(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150474
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】五焦点回折眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024104368
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2021532320の分割
【原出願日】2020-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】322001392
【氏名又は名称】アーレン サイエンティフィック インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ユエアイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遠方視力から近方視力までの十分な深度を患者に与える多焦点回折レンズに関する技術を提供する。
【解決手段】回折五焦点眼内レンズ10は、ベース光学部16及び回折素子を含む。ベース光学部は、ベース度数に対応するベース湾曲部を有する。回折素子は、近方視力から遠方視力までの5つの焦点のセットを生成するために、少なくとも5つの連続回折次数における強め合う干渉を与える。強め合う干渉は、少なくとも5つの連続回折次数の最高回折次数における近方焦点と、最低回折次数における遠方焦点と、拡張中間焦点、中間焦点及び拡張近方焦点で近方視力から遠方視力までの連続性を与えるための、最高回折次数と最低回折次数との間の3つの中間回折次数とを与える。多焦点眼内レンズは、(i)-100%の回折効率を与え、(ii)陽の視覚障害を殆ど引き起こさず、(iii)縦色収差を減らすこともできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面及び後面を有するレンズと、
前記前面及び前記後面の少なくとも1つに配置された回折プロファイルであって、視界の範囲内で少なくとも5つの連続回折次数における強め合う干渉を生成するように構成された複数の環状ゾーンを含み、前記5つの連続回折次数は、最低回折次数、拡張中間回折次数、中間回折次数、拡張近方回折次数及び最高回折次数を含む、回折プロファイルと
を含む眼内レンズであって、
前記最高回折次数は、近方視力のための近方焦点に対応し、最低回折次数は、遠方視力のための遠方焦点に対応し、前記拡張中間回折次数は、拡張中間焦点に対応し、前記中間回折次数は、中間焦点に対応し、及び前記拡張近方回折次数は、拡張近方焦点に対応する、眼内レンズ。
【請求項2】
前記近方焦点、前記拡張近方焦点、前記中間焦点及び前記拡張中間焦点は、前記遠方焦点のベース度数に対する異なる加入度数にそれぞれ対応し、
前記拡張中間焦点に対応する加入度数は、前記近方焦点に対応する加入度数の1/2未満であり、
前記中間焦点に対応する加入度数は、前記近方焦点に対応する加入度数の1/2であり、及び
前記拡張近方焦点に対応する加入度数は、前記近方焦点に対応する加入度数の1/2超である、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記5つの連続回折次数は、0、+1、+2、+3及び+4である、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記5つの連続回折次数は、+4、+5、+6、+7及び+8である、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記5つの連続回折次数は、-2、-1、0、+1及び+2である、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記複数の環状ゾーンは、回折段差を含む、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項7】
前記回折段差は、繰り返す、請求項6に記載の眼内レンズ。
【請求項8】
回折段差の数は、4つである、請求項7に記載の眼内レンズ。
【請求項9】
前記回折段差は、以下の式:
【数1】
(式中、
【数2】
であり、
ADDは、前記最高回折次数における所望の加入度数である)
で記述される、請求項8に記載の眼内レンズ。
【請求項10】
前記回折プロファイルは、トップハット関数:
【数3】
(式中、R
Dは、前記トップハット関数の半径である)
によってアポダイズされる、請求項9に記載の眼内レンズ。
【請求項11】
前記OPDは、以下の式:
【数4】
(式中、α、β、γ及びδは、前記レンズの最適性能のために最適化される多項式の係数である)
