(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150448
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】移植可能なバイオリアクター、ならびにその作製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20241016BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20241016BHJP
A61L 24/04 20060101ALI20241016BHJP
A61L 24/06 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241016BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20241016BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20241016BHJP
A61L 24/10 20060101ALI20241016BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20241016BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20241016BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241016BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20241016BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20241016BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20241016BHJP
【FI】
A61L27/16
A61L24/00 260
A61L24/00 310
A61L24/00 311
A61L24/04
A61L24/06
A61L24/04 200
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/14
A61L27/38 300
A61L27/44
A61L27/52
A61L27/58
A61L29/14 300
A61L29/16
A61L24/10
A61L27/22
A61P17/02
A61P43/00 101
A61K35/545
C12M1/00 A
A61M25/00
C12N5/0735
C12N5/074
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024099808
(22)【出願日】2024-06-20
(62)【分割の表示】P 2020519749の分割
【原出願日】2018-10-05
(31)【優先権主張番号】62/568,348
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】チャオ-ウェイ ファン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジョンストン
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー ゲルステンブリス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジー ウェイス
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン トマセッリ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン シュルマン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、エンクロージャ内に密閉された細胞を備える移植可能なバイオリアクターを提供する。
【解決手段】細胞はパラクリン因子を産生することができ、エンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記エンクロージャは、前記細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、前記細胞を免疫学的攻撃から保護する免疫学的バリアをさらに提供するように半透過性であり、前記エンクロージャはエキソソーム、核酸およびタンパク質を含む細胞のセレクトーム全体に対して透過性である。前記移植可能なバイオリアクターは様々な構成を有し得、その他の活性剤と共にヒドロゲル、マイクロビーズおよびナノファイバーマトリックスを含み得る細胞培養マトリックスを内部に収容することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)内面および外面を有する密閉空間を規定する1つ以上のエンクロージャであって、
前記1つ以上のエンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可
能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記1つ以上のエ
ンクロージャは、前記密閉空間における細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防
ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるように半透過性であり、前記1つ以
上のエンクロージャは、前記エンクロージャからのパラクリン因子の流出を可能にするこ
とができる、1つ以上のエンクロージャ;および
b)前記1つ以上のエンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞であって、パラ
クリン因子を産生することができる、細胞
を備える、移植可能なバイオリアクター。
【請求項2】
a)内面および外面を有する密閉空間を規定する1つ以上のエンクロージャであって、
前記1つ以上のエンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可
能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記1つ以上のエ
ンクロージャは、少なくとも第1および第2の透過性材料層の間に、接触してまたは隣接
して配置された少なくとも1つの半透過性材料層を含み、前記第1の透過性材料層は前記
エンクロージャの外側に面する表面上にあり、前記第2の透過性材料層は前記エンクロー
ジャの内側に面する表面上にあり、前記1つ以上のエンクロージャは、前記密閉空間にお
ける細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供
することができるように半透過性であり、前記1つ以上のエンクロージャは、前記パウチ
からのパラクリン因子の流出を可能にすることができる、1つ以上のエンクロージャ;お
よび
b)前記1つ以上のエンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞であって、パラ
クリン因子を産生することができる、細胞
を備える、移植可能なバイオリアクター。
【請求項3】
a)内面および外面を有する密閉空間を規定する1つ以上のエンクロージャであって、
前記エンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可能かつ拡張
可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記1つ以上のエンクロージ
ャは、細胞培養マトリックス内の少なくとも1つの細胞層に接触または隣接する少なくと
も1つの半透過性材料層を含み、前記第1の透過性材料層は前記1つ以上のエンクロージ
ャの外側に面する表面上にあり、前記細胞層は前記1つ以上のエンクロージャの内側に面
する表面上にあって、巻くか折り畳むことができ、前記1つ以上のエンクロージャは、前
記密閉空間における細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学
的バリアも提供することができるように半透過性であり、前記1つ以上のエンクロージャ
は、前記エンクロージャからのパラクリン因子の流出を可能にすることができる、1つ以
上のエンクロージャ;および
b)前記エンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞であって、パラクリン因子
を産生することができる、細胞
を備える、移植可能なバイオリアクター。
【請求項4】
前記エンクロージャは生物学的材料および/または合成材料からなる、請求項1~3の
いずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項5】
前記生物学的材料は酢酸セルロースである、請求項4に記載の移植可能なバイオリアク
ター。
【請求項6】
前記合成材料は、ポリスルホン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、それらのコポリ
マー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラ
フルオロエチレンおよびそれらの誘導体、ポリカーボネートおよびその誘導体、ポリ(エ
チレン-コ-酢酸ビニル)およびその誘導体、ポリ(n-ブチルメタクリレート)および
その誘導体、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)およびその誘導体、ポ
リカプロラクトンおよびその誘導体、ポリイミドおよびその誘導体、ポリウレタンおよび
その誘導体、ポリ(乳酸)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ならびにシリコンから
なる群から選択される、請求項4に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項7】
前記エンクロージャは、直径が約50nm~5,000nmの細孔を有する、請求項1
~3のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項8】
前記エンクロージャは、100,000細孔/cm2~100,000,000細孔/
cm2の細孔密度を有する、請求項1~3のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクタ
ー。
【請求項9】
前記細胞は幹細胞である、請求項1~8のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクタ
ー。
【請求項10】
前記幹細胞は、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞および内皮幹細胞からなる
群から選択される、請求項9に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項11】
前記細胞培養マトリックスは、細胞培養培地、マイクロビーズ、ヒドロゲル(例えば、
ヒアルロナンベース、PEGベース、またはコラーゲンベースのヒドロゲル)、ポリマー
マトリックス、組織工学スキャフォールド、ナノファイバー(例えば、PLGAベースの
ナノファイバー)、および生物学的細胞外マトリックスからなる群から選択される1つ以
上の組成物を含む、請求項1~10のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項12】
前記マイクロビーズはポリスチレンベースのマイクロビーズである、請求項11に記載
の移植可能なバイオリアクター。
【請求項13】
前記マイクロビーズは細胞接着を強化する薬剤でコーティングされている、請求項12
に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項14】
前記マイクロビーズはフィブロネクチンでコーティングされている、請求項13に記載
の移植可能なバイオリアクター。
【請求項15】
前記細胞培養マトリックスは、ポリマーマトリックスおよび/またはマトリックスゲル
を含む、請求項11に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項16】
前記ポリマーマトリックスは、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、キトサン、デ
キストラン、コラーゲンおよび自己組織化オリゴペプチドからなる群から選択される、請
求項15に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項17】
前記マトリックスゲルは架橋ヒドロゲルである、請求項15に記載の移植可能なバイオ
リアクター。
【請求項18】
前記架橋ヒドロゲルは、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル/アミンコンジュゲー
ト、イソシアネート/アミンコンジュゲート、エポキシ/アミンコンジュゲート、イソチ
オシアネート/アミンコンジュゲート、およびアルコール/グルタメートからなる群から
選択される、請求項17に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項19】
前記細胞培養マトリックスはナノファイバーの三次元ネットワークを含む、請求項11
に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項20】
前記ナノファイバーの三次元ネットワークは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ
カプロラクトン、ポリ乳酸、ポリジオキサノン、非生分解性材料(ポリウレタン、ポリテ
トラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホンを含むがこれらに限
定されない)、および生物学的材料(セルロース、コラーゲン、脂質、核酸、タンパク質
を含むがこれらに限定されない)、およびそれらの組合せからなる、請求項19に記載の
移植可能なバイオリアクター。
【請求項21】
前記エンクロージャの外部表面は、細胞接着または血栓形成を妨げる薬剤でコーティン
グされている、請求項1~3のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項22】
前記パウチの内部表面は、細胞接着を強化する薬剤でコーティングされている、請求項
1~3のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項23】
前記バイオリアクターエンクロージャはワイヤーに取り付けられているか、カテーテル
に取り付けられているか、または別の移植可能な医療デバイスの一部として取り付けられ
ている、請求項1~3のいずれかに記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項24】
前記医療デバイスは、ステント、バルーン、大動脈内バルーンポンプ、心室補助デバイ
ス、人工弁、人工弁クリップ、人工弁リング、血栓フィルター、ペースメーカー、除細動
器、ペースメーカーまたは除細動器ワイヤー、中隔欠損閉鎖器、心耳装置、肺動脈カテー
テル、静脈カテーテルまたは動脈カテーテルである、請求項23に記載の移植可能なバイ
オリアクター。
【請求項25】
前記細胞は幹細胞および支持細胞を含む、請求項1~8のいずれかに記載の移植可能な
バイオリアクター。
【請求項26】
前記幹細胞は間葉系幹細胞であり、かつ前記支持細胞が線維芽細胞である、請求項25
に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項27】
前記エンクロージャは、前記パウチによって規定される封じ込め空間が空にされること
、充填されること、または再充填されことのうち少なくとも1つを可能にするためにアク
セス可能に構成されたポートを規定する、請求項1~3のいずれかに記載の移植可能なバ
イオリアクター。
【請求項28】
遠位端および近位端を有するカテーテルをさらに備え、前記カテーテルの前記遠位端は
前記ポートを介して前記パウチに取り付けられ、
