(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024150552
(43)【公開日】2024-10-23
(54)【発明の名称】緑内障の治療のためのカルパイン-2選択的阻害剤化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 237/22 20060101AFI20241016BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20241016BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C07C237/22 CSP
A61K31/16
A61P27/02
A61P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024113455
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2021507579の分割
【原出願日】2019-08-13
(31)【優先権主張番号】62/718,088
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510023078
【氏名又は名称】ウェスタン ユニバーシティ オブ ヘルス サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ボードリー, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ルオ, ユン
(72)【発明者】
【氏名】ピート, ノートン ピー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】急性緑内障又は他の急性眼障害を含む緑内障の治療のための化合物、前記化合物を含む医薬組成物及び前記化合物を用いて緑内障を治療する方法を提供する。
【解決手段】下記化合物が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)の化合物であって
【化1】
式中、Aが、炭素環式アリール又はヘテロアリールであり
R
1が、非水素置換基であり、
nが、0(環Aが非置換の場合)からAの原子価によって許容される値までの整数であり、
L
1及びL
2がそれぞれ、1~6個の炭素を有する同じ又は異なる任意に置換されたアルキレンであり、
R
2が、非水素置換基であり、
R
4が、水素又はフルオロなどのハロゲンであり、R
5が、メチルなどのC
1-6アルキルである、化合物;及びその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
Aがフェニルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
L1及びL2がそれぞれ-CH2-である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
R4がフルオロであり、R5がメチルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
以下の構造を有する化合物17である、化合物。
【化2】
【請求項6】
【請求項7】
前記化合物がラセミ体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が光学的に濃縮された混合物として存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項10】
患者の緑内障関連神経損傷を治療するための方法であって、それを必要とする患者に、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項11】
眼障害に罹患している対象を治療する方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物又は組成物の有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記眼障害が、網膜神経細胞死に関連している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、緑内障に罹患している、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物又は組成物が、硝子体内注射、眼内注射、眼内灌流、眼周囲注射及びテノン嚢下注射からなる群から選択される方法を介して投与される、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、内容全体が参照により本明細書に組み入れられている、2018年8月13日に出願された米国仮出願第62/718,088号の利益を主張する。
【0002】
一態様において、本発明は、急性緑内障又は他の急性眼障害を含む緑内障の治療のための化合物、前記化合物を含む医薬組成物及び前記化合物を用いて緑内障を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
緑内障は視神経の疾患であり、眼圧の上昇はこの神経の損傷に関連している。視神経は網膜から脳に画像を運ぶ。緑内障は視神経細胞に損傷を与え、対象の視界内に盲点を生じる。これらの盲点は通常、視神経へ相当の損傷がすでに発生するまで、対象は気づかない。緑内障の最終段階は、対象の全盲である。
【0004】