で更に修正される、請求項9に記載の眼内レンズ。
【請求項12】
前記回折プロファイルは、無色化される、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
前記回折プロファイルは、複数の正弦波フーリエ調波にかけられる、請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項14】
正弦波フーリエ調波の数は、少なくとも12である、請求項13に記載の眼内レンズ。
【請求項15】
前記回折プロファイルは、少なくとも98%の回折効率を有する、請求項1に記載の眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、概して、多焦点回折レンズ、より詳細には五焦点回折眼内レンズ(IOL)に関する。五焦点回折IOLは、遠方視力、拡張中間視力、中間視力、拡張近方視力及び近方視力を、五焦点眼内レンズ(IOL)が埋め込まれている患者に与える5つの異なる焦点を有する。従って、遠方視力から近方視力までの十分な深度を患者に与える。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
人の水晶体は、角膜と一緒に、網膜上に集束される光を屈折させるのに役立つ眼内の透明な両凸構造体である。水晶体は、柔軟であり、水晶体の湾曲を変える毛様体筋により、水晶体の湾曲を制御する。この過程は、調節と呼ばれる。より短い焦点距離では、毛様体筋は、水晶体を厚くするように作用し、その結果、より丸い形状になり、従ってより高い屈折力が得られる。より長い焦点距離では、毛様体筋は、水晶体が緩んで屈折力を低下させることができるように作用する。IOLは、白内障などの病気によって無能にされている天然水晶体を除去する手術後に人の眼に埋め込まれた人工水晶体である。IOLは、通常、IOLが埋め込まれると、IOLの形状を変える能力を有しておらず、患者は、IOL自体の焦点調節能力で我慢するか、又は別のレンズ(例えば、眼鏡又はコンタクトレンズ)でIOLを補強する必要がある。
【0003】
初期のIOLは、意図的に単焦点であり、単一距離、通常、遠距離で視覚焦点を与えることができるのみであった。その結果、患者は、中間距離又は近距離で見える眼鏡又はコンタクトレンズでIOLを補強する必要がある。IOL技術が進歩するにつれて、患者の近方視力及び遠方視力を改善するように2つの焦点を患者に与えた二焦点IOLが利用できるようになった。材料、製造及びコンピュータ設計ソフトウェアの更なる改良により、回折IOLを構成することができた。回折の強め合う干渉の原理を用いたこれらのIOLにより、追加の焦点を生成することができた。回折二焦点は、通常、約82%のエネルギー効率を有する2つの焦点を生成する。回折三焦点IOLは、3つの焦点、二焦点レンズのような遠方焦点及び近方焦点及び中間視力に対する第3の焦点を有する。中間焦点は、患者に対して視界を増大する。回折三焦点は、約89%のエネルギー効率を有する3つの焦点を生成する。しかし、三焦点回折IOLは、幾つかの欠点を有する。第1に、三焦点回折IOLは、患者に快適な距離で中間焦点を与えることができない。第2に、遠方視力から近方視力までの全視界における「孔」又は「隙間」が依然として存在する。
【0004】
更に、有水晶体眼及び偽水晶体眼の両方は、色収差(CA)に直面する。CAは、全色を特定の焦点に集束させる水晶体の障害である。この理由は、角膜及び水晶体、天然水晶体及びIOLの両方の屈折率が色の波長によって異なることであり、焦点の位置は、屈折率に左右されるため、異なる色は、異なる焦点を有する。その結果、天然有水晶体眼又はIOLが埋め込まれた偽水晶体眼に対する網膜に形成された白色光像がぼやける。
【0005】
James Schwiegerlingに付与された「Diffractive Trifocal Lens」という名称の米国特許第9,320,594号は、隣接ゾーンの接合部における光学的厚さの異なる段差が段差高を規定する複数の環状同心ゾーンで構成されたプロファイルを有する、少なくとも1つの回折面を有する光学素子を含む回折三焦点IOLを開示している。3つの異なる焦点(遠方焦点、中間焦点及び近方焦点)における強め合う干渉に対する位相関係を生成するために段差高を最適化する。しかし、Schwiegerlingレンズは、コンピュータのための約60cmのOSHA再接合快適中間範囲よりも長い、約40cmにおける近距離に対して中間視力を約80cmにする。更に、約50cm~180cmの中間視力の全範囲の一部のみを、物体に焦点が合っていない中間視力における隙間を残すSchwiegerlingレンズによって含む。
【0006】