前記カテーテルの前記近位端が使用中に患者の体の外部に延びるように適合される一方
で、前記カテーテルの前記遠位端が移植可能であるように、前記カテーテルは少なくとも
部分的に移植可能である、請求項27に記載の移植可能なバイオリアクター。
【請求項29】
前記エンクロージャはポリエチレンテレフタレートを含む、請求項6に記載の移植可能
なバイオリアクター。
【請求項30】
前記細胞培養マトリックスはフィブロネクチンでコーティングされたポリスチレンマイ
クロビーズを含み、前記幹細胞は間葉系幹細胞であり、前記バイオリアクターエンクロー
ジャはワイヤーに取り付けられている、請求項28に記載の移植可能なバイオリアクター
。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2017年10月5日に出願された米国仮特許出願第62/568,348
号の利益を主張し、当該出願の内容は、本明細書に完全に記載されているかのようにあら
ゆる目的で参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
幹細胞およびそれらが生成する生成物は、損傷した組織を再生し、損傷後の治癒を改善
する可能性を秘めている。このような治療は、心筋梗塞(MI)などの組織損傷後の有害
なリモデリングを制限し得る。有害なリモデリング、即ち、MI後の収縮末期容積(ES
V)および拡張末期容積(EDV)の変化によって評価される左心室容積の増加は、死亡
率と心不全の発症との強力な予測因子である。しかしながら、多くの臨床試験のおける有
害なリモデリングに対する幹細胞療法の効果は、現在まで控えめである。1つの理由は、
静脈内もしくは冠動脈内注入によるか、または直接の心筋注入によるかにかかわらず、幹
細胞を患者に送達するために現在使用されている方法の多くでは、おそらく、心臓に留ま
る細胞の割合はごくわずかであり、心臓に留まる細胞のうち有意な期間生存する細胞はほ
とんどないことであるかもしれない。同時に、幹細胞療法の好ましい効果の多くは、成長
因子、サイトカイン、ケモカイン、核酸、エキソソーム、ならびにその他の分子および小
胞の放出から生じるという前臨床研究からの証拠が増えている。細胞セクレトームのこれ
らおよびその他のコンポーネントは、まとめて「パラクリン因子」と呼ばれる。したがっ
て、心臓に送達された細胞がそこに留まり、限られた期間しか生残しない場合、該細胞が
パラクリン機構を介して有益な効果を発揮するための時間も同様に限られ、このことは、
ほとんどの臨床試験で見られる控えめな有益な効果に対する1つの説明であるかもしれな
い。
【0003】
梗塞をした心筋の治癒および再生を促進するために幹細胞の冠内および心筋内注射を使
用した臨床試験は、これまでに控えめな結果をもたらしてきた。控えめな結果の潜在的な
理由にはパラクリン因子の不十分なレベルが含まれ、これは、細胞死、免疫学的メカニズ
ムによる除去、および送達後の単純な「ウォッシュアウト」による細胞の保持不良が原因
であり、細胞に有益な効果を発揮するための短時間の機会しか残さない。
【0004】
したがって、修復および治癒を必要とする臓器にパラクリン因子を送達するための改善
された方法に対する満たされていないニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0005】
幹細胞の生存および保持を改善し、それにより幹細胞が有益なパラクリン媒介効果を発
揮できる時間を増加させるために、本発明者は、移植可能なバイオリアクターを開発した
。当該バイオリアクターは、細胞、例えば幹細胞の集団を収容するエンクロージャであり
、いくつかの実施形態では他の非幹細胞型を備え、パラクリン因子、栄養素および廃棄物
の自由交換を可能にするが、細胞の自由交換は可能にしない半透過性膜を有し、2011
年10月3日に出願された米国特許出願第13/251,910号に開示された本発明者
の第1世代バイオリアクターに関連し、当該出願の内容はその全体が記載されているかの
ように参照により本明細書に援用される。バイオリアクターの細胞の脱出とホストの免疫
細胞の侵入とを防ぐことにより、当該バイオリアクターは、パラクリン因子を放出しなが
ら、収容される細胞がin vivoで長期間生存できる保護された環境をもたらし、し
たがって有益な効果をもたらす時間を長くすることができる。移植可能なバイオリアクタ
ーは、パラクリン因子の全身または局所送達用であり得る。バイオリアクターは、任意に
、別の医療デバイスに接着することができる。
【0006】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞培養マトリックス内
の細胞であって、パラクリン因子を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージ
ャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可能かつ拡張可能であるか、ま
たは折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記エンクロージャは、前記細胞の封じ込めを
もたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるよう
に半透過性である、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0007】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、移植可能なバイオリアクターであって、前記
バイオリアクターの前記エンクロージャは非細胞支持構造を備え、該構造はその表面上で
の細胞の増殖を可能にする、移植可能なバイオリアクターを提供する。そのような支持構
造の例には、マイクロビーズ、ナノファイバー、およびヒドロゲルが含まれるが、これら
に限定されず、折り畳み可能および拡張可能にすることもできる。
【0008】
さらなる実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内のナノファイバーの三次元ネ
ットワーク内に密閉された細胞であって、パラクリン因子を産生することができる細胞を
備え、前記エンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可能か
つ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記エンクロージャは
、前記細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提
供することができるように半透過性である、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0009】
一実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内に密閉された細胞であって、パラク
リン因子を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは折り畳み可能である
か、拡張可能であるか、折り畳み可能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡
張可能でもなく、前記エンクロージャは、少なくとも1つの透過性材料層に接触または隣
接する少なくとも1つの半透過性材料層を含み、前記透過性材料層は前記エンクロージャ
の外側を向いている側にあり、前記エンクロージャは、前記細胞の封じ込めをもたらし、
前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるように半透過性
である、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0010】
別の実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞であって、パラクリン因子
を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張
可能であるか、折り畳み可能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能で
もなく、前記エンクロージャは、少なくとも第1および第2の透過性材料層の間に、接触
してまたは隣接して配置された少なくとも1つの半透過性材料層を含み、前記第1の透過
性材料層は前記エンクロージャの外側を向いている側にあり、前記第2の透過性材料層は
前記エンクロージャの内側を向いている側にあり、前記エンクロージャは、前記細胞の封
じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することがで
きるように半透過性である、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0011】
一実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞であって、パラクリン因子を
産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは、細胞培養マトリックス内の少
なくとも1つの細胞層に接触または隣接する少なくとも1つの半透過性材料層を含み、前
記第1の透過性材料層は前記エンクロージャの外側を向いている側にあり、前記細胞層は
前記エンクロージャの内側を向いている側にあり、該構造が前記細胞の封じ込めをもたら
し、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるように、前
記細胞層は巻くか、積み重ねるか、折り畳む(rolled, stacked, or
folded)ことができる、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞を備える移植可能な
バイオリアクターであって、前記バイオリアクター内に1つ以上のエンクロージャまたは
ルーメンが存在する、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】in vitroでのパラクリン因子産生および細胞生存率実験のための第1世代(G1)幹細胞移植可能なバイオリアクター(SCIB)示す図である。
【
図2】in vitroでのプロトタイプG1-SCIBからのパラクリン因子の放出を示す図である。10
6個のヒトMSCを含むG1-SCIBは、7日間にわたって培養されたとき、周囲の培地に関連するPFを放出した。
【
図3】in vivoのプロトタイプG1-SCIBを示す図である。A)右の内頸静脈を介して移植されたプロトタイプG1-SCIBの透視画像。異種間ヒトMSCは、B)ブタの生体内で1週間後にプロトタイプSCIBから関連するPFを放出し続け、C)培養において正常なMSC形態および増殖特性を示した。
【
図4】ESV(p=0.036細胞vsプラセボ)およびEDV(p=0.059細胞vsプラセボ)の増加量の減少により測定したとき、G1-SCIB療法はMI後4週間の有害なリモデリングを減少させた。
【
図5】MIの3日後および4週間後の遅延ガドリニウム造影MRIにより測定された傷跡のサイズ。傷跡のサイズは、細胞群およびプラセボ群の両方で変化したが、SCIBベースの細胞療法は、密なコア傷跡の減少とともに、不均一な灰色の傷跡の増加をもたらした。
【
図6】トラックエッチングされた(ポリ)エチレンテレフタレート(PET)フィルムの走査型電子顕微鏡写真であり、均一な円柱状の細孔の密なパターンを示している(低倍率:左;高倍率:右)。
【
図7】G2 SCIB装置の一実施形態の概略図であり、以下の寸法を有するカテーテル上のデュアルルーメンパウチを示す:シャフト長30cmの0.064インチカテーテルシャフト、2mmテーパーカテーテルチップ、シングル0.014インチOTWガイドワイヤーポート、シングル細胞注入ポート、ルアー互換接続、および2つの放射線不透過マーカー(
図7A)。バイオリアクターのパウチの実施形態を示す写真である。写真は、以下の仕様のG2-SCIB細胞チャンバー設計を示している:壁厚約25um、直径約6.0mm、長さ約120mmで、直径約2μmのトラックエッチングされた細孔を有し、約7×10
6~8×10
6細孔/cm
2のポリエチレンテレフタレート構造(
図7B)。チャンバーまたはパウチは、内部マイクロビーズ(カスタマイズ可能)および/または内部ヒドロゲル(カスタマイズ可能)などの非細胞支持構造を含むことができる。
【
図8】本発明のデュアルルーメンパウチまたはチャンバーの一連の写真を示す図であり、直径約2μmのトラックエッチングされた細孔、およびそれらの高く均一な密度を詳細に示す顕微鏡写真が2つの異なる倍率で示されている。
【
図9】間葉系幹細胞(MSC)がフィブロネクチンでコーティングされたポリスチレンビーズに付着できることを示す図であり、該ビーズは内部細胞接着微小表面を提供し、バイオリアクターの細胞パウチまたはチャンバー内の細胞容量および生存率を高める。細胞チャンバー内での培養7日後の緑:生細胞/赤:死細胞染色を使用して、顕微鏡写真は、ポリスチレンビーズに付着している生きているMSCを示し、より高倍率で生きているMSCを有する単一ビーズを示す。細胞チャンバー内における90%超の細胞生存率が7日で達成され、生細胞はチャンバーまたはパウチ全体に分布していた。
【
図10】直径0.44μmの細孔を有するトラックエッチングされたPET膜パウチの透過性を示す図である。(A)FITC標識ウシ血清アルブミンは、SCIBから迅速に放出される;(B)エキソソーム(赤で表示)も膜を自由に通過し、H9c2ラット心筋芽細胞(緑)によって容易に取り込まれる。
【
図11】MSCがヒドロゲルマトリックスなしでSCIBパウチにロードされた場合(B、オレンジ)よりも、MSCがヒドロゲルマトリックスと一緒にSCIBパウチにロードされた場合(B、青)に、G2-SCIBパウチ中のマウスMSCの生物発光イメージング(BLI)(A)は著しく高くなる。生物発光が高いほど、細胞生存率が高くなる。
【
図12】A)G2-SCIB(オレンジ)からのVEGF放出は、G1-SCIB(青)からのVEGF放出よりも10倍以上多い。B)これと一致して、G2-SCIBによって誘発された内皮細管形成も、G1-SCIBによって誘発された内皮細管形成を上回る。
【
図13】細胞培養マトリックスまたはナノファイバークラウドを封入する透過性膜および半透過性膜を有する本発明のバイオリアクターエンクロージャの実施形態の例を示す図である。
【
図14】ナノファイバーメッシュおよび細胞層を有する交互の層を備えたロール型エンクロージャバイオリアクターの実施形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において開示される移植可能なバイオリアクターの実施形態は、密閉ハウジン
グにおけるウォッシュアウトまたは免疫学的クリアランスからバイオリアクターの内容物
を保護しながら、バイオリアクターから分泌されるパラクリン因子の適切な長期送達をも
たらすことにより、拡散またはウォッシュアウトの問題を解決することができる。本発明
は、一実施形態では低侵襲の経皮バイオリアクターを、別の実施形態では移植可能なデバ
イスを含み、その両方がパラクリン因子を適切に産生および放出することができる。バイ
オリアクターは、パラクリン因子の放出により、他の組織または臓器における治癒および
再生を促進するためにも使用され得る。
【0015】
本明細書で使用される場合、「バイオリアクター」とは、ハウジングまたはエンクロー
ジャ内の細胞の集まり、またはパウチ内の細胞によって生成されるパラクリン因子の放出
を可能にする半透過性膜内に挟まれた細胞の集まりを指す。バイオリアクターは、複数の
ハウジング、エンクロージャ、またはルーメンを含むことができる。バイオリアクターは
、カテーテルを使用して、またはカテーテル使用せずに、哺乳類における原位置に(in
situ)配置され得る。いくつかの実施形態では、バイオリアクターは、カテーテル
または類似の装置を用いて、哺乳類の血管空間内の原位置に(in situ)配置され
得る。
【0016】
本明細書で使用される場合、「パラクリン因子」とは、別の細胞に影響を与えるために
1つの細胞によって産生される拡散性成分である。拡散性成分は、任意のタンパク質、成
長因子、核酸、核物質、ウイルス、ウイルスベクター(遺伝子治療で使用されるベクター
を含む)、脂質、生体分子、サイトカイン、ケモカイン、小胞、エキソソーム、バイオリ
