(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150538
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】繊維製品類の染色プロセス
(51)【国際特許分類】
D06P 1/22 20060101AFI20241016BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20241016BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20241016BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20241016BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20241016BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20241016BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
D06P1/22 ZNA
C12N9/02
C12N11/02
C12N9/88
C12P1/00 Z
C12P7/22
D06P1/22
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024112375
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2022504122の分割
【原出願日】2019-10-31
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/069720
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(71)【出願人】
【識別番号】519446539
【氏名又は名称】ライクスユニバーシタイト フローニンゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(72)【発明者】
【氏名】ニコラース ロンカル
(72)【発明者】
【氏名】ファティー コヌコウルー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ヴェー フラーイエ
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】エスレフ トゥンサー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で、費用対効果が高く、環境上優しい繊維製品類の染色プロセスを提供する。
【解決手段】本発明は、繊維製品類の染色プロセス、特に酵素類を用いた繊維製品類の染色プロセスに関する。本発明はまた、ロイコインジゴ及び/又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造方法に関する。本発明はさらに、その染色プロセスにより得られる繊維製品類、酵素類を含む反応器を備えた装置、および微生物由来のフラビン含有モノオキシゲナーゼに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製品類を染色するプロセスであって、
a)少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化してインドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程、
b)少なくとも還元酵素の存在下で、前記インドキシル又は前記インドキシル誘導体をロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程、
c)少なくとも前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を、繊維製品の少なくとも一部に付与する工程、および
d)前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体の少なくとも一部を酸化して、インジゴ又はインジゴ誘導体を前記繊維製品上に生成させることにより、前記繊維製品の少なくとも一部を染色する工程
を含むことを特徴とする繊維製品類の染色プロセス。
【請求項2】
少なくともトリプトファナーゼの存在下でトリプトファン又はトリプトファン誘導体を変換して、前記インドール又は前記インドール誘導体を調製する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記トリプトファン誘導体はトリプトファンのハロゲン化誘導体であり、前記プロセスは、少なくともトリプトファンハロゲナーゼおよびハロゲン源の存在下で、トリプトファンをハロゲン化して、前記トリプトファンのハロゲン化誘導体を得る工程をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記工程a),前記工程b),トリプトファンを変換する前記任意の工程,およびトリプトファンをハロゲン化する前記任意の工程を、ワンポットプロセスとして実行することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酸化酵素,前記還元酵素,前記トリプトファナーゼ,および前記トリプトファンハロゲナーゼは、各々単離酵素であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記トリプトファン誘導体は6-ブロモトリプトファンであり、前記インジゴ誘導体はティリアンパープルであることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酸化酵素はオキシゲナーゼであり、好ましくはモノオキシゲナーゼであり、より好ましくはフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)であり、さらに好ましくは微生物由来のフラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO)であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記還元酵素はレダクターゼであり、好ましくはアゾレダクターゼであり、より好ましくはフラビン依存性アゾレダクターゼであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酸化酵素及び/又は前記還元酵素は、補因子再生酵素に結合されており、好ましくは補因子再生酵素に融合されており、前記補因子再生酵素は、好ましくは、グルコース脱水素酵素(GDH),亜リン酸脱水素酵素(PTDH),および蟻酸脱水素酵素(FDH)から選択され、より好ましくは、亜リン酸脱水素酵素(PTDH),およびその混合物から選択されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記酸化酵素は融合酵素PTDH-mFMOであり、且つ/又は前記還元酵素はPTDH-AzoAであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を、浸染法,滞留法,泡加工法,噴射法,スプレー法,又はこれらの組合せから選択した方法により、前記繊維製品の少なくとも一部に付与することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記繊維製品は、前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を付与した後、空気に曝すか、化学酸化処理するか、乾燥することを特徴とする請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を含む反応混合物又は水溶液を含む複数の反応器又はチャンバー中に、連続的に前記繊維製品を浸染及び/又は滞留させることにより、前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を前記繊維製品に付与し、繰り返す浸染工程同士の間毎に、前記繊維製品を空気に曝すことを特徴とする請求項11又は12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記酸化酵素,還元酵素,トリプトファナーゼ,およびトリプトファンハロゲナーゼの少なくとも一つは、固定化酵素であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記繊維製品を、糸,布,又は衣服から選択することを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセスにより得られることを特徴とする染色された繊維製品。
【請求項17】
酵素合成によりロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体を製造する方法であって、
a’)任意で、少なくともトリプトファナーゼの存在下で、トリプトファン又はトリプトファン誘導体をインドール又はインドール誘導体に変換することにより、インドール又はインドール誘導体を調達する工程、
b’)少なくとも酸化酵素の存在下で、工程a’)で得られた前記インドール又は前記インドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程、および
c’)少なくとも還元酵素の存在下で、工程b’)で得られた前記インドキシル又は前記インドキシル誘導体を、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程を含むことを特徴とするロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造方法。
【請求項18】
前記工程a’)のトリプトファン誘導体はトリプトファンのハロゲン化誘導体であり、少なくともトリプトファンハロゲナーゼおよびハロゲン源の存在下で、トリプトファンをハロゲン化して、前記トリプトファンのハロゲン化誘導体を得る工程i)をさらに有することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記トリプトファナーゼ,酸化酵素,還元酵素,およびトリプトファンハロゲナーゼの少なくとも一つは単離酵素であり、好ましくは固定化酵素であることを特徴とする請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記工程b’),前記工程c’),任意の前記工程a’),および任意の前記トリプトファンをハロゲン化する工程は、ワンポットプロセスとして同じ反応器中で実行することを特徴とする請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス、又は請求項17~20のいずれか1項に記載の方法を実行するための装置であって、前記装置は、酵素類を含む反応器を少なくとも有し、前記酵素類は、好ましくはモノオキシゲナーゼである酸化酵素と、好ましくはアゾレダクターゼである還元酵素とを含み、任意でトリプトファナーゼも含むことを特徴とする装置。
【請求項22】
前記酵素類は、トリプトファナーゼ、および任意でトリプトファンハロゲナーゼを含むことを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
以下の配列を有することを特徴とする微生物由来のフラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO): MATRIAILGAGPSGLAQLRAFQAAQEKGAEIPELVCFEKQADWGGQWNYTWRTGLDENGEPVHSSMYRYLWSNGPKEILEFADYTFDEHFGKPIASYPPREVLWDYIKGRVEKAGVRKYIRFNTAVRHVEFNEDSQTFTVTVQDHTTDTIYSEEFDYVVCCTGHFSTPYVPEFEGFEKFGGRILHAHDFRDALEFKDKTVLLVGSSYSAEDIGSQCYKYGAKKLISCYRTAPMGYKWPENWDERPNLVRVDTENAYFADGSSEKVDAIILCTGYIHHFPFLNDDLRLVTNNRLWPLNLYKGVVWEDNPKFFYIGMQDQWYSFNMFDAQAWYARDVIMGRLPLPSKEEMKADSMAWREKELTLVTAEEMYTYQGDYIQNLIDMTDYPSFDIPATNKTFLEWKHHKKENIMTFRDHSYRSLMTGTMAPKHHTPWIDALDDSLEAYLSDKSEIPVAKEA(配列番号7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品類を染色するプロセスに関し、特に酵素類を用いる繊維製品類の染色プロセスに関する。本発明はまた、ロイコインジゴ及び/又はインジゴ及び/又はその誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建染染料は、水に可溶化するために、還元剤を要する不溶性の染料である。従来、建染染料を用いる染色は、可溶性の還元型染料を繊維製品類に塗布し、染料を酸化して、繊維製品に着色を与える不溶体に戻す工程を含む。
【0003】
インジゴは、式I:
【化1】
式I
で表される建染染料である。ハロゲン,アルキル,アルコキシ,アミノ,アリール,アリールオキシ,カルボニル等のインジゴの芳香環上の置換基は、青以外の広い範囲の色に及ぶ化合物であって、所謂インジゴ誘導体の一角を占める化合物をもたらす。
【0004】
インジゴは、染色される繊維製品に塗布するために、その誘導体と同様に、一般的には、水溶性であるそのロイコ体(すなわちロイコインジゴ)に還元される。このように、ロイコインジゴ(白藍としても知られている)は、水溶性のインジゴ還元体である。
【0005】