Myoung-Taek Choiらに付与された「Multifocal lens having reduced chromatic aberrations」という名称の米国特許第10,426,599号は、前面、後面及び4つの焦点(遠方焦点、近方焦点及び2つの中間焦点)を与える回折構造体を有するIOLを開示している。レンズは、CAを減らしながら、中間範囲における視野を増大し、遠方と近方との間の全中間範囲が2つの焦点のみでカバーされない。
【0007】
更に、Myoung-Taek Choiらに対する「Multifocal diffractive ophthalmic lens」という名称の米国特許出願公開第2019/0224001号は、遠方焦点、近方焦点及び2つの中間焦点を与える4つの回折次数を有するIOLを開示している。しかし、中間焦点の一方、1次回折を、より高いエネルギーを他方の焦点に分布させ、従ってより有用な視力を与えるように抑制する。しかし、中間焦点の抑制により、その焦点における視力細部が低下し、遠方視力から近方中間視力までの患者の視界が悪化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、(i)1つ又は複数の焦点の抑制を必要としないように約100%の回折効率を与え、(ii)有用な焦点に割り当てられる既存の回折IOL設計で認められる無駄な回折効率を回復し、(iii)遠方視力から近方視力までの連続性を有することができるように少なくとも5つの回折次数を有し、及び(iv)色収差(CA)を減らす回折IOLが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の簡単な概要
前面、後面及び複数のエシェレット格子又はフーリエ調波を含む少なくとも1つの回折構造体を有する多焦点IOLが開示される。回折構造体は、遠方視力と近方視力との間の全視界について、3つの追加中間焦点と一緒に遠方視力から近方視力までを支援するために、高いエネルギー使用効率を有する少なくとも5つの連続回折次数における強め合う干渉を生成する。回折構造体の設計は、色収差(CA)を減らす遠方視力から近方視力までを支援し、従って高い質の白色光及び色覚を患者に与えるために、4次で開始する5つの連続回折次数を生成し得る。
【0010】
本発明の様々な実施形態の他の特徴及び利点は、下記の説明から当業者に明白になるであろう。
【0011】
図面の簡単な説明
本発明は、下記の詳細な説明及び添付図面からより詳細に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態によるIOLの例示的な概略平面図である。
【
図3】5つの回折次数間の加入度数分布の例を含む表を与える。
【
図4】回折構造体の光路差(OPD)の例示的な回折段差配置を示す。
【
図5】5つの連続回折次数間のエネルギー分布の例を含む表を与える。
【
図6】開示の回折レンズの第1の実施形態による回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。
【
図7】部分回折開口を有する第1の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、トップハット関数でアポダイズされる第1の実施形態の回折構造体である。
【
図8】第1の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図9】第1の実施形態の回折構造体で達成される5つの連続回折次数における回折効率を示す表を与える。
【
図10】開示の回折レンズの第2の実施形態による回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。
【
図11】部分回折開口を有する第2の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、トップハット関数でアポダイズされる第2の実施形態の回折構造体である。
【
図12】第2の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図13】第2の実施形態の回折構造体で達成される5つの連続回折次数における回折効率を示す。
【
図14】開示の回折レンズの第3の実施形態による回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。
【
図15】部分回折開口を有する第3の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、トップハット関数でアポダイズされる第3の実施形態の回折構造体である。
【
図16】第3の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図17】第3の実施形態の回折構造体で達成される5つの連続回折次数における回折効率を示す。
【
