(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150439
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】レンチウイルス調製物の安定化のための緩衝液
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20241016BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/47 20060101ALI20241016BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K9/10
A61K47/22
A61K47/02
A61K47/26
C12N15/867 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/47
C12N5/10
A61P43/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024098399
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2021162668の分割
【原出願日】2016-11-18
(31)【優先権主張番号】62/257,444
(32)【優先日】2015-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】508049592
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティー オブ ぺンシルべニア
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】デブ,アミタバ
(72)【発明者】
【氏名】ネベリツキー,ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】スレプシュキン,ヴラディミル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】改善された形質導入能力および保存安定性を示すレンチウイルス調製物、ならびに標的細胞における異種遺伝子発現方法を提供する。
【解決手段】スルホン酸緩衝液、例えば、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)および3-モルホリノプロパン-1-スルホン酸(MOPS)、クエン酸ナトリウム緩衝液またはリン酸塩緩衝液を含むレンチウイルス調製物を提供する。本発明には更に、レンチウイルス精製の方法ならびにヒト細胞を形質導入する方法が包含される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターと、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)緩
衝液と、塩とを含む水性組成物。
【請求項2】
前記PIPES緩衝液が、約10mM~約50mMの濃度で存在する、請求項1に記載
の水性組成物。
【請求項3】
前記PIPES緩衝液が、約20mMの濃度で存在する、請求項2に記載の水性組成物
。
【請求項4】
pHが約6.0~約7.0である、請求項1から3のいずれか一項に記載の水性組成物
。
【請求項5】
pHが約6.5である、請求項4に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選
択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項7】
前記塩が塩化ナトリウムである、請求項6に記載の水性組成物。
【請求項8】
前記塩の濃度が約25mM~約150mMである、請求項1から7のいずれか一項に記
載の水性組成物。
【請求項9】
前記塩の濃度が約50mMである、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
前記塩の濃度が約75mMである、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項11】
20mM PIPESおよび75mM塩化ナトリウムを含み、約6.5のpHを有する
、請求項1から10のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項12】
炭水化物を更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項13】
前記炭水化物が非還元炭水化物である、請求項12に記載の水性組成物。
【請求項14】
前記非還元炭水化物が、スクロースおよびトレハロースからなる群から選択される、請
求項13に記載の水性組成物。
【請求項15】
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約1%~約10%の濃度で存在
する、請求項12から14のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項16】
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約2%~約5%の濃度で存在す
る、請求項15に記載の水性組成物。
【請求項17】
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約2.5%の濃度で存在する、
請求項16に記載の水性組成物。
【請求項18】
20mM PIPESと、75mM塩化ナトリウムと、前記水性組成物の体積当たりの
重量で2.5%のスクロースとを含み、約6.5のpHを有する、請求項12から17の
いずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項19】
モル浸透圧濃度が、約270mOsm/kg~約330mOsm/kgである、請求項
1から18のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項20】
モル浸透圧濃度が、約275mOsm/kg~約300mOsm/kgである、請求項
19に記載の水性組成物。
【請求項21】
モル浸透圧濃度が約285mOsm/kgである、請求項20に記載の水性組成物。
【請求項22】
前記レンチウイルスベクターが、約2×108TU/mL(1ミリリットル当たりの形
質導入単位)~約1×109TU/mLの濃度で存在する、請求項1から21のいずれか
一項に記載の水性組成物。
【請求項23】
前記レンチウイルスベクターが、約3×108TU/mL~約5×108TU/mLの
濃度で存在する、請求項22に記載の水性組成物
【請求項24】
前記レンチウイルスベクターが組換えヒト免疫不全ウイルスである、請求項1から23
のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項25】
前記レンチウイルスベクターが、水疱性口内炎ウイルスG(VSV-G)タンパク質を
含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項26】
前記VSV-Gタンパク質が、前記レンチウイルスベクターの表面に存在する、請求項
25に記載の水性組成物。
【請求項27】
前記レンチウイルスベクターが導入遺伝子を含む、請求項1から26のいずれか一項に
記載の水性組成物。
【請求項28】
前記導入遺伝子がタンパク質をコードする、請求項27に記載の水性組成物。
【請求項29】
前記タンパク質がキメラ抗原受容体(CAR)を含む、請求項28に記載の水性組成物
。
【請求項30】
前記CARが、N末端からC末端方向に、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび1
つまたは複数のシグナリングドメインを含む、請求項29に記載の水性組成物。
【請求項31】
前記シグナリングドメインが、1つまたは複数の一次シグナリングドメインを含む、請
求項30に記載の水性組成物。
【請求項32】
前記シグナリングドメインが、1つまたは複数の共刺激シグナリングドメインを含む、
請求項30または31に記載の水性組成物。
【請求項33】
前記1つまたは複数の一次シグナリングドメインの1つが、CD3-ゼータ刺激性ドメ
インを含む、請求項31に記載の水性組成物。
【請求項34】
前記共刺激シグナリングドメインの1つまたは複数が、CD27、CD28、4-1B
B(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、
HVEM、ICAM-1、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CDS、
CD7、CD287、LIGHT、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp80
、NKp30、NKp44、NKp46、CD160、B7-H3、およびCD83と特
異的に結合するリガンドからなる群から選択される共刺激タンパク質から選択される細胞
内ドメインを含む、請求項32または33に記載の水性組成物。
【請求項35】
前記共刺激シグナリングドメインの前記1つまたは複数が、4-1BB(CD137)
共刺激ドメインを含む、請求項34に記載の水性組成物。
【請求項36】
前記共刺激ドメインの前記1つまたは複数がCD28共刺激ドメインを含む、請求項3
4または35に記載の水性組成物。
【請求項37】
前記抗原結合ドメインがscFvである、請求項30から36のいずれか一項に記載の
水性組成物。
【請求項38】
前記抗原結合ドメインが、CD19;CD123;CD22;CD30;CD171;
CS-1;C型レクチン様分子-1;CD33;表皮増殖因子受容体変異体III(EG
FRvIII);ガングリオシドG2(GD2);ガングリオシドGD3;TNF受容体
ファミリーメンバーB細胞成熟(BCMA);Tn抗原((Tn Ag)または(Gal
NAcα-Ser/Thr));前立腺特異的膜抗原(PSMA);受容体チロシンキナ
ーゼ様オーファン受容体1(ROR1);Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3);腫
瘍関連糖タンパク質72(TAG72);CD38;CD44v6;癌胎児性抗原(CE
A);上皮細胞接着分子(EPCAM);B7H3(CD276);KIT(CD117
);インターロイキン-13受容体サブユニットアルファ-2;メソテリン(mesot
helin);インターロイキン11受容体アルファ(IL-11Ra);前立腺幹細胞
抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21;血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2
);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体ベータ(PDGFR-ベー
タ);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);CD20;葉酸受容体アルファ;
受容体チロシン-プロテインキナーゼERBB2(Her2/neu);ムチン1、細胞
表面会合(MUC1);表皮増殖因子受容体(EGFR);神経細胞接着分子(NCAM
);プロスターゼ;前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);延長因子2変異型(ELF2
M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAP);インスリン様増
殖因子1受容体(IGF-I受容体);炭酸脱水酵素IX(CAIX);プロテアソーム
(プロソーム、マクロペイン)サブユニット、ベータ型、9(LMP2);糖タンパク質
100(gp100);切断点クラスター領域(BCR)およびアベルソンマウス白血病
ウイルス癌遺伝子ホモログ1(Abl)からなる癌遺伝子融合タンパク質(bcr-ab
l);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリル
ルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3;トランスグルタミナーゼ5(TGS
5);高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-GD2ガングリオシド
(OAcGD2);葉酸受容体ベータ;腫瘍内皮マーカー1(TEM1/CD248);
腫瘍内皮マーカー7関連(TEM7R);クラウディン(claudin)6(CLDN
6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役受容体クラスCグルー
プ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム61(CX
ORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシア
ル酸;胎盤特異的1(PLAC1);グロボ(globo)Hグリコセラミド(Glob
oH)の六糖部分;乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン(uroplaki
n)2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受
容体ベータ3(ADRB3);パンネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役受容体
20(GPR20);リンパ球抗原6複合体、座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2
(OR51E2);TCRガンマ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウ
ィルムス腫瘍タンパク質(WT1);がん/精巣抗原1(NY-ESO-1);がん/精
巣抗原2(LAGE-1a);黒色腫関連抗原1(MAGE-A1);ETS転座変異体
遺伝子6、染色体12p上に位置(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA1
7);X抗原ファミリー、メンバー1A(XAGE1);アンギオポエチン結合性細胞表
面受容体2(Tie2);黒色腫がん精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫がん精
巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパク質p53(p53)
;p53突然変異体;プロステイン;サバイビン(surviving);テロメラーゼ
;前立腺癌腫瘍抗原-1、T細胞により認識される黒色腫抗原1;ラット肉腫(Ras)
突然変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシ
スの黒色腫阻害因子(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMP
RSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼV(
NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体
;サイクリンB1;v-mycトリ骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子神経芽腫由来ホモログ(
MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナーゼ関連タン
パク質2(TRP-2);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC
結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様、T細胞により認識される扁平上皮細胞癌抗
原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロ
シン結合タンパク質sp32(OY-TES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキ
ナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫、X切
断点2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス1(RU1
);腎臓ユビキタス2(RU2);レグメイン(legumain);ヒトパピローマウ
イルスE6(HPV E6);ヒトパピローマウイルスE7(HPV E7);腸カルボ
キシルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2突然変異型(mut hsp70-
2);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LA
IR1);IgA受容体(FCARまたはCD89)のFc断片;白血球免疫グロブリン
様受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメ
ンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLE
C12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモ
ン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3
);Fc受容体様5(FCRL5);および免疫グロブリンラムダ様ポリペプチド1(I
GLL1)からなる群から選択される抗原に結合する、請求項30から37のいずれか一
項に記載の水性組成物。
【請求項39】