現在利用可能な工業的染色プロセスでは、インジゴを還元剤で処理して、ロイコ-インジゴを含む水溶液を調製し、これを繊維製品類に塗布する。繊維製品上のロイコ-インジゴを酸化することにより、インジゴが得られる。ロイコインジゴのインジゴへの酸化は、例えば、ロイコインジゴで処理した繊維製品を空気に曝して、空気中の酸素と反応させてロイコインジゴを酸化することにより、実行することができる。
【0006】
現在用いられている染色プロセスには、様々な欠点がある。上述のように、ロイコインジゴを得るために、還元用化学薬品でインジゴを処理するが、現在用いられている還元用化学薬品は、通常、刺激の強い化学薬品、すなわち、水酸化ナトリウム,ハイドロサルファイトナトリウム等のような、使用者及び/又は環境に対して危険な薬品である。
【0007】
さらに、一般的な布類および繊維製品類は、高アルカリ状態に、長期間且つ/又は繰り返し曝されることにより、ダメージを受ける。
【0008】
その上、従来の染色プロセスでは、多量の還元性の塩および水酸化物が使用されるので、処分する前に処理する必要のある多量の廃水が発生し、そのため染色プロセスのコストが嵩んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上述の問題を解決し、安全で、費用対効果が高く、環境上優しい繊維製品類の染色プロセスを提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、早く、効率的で、容易に実行することができる繊維製品類の染色プロセスを提供することである。
【0011】
本発明のさらにもう一つの目的は、従来のプロセスに対して、持続可能な繊維製品類の染色プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的およびその他の目的は、請求項1に記載のプロセスを規定する本発明、すなわち、ロイコインジゴ及び/又はインジゴ誘導体のロイコ体を酵素的に製造する少なくとも2つの酵素反応を含む繊維製品類の染色プロセスにより達成される。
【0013】
本発明はまた、請求項16に記載の染色された繊維製品、すなわち、本発明のプロセスにより得られる染色された繊維製品と、請求項17に記載の酵素合成によるロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造方法と、請求項21に記載の装置と、請求項23に記載のモノオキシゲナーゼ酵素に関する。
【0014】
本発明の好ましい実施態様は、従属請求項2~14,18~20および22において規定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のプロセスの一実施態様を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のプロセスの別の実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、以下の工程:
a)少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化してインドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程、
b)少なくとも還元酵素の存在下で、前記インドキシル又は前記インドキシル誘導体をロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程、
c)少なくとも前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を、繊維製品の少なくとも一部に付与する工程、および
d)前記ロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体の少なくとも一部を酸化して、インジゴ又はインジゴ誘導体を前記繊維製品上に生成させることにより、前記繊維製品の少なくとも一部を染色する工程
を含む繊維製品類の染色プロセスに関する。
【0017】
驚くべきことに、本発明のプロセスによれば、刺激の強い化学薬品の使用を回避又は実質的に回避しながら、繊維製品類を染色することができることが見い出された。
【0018】
さらに驚くべきことに、本発明のプロセスによれば、反応混合物、すなわち、酵素類を含む混合物中の不溶性染料の沈降を回避又は実質的に回避しながら、繊維製品上に、インジゴ等の不溶性染料を生成することができることが見い出された。
【0019】
特に、インドール又はインドール誘導体から出発し、少なくとも酸化酵素および少なくとも還元酵素を用いると、反応混合物中の不溶性染料の沈降を実質的に回避又は回避しながら、早く効率的な方法で、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体が得られる可能性が、認められた。特定の科学的説明に縛られないが、本プロセスは、インドキシルのインジゴへの二量体化と、還元酵素によるインジゴのそのロイコ体への即時の還元とを含んでもよい。野生型還元酵素類に加えて、反応器中でインジゴが沈降する前にインジゴを還元するために、適した遺伝子組み換え還元酵素類を設計してもよい。
【0020】
有利なことに、特定の科学的説明に縛られないが、本発明のプロセスによれば、インドール又はその誘導体から出発すると、数種類の異なる染料を、そのロイコ体とともに生成させることが可能であり、そのため、例えば、ハイドロサルファイトナトリウム,水酸化ナトリウム,および溶媒類等のような、刺激の強い化学薬品の使用を回避できることが、認められた。
【0021】
一態様によれば、本発明のプロセスは、染色された繊維製品類の製造を可能にする。本発明のプロセスにより得られる染色された繊維製品類は、様々な色を有することができる。実際、有利なことに、本発明のプロセスにおいて、試薬(例えば、インドール又はその誘導体)を変えることにより、酵素反応を通して、異なる染料およびそのロイコ体が得られ、繊維製品類に異なる最終色を与えられる。
【0022】
また有利なことに、本発明のプロセスでの使用に適した試薬は低コストであり、現状用いられている染色プロセスに対して、本発明のプロセスは、特に費用対効果が高い。
【0023】
一態様によれば、上述のように、本発明のプロセスは、少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程を含む。次いで、インドキシルおよびインドキシル誘導体を、各々ロイコインジゴおよびインジゴ誘導体のロイコ体に変換する。上述のように、特定の科学的説明に縛られないが、本プロセスは、インドキシルのインジゴへの二量体化、および還元酵素によるインジゴのロイコ体への即時の還元を含むことがある。
【0024】
ここで使用される用語「ロイコインジゴ」は、インジゴの還元体を意味する。本説明中において、用語「ロイコインジゴ」は、繊維製品の染色のためにロイコインジゴを含む反応混合物中および水溶液中に存在する形のロイコインジゴを含む。このような反応混合物および水溶液は、任意の適した濃度でロイコインジゴを含むことができる。特に、反応混合物および保存される溶液中のロイコインジゴの濃度は高く、典型的には、繊維製品の染色に適した反応混合物および水溶液中のロイコインジゴの濃度より高い。
【0025】
ここで使用される用語「インドール誘導体」,「インドキシル誘導体」,「インジゴ誘導体」,「インジゴ誘導体」および「インジゴ誘導体のロイコ体」は各々、一つ以上の置換基で置換されたインドール,インドキシル,インジゴおよびインジゴのロイコ体を意味し、例えば、インドール又はインドキシルの4,5,6および7位、およびインジゴの4,4’,5,5’,6,6’,7および7’位から選択されるいずれかの位置における一つ以上の炭素上で、一つ以上の基により置換されたもの、並びに/あるいはインドール,インドキシル又はインジゴの窒素原子上で、一つの基により置換されたものである。一つ以上の炭素上における一つ以上の置換基としては、限定されないが、例えば、ハロゲン基,アルキル基,アルコキシ基,アリール基,アリールオキシ基,アミン基,ニトロ基およびカルボニル基等が挙げられる。窒素原子上における置換基としては、限定されないが、例えば、アルキル基,アリール基,およびアシル基等が挙げられる。従って、インドール誘導体としては、例えば、4-クロロインドール,5-クロロインドール,6-クロロインドール,7-クロロインドール,5-ブロモインドール,6-ブロモインドール,5-ニトロインドール,5-ヒドロキシインドール,5-メチルインドール,5-メトキシインドール,6-メチルインドール,7-メチルインドール,5-アミノインドール,1-メチルインドール,インドール-6-カルボキシアルデヒド等が挙げられる。インドキシル誘導体としては、例えば、4-クロロインドキシル,5-クロロインドキシル,6-クロロインドキシル,7-クロロインドキシル,5-ブロモインドキシル,6-ブロモインドキシル,5-ニトロインドキシル,5-ヒドロキシインドキシル,5-メチルインドキシル,5-メトキシインドキシル,6-メチルインドキシル,7-メチルインドキシル,5-アミノインドキシル,1-メチルインドキシル,インドキシル-6-カルボキシアルデヒド等が挙げられる。その他の如何なるインドールおよびインドキシル誘導体も、酵素的な酸化により、このようなインドール誘導体が反応して、相当するインドキシル誘導体に変換され得る限り、本発明のプロセスにおいて使用することができる。これらのインドキシル誘導体は、二量体化すると、それぞれ異なる色を有する、相当するインジゴ誘導体をもたらす。ここで使用される用語「インジゴ誘導体」は、非対称インジゴ、すなわち、二つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシルおよびインドキシル誘導体の二量体化に由来するインジゴを意味する。非対称インジゴによる繊維製品の染色は、本発明のプロセスに従い、二つ以上の異なるインドール誘導体、又はインドールと一つ以上のインドール誘導体を用いると達成することができる。例えば、二つの異なるインドール誘導体、又はインドールとインドール誘導体を用いると、二つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシルとインドキシル誘導体が得られる。有利なことに、このような二つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシルとインドキシル誘導体を用いると、三つの異なるインジゴ誘導体が得られ(すなわち、二つの異なる対称インジゴ誘導体および非対称インジゴ誘導体)、特に、このようなインジゴ誘導体のロイコ体を繊維製品に付与し、前記誘導体を酸化して繊維製品上に染料を生成することにより、繊維製品を一つ以上の染料で染めることができる。
【0026】
実施態様によれば、インドール誘導体として6-ブロモインドールが挙げられ、前記インジゴ誘導体としてティリアンパープルが挙げられる。
【0027】
ここで使用される用語「酸化酵素」は、基質を触媒酸化することができる如何なる酵素をも意味する。本発明のプロセスに適用される酸化酵素類は、当技術分野において公知のものでよい。適した酵素類は、モノオキシゲナーゼ類であり、好ましくはフラビン含有モノオキシゲナーゼ類(FMOs)、より好ましくは微生物由来のフラビン含有モノオキシゲナーゼ類(mFMOs)である。例えば、適したモノオキシゲナーゼとして、メチロファーガ属のMethylophaga aminisulfidivoransのmFMOが挙げられる。別の適したモノオキシゲナーゼとして、ニトリンコラ属のNitrincola lacisaponensisのFMO(NiFMO)が挙げられる。あるいは、モノオキシゲナーゼとして、バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ(BVMO)でもよい。モノオキシゲナーゼ類、特にFMOsおよびmFMOsは、インドールおよびその誘導体の良好な転化率が得られ、本発明のプロセスでの使用に適している。バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ類(BVMOs)は、FMOsと相同性を有しており、これも本発明のプロセスでの使用に適している。ここで使用される用語「酸化酵素」は、遺伝子組み換え酸化酵素類も含み、例えば、酸化酵素による基質の酸化効率等、酵素の性能を改善するために遺伝子組み換えされた酸化酵素類が挙げられる。
【0028】
特定の科学的説明に縛られないが、本発明のプロセスに適用される酸化酵素類は、インドール及び/又はインドール誘導体(類)のヒドロキシル化に触媒作用し、インドキシル及び/又は相当するインドキシル誘導体(類)を与えることが観察された。
【0029】
インドキシルおよびインドキシル誘導体類は各々、インジゴおよびインジゴ誘導体に二量体化する。換言すると、インドキシル(又はインドキシル誘導体類)のインジゴ(又はインジゴ誘導体)への転化は、二量体化により自発的に生じる。
【0030】
上述のように、本発明のプロセスによれば、少なくとも還元酵素の存在下で、インドキシル及び/又はインドキシル誘導体類が変換されて、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体が得られる。特定の科学的説明に縛られないが、本プロセスは、インドキシルのインジゴへの二量体化および還元酵素によるインジゴのそのロイコ体への即時の還元を含むことがある。
【0031】
ここで使用される用語「還元酵素」は、基質を触媒還元することができる如何なる酵素をも意味する。本発明のプロセスに適用される還元酵素類は、当技術分野において公知のものでよい。適した酵素類としては、レダクターゼ類、好ましくはアゾレダクターゼ類、より好ましくはフラビン依存性アゾレダクターゼ類が挙げられる。例えば、本発明のプロセスに適用される、NADH依存性およびフラビン依存性のアゾレダクターゼは、バチルス菌株からのAzoAである。バチルス菌株は、それ自体は知られている酵素である:鈴木等著,「インジゴ還元に触媒作用する好アルカリ性バチルス菌AO1株からのアゾレダクターゼ(Azoreductase from alkaliphilic Bacillus sp. AO1 catalyzes indigo reduction)」,応用微生物学とバイオテクノロジー(Applied Microbiology and Biotechnology)(2018),102刊:pp.9171-9181。例えば、適した還元酵素は、以下の配列を有するバチルス・ワコーエンシス(Bacillus wakoensis)のAzoAレダクターゼである:
MTKVLYITAHPHDDTQSFSMAVGKAFIDTYKEVNPDHEVETIDLYIEDIPHIDVDVFSGWGKLRSGQGFDQLSSDEKAKVGRLSELCEQFVSADKYIFVSPLWNFSFPPVLKAYIDSVAVAGKTFKYTEQGPVGLLTDKKALHIQARGGIYSEGPAAQMEMGHRYLSIIMQFFGVPSFDGLFVEGHNAMPDKAQEIKEKAVARAKDLAHTF(配列番号4)。実施態様によれば、適した還元酵素は、配列番号4について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。ここで使用される用語「還元酵素」はまた、遺伝子組み換え還元酵素類も含み、例えば、還元酵素による基質の還元効率等、酵素の性能を改善するために遺伝子組み換えされた還元酵素類が挙げられる。
【0032】
上述のように、少なくとも還元酵素の存在下で、インドキシル及び/又はインドキシル誘導体類から出発すると、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体が得られることが観察された。
【0033】
一態様によれば、本発明のプロセスは、繊維製品の少なくとも一部に、少なくともロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体を付与する工程を含む。ロイコインジゴおよびインジゴ誘導体のロイコ体は酵素的に得られ、すなわち、酵素反応を介して得られる。ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を、繊維製品の少なくとも一部に付与した後、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を酸化して、インジゴ又はインジゴ誘導体を繊維製品上に生成させ,少なくとも部分的に染色された繊維製品を得る。
【0034】
ロイコインジゴ及び/又はインジゴ誘導体のロイコ体の酸化は、公知の方法に従って実行すればよい。例えば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を含む溶液に繊維製品を含浸し、次いで空気に曝せばよい。このような空気への暴露が、ロイコインジゴのインジゴへの酸化を可能にする。このような酸化は繊維製品上で起こり、その結果、繊維製品は染色される。
【0035】
ここで使用される用語「繊維製品」,「繊維製品類」および「繊維物品(繊維物品類)」は、例えば、インジゴ及び/又はその誘導体により染色可能な、繊維,糸,ロープ,布類及び/又は衣服のいずれをも意味する。実施態様では、繊維材料は、天然繊維を含むことがあり、天然繊維として、例えば、動物又は植物由来の繊維,例えば、綿,リネン,絹,および羊毛の各繊維、並びにこれらの混合物が挙げられる。実施態様では、繊維材料は、合成繊維を含むことがあり、合成繊維として、例えば、ポリエステル,レーヨン,ナイロン,ライクラおよびこれらの混合物が挙げられる。実施態様では、繊維製品は、天然繊維および合成繊維の混合物を含むことがある。例えば、適した繊維製品類として、伸縮性を付与された綿の布類又は衣服が挙げられる。実施態様では、繊維製品中に、天然及び/又は合成の繊維および糸に加えて、又はその代わりに、再生した繊維又は糸を含むことがある。本説明中において、再生糸は、再生繊維を含む糸である。再生繊維又は人工繊維については、市販品を入手可能である。例えば、適した再生繊維は、レーヨン,リヨセル,モーダル,ビスコース,バンブーおよびこれらの混合物から選択することができる。さらに、前記糸は公知の方法で製造することができ、前記布類も、例えば、製織,製編,クローシェ編み,ノッティングおよびフェルティング等の公知の方法で製造することができる。その上、前記衣服は、例えば、ジーンズ,シャツ,カジュアルウェア等の如何なる衣服でもよい。
【0036】
実施態様によれば、本発明のプロセスはさらに、少なくともトリプトファナーゼの存在下で、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を変換して、インドール又はインドール誘導体を得る工程を含む。換言すると、本発明のプロセスでは、酵素的にインドール又はインドール誘導体類を生成するために、トリプトファン及び/又はトリプトファン誘導体を出発物質(すなわち出発基質)として用いることができる。従って、複数の酵素反応を介して、ロイコインジゴ及び/又はインジゴ誘導体のロイコ体を得るために、トリプトファン及び/又はトリプトファン誘導体を出発物質(すなわち出発基質)として用いることができる。
【0037】
トリプトファナーゼ類(系統名: L-トリプトファンインドールリアーゼ(脱アミノ;ピルビン酸形成))は酵素類であり、それ自体は知られており、トリプトファンの炭素-炭素結合を開裂させ、インドールを放出する。トリプトファナーゼ類は、ピリドキサールリン酸エステル(PLP)を補因子として使用することがある。本発明の実施態様によれば、PLPは、トリプトファナーゼの触媒作用による、トリプトファン又はその誘導体の酵素的な転化の収率を改善するために、任意で使用することができる。本発明のプロセスに適用されるトリプトファナーゼ類は、当技術分野において公知である。例えば、本発明の方法での使用に適したトリプトファナーゼは、大腸菌(Escherichia coli)NEB(登録商標)10βのトリプトファナーゼである。
【0038】
ここで使用される用語「トリプトファン誘導体」は、インドール,インドキシル,インジゴおよびロイコ-インジゴ誘導体について上記のように開示した一つ以上の置換基で、必要な変更を加えて置換されたトリプトファンを意味する。例えば、トリプトファン誘導体は、トリプトファンのハロゲン化誘導体,すなわち、ハロゲン化トリプトファン(例えば6-ブロモトリプトファン)であることがある。
【0039】
実施態様によれば、トリプトファン誘導体はハロゲン化トリプトファンであり、本発明のプロセスはさらに、少なくともトリプトファンハロゲナーゼおよびハロゲン源の存在下で、トリプトファンをハロゲン化して、前記ハロゲン化トリプトファンを得る工程を含む。
【0040】
実施態様によれば、トリプトファン誘導体は6-ブロモトリプトファン(すなわちハロゲン化トリプトファン)であり、インジゴ誘導体はティリアンパープルである。
【0041】
トリプトファンハロゲナーゼ類は酵素類であって、それ自体は知られており、様々な位置においてトリプトファンのハロゲン化に触媒作用することができる。トリプトファンハロゲナーゼ類は、通常フラビン依存性ハロゲナーゼ類であり、すなわち、トリプトファンハロゲナーゼ類は、補因子として通常FAD又はFADH2を用いる。本発明のプロセスに適用されるトリプトファンハロゲナーゼ類は、当技術分野において公知のものである。例えば、本発明のプロセスに適用されるトリプトファンハロゲナーゼ類として、例えばストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)のトリプトファンハロゲナーゼ等のトリプトファンハロゲナーゼ類が挙げられる。
【0042】
実施態様によれば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)の菌株SPC6のトリプトファンハロゲナーゼである。
【0043】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼは以下の配列を有することがある:LNNVVIVGGGTAGWMTASYLKAAFGDRIDITLVESGHIGAVGVGEATFSDIRHFFEFLGLKEKDWMPACNATYKLAVRFENWREKGHYFYHPFEQMRSVNGFPLTDWWLKQGPTDRFDKDCFVMASVIDAGLSPRHQDGTLIDQPFDEGADEMQGLTMSEHQGKTQFPYAYQFEAALLAKYLTKYSVERGVKHIVDDVREVSLDDRGWITGVRTGEHGDLTGDLFIDCTGFRGLLLNQALEEPFISYQDTLPNDSAVALQVPMDMERRGILPCTTATAQDAGWIWTIPLTGRVGTGYVYAKDYLSPEEAERTLREFVGPAAADVEANHIRMRIGRSRNSWVKNCVAIGLSSGFVEPLESTGIFFIHHAIEQLVKNFPAADWNSMHRDLYNSAVSHVMDGVREFLVLHYVAAKRNDTQYWRDTKTRKIPDSLAERIEKWKVQLPDSETVYPYYHGLPPYSYMCILLGMGGIELKPSPALALADGGAAQREFEQIRNKTQRLTEVLPKAYDYFTQ(配列番号1)。
【0044】
この型のトリプトファンハロゲナーゼは、好ましくはトリプトファンの6位の炭素のハロゲン化に触媒作用し、もって本発明の方法によるティリアンパープル(6,6’-ジブロモインジゴ)の生成に適している。
【0045】
実施態様によれば、適したトリプトファンハロゲナーゼは、配列番号1について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0046】
本発明の方法に適したもう一つのトリプトファンハロゲナーゼとして、トリプトファンハロゲナーゼPrnAが挙げられ、好ましくは、トリプトファンの5位又は7位の炭素について、トリプトファンのハロゲン化に好ましく触媒作用する、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)のPrnAが挙げられる。
【0047】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼ(PrnA)は、以下の配列を有することがある:MNKPIKNIVIVGGGTAGWMAASYLVRALQQQVNITLIESAAIPRIGVGEATIPSLQKVFFDFLGIPEREWMPQVNGAFKAAIKFVNWRKPPDHSRDDYFYHLFGSVPNCDGVPLTHYWLRKREQGFQQPMEYACYPQPGALDGKLAPCLLDGTRQMSHAWHFDAHLVADFLKRWAVERGVNRVVDEVVEVRLNDRGYISTLLTKEGRTLEGDLFIDCSGMRGLLINQALKEPFIDMSDYLLCDSAVASAVPNDDVREGVEPYTSAIAMNSGWTWKIPMLGRFGSGYVFSSKFTSRDQATADFLNLWGLSDNQSLNQIKFRVGRNKRAWVNNCVSIGLSSCFLEPLESTGIYFIYAALYQLVKHFPDTSFDPRLSDAFNAEIVYMFDDCRDFVQAHYFTTSREDTPFWLANRHELRLSDAIKEKVQRYKAGLPLTTTSFDDSTYYETFDYEFKNFWLNGNYYCIFAGLGMLPDRSLPLLQHRPESIEKAEAMFASIRREAERLRTSLPTNYDYLRSLRNGDAGQSRNQRGPTLAAKEGL(配列番号2)。
【0048】
実施態様によれば、適したトリプトファンハロゲナーゼは、配列番号2について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0049】
実施態様によれば、トリプトファンハロゲナーゼは遺伝子組み換え酵素でもよく、換言すると、トリプトファンハロゲナーゼは変異型でもよい。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)の菌株SPC6のトリプトファンハロゲナーゼの変異型、又はトリプトファンハロゲナーゼPrnAの変異型であることがある。
【0050】
ここで使用される用語「ハロゲン化誘導体」は、5位,6位,7位および8位のうちの一つ以上の炭素(またはインジゴにおける5’位,6’位,7’位および8’位のうちの一つ以上の炭素)が、ハロゲン原子,特にフッ素,塩素,臭素又はヨウ素の各原子で置換された、トリプトファン,インドール,インドキシルおよびインジゴのいずれかを意味する。例えば、トリプトファンのハロゲン化誘導体類として、6-ブロモトリプトファンおよび7-クロロトリプトファンが挙げられ、インドールのハロゲン化誘導体類として、6-ブロモインドールおよび7-クロロインドールが挙げられ、インドキシルのハロゲン化誘導体類として6-ブロモインドキシルおよび7-クロロインドキシルが挙げられ、インジゴのハロゲン化誘導体類として、ティリアンパープル(すなわち6,6’-ジブロモインジゴ)および7,7’-ジクロロインジゴが挙げられる。
【0051】
トリプトファンハロゲナーゼ類は、ハロゲン源の存在下で、トリプトファンをトリプトファンのハロゲン化誘導体、すなわちハロゲン化トリプトファンに変換する。本発明のプロセスに適用されるハロゲン源類として、例えばハロゲン塩類、すなわち陰イオンがハロゲン化物イオンである塩類が挙げられる。適したハロゲン塩類として、例えば、マグネシウム,銀,ナトリウム,カリウム,リチウム,およびカルシウムの各ハロゲン塩、例えば、NaCl,KCl,KI,LiCl,CuCl2,CuBr2,AgCl,CaCl2,CaBr2,ClF,MgCl2,MgBr2,KBr等が挙げられる。
【0052】
実施態様によれば、ロイコインジゴ及び/又はインジゴ誘導体のロイコ体の酵素的な生成は、単一の反応器で、ワンポットプロセスとして実行される。
【0053】
換言すると、実施態様によれば、少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程と、少なくとも還元酵素の存在下で、前記インドキシル又は前記インドキシル誘導体をロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程とは、少なくともワンポットプロセスとして実行される。
【0054】