脳内の2つの主要なカルパインアイソフォームであるカルパイン-1及びカルパイン-2は、シナプス可塑性及び神経変性の両方で反対の機能を奏する。カルパイン-1はシナプス可塑性の誘導に必要である、カルパイン-2は、誘導イベント後の数分間のシナプス可塑性の範囲を制限する(Wang,Y.et al.A molecular brake controls the magnitude of long-term potentiation.Nat Commun 5,3051,(2014);同様に、カルパイン-1は神経保護性であり、カルパイン-2は神経変性である(Wang et al.,J.Neuro.27 November 2013,33(48)18880-18892)。カルパイン-1/2のこれらの二重の反対の機能、及びこれら2つのカルパインアイソフォームに対する選択的阻害剤の欠如のために、翻訳用途、特に神経変性の予防のためのカルパイン阻害剤の開発がこれまで困難であった。カルパイン-1の活性化は、シナプスNMDA受容体刺激に関連していて、これにより長期増強(LTP)誘導におけるその必要な役割が説明される。カルパイン-1の活性化は、シナプスのNMDA受容体刺激によって誘発される神経保護にも関与している。一方、カルパイン-2はシナプス外NMDA受容体刺激に関連し、神経変性に関与している。カルパイン-2はBDNF->ERK介在リン酸化によっても活性化され、シータバースト刺激(TBS)後のLTPの範囲を制限する。したがって、選択的カルパイン-2阻害剤は、神経保護及び認知増強剤の両方となることができる。選択的カルパイン-2阻害剤は、脳卒中、脳震盪、脳内出血、急性緑内障、脊髄損傷を含む神経細胞死に関連するいくつかの急性症状に使用できる。
【0005】
国際公開第PCT/US2015/060157号には、アイソフォーム特異的カルパイン阻害剤、同定の方法及びその使用について記載されている。あるカルパインに対して別のカルパインに対するより高い選択性を示す阻害剤の例が開示されている(Li,Z.et al.Novel peptidyl α-keto amide inhibitors of calpains and other cysteine proteases.Journal of medicinal chemistry 39,4089-4098(1996);Li,Z.et al.Peptide.α-keto ester,α-keto amide,and α-keto acid inhibitors of calpains and other cysteine proteases.Journal of medicinal chemistry 36,3472-3480(1993))。しかし、これらの研究によって、カルパイン-1又はカルパイン-2選択的阻害剤の有用性が不明であり、これらの化合物が実際に治療的価値があるかを判断するために、さらなる実験が必要であることが確認された。
【0006】
学習を促進し、神経保護性である、選択的カルパイン-2阻害剤のZ-Leu-Abu-CONH-CH2-C6H3(3,5-(OMe)2(「C2I」)は、以前に同定されている(Wang,Y.et al.A molecular brake controls the magnitude of long-term potentiation.Nat Commun 5,3051,(2014);Liu,Y.et al.A calpain-2 selective inhibitor enhances learning&memory by prolonging ERK activation.Neuropharmacology 105,471-477,doi:10.1016/j.neuropharm.2016.02.022(2016).Wang,et al.,(2016)Neurobiol Dis.2016 Sep;93:121-8も参照のこと。
【0007】
カルパイン-2阻害剤を含む追加のカルパイン阻害剤を有することが所望である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第PCT/US2015/060157号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Wang,Y.et al.A molecular brake controls the magnitude of long-term potentiation.Nat Commun 5,3051,(2014)
【非特許文献2】Wang et al.,J.Neuro.27 November 2013,33(48)18880-18892
【非特許文献3】Li,Z.et al.Novel peptidyl α-keto amide inhibitors of calpains and other cysteine proteases.Journal of medicinal chemistry 39,4089-4098(1996)
【非特許文献4】Li,Z.et al.Peptide.α-keto ester,α-keto amide,and α-keto acid inhibitors of calpains and other cysteine proteases.Journal of medicinal chemistry 36,3472-3480(1993)
【非特許文献5】Wang,Y.et al.A molecular brake controls the magnitude of long-term potentiation.Nat Commun 5,3051,(2014)
【非特許文献6】Liu,Y.et al.A calpain-2 selective inhibitor enhances learning&memory by prolonging ERK activation.Neuropharmacology 105,471-477,doi:10.1016/j.neuropharm.2016.02.022(2016)
【非特許文献7】Wang,et al.,(2016)Neurobiol Dis.2016 Sep;93:121-8
【発明の概要】
【0010】
一態様において、カルパイン-2の選択的阻害剤である化合物が提供される。
【0011】
好ましい化合物は、急性緑内障の治療に有用であり得る。好ましい化合物、網膜神経細胞死に関連する様々な眼障害を治療に有用でもあり得る。
【0012】
ある態様において、以下の式(I)の化合物であって:
【化1】
式中、Aが、炭素環式アリール又はヘテロアリールであり、
R
1が、C
1-6アルキル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C
1-6アルコキシなどの非水素置換基であり、
nが、0(環Aが非置換の場合)から環の原子価によって許容される値、例えばAがフェニルである場合、5までの整数であり、
L
1及びL
2がそれぞれ、1~6個の炭素を有する同じ又は異なる任意に置換されたアルキレン(例えば、-(CH
2)
n、式中、nは1~6であり、各炭素は、0、1又は2個の非水素置換基を有し得る。)であり、
R
2が、任意に置換された置換されたC
1-6アルキルなどの非水素置換基であり、
R
4が、水素又はフルオロなどのハロゲンであり、R
5が、メチルなどのC
1-6アルキルである、化合物;及びその薬学的に許容される塩が提供される。
【0013】
ある好ましい態様において、R4は水素又はフルオロであり、R5はメチルである。特定の態様において、R4はフルオロであり、R5はメチルである。別の特定の態様において、R4は水素であり、R5はメチルである。
【0014】
好ましい態様において、L1及びL2の一方又は両方は、メチレン(-CH2-)などの非置換アルキレンである。
【0015】
追加の好ましい態様において、基Aは、フェニルなどの炭素環式アリール、又は任意に置換されたピリジニル若しくは任意に置換されたピラジニルなどの1つ以上の窒素環員を有するヘテロアリールである。
【0016】
ある態様において、nは、0、1、2又は3、例えば0若しくは1又は0であり得る。
【0017】
特に好ましい態様において、以下の化合物17及び化合物15が提供される:
【化2】
【化3】
前記化合物を含む医薬組成物、及び前記化合物を用いて緑内障を治療する方法も提供される。特定の態様において、例えば開放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、正常眼圧緑内障、先天性緑内障、色素性緑内障、偽剥離性緑内障、外傷性緑内障、血管新生緑内障を含む緑内障、虹彩角膜内皮症候群、眼の虚血及び/又は網膜の虚血を含む、目又は眼の疾患又は障害に罹患している又は罹患しやすい対象を治療するための方法が提供される。
【0018】
治療方法は、一般に哺乳動物、特にヒトを含む霊長類などの対象に、本明細書に開示する1つ以上の化合物の有効量を投与することを含む。対象は、治療のために好適に特定及び選択され得る。例えば、対象は、目又は眼の障害、例えば緑内障などの特定の疾患又は障害に罹患しているとして特定され得る。次に、本明細書に開示する1つ以上の化合物が、特定された対象に投与され得る。
【0019】
追加の態様において、本化合物は、様々な糖尿病障害の治療に利用され得る。特定の態様において、ウォルフラム症候群1又はウォルフラム症候群2を含むウォルフラム症候群に罹患している対象が治療され得る。
【0020】
以下でさらに論じるように、我々はインビボ緑内障モデルにおける選択的カルパイン-2阻害剤の眼内注射を実証した。このような化合物は、網膜の神経細胞死に関連する様々な眼の障害の治療に使用され得る。
【0021】
本発明の他の態様を以下に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】IOP上昇後の網膜におけるカルパイン-2の活性化を用量依存的に阻害する、C2I(別名NA101)の類似体である、化合物15(別名NA115)を示す。シャム動物(手術のみ)、IOPを上昇させ、ビヒクルを眼内注射した(PBS中の10%DMSO、1μl;IOP)、IOPを上昇させ、NA115(40μM、100μM及び200μM)を注射した動物の切片における、SBDP(緑)の免疫組織染色。青色の染色は、上層の網膜神経節細胞による細胞核染色を示す。
【
図2】
図1に示した画像の数量化を示す。各画像について、平均蛍光強度(MFI)が内網状層(
図1の2つの細胞体層の間の層)において分析されている。各目の視神経乳頭を切断した3つの凍結切片(厚さ20μm)を収集し、SBDP抗体で染色した。各切片で、共焦点顕微鏡(LSM-880)の60倍の対物レンズ下で、3つの画像を取り込んだ。各画像について、IPL層におけるMFI(平均蛍光強度)をImageJで測定し、平均した。N=2匹/群。
【
図3】化合物15が、眼圧によって誘起される細胞死の増加から網膜神経節から保護することを示す。シャム動物、IOPを上昇させ、ビヒクルを眼内注射した動物(10PBS中の%DMSO、1μl;IOP))及びIOPを上昇させ、NA115(200μM)を注射した動物における、IOP上昇の3日後の、網膜神経節細胞のマーカーである抗ベータIIIチューブリンを用いて、網膜ホールマウントの末梢領域を染色した、免疫組織染色を示す。スケールバー=100ミクロン。
【
図4】IOP上昇又はシャム手術後の野生型マウスの網膜ホールマウントの末梢領域における抗ベータIIIチューブリン(網膜神経節細胞マーカー)陽性細胞の密度の数値化を示す。IOP上昇の2時間後に、ビヒクル(PBS中の10%DMSO、1μl)又はNA115(200μM、1μl)を注射した。網膜ホールマウントは、手術の3日後に調製した。一元配置分散分析と、後続のボンフェローニ検定。****p<0.0001、**p<0.01。シャムの場合はN=8。IOP、IOP+NA115の場合はN=7。
【
図5】別のC2I類似体である、化合物17(別名NA117)も、IOP上昇後のカルパイン活性化を阻害することを示す。
図1~4と同じ実験手順。NA117を200μMの濃度で眼内注射した)。一元配置分散分析と、後続のボンフェローニ検定。*p<0.05、**p<0.01。結果は、動物2匹の平均±SEMである。スケールバー=20ミクロン。
【
図6】(
図6A及び6Bを含む)は、実施例5の立体異性体分離及びデータを与える。
【
図7】(
図7A及び7Bを含む)は、以下の実施例6の結果を示す。
【
図8】(
図8A及び8Bを含む)は、以下の実施例6の結果を示す。