前記抗原結合ドメインが、CD19、メソテリンまたはCD123と結合する、請求項
38に記載の水性組成物。
【請求項40】
前記CARが、抗CD19抗体またはその断片、4-1BB(CD137)膜貫通ドメ
インおよびCD3-ゼータシグナリングドメインを含む、請求項29から39のいずれか
一項に記載の水性組成物。
【請求項41】
ヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)、ウシ血清ア
ルブミン(BSA)およびリポタンパク質からなる群から選択される1つまたは複数のタ
ンパク質を含まない、請求項1から40のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項42】
HSA、rHSA、BSAおよびリポタンパク質を含まない、請求項41に記載の水性
組成物。
【請求項43】
前記レンチウイルスベクターが、血清の非存在下で培養された細胞において産生される
、請求項1から42のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項44】
前記レンチウイルスベクターが、動的光散乱(DLS)で測定したとき、100±25
nmの流体力学半径により特徴づけられる、請求項1から43のいずれか一項に記載の水
性組成物。
【請求項45】
前記レンチウイルスベクターが、25℃~55℃の温度範囲内で、100±25nmの
前記流体力学半径を維持する、請求項44に記載の水性組成物。
【請求項46】
前記レンチウイルスベクターが、10%~25%の多分散性により特徴づけられる、請
求項1から45のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項47】
前記レンチウイルスベクターが、25℃~55℃の温度範囲内で、10%~25%の前
記多分散性を維持する、請求項46に記載の水性組成物。
【請求項48】
前記レンチウイルスベクターの3回の凍結/融解サイクルの後の濃度が、前記凍結/融
解サイクル前の前記水性組成物中の前記レンチウイルスベクターの濃度に対して約70%
~約100%で維持され、前記凍結/融解サイクルがそれぞれ、前記水性組成物を凍結さ
せ、その後前記水性組成物を室温で融解させることを含む、請求項1から47のいずれか
一項に記載の水性組成物。
【請求項49】
前記レンチウイルスベクターが、6回の前記凍結/融解サイクルの後、約70%~約1
00%の前記濃度を維持する、請求項48に記載の水性組成物。
【請求項50】
前記レンチウイルスベクターが、9回の前記凍結/融解サイクルの後、約70%~約1
00%後の前記濃度を維持する、請求項49に記載の水性組成物。
【請求項51】
レンチウイルスベクターと、リン酸塩緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、2-(N-
モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、3-モルホリノプロパン-1-スルホ
ン酸(MOPS)緩衝液からなる群から選択される緩衝液と、塩とを含む水性組成物。
【請求項52】
前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選
択される、請求項51に記載の水性組成物。
【請求項53】
スクロースおよびトレハロースからなる群から選択される非還元炭水化物を更に含む、
請求項51または52に記載の水性組成物。
【請求項54】
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、請求項1から53のいずれか一項に
記載の水性組成物をフィルターに通すことにより、微生物を実質的に含まない水性組成物
を生成することを含む方法。
【請求項55】
前記フィルターが複数の孔を含み、前記孔が約0.2μmの直径を有する、請求項54
に記載の方法。
【請求項56】
前記微生物を実質的に含まない水性組成物が、前記接触より前の前記水性組成物中の前
記レンチウイルスベクターの濃度に対して約80%の濃度で前記レンチウイルスベクター
を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、
a.請求項1から53のいずれか一項に記載の水性組成物を、複数の粒子を含む材料と
接触させることと、
b.前記材料中を流れた物質を、前記材料内に残留する物質から分離することにより、
前記レンチウイルスベクターが富化された水性組成物を生成することと、
を含む方法。
【請求項58】
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、請求項1から53のいずれか一項に
記載の水性組成物をヌクレアーゼと接触させることにより、混入ポリヌクレオチドを実質
的に含まない水性組成物を生成することを含む方法。
【請求項59】
細胞において導入遺伝子を発現させる方法であって、前記細胞を請求項1から53のい
ずれか一項に記載の水性組成物と接触させることを含む方法。
【請求項60】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記哺乳動物細胞がT細胞である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記T細胞がヒトT細胞である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記ヒトT細胞が、293T細胞、Jurkat T細胞または初代ヒトT細胞である
、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
請求項1から53のいずれか一項に記載の水性組成物と、添付文書とを含むキット。
【請求項65】
前記添付文書が、前記キットのユーザーに、請求項59~63のいずれか一項に記載の
方法に従って細胞において導入遺伝子を発現させるよう指示するものである、請求項64
に記載のキット。
【請求項66】
請求項65に記載の細胞の培養に使用できる試薬を更に含む、請求項65に記載のキッ
ト。
【請求項67】
導入遺伝子を任意に含むウイルスベクターを対象の細胞に送達する方法における、請求
項1から53のいずれか一項に記載の水性組成物の使用であって、前記方法が、前記対象
に前記組成物を投与することを含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された形質導入能力および保存安定性を示すレンチウイルス調製物、な
らびに標的細胞における異種遺伝子発現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療技術の進歩により、治療用ウイルスベクターの使用は、ますます有効なヒト
疾患の治療方法として代表的なものとなっている。ウイルスベクターの中で、遺伝子治療
用途に利用できるものはレンチウイルスベクターである。かかるベクターとしては、ヒト
免疫不全ウイルス-1(HIV-1)から誘導される再構築されたウイルスベクター系が
挙げられ、それは動物およびヒトの初代細胞または細胞系に目的遺伝子を導入できる。レ
ンチウイルスベクターのゲノムはRNAのコーディング鎖を含み、それは宿主細胞の細胞
質に入るとウイルス由来のリバーストランスクリプターゼによって、DNAに逆転写され
、DNAプレインテグレーション複合体が形成される。この複合体は、宿主細胞の核内に
輸送され、一部のウイルスDNAが宿主細胞ゲノムにその後組み込まれる。その次に、組
み込まれたDNAはタンパク質をコードするメッセンジャーRNAなどのRNAに転写さ
れ得、それは続く目的タンパク質の発現のために最終的に細胞質に輸送され得る。
【0003】
レンチウイルスベクターにより媒介される遺伝子発現は、持続的および安定的なタンパ
ク質産生に用いることができるが、その理由は、目的の遺伝子が宿主細胞のゲノムに組み
込まれ、それにより細胞分裂の際に複製されるからである。レンチウイルスベクターは、
細胞周期を通じて、非分裂細胞にも、活発に分裂を進行させている細胞と同様に、効果的
に感染できる。対照的に、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよび
古典的レトロウイルスベクターなどの他のウイルスベクターは、分裂細胞に感染できるだ
けである。レンチウイルスベクターにより媒介される目的遺伝子の慢性的発現が可能な組
織および細胞としては、とりわけ、脳、肝臓、筋細胞、網膜、造血幹細胞、髄間葉系幹細
胞およびマクロファージが挙げられる。
【0004】
レンチウイルスベクターの製造は、幾つかの課題によって、これまで不成功であったが
、その課題一つはベクターの低い安定性である。レンチウイルスベクター製造のための操
作は、生成、精製、保存および遺伝子導入の適用など、幾つかのステップを含む(Carmo
et al., J. Gene Med. 11:670-678, 2009)。レンチウイルスベクターは、これらの工程
の間に失活を受けやすく、それにより最終的にベクター調製物の品質や性能の低下が生じ
得る。以前の研究において、ウイルスベクターが不活性化される機構の一つとして、ウイ
ルスの逆転写能力の喪失が挙げられることが示されている(Carmo et al., Hum. Gene Th
er. 20:1168-76, 2009およびCarmo et al., J. Gene Med. 10:383-391, 2008)。更に、
レンチウイルスベクター調製物を安定化させ、感染性の喪失をもたらし得る不可逆的凝集
を防止するための方法が依然として必要とされている。更に、レンチウイルスベクターの
精製の間、安定化成分がレンチウイルス調製物から除去されるため、ベクターがますます
不安定となり得る。したがって、精製プロセス全体にわたってベクターの安定性を保持す
るレンチウイルスの製剤も必要とされている。
【0005】
精製および保存の間、ベクターは通常4℃で保存される(Rodrigues et al., J. Biote
chnol. 127:520-541, 2007)。レンチウイルスベクターには、ヒト血清アルブミン(HS
A)などの安定化成分が更に必要であることが報告されている(Carmo et al., J. Gene
Med. 11:670-678, 2009)。これは、単に外因性タンパク質を添加するだけで細胞培養上
清と同等の安定性が回復するγ-レトロウイルスとは正反対のものである。リポタンパク
質はコレステロール、ホスホリピドなどの幾つかの脂質およびタンパク質から構成される
複雑な構造を有する。(Olson, J. Nutr. 128:S439-S443, 1998)。それらは、HSAと
共に血液中の脂質トランスポータとして作用する。リポタンパク質-HSA構造は、レン
チウイルスベクターの膜周辺で保護的な配置を形成すると考えられている(Carmo et al.
, J. Gene Med. 11:670-678, 2009)。またアルブミンが強固に細胞表面と会合すること
が知られているため(Dziarski et al., J. Biol. Chem. 269:20431-20436, 1994)、こ
れらのリポタンパク質/HSA複合体は、細胞膜と同様にベクターの膜とも会合できる。
この会合により、それらの構造が保護され、HSA単独より効率的に立体配置の変化を防
止できる。
【0006】
保存の間の安定性を確保するため、感染性ウイルスベクターのストックは通常、それら
の複雑さゆえ、低温で(例えば、-80℃で)保存されている。脂質エンベロープを有す
るウイルスは-60℃を下回る温度で十分に生存して、「ウイルス感染性の保持が必須で
ない」場合にのみ、-20℃または4℃での保存が使われなければならないだけであるこ
とが示唆された(Gould et al., Mol. Biotechnol. 13:57-66, 1999)。他の研究では、
特定のウイルスベクターは、感染性を保持するために-70℃以下で保存しなければなら
ないと結論している(Harper, Virology Ed. BIOS Scientific Publishers Limited, Oxf
ord, UK, 1993)。典型的には、レンチウイルスベクター調製物はウイルスゲノムによっ
てコードされる、脂質二重層膜に埋め込まれたエンベロープタンパクなどのタンパク質を
含む。低温では、タンパク質は変性に影響されやすくなり、また脂質二重層も構造的な一
体性を喪失する傾向を示し得る。したがって、低温で、長期間にわたりウイルスベクター
調製物の安定性を向上させることができるレンチウイルス製剤が必要とされている。
【0007】
ウイルスベクターの凍結および融解を反復させると、形質導入の能力が低下し得るため
、レンチウイルスベクターは、長期間の保存のためにかかる低温にて維持されることが多
い。このように、複数の凍結/融解サイクル後にも感染性が保持されるレンチウイルス調
製物が依然として必要とされている。
【0008】
エクスビボでの適用(例えば、キメラ抗原受容体T(CART)細胞療法)に有用なレ
ンチウイルスベクターは、精製および保存の間の安定性に加えて、生理的に適切な温度(
例えば、37℃)、すなわちレンチウイルスベクターが宿主細胞と共にインキュベートさ
れて形質導入が促進され得る温度において、好適な安定性を保持するであろう。したがっ
て、遺伝子導入イベントの間にウイルスベクターの構造一体性がエクスビボで維持される
、レンチウイルス調製物が必要とされている。
【0009】
上記の生物学的考慮に加え、ウイルスベクターの安定性を保持するレンチウイルスベク
ター調製物は、更に商業的な展望からも有用であり得る。組換えレンチウイルスベクター
が非常に長い期間低温で保存されるとき、または、組換えベクターが実験的使用または製
造操作の間、度重なる凍結/融解サイクルを受けるとき、生物学的活性は著しく低下する
。これにより感染性粒子の回収率が低下し、更に商品コスト(COG)も上昇する。加え
て、ベクター粒子が活性を失いやすいと、前臨床または臨床試験の結果も不正確なものと
なり得る。臨床状況では、超低温(例えば、-60℃以下)での保存装置の使用は費用負
担を増加させ、病院および他のポイントオブケア施設での物流に関する問題を生じさせる
。通常、これらの施設は、処置を行うための超低温凍結装置を備えていると考えられる。
したがって、効率的な製造操作および現実的な低温保存方法を促進するための、ベクター
安定性が保持される組換えレンチウイルスベクター調製物が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、レンチウイルスベクターと、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PI
PES)緩衝液と、塩とをそれぞれ含む水性組成物を提供する。
【0011】
様々な実施形態では、PIPES緩衝液は、約10~約50mM(例えば、約20mM
)の濃度で存在し、水性組成物のpHは、約6.0~約7.0(例えば、約6.5)であ
り、および/または、塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムか
らなる群から選択される。水性組成物中の塩の濃度は、例えば、約25mM~約150m
M(例えば、約50mMまたは約75mM)であり得る。具体的実施形態では、水性組成
物は、レンチウイルスベクター、20mM PIPESおよび75mM塩化ナトリウムを
含み、約6.5のpHを有する。
【0012】
水性組成物は、炭水化物、例えば、スクロースまたはトレハロースなどの非還元炭水化
物を更に含んでもよい。様々な実施形態では、炭水化物は、水性組成物の体積当たりの重
量で、約1%~約10%(例えば、約2%~約5%、または約2.5%)の濃度で存在す
る。具体的実施形態では、水性組成物は、レンチウイルスベクター、20mM PIPE
S、75mM塩化ナトリウムおよび水性組成物の体積当たりの重量で2.5%のスクロー
スを含み、水性組成物は約6.5のpHを有する。
【0013】
様々な実施形態では、水性組成物のモル浸透圧濃度は、約270mOsm/kg~約3
30mOsm/kg(例えば、約275mOsm/kg~約300mOsm/kg、また
は約285mOsm/kg)であり、および/または、レンチウイルスベクターは、約2
×108TU/mL(1ミリリットル当たりの形質導入単位)~約1×109TU/mL
(例えば、約3×108TU/mL~約5×108TU/mL)の濃度で存在する。
【0014】
レンチウイルスベクターは、組換えヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV-1)であ
ってもよく、任意に、水疱性口内炎ウイルスG(VSV-G)タンパク質(例えば、レン
チウイルスベクターの表面に存在する)を含んでもよい。更にまた、レンチウイルスベク
ターは、例えばタンパク質(例えば、1つまたは複数のキメラ抗原受容体(CAR))を
コードする導入遺伝子など、1つまたは複数の導入遺伝子を含んでもよい。
【0015】
様々な実施形態では、CARは各々、N末端からC末端方向に、抗原結合ドメイン、膜
貫通ドメインおよび1つまたは複数のシグナリングドメインを含む。シグナリングドメイ
ンは、1つもしくは複数の一次シグナリングドメイン(例えば、CD3-ゼータ刺激性ド
メイン)および/または1つもしくは複数の共刺激シグナリングドメイン(例えば、CD
27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40
、ICOS、BAFFR、HVEM、ICAM-1、リンパ球機能関連抗原-1(LFA
-1)、CD2、CDS、CD7、CD287、LIGHT、NKG2C、NKG2D、
SLAMF7、NKp80、NKp30、NKp44、NKp46、CD160、B7-
H3からなる群から選択される共刺激タンパク質から選択される細胞内ドメイン、および
CD83と特異的に結合するリガンド)を含んでもよい。
【0016】
CARの抗原結合ドメインは、任意にscFvであってもよく、またはそれを含んでも
よい。更にまた、抗原結合ドメインは、CD19;CD123;CD22;CD30;C