ここで使用される用語「ワンポットプロセス」は、一つ以上の反応物質が、同じ反応器中で、連続的な酵素反応及び/又は非酵素反応に供されるプロセスを意味する。有利なことに、ワンポットプロセスは、中間化合物の分離および精製プロセスを実質的に回避又は回避することを可能にし、もって時間と資源を節約して本プロセスの全収率を増加させる。
【0055】
実施態様によれば、本発明のプロセスは、混合物、特に混合物水溶液、例えば、インドール(又はインドール誘導体),酸化酵素および還元酵素を含み、必要に応じて適した補因子類も含む混合物水溶液を、同じ反応器中に入れて、ワンポットプロセスとして実行することがある。この場合、インドール(又はインドール誘導体)は、酸化酵素によりヒドロキシル化され、還元酵素の存在下でロイコインジゴ(又はインドキシル誘導体に由来するインジゴ誘導体のロイコ体)に変換されるインドキシル(又はインドキシル誘導体)が得られる。
【0056】
実施態様によれば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)は、例えばロイコインジゴを含む反応器中、すなわち、インドールのロイコインジゴへの酵素的な転化が起こる反応器中に、繊維製品を浸染することにより、繊維製品に付与することができる。
【0057】
有利なことに、本発明の繊維製品類の染色プロセスは、水系溶媒中で実行することができる。繊維製品は、ロイコインジゴと、前記ロイコインジゴを生成させるために使用された酵素類を含む反応器中に浸染することができ、ロイコインジゴ溶液で含浸する。
【0058】
一態様によれば、本発明のプロセスは、ワンポットプロセスとして、好ましくは水系溶媒中で実行される複数の酵素反応を含む。有利なことに、本プロセスの条件、例えば、温度,pH,持続時間等は、使用する酵素類および試薬に応じて、調製することができる。
【0059】
実施態様によれば、本発明のプロセスは、例えば、トリプトファン,トリプトファナーゼ,酸化酵素および還元酵素、さらに必要に応じて適した補因子類を、同じ反応器中に供給し、ワンポットプロセスとして実行することができる。この場合、トリプトファンは、トリプトファナーゼにより、インドールに酵素的に変換される。インドールからロイコインジゴを導く酵素反応は、上述のように起こる。
【0060】
実施態様によれば、本発明のプロセスは、例えば、トリプトファン,トリプトファンハロゲナーゼ,ハロゲン源,トリプトファナーゼ,酸化酵素および還元酵素、さらに必要に応じて適した補因子類を、同じ反応器中に供給し、ワンポットプロセスとして、実行することができる。この場合、トリプトファンは、トリプトファンハロゲナーゼにより酵素的にハロゲン化され、ハロゲン化トリプトファンが得られる。前記ハロゲン化トリプトファンは、トリプトファナーゼにより、相当するインドール誘導体に変換される。インドールのハロゲン化誘導体は、酸化酵素によりヒドロキシル化され、相当するインドキシル誘導体が得られ、これは、還元酵素の存在下で、相当するインジゴのハロゲン化誘導体のロイコ体に変換される。
【0061】
一態様によれば、本発明は、酵素類を含む反応器を少なくとも備えた、本発明のプロセスを実行するための装置に関し、前記酵素類は、好ましくはモノオキシゲナーゼである酸化酵素と、好ましくはアゾレダクターゼ、また好ましくはトリプトファナーゼである還元酵素と、任意でトリプトファンハロゲナーゼとを含む。
【0062】
有利なことに、本発明の装置は、インドール(又はインドール誘導体類)、好ましくはトリプトファン又はトリプトファン誘導体から出発する、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造を可能にする。
【0063】
インジゴ又はインジゴ誘導体は、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)から、例えば、空気への標準的な暴露等の標準的な手法に従って得てもよい。有利なことに、繊維製品に、ロイコインジゴが付与され、空気に暴露されると、空気中の酸素により、繊維製品表面上で、ロイコインジゴはインジゴに酸化される。
【0064】
本発明の実施態様によれば、反応混合物、例えば、酵素類を含む混合物水溶液は、塩類,緩衝剤,並びに酸素及び/又は過酸化物除去剤類(例えばカタラーゼ類)等の他の機能的な溶質を含むことがある。カタラーゼは、生成したH2O2をO2およびH2Oに変換させるために、反応混合物中に含まれることがある。
【0065】
例えば、例示的な反応混合物は、適した緩衝剤,インドール,モノオキシゲナーゼ,レダクターゼ,一つ以上の補因子類,一つ以上の補因子再生酵素類、および任意でカタラーゼを含むことがある。好ましくは、モノオキシゲナーゼおよびレダクターゼは、融合酵素類、すなわち、例えばPTDH-mFMO,PTDH-AzoA等の、補因子再生酵素と融合した酵素類として供給される。
【0066】
実施態様によれば、本発明のプロセスで使用される酵素類は、各々単離酵素である。換言すると、実施態様によれば、本発明のプロセスで使用される酸化酵素、及び/又は還元酵素、及び/又はトリプトファナーゼ、及び/又はトリプトファンハロゲナーゼは、これら酵素類が生成する宿主細胞(例えば、大腸菌等のような菌体)から単離される。酵素類は、当技術分野において公知の手法により、宿主細胞および微生物から単離且つ/又は精製すればよい。
【0067】
実施態様によれば、本発明のプロセスで使用される一つ以上の酵素類は、固定化酵素類である。換言すると、実施態様によれば、本発明のプロセスで使用される酸化酵素、及び/又は還元酵素、及び/又はトリプトファナーゼ、及び/又はトリプトファンハロゲナーゼは、固定化酵素類である。
【0068】
ここで使用される用語「固定化酵素」は、担体に結合、好ましくは共有結合した酵素類を意味し、担体として、例えば、エポキシ活性化樹脂類(例えば、Eupergit(登録商標),SepaBeads(登録商標),Relizym(商標),Purolite(登録商標)等のメタクリレート共重合体類),セルロース,アガロース,ポリスチレンイオン交換樹脂,アミノアクリレート樹脂類,ハイドロゲル類(包括による固定化;例えば、アガロース,アルギン酸塩,カラゲナン又はゼラチン),キレート担体(例えば、Ni-Sepharose(登録商標),IDA-Sepharose(登録商標),NTA-Sepharose(登録商標),IDA-アガロースおよびその誘導体)等が挙げられる。酵素類を固定化するために使用される担体の種類は、酵素類の曝露されている基に依存する。例えば、表面アミノ基が酵素類上で曝露されている場合、アミノ基は、エポキシ活性化樹脂類のエポキシ基に共有結合的に結合し、酵素類がエポキシ活性化樹脂類上に固定されるので、エポキシ活性化樹脂類を担体として使用すればよい。
【0069】
酵素類の固定化は、当技術分野において公知の手法により行うことができる。有利なことに、酵素類を固定化すると、触媒サイクルを繰り返した後でも、すなわち、本発明のプロセスにおいて酵素類を長時間使用した後でも、高い触媒効率が保持されることが認められた。
【0070】
実施態様によれば、酵素類を固定化する場合、酵素による反応生成物が、次の酵素の基質となるように、順番に従って、例えば、反応釜(すなわち反応器)内に酵素類を配置する。この場合、有利なことに、選択された出発物質(例えばインドール)が、ある酵素から別の酵素に流れるロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)に変換されるように、反応器中に流れを発生させることができる。
【0071】
実施態様によれば、酸化酵素はオキシゲナーゼであり、好ましくはモノオキシゲナーゼであり、より好ましくはフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)であり、さらに好ましくは微生物由来のフラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO)である。
【0072】
実施態様によれば、還元酵素はレダクターゼであり、好ましくはアゾレダクターゼであり、より好ましくはフラビン依存性アゾレダクターゼである。
【0073】
本発明のプロセスで使用される一つ以上の酵素類は、一つ以上の補因子類を必要とするものであってもよい。ここで使用される用語「補因子」は、触媒としての酵素活性が求められる非たんぱく質の化学化合物を意味する。補因子類は、二つの型に分けられ、無機イオン類、又は補酵素類と呼ばれる複合有機分子類のいずれかである。明確化のために、本説明中において、用語「補因子」は、特定の分子の化学薬品クラスに限定されず、すなわち、有機分子および無機分子の両方を含み、本発明のたんぱく質に応じて、酵素の活性に求められるいずれかの非たんぱく質の化学化合物を意味するのに使用される。
【0074】
実施態様によれば、補因子再生酵素類は、本発明のプロセスで使用される酵素類に必要とされる補因子(類)を再生するために使用することができる。
【0075】
この場合、有利なことに、高価な補因子類(例えばNADPH)は、消費される安価な補因子類(グルコース,亜リン酸塩又は蟻酸塩等)により再生される。
【0076】
実施態様によれば、少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール(又はインドール誘導体)をヒドロキシル化し、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程は、酸化酵素により要求される補因子を再生するのに適した酵素が少なくとも存在する下で、実行されることがある。例えば、酸化酵素がモノオキシゲナーゼの場合、補因子としてNADPHを使用すればよい。
【0077】
実施態様によれば、少なくとも還元酵素の存在下で、インドキシル(又はインドキシル誘導体)を、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程は、還元酵素により要求される補因子を再生するのに適した酵素が少なくとも存在する下で、実行されることがある。例えば、還元酵素がアゾレダクターゼの場合、補因子としてNADHを使用すればよい。
【0078】
実施態様によれば、酸化酵素及び/又は還元酵素は、補因子再生酵素に結合されており、好ましくは補因子再生酵素に融合されている。
【0079】
換言すると、実施態様によれば、酸化酵素は、酸化酵素が補因子再生酵素に融合された融合酵素であることがあり、及び/又は還元酵素は、還元酵素が補因子再生酵素に融合された融合酵素であることがある。
【0080】
実施態様によれば、補因子再生酵素は、グルコース脱水素酵素(GDH),亜リン酸脱水素酵素(PTDH)および蟻酸脱水素酵素(FDH)からなる群から選ばれ、好ましくはPTDHである。実施態様では、補因子再生酵素は、NADPH及び/又はNADH補因子を再生するのに適している。
【0081】
実施態様によれば、例えば、酸化酵素がmFMOで、補因子再生酵素がPTDHである場合、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化してインドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程は、融合酵素PTDH-mFMOを用いて実行することがある。
【0082】
実施態様によれば、例えば、還元酵素がAzoAであり、補因子再生酵素がPTDHである場合、インドキシル又はインドキシル誘導体をロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程は、融合酵素PTDH-AzoAを用いて実行することがある。
【0083】
例えば、PTDH-AzoA融合酵素は以下の配列を有することがある:
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMLPKLVITHRVHEEILQLLAPHCELITNQTDSTLTREEILRRCRDAQAMMAFMPDRVDADFLQACPELRVIGCALKGFDNFDVDACTARGVWLTFVPDLLTVPTAELAIGLAVGLGRHLRAADAFVRSGKFRGWQPRFYGTGLDNATVGFLGMGAIGLAMADRLQGWGATLQYHARKALDTQTEQRLGLRQVACSELFASSDFILLALPLNADTLHLVNAELLALVRPGALLVNPCRGSVVDEAAVLAALERGQLGGYAADVFEMEDWARADRPQQIDPALLAHPNTLFTPHIGSAVRAVRLEIERCAAQNILQALAGERPINAVNRLPKANPAADSRSAAGMTKVLYITAHPHDDTQSFSMAVGKAFIDTYKEVNPDHEVETIDLYIEDIPHIDVDVFSGWGKLRSGQGFDQLSSDEKAKVGRLSELCEQFVSADKYIFVSPLWNFSFPPVLKAYIDSVAVAGKTFKYTEQGPVGLLTDKKALHIQARGGIYSEGPAAQMEMGHRYLSIIMQFFGVPSFDGLFVEGHNAMPDKAQEIKEKAVARAKDLAHTF(配列番号10)。
【0084】
本発明のプロセスに適用される融合酵素類は、当技術分野において、それ自体公知の手法により製造すればよい。
【0085】
実施態様によれば、適した融合酵素は、配列番号10について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0086】
有利なことに、本発明の実施態様によれば、前記酸化酵素,前記還元酵素,前記トリプトファナーゼおよび前記トリプトファンハロゲナーゼからなる群から選ばれた少なくとも二つの酵素類は、互いに結合されていることがあり、好ましくは互いに融合されていることがある。
【0087】
有利なことに、酸化酵素が補因子再生酵素と結合されている場合、トリプトファナーゼ,酸化酵素および補因子再生酵素を含む酵素複合体を使用すればよい。本発明のプロセスでは、例えば、互いに融合されたトリプトファナーゼ,酸化酵素および補因子再生酵素を含む融合酵素を、使用することがある。この場合、本発明の実施態様によれば、有利なことに、トリプトファンは、特に早く効率的な方法で、ロイコインジゴに変換することができる。
