(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150419
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】軸荷重負荷試験用の試験片把持具、並びにこれを用いた極限環境中での軸荷重負荷試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20241016BHJP
G01N 3/18 20060101ALI20241016BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N3/04 A
G01N3/18
G01N3/32 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061131
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2023063776
(32)【優先日】2023-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】小熊 博幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 公喜
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA02
2G061AB01
2G061AB05
2G061AC04
2G061BA01
2G061BA15
2G061CA15
2G061CB02
2G061CB05
2G061CC05
2G061DA16
2G061DA19
2G061EA01
2G061EA03
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】極限環境中での軸荷重負荷試験に用いて好適な試験片把持具を提供すること。
【解決手段】試験片10の両端部を挟持治具を介して軸荷重負荷試験機に取り付ける試験片把持具であって、前記挟持治具は、試験片10の両端部に夫々装着されるものであって、試験片10の一方の端部を対向する二個の平面で挟み込むくさび部30a、30bと、くさび部30a、30bのテーパ角に応じた傾斜角度を有するくさびホルダー部40a、40bと、くさびホルダー部40a、40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有する筒状部50a、50bと、くさびホルダー部40a、40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有するロックナット60とを備え、ロックナット60を締め付けることでくさび部30a、30bの対向する平面で試験片10の一方の端部を挟み込むと共に、筒状部50a、50bの端面と当接し、筒状部50a、50bの他方の端面はフレーム部70側に位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の両端部を挟持治具を介して軸荷重負荷試験機に取り付ける軸荷重負荷試験用の試験片把持具であって、
前記挟持治具は、前記試験片の両端部に夫々装着されるものであって、
前記試験片の一方の端部を対向する二個の平面で挟み込むくさび部と、
前記くさび部のテーパ角に応じた傾斜角度を有するくさびホルダー部と、
前記くさびホルダー部の外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有する筒状部と、
前記くさびホルダー部の外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有するロックナットとを備え、
前記ロックナットを締め付けることで前記くさび部の対向する平面で前記試験片の一方の端部を挟み込むと共に、前記筒状部の端面と当接し、
前記筒状部の他方の端面は、前記軸荷重負荷試験機に取り付けるフレーム部側に位置する、
軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項2】
前記軸荷重負荷試験機は引張試験機又は疲労試験機であり、
前記くさびホルダー部は、前記試験片の端部に面する側が狭く、前記フレーム部側に面する側が広いテーパ状であり、軸方向に大略U字形又はコの字形である、
請求項1に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項3】
前記くさびホルダー部は、更に
前記くさび部と当接すると共に、対向面が平面であるくさび部当接面を有し、
前記くさび部を装着し、又は取り外すように構成された前記くさび部当接面に位置する溝状開口部と、
前記くさび部当接面の溝状開口部と反対側に設けられた当接面連結部を有する、
請求項2に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項4】
前記くさび部は、請求項2に記載の前記くさびホルダー部に装着されるものであって、
前記試験片の端部に面する側が狭く、前記フレーム部側に面する側が広いテーパ状である、
請求項2に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項5】
前記くさびホルダー部は、前記フレーム部側に位置する基底面に開口穴を有し、
前記開口穴は、前記くさびホルダー部のU字形又はコの字形の両腕部に挟まれて装着される前記くさび部を、前記くさびホルダー部のU字形又はコの字形の両腕部から離脱させるための工具が挿入用される、