D171;CS-1;C型レクチン様分子-1;CD33;表皮増殖因子受容体変異体I
II(EGFRvIII);ガングリオシドG2(GD2);ガングリオシドGD3;T
NF受容体ファミリーメンバーB細胞成熟(BCMA);Tn抗原((Tn Ag)また
は(GalNAcα-Ser/Thr));前立腺特異的膜抗原(PSMA);受容体チ
ロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1);Fms様チロシンキナーゼ3(FL
T3);腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72);CD38;CD44v6;癌胎児性
抗原(CEA);上皮細胞接着分子(EPCAM);B7H3(CD276);KIT(
CD117);インターロイキン-13受容体サブユニットアルファ-2;メソテリン(
mesothelin);インターロイキン11受容体アルファ(IL-11Ra);前
立腺幹細胞抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21;血管内皮増殖因子受容体2(V
EGFR2);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体ベータ(PDG
FR-ベータ);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);CD20;葉酸受容体
アルファ;受容体チロシン-プロテインキナーゼERBB2(Her2/neu);ムチ
ン1、細胞表面会合(MUC1);表皮増殖因子受容体(EGFR);神経細胞接着分子
(NCAM);プロスターゼ;前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);延長因子2変異型
(ELF2M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAP);イン
スリン様増殖因子1受容体(IGF-I受容体);炭酸脱水酵素IX(CAIX);プロ
テアソーム(プロソーム、マクロペイン)サブユニット、ベータ型、9(LMP2);糖
タンパク質100(gp100);切断点クラスター領域(BCR)およびアベルソンマ
ウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1(Abl)からなる癌遺伝子融合タンパク質(b
cr-abl);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1
;シアリルルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3;トランスグルタミナーゼ
5(TGS5);高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-GD2ガン
グリオシド(OAcGD2);葉酸受容体ベータ;腫瘍内皮マーカー1(TEM1/CD
248);腫瘍内皮マーカー7関連(TEM7R);クラウディン(claudin)6
(CLDN6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役受容体クラ
スCグループ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム
61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)
;ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);グロボ(globo)Hグリコセラミド
(GloboH)の六糖部分;乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン(uro
plakin)2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アド
レナリン受容体ベータ3(ADRB3);パンネキシン3(PANX3);Gタンパク質
共役受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合体;座K9(LY6K);嗅覚受容
体51E2(OR51E2);TCRガンマ代替リーディングフレームタンパク質(TA
RP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)
;がん/精巣抗原2(LAGE-1a);黒色腫関連抗原1(MAGE-A1);ETS
転座変異体遺伝子6、染色体12p上に位置(ETV6-AML);精子タンパク質17
(SPA17);X抗原ファミリー、メンバー1A(XAGE1);アンギオポエチン結
合性細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫がん精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒
色腫がん精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパク質p53
(p53);p53突然変異体;プロステイン;サバイビン(surviving);テ
ロメラーゼ;前立腺癌腫瘍抗原-1、T細胞により認識される黒色腫抗原1;ラット肉腫
(Ras)突然変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;
アポトーシスの黒色腫阻害因子(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン
2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェ
ラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロ
ゲン受容体;サイクリンB1;v-mycトリ骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子神経芽腫由来
ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナー
ゼ関連タンパク質2(TRP-2);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);
CCCTC結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様、T細胞により認識される扁平上
皮細胞癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);
プロアクロシン結合タンパク質sp32(OY-TES1);リンパ球特異的タンパク質
チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜
肉腫、X切断点2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス
1(RU1);腎臓ユビキタス2(RU2);レグメイン(legumain);ヒトパ
ピローマウイルスE6(HPV E6);ヒトパピローマウイルスE7(HPV E7)
;腸カルボキシルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2突然変異型(mut h
sp70-2);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容
体1(LAIR1);IgA受容体(FCARまたはCD89)のFc断片;白血球免疫
グロブリン様受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様フ
ァミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバー
A(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチ
ン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3
(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);および免疫グロブリンガンマ様ポリペプ
チド1(IGLL1)からなる群から選択される抗原と任意に結合できる。
【0017】
具体的実施形態では、抗原結合ドメインは、CD19、メソテリンまたはCD123と
結合する。更なる具体的実施形態では、CARは、抗CD19抗体またはその断片、4-
1BB(CD137)膜貫通ドメインおよびCD3-ゼータシグナリングドメインを含む
。
【0018】
様々な実施形態では、水性組成物は、1つまたは複数(例えば、全て)のタンパク質、
例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)、ウシ
血清アルブミン(BSA)およびリポタンパク質からなる群から選択されるタンパク質の
1つまたは複数(例えば、全て)を含まず、ならびに/あるいはレンチウイルスベクター
は、血清の非存在下で培養された細胞において産生される。
【0019】
特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、動的光散乱(DLS)で測定したと
き、100±25nmの流体力学半径により特徴づけられる。例えば、レンチウイルスベ
クターは、25℃~55℃の温度範囲内で、100±25nmの流体力学半径を維持でき
る。
【0020】
特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、10%~25%の多分散性により特
徴づけられる。例えば、レンチウイルスベクターは、25℃~55℃の温度範囲内で、1
0%~25%の多分散性を維持できる。
【0021】
様々な実施形態では、レンチウイルスベクターは、3、6または9回の、水性組成物を
凍結させ、その後水性組成物を室温で融解させることを含む凍結/融解サイクルの後の濃
度が、凍結/融解サイクル前の水性組成物中のレンチウイルスベクター濃度に対して約7
0%~約100%で維持される。
【0022】
本発明はまた、各々、レンチウイルスベクターと、リン酸塩緩衝液、クエン酸ナトリウ
ム緩衝液、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、3-モルホリノ
プロパン-1-スルホン酸(MOPS)緩衝液からなる群から選択される緩衝液と、塩(
例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カルシウム)とを含む水性組成物
を提供する。これらの組成物は、炭水化物、例えば、非還元炭水化物(例えば、スクロー
スまたはトレハロース)を更に含んでもよい。
【0023】
本発明には、本明細書に記載の水性組成物を乾燥または凍結乾燥することによって調製
される、乾燥または凍結乾燥された組成物、ならびにかかる乾燥または凍結乾燥された組
成物を本明細書に記載の緩衝液(または別の標準的な投与用ビヒクル)中で再構成するこ
とによって調製される水性組成物が更に含まれる。
【0024】
本発明にはまた、レンチウイルスベクターを精製する方法も含まれる。これらの方法で
は、本明細書に記載の水性組成物をフィルターに通すことにより、微生物を実質的に含ま
ない水性組成物を製造する。様々な実施形態では、フィルターは、複数の孔、例えば、約
0.2μmの直径を有する孔を含む。様々な実施形態では、微生物を実質的に含まない水
性組成物は、接触より前の水性組成物中のレンチウイルスベクターの濃度に対して約80
%の濃度でレンチウイルスベクターを含む。
【0025】
本発明はまた、レンチウイルスベクターを精製する方法であって、(a)本明細書に記
載の水性組成物を、複数の粒子を含む材料と接触させることと、(b)材料中を流れた物
質を、材料内に残留する物質から分離することにより、レンチウイルスベクターが富化さ
れた水性組成物を生成することとを含む方法を提供する。
【0026】
更に本発明は、レンチウイルスベクターを精製する方法であって、本明細書に記載の水
性組成物をヌクレアーゼと接触させることにより、混入ポリヌクレオチドを実質的に含ま
ない水性組成物を生成することを含む方法を提供する。
【0027】
本発明ではまた、細胞において1つまたは複数の導入遺伝子を発現させる方法であって
、細胞を本明細書に記載の水性組成物と接触させることを含む方法が提供される。様々な
実施形態では、細胞は哺乳動物細胞(例えばヒトT細胞などのT細胞)である。特定の実
施形態では、細胞は293T細胞、Jurkat T細胞またはヒト初代T細胞である。
【0028】
本発明にはまた、本明細書に記載の水性組成物と、任意による添付文書、例えば、キッ
トのユーザーに、本明細書に記載の方法に従って細胞において導入遺伝子を発現させるよ
う指示する添付文書とを含むキットが含まれる。キットは、本明細書に記載のような細胞
培養に使用できる1つまたは複数の試薬を任意に更に含んでもよい。
【0029】
本発明には更に、導入遺伝子を任意に含むウイルスベクターを対象の細胞に送達する方
法における、本明細書に記載の水性組成物の使用であって、当該方法が、対象に組成物を
投与することを含む、使用が含まれる。本発明にはまた、例えば、本明細書に記載の疾患
もしくは症状を予防もしくは処置する方法、および/または、例えば、本明細書に記載の
導入遺伝子(例えば、CARSをコードする遺伝子)を送達する方法が含まれ、また本明
細書に記載の組成物の投与を含むこともできる。
【0030】
定義
本明細書で用いられる「約」という用語は、記載される値の大小10%以内にある値を
指す。例えば、「約50mM」の値は、45mM~55mMの濃度を表す。
【0031】
本明細書で用いられる「緩衝液」という用語は、弱酸とその共役塩基との、または弱塩
基とその共役酸との混合物を指す。例えば、本明細書で用いられる「1,4-ピペラジン
ジエタンスルホン酸緩衝液」は、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸および1,4-
ピペラジンジエタンスルホン酸アニオン(例えば、1,4-ピペラジンジエタンスルホン
酸ナトリウム)を含む混合物を指す。同様に、本明細書で用いられる「クエン酸ナトリウ
ム緩衝液」は、クエン酸ナトリウムおよびその共役酸(クエン酸)を含む混合物を指す。
弱酸とその共役塩基の間で定められる化学平衡のため、緩衝液を含む溶液は、溶液に少量
の酸または塩基を添加してもpHの突然の変化は生じにくい。
【0032】
本明細書で用いられる「混入ポリヌクレオチド」という用語は、レンチウイルスベクタ
ーに由来しないポリヌクレオチドを指す。混入ポリヌクレオチドとしては、例えば、レン
チウイルスベクターの導入遺伝子または他のコンポーネント中に含まれない哺乳動物染色
体DNA(例えば、ヒトDNA)などの、レンチウイルスベクターが産生される細胞に由
来する非レンチウイルスポリヌクレオチドが挙げられる。
【0033】
本明細書で用いられる「凍結/融解サイクル」という用語は、液体混合物(例えば、水
溶液または懸濁液)を、混合物が凍結するまでその凍結点以下の温度に曝露し、それに続
き、その凍結点より高い温度で混合物を融解させることを指す。凍結ステップは例えば、
温度が約-80℃~約-20℃の環境に、混合物を置くことによって実施できる。混合物
は、融解の前に、例えば、1~数日、数週間、数カ月または数年の間凍結させたままであ
ることができる。融解ステップは、混合物を約2℃~約8℃の温度条件に曝露するか、ま
たは、混合物を室温(例えば、実験室の周囲温度または約25℃)で保存することによっ
て実施できる。あるいは、水浴(例えば、37℃で)を用いて融解を行うこともできる。
【0034】
本明細書で用いられる「流体力学半径」という用語は、粒子の拡散の特徴から推定され
る溶液の粒子の見かけの半径(nmのRh)を指す。ウイルス粒子の流体力学半径は、水
溶液中でのウイルス粒子の拡散速度、ならびに巨大分子のゲル中での粒子の移動能力を表
す1つの要因である。ウイルス粒子の流体力学半径は一部には、粒子の各コンポーネント
の質量および分子構造、ならびにその水和状態によって決定される。ウイルス粒子の流体
力学半径を決定する方法は当技術分野で周知であり、動的光散乱およびサイズ排除クロマ
トグラフィーの使用を含む。
【0035】
本明細書で用いられる、「非還元炭水化物」という用語は、アルデヒドとの化学平衡状
態で存在しない炭水化物であって、そのため銀(Ag+)および銅(Cu2+)などの遷
移金属カチオンによってカルボン酸に酸化される能力を欠如するものを指す。典型的な非
還元炭水化物としては、スクロース、トレハロースおよびパラチニトールなどの二糖、ラ
フィノースおよびメレチトースなどの三糖、ならびにスタキオースなどの四糖が挙げられ
るが、これらに限定されない。非還元炭水化物には更に、ソルビトール、マンニトール、
エリトリトールおよびキシリトールなどの単糖誘導体、ラクチトールおよびマルチトール
などの二糖誘導体、グルコン酸やグルコン酸γ-ラクトンなどのアルドン酸およびそれら
のラクトン、リバラ酸(ribaraic acid)、アラビナル酸およびガラクタル酸などのアル
ダル酸およびそれらのラクトン、グルクロン酸、ガラクツロン酸およびマンヌロン酸など
のウロン酸、トレハロースオクタアセテート、オクタアセチルスクロースおよびセロビオ
ースオクタアセテートなどのエステル誘導体、ならびに、水酸基がO-アルキル化された
エーテル誘導体が含まれる。非還元炭水化物には、DまたはL型の立体化学的配向を有す
るものが含まれる。
【0036】
本明細書で用いられる「モル浸透圧濃度」という用語は、水溶液中に溶解した溶質粒子
の浸透圧の尺度を指す。溶質粒子には、両イオンならびに非イオン化分子が含まれる。モ
ル浸透圧濃度は、1kgの溶媒(すなわち水)に溶解させた浸透活性粒子の濃度(すなわ
ちオズモル)で表される。本明細書においては、モル浸透圧濃度を1kgの水当たりのミ
リオズモル(mOsm/kg)を単位として表す。
【0037】
本明細書で用いられる、「体積当たりの重量パーセント」または「%w/v」という用