【0088】
例えば、互いに融合されたトリプトファナーゼ,酸化酵素および補因子再生酵素を含む適した融合酵素として、トリプトファナーゼ-PTDH-mFMOが挙げられる。
【0089】
上述のように、本発明のプロセスの実施態様によれば、インドール又はインドール誘導体類は、トリプトファナーゼの存在下で、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を変換することにより得られ、PLPが、トリプトファナーゼにより触媒作用される反応において、補因子として使用されることがある。
【0090】
本発明のプロセスの実施態様によれば、インドール誘導体は、トリプトファンのハロゲン化誘導体を、トリプトファナーゼ触媒変換して得られるインドールのハロゲン化誘導体である。トリプトファンのハロゲン化誘導体類は、ハロゲナーゼ触媒反応により、トリプトファンの酵素的なハロゲン化により得られる。
【0091】
実施態様によれば、ハロゲン化誘導体類、すなわちハロゲン化トリプトファンを得るためのトリプトファンのハロゲン化は、フラビンレダクターゼおよびNAD(P)H再生酵素の存在下で、実行すればよく、NAD(P)H再生酵素は、好ましくは、グルコース脱水素酵素(GDH),亜リン酸脱水素酵素(PTDH)および蟻酸脱水素酵素(FDH)からなる群から選ばれる。好ましくは、NAD(P)H再生酵素は、PTDHである。
【0092】
フラビンレダクターゼ類(EC 1.5.1.30)は、以下の反応に触媒作用する公知の酵素類である:
フラビン + NADPH + H+ → 還元フラビン + NADP + H+
ここで、NAD(P)H再生酵素類は、NADH又はNADPHを生成するGDH,PTDHおよびFDH等の酵素類である。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、補因子としてNADH又はNADPHを用い得るフラビンレダクターゼにより生成され得る補因子としてFADを用い得る。前記NADH又はNADPH補因子は、グルコース,亜リン酸塩および蟻酸塩等のような安価な補因子類を含む反応を介して、NAD(P)H再生酵素により、順に生成される。
【0093】
本発明の方法にとって有用な、適したフラビンレダクターゼ類として、枯草菌(Bacillus subtilis(BsuFRE))のフラビンレダクターゼ類が挙げられ、特に枯草菌(Bacillus subtilis)の菌株WU-S2Bのフラビンレダクターゼ類が挙げられる。
【0094】
フラビンレダクターゼは、例えば以下の配列を有することがある:
MKVLVLAFHPNMEQSVVNRAFADTLKDAPGITLRDLYQEYPDEAIDVEKEQKLCEEHDRIVFQFPLYWYSSPPLLKKWLDHVLLYGWAYGTNGTALRGKEFMVAVSAGAPEEAYQAGGSNHYAISELLRPFQATSNFIGTTYLPPYVFYQAGTAGKSELAEGATQYREHVLKSF(配列番号3)。
【0095】
実施態様によれば、適したフラビンレダクターゼは、配列番号3について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0096】
実施態様によれば、フラビンレダクターゼおよびNAD(P)H再生酵素は結合され得、好ましくは互いに融合されて、フラビンレダクターゼ酵素およびNAD(P)H再生酵素を含む融合酵素が得られる。例えば、フラビンレダクターゼ酵素がBsuFREで、NAD(P)H再生酵素がPTDHである場合、融合酵素PTDH-BsuFREが得られ、本発明のプロセスで使用され得る。
【0097】
実施態様によれば、ハロゲナーゼ(例えばトリプトファンハロゲナーゼ),ハロゲン源,FADおよびNADH補因子類,亜リン酸塩,フラビンレダクターゼ、およびNAD(P)H再生酵素(任意で互いに融合されている。例えば融合酵素PTDH-BsuFRE)の存在下で、トリプトファンは、ハロゲン化トリプトファンに変換され得る。
【0098】
実施態様によれば、本発明のプロセスは、少なくとも酸化酵素の存在下で、インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程中に、少なくとも、酸素を供給する工程をさらに含むことがある。
【0099】
酸化酵素類は、インドール又はその誘導体のヒドロキシル化に触媒作用するために、反応混合物に酸素、すなわちO2を必要とする。インドール(又はインドール誘導体)のヒドロキシル化を行うために求められるO2は、通常水系反応混合物中に溶解している酸素でよい。実施態様では、酸素は、反応混合物、例えば、インドール(あるいはトリプトファン又はその誘導体)からロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)へのワンポット転化が実行される反応器に、供給することができる。
【0100】
実施態様によれば、本発明のプロセス中に酸素濃度を変化させることにより、異なる量のインドキシル(又はその誘導体)が得られる。
【0101】
有利には、本発明のプロセス中に酸素濃度を監視し、制御してもよく、もって必要に応じて反応混合物中の酸素濃度を調整するために、必要な時に酸素を添加することができる。
【0102】
実施態様によれば、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体は、浸染法,滞留法,泡加工法,噴射法,又はスプレー法により、繊維製品の少なくとも一部に付与すればよい。実施態様では、前記浸染法,滞留法,泡加工法,噴射法,又はスプレー法は、不活性な又は実質的に不活性な雰囲気(例えば窒素又は新鮮な空気下)、あるいは空気、例えば大気の存在下で、実行すればよい。浸染法,滞留法,泡加工法,噴射法,およびスプレー法自体は、公知の手法でよい。例えば、実施態様では、繊維製品又は繊維製品の一部を、インドール(あるいはトリプトファン又はその誘導体)からロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)への転化のプロセスが実行される反応器中に浸染すればよい。
【0103】
換言すると、ワンポットプロセスとして、インドールからロイコインジゴへの転化のプロセスが実行される反応器中に、繊維製品を浸染することにより、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体が、繊維製品の少なくとも一部に付与され得る。
【0104】
一態様によれば、本発明のプロセスは、繊維製品に付与されるロイコインジゴ又は前記インジゴ誘導体のロイコ体の少なくとも一部を酸化する工程を含み、もってインジゴ又はインジゴ誘導体を前記繊維製品上に生成させ、繊維製品の少なくとも一部を染色する。
【0105】
実施態様によれば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)をインジゴ(又はインジゴ誘導体)に酸化する工程は、空気酸化により実行すればよい。換言すると、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)が付与された繊維製品は、空気に暴露すればよく、空気中の酸素により、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)がインジゴ(又はインジゴ誘導体)に酸化されることにより、繊維製品が染色される。
【0106】
実施態様では、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を酸化する工程は、化学酸化又は乾燥により実行してもよい。例えば、実施態様によれば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)が付与された繊維製品は、空気への暴露、化学酸化への暴露、及び/又は乾燥に供することができ、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)がインジゴ(又はインジゴ誘導体)に変換されることにより、繊維製品が染色される。
【0107】
有利なことに、本発明のプロセスによれば、異なる強度及び/又は異なる色の濃淡を有する繊維製品類が得られる。例えば、実施態様によれば、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体は、例えば、ロイコインジゴ(又はロイコインジゴ誘導体(類))を含む反応器中に、繊維製品を一回以上浸染することにより、一回以上繊維製品に供給され得る。繊維製品上のインジゴ量を増加させるために、例えば、繊維製品を、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)の溶液に含浸し、ロイコインジゴがインジゴに酸化するように空気に暴露し、ロイコインジゴ溶液に含浸し、再び空気に暴露すればよい。例えば、実施態様では、同じ反応器中、例えば、ワンポットプロセスとして、インドール(あるいはトリプトファン又はその誘導体)からロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)への転化を実行する反応器中に、繊維製品又は繊維製品の一部を一回以上浸染すればよい。
【0108】
実施態様によれば、反応混合物又は溶液中のロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)の濃度は、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を繊維製品に供給する前に調整すればよい。
【0109】
実施態様によれば、本発明の方法を実行するのに適した装置は、酸化酵素および還元酵素を含む酵素類を含む反応器を少なくとも含む。実施態様によれば、酵素類は、トリプトファナーゼおよび任意でトリプトファンハロゲナーゼもまた含むことがある。
【0110】
図1は、本発明のプロセスを実行するための装置1を概略的に示す。装置1は、酵素類、すなわち酸化酵素4および還元酵素5を含む反応混合物3を含む反応器2を備えている。酸化酵素4は、好ましくはモノオキシゲナーゼであり、還元酵素5は、好ましくはアゾレダクターゼである。
図1の装置は、後述する実験例を実行するために使用されたものである。
【0111】
反応混合物3は、図面中に三角形で概略的に示されるインドール6を含み、インドール6は、酸化酵素類4および還元酵素類5の存在下で、図面中に二つの三角形で概略的に示されるロイコインジゴ7に変換される。特に、インドール6は、インドキシルを得るために、少なくとも酸化酵素4の存在下でヒドロキシル化される。次いで、インドキシルは、少なくとも一種の還元酵素5の存在下で、ロイコインジゴに変換される。反応混合物3は、例えば、適した緩衝剤,一つ以上の補因子類,一つ以上の補因子再生酵素類(例えばPTDH)、および任意でカタラーゼを、さらに含むことがある。
【0112】
例示的な反応混合物3は、適した緩衝剤(例えばリン酸カリウム緩衝剤)中に、酸化酵素4(例えばmFMO),NADPH,亜リン酸塩,亜リン酸脱水素酵素(PTDH),NADH,還元酵素5(例えばAzoA),および任意でカタラーゼを含むことがある。例えば、酸化酵素,NADPHおよびO2の存在下で、NADP+の生成を伴って、インドールはインドキシルに変換される。亜リン酸脱水素酵素(PTDH)は、亜リン酸塩の存在下で、NADP+をNADPHに再生するために使用することができる。インドキシルは、還元酵素類の存在下で、ロイコインジゴに変換される。インドキシルのロイコインジゴへの転化は、NADHのNAD+への転化を含み得る。
【0113】
実施態様によれば、酸化酵素4および還元酵素5は、補因子再生酵素と融合した酵素として供給することができる。このような融合酵素として、例えば、PTDH-mFMOおよびPTDH-AzoAが挙げられる。
【0114】
実施態様によれば、反応混合物3は、インドールの少なくとも一部の代わりに、トリプトファンを含み、かつトリプトファンをインドールに変換するトリプトファナーゼも含むことがある。
【0115】
実施態様によれば、トリプトファンが使用される場合、反応混合物3は、ハロゲン化トリプトファンを得るために、トリプトファンハロゲナーゼをさらに含むことがあり、ハロゲン化トリプトファンは、相当するインジゴのハロゲン化誘導体のロイコ体に変換される。
【0116】
例えば、ロイコインジゴを含む反応混合物として反応器2中に生成する、得られたロイコインジゴは、繊維製品に塗布されるか、又は反応器2から取り出され、保存され得る。
【0117】
実施態様では、得られたロイコインジゴを含む反応混合物は、酵素類を含まない又は実質的に含まない反応混合物の形態で、反応器2から取り出し、例えば、混合物中のロイコインジゴ濃度を減少させる等、任意でのロイコインジゴ濃度調整を伴って、チャンバーに移せばよい。
【0118】
実施態様によれば、酵素類を含まない又は実質的に含まない、ロイコインジゴを含む反応混合物は、上記で定義される固定化酵素類を用いて得られる。
【0119】
実施態様によれば、酵素類は、例えば、タンジェンシャルフロー・フィルトレーション装置(tangential flow filtration devices:TFF)を用いた濾過により、ロイコインジゴを含む反応混合物から取り出すことができる。タンジェンシャルフロー・フィルトレーション装置(tangential flow filtration devices:TFF)は、それ自体、当技術分野において公知である。このような装置は、小さい分子(例えばロイコインジゴ)の通過は可能であるが、酵素類の通過は不可能であるフィルターを含む。
【0120】
実施態様によれば、溶液中のロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)の濃度は、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を繊維製品に供給する前に、調整すればよい。好ましくは、酵素類を含む反応器中の反応混合物は、高濃度のロイコインジゴを含んでいる。酵素類の除去後、残りの反応混合物は、保存のためにチャンバーに移すか、例えば染色のために、必要な濃度に希釈する。
