(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001506
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】崩れコークスの掻き出し方法、掻き出し治具の製造方法及び掻き出し治具
(51)【国際特許分類】
C10B 33/06 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
C10B33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100194
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】愛澤 禎典
(57)【要約】
【課題】崩れコークスを掻き出す際に、炉壁荷重が過大になること、及び、掻出し治具が炉壁に衝突することを防止する。
【解決手段】コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具を装着した押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅を決定する幅決定ステップと、前記幅決定ステップに基づき設計された掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行う掻き出しステップと、を有し、前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、ことを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具を装着した押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、
前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅を決定する幅決定ステップと、
前記幅決定ステップに基づき設計された掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行う掻き出しステップと、
を有し、
前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、
ことを特徴とする崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項2】
崩れコークスの粒度下限をDminと定義したとき、
前記第1所定範囲の下限はDminであり、前記第1所定範囲の上限はDminより8mm以上12mm以下高い値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項3】
前記のDminは、45mm以上55mm以下の値である、
ことを特徴とする請求項2に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項4】
崩れコークスの掻き出し試験又は当該掻き出し試験を再現したDEM解析を実施し、その実施結果から導かれる前記の隙間の長さ及び炉壁荷重の関係に基づき、前記第1所定範囲を、設定することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【請求項5】
押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具を製造する製造方法であって、
前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅を決定し、
前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、
ことを特徴とする掻き出し治具の製造方法。
【請求項6】
押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具において、
前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅は設定されており、
前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、
ことを特徴とする掻き出し治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩れコークスを、押出ラムに装着された掻き出し治具によって掻き出す掻き出し方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
室炉式のコークス炉では、炭化室に装入された石炭を乾留することによって、ガスやタールが発生し、残留分がコークスとなる。乾留が終了すると、炭化室の炉長方向両側に配設された蓋を開き、一方の窯口から炭化室に向かって押出機の押出ラムを前進させることにより、他方の窯口からコークスを排出する。排出されたコークスは、コークス乾式消化設備等で冷却された後、高炉用コークス等として用いられる。