請求項2に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項6】
前記試験片はひも状又は棒状であり、
前記くさび部は、前記試験片の装着を案内する案内溝を、前記試験片を挟み込む対向する平面の少なくとも一方に設けたことを特徴とする、
請求項1に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項7】
前記軸荷重負荷試験機は圧縮試験機であり、
前記くさびホルダー部は、前記試験片の端部に面する側が広く、前記フレーム部側に面する側が狭いテーパ状であり、軸方向に大略U字形又はコの字形である、
請求項1に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項8】
前記くさびホルダー部は、更に
前記くさび部と当接すると共に、対向面が平面であるくさび部当接面を有し、
前記くさび部を装着し、又は取り外すように構成された前記くさび部当接面に位置する溝状開口部と、
前記くさび部当接面の溝状開口部と反対側に設けられた当接面連結部を有する、
請求項7に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項9】
前記くさび部は、請求項7に記載の前記くさびホルダー部に装着されるものであって、
前記試験片の端部に面する側が広く、前記フレーム部側に面する側が狭いテーパ状である、
請求項7に記載の軸荷重負荷試験機用の把持具。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の軸荷重負荷試験機用の試験片把持具、並びに
液体窒素又は液体水素等の寒剤を収容した寒剤槽を有し、
前記寒剤槽は、前記試験片の両方の端部が前記寒剤の液体面に位置するように、前記軸荷重負荷試験機に装着される、
極限環境中での軸荷重負荷試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素中のような極限環境中での軸荷重負荷試験において、板状、又は棒状の試験片を対象として軸荷重負荷試験を行うのに用いて好適な軸荷重負荷試験用の試験片把持具、並びにこれを用いた疲労試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試験片に負荷をかけて引張試験(特許文献1参照)や疲労試験(特許文献2参照)を実施する場合、試験片を試験装置に固定する。特許文献3に示すように、試験装置には試験片を把持するために種々の機構が用いられている。
試験片に軸方向(長手方向)の負荷をかける場合の主な把持方式は以下の通りである。
(あ) 試験片両端にネジを加工し、把持ジグにねじ込む。
(い) 試験片両端をすべり止め加工を施した板や楔で挟む。
(う) 試験片両端をコレットで掴む。
(え) 試験片両端を引っ掛ける、またはフランジで押さえる。
(お) 試験片に穴を開けてピンでとめる。
また、上記(い)や(う)においては把持力(摩擦力)を大きくするために、ネジにより楔を効かせる機構や油圧を併せて用いたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-257289号(引張試験機)
【特許文献2】特開2013-221872号(疲労試験機)
【特許文献3】特許第6586695号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、以下の課題があった。
(か) 板状の試験片においては、穴を開けることが困難な場合や試験片に穴をあけると穴から破壊が生じてしまう場合がある。
(き) 前述の把持方式や把持力を大きくするための機構は、環境槽など大きさに制限がある場合や試験環境(例えば高温、低温、液体中など)によっては使用ができない場合がある。
本発明はこのような課題を解決するもので、極限環境中での試験片把持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具は、例えば
図1に示すように、試験片10の両端部を挟持治具を介して軸荷重負荷試験機に取り付ける軸荷重負荷試験用の試験片把持具であって、
前記挟持治具は、試験片10の両端部に夫々装着されるものであって、
試験片10の一方の端部を対向する二個の平面で挟み込むくさび部30a、30bと、
くさび部30a、30bのテーパ角に応じた傾斜角度を有するくさびホルダー部40a、40bと、
くさびホルダー部40a、40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有する筒状部50a、50bと、
くさびホルダー部40a、40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有するロックナット60とを備え、
ロックナット60を締め付けることでくさび部30a、30bの対向する平面で試験片10の一方の端部を挟み込むと共に、筒状部50a、50bの端面と当接し、筒状部50a、50bの他方の端面は、前記軸荷重負荷試験に取り付けるフレーム部70側に位置するものである。
【0006】
〔2〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔1〕において、好ましくは、前記軸荷重負荷試験機は引張試験機又は疲労試験機であり、くさびホルダー部40a、40bは、試験片10の端部に面する側が狭く、フレーム部70側に面する側が広いテーパ状であり、軸方向に大略U字形又はコの字形であるとよい。
〔3〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔2〕において、好ましくは、例えば