図18】部分回折開口を有する第4の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、部分回折開口を有する第1の実施形態の無色化バージョンである。
【
図19】第4の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図20】部分回折開口を有する第5の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、部分回折開口を有する第2の実施形態の無色化バージョンである。
【
図21】第5の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図22】部分回折開口を有する第6の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。これは、実質的に、部分回折開口を有する第3の実施形態の無色化バージョンである。
【
図23】第6の実施形態に対する回折構造体の4つのセグメントの8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。
【
図24】フーリエ調波を有する第7の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。
【
図25】第7の実施形態の回折構造体から生成される5つの回折次数間のエネルギー分布を含む表を与える。有効な回折次数は、それぞれ遠方視力、拡張中間視力、中間視力、拡張近方視力、近方視力に対して-2、-1、0、1、2である。
【
図26】フーリエ調波の振幅及び位相を含む表を与える。
【
図27】実質的に第7の実施形態の部分回折開口バージョンであるフーリエ調波を有する第8の実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
下記の説明は、当業者が本発明を構成及び使用することができるように提示され、特許出願及び特許出願要件に関連して提供される。本発明の様々な実施形態は、中間距離における視力の連続性の改善を多焦点回折IOLに提供する。本明細書に記載の様々な実施形態に対する修正形態は、容易に明らかとなり、開示の原理及び特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、コンタクトレンズ又は眼鏡レンズなどの他の構成で効果的に作用する。従って、本発明は、記載の様々な実施形態に限定されるように意図されておらず、本明細書に記載の原理及び特徴と一致する最も広い範囲に従うものとする。
【0014】
本明細書に開示される多焦点回折IOLは、前面、後面及び複数のエシェレット格子又はフーリエ調波を含む少なくとも1つの回折構造体を有する。開示の回折構造体の様々な実施形態は、遠方視力、近方視力及び3段階の中間視力を可能にする回折次数に対応する少なくとも5つの焦点を提供する。少なくとも5つの焦点間のエネルギー分布を制御し、回折効率を向上させることにより、回折次数の何れかを抑制する必要がなく、回折効率の向上により、異常光視症の存在が減少する。この異常光視症は、白内障の手術後に患者の視力に存在することがある望ましくない光学であり、陽又は陰として分類されることがある。陽の異常光視症は、望ましくない光(例えば、すじ、星形、ちらつき、曇り又はかすみ)である一方、より稀な陰の異常光視症は、一時的な視野で黒線又は弧状影として記述される。特に、本発明は、陽の異常光視症を極力減らす。
【0015】
図1は、IOLの前側又は後側に回折構造体12を含む多焦点回折IOL10の特定の実施形態を例示する。回折構造体12は、光の強め合う干渉に適している構造体を各ゾーンが含む環状回折ゾーン14のセットを含む。各回折ゾーン14の半径方向幅は、各回折ゾーン14内の段差構造体が、各焦点に回折される光の量を制御する一方、加入度数について制御する。単焦点であり、典型的に遠視力に対して設定されたベース光学部16に回折構造体12を位置決めする。IOL10は、水晶体が以前に見られた嚢内で適所にIOL10を保持する触覚部18を含む。
図1に2つの触覚部を示すが、IOLは、3つ以上の触覚部又は嚢内で適所にIOLを保持する他のある種の構造体を有し得る。IOL10、回折構造体12及び触覚部18は、典型的には、同じ可撓性材料(例えば、シリコーン)で構成される。開示の実施形態をIOLとして説明しているが、実施形態は、コンタクトレンズ及び眼鏡、更に嚢以外の眼の位置に存在するIOLに同様に適用され得る。
【0016】
