子を示す二種の側面図である。
図6】穴開け加工装置を平面から視て90度旋回させる際の、前後の車輪装置ユニットの様子を示す平面図(a)、並びに側面図(b)である。
図7-1】主に前部アウトリガの作動状況を示す平面図である。
図7-2】主に前部アウトリガの作動状況を拡大して示す平面図である。
図8-1】主にポストフレーム、昇降ポストフレーム、刃物装置周辺を示す側面図である。
図8-2】主にポストフレーム、昇降ポストフレーム周辺を示す正面図である。
図8-3】主に昇降クロス架台、刃物装置周辺を示す平面図である。
図9-1】主に刃物装置周辺(向き替えシフター)を拡大して示す側面図である。
図9-2】主に刃物装置周辺(向き替えシフター)を拡大して示す平面図である。
図10】穴開け加工を行う際の穴開け加工装置の主な配置態様を二種示す平面図である。
図11】室内空間において形成される複数のユティリティー開口と、その作業順序の一例を示す説明図である。
図12】全方向への移動が可能なオムニホイールを適用した自在車輪を示す正面図(a)、側面図(b)、背面図(c)である。
図13】自在車輪を適用した穴開け加工装置において、八基の自在車輪の回転方向を全て縦行方向に設定したままθラジアンの向き替え旋回を行うようにした移動プログラム1(移動架台)を示す平面図である。
図14】自在車輪を適用した穴開け加工装置において、八基の自在車輪の回転方向を全て横行方向に設定したまま、装置全体をストロークSだけ前進させるようにした移動プログラム2(移動架台)を示す平面図(a)、並びにこの移動プログラム2において自在車輪の実際の移動軌跡を示す平面図(b)である。
図15】自在車輪を適用した穴開け加工装置において、八基の自在車輪の回転方向を全て横行方向に設定したままθラジアンの向き替え旋回を行うようにした移動プログラム3(移動架台)を示す平面図である。
図16】刃物装置(ルータ錐)の下方に測長センサを設けた改変例を示す正面図(a)、並びに平面図(b)、並びに側面図(c)である。
図17】床面段差の高さ寸法を検出するために、刃物装置(ルータ錐)の下方に設けた測長センサによって穴開け加工装置から床面までの距離を測定する様子を示す側面図である。
図18】測長センサによって、穴開け加工装置から左右の両側壁までの距離を計測する様子を示す平面図である。
図19】測長センサによって、穴開け加工装置が対向する壁面に対し、水平面における角度を測定する様子(対壁水平角度測定の様子)を示す平面図である。
図20】測長センサによって、穴開け加工装置が対向する壁面に対し、垂直面における角度を測定する様子(対壁垂直角度測定の様子)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【実施例0023】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明の室内ボード面の穴開け加工装置A(以下、単に「穴開け加工装置A」とする)は、室内空間Rにおいて、ボードが既設された壁面WLに対し電気配線、空調配管、ガス配管、水道配管等の種々の配線・配管や各種機器を設置するために、ユティリティー開口Hを、プログラムに従い自律的・自動的に形成して行くものである(図11参照)。なお、発明の名称中の「ボード面」とは、主に壁面WLを指すが、ユティリティー開口Hは、必ずしも壁面WLだけでなく、天井面C等にも開口され得るため、本明細書では、ユティリティー開口Hが形成される壁面WLや天井面Cを総称してボード面としたものである。
穴開け加工装置Aは、一例として図1に示すように、大別して移動架台1と、直接穴開け加工を行うための加工ユニット2とを具える。このうち移動架台1は、適宜のプログラムに従い、室内空間Rを自動で走行して、加工すべき位置に加工ユニット2を移動(位置)させるものである。一方、加工ユニット2は、移動架台1が目的とする位置へ移動した後、加工ユニット2の刃物装置10を適宜の姿勢に設定した状態で、壁面WLに対し所望のプログラム指示に対応した形状・寸法のユティリティー開口Hを形成加工するものである。
なお、壁面WLにユティリティー開口Hを形成する際には、移動架台1は、ボード面(壁面WL)との干渉が回避された状態を維持するものである。
【0024】
以下、移動架台1について詳細に説明する。
移動架台1は、主としてフレーム3と、このフレーム3の下方に設けられる車輪装置4と、加工ユニット2を支持する昇降ポストフレーム5と、移動架台1を移動させたり、加工ユニット2を作動させたりするための動力を供給するパワーユニット6とを具えて成る。
【0025】
フレーム3は、平面から視て前後方向(これをZ方向とすることがある)に長い矩形枠状の基部フレーム31と、その基部フレーム31の前方において立ち上げ状態に形成されるポストフレーム32とを具える。なお穴開け加工装置Aの前方とは、このポストフレーム32が加工ユニット2を支持することから、ポストフレーム32側を前方として定義する。また、ポストフレーム32には、昇降ポストフレーム5を支持するガイドレール33が上下方向に設けられており、このガイドレール33は左右一対で配設されている。
【0026】
更にフレーム3は、一例として図7-1に示すように、穴開け加工時に移動架台1の安定を図るためのアウトリガ34を、平面視で幅狭状の矩形状を成す基部フレーム31の四隅部に具える。このうち後部アウトリガ34Aは、一例として図3に示すように、基部フレーム31の後方において設置片35を昇降自在に設けて成る。一方、前部アウトリガ34Bは、一例として図7-2に示すように、基部フレーム31に支持され、水平面上を旋回する張出アーム36に対して、その自由端側に設けられる。すなわち前部アウトリガ34Bは、ピボット36Pが基部フレーム31の前方近くに設けられ、非使用時は基部フレーム31の幅寸法内に収まり、作業時において前部アウトリガ34Bが側方に張り出すように回動自在に構成されている。
【0027】
次に車輪装置4について説明する。
車輪装置4は、一例として図1に示すように、二基の車輪装置ユニット4Uから構成されるものであり、当該車輪装置ユニット4Uは、移動架台1の下方において前後一対で設けられる。なお各車輪装置ユニット4Uは、構成としては同一の構成を採る。
以下、車輪装置ユニット4Uについて更に説明する。各車輪装置ユニット4Uは、一例として図4図6に示すような車輪架台40を具えるものであり、このものは適宜の強度部材によって構成され、平面視状態では幾分か放射状に伸長した形状を呈し、その中央部に架台旋回軸40Pが設けられて成る。これにより車輪架台40は、移動架台1の基部フレーム31に対し、水平旋回自在に取り付けられている。
また車輪架台40は、後述する車輪42の車軸方向を基部フレーム31の幅方向とした状態において、前後方向中央部において各々前後に伸びるスイングアーム41を具えるものであり(図3参照)、このスイングアーム41は中央ピボット41Pを中心として自由端側を上下にスイングさせ得るように構成される。そして、この中央ピボット41Pの自由端側に車輪42が設けられるものであり、この車輪42は、幅方向おいて車輪ハウジング42Hにより接続された左右方向の車輪42が、それぞれ一体的に作動するように構成されている。
【0028】
ここで「一体的に作動する」とは、左右で対を成す車輪42が、前記スイングアーム41の動きに伴って上下方向に移動する、つまり左右で一致した動きを意味するものであるが、車輪42そのものの駆動速度については車輪駆動モータ42Mがそれぞれ左右独立して作用することから、左右同速で常に回転するわけではない。すなわち車輪駆動モータ42Mは、一例として図4に示すように、中央ピボット41Pに寄った位置にそれぞれ搭載され、駆動チェーン43によってその回転が車輪42に伝達される。この構成から分かるように、前後に並ぶ車輪42については等速で回転駆動が伝達される。
なお、本実施例では、一基の車輪装置ユニット4Uに設けられる車輪42は、前後に二輪ずつの計四輪(四基)設けられるが、例えば前方に一輪・後方に二輪の計三輪(三基)で構成することも可能である。
【0029】
更に前記車輪ハウジング42Hに対しては、一例として図5図6に示すように、リフトアップ機構の主要構成部材となるリフトアップリンク44が接続される。
リフトアップリンク44は、車輪ハウジング42Hの下方に設けた、中央を屈折点とした二節リンクである。このリフトアップリンク44を外曲げ「く」の字状に屈曲状態とした場合には(図5(b)参照)、車輪42は定常の接地状態から上方退去状態となる。すなわちリフトアップリンク44を構成する二節リンクは、車輪42が接地した状態では、ほぼ直立した状態となっており、このリフトアップ動作、つまり実質的には車輪42の昇降を行うためにリフトアップシリンダ45が設けられる。
リフトアップシリンダ45は、シリンダボディ側が車輪架台40の中央近くに回動自在に接続される一方、摺動子の作用先端がリフトアップリンク44の端部に対し回動自在に接続されるものである。そしてリフトアップシリンダ45の摺動子が伸長した状態では、一例として図5(b)に示すように、二節リンク状のリフトアップリンク44が、ほぼ直立姿勢を保ち、車輪42の接地状態を維持するものである。一方、リフトアップシリンダ45の摺動子が収縮した状態では、リフトアップリンク44もそれに伴い、中折れ状に屈曲し、車輪42を浮き上がり状態に設定・維持するものである。