図12に示すように、くさびホルダー部40a、40bは、更にくさび部30a、30bと当接すると共に、対向面が平面であるくさび部当接面47を有し、くさび部30a、30bを装着し、又は取り外すように構成された溝状開口部48と、溝状開口部48と反対側に設けられた当接面連結部49を有するとよい。
〔4〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔2〕において、好ましくは、くさび部30a、30bは、〔2〕に記載のくさびホルダー部40a、40bに装着されるものであって、試験片10の端部に面する側が狭く、フレーム部70側に面する側が広いテーパ状であるとよい。
〔5〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔2〕において、好ましくは、くさびホルダー部40a、40bは、フレーム部70側に位置する基底面に開口部46を有し、
前記開口部は、くさびホルダー部40a、40bのU字形又はコの字形の両腕部に挟まれて装着されるくさび部30a、30bを、くさびホルダー部40a、40bのU字形又はコの字形の両腕部から離脱させるための工具が挿入用されるものであるとよい。
【0007】
〔6〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔1〕において、好ましくは、試験片10はひも状又は棒状であり、くさび部30a、30bは、試験片10の装着を案内する案内溝を、試験片10を挟み込む対向する平面の少なくとも一方に設けたものであるとよい。
〔7〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔1〕において、好ましくは、前記軸荷重負荷試験機は圧縮試験機であり、
前記くさびホルダー部は、前記試験片の端部に面する側が広く、前記フレーム部側に面する側が狭いテーパ状であり、軸方向に大略U字形又はコの字形であるとよい。
〔8〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔7〕において、好ましくは、例えば
図12に示すように、くさびホルダー部40a、40bは、更にくさび部30a、30bと当接すると共に、対向面が平面であるくさび部当接面47を有し、くさび部30a、30bを装着し、又は取り外すように構成された溝状開口部48と、溝状開口部48と反対側に設けられた当接面連結部49を有するとよい。
〔9〕本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具〔7〕において、好ましくは、くさび部30a、30bは、〔6〕に記載のくさびホルダー部40a、40bに装着されるものであって、試験片10の端部に面する側が広く、フレーム部70側に面する側が狭いテーパ状であるとよい。
【0008】
〔10〕本発明の極限環境中での軸荷重負荷試験機は、〔1〕~〔9〕の何れか1項に記載の軸荷重負荷試験機用の試験片把持具、並びに液体窒素又は液体水素等の寒剤を収容した寒剤槽を有し、前記寒剤槽は、試験片10の両方の端部が前記寒剤の液体面に位置するように、前記軸荷重負荷試験機に装着されるものである。
【発明の効果】
【0009】
(さ) 本発明の試験片把持具においては、くさびホルダー部40a、40bに左右のテーパ部42a、42bを設けることで、くさび部30a、30bと共に試験片把持具の小型化を図った。
(し)くさび部30a、30bで試験片を堅固に挟む係止態様を採用しているので、ネジや穴を加工することができない試料についても軸荷重負荷試験を行うことができると共に、周囲環境からの影響が小さい機械式の把持が実現できる。
(す)くさび部30a、30bの対向する試料把持面を試料の把持に適した形状とすることで、試験片の形状が板やロープ状であっても、試験片の端部を固定するための構造としても応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例を示す極限環境中試験片把持具の要部構成断面図である。
【
図2】(A)は上部筒状部50aの要部構成断面図、(B)は装着される試験片側から見た底面図、(C)は二面幅を説明する斜視方向の全体写真である。
【
図3】(A)は下部筒状部50bの要部構成断面図、(B)は装着される試験片側から見た平面図、(C)は二面幅を説明する正面写真である。
【
図4】(A)は上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aの要部構成断面図、(B)は装着される試験片側から見た底面図又は平面図である。
【
図6】試験片10の両端をくさび部30a、30bで係止した状態で、(A)は筒状部50a、50bを取り外した状態の外観図、(B)は筒状部50a、50bを装着した状態の外観図である。
【
図7】引張試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態の説明図で、(A)は全体図、(B)は試験片付近の拡大図である。
【
図8】疲労試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態の説明図で、(A)は全体図、(B)は試験片付近の拡大図である。
【
図9】引張試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態での応力-歪線図、又は試験力とストロークの関係図で、(A)はクロスベッド変位で測定した場合の試験力とストロークの関係図、(B)は歪ゲージで測定した場合の応力-歪線図を示している。