【
図9】(
図9A~9Dを含む)は、以下の実施例6の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
論じたように、一態様において、以下の式(I):
【化4】
の化合物が提供され、式中、A、R
1、n、L
1、R
2、L
2、R
4及びR
5は、上記で定義した通りである。ある態様において、好ましくは、R
1は、非存在(nは0であり、A環は非水素置換基を含有しない。)、アルキル、アルコキシ又はハロゲンであり、Aは、フェニル又はヘテロアリールなどの炭素環式アリールであり、L
1及びL
2は、それぞれ非置換アルキレン、特にメチレン(-CH
2-)であり、R
4は、フルオロなどのハロゲン又はアルキルであり、R
5は、メチルなどのアルキルであり、及びその薬学的に許容される塩。
【0024】
例示的な好ましいA-L
1-基には、以下の:
【化5】
が含まれる。
上記は、他のL
1リンカーを有する好ましいA基でもある。
【0025】
ある好ましい態様において、L1に最近接するキラル炭素は、(S)配置を有する。ある態様において、L1に最近接するキラル炭素は、(R)配置を有する。
【0026】
ある好ましい態様において、L2に最近接するキラル炭素は、(S)配置を有する。ある態様において、L2に最近接するキラル炭素は、(R)配置を有する。
【0027】
本発明の化合物は、ラセミ混合物又は光学的に濃縮された混合物として利用され得る。
【0028】
本発明の特に好ましい化合物は、以下に示すように、NA115、別名化合物15、及びNA117、別名化合物17である。
【化6】
【化7】
これらの化合物は、カルパイン-2選択的阻害剤であることができる。本明細書で言う「カルパイン-2選択的阻害剤」又は「選択的カルパイン-2阻害剤」は、カルパイン-1に対するその阻害定数(Ki)よりも低い、カルパイン-2に対するKiを有する化合物である。例えば、カルパイン-2選択的阻害剤は、カルパイン-2に対するKiが、カルパイン-1に対するKiよりも10分の1~100分の1である化合物である。カルパイン-1及びカルパイン-2の活性に対するNA115のIC
50値を測定した(Wang et al.,2014)。IC50カルパイン-1/IC50カルパイン-2の比として測定した、カルパイン-2に対するNA115の選択性は31.7であった。NA117の選択性は24.1であった。
【0029】
本発明の医薬組成物は、NA115及びNA117並びに薬学的に許容される賦形剤を含む。本発明の医薬組成物に使用される賦形剤は、安全であり、NA115及びNA117の有効量の所望の投与経路に適切な送達を提供する。
【0030】
本発明の化合物は、不斉炭素原子(光学中心又はキラル中心)を有する。絶対立体化学の観点から、(R)-又は(S)-異性体として定義され得るエナンチオマー、ラセミ体、立体異性形態及び個々の異性体は、本発明の範囲内に含まれる。本発明は、上で論じたように、ラセミ形態及び光学的に純粋な形態の化合物を含むものである。光学活性(R)-及び(S)-異性体は、キラルシントン又はキラル試薬を使用して調製され得る、又は従来の技術を使用して分割され得る。
【0031】
別途記載しない限り、本明細書に示す構造は、構造のすべての立体化学的形態、即ち各不斉中心のR配置及びS配置も含むものである。したがって、本化合物の単一の立体化学異性体並びにエナンチオマー混合物及びジアステレオマー混合物は、本発明の範囲内である。
【0032】
「アルキル」は、1~12個の炭素原子(C1~C12アルキル)、1~8個の炭素原子(C1~C8アルキル)又は1~6個の炭素原子(C1~C6アルキル)を有し、単結合によって分子の残部に結合している、炭素原子及び水素原子のみからなる飽和、直鎖又は分枝炭化水素鎖ラジカルを示す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、n-ブチル、n-ペンチル、1,1-ジメチルエチル(t-ブチル)、3-メチルヘキシル、2-メチルヘキシルなどが挙げられる。
【0033】
「アルキル」又は「アルキレン鎖」は、分子の残部をラジカル基に結合する、それぞれ炭素及び水素のみからなる直鎖又は分枝二価炭化水素(アルキル)鎖を示す。アルキレンは、1~12個の炭素原子を有することができ、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、n-ブチレンなどである。アルキレン鎖は、単結合又は二重結合によって分子の残部に結合している。分子の残部へのアルキレン鎖の結合点は、鎖内の1個の炭素又は任意の2個の炭素を介することができる。「任意に置換されたアルキレン」は、アルキレン又は置換アルキレンを示す。
【0034】
「アルコキシ」は、式-ORaのラジカルを示し、Raは、上で定義したような示した数の炭素原子を有するアルキルである。アルコキシ基の例としては、-O-メチル(メトキシ)、-O-エチル(エトキシ)、-O-プロピル(プロポキシ)、-O-イソプロピル(イソプロポキシ)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
「炭素環式アリール」は、水素、6~18個の炭素原子及び少なくとも1個の芳香環を含むが、芳香環にヘテロ(N、O又はS)環員を含まない炭化水素環系ラジカルを示す。
炭素環式アリールの例は、水素及び6~9個の炭素原子及び少なくとも1個の芳香環を含む炭化水素環系ラジカル、水素及び9~12個の炭素原子及び少なくとも1個の芳香環を含む炭化水素環系ラジカル、水素及び12~15個の炭素原子及び少なくとも1個の芳香環を含む炭化水素環系ラジカル又は水素及び15~18個の炭素原子及び少なくとも1個の芳香環を含む炭化水素環系ラジカルである。本発明の目的のために、炭素環式アリールラジカルは、単環式、二環式、三環式又は四環式環系であり得て、この環系は縮合環系又は架橋環系を含み得る。炭素環式アリールラジカルとしては、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、フルオランテン、フルオレン、as-インダセン、s-インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、フェナレン、フェナントレン、プレアデン、ピレン及びトリフェニレンに由来する炭素環式アリールラジカルが挙げられるが、これらに限定されない。「任意に置換された炭素環式アリール」は、非置換炭素環式アリール基又は置換炭素環式アリール基を示す。