アクター内に収容された細胞によって産生される栄養素または流体を含む、細胞セクレト
ームの任意の成分であり得る。本発明のパウチの透過性特性は、パラクリン因子、栄養素
、廃棄物、およびシグナル伝達因子のエンクロージャへの出入りを可能にするが、免疫細
胞の侵入、または幹細胞もしくは他の種類の細胞の侵入もしくは流出は可能にしないよう
に設計されているため、本発明の重要な特徴である。当業者は、「パラクリン因子」には
、典型的には直径50nm~200nmの小胞であるエキソソームを含む多くの因子が含
まれることを理解するであろう。いかなる特定の理論にもとらわれることなく、これらの
因子は、組織修復を支援する目的のためにin vivo導入される幹細胞または他の細
胞型に起因するあらゆる保護効果の主要なメディエーターのうちの1つであることも企図
される。パラクリン因子の例には、血管新生を促進する因子(例えば、VEGF、HGF
、ANG)、細胞保護を促進する因子(例えば、IGF-1、LIF、TMSB4)、細
胞増殖を促進する因子(例えば、FGF、PGF、SCG)、細胞遊走を促進する因子(
例えば、THBS1、SDF-1、PDGF)、ならびにこれらの因子の1つ以上を組み
込んだ分泌型エキソソームが含まれる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「半透過性」という用語は、一部の実施形態では、エンク
ロージャの外膜が、特定のサイズの分子、タンパク質、ペプチド、核酸、小胞などが膜を
通過することを許し、細胞などのより大きなサイズのオブジェクトは通過できないことを
意味する。これらの種類の膜は市販されており、種々の分子量カットオフ値または細孔サ
イズを有する。他の実施形態では、「半透過性」という用語は、特定のサイズのタンパク
質、ペプチド、核酸、小胞などが膜を通過し、細胞などのより大きなサイズのオブジェク
トは通過できないことを可能にするために、透過性ではない膜または表面に特定の直径で
作製された微細孔の存在を意味するために使用される。
【0018】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」は、胚性幹細胞、成体幹細胞、および人工多能
性幹細胞を含み得るが、これらに限定されない。胚性幹細胞は、限定されることなく、全
能性幹細胞、多能性幹細胞および複能性幹細胞を含み、成体幹細胞は、限定されることな
く、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、脂肪由来幹細胞および内皮幹細胞を含む。いくつかの実
施形態では、例えば、線維芽細胞、心筋細胞、内皮細胞、他のパラクリン因子分泌細胞(
例えば、限定されることなく、肝細胞、膵島細胞、骨髄細胞)、または操作された細胞な
どの任意の非幹性型の細胞(non-stem types of cells)および
それらの任意の組み合わせも含まれ得る。いくつかの実施形態では、カーディオスフィア
(cardiosphere)などの細胞クラスター、ならびに異なる幹細胞および非幹
細胞の混合物も含まれ得る。いくつかの実施形態では、該細胞は、例えば、遺伝子改変細
胞(例えば、細胞または細胞群に固有であっても固有でなくてもよい成長因子をコードす
る遺伝子でトランスフェクトされた細胞)、別の細胞型から形質転換された細胞(例えば
、人工多能性幹細胞およびこれらの細胞に由来する細胞)、または検出可能な部分で標識
された細胞(例えば、蛍光タグを有する細胞または生物発光をコードする遺伝子を有する
トランスフェクトされた細胞)などの「改変」または「操作された」細胞を含み得る。
【0019】
本発明の様々な実施形態は以下を含む:(a)細胞戦略を利用して損傷した心筋および
他の組織の回復を強化する移植可能なバイオリアクター;(b)経皮的に移植可能なバイ
オリアクター(意図した治療期間が完了した後の取り外しを可能にする、容易に回収可能
な経皮バイオリアクターも含む);(c)細胞によって新たに(de novo)生成さ
れるパラクリン因子を放出する、一時的な移植可能なデバイス;(d)細胞によって新た
に(de novo)生成されるパラクリン因子を放出する、永久的な移植可能なデバイ
ス;(e)標準的な血管鞘を介して移植されたバイオリアクター;(f)標的組織におい
てパラクリン因子を局所的に放出する移植可能なバイオリアクター;(g)細孔を有する
バリアを含む移植可能なバイオリアクターであって、該細孔は細胞由来の生体分子の放出
を可能にするが、免疫細胞および他の細胞の侵入、またはバイオリアクター内に収容され
た細胞の流出を可能にするほど十分に大きくない、移植可能なバイオリアクター;(h)
本明細書に記載されている材料で構成されるバリアを含み、該バリアは細胞由来の生体分
子の放出を可能にするが、免疫細胞および他の細胞の侵入、またはバイオリアクター内に
収容された細胞の流出を可能にするほど十分に大きくないように設計されている移植可能
なバイオリアクター;(i)パラクリン因子を全身的に放出する移植可能なバイオリアク
ター;(j)カテーテル内にマルチチューブおよびマルチルーメン細胞チャンバーまたは
パウチを有する移植可能なバイオリアクター;および(k)細胞チャンバーまたはパウチ
内に、マイクロビーズまたはナノファイバーまたはヒドロゲルマトリックスなどの非細胞
支持構造を有する移植可能なバイオリアクター。
【0020】
1つ以上の実施形態によれば、本発明のバイオリアクターは、パラクリン因子の全身送
達または局所送達のいずれかのために設計され得る。バイオリアクターは、外科、腹腔鏡
、経皮、内視鏡、関節鏡、または気管支鏡の技術を含むがこれらに限定されない任意の臨
床技術による移植の実施形態を包含する。バイオリアクターは、様々な実施形態において
、医療デバイスに接着することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、全身送達用の移植可能なバイオリアクターは、幹細胞または
パラクリン因子を産生および放出する他の細胞型を収容するエンクロージャを備える。細
胞エンクロージャは、一実施形態では、半透過性膜で製造された物理的エンクロージャを
含み、別の実施形態では、幹細胞を封入する微孔質ポリマーマトリックスで製造された物
理的エンクロージャを含む。細胞エンクロージャは、細胞に対しては非透過性であるが、
流体、パラクリン因子、廃棄物および栄養素の自由な透過を可能にするのに十分なサイズ
の微細孔を含むので、それらは効率よくかつ妨害なしに移送され得る。いくつかの実施形
態では、移植可能なバイオリアクターは、(中心静脈や大動脈などの)血管内空間に配置
される;他の体腔、開口部、組織、血管、臓器、または皮膚(例えば、傷中)への移植も
企図される。いくつかの実施形態では、移植可能なバイオリアクターは一時的に移植され
、後で回収される。他の実施形態では、移植可能なバイオリアクターは永久的な移植物と
して無期限に残る。
【0022】
本発明の移植可能なバイオリアクターは、標的における産生されたバイオプロダクト(
bio-products)の全身送達または局所送達のために設計され得る。どちらの
タイプも、外科、腹腔鏡、経皮、内視鏡、関節鏡、または気管支鏡の技術を含むがこれら
に限定されない任意の臨床技術による移植の実施形態を包含する。どちらのタイプも、様
々な実施形態において、医療デバイスに接着することができる。
【0023】
一実施形態では、全身送達用の移植可能なバイオリアクターは、パラクリン因子を産生
および放出する幹細胞および/または他の細胞型を収容するエンクロージャを備える。細
胞エンクロージャは、一実施形態では、幹細胞を封入する半多孔質膜で製造された物理的
エンクロージャを含み、別の実施形態では、幹細胞を封入する微孔質ポリマーマトリック
スで製造された物理的エンクロージャを含む。細胞エンクロージャは、細胞に対しては非
透過性であるが、流体、パラクリン因子、廃棄物および栄養素の自由な透過を可能にする
のに十分なサイズの微細孔を含むので、それらは効率よくかつ妨害なしに移送され得る。
【0024】
全身送達用バイオリアクターの別の実施形態では、移植可能なバイオリアクターのエン
クロージャは、そのルーメン中に幹細胞、他の細胞型、および/または培地を含むエンク
ロージャである。様々な実施形態において、エンクロージャは、(a)スタンドアロンで
あるか、または(b)ワイヤーまたはカテーテルに取り付けられるか、または(c)別の
移植可能なデバイスの一部として取り付けられ得、(c)の場合、エンクロージャは他の
デバイスと一緒に移植され得る。これらの例のいずれにおいても、バイオリアクターは、
外科的移植、経皮的移植、または任意の身体開口部もしくは傷を介した挿入、または腹腔
鏡、内視鏡、関節鏡もしくは気管支鏡技術を介した配置を含むがこれらに限定されない任
意の臨床技術によって移植され得る。これらの例のいずれにおいても、バイオリアクター
は除去され得る。一実施形態では、エンクロージャを所望の内容物で事前に充填すること
ができ、または、カテーテルに取り付けられている場合、移植中および移植後に、エンク
ロージャを充填すること、ならびに潜在的に空にすることおよび再充填することができる
。経皮的に移植される場合、例えば血管内空間への配置のために、デバイスを直接または
標準的な血管鞘を介して通すことができる(可能な実施形態が、
図1、
図7および
図8に
示されている)。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、本発明のバイオリアクターは、細胞用のエンクロージャ
として機能する1つ以上の細胞チャンバーまたはパウチを備える。
(a)構造
いくつかの実施形態では、細胞チャンバー/パウチは、1つ以上のカテーテル管の本体
または遠位端に取り付けられ、任意に、カテーテルを介した細胞パウチへの物質の注入、
サンプリング、および/または循環を可能にするために、少なくとも1つの開放ポートに
またがる。細胞パウチの幾何学的形状に制限はない;例えば、細胞パウチは滑らかかつ円
筒形であってもよく、複数の凹部と表面の起伏とで形作られてもよい。細胞パウチの最大
直径は、それが配置される解剖学的構造を完全にまたがって閉塞しないようなものである
。パウチの位置決めを支援するために、パウチのいずれかの端、パウチ内、または取り付
けられたカテーテル上に、放射線不透過性マーカーを配置することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターのカテーテルは閉鎖され得、開放ポートを
含まない。
【0027】
要約すると、本発明のバイオリアクターの実施形態の複数のバリエーションが存在し得
る。そのようなバリエーションは、例えば、1つ以上のカテーテル管を含むことができる
;各カテーテル管は、1つ以上の細胞チャンバーまたはパウチを含むことができる;各細
胞チャンバーまたはパウチは、1つ以上のカテーテル管にまたがることができる。
【0028】
(b)半透過性
いくつかの実施形態では、バイオリアクターエンクロージャの細胞パウチ壁は半透過性
である。少なくとも2つの広範な可能な実施形態がある。第一の例示的な実施形態では、
該壁は免疫保護バリアであり、したがって細胞に対しては不透過性であるが、(成長因子
、タンパク質、脂質、エキソソーム、核物質、および細胞外小胞を含む)細胞セクレトー
ムのコンポーネント、ならびに老廃物および栄養素に対しては透過性である。これらの条
件を満たすことができる細孔サイズの具体的な範囲には、50nm~5000nmの細孔
直径が含まれる。
【0029】
第2の例示的な実施形態では、該壁は、ウォッシュアウトバリアとしてのみ機能する。
この実施形態では、バイオリアクターエンクロージャの細胞パウチ壁は、細胞パウチ内の
細胞を含む免疫保護構造に対して不透過性である(以下に詳述)が、それ以外の場合は透
過性である。この場合の細孔直径は、内部免疫保護構造の最小直径よりも小さいことだけ
が必要である。
【0030】
(c)内部免疫保護構造
いくつかの実施形態によれば、細胞は、スタンドアロンまたは免疫保護構造内のいずれ
かで、バイオリアクターエンクロージャの細胞パウチ内に配置される。これらの免疫保護
構造は文献に詳しく記載されており、ヒドロゲルミクロスフェア(例えば、キトサン、ア
ルギン酸塩、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、およびそれらの様々な誘導体に基づく
)およびエンクロージャ、セルロースベースのエンクロージャ、ナノファイバーベースの
マトリックス、または微細加工された細胞エンクロージャを含む。これらの免疫保護構造
の特徴には、半透過性が含まれる;すなわち、それらは細胞に対して不透過性であるが、
栄養素、老廃物、および細胞セクレトームのコンポーネントに対して透過性である。細胞
パウチ中の免疫保護構造内に細胞を配置することは、細胞パウチ自体も免疫保護性である
必要はないことを示唆する。
【0031】
(d)材料組成
いくつかの実施形態によれば、バイオリアクターエンクロージャの細胞チャンバー/パ
ウチは、広範囲の生体適合性の合成材料および非合成材料の1つまたはそれらの組み合わ
せから構成され得る。合成材料の例としては、特にポリ(エチレンテレフタレート)およ
びその誘導体を含むポリエステルおよびその誘導体のポリマーおよびコポリマー、ポリテ
トラフルオロエチレンおよびその誘導体を特に含むフルオロポリマー、ポリカーボネート
およびその誘導体、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)およびその誘導体、ポリ(n-ブ
チルメタクリレート)およびその誘導体、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチ
レン)およびその誘導体、ポリカプロラクトンおよびその誘導体、ポリイミドおよびその
誘導体、ポリウレタンおよびその誘導体、ポリスルホンおよびその誘導体、ポリアクリロ
ニトリルおよびその誘導体、ポリメチルメタクリレートおよびその誘導体、ポリ(乳酸)
、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、シリコンが挙げられる。非ポリマー材料には、シ
リコンおよびその誘導体が含まれ得る。非合成材料の例には、セルロースベースの材料お
よびその誘導体、コラーゲンベースの材料およびその誘導体、ならびに細胞外マトリック
スベースの材料およびその誘導体が含まれる。材料はもともと多孔質である(例えば、セ
ルロースまたは延伸ポリテトラフルオロエチレン)ことも、(トラックエッチング、レー
ザーマイクロドリル、マイクロマシニング、フォトリソグラフィーエッチング、化学エッ
チングなどの)様々な製造方法で多孔質にすることもできる。
【0032】
コーティング
本発明のバイオリアクターエンクロージャの内面は、細胞の付着および機能を強化する
分子でコーティングされ得る。具体例には、フィブロネクチン、ポリリジン、Arg-G
ly-Asp配列を有するタンパク質、および任意の誘導体が含まれる。内面を表面修飾
して、細胞の付着および機能を強化することもできる。このプロセスの具体例には、コロ
ナ処理およびプラズマ処理が含まれる。バイオリアクターエンクロージャの外面は、血栓
症および/または線維症を最小限に抑えるため、免疫原性を低下させるため、生体適合性
を向上させるため、またはその他の物質の持続的送達性を向上させるために、コーティン
グまたは表面修飾され得る。コーティングまたは表面修飾の調整は、当業者によく知られ
ている。具体例には、ヘパリン鎖またはポリエチレングリコール鎖の外部表面への付着、
または外部表面のフルオロパッシベーション処理(fluoropassivation
treatment)が含まれる。さらに、薬物送達デバイスを細胞チャンバー/パウ
チに取り付けて、内部微小環境または細胞パウチの外部への任意の薬物または薬剤の送達
を可能にすることができる。そのようなデバイスは、例えば、薬物または生物活性剤を含
有する、ヒドロゲル、ポリマーマトリックス、ビーズ、およびナノ粒子を含み得る。
【0033】
形状
バイオリアクターエンクロージャの物理的形状は、滑らかになるように設計され得るか
、または物質移動のための表面積を最大化するために表面の起伏および凹部を組み込むよ
うに設計され得る。
【0034】
バイオリアクターの内容物
治癒および/または再生の標的とされている損傷および臓器の種類に基づいて、任意の
数の天然または遺伝的に改変された細胞型または幹細胞株がデバイスにおいて使用され得
る。該細胞は、スタンドアロンで使用することも、または任意の数のタンパク質、成長因