【0030】
更にこれら車輪装置ユニット4Uは、一例として図4図6(a)に示すように、平面から視て、それぞれが独立して水平旋回できるように構成されている。すなわち旋回シフトシリンダ46をフレーム3における基部フレーム31と、車輪架台40との間を接続するように取り付け、旋回シフトシリンダ46の摺動子を伸長・収縮させることにより、車輪架台40を平面視で90度、前後方向と左右方向とに旋回させ得るように構成されている。
【0031】
次に昇降ポストフレーム5について説明する。
昇降ポストフレーム5は、上下方向に長い矩形枠状部材として形成され、昇降ポストフレーム5の本体部位に複数基のリニアベアリング51が上下方向に配設され、このリニアベアリング51がポストフレーム32におけるガイドレール33に案内され、昇降ポストフレーム5を昇降動自在としている。なお、リニアベアリング51は、例えば図1に示すように、左右一対で上下に二組(計四基)配設されており、昇降ポストフレーム5において比較的低い位置に設けられている。これは、昇降ポストフレーム5が、言わば移動架台1におけるポストフレーム32と二段構えで、後述する刃物装置10の作用高さを設定できるようにするためである。つまり昇降ポストフレーム5を上死点まで上昇させても、全てのリニアベアリング51が、ポストフレーム32のガイドレール33に係止する状態を維持するための構成である。
もちろんポストフレーム32のみで室内空間Rにおける加工ユニット2の上部方向、例えば天井面Cまで届く設定であれば、昇降ポストフレーム5は必要ないが、実際には室内の造作を考慮すると、入り口となるドア開口Eは、高さが低い一方、室内の天井高さは高い傾向がある。このことから、室内空間Rへの穴開け加工装置Aの進入を可能とし、且つ天井面Cなど室内空間Rの充分高い位置での作業も可能なように、ポストフレーム32に加えて昇降ポストフレーム5を具えている。
【0032】
また前記昇降ポストフレーム5を昇降シフトするために昇降シフトチェーン52が設けられる。すなわち例えば上記図1に示すように、昇降ポストフレーム5の下端近くに昇降シフトチェーン52の一端が接続され、ポストフレーム32の上端部位に昇降シフトモータ52Mとターンスプロケット53とが設けられ、昇降シフトモータ52Mによって昇降シフトチェーン52を駆動することにより、昇降ポストフレーム5を上昇・下降させるものである。なお昇降ポストフレーム5及びこのものが支持している加工ユニット2の重量を考慮し、昇降シフトチェーン52の他端側にはカウンタウェイト54を設けて重量バランスを相殺し、昇降シフトモータ52Mの負荷を軽減するように構成している。
【0033】
更に昇降ポストフレーム5は、その前方側に一例として平行した二条の昇降ガイドレール55を具える。この昇降ガイドレール55は、後述する加工ユニット2における昇降クロス架台7を昇降移動できるように案内するためのものである。
また移動架台1には、ポストフレーム32の後方側にパワーユニット6が設けられる。このパワーユニット6は、移動架台1の移動、加工ユニット2を所望の作業位置に移動させるための各種可動部材の作動(例えば昇降ポストフレーム5の昇降動作)、刃物装置10を適宜の向きや位置に設定するためのシフト作動、刃物装置10のルータ錐12そのものの回転駆動等を担うパワー供給源であり、具体的にはコンプレッサ61によって圧縮空気(圧搾空気)が充填されたエアタンク62と、リチウムイオン電池等が適用されたバッテリ63とを動力源としている。なおパワーユニット6については、例えば本穴開け加工装置Aが自動・自律運転の下に、施工途中の現場において夜間に自動運転で、所定の複数個のユティリティー開口Hを形成することを考慮し、夜間の作動に充分な容量とすることが好ましい。
【0034】
またパワーユニット6に付設してコントロールユニット64が搭載されるものであり、これは作業する室内のユティリティー開口Hの位置や形状等を設計図に基づいたデータとして基礎入力を行い、複数のユティリティー開口Hの作業手順(開口順序)を判別して穴開け加工装置Aの移動や加工作業等が合理的に行えるプログラムを設定するものである。このため移動架台1の後方に向けて入力パネル65が設けられ、これは穴開け加工装置Aの後方に位置する作業者から操作し易いためである。そして、これらコンプレッサ61、エアタンク62、バッテリ63等は、カバーパネル66によって覆われ、内部保護が図られている。
【0035】
また、このような移動架台1に対して加工ユニット2が設けられるものであって、以下この加工ユニット2について説明する。なお加工ユニット2とは、主にユティリティー開口Hを壁面WL等に直接加工するための部材の総称であり、刃物装置10を支持し、これを所定の位置に設定するための可動部材も含めるが、ここでは前記昇降ポストフレーム5によって支持される部材を指すものとする。従って、加工ユニット2は、大別して昇降クロス架台7と、立面旋回ベース8と、刃物支持ベース9と、刃物装置10とを具えるものであり、以下これらの部材について説明する。
【0036】
まず昇降クロス架台7から説明する。
昇降クロス架台7は、一例として上記図1に示すように、ガイドブロック71が前記昇降ポストフレーム5における昇降ガイドレール55に案内されて、全体的に上下方向(これをY方向とすることがある)に移動(昇降動)するように構成される。更にこの昇降クロス架台7は、後述する刃物装置10を水平方向(幅方向であり、これをX方向とすることがある)に移動させるために、概ね移動架台1の幅寸法程度の長さ(横幅寸法)を有する。すなわち、昇降クロス架台7は、左右方向(X方向)に長い矩形架台として形成され、且つ全体的には昇降動できるように構成されている。
また前記昇降クロス架台7を昇降動させるためのクロス架台昇降シフトチェーン70が設けられる。すなわち例えば上記図1に示すように、昇降クロス架台7の中央部にクロス架台昇降シフトチェーン70の一端が接続され、昇降ポストフレーム5の上端部にクロス架台昇降モータ70Mとターンスプロケット70Tとが設けられ、クロス架台昇降モータ70Mによってクロス架台昇降シフトチェーン70を駆動することにより、昇降クロス架台7を昇降動させるものである。なお、ここでも昇降クロス架台7及びこのものが支持している刃物装置10(後述する立面旋回ベース8や刃物支持ベース9を含む)の重量を考慮し、クロス架台昇降シフトチェーン70の他端側にはカウンタウェイト70Wを設けて重量バランスを相殺し、クロス架台昇降モータ70Mの負荷を軽減することが好ましい。
また本実施例では、クロス架台昇降シフトチェーン70は、昇降ポストフレーム5を挟むように、その左右両側に一対設けられており、これは左右方向(幅方向)に長い昇降クロス架台7の水平姿勢を保ちながら昇降動させるための構成であり、このため上記ターンスプロケット70Tも左右一対で計二基設けられている。
【0037】
そして昇降クロス架台7は、上下両縁に、左右方向に伸びるクロスガイドレール72を具えて成り、このクロスガイドレール72に対してスライド架台73を水平方向、すなわち左右方向に移動できるように支持している。
スライド架台73は、一例として図8-3に示すように、クロスガイドレール72上を移動する駆動源として架台駆動モータ73Mを具える。この架台駆動モータ73Mは、駆動ベルト74を駆動するものであり、この駆動ベルト74が適宜のターンプーリ75を介してスライド架台73の一部に固定され、駆動ベルト74の移動に伴い、スライド架台73が水平方向に移動できるように構成されている。
また、一例として図9-1に示すように、クロスガイドレール72には、そのほぼ中央付近に刃物シフターラック76が設けられるものであり、このものは具体的には向き替えシフターラック77と位置替えシフターラック78との二部材から構成される。このうち向き替えシフターラック77は、平帯板状部材の前縁部にラック歯を形成して成り、前記昇降クロス架台7の幅方向中央部位においてラック歯を前方に向けて固定配置されている(図8-3参照)。
【0038】
一方、位置替えシフターラック78は、一例として図9-1に示すように、平帯板状部材の一辺(長縁部)にラック歯を形成して成り、昇降クロス架台7を挟むような状態で、前記向き替えシフターラック77に対向する位置、すなわち昇降クロス架台7の下方に設けられる。この位置替えシフターラック78は、図示を省略するシフトシリンダによって回転シフトされるものであり、常時は後述する立面旋回ベース8と干渉しない状態、すなわち平らな面を水平方向に向けた状態(寝かせた姿勢)で待機し、ラック歯を前方側に向けるような姿勢を取る。一方、位置替えシフト時には、位置替えシフターラック78は、シフトシリンダの作動を受けて平らな面を直立させるような状態にシフトされ、ラック歯を上方に向けるようにし、後述する旋回ピニオンギヤ83との噛合状態を実現するものである。
このように位置替えシフターラック78は、スライド架台73の横行方向に沿う方向、端的には穴開け加工装置Aの短手方向を軸として回動自在に構成され、旋回シフト時のみ旋回ピニオンギヤ83と噛合状態となるように構成されている。