【0036】
「ヘテロアリール」は、水素原子、1~13個の炭素原子、窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される1~6個のヘテロ原子並びに少なくとも1個の芳香環を含む5~14員環系ラジカルを示す。本発明の目的のために、ヘテロアリールラジカルは、少なくとも1個のヘテロ原子、少なくとも2個のヘテロ原子、少なくとも3個のヘテロ原子、少なくとも4個のヘテロ原子、少なくとも5個のヘテロ原子若しくは少なくとも6個のヘテロ原子を含む、安定な5~12員環、安定な5~10員環、安定な5~9員環、安定な5~8員環、安定な5~7員環又は安定な6員環であり得る。ヘテロアリールは、単環式、二環式、三環式又は四環式の環系であり得て、環系には、縮合又は架橋環系が含まれ得る。ヘテロアリールラジカル中の窒素、炭素又は硫黄原子は、任意に酸化され得る。窒素原子は、任意に四級化され得る。ヘテロ原子は、ヘテロアリール中の少なくとも1個の環が芳香族であるという条件で、芳香族又は非芳香環の環員であり得る。例としては、アゼピニル、アクリジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾインドリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾ[b][1,4]ジオキセピニル、1,4-ベンゾジオキサニル、ベンゾナフトフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキシニル、ベンゾピラニル、ベンゾピラノニル、ベンゾフラニル、ベンゾフラノニル、ベンゾチエニル(ベンゾチオフェニル)、ベンゾトリアゾリル、ベンゾ[4,6]イミダゾ[1,2-a]ピリジニル、カルバゾリル、シノリニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フラニル、フラノニル、イソチアゾリル、イミダゾリル、インダゾリル、インドリル、インダゾリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、イソキノリル、インドリジニル、イソキサゾリル、ナフチリジニル、オキサジアゾリル、2-オキソアゼピニル、オキサゾリル、オキシラニル、1-オキシドピリジニル、1-オキシドピリミジニル、1-オキシドピラジニル、1-オキシドピリダジニル、1-フェニル-1H-ピロリル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピロリル、ピラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、キヌクリジニル、イソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、トリアジニル及びチオフェニル(即ちチエニル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
「任意に置換された」様々な化合物及び置換基は、1つ以上の利用可能な位置で、例えばハロゲン(F、Cl、Br、I)、ニトロ、ヒドロキシ、アミノ、C1-4アルキルなどのアルキル、C2-8アルケニルなどのアルケニル、C1-6アルコキシなどのアルコキシ、C1-8アルキルアミノなどのアルキルアミノ、フェニル、ナフタ、アントラセニルなどの炭素環式アリール、ヘテロアリールなどによって好適に置換され得る。
【0038】
上記のように、本発明の化合物は、医薬剤形として製剤され、治療を必要とする対象、例えばヒト患者などの哺乳動物に、選択された投与経路に適した様々な形態で投与することができる。本発明の組成物は、局所的に及び眼内注射、眼内灌流、眼周囲注射又は球後(テノン嚢下)注射を含む、様々な異なる方法で投与され得る。本発明の化合物は、当業者に既知の製剤技術に従って、様々な種類の眼科用組成物に含有され得る。例えば、化合物は、局所的、硝子体内又は前房内使用に適した液剤、懸濁剤及び他の剤形に含まれ得る。
【0039】
本発明の化合物の溶液は、シクロデキストリンを含む非毒性界面活性剤と任意に混合された、水又は生理学的に許容される緩衝液中で調製することができる。分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン及びその混合物中、並びに油中で調製することもできる。通常の保管及び使用条件下では、これらの調製物は微生物の増殖を防止する保存料を含有することができる。
【0040】
注射又は輸液に好適な医薬剤形として、無菌の注射可能又は輸液可能な液剤又は分散剤の即時調製に適した本発明の化合物を含む、無菌の水性液剤又は分散剤又は無菌の粉剤を挙げることができる。すべての場合において、最終剤形は、製造及び保管条件下で無菌で流動性があり、安定している必要がある。液体担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、無毒のグリセリルエステル及びその好適な混合物を含む、溶媒又は液体分散媒であることができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、緩衝剤又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。
注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物で使用することによってもたらすことができる。
【0041】