【0003】
ここで、炭化室内のコークスは、「コークスケーキ」と呼ばれるコークス塊の集合体である。コークスケーキには多数の亀裂が形成されており、炉壁から炭中に向かって延びる主亀裂によって、コークスケーキは複数のコークス塊に分断されている。したがって、コークスケーキにおけるコークス塊は、比較的整然とした状態で炭化室内に収められている。
【0004】
一方、コークスケーキを炉外に押し出す際に、炭化室の壁面に形成されたカーボン由来の凸部等によって押出が阻害され、コークスケーキを押し出す途中で押出機が停止する、いわゆる「押し詰まり」が発生する場合がある。「押し詰まり」が発生した場合、押出ラムを一旦引き戻す必要があるが、押出ラムを引き戻す際に、圧縮されて脆弱になったコークスが崩れる(以下、「崩れコークス」ともいう)ことがある。実操業ではこの崩れコークスを押出ラムの先端に装着したスコップ形状の掻き出し治具を用いて炭化室から掻き出す処理が行われている。
【0005】
本発明者等は、掻き出し治具を崩れコークスの充填層に侵入させたときに、コークスケーキの押し出しと比較して、炉壁荷重が大きくなることを実験(以下、「背景技術に記載の実験」ともいう)により明らかにした(実験方法については後述する)。コークスケーキの押し出しと崩れコークスの掻き出しとで炉壁荷重に差異が生じた理由は、崩れコークスを構成するコークス塊がランダムに堆積しており、炉長方向に力が作用するとコークスケーキに比較して配置を変えやすく、炉壁方向への荷重が高まり易いからだと考えられる。
【0006】
従来は、掻き出し治具が装着されたラムの移動に関する定量的なガイダンスがなかったため、過大な負荷が炉壁に加わることによって破孔に至らない様に、オペレータの経験により作業が行われることが多く、掻き出し作業の効率化が望まれていた。
【0007】
特許文献1には、コークス内に安定挿入が可能で、かつ、コークスの掻き出し量の増大を形状面から追及したコークス炉用のスコップ状治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、崩れコークスの掻き出し時における炉壁荷重の抑制という課題については全く考慮されていない。また、崩れコークスを掻き出す際に、掻き出し治具と炉壁との衝突を避ける必要がある。本発明は、これらの課題を掻き出し治具の形状面から解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る崩れコークス掻き出し方法は、(1)コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスを、スコップ状の掻き出し治具を装着した押出ラムにより掻き出す崩れコークスの掻き出し方法において、前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅を決定する幅決定ステップと、前記幅決定ステップに基づき設計された掻き出し治具を用いて崩れコークスの掻き出しを行う掻き出しステップと、を有し、前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、ことを特徴とする崩れコークスの掻き出し方法。
【0011】
(2)崩れコークスの粒度下限をDminと定義したとき、前記第1所定範囲の下限はDminであり、前記第1所定範囲の上限はDminより8mm以上12mm以下高い値である、ことを特徴とする上記(1)に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【0012】
(3)前記のDminは、45mm以上55mm以下の値である、ことを特徴とする上記(2)に記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【0013】
(4)崩れコークスの掻き出し試験又は当該掻き出し試験を再現したDEM解析を実施し、その実施結果から導かれる前記の隙間の長さ及び炉壁荷重の関係に基づき、前記第1所定範囲を、設定することを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の崩れコークスの掻き出し方法。
【0014】
(5)押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具を製造する製造方法であって、前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅を決定し、前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、ことを特徴とする掻き出し治具の製造方法。
【0015】