なお旋回ピニオンギヤ83に対しては、旋回基台81の始発状態や一旦設定を行った後の状態を維持・固定するための旋回姿勢設定片(図示省略)が設けられており、この旋回姿勢設定片に形成された噛合歯を、旋回ピニオンギヤ83に噛み合わせることにより、旋回ピニオンギヤ83の回転を阻止するように構成されている。
【0039】
ここで上記「向き替え」と「位置替え」の区別、更には「向き」と「位置」の区別について説明する。
まず「向き替え」とは、後述する刃物向き替えベース93の回転面と平行な面上において刃物装置10を回転(図2図9-1では水平面における回転)させて、刃物(ルータ錐12)の作用方向を変更することを指す。
一方、「位置替え」とは、後述する旋回基台81(立面旋回ベース8)を、昇降クロス架台7のスライド面と平行な面上において回転(垂直面における回転)させて、刃物装置10のルータ錐12の位置(立面位置とも称することがある)を変更することを指す。なお、位置替え回転によって、刃物装置10は、刃物支持ベース9を伴って垂直面において回転するものである。また、位置替えのために行う旋回基台81の回転(垂直面における回転)を「旋回」と称することがある。
【0040】
そして、前記スライド架台73に対し立面旋回ベース8が支持される。この立面旋回ベース8は、スライド架台73に対し旋回基台81を、旋回基台ベアリング82を介して回転軸81Pの向きを前後方向とした状態(垂直配置状態)で支持する。更にこの旋回基台81は、その外周部に、前記位置替えシフターラック78と噛み合うことのできる旋回ピニオンギヤ83を具えている。なお、回転軸81Pは旋回基台81の回転軸であり、位置替えシフトの旋回中心となる。
【0041】
また旋回基台81は、その前方に、例えば図9-1・図2に示すように、一例として二本のガイドロッド84を突出状態に設けるものであり、このガイドロッド84は後述する刃物支持ベース9を旋回基台81から前方に向けて、適宜せり出し状態に支持するものである。なお、上記二本のガイドロッド84は、立面旋回ベース8の回転軸81Pから偏心した位置に設けられており、掛かる構成により立面旋回ベース8を回転させた場合、二本のガイドロッド84が回転軸81Pの周囲を回転するようになり、二本のガイドロッド84に支持された刃物支持ベース9が垂直面において立面位置を変更するものである。
そして、このガイドロッド84を支持部材として前後進シフト装置85が設けられる。また前後進シフト装置85は、前後進モータ85Mを駆動源とするものであり、ガイドロッド84の先端部に接続された接続ブラケット86を支持部材として、スクリューシャフト87に螺合するメネジブロック88を具える。これにより前後進モータ85Mを駆動させてスクリューシャフト87を回転させると、メネジブロック88が前後進するように構成されている。またメネジブロック88には、連結片89を介して次に述べる刃物支持ベース9が接続されている。
【0042】
前記連結片89と接続されている刃物支持ベース9は、刃物ホルダ91がスライダ92を介してガイドロッド84に支持、案内されるため、スクリューシャフト87を回転させることにより、刃物支持ベース9を前後方向に移動させることができる。
そして、刃物ホルダ91は、刃物向き替えベース93を、向き替えベアリング93Bを介して回転自在に支持するものであり、刃物向き替えベース93はその外周部に向き替えピニオンギヤ94を具えている。ここで図中符号93Pは、刃物向き替えベース93の回転軸であり、これが向き替えシフトの回転中心となる。
【0043】
また向き替えピニオンギヤ94に対しては、一例として図9-1・図9-2に示すように、当該ギヤに噛合して、刃物装置10の位置を固定設定するための姿勢設定片95が設けられる。この姿勢設定片95は、弾性支持ロッド96の前端部に支持され、常に向き替えピニオンギヤ94に噛み合うように付勢される部材である。すなわち弾性支持ロッド96は、設定スプリング96Sの作用により常時、旋回基台81側に偏寄するように付勢され、姿勢設定片95が向き替えピニオンギヤ94と噛み合うようになっている。そして、この弾性支持ロッド96には、その他端側すなわち立面旋回ベース8側に当接解除片97が設けられており、刃物支持ベース9全体が立面旋回ベース8側に最接近した場合に、当接解除片97が相対的に前方側に押され、向き替えピニオンギヤ94と姿勢設定片95との噛合状態(つまり固定状態)を解除するような作用を担っている。なおこのような状態において、刃物装置10の向き替えを行うものであるが、これについては作動状態の説明の際に詳述する。
【0044】
このような刃物向き替えベース93に対して、実際に穴開け加工に寄与する刃物装置10が固定されるものであり、刃物装置10は、刃物ボディ11とルータ錐12とを具えて成る。ここで説明上、刃物装置10の始発状態(姿勢)としては、刃物ボディ11に設けられたルータ錐12(作用方向)が、ガイドロッド84(軸方向)に沿った方向とする。もちろん実際の作業にあたっては、刃物支持ベース9による刃物装置10は、穴開け加工装置Aの前後方向に対し横に向いた状態、言わば左右方向に向いたような状態で穴開け作業を行うことも多い。
【0045】
本発明の穴開け加工装置Aの基本構造は、以上述べた通りであって、以下これらを構成要素ごとに説明し、併せて実作業を想定した作動態様について説明する。
〈I〉移動架台の動作
移動架台1自体は、直接加工を行う刃物装置10を搭載した加工ユニット2を支持するものであり、穴開け加工装置Aを適切な位置に移動する作用を担う。
【0046】
(1)車輪装置ユニットの始発状態
車輪装置ユニット4Uは、既に述べた通り、基部フレーム31の下方において装置長手方向に沿って二基設けられるものであり、これによって実質的に移動架台1は、長手方向に沿った移動(これを縦行移動または単に縦行とする)、短手方向に沿った移動(これを横行移動または単に横行とする)、あるいは移動架台1全体の水平旋回移動等を行う。
車輪装置ユニット4Uの始発状態ついては、一例として図4に示すように、各車輪42が全て移動架台1の長手方向に沿った状態、すなわち車軸そのものは、移動架台1の長手方向と直交する短手方向に配置された状態とする。また車輪42の接地状態については、一例として図3に示すように、リフトアップリンク44を伸長させた状態で接地しており、この状態では移動架台1と車輪42との上下間隔が大きく確保される。なお、このための設定はリフトアップシリンダ45の摺動子を伸長させた状態とすることによりなされる。
【0047】
(2)車輪上方退去
このような状態から、段差の乗り超え、あるいは移動架台1の水平旋回等が必要な場合は、一部の車輪42を上方に退去させるものである。この動作は、リフトアップシリンダ45の摺動子を収縮させることによって、リフトアップリンク44を側面視状態で「く」の字状に屈曲するように移動させ(図5(b)参照)、スイングアーム41の自由端を上昇させて、車輪42を上方に退去した状態に移動させるものである。なお各車輪装置ユニット4Uにおいてスイングアーム41は、前後別々に可動する状態で取り付けられており、それぞれ一軸毎、左右の車輪42が同時に昇降する。
【0048】
(3)移動架台の向き替え旋回(水平旋回)
移動架台1の向き替え旋回は、例えば図10(b)に示すように、加工対象となる壁面WLに対して穴開け加工装置Aを横付け状態に配置して加工するか(後述する側面対向配置)、あるいは例えば図10(a)に示すように、装置前方を壁面WLに対向するように対面配置して加工を行うか(後述する前面対向配置)、等の選択ができるようにするために行うことが多い。もちろん、室内空間R内における作業手順の関係で、移動架台1の向き替えが適宜必要な場合においても向き替え旋回を行うことがある。
【0049】
以下、移動架台1の向き替え旋回動作の一例について説明する。
(a)一部の車輪を上方に退去
移動架台1の向き替え旋回を行うにあたっては、一例として図6(b)に示すように、例えば前方側の車輪装置ユニット4Uにおける後方の車輪42を、リフトアップシリンダ45を収縮させることにより上昇させる(浮かせる)。
【0050】
(b)アウトリガの作動・車輪装置ユニットの水平旋回
その後、フレーム3の四隅に設けられているアウトリガ34を作動させ、移動架台1を全体的に浮き上がり状態とし、後方の車輪装置ユニット4Uが床面から離れた状態として、後方の車輪装置ユニット4Uを90度、水平旋回させる。すなわち後方側の旋回シフトシリンダ46を収縮させ、後方の車輪装置ユニット4Uを、架台旋回軸40Pを中心として90度、水平旋回させる。このようにすることで、後方の車輪装置ユニット4Uでは、一例として図6(a)に示すように、車輪42の向きが移動架台1の短手方向(左右方向)に設定される。その後、アウトリガ34を元に戻して再度、車輪42を接地させる。
【0051】
(c)後方の車輪装置ユニットの駆動
次いで、後方の車輪装置ユニット4Uを駆動すると、例えば上記図6(a)に想像線で示すように、概ね前方の車輪装置ユニット4Uにおける前輪側の幅方向中央部を中心として移動架台1が進行方向から90度旋回した状態になる。なお、このとき積極的に前方の車輪装置ユニット4Uにおける左右の車輪42の駆動状態を調整すれば、幅方向中心であって、前方の車輪装置ユニット4Uの車輪42の車輪ハウジング42Hの中央近くを回転中心として旋回させることもできる。