無菌の注射可能な液剤は、本発明の化合物を必要な量で適切な溶媒に、必要に応じて上に列挙した他の様々な成分と共に包含させて、続いてフィルタ滅菌することによって調製される。無菌の注射可能な液剤を調製するための無菌粉剤の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、これにより有効成分並びに先に滅菌濾過された液剤中に存在する任意の追加の所望の成分の粉剤が得られる。
【0042】
本発明の化合物の有用な投与量は、それらのインビトロ活性、及び動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって決定することができる。マウス及び他の動物における有効な投与量をヒトに外挿する方法は、当分野で既知である。例えば米国特許第4,938,949号を参照のこと。治療での使用に必要な本発明の化合物の量は、特定の治療薬、存在する場合には、治療薬を含む組成物、投与経路、治療される状態の性質並びに患者の年齢及び状態によって変わり、最終的には主治医又は臨床医の裁量である。
【0043】
治療的に有効な用量は、当業者に既知の従来の手順によって経験的に決定することができる。例えばThe Pharmacological Basis of Therapeutics,Goodman and Gilman,eds.,Macmillan Publishing Co.,New Yorkを参照のこと。例えば有効用量は、細胞培養アッセイ又は好適な動物モデルのどちらかで最初に概算することができる。動物モデルを使用して、適切な濃度範囲及び投与経路も決定され得る。そのような情報を使用して、次にヒトでの投与に有用な用量及び経路を決定することができる。治療用量は、同等の治療薬の投与量からの類推によって選択することもできる。
【0044】
特定の投与様式及び投薬レジメンは、症例の詳細事項(例えば対象、疾患、関与する病状及び治療が予防的であるか否か)を考慮して、主治医によって選択される。治療は、数日から数ヶ月、又は数年の期間にわたる化合物の1日又は複数日用量を含み得る。
【0045】
実施例
実施例1:化合物NA115及びNA117の中間体の合成
【0046】
ステップ1:tert-ブチル(1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメートの調製
2-アミノブタン-1-オール(1g)をクロロホルム(50mL)に溶解させ、二炭酸ジ-tert-ブチル(2.5g)及び水酸化ナトリウム溶液(20mL、2M)で処理した。室温で一晩撹拌した後、溶媒を除去し、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル0~50%)で精製して、tert-ブチル(1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメート(1.83g、収率86%)を得た。
【0047】
ステップ2:tert-ブチル(1-オキソブタン-2-イル)カルバメートの調製
DMSO(2.34g、3当量)を(ClCO)2(1.9g、1.5当量)のCH2Cl2(20mL)溶液に-78℃にて添加した。10分間撹拌した後、CH2Cl2(10mL)中のtert-ブチル(1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメート(1.838g)を滴加し、得られた混合物を30分間撹拌した。次にEt3N(4.04g、4当量)を添加して、反応混合物を室温まで加温し、さらに30分間撹拌した。次に水(20mL)を添加し、反応混合物をCH2Cl2(3×10mL)で抽出し、合わせた有機抽出物を乾燥させ、真空で濃縮して残渣を得て、これをフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル0~20%)で精製して、tert-ブチル(1-オキソブタン-2-イル)カルバメート(1.57%g、収率86%)を得た。
【0048】
ステップ3:tert-ブチル(1-シアノ-1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメートの調製
tert-ブチル(1-オキソブタン-2-イル)カルバメート(18.9g)をジオキサン(400mL)に溶解させ、0℃にて10分間冷却し、このときに水(200mL)中のNaHS03(52.64g)を添加した。反応混合物を0℃にて10分間撹拌し、水(200mL)中のKCN(26.22g)を添加し、溶液を一晩撹拌した。
【0049】
反応混合物は、酢酸エチル(2000mL)で希釈し、有機層を飽和重炭酸ナトリウムで3回に分けて洗浄することにより後処理を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濃縮乾固して、tert-ブチル(1-シアノ-1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメート(24.62g)を得た。
【0050】
ステップ4:メチル3-アミノ-2-ヒドロキシペンタノエートの調製
HCl/MeOH(約500mL)中のtert-ブチル(1-シアノ-1-ヒドロキシブタン-2-イル)カルバメート(24.62g)(メタノール400及びAcCl 180mLから調製)を25時間、加熱下で還流させた。溶液を蒸発させ、粗メチル3-アミノ-2-ヒドロキシペンタノエートをさらに精製せずに使用した。
【0051】
ステップ5:メチル3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタノエートの調製
粗メチル3-アミノ-2-ヒドロキシペンタノエートHCl塩(理論値約5.29mmol)をアセトニトリル(50mL)に溶解させ、トリエチルアミン(2mL)、HATU(2.2g)、続いてBOC-ロイシン水和物(1.318g)で処理して、混合物を室温にて一晩撹拌した。生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc、0~30%)によって精製して、4つのジアステレオマーの粗混合物を得た。