(6)押出ラムに装着され、コークス炉に堆積したコークス押し詰まり後の崩れコークスの掻き出しに用いられるスコップ状の掻き出し治具において、前記掻き出し治具の側壁とコークス炉の炉壁との隙間の長さが、所定範囲と重ならないように、前記掻き出し治具の幅は設定されており、前記所定範囲は、前記隙間に崩れコークスが圧入して、炉壁荷重の異常増大を招く第1所定範囲と、前記押出ラムを作動させたときの、前記掻き出し治具の振れ幅の最大値よりも低い第2所定範囲と、からなる、ことを特徴とする掻き出し治具。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、崩れコークスを掻き出す際に、炉壁荷重が過大になること、及び、掻き出し治具が炉壁に衝突することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図7】炉壁荷重の最大値と掻き出し治具の幅W1との関係を示すグラフである。
【
図8】炉壁荷重の最大値と隙間S1との関係を示すグラフである。
【
図9】第1所定範囲及び第2所定範囲の双方を考慮した隙間S1の設定方法を説明するための説明図である(最大振れ幅S2:小)。
【
図10】第1所定範囲及び第2所定範囲の双方を考慮した隙間S1の設定方法を説明するための説明図である(最大振れ幅S2:中)。
【
図11】第1所定範囲及び第2所定範囲の双方を考慮した隙間S1の設定方法を説明するための説明図である(最大振れ幅S2:大)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、好適な掻き出し治具の形状を検討するために、掻き出し状況を模擬した試験を行った。この模擬試験について、具体的に説明する。
図1は、試験装置(冷間圧縮試験装置)の概略平面図である。L軸、H軸及びW軸は互いに直交する三軸であり、L軸は押出ラムの前進方向に対応しており、W軸は一対の側面パネルが対向する対向方向に対応しており、H軸は試験装置の高さ方向に対応している。L軸、H軸及びW軸の定義は、他の図面においても同様である。
【0019】
同図を参照して、試験装置100は、一対の支持体2,3と、油圧シリンダ4と、エアシリンダ5とを有し、これらの要素は基台1に設置されている。支持体2,3は、基台1に対して設置位置が調整できるように固定されている。支持体2,3の間には、側面パネル6,7が設置されている。
【0020】
油圧シリンダ4及びエアシリンダ5の間には、可動壁となる前後パネル8,9が配置されている。油圧シリンダ4のピストンロッド先端には、コークスに押出力を伝えるためのラムヘッドである押出ラム11が取り付けられている。
【0021】
また、エアシリンダ5は、押出力に抗する反力を付与する反力付与手段であり、そのピストンロッドの先端には、反力を伝え、押出力を受けるための受側ブロック12が取り付けられている。側面パネル6,7、押出ラム11及び受側ブロック12によって、コークスを格納する格納部10が形成される。
【0022】
前後パネル8及び押出ラム11の間、前後パネル9及び受側ブロック12の間にはそれぞれ、ロードセル21が設けられている。これにより、油圧シリンダ4の押圧力を検出することができる。支持体2及び側面パネル6の間、支持体3及び側面パネル7の間にもロードセル21が設けられている。これにより、側面パネル6,7の受力、つまり、炉壁荷重を検出することができる。
【0023】
「背景技術に記載の実験」は、実験1及び実験2からなる。実験1では、格納部10にコークスケーキを充填した後、押出ラム11を前進させることによりコークスケーキを押し出し、ラム荷重と炉壁荷重との関係を調べた。実験2では、格納部10に崩れコークスを模擬した模擬崩れコークスを配置した後、従来の掻き出し治具を押出ラム11に取り付け模擬崩れコークスに侵入させることにより、ラム荷重と炉壁荷重との関係を調べた。これらの実験結果から、模擬崩れコークスの掻き出し時の炉壁荷重が、コークスケーキ押し出し時の炉壁荷重と比較して大きくなることを確認した。
【0024】
通常、この試験装置は、押出力を付与されたコークスケーキが、炉幅方向に膨張したときの炉壁荷重を把握するために用いられる。本発明者等は、この試験装置を再現したDEM(Discrete Element Method;離散要素法)解析の解析結果から、炉壁荷重と掻き出し治具の幅W1との間に相関関係があることを発見した。
【0025】
具体的には、掻き出し治具の側面と炉壁との隙間(以下、隙間S1という)の長さが第1所定範囲と重なると、炉壁荷重が異常増大する課題を発見した(以下、知見1ともいう)。したがって、隙間S1の長さが第1所定範囲と重ならないように、掻き出し治具の幅W1を設定することにより、炉壁荷重の異常増大を防止しながら、崩れコークスを掻き出すことができる。異常増大と見做す炉壁荷重の値は、例えば、過去の操業実績に基づき設定することができる。
【0026】