【0052】
また車輪装置4における前後双方の車輪装置ユニット4Uを始発状態から双方とも90度旋回させた場合、すなわち例えば上記図10(a)に示すように、全ての車輪42を短手方向(左右方向)に設定した場合には、言わば移動架台1を横移動状態に移動させることができる。このような動作は、例えば加工すべき壁面WLに対して、対面配置した穴開け加工装置Aを壁面WLに対し平行移動させる場合等に行われる。
【0053】
(4)昇降ポストフレームの昇降動作
昇降ポストフレーム5は、天井面C等の高い位置に設けられるユティリティー開口Hを形成するために、刃物装置10をより高所に上昇させ、支持するためのものである。因みに、当初から高位置での開口作業を前提に、ポストフレーム32を高く形成すると(例えば昇降ポストフレーム5の上死点の高さを有するように形成すると)、室内空間Rに入るドア開口Eから穴開け加工装置Aを進入させ得ないのが一般的である。
昇降ポストフレーム5の昇降、特に上昇動作は、一例として図1に示すように、昇降シフトモータ52Mにより駆動される昇降シフトチェーン52によって、昇降ポストフレーム5を引き上げることによってなされる。この引き上げにあたってはカウンタウェイト54が設けられていることから、昇降シフトモータ52Mに掛かる負荷を軽減することができる。
【0054】
〈II〉昇降クロス架台・スライド架台の動作
昇降クロス架台7は、刃物装置10を支持して、これを所定の状態・姿勢に設定する構成要素の一つである。
(1)昇降クロス架台の昇降動作
昇降クロス架台7を昇降させる駆動源は、一例として上記図1に示すように、クロス架台昇降モータ70Mであって、これにより駆動されるクロス架台昇降シフトチェーン70によって、昇降クロス架台7は、昇降ガイドレール55に沿って昇降シフトされる。
(2)スライド架台のスライド動作
また昇降クロス架台7に支持されたスライド架台73は、昇降クロス架台7の幅方向全域(左右方向全域)にわたってスライド自在に構成されており、一例として架台駆動モータ73M(図8-3参照)によって駆動される駆動ベルト74の動きを受けて、クロスガイドレール72に沿って幅方向に移動する。
【0055】
〈III 〉刃物装置のシフト動作
(1)刃物装置の始発状態
刃物装置10は、加工対象となる壁面WLや天井面Cにおいて、予め指定された位置にユティリティー開口Hを正確に形成することができるように、刃物装置10の作用方向(向き)や位置が自由に設定できるように構成されている。具体的には向き替えシフターラック77による刃物の向き替えシフト機構と、位置替えシフターラック78による刃物の位置替えシフト機構(旋回シフト機構)とを具える。ここで便宜上、説明の理解を助けるために、刃物装置10の始発状態を以下の通りとして説明する。もちろん実際の穴開け作業にあたり、刃物装置10の始発状態は、必ずしもこの状態である必要はない。
【0056】
まず幅方向に移動するスライド架台73は、昇降クロス架台7の中央とする。なお昇降クロス架台7の高さ位置は、いずれの高さ位置でもよい。
また刃物装置10の旋回シフト位置は、刃物装置10が垂直面(XY平面)における円形軌道上を自由に旋回移動できるものであるが、仮に始発状態としては最上の位置とする(図1参照)。
更に刃物装置10の最初の向き、すなわちルータ錐12の作用方向は、穴開け加工装置Aの前方を向いているものとする(図1参照)。
【0057】
また刃物装置10は、ガイドロッド84に沿って前後スライドできるように構成されており、この最初の位置は、ガイドロッド84の概ね中間位置とする(図9-1・図9-2参照)。
【0058】
更に刃物装置10の向きを固定、つまり刃物向き替えベース93の回転を阻止するための姿勢設定片95は、向き替えピニオンギヤ94に噛み合い、その回転を阻止した状態を始発状態とする。
【0059】
また刃物装置10の旋回シフト時に作用させる位置替えシフターラック78は、回転軸78Pを中心として、全体的に水平面上に退去した状態(寝かせた状態)となっており、旋回ピニオンギヤ83と噛み合っていない状態を始発状態とする。
更に旋回ピニオンギヤ83は、始発状態で旋回姿勢設定片と噛み合っており、自由な回転が阻止された状態とする。
【0060】
(2)刃物装置の向き替えシフト
刃物装置10の向き替え、すなわち刃物向き替えベース93の回転面における向き替えを行うにあたっては、向き替えピニオンギヤ94と姿勢設定片95との噛合状態を解除する(図9-1・図9-2参照)。
これには、まず前後進シフト装置85の前後進モータ85Mによりスクリューシャフト87を回転させる。このスクリューシャフト87の回転を受けて、メネジブロック88をシャフトの軸方向に移動させ、これにより刃物支持ベース9をガイドロッド84に沿って、旋回基台81側に移動させる。そして刃物支持ベース9が、旋回基台81側に最も接近すると、弾性支持ロッド96の端部に設けられた当接解除片97が旋回基台81に当接する。
これにより当接解除片97は、相対的に前方側に押され、向き替えピニオンギヤ94と姿勢設定片95との噛合状態(つまり固定状態)を解除するように作用する。この解除によって、刃物向き替えベース93と、このものが支持する刃物装置10とは、自由に回転できる状態となる。
同時に刃物支持ベース9は、刃物ホルダ91の外周側に形成された向き替えピニオンギヤ94が、昇降クロス架台7の幅方向中央位置において、歯先を前方に向けて固定配置されている向き替えシフターラック77に噛み合った状態となる。
【0061】
この噛合状態でスライド架台73は、架台駆動モータ73Mにより駆動される駆動ベルト74の動きを受けて、左右いずれかに移動する。この移動により固定設置された前記向き替えシフターラック77に噛み合った向き替えピニオンギヤ94が回転し、一体となっている刃物向き替えベース93が回転する。これにより刃物向き替えベース93に搭載された刃物装置10は、始発状態の前方水平を向いた状態から、例えばルータ錐12の作用方向(先端)を左右いずれかに向けた状態となり、向き替えシフトが完了する。
【0062】
その後、刃物ホルダ91全体が弾性支持ロッド96上を始発位置(前方側)に戻ろうとすると、直ちに当接解除片97が旋回基台81から離反する。その後、刃物ホルダ91が前方側の始発位置まで戻ると、姿勢設定片95が再度、向き替えピニオンギヤ94と噛み合い、刃物向き替えベース93と、これに支持される刃物装置10は、その新たな向き(姿勢)で固定保持される。
なお刃物装置10は、刃物向き替えベース93を回転させることによって、始発状態の前方水平から左右に90度、向きを替えることができるが、その途中の適宜の角度(向き)で固定することも可能である。
【0063】
(3)刃物装置の位置旋回シフト
刃物装置10の位置旋回シフト、すなわち刃物装置10を旋回基台81の回転面(垂直面)において旋回させるにあたっては、旋回基台81の外周側に設けられた旋回ピニオンギヤ83と、位置替えシフターラック78とを噛み合わせて行われる。この旋回シフト操作にあたっても、直接、旋回基台81を回転(旋回)させるアクチュエータは特に設けず、スライド架台73を幅方向に移動させることによって旋回シフト操作を行うものである。
具体的には、例えば図9-1・図9-2に示すように、非噛合状態にある位置替えシフターラック78を、その回転軸78Pを中心に回動させて、始発状態の水平状態(寝かせた状態)から90度立ち上げた状態に回動させて、旋回ピニオンギヤ83との噛み合いを図るものである。
この際、位置替えシフターラック78のシフトシリンダを伸長させて行うものであり、このシフトシリンダには、エアシリンダが適用され、エアタンク62の圧縮空気が作動媒体として適用される。
【0064】
一方、旋回ピニオンギヤ83は、常時、旋回姿勢設定片と噛み合うことにより、固定状態が維持されているが、この旋回姿勢設定片は、旋回シフト時には、その固定状態が解除される。この解除動作は、図示を省略するシフトシリンダが伸長することにより、旋回姿勢設定片による旋回ピニオンギヤ83の固定を解除するものである。
この状態で昇降クロス架台7に支持されたスライド架台73が左右いずれかに動くと、その動きに従い、旋回基台81が全体的に旋回(回転)する。結果的に、その回転中心たる回転軸81Pから偏心状態に取り付けられている刃物装置10が、偏心寸法を半径とした円周上を旋回移動する。そして、このような位置旋回シフトにより、例えば刃物装置10の上下位置(高さ)を変更・設定することができる。
【0065】
(4)穴開け加工装置の配置
上述した刃物装置10の向きや位置(旋回位置)等が、適宜選択されると、穴開け加工装置Aは、移動架台1の向き等に応じて適宜の配置姿勢をとるものであり、以下、穴開け加工装置Aの代表的な配置態様について説明する。
(a)前面対向配置