近距離から中間距離まで且つ遠距離までの物体に焦点が合って見えるように、IOLは、視力の十分な深度を患者に与えることが望ましい。単焦点IOLは、遠距離での物体のみに焦点が合うように、一般的にある距離を置いて、視力の非常に狭い深度を患者に与えた。二焦点IOLは、近距離及び遠距離での物体に焦点が合う同時視力を患者に与えた。近視野における物体は、眼の角膜の前でおよそ30cm~45cmにある物体である一方、遠視野における物体は、眼からおよそ少なくとも400cmにある物体である。IOL10によって表される五焦点IOLは、回折構造体12を使用することにより、近視野と遠視野との間に存在する物体に焦点を合わせようとする。回折構造体12は、位相摂動を光路に導入し、5つの有効な回折次数を生成して、遠距離、拡張中間距離、中間距離、拡張近距離及び近距離における視力のために患者に役立つ。
図2は、生成される5つの焦点(遠方焦点、拡張中間焦点、中間焦点、拡張近方焦点及び近方焦点)をIOL10の回折構造体12に対して概略的に示す。
【0017】
図3は、近方視力である老眼矯正にために有用である加入度数の例を含む表を示す。IOL10に精巧に形成される加入度数の量は、患者の老眼の状態の程度、即ち患者の近方視力の必要性に左右される。近方視力に適用される加入量から、各中間焦点に適用される加入度数の量を判定し得、拡張中間焦点は、近方視力に適用される加入の1/4であり、中間焦点は、近方視力に適用される加入の1/2であり、拡張近方焦点は、近方視力に適用される加入の3/4である。
図3における表は、近方視力に適用される加入量が2D、3D、3.2D及び4Dである例を示す。
【0018】
図4は、エシェレット型の回折構造体12の例示的な微細構造を示し、光軸と同じ方向にあるy軸を光路差(OPD)の点で示す一方、Xによって表されるようにレンズの中心からの距離であるx軸を半径rの2乗の点で示す。回折構造体12のエシェレット微細構造は、視界の範囲内で5つの異なる焦点(遠方焦点、拡張中間焦点、中間焦点、拡張近方焦点及び近方焦点)における強め合う干渉に対する位相関係を生成する回折構造体を繰り返す4つの段差(各段差は、回折ゾーン14である)の形態をとる。
図1は、8つの回折ゾーン14を示し、従って
図4の微細構造が2回繰り返されている。各回折ゾーン14の半径は、下記の回折リング直径に対するフレネル回折レンズ設計に基づいている。
【数1】
【0019】
ここで、r
iは、レンズ上のi番目のゾーンの半径であり、λは、設計波長であり、ADDは、近方焦点に対する加入度数である。各回折ゾーン14の位相プロファイルは、Φ
i1と定義されるOPD始点及びΦ
i2と定義されるOPD終点を有する半径r
2の点で線形セグメントである。レンズの中心からの第1の回折ゾーン14をOPDの基準に選択することができ、即ちΦ
11をゼロと定義する。微細構造は、第4の回折ゾーン14毎に繰り返すため、各繰り返しサイクルにおけるΦの値は、ゼロである。これを
図4に示し、Φ
11及びΦ
51は、両方ともゼロである。各回折ゾーン12の幅は、上述のフレネル方程式(ここで、Xは、半径r
2の点であり、iは、値0、1、2又は3の1つである)によって判定されるように、X
i+1-X
iである。特定の回折次数(0、+1、+2、+3及び+4)で集束される入射光エネルギーの割合は、それぞれ遠方焦点、拡張中間焦点、中間焦点、近方中間焦点及び近方焦点に対する「回折効率」と呼ばれる。
【0020】
この構造をレンズ開口の半径の方向に沿ってレンズ面で繰り返す。4つのセグメントの各断面の2つの端部におけるOPD値は、回折構造体の設計値である。構造体のOPD分布は、以下の式で表され得る。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、R
Dは、回折開口の半径であり、Rは、レンズ開口の半径であり、α、β、γ及びδの値は、全て当技術分野で知られており、βは、非無色化の第1、第2及び第3の実施形態に対して常にゼロである。
【0021】
図4の微細構造を変更して、患者の必要性によって5つの焦点の中で焦点エネルギーを分布させ得る。
図5における表は、遠方又は0次回折次数、拡張中間又は1次回折次数、中間又は2次回折次数、拡張近方又は3次回折次数及び近方又は4次回折次数における回折効率の7つの異なる例を示す。特注又は商用光線追跡ソフトウェアを用いて、10個のΦ
ijに対する最適化により、特定のエネルギープロファイルを達成することができる。
【0022】
図6、
図10及び
図14は、五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態の各々に対する回折構造体12のOPD位相プロファイルを示す。位相プロファイルを、半径方向位置がゼロである点線で示す光軸OAの周りに複数の回折ゾーン14として例示する。回折ゾーン14は、光軸の周りの環状リングであるため、OPD位相プロファイルは、光軸OAに関して対称である。各回折ゾーン14を垂直段差によって両側に結合し、光軸OAに最も近い第1の回折ゾーンから開始する4つの回折ゾーン14の各セットを