【
図10】基部開口部46に棒状の治具を挿入して、くさび部30a、30bと左右のテーパ部42a、42bとの係止を堅固にする場合の説明図である。
【
図11】疲労試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態で、液体窒素環境槽に浸漬した状態の説明図である。
【
図12】(A)は本発明の第2の実施例を示す上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aの要部構成断面図、(B)は装着される試験片側から見た底面図又は平面図である。
【
図13】(A)は
図12に示すくさびホルダー部40a単体の全体写真、(B)はくさびホルダー部40aの要部斜視図である。
【
図14】本発明の第2の実施例の試験片把持具を、液体窒素に浸漬した状態と室温の状態とで、引張試験を実施して、強度データを得たもので、横軸は歪[%]、縦軸は応力[MPa]を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例を示す極限環境中試験片把持具の要部構成断面図である。
図において、本発明の軸荷重負荷試験用の試験片把持具は、試験片10の両端部を挟持治具を介して軸荷重負荷試験機に取り付けるものであり、軸荷重負荷試験には引張試験や疲労試験が含まれる。試験片10には、平板状の板材が典型的であるが、これに限定されるものではなく、棒状や、繊維強化複合材料の場合には糸状のものが含まれる。
【0012】
挟持治具は、試験片10の両端部に夫々装着されるものであって、くさび部30a、30b、くさびホルダー部40a、40b、上部筒状部50a、下部筒状部50b、ロックナット60a、60bを備える。ここで、上部筒状部50aには、くさび部30a、くさびホルダー部40a、ロックナット60aが組み込まれる。下部筒状部50bには、くさび部30b、くさびホルダー部40b、ロックナット60bが組み込まれる。フレーム部70は、軸荷重負荷試験に試験片10を装着する場合の、軸荷重負荷試験機側の取り付け治具である。
【0013】
くさび部30a、30bは、平板状の試験片10の一方の端部を対向する二個の平面で挟み込むもので、一方の端部が狭く、他方の端部が広いテーパ状の形状を有している。
くさびホルダー部40a、40bは、くさび部30a、30bのテーパ角に応じた傾斜角度を有するもので、くさび部30a、30bが平板状の試験片10の一方の端部を対向する二個の平面で挟み込むのを助ける。
上部筒状部50aは、くさびホルダー部40aの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有するもので、例えば上部筒状部50aの内周面に設けられた雌ネジがくさびホルダー部40aの外周面に設けられた雄ネジと螺合する。上部筒状部50aはくさびホルダー部40aを覆うように装着される。
下部筒状部50bは、くさびホルダー部40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有するもので、例えば下部筒状部50bの内周面に設けられた雌ネジがくさびホルダー部40bの外周面に設けられた雄ネジと螺合する。下部筒状部50bはくさびホルダー部40baを覆うように装着される。
ロックナット60a、60bは、くさびホルダー部40a、40bの外周面に形成された雄ネジ面と螺合する雌ネジ面を有する。ロックナット60aは、くさびホルダー部40aの試験片側の端部に位置している。ロックナット60bは、くさびホルダー部40bの試験片側の端部に位置している。
【0014】
このように構成された装置においては、ロックナット60a、60bを締め付けることでくさび部30a、30bの対向する平面で試験片10の一方の端部を挟み込むと共に、筒状部50a、50bの端面と当接し、筒状部50a、50bの他方の端面は、前記軸荷重負荷試験に取り付けるフレーム部70に取り付けられるものである。
【0015】
次に、上部筒状部50a、下部筒状部50b、くさびホルダー部40a、40b、くさび部30a、30bの詳細構造を説明する。
図2(A)は上部筒状部50aの要部構成断面図、
図2(B)は装着される試験片側から見た底面図、
図2(C)は二面幅を説明する斜視方向の全体写真である。
上部筒状部50aは、基部51、フレーム部装着部52、軸荷重負荷試験機の作用端装着部53、筒状部54、基部開口部55、二面幅部56を有している。
基部51は、上部筒状部50aをフレーム部70に装着すると共に、試験片を装着するための骨格となる部材である。フレーム部装着部52は、基部51をフレーム部70に装着する為の構造体である。作用端装着部53は、軸荷重負荷試験機の一方の作用端に上部筒状部50aを装着するのに用いる。筒状部54は内周面に雌ネジが形成されている。基部開口部55は、くさびホルダー部40aの基部41を挿入する為の開口部である。二面幅部56は、試験片取付時にスパナを使用するための部位で、二面幅の公差もボルトやナットの公差に準じて定めるとよい。ボルトやナットの公差は、JIS規格では「JIS B 1021」で精度に応じて公差が定められている。
【0016】
図3(A)は下部筒状部50bの要部構成断面図、
図3(B)は装着される試験片側から見た平面図、
図3(C)は二面幅を説明する正面写真である。下部筒状部50bは、基部61、軸荷重負荷試験機の作用端装着部62、筒状部63、基部開口部64、二面幅部65を有している。