【0052】
ステップ6:3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタン酸(中間体A)の調製
メチル3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタノエート(2.632g)を1M NaOH(8ml)及びTHF(8ml)の混合物に一晩溶解させ、このとき、溶液を酢酸エチルと希HCLとで分配し、酢酸エチル(2×)で抽出して、合わせた抽出物を乾燥させ、濾過して、蒸発乾固させて、粗3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタン酸(2.25g、収率約89%)を得た。
【化8】
【0053】
(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-メトキシベンジル)アミノ)-1,2-ジオキソペンタン-3-イル)-4-メチルペンタンアミドの調製:中間体2.B
3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタン酸(2.24g、6.47mmol)を、ACN(50mL)中の3-メトキシベンジルアミン(0.976g、7.12mmol)、HATU(2.95g、7.76mmol)及びDIPEA(1.255g、9.71mmol)で処理して、室温にて一晩撹拌した。減圧下で溶媒を除去した後、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル、0~100%により精製して、tert-ブチル((2S)-1-((1-((3-メトキシベンジル)アミノ)-1,2-ジオソペンタン-3-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)カルバメートを得て、これをジオキサン(50mL)中の4N HClに溶解させ、室温にて30分間撹拌した。溶媒を除去した後、真空乾燥させて、純粋な(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-メトキシベンジル)アミノ)-1,2-ジオキソペンタン-3-イル)-4-メチルペンタンアミドを塩酸塩(2.15g、収率83%)として得た。
【化9】
【0054】
(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-フルオロ-5-メトキシベンジル)アミノ)-2-ヒドロキシ-1-オキソペンタン-3-l)-4-メチルペンタンアミドの調製:中間体3.B
3-((S)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-4-メチルペンタンアミド)-2-ヒドロキシペンタン酸(2.00g、5.78mmol)を、アセトニトリル(40mL)中の3-メトキシ-5-フルオロベンジルアミン(0.986g、6.36mmol)、HATU(2.64g、6.94mmol)及びDIPEA(1.12g、8.67mmol)で処理して、室温にて一晩撹拌した。減圧下で溶媒を除去した後、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル、0~100%により精製して、tert-ブチル((2S)-1-((1-((3-フルオロ-5-メトキシベンジル)アミノ)-2-ヒドロキシ-1-オキソペンタン-3-イル)アミノ)-4-メチル-1-オキソペンタン-2-イル)カルバメート得て、これをジオキサン(50mL)中の4N HClに溶解させ、室温にて30分間撹拌した。溶媒を除去した後、真空乾燥させて、純粋な(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-フルオロ-5-メトキシベンジル)アミノ)-2-ヒドロキシ-1-オキソペンタン-3-イル)-4-メチルペンタンアミド(2.34g、96%)を塩酸塩として得た。
【化10】
実施例2:NA117の合成
【0055】
N-(3-メトキシベンジル)-3-((S)-4-メチル-2-(3-フェニルプロパンアミド)ペンタンアミド)-2-オキソペンタンアミド(化合物2.3)(化合物17)の調製
(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-メトキシベンジル)アミノ)-1,2-ジオキソペンタン-3-イル)-4-メチルペンタンアミド塩酸塩(中間体2.B)(50mg)をアセトニトリル(1mL)に溶解/懸濁させ、3-フェニルプロパン酸(1.1当量)、HATU(1.2当量)及びDIPEA(2.5当量)で処理して、LCMS分析が反応の完了を示すまで、室温にて撹拌した。溶媒を蒸発させ、続いて水と酢酸エチルとで分配して残渣を得て、これをフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、対応するアミドを得た。この物質(1当量)をジクロロメタン(25mL/mmol)に溶解させ、室温にて撹拌しながら、デス・マーチン・ペルヨージナン(DMP)(2当量)によって2時間処理し、このとき反応混合物を飽和重炭酸塩溶液と酢酸エチルとで分配した。
水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、合わせた有機層を水で洗浄して、乾燥濾過し、濃縮乾固させた。次に、残渣を分取HPLCにより精製して、純粋なN-(3-メトキシベンジル)-3-((S)-4-メチル-2-(3-フェニルプロパンアミド)-ペンタン-アミド)-2-オキソペンタミド(22.4mg)を得た。
【化11】
実施例3:NA115の合成
【0056】
N-(3-フルオロ-5-メトキシベンジル)-3-((S)-4-メチル-2-(3-フェニルプロパンアミド)-ペンタンアミド)-2-オキソペンタンアミド(化合物3.3)(化合物15)の調製