まず前面対向配置とは、一例として上記図10(a)に示すように、穴開け加工装置Aの前方を、加工対象となる壁面WL等に向かわせて加工する配置態様である。従って切込開始にあたっては刃物装置10が前後進シフト装置85によりZ軸上、すなわちガイドロッド84上を前進するようにして切り込みが開始される。一方、ユティリティー開口Hの水平方向の加工、すなわちX軸方向にはスライド架台73を昇降クロス架台7上において水平方向に移動させて、当該加工を行う。また、ユティリティー開口Hの垂直方向の加工、すなわちY軸方向への移動は、昇降クロス架台7を全体的に昇降動させて加工を行うものである。
【0066】
なおユティリティー開口Hが円形等、矩形状以外の形状である場合には、水平方向及び垂直方向のそれぞれの合成分力を勘案した軌跡を描くようにして刃物装置10を移動させてユティリティー開口Hを形成する。
因みにルータ錐12のスクリューリード角を逆向きとして、切削粉を室内空間R側に排除せず、壁面WLの内側に導くようにすることが好ましい。もちろん別途、吸込み装置により切削粉を排除することももとより差し支えない。
【0067】
(b)側面対向配置
また側面対向配置は、一例として上記図10(b)に示すように、穴開け加工装置Aを、加工対象となる壁面WLに対し、いわゆる横付け状態に配置するものであり、現実にはこのような作業形態は多く採られる。当然ながら刃物装置10の向きは、穴開け加工装置Aの長手方向と直交した短手方向に向けられる。そして壁面WLへの切り込みにあたっては、刃物装置10つまりルータ錐12の作用先端を壁面WLに向かうように設定し、スライド架台73を穴開け加工装置Aの幅方向(左右方向)に移動させて壁面WLに至らせ、ユティリティー開口Hの穿孔を開始する。そして、穿孔開始後(切込開始後)に刃物装置10を水平方向に移動させるにあたっては、刃物支持ベース9をガイドロッド84に沿って移動させることによって行う。また刃物装置10の垂直方向の移動は、昇降クロス架台7の全体的な昇降動作によって行うものである。
【0068】
(c)天井面の加工
なお天井面Cにユティリティー開口Hを形成する際には、刃物装置10のルータ錐12を、当然、上向きに設定するものである。具体的な操作としては、例えば刃物装置10を刃物向き替えベース93の回転によって、始発状態から90度左右どちらかに回転させた後、次いで刃物装置10を含む刃物ホルダ91全体を、旋回基台81の90度旋回(垂直面における回転)によって、刃物装置10(ルータ錐12の作用方向)を上向きとする。
もちろん、天井面Cにユティリティー開口Hを形成するにあたり、切り込み開始は昇降クロス架台7を上昇させて行う。因みに天井面Cは、室内空間Rで最も高い位置にあるため、この場合には昇降ポストフレーム5もポストフレーム32から充分伸ばした状態で開口作業を行う。
【0069】
続いて刃物装置10を天井面Cに沿って一方の方向、例えばZ方向(穴開け加工装置Aの前後方向)に移動させる場合、まずガイドロッド84に沿って刃物支持ベース9を移動させる。続いて、これに直交するX方向(左右方向)に刃物装置10を移動させる場合は、スライド架台73を昇降クロス架台7上において穴開け加工装置Aの幅方向(左右方向)に移動させて、開口作業を行う。
【0070】
以上述べたように、種々のユティリティー開口Hを形成するためには、このような作業手順が採り得るものであり、更に理解を深めるために、作業加工の一例を説明する。
〈IV〉室内壁面、天井面を想定した動作手順の一例
(1)データ入力
作業者はまず穴開け加工装置Aに搭載されているコントロールユニット64や入力パネル65を適宜操作して、コントロールユニット64内に、形成するユティリティー開口Hの加工データ、具体的には位置、形状、大きさ(寸法)等を設計仕様に応じて入力する。もちろん、このような加工データは、設計仕様のデータを直送入力したり、あるいはスマホ(スマートフォン)などを経由したりして入力することもできる。
【0071】
(2)室内進入
その後、穴開け加工装置Aを室内空間Rに進入させるが、この際、一例として図11に示すように、室内空間Rの入口であるドア開口Eが狭いため(開口高さが低いため)、通常、昇降ポストフレーム5は、最も下(下死点)に設定した状態とする。また、室内空間Rにおいて入口付近の床面周囲に段差がある場合、本発明の穴開け加工装置Aは、この段差を乗り越えて進入することができる。これには上述したように、まず段差に当接した車輪装置4における車輪42を、リフトアップシリンダ45を収縮させて持ち上げ(浮き上がらせ)、他の車輪42を駆動して前進させる。そして次に当接した車輪42を同様に持ち上げるとともに、先に持ち上げた車輪42を接地させるものであり、このような動作を繰り返し行うことによって、穴開け加工装置Aは、その姿勢を保ったまま、段差を乗り越えることができる。なお、段差の検知は、穴開け加工装置Aにセンサやカメラ等を設けておくことにより、自動で検出することができ、乗り越え自体も自動で行うことができる。
【0072】
(3)旋回横付け
このようにして穴開け加工装置Aを室内空間R内に進入させた後、例えば穴開け加工装置Aを壁面WLに横付けするようなときには、一例として図6に示すように、穴開け加工装置Aを進行方向(前方)から90度旋回させる(装置の向き替え旋回)。この操作は、既に述べたように、例えば前後一対の車輪装置ユニット4Uのうち後方を、長手方向から短手方向に向かうように旋回させた後、後方の車輪装置ユニット4Uを駆動して、穴開け加工装置Aの向きを90度変更し、横付け状態とする。
【0073】
(4)ユティリティー開口の開口手順
その後、一例として図11に示すように、例えば一つの壁面WL1の下方にユティリティー開口H1・H2を設ける必要があり、また同じ壁面WL1の上方にもユティリティー開口H3を開口させ、またこの壁面WL1と直交する他の壁面WL2の下方にもユティリティー開口H4を開口させ、更に天井面Cにもユティリティー開口H5を開口する場合を想定する。これらの開口作業カ所は、各種設計図面に基づいたデータとして穴開け加工装置Aに予め記録されている。
【0074】
上記のような場合のユティリティー開口Hの作業手順としては、各部位の駆動源としてのバッテリ63の電力消費、エアタンク62のエア消費(圧縮空気の消費)を極力、少量に抑えることが好ましく、従ってそのためには合理的な開口作業や移動順序がコントロールユニット64によって設定される。具体的には、例えばユティリティー開口H1からユティリティー開口H2への順序で作業する場合、穴開け加工装置Aは壁面WL1に横付け配置(側面対向配置)された状態を維持しながら壁面WL1に沿って移動し、所定の位置で開口が行われるものである。なお、これら下方のユティリティー開口H1・H2は、本装置にあっては立面旋回ベース8の回転中心たる回転軸81Pと、刃物装置10の支持位置とが偏心しているから、刃物装置10を最も下(下死点)に位置させれば、床面に極めて近い下方位置であっても充分に届き、開口作業が可能となっている。
【0075】
一方、上方のユティリティー開口H3や天井面Cのユティリティー開口H5の加工では、昇降ポストフレーム5を上昇移動させなければならない。しかしながら、そのための上昇に一定の電力消費が生ずることから、この昇降ポストフレーム5の上下移動の頻度は極力抑えることが好ましい。従って例えば壁面WL1の下方のユティリティー開口H1・H2を完了した後には、壁面WL2に移動し、下方に位置するユティリティー開口H4の穴開けを行うことが好ましい。
【0076】
その後、壁面WL1における高位置のユティリティー開口H3と天井面Cのユティリティー開口H5とを開口するが、まず壁面WL2のユティリティー開口H4の開口が終了したら、刃物装置10を天井面Cのユティリティー開口H5近くに移動させ、この開口作業を行い、その後、壁面WL1における高位置のユティリティー開口H3を開口することが望ましい。すなわち、この順序で穴開け作業をすると、入口であるドア開口Eから全ての開口作業を実行するまでの全体としての移動距離の短縮化が図られ、ひいてはパワーユニット6のエアタンク62の圧縮空気の消費やバッテリ63の消耗も少量に抑えることができる。このように本発明の穴開け加工装置Aでは、コントロールユニット64によって電力消費量や圧縮空気消費量を抑えた合理的な加工手順や作業ルートを、自ら判断し実行することができるものであり、このような加工を「自律的」と称している。なお、このような加工は、例えば自動的に夜間の時間帯を利用して無人作業で行うものであり、省力化とともに工期(加工時間)の短縮化も図ることができる。
【0077】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず、上記基本の実施例において既に述べた車輪装置4は、一般的な構成の車輪42を四輪で一ユニットとして車輪装置ユニット4Uを構成し、これを基部フレーム31の下方において前後二基(二ユニット)設けて、穴開け加工装置Aの縦行、横行、旋回が行えるように構成されたものである。
これに対し、本実施例では、更に穴開け加工装置Aの移動を迅速化・円滑化・確実化等を図るために、上述した一般的な車輪42に替え、全方向への移動が可能なオムニホイールを適用した自在車輪420を用いる改変例を開示する。
すなわち、この改変例は、既に述べた一般的な車輪42に替え、前後二基の車輪装置ユニット4Uの各車輪42にオムニホイール構造の自在車輪420を装着するものである。