子、核酸、またはその他の分子もしくは小胞を含む培地に浸すこともできる。バイオリア
クターの内容物の具体的かつ非網羅的な例を以下の段落で概説する。
【0035】
細胞チャンバー/パウチの内部環境
細胞パウチの内部微小環境は、以下のコンポーネントの少なくとも1つ以上を含む:(
a)1種類以上のパラクリン因子産生細胞;(b)非細胞支持構造;(c)1種類以上の
支持細胞。細胞パウチの内部微小環境は、細胞培養培地を含むこともできる。これらのコ
ンポーネントのすべては、パラクリン因子の産生量、放出動態、およびパラクリン因子の
種類を制御するために、エンドユーザーによっていつでもカスタマイズされ得る。さらに
、細胞の付着および増殖を強化する薬剤(例えば、ポリリジン、フィブロネクチン、また
はArg-Gly-Asp配列を有するタンパク質)、血栓症を軽減する薬剤(例えば、
ヘパリン、直接トロンビン阻害剤、または抗血小板薬)、炎症を軽減する薬剤(例えば、
ステロイドを用いて)、感染を軽減する薬剤(例えば、抗生物質または抗ウイルス剤を用
いて)、細胞増殖を調整する薬剤(例えば、成長要因を用いて)を含むように、または任
意の薬物もしくは薬剤を内部微小環境中または細胞パウチの外部に送達することができる
ように、内部微小環境のすべてのコンポーネントを変更することができる。さらに、任意
の薬物または薬剤の内部微小環境のみへの送達、または細胞パウチの外部への送達も同様
に可能にするために、内部微小環境は薬物送達デバイスを含むことができる。そのような
デバイスは、例えば、薬物または生物活性剤を含む、ヒドロゲル、ポリマーマトリックス
、ビーズ、およびナノ粒子を含み得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターは、上述のように、カテーテル管に取り付
けられたエンクロージャであり、該カテーテル管は、パウチのルーメンを患者の外部のカ
テーテル部分に接続するポートを備え、細胞および培地の注入、サンプリング、および循
環を可能にする。他の実施形態では、カテーテルのハウジング内の複数のルーメンは、パ
ウチ内の細胞の継続的な循環のための追加オプションを与えることができ、開放された遠
位ポートは静脈ラインとしてまたは中心静脈圧のために使用され得る。あるいは、バイオ
リアクターをワイヤーに直接取り付けることもできる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「非細胞支持構造」という用語は、限定されることなく、ビ
ーズ、微粒子、ナノファイバー、および細胞培養マトリックスなどの物理的なものを含む
ことができる。細胞培養マトリックスは、例えば、ヒドロゲル、スキャフォールド、ナノ
ファイバー、微粒子を含むことができ、生物学的材料、合成材料、または異なる生物学的
材料および/または合成材料の任意の組み合わせに基づくことができる。細胞培養マトリ
ックスは、生分解性または非生分解性であり得る。あるいは、細胞培養マトリックスは、
酵素などの特定の薬剤と接触させない限り分解しない材料で作製することができる。その
ような材料の例はコラーゲンまたはヒアルロナンマトリックスであり、それぞれコラゲナ
ーゼまたはヒアルロニダーゼと接触するように配置されない限り分解しない。バイオリア
クターの内部微小環境の細胞チャンバーまたはパウチは、培地、マイクロビーズ(例えば
、ポリスチレンベースのマイクロビーズ、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)ベースのマイ
クロビーズ、またはポリ(乳酸)ベースのマイクロビーズ)、ヒドロゲル(例えば、ヒア
ルロナンベースのヒドロゲル、ポリ(エチレングリコール)ベースのヒドロゲル、または
コラーゲンベースのヒドロゲル)、ポリマーマトリックス、組織工学スキャフォールド、
ナノファイバー(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)ベースのナノファイバー)、
および生物学的細胞外マトリックスの1つまたはそれらの組み合わせを含むことができる
。支持構造を使用して、一次パラクリン因子産生細胞または支持細胞、またはそれら両方
の細胞接着および増殖を促進することができる。細胞接着または細胞増殖を促進するため
に、支持構造のコンポーネントを(例えば、フィブロネクチン、ポリリジン、インテグリ
ン、カドヘリン、シンデカン、Arg-Gly-Asp配列を有するタンパク質、または
その他の薬剤で)コーティングまたは(例えば、コロナ処理またはプラズマ処理で)表面
修飾することもできる。拡散バリアを課してパラクリン因子の放出動態を制御する(例え
ば、パウチに様々な密度のヒドロゲルを充填することによって)ために、支持構造を使用
することもできる。支持構造の材料は、合成材料または非合成材料であり得、かつ生分解
性または非生分解性であり得る。細胞支持環境の注入前、注入中、または注入後に、細胞
を細胞パウチに注入することができる。あるいは、細胞を、最初にパウチの外側の支持環
境で成長させて(例えば、ミクロスフェアまたはナノファイバーの表面で成長させて)か
ら、パウチ内に配置することができる。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、細胞培養マトリックスまたは非細胞支持構造は、事前に
ロードされて後の使用のために保管されていた細胞と一緒にバイオリアクターエンクロー
ジャ内に封入される前または後に、事前形成され得る;または代替的に、その個々のコン
ポーネントの反応物中に保存され、必要な場合にだけバイオリアクターエンクロージャ内
への直接添加によって調製され得る;または代替的に、バイオリアクターエンクロージャ
の外側に形成されてから、形成された状態でバイオリアクターエンクロージャ内に注入さ
れ得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、デバイスが移植される間に、非細胞支持構造の形成、改変、
またはその両方を行うこともできる。例えば、バイオリアクターが移植される間に、非細
胞性細胞外マトリックスは、線維芽細胞によってバイオリアクターエンクロージャ内にお
いてin situで形成、改変、またはそれらの両方をされ得る。非細胞支持構造は、
薬剤またはバイオリアクター内もしくはバイオリアクター外の状態の変化によって改変さ
れ得る。例えば、バイオリアクターエンクロージャ内に配置されたヒアルロナンベースの
マトリックスは、ホストのヒアルロニダーゼへの曝露により、時間の経過とともに分解さ
れ得る。細胞は、バイオリアクターエンクロージャ内の細胞培養マトリックス中で増殖さ
せるか、または最初にバイオリアクターエンクロージャ外の細胞培養マトリックス中で増
殖させてから、細胞培養マトリックスと共にバイオリアクターエンクロージャ内に注入す
ることができる。
【0040】
具体例として、間葉系幹細胞は、パウチ中に配置される前に、フィブロネクチンでコー
ティングされたポリスチレンマイクロビーズ(例えば、直径約100μm)上に播種され
る。播種された細胞は、細胞パウチ中に配置される前にマイクロビーズ上で一定期間増殖
させるか、または細胞パウチ中に配置される直前にマイクロビーズに播種されるか、また
は代替的に、ブランクのマイクロビーズがパウチ中に配置されてから細胞が細胞パウチ中
に直接注入されるか、または前述の方法のいくつかが組み合わせられる。直径100μm
の各マイクロビーズは、例えば、15~100、20~100、25~100、30~1
00、40~100、50~100、60~100、70~100、80~100、90
~100細胞を含む、約10~100細胞の容量を有し得、したがって、エンドユーザー
は、注入されるマイクロビーズの数を制御することによって、細胞パウチ中の細胞数を制
御することができる。
【0041】
ヒトまたは非ヒト細胞、幹細胞、非幹細胞、遺伝子改変細胞、タグ付き細胞、表面修飾
細胞、操作された細胞、細胞クラスター、および原核または真核細胞を含むがこれらに限
定されない、任意の細胞型または細胞型の組み合わせをバイオリアクターエンクロージャ
内に播種できることが企図されている。
【0042】
支持細胞
パラクリン因子産生細胞および非細胞支持構造は、細胞パウチ内に配置された1つ以上
の支持細胞型によって支持され得、おそらくパラクリン因子産生細胞によってもたらされ
るより長い期間の利益を可能にする。これらの支持細胞はパラクリン因子も産生する可能
性があるが、その主な目的は、一次パラクリン因子産生細胞を支持し、おそらく一次パラ
クリン因子産生細胞または外部ホストからのシグナルに応答して、非細胞支持構造を生成
または調整することである。パラクリン因子産生細胞に対する支持細胞の比率に制限はな
い。支持細胞とパラクリン因子産生細胞の比率の例は、1:1~1:20の範囲である。
支持細胞型の例には、線維芽細胞、内皮細胞、内皮前駆細胞、幹細胞、人工多能性幹細胞
、および骨髄間質細胞が含まれる(ただし、これらに限定されない)。任意の他の適切な
細胞型を支持細胞として使用することができる。細胞型は、ヒトまたは非ヒト細胞、幹細
胞、非幹細胞、遺伝子改変細胞、タグ付き細胞、表面修飾細胞、操作された細胞、および
原核細胞または真核細胞であり得る。
【0043】
第1の例示的な実施形態として、線維芽細胞を使用して、パウチ内の細胞外マトリック
スの形成を経時的に強化および調節し、パウチ内のパラクリン因子産生細胞の付着、生存
能力、および増殖を強化することができる。
【0044】
第2の例示的な実施形態として、パウチ内に原始的な血管毛細血管系を作製するために
、内皮細胞および内皮前駆細胞が使用される。このような系は、半透過性エンクロージャ
を横切る栄養素、廃棄物、シグナル伝達分子およびパラクリン因子の物質移動の効率を高
め、パウチ内のパラクリン因子産生細胞のより密な三次元パッキングを可能にすることが
できる。
【0045】
第3の例示的な実施形態として、パウチ内の幹細胞の増殖を調節および刺激するシグナ
ル伝達分子および成長因子を産生するために、骨髄間質細胞が使用される。対象ホストお
よび支持細胞自身がパウチ内で増殖しているパラクリン因子産生細胞からのシグナルを感
知できるので、支持細胞は、増殖している細胞および対象ホストのニーズに基づいてその
活性を変化させることができ、したがって、細胞パウチ内の内部微小環境を継続的に調節
することができる。
【0046】
可能なバリエーション
エンドユーザーが製造時から使用時までのいつでも細胞パウチの内部環境をカスタマイ
ズできるように、バイオリアクターは設計される。
【0047】
第1の例示的な実施形態として、エンドユーザーは、異なる疾患のために放出されるパ
ラクリン因子の種類を変更するために、パラクリン因子産生細胞を変更することができる
(例えば、エンドユーザーは、肝疾患に対する因子を生成するために肝細胞を使用するか
、心臓病に対する因子を生成するために間葉系幹細胞を使用する可能性がある)。
【0048】
第2の例示的な実施形態として、エンドユーザーは、パラクリン因子の産生量またはパ
ラクリン因子の放出速度を変更するために、非細胞支持構造を変更することができる(例
えば、エンドユーザーは、パラクリン因子の産生量を低下させるために、小児患者に対し
て、成人患者に対するよりもより少ない数の細胞コーティングマイクロビーズを注入する
場合がある;あるいは、異なる患者、または回復の異なる段階で異なるニーズを有する同
じ患者に対応するために、エンドユーザーはヒドロゲルの架橋密度を減少または増加させ
て、パラクリン因子放出の速度をそれぞれ増加または減少させる場合がある)。
【0049】
第3の例示的な実施形態として、エンドユーザーは、異なる種類のパラクリン因子産生
細胞に対応するか、または異なる移植期間に対応するために、支持細胞の種類を変更する
ことができる。
【0050】
エンドユーザーはまた、デバイスが患者に移植されている期間中にこれらの変更のいず
れかを行うことができる。例えば、バイオリアクターへの遠位ポートを含む実施形態を使
用すると、エンドユーザーは、患者の状態の変化に基づいて、パラクリン因子産生細胞の
種類、支持細胞もしくは構造、またはパラクリン因子産生細胞に対する支持細胞の比率を
変更する場合がある。エンドユーザーは、放出されるパラクリン因子の種類、パラクリン
因子の総産生量、またはパラクリン因子の放出動態を制御するために、様々な疾患タイプ
に対してこれを実行することを望む場合がある。
【0051】
「ヒドロゲル」とは、水を吸収して弾性ゲルを形成することができる水膨潤性ポリマー
マトリックスを意味する。水性環境に配置されると、乾燥したヒドロゲルは、架橋の程度
によって許容される範囲で、その中に液体を取り込むことによって膨潤する。
【0052】
ポリマーは、繰り返しモノマー単位から構成される分子を指すために使用され、ホモポ
リマー、ブロックコポリマー、ヘテロポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマ
ーなどを含む。「ポリマー」には、線状ポリマーおよび分岐ポリマーも含まれ、分岐ポリ
マーには、高分岐ポリマー、樹枝状ポリマー、およびスターポリマーが含まれる。
【0053】
モノマーは、ポリマー中の基本的な繰り返し単位(複数可)である。モノマーは、それ
自体がモノマーであってもよく、または少なくとも2つの異なるモノマーのダイマーまた
はオリゴマーであってもよく、各ダイマーまたはオリゴマーはポリマー中で繰り返される
。
【0054】
いくつかの実施形態では、細胞培養マトリックスは、ポリマー、マトリックス、および
ゲルを含むことができ、本開示は、マトリックス、ポリマー、およびゲルの作製方法およ
び使用方法を含む。前記ポリマーの1つは、イミドを含む。所望の組成物で作製された所
望のゲル、ネットワーク、スキャフォールド、フィルムなどは、細胞、組織、臓器の統合
および成長を促進する。他の実施形態では、細胞培養マトリックスは、細胞培養を支持す
る(例えば、マイクロビーズ、ナノファイバーなどの)任意の構造を含むことができる。
【0055】
生体適合性ポリマー、生体適合性架橋ポリマーマトリックスおよび生体適合性は当該分
野で認識されている。例えば、生体適合性ポリマーには、それ自体がホスト(例えば、動
物または人間)に対して毒性がなく、かつ、ホストにおいて毒性のある濃度でモノマーま
たはオリゴマーのサブユニットまたは他の副産物を生成する速度で分解しないポリマー(
ポリマーが分解する場合)が含まれる。本発明の特定の実施形態では、生分解は、一般に
、生物におけるポリマーの分解、例えば無毒であることが知られているかもしれないその
モノマーサブユニットへの分解を含む。ただし、そのような分解から生じる中間のオリゴ
マー生成物は、異なる毒性学的特性を有していてもよく、あるいは生分解はポリマーのモ
ノマーサブユニット以外の分子を生成する酸化または他の生化学反応を含んでもよい。し
たがって、特定の実施形態では、患者への移植または注射などのin vivoでの使用
を目的とする生分解性ポリマーの毒物学は、1つ以上の毒性分析の後に決定されてもよい
。本組成物が上記のように生体適合性であることのみが必要である。したがって、本組成
物は、99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%また
はそれより少ない生体適合性ポリマーを含有するポリマーであって(例えば、本明細書に
記載のポリマーおよび他の材料および賦形剤を含む)、かつ依然として生体適合性である
ポリマーを含んでいてもよい。
【0056】
本明細書において架橋物とは、一般に、共有結合の形成から生じる、分子間架橋および
任意に分子内架橋を含む組成物を指す。2つの架橋可能なコンポーネント間の共有結合は
直接的であってもよく(その場合、1つのコンポーネント中の原子は他方のコンポーネン
ト中の原子に直接結合される)、連結基を介して間接的であってもよい。架橋ゲルまたは
ポリマーマトリックスは、共有結合に加えて、水素結合および静電(イオン)結合などの
分子間および/または分子内の非共有結合も含み得る。
【0057】
「ゲル」とは、液体と固体の間の物質の状態を指し、一般に、液体媒体中で膨潤した架
橋ポリマーネットワークとして定義される。通常、ゲルは、固体と液体の両方を含む2相
コロイド分散であり、ゲル中の固体の量は、「ゾル」と呼ばれる2相コロイド分散中の固
体の量よりも多い。したがって、「ゲル」は液体の一部の特性(即ち、形状は弾力性があ
り、かつ変形可能)と、固体の一部の特性(即ち、2次元表面上で3次元を維持するのに
十分なほど、形状が離散している)とを有する。
【0058】