語は、ある単一の成分を含有する混合液の総体積に対する、当該成分の重量(グラム)パ
ーセンテージを表す。例えば、8mLの総体積中の500mgの成分は6.25%w/v
であり、5mLの総体積中の500mgの成分は10%w/vである。
【0038】
本明細書で用いられる、「多分散性」という用語は、サンプル内における粒子(例えば
、レンチウイルス粒子)のサイズの均一性の程度を指す。高い多分散性は、低い均一性を
示し、また低い多分散性は高いレベルの均一性を示す。例えば、均一性のレベルが高いと
きは、レンチウイルス粒子は同じサイズに近いものと考えることができ、ゆえに単分散で
ある。当業者により理解されるように、多分散性が低い程、均一性のレベルは向上する。
ゆえに、低い多分散性は高いレベルの均一性を示す。例えば、15%の多分散性を有する
製剤は、10%の多分散性を有する製剤より低い均一性を有する。均一性のレベルが低い
ときは、粒子集団は、著しく異なるサイズを含むと考えることができ、ゆえに多分散系と
なる。
【0039】
本明細書で用いられる「scFv」という用語は、抗体由来の重鎖および軽鎖の可変ド
メインが連結して1つの鎖を形成した単鎖Fv抗体を指す。scFv断片は、抗体軽鎖の
可変領域(VL)(例えば、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3)
と、リンカーによって分離された抗体重鎖の可変領域(VH)(例えば、CDR-H1、
CDR-H2および/またはCDR-H3)を含む単一ポリペプチド鎖を含む。scFv
断片のVLおよびVH領域を連結するリンカーは、タンパク質を構成するアミノ酸からな
るペプチドリンカーであってもよい。他のリンカーを用いて、scFv断片のタンパク質
分解抵抗性を増加させ(例えば、D-アミノ酸含有リンカー)、scFv断片の溶解性を
向上させ(例えば、ポリエチレングリコール含有リンカーや、グリシンおよびセリン残基
の繰り返しを含むポリペプチドなどの親水性リンカー)、分子の生物物理学的安定性を改
善し(例えば、分子内であるか分子間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む
リンカー)、またはscFv断片(例えば、グリコシル化部位を含むリンカー)の免疫原
性を低下させてもよい。ScFv分子は、当技術分野において公知であり、例えば米国特
許第5,892,019号明細書、Flo et al. (Gene 77:51, 1989)、Bird et al. (Scie
nce 242:423, 1988)、Pantoliano et al. (Biochemistry 30:10117, 1991)、Milenic et
al. (Cancer Research 51:6363, 1991)、およびTakkinen et al. (Protein Engineering
4:837, 1991)に記載されている。scFv分子のVLおよびVHドメインは、1つまたは
複数の抗体分子に由来してもよい。当業者であれば、本発明のscFv分子の可変部は、
それらが由来する抗体分子とアミノ酸配列が異なるように修飾され得ることを理解するで
あろう。例えば、一実施形態では、(例えば、CDRおよび/またはフレームワークの残
基において)保存的置換またはアミノ酸残基の変更をもたらすヌクレオチドまたはアミノ
酸の置換を行ってもよい。あるいは、またはそれに加えて、CDRのアミノ酸残基を変異
させ、当分野で認識される技術を用いて抗原との結合を最適化する。ScFv断片は例え
ば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2011/084714号パンフレッ
トに記載されている。
【0040】
本明細書で用いられる、「特異的に結合する」および「結合する」という句は、タンパ
ク質および他の生体分子の不均一な集団内において、(例えば、特異的リガンドによって
)認識される特定のタンパク質の存在を決定する結合反応を指す。タンパク質と特異的に
結合するリガンド(例えば、タンパク質、プロテオグリカンまたはグリコサミノグリカン
)は、500nM未満のKDでタンパク質と結合する。例えば、タンパク質と特異的に結
合するリガンドは、最高500nM(例えば、1pMから500nMの間)のKDでタン
パク質と結合する。タンパク質またはそのドメインに対する特異的結合を示さないリガン
ドは、特定のタンパク質またはそのドメインに対して500nM超(例えば、600nM
、700nM、800nM、900nM、1μM、100μM、500μMまたは1mM
超)のKDを示す。様々なアッセイフォーマットを用いて、特定のタンパク質に対するリ
ガンドの親和性を測定することができる。例えば、固相ELISAアッセイは、標的タン
パク質に特異的に結合するリガンドを同定するためにルーチン的に用いられる。タンパク
質の特異的結合の測定に使用できるアッセイフォーマットおよび条件の説明に関しては、
例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press
, New York (1988)およびHarlow & Lane, Using Antibodies, A Laboratory Manual, Col
d Spring Harbor Press, New York (1999)を参照。
【0041】
本明細書で用いられる、「導入遺伝子」という用語は、導入遺伝子が導入される細胞に
おいて天然には発現しないタンパク質または機能性RNA生成物をコードする核酸配列を
指すこともある。あるいは、導入遺伝子は、導入遺伝子が導入される細胞に固有の遺伝子
と相同でもよいが、標的細胞のゲノムに挿入されることにより、挿入される細胞のゲノム
を変化させるような設計がなされているものである。例えば、導入遺伝子は、標的細胞の
固有の遺伝子に相同でもよいが、標的細胞のゲノム内の、天然の遺伝子の位置とは異なる
位置に挿入されるものである。
【0042】
本明細書で用いられる「水疱性口内炎ウイルスGタンパク質」または「VSV-Gタン
パク質」という用語は、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質に対して実質的な相同性を
有する単離されたポリペプチドを指す。例えばあるポリペプチドが野生型VSV-Gタン
パク質の膜融合特性を示す場合、ポリペプチドはVSV-Gタンパク質と実質的な相同性
を有する。VSV-Gタンパク質は、そのポリペプチドが核酸-脂質粒子と会合し、トラ
ンスフェクションを促進する能力を保持する限り、例えば、全長VSV-Gタンパク質ま
たはその断片を含むポリペプチドであってもよい。
【0043】
本明細書で用いられる、「ウイルスタイター」という用語は、標的細胞における導入遺
伝子産物の産生をもたらす、感染性のベクター粒子または「形質導入ユニット」の数を指
す。ウイルスタイターは、参照により両方の開示内容が本明細書に組み込まれるXiao et
al., Exp. Neurobiol. 144:113-124, 1997またはFisher et al., J. Virol. 70:520-532,
1996に記載のアッセイなどの、機能的アッセイにより測定できる。あるいは、ウイルス
タイターは、宿主細胞ゲノムに取り込まれたウイルスDNAの量を、例えば、当技術分野
で公知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて求めることにより測定することがで
きる。
【0044】
本明細書で用いられる「ウイルスベクター」という用語は、核酸分子を宿主に導入する
能力を有するウイルス粒子を意味する。「レンチウイルスベクター」には、HIV-1に
由来する配列を含むウイルスベクターが含まれる。外因性遺伝子を保持するレンチウイル
スベクターは、特定の細胞系を用い、パッケージングプラスミドの補助のもと、ウイルス
パッケージングを経て感染性ウイルス粒子にパッケージングされる。感染性ウイルス粒子
は細胞に感染し、外因性遺伝子の発現をもたらす。「組換え」ウイルスベクターとは、遺
伝子組換え技術により構築されるウイルスベクターを指す。遺伝子組換えウイルスベクタ
ーは、当技術分野で公知の方法を使用し、例えば、ウイルスゲノムをコードする核酸をパ
ッケージング細胞系に導入し、その後新規にパッケージングされたウイルス粒子を単離す
ることにより構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】レンチウイルス調製物を安定化できる緩衝液の同定のためのストラテジーを図解するフローチャートである。緩衝液の同定のための段階的アプローチ(左)は、動的光散乱(DLS)などの安定性アッセイを行い、レンチウイルスベクターで形質導入された細胞のレンチウイルスタイター(形質導入単位はTU)を測定し、任意に、1回もしくは複数回の凍結/融解(F/T)サイクルの後、広範囲にわたる緩衝液、塩およびpH条件でサンプリングを行い、保存安定性および形質導入能力を最適に促進する条件を段階的に選択するものである。並列アプローチ(右)では、様々なレンチウイルス調製条件を同時にサンプリングし、続いて、例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CART)への適用のために、最も効率的にレンチウイルスの凝集を防止し、感染性を保持する条件を選択する。
【
図2】様々な緩衝液および塩を含有し、pHが6.0~8.0の範囲を示すレンチウイルス調製物によって形質導入された細胞のレンチウイルスタイター(TU/mL)を示すグラフである。
【
図3】異なる流体力学半径分布を図解する一連のグラフである。単峰性の単分散分布(上)は、レンチウイルスモノマーである可能性が高い単一の種であることを特徴とする。単峰性の多分散分布(中央)は、典型的には、動的光散乱によって分離できないことが多い複数の種を示して、単峰性の単分散分布に対してレンチウイルス粒子の凝集性が増加していることを表し得る。多峰性の多分散分布(下)は、動的光散乱により分離できる、複数のレンチウイルス粒子の凝集種を示す。
【
図4】ヒスチジン緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図5】PIPES緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図6】クエン酸ナトリウム緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図7】HEPES緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図8】MOPS緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図9】MES緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図10】リン酸塩緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図11】3-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]プロパン-1-スルホン酸(HEPPS)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図12】2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-プロパン-1,3-ジオール(トリス)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径および多分散性に対する温度上昇の効果を実証する一連のグラフである。
【
図13】ヒスチジン(左上)、クエン酸塩(中央上)、MOPS(右上)、PIPES(左下)、HEPES(中央下)またはMES(右下)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。星印で強調される条件は、高温(
図15および16参照)で実施した形質導入実験において最も高いレンチウイルスタイターをもたらすpH値および塩濃度を示す。
【
図14】リン酸塩(左)、HEPPS(中央)およびTris(右)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の流体力学半径に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。星印で強調される条件は、高温(
図17および18参照)で実施した形質導入実験において最も高いレンチウイルスタイターをもたらすpH値および塩濃度を示す。
【
図15】42℃(「TU
42」で示す、および50℃(「TU
50」で示す)の高温における、ヒスチジン(上)またはPIPES(下)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の形質導入能力に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。示されるTU
42およびTU
50値は、示されるレンチウイルス調製物により示される温度において形質導入された細胞のレンチウイルスタイターを表し、当該値は、示されるレンチウイルス調製物により37℃で形質導入された細胞のレンチウイルスタイターのパーセンテージとして表す。
【
図16】42℃(「TU
42」で示す、および50℃(「TU
50」で示す)の高温における、クエン酸塩(上)またはHEPES(下)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の形質導入能力に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。示されるTU
42およびTU
50値は、示されるレンチウイルス調製物により示される温度において形質導入された細胞のレンチウイルスタイターを表し、当該値は、示されるレンチウイルス調製物により37℃で形質導入された細胞のレンチウイルスタイターのパーセンテージとして表す。
【
図17】42℃(「TU
42」で示す、および50℃(「TU
50」で示す)の高温における、MOPS(上)またはMES(下)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の形質導入能力に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。示されるTU
42およびTU
50値は、示されるレンチウイルス調製物により示される温度において形質導入された細胞のレンチウイルスタイターを表し、当該値は、示されるレンチウイルス調製物により37℃で形質導入された細胞のレンチウイルスタイターのパーセンテージとして表す。
【
図18】42℃(「TU
42」で示す、および50℃(「TU
50」で示す)の高温における、リン酸塩(上)またはHEPPS(下)緩衝液を含むレンチウイルス調製物の形質導入能力に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。示されるTU
42およびTU
50値は、示されるレンチウイルス調製物により示す温度において形質導入された細胞のレンチウイルスタイターを表し、当該値は、示されるレンチウイルス調製物により37℃で形質導入された細胞のレンチウイルスタイターのパーセンテージとして表す。
【
図19】42℃(「TU
42」で示す、および50℃(「TU
50」で示す)の高温における、Tris緩衝液を含むレンチウイルス調製物の形質導入能力に対する、pHおよび塩化ナトリウム濃度の変化の効果を実証する一連のグラフである。示されるTU
4
2およびTU
50値は、示されるレンチウイルス調製物により示される温度において形質導入された細胞のレンチウイルスタイターを表し、当該値は、示されるレンチウイルス調製物により37℃で形質導入された細胞のレンチウイルスタイターのパーセンテージとして表す。
【
図20】3回(左)、6回(中央)または9回(右)の凍結/融解サイクル後における、様々なレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の非存在下での感染性維持能力を示すグラフである。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図21】3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後における、スクリーニングされたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の非存在下での感染性の相対値を示すグラフである。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図22-1】
図22は、3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後における、スクリーニングされたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の非存在下での感染性の相対値を示す表である。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図23】3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後の選択されたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の非存在下での感染性の相対値を示す表である。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図24】3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後における、スクリーニングされたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の存在下での感染性維持能力を示すグラフである。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図25】3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後における、スクリーニングされたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の存在下での相対的感染性を示す表である。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図26】3回、6回または9回の凍結/融解サイクル後の選択されたレンチウイルスベクター調製物の、炭水化物の存在下での相対的感染性を示す表である。感染性は、1回目の凍結/融解プロセス前のレンチウイルスベクター調製物に存在する形質導入ユニット量に対する、対応する回数の凍結/融解サイクル後の各レンチウイルスベクター調製物に存在するレンチウイルスベクターの形質導入ユニット量のパーセンテージとして測定する。