【0121】
図1に概略的に示すように、装置1は、反応器2中に設置された反応混合物3に対する、繊維製品9の繰り返し浸漬(浸染)および取り出しにより、一片の繊維製品を染色する装置8を、さらに備えている。
図1に示す実施態様によれば、装置8は、モーター8’および二つのローラー8”を備えている。第1のローラー8”は、反応器2の外側で、モーター8’に接続されており、第2のローラー8”は、反応器2の内側に配置されている。
【0122】
装置8のモーター8’は、少なくとも、モーター8’に接続されたローラー8”が回転するように構成されており、もって繊維製品9は、
図1に示す矢印AおよびA’に示す方向に従って反応混合物3中に浸漬され、そこから取り出される。繊維製品9が反応混合物3中に浸漬された時、繊維製品9は、例えば含浸により、ロイコインジゴ7を含む溶液が付与される。次いで、繊維製品9は、反応混合物3から取り出された時、空気に暴露され、もってロイコインジゴの少なくとも一部のインジゴへの酸化が起こり、繊維製品9の少なくとも一部が染色される。繊維製品9は、例えば、布,糸又は糸の束(ロープ)であることがある。
【0123】
図1に概略的に示される実施態様によれば、繊維製品9上のインジゴの量を増加させるために、繊維製品9は、一回以上同じ反応混合物3中に浸漬され得るとともに、そこから取り出すことができる。例えば、繊維製品9は、ロイコインジゴ7を含む溶液に含浸するために、反応混合物3中に浸漬すればよく、次いでロイコインジゴ7が、繊維製品9上でインジゴに酸化するように、空気に暴露すればよい。繊維製品9は、数回同じ反応混合物3に中に浸漬され得るとともに、そこから取り出すことができ、もって各浸漬において、新しいロイコインジゴ7が繊維製品9に付与され、次いでインジゴに変換されて、繊維製品9上でインジゴ量が増加する。
【0124】
別の例では、繊維製品は、インドール(あるいはトリプトファン又はその誘導体)のロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)への転化が実行される第1の反応器中に浸染することにより、ロイコインジゴ溶液に含浸すればよく、ロイコインジゴの酸化後、インドール(あるいはトリプトファン又はその誘導体)のロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)への転化が実行される第2の又は更なる反応器中に浸染することにより、例えば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)を含む溶液に再び含浸すればよい。
【0125】
実施態様によれば、本発明のプロセスでは、繊維製品は、ロイコインジゴ(又は前記インジゴ誘導体のロイコ体)を含む反応混合物を含む複数の反応器中に連続的に浸染され、繰り返す浸染工程同士の間毎に、前記繊維製品は空気に暴露される。
【0126】
図2に概略的に示すように、本発明のプロセスを実行するための装置1は、反応混合物3を各々含む複数の反応器2を備えている。特に、
図2は、反応混合物3を各々含む三つの反応器2を備えた例を示す。各反応混合物3は、酸化酵素4および還元酵素5を含む、酵素類を含む(
図2中には示されていない)。
【0127】
図1を参照して行った例示的な反応混合物3に関する説明は、
図2に概略的に示される反応混合物3にも適用される。実施態様では、異なる反応器は、同じ反応混合物3又は異なる反応混合物3を含むことができる。
【0128】
図2の実施態様では、繊維製品(例えば糸のロープ)は、インジゴ染色の分野においてそれ自体公知の方法、例えば、従来技術によるインジゴ染色プロセスに使用されるものと類似の構成において、反応器2の外側および内側の両方に配置された複数のローラー8”を用いて、一反応器から次の反応器に移動させる。換言すると、本発明の装置において、複数の反応器2は、公知の染色浴を置換したものである。
【0129】
図2の実施態様によれば、繊維製品9は、ローラー8”でガイドされて、第1の反応混合物3中に浸漬され、そこから取り出され、次いで第2の反応混合物3中に浸漬され、更に第3の反応混合物3中に浸漬され、そこから取り出される。繊維製品9が第1の反応混合物3に浸漬された時、繊維製品9は、例えば、第1の量のロイコインジゴ7の溶液に含浸される。次いで、繊維製品9は、第1の反応混合物3から取り出された時、空気に暴露され、もって、第1の量のロイコインジゴの少なくとも一部の酸化が起こり、繊維製品は、第1の量のインジゴが付与され、繊維製品9の少なくとも一部が染色される。次いで、繊維製品9は、第2の反応混合物3中に浸漬され、もって、繊維製品9は、第2の量のロイコインジゴ7の溶液に含浸され、繊維製品9に、第2の量のインジゴが付与されるように、取り出される。
図2の実施態様によれば、反応混合物3における第3のサイクルの浸漬および取り出しが実行されると、繊維製品9は、第3の量のロイコインジゴが付与され、従って、第3の量のインジゴが付与される。
【0130】
図2に概略的に示すように、繊維製品が、異なる反応器2中の複数の反応混合物3に浸漬された後空気に暴露されると、繊維製品9の色が変化する。
【0131】
実施態様によれば、反応混合物3が、異なる複数の反応物質(例えばインドールおよび少なくとも一種のインドール誘導体)を含む場合、一つ以上の反応器2中に、異なる複数のインジゴ誘導体のロイコ体が生成し得、繊維製品9には、インジゴに加えて、又はインジゴに代えて、少なくとも一種のインジゴ誘導体を付与することができる。
【0132】
本発明のプロセスの実施態様によれば、有利なことに、繊維製品上の一種の染料、例えばインジゴの量を増加させることができる。また有利なことに、異なる複数のロイコ体が使用される時、繊維製品に要求される最終色を得るために、繊維製品に一種以上の染料を付与することができる。
【0133】
本発明の一態様によれば、ロイコインジゴ(又は一つ以上のインジゴ誘導体のロイコ体)を得るための、インドール又はトリプトファン,あるいはそれらの誘導体から出発する段階的な酵素反応工程により、溶解性のロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体が得られる。ロイコインジゴ(又は一つ以上のインジゴ誘導体のロイコ体)は、酸化されて、例えば、前記ロイコインジゴを含む溶液に含浸された繊維製品が、例えば、空気に暴露された時に起こる自発的な酸化反応を通して、インジゴ(又は一つ以上のインジゴ誘導体)を生成する。繊維製品にインジゴ又はその誘導体が付与された後、任意で洗浄及び/又は濯ぎ、および乾燥を行うことができる。
【0134】
実施態様によれば、繊維製品、すなわち、繊維物品は、糸,布又は衣服から選択される。
【0135】
実施態様によれば、好ましくは糸,布および衣服からなる群から選ばれた繊維物品に、ロイコインジゴ及び/又は一つ以上のインジゴ誘導体のロイコ体を付与することができ、ロイコインジゴ及び/又は一つ以上のインジゴ誘導体のロイコ体の少なくとも一部が酸化し(例えば、空気に暴露されることによって)、繊維製品上に、インジゴ及び/又は一つ以上のインジゴ誘導体が生成される。
【0136】
本発明の別の目的は、本発明のプロセスにより得られる染色された繊維製品を提供することである。
【0137】
実施態様によれば、染色された繊維製品はインジゴ染色された繊維製品、例えば、インジゴ染色された糸,インジゴ染色された布,又はインジゴ染色された衣服である。実施態様によれば、染色された繊維製品は、ティリアンパープル染色された繊維製品、例えば、ティリアンパープル染色された糸,ティリアンパープル染色された布,又はティリアンパープル染色された衣服である。
【0138】
実施態様によれば、繊維製品が糸の場合、染色された糸は、布類および衣料品、例えば衣服等の物品の製造に使用することができる。実施態様によれば、繊維製品が布の場合、染色された布は、衣服に仕立てるか、又は衣服に含ませることができる。
【0139】
本発明のさらに別の目的は、以下の工程を含む、酵素合成によるロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造方法であって、
a’)任意で、少なくともトリプトファナーゼの存在下で、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を前記インドール又は前記インドール誘導体に変換することにより、インドール又はインドール誘導体を調達する工程、
b’)少なくとも酸化酵素の存在下で、工程a’)で得られた前記インドール又は前記インドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程、
c’)少なくとも還元酵素の存在下で、工程b’)で得られたインドキシル又はインドキシル誘導体を、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体に変換する工程を含む方法を提供することである。
【0140】
有利なことに、実施態様によれば、本発明の方法は、好ましくはトリプトファン又はトリプトファン誘導体から出発する、段階的な酵素反応工程により、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の合成を可能にする。
【0141】
実施態様によれば、本発明の方法は、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体を酸化して、インジゴ又は前記インジゴ誘導体を得る工程をさらに有する。
【0142】
本発明の方法は、インジゴ及び/又はティリアンパープル等のインジゴ誘導体も含めて、ロイコインジゴおよびインジゴ誘導体のロイコ体を、高い費用効率で生成することにおいて、特に有利である。
【0143】
また有利なことに、本発明の方法は、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体も含めて、ロイコインジゴおよびインジゴ誘導体のロイコ体の製造を、工業的規模で可能にする。
【0144】
本説明中において、試薬および得られた生成物も含めて、使用される酵素類を含む、繊維製品類の染色プロセスに関する情報は、インジゴおよびインジゴ誘導体も含めて、本発明の目的である、酵素合成によるロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体を製造する方法にも適用される。
【0145】
本発明によれば、繊維製品類の染色プロセスに使用される全ての酵素類は、酵素合成によるロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造方法におけるものも含めて、酵素類に、例えば、追加の機能的特性及び/又は活性改善等を付与するために、遺伝子組み換えされてもよい。
【0146】
有利なことに、実施態様によれば、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体のインジゴ又はインジゴ誘導体への酸化は、布等の繊維物品等の支持体にロイコインジゴを付与した後、実施すればよい。
【0147】
実施態様によれば、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)からインジゴ(又はインジゴ誘導体)への酸化工程は、空気酸化により実行することができる。例えば、ロイコインジゴを付与された繊維製品を、空気に暴露すればよく、もって空気中の酸素により、繊維製品の表面上のロイコインジゴをインジゴに酸化させる。
【0148】
有利なことに、実施態様によれば、トリプトファンは、インジゴおよびインジゴ誘導体も含めて、ロイコインジゴおよびインジゴ誘導体のロイコ体を、酵素的に生成するための出発化合物として使用することができる。有利なことに、出発化合物としてのトリプトファンの使用は、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体、およびそれらのロイコ体の費用対効果の高い製造を可能にする。
【0149】
実施態様によれば、本発明のプロセスの工程a’)のトリプトファン誘導体は、トリプトファンのハロゲン化誘導体である。好ましくは,ハロゲン化トリプトファンは6-ブロモトリプトファンである。
【0150】
実施態様によれば、トリプトファン誘導体がハロゲン化誘導体である場合、本発明の方法はさらに、少なくともトリプトファンハロゲナーゼおよびハロゲン源の存在下で、トリプトファンをハロゲン化してトリプトファンのハロゲン化誘導体を得る工程i)を含む。好ましくは,ハロゲン源は臭素である。
【0151】
実施態様によれば、本発明の方法で使用される酵素類は、本発明のプロセスで使用されるものも含めて、各々単離酵素でよく、好ましくは精製又は半精製された酵素類である。酵素類は、当技術分野において公知の手法により、例えば、菌体および宿主微生物から単離且つ/又は精製すればよい。
【0152】
実施態様によれば、トリプトファナーゼ及び/又は酸化酵素及び/又は還元酵素及び/又はトリプトファンハロゲナーゼは、各々単離酵素である。
【0153】
実施態様によれば、トリプトファナーゼ及び/又は酸化酵素及び/又は還元酵素及び/又はトリプトファンハロゲナーゼは、各々固定化酵素類である。
【0154】
実施態様によれば、工程b’),c’)および、任意の前記工程a’)およびトリプトファンをハロゲン化する前記工程は、単一の反応器中で、すなわち、ワンポットプロセスとして実行する。
【0155】
実施態様によれば、ハロゲン源が臭素の場合、トリプトファンのハロゲン化誘導体は、好ましくは6-ブロモトリプトファンであり、インジゴ誘導体は、好ましくはティリアンパープルである。
【0156】
実施態様によれば、本発明の方法は、繊維製品の存在下で実行すればよく、もって前記繊維製品の少なくとも一部に、少なくとも部分的に、ロイコインジゴ及び/又は前記インジゴ誘導体のロイコ体を付与することができる。
【0157】
この場合、有利なことに、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)からインジゴ(又はインジゴ誘導体)への酸化工程は、空気酸化により実行することができる。例えば、ロイコインジゴを付与した繊維製品を、空気に暴露し、もって空気中の酸素により、繊維製品の表面上のロイコインジゴをインジゴに酸化させる。