ヒドロゲルは、水で膨潤した不溶性ポリマーネットワークを形成するように架橋された
親水性ポリマーからなり得る。架橋は多くの物理的または化学的メカニズムによって開始
され得る。光重合は、ポリマー鎖を共有結合で架橋する方法であり、これにより、光開始
剤およびポリマー溶液(「プレゲル」溶液と呼ばれる)が、光開始剤に特異的な光源に曝
される。活性化されると、光開始剤はポリマー鎖中の特定の官能基と反応し、それらを架
橋してヒドロゲルを形成する。反応は急速(3~5分)で、室温および体温で進行する。
光誘起ゲル化は、スキャフォールド形成の空間的および時間的制御を可能にし、注射後お
よびin vivoでのゲル化中における形状操作を可能にする。細胞および生物活性因
子は、光ゲル化の前にポリマー溶液と混合するだけで、容易にヒドロゲルのスキャフォー
ルドに組み込まれ得る。
【0059】
あるいは、反応物は、外部開始剤を必要とせずに架橋をもたらす、イミドおよびアミド
のような相補的反応基を含むことができる。
【0060】
所望のヒドロゲルは、細胞増殖を促進する半相互浸透性ネットワークであり得る。粘度
は、使用されるモノマーおよびポリマー、ヒドロゲルに閉じ込められた水のレベル、なら
びに組み込まれた増粘剤、例えばタンパク質、脂質、糖類などの生体高分子によって調整
され得る。そのような増粘剤の一例は、ヒアルロン酸またはコラーゲンである。
【0061】
いくつかの実施形態では、細胞培養マトリックスは、イミドにより官能化された、コン
ドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン硫酸、ケラタン硫酸等の生物学的適合性ポリマ
ーの少なくとも1つのモノマー単位を含むことができる。それらの出発分子は細胞外マト
リックスの天然成分である。しかしながら、一般に、任意の生物学的適合性ポリマーを該
ポリマーとして使用することができ、そのポリマーは少なくともイミドを有する。他の適
切なポリマーは、天然に存在するもの、例えば、GAG、ムコ多糖、コラーゲンまたはプ
ロテオグリカン成分(例えば、ヒアルロン酸、ヘパリン硫酸、グルコサミン、デルマタン
、ケラタン、ヘパラン、ヒアルロナン、アグリカンなど)を含む。
【0062】
本発明の架橋ポリマーマトリックスは、ヒドロゲルを含み得、かつヒドロゲルを形成し
得る。ヒドロゲルの含水量は、細孔構造に関する情報を与える。さらに、含水量は、例え
ば、ヒドロゲル内の封入された細胞の生存に影響を与える因子であり得る。ヒドロゲルが
吸収することができる水の量は、架橋密度および/または細孔サイズに関連しているかも
しれない。例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デキストラン、カルボキシメチ
ルスターチ、硫酸ケラチン、またはエチルセルロースなどの官能化マクロマー(macr
omer)上のイミドの割合(%)は、吸収可能な水の量を決定するかもしれない。
【0063】
1つ以上の実施形態によれば、生物活性剤を、本発明のバイオリアクターエンクロージ
ャ中の細胞培養マトリックスに組み込むこともできる。「組み込まれた」、「封入された
」および「閉じ込められた」は、治療薬、色素、または他の材料および細胞培養マトリッ
クス組成物などのポリマー組成物に関して使用される場合、当該分野で認識されている。
特定の実施形態では、これらの用語は、所望の用途におけるそのような薬剤の徐放を可能
にする組成物に、そのような薬剤を組み込むこと、配合すること、または含有させること
を含む。これらの用語は、例えば、治療薬または他の材料がポリマーマトリックスに組み
込まれる任意の方法を企図する場合があり、例えば、(共有結合または他の結合相互作用
によって)そのようなポリマーのモノマーに付着させ、そのようなモノマーを重合の一部
にしてポリマー製剤を与えること、ポリマーマトリックス全体に分布されること、(共有
結合または他の結合相互作用によって)ポリマーマトリックスの表面に付加されること、
ポリマーマトリックス内に封入されることなどを含む。「共組み込み」または「共封入」
という用語は、本組成物における、治療薬または他の材料、および少なくとも1つの他の
治療薬または他の材料の組み込みを指す。
【0064】
より具体的には、任意の治療薬または他の材料がポリマーおよび/またはエンクロージ
ャに封入される物理的形態は、特定の実施形態によって異なっていてもよい。例えば、い
くつかの実施形態では、治療薬または他の材料は、最初にミクロスフェアに封入されてか
ら、ミクロスフェア構造の少なくとも一部が維持されるようにポリマーと組み合わされて
もよい。あるいは、治療薬または他の材料は、本発明のポリマーに十分に非混和性であっ
てもよく、該ポリマー中に溶解するのではなく、小さな液滴として分散される。任意の封
入された治療薬または他の材料の徐放が、封入形態が任意の特定用途に十分に許容可能で
あるかどうかを決定する限り、封入または組み込みのあらゆる形態が本発明によって企図
される。
【0065】
いくつかの実施形態によれば、エンクロージャ内で使用される細胞培養マトリックスを
、任意の数のタンパク質、成長因子、脂質、核酸、塩、その他の分子、細胞、または細胞
外小胞を含む液体培地に浸すことができる。
【0066】
限定されないが、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸オリゴペプチド、コラーゲン
、およびフィブロネクチンなどの生物学的モチーフを細胞培養マトリックスに組み込んで
、細胞接着を強化することができる。細胞接着分子のクラスの例には、カドヘリン、イン
テグリンおよびシンデカン、ならびにそれらの部分および断片が含まれるが、これらに限
定されない。
【0067】
本発明の一態様では、架橋ポリマーマトリックスまたはゲルと、1つ以上の生物活性剤
とを含む細胞培養マトリックスが調整され得る。生物活性剤は、組成物の意図された目的
によって大きく異なり得る。活性という用語は当該分野で認識されており、対象において
局所的または全身的に作用する生物学的、生理学的、または薬理学的に活性な物質である
任意の部分を指す。「薬物」と呼ばれることもある生物活性剤の例は、メルクインデック
ス(Merck Index)、医師のデスクリファレンス(Physicians’
Desk Reference)、および治療の薬理学的基礎(The Pharmac
ological Basis of Therapeutics)などのよく知られて
いる文献に記載されており、それらには、限定されることなく、医薬品;ビタミン;ミネ
ラルサプリメント;疾患または病気の治療、予防、診断、治癒または緩和に使用される物
質;体の構造または機能に影響を与える物質;または、生理的環境に置かれた後に生物学
的に活性またはより活性になるプロドラッグが含まれる。「薬物」の具体例はヘパリンで
あり、ヘパリンはその抗血栓作用のために使用され得る。例えば、対象への投与時に隣接
する組織または体液中に放出され得る生物活性剤の様々な形態を使用してもよい。いくつ
かの実施形態では、生物活性剤は、例えば、血管新生を促進するために、本発明の架橋ポ
リマーマトリックスにおいて使用され得る。他の実施形態では、例えば、傷害または損傷
後の血管新生または治癒の促進と併せて、疾患または症状を治療、改善、阻害、または予
防するために、生物活性剤が本発明の架橋ポリマーマトリックスにおいて使用され得る。
【0068】
生物活性剤のさらなる例には、酵素、受容体アンタゴニストまたはアゴニスト、ホルモ
ン、成長因子、自家骨髄、抗生物質、抗菌剤、および抗体が含まれるが、これらに限定さ
れない。「生物活性剤」という用語は、本発明の組成物に組み込まれ得る様々な細胞型お
よび遺伝子を包含することも意図されている。
【0069】
特定の実施形態では、本組成物は、全組成物の約1重量%~約75重量%またはそれ以
上、あるいは約2.5%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%また
は70%の生物活性剤を含む。
【0070】
生物活性剤の非限定的な例には、以下が含まれる:アドレナリン遮断剤、同化作用剤(
anabolic agent)、アンドロゲンステロイド、抗コレステロールおよび抗
脂質剤、抗コリン作用剤および交感神経刺激剤、抗凝固剤、抗高血圧剤、抗感染症剤、ス
テロイドなどの抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、解熱剤および鎮痛剤、抗血栓剤、抗
狭心症剤、生物学的製剤、心臓活性剤、血管拡張剤、冠動脈拡張剤、診断薬、造血剤、エ
ストロゲン、成長因子、末梢血管拡張剤、プロゲステロン剤、プロスタグランジン、ビタ
ミン、抗原性物質、およびプロドラッグ。
【0071】
さらに、組換えベータグルカン;ウシ免疫グロブリン濃縮物;ウシスーパーオキシドジ
スムターゼ;フルオロウラシル、エピネフリン、およびウシコラーゲンを含む製剤;組換
えヒルジン(r-Hir)、HIV-1免疫原;組換えヒト成長ホルモン、組換えEPO
(r-EPO);遺伝子活性化EPO(GA-EPO);組換えヒトヘモグロビン(r-
Hb);組換えヒトメカセルミン(r-lGF-l);組換えインターフェロンα;レノ
グラスチム(G-CSF);オランザピン;組換え甲状腺刺激ホルモン(r-TSH);
およびトポテカンなどの組換えまたは細胞由来のタンパク質が使用され得る。
【0072】
さらに、以下に列挙するペプチド、タンパク質、およびその他の大きな分子も使用され
得る:インターロイキン1~18(変異体および類似体を含む);軟骨再生に有用であり
得るインターフェロンα、γ、ホルモン放出ホルモン(LHRH)およびその類似体、ゴ
ナドトロピン放出ホルモン、トランスフォーミング成長因子(TGF);線維芽細胞成長
因子(FGF);腫瘍壊死因子-α;神経成長因子(NGF);成長ホルモン放出因子(
GHRF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織活性化骨形成因子、線維芽細胞成長因子
相同因子(FGFHF);肝細胞成長因子(HGF);インスリン成長因子(IGF);
侵入阻害因子-2(IIF-2);骨形成タンパク質1-7(BMP1-7);ソマトス
タチン;チモシン-α-γ-グロブリン;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD);お
よび補体因子、ならびにそのような因子(例えば、成長因子)の生物学的活性類似体、断
片、および誘導体。
【0073】
多機能調節タンパク質であるトランスフォーミング成長因子(TGF)スーパー遺伝子
ファミリーのメンバーは、本発明のポリマーマトリックスに組み込まれ得る。TGFスー
パー遺伝子ファミリーのメンバーには、ベータトランスフォーミング成長因子(例えば、
TGF-131、TGF-132、TGF-133);骨形成タンパク質(例えば、BM
P-1、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、
BMP-8、BMP-9);ヘパリン結合成長因子(例えば、線維芽細胞成長因子(FG
F)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因
子(lGF))、(例えば、インヒビンA、インヒビンB)、成長分化因子(例えば、G
DF-1);およびアクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB
)が含まれる。成長因子は、哺乳動物細胞などの天然または自然の供給源から単離され得
るか、または組換えDNA技術もしくは様々な化学プロセスなどによって合成的に調製さ
れ得る。さらに、これらの因子の類似体、断片、または誘導体は、それらが天然分子の生
物学的活性の少なくとも一部を示すことを条件として、使用され得る。例えば、類似体は
、部位特異的変異誘発または他の遺伝子工学技術によって変更された遺伝子の発現によっ
て調製され得る。
【0074】
一実施形態によれば、コラーゲンを組み込んだチオール修飾ヒアルロナンヒドロゲルが
、バイオリアクターエンクロージャ内の幹細胞のための細胞培養マトリックスとして使用
され得る。この特定の実施形態では、幹細胞の懸濁液がチオール修飾ヒアルロナン溶液中
で調製され、バイオリアクターエンクロージャに注入され、チオール反応性ポリエチレン
グリコールジアクリレートで架橋され、ヒドロゲルを形成する。
【0075】
別の実施形態によれば、細胞は、バイオリアクターエンクロージャの外側の微粒子の表
面上で増殖させることができる;次に、細胞でコーティングされた微粒子がバイオリアク
ターエンクロージャに注入され、バイオリアクターエンクロージャの内部容積の一部また
は大部分を満たすことができる。
【0076】
カテーテルの設計
(a)構造
いくつかの実施形態によれば、本発明は、カテーテルを含むことができる。本発明のカ
テーテルは、1つの管、または代替的に、1つ以上の点で接合されている多数の管を含む
ことができる。各カテーテル管は、細胞、培地、およびその他の材料の注入、サンプリン
グ、または循環のオプションを可能にする1つ以上のルーメンを有し得る。いくつかの実
施形態では、カテーテル管の1つ以上は、1つ以上の追加ポートを備えることができ、こ
れらのポートのいくつかは細胞パウチの内側ルーメンに開口し、他のポートは循環と直接
連通して、血管内ラインとしてのその使用を可能にする。例えば、ルーメンの1つは、血
管内配置および位置決めを容易にするために、「オーバーザワイヤー」またはモノレール
「迅速交換」構成におけるガイドワイヤーの通過専用にすることができる。別のルーメン
は、位置決めを助けるために、カテーテル管の遠位端に配置された、空気または流体で満
たされた膨張可能なバルーンに接続され得る。カテーテルは1つ以上の外部ポートに取り
付けられ、必要に応じて、細胞、培地、およびその他の材料の注入、サンプリング、およ
び循環を可能にする。
(b)材料
カテーテルのハウジングは、任意の適切な生体適合性材料(例えば、ポリ塩化ビニル、
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、フルオロポ
リマー、ポリオレフィン、またはポリエーテルエーテルケトン)から製造され得る。カテ
ーテルの外側は、細胞の付着および機能の強化に役立つ分子でコーティングされ得る。こ
れらの分子のいくつかは、ポリ-L-リジン、フィブロネクチン、またはArg-Gly
-Asp配列を有する他のタンパク質を含む。これは、最初にプラズマリアクター内で、
または過マンガン酸カリウムなどの化学酸化剤でカテーテルの表面を酸化してから、該表
面を適切な分子官能基と反応させることで達成することができる。カテーテルの外側を抗
凝固剤(ヘパリンなど)でスプレーコーティングまたはディップコーティングして、移植
中の血栓形成を最小限に抑えることもできる。カテーテルの外部はまた、線維症を最小限
に抑えるため、または送達を促進するために、(例えば、フルオロパッシベーション(f
luoropassivation)を使用して)表面修飾されてもよい。あるいは、カ
テーテルの一部(例えば、細胞パウチの内側に広がるカテーテルのセグメント)を改変し
て細胞接着を改善することができ、一方、カテーテルの別の部分(例えば、細胞パウチの
外側のカテーテルのセグメント)を改変して、線維症、血栓症を減らし、送達を促進する
ことができる。さらに、薬物送達デバイスをカテーテルに取り付けることができる。その
ようなデバイスは、例えば、薬物または生物活性剤を含むヒドロゲル、ポリマーマトリッ
クス、ビーズ、およびナノ粒子を含み得る。
【0077】
カテーテルを含むいくつかの実施形態によれば、カテーテルのハウジングは、標準的な
マルチルーメン中心静脈カテーテルと同様に、多数のルーメン、近位アクセスポートおよ
び遠位開口部で構成されるポリ塩化ビニル管(またはその他の適切な生体適合性材料)か
ら作られ得る。これらのポートは、細胞、培地、治療薬、ガス、または当業者によって有
益であると認識されている他の薬剤の循環に使用することができる。基本的な管構成への
いくつかの任意の変更は、当業者には明らかであろう。
【0078】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターが取り付けられているカテーテルの表面は
、幹細胞の付着および機能の強化に役立つ分子でコーティングされ得る。これらの分子の
一部には、ポリリジン、フィブロネクチン、またはArg-Gly-Asp配列を有する
他のタンパク質が含まれる。これは、最初にプラズマリアクター内で、または過マンガン