また、隙間S1が、掻き出し治具の振れ幅の最大値(以下、最大振れ幅S2という)よりも小さくなる(言い換えると、第2所定範囲と重なる)と、掻き出し時に掻き出し治具の側壁が炉壁に衝突して、炉壁を痛めるおそれがある(以下、知見2ともいう)。したがって、隙間S1の長さが第2所定範囲と重ならないように、掻き出し治具の幅W1を設定することにより、炉壁に対する衝突を避けながら、崩れコークスを掻き出すことができる。
以下、知見1及び知見2について、詳細に説明する。
【0027】
(知見1について)
図2は、知見1を説明するための説明図である。崩れコークスの粒度下限をDminと定義したとき、第1所定範囲の下限は、好ましくは粒度下限D
minである。
粒度下限D
minとは、高炉用コークスの一般的な品質条件である粒径(ドラム試験の30回転後の+25mm 平均粒径)より大きく、篩目粒度45mm以上55mm以下程度が目安となる。
篩目粒度よりも小さいコークスは、炉壁荷重に及ぼす影響が小さく、掻き出し治具の振れ幅下限よりも小さい場合が多いため、炉壁荷重の増大を招く影響因子から除外してもよい。つまり、隙間S1が粒度下限D
min未満の場合、崩れコークスが隙間S1に圧入することによる炉壁荷重の異常増大は起こらない。
実機では、押し詰まり時に押出ラムによって圧縮されたコークスに亀裂が生成されることにより、コークスが分断され、崩れコークスを発生させるが、ドラム試験のように落下衝撃を付与するものではない。したがって、上述した通り、篩目粒度を第1所定範囲の下限の目安とすることが望ましい。
【0028】
ここで、隙間S1が崩れコークスの粒度下限Dmin以上の場合、隙間S1と粒度下限Dminとの差の大小によって、炉壁荷重が異常増大するか否かが決まる。
具体的には、隙間S1と粒度下限Dminとの差が比較的小さい場合には、隙間S1に侵入したコークス塊が掻き出し治具の側壁と炉壁とに挟持され、圧入状態が継続するため、炉壁荷重が異常増大する。一方、隙間S1と粒度下限Dminとの差が比較的大きい場合には、隙間S1にコークス塊が挟まったとしても、コークス塊が向きを変えるのに必要なスペースが確保されているため、圧入状態は直ぐに解消される。したがって、炉壁荷重が異常増大する現象は、起こらない。
すなわち、第1所定範囲の上限は、炉壁荷重が異常から正常に変化する値を推定することにより求めることができる。第1所定範囲の上限は、好ましくは粒度下限Dmin+Xmm(ただし、Xは8以上12以下)である。
【0029】
第1所定範囲は、例えば、DEM解析の解析結結果に基づき、定めることができる。すなわち、DEM解析によって、隙間S1のサイズを変えながら、それぞれの隙間S1について炉壁荷重の最大値を予め把握しておくことにより、設計上避けるべき第1所定範囲を設定することができる。ただし、上述の試験装置を用いて、崩れコークスの掻き出し試験を行うことにより、第1所定範囲を定めてもよい。
【0030】
知見1を纏めると、以下の通りである。
・隙間S1のサイズが崩れコークスの粒度下限Dmin(第1所定範囲の下限値)より小さい場合、炉壁荷重の異常増大は起こらない。
・隙間S1が第1所定範囲と重複すると、炉壁荷重の異常増大が起こる。
・隙間S1が第1所定範囲を超えると、炉壁荷重は低下して、正常に戻る。
【0031】
(知見2について)
図3は、知見2を説明するための説明図である。押出ラムは、押し出し時に幅方向に揺動するため、隙間S1が最大振れ幅S2よりも小さくなると、押出ラムに装着された掻き出し治具が炉壁に接触して、炉壁を痛めるおそれがある。最大振れ幅S2は、押し出し機によって異なり、一般的には、使用年数が比較的短い押し出し機は振れ幅が小さく、使用年数が比較的長い押し出し機は振れ幅が大きい。したがって、押し出し機毎に掻き出し治具の最大振れ幅S2を把握しておき、隙間S1が掻き出し治具の最大振れ幅S2よりも大きくなるように、掻き出し治具の幅W1を設計する必要がある。言い換えると、設計上、隙間S1が避けるべき第2所定範囲は、「最大振れ幅S2未満」である。当該設計条件を満足する掻き出し治具によれば、炉壁との接触を避けながら崩れコークスを掻き出すことができる。
【0032】
押し出し機の振れ幅を把握する方法は、特に限定しないが、例えば、押し出し機を実際に作動させながら、掻き出し治具の動きを撮像し、この撮像データを画像解析することによって、把握することができる。
【0033】
したがって、知見1及び2に基づく設計条件を満足する掻き出し治具を製造することにより、炉壁に対する接触を避けた崩れコークスの掻き出し処理を、炉壁荷重の異常増大を防止しながら、行うことができる。
これらの設計条件を満足する掻き出し治具の中で、幅W1が最も大きい掻き出し治具を選択することが望ましい。掻き出し治具の幅W1を大きくすることにより、崩れコークスの掻き出し量が増大するからである。
【0034】
(実施例)
実施例を示して、本発明について具体的に説明する。
側板形状が同一で、幅W1が異なる水準1~4の掻き出し治具について、DEM解析により炉壁荷重を求めた。DEM解析は、
図4に図示する試験装置によるコークス掻き出し試験の再現とした。