【0078】
オムニホイール等の自在車輪420は、一例として図12に示すように、駆動を受ける車輪本体421に対し、その外周部を囲むように、樽形を呈する細身のフリーローラ422が複数、放射状に設けられる。換言すれば、フリーローラ422の回転支軸423は、車輪本体421の外周部において、車輪本体421の径方向に直交状態に配設されている。
このフリーローラ422の樽形円弧(外形)は、円軌跡を描くように形成され、その円弧径は、実質、自在車輪420の有効径と同一に設定される。
またフリーローラ422の樽形円弧外形は、車輪本体421の外形部よりもわずかに外方に突出するように設けられ、また各フリーローラ422を円弧状に配置することから、隣接するフリーローラ422間に一定の間隙が形成される。このようなことから、車輪本体421とフリーローラ422との組付アッシーは、二アッシーが一対となって隣接状態に組み合わせられて(トレッド方向の組み合わせ)、一基(一輪)の自在車輪420が構成されている。
【0079】
なお、このような言わばダブル車輪状態の自在車輪420を具えた車輪装置ユニット4Uを、穴開け加工装置Aの基部フレーム31に取り付ける態様は、既に述べた通常の車輪42における態様と同じである。従って、図13図15に示す改変例では、車輪架台40から旋回シフトシリンダ46に至る構成は、共通するものであり、同じ名称・符号を付すとともに、詳細な説明は省略する。
以下、このオムニホイールを適用した自在車輪420による移動形態について、代表的なプログラムを例に挙げて説明する。
【0080】
(1)移動プログラム1
移動プログラム1は、一例として図13に示すように、全ての自在車輪420(車輪本体421)の回転方向を、穴開け加工装置Aの前後方向(装置の長手方向)に設定したまま、穴開け加工装置Aの進行方向を、θラジアン(例えばπ/2ラジアンつまり90度)変更する移動プログラムである。すなわち上記姿勢は、上述した基本の実施例では、穴開け加工装置Aを前後させる縦行姿勢であり、本改変例では、この姿勢のまま穴開け加工装置Aの進行方向をθラジアン変更するものである。なお、上記姿勢は、自在車輪420の回転軸(左右の自在車輪420を接続する回転軸)を、穴開け加工装置Aの幅方向に合致させたままの姿勢とも言える。このように本改変例では、基本の実施例で示した車輪装置ユニット4U自体を90度回転させることはせず、つまり計八基の自在車輪420(車輪本体421)の向きを変えずに、穴開け加工装置A(移動架台1)の向きを変更するものである。
【0081】
なお、図13に示す改変例では、穴開け加工装置AをZ方向から、約π/2ラジアン回動させ、Y方向に向き替え旋回(水平旋回)させる場合を図示している。
ここで図中Raで示す寸法は、旋回前における穴開け加工装置Aの幅方向中心から旋回後の装置長手方向中心までの距離を示している。また図中T1で示す寸法は、装置幅方向中心から外側(旋回時の外側)に位置する自在車輪420の中心までの距離を示し、図中T2で示す寸法は、装置幅方向中心から内側(旋回時の内側)に位置する自在車輪420の中心までの距離を示している。
【0082】
また、図中のA軸は、前方側の車輪装置ユニット4Uにおいて、旋回時に外側を移動する自在車輪420であり、図中のB軸は、旋回時に内側を移動する自在車輪420を示している。また、図中のC軸は、後方側の車輪装置ユニット4Uにおいて、旋回時に外側を移動する自在車輪420であり、図中のD軸は、旋回時に内側を移動する自在車輪420を示している。ここで、車輪装置ユニット4Uは前方側と後方側とが同じであれば、旋回時におけるA軸の自在車輪420の回転半径は、C軸の自在車輪420の回転半径と同じであり、B軸の自在車輪420の回転半径は、D軸の自在車輪420の回転半径と同じである。
【0083】
そして、旋回前にA軸及びC軸に位置する自在車輪420が、θラジアン回転(旋回)して向き替え旋回を行った場合の移動距離は、(Ra+T1)×θとなる。
また旋回前にB軸及びD軸に位置する自在車輪420が、θラジアン回転(旋回)して向き替え旋回を行った場合の移動距離は、(Ra-T2)×θとなる。
そして、本移動プログラム1では、これらの移動距離が同じ時間で行えるように、A軸に作用する車輪駆動モータ42Mと、B軸に作用する車輪駆動モータ42Mとを駆動させるものであり、これはC軸とD軸についても同様である。
【0084】
(2)移動プログラム2
移動プログラム2は、一例として図14に示すように、基本の実施例で述べた横行姿勢のまま、穴開け加工装置Aを前方にストロークSだけ前進させる移動プログラムである。すなわち、この移動プログラム2では、全ての自在車輪420(車輪本体421)の回転方向が、穴開け加工装置Aの横行方向に設定された状態、換言すれば自在車輪420の回転軸が、穴開け加工装置Aの前後方向に合致した状態となり、この姿勢のまま装置全体を前進移動させる移動プログラムである。
ただし、この場合、全ての自在車輪420の回転方向が、穴開け加工装置Aの横行方向を指向していることから、穴開け加工装置A自体が、そのまま前方に移動するのではなく、一例として図14(b)の平面図に示すように、装置の前後端を別々に計四回幅方向(横方向)に振るように回動させながら、最終的に装置を前方側にストロークSだけ移動させるものである。
【0085】
因みに、穴開け加工装置Aを横方向に実際に回動させる動作は、一例として図14(b)に示すように、まず装置前端部を回動中心として後端側をθラジアン回動させ(図中下側への回動であり、これを往路回動1とする)、その後、装置後端部を回動中心として前端側を-θラジアン回動させる(図中下側への回動であり、これを往路回動2とする)。この状態で穴開け加工装置Aは、上記図14(b)に示すように、横方向(図中手前側)に距離H移動しながら、前方側にストロークSの半分(S/2)前進した状態となる。
次いで、今度は、装置前端部を回動中心として、後端側を-θラジアン回動させ(図中上側への回動であり、これを復路回動1とする)、その後、装置後端部を回動中心として、前端側をθラジアン回動させる(図中上側への回動であり、これを復路回動2とする)。この状態で穴開け加工装置Aは、上記図14(b)に示すように、上記横方向への移動距離Hが打ち消され、トータルで前方側にストロークSだけ前進した状態となる。
ここで回動角のプラス・マイナスは、図面に向かって反時計回りをプラスとし、時計回りをマイナスとして示したものである。
このように本移動プログラム2では、自在車輪420の動きは、一旦、横方向に振られ(往路回動)ながら、往路回動と復路回動とにおいてストロークSの半分ずつ前進し、最終的に横方向への移動距離がなくなり(相殺され)、ストロークSだけ前進する動きとなる。
【0086】
ここで図14(a)中のA軸とは、前方側の車輪装置ユニット4Uにおいて装置前方側に位置する二基の自在車輪420であり、B軸とは、同車輪装置ユニット4Uにおいて装置後方側に位置する二基の自在車輪420である。
またC軸とは、後方側の車輪装置ユニット4Uにおいて装置前方側に位置する二基の自在車輪420であり、D軸とは、同車輪装置ユニット4Uにおいて装置後方側に位置する二基の自在車輪420である。
また図14(b)中のA0はA軸の自在車輪420が移動する前の初期位置を平面視で示したものであり、A1はA軸の自在車輪420がストロークSだけ前進移動した後の最終位置(平面視)であり、AtはA軸の自在車輪420が往路回動のみを終えた途中位置(平面視)である。なお、この末尾符号「0」、「1」、「t」についてはB軸~D軸の自在車輪420の位置を示す際にも同様に用いている。
【0087】
以下、穴開け加工装置Aや各軸の自在車輪420の移動形態について、上記図14(b)に基づき、詳細に説明する。
まず回動を行う前の穴開け加工装置A(移動架台1)の初期位置(姿勢)については、装置の幅方向中心(前方から後方)が、図14(b)中のA0-D0に合致する。
そして装置全体の動きは、上述したように、まず装置前端部であるA0を回動中心として装置全体が図中下方にθラジアン幅方向に回動される(往路回動1)。この往路回動1では、装置後端部であるD軸の自在車輪420はもちろん、C軸・B軸の自在車輪420も同じ方向に同じ角度、回動移動を受ける。
次いで、装置後端部であるDtを回動中心として装置全体が図中下方に-θラジアン幅方向に回動される(往路回動2)。この往路回動2では、装置前端部であるA軸の自在車輪420はもちろん、B軸・C軸の自在車輪420も同じ方向に同じ角度、回動移動を受ける。なお、ここまでの回動動作、つまり往路回動1と往路回動2とが、往路回動を構成し、この往路回動によって、装置自体は、幅方向に距離Hだけ移動しながら(図中下方)、前進方向にストロークSの半分(S/2)だけ前進した位置に移動する(当初と同じZ方向を向く)。従って、初期位置における装置幅方向中心A0-D0は、往路回動を受けることによって、At-Dtに移動するものである。
【0088】
その後、穴開け加工装置Aは、復路回動を受けるものであり、まずは装置前端部であるAtを中心として装置全体が図中上方に-θラジアン幅方向に回動される(復路回動1)。この復路回動1では、装置後端部であるD軸の自在車輪420はもちろん、C軸・B軸の自在車輪420も同じ方向に同じ角度、回動移動を受ける。