酸カリウムなどの化学酸化剤でカテーテルの表面を酸化し、次に該表面を適切な分子官能
基と反応させることで達成することができる。カテーテルの外側を抗凝固剤(ヘパリンな
ど)でスプレーコーティングまたはディップコーティングして、移植中および移植後の血
栓形成を最小限に抑えることもできる。
【0079】
ガイディングバルーン
小さなバルーン(直径約1cm)をカテーテルの先端の近くに配置することができ、該
バルーンはガスまたは流体で満たされると、血管内配置をガイドするのを助けることがで
きる。
【0080】
ガイドワイヤーの誘導
カテーテル内の個々のルーメンを使用して、「オーバーザワイヤー」またはモノレール
「迅速交換」構成でガイドワイヤーを通過させ、血管内配置をガイドすることができる。
該デバイスはまた、細胞、細胞馴化培地(cell-conditioned medi
a)、濃縮パラクリン因子、または有益な効果を有し得るかもしくは有すると決定された
他の治療流体の注入、断続的なリサイクルまたは連続循環を可能にする。
【0081】
いくつかの実施形態では、カテーテルベースのデバイスは、必要に応じて取除去され得
る。エンクロージャは、最初に注入ポートを通してドローバックすることによって(by
drawing back)しぼませる。その後、デバイス全体を体から引き出すこと
ができる。血管鞘が除去され、止血を達成するために手動圧迫または血管閉鎖デバイスが
使用される。
【0082】
二次デバイス搭載バイオリアクター
一実施形態では、上述したバイオリアクターエンクロージャは、様々な他の二次デバイ
スに取り付けられ、該デバイスと共に移植され得る。バイオリアクターエンクロージャは
、二次デバイスに取り付けるために、必要に応じて小型化され得る。心血管領域では、二
次デバイスには、特に、ステント、バルーン、大動脈内バルーンポンプ、経皮的および外
科的に移植された心室補助デバイス、経皮的および外科的に移植された人工弁および弁ク
リップまたはリング、血管内移植片、血栓フィルター、ペースメーカーまたは除細動器の
表面またはリード、中隔欠損閉鎖器、心耳閉鎖装置、肺動脈カテーテル、静脈カテーテル
、および動脈カテーテルが含まれるが、これらに限定されない。心血管領域外では、標的
組織への直接的または間接的なアクセスを提供する任意のデバイスが、バイオリアクター
エンクロージャを取り付けるための可能な候補である。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、バイオリアクター内の細胞は、「ナノファイバークラウ
ド」と呼ばれるナノファイバーの三次元ネットワーク内にロードされ得る。ナノファイバ
ーは、典型的な直径が約1000nmのファイバーとして定義され、電界紡糸などの既知
の方法で作製され得る。ナノファイバーは、例えば、ポリ-L-乳酸コポリマーを含むほ
とんどの生物学的適合性ポリマーから作製され得る。該ポリマーは次にマトリックスまた
は表面上に電界紡糸され(electrospun)、ファイバーが収集される。本発明
者は、幹細胞がナノファイバーから構成されるマトリックスに容易に接着し、該マトリッ
クス上で激しく増殖することを示すデータを発表しており(Biomaterials
2015年6月;52:318-26頁)、当該文献は参照により本明細書に援用される
。
【0084】
したがって、一実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内のナノファイバーの三
次元ネットワーク内に密閉された細胞であって、パラクリン因子を産生することができる
細胞を備え、前記エンクロージャは、血管内に移植可能であるように折り畳み可能かつ拡
張可能であり得、前記エンクロージャは、前記細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流
出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるように半透過性である、血管
内移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0085】
いくつかの実施形態では、ナノファイバークラウドは、バイオリアクターエンクロージ
ャの内側に形成され得るか、または代替的に、バイオリアクターエンクロージャの外側に
形成されてから、後でバイオリアクターエンクロージャ内に注入または配置され得る。ナ
ノファイバークラウドは、バイオリアクターエンクロージャの全体またはその一部を満た
すことができる。
【0086】
バイオリアクターのパウチ内のナノファイバークラウドのナノファイバー密度またはナ
ノファイバー配向は、所望のクラウド透過性、細胞播種密度、および細胞播種パターンに
応じて調整され得ることが、当業者によって理解されよう。
【0087】
いくつかの実施形態によれば、本発明のナノファイバーは、ポリ(乳酸-コ-グリコー
ル酸)、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、またはポリジオキサノンを含むがこれらに限定
されない生分解性ポリマー材料に基づくことができる。ナノファイバーはまた、ポリウレ
タン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリスルホン
を含むがこれらに限定されない非生分解性材料から構成され得る。ナノファイバーはまた
、セルロース、コラーゲン、脂質、核酸、およびタンパク質を含むがこれらに限定されな
い生物学的材料から構成され得る。ナノファイバーはまた、1つ以上の生分解性材料、非
生分解性材料、および生物学的材料の任意の組み合わせから構成され得る。
【0088】
「生分解性」は、当該分野で認識されており、in vivoなどでの使用中に分解す
ることが意図される、本明細書に記載されるものなどのモノマー、ポリマー、ポリマーマ
トリックス、ゲル、組成物および製剤が含まれる。生分解性ポリマーおよびマトリックス
と、非生分解性ポリマーは、前者が使用中に分解される可能性があるという点で通常異な
る。特定の実施形態では、そのような使用は、in vivo療法などのin vivo
での使用を含み、他の特定の実施形態では、そのような使用は、in vitroでの使
用を含む。一般に、生分解性に起因する分解は、生分解性ポリマーのその構成要素サブユ
ニットへの分解、または、例えば生化学的プロセスによる、ポリマーのより小さな非ポリ
マーサブユニットへの消化を含む。特定の実施形態では、2つの異なるタイプの生分解が
一般的に特定され得る。例えば、1つのタイプの生分解は、ポリマー主鎖における結合(
共有結合かどうかにかかわらず)の切断を含み得る。そのような生分解では、典型的には
モノマーおよびオリゴマーが生じ、さらにより典型的には、そのような生分解は、ポリマ
ーの1つ以上のサブユニットを接続する結合の切断によって起こる。対照的に、別のタイ
プの生分解は、側鎖内部の結合(共有結合かどうかにかかわらず)の切断、または側鎖、
官能基などをポリマー主鎖に接続する結合の切断を含んでいてもよい。例えば、治療薬、
生物活性剤、または側鎖としてポリマー主鎖に付着した他の化学的部分が、生分解により
放出され得る。特定の実施形態では、ポリマーの使用中に、一方または他方または両方の
一般的タイプの生分解が起こり得る。本明細書で使用される場合、「生分解」という用語
は、両方の一般的タイプの生分解を包含する。
【0089】
生分解性ポリマーの分解速度は、分解の原因となる結合の化学的アイデンティティ(c
hemical identity)、そのようなポリマーの分子量、結晶化度、生体安
定性および架橋度、移植物の物理的特性、形状およびサイズ、ならびに投与の方法および
場所を含む、様々な因子にしばしば部分的に依存する。例えば、分子量が大きいほど、結
晶化度が高くなり、かつ/または生体安定性が高くなる。「生分解性」という用語は、「
生体分解可能(bioerodible)」とも呼ばれる材料およびプロセスをカバーす
ることを意図している。
【0090】
特定の実施形態では、そのようなポリマーの生分解速度は、酵素、例えばコンドロイチ
ナーゼの存在に依存する可能性がある。そのような状況では、生分解速度は、ポリマーマ
トリックスの化学的アイデンティティ(chemical identity)および物
理的特性だけでなく、そのような酵素のアイデンティティ(identity)にも依存
する可能性がある。
【0091】
特定の実施形態では、本発明のポリマー製剤は、所望の用途で許容される期間内に生分
解する。in vivo療法などの特定の実施形態では、そのような分解は、通常、pH
が6~8で約25℃~37℃の温度を有する生理的溶液にさらされたときに、約5年未満
、約1年未満、約6か月未満、約3か月未満、約1か月未満、約15日未満、約5日未満
、約3日未満、または約1日未満の期間で発生する。他の実施形態では、ポリマーは、所
望の用途に応じて、約1時間~数週間の期間内に分解する。いくつかの実施形態では、ポ
リマーまたはポリマーマトリックスは、分解時に放出される検出可能な薬剤を含み得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、細胞接着を強化するために、例えば、アルギニン-グリシン
-アスパラギン酸オリゴペプチド、コラーゲン、およびフィブロネクチンなどの接着分子
がナノファイバークラウドに組み込まれ得る。
【0093】
本発明のバイオリアクターで使用するための細胞は、電界紡糸(electrospi
nning)の直後に本発明のナノファイバークラウドに播種されて、後の使用のために
保存され得るか、または代替的に、使用直前にナノファイバークラウドに播種され得る。
【0094】
いくつかの実施形態によれば、ヒトまたは非ヒト細胞、幹細胞、非幹細胞、遺伝子改変
細胞、タグ付き細胞、表面修飾細胞、操作された細胞、原核または真核細胞を含むがこれ
らに限定されない任意の細胞型または細胞型の組み合わせを、バイオリアクターエンクロ
ージャ内のナノファイバークラウドに播種することができる。
【0095】
ナノファイバークラウドを、任意の数のタンパク質、成長因子、脂質、核酸、塩、任意
の他の分子、細胞、または細胞外小胞を含む液体培地に浸すことができることは、当業者
に理解されるであろう。ナノファイバークラウドを、ヒドロゲルなどの本明細書に記載さ
れているものを含むがこれらに限定されない培養マトリックスに浸すこともできる。ナノ
ファイバークラウドを、液体培地とヒドロゲルなどの培養マトリックスとの任意の組み合
わせに浸すこともできる。
【0096】
バイオリアクターのパラクリン因子産生に直接寄与しない1つ以上の細胞型が、バイオ
リアクターのパウチに組み込まれ得ることも、当業者には理解されよう。一例として、エ
ンクロージャ内の細胞外マトリックスの形成を強化するため、またはバイオリアクターエ
ンクロージャにおける他の細胞の生存能力を支持するために、そのような細胞がバイオリ
アクターエンクロージャ内で使用され得る。任意の細胞型を使用できることが企図される
。例として、細胞型は、ヒトまたは非ヒト細胞、幹細胞、非幹細胞、遺伝子改変細胞、タ
グ付き細胞、表面修飾細胞、操作された細胞、細胞クラスター、原核細胞または真核細胞
であり得る。
【0097】
一実施形態によれば、本発明は、例えば、バイオリアクターのパウチ内の細胞外マトリ
ックスの形成を支持するために線維芽細胞を含むバイオリアクターエンクロージャを提供
し、該細胞外マトリックスの形成は、一次パラクリン因子産生バイオリアクター細胞(p
rimary paracrine factor-producing biorea
ctor cell)の付着、生存能力、および増殖を強化する。
【0098】
バイオリアクターエンクロージャの代替組成物
【0099】
上述したように、バイオリアクターエンクロージャは、細胞の動きを制限するがパラク
リン因子、栄養素、および廃棄物の自由な移動を可能にするように設計された所定の分子
量カットオフを有する広範囲の生物学的または合成の半透過性膜から構築され得る。
【0100】
1つ以上の代替の実施形態によれば、本発明は、適切な所定の分子量カットオフを有す
る本質的に半透過性の膜(intrinsically semi-permeable
membrane)を必要としないバイオリアクターエンクロージャの新規組成物を提
供する。
【0101】
機械加工された材料
【0102】
本発明のバイオリアクターエンクロージャは、適切な直径および密度の細孔を形成する
ように材料を機械加工することによって、任意の非透過性材料から製造することができる
。バイオリアクターエンクロージャは、適切な直径および密度の細孔を形成するように材
料を機械加工することによって、任意の本質的に半透過性の材料(ただし、不適切な細孔
直径または細孔密度を有する)から製造することもできる。
【0103】
本明細書で使用される場合、「適切な細孔直径」は、細胞の通過を防止する一方で、エ
キソソームを含むパラクリン因子、ならびに栄養素、廃棄物、および流体の自由通過を可
能にするものとして定義される。いくつかの実施形態では、当業者は、本発明のパウチ内
に配置する前に、細胞を免疫保護構造(例えば、ヒドロゲルビーズまたは免疫保護マイク
ロパウチ)内に配置することが可能であることを理解するであろう。その実施形態では、
パウチ自体は免疫保護性である必要はない。そのシナリオにおける適切な細孔直径は、免
疫保護構造の通過を防止するだけでよいものである。
【0104】
本明細書で使用される場合、「適切な細孔密度」は、バイオリアクターエンクロージャ
内の細胞の生存能力を支持するのに十分な細孔密度として定義され、バイオリアクターの
パウチ内の細胞の最大細胞集団および代謝要求に応じて変化し得る。一例として、100
nm~5000nmの範囲の細孔直径は、これらの基準を満たすことができる。一例とし
て、100,000/cm2~100,000,000/cm2の範囲の細孔密度は、こ
れらの基準を満たすことができる。これらの細孔直径は、細胞がパウチの免疫保護構造内
に最初に配置されなかった場合にのみ適用される。細胞が、本発明のパウチ内に配置され
る前に、免疫保護構造(例えば、ヒドロゲルビーズまたは免疫保護マイクロパウチ)内に
配置される実施形態では、パウチの細孔直径が内部の免疫保護構造の最小直径よりも小さ
い限り、はるかに大きなパウチ細孔直径がこの基準を満たすことができる。
【0105】
いくつかの実施形態によれば、バイオリアクターエンクロージャを横切る連続的または
断続的な外向きの流体フラックスを適用して、パウチからの材料の流出を促進し、エンク
ロージャへの材料の侵入を低減することができる。バイオリアクターエンクロージャを横
切る連続的または断続的な内向きの流体フラックスは、反対の効果のために適用され得る
。そのような流体フラックスは、本開示に記載されている任意のエンクロージャに適用さ
れ得る。具体例として、バイオリアクターエンクロージャのルーメンを外部の流体ソース
に接続することによって、10cc/時間の速度での生理食塩水の連続的な外向きのフラ
ックスが適用される。さらに、任意で、流体は、患者が必要とする任意の薬剤(薬物、抗
血栓剤、抗炎症剤、栄養など)、またはバイオリアクターのパウチ内の細胞もしくは支持
構造が必要とする任意の薬剤を含むことができる。流体フラックスは、蠕動ポンプ、静脈
内注入ポンプ(IV infusion pump)、および当技術分野で知られている
医療デバイスで使用される他のポンプを用いて生成することができる。
【0106】
いくつかの実施形態によれば、本発明のパウチを機械加工するために使用される方法は
、トラックエッチング、マイクロドリル、レーザードリル、フォトリソグラフィーエッチ
ング、または細孔を形成するための他の適切な手段を含むが、これらに限定されない。ト
ラックエッチングは、イオンを使用して材料に衝撃を与え、損傷トラックを形成する技術
である;次に、水酸化ナトリウムなどの化学エッチング液を使用して損傷トラックを拡大
することにより、細孔が作製される。マイクロドリルとレーザードリルは、マイクロドリ
ルまたはレーザーを使用して物理的に細孔を形成する技術である。フォトリソグラフィー
エッチングは半導体業界で確立された技術であって、細孔の幾何学的パターンがフォトマ
スクを通してフォトレジストでコーティングされたエンクロージャ表面に転写される;次
に、液体ウェットエッチングまたはプラズマドライエッチングプロセスを使用して、細孔
を生成する。
【0107】
いくつかの実施形態では、エンクロージャ材料は、ポリウレタン、ポリテトラフルオロ
エチレン、ポリスルホン、またはポリエチレンテレフタレートを含むがこれらに限定され