【
図27】初代T細胞における、選択されたレンチウイルス調製物の相対的感染性を示す表である。レンチウイルスタイターの測定に関する詳細は、下記の実施例7で説明する。
【
図28】凝集の程度、高温での活性、凍結融解安定性および初代Tリンパ球への形質導入に関して評価した、PIPES、HEPESおよびヒスチジン緩衝液中でのレンチウイルスベクターの安定性を比較した表である。
【
図29】PIPES、ヒスチジンまたはHEPES緩衝液を用いて、示される条件下での精製後、維持されたレンチウイルスタイター(%TU)のレベルを示す表である。
【
図30】PIPESベースの緩衝液において精製された2つの異なるレンチウイルスベクター(1および2)のタイターの維持を示す表である。
【
図31】レンチウイルスベクター(ベクター1)の凝集状態での動的光散乱(DLS)分析である。
【
図32】レンチウイルスベクター(ベクター2)の凝集状態での動的光散乱(DLS)分析である。
【
図33】4℃で0、7、14および21日後における、レンチウイルスベクター(ベクター2)の安定性を示すグラフである。
【
図34】1、3、6および9回の凍結融解サイクル後の、レンチウイルスベクター(ベクター2)の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、PIPES緩衝液を含むレンチウイルス調製物が、従来のレンチウイルス製
剤の緩衝液(例えば、HEPES)を含むレンチウイルス調製物と比較し、改善された生
物学的性質を示すという発見に基づく。これらの改善された生物学的特徴としては、広い
温度および塩濃度全体にわたる、凝集に対する高い抵抗性、生理的温度および高い温度(
例えば、42℃および50℃)における改善された形質導入能力、ならびに複数回の凍結
/融解サイクルにおける感染性の喪失に対するより高い抵抗性が挙げられる。本発明のレ
ンチウイルス調製物に関連して有用な他の緩衝液としては、リン酸塩緩衝液、クエン酸ナ
トリウム緩衝液、MES緩衝液およびMOPS緩衝液が挙げられる。本発明のレンチウイ
ルス調製物は、塩、例えば、塩化ナトリウムを任意に含んでもよく、炭水化物、例えば、
非還元炭水化物(下記参照)を任意に含んでもよい。本明細書に記載のように、本発明の
組成物および方法に用いられるレンチウイルスベクターは、導入遺伝子、例えば、宿主細
胞の染色体DNAへの組込み用に設計されたタンパク質コーディング遺伝子を含んでもよ
い。更に、本明細書に記載のレンチウイルス調製物を精製技術、例えば、濾過およびクロ
マトグラフィー手順と組み合わせて用い、改善された回収率でレンチウイルスベクターを
精製することが可能である。本発明の方法はまた、宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞(例
えば、ヒトT細胞)の形質導入のための方法を含む。
【0047】
レンチウイルス調製物成分
本発明のレンチウイルスベクター調製物は、様々な成分、例えば、1つまたは複数の塩
および/または炭水化物を含んでもよい。驚くべきことに、本明細書に記載のレンチウイ
ルスベクター調製物は、ウイルス安定性を高めるためのタンパク質成分の添加を必要とし
ない。本明細書に記載の組成物は、ゆえに、各々任意に、タンパク質成分の添加がないも
のとして特徴づけることができる。多くの異なるタイプのアルブミン(例えば、ウシ血清
アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HAS)および組換えHSA(rHSA)
)に関し、レンチウイルスベクターの安定性を高める能力を試験した。例えば、rHSA
は、それが動物起源でなく、遺伝子組換え酵母において産生され、ゆえに安全性のレベル
が高いため、レンチウイルス調製物にしばしば組み込まれている(Chuang et al., Pharm
. Res. 19:569-577, 2002)。これらはベクターの分析的特徴解析を妨げ得るため、本発
明を用いることにより、HSAおよび類似のタンパク質成分を、レンチウイルスベクター
調製物から除外することができる。本明細書に記載の緩衝液が、タンパク質成分の添加を
要せずにレンチウイルスベクターに安定性を付与する能力を発揮するという意味において
も、本発明は特有なものである。例えば、
図2~19で実証されるように、本明細書に記
載の緩衝液はウイルスの凝集を防止し、形質導入能力を強化し、複数回の凍結/融解サイ
クルの後の感染性を保持することができる。本明細書に記載の組成物はまた、任意に、炭
水化物成分の添加があるもの、またはないものとして特徴づけることができる。
【0048】
本発明のレンチウイルスベクター調製物は、水性混合物、例えば、水溶液または懸濁液
であってもよい。レンチウイルスベクター調製物は、塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化
マグネシウムまたは塩化カルシウムを任意に含んでもよい。塩は、例えば、水性レンチウ
イルス調製物中に約1mM~約1Mの濃度(例えば、1mM、2mM、3mM、4mM、
5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、15mM、20mM、25mM、
30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、
70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、100mM、125mM、150
mM、175mM、200mM、225mM、250mM、275mM、300mM、3
25mM、350mM、375mM、400mM、450mM、475mM、500mM
、525mM、575mM、600mM、625mM、650mM、675mM、700
mM、725mM、750mM、775mM、800mM、825mM、850mM、8
75mM、900mM、925mM、950mM、957mMまたは1M)で存在しても
よい。幾つかの実施形態では、塩の濃度は、約25mM~約250mM、約50mM~約
75mM、約50mM~約200mMまたは約100mM~約150mM(例えば25m
M、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65m
M、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、100mM、125mMまた
は150mM)である。幾つかの実施形態では、塩の濃度は、必要に応じて50mMまた
は75mMであってもよい。
【0049】
本明細書に記載のレンチウイルスベクター調製物は、例えば、約5.0~約8.0、例
えば、6.0~約7.0(例えば、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、
6.6、6.7、6.8、6.9または7.0)のpHを示すものであってもよい。幾つ
かの実施形態では、レンチウイルスベクター調製物のpHは6.5である。
【0050】
本発明のレンチウイルスベクター調製物は、炭水化物、例えば本明細書に記載の非還元
炭水化物を任意に含んでもよい。典型的な非還元炭水化物としては、とりわけスクロース
およびトレハロースが挙げられる。レンチウイルスベクター調製物中に炭水化物を含むと
きは、水性レンチウイルス調製物の体積当たりの重量(w/v)で、例えば、約1%~約
10%、約2.5%~約10%、または約2.5%~約5%の濃度で存在してもよい。例
えば、炭水化物、例えば、本明細書に記載の非還元炭水化物は、1%w/v、1.5%w
/v、2%w/v、2.5%w/v、3%w/v、3.5%w/v、4%w/v、4.5
%w/v、5%w/v、5.5%w/v、6%w/v、6.5%w/v、7%w/v、7
.5%w/v、8%w/v、8.5%w/v、9%w/v、9.5%w/vまたは10%
w/vの濃度で水性レンチウイルス調製物中に存在し得る。
【0051】
レンチウイルスベクターは、本発明のレンチウイルス調製物中にある濃度範囲で存在し
てもよい。例えば、レンチウイルスベクターは、レンチウイルス調製物内に、例えば、約
2×108TU/mL(1ミリリットル当たりの形質導入単位)~約1×109TU/m
L(例えば、2×108TU/mL、2.5×108TU/mL、3×108TU/mL
、3.5×108TU/mL、4×108TU/mL、4.5×108TU/mL、5×
108TU/mL、5.5×108TU/mL、6×108TU/mL、6.5×108
TU/mL、7×108TU/mL、7.5×108TU/mL、8×108TU/mL
、8.5×108TU/mL、9×108TU/mL、9.5×108TU/mLまたは
1×109TU/mL)の濃度で存在してもよい。望ましくは、レンチウイルス調製物は
、約3×108TU/mL~約5×108TU/mL(例えば、3×108TU/mL、
3.5×108TU/mL、4×108TU/mL、4.5×108TU/mLまたは5
×108TU/mL)の濃度でレンチウイルスベクターを含んでもよい。
【0052】
導入遺伝子の発現
本発明の組成物および方法に用いられるレンチウイルスベクターは、導入遺伝子、例え
ば、標的細胞の染色体DNAへの組込み用に設計されたタンパク質コーディング用導入遺
伝子を含んでもよい。典型的な導入遺伝子としては、キメラ抗原受容体(CAR)をコー
ドするものが挙げられる。CARは、幾つかのドメイン、例えば、抗原結合ドメイン、膜
貫通ドメインおよび1つまたは複数のシグナリングドメイン)を含んでもよい。これらの
場合、シグナリングドメインは、1つもしくは複数の一次シグナリングドメイン(例えば
、CD3-ゼータ刺激性ドメイン)および/または1つもしくは複数の共刺激性のシグナ
リングドメイン(例えば、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、
GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、HVEM、ICAM-1、リン
パ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CDS、CD7、CD287、LIGH
T、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp80、NKp30、NKp44、N
Kp46、CD160、B7-H3、またはCD83と特異的に結合するリガンド)を含
んでもよい。
【0053】
特定の場合、導入遺伝子は、特定の標的タンパク質または炭水化物と結合する抗原結合
ドメイン(例えば、scFv)を含んでもよい。典型的な抗原としては、CD19;CD
123;CD22;CD30;CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;CD3
3;上皮増殖因子受容体変異体III(EGFRvIII);ガングリオシドG2(GD
2);ガングリオシドGD3;TNF受容体ファミリーメンバーB細胞成熟抗原(BCM
A);Tn抗原((Tn Ag)または(GalNAcα-Ser/Thr));前立腺
特異的膜抗原(PSMA);受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)
;Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3);腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)
;CD38;CD44v6;癌胎児性抗原(CEA);上皮細胞接着分子(EPCAM)
;B7H3(CD276);KIT(CD117);インターロイキン-13受容体サブ
ユニットアルファ-2;メソテリン;インターロイキン11受容体アルファ(IL-11
Ra);前立腺幹細胞抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21;血管内皮増殖因子受
容体2(VEGFR2);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体ベー
タ(PDGFR-ベータ);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);CD20;
葉酸受容体アルファ;受容体チロシン-プロテインキナーゼERBB2(Her2/ne
u);ムチン1、細胞表面会合(MUC1);表皮増殖因子受容体(EGFR);神経細
胞接着分子(NCAM);プロスターゼ;前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);延長因
子2変異型(ELF2M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FA
P);インスリン様増殖因子1受容体(IGF-I受容体);炭酸脱水酵素IX(CAI
X);プロテアソーム(プロソーム、マクロペイン)サブユニット、ベータ型、9(LM
P2);糖タンパク質100(gp100);切断点クラスター領域(BCR)およびア
ベルソンマウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1(Abl)からなる癌遺伝子融合タン
パク質(bcr-abl);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコ
シルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3;トランスグル
タミナーゼ5(TGS5);高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-
GD2ガングリオシド(OAcGD2);葉酸受容体ベータ;腫瘍内皮マーカー1(TE
M1/CD248);腫瘍内皮マーカー7関連(TEM7R);クラウディン(clau
din)6(CLDN6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役
受容体クラスCグループ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディン
グフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ
(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);グロボ(globo)Hグリ
コセラミド(GloboH)の六糖部分;乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキ
ン(uroplakin)2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR
1);アドレナリン受容体ベータ3(ADRB3);パンネキシン3(PANX3);G
タンパク質共役受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合体、座K9(LY6K)
;嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRガンマ代替リーディングフレームタンパ
ク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);がん/精巣抗原1(NY-E
SO-1);がん/精巣抗原2(LAGE-1a);黒色腫関連抗原1(MAGE-A1
);ETS転座変異体遺伝子6、染色体12p上に位置(ETV6-AML);精子タン
パク質17(SPA17);X抗原ファミリー;メンバー1A(XAGE1);アンギオ
ポエチン結合性細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫がん精巣抗原-1(MAD-CT
-1);黒色腫がん精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパ
ク質p53(p53);p53突然変異体;プロステイン;サバイビン;テロメラーゼ;
前立腺癌腫瘍抗原-1、T細胞により認識される黒色腫抗原1;ラット肉腫(Ras)突
然変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシス
の黒色腫阻害因子(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPR
SS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼV(N
A17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;
サイクリンB1;v-mycトリ骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子神経芽腫由来ホモログ(M
YCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナーゼ関連タンパ
ク質2(TRP-2);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結