次いで、装置後端部であるD1を中心として装置全体が図中上方にθラジアン幅方向に回動される(復路回動2)。この復路回動2では、装置前端部であるA軸の自在車輪420はもちろん、B軸・C軸の自在車輪420も同じ方向に同じ角度、回動移動を受ける。
そして、ここまでの回動動作、つまり復路回動1と復路回動2とが復路回動を構成し、この復路回動によって、装置自体は、幅方向中心が図中のA1-D1に合致するようになり、初期位置に対しストロークSだけ前進する。すなわち、装置自体は、復路回動によって、前方側に更にS/2移動し、当初の装置幅方向中心が、A1-D1線に合致し、トータルでストロークSだけ前進した位置に移動する。なお、図14(b)から分かるように、往路回動による横移動(距離Hの横移動)は、復路回動によって打ち消されている。
【0089】
そして、図14(b)中のマル数字1の曲線は、往路回動1におけるD軸・C軸・B軸の各自在車輪420の移動軌跡を示している。またマル数字2の曲線は、往路回動2におけるA軸・B軸・C軸の各自在車輪420の移動軌跡を示している。
更にマル数字3の曲線は、復路回動1におけるD軸・C軸・B軸の各自在車輪420の移動軌跡を示している。またマル数字4の曲線は、復路回動2におけるA軸・B軸・C軸の各自在車輪420の移動軌跡を示している。
また図中Wで示す寸法Wは、A軸の自在車輪420からD軸の自在車輪420までの距離を示している。ここで図中W1は、A軸の自在車輪420からB軸の自在車輪420までの距離を示し、図中W2は、B軸の自在車輪420からC軸の自在車輪420までの距離を示している。また図中W3は、C軸の自在車輪420からD軸の自在車輪420までの距離を示しており、通常はW1と同じ距離になる。なおWは、本図中に示すようにW1、W2、W3の合計となる。
【0090】
そして各軸の自在車輪420の移動距離は以下のように示される。
(a) D軸の自在車輪420
まずD軸の自在車輪420は、往路回動1ではA0を中心としてθラジアン回動し、復路回動1ではAtを中心として-θラジアン回動するから、移動距離(周長)としては、
W×θ、-W×θと示される。
【0091】
(b) A軸の自在車輪420
A軸の自在車輪420は、往路回動2ではDtを中心として-θラジアン回動し、復路回動2ではD1を中心としてθラジアン回動するから、移動距離としては、
-W×θ、W×θと示される。
【0092】
(c) C軸の自在車輪420
C軸の自在車輪420は、往路回動1では、まずA0を中心としてθラジアン回動し、次いで往路回動2では、Dtを中心として-θラジアン回転するから、往路回動における移動距離としては、
(W1+W2)×θ、-W3×θと示される。
また、これに続く復路回動1では、まずAtを中心として-θラジアン回動し、次いで復路回動2では、D1を中心としてθラジアン回転するから、復路回動における移動距離としては、
-(W1+W2)×θ、W3×θ
と示される。
【0093】
(d) B軸の自在車輪420
B軸の自在車輪420は、往路回動1では、まずA0を中心としてθラジアン回転し、次いで往路回動2では、Dtを中心として-θラジアン回転するから、往路回動における移動距離(周長)としては、
W1×θ、-(W2+W3)×θ
と示される。
また、これに続く復路回動1では、まずAtを中心として-θラジアン回転し、次いでD1を中心としてθラジアン回転するから、復路回動における移動距離としては、
-W1×θ、(W2+W3)×θ
と示される。
なお回動角θラジアンは、以下の式で算出される。
θ=cos-1((W-S/2)/W)〔rad〕
【0094】
(3)移動プログラム3
移動プログラム3は、一例として図15に示すように、基本の実施例で述べた横行姿勢のまま、穴開け加工装置Aをθラジアン回動させ、向き替え旋回を行う移動プログラムである。すなわち、この移動プログラム3では、全ての自在車輪420(車輪本体421)の回転方向が、穴開け加工装置Aの横行方向に設定された状態、換言すれば自在車輪420の回転軸が、穴開け加工装置Aの前後方向に合致した状態となり、この姿勢のまま装置の向き替え旋回を行う移動プログラムである。
ここで図中の自在車輪420に付したA軸~D軸は、前記移動プログラム2と同じである。
また図中のW0は、向き替え旋回の回動中心からA軸の自在車輪420までの距離であり、A軸の自在車輪420における回転半径がW0となる。また図中のW1は、A軸の自在車輪420からB軸の自在車輪420までの距離であり、このためB軸の自在車輪420における回転半径は(W0+W1)となる。また図中のW2は、B軸の自在車輪420からC軸の自在車輪420までの距離であり、このためC軸の自在車輪420における回転半径は(W0+W1+W2)となる。また図中のW3は、C軸の自在車輪420からD軸の自在車輪420までの距離であり、このためD軸の自在車輪420における回転半径は(W0+W1+W2+W3)となる。ただし、本図中ではW1+W2+W3=Wであるため、D軸の自在車輪420における回転半径は(W0+W)となる。
【0095】
また向き替え旋回の回動角をθラジアン(90度の向き替え旋回ならπ/2ラジアン)とすれば、
・A軸の自在車輪420の移動距離はW0×θとなり、
・B軸の自在車輪420の移動距離は(W0+W1)×θとなり、
・C軸の自在車輪420の移動距離は(W0+W1+W2)×θとなり、
・D軸の自在車輪420の移動距離は(W0+W)×θとなる。
そして、これらの各移動距離が同じ時間で行えるように各車輪駆動モータ42Mを駆動させるものである。
【0096】
更にまた、先に述べた基本の実施例は、施工カ所(施工位置)等、予め設計仕様を取り込んだプログラムに基づき、穴開け加工装置Aが自律的に移動し、必要な諸作業を行うものであった。
これに対し、以下述べる形態は、更に加工精度を向上させるようにするために測長センサ100を用いた改変例である。
測長センサ100そのものは、既に多くの会社から種々の仕様のセンサが市場に提供されているが、本発明の穴開け加工装置Aの作動実態を考慮すると、例えばレーザービームを照射して、測定対象物までの距離を計測するものが好ましい。
【0097】
この測長センサ100による基本的な測長原理は、一例として図16に示すように、発振器(発光器)101から測定対象物にレーザービームを発振(発光)し、その反射ビームを受振器(受光器)102で検出することにより、受振器102までの折り返し反応時間から離開距離(測長センサ100から測定対象物までの距離)を計測するものである。
本改変例では、上記図16に示すように、測長センサ100を、刃物装置10における刃物ボディ11と刃物向き替えベース93との間に設けるものであって、レーザービームの照射方向は、刃物ボディ11に支持されているルータ錐12の軸方向と合致させている。従って、施工カ所に対する測長は、ルータ錐12が加工する位置の至近で行われることになり、施工カ所と穴開け加工装置A(測長センサ100)との相対位置を極めて正確に把握することができる。
【0098】
なお、この改変例では、精密測定機器である測長センサ100の保護を図るため、測長センサ100の非使用時には、保護シャッタ104により、センサ前面が保護されるようにしている。この保護シャッタ104は、刃物ボディ11と刃物向き替えベース93との間において嵩上げ状に形成した、センサ保持枠106を支持部材として設けられる。具体的には、まずセンサ保持枠106の前方部位において、シャッタ本体105の基部ロッド107を、軸受108により回動自在に支持するものであり、この基部ロッド107の端部には、シフト受けブラケット109が設けられる。
このシフト受けブラケット109は、基部ロッド107(シャッタ本体105)と共回りするブラケットであり、そのためこのシフト受けブラケット109には、センサ保持枠106の側面に配置されたシャッタシフトシリンダ110の摺動ロッド111が回動自在に接続されている。
【0099】
そして、シャッタシフトシリンダ110を作動させることにより、測長センサ100の非作動時において、保護シャッタ104のシャッタ本体105が測長センサ100の前面に位置する発振器101と受振器102とを外部から遮断保護する。一方、測長センサ100の作動時、つまりレーザービームを照射し、反射ビームを受光する際には、シャッタ本体105を開放させ、測定可能な状態とする。より詳細には、上記図16に示すように、シャッタシフトシリンダ110の摺動ロッド111を収縮させた状態では、摺動ロッド111の作用先端部がシフト受けブラケット109の接続ピボット109Pを、シャッタシフトシリンダ110側に引き寄せ、シャッタ本体105の基部ロッド107を図16(b)中、反時計方向に回動させた状態として、摺動ロッド111に取り付けられたシャッタ本体105によって測長センサ100の前面を閉鎖する。
一方、シャッタシフトシリンダ110の摺動ロッド111を伸長させた状態では、摺動ロッド111の作用先端部がシフト受けブラケット109の接続ピボット109Pを、前方側に押し出すような状態となり、シャッタ本体105の基部ロッド107を図16(b)中、時計方向に回動させた状態として、摺動ロッド111に取り付けられたシャッタ本体105を開放させ、レーザービームの照射・受光を許容するものである。