(2S)-2-アミノ-N-(1-((3-フルオロ-5-メトキシベンジル)アミノ)-1,2-ジオキソペンタン-3-イル)-4-メチルペンタンアミド塩酸塩(中間体3.B)(50mg)をアセトニトリル(1mL)に溶解/懸濁させて、3-フェニルプロパン酸(1.1当量)、HATU(1.2当量)及びDIPEA(2.5当量)で処理し、LCMS分析で反応の完了が示されるまで室温にて撹拌した。溶媒を蒸発させ、続いて水と酢酸エチルとで分配して残渣を得て、これをフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、対応するアミドを得た。この物質(1当量)をジクロロメタン(25mL/mmol)に溶解させ、室温にて撹拌しながら、デス・マーチン・ペルヨージナン(DMP)(2当量)によって2時間処理し、このとき反応混合物を飽和重炭酸塩溶液と酢酸エチルとで分配した。水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、合わせた有機層を水で洗浄して、乾燥濾過し、濃縮乾固させた。次に、残渣を分取HPLCにより精製して、純粋なN-(3-フルオロ-5-メトキシベンジル)-3-((S)-4-メチル-2-(3-フェニルプロパンアミド)-ペンタンアミド)-2-オキソペンタンアミド(6.5mg)を得た。
【化12】
【0057】
実施例4:マウスにおける化合物NA115及びNA117の試験
【0058】
Wang et al.(2016)で以前に報告された急性緑内障のモデルを使用した。このモデルでは、麻酔下のマウスで眼圧(IOP)を110mmHgまで1時間にわたって上昇させた。2時間後、マウスに各種濃度のカルパイン-2阻害剤の眼内注射を投与し、そのホームケージに戻した。マウスを4時間後に犠死させて、スペクトリンのカルパイン介在切断によって選択的に生成されたスペクトリン分解産物(SBDP)を染色する免疫組織染色を使用して、カルパイン活性を判定した。以前の研究(Wang et al.、2016)は、この時点で、カルパイン活性がカルパイン-2活性を表すことを示している。他の群のマウスをIOPの上昇の3日後に犠死させて、網膜神経節細胞の数を分析した。この分析は、網膜神経節細胞マーカーであるベータIIIチューブリンを染色する、網膜ホールマウントにおける免疫組織染色によって行った。結果を
図1-5に示す。
実施例5:異性体の分離
【0059】
NA115には2個のキラル中心がある。キラル中心1がS-S型(化合物15(S)、即ちNA115A)であり、キラル中心2がS型であるNA115Aを、S-R型(化合物15(R)、即ちNA115B)から、ジアステレオマーを分離する周知の方法を使用して分離した。
【化13】
【化14】
【化15】
【0060】
例示的な手順及びその結果を含む分離報告を、
図6A~6Bに示す。
【0061】
NA115A(化合物15(上記のS)は、コハク酸-Leu-Tyr-AMC及びヒトカルパイン-1又はカルパイン-2(Sasaki et al,1984)を含むインビトロ混合物に様々な濃度で導入して、各カルパインについて蛍光の損失の動態を測定した。カルパイン-1及びカルパイン-2のNA115、NA115A及びNA115BのKiを以下の表1-2に示す。カルパイン-1又はカルパイン-2に対するNA115の効力は、NA115Aのみに存すると思われる。
【0062】
【0063】
【表2】
実施例6:ブタ硝子体液におけるNA115のエピマー化
【0064】
NA115A又はNA115B(2μM)を、ブタ硝子体液と共に35℃にて様々な時間にわたってインキュベートした。次にアリコートをカルパイン-2アッセイにて試験した。結果は、NA115Bの阻害効果の増大を伴う、NA115Aの阻害効果の急速な減少があることを示す。これらの結果は、NA115A/Bの急速なエピマー化があることを示唆している(
図7A及び7B)。これらの結果をマウス血漿で確認した。さらに、2μMのインキュベーション中のNA115A又はNA115Bの最終濃度での阻害結果を
図8A及び8Bに示す。これらの結果は、カルパイン-2(200 nM)に対して、IC
50により近い、より低い濃度のNA115A及びNA115Bで再現された。(
図9A-9D)。
【0065】
これらの結果は、S-S及びS-Rジアステレオアイソマーの急速なエピマー化と、阻害活性の損失を生じる、より低速の分子の代謝を示している。このことは、マウス血漿中のラセミ混合物の安定性を測定することによってさらに調査した。
例7:NA115の血漿安定性(添付のPowerpointファイル:Stability NA115.pptx)
【0066】
NA115の安定性を、2-ヒドロキシプロピル)-ベータ-シクロデキストリン又はカプチゾールに可溶化させたNA115で評価した。これらの結果によって、分子がマウス血漿中において、溶媒に応じて9~15時間の半減期で分解されることが確認される。
【0067】
さらに、ベータ-シクロデキストリン中の1mM NA115を、新たに調製したマウス血漿で5倍(血漿中200μM NA115)に希釈した。混合物を37度にてインキュベートした。示した時点にて、混合物1μlを5mM Ca2+、200μM Suc-Leu-Tyr-AMC基質及び100nMカルパイン-2を含有するカルパインアッセイ溶液99ulに添加した。加水分解速度をプレートリーダーで監視した。対照として、血漿1μlのみをカルパインアッセイに供し、その加水分解速度をカルパイン活性100%として設定した。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)の化合物であって
【化1】
式中、Aが、炭素環式アリール又はヘテロアリールであり
R
1が、非水素置換基であり、
nが、0(環Aが非置換の場合)からAの原子価によって許容される値までの整数であり、
L
1及びL
2がそれぞれ、1~6個の炭素を有する同じ又は異なる任意に置換されたアルキレンであり、
R
2が、非水素置換基であり、
R
4が、水素又はフルオロなどのハロゲンであり、R
5が、メチルなどのC
1-6アルキルである、化合物;及びその薬学的に許容される塩。