図4の段差構造体によって表す。
図4における段差構造体は、光軸OAから開始するレンズ開口の半径に沿って回折ゾーンを示す。回折位相プロファイルをベース光学部16の屈折部分から分離する(即ち、垂直軸上のゼロは、ベース光学部16の面に対応する)。OPD位相プロファイルは、
図4によって表される4つの回折ゾーン14の5つの繰り返しセットを示す。この説明は、五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態の各々に対する回折構造体12のOPD位相プロファイルをトップハット関数によってアポダイズする
図7、
図11及び
図15にも当てはまる。
【0023】
図8、
図12及び
図16は、五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態の各々に対する
図4に示すような回折構造体12の4つの回折ゾーン14の8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。列段差1は、X
0~X
1の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
11及びΦ
12であることを示す。列段差2は、X
1~X
2の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
21及びΦ
22であることを示す。列段差3は、X
2~X
3の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
31及びΦ
32であることを示す。最後に、列段差4は、X
3~X
4の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
41及びΦ
42であることを示す。
図4に示す4つの回折ゾーン14の各セットに対してOPD位相値を繰り返す。
図1は、8つの回折ゾーン14、従って表で与えられたOPD位相値を2回繰り返すIOL10を示す。
【0024】
図9、
図13及び
図17は、明順応開口における五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態の各々の回折構造体で達成される5つの連続回折次数における回折効率の推定を含む表を与える。図において、IOL10の第1、第2及び第3の実施形態は、3つの中間焦点(1次、2次及び3次)で効率を広く拡大しながら、遠方焦点(0次)及び近方焦点(4次)の両方で優れた効率を与えることが読者に分かり得る。回折構造体12におけるOPD値の変更により、回折効率を5つの次数間でシフトすることができることを当業者は理解するであろう。このように、IOLを患者のライフスタイルに最も良く適合させるために、5つの回折焦点の何れか1つにおいて、残りの焦点における視力を犠牲にして視力を改善することができる。
【0025】
エネルギー生成回折次数の変更によって偽水晶体眼の色収差(CA)を減らすために、五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態を無色化バージョンに変換し得る。五焦点IOLの第1、第2及び第3の実施形態の全ては、エネルギー生成回折次数として、遠方視力に対する0次回折次数及び近方視力に対する4次回折次数を使用する。ここで、第4、第5及び第6の実施形態である第1、第2及び第3の実施形態の無色化バージョンは、エネルギー生成回折次数として、遠方視力に対する4次回折次数、近方視力に対する8次回折次数及び中間焦点に対する5次、6次及び7次回折次数を使用する。
図9、
図13及び
図17に示す第1、第2及び第3の実施形態の回折効率の推定は、それぞれ無色化の第4、第5及び第6の実施形態に対して同じままである。
【0026】
図18、
図20及び
図22は、五焦点IOLの第4、第5及び第6の実施形態の各々に対する回折構造体12の無色化位相プロファイルを示す。OPD位相プロファイルを、半径方向位置がゼロである点線で示す光軸OAの周りに複数の回折ゾーン14として例示する。回折ゾーン14は、光軸の周りの環状リングであるため、OPD位相プロファイルは、光軸OAに関して対称である。各回折ゾーン14を垂直段差によって両側に結合し、光軸OAに最も近い第1の回折ゾーンから開始する4つの回折ゾーン14の各セットを
図4の段差構造体によって表す。位相プロファイルをベース光学部16の屈折部分から分離する(即ち、垂直軸上のゼロは、ベース光学部16の面に対応する)。位相プロファイルは、
図4によって表される4つの回折ゾーンの3つの繰り返しセットを示す。
【0027】
図19、
図21及び
図23は、五焦点IOLの第4、第5及び第6の実施形態の各々に対する
図4に示すような回折構造体12の4つの回折ゾーン14の8つの端部におけるOPD位相値を含む表を与える。列段差1は、X