ない非生分解性材料から構成され得る。エンクロージャ材料はまた、ポリ(乳酸-コ-グ
リコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、またはポリジオキサノンを含むがこれら
に限定されない生分解性材料から構成され得る。エンクロージャ材料はまた、セルロース
、コラーゲン、脂質、核酸、およびタンパク質を含むがこれらに限定されない生物学的材
料から構成され得る。エンクロージャ材料はまた、1つ以上の生分解性材料、非生分解性
材料および/または生物学的材料の任意の組み合わせから構成され得る。エンクロージャ
材料は、細胞の付着および機能を強化する分子でコーティングされ得る。具体例には、フ
ィブロネクチン、ポリリジン、インテグリン、カドヘリン、シンデカン、およびArg-
Gly-Asp配列を有するタンパク質が含まれる。エンクロージャ材料はまた、細胞の
付着および機能を強化するために表面修飾され得る。このプロセスの具体例には、コロナ
処理およびプラズマ処理が含まれる。エンクロージャ材料はまた、血栓症または線維症を
最小限に抑えるため、免疫原性を低下させるため、生体適合性を向上させるため、または
その他の物質の送達性を向上させるために、コーティングまたは表面修飾され得る。具体
例には、ヘパリン鎖もしくはポリエチレングリコール鎖の付着、またはフルオロパッシベ
ーション処理が含まれる。コーティングまたは表面修飾の調整は、当業者によく知られて
いる。エンクロージャ材料は、(例えば、薬物、生物製剤、または他の薬剤を組み込んだ
ヒドロゲルまたはポリマーマトリックスの使用を通じて)薬物送達能力を含むか、または
薬物送達デバイスに取り付けられ得る。
【0108】
機械加工されていないバイオリアクターエンクロージャについて上述したように、機械
加工されたバイオリアクターエンクロージャは、表面の起伏、凹部、またはそれらの両方
を用いて形成してもよいし、あるいはそれらのどちらも用いずに形成してもよいことが当
業者に理解される。いくつかの実施形態では、機械加工されたエンクロージャは、拡張可
能、または折り畳み可能、または拡張可能かつ折り畳み可能であってもよく、あるいは拡
張可能でも折り畳み可能でもなくてよい。いくつかの実施形態では、該エンクロージャの
外部表面は細胞接着または血栓形成を妨げる薬剤でコーティングされてもよく、該エンク
ロージャの内部表面は細胞接着を強化する薬剤でコーティングされてもよく、該エンクロ
ージャの外部表面は細胞接着または血栓形成を妨げる薬剤でコーティングされ且つ内部表
面は細胞接着を強化する薬剤でコーティングされてもよく、該エンクロージャの外部表面
は細胞接着または血栓形成を妨げる薬剤でコーティングされず且つ内部表面は細胞接着を
強化する薬剤でコーティングされなくてもよい。
【0109】
一実施形態によれば、拡張可能および折り畳み可能な半透過性バイオリアクターエンク
ロージャは、約300万/cm2~1000万/cm2の細孔密度で、約1000nm~
2500nmの直径の細孔をトラックエッチングすることによって、不透過性ポリエチレ
ンテレフタレート膜から形成され得る。
【0110】
透過性膜と半透過性材料との複合材料
【0111】
一実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞で
あって、パラクリン因子を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは折り
畳み可能かつ拡張可能であり得、前記エンクロージャは、少なくとも1つの透過性材料層
に接触または隣接する少なくとも1つの半透過性材料層を含み、前記透過性材料層は前記
エンクロージャの外側を向いている側にあり、前記エンクロージャは、前記細胞の封じ込
めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができる
ように半透過性である、移植可能なバイオリアクターを提供する。
【0112】
別の実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞
であって、パラクリン因子を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは折
り畳み可能かつ拡張可能であり得、前記エンクロージャは、少なくとも第1および第2の
透過性材料層の間に、接触してまたは隣接して配置された少なくとも1つの半透過性材料
層を含み、前記第1の透過性材料層は前記エンクロージャの外側を向いている側にあり、
前記第2の透過性材料層は前記エンクロージャの内側を向いている側にあり、前記層は、
前記細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供
することができるように半透過性である、移植可能なバイオリアクターを提供する(
図1
3)。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、適切に半透過性のバイオリアクターエンクロ
ージャを提供することができ、適切に半透過性の材料または機械加工された材料をより透
過性の高い膜の層の間に挟むことによって、または代替的に、1つの半透過性材料または
機械加工された材料を透過性膜に取り付けて複合エンクロージャを構成することによって
、当該適切に半透過性のバイオリアクターエンクロージャを製造することができる。
【0114】
別の実施形態によれば、外層の平均細孔直径がそれぞれ5000nm超の2層の透過性
膜を使用して、内層の平均細孔直径が5000nm未満のナノファイバーメッシュを挟む
ことができる。(
図10)。ナノファイバーメッシュは、複合エンクロージャを構成する
ために、1つ以上の生分解性材料、非生分解性材料、生物学的材料、または非生物学的材
料から構成され得る。
【0115】
別の実施形態によれば、それぞれが5000nm超の平均細孔直径を有する外層の2層
の透過性膜を使用して、平均細孔直径が5000nm未満の内層を有するヒドロゲルを挟
んで(
図10)、複合エンクロージャを構成することができる。ヒドロゲルは、生分解性
材料、非生分解性材料、生物学的材料、または非生物学的材料から構成され得る。
【0116】
いくつかの他の実施形態によれば、そのような透過性膜の1つ、2つ、またはそれ以上
の層を複合エンクロージャ内で使用することができる。複合エンクロージャは、表面の起
伏、凹部、またはそれらの両方を用いて形成してもよいし、あるいはそれらのどちらも用
いずに形成してもよい。
【0117】
いくつかの実施形態では、複合エンクロージャは、拡張可能、または折り畳み可能、ま
たは拡張可能かつ折り畳み可能であってもよく、あるいは拡張可能でも折り畳み可能でも
なくてよい。
【0118】
いくつかの実施形態では、複合エンクロージャの外部表面は細胞接着または血栓形成を
妨げる薬剤でコーティングされてもよく、複合エンクロージャの内部表面は細胞接着を強
化する薬剤でコーティングされてもよく、複合エンクロージャの外部表面は細胞接着また
は血栓形成を妨げる薬剤でコーティングされ且つ複合エンクロージャの内部表面は細胞接
着を強化する薬剤でコーティングされてもよく、複合エンクロージャの外部表面は細胞接
着または血栓形成を妨げる薬剤でコーティングされず且つ複合エンクロージャの内部表面
は細胞接着を強化する薬剤でコーティングされなくてもよい。
【0119】
折り畳み式エンクロージャのバイオリアクター
【0120】
一実施形態によれば、本発明は、エンクロージャ内に密閉された細胞であって、パラク
リン因子を産生することができる細胞を備え、前記エンクロージャは、細胞培養マトリッ
クス内の少なくとも1つの細胞層に接触または隣接する少なくとも1つの半透過性材料層
を含み、前記第1の透過性材料層は前記エンクロージャの外側を向いている側にあり、前
記細胞層は前記1つ以上のエンクロージャの内側を向いている側にあり、前記半透過性層
が前記細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提
供することができるように、前記細胞層はそれ自体の上に巻くか折り畳むことができる、
移植可能なバイオリアクターを提供する。そのような実施形態は、バイオリアクターが、
任意の体腔内、臓器内、血管内、組織内、または皮膚上、または外部もしくは内部の創傷
内、または外科的創傷内に配置されることを可能にすることができる。
【0121】
いくつかの実施形態では、折り畳まれたエンクロージャバイオリアクターは、所定の多
孔度を有する機械加工された材料の層からなり得る。
【0122】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターは、1つ以上の異なる半透過性および/ま
たは機械加工された材料層および/または透過層を含み、該バイオリアクターは、1つま
たは多数の異なる透過性および半透過性シートから、該シートを上下に重ね、
図14に示
すように「スイスロール」の構造と同様に断面にスパイラルパターンを形成するように、
それらを巻き上げる(rolling them up)かまたはそれらを中心軸の周り
に配置することで製造され得る。変形例では、シートを巻き上げる(rolling u
p)代わりに、細胞が半透過性シートの間に挟まれるように、シートを任意の望ましい構
成のうちの1つに折り畳むことができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、バイオリアクターの異なる透過性および/または半透過性シ
ートは巻くか折り畳まれて、中心軸の周りに空洞または管構造を組み込むか、中心軸の周
りを空洞または管構造で囲み、培養培地、培養マトリックスまたはナノファイバークラウ
ドと一緒にまたはそれらなしで、細胞を収容することができる。あるいは、バイオリアク
ターの異なる透過性および/または半透過性シートを、ステントまたはカテーテルなどの
医療デバイスの表面上またはその表面の周りに直接巻き上げるか折り畳むことができる。
【0124】
例えば、一実施形態では、バイオリアクターの異なる透過性および/または半透過性シ
ートは、中央の空洞の中心にあるカテーテルを用いて巻き上げられる。いくつかの実施形
態では、カテーテルは、多孔質材料で作製することができる。
【0125】
いくつかの実施形態によれば、1つ以上の細胞型を、透過性および/または半透過性シ
ートと一緒に巻き上げるか折り畳む前に、バイオリアクターの1つ以上の異なる透過性お
よび/または半透過性シート上で直接増殖させることができる。
【0126】
一実施形態では、細胞層を、生分解性ナノファイバーのフラットシート上で増殖させ、
巻き上げ、バイオリアクターの一部を構成し得るスパイラル構造に組み込こむことができ
る。
【0127】
別の実施形態では、半透過性ナノファイバーメッシュの1つのフラットシートを幹細胞
とコンフルエンスまで培養し、カテーテルに対して巻き上げ、その中心でカテーテルを囲
む同心円状に交互に並んだ幹細胞および半透過性ナノファイバーメッシュ層のスパイラル
を形成することができる(
図11)。
【0128】
いくつかの実施形態では、ロール型バイオリアクターは、表面の起伏、凹部、またはそ
れらの両方を用いて形成され得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、ロール型バイオリアクターは、拡張可能、折り畳み可能、ま
たは拡張可能かつ折り畳み可能であり得る。
【0130】
いくつかの実施形態では、ロール型バイオリアクターは、細胞接着または血栓形成に影
響を与える薬剤でコーティングされ得る。
【0131】
別の実施形態によれば、透過性および/または半透過性シートが巻き上げられるか折り
畳まれるときに特定の構成で細胞を含有する所望の三次元構造が形成されるような方法で
、ロール型バイオリアクターは、透過性および/または半透過性シートの特定の部分で増
殖される特定の細胞型を含み得る。この構成は、透過性および/または半透過性シートか
ら三次元の組織工学スキャフォールドを作製する便利な方法をもたらすことができる。
【0132】
例えば、本発明の一実施形態は、人工血管を作製するために使用され得る有用な構造を
提供することができる。3つ以上のセグメントを含むのに少なくとも十分な長さを有する
半透過性材料の長くフラットなストリップであって、各セグメントはらせん軸を一回囲む
のに十分な長さを有するストリップは、その最初のセグメントに内皮細胞が播種され、中
央のセグメントに平滑筋細胞が播種され、最後のセグメントに線維芽細胞が播種される。
次に当該複合構造が巻き上げられ、これにより最内層に内皮細胞、中間層に平滑筋細胞、
最外層に線維芽細胞を有する血管に類似した構造が作製される。
【0133】
これらの実施形態のすべてにおいて、透過性および/または半透過性シートが折り畳ま
れるか巻き上げられる前または後のいずれかにおいて、細胞が透過性および/または半透
過性シート上に播種され得ることが、当業者によって理解されるであろう。あるいは、細
胞は、折り畳みプロセス中または巻き上げプロセス中に播種され得る。
【実施例0134】
本明細書に提示される実施例は、本発明の範囲を例示するが、本発明の範囲を限定する
ことは意図していない。
【0135】
(実施例1)
第1世代(G1)幹細胞移植可能なバイオリアクター(SCIB)のin vitro
およびin vivo試験
【0136】
血管カテーテルシャフトに取り付けられた円筒形幹細胞チャンバー(
図1)を有する第
1世代SCIB(G1-SCIB)のプロトタイプを製作し、試験を行った。G1プロト
タイプは、100キロダルトンの分子量カットオフを備えた半透過性セルロースエステル
膜から構築されたもので、パラクリン因子(PF)のエキソソーム画分に対して不透過性
である。ヒートシールされた遠位端と18ゲージの針を使用して1cm間隔で開窓された
シャフトを有する20cmの改造6フレンチ血管カテーテル(Boston Scien
tific、マールボロ、マサチューセッツ州)に、10cmの膜セグメントを取り付け
た。シアノアクリレート医療デバイス接着剤(Henkel、ロッキーヒル、コネチカッ
ト州)、2-0絹外科縫合糸、および0.125インチ医療グレード熱収縮チューブ(I
nsulTab、ウォバーン、マサチューセッツ州)を使用して、該膜を改造カテーテル
の中央部分に固定した。SCIBを70%エタノール中、紫外線下で12時間滅菌し、細
胞培養実験およびin vivo移植前にリン酸緩衝生理食塩水(PBS;Mediat
ech、マナサス、バージニア州)および細胞培養培地で洗浄した。設計どおり、このデ
バイスは幹細胞チャンバーとともに大きな血管のルーメンに配置され、PF、シグナル伝
達分子、栄養素、および老廃物の血流との自由な交換を可能にする。
【0137】
G1-SCIBのMSC生存率およびパラクリン因子(PF)放出
in vitroでのPF放出を評価するために、SCIBに増加する数のヒト間葉系
幹細胞(MSC、10
5、10
6、および5×10
6)をロードし、通常の培養条件(3
7℃、5%CO
2)で7日間、別々のフラスコ中の培養培地中に浸した。培養培地は、2
0%ウシ胎児血清(FBS;Hyclone、ローガン、ユタ州)、L-グルタミン(3
50μg/mL;Mediatech、マナサス、バージニア州)、およびペニシリン/
ストレプトマイシン(50iU/mL/50μg/mL、Mediatech、マナサス
、バージニア州)を補充したAlpha-MEM(Mediatech、マナサス、バー
ジニア州)からなっていた。SCIB外の培地のサンプルを1、3、および7日目に収集
し、残渣をペレット化するために遠心分離してから、-80℃で瞬間凍結した。この条件
培地(CM)における血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bF
GF)、肝細胞成長因子(HGF)、およびインターロイキン-8(IL-8)の濃度を
、マルチプレックスELISA(Quansys、ローガン、ユタ州)を用いて評価した
。培地のみをロードした(即ち、細胞なし)SCIBをコントロールとして使用した。M
SCは7日間の培養にわたって高い生存率を示し(75.4±11.6%、n=6)、E
LISAで評価したところ、関連するPFを産生した(
図2)。低酸素チャンバーに配置
されたSCIB内のMSCは、VEGFを含む血管新生PFの放出を増加させ、収容され
た細胞がSCIBの外部の条件に基づいてそのPFの放出を変更する能力が確認された。
G1-SCIBのMSC容量を決定するために、段階的な用量のMSCを幹細胞チャンバ