合因子(ジンクフィンガータンパク質)様、T細胞により認識される扁平上皮細胞癌抗原
3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシ
ン結合タンパク質sp32(OY-TES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナ
ーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫、X切断
点2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス1(RU1)
;腎臓ユビキタス2(RU2);レグメイン(legumain);ヒトパピローマウイ
ルスE6(HPV E6);ヒトパピローマウイルスE7(HPV E7);腸カルボキ
シルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2突然変異型(mut hsp70-2
);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAI
R1);IgA受容体(FCARまたはCD89)のFc断片;白血球免疫グロブリン様
受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメン
バーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC
12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン
受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3)
;Fc受容体様5(FCRL5);および免疫グロブリンガンマ様ポリペプチド1(IG
LL1)が挙げられる。
【0054】
レンチウイルスベクターを精製する方法
本発明の方法には、効率が改善されたレンチウイルスベクターを精製する方法が含まれ
るので、例えば、従来の緩衝液(例えば、HEPES)を含むレンチウイルス調製物の精
製と比較し、レンチウイルスベクターの高収量での回収が可能となる。例えば、本明細書
に記載のレンチウイルスベクター調製物は、濾過(例えば、マイクロフィルトレーション
または限外濾過)によって、および/または、レンチウイルスの高率での回収能を有する
クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)により精製できる。例え
ば上記のような、当技術分野で公知の濾過技術を用いることにより、レンチウイルスベク
ターが調製される場としての微生物および細胞(例えば、哺乳動物細胞)を実質的に含ま
ないレンチウイルス調製物を製造することが可能となる。それに加え、またはその代わり
に、本発明のレンチウイルスベクター調製物をヌクレアーゼで処理することにより、(例
えば、レンチウイルスベクターが製造された細胞に由来する非レンチウイルス性のポリヌ
クレオチド(例えば、哺乳動物の染色体DNA、ヒトDNA、RNAまたはレンチウイル
スの導入遺伝子内に含まれない他のポリヌクレオチドなどの)混入ポリヌクレオチドを実
質的に含まない調製物を製造することが可能となる。
【実施例0055】
以下の実施例は、本明細書に記載の組成物および方法が、どのように使用でき、実施で
き、評価できるかに関する説明を当業者に提供するものであり、単に本発明の典型例を示
すものに過ぎず、発明者が自らの発明と考えるものの範囲を限定することを目的とするも
のではない。
【0056】
<実施例1>
無血清細胞培養液におけるレンチウイルスベクターの製造
GFP遺伝子導入ベクター、パッケージングベクター、rev発現ベクターおよびVS
V-G発現ベクターを構築した。遺伝子導入ベクターは、cPPTおよびWPRE要素を
含む。更に詳細には、本研究で使用するレンチウイルスベクターは、自己不活性化導入構
築物pELPS-EGFPであり、pRRL導入構築物(Dull et al., J. Virol. 72(11
):8463-8471, 1998)をベースとするものである。pELPS-19-BBz(Milone et
al., Mol. Ther. 17(8):1453-1464, 2009)を用い、CAR導入遺伝子をEGFPに置換
することにより、pELPS-EGFPを構築した。pMDLgpRRE、pRSV-R
evおよびpMD.Gプラスミドからなる第三世代包装システム(Dullら、上記)を
用いてレンチウイルスを製造した。その際、アンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼIIで置換した。
【0057】
10Lスケールでウイルスの製造を行う。10Lの上清を生成するために必要となる試
薬を以下に説明する。Expi293F(Life Technologies社)細胞
を、血清なしのFreestyle培地(Life Technologies社)中、
5~6×106細胞/mLの菌体密度、96%の生存率で播種した。12.5mLのPE
Ipro(Polyplus社)を0.25Lの培地に添加し、徐々にプラスミド混合液
(0.25L中、12.8mgのプラスミド)に添加した。15分のインキュベート後、
0.5Lのトランスフェクション混合液を2×5Lのフラスコに分割し、フラスコ当たり
更に2.25LのFreeStyle培地を添加した。24時間のインキュベート後、細
胞を5分間2000rpmで遠心分離し、上清を廃棄した。次に、8mM酪酸ナトリウム
(Sigma社)を含むpH6の培地(FreeStyle培地、pH調整済み)を添加
する。トランスフェクション48時間目において、細胞を5分間2000rpmで遠心分
離し、上清を精製用に確保する(回収1)。更に2.5LのpH6.0の培地を各振とう
フラスコに添加し、ロータリーシェーカ(Infors HTインキュベーター、振とう
速度100rpm、8%CO2、37℃)でのインキュベートに供した。2回目の回収(
回収2)を72時間目に行い、次に低速遠心分離を行う。48および72時間目の回収物
をプールし、更なる精製のために処理した。必要に応じて、プールした材料の一部を4℃
で保存する。
【0058】
2×2.5Lの培地1つ当たり、GFP遺伝子導入ベクター6μg、パッケージングベ
クター3μg、rev発現ベクター3μgおよびVSVG発現ベクター0.75μgを用
いた。トランスフェクション混合液を細胞に添加した後、振とうフラスコを慎重に振とう
し、均一な混合液とした。その後、上記のとおり細胞のインキュベートを行う。
【0059】
<実施例2>
無血清細胞培養液において製造されたレンチウイルスベクターの精製
48および72時間目の部分的な遠心分離後の回収物を、3段階の異なるフィルター、
すなわち5ミクロンのガラスフィルター(GE Healthcare社)、1.2ミク
ロンのポリプロピレンフィルター(Sartorius社)および0.6/0.2ミクロ
ンのポリエーテルスルホンフィルター(GE Healthcare社)で濾過する。そ
れらの一連の濾過により、プロデューサー細胞、細胞残渣およびオルガネラを除去する。
次に、500MWCO中空糸膜(GE Healthcare社)を用いるタンジェンシ
ャルフロー濾過を行い、ウイルスを含む上清を100倍濃縮する。室温で30分間、50
単位/mLでベンゾナーゼ(EMD-Millipore社)処理を行い、次に20分間
3000rpmで遠心分離する。白いペレットが観察されるが、ウイルス粒子のわずかな
損失(<5%)が上清中に存在する。PIPESおよび他の緩衝液(本発明に記載のベク
ターへの高い安定性を示す)を使用し、サイズ排除クロマトグラフィーを実施し、次に0
.2ミクロンフィルター(EMDMillipore社)を用いた濾過滅菌を行う。
【0060】
<実施例3>
レンチウイルス調製物の安定性のハイスループットスクリーニング用のサンプル調製
ZEBA(商標)回転脱塩プレート(7KのMWCO、Life Technolog
ies社)を、250μLの特定の緩衝液および塩により4回バッファー交換した。ウイ
ルス原液100μLを各ウェルにロードし、次に2分間1000×gで遠心分離した。バ
ッファー交換後のボリュームの喪失は観察されない。20~100μLを用い、各分析(
DLS、感染性および凍結/融解試験)に供した。ベクターの感染性に対する温度の効果
を試験するため、C-1000 Touch Thermal Cyclerの96ウェ
ル薄壁PCRプレートにおいて、温度ショック(25~55℃の範囲で1時間)を実施し
た。
【0061】
<実施例4>
ハイスループットスクリーニングにおける、動的光散乱によるレンチウイルスの凝集の分
析
精製された組換えレンチウイルスベクター(106~107TU/mL)20μLを、
384ウェルプレート(黒色ポリスチレンベース、親水性プレート、Greiner B
io社)にピペットで添加した。室温で3分間、2000rpmでプレートを遠心分離し
、封入された気泡を除去し、次にMicroseal「B」シール(Bio-Rad社)
でシールする。830nmのレーザーおよび温度調節モジュールを装備するDynaPr
oプレートリーダー(Wyatt Technology社、CA、米国)に設置する。
Dynamics(登録商標)ソフトウェア(バージョン7.1.8.93、Wyatt
Technology社)を用い、計画的にデータ収集および分析を行った。各ウェル
につき、5秒間の測定を5回行った。単一のシールされた384ウェルプレートを25℃
で測定し、次に37℃で2時間インキュベートし、記載されるように測定する。同じ手順
を、42℃、50℃および55℃で繰り返す。Dynamics(登録商標)ソフトウェ
アに装備されるアルゴリズムを使用し、正則化分析を行った。相関関数における上下のカ
ットオフ値を、それぞれ0.5および1×106μsとした。レンチウイルスのピークの
流体力学半径を50~200nmとして割り当てる。
【0062】
<実施例5>
ハイスループットスクリーニングにおけるレンチウイルスタイターの測定
レンチウイルスベクターのタイターは、保持される遺伝子によりコードされるGFPタ
ンパク質を発現する細胞数により算出される関数的タイターを含む(TU/mL)。10
%ウシ胎児血清(Life Technologies社)および8μg/mL Pol
ybrene(EMD Millipore社)を含むD-MEM培地(Life Te
chnologies社)50μLの体積のHEK293T細胞を、96ウェルプレート
(Corning社、平底)に所定の密度(2×104/ウェル)で播種した。GFPス
タンダードウイルスおよびサンプルの希釈液を完全DMEM培地において調製し、細胞に
添加する(50μL)。
【0063】
希釈液としてDMEMを用いた希釈系列において、ウイルス溶液の10倍希釈系列を調
製した。96ウェルプレートを37℃で72時間、CO2インキュベーター中でインキュ
ベートした。細胞をトリプシン処理し、次に完全DMEM培地200μLを添加した。プ
レートを10分間1000rpmで遠心分離し、培地をフローバッファー(autoMA
CSランニングバッファー、Miltenyi Biotec社)200μLで交換する
。次にGuava Viacount(EMD Millipore社)においてGFP
分析を行う。回収時に、形質導入されなかった細胞の計数および状態のモニターを行った
。
【0064】
<実施例6>
凍結/融解サイクルの反復後のレンチウイルスの安定性の分析
凍結/融解サイクルの反復による感染性の喪失に対処するため、レンチウイルスベクタ
ーの小アリコート(約100μL)を-80℃で20分間凍結させ、次に20分間室温で
徐々に融解させた(最悪のケースシナリオを表す)。凍結/融解サイクルを3、6および
9サイクル行い、ベクター活性を対照と比較する。Spotfireを使用しトレンド分
析を行う。高い値はレンチウイルスベクターの活性が保持されていることを示す。
【0065】
<実施例7>
初代T細胞におけるレンチウイルスタイターの測定
3人の健常なドナー由来のPBMC入りのバイアルを融解し、遠心分離し、2%ヒトA
B血清(Access社)およびIL-2(Prometheus Ther社)を補充
したX-Vivo培地(Lonza社)中に再懸濁した。細胞を計数し、ドナー毎に10
0μLの1.6×106細胞/mLの密度で播種する操作を2回行った。抗CD3/CD
28ビーズ(Life Technologies社)をX-vivo Simple
Mediumで洗浄し、最終ビーズ密度が4.8×105ビーズ/ウェルになるように添
加した。細胞を37℃、5%CO2のインキュベーター内に置いた。
【0066】
レンチウイルスベクターのアリコートを室温で融解させ、X-Vivo培地による1:
3の希釈で階段希釈物を調製した。使用したベクターのアリコートは、GFP(ストック
26Sept14、JDG、250μL)、Lentigen(Lentigen社、h
CART019、LN0127-0214-064)および以下の4つの異なるGFPベ
クター製剤である:AD1(20mM His、100mM NaCl、2.5%スクロ
ースpH6.5)、AD2(20mMクエン酸塩、75mM NaCl、2.5%スクロ
ースpH6.5)、AD3(20mM HEPES、75mM NaCl、2.5%スク
ロース、pH7)およびAD4(20mM PIPES、75mM NaCl、2.5%
スクロース、pH6.5)。
【0067】
3日目に細胞を再懸濁して、細胞を1:3で分離させ、新しいプレートの対応するウェ
ル中に、120μLのX-vivo Simple Medium中の細胞懸濁液60μ
Lを添加した。細胞をインキュベーター内に戻した。5日目に細胞を再度1:2で分離さ
せ、新しいプレートに添加し(110μLのX-Vivo Simple Medium
へ細胞90μL)、インキュベーター内に戻した。
【0068】
各プレートからの細胞をプールし、細胞懸濁液を磁石上に配置してアリコートからビー
ズを除去し、上清を得、1:10の希釈において、Guava Viacount溶液を
用い計数した。次に、細胞200μLを、20℃で5分間、1000rpmでスピンダウ
ンし、200μLのAutoMacs緩衝液(Miltenyi社)中に再懸濁し、新し
いU字底96ウェルプレートに移し、Guava装置(Millipore社)を使用し
てGFP蛍光を測定した。GFPを形質導入された細胞のパーセンテージを算出した。L
entigenベクターで形質導入された細胞を20℃で5分間、1000rpmでスピ
ンダウンし、AutoMacsバッファーおよびPE標識抗イディオタイプ抗体の混合液
を用いて1:160の希釈にて染色した(1ウェルは染色せずに残した)。調製物を、室
温で暗所に置き、AutoMacs緩衝液200μLで2度洗浄した。AutoMacs
緩衝液200μL中に細胞を再懸濁し、Guava装置を用いてモニターした。GFPと
Lentigenの両方によるTU/mLとして表すタイターを、以下の式に基づき算出
した:D0*における細胞(%形質導入された細胞/100)/ウイルス体積(mL)。
【0069】
<実施例8>
実験結果の要約-安定性試験
並列アプローチ(
図1)を用いてスクリーニング試験を行い、レンチウイルスベクター
の安定化に使用できる条件を同定した。
図2に示す、緩衝液、pHおよび塩条件を変化さ
せたスクリーニングにおいて、市販のレンチウイルスベクター(Lentigen社)の
安定性を評価した。レンチウイルスベクターを室温(約25℃)で一晩(約18時間)イ
ンキュベートした。上記実施例5に記載の方法を用いたタイター(TU/ml)の評価に
より、安定性を測定した。NaClを含むPIPES緩衝液は、対照製剤(Lentig
en製剤)とほとんど同程度にベクターを安定化させ、それは緩衝液および塩成分に加え
て賦形剤を含んでもよい。本実験において使用したレンチウイルスベクターは、Lent
igen社製のCAR19 LVとした。本実施例に記載の他の全ての試験では、上記実
施例1に記載のGFP-LVを使用した。
【0070】
上記実施例4に記載の方法を用い、様々な製剤の流体力学半径の分布を測定し、レンチ
ウイルスベクターの凝集(
図3)の程度を評価した。
【0071】
図4は、ヒスチジン緩衝液(20mMヒスチジン、50~150mM NaCl、pH
6.0、6.5および7.0)では、温度上昇によるレンチウイルスベクター凝集の傾向
が非常に低い(Rhの変化によりモニター)ことを示す。
図5は、20mM PIPES
(pH6.5、NaCl濃度範囲50~150mM)中のレンチウイルスベクターが、(
55℃における100mM NaClを除き)全ての温度において凝集傾向を示さなかっ
たことを示す。また、20mM PIPES(pH7.0、50~150mMの範囲のN
aCl)中のレンチウイルスベクターは、42~55℃の温度で凝集傾向を示した。
図6
は、クエン酸塩緩衝液(20mMクエン酸塩、50~150mM NaCl、pH6.0
、6.5)では、温度上昇によるレンチウイルスベクター凝集の傾向が非常に低い(Rh
の変化によりモニター)ことを示す。
図7は、HEPES緩衝液(20mM HEPES
、50~150mM NaCl、pH7.0、7.5および8.0)が、pH 7.5お
よび8.0において高い凝集傾向を示すが、pH7.0で様々な温度でウイルスのモノマ
ー状態が保持されることを示す。
図8は、MOPS緩衝液(20mM MOPS、50~
150mM NaCl、pH6.5、7.0および7.5)が、pH6.5および7.0
では50mM NaClで、ならびにpH7.5では全ての条件で、高い凝集傾向を有す
ることを示す。20mM MOPS、75mM NaCl、pH6.5の場合にのみ、高
温での凝集が示される(55℃、実際のケースの状況ではこれ程の温度にウイルスを曝露
することは決して行わないため、著しく高温である)。
図9は、MES緩衝液(20mM
MES、50~150mM NaCl、pH6.0および6.5)では、これらの条件
下でのレンチウイルスベクターの凝集傾向が低いことを示す。
図10は、リン酸塩緩衝液
(20mMリン酸塩、50~150mM NaCl、pH6.5、7.0、7.5、8.