【0100】
因みに、この保護シャッタ104を設ける意義は、測長センサ100(発振器101・受振器102)を保護し、且つ正確に離開距離を測定するためである。すなわち、測長センサ100の至近位置には、ルータ錐12を具えた刃物装置10が存在するため、ボード面に穴開け加工を行う際には、ルータ錐12による切削粉が発生する。ここで、保護シャッタ104を設けない場合には、この切削粉によって測長センサ100の発振器101・受振器102が汚損されることが懸念され、また測長センサ100の前面に切削粉が付着した場合には、正確なレーザービームの発光・受光が妨げられる恐れがあり、これらを回避するために保護シャッタ104を設けたものである。
以下、この測長センサ100の使用状況(使用態様)を、測定状況ごとに説明する。
【0101】
(イ)床面の段差検出(床面までの垂直距離測定)
既に前記「〈IV〉室内壁面、天井面を想定した動作手順の一例」における「(2)室内進入」の項で述べた通り、穴開け加工装置Aが作業現場(作業室内)に進入する際、床面に段差が存在する場合がある(図11参照)。このような場合に備えて、予め室内の設計仕様に応じたデータが穴開け加工装置Aに入力されており、その位置情報出力に従い、段差部において段差乗り越えの操作が行われる。
この際、測長センサ100を適用した本改変例では、測長センサ100によって段差状況(段差の高さ)を実際に計測することができ、これにより一層確実に段差を乗り越えることができる。
具体的には、一例として図17に示すように、刃物装置10のシフト動作により、測長センサ100の作用方向を下方に指向させる。この状態でレーザービームを下向きに照射するものであり、これにより測長センサ100から段差付き床面までの距離を計測し、この値を、段差無し床面までの距離と比較して、段差の高さを検出する。そして、この段差の高さ寸法が、予め入力されたデータと合致していることを確かめてから、この段差寸法に応じて、車輪42をリフトアップシリンダ45の収縮を図って上昇させ、既に述べた通りの作動の下に、段差の乗り越えを実施するものである。
【0102】
(ロ)左右の壁面までの水平距離測定
更に、穴開け加工装置Aが施工現場である室内に進入した後、穴開け加工装置Aは、既入力の加工位置データに基づき、所定の加工位置に進む。この際、当該加工位置が、より正確に検出できるように測長センサ100を用いることができる。
具体的には、一例として図18の平面図に示すように、まず加工位置に概ね到達した段階で、左右の壁面WLに対し、それぞれ水平方向に測長センサ100を指向させ、穴開け加工装置A(測長センサ100)から両側壁Wまでの距離を計測する。
なお、上記図18では、あたかも加工ユニット2における刃物装置10が二基設けられているように図示したが、実際には、一基の刃物ホルダ91や測長センサ100を、左右に向き替えして、それぞれの壁面WLまでの距離を測定するものである。
因みに、この場合には、穴開け加工装置Aの中心位置(幅方向中心)から測長センサ100の前面までの距離(ここでは194.2mm)と、穴開け加工装置Aの装置中心(幅方向中心)から刃物向き替えベース93(向き替えピニオンギヤ94)の中心位置までの距離(ここでは94.2mm)とが事前に分かっているため、測長センサ100から両側壁Wまでの距離を計測することにより、室内における穴開け加工装置Aの平面的な位置を正確に検出することができる。
【0103】
(ハ)対壁水平角度測定
更に加工カ所の壁面WLに対して刃物装置10のルータ錐12が、水平面において正対面しているか、すなわち壁面WLに対し直角に穴開け加工が行われるかを確認する際にも測長センサ100を用いることができる。
具体的には、一例として図19の平面図に示すように、対向する壁面WLに対し、水平面における角度を測定するものであり(これを対壁水平角度測定と称する)、加工地点に概ね到達した段階で、測長センサ100を装置中心から左右に等距離ずつ離して(ここではX/2として図示)、測長センサ100から対向する壁面WLまでの距離(Z)を計測する。
ここで穴開け加工装置Aが壁面WLに対し、水平面上において正対面していないときには、装置中心から図中左側にX/2の距離に測長センサ100を位置させて計測した距離Z1と、装置中心から図中右側にX/2の距離に測長センサ100を位置させて計測した距離Z2とが合致しない。より詳細には、本図では、
Z1>Z2
であり、穴開け加工装置A(ルータ錐12)が正対面からずれた角度θh は、以下の式で示される。
θh =tan-1((Z1-Z2)/X)〔rad〕
そして、この場合、穴開け加工装置A(ルータ錐12)を壁面WLに正対面させるには、上記θh を0とするように車輪装置4を補正駆動するものである。
【0104】
(ニ)対壁垂直角度測定
更に加工カ所の壁面WLに対して刃物装置10のルータ錐12が、垂直面において正対面しているか、すなわち壁面WLに対し直角に穴開け加工が行われるかを確認する際にも測長センサ100を用いることができる。
具体的には、一例として図20の側面図に示すように、対向する壁面WLに対し、垂直面における角度を測定するものであり(これを対壁垂直角度測定と称する)、穴開け加工装置Aが加工地点に概ね到達した段階で、測長センサ100を、適宜の基準高さ位置から上下に等距離ずつ離して(ここではY/2として表示)、測長センサ100から対向する壁面WLまでの距離(Z)を計測する。
ここで穴開け加工装置Aが壁面WLに対し、垂直面上において正対面していないときには、基準高さ位置から上方にY/2の距離に測長センサ100を位置させて計測した距離Z1と、基準高さ位置から下方にY/2の距離に測長センサ100を位置させて計測した距離Z2とが合致しない。より詳細には、本図では、
Z1>Z2
であり、ルータ錐12が正対面からずれた角度θv は、以下の式で示される。
θv =tan-1((Z1-Z2)/Y)〔rad〕
そして、この場合、ルータ錐12を壁面WLに正対面させるには、角度から補正値を割り出してもよいが、実質的にはZ1=Z2となるように(上記θv を0とするように)穴開け加工装置Aにおける車輪装置4によるリフト状態を補正する。
【符号の説明】
【0105】
A 穴開け加工装置(室内ボード面の穴開け加工装置)

1 移動架台
2 加工ユニット
3 フレーム
4 車輪装置
4U 車輪装置ユニット
5 昇降ポストフレーム
6 パワーユニット
7 昇降クロス架台
8 立面旋回ベース
9 刃物支持ベース
10 刃物装置

11 刃物ボディ
12 ルータ錐

31 基部フレーム
32 ポストフレーム
33 ガイドレール
34 アウトリガ
34A 後部アウトリガ
34B 前部アウトリガ
35 設置片
36 張出アーム
36P ピボット

40 車輪架台
40P 架台旋回軸
41 スイングアーム
41P 中央ピボット
42 車輪
42H 車輪ハウジング
42M 車輪駆動モータ
43 駆動チェーン
44 リフトアップリンク
45 リフトアップシリンダ
46 旋回シフトシリンダ

51 リニアベアリング
52 昇降シフトチェーン
52M 昇降シフトモータ
53 ターンスプロケット
54 カウンタウェイト
55 昇降ガイドレール

61 コンプレッサ
62 エアタンク
63 バッテリ
64 コントロールユニット
65 入力パネル
66 カバーパネル

70 クロス架台昇降シフトチェーン
70M クロス架台昇降モータ
70T ターンスプロケット
70W カウンタウェイト
71 ガイドブロック
72 クロスガイドレール
73 スライド架台
73M 架台駆動モータ
74 駆動ベルト
75 ターンプーリ
76 刃物シフターラック
77 向き替えシフターラック
78 位置替えシフターラック
78P 回転軸

81 旋回基台
81P 回転軸
82 旋回基台ベアリング
83 旋回ピニオンギヤ
84 ガイドロッド
85 前後進シフト装置
85M 前後進モータ
86 接続ブラケット
87 スクリューシャフト
88 メネジブロック
89 連結片

91 刃物ホルダ
92 スライダ
93 刃物向き替えベース
93B 向き替えベアリング
93P 回転軸
94 向き替えピニオンギヤ
95 姿勢設定片
96 弾性支持ロッド
96S 設定スプリング
97 当接解除片

100 測長センサ
101 発振器
102 受振器
104 保護シャッタ
105 シャッタ本体
106 センサ保持枠
107 基部ロッド
108 軸受
109 シフト受けブラケット
109P 接続ピボット
110 シャッタシフトシリンダ
111 摺動ロッド

420 自在車輪
421 車輪本体
422 フリーローラ
423 回転支軸

R 室内空間
H ユティリティー開口
H1 ユティリティー開口
H2 ユティリティー開口
H3 ユティリティー開口
H4 ユティリティー開口
H5 ユティリティー開口
WL 壁面
WL1 壁面
WL2 壁面
C 天井面
E ドア開口
S ストローク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20