ーパウチ内で7日間培養し、PF産生を評価した;G1-SCIBのPF産生は、250
0万細胞の細胞用量でピークに達し、この用量がG1-SCIBの最大容量として採用さ
れた。
【0138】
G1-SCIBの生体適合性および免疫保護
In vivoでのデバイスの生体適合性を確認するために、SCIBをヨークシャー
ブタ(20~30kg)の右内頸静脈に外科的切開により挿入し、透視下でSVCと右心
房との接合部まで進めた。所定の位置に配置されると、SCIBの近位端が固定され、創
傷が閉じられた。10
6個のヒトMSCをロードしたG1-SCIBがブタの上大静脈に
移植され(
図3A)、異種MSCの使用にもかかわらず、免疫反応または輸血反応の証拠
はなかった。1週間後に、G1-SCIBを外植し、培地に戻した。外植されたG1-S
CIBから回収されたMSCは、継続的な増殖、その後の7日間にわたるVEGFなどの
代表的なPFの継続的な放出(
図3B)、および正常な形態(
図3C)を示した。
【0139】
プラセボコントロールのブタの心筋梗塞試験
SCIBベースの治療が心筋梗塞(M)後の有害な心臓リモデリングを変更したかどう
かを決定するために、90分の左前下行動脈閉塞によって誘発された前部MIの3日後に
、2500万個のブタMSCを含むG1-SCIBと、培地のみを含むG1-SCIB(
プラセボ)とを、ブタの上大静脈(SVC)に配置した(各群でn=8)。バイオリアク
ターの移植前の左心室(LV)機能、チャンバーサイズ、および傷跡を評価するために、
MIの3日後のSCIBの挿入直前に、ベースライン心臓MRIを全身3.0TのMRス
キャナーを使用して取得した。ラジオ周波数スポイルドグラディエント・リコールドエコ
ー(radiofrequency spoiled gradient recall
ed echo、SPGR)パルスシーケンスを使用して、シネ画像を取得した(繰り返
し時間、TR=4.3msec、エコー時間、TE=2.1msec;フリップα=12
°;面内分解能1.3×1.3mm、30フェーズ/心臓サイクル)。0.2mmol/
kgのMagnevist(Bayer、ウェイン、ニュージャージー州)の末梢注入後
に、インバージョンリカバリー準備T1強調グラジエントエコーシーケンス(inver
sion recovery-prepared T1 weighted gradi
ent echo sequence)を用いて、遅延ガドリニウム造影(LGE)画像
を取得した(TR=5.3;TE=2.6;1 R-R;フリップα=20°;面内分解
能1.4×1.5mm)。ベースから頂点までの短軸画像は6mmのスライス厚で取得さ
れ、シネ画像およびLGE画像のギャップはなかった。同一のイメージングパラメーター
を使用した4週目の心臓MRIは、G1-SCIBが配置されている間、プラセボのブタ
と比較して、細胞処理ブタでは有害な左心室心臓リモデリングが著しく低下し(ブライン
ド分析による)、収縮末期容積(ESV、2.1±4.1mL/11.4±2.9mL、
細胞/プラセボ、p=0.036)と拡張末期容積(EDV、0.3±4.3mL/10
.4±3.8mL、細胞/プラセボ、p=0.059)はわずかに増加することを明らか
にした(
図4)。左心室駆出率はプラセボのブタで減少したが(-5.8±1.7%、p
=0.03)、細胞処理ブタでは減少しなかった(-2.3±2.9%、p=0.33)
。遅延ガドリニウム造影心臓MRIで評価したところ、両方の群で全傷跡サイズに変化が
あった(
図5)。傷跡サイズはさらに、コアの高密度の傷跡(core dense s
car)と不均一な灰色の傷跡(heterogeneous gray scar)と
に区分された。コア範囲は、ハイパーエンハンスド領域内の最大SIの50%よりも大き
いSIを有する全ピクセルを含んでいた。微小血管閉塞の領域は、コアの一部として含ま
れた。灰色ゾーンの範囲は、正常な心筋におけるピークSIよりも大きいが、ハイパーエ
ンハンスド領域内の最大SIの50%未満であるSIを有する全ピクセルを含んでいた。
不均一な傷跡の塊(mass)の構成要素(すなわち、「灰色の」塊および高密度の「コ
ア」の塊)がそのように分析された場合、SCIBベースの細胞療法を受けた動物は、プ
ラセボを受けた動物には存在しなかった高密度のコア傷跡の大幅な減少とともに、不均一
な灰色の傷跡の大幅な増加を示した。動物から除去されたG1-SCIBは培地に入れら
れ、MSCを有するG1-SCIBはPFを放出し続けた(7日で787±257pg/
mLのVEGF)。重要なのは、すべての動物が研究期間中生き残ったことである;致死
性不整脈、デバイス血栓症、または肺塞栓症を示唆する晩期死亡または予期せぬ死亡はな
かった。
【0140】
安全性
SCIBを移植したすべてのブタが全ての試験を生き延びた。同種異系のブタMSCの
使用にもかかわらず、免疫反応を示唆する発熱または白血球増加の証拠はなかった。ブタ
はSCIBの除去後4週間観察され、無症状のままであった。剖検では、腫瘍性作用の証
拠は見られなかった。興味深いことに、細胞治療群では心膜炎なかったのに対し、プラセ
ボ群のブタの50%に心膜炎があり、細胞治療群ではMI後の炎症反応の低下が示唆され
た。
【0141】
要約
G1-SCIB内で増殖したMSCは生存可能であり、関連するPFを自由に放出する
;G1-SCIBは安全で耐容性が高く、ブタの上大静脈に配置された場合、収容された
細胞に対して最大4週間の免疫保護をもたらす;同種異系MSCを使用したSCIBベー
スの細胞療法は、ブタにおいて、MI後4週間、有害なリモデリングを有利に低減させた
。
【0142】
(実施例2)
強化されたパラクリン因子透過性と内部ヒドロゲルマトリックスとを備えた第2世代(
G2)幹細胞移植可能なバイオリアクター(SCIB)のin vitroおよびin
vivo試験
【0143】
第2世代のSCIB(G2-SCIB)のプロトタイプは幹細胞パウチで構築され、該
パウチは25μmの厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに基づき、パ
ウチ内に間葉系幹細胞を封入するために高度に多孔性のヒアルロナンヒドロゲルを組み込
んでいた(
図7A-7B)。PETフィルム中の細孔は、非常に均一な円形細孔の高密度
フィールドの作製を可能にする技術であるトラックエッチングを使用して作製された。(
図6、
図8)。PETフィルムは、最初に高真空下でサイクロトロンによって加速された
単一エネルギー重イオンによって照射され、フィルムを通る直線的な損傷トラックを作製
する。次に、照射されたフィルムの損傷トラックは、酸中和と脱塩水による洗浄との前に
、連続するアルカリ加水分解浴で処理され、照射時間、エッチングの塩基と酸の濃度、エ
ッチング温度、およびエッチング時間の変化によって厳密に制御され得る細孔サイズおよ
び密度を有する均一な円筒状細孔がエッチングされる。プロトタイプG2-SCIBの幹
細胞パウチは、細孔直径が0.44μm~2.0μm、密度が240万細孔/cm
2~8
00万細孔/cm
2の範囲で作製されたが、上記で詳述したように、より小さなまたはよ
り大きな細孔直径ならびにより低いまたはより高い細孔密度が実現可能である。エキソソ
ームは一般に直径0.2μm未満で、細胞は一般に直径8μmを超えるため、G2-SC
IBの細孔は、パウチが細胞に対する不透過性を維持しながら、(G1-SCIBとは異
なって)PFのエキソソーム画分に対して完全に透過性であることを可能にする。
【0144】
タンパク質およびエキソソームに対するG2-SCIBの透過性
【0145】
FITC-アルブミンに対するG2-SCIBパウチの透過性を2時間にわたって測定
した。分子量66kD(多くの成長因子パラクリン因子と同等またはそれよりも大きいサ
イズ)のアルブミンは、0.44μmの細孔を有するトラックエッチングされたPET膜
を妨害なく横断し周囲の浴(bath)に入り、30分以内にSCIBから20%が放出
され、2時間未満でほぼ100%が放出された(
図10A)。エキソソームも、G2-S
CIBのパウチ膜を容易に横断する。ラットH9c2心筋芽細胞は、トラックエッチング
されたPET膜を横切って自由に移動するエキソソームを貪欲に取り込んだ(
図10B)
。同時に、膜を横断するH9c2心筋芽細胞は見られなかったが、これは、トラックエッ
チングされた細孔直径と比較して、細胞径が大幅に大きいことと一致している。
【0146】
ヒドロゲルマトリックスによる、G2-SCIBにおける幹細胞の生存率の増強
【0147】
パウチに注入されたHyStem HPヒアルロナンヒドロゲル有りまたは無しで、ル
シフェラーゼ発現マウスMSCを、直径4.0mm×長さ32mmの円筒形SCIBのト
ラックエッチングされたPETパウチ内で14日間、10
6細胞の用量で増殖させた。マ
ーカーCD44、Sca-1、CD31、CD45、およびCD34を使用したフローサ
イトメトリーは、MSCがそれらの細胞表面マーカーの発現プロファイルを保持したこと
を示す。MSCの生存率は、ルシフェラーゼ生物発光イメージング(BLI)を使用して
、培養14日間まで評価された。内部ヒドロゲルマトリックスを組み込んだG2-SCI
Bパウチ内のマウスMSCは、内部ヒドロゲルマトリックスなしのG2-SCIBパウチ
内のマウスMSCと比較して、有意に高い生存率を維持した(
図11A)。パウチにヒド
ロゲルマトリックスを組み込んだ場合のマウスMSC生存率の4倍の増加は、培養14日
間まで持続した(
図11B)。
【0148】
G2-SCIBにおけるPF産生および細管形成
【0149】
ヒアルロナンヒドロゲルを組み込んだG2-SCIBで増殖させたヒトMSCおよび同
様の寸法のG1-SCIBで増殖させたヒトMSC、ならびに相対的なPF産生量および
放出量を評価した。代表的な血管新生PFであるVEGFの産生は、ELISAによって
測定された。VEGFのG2-SCIB産生は、7日間の培養期間を通じて、G1-SC
IBよりも均一に10倍以上多かった(
図12A)。これと一致して、培養8日後にG2
-SCIBから放出されたパラクリン因子によって誘発されたin vitroでの内皮
細胞の細管形成も、G1-SCIBによって誘発されたそれよりも有意に大きかった(図
12B)。G2-SCIBの改善されたin vitro細管形成ポテンシャルは、内部
ヒドロゲルマトリックスの存在によって説明することができる。内部ヒドロゲルマトリッ
クスのないG2-SCIBをG1-SCIBと比較すると、細管形成の程度に有意差はも
はや存在しなかった。
【0150】
G2-SCIBの生体適合性および免疫保護
【0151】
ルシフェラーゼを発現する5×106のマウスMSCをロードしたG2-SCIBを、
ブタの上大静脈に2週間移植した;同じ数の細胞をロードしたコントロールG2-SCI
Bは培地中に維持された。異種細胞の使用にもかかわらず、該動物は移植に十分耐え、免
疫反応、輸血反応、または血栓症のいかなる証拠もなかった。外植後、生物発光イメージ
ングは、培地中に維持されたin vitro G2-SCIBと比較して、移植された
G2-SCIBで35%高いMSC生存率を示した。これらのデータは、免疫保護および
生体適合性がG2-SCIBによって維持されることを実証していた;さらに、移植され
たG2-SCIBにおけるMSC生存率がより高いことは、SCIB幹細胞パウチ膜を横
切る栄養素および老廃物の移動効率が、血流を循環させることによって向上することを示
唆する。
【0152】
マイクロビーズを用いたG2-SCIBの細胞生存率
【0153】
MSCをポリスチレンマイクロビーズにロードした(直径106μm~125μmが使
用されたが、これよりも大きいまたは小さい直径も可能である)。マイクロビーズを滅菌
してからフィブロネクチンでコーティングし、MSCを播種した。MSCをマイクロビー
ズ上で3日間培養した。次いで、MSCでコーティングされたマイクロビーズを、細胞チ
ャンバー容積3.4mlあたり約600,000~120万マイクロビーズの密度で、S
CIBの細胞チャンバーに注入した。異なる細胞のロードレベルを達成するために、より
高いまたはより低いマイクロビーズ密度を使用することもできる。細胞チャンバー中での
7日後、MSCはマイクロビーズに付着したままであり、細胞パウチで7日間培養した後
のマイクロビーズ上の細胞生存率は、生細胞/緑色蛍光・死細胞/赤色蛍光生存率アッセ
イによると90%を超えた(
図9)。
【0154】
要約
【0155】
内部ヒアルロナンヒドロゲルマトリックスを組み込んだ新規トラックエッチングPET
パウチを有するG2-SCIBの試験は、大きなタンパク質およびエキソソームに対する
透過性、細胞に対する不透過性を実証し、in vivoでの生体適合性および免疫保護
を維持しながら、高レベルのPF産生と内皮細胞細管形成により優れた幹細胞生存率を促
進した。
【0156】
本明細書に引用される、刊行物、特許出願、および特許を含むすべての参考文献は、各
参考文献が個別にかつ具体的に参照により援用されることが示され、その全体が本明細書
に記載された場合と同程度に、参照により本明細書に援用される。
【0157】
本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、本発
明の説明の文脈における(特に、以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「1つの(
a)」および「1つの(an)」および「前記(the)」および同様の指示対象の使用
は、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。「備える」、「有する
」、「含む」、および「含有する」という用語は、特に断りのない限り、制限のない用語
(すなわち、「含むがこれに限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書で別段の指示がない限り、範囲内に含まれ
る各個別の値を個別に参照する簡略法として機能することのみを意図しており、各個別の
値は、本明細書に個別に記載されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書
に記載されているすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によっ
て明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行され得る。本明細書で提供されるあ
りとあらゆる例または例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよ
く明らかにすることを意図しており、別段の請求がない限り、本発明の範囲を限定するも
のではない。本明細書中の言語は、請求されていない要素を本発明の実施に不可欠である
と示すものと解釈されるべきではない。
【0158】
本発明を実施するために本発明者に知られている最良の形態を含む、本発明の好ましい
実施形態が本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の記載
を読むことで当業者に明らかになり得る。本発明者は、当業者がそのような変形を適切に
使用することを期待し、本発明者は、本明細書に具体的に記載された以外の方法で本発明
が実施されることを意図している。したがって、本発明は、適用される法律によって許可
されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙された主題のすべての修正お
よび均等物を含む。さらに、そのすべての可能な変形における上記の要素の任意の組み合
わせは、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り
、本発明に含まれる。
a)内面および外面を有する密閉空間を規定する1つ以上のエンクロージャであって、前記1つ以上のエンクロージャは折り畳み可能であるか、拡張可能であるか、折り畳み可能かつ拡張可能であるか、または折り畳み可能でも拡張可能でもなく、前記1つ以上のエンクロージャは、前記密閉空間における細胞の封じ込めをもたらし、前記細胞の流出を防ぐとともに、免疫学的バリアも提供することができるように半透過性であり、前記1つ以上のエンクロージャは、前記エンクロージャからのパラクリン因子の流出を可能にすることができる、1つ以上のエンクロージャ;および
b)前記1つ以上のエンクロージャ内の細胞培養マトリックス内の細胞であって、パラクリン因子を産生することができる、細胞
を備える、移植可能なバイオリアクター。