基部61は、下部筒状部50bをフレーム部70に装着すると共に、試験片を装着するための骨格となる部材で、例えばフランジが用いられる。作用端装着部62は、軸荷重負荷試験機の他方の作用端に下部筒状部50bを装着するのに用いる。筒状部63は内周面に雌ネジが形成されている。基部開口部64は、くさびホルダー部40bの基部41を挿入する為の開口部である。二面幅部65は、試験片取付時にスパナを使用するための部位で、二面幅の公差もボルトやナットの公差に準じて定めるとよい。
【0017】
図4(A)は上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aの要部構成断面図、
図4(B)は装着される試験片側から見た底面図又は平面図である。上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aは、基部41、左右のテーパ部42a、雄ネジ部43a、試験片側開口部44、くさび収容室45、基部開口部46を有している。
基部41は、左右のテーパ部42aを支持するための骨格となる部材である。左右のテーパ部42aは、基部41側が狭く、試験片側開口部44が広い形状をしており、外周面は上部筒状部50aの雌ネジと螺合する雄ネジの形成された円筒状の面を有している。左右のテーパ部42aの間を分割することにより、仮に負荷時にくさび部30aが効くことにより、雄ネジ部43aが広げられ回らなくなる場合でも、試験片の取り外しが容易となる。左右のテーパ部42aの間隔は、くさび部30aを挟み込むのが行えるような傾斜面の角度範囲と、くさびホルダー部40aの許容される全長を考慮して、幾何学的に定められるものである。例えば、くさびホルダー部40aの全長は90mm程度であり、外径寸法は20mm程度である。左右のテーパ部42aの間隔は、試験片側の最も狭い領域では6mmであり、基部41側の最も広い領域では17mmであるが、これに限定されるものではなく、試験片の形状と軸荷重負荷試験に合わせて、試験片把持具の各部の寸法は適宜に選択される。
雄ネジ部43aは、左右のテーパ部42aの外周面に設けられている。試験片側開口部44は、くさび部30aで端部が固定された試験片10が位置する。くさび収容室45は、くさび部30aが収容される空間である。基部開口部46は、基部41の中央部に設けられる貫通穴で、この貫通穴に棒状の治具を挿入して、くさび部30aと左右のテーパ部42aとの係止を堅固にする。
また、下部筒状部50bに装着されるくさびホルダー部40bは、上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aと同様な形状をしているので、説明を省略する。
【0018】
図5はくさび部30a、30bの正面図である。くさび部30a、30bは、一方の端部31が狭く、他方の端部32が広いテーパ状の形状を有している。このテーパ状の形状は、例えば直角三角形の底辺と高さの比として15:1の場合、傾斜角は3.81°となるから、テーパ状の角度としては3°以上5°以下にするのが好ましい。
くさび部30a、30bは、左右のテーパ部42a、42bと係止される関係にあるので、上部筒状部50aと下部筒状部50bの全長を短くすることが出来、試験片把持具全体の小型化に寄与する。特に、極限環境中に用いられる試験片把持具では、例えば液体水素槽や液体窒素槽の形状が限られている場合でも、試験片把持具の小型化によって極限環境を保持する空間が少なくて済み、好ましい。
【0019】
図6(A)、(B)においては、試験片10の両端をくさび部30a、30bで係止した状態を示すもので、
図6(A)は筒状部50a、50bを取り外した状態の外観図、
図6(B)は筒状部50a、50bを装着した状態の外観図である。ロックナット60を締め付けることで、くさび部30a、30bの対向する平面で試験片10の一方の端部を挟み込んでいる。
【0020】
図7は、引張試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態の説明図で、(A)は全体図、(B)は試験片付近の拡大図である。
試験片10には幅方向の歪を検知する歪ゲージ11aと軸方向の歪を検知する歪ゲージ11bが貼付されており、リード線12a、12bが歪ゲージ11a、11bに接続されている。
【0021】
図8は、疲労試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態の説明図で、(A)は全体図、(B)は試験片付近の拡大図である。
疲労試験機は、ロードセルと試験片に往復荷重を印加するアクチュエータを備えている。
【0022】
図9は、引張試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態での応力-歪線図、又は試験力とストロークの関係図で、(A)はクロスベッド変位で測定した場合の試験力とストロークの関係図、(B)は歪ゲージで測定した場合の応力-歪線図を示している。
クロスベッドは、引張試験機のフレーム構造に対してロードセルを懸架する部位である。
試験片の材料として炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon fiber reinforced plastic)を用いる場合、クロスベッド変位で試験力とストロークの関係を測定すると、試験片把持具の螺合部の嵌め合いの影響のせいか、0-5mmの変位では0-5kNであるのに対して、10-15mmの変位では12.5-31kNと、弾性率が4倍程度高くなっている。これに対して、歪ゲージを貼付して試験片の応力-歪を測定すると、0-2%の歪に対して応力が約3400MPaとほぼ比例関係にあり、好ましい。