【0158】
実施態様によれば、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体を酸化して、インジゴ又は前記インジゴ誘導体を得る工程は、繊維製品の存在下で実行することができ、もって得られたインジゴ又はインジゴ誘導体の少なくとも一部が、繊維製品上に析出する。換言すると、例えば、ロイコインジゴは、繊維製品に付与され、次いでインジゴを得るために酸化され得、もって繊維製品の少なくとも一部が染色される。
【0159】
実施態様によれば、本発明の方法は、ワンポット反応を提供する単一の反応器中で、実行することができる。
【0160】
一態様によれば、本発明は、本発明の方法を実行するための装置に関する。本発明の装置は、酵素類を含む反応器を備えており、ここで前記酵素類は、好ましくはモノオキシゲナーゼである還元酵素と、好ましくはアゾレダクターゼである還元酵素とを含み、好ましくはトリプトファナーゼをさらに含み、任意でトリプトファンハロゲナーゼをさらに含む。
【0161】
有利なことに、本発明の装置は、インドール(又はインドール誘導体類)から、好ましくはトリプトファン又はトリプトファン誘導体から出発して、ロイコインジゴ又はインジゴ誘導体のロイコ体の製造を可能にする。
【0162】
インジゴ又はインジゴ誘導体は、例えば、標準的な空気への暴露のような、標準的な手法により、ロイコインジゴ(又はインジゴ誘導体のロイコ体)から得られる。有利なことに、繊維製品にロイコインジゴが付与され、空気に暴露される場合、空気中の酸素により、繊維製品の表面上のロイコインジゴはインジゴに酸化される。
【0163】
本発明の方法は、本発明による繊維製品類の染色プロセスも含めて、水系溶媒中で実行することができる。このような水系溶媒は、7.0~10、好ましくは7.4~9の、中性又は僅かに塩基性のpHを有していればよい。このような水系溶媒は、例えばリン酸カリウム緩衝剤又はトリス-塩酸緩衝剤のような緩衝剤を含むことができる。6-ブロモトリプトファンのように、水系溶媒に難溶のトリプトファン誘導体類もあり、このようなトリプトファン誘導体類は、水系溶媒中に浮遊させた状態で、本発明の方法を実行することができる。
【0164】
工程a’)は、トリプトファナーゼの存在下での、トリプトファン又はその誘導体の炭素-炭素結合の開裂を含む。
【0165】
上述のように、トリプトファナーゼ類は、トリプトファンの炭素-炭素結合を開裂させ、インドールを放出する公知の酵素類である。トリプトファナーゼ類は、ピリドキサールリン酸エステル(PLP)を補因子として、使用することがある。本発明の方法に使用される適したトリプトファナーゼは、大腸菌(Escherichia coli)NEB(登録商標)10βのトリプトファナーゼである。
【0166】
PLPは、トリプトファン又はその誘導体の転化収率を改善するために、工程a’)の反応混合物に、任意で添加することができる。
【0167】
本発明の方法の工程b’)は、酸化酵素およびO2の存在下での、工程a’)で得られたインドール又はその誘導体の少なくとも3位の炭素のヒドロキシル化を含む。従って、工程b’)は、インドキシル又はインドキシル誘導体類をもたらす。
【0168】
適した酸化酵素類は、上述のものであり、例えば、微生物由来のFMO(mFMO)であり、mFMOとして、例えば、メチロファーガ属(Methylophaga sp)の菌株SK1およびバイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼからの微生物由来のFMOが挙げられる。
【0169】
酸化酵素類は、インドール又はその誘導体のヒドロキシル化に触媒作用するために、反応混合物中に、O2すなわち酸素を必要とする。本発明の方法の工程b’)を実行するために必要なO2は、水系反応混合物に通常溶解している酸素でよい。必要に応じて、例えば、インドール又はその誘導体のインドキシル又はその誘導体への転化を増加させるために、反応混合物中のO2濃度を調整してもよい。
【0170】
酸素すなわちO2はまた、ロイコインジゴ(又はロイコ-インジゴ誘導体)をインジゴ(又はインジゴ誘導体)に転化するためにも必要である。例えば、インジゴは、非酵素反応、例えば、空気への曝露を通して、ロイコインジゴから得られる。
【0171】
実施態様によれば、工程a’)のトリプトファン誘導体は、少なくともトリプトファンハロゲナーゼの存在下で、トリプトファンをハロゲン化する工程i)を通して得られるハロゲン化トリプトファンである。
【0172】
上述のように、トリプトファンハロゲナーゼ類は、多数の位置においてトリプトファンのハロゲン化に触媒作用することができる公知の酵素類である。トリプトファンハロゲナーゼ類は、通常フラビン依存性ハロゲナーゼ類であり、すなわち、トリプトファンハロゲナーゼ類は、FAD又はFADH2を補因子として用いる。本発明の方法における適したトリプトファンハロゲナーゼ類は、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)のトリプトファンハロゲナーゼ等の、トリプトファンハロゲナーゼ類である。
【0173】
実施態様によれば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)の菌株SPC6のトリプトファンハロゲナーゼである。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、上記の配列番号1の配列を有し得る。
【0174】
この型のトリプトファンハロゲナーゼは、好ましくはトリプトファンの6位の炭素のハロゲン化に触媒作用し、もって、本発明の方法によるティリアンパープル(6,6’-ジブロモインジゴ)の生成に適している。
【0175】
本発明の方法に適したもう一つのトリプトファンハロゲナーゼとして、トリプトファンハロゲナーゼPrnAが挙げられ、好ましくは、トリプトファンの5位又は7位の炭素について、トリプトファンのハロゲン化に好ましく触媒作用する、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)のPrnAが挙げられる。
【0176】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼ(PrnA)は、上記の配列番号2の配列を有し得る。
【0177】
実施態様によれば、トリプトファンハロゲナーゼは遺伝子組み換え酵素でもよく、換言すると、トリプトファンハロゲナーゼは変異型でもよい。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)の菌株SPC6のトリプトファンハロゲナーゼの変異型、又はトリプトファンハロゲナーゼPrnAの変異型でもよい。
【0178】
トリプトファンを、トリプトファンのハロゲン化誘導体、すなわちハロゲン化トリプトファンに変換するために、トリプトファンは、トリプトファンハロゲナーゼの存在下で、ハロゲンと反応させる必要があるので、トリプトファンのハロゲン化誘導体を得るためにトリプトファンをハロゲン化する工程i)は、実行するために、反応混合物中にハロゲン源を必要とする。本発明の方法において適したハロゲン源類は、ハロゲン塩類、すなわち、陰イオンがハロゲン化物イオンである塩類である。適したハロゲン塩類として、例えば、マグネシウム,銀,ナトリウム,カリウム,リチウムおよびカルシウムの各ハロゲン塩、例えば、NaCl,KCl,KI,LiCl,CuCl2,CuBr2,AgCl,CaCl2,CaBr2,ClF,MgCl2,MgBr2等が挙げられる。
【0179】
トリプトファンをハロゲン化する工程i)は、実施態様によれば、20℃~60℃の範囲に含まれる温度、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは約30℃で、30分~4時間の範囲に含まれる時間、好ましくは1時間~3時間、より好ましくは約2時間で、実行することができる。
【0180】
実施態様によれば、補因子再生酵素類は、本発明の方法で使用される酵素類に必要とされる補因子(類)を再生するために使用され得る。
【0181】
実施態様によれば、工程b’)は、少なくとも、NADPH補因子の再生に適した酵素の存在下で、実行すればよい。好ましくは、NADPH補因子の再生に適した酵素は、後述するグルコース脱水素酵素(GDH),亜リン酸脱水素酵素(PTDH)および蟻酸脱水素酵素(FDH)からなる群から選ばれ、より好ましくは後述するPTDHであり、もって、NADPH再生酵素系がもたらされる。有利なことに、この実施態様は、高価な補因子類(すなわちNADPH)が、消費される安価な補因子類(グルコース,亜リン酸塩又は蟻酸塩等)により再生される酵素系を実現する。例えば、FMOsのような酸化酵素類は、グルコース,亜リン酸塩および蟻酸塩等の安価な補因子類を使用するNADPH再生酵素により生成される補因子として、NADPHを使用することができる。
【0182】
別の実施態様では、ハロゲン化誘導体を得るためのトリプトファンのハロゲン化は、フラビンレダクターゼおよびNAD(P)H再生酵素の存在下で実行され、ここでNAD(P)H再生酵素は、好ましくは、グルコース脱水素酵素(GDH),亜リン酸脱水素酵素(PTDH)および蟻酸脱水素酵素(FDH)からなる群から選ばれ、より好ましくはPTDHであり、もって、トリプトファンハロゲナーゼ-フラビンレダクターゼ-NAD(P)H再生酵素系がもたらされる。
【0183】
フラビンレダクターゼ類(EC 1.5.1.30)は、以下の反応に触媒作用する酵素類である:
フラビン + NADPH + H+ → 還元フラビン + NADP + H+
ここで、NAD(P)H再生酵素類は、NADH又はNADPHを生成するGDH,PTDHおよびFDH等の酵素類である。有利なことに、この実施態様は、高価な補因子類(すなわちFADおよびNADH又はNADPH)が、消費される安価な補因子類(グルコース,亜リン酸塩又は蟻酸塩等)により再生される酵素系をもたらし、本発明の方法の産業上の利用可能性を改善する。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、グルコース,亜リン酸塩および蟻酸塩等の安価な補因子類を使用するNAD(P)H再生酵素により生成される補因子としてNADH又はNADPHを使用するフラビンレダクターゼにより生成される補因子としてFADを使用することができる。
【0184】
本発明の方法にとって有用な、適したフラビンレダクターゼ類は、枯草菌(Bacillus subtilis)のフラビンレダクターゼ類であり、特に枯草菌(Bacillus subtilis)の菌株WU-S2Bのフラビンレダクターゼ類である。例えば、フラビンレダクターゼ類は、上記の配列番号3の配列を有し得る。
【0185】
本発明のプロセスおよび方法で使用される適した野生型形態の酵素類は、それら自体は当技術分野において公知のものである。例えば、適したmFMOは、Methylophaga aminisulfidivoransのmFMOの野生型形態であり、以下の配列を有している:
MATRIAILGAGPSGMAQLRAFQSAQEKGAEIPELVCFEKQADWGGQWNYTWRTGLDENGEPVHSSMYRYLWSNGPKECLEFADYTFDEHFGKPIASYPPREVLWDYIKGRVEKAGVRKYIRFNTAVRHVEFNEDSQTFTVTVQDHTTDTIYSEEFDYVVCCTGHFSTPYVPEFEGFEKFGGRILHAHDFRDALEFKDKTVLLVGSSYSAEDIGSQCYKYGAKKLISCYRTAPMGYKWPENWDERPNLVRVDTENAYFADGSSEKVDAIILCTGYIHHFPFLNDDLRLVTNNRLWPLNLYKGVVWEDNPKFFYIGMQDQWYSFNMFDAQAWYARDVIMGRLPLPSKEEMKADSMAWREKELTLVTAEEMYTYQGDYIQNLIDMTDYPSFDIPATNKTFLEWKHHKKENIMTFRDHSYRSLMTGTMAPKHHTPWIDALDDSLEAYLSDKSEIPVAKEA(配列番号5)。
【0186】
実施態様によれば、適したmFMOは、配列番号5について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0187】
本発明の方法およびプロセスで使用されるいずれかの酵素の変異型を、本発明の方法およびプロセスの収率および産業上の利用可能性を改善するために、使用することができる。酵素類の変異型を生成するために使用される適した手法は、当技術分野において公知である。
【0188】
例えば、より熱安定性の高い変異型酵素、すなわち同じ酵素の野生型形態の見かけの融点より高い見かけの融点を有する変異型酵素を得るために、一つ以上の変異を、野生型配列に導入することができる。
【0189】
例えば、Methylophaga aminisulfidivorans(上記配列番号5)の野生型mFMOの配列中、N末端M15LおよびS23Aにおいて、二つの変異を導入すると、見かけの融点が3℃高くなる結果が観察された。
【0190】
従って、適したmFMOは、Methylophaga aminisulfidivoransのmFMOのM15L/S23A変異型であって、以下の配列を有する:
MATRIAILGAGPSGLAQLRAFQAAQEKGAEIPELVCFEKQADWGGQWNYTWRTGLDENGEPVHSSMYRYLWSNGPKECLEFADYTFDEHFGKPIASYPPREVLWDYIKGRVEKAGVRKYIRFNTAVRHVEFNEDSQTFTVTVQDHTTDTIYSEEFDYVVCCTGHFSTPYVPEFEGFEKFGGRILHAHDFRDALEFKDKTVLLVGSSYSAEDIGSQCYKYGAKKLISCYRTAPMGYKWPENWDERPNLVRVDTENAYFADGSSEKVDAIILCTGYIHHFPFLNDDLRLVTNNRLWPLNLYKGVVWEDNPKFFYIGMQDQWYSFNMFDAQAWYARDVIMGRLPLPSKEEMKADSMAWREKELTLVTAEEMYTYQGDYIQNLIDMTDYPSFDIPATNKTFLEWKHHKKENIMTFRDHSYRSLMTGTMAPKHHTPWIDALDDSLEAYLSDKSEIPVAKEA(配列番号6)。