0)では、pH6.5でレンチウイルスベクターの凝集傾向が低いが、他の全てのpH条
件では凝集傾向が高いことを示す。
図11は、HEPPS緩衝液(20mM HEPPS
、50~150mM NaCl、pH7.5および8.0)では、全ての条件においてL
V(但し25℃を除く)の凝集が促進されることを示す。
図12は、Tris緩衝液(2
0mM Tris、50~150mM NaCl、pH7.5および8.0)では、全て
の条件においてLV(但し25℃を除く)の凝集が促進されることを示す。
【0072】
これらの結果は、ヒスチジン、クエン酸、MOPS、PIPESおよびMES緩衝液に
おいてレンチウイルスベクターの安定性が改善され得ることを示す。DLSを用い、レン
チウイルス粒子の流体力学半径を測定した。DLSが半定量的アッセイであるため、異な
る温度(低温から高温)における凝集傾向の分析に依存した。
【0073】
異なる緩衝液条件におけるRhのロバスト性を測定するために更なる分析を行った(図
13~19)。この分析は、DLS(上記実施例4参照)およびタイター(上記実施例5
を参照)の測定を含むものとした。
図13は、DLSのみの評価において、ヒスチジン、
クエン酸塩、MOPS、PIPES、HEPESおよびMES緩衝液が、レンチウイルス
ベクターの安定化を選択的に促進し、モノマー状態を安定化させることを示す。
図14は
、DLSのみの評価において、リン酸塩、HEPPSおよびTrisベースの緩衝液が、
高温において、凝集に対するいかなる保護作用も示さないことを示す。
【0074】
図15~19は、2つの基準(凝集に対する保護および高温での感染性の喪失に対する
保護)を一緒に分析した試験結果を示す。
図15は、ヒスチジンおよびPIPES緩衝液
が、(特有のpHおよび塩の組合せにおいて)高温においても感染性を保持しつつ安定性
をもたらすことを示す。
図16は、クエン酸塩緩衝液が高温において、HEPESと比較
し感染性の喪失からの保護を提供し、一方
図17は、MOPSおよびMES緩衝液が高温
において、感染性の喪失からの保護を提供することを示す。
図18は、リン酸塩緩衝液が
高温において、HEPPSと比較し感染性の喪失からの保護を提供し、一方
図19は、T
ris緩衝液が高温において、感染性の喪失からの保護を提供しないことを示す。これら
の結果は、2つのオーソゴナルな分析手法により測定されるように、選択された緩衝液(
例えば、ヒスチジン、PIPES、クエン酸塩等)が感染性およびモノマー状態の保持に
おいて重要な安定化効果を示すことを示すものである。
【0075】
凍結融解試験を行い、更に安定性の評価を行った。使用した方法を上記実施例6に記載
する。
図20は、レンチウイルスベクターが3、6および9回の凍結融解サイクル後にお
いてタイターを65%超で維持して生存した条件の数を示す。
図21は、3、6および9
回目の凍結融解サイクルに由来するレンチウイルスベクターの失活動態が、緩衝液による
ベクター安定性の高低を左右することを示す。データの分析から、9回の凍結融解サイク
ル後でレンチウイルスベクターがタイターを65%超で維持して生存するための5つの条
件が同定された(例えば、
図22参照)。これらの条件の詳細を
図23に記載する。
【0076】
更なる試験を行い、複数回の凍結融解サイクル後の安定性維持に対する炭水化物(スク
ロース)含有による効果を評価した。上記実施例6の方法をこれらの実験に採用した。ク
エン酸塩、HEPESおよびPIPESベースの緩衝液では、活性の約20%の喪失を示
したヒスチジン緩衝液と比較し、9回目の凍結融解サイクル後、レンチウイルスベクター
の活性喪失が見られない(
図24および25を参照)。炭水化物存在下における選択され
た安定化緩衝液条件の例を
図26に示す。
【0077】
上記実施例7に記載の方法を用いて、初代T細胞におけるウイルスタイターを評価した
。結果を
図27に示す。PIPESおよびクエン酸塩緩衝液が初代細胞において非常に高
いタイターを示し、細胞における効率的な形質導入を示すことが明らかとなった。HEP
ESおよびヒスチジン緩衝液も同様に高いタイターを示した。確認された条件全てにおい
て、Lentigen社から購入した市販のベクター(市販の製剤、不明)を上回った。
【0078】
PIPES、HEPESおよびヒスチジン緩衝液を使用した安定性試験のある結果の比
較を
図28に示す。DLSにより測定されたとおり、凝集結果は、レンチウイルスベクタ
ーの流体力学半径の増加が温度の関数であることを示す。特定のpH(および50~15
0mM NaCl)における平均値を示す。高温におけるレンチウイルスベクターの活性
を293T細胞において評価した。50℃における値を25℃における値と比較した。特
定のpH(および50~150mM NaCl)における平均値を示す。レンチウイルス
ベクターの安定性の例示として、293T細胞における9回目の凍結融解サイクル後のレ
ンチウイルスベクターの活性を示す(>100%の活性は活性の喪失がないことを意味;
インビボアッセイとして可変的なアッセイ)。初代T細胞におけるレンチウイルスベクタ
ーの活性を、形質導入能力に関する更なる検査として示す。PIPES緩衝液中のレンチ
ウイルスベクターは、HEPESおよびヒスチジン緩衝液中のレンチウイルスベクターと
比較し、それぞれ、約25%および約35%多い初代T細胞にトランスフェクトすること
ができた。例えば、レンチウイルスベクターはPIPES緩衝液においてより安定である
ため、PIPES緩衝液は、標準的なHEPESベースの製剤の代替としてこのように提
供されるものである。更に、PIPES緩衝液中のレンチウイルスベクターは、HEPE
Sおよびヒスチジン緩衝液と比較し、約20~25%多い初代T細胞にトランスフェクト
することができた。
【0079】
<実施例9>
PIPES、ヒスチジンおよびHEPES緩衝液中のレンチウイルスベクターの精製
上記実施例1および2に記載の方法を用いて、レンチウイルスベクターを製造し、精製
した。クロマトグラフィー後の精製ステップにおいて、0.2ミクロンのフィルターに通
し、無菌性を維持した。凝集による、精製の際の回収率低下が生じ得るため、異なる緩衝
液を試験し、最適な回収条件を同定した。
図29に示すように、HEPESおよびヒスチ
ジン緩衝液と比較し、PIPES緩衝液はより良好な回収率を示した。
【0080】
<実施例10>
更なるレンチウイルスベクターの安定化
上記のように、以上で行った試験では、GFPレンチウイルスベクター(上記のように
、
図2に図解された安定性試験を除く)を使用した。更なる実験を行い、異なる導入遺伝
子を発現する更に2つのレンチウイルスベクター(ベクター1および2)の安定化におい
て、PIPESベースの緩衝液(20mM PIPES、pH6.5、75mM NaC
l、2.5%スクロース)が効果的であることを示した。
【0081】
PIPESベースの緩衝液(20mM PIPES、pH6.5、75mM NaCl
、2.5%スクロース)中の2つのレンチウイルスベクターを、マイクロフィルトレーシ
ョン、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)、ベンゾナーゼ処理、遠心分離、サイズ排
除クロマトグラフィー(SEC)および濾過滅菌のステップを含む方法により精製した。
TFF保持液から得たサンプルを、-80℃または+4℃で4日間保存した。更に、SE
C溶出液から得たサンプルを、-80℃または+4℃で3日間保存した。保存期間前後の
サンプルからウイルスタイターを得た。両方のベクターは、精製の間、PIPES緩衝液
中において安定であった。
図30に示すように、タイター測定の結果、-80℃または+
4℃におけるTFFおよびSECサンプルの短期保存の間に活性の顕著な変化が見られな
かった。
【0082】
PIPES緩衝液(20mM PIPES、pH6.5、75mM NaCl、2.5
%スクロース)中に保存されたベクターの凝集状態を評価するため、動的光散乱を用いた
。
図31および32に示すように、「d,nm」を140nm前後で測定し、両方のベク
ターとも、25℃のPIPES製剤においてモノマー状態であることが明らかとなった。
使用した方法は上記実施例4に記載のとおりである。
【0083】
精製されたベクター2の安定性を、4℃で3週間、PIPES緩衝液(20mM PI
PES、pH6.5、75mM NaCl、2.5%スクロース)中での保存後に評価し
た。
図33に示すように、293T細胞のタイター測定、ならびに対照(4℃、0日目、
図33の初期バー、この対照活性を100%とした)と比較した残存活性パーセンテージ
の測定の結果、このベクターは、これらの条件下で高い安定性を維持する。X軸のバーは
、それぞれ、14および21日目の活性(対照に対するパーセント表示)を示す。
【0084】
更なる試験において、PIPES緩衝液(20mM PIPES、pH6.5、75m
M NaCl、2.5%スクロース)中のベクター2の凍結融解安定性を評価した(方法
については上記実施例6を参照)。
図34に示すように、293T細胞のタイター測定、
ならびに対照(精製されたレンチウイルスのサンプルを精製直後に-80℃で保存したた
め、1回目の凍結融解サイクル後のタイター)と比較した残存活性パーセンテージの測定
の結果、複数回の凍結融解サイクル(最大9回実施)後、このベクターは高い安定性を維
持する。対照サンプルの活性を100%とし、
図34の初期バーとして表す。X軸のバー
は3、6および9回の凍結融解サイクル後の残存活性(パーセント)を示す(対照に対す
るパーセント表示)。
【0085】
他の実施形態
本明細書に記載の全ての刊行物、特許および特許出願は、あたかもそれぞれ独立の刊行
物または特許出願が具体的かつ個別的に参照により組み込まれる旨示されたのと同程度に
、参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
本発明を、その特定の実施形態と関連付けて記載したが、その更なる変更が可能である
ことが理解されるであろう。また本願は全体的に、本発明の原理に従う本発明のいかなる
バリエーション、使用または修正を包含することを意図したものであり、本発明が関係す
る技術分野における周知または慣用的な実施の範囲内に含まれ、上記した必須構成要素に
適用でき、また特許請求の範囲に従う、本発明からの逸脱を含むものである。
本発明を、その特定の実施形態と関連付けて記載したが、その更なる変更が可能であることが理解されるであろう。また本願は全体的に、本発明の原理に従う本発明のいかなるバリエーション、使用または修正を包含することを意図したものであり、本発明が関係する技術分野における周知または慣用的な実施の範囲内に含まれ、上記した必須構成要素に適用でき、また特許請求の範囲に従う、本発明からの逸脱を含むものである。
本発明は、以下の態様を提供し得る。
[1]
レンチウイルスベクターと、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)緩衝液と、塩とを含む水性組成物。
[2]
前記PIPES緩衝液が、約10mM~約50mMの濃度で存在する、上記[1]に記載の水性組成物。
[3]
前記PIPES緩衝液が、約20mMの濃度で存在する、上記[2]に記載の水性組成物。
[4]
pHが約6.0~約7.0である、上記[1]から[3]のいずれかに記載の水性組成物。 [5]
pHが約6.5である、上記[4]に記載の水性組成物。
[6]
前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選択される、上記[1]から[5]のいずれかに記載の水性組成物。
[7]
前記塩が塩化ナトリウムである、上記[6]に記載の水性組成物。
[8]
前記塩の濃度が約25mM~約150mMである、上記[1]から[7]のいずれかに記載の水性組成物。
[9]
前記塩の濃度が約50mMである、上記[8]に記載の水性組成物。
[10]
前記塩の濃度が約75mMである、上記[8]に記載の水性組成物。
[11]
20mM PIPESおよび75mM塩化ナトリウムを含み、約6.5のpHを有する、上記[1]から[10]のいずれかに記載の水性組成物。
[12]
炭水化物を更に含む、上記[1]から[11]のいずれかに記載の水性組成物。
[13]
前記炭水化物が非還元炭水化物である、上記[12]に記載の水性組成物。
[14]
前記非還元炭水化物が、スクロースおよびトレハロースからなる群から選択される、上記[13]に記載の水性組成物。
[15]
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約1%~約10%の濃度で存在する、上記[12]から[14]のいずれかに記載の水性組成物。
[16]
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約2%~約5%の濃度で存在する、上記[15]に記載の水性組成物。
[17]
前記炭水化物が、前記水性組成物の体積当たりの重量で約2.5%の濃度で存在する、上記[16]に記載の水性組成物。
[18]
20mM PIPESと、75mM塩化ナトリウムと、前記水性組成物の体積当たりの重量で2.5%のスクロースとを含み、約6.5のpHを有する、上記[12]から[17]のいずれかに記載の水性組成物。
[19]
モル浸透圧濃度が、約270mOsm/kg~約330mOsm/kgである、上記[1]から[18]のいずれかに記載の水性組成物。
[20]
モル浸透圧濃度が、約275mOsm/kg~約300mOsm/kgである、上記[19]に記載の水性組成物。
[21]
モル浸透圧濃度が約285mOsm/kgである、上記[20]に記載の水性組成物。 [22]
前記レンチウイルスベクターが、約2×10
8
TU/mL(1ミリリットル当たりの形質導入単位)~約1×10
9
TU/mLの濃度で存在する、上記[1]から[21]のいずれかに記載の水性組成物。
[23]
前記レンチウイルスベクターが、約3×10
8
TU/mL~約5×10
8
TU/mLの濃度で存在する、上記[22]に記載の水性組成物
[24]
前記レンチウイルスベクターが組換えヒト免疫不全ウイルスである、上記[1]から[23]のいずれかに記載の水性組成物。
[25]
前記レンチウイルスベクターが、水疱性口内炎ウイルスG(VSV-G)タンパク質を含む、上記[1]から[24]のいずれかに記載の水性組成物。
[26]
前記VSV-Gタンパク質が、前記レンチウイルスベクターの表面に存在する、上記[25]に記載の水性組成物。
[27]
前記レンチウイルスベクターが導入遺伝子を含む、上記[1]から[26]のいずれかに記載の水性組成物。
[28]
前記導入遺伝子がタンパク質をコードする、上記[27]に記載の水性組成物。
[29]