0~X
1の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
11及びΦ
12であることを示す。列段差2は、X
1~X
2の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
21及びΦ
22であることを示す。列段差3は、X
2~X
3の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
31及びΦ
32であることを示す。最後に、列段差4は、X
3~X
4の範囲に対するOPD位相値がそれぞれΦ
41及びΦ
42であることを示す。
図4に示す4つの回折ゾーン14の各セットに対してOPD位相値を繰り返す。
図1は、8つの回折ゾーン14、従って表で与えられたOPD位相値を2回繰り返すIOL10を示す。
【0028】
正弦波フーリエ調波を回折構造体12に適用することにより、五焦点IOL10の回折構造体12の製造を単純化し得る。上述の実施形態、第1~第6の実施形態における回折構造体は、複数のエシェレット格子で構成されている。下記の第7及び第8の実施形態は、複数のフーリエ調波で構成されている。フーリエ調波の適用により、
図4に示す段差構造体を平滑化し、回折構造体12の回折効率を約100%に保持しながら、鋭い輪郭を除去する。例示的な正弦波フーリエ調波のOPD分布を以下の式で例示する。
【数4】
ここで、Addは、近方加入度数であり、N、A
i、Ψ
i、α、β、γ及びδの値は、全て五焦点IOLの設計目標のために最適化されるパラメータである。
【0029】
図24は、五焦点IOLの第8の実施形態として12個の正弦波フーリエ調波の適用によって修正された回折構造体12のOPD位相プロファイルを示す。正弦波フーリエ調波の適用により、0、+1、+2、+3及び+4から-2、-1、0、+1及び+2(ここで、-2は、遠方視力に対する回折次数であり、-1は、拡張中間視力に対する回折次数であり、0は、中間視力に対する回折次数であり、+1は、拡張近方視力に対する回折次数であり、及び+2は、近方視力に対する回折次数である)に有効な回折次数をシフトする。OPD位相プロファイルを、半径方向位置がゼロである点線で示す光軸OAの周りに複数の回折ゾーン14として例示する。回折ゾーン14は、光軸の周りの環状リングであるため、OPD位相プロファイルは、光軸OAに関して対称である。OPD位相プロファイルをベース光学部16の屈折部分から分離する(即ち、垂直軸上のゼロは、ベース光学部16の面に対応する)。
図25は、この実施形態で各回折次数(-2、-1、0、+1及び+2)に対する回折効率を含む表を与える。
図26は、五焦点IOLに適用される正弦波フーリエ調波の振幅及び位相を列挙する表を与える。
図27は、実質的に第7の実施形態の部分回折開口バージョンであるトップハット関数によってアポダイズされる、この実施形態の回折構造体に対する半径方向OPD位相プロファイルの断面図を示す。
【0030】
多くの実施形態がここで例示及び説明されているが、同じ目的を達成するように計算された様々な均等な実施形態又は実装形態を、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される実施形態と置き換えることができることが当業者によって理解されるであろう。本発明による実施形態を様々な方法で実施できることを当業者は容易に理解するであろう。本出願は、本明細書に記載の実施形態の任意の改造形態又は変更形態を含むように意図されている。
【0031】
本明細書で使用されている用語及び表現は、説明の用語及び限定されない用語として使用され、このような用語及び表現の使用において、図示及び記載の特徴又はこれらの特徴の一部の均等物を除くように意図されておらず、本発明の範囲は、下記の特許請求の範囲によってのみ規定及び限定されることが分かる。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面及び後面を有するレンズと、
前記前面及び前記後面の少なくとも1つに配置された回折プロファイルであって、視界の範囲内で少なくとも5つの連続回折次数における強め合う干渉を生成するように構成された複数の環状ゾーンを含み、前記5つの連続回折次数は、最低回折次数、拡張中間回折次数、中間回折次数、拡張近方回折次数及び最高回折次数を含む、回折プロファイルと
を含む眼内レンズであって、
前記最高回折次数は、近方視力のための近方焦点に対応し、最低回折次数は、遠方視力のための遠方焦点に対応し、前記拡張中間回折次数は、拡張中間焦点に対応し、前記中間回折次数は、中間焦点に対応し、及び前記拡張近方回折次数は、拡張近方焦点に対応する、眼内レンズ。
【外国語明細書】