【0191】
付加的に又は代替的に、変異は、酵素類の触媒活性を改善するために導入され得る。
【0192】
例えば、C78I,C78V,Y207W,Y207W/W319A,およびC78I/Y207W/W319Aからなる群から選ばれたFMO変異は、インドールに対するFMOの触媒活性を改善することが発見された。
【0193】
特に、変異体C78Iは、野生型形態より高い触媒活性を有する(すなわち、C78Iは、野生型形態より高いkcat値を有する)ことが観察された。
【0194】
C78I変異は、触媒反応の速度に、予期できない大きな効果をもたらすことが観察された。実際、C78位置は、FMO酵素の構造の第2の核に位置することが発見された。
【0195】
さらに、変異体Y207Wは、基質(すなわちインドール)に対して、野生型形態より高い親和性を有する(すなわち、Y207Wは、野生型形態より低いKM値を有する)ことが観察された。
【0196】
例えば、適したmFMOは、Methylophaga aminisulfidivoransのmFMOのM15L/S23A/C78I変異型であって、以下の配列を有する:
MATRIAILGAGPSGLAQLRAFQAAQEKGAEIPELVCFEKQADWGGQWNYTWRTGLDENGEPVHSSMYRYLWSNGPKEILEFADYTFDEHFGKPIASYPPREVLWDYIKGRVEKAGVRKYIRFNTAVRHVEFNEDSQTFTVTVQDHTTDTIYSEEFDYVVCCTGHFSTPYVPEFEGFEKFGGRILHAHDFRDALEFKDKTVLLVGSSYSAEDIGSQCYKYGAKKLISCYRTAPMGYKWPENWDERPNLVRVDTENAYFADGSSEKVDAIILCTGYIHHFPFLNDDLRLVTNNRLWPLNLYKGVVWEDNPKFFYIGMQDQWYSFNMFDAQAWYARDVIMGRLPLPSKEEMKADSMAWREKELTLVTAEEMYTYQGDYIQNLIDMTDYPSFDIPATNKTFLEWKHHKKENIMTFRDHSYRSLMTGTMAPKHHTPWIDALDDSLEAYLSDKSEIPVAKEA(配列番号7)。
【0197】
例えば、適したmFMOは、Methylophaga aminisulfidivoransのmFMOのM15L/S23A/Y207W変異型であって、以下の配列を有する:
MATRIAILGAGPSGLAQLRAFQAAQEKGAEIPELVCFEKQADWGGQWNYTWRTGLDENGEPVHSSMYRYLWSNGPKECLEFADYTFDEHFGKPIASYPPREVLWDYIKGRVEKAGVRKYIRFNTAVRHVEFNEDSQTFTVTVQDHTTDTIYSEEFDYVVCCTGHFSTPYVPEFEGFEKFGGRILHAHDFRDALEFKDKTVLLVGSSWSAEDIGSQCYKYGAKKLISCYRTAPMGYKWPENWDERPNLVRVDTENAYFADGSSEKVDAIILCTGYIHHFPFLNDDLRLVTNNRLWPLNLYKGVVWEDNPKFFYIGMQDQWYSFNMFDAQAWYARDVIMGRLPLPSKEEMKADSMAWREKELTLVTAEEMYTYQGDYIQNLIDMTDYPSFDIPATNKTFLEWKHHKKENIMTFRDHSYRSLMTGTMAPKHHTPWIDALDDSLEAYLSDKSEIPVAKEA(配列番号8)。
【0198】
以下のMethylophaga aminisulfidivoransのmFMOの他の変異型についても試験した:C78L,C78A,W319A,W319F,Y207N/W319A,Y207N/W319F,Y207N/W319N,Y207N,Y207W/W319C,Y207W/W319F,Y207W/W319N,W319N,C78F/Y207N/W319A,C78F/Y207N/W319F,C78F/Y207N/W319N,C78F/Y207N,C78F/Y207W/W319F,C78F/Y207W/W319N,C78F/Y207W,C78F/W319F,C78F/W319N,C78I/Y207N/W319A,C78I/Y207N/W319F,C78I/Y207N/W319N,C78I/Y207N,C78I/Y207W/W319F,C78I/Y207W/W319N,C78I/Y207W,C78I/W319A,C78I/W319F,C78I/W319N,C78V/Y207N/W319A,C78V/Y207N/W319F,C78V/Y207N/W319N,C78V/Y207N,C78V/Y207W/W319A,C78V/Y207W/W319F,C78V/Y207W/W319N,C78V/Y207W,C78V/W319A,C78V/W319F,C78V/W319N。
【0199】
例えば、W319A,C78I,C78I/Y207W,およびC78I/Y207W/W319Fからなる群から選ばれたFMO変異は、6-ブロモインドールに対するFMOの触媒活性を改善することが発見された。さらに、NADPH再生酵素は、例えば国際公開第2004/108912号に開示されているPTDHのような、NADPH生成を改善する変異体であってもよい。
【0200】
mFMOについて上述したのと同じ又は実質的に同じ変異を、Nitrincola lacisaponensis(NiFMO)のFMOの配列に導入してもよい。実際、NiFMOは、mFMOと殆ど一致した活性点を有することが、観察された。
【0201】
実施態様によれば、適したmFMOsは、配列番号6,又は配列番号7,又は配列番号8について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0202】
さらに、以下の上記バチルス・ワコーエンシス(Bacillus wakoensis:配列番号4)のAzoAレダクターゼの変異型についても試験した:W60A,W60T,W60D,W60R,W60F。実施態様によれば、酵素類が、その野生型形態と同じ反応に触媒作用する限り、本発明のプロセスおよび方法で使用されるいずれかの酵素の野生型形態について、少なくとも80%の配列同一性を有する酵素類を使用することができる。
【0203】
実施態様によれば、酵素に補因子が必要な場合、このような酵素は、補因子再生酵素を備えた融合酵素として供給され得る。
【0204】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼおよびフラビンレダクターゼは、融合酵素として供給され得、FMOおよびNADPHを再生する酵素は、好ましくはPTDH-FMOとして、融合酵素として供給され得る。この実施態様によれば、本発明の方法において、三つのみの独立した酵素類、すなわち、トリプトファンハロゲナーゼ-フラビンレダクターゼ融合酵素,トリプトファナーゼ,およびFMO-NADPH再生融合酵素を使用することができる(任意の工程i)が実行される場合)。後者の融合酵素においてNADPHを再生する部分は、安価な基質、すなわち亜リン酸塩から出発する融合酵素のFMO領域およびフラビンレダクターゼ領域の両方に必要とされるNADPHを再生することができる。
【0205】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼ-フラビンレダクターゼ融合酵素(Thal-FRE)は、以下の配列を有することがある:
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHLNNVVIVGGGTAGWMTASYLKAAFGDRIDITLVESGHIGAVGVGEATFSDIRHFFEFLGLKEKDWMPACNATYKLAVRFENWREKGHYFYHPFEQMRSVNGFPLTDWWLKQGPTDRFDKDCFVMASVIDAGLSPRHQDGTLIDQPFDEGADEMQGLTMSEHQGKTQFPYAYQFEAALLAKYLTKYSVERGVKHIVDDVREVSLDDRGWITGVRTGEHGDLTGDLFIDCTGFRGLLLNQALEEPFISYQDTLPNDSAVALQVPMDMERRGILPCTTATAQDAGWIWTIPLTGRVGTGYVYAKDYLSPEEAERTLREFVGPAAADVEANHIRMRIGRSRNSWVKNCVAIGLSSGFVEPLESTGIFFIHHAIEQLVKNFPAADWNSMHRDLYNSAVSHVMDGVREFLVLHYVAAKRNDTQYWRDTKTRKIPDSLAERIEKWKVQLPDSETVYPYYHGLPPYSYMCILLGMGGIELKPSPALALADGGAAQREFEQIRNKTQRLTEVLPKAYDYFTQSGSAAGMKVLVLAFHPNMEQSVVNRAFADTLKDAPGITLRDLYQEYPDEAIDVEKEQKLCEEHDRIVFQFPLYWYSSPPLLKKWLDHVLLYGWAYGTNGTALRGKEFMVAVSAGAPEEAYQAGGSNHYAISELLRPFQATSNFIGTTYLPPYVFYQAGTAGKSELAEGATQYREHVLKSF(配列番号9)。
【0206】
実施態様によれば、適した融合酵素は、配列番号9について、少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有していればよい。
【0207】
有利なことに、本発明の実施態様によれば、酸化酵素,還元酵素,トリプトファナーゼおよびトリプトファンハロゲナーゼからなる群から選ばれた少なくとも二つの酵素類は、互いに結合されていてもよく、好ましくは互いに融合されている。
【0208】
有利なことに、酸化酵素が補因子再生酵素に結合されている場合、トリプトファナーゼ,酸化酵素および補因子再生酵素を含む酵素複合体を使用することができる。例えば、互いに融合された、トリプトファナーゼ,酸化酵素および補因子再生酵素を含む融合酵素を、本発明の方法において使用することができる。この場合、本発明の実施態様によれば、有利なことに、特に早く効率的な方法で、トリプトファンをロイコインジゴに変換することができる。
【0209】
例えば、互いに融合された、トリプトファナーゼ、酸化酵素および補因子再生酵素を含む適した融合酵素として、トリプトファナーゼ-PTDH-mFMOが挙げられる。
【0210】
実験
実施例1
物質および方法
融合酵素PTDH-mFMO(補因子再生酵素PTDHに融合された酸化酵素mFMO)およびPTDH-AzoA(補因子再生酵素PTDHに融合された還元酵素AzoA)を用いて、本発明のプロセスによる綿ベルトのインジゴ染色を行った。
【0211】
綿ベルトとして、2×20cmの最終寸法となるように、数個の綿片を手作業で縫い合わせたものを使用した。
【0212】
この実験のための装置は、
図1に概略的に示すように構成されている。特に、繊維製品を反応混合物に繰り返し又は交互に浸漬(浸染)し、反応混合物から繊維製品を取り出すための装置8は、綿ベルトを回転運動させるためにローラー8”として構成されるように適合されたヘッドを備えたモーター8’として蠕動ポンプを備えており、綿ベルトは、反応混合物中に浸漬された(2cm浸漬)。
【0213】
綿ベルトは、蠕動ポンプの作動により回転し、もって、綿は反応混合物の内側および外側を回転する。このようにして、綿ベルトは、反応混合物中に浸漬されるときに、ロイコインジゴを含む溶液に含浸され、反応混合物中に浸漬されないときに、空気に暴露される。綿ベルトの反応混合物中への繰り返し浸漬および空気への暴露は165分間継続した。
【0214】
単一の反応器中に入れた反応混合物(100mL)は、120mLのリン酸カリウム緩衝剤(50mM,pH8.5)中に以下を含むように調製した:
PTDH-mFMO(1.5μM),
PTDH-AzoA(0.6μM),
NADH(0.2mM),
NADPH(0.2mM),
Na-亜リン酸塩(20mM),
インドール(5mM)および
カタラーゼ。
【0215】
結果
20~30分後、反応混合物は既に黄色に変わり始め、ロイコ-インジゴの存在が示唆された。インジゴの存在による混合物中の青色は、反応の間観察されなかった。特定の科学的説明に縛られないが、mFMOによるインドールのヒドロキシル化および引き続く二量体化により生成されるインジゴは、AzoAにより、速やかに且つ継続的にロイコインジゴに還元されることが、推測される。綿ベルト上の青色の出現は、反応開始から45分後に明確に表われ、その後2時間の間色合いが濃くなった。反応を停止した。反応混合物を7日間4℃で保管した場合、この期間中、混合物は、実質的に黄色に保持された。この実験により、酵素的な繊維製品の染色は可能であること、また反応混合物のロイコインジゴ溶液は安定であり、保管可能であることが示された。代替的に、ロイコ-インジゴは、トリプトファナーゼ,モノオキシゲナーゼおよびアゾレダクターゼ(任意で固定化される)を用いて、生成することができる。この場合、トリプトファンは、本プロセスの出発物質として、使用することができる。任意の酵素類の固定化は、酵素類の最大限の再利用を可能にする。
【0216】
例えば、大腸菌由来の遺伝子組み換えのトリプトファナーゼは、このプロセスに、効果的に使用することができる。この酵素は、それ自体公知の手法により、生成することができ、反応混合物中に、5-リン酸ピリドキサール(PLP)の添加を必要とする。さらに、大腸菌由来のトリプトファナーゼはまた、ハロゲン化トリプトファンを許容し、合成およびハロゲン化インジゴ誘導体を用いる布の染色のために、同じプロセスを使用することができる。
【符号の説明】
【0217】
1・・・プロセス実行装置
2・・・反応器
3・・・反応混合物
4・・・酸化酵素
5・・・還元酵素
6・・・インドール
7・・・ロイコインジゴ
8・・・染色装置
8’・・・モーター
8”・・・ローラー
9・・・繊維製品
【配列表】