前記タンパク質がキメラ抗原受容体(CAR)を含む、上記[28]に記載の水性組成物。
[30]
前記CARが、N末端からC末端方向に、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび1つまたは複数のシグナリングドメインを含む、上記[29]に記載の水性組成物。
[31]
前記シグナリングドメインが、1つまたは複数の一次シグナリングドメインを含む、上記[30]に記載の水性組成物。
[32]
前記シグナリングドメインが、1つまたは複数の共刺激シグナリングドメインを含む、上記[30]または[31]に記載の水性組成物。
[33]
前記1つまたは複数の一次シグナリングドメインの1つが、CD3-ゼータ刺激性ドメインを含む、上記[31]に記載の水性組成物。
[34]
前記共刺激シグナリングドメインの1つまたは複数が、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、HVEM、ICAM-1、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CDS、CD7、CD287、LIGHT、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp80、NKp30、NKp44、NKp46、CD160、B7-H3、およびCD83と特異的に結合するリガンドからなる群から選択される共刺激タンパク質から選択される細胞内ドメインを含む、上記[32]または[33]に記載の水性組成物。
[35]
前記共刺激シグナリングドメインの前記1つまたは複数が、4-1BB(CD137)共刺激ドメインを含む、上記[34]に記載の水性組成物。
[36]
前記共刺激ドメインの前記1つまたは複数がCD28共刺激ドメインを含む、上記[34]または[35]に記載の水性組成物。
[37]
前記抗原結合ドメインがscFvである、上記[30]から[36]のいずれかに記載の水性組成物。
[38]
前記抗原結合ドメインが、CD19;CD123;CD22;CD30;CD171;CS-1;C型レクチン様分子-1;CD33;表皮増殖因子受容体変異体III(EGFRvIII);ガングリオシドG2(GD2);ガングリオシドGD3;TNF受容体ファミリーメンバーB細胞成熟(BCMA);Tn抗原((Tn Ag)または(GalNAcα-Ser/Thr));前立腺特異的膜抗原(PSMA);受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1);Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3);腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72);CD38;CD44v6;癌胎児性抗原(CEA);上皮細胞接着分子(EPCAM);B7H3(CD276);KIT(CD117);インターロイキン-13受容体サブユニットアルファ-2;メソテリン(mesothelin);インターロイキン11受容体アルファ(IL-11Ra);前立腺幹細胞抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21;血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体ベータ(PDGFR-ベータ);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);CD20;葉酸受容体アルファ;受容体チロシン-プロテインキナーゼERBB2(Her2/neu);ムチン1、細胞表面会合(MUC1);表皮増殖因子受容体(EGFR);神経細胞接着分子(NCAM);プロスターゼ;前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);延長因子2変異型(ELF2M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAP);インスリン様増殖因子1受容体(IGF-I受容体);炭酸脱水酵素IX(CAIX);プロテアソーム(プロソーム、マクロペイン)サブユニット、ベータ型、9(LMP2);糖タンパク質100(gp100);切断点クラスター領域(BCR)およびアベルソンマウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1(Abl)からなる癌遺伝子融合タンパク質(bcr-abl);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3;トランスグルタミナーゼ5(TGS5);高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-GD2ガングリオシド(OAcGD2);葉酸受容体ベータ;腫瘍内皮マーカー1(TEM1/CD248);腫瘍内皮マーカー7関連(TEM7R);クラウディン(claudin)6(CLDN6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1(PLAC1);グロボ(globo)Hグリコセラミド(GloboH)の六糖部分;乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン(uroplakin)2(UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体ベータ3(ADRB3);パンネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合体、座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRガンマ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);がん/精巣抗原1(NY-ESO-1);がん/精巣抗原2(LAGE-1a);黒色腫関連抗原1(MAGE-A1);ETS転座変異体遺伝子6、染色体12p上に位置(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリー、メンバー1A(XAGE1);アンギオポエチン結合性細胞表面受容体2(Tie2);黒色腫がん精巣抗原-1(MAD-CT-1);黒色腫がん精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパク質p53(p53);p53突然変異体;プロステイン;サバイビン(surviving);テロメラーゼ;前立腺癌腫瘍抗原-1、T細胞により認識される黒色腫抗原1;ラット肉腫(Ras)突然変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスの黒色腫阻害因子(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼV(NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;v-mycトリ骨髄球腫症ウイルス癌遺伝子神経芽腫由来ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2);チトクロームP450 1B1(CYP1B1);CCCTC結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様、T細胞により認識される扁平上皮細胞癌抗原3(SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OY-TES1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫、X切断点2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス1(RU1);腎臓ユビキタス2(RU2);レグメイン(legumain);ヒトパピローマウイルスE6(HPV E6);ヒトパピローマウイルスE7(HPV E7);腸カルボキシルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2突然変異型(mut hsp70-2);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA受容体(FCARまたはCD89)のFc断片;白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン-3(GPC3);Fc受容体様5(FCRL5);および免疫グロブリンラムダ様ポリペプチド1(IGLL1)からなる群から選択される抗原に結合する、上記[30]から[37]のいずれかに記載の水性組成物。
[39]
前記抗原結合ドメインが、CD19、メソテリンまたはCD123と結合する、上記[38]に記載の水性組成物。
[40]
前記CARが、抗CD19抗体またはその断片、4-1BB(CD137)膜貫通ドメインおよびCD3-ゼータシグナリングドメインを含む、上記[29]から[39]のいずれかに記載の水性組成物。
[41]
ヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)およびリポタンパク質からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質を含まない、上記[1]から[40]のいずれかに記載の水性組成物。
[42]
HSA、rHSA、BSAおよびリポタンパク質を含まない、上記[41]に記載の水性組成物。
[43]
前記レンチウイルスベクターが、血清の非存在下で培養された細胞において産生される、上記[1]から[42]のいずれかに記載の水性組成物。
[44]
前記レンチウイルスベクターが、動的光散乱(DLS)で測定したとき、100±25nmの流体力学半径により特徴づけられる、上記[1]から[43]のいずれかに記載の水性組成物。
[45]
前記レンチウイルスベクターが、25℃~55℃の温度範囲内で、100±25nmの前記流体力学半径を維持する、上記[44]に記載の水性組成物。
[46]
前記レンチウイルスベクターが、10%~25%の多分散性により特徴づけられる、上記[1]から[45]のいずれかに記載の水性組成物。
[47]
前記レンチウイルスベクターが、25℃~55℃の温度範囲内で、10%~25%の前記多分散性を維持する、上記[46]に記載の水性組成物。
[48]
前記レンチウイルスベクターの3回の凍結/融解サイクルの後の濃度が、前記凍結/融解サイクル前の前記水性組成物中の前記レンチウイルスベクターの濃度に対して約70%~約100%で維持され、前記凍結/融解サイクルがそれぞれ、前記水性組成物を凍結させ、その後前記水性組成物を室温で融解させることを含む、上記[1]から[47]のいずれかに記載の水性組成物。
[49]
前記レンチウイルスベクターが、6回の前記凍結/融解サイクルの後、約70%~約100%の前記濃度を維持する、上記[48]に記載の水性組成物。
[50]
前記レンチウイルスベクターが、9回の前記凍結/融解サイクルの後、約70%~約100%後の前記濃度を維持する、上記[49]に記載の水性組成物。
[51]
レンチウイルスベクターと、リン酸塩緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、3-モルホリノプロパン-1-スルホン酸(MOPS)緩衝液からなる群から選択される緩衝液と、塩とを含む水性組成物。 [52]
前記塩が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムからなる群から選択される、上記[51]に記載の水性組成物。
[53]
スクロースおよびトレハロースからなる群から選択される非還元炭水化物を更に含む、上記[51]または[52]に記載の水性組成物。
[54]
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、上記[1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物をフィルターに通すことにより、微生物を実質的に含まない水性組成物を生成することを含む方法。
[55]
前記フィルターが複数の孔を含み、前記孔が約0.2μmの直径を有する、上記[54]に記載の方法。
[56]
前記微生物を実質的に含まない水性組成物が、前記接触より前の前記水性組成物中の前記レンチウイルスベクターの濃度に対して約80%の濃度で前記レンチウイルスベクターを含む、上記[55]に記載の方法。
[57]
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、
a.上記[1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物を、複数の粒子を含む材料と接触させることと、
b.前記材料中を流れた物質を、前記材料内に残留する物質から分離することにより、前記レンチウイルスベクターが富化された水性組成物を生成することと、
を含む方法。
[58]
レンチウイルスベクターを精製する方法であって、上記[1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物をヌクレアーゼと接触させることにより、混入ポリヌクレオチドを実質的に含まない水性組成物を生成することを含む方法。
[59]
細胞において導入遺伝子を発現させる方法であって、前記細胞を上記[1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物と接触させることを含む方法。
[60]
前記細胞が哺乳動物細胞である、上記[59]に記載の方法。
[61]
前記哺乳動物細胞がT細胞である、上記[60]に記載の方法。
[62]
前記T細胞がヒトT細胞である、上記[61]に記載の方法。
[63]
前記ヒトT細胞が、293T細胞、Jurkat T細胞または初代ヒトT細胞である、上記[62]に記載の方法。
[64]
上記[1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物と、添付文書とを含むキット。 [65]
前記添付文書が、前記キットのユーザーに、上記[59]~[63]のいずれかに記載の方法に従って細胞において導入遺伝子を発現させるよう指示するものである、上記[64]に記載のキット。
[66]
上記[65]に記載の細胞の培養に使用できる試薬を更に含む、上記[65]に記載のキット。
[67]
導入遺伝子を任意に含むウイルスベクターを対象の細胞に送達する方法における、上記 [1]から[53]のいずれかに記載の水性組成物の使用であって、前記方法が、前記対象に前記組成物を投与することを含む、使用。