【0023】
図10は、基部開口部46に棒状の治具を挿入して、くさび部30a、30bと左右のテーパ部42a、42bとの係止を堅固にする場合の説明図である。
【0024】
図11は、疲労試験機に本発明の試験片把持具を用いて試験片を装着した状態で、液体窒素環境槽に浸漬した状態の説明図である。液体窒素環境槽の大きさは限られているので、疲労試験機の試験片装着部位を浸漬するのに、試験片把持具は小型化することが望ましい。
本発明の試験片把持具においては、くさびホルダー部40a、40bに左右のテーパ部42a、42bを設けることで、くさび部30a、30bと共に試験片把持具の小型化を図った。
また、くさび部30a、30bを用いることにより把持力を高めている。負荷時にくさび部30a、30bが効くことによりくさびホルダー部40a、40bの雄ネジ部43a、43bが広げられ、回らなくなることがあるが、筒状部50a、50bとロックナット60により、筒状部54、63の内周面に形成された雌ネジ側を分割することにより、試験片10の取り外しが容易となる。
【0025】
くさび部30a、30bの試験片10との接触面には摩擦を大きくするための表面加工を施すとよい。くさび部30a、30bの表面は熱処理等で硬化させておくことが望ましい。
【0026】
なお、上記の実施形態においては、試験片の形状として板状の場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、試験片の形状として棒状のものでもよい。棒状の試験片の把持を可能とする為に、くさび部30a、30bの表面には溝を設けるとよい。
【0027】
また、上記の実施形態においては、軸荷重負荷試験機として、引張試験機や疲労試験機の場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、軸荷重負荷試験機として、圧縮試験機としてもよい。この場合、くさび部30a、30bとくさびホルダー部40a、40bのテーパの向きを逆にするとよい。則ち、くさびホルダー部は、試験片の端部に面する側が広く、前記フレーム部側に面する側が狭いテーパ状であり、軸方向に大略U字形又はコの字形であるとよい。
【0028】
続いて、本発明の第2の実施例を説明する。
図12では、(A)は本発明の第2の実施例を示す上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aの要部構成断面図、(B)は装着される試験片側から見た底面図又は平面図である。
図12において、前出の
図4と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aは、基部41、左右のテーパ部42a、雄ネジ部43a、試験片側開口部44、基部開口部46、くさび部当接面47、溝状開口部48、及び当接面連結部49を有している。くさび収容室はくさび部30aが収容される空間で、くさび部当接面47及び溝状開口部48が対応している。
【0029】
図13では、(A)は
図12に示す上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40a単体の全体写真、(B)はくさびホルダー部40aの要部斜視図である。
くさび部当接面47は、くさび部30aと当接すると共に、対向するくさび部当接面47が平面である。溝状開口部48は、くさび部30aを装着し、又は取り外すための開口部である。当接面連結部49は、溝状開口部48と反対側に設けられるもので、左右のくさび部当接面47と共に、くさびホルダー部40aの軸方向に対する断面方向に大略U字形又はコの字形であるとよい。
なお、本発明の第2の実施例において、下部筒状部50bに装着されるくさびホルダー部40bは、上部筒状部50aに装着されるくさびホルダー部40aと同様な形状をしているので、説明を省略する。
【0030】
図14は、本発明の第2の実施例の試験片把持具を、液体窒素に浸漬した状態と室温の状態とで、引張試験を実施して、強度データを得たもので、横軸は歪[%]、縦軸は応力[MPa]を示している。室温の状態では、歪1[%]で700[MPa]、歪2[%]で1450[MPa]となっている。他方、液体窒素に浸漬した状態では、歪1[%]で780[MPa]、歪1.9[%]で1500[MPa]となっている。
【0031】
本発明の第1の実施例では、テーパ部が貫通しているので、楔が効いた状態ではネジが広がり,摩擦抵抗が大きくなるという課題があった。本発明の第2の実施例によれば、テーパ部が溝形なので、本発明の第1の実施例と比較して、剛性が高く,試験後に楔が効いた状態でも取り外しが楽にできるという効果がある。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の極限環境中に用いる試験片把持具によれば、液体水素タンク等に用いる材料の評価に用いて好適である。この液体水素タンク用に評価された材料は、例えば航空機(水素燃焼航空機や電動化航空機)、トラック、バス等の商用自動車だけでなく個人用自動車にも適用できるが、これに限定されず、更に、船舶や液体水素所蔵基地タンクに用いて好適である。
【符号の説明】
【0034】
10 試験片
30a、30b くさび部
40a、40b くさびホルダー部
41 基部
42 (左右の)テーパ部
43a 雄ネジ部
44 (試料把持用)開口部
45 くさび収容室
46 基部開口部
47 (左右の)くさび部当接面
48 溝状開口部
49 当接面連結部
50a 上部筒状部
50b 下部筒状部
60a、60b ロックナット
70 フレーム