図4において、
図1と機能が共通する要素には、同一符号を付している。
図4を参照して、掻き出し治具13は、図示しない締結部材などを用いて押出ラム11の押出面に装着される。なお、掻き出し治具13は、掻き出し治具13及び押出ラム11の底面が略面一となるように取り付けられる。符号14は、格納部10内にランダムに充填されたコークス塊であり、崩れコークスを模擬している。
【0035】
模擬崩れコークス塊14は、以下の方法で格納部10内に堆積させることができる。掻き出し治具13の押し出し方向先端に厚み140mmの木板を立て、この木板と受側ブロック12との間のスペースにコークス塊を高さ300mmまで充填する。その後、木板を引き抜き、コークス塊を掻き出し治具13に向かって崩落させることにより、模擬崩れコークス塊14の裾野を掻き出し治具13の先端に到達させる。粒径が50mm~75mmに整粒したコークス塊を使用する(つまり、粒度下限Dminを50mmとする)。格納部10の幅(コークス炉の炉幅に相当する)は、450mmとする。掻き出し治具13の押し出し速度は、2.3(mm/sec)とする。
【0036】
図5は、掻き出し治具の斜視図である。試験用掻き出し治具13は、底板部131、一対の側板部132及び土台部133からなるスコップ形状に形成されている。土台部133は、縦土台部133a及び天板土台部133bから構成される。底板部131及び縦土台部133aは矩形状に形成されている。一対の側板部132はそれぞれ、矩形状の板材の一角を面取りした形状に形成されている。
【0037】
水準1~4の掻き出し治具13の寸法条件を表1に示す。隙間S1は、炉幅450mmからW1を減じ、その半分の値とした。なお、Tは板厚である。
【表1】
【0038】
図6は、各水準1~4の解析結果のグラフであり、横軸が掻き出し治具の押し出し時間(sec)であり、縦軸が炉壁荷重(N)である。
図6から各水準1~4の炉壁荷重の最大値を抜き出し、炉壁荷重の最大値(縦軸)と掻き出し治具の幅W1(横軸)との関係を
図7にプロットするとともに、炉壁荷重の最大値(縦軸)と隙間S1(横軸)との関係を
図8にプロットした。
【0039】
本実施例では、経験則から、水準1をベースとし、水準1よりも炉壁荷重が高い場合に、「炉壁荷重が異常増大する」と評価した。水準3及び4は、掻き出し治具の幅W1が広く、隙間S1がコークスの粒度下限Dmin(50mm)より小さいため、炉壁荷重は異常増大しなかった。水準2は、隙間S1が粒度下限Dmin(50mm)より5mm程度大きく、隙間S1に入り込んだコークス塊が圧入状態となるため、炉壁荷重が異常増大したものと推察される。水準1は、隙間S1が十分に広く、コークス塊の圧入状態が直ぐに解消されるため、炉壁荷重の異常増大に至らなかったものと推察される。
つまり、水準1と比較して、水準3及び4のように掻き出し治具の幅W1が広くなると、炉壁荷重が減少する傾向があるが、単調減少ではなく、水準2のように途中で急激に増加することが確認された。
以上の結果から、炉壁荷重が異常増大する第1所定範囲は、例えば、50mm以上60mm以下に設定することができる。
なお、解析する水準の数を増やして、第1所定範囲の上限をより正確に推定してもよい。
【0040】
図9乃至
図11のグラフは、
図8のグラフに対応しており、第1所定範囲及び第2所定範囲の双方を考慮した隙間S1の設定方法を説明するための説明図である。上述した通り、第2所定範囲は、最大振れ幅S2を考慮して設定され、最大振れ幅S2は押し出し機の使用年数などによって変動する。
【0041】
図9に図示するように、最大振れ幅S2が粒度下限D
minよりも小さい場合、隙間S1の許容範囲は、最大振れ幅S2~粒度下限D
min、及び、第1所定範囲の上限値超と考えることができる。
図10に図示するように、最大振れ幅S2が第1所定範囲と重なる場合、隙間S1の許容範囲は、第1所定範囲の上限値超と考えることができる。
図11に図示するように、最大振れ幅S2が第1所定範囲の上限を超える場合、隙間S1の許容範囲は、最大振れ幅S2超と考えることができる。
隙間S1を狭く(言い換えると、掻き出し治具の幅W1を大きく)したほうが、掻き出し量が増えるため、許容範囲の中で最小値を選択することが望ましい。
【0042】
隙間S1の許容範囲を満足するように掻き出し治具を設計することにより、崩れコークスを掻き出す際に、炉壁荷重が過大になること、及び、掻き出し治具が炉壁に衝突することを防止できる。
【符号の説明】
【0043】
1 基台
2,3 支持体
4 油圧シリンダ
5 エアシリンダ
6,7 側面パネル
8,9 前後パネル
10 格納部
11 押出ラム
12 受側ブロック
13 掻き出し治具
21 ロードセル
100 200 試験装置
131 底板部
132 側板部
132F 側板前面部
132F1 第1の側板前面部
132F2 第2の側板前面部
133 土台部
133a 縦土台部
133